以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が好適に適用された4輪駆動車両10の構成を概略的に説明する骨子図である。図1において、4輪駆動車両10は、エンジン12を駆動源とし、そのエンジン12の動力を主駆動輪に対応する左右の前輪14L、14R(特に区別しない場合には、それら前輪14Lおよび前輪14Rを前輪14という)に伝達する第1の動力伝達経路と、そのエンジン12の動力を副駆動輪に対応する左右の後輪16L、16R(特に区別しない場合には、それら後輪16Lおよび後輪16Rを後輪16という)に伝達する第2の動力伝達経路とを有しているFFベースの4輪駆動装置を備えている。この4輪駆動車両10の2輪駆動状態では、エンジン12から自動変速機18を介して伝達された駆動力がフロントデフ20および左右の車軸22L、22Rを経由して左右の前輪14L、14Rへ伝達される。この2輪駆動状態では、少なくともトランスファ26に設けられた第1クラッチ(断接装置)24が解放され、プロペラシャフト28、リアデフ30および後輪16へは駆動力が伝達されない。しかし、4輪駆動状態では、上記2輪駆動状態に加えて、第1クラッチ24および第2クラッチ32が共に係合され、上記プロペラシャフト28およびリアデフ30等を経由して後輪16へエンジン12からの駆動力が伝達される。なお、図1では図示されていないが、エンジン12と自動変速機18との間には、流体伝動装置であるトルクコンバータ或いはクラッチが設けられている。また、第1クラッチ24が本発明の断接装置に対応している。
自動変速機18は、例えば、複数の遊星歯車装置および摩擦係合装置(クラッチ、ブレーキ)を備えてそれら摩擦係合装置を選択的に係合させることで変速段が選択される形式の有段式自動変速機で構成されている。なお、上記自動変速機18は、常時噛合型平行軸式変速機の変速段がシフトアクチュエータおよびセレクトアクチュエータによって選択される形式の有段式自動変速機で構成されていても良い。また、上記自動変速機18は、伝動ベルトが巻き掛けられた一対の有効径が可変の可変プーリの有効径を変化させることで変速比が連続的に変化させられる形式の無段変速機で構成されていても良い。上記自動変速機18は公知の技術であるため、具体的な構造や作動の説明については省略する。
フロントデフ20は、回転軸心C1まわりに回転可能に設けられ、自動変速機18の出力歯車18aと噛み合うリングギヤ20rと、そのリングギヤ20rに固定されたデフケース(デファレンシャルケース)20cと、そのデフケース20c内に収容された差動歯車機構20dとを有しており、前輪14の左右の車軸22L、22Rの差回転を許容しつつリングギヤ20rに伝達された駆動力を左右の車軸22L、22Rへ伝達する。なお、上記デフケース20cには、トランスファ26に設けられた入力軸34の外周歯と嵌合する内周歯が形成されている。これにより、エンジン12からデフケース20cを介して左右の前輪14L、14Rへ伝達する駆動力の一部が、入力軸34を介してトランスファ26に入力されるようになっている。
左右の後輪16へ駆動力を配分するリアデフ30には、図1に示すように、プロペラシャフト28の後輪16側の端部にカップリング36を介して連結されたドライブピニオン38と相対回転不能に係合する円筒状の第1回転部材40のリングギヤ40aと、その第1回転部材40と後輪16の一対の車軸42L、42Rとの間を選択的に連結する第2クラッチ32と、その第2クラッチ32を介して入力されるエンジン12からの駆動力を後輪16の左右の車軸42L、42Rに適宜差回転を与えつつ伝達する差動歯車装置42とが、備えられている。
上記差動歯車装置42は、図1に示すように、回転軸心C2まわりに回転可能に支持されたデフケース(デファレンシャルケース)42cと、後輪16の一対の車軸42L、42Rにそれぞれ連結され、デフケース42c内において互いに対向する状態で回転軸心C2まわりに回転可能にそのデフケース42cに支持された一対のサイドギヤ42aと、回転軸心C2に直交する回転軸心C3まわりに回転可能にデフケース42cに支持され、一対のサイドギヤ42aと噛み合う状態でそれらの間に配置された一対のピニオン42bとを有している。また、差動歯車装置42は公知の技術であるため、具体的な構造や作動の説明については省略する。
