以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
以下では、本開示の実施の形態に係る電池システムが車両に搭載された構成を例に説明する。しかし、電池システムの用途は車両用に限定されるものではなく、たとえば定置用であってもよい。
[実施の形態]
<電池システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示すブロック図である。車両100は、車両(ハイブリッド自動車、電気自動車または燃料電池車)であって、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)1と、動力伝達ギア2と、駆動輪3と、電力制御ユニット(PCU:Power Control Unit)4と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)5と、電池システム200とを備える。電池システム200は、組電池10と、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23と、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)30とを備える。
MG1は、たとえば三相交流回転電機である。MG1の出力トルクは、減速機および動力分割機構を含んで構成された動力伝達ギア2を介して駆動輪3に伝達される。MG1は、車両100の回生制動動作時には、駆動輪3の回転力によって発電することも可能である。MG1に加えてエンジン(図示せず)が搭載されたハイブリッド自動車では、エンジンおよびMG1を協調的に動作させることによって必要な車両駆動力を発生させる。なお、図1ではMGが1つだけ設けられる構成が示されるが、MGの数はこれに限定されず、MGを複数(たとえば2つ)設ける構成としてもよい。
PCU4は、いずれも図示しないが、インバータとコンバータとを含む。組電池10の放電時には、コンバータは、組電池10から供給された電圧を昇圧してインバータに供給する。インバータは、コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換してMG1を駆動する。一方、組電池10の充電時には、インバータは、MG1によって発電された交流電力を直流電力に変換してコンバータに供給する。コンバータは、インバータから供給された電圧を降圧して組電池10に供給する。
SMR5は、組電池10とPCU4とを結ぶ電力線に電気的に接続されている。SMR5がECU30からの制御信号に応じて閉成されている場合、組電池10とPCU4との間で電力の授受が行なわれ得る。
組電池10は、複数(たとえば数個)の電池ブロック(図示せず)を含んで構成され、各電池ブロックは、複数(たとえば数個〜数十個)の単電池11を含んで構成される。複数の単電池11の各々は、アルカリ二次電池である。本実施の形態では、上記アルカリ二次電池としてニッケル水素電池を用いた構成を例に説明する。
電圧センサ21は、各単電池11の電圧Vbを検出する。電流センサ22は、組電池10に入出力される電流Ibを検出する。温度センサ23は、電池ブロックの温度Tbを検出する。各センサは、その検出結果をECU30に出力する。なお、電圧センサ21は、電池ブロックの電圧を検出してもよい。電圧ブロックの電圧を単電池数で割ることにより、単電池11の電圧Vbを算出することができる。また、温度センサ23は、各単電池11の温度を検出してもよいし、組電池10全体の温度を検出してもよい。
ECU30は、CPU(Central Processing Unit)31と、メモリ(ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))32と、入出力バッファ(図示せず)とを含んで構成される。ECU30は、各センサから受ける信号ならびにメモリ32に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両100および電池システム200が所望の状態となるように各機器を制御する。ECU30により実行される主要な処理として、単電池11の正極電位V1および負極電位V2を算出する「電位算出処理」が挙げられるが、この処理については後述する。
図2は、単電池11の構成を示す図である。各単電池11の構成は共通であるため、図2では1つの単電池11のみを代表的に示す。単電池11は、たとえば角形密閉式のセルであり、ケース12と、ケース12に設けられた安全弁13と、ケース12内に収容された電極体14および電解液(図示せず)とを含む。なお、図2ではケース12の一部を透視して電極体14を示している。
ケース12は、いずれも金属からなるケース本体121および蓋体122を含み、ケース本体121に設けられた開口上で蓋体122が全周溶接されることにより密閉されている。安全弁13は、ケース12内部の圧力が所定値を超えると、ケース12内部のガス(水素ガス等)の一部を外部に排出する。電極体14は、正極141と、負極142と、セパレータ143とを含む。正極141は袋状のセパレータ143内に挿入されており、セパレータ143内に挿入された正極141と、負極142とが交互に積層されている。正極141および負極142は、図示しない正極端子および負極端子にそれぞれ電気的に接続されている。
