JP2016164402A - 内燃機関 - Google Patents
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Abstract
【課題】点火時期における点火プラグ周辺の可燃混合気の成層度を回復させるという観点において噴霧貫徹力を効率良く変化させつつ、経時変化によって悪化したタンブルの強さと噴霧貫徹力とのバランスを改善させられる内燃機関を提供する。【解決手段】燃焼室14内にタンブル流が生成される内燃機関10において、点火プラグ30と、成層燃焼運転時にタンブル流の渦中心に燃料噴霧が向かうように特定タイミングTにて燃料を噴射する筒内噴射弁28と、成層燃焼運転中に燃焼変動の大きさが判定値よりも大きい場合に、プラグ周辺空燃比がリッチになるように筒内噴射割合Rを変更するECU40とを備える。筒内噴射割合Rの上記変更は、まず、筒内噴射割合Rを一定量Xだけ減少し、その結果としてプラグ周辺空燃比がリッチになった場合には筒内噴射割合Rの減少を継続し、一方、上記の結果としてプラグ周辺空燃比がリーンになった場合には筒内噴射割合Rを増加させる。【選択図】図4
Description
この発明は、内燃機関に係り、特に、タンブル流を利用して成層燃焼運転が行われる内燃機関に関する。
特許文献1には、成層燃焼運転を行う筒内噴射式エンジンの制御装置が開示されている。この制御装置は、点火時期において点火プラグの周辺に可燃混合気を滞留させて成層燃焼運転を行うために、燃料噴射弁に向かって流れてくるタンブル流に向けて当該タンブル流と逆行するように燃料を噴射するようにしている。そのうえで、上記制御装置は、タンブル流の強さと燃料の噴霧貫徹力とをバランスさせて安定した成層燃焼を実現するために、燃料噴射圧力の制御による噴霧貫徹力の調整を行う。より具体的には、アイドリング運転時に、燃料噴射圧力を設定下限値から設定上限値までの全範囲において徐々に変化させつつ、この全範囲において燃焼変動の大きさが所定値以下となるように燃料噴射時期を補正する処理が行われる。
タンブル流の強さ(タンブル比)は、吸気ポートへのデポジットの堆積などの理由によって経時的に変化し得る。また、燃料の噴霧貫徹力も、燃料噴射弁の噴孔等へのデポジットの堆積などの理由によって経時的に変化し得る。このため、成層燃焼のためにタンブル流を利用して点火プラグの周辺に燃料噴霧を導く構成を採用している場合には、タンブルの強さもしくは噴霧貫徹力が経時的に変化すると、タンブルの強さと噴霧貫徹力とがアンバランスとなることが懸念される。このようなアンバランスが生じると、点火時期における点火プラグの周辺での可燃混合気の成層度が低下する。成層度が低下すると、すなわち、上記混合気の空燃比がリーンになると、燃焼変動が大きくなり、トルク変動が大きくなる。
特許文献1の手法によれば、タンブルの強さと噴霧貫徹力とのアンバランスを解消するために、設定下限値から設定上限値までの全範囲において燃料噴射圧力を変化させる動作を必要とする。しかしながら、燃料噴射圧力のような燃焼に関わるパラメータを不用意に大きく変化させると、排気エミッション等に悪影響を与えることが懸念される。例えば、特許文献1の手法で用いられる燃料噴射圧力の場合には、燃料噴射圧力を低下させることで噴霧貫徹力を下げることができるが、燃料の微粒化が妨げられてしまう。その結果、筒内壁面への燃料付着の増大および一酸化炭素COの増加といった問題が発生することがある。
以上のことから、上述のアンバランスを軽減することによって点火時期における点火プラグ周辺の可燃混合気の成層度の回復を図るためには、燃焼に関わるパラメータを極力変化させないことが重要であるといえる。特許文献1の手法は、燃料噴射圧力(すなわち、噴霧貫徹力)を成層度回復の観点で効率良く変化させるための指針なしに、設定下限値から設定上限値までの全範囲という既定の範囲内で燃料噴射圧力を一通り変化させることを前提としている。この点において、特許文献1に記載の手法は、タンブルの強さと噴霧貫徹力とのバランス改善に用いるうえで、未だ改善の余地を残すものであった。
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、点火時期における点火プラグ周辺の可燃混合気の成層度を回復させるという観点において噴霧貫徹力を効率良く変化させつつ、経時変化によって悪化したタンブルの強さと噴霧貫徹力とのバランスを改善させられるようにした内燃機関を提供することを目的とする。
本発明に係る内燃機関は、燃焼室内にタンブル流が生成される内燃機関であって、点火プラグと、筒内噴射弁と、制御装置とを備える。点火プラグは、シリンダヘッド側の前記燃焼室の壁面の中央部に配置されている。筒内噴射弁は、成層燃焼運転が行われるときに、タンブル流の渦中心に燃料噴霧が向かうように特定タイミングにて燃料を噴射するように構成されている。制御装置は、成層燃焼運転中に燃焼変動の大きさを算出し、算出した燃焼変動の大きさが判定値よりも大きい場合に、点火時期における前記点火プラグの周辺の混合気の空燃比であるプラグ周辺空燃比がリッチ側に変化するように、前記特定タイミングにて行われる燃料噴射の噴霧貫徹力を変更する。また、前記制御装置は、プラグ周辺空燃比と相関のある空燃比指標値を算出するように構成されている。前記制御装置による噴霧貫徹力の変更は、噴霧貫徹力の増加および減少のうちの何れか一方の動作を実施し、前記一方の動作を初回に実施した結果として前記空燃比指標値がリッチ側への変化を示す場合には前記一方の動作を継続し、前記一方の動作を初回に実施した結果として前記空燃比指標値がリーン側への変化を示す場合には噴霧貫徹力の増加および減少のうちの他方の動作を実施するものである。
前記制御装置は、前記一方の動作もしくは前記他方の動作の実施を、前記空燃比指標値がリッチ側への変化を示さなくなるまで継続することが好ましい。
前記内燃機関は、1サイクル中に前記特定タイミングでの燃料噴射を含めて複数回の燃料噴射を実施するものであって、前記制御装置による噴霧貫徹力の変更は、前記複数回行われる燃料噴射の総燃料噴射量に対する、前記特定タイミングでの燃料噴射の量の割合である燃料噴射割合を変更することによって行われることが好ましい。
前記内燃機関は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁を含むものであってもよい。前記総燃料噴射量は、1サイクル中に前記筒内噴射弁と前記ポート噴射弁とを用いて前記複数回行われる燃料噴射による燃料噴射量の合計値であってもよい。
前記内燃機関は、筒内圧を検出する筒内圧センサを含むものであってもよい。前記制御装置は、前記筒内圧センサにより検出される筒内圧に基づいて筒内の熱発生率を算出するものであってもよい。そして、前記空燃比指標値は、所定クランク角タイミングにおける筒内の熱発生率の大きさであってもよい。
本発明によれば、成層燃焼運転中に燃焼変動の大きさが判定値よりも大きい場合には、プラグ周辺空燃比がリッチ側に変化するように、成層化のために特定タイミングにて行われる燃料噴射の噴霧貫徹力が変更される。この噴霧貫徹力の変更は、次のように行われる。すなわち、まず、噴霧貫徹力の増加および減少のうちの何れか一方の動作が実施され、当該一方の動作を初回に実施した結果としてプラグ周辺空燃比がリッチ側に変化するかあるいはリーン側に変化するかに応じて、2回目以降の噴霧貫徹力の変更の方向が決定される。より具体的には、一方の動作を初回に実施した結果としてプラグ周辺空燃比と相関のある空燃比指標値がリッチ側への変化を示す場合には噴霧貫徹力の増加および減少のうちの上記一方の動作が継続され、一方の動作を初回に実施した結果として空燃比指標値がリーン側への変化を示す場合には噴霧貫徹力の増加および減少のうちの他方の動作が実施される。このような手法によれば、燃焼変動の増大の要因である経時変化のパターンを考慮して、噴霧貫徹力を変更すべき方向を適切に決定できるようになる。このため、本発明によれば、点火時期における点火プラグ周辺の可燃混合気の成層度を回復させるという観点において噴霧貫徹力を効率良く変化させつつ、経時変化等によって悪化したタンブルの強さと噴霧貫徹力とのバランスを改善させられるようになる。
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の内燃機関10のシステム構成を説明するための模式図である。本実施形態のシステムは、火花点火式の内燃機関10を備えている。内燃機関10の各気筒内には、ピストン12が設けられている。気筒内におけるピストン12の頂部側には、燃焼室14が形成されている。燃焼室14には、吸気通路16および排気通路18が連通している。