カップリング36は、図1に示すように、プロペラシャフト28と第1回転部材40との間に設けられ、一方の回転要素36aと他方の回転要素36bとの間でトルク伝達を行う。また、カップリング36は、例えば湿式多板クラッチで構成される電子制御カップリングであり、カップリング36の伝達トルクを制御することにより、前後輪のトルク配分を100:0〜50:50の間で連続的に変更することができる。
図1に示すように、円筒状の第1回転部材40の内周側を車軸42Lが貫通している。また、第1回転部材40の差動歯車装置42側とは反対側の端部にはリングギヤ40aが形成されており、そのリングギヤ40aがドライブピニオン38と噛み合わされている。このため、第1回転部材40はドライブピニオン38と一体的に回転する。また、第1回転部材40の差動歯車装置42側の端部には、第2クラッチ32の一部を構成するクラッチ歯40bが形成されている。また、差動歯車装置42のデフケース42cの第1回転部材40側の端部には、第2クラッチ32の一部を構成するクラッチ歯42dが形成されている。
第2クラッチ32は、第1回転部材40と差動歯車装置42のデフケース42cとの間を選択的に連結するための噛合クラッチ、すなわち第1回転部材40と差動歯車装置42との間を断接するための噛合クラッチである。また、第2クラッチ32は、第1回転部材40に形成されたクラッチ歯40bと、デフケース42cに形成されたクラッチ歯42dと、それらクラッチ歯40bおよびクラッチ歯42dと噛合可能な内周歯44aが形成され、回転軸心C2と平行な方向に移動可能に設けられたスリーブ44と、そのスリーブ44を回転軸心C2と平行な方向に駆動させる第2クラッチアクチュエータ46とを備える噛合式のドグクラッチである。なお、第2クラッチアクチュエータ46は、図示しない電子制御装置から出力される指令信号によってスリーブ44をその回転軸心C2と平行な方向に駆動させる。また、第2クラッチ32には、スリーブ44の内周歯44aを第1回転部材40のクラッチ歯40bに噛み合わせるのに先立って第1回転部材40の回転とデフケース42cの回転とを同期させるよく知られた同期装置48が備えられている。なお、上記第2クラッチ32では、第1クラッチ24が開放されている2輪駆動状態において、図1に示すように、第2クラッチアクチュエータ46によってスリーブ44が差動歯車装置42側に移動させられて、プロペラシャフト28と後輪16L、16Rとの間すなわち第1回転部材40とデフケース42cとの間が解放されると、左右の後輪16L、16Rからプロペラシャフト28が切り離されて、そのプロペラシャフト28等の回転抵抗による車両の走行抵抗が低減される。
図2は、図1のトランスファ26の構成を説明する断面図である。トランスファ26は、図2に示すように、フロントデフ20を構成するデフケース20cを介してエンジンの駆動力の一部を前輪に伝達する円筒状の入力軸34と、プロペラシャフト28を駆動するためにそのプロペラシャフト28の他端部に連結されたドリブンピニオン50と噛み合うリングギヤ52が形成された出力軸として機能する円筒軸部53と、入力軸34と円筒軸部53との間の動力伝達を断接する第1クラッチ24とを備えている。第1クラッチ24が係合して入力軸34と円筒軸部53との間が接続されると、エンジン12から伝達される駆動力の一部が、左右の前輪に出力され、駆動力の残部が、プロペラシャフト28を介して左右の後輪へ出力される。なお、入力軸34の軸穴35の内部を前輪車軸22が貫通している。
リングギヤ52は、例えば斜歯またはハイポイドギヤが形成された傘歯車であり、そのリングギヤ52の内周部が、円筒形状に形成されている円筒軸部53に相対回転不能にスプライン嵌合されている。円筒軸部53は、非回転部材であるケース54内に設けられた軸受56によって、回転軸心C1まわりに回転可能に片持ち状に支持されている。入力軸34は、リングギヤ52および円筒軸部53の内側を貫通している。入力軸34は、ケース54内に設けられた一対の軸受58a、58bに両端部が支持されることで、回転軸心C1まわりに回転可能に支持されている。なお、スプライン嵌合にあっては、厳密には、スプライン嵌合部に形成されるガタ分だけ相対回転するが、その相対回転量は僅かであるため、本明細書では、スプライン嵌合されると相対回転不能であると記載する。言い換えれば、本明細書において、スプライン嵌合部のガタによる相対回転は許容するものとする。