電極体14および電解液の材料としては従来公知の各種材料を用いることができる。本実施の形態においては、一例として、正極141には、水酸化ニッケル(水酸化ニッケル(II)(Ni(OH)2)またはオキシ水酸化ニッケル(III)(NiOOH))を含む正極活物質層と、発泡ニッケルなどの活物質支持体とを含む電極板が用いられる。負極142には、水素吸蔵合金を含む電極板が用いられる。セパレータ143には、親水化処理された合成繊維からなる不織布が用いられる。電解液には、水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)を含むアルカリ水溶液が用いられる。
電池システム200においては、単電池11の正極電位V1および負極電位V2の各々が電位算出処理により算出される。正極電位V1とは、単電池11が通電状態にあるときの単電池11の正極141の電位である。負極電位V2とは、単電池11が通電状態にあるときの単電池11の負極142の電位である。一方、単電池11が非通電状態(無負荷状態)にあるとき、単電池11の正極141の電位を正極開放電位U1と言い、負極142の電位を負極開放電位U2と言う。
メモリ効果が生じると、その発生度合いに応じて正極開放電位U
1が変化する。この場合、正極開放電位U
1は、メモリ効果が生じていない初期状態での正極開放電位である「初期電位」E
1と、正極開放電位U
1の初期電位E
1からのメモリ効果による電位変化量である「メモリ量」Mとの和により表される。また、単電池11の充放電時には、単電池11の抵抗成分に応じた電位変化量である「過電圧」η
1についても考慮しなくてはならない(後述の式(10)参照)。したがって、下記式(1)に示すように、正極電位V
1は、初期電位E
1と、メモリ量Mと、過電圧η
1との和により表される。
一方、単電池11の負極142ではメモリ効果については特に考慮しなくてよい。したがって、下記式(2)に示すように、負極電位V
2は、負極開放電位U
2と、過電圧η
2との和により表される。
単電池11の充電時には、正極電位V1が正極開放電位U1よりも過電圧η1だけ高くなり、負極電位V2が負極開放電位U2よりも過電圧η2だけ低くなる。一方、単電池11の放電時には、正極電位V1が正極開放電位U1よりも過電圧η1だけ低くなり、負極電位V2が負極開放電位U2よりも過電圧η2だけ高くなる。電池システム200では、正極電位V1および負極電位V2のうちの少なくとも一方が過度に低くなったり高くなったりした場合に、電極劣化を抑制するために単電池11の充放電が通常時と比べて抑制される。
より具体的には、正極電位V1が過度に上昇したり過度に低下したりした場合には、正極141の劣化につながる副反応(劣化反応)が起こり得る。負極電位V2についても同様である。本実施の形態では、組電池10の充電電力の制御上限値である充電電力上限値Winが低く設定される。これにより、過電圧η1,η2の大きさが小さくなるので、正極電位V1の過度の上昇が抑制されるとともに、負極電位V2の過度の低下が抑制される。また、組電池10の放電電力の制御上限値である放電電力上限値Woutが低く設定される。これにより、過電圧η1,η2の大きさが小さくなるので、正極電位V1の過度の低下が抑制されるとともに、負極電位V2の過度の上昇が抑制される。よって、正極141および負極142での劣化反応の発生を抑制することができる。
<電池モデル>
次に、正極電位V1および負極電位V2の算出に用いられる電池モデルについて詳細に説明する。
図3は、本実施の形態における電池モデルの概念図である。ニッケル水素電池の正極は、球状の正極活物質の集合体を含み、負極は、球状の負極活物質の集合体を含む。ニッケル水素電池の放電時には、負極活物質と電解液との界面では水素イオン(プロトン、H+で示す)および電子(e−で示す)が放出される一方で、正極活物質と電解液との界面では水素イオンおよび電子が吸収される。ニッケル水素電池の充電時には、水素イオンおよび電子の放出/吸収に関し、上記反応とは逆の反応が起こる。
本実施の形態においては、以下のように電池モデルが単純化される。すなわち、正極141には多数の正極活物質が含まれるところ、各正極活物質における電気化学反応が均一であるとの仮定の下に、多数の正極活物質を単一の正極活物質(正極活物質モデル)151で代表させる。同様に、負極142に含まれる多数の負極活物質における電気化学反応が均一であるとの仮定の下に、多数の負極活物質を単一の負極活物質(負極活物質モデル)152で代表させる。このように単純化された活物質モデルを採用した上で、正極活物質151の内部における水素濃度分布と、負極活物質152の内部における水素濃度分布とが算出される。
図4は、電池モデルに使用されるパラメータ(変数および定数)を説明するための図である。以下に説明するパラメータでは、特許文献1等と同様に、添字eが付されたものは電解液中の値であることを意味し、添字sが付されたものは活物質中の値であることを意味する。添字jは、正極および負極を区別するためのものであり、j=1の場合には正極活物質151における値であることを意味し、j=2の場合には負極活物質152における値であることを意味する。添字jが省略された場合には、は正極活物質151および負極活物質152における値を包括的に表している。
図5は、正極活物質151の内部における水素濃度分布の算出手法を説明するための図である。本電池モデルにおいては、球状の正極活物質151の内部にて、極座標の周方向の水素濃度分布は一様と仮定され、径方向の水素濃度分布のみが考慮される。言い換えると、正極活物質151は、水素の移動方向を径方向に限定した1次元モデルである。