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の内燃機関10のシステム構成を説明するための模式図である。本実施形態のシステムは、火花点火式の内燃機関10を備えている。内燃機関10の各気筒内には、ピストン12が設けられている。気筒内におけるピストン12の頂部側には、燃焼室14が形成されている。燃焼室14には、吸気通路16および排気通路18が連通している。
吸気通路16の入口付近には、吸入空気量を計測するためのエアフローメータ20が配置されている。また、吸気通路16には、電子制御式のスロットル弁22が設けられている。スロットル弁22は、アクセル開度に応じて開度が調整されることで、吸入空気量を調整することができる。
吸気通路16において燃焼室14に接続される部位である吸気ポート16aは、吸気の流れによって燃焼室14内に縦回転の渦、すなわち、タンブル流を生成させられるように形成されている。なお、タンブル流の生成は、上記のように吸気ポート16aの形状の選定によるものに限られない。すなわち、例えば、タンブル流の強さ(タンブル比)を可変とするタンブルコントロールバルブ(TCV)を吸気通路に備えるようにし、TCVの開度を制御することによってタンブル流を生成させるものであってもよい。
吸気ポート16aには、当該吸気ポート16aを開閉する吸気弁24が設けられている。内燃機関10の各気筒には、吸気ポート16aに燃料を噴射するポート噴射弁26と、燃焼室14内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁28とが設けられている。また、各気筒には、混合気に点火するための点火装置(図示省略)の点火プラグ30が設けられている。点火プラグ30は、シリンダヘッド側の燃焼室14の壁面の中央部に配置されている。さらに、各気筒には、筒内圧を検出する筒内圧センサ32が設けられている。
排気通路18の排気ポート18aには、当該排気ポート18aを開閉する排気弁34が設けられている。また、排気通路18には、排気ガスを浄化するための排気浄化触媒36が配置されている。さらに、内燃機関10のクランク軸(図示省略)の近傍には、クランク角およびエンジン回転速度を検出するためのクランク角センサ38が取り付けられている。
さらに、図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40は、入出力インターフェースとメモリと演算処理装置(CPU)とを備えている。入出力インターフェースは、内燃機関10もしくはこれを搭載する車両に取り付けられた各種センサからセンサ信号を取り込むとともに、内燃機関10を制御するための各種アクチュエータに対して操作信号を出力するために設けられている。メモリには、内燃機関10を制御するための各種の制御プログラムおよびマップ等が記憶されている。CPUは、制御プログラム等をメモリから読み出して実行し、取り込んだセンサ信号に基づいて各種アクチュエータの操作信号を生成する。ECU40が信号を取り込むセンサには、上述したエアフローメータ20、筒内圧センサ32およびクランク角センサ38等のエンジン運転状態を取得するための各種センサが含まれる。ECU40が操作信号を出すアクチュエータには、上述したスロットル弁22、ポート噴射弁26、筒内噴射弁28および上記点火装置等が含まれる。
(タンブル流を利用する成層燃焼)
内燃機関10では、上述のように、吸気ポート16aの形状の事前の選定によって、燃焼室14内にタンブル流を生成させられるようになっている。より具体的には、本実施形態において生成されるタンブル流は、図1に示すように、吸気側で上昇し、排気側で下降する正タンブル流である。
内燃機関10では、上述のように、吸気ポート16aの形状の事前の選定によって、燃焼室14内にタンブル流を生成させられるようになっている。より具体的には、本実施形態において生成されるタンブル流は、図1に示すように、吸気側で上昇し、排気側で下降する正タンブル流である。
本実施形態では、成層燃焼を実現するために、このタンブル流を利用するエアガイド方式、すなわち、燃料噴霧をタンブル流によって点火プラグ30の周りに運ぶ方式が用いられる。成層燃焼とは、点火時期において点火プラグ30の周辺にその外側よりも空燃比がリッチな混合気層を形成して行う燃焼のことである。なお、図1は、圧縮上死点(圧縮TDC)前90°CA付近での状態を示している。
エアガイド方式を用いた成層燃焼を行えるようにするために、筒内噴射弁28の噴射角度は、圧縮行程の中期内の特定タイミングTにおいてタンブル流の渦中心に向けて燃料を噴射可能となるように設定されている。ここでいう圧縮行程の中期とは、好ましくは、圧縮TDC前120〜60°CAである。特定タイミングTは、ここでは一例として圧縮TDC前90°CAとされている。
成層燃焼を行う際の燃料噴射として、本実施形態では、1サイクル中に噴射すべき燃料噴射量を複数回に分割し、分割した後の個々の燃料噴射量の噴射を行う燃料噴射弁をポート噴射弁26と筒内噴射弁28とによって分担する手法が用いられる。より具体的には、最初の燃料噴射は、ポート噴射弁26を用いて行われ、2番目の燃料噴射は、筒内噴射弁28を用いて行われる。最初の燃料噴射は、メインとなる燃料噴射であり、1サイクル中に噴射すべき燃料量のうちの多くの量の燃料が排気行程もしくは吸気行程においてポート噴射弁26によって噴射される。2番目の燃料噴射は、1サイクル中に噴射すべき燃料量のうちの残りの量であって成層化のために必要とされる少量での燃料噴射である。この2番目の燃料噴射は、上記特定タイミングT(圧縮TDC前90°CA)にて筒内噴射弁28によって行われる。
上記2番目の燃料噴射がタンブル流の強さに対して適切な噴霧貫徹力で行われることで、燃料噴霧がタンブル流の渦中心に向かい、その結果、タンブル流によって燃料噴霧が包み込まれるようになる。そして、タンブル流によって包み込まれた燃料噴霧はピストン12の上昇に伴って点火プラグ30の周りに運ばれる。これにより、点火時期における点火プラグ30の周辺の混合気層がその外側よりも空燃比がリッチな可燃混合気層となるように、筒内ガスを成層化させることができる。
[実施の形態1の制御]
(本実施形態の制御の対象となる運転条件)
以下に説明する本実施形態の制御は、ファストアイドル運転を対象として行われる。ファストアイドル運転は、内燃機関10の冷間始動直後に、アイドル回転速度を、暖機終了後の通常アイドル回転速度より高く維持するために行われるものである。
(本実施形態の制御の対象となる運転条件)
以下に説明する本実施形態の制御は、ファストアイドル運転を対象として行われる。ファストアイドル運転は、内燃機関10の冷間始動直後に、アイドル回転速度を、暖機終了後の通常アイドル回転速度より高く維持するために行われるものである。
(ファストアイドル運転時に成層燃焼を行う利点)
本実施形態では、ファストアイドル運転時に、上述のエアガイド方式を利用する成層燃焼が実施される。ファストアイドルの際に成層燃焼を行うこととすると、筒内全体の空燃比を大きくリッチ化することなく、点火プラグ30の周辺にその外側と比べて燃料濃度の高い可燃混合気層を生成することができるので、燃費低減を図りつつ冷間始動後の燃焼を安定化させることができる。
本実施形態では、ファストアイドル運転時に、上述のエアガイド方式を利用する成層燃焼が実施される。ファストアイドルの際に成層燃焼を行うこととすると、筒内全体の空燃比を大きくリッチ化することなく、点火プラグ30の周辺にその外側と比べて燃料濃度の高い可燃混合気層を生成することができるので、燃費低減を図りつつ冷間始動後の燃焼を安定化させることができる。
また、良好な成層燃焼の実現は、窒素酸化物NOxの排出抑制の観点においても有効である。すなわち、筒内でのNOxの生成量は、燃焼に付される混合気の空燃比が16付近であるときに多くなる。混合気の成層度を高めるということは、点火プラグ30の周辺の混合気層の空燃比をリッチ化することを意味する。したがって、点火時期における点火プラグ30の周辺の混合気の成層度を良好に高めることにより、点火時期における点火プラグ30の周辺において空燃比が16付近の値となる混合気層が形成されることを抑制することができ、その結果としてNOxの生成を抑制することができる。以下、本明細書においては、説明の便宜上、点火時期付近における点火プラグ30の周辺の混合気のことを「プラグ周辺混合気」と称し、このプラグ周辺混合気の空燃比のことを「プラグ周辺空燃比」と称する。
また、本実施形態では、ファストアイドル運転時において炭化水素HCの排出抑制と排気浄化触媒36の暖機促進を図るために、点火時期の遅角が行われる。この点火時期遅角制御は、最適点火時期(MBT(Minimum spark advance for Best Torque)点火時期)に対して点火時期を大きく遅角するものであり、より具体的には、例えば、圧縮TDCよりも後の時期となるように点火時期が遅角される。このように点火時期を大幅に遅角して燃焼を行うことにより、排気通路18内でのHCの後燃えを促進させることができるとともに、排気温度を高めて排気浄化触媒36の暖機を促進させることができる。さらに、点火時期を遅角すると、一般に着火が不安定となる。しかしながら、プラグ周辺混合気の成層度を高めることは、このような点火時期遅角制御が行われている場合において着火を安定させる効果もある。