第1クラッチ24は、トランスファ26の入力軸34と、リングギヤ52が接続された円筒軸部53との間を断接する噛合クラッチである。第1クラッチ24は、電磁ソレノイド66および可動片68を含んで構成されるアクチュエータ69と、アクチュエータ69によって係合状態が制御されるコントロールクラッチ71と、コントロールクラッチ71のトルク容量に応じた推力を発生させるボールカム82と、ボールカム82によって入力軸34の回転軸心C1と平行に移動させられる可動スリーブ60と、可動スリーブ60をボールカム82の推力に対して抗う方向に付勢するスプリング64と、入力軸34の軸方向においてボールカム82と可動スリーブ60との間に配置され、ボールカム82によって入力軸34に対して軸方向に相対移動可能に設けられているピストン72と、入力軸34の外周面に相対回転不能かつ軸方向の相対移動不能に固定されている環状のホルダ74と、入力軸34の軸方向においてホルダ74とボールカム82との間に介挿され、ホルダ74とボールカム82とを軸方向で離間する方向に付勢するスプリング76とを、含んで構成されている。なお、本明細書において、特に言及しない限り、軸方向とは入力軸34の軸方向、すなわち入力軸34の回転軸心C1に平行な方向を示すものとする。また、可動スリーブ60が、本発明の断接スリーブに対応し、スプリング64が本発明の第1スプリングに対応し、コントロールクラッチ71が本発明の補助クラッチに対応している。
アクチュエータ69は、ケース54内に設けられた環状の電磁ソレノイド66と、ケース54にスプライン嵌合された可動片68とから構成されている。可動片68は、円板状に形成され、その外周部にケース54に形成されている内周歯とスプライン嵌合する外周歯が形成されている。可動片68は、ケース54とスプライン嵌合することで回転不能とされるとともに、軸方向に相対移動可能とされている。電磁ソレノイド66に電流が流れると、電磁ソレノイド周辺に磁束が生じ、可動片68が電磁ソレノイド66側に向かって吸引される。
コントロールクラッチ71は、外周部がケース54の内周歯にスプライン嵌合されている一対の円板形状のクラッチディスク84と、一対のクラッチディスク84の間に挟み込まれるとともに内周部がボールカム82を構成する後述する支持部材78にスプライン嵌合されている円板形状のクラッチディスク86と、から構成されている。コントロールクラッチ71は、アクチュエータ69によって制御され、コントロールクラッチ71のトルク容量に比例して支持部材78の回転速度が低下する。また、コントロールクラッチ71が完全係合すると、ケース54と支持部材78とが接続されて支持部材78が回転停止させられる。
ボールカム82は、入力軸34の外周面に配置される環状の支持部材78と、入力軸34に対して軸方向への相対移動可能な環状のカムピストン70と、軸方向において支持部材78とカムピストン70との間に介挿されている球形状の複数個のボール80と、から構成されている。なお、カムピストン70が本発明のカム部材に対応している。
ボールカム82の支持部材78は、内周面が入力軸34に対して摺動可能に構成され、外周部には、クラッチディスク86が相対回転不能にスプライン嵌合されている。ボールカム82のカムピストン70は、内周部が入力軸34に相対回転不能、かつ、軸方向への相対移動可能にスプライン嵌合されている。また、カムピストン70の外周部には、軸方向において支持部材78から遠ざかる方向に向かって伸びる円筒形状の円筒部70bが形成されている。支持部材78およびカムピストン70の互いに対向する面(カム面)には、ボール80を収容するカム溝70a、78aがそれぞれ形成されている。ボール80がそのカム溝70a、78a内に収容され、支持部材78とカムピストン70とが相対回転すると、ボール80がカム溝70a、78a上を転がり、支持部材78とカムピストン70とが軸方向において互いに離間するように、カム溝70a、78aの形状が形成されている。