正極活物質151は、その径方向にN個(N:2以上の自然数)の領域に仮想的に分割され、各領域が添字k(k=1〜N)により区別される。領域kにおける水素濃度c
s1kは、正極活物質151の径方向における領域kの位置r
1kと、時間tとの関数として表される(下記式(3)参照)。
詳細な手法については後述するが、本実施の形態では、各領域kの水素濃度c
s1kが算出され(すなわち水素濃度分布が算出され)、さらに、算出された水素濃度c
s1kが規格化される。具体的には、下記式(4)に示すように、水素の最大濃度(限界水素濃度)c
s1,maxに対する、領域kにおける水素濃度c
s1kの比率が算出される。なお、限界水素濃度c
s1,maxは既知であるとする。
以下では、規格化後の値であるθ1kを領域kの「局所水素量」と称する。局所水素量θ1kは、規格化された指標であり、正極活物質151の領域kに存在する水素の量に応じて0〜1の範囲内で変化し得る。
また、k=Nである最外周領域N(すなわち正極活物質151の表面)における局所水素量θ
1Nを「表面水素量」と称する。さらに、下記式(5)に示すように、全領域k(k=1〜N)の局所水素量θ
1kの平均量を「平均水素量」と称し、θ
1,aveで表す。
図5では正極活物質151を例に説明したが、負極活物質152の内部における水素濃度(の分布)cs2kおよび局所水素量(の分布)θ2kの算出手法についても同等である。なお、正極活物質151と負極活物質152とでは領域の分割数が異なってもよいが、本実施の形態では説明の簡易化のため、分割数がいずれもNであるとする。
図6は、開放電位と局所水素量との関係を示す図である。図6(A)には、正極活物質151の表面水素量θ1Nと、正極開放電位の初期電位E1(メモリ効果が生じていない状態での正極開放電位U1)との関係を示す。図6(B)には、負極活物質152の表面水素量θ2Nと、負極開放電位U2との関係を示す。
図6(A)および図6(B)に示すように、初期電位E1および負極開放電位U2は、表面水素量θ1Nおよび表面水素量θ2Nにそれぞれ依存して変化する特性を有する。そのため、単電池11の初期状態(たとえば製造直後の状態)において、表面水素量θ1Nと初期電位E1との関係、および表面水素量θ2Nと負極開放電位U2との関係を測定することにより、表面水素量θ1Nの変化に対する初期電位E1の変化特性、および表面水素量θ2Nの変化に対する負極開放電位U2の変化特性を規定したマップMP1を作成し、メモリ32に記憶させておく。ECU30は、マップMP1を参照することによって、表面水素量θ1N,θ2Nから初期電位E1および負極開放電位U2をそれぞれ算出することができる。なお、マップMP1に代えて、データテーブルまたは関数を用いてもよい。
<ニッケル水素電池のメモリ効果>
図6に示したマップMP1(特に図6(A)参照)にはメモリ効果の影響が反映されていないので、正極開放電位U1にメモリ効果の影響を反映させるための手法について以下に詳細に説明する。
図7は、メモリ効果による正極開放電位U1の変化の一例を示す図である。メモリ効果が生じていない状態(初期状態)における正極開放電位U1(=初期電位E1)を1点鎖線で表し、メモリ効果が生じた状態における正極開放電位U1を実線で表す。
図7(A)において、横軸は単電池11のSOCを示し、縦軸は単電池11の電圧を示す。単電池11がある程度の期間放置された後に放電された場合、正極開放電位U1は、放電側のメモリ効果によって初期電位E1よりも低くなる。この放電側のメモリ効果による電位差(放電曲線間の電位差)を「放電メモリ量」Mdcと称する。
図示しないが、単電池11の充電時には、充電側のメモリ効果によって、正極開放電位U1が初期電位E1よりも高くなる。この充電側のメモリ効果による電位差(充電曲線間の電位差)を「充電メモリ量」Mchと称する。式(1)にて説明したメモリ量Mとは、放電メモリ量Mdcおよび充電メモリ量Mchを包括的に表すものである。
本実施の形態では、図7(B)に示すように、横軸がSOCから正極活物質151の平均水素量θ1,aveへと変更される。このように、メモリ効果の影響を考慮する際の視点(切り口)をSOCから平均水素量θ1,aveへと変えることにより、水素濃度分布(局所水素量分布)とメモリ量Mとの橋渡しが可能になるためである。
なお、単電池11の放電時には、正極活物質151内の水素濃度cs1が高くなるので(図3参照)、平均水素量θ1,aveが増加する。つまり、SOCの変化方向と平均水素量θ1,aveの変化方向とは、逆である。
単電池11が使用されているときの平均水素量(ここでは放電開始前の平均水素量)を「使用水素量」θ0と称する。放電側のメモリ効果は、使用水素量θ0よりも高い平均水素量θ1,aveの範囲で生じる。放電メモリ量Mdcの大きさは、平均水素量θ1,ave(使用水素量θ0よりも多い平均水素量)によって異なる。図示しないが、充電メモリ量Mchの大きさも同様に、平均水素量θ1,ave(使用水素量θ0よりも少ない平均水素量)によって異なる。よって、以下、各平均水素量θ1,aveにおけるメモリ量M(Mdc,Mch)の具体的な算出手法について説明する。
<微小メモリ量の積算>
図8は、単電池11の使用に伴いメモリ量Mが増加する様子を示す図である。図8において、横軸は単電池11の初期状態からの経過時間を示し、縦軸はメモリ量M(の大きさ)を示す。