(エアガイド方式を利用する成層燃焼に関する課題)
図2は、経時変化に起因するプラグ周辺混合気の成層度の低下について説明するための図である。なお、図2は、気筒の軸線を通過する中心断面における筒内の様子を表している。プラグ周辺混合気の成層度は、内燃機関10の経時変化に起因して低下することがある。そのような成層度の低下のパターンとしては、図2に示すように、パターン1とパターン2とが考えられる。
図2は、経時変化に起因するプラグ周辺混合気の成層度の低下について説明するための図である。なお、図2は、気筒の軸線を通過する中心断面における筒内の様子を表している。プラグ周辺混合気の成層度は、内燃機関10の経時変化に起因して低下することがある。そのような成層度の低下のパターンとしては、図2に示すように、パターン1とパターン2とが考えられる。
上述したエアガイド方式は、燃料噴霧がタンブル流の渦中心に向かうように燃料噴射を行って、タンブル流によって燃料噴霧を包み込んだ状態で燃料噴霧を点火プラグ30の周りに輸送するというものである。このような動作を適切に実現できるようにするために、筒内噴射弁28による特定タイミングTでの燃料噴射は、筒内に生成されるタンブル流の強さに対して適切な噴霧貫徹力にて行われるようになっている。
噴霧貫徹力の調整は、燃料噴射割合を変更することによって行うことができる。ここでいう燃料噴射割合とは、1サイクル中に噴射される燃料の総量である総燃料噴射量に対する、特定タイミングTにて行われる燃料噴射の量の割合のことである。本実施形態の内燃機関10では、1サイクル中にポート噴射弁26と筒内噴射弁28とを用いて行われる燃料噴射による燃料噴射量の合計値が上記総燃料噴射量に相当し、この総燃料噴射量に対する、特定タイミングTでの燃料噴射の量の割合が上記燃料噴射割合(以下、「筒内噴射割合R」と称する)に相当する。
噴霧貫徹力は、特定タイミングTでの燃料噴射の量が多いほど大きくなる。ECU40には、タンブル流の強さと噴霧貫徹力とのバランスを上記動作の実現に要求される適切なバランスとすることができる筒内噴射割合Rが、初期値(適合値)Rb0として記憶されている。タンブル流の強さと噴霧貫徹力とのバランスが上記動作の実現に関して最適なものであれば、プラグ周辺混合気の成層度を最も高めることができ、その結果、プラグ周辺空燃比を良好にリッチ化させることが可能となる。
ここで、噴霧貫徹力およびタンブル流の強さ(タンブル比)は、ともに経時変化によって変化し得る。具体的には、噴霧貫徹力は、例えば、筒内噴射弁28の噴孔へのデポジットの堆積に起因して噴霧貫徹力が初期狙い値(すなわち、初期値Rb0に対応する値)よりも大きくなることがある。一方、タンブルの強さは、例えば、吸気ポート16aへのデポジットの堆積によって吸気ポート16aの流路面積が縮小することに起因してタンブル比が初期狙い値(同じく、初期値Rb0に対応する値)よりも高くなることがある。これらの要因によって噴霧貫徹力もしくはタンブル比が初期狙い値に対して経時的に変化した場合には、それぞれの初期狙い値の組み合わせによって得られていたタンブル流の強さと噴霧貫徹力との適切なバランスが、以下のパターン1または2のように崩れてしまうことがある。その結果、プラグ周辺混合気の成層度が低下する。
パターン1は、噴霧貫徹力の経時的な増大に起因して、タンブル流の強さに対して噴霧貫徹力が過大となってしまった場合に対応している。この場合には、図2に示すように、燃料噴霧がタンブル流の渦中心を通過したうえでタンブル流に乗って拡散してしまう。その結果、成層度が低下する。
パターン2は、タンブル流の強さの経時的な増大に起因して、噴霧貫徹力に対してタンブル流の強さが過大となってしまった場合に対応している。この場合には、図2に示すように、燃料噴霧が渦中心に到達せずにタンブル流に乗って拡散してしまう。その結果、成層度はこの場合においても低下する。
図3は、筒内噴射弁28の最適噴射割合Rbの経時変化を説明するための図である。図3は、プラグ周辺空燃比と筒内噴射割合Rとの関係を示している。上述のように、噴霧貫徹力は、特定タイミングTでの燃料噴射の量が多いほど(すなわち、筒内噴射割合Rが大きいほど)大きくなる。
図3中に示す実線は、内燃機関10が経時変化の生じていない初期状態にあるときの特性を示している。筒内噴射割合Rがゼロであるときには、筒内の混合気は成層化されないので、プラグ周辺空燃比は、筒内の空燃比(すなわち、吸入空気量と燃料噴射量とで規定される供給空燃比)と等しくなる。図3中に示す「最低噴射割合Rmin」とは、筒内噴射弁28の燃料噴射量が最小噴射量であるときの筒内噴射割合Rである。最小噴射量とは、ECU40による筒内噴射弁28の燃料噴射量の制御範囲の下限値に相当する値である。
筒内噴射割合Rが最低噴射割合Rminから増加するにつれ、噴霧貫徹力が増大していく。その結果、筒内噴射割合Rの増加に伴って、プラグ周辺混合気の成層度が増加し、プラグ周辺空燃比がリッチ化していく。筒内噴射割合Rの増加に伴ってタンブル流の強さと噴霧貫徹力とのバランスが最適となったときには、タンブル流によって燃料噴霧を最適に包み込むことができるようになる。このため、このときに成層度が最も高くなり、プラグ周辺空燃比が最もリッチとなる。このときの筒内噴射割合Rが「最適噴射割合Rb」となる。より具体的には、ECU40に記憶されている筒内噴射割合Rの上記初期値Rb0とは、タンブル流の強さが上記初期狙い値(設計上の狙い値)であるときの最適噴射割合Rbに相当し、この最適噴射割合Rb0での燃料噴射の噴霧貫徹力が上記初期狙い値に相当する。
図3中の実線において筒内噴射割合Rを最適噴射割合Rb0に対して大きくしていくと、最適なバランスを超えて噴霧貫徹力が大きくなるので、図2中に示すパターン1のケースと同様の理由で成層度が低下していくことになる。
以上説明した筒内噴射割合Rの最適噴射割合Rbは、内燃機関10の経時変化(上述のパターン1もしくはパターン2での経時変化)に起因して変化する。具体的には、パターン1は噴霧貫徹力が過大となった場合であるので、パターン1の経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rb1は、図3に示すように、初期値Rb0に対して低筒内噴射割合側に変化する。一方、パターン2はタンブル流の強さが過大となった場合であるので、パターン2の経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rb2は、初期値Rb0に対して高筒内噴射割合側に変化する。
したがって、パターン1もしくはパターン2の経時変化が生じているにもかかわらず、筒内噴射割合Rが初期値Rb0のままであると、図3中に黒丸印で示すように、現在の経時変化が生じている状況下での最適噴射割合Rb1もしくはRb2が用いられるときと比べて、成層度が低下してしまう。成層度が低下すると、プラグ周辺空燃比がリーンとなる。その結果、燃焼が遅くなるので、燃焼が不安定となる。燃焼が不安定になると、トルク変動が大きくなる。また、成層度の低下によって、NOxの排出量が多くなる。
上述のように、経時変化によってプラグ周辺混合気の成層度が低下すると、燃焼変動の増大に伴ってトルク変動が増大するとともに、NOxの排出量が増加する。そこで、本実施形態では、経時変化によって成層度が低下した場合には、成層度を適切に回復させるために噴霧貫徹力を変更するという対策が行われる。より具体的には、経時変化が生じている現在の状態の下での最適噴射割合Rbが得られるように、筒内噴射割合Rが変更される。
成層燃焼運転中にプラグ周辺混合気の成層度が低下したか否かは、燃焼変動の大きさに基づいて推定することができる。しかしながら、燃焼変動の大きさを判断するだけでは、経時変化が生じた場合に経時変化のパターンがパターン1または2のどちらであるかまでは判別することはできない。したがって、適切な指針なしに噴霧貫徹力を変更すると、成層度を効率良く回復させることが難しくなる。例えば、燃焼変動の大きさがある判定値を超えたときに、経時変化のパターンの判別についての着目なしに、噴霧貫徹力を所定の制限値まで一方向に低下させていき、その後に噴霧貫徹力を所定の制限値まで増大させていくという対策が行われた場合には、次のような問題がある。すなわち、この対策によれば、噴霧貫徹力が大きくなるというパターン1の経時変化が生じている場合には、噴霧貫徹力の減少によってタンブル流の強さと噴霧貫徹力とのバランスを改善し、成層度の向上(回復)を図ることができるといえる。しかしながら、タンブル流が強くなるというパターン2の経時変化が生じている場合には、上記対策が行われると、成層度の回復を図る動作の過程でタンブル流の強さと噴霧貫徹力とのアンバランスを却って大きくしてしまう。