可動スリーブ60は環状に形成され、内周部が入力軸34に形成されている外周歯とスプライン嵌合することで、入力軸34に対して相対回転不能、且つ、軸方向の相対移動可能とされている。可動スリーブ60の外周部には、円筒軸部53の軸端に形成されている噛合歯53aと噛み合う噛合歯60aが形成されている。図2の回転軸心C1の紙面上側に示すように、噛合歯53aと噛合歯60aとの噛合が解除された状態では、円筒軸部53と入力軸34との接続が遮断される。一方、図2の回転軸心C1の紙面下側に示すように、噛合歯53aと噛合歯60aとが噛み合うと、円筒軸部53と入力軸34とが可動スリーブ60を介して接続される。なお、図2において、回転軸心C1よりも紙面上側に示す可動スリーブ60の位置を噛合遮断位置と定義し、回転軸心C1よりも紙面下側に示す可動スリーブ60の位置を噛合位置と定義する。
軸方向において可動スリーブ60と軸受58aとの間に、スプリング64が介挿されている。スプリング64は、スラスト軸受を介して可動スリーブ60と当接し、その可動スリーブ60を噛合位置方向(ボールカム82の推力に対して抗う方向)に付勢している。
軸方向においてボールカム82と可動スリーブ60との間に、円錐状のピストン72が設けられている。ピストン72は、入力軸34に対して相対回転可能、且つ、軸方向の相対移動可能に構成されている。また、ピストン72の軸方向の一端が、カムピストン70の円筒部70bの軸端と当接させられ、他端が後述する入力軸34に対して軸方向の相対移動可能な環状部材96を介して可動スリーブ60の軸方向の一端に当接させられている。従って、ピストン72が軸方向に移動すると、可動スリーブ60も同様に軸方向に移動させられる。ピストン72は、ボールカム82が作動すると、軸方向においてスプリング64側に移動させられ、ボールカム82が非作動となると、スプリング64の付勢力によって軸方向において支持部材78側に移動させられる。
ホルダ74は、内周部の一部が入力軸34に形成されている外周歯にスプライン嵌合されるとともに、一部が入力軸34の外周面に圧入されることで、入力軸34に対して相対回転不能、且つ、軸方向への相対移動不能に固定されている。ホルダ74の外周側には、ピストン72を掛け止めるための掛止歯が形成されている。この掛止歯にピストン72の軸方向の一端が掛止されることで、ピストン72および可動スリーブ60の軸方向の位置が決定される。掛止歯は、可動スリーブ60を図2に示す噛合位置または噛合解除位置の何れかで停止させるように形成されており、ボールカム82が一往復する毎に、ピストン72が当接する掛止歯が切り替わり、可動スリーブ60が噛合位置および噛合解除位置に交互に切り替わるように設定されている。なお、ホルダ74の掛止歯の構造や作動については、公知の技術であるため本明細書では省略する。
軸方向においてピストン72と可動スリーブ60との間に、環状部材96が介挿されている。環状部材96は、内周部が入力軸34に形成されている外周歯とスプライン嵌合されることで、入力軸34に対して相対回転不能、且つ、軸方向への相対移動可能に構成されている。
径方向において環状部材96と円筒筒部53との間に、入力軸34と円筒軸部53とを回転同期させる同期装置94が設けられている。同期装置94は、円錐状の摩擦係合部材90および円錐状の摩擦形状部材92を備えている。
摩擦係合部材92は、その内周面が環状部材96の外周面と摺接させられるとともに、外周面が摩擦係合部材90の内周面に摺接させられている。また、摩擦係合部材92の外周端部が、円筒軸部53に形成されている内周歯とスプライン嵌合することで、摩擦係合部材92は、円筒軸部53と一体的に回転する。摩擦係合部材90は、その内周面が摩擦係合部材92の外周面に摺接させられるとともに、外周面が円筒軸部53の内周側に形成されているテーパ面に摺接させられている。また、摩擦係合部材90の内周部が、可動スリーブ60の外周側に形成されている外周歯とスプライン嵌合することで、摩擦係合部材90は、可動スリーブ60と一体的に回転する。