本発明者らは、様々な使用条件下(たとえば温度Tb等が異なる条件下)で使用された単電池11に生じたメモリ量を評価する各種評価試験を実施し、単電池11の使用条件毎にメモリ量Mと経過時間との関係を示すデータを取得した。図10および後述する図11では、理解を容易にするため、3種類の使用条件A〜Cにそれぞれ対応する曲線LA〜LCが取得された例について説明するが、実際には、より多くの使用条件について同様の曲線が取得される。上記評価試験の結果から、本発明者らは、ある期間が経過する間に生じたメモリ量Mは、たとえば所定の演算周期Δt毎に、Δtの間に生じたメモリ量である「微小メモリ量」ΔMを逐次算出し、微小メモリ量ΔMを積算することによって算出可能であることを見出した。また、本発明者らは、使用条件が途中で変わっても微小メモリ量ΔMの積算が可能であることを見出した。
図9は、微小メモリ量ΔMの積算を説明するための図である。図9において、横軸は、単電池11の初期状態からの経過時間を示す。縦軸は、上から順に、単電池11の使用条件(たとえば温度Tb)およびメモリ量Mの大きさを示す。ここでは、上図に示すように、演算周期Δtが経過する度に使用条件が判定され、使用条件がA,B,Cの順に変化した場合について説明する。
まず、使用条件A下では曲線LAが参照され、演算周期Δt毎に微小メモリ量ΔMが算出され、さらに積算される。その結果、使用条件A下で生じたメモリ量Mは、MAとなる。
次に、時刻tbにおいて使用条件がAからBに変化すると、曲線LB(図10に示した曲線LBを時間軸方向に平行移動した曲線)においてメモリ量M=MAの点から曲線LBが参照される。そして、演算周期Δt毎に微小メモリ量ΔMが算出され、さらに積算される。使用条件B下で生じたメモリ量MがMBである場合、使用条件Bの終了時点でのメモリ量Mは、MAとMBとの和(MA+MB)となる。
さらに、時刻tcにおいて使用条件がBからCに変化すると、曲線LC(図8に示した曲線LCを時間軸方向に平行移動した曲線)においてメモリ量M=(MB+MC)の点から曲線LCが参照される。そして、演算周期Δt毎に微小メモリ量ΔMが算出され、さらに積算される。使用条件C下で生じたメモリ量MがMCである場合、全期間で生じたメモリ量Mは、MAとMBとMCとの和(MA+MB+MC)となる。
このように、本実施の形態では、単電池11の使用条件が変化した場合に、微小メモリ量ΔMを算出するために参照する曲線を、ある曲線から他の曲線へと切り替える。切替前の曲線に従って算出されたメモリ量Mは、切替後にも引き継ぐことが可能である。そして、切替時点からは、切替後の曲線に従って微小メモリ量ΔMが算出され、切替前から引き継がれたメモリ量Mに積算されていく。なお、このような積算(曲線の引き継ぎ)が可能であるのは、ある曲線に従って算出されたメモリ量Mと、他の曲線に従って算出されたメモリ量Mとが等しい場合には、正極活物質151の状態が同じと考えられるためである。
<平均水素量の範囲>
図7(B)にて説明したように、単電池11が使用されているときの使用水素量θ0から単電池11が充電された場合、使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲において、正極開放電位U1が初期状態と比べて充電メモリ量Mchだけ高くなる。一方、単電池11が放電された場合には、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲において、正極開放電位U1が初期状態と比べて放電メモリ量Mdcだけ低くなる。
このように、メモリ効果発生後の単電池11の充放電時に正極開放電位U1がどのように変化するかを算出するためには、使用水素量θ0を始点(基準点)とする充放電曲線を算出することを要する(たとえば図7(B)の実線参照)。この充放電曲線は、以下に説明するように、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲内の各値での放電メモリ量Mdcを算出するとともに、使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲内の各値での充電メモリ量Mchを算出することにより求めることができる。
図10は、メモリ効果発生後の充放電曲線の算出手法を概念的に説明するための図である。図10において、横軸は正極活物質151の平均水素量θ1,aveを示し、縦軸は電位を示す。
上述のように、メモリ量Mは平均水素量θ1,aveによって異なる。そのため、本実施の形態では、平均水素量θ1の範囲(0〜1の範囲)が、たとえば各々が0.05幅の20個の範囲に分割される。そして、20個の範囲毎に、所定の演算周期Δtが経過する度に単電池11の使用条件に応じて微小メモリ量ΔMが遂次算出され、算出された微小メモリ量Δtが積算されることによって、各範囲におけるメモリ量Mが算出される。
単電池11の使用条件とは、より具体的には、演算周期Δtが経過する間の平均水素量θ1,aveと単電池11の絶対温度Tとの組合せ(θ1,ave,T)により定まる条件である。単電池11の使用条件(θ1,ave,T)毎に評価試験を予め行なうことにより、マップMP2を予め準備することができる。
図11は、本実施の形態におけるマップMP2の概念図である。マップMP2では、20個の平均水素量θ1,aveの範囲毎に別個に、単電池11の使用条件(θ1,ave,T)と、その使用条件(θ1,ave,T)下で演算周期Δtが経過する間に生じる微小メモリ量ΔMとの対応関係を示すデータ(たとえば図8の曲線LA〜LC参照)が規定されている。なお、データ形式は特に限定されず、データテーブルまたは関数(関係式)であってもよい。