(実施の形態1における特徴的な動作)
図4は、本発明の実施の形態1において内燃機関10に経時変化が生じた場合に行われるプラグ周辺混合気の成層度の特徴的な回復動作を説明するための図である。本実施形態では、経時変化が生じた場合に、上記の課題を解決しつつプラグ周辺混合気の成層度を効率良く回復させられるように噴霧貫徹力を変更するために、次のような動作が行われる。すなわち、経時変化のパターンがパターン1および2の何れであるかを判別する処理を伴って、筒内噴射割合Rの最適噴射割合Rbを探索する動作が行われる。
図4は、本発明の実施の形態1において内燃機関10に経時変化が生じた場合に行われるプラグ周辺混合気の成層度の特徴的な回復動作を説明するための図である。本実施形態では、経時変化が生じた場合に、上記の課題を解決しつつプラグ周辺混合気の成層度を効率良く回復させられるように噴霧貫徹力を変更するために、次のような動作が行われる。すなわち、経時変化のパターンがパターン1および2の何れであるかを判別する処理を伴って、筒内噴射割合Rの最適噴射割合Rbを探索する動作が行われる。
上述のように、経時変化に起因する成層度の低下が生じた否かは、燃焼変動の大きさがある判定値を超えたか否かに基づいて判断することができる。燃焼変動の大きさが当該判定値を超えた時点での筒内噴射割合Rは、図4に示すように初期値Rb0である。本実施形態では、噴霧貫徹力の変更のための初回の筒内噴射割合Rの変更は、筒内噴射割合Rを試行的に所定の一定量Xだけ下げることによって行われる。
発生している経時変化のパターンがパターン1である場合には、上記の筒内噴射割合Rの変更によって噴霧貫徹力が小さくされると、タンブル流の強さと噴霧貫徹力とのバランスが改善する。その結果、成層度が高くなり、プラグ周辺空燃比がリッチとなる。このため、筒内噴射割合Rを初回に一定量Xだけ下げた結果としてプラグ周辺空燃比がリッチになった場合には、今回の経時変化のパターンは、パターン1であると判断することができる。パターン1の経時変化が生じている状況下であれば、筒内噴射割合Rがこの状況下での最適噴射割合Rb1となるまでの間は、筒内噴射割合Rを下げていくことによってプラグ周辺空燃比がよりリッチになっていく。
そこで、この場合には、図4中に実線で示すように、プラグ周辺空燃比がリッチ側への変化を示さなくなるまで、筒内噴射割合Rを一定量Xずつ徐々に下げていく動作が継続される。このような動作によってプラグ周辺空燃比が最もリッチとなったときの筒内噴射割合Rが、パターン1の経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rb1とみなされる。そして、この最適噴射割合Rb1が、今後の成層燃焼運転において、今回の経時変化における影響を補正した後の筒内噴射割合Rとして使用される。なお、筒内噴射割合Rを変更する動作の過程で筒内噴射割合Rが最低噴射割合Rminに到達した場合には、最低噴射割合Rminが、今回の経時変化における影響を補正した後の筒内噴射割合Rとして使用される。
一方、発生している経時変化のパターンがパターン2である場合には、上記の筒内噴射割合Rの変更によって噴霧貫徹力が小さくされると、タンブル流の強さと噴霧貫徹力とのバランスが悪化する。その結果、成層度が低下し、プラグ周辺空燃比がリーンとなる。このため、筒内噴射割合Rを初回に一定量Xだけ下げた結果としてプラグ周辺空燃比がリーンになった場合には、今回の経時変化のパターンは、パターン2であると判断することができる。このような状況下であるにもかかわらず、筒内噴射割合Rを下げる動作が継続されると、成層度がより低下し、プラグ周辺空燃比がよりリーンとなってしまう。
そこで、この場合には、2回目の筒内噴射割合Rの変更は、図4中に破線で示すように、初回の動作とは逆方向(すなわち、筒内噴射割合Rを増やす方向)に対して行われる。この場合の筒内噴射割合Rの変化量も一定量Xである。ただし、当該変化量は、必ずしも同じ一定量Xでなくてもよい。そして、筒内噴射割合Rがパターン2の経時変化が生じている状況下での最適噴射割合Rb2となるまでの間は、筒内噴射割合Rを上げていくことによってプラグ周辺空燃比がよりリッチになっていく。このため、この場合には、図4中に破線で示すように、プラグ周辺空燃比がリッチ側への変化を示さなくなるまで、筒内噴射割合Rを一定量Xずつ徐々に上げていく動作が継続される。このような動作によってプラグ周辺空燃比が最もリッチとなったときの筒内噴射割合Rが、パターン2の経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rb2とみなされる。そして、この最適噴射割合Rbが、今後の成層燃焼運転において、今回の経時変化における影響を補正した後の筒内噴射割合Rとして使用される。
図5は、図4を参照して説明したプラグ周辺混合気の成層度の回復動作の効果を説明するための図である。上述した成層度の回復動作によれば、パターン1および2の中から経時変化のパターンの判別を行いつつ、経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rbが探索されて取得される。すなわち、図5に示すように、パターン1もしくはパターン2の経時変化が生じている現在の状態での最適噴射割合Rb1もしくはRb2となるように、筒内噴射割合Rが初期値Rb0に対して補正される。このようにして得られた最適噴射割合Rb1もしくはRb2を用いることで、経時変化に起因して生じたタンブル流の強さと噴霧貫徹力とのアンバランスを解消し、プラグ周辺混合気の成層度を回復させることができる。そのうえで、成層度の回復により、トルク変動の増大およびNOx排出量の増加を抑制することができる。
そして、上述した本実施形態の手法によれば、成層度を効率良く回復させることが可能となる。具体的には、本実施形態の手法では、まず、噴霧貫徹力(筒内噴射割合R)を所定量(一定量X)だけ噴霧貫徹力が変更される。この噴霧貫徹力の初回の変更に伴ってプラグ周辺空燃比がリッチとなるかリーンとなるかに応じて、2回目以降に噴霧貫徹力を増加させるかもしくは減少させるかが決定される。そして、この2回目以降の噴霧貫徹力の変更の方向の決定は、経時変化のパターン1とパターン2との存在に着目して行われる。このため、本手法によれば、成層度の改善に寄与しない態様で噴霧貫徹力が大きく変更されることがなくなる。したがって、本手法によれば、成層度を効率良く(より具体的には、成層度の回復のための噴霧貫徹力の変更に関する試行錯誤を最小限に抑制しつつ)回復させることが可能となる。
また、本実施形態の手法によれば、噴霧貫徹力の変更のための筒内噴射割合Rの減少もしくは増加は、プラグ周辺空燃比がリッチ側への変化を示さなくなるまで継続される。これにより、現在の経時変化の状態の下で実現し得る範囲内で成層度が最も高くなるように成層度を回復させることができる。これにより、プラグ周辺空燃比をできる限りリッチ化して成層燃焼を安定化させることができる。
さらに、本実施形態の手法は、噴霧貫徹力を変更するために筒内噴射割合Rが変更される。噴霧貫徹力は、このように成層化のために特定タイミングTにて行われる筒内噴射の量の割合を変更すること以外にも、例えば、燃料噴射圧力を変更することによっても変更することができる。しかしながら、燃料噴射圧力を用いる場合、燃料噴射圧力を低下させると、燃料の微粒化が妨げられてしまう。その結果、筒内壁面への燃料付着の増大および一酸化炭素COの増加といった問題が生じ得る。また、燃料噴射圧力の変更は、一般的に、サイクル毎に変更が可能な筒内噴射割合Rの変更と比べてより時間がかかるものである。これに対し、本手法によれば、これらの弊害なしに噴霧貫徹力を変更することができる。また、筒内噴射割合Rの変更以外に、燃料噴射時期を変更することによっても、プラグ周辺空燃比を変化させることができる。しかしながら、燃料噴射時期の変更では噴霧貫徹力を変化させないため、プラグ周辺空燃比の変化幅は小さい。これに対し、筒内噴射割合Rの変更によれば、燃料噴射時期を変更する場合と比べて、プラグ周辺空燃比の変化幅が大きいため、成層度の回復によってプラグ周辺空燃比を適切にリッチ化させることができる。
(実施の形態1における具体的処理)
図6は、本発明の実施の形態1における制御の流れを表したフローチャートである。ECU40は、内燃機関10が冷間始動した直後において触媒暖機制御を伴うファストアイドル運転を開始するときに、本フローチャートの処理を開始する。なお、このフローチャートの処理は、ECU40によって気筒毎に実行される。