ここで、環状部材96が軸方向においてスプリング64側に移動させられると、環状部材96の外周面と摩擦係合部材92の内周面との間、摩擦係合部材92の外周面と摩擦係合部材90の内周面との間、および摩擦係合部材90の外周面と円筒軸部53のテーパ面との間で摩擦力が発生し、この摩擦力によって円筒軸部53および入力軸34の回転速度が同期される。そして、円筒軸部53および入力軸34の回転速度が同期されると、可動スリーブ60の噛合歯60aと円筒軸部53の噛合歯53aとの噛合が可能となる。
軸方向においてホルダ74とボールカム82(カムピストン70)との間に、スプリング76が介挿されている。スプリング76は、周方向において等角度間隔で複数個配置されており、ボールカム82のカムピストン70を軸方向において支持部材78側、すなわちホルダ74とボールカム82(カムピストン70)とが軸方向で離間する側、或いは、ボールカム82の非作動側に付勢している。なお、スプリング76が、本発明の第2スプリングに対応している。
上記のように構成される第1クラッチ24において、図2の回転軸心C1よりも紙面上側の状態から電磁ソレノイド66に電流が出力されると、可動片68が電磁ソレノイド66側に吸引されるため、可動片68がコントロールクラッチ71を押圧する。従って、コントロールクラッチ71がトルク容量を持つことから、支持部材78の回転速度が低下し、支持部材78とカムピストン70とが相対回転することで、ボールカム82のボール80が転動させられ、カムピストン70が軸方向においてスプリング64側に向かって移動させられる(ボールカム作動)。これに連動してカムピストン70と当接するピストン72、環状部材96、および可動スリーブ60が、スプリング64の付勢力に抗って軸方向において軸受58a側に移動させられる。このとき、同期装置94が作動し、入力軸34および円筒軸部53の回転速度が同期される。そして、電磁ソレノイド66の電流が遮断されると、ボールカム82が非作動に切り替わり、スプリング64の付勢力によって可動スリーブ60、環状部材96、およびピストン72が軸方向において支持部材78側に移動させられる。ここで、可動スリーブ60と円筒軸部53とが回転同期させられているため、図2の回転軸心C1の紙面下側に示すように、噛合歯60と噛合歯53aとが噛み合わされ、入力軸34と円筒軸部53とが、可動スリーブ60を介して接続される。また、ピストン72は、ホルダ74によって可動スリーブ60の噛合位置に対応する位置で掛止される。
さらに、図2の回転軸心C1の紙面下側の状態から電磁ソレノイド66に電流が出力されると、ボールカム82が作動することでピストン72、環状部材96、および可動スリーブ60が、軸方向においてスプリング64側に移動させられる。このとき、円筒軸部53の噛合歯53aと可動スリーブ60の噛合歯60aとの噛合が解除される。そして、電磁ソレノイド66の電流が遮断されると、ボールカム82が非作動状態に切り替わり、スプリング64の付勢力によって可動スリーブ60、環状部材96、およびピストン72が軸方向において支持部材78に移動させられる。ここで、ピストン72の軸端部と当接するホルダ74の掛止歯が切り替えられ、ピストン72が、図2の回転軸心C1の紙面上側に示す掛止位置に掛止される。従って、電磁ソレノイド66の電流が遮断されても、可動スリーブ60が図2の回転軸心C1の紙面上側に示す噛合遮断位置で保持される。
上記のようにして、電磁ソレノイド66の電流が出力および遮断されると、ボールカム82のカムピストン70が一往復させられ、可動スリーブ60が噛合位置および噛合解除位置に交互に切り替えられる。また、電磁ソレノイド66の電流が遮断された間もホルダ74によって可動スリーブ60が噛合位置および噛合解除位置の何れかに保持される。
ところで、図2に示すように、入力軸34と、ホルダ74と、ボールカム82のカムピストン70とによって、環状空間98が形成され、その環状空間98内にスプリング76が収容されている。なお、スプリング76は、周方向において等角度間隔で複数個配置され、カムピストン70には、スプリング76を収容するスプリング収容穴70cが、スプリング76と同じ数だけ形成されている。なお、環状空間98が、本発明の空間に対応している。