ECU30は、20個の平均水素量θ1,aveの範囲毎に、演算周期Δtの間の単電池11の使用条件(θ1,ave,T)に応じたデータ(曲線)を参照することで、演算周期Δtの間に新たに生じた微小メモリ量ΔMを算出する。さらに、ECU30は、20個の範囲毎に、それまでの全期間の微小メモリ量ΔMを積算することによってメモリ量Mを算出する。上述のように、途中で使用条件が変わった場合であっても微小メモリ量ΔMの積算が可能である。
なお、平均水素量θ1,aveの範囲の分割数(上述の例では20個)および各範囲内での使用条件数に関し、できるだけ大きな値を用いることで、より詳細な評価試験結果をマップMP2に反映させることが可能になるので、メモリ量Mの算出精度が向上する。その一方で、分割数が過度に多くなったり使用条件数が過度に多くなったりすると、マップサイズ(マップMP2のデータ量)が増大し、メモリ32に必要な容量が大きくなるとともにCPU31の演算負荷が大きくなり得る。したがって、平均水素量θ1,aveの範囲の分割数および各範囲内での使用条件数は、メモリ量Mの算出精度とECU30の処理能力とのバランスが取れるように決定することが望ましい。
<メモリ効果の解消>
単電池11の充放電が行なわれると、平均水素量θ1,aveの使用水素量θ0が変化する。このような場合には、以下のようにすることで、使用水素量θ0の変化を微小メモリ量ΔMの積算結果に反映させることができる。
図12は、使用水素量θ0を考慮した微小メモリ量ΔMの積算手法を説明するための図である。図12において、横軸は平均水素量θ1,aveを示し、縦軸はメモリ量Mを示す。ここでは、時刻t1から時刻t2までの期間には単電池11が放電され、その後、時刻t2から時刻t3までの期間には単電池11が充電された場合を例に説明する。
時刻t1までの微小メモリ量Δtの積算結果を図12上部に示す。放電側のメモリ効果は、使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲では生じず、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲でのみ生じる。したがって、放電メモリ量Mdcは、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲でのみ微小メモリ量ΔMを積算することによって算出される。一方、充電側のメモリ効果は、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲では生じず、使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲でのみ生じる。したがって、充電メモリ量Mchは、使用水素量θ0よりも少ない低い平均水素量θ1,aveの範囲でのみ微小メモリ量ΔMを積算することによって算出される。
時刻t1から時刻t2までの期間に単電池11が放電されると、使用水素量θ
0が増加する。そうすると、増加後の使用水素量θ
0よりも少ない平均水素量θ
1,aveの範囲では、放電側のメモリ効果の解消(減少)が生じる。このメモリ効果の解消には、ある程度の時間を要する。使用水素量θ
0の変化時刻(時刻t1)からの経過時間をΔt1と表す場合に、使用水素量θ
0の増加後の放電メモリ量Mdc(増加前の使用水素量θ
0における放電メモリ量Mdc)は、たとえば下記式(6)のように表される。なお、式(6)および後述する式(7)は、「忘却関数」とも称される。
式(6)から分かるように、使用水素量θ0の増加後の時刻(t1+Δt1)における放電メモリ量Mdcは、使用水素量θ0の増加前の時刻t1における放電メモリ量Mdcに、係数p,qおよび経過時間Δt1を用いて表される所定の減少率を乗算したものである。係数p,qは、事前の評価試験により求めることができる。
なお、増加後の使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveおける放電メモリ量Mdcは、直ちには解消されずに残る。これにより、たとえば図7(B)において、時刻t1における放電曲線が実線で示した曲線であった場合に、時刻t2においては、点線で示す(L(t=t2)で示す)ように放電曲線形状が変化する。
これに対し、時刻t
2から時刻t
3までの期間に単電池11が充電されると、使用水素量θ
0が減少する。そうすると、減少後の使用水素量θ
0よりも多い平均水素量θ
1,aveの範囲では、充電側のメモリ効果の解消(減少)が生じる。時刻(t
1+Δt
1)からの経過時間をΔt
2と表す場合に、使用水素量θ
0の減少後の充電メモリ量Mch(減少前の使用水素量θ
0における充電メモリ量Mch)は、下記式(7)のように表される。
なお、減少後の使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲における充電メモリ量Mchは、直ちには解消されずに残る。
実際には、使用水素量θ0が変化してからある程度の時間が経過すると、メモリ効果は解消され、放電メモリ量Mdcまたは充電メモリ量Mchは実質的に0になると考えられる。しかし、式(6)および式(7)によれば、時間の経過とともに放電メモリ量Mdcまたは充電メモリ量Mchは0に近づく(漸近する)ものの、厳密には0に達しない。したがって、式(6)または式(7)では、時間経過に伴い(上記Δt1またはΔt2の増加に伴い)、減少率が所定のしきい値を下回った場合には減少率を0に変更することによって、放電メモリ量Mdcまたは充電メモリ量Mchを0にしてもよい。