図6は、本発明の実施の形態1における制御の流れを表したフローチャートである。ECU40は、内燃機関10が冷間始動した直後において触媒暖機制御を伴うファストアイドル運転を開始するときに、本フローチャートの処理を開始する。なお、このフローチャートの処理は、ECU40によって気筒毎に実行される。
ECU40は、まず、ステップ100において、燃焼変動の大きさを算出する。燃焼変動の大きさは、次のような手法によって算出することができる。すなわち、例えば、筒内圧センサ32によって検出される筒内圧のデータを利用して、各サイクルにおいて図示平均有効圧を算出し、所定サイクル内での図示平均有効圧のばらつきを算出する。そして、このばらつきを燃焼変動の大きさとして用いるようにしてもよい。また、クランク角センサ38を利用してサイクル毎にクランク角速度を算出し、所定サイクル内でのクランク角速度のばらつきを燃焼変動の大きさとして用いるようにしてもよい。
次に、ECU40は、ステップ102に進む。ステップ102では、燃焼変動の大きさが所定の判定値以上であるか否かが判定される。この判定値は、経時変化に起因してプラグ周辺混合気の成層度があるレベル以上という程度で低下したことを判断可能な値として事前に設定された値である。その結果、本ステップ102の判定が不成立となる場合には、本フローチャートの処理が速やかに終了される。判定値以上の大きさの燃焼変動が発生していない場合としては、そもそも経時変化に起因するあるレベル以上での成層度の低下が生じていないケースが該当する。また、この場合としては、経時変化は生じているけれども、タンブル流の強さおよび噴霧貫徹力がともに増大した結果としてタンブル流の強さと噴霧貫徹力との適切なバランスを維持しているケースも該当する。
一方、判定値以上の大きさの燃焼変動が発生する場合としては、パターン1もしくはパターン2での経時変化が生じたケースが該当する。ECU40は、この場合、すなわち、ステップ102の判定が成立する場合には、ステップ104に進む。ステップ104では、筒内噴射割合Rの補正値R(k)が算出される。補正値R(k)は、次の(1)式に従って算出される。
R(k)=R(k−1)−X ・・・(1)
ただし、(1)式において、R(k)は、上述した筒内噴射割合Rの初期値(すなわち、事前に適合された最適噴射割合)Rb0をR(0)として用いて、筒内噴射割合Rのk回目の補正時に算出される値である。R(k−1)は前回値である。Xは上述の一定量である。
R(k)=R(k−1)−X ・・・(1)
ただし、(1)式において、R(k)は、上述した筒内噴射割合Rの初期値(すなわち、事前に適合された最適噴射割合)Rb0をR(0)として用いて、筒内噴射割合Rのk回目の補正時に算出される値である。R(k−1)は前回値である。Xは上述の一定量である。
上記(1)式によれば、補正値(今回値)R(k)は、前回値R(k−1)から一定量Xを減じることにより得られる値として算出される。特に、初回(1回目)の補正時に算出される補正値R(1)は、前回値R(0)に相当する初期値Rb0から一定量Xを減じることによって得られる。
一定量Xは、微小量であるが、筒内噴射割合Rの変更に伴って有意なプラグ周辺空燃比の変化をもたらせる値として事前に決定されたものである。最適噴射割合Rbの探索のための筒内噴射割合Rの変更は、燃焼状態の急激な変化を避けるために、以下に説明するように、このような一定量Xを用いて徐々に行われることになる。
次に、ECU40は、ステップ106に進み、ステップ104にて算出した補正値R(k)が上述の最低噴射割合Rminよりも大きいか否かを判定する。その結果、今回算出された補正値R(k)が最低噴射割合Rmin以下であるために本判定が不成立となる場合には、ECU40は、ステップ108に進む。ステップ108では、最低噴射割合Rminが今回のフローチャートの処理の実行による補正後の最適噴射割合Rbとして設定される。
一方、ステップ106において補正値R(k)が最低噴射割合Rminよりも大きいと判定した場合には、ECU40は、ステップ110に進む。ステップ110では、ステップ104において算出した補正値R(k)が目標筒内噴射割合として設定される。これにより、この設定時点以降において特定タイミングTが到来したときに、補正値R(k)に従う燃料噴射量にて成層化のための筒内噴射が行われることになる。
次に、ECU40は、ステップ112に進む。ステップ112では、筒内噴射割合Rが補正値R(k)である状態でのプラグ周辺空燃比の算出処理が行われる。本ステップ112では、この算出処理の一例として、次のような手順での演算が行われる。すなわち、補正値R(k)に従う燃料噴射量にて行う成層化のための筒内噴射が所定の複数サイクルYに渡って行われる。そして、この複数サイクルY中の各サイクルにおいてプラグ周辺空燃比が算出され、算出されたプラグ周辺空燃比の平均値が算出される。このようにして算出された平均値は、更なる筒内噴射割合Rの補正が行われたときの比較対象として用いることができるように、ECU40のバッファに一時的に記憶される。平均値を利用する上記の算出処理によれば、補正値R(k)を使用した状態でのプラグ周辺空燃比を、サイクル間の燃焼のばらつきの影響を低減しつつ取得することができる。ただし、補正値R(k)を使用した状態でのプラグ周辺空燃比の取得方法は、上記のように平均値を利用するものに限らず、例えば、複数サイクルY中のある1つのサイクルの値を用いるものであってもよい。あるいは、複数サイクルYではなく1サイクルだけ補正値R(k)を使用した状態で燃焼を行い、当該サイクルでのプラグ周辺空燃比が用いられてもよい。
各サイクルでのプラグ周辺空燃比の算出自体は、例えば、次のような手法を用いることができる。図7は、プラグ周辺空燃比の算出手法の一例を説明するための図であり、熱発生率dQ/dθとクランク角との関係を表している。ECU40は、筒内圧センサ32とクランク角センサ38とを利用することで、クランク角同期での筒内圧のデータを取得することができる。そして、クランク角同期での筒内圧のデータを用いて、筒内での熱発生率dQ/dθのクランク角同期でのデータを次の(2)および(3)式に従って算出することができる。
ただし、(2)式は、熱力学の第1法則を示している。(1)式において、Uは内部エネルギであり、Wは仕事である。また、(3)式において、κは比熱比であり、Vは筒内容積であり、Pは筒内圧力であり、θはクランク角度である。
図7に示すように、熱発生率dQ/dθの波形は、プラグ周辺空燃比に応じて変化する。より具体的には、プラグ周辺空燃比がリーンになるほど、燃焼が緩慢になるため、熱発生率dQ/dθの立ち上がりが遅くなる。したがって、点火時期(SA)に対して所定クランク角期間だけ遅角したクランク角を所定の判別時期として熱発生率dQ/dθの大きさを判別することで、熱発生率dQ/dθに基づいてプラグ周辺空燃比を推定することができる。より具体的には、上記判別時期として好適なクランク角タイミングは、熱発生率dQ/dθの立ち上がりを判別可能なタイミングであって、筒内噴射割合Rの変更を実施したときに想定されるプラグ周辺空燃比の変動範囲内で最もリッチなプラグ周辺空燃比にて燃焼が行われる場合において熱発生率dQ/dθがピーク値を示す位置よりも進角側のタイミングである。
図8は、プラグ周辺空燃比と、判別時期での熱発生率dQ/dθとの関係を表した図である。ECU40には、プラグ周辺空燃比の算出のために、上記図7を参照して説明した知見に基づくマップが記憶されている。このマップによれば、図8に示すように、判別時期での熱発生率dQ/dθが高いほど、プラグ周辺空燃比がリッチとなるように設定されている。ステップ112では、このようなマップを参照してプラグ周辺空燃比が算出される。
筒内圧センサを備える内燃機関では、一般的に、各サイクルの燃焼解析のためにサイクル毎に熱発生率dQ/dθの算出が行われる。そして、サイクル毎に算出される熱発生率dQ/dθのデータには、図7を参照して説明したように、個々のサイクルにおけるプラグ周辺空燃比の影響が反映されている。このため、図7および図8を参照して以上説明した手法によれば、そのような熱発生率dQ/dθを利用して、本実施形態の制御に利用するプラグ周辺空燃比を簡易にかつ精度良く推定することができる。
次に、ECU40は、次に、ステップ114に進む。ステップ114では、補正値R(k)を使用した燃焼の下でのプラグ周辺空燃比(の平均値)である今回値A/F(k)が、今回の筒内噴射割合Rの補正直前の燃焼の下でのプラグ周辺空燃比である前回値A/F(k−1)に対してリッチ化したか否かが判定される。より具体的には、前回値(k)から今回値A/F(k)を引いて得られる差が所定値以上であるか否かが判定される。この所定値は、一定量Xでの筒内噴射割合Rの変更に伴うプラグ周辺空燃比の変化を判別可能な値として事前に設定された値である。なお、前回値A/F(k−1)としては、2回目以降の補正に関してはステップ112にて算出されてバッファに記憶されている値が使用される。初回の補正に関しては、例えば、ステップ100における燃焼変動の大きさの算出に利用された複数もしくは1サイクルにおけるプラグ周辺空燃比を算出してバッファに記憶しておき、その記憶値を用いればよい。