環状空間98を形成するホルダ74は、軸方向において環状空間98と隣合う側の内周部が、入力軸34の外周面に圧入され、外周面がカムピストン70の円筒部70bの内周面に摺接している。また、カムピストン70の内周部は、入力軸34の外周歯とスプライン嵌合されており、カムピストン70と入力軸34との間は、スプライン嵌合部に形成される僅かなガタによる隙間等を除いて、略摺接した状態となる。また、カムピストン70は、一部(鉛直下部)がケース54内に貯留されているオイルに浸漬されている。従って、ボールカム82が作動を繰り返すと、カムピストン70とホルダ74との摺動面にある僅かな隙間等からオイルが流入し、環状空間98内に溜まる。このような状態でボールカム82が作動すると、環状空間98内に溜まるオイルによって油圧が発生し、ボールカム82(カムピストン70)の推力が低下する。また、環状空間98内の油圧によってホルダ74が抜ける可能性もあった。
そこで、図3示すような環状空間98とその環状空間98の外部である外部空間との間を連通する油路(図2では後述する第4油路106のみ図示)が形成されている。図3にあっては、環状空間98と外部空間とを連通する後述する第1油路100から第4油路106が形成されているが、これらの油路のうち少なくとも1つが形成されていればよい。
図3(a)において、カムピストン70の円筒部70bには、その円筒部70bの内周面と外周面とを径方向に貫通する第1油路100が形成されている。この第1油路100が形成されることで、環状空間98と外部空間とが連通される。また、カムピストン70には、そのカムピストン70の支持部材78と対向する面(カム面)と環状空間98とを連通する回転軸心C1に平行な第2油路102が形成されている。また、ホルダ74には、そのホルダ74を軸方向に貫通する回転軸心C1に平行な第3油路104が形成されている。この第3油路104が形成されることで、環状空間98と外部空間とが連通される。また、入力軸34には、環状空間98を区画する外周面と内周面とを連通する第4油路106が形成されている。この第4油路106が形成されることで、環状空間98と外部空間とが連通される。なお、外部空間とは、環状空間98と隣り合う外部の空間全体を指しており、環状空間98よりも径方向外側の空間だけでなく、径方向内側の空間や環状空間98に対して軸方向の両側の空間についても該当する。また、第1油路100〜第4油路106が、本発明の油路に対応している。
上記第1油路100から第4油路106が形成されることで、ボールカム82が作動した際には、図3(b)の太矢印で示すように、各油路100〜106を通ってオイルが排出され、環状空間98内で油圧が発生することが防止される。従って、ボールカム82の推力が低下することもなくなる。また、ホルダ74が抜けることも防止される。
また、第4油路106を通って軸穴35内に排出されたオイルは、例えば図2に示す入力軸34の内周面と外周面とを連通する第5油路108、第6油路110、第7油路112を通って、デフケース20cとケース54との間に介挿されるシール114、スラスト軸受、同期装置94等に供給される。従って、シール114や同期装置94等が効率よく潤滑される。
上述のように、本実施例によれば、ホルダ74、入力軸34およびカムピストン70によって形成される環状空間98と、外部空間とを連通する第1油路100〜第4油路106が形成されることで、ボールカム82の作動時にオイルがその第1油路100〜第4油路106を通って排出されるため、環状空間98内で油圧が発生することが防止され、ボールカム82の推力低下が抑制される。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図4は、本発明の他の実施例であるトランスファ120における、ボールカム122、ホルダ124、および入力軸34によって区画される環状空間98を示す断面図であって、前述した実施例の図3に対応している。ボールカム122は、カムピストン126、ボール80、および支持部材78から構成されている。カムピストン126には、その外周部においてピストン72側に向かって軸方向に伸びる円筒形状の円筒部126aが形成されている。