さらに、式(6)および式(7)では、放電側と充電側とで共通の式(すなわち係数p,q)を用いる例を示すが、放電側と充電側とで異なる係数p,qの値を設定してもよい。また、係数p,qに温度依存性を持たせてもよいし、使用水素量の変化量Δθ0に対する依存性を持たせてもよい。なお、式(6)および式(7)に代えてマップ(図示せず)を用いてもよい。
このように、本実施の形態では、平均水素量θ1、aveの20個の範囲毎に、単電池11の使用条件(θ1,ave,T)に応じた微小メモリ量ΔMを遂次算出し、算出された微小メモリ量ΔMを積算する処理が繰り返し実行される。この積算の際には、平均水素量θ1,aveの使用水素量θ0がどのように変化したかに応じて、それまでの積算量が算出される。さらに、たとえば忘却関数(式(6)または式(7))を用いて、積算量の解消(減少)についても考慮される。
<機能ブロック>
図13は、本実施の形態における電位算出処理に関するECU30の機能ブロック図である。ECU30は、電池パラメータ決定部310と、電流密度算出部320と、過電圧算出部330と、濃度分布算出部340と、水素量算出部350と、開放電位算出部360と、メモリ量算出部370と、電位算出部380とを含む。
電池パラメータ決定部310は、電圧センサ21から単電池11の電圧Vbを受けるとともに、温度センサ23から電池ブロック(図示せず)の温度Tbを受ける。電池パラメータ決定部310は、電圧Vbを単電池11の端子間電圧Vとして設定するとともに、温度Tbを絶対温度T(単位:ケルビン)に換算する。また、電池パラメータ決定部310は、後述する電池モデル式中の他のパラメータを絶対温度T等に応じて決定する。より具体的には、電池パラメータ決定部310は、交換電流密度ioj、活物質の拡散係数Dsj、反応抵抗Rr、直流抵抗Rd等のパラメータを絶対温度T等に応じて決定する。
交換電流密度io1とは、正極活物質151における酸化電流密度(アノード電流密度)と還元電流とが等しくなるときの電流密度である。交換電流密度io1は、表面水素量θ1Nおよび絶対温度Tに依存して変化する特性を有する。したがって、交換電流密度io1と表面水素量θ1Nおよび絶対温度Tとの対応関係を規定した特性マップ(図示せず)を予め準備しておくことにより、水素量算出部350により算出される表面水素量θ1N(後述)と、絶対温度Tとから、交換電流密度io1を算出することができる。交換電流密度io2についても同様であるため、詳細な説明は繰り返さない。
反応抵抗Rrとは、正極活物質151および負極活物質152の表面において電荷の授受が行われるときの抵抗成分である。反応抵抗Rrは、下記式(8)に従って、絶対温度Tおよび交換電流密度i
oj(j=1,2)から算出することができる。
直流抵抗Rdとは、水素イオンおよび電子が正極活物質151と負極活物質152との間を移動するときの抵抗成分である。直流抵抗Rdは、絶対温度Tに依存して変化する特性を有する。したがって、直流抵抗Rdの測定結果に基づき、直流抵抗Rdと絶対温度Tとの対応関係を規定した特性マップ(図示せず)を予め準備しておくことにより、絶対温度Tとから、直流抵抗Rdを算出することができる。
活物質の拡散係数Dsjについても同様に、表面水素量θ1,θ2および絶対温度Tに対する依存性を有するため、予め準備されたマップ(図示せず)を用いて算出することができる。なお、表面水素量θ1N,θ2Nおよび絶対温度Tの両方を上述の各マップの引数とすることは必須ではなく、精度は低下し得るものの、いずれか一方のみ(たとえば絶対温度Tのみ)を引数としてもよい。電池パラメータ決定部310により決定された各パラメータは、他の機能ブロックに適宜出力される。
電流密度算出部320は、電池パラメータ決定部310から端子間電圧V、交換電流密度i
ojおよび直流抵抗Rd等のパラメータを受けるとともに、電位算出部380から正極開放電位U
1および負極開放電位U
2を受ける。電流密度算出部320は、下記式(9)に従って電流密度Iを算出する。式(9)における正極開放電位U
1および負極開放電位U
2としては、前回の演算周期での算出結果が代入される。
式(9)は非線形方程式である。式(9)から電流密度Iを算出するには、ニュートン法等の反復法が用いられる。すなわち、電流密度Iを仮定した上で、絶対温度T、交換電流密度ioj等の各パラメータを式(9)に代入して端子間電圧Vを算出する。このようにして算出された端子間電圧Vと、端子間電圧Vの真値(電圧センサ21による検出値)とがほぼ一致する(収束する)まで反復計算(収束演算)を行なうことにより、電流密度Iを求めることができる。なお、逆に、端子間電圧Vに仮定値を用い、電流密度Iに電流センサ22による検出値を用いてもよい。すなわち、端子間電圧Vを仮定した上で算出された電流密度Iが、電圧センサ21により検出された電流密度Iに収束するまで反復計算を行なってもよい。
なお、電流密度算出部320は、式(9)に代えて下記式(10)を用いて電流密度Iを算出してもよい。式(10)は、式(9)の簡易式である。具体的には、式(10)は、arcsinh項を線形近似し、さらに式(9)に含まれる上記式(8)の右辺のパラメータを反応抵抗Rrに置換したものである。
さらに、電流密度算出部320は、電流密度Iから反応電流密度j
jを算出し、過電圧算出部330および濃度分布算出部340に出力する。反応電流密度j
jとは、活物質の単位体積当たりの水素生成速度に相当する。電流密度Iと反応電流密度j
jとの間には下記式(11)が成立するため、電流密度Iを反応電流密度j
jに換算することができる。
過電圧算出部330は、電池パラメータ決定部310から絶対温度Tおよび交換電流密度i