ステップ114においてプラグ周辺空燃比のリッチ化が認められた場合には、パターン1の経時変化が生じていると判断することができる。この場合には、ECU40は、ステップ104以降の処理を繰り返し実行する。一方、ステップ114においてプラグ周辺空燃比に対して有意なリッチ化が認められなかった場合には、ECU40は、ステップ116に進む。ステップ116では、プラグ周辺空燃比の今回値A/F(k)が前回値A/F(k−1)に対してリーン化したか否かが判定される。より具体的には、今回値A/F(k)から前回値(k−1)を引いて得られる差が所定値以上であるか否かが判定される。この所定値は、ステップ114にて用いられる所定値と同様の考えに基づいて設定された値である。
ステップ116における判定が不成立となる場合、つまり、パターン1の経時変化が生じている状況下において、筒内噴射割合Rを補正したにもかかわらずプラグ周辺空燃比に対して有意なリッチ化およびリーン化の何れも認められなかった場合には、ECU40は、ステップ118に進む。ステップ118では、最新の補正前の筒内噴射割合R、すなわち、前回値R(k−1)が今回のフローチャートの処理の実行による補正後の最適噴射割合Rb(より具体的には、Rb1)として設定される。
一方、ステップ116においてプラグ周辺空燃比のリーン化が認められた場合には、パターン2の経時変化が生じていると判断することができる。この場合には、ECU40は、ステップ120に進む。ステップ120では、筒内噴射割合Rの補正値R’(k)が算出される。補正値R’(k)の算出は、次の(4)式に用いて行われる。
R’(k)=R’(k−1)+X ・・・(4)
R’(k)=R’(k−1)+X ・・・(4)
上記(4)式によれば、補正値(今回値)R’(k)は、前回値R’(k−1)に一定量Xを加えることにより得られる値として算出される。特に、初回(1回目)の補正時に算出される補正値R’(1)は、前回値R’(0)に相当する初期値Rb0に一定量Xを加えることによって得られる。
次に、ECU40は、ステップ122に進む。ステップ122では、ステップ120において算出した補正値R’(k)が目標筒内噴射割合として設定される。次いで、ECU40は、ステップ124に進む。ステップ124では、筒内噴射割合Rが補正値R’(k)である状態でのプラグ周辺空燃比の算出処理が行われる。このステップ124の処理は、上記ステップ112の処理と同様に行うことができる。
次に、ECU40は、次に、ステップ126に進む。ステップ126では、ステップ114と同様の処理によってプラグ周辺空燃比がリッチ化したか否かが判定される。その結果、プラグ周辺空燃比のリッチ化が認められた場合には、ECU40は、ステップ120以降の処理を繰り返し実行する。一方、ステップ126の判定が不成立となった場合、つまり、パターン2の経時変化が生じている状況下において、筒内噴射割合Rを補正したにもかかわらずプラグ周辺空燃比がリッチ側への有意な変化を示さなくなった場合には、ECU40は、ステップ128に進む。ステップ128では、最新の補正前の筒内噴射割合R、すなわち、前回値R’(k−1)が今回のフローチャートの処理の実行による補正後の最適噴射割合Rb(より具体的には、Rb2)として設定される。
以上説明した図6に示すフローチャートに従う処理によって補正された後の最適噴射割合Rbは、本フローチャートの処理が終了した後に実施されるファストアイドル運転において使用される。そして、補正後の最適噴射割合Rbの使用中において再びステップ102の判定が成立することになった場合には、本フローチャートに従う処理によって、さらなる最適噴射割合Rbの補正が試みられることになる。
なお、上述した実施の形態1においては、図6に示すフローチャートに従う処理を実行するECU40が本発明における「制御装置」に相当し、噴霧貫徹力の変更のための初回の筒内噴射割合Rの変更が本発明において「一方の動作を初回に実施すること」に相当している。また、熱発生率dQ/dθの大きさを判別する上記判別時期が本発明における「所定クランク角タイミング」に相当している。
実施の形態2.
次に、図9および図10を主に参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
次に、図9および図10を主に参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
[実施の形態2の制御]
(実施の形態2の特徴的な動作)
本実施形態は、経時変化が生じた場合に成層度を効率良く回復させるために、経時変化のパターンがパターン1および2の何れであるかを判別する処理を伴って筒内噴射割合Rの最適噴射割合Rbを探索する動作を行うという基本的な部分においては、上述した実施の形態1と同様である。しかしながら、本実施形態の動作は、以下に図9を参照して説明する点において、実施の形態1の動作と相違している。
(実施の形態2の特徴的な動作)
本実施形態は、経時変化が生じた場合に成層度を効率良く回復させるために、経時変化のパターンがパターン1および2の何れであるかを判別する処理を伴って筒内噴射割合Rの最適噴射割合Rbを探索する動作を行うという基本的な部分においては、上述した実施の形態1と同様である。しかしながら、本実施形態の動作は、以下に図9を参照して説明する点において、実施の形態1の動作と相違している。
図9は、本発明の実施の形態2において内燃機関10に経時変化が生じた場合に行われるプラグ周辺混合気の成層度の特徴的な回復動作を説明するための図である。上述した実施の形態1においては、噴霧貫徹力の変更のための初回の筒内噴射割合Rの変更は、筒内噴射割合Rを試行的に所定の一定量Xだけ下げることによって行うこととしている。これに対し、本実施形態では、図9に示すように、初回の筒内噴射割合Rの変更は、筒内噴射割合Rを試行的に所定の一定量Xだけ上げることによって行われる。
発生している経時変化のパターンがパターン2である場合には、上記の筒内噴射割合Rの変更によって噴霧貫徹力が大きくされると、タンブル流の強さと噴霧貫徹力とのバランスが改善する。その結果、成層度が高くなり、プラグ周辺空燃比がリッチとなる。このため、筒内噴射割合Rを初回に一定量Xだけ上げた結果としてプラグ周辺空燃比がリッチになった場合には、今回の経時変化のパターンは、パターン2であると判断することができる。筒内噴射割合Rがパターン2の経時変化が生じている状況下であれば、筒内噴射割合Rがこの状況下での最適噴射割合Rb2となるまでの間は、筒内噴射割合Rを上げていくことによってプラグ周辺空燃比がよりリッチになっていく。
そこで、この場合には、図9中に実線で示すように、プラグ周辺空燃比がリッチ側への変化を示さなくなるまで、筒内噴射割合Rを一定量Xずつ徐々に上げていく動作が継続される。このような動作によってプラグ周辺空燃比が最もリッチとなったときの筒内噴射割合Rが、パターン2の経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rb2とみなされる。そして、この最適噴射割合Rb2が、今後の成層燃焼運転において、今回の経時変化における影響を補正した後の筒内噴射割合Rとして使用される。
一方、発生している経時変化のパターンがパターン1である場合には、上記の筒内噴射割合Rの変更によって噴霧貫徹力が大きくされると、タンブル流の強さと噴霧貫徹力とのバランスが悪化する。その結果、成層度が低下し、プラグ周辺空燃比がリーンとなる。このため、筒内噴射割合Rを初回に一定量Xだけ上げた結果としてプラグ周辺空燃比がリーンになった場合には、今回の経時変化のパターンは、パターン1であると判断することができる。このような状況下であるにもかかわらず、筒内噴射割合Rを上げる動作が継続されると、成層度がより低下し、プラグ周辺空燃比がよりリーンとなってしまう。
そこで、この場合には、2回目の筒内噴射割合Rの変更は、図9中に破線で示すように、初回の動作とは逆方向(すなわち、筒内噴射割合Rを減らす方向)に対して行われる。この場合の筒内噴射割合Rの変化量も、一例として一定量Xである。そして、筒内噴射割合Rがパターン1の経時変化が生じている状況下での最適噴射割合Rb1となるまでの間は、筒内噴射割合Rを下げていくことによってプラグ周辺空燃比がよりリッチになっていく。このため、この場合には、図9中に破線で示すように、プラグ周辺空燃比がリッチ側への変化を示さなくなるまで、筒内噴射割合Rを一定量Xずつ徐々に下げていく動作が継続される。このような動作によってプラグ周辺空燃比が最もリッチとなったときの筒内噴射割合Rが、パターン1の経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rb1とみなされる。そして、この最適噴射割合Rb1が、今後の成層燃焼運転において、今回の経時変化における影響を補正した後の筒内噴射割合Rとして使用される。なお、筒内噴射割合Rを変更する動作の過程で筒内噴射割合Rが最低噴射割合Rminに到達した場合には、最低噴射割合Rminが、今回の経時変化における影響を補正した後の筒内噴射割合Rとして使用される。