本実施例では、ホルダ124の外周面と円筒部126aの内周面との間の摺接面(合わせ面)において、周方向の一部に第1間隙128が形成されている。第1間隙128は、ホルダ124の外周面の一部に、回転軸心C1と平行に伸びる断面半円状の窪みを形成するなどして形成される。また、円筒部126aの内周面の一部に、回転軸心C1と平行に伸びる断面半円状の窪みを形成するなどして形成されても構わない。この第1間隙128が、環状空間98と外部空間とを連通する油路として機能する。なお、第1間隙128が、本発明の油路に対応している。
また、カムピストン126の内周部と入力軸34の外周部との間に設けられているスプライン嵌合部(合わせ面)において、周方向の一部に第2間隙130が形成されている。第2間隙130は、例えばカムピストン126の内周部に形成されている内周歯を一部欠歯させるなどして形成される。また、入力軸34に形成されている外周歯を一部欠歯させるなどして形成されても構わない。この第2間隙130が、環状空間98と外部空間とを連通する油路として機能する。なお、第2間隙130が、本発明の油路に対応している。
また、入力軸34の外周面とホルダ124の内周面とが圧入されている面(合わせ面)の周方向の一部に、第3間隙132が形成されている。第3間隙132は、例えばホルダ124の(入力軸34が圧入される)内周面の一部に、回転軸心C1と平行に伸びる断面半円状の窪みを形成することで形成される。また、入力軸34の(ホルダ124が圧入される)外周面の一部に、回転軸心C1と平行に伸びる断面半円状の窪みを形成することで形成されても構わない。この第3間隙132が、環状空間98と外部空間とを連通する油路として機能する。なお、第3間隙132が、本発明の油路に対応している。
上記第1間隙128〜第3間隙132が形成されることでも、ボールカム122が作動した際には、環状空間98内のオイルが、図4の太矢印で示すように第1間隙128〜第3間隙132を通って排出されるため、環状空間98内において油圧が発生することが防止され、ボールカム122の推力低下が防止される。また、環状空間98内の油圧によるホルダ124の抜けについても防止される。なお、本実施例においても、第1間隙〜第3間隙132のうち少なくとも1つが形成されれば、上記効果を得ることができる。
上述のように、本実施例によっても、第1間隙128〜第3間隙132が形成されることで、ボールカム122が作動した際には環状空間98内に溜まるオイルが第1間隙128〜第3間隙132から排出されるため、前述の実施例と同様の効果を得ることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、第1油路100および第4油路106は、回転軸心C1に対して垂直に形成されているが、必ずしも垂直に形成される必要はなく、油路の中心線が、回転軸心C1に垂直な線に対して所定の角度で傾斜していても構わない。また、第2油路102および第3油路104は、回転軸心C1に対して平行に形成されているが、必ずしも回転軸心C1に対して平行に形成される必要はなく、回転軸心C1に対して所定の角度で傾斜していても構わない。
また、前述の実施例では、アクチュエータとして電磁ソレノイド66が用いられていたが、例えば電動モータや油圧アクチュエータなど推力を発生させるものであれば特に限定されない。
また、前述の実施例では、トランスファ26に断接装置として機能する第1クラッチ24が設けられていたが、本発明はトランスファ26に限定されず、リアデフなど他の装置に設けられても構わない。
また、前述の実施例では、スプリング76が環状空間98内に設けられていたが、スプリング76を環状空間の外部に配置することもできる。具体的には、カムピストン70の円筒部70bの外部であって、軸方向においてピストン72とカムピストン70との間に介挿されても構わない。
また、前述の実施例では、第1クラッチ24が本発明の断接装置として適用されていたが、第2クラッチ32についても同じ構造が適用されても構わない。
また、4輪駆動車両10は、FFベースの駆動装置から構成されていたが、FRベースの4輪駆動車両など他の形式の車両についても適用することができる。
また、前述の実施例では、ホルダ74は、圧入によって入力軸34に固定されているが、例えば溶接など他の手段によって入力軸34に固定されても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。