ojを受けるとともに、電流密度算出部320から反応電流密度j
jを受ける。過電圧算出部330は、バトラー・ボルマー(Butler-Volmer)の関係式から導かれる下記式(12)(詳細については特許文献1参照)に従って、正極側の過電圧(より詳細には活性化過電圧および抵抗過電圧)η
1および負極側の過電圧η
2を算出し、電位算出部380に出力する。
濃度分布算出部340は、電池パラメータ決定部310から活物質の拡散係数D
sjを受けるとともに、電流密度算出部320から反応電流密度j
jを受ける。詳細は特許文献1等に記載されているが、下記式(13)は、極座標系の拡散方程式である。式(13)の境界条件は、下記式(14)および式(15)のように設定することができる。濃度分布算出部340は、式(13)〜式(15)に従って、正極活物質151の内部の水素濃度分布c
s1k(k=1〜N)と、負極活物質152の内部の水素濃度分布c
s2kとを算出し、水素量算出部350に出力する。
水素量算出部350は、濃度分布算出部340から水素濃度分布csjk(j=1,2)を受ける。水素量算出部350は、水素濃度分布cs1kに基づき正極活物質151の表面局所量θ1Nを算出するとともに、水素濃度分布cs2kに基づき負極活物質152の表面水素量θ2Nを算出し、開放電位算出部360に出力する(上記式(4)参照)。さらに、水素量算出部350は、上記式(5)に従って、水素濃度分布cs1kから平均水素量θ1,ave(より具体的には使用水素量θ0)を算出し、メモリ量算出部370に出力する。
開放電位算出部360は、電池パラメータ決定部310から絶対温度Tを受けるとともに、水素量算出部350から表面水素量θ1N,θ2Nを受ける。開放電位算出部360は、図6に示したマップMP1を参照することによって、表面水素量θ1Nから初期電位E1を算出するとともに、表面水素量θ2Nから負極開放電位U2を算出する。算出された初期電位E1および負極開放電位U2は、電位算出部380に出力される。
メモリ量算出部370は、以下のようにすることで、平均水素量θ1,aveの各範囲について、メモリ量Mを算出する。
図14は、メモリ量算出部370のより詳細な構成を示す機能ブロック図である。メモリ量算出部370は、使用条件設定部371と、微小メモリ量算出部372と、積算部373と、解消部374とを含む。
使用条件設定部371は、電池パラメータ決定部310から絶対温度Tを受けるとともに、水素量算出部350から使用水素量θ0を受ける。使用条件設定部371は、図11に示したマップMP2を参照することによって、単電池11の使用条件(θ1,ave,T)に応じた曲線を選択し、微小メモリ量算出部372に出力する。
微小メモリ量算出部372は、使用条件設定部371からの曲線を用いて、所定の演算周期Δtの間に新たに生じた微小メモリ量ΔMを平均水素量θ1,aveの範囲毎に算出し、積算部373に出力する。
積算部373は、微小メモリ量算出部372からの微小メモリ量ΔMを平均水素量θ1,aveの範囲毎に積算する。
解消部374は、使用水素量θ0が変化した場合に、変化前のメモリ量(積算部373からの値)と、変化時刻からの経過時間とを用いて、減少後のメモリ量を算出する。この具体的な算出手法としては、上記式(6)もしくは式(7)またはマップ(図示せず)を用いる手法についてすでに詳細に説明したため、ここでは説明は繰り返さない。解消部374は、メモリ効果の解消を考慮したメモリ量M(MdcまたはMch)を電位算出部380に出力する。
図13に戻り、電位算出部380は、開放電位算出部360から初期電位E1および負極開放電位U2を受け、メモリ量算出部370からメモリ量Mを受け、過電圧算出部330から過電圧η1,η2を受ける。電位算出部380は、正極開放電位U1および負極開放電位U2を電流密度算出部320に出力する。さらに、電位算出部380は、上記式(1)に従って正極電位V1を算出するとともに(V1=E1+M+η1)、上記式(2)に従って負極電位V2を算出する(V2=U1+η2)。電位算出部380により算出された正極電位V1および負極電位V2は、図示しない充放電制御部に出力され、この充放電制御部により、組電池10の充放電制御が実行される。
<電位算出処理の処理フロー>
図15は、本実施の形態における電位算出処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定の演算周期Δt(たとえばΔt=100ms)毎にメインルーチン(図示せず)から呼び出されて実行される。これらのフローチャートに含まれる各ステップは、基本的にはECU30によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部がECU30内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
S101において、ECU30は、電圧センサ21から単電池11の電圧Vbを取得するとともに、電流センサ22から電池ブロック(図示せず)の温度Tbを取得する。ECU30は、以降の処理において、電圧Vbを端子間電圧Vとして使用するとともに、温度Tbを絶対温度Tに換算する。