上述した本実施形態の成層度の回復動作によっても、パターン1および2の中から経時変化のパターンの判別を行いつつ、経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rbが探索されて取得される。そして、本実施形態の手法によっても、成層度を効率良く(より具体的には、成層度の回復のための噴霧貫徹力の変更に関する試行錯誤を最小限に抑制しつつ)回復させることが可能となる。
(実施の形態2における具体的処理)
図10は、本発明の実施の形態2における制御の流れを表したフローチャートである。なお、図10において、実施の形態1における図6に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。そして、本フローチャートの処理に関する以下の説明では、図6に示すフローチャートの処理との相違点を中心に説明を行う。
図10は、本発明の実施の形態2における制御の流れを表したフローチャートである。なお、図10において、実施の形態1における図6に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。そして、本フローチャートの処理に関する以下の説明では、図6に示すフローチャートの処理との相違点を中心に説明を行う。
ECU40は、ステップ102において判定値以上の大きさの燃焼変動が発生すると判定した場合には、ステップ200に進む。ステップ200では、上記ステップ120と同様の処理によって、(4)式に従って補正値R’(k)が算出される。次いで、ステップ202では、ステップ200において算出した補正値R’(k)が目標筒内噴射割合として設定される。次いで、ステップ204では、筒内噴射割合Rが補正値R’(k)である状態でのプラグ周辺空燃比の算出処理が行われる。
次に、ECU40は、ステップ206において、ステップ204にて算出されたプラグ周辺空燃比がリッチ化したか否かを判定する。その結果、プラグ周辺空燃比のリッチ化が認められた場合には、パターン2の経時変化が生じていると判断することができる。この場合には、ECU40は、ステップ200以降の処理を繰り返し実行する。一方、ステップ206においてプラグ周辺空燃比に対して有意なリッチ化が認められなかった場合には、ECU40は、ステップ208に進む。ステップ208では、プラグ周辺空燃比がリーン化したか否かが判定される。
ステップ208における判定が不成立となる場合、つまり、パターン2の経時変化が生じている状況下において、筒内噴射割合Rを補正したにもかかわらずプラグ周辺空燃比に対して有意なリッチ化およびリーン化の何れも認められなかった場合には、ECU40は、ステップ210に進む。ステップ210では、最新の補正前の筒内噴射割合R、すなわち、前回値R’(k−1)が今回のフローチャートの処理の実行による補正後の最適噴射割合Rb(より具体的には、Rb2)として設定される。
一方、ステップ208においてプラグ周辺空燃比のリーン化が認められた場合には、パターン1の経時変化が生じていると判断することができる。この場合には、ECU40は、ステップ212に進む。ステップ212では、ステップ212では、上記ステップ104と同様の処理によって、(1)式に従って補正値R(k)が算出される。次いで、ステップ214では、ステップ212において算出した補正値R(k)が目標筒内噴射割合として設定される。次いで、ステップ216では、筒内噴射割合Rが補正値R(k)である状態でのプラグ周辺空燃比の算出処理が行われる。
次に、ECU40は、ステップ218に進む。ステップ218において現在の補正値R(k)が最低噴射割合Rmin以下であると判定した場合には、ECU40は、ステップ220に進む。ステップ220では、最低噴射割合Rminが今回のフローチャートの処理の実行による補正後の最適噴射割合Rbとして設定される。
一方、ステップ218において補正値R(k)が最低噴射割合Rminよりも大きいと判定した場合には、ECU40は、ステップ222に進む。ステップ216にて算出されたプラグ周辺空燃比がリッチ化したことがステップ222において認められた場合には、ECU40は、ステップ212以降の処理を繰り返し実行する。一方、ステップ222の判定が不成立となった場合、つまり、パターン1の経時変化が生じている状況下において、筒内噴射割合Rを補正したにもかかわらずプラグ周辺空燃比がリッチ側への有意な変化を示さなくなった場合には、ECU40は、ステップ224に進む。ステップ224では、最新の補正前の筒内噴射割合R、すなわち、前回値R(k−1)が今回のフローチャートの処理の実行による補正後の最適噴射割合Rb(より具体的には、Rb1)として設定される。
なお、上述した実施の形態2においては、図10に示すフローチャートに従う処理を実行するECU40が本発明における「制御装置」に相当している。
[その他変形例]
ところで、上述した実施の形態1および2においては、筒内圧センサ32を利用して算出される熱発生率dQ/dθを用いてプラグ周辺空燃比を推定する手法を例に挙げて説明を行った。しかしながら、本発明におけるプラグ周辺空燃比の取得手法は、上記に限らず、次のようなものであってもよい。すなわち、点火プラグ一体型であって赤外線吸収法を利用して燃料濃度を検出可能な光学センサが知られている。プラグ周辺空燃比は、例えば、上記光学センサを利用して検出されるものであってもよい。また、燃焼ガス中のラジカルの発光を検出する光学センサが知られている。プラグ周辺空燃比は、例えば、このような光学センサの出力を利用して算出される所定のラジカルの発光強度に基づいて推定されるものであってもよい。
ところで、上述した実施の形態1および2においては、筒内圧センサ32を利用して算出される熱発生率dQ/dθを用いてプラグ周辺空燃比を推定する手法を例に挙げて説明を行った。しかしながら、本発明におけるプラグ周辺空燃比の取得手法は、上記に限らず、次のようなものであってもよい。すなわち、点火プラグ一体型であって赤外線吸収法を利用して燃料濃度を検出可能な光学センサが知られている。プラグ周辺空燃比は、例えば、上記光学センサを利用して検出されるものであってもよい。また、燃焼ガス中のラジカルの発光を検出する光学センサが知られている。プラグ周辺空燃比は、例えば、このような光学センサの出力を利用して算出される所定のラジカルの発光強度に基づいて推定されるものであってもよい。
また、上述した実施の形態1および2においては、判別時期での熱発生率dQ/dθの大きさに基づいて算出したプラグ周辺空燃比に応じて、噴霧貫徹力(筒内噴射割合R)を減少すべきか増加すべきかを決定することとしている。しかしながら、本発明において噴霧貫徹力を変更する際に用いるパラメータは、プラグ周辺空燃比と相関のある空燃比指標値であれば、必ずしもプラグ周辺空燃比として取得されるものに限られない。すなわち、本発明の空燃比指標値は、例えば、燃焼変動の大きさを示す値であってもよい。燃焼変動は過度にリッチな燃焼空燃比の下では悪化するが、エアガイド方式を用いた成層燃焼運転時において想定されるプラグ周辺空燃比の変動範囲内では、空燃比がリッチになるほど、燃焼変動が小さくなるといえる。したがって、上記空燃比指標値として燃焼変動の大きさを示す値を用いる場合には、噴霧貫徹力を変更して燃焼変動が小さくなったときに、空燃比指標値がリッチ側への変化を示しているとみなすことができ、逆に、燃焼変動が大きくなったときには、空燃比指標値がリーン側への変化を示しているとみなすことができる。
また、上述した実施の形態1および2においては、噴霧貫徹力の変更のために、筒内噴射割合R(燃料噴射割合)を変更することとしている。しかしながら、本発明における噴霧貫徹力の変更は、燃料噴射割合以外の燃焼に関わるパラメータの変更によるものであってもよく、例えば、燃料噴射圧力の変更によるものであってもよい。ただし、既述したように、燃料の微粒化の観点などにおいて、燃料噴射割合を変更する手法の方が優れているといえる。
また、上述した実施の形態1および2においては、成層燃焼を行う際の燃料噴射として、筒内噴射弁28とポート噴射弁26とを用いる手法を例に挙げて説明を行った。しかしながら、本発明の対象となる内燃機関は、ポート噴射弁を備えずに筒内噴射弁のみを備えるものであってもよい。そして、この内燃機関において成層燃焼を行う際の燃料噴射は、筒内噴射弁のみを用いて、1サイクル中に噴射すべき燃料噴射量を複数回に分割して噴射する分割噴射であってもよい。より具体的には、メインとなる最初の燃料噴射を吸気行程において行い、かつ、成層化のために必要とされる少量での燃料噴射を、図1を参照して説明した特定タイミングTにて行うものであってもよい。