ECU30のメモリ32には、前回の演算周期で算出された、正極活物質151の内部における水素濃度分布cs1k(k=1〜N)と、負極活物質152の内部における水素濃度分布cs2kとが記憶されている。ECU30は、前回の演算周期で算出された水素濃度分布csjk(j=1,2)を読み出す。なお、車両100のスタートスイッチ(図示せず)が押された(たとえばイグニッションオン)後の最初の演算周期では、車両100のイグニッションオフ直前の演算周期でメモリ32に記憶された水素濃度分布csjkが読み出される。ECU30は、正極活物質151の最外周領域の水素濃度cs1Nから表面水素量θ1Nを算出するとともに、負極活物質152の最外周領域Nの水素濃度cs2Nから表面水素量θ2Nを算出する(上記式(4)参照)(S102)。
S103において、ECU30は、図6に示したマップMP1を参照することによって、表面水素量θ1Nから初期電位E1を算出するとともに、表面水素量θ2Nから負極開放電位U2を算出する。
S104において、ECU30は、交換電流密度ioj、反応抵抗Rr、直流抵抗Rd、および活物質の拡散係数Dsjの各パラメータを算出する。この算出手法については、図13にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
S105において、ECU30は、上記式(9)および式(10)のいずれか一方に従って、端子間電圧V、正極開放電位U1、負極開放電位U2、交換電流密度iojおよび絶対温度Tから電流密度Iを算出する。さらに、ECU30は、上記式(11)に従って、電流密度Iを反応電流密度jj(j=1,2)に換算する。
S106において、ECU30は、上記式(12)に従って、絶対温度T、反応電流密度jjおよび交換電流密度iojから過電圧ηj(j=1,2)を算出する。
S107において、ECU30は、上記式(13)〜式(15)に従って、正極活物質151の内部の水素濃度分布cs1k(k=1〜N)と、負極活物質152の内部の水素濃度分布cs2kとを算出する。水素濃度分布csjk(j=1,2)の算出結果は、次回の演算周期でのS102の処理に備えてメモリ32に記憶される。
S108において、ECU30は、S107にて算出された正極活物質151の内部の水素濃度分布cs1kから、上記式(4)に従って局所水素量分布θ1k(k=1〜N)を算出する。
S109において、ECU30は、S108にて算出された局所水素量分布θ1kから、全領域kの平均量である平均水素量θ1,aveを算出する(上記式(5)参照)。この平均水素量θ1,aveが使用水素量θ0として用いられる。
S110において、ECU30は、20個の平均水素量θ1,aveの範囲毎に、今回の演算周期における微小メモリ量ΔMを算出する。この算出手法については、図10および図11にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
S111において、ECU30は、上記20個の範囲毎に、S110にて算出された微小メモリ量ΔMを積算することによってメモリ量Mを算出する。
S112において、単電池11の充放電に伴い、前回の演算周期から使用水素量θ0が所定量以上変化した場合には、変化前の使用水素量θ0と変化後の使用水素量θ0との間の範囲において、それまでの積算量の解消が考慮される。具体的には、たとえば上記式(6)または式(7)にて説明した手法に従って、積算量の減少量が算出され、最終的にはメモリ効果の解消が反映される。
S113において、ECU30は、S103にて算出された初期電位E1と、S106にて算出された過電圧η1と、S112にて算出されたメモリ量Mとを用いて、正極電位V1を算出する(式(1)参照)。この正極開放電位U1に、S106にて算出された過電圧η1を加算することにより、正極電位V1が算出される。
さらに、ECU30は、S103にて算出された負極開放電位U2と、S106にて算出された過電圧η2とを用いて、上記20個の範囲毎に負極電位V2を算出する(式(2)参照)。
以上のように、本実施の形態によれば、予め準備されたマップMP2(図12参照)を参照することによって、平均水素量θ1,aveの範囲毎に、単電池11の使用条件(θ1,ave,T)に応じた微小メモリ量ΔMが遂次算出され、さらに積算される。このようにして算出されたメモリ量Mが、マップMP1(図6参照)を参照することによって表面水素量θ1Nから算出された初期電位E1に加算される。これにより、正極141に生じたメモリ効果の影響を正極開放電位U1に反映させることができるので、正極電位V1の算出精度を向上させることができる。さらに、メモリ効果の解消についても考慮することで、正極電位V1の算出精度を一層向上させることができる。
また、S105にて説明したように、電流密度Iを算出する際には、前回の演算周期での正極開放電位U1および負極開放電位U2の算出結果が用いられる。この正極開放電位U1はメモリ効果の影響を考慮した上で高精度に算出されたものであるため、電流密度Iについても、メモリ効果の影響を考慮されていない場合と比べて、高精度に算出することができる。これにより、負極活物質152の反応電流密度j2および過電圧η2も高精度に算出されることになる(式(12)参照)。その結果、S112にて、今回の演算周期における負極電位V2の算出精度についても向上させることができる(式(2)参照)。
なお、本実施の形態では、アルカリ二次電池の一例としてニッケル水素電池を用いた場合について説明したが、本実施の形態で説明した手法が適用可能なアルカリ二次電池はこれに限定されるものではない。本実施の形態の手法は、水酸化ニッケルを正極活物質として含み、メモリ効果が発生する他のアルカリ二次電池(たとえばニッケルカドミウム電池またはニッケル亜鉛電池)にも適用することができる。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。