また、上述した実施の形態1および2においては、成層燃焼を利用するファストアイドル運転時において、プラグ周辺混合気の成層度の回復のために筒内噴射割合Rを変更して噴霧貫徹力を変更することとしている。しかしながら、本発明における噴霧貫徹力の変更を行う対象となる成層燃焼運転時とは、ファストアイドル運転時に限られず、例えば、所定の運転領域において成層燃焼を利用してリーンバーン運転を行う時であってもよい。
また、上述した実施の形態1および2においては、燃焼室14内に生成されるタンブル流として、吸気側で上昇し排気側で下降する正タンブル流を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明の適用が可能なタンブル流はこれに限定されるものではない。図11は、燃焼室14内に、吸気側で下降し排気側で上昇する逆タンブル流が生成されている様子を表した図である。本発明は、図11に示すように筒内に逆タンブル流が生成される内燃機関に対しても適用することが可能である。
10 内燃機関
12 ピストン
14 燃焼室
16 吸気通路
16a 吸気ポート
18 排気通路
18a 排気ポート
20 エアフローメータ
22 スロットル弁
24 吸気弁
26 ポート噴射弁
28 筒内噴射弁
30 点火プラグ
32 筒内圧センサ
34 排気弁
36 排気浄化触媒
38 クランク角センサ
40 ECU(Electronic Control Unit)
12 ピストン
14 燃焼室
16 吸気通路
16a 吸気ポート
18 排気通路
18a 排気ポート
20 エアフローメータ
22 スロットル弁
24 吸気弁
26 ポート噴射弁
28 筒内噴射弁
30 点火プラグ
32 筒内圧センサ
34 排気弁
36 排気浄化触媒
38 クランク角センサ
40 ECU(Electronic Control Unit)
そこで、この場合には、2回目の筒内噴射割合Rの変更は、図4中に破線で示すように、初回の動作とは逆方向(すなわち、筒内噴射割合Rを増やす方向)に対して行われる。この場合の筒内噴射割合Rの変化量も一定量Xである。ただし、当該変化量は、必ずしも同じ一定量Xでなくてもよい。そして、筒内噴射割合Rがパターン2の経時変化が生じている状況下での最適噴射割合Rb2となるまでの間は、筒内噴射割合Rを上げていくことによってプラグ周辺空燃比がよりリッチになっていく。このため、この場合には、図4中に破線で示すように、プラグ周辺空燃比がリッチ側への変化を示さなくなるまで、筒内噴射割合Rを一定量Xずつ徐々に上げていく動作が継続される。このような動作によってプラグ周辺空燃比が最もリッチとなったときの筒内噴射割合Rが、パターン2の経時変化が生じている状況下における最適噴射割合Rb2とみなされる。そして、この最適噴射割合Rb2が、今後の成層燃焼運転において、今回の経時変化における影響を補正した後の筒内噴射割合Rとして使用される。
各サイクルでのプラグ周辺空燃比の算出自体は、例えば、次のような手法を用いることができる。図7は、プラグ周辺空燃比の算出手法の一例を説明するための図であり、熱発生率dQ/dθとクランク角との関係を表している。ECU40は、筒内圧センサ32とクランク角センサ38とを利用することで、クランク角同期での筒内圧のデータを取得することができる。そして、クランク角同期での筒内圧のデータを用いて、筒内での熱発生率dQ/dθのクランク角同期でのデータを次の(2)および(3)式に従って算出することができる。
ただし、(2)式は、熱力学の第1法則を示している。(2)式において、Uは内部エネルギであり、Wは仕事である。また、(3)式において、κは比熱比であり、Vは筒内容積であり、Pは筒内圧力であり、θはクランク角度である。
次に、ECU40は、次に、ステップ114に進む。ステップ114では、補正値R(k)を使用した燃焼の下でのプラグ周辺空燃比(の平均値)である今回値A/F(k)が、今回の筒内噴射割合Rの補正直前の燃焼の下でのプラグ周辺空燃比である前回値A/F(k−1)に対してリッチ化したか否かが判定される。より具体的には、前回値A/F(k−1)から今回値A/F(k)を引いて得られる差が所定値以上であるか否かが判定される。この所定値は、一定量Xでの筒内噴射割合Rの変更に伴うプラグ周辺空燃比の変化を判別可能な値として事前に設定された値である。なお、前回値A/F(k−1)としては、2回目以降の補正に関してはステップ112にて算出されてバッファに記憶されている値が使用される。初回の補正に関しては、例えば、ステップ100における燃焼変動の大きさの算出に利用された複数もしくは1サイクルにおけるプラグ周辺空燃比を算出してバッファに記憶しておき、その記憶値を用いればよい。
一方、ステップ208においてプラグ周辺空燃比のリーン化が認められた場合には、パターン1の経時変化が生じていると判断することができる。この場合には、ECU40は、ステップ212に進む。ステップ212では、上記ステップ104と同様の処理によって、(1)式に従って補正値R(k)が算出される。次いで、ステップ214では、ステップ212において算出した補正値R(k)が目標筒内噴射割合として設定される。次いで、ステップ216では、筒内噴射割合Rが補正値R(k)である状態でのプラグ周辺空燃比の算出処理が行われる。
Claims (5)
- 燃焼室内にタンブル流が生成される内燃機関であって、
シリンダヘッド側の前記燃焼室の壁面の中央部に配置された点火プラグと、
成層燃焼運転が行われるときに、タンブル流の渦中心に燃料噴霧が向かうように特定タイミングにて燃料を噴射するように構成された筒内噴射弁と、
成層燃焼運転中に燃焼変動の大きさを算出し、算出した燃焼変動の大きさが判定値よりも大きい場合に、点火時期における前記点火プラグの周辺の混合気の空燃比であるプラグ周辺空燃比がリッチ側に変化するように、前記特定タイミングにて行われる燃料噴射の噴霧貫徹力を変更する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、プラグ周辺空燃比と相関のある空燃比指標値を算出するように構成され、
前記制御装置による噴霧貫徹力の変更は、噴霧貫徹力の増加および減少のうちの何れか一方の動作を実施し、前記一方の動作を初回に実施した結果として前記空燃比指標値がリッチ側への変化を示す場合には前記一方の動作を継続し、前記一方の動作を初回に実施した結果として前記空燃比指標値がリーン側への変化を示す場合には噴霧貫徹力の増加および減少のうちの他方の動作を実施するものであることを特徴とする内燃機関。 - 前記制御装置は、前記一方の動作もしくは前記他方の動作の実施を、前記空燃比指標値がリッチ側への変化を示さなくなるまで継続することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
- 前記内燃機関は、1サイクル中に前記特定タイミングでの燃料噴射を含めて複数回の燃料噴射を実施し、
前記制御装置による噴霧貫徹力の変更は、前記複数回行われる燃料噴射の総燃料噴射量に対する、前記特定タイミングでの燃料噴射の量の割合である燃料噴射割合を変更することによって行われることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関。 - 前記内燃機関は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁を含み、
前記総燃料噴射量は、1サイクル中に前記筒内噴射弁と前記ポート噴射弁とを用いて前記複数回行われる燃料噴射による燃料噴射量の合計値であることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関。 - 前記内燃機関は、筒内圧を検出する筒内圧センサを含み、
前記制御装置は、前記筒内圧センサにより検出される筒内圧に基づいて筒内の熱発生率を算出し、
前記空燃比指標値は、所定クランク角タイミングにおける筒内の熱発生率の大きさであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の内燃機関。
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- 2016-01-06 US US14/989,127 patent/US20160258345A1/en not_active Abandoned
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