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JP2012026340A - 筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents

筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置 Download PDF

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JP2012026340A JP2010164757A JP2010164757A JP2012026340A JP 2012026340 A JP2012026340 A JP 2012026340A JP 2010164757 A JP2010164757 A JP 2010164757A JP 2010164757 A JP2010164757 A JP 2010164757A JP 2012026340 A JP2012026340 A JP 2012026340A
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Abstract

【課題】微少量の燃料噴射に関してその制御精度を向上させる。
【解決手段】エンジン11は、燃料噴射弁19により燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射式内燃機関である。ECU40は、エンジンの吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ燃料噴射を行わせる分割噴射を実施する。ECU40は、分割噴射の実施に際し、圧縮行程噴射量を徐々に減少側又は増加側に変更し、変更された燃料噴射量ごとに、その噴射燃料の燃焼により変化するエンジン回転速度を検出する。また、ECU40は、変更された燃料噴射量のうち、エンジン回転速度が最大となる燃料噴射量を、圧縮行程噴射量の基準となる基準噴射量として算出し、その基準噴射量の算出後において、燃料噴射の実施に際し基準噴射量を用いて圧縮行程噴射を制御する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置に関するものであり、特に内燃機関の吸気行程での燃料噴射と圧縮行程での燃料噴射とを実施する技術に関する。
従来から、筒内噴射式内燃機関において、内燃機関の吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ燃料噴射を行わせる分割噴射を実施する燃料噴射技術が実用化されており、特に分割噴射における圧縮行程噴射の制御性を高めるべく種々の技術が提案されている。
例えば、筒内噴射式内燃機関において、燃料噴射弁の最小噴射時間を燃料圧力や機関回転速度といった内燃機関の運転条件に応じて定めておき、該定めた最小噴射時間に基づいて圧縮行程噴射を実施する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、各気筒のトルクを均一化すべく、内燃機関の各気筒のトルク誤差と多数の作動点の情報とから燃料噴射弁の動的な流量誤差と静的な流量誤差とを算出し、その誤差に応じて噴射量補正する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。かかる技術では、高圧噴射弁の全開の下で静的に生じる流量誤差だけでなく、高圧噴射弁の開閉過程の際に動的に生じる動的な流量誤差を加味して燃料噴射量を補正することで、成層燃焼モード及び均質燃焼モードのいずれでも内燃機関の安定した均質な動作が保証できるとしていた。
米国特許第7069138号明細書 特表2003−527527号公報
ところで、圧縮行程噴射の噴射特性は図12に示すとおりであり、噴射時間Txを境界点として、それよりも長い噴射時間となる領域が、燃料噴射時間に対して燃料噴射量が単調増加する線形領域となり、短い噴射時間となる領域が、燃料噴射時間に対する燃料噴射量が燃料噴射弁の個体差や経時変化など種々の要因で変動しがちな非線形領域となっている。なお、図12において、一点鎖線で示す特性は噴射特性のばらつきの範囲を示すものである。
線形領域と非線形領域とを比較すると、線形領域での噴射特性のばらつきによる誤差は「E1」であるのに対し、非線形領域での噴射特性のばらつきによる誤差は「E2」であり、E1<E2となっている。これは、非線形領域で圧縮行程噴射(微少量噴射)を実施する場合に燃料噴射量のばらつきが大きくなり、結果として内燃機関の出力や排気エミッションに悪影響を及ぼすおそれがあることを意味する。
ここで、上述した各先行技術について検討する。まず燃料噴射弁の最小噴射時間を内燃機関の運転条件に応じて定めておく先行技術(特許文献1)では、非線形領域での圧縮行程噴射を行う場合に、非線形領域での特性ばらつきに起因して燃焼安定性が低下し、排気エミッションの悪化が生じると考えられる。つまり、特許文献1の技術では、非線形領域での噴射特性のばらつきを吸収できず、不安定な燃焼が生じてしまうと考えられる。
また、多数の作動点の情報から燃料噴射弁の動的・静的な流量誤差を求め、その誤差に応じて噴射量補正する先行技術(特許文献2)では、線形領域(通常使用領域)については噴射特性の誤差の吸収が可能となるものの、非線形領域については噴射特性の誤差を吸収できないと考えられる。つまり、非線形領域では、流量誤差を一義的な誤差として扱えるという保証はなく、結果として燃焼安定性の低下や排気エミッションの悪化といった問題が生じると考えられる。
本発明は、微少量の燃料噴射に関してその制御精度を向上させることができる筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを主たる目的とするものである。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について説明する。
本発明は、燃料噴射弁により燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射式内燃機関に適用され、内燃機関の吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ燃料噴射を行わせる分割噴射を実施するものである。そして、請求項1に記載の発明では、分割噴射の実施に際し、圧縮行程での燃料噴射量を徐々に減少側又は増加側に変更し(噴射量変更手段)、変更された燃料噴射量ごとに、その噴射燃料の燃焼により変化する機関回転速度を検出する(回転検出手段)。また、変更された燃料噴射量のうち、回転検出手段により検出した機関回転速度が最大となる燃料噴射量を、圧縮行程での燃料噴射量の基準となる基準噴射量として算出し(基準噴射量算出手段)、その基準噴射量の算出後において、燃料噴射の実施に際し前記基準噴射量を用いて前記圧縮行程での燃料噴射を制御する(燃料噴射制御手段)。
要するに、分割噴射を実施する際、圧縮行程噴射は微少量の燃料噴射となり、その微少量の燃料噴射では、燃料噴射特性が非線形特性となり、燃料噴射弁による燃料噴射量の精度が保証できないことが生じる。この点について、発明者は、非線形領域において圧縮行程での燃料噴射量を増加側又は減少側に徐々に変更していくと、それに伴い燃焼状態が徐々に変化し、ひいては燃焼により変化する機関回転速度に差異が現れることを見出した。ここで、非線形領域において機関回転速度の上昇分が最大となる燃料噴射量は、非線形領域内において燃焼状態が最良となる噴射量(本発明では、複数に燃料調量した中で最良となる燃料噴射量)であると考えられる。なお、発明者によれば、非線形領域において機関回転速度の上昇分が最大となる燃料噴射量では、非線形領域内において排気エミッション量(例えばHC量)が最小となるとともに、燃焼安定性が最も高くなることが確認されている。
本発明では、上記のとおり圧縮行程での燃料噴射量を徐々に減少側又は増加側に変更しつつ、変更した燃料噴射量のうち、機関回転速度(上昇分)が最大となる燃料噴射量により基準噴射量を求める構成としており、これにより、非線形領域での微少噴射量として、燃焼状態の最適化が可能な基準噴射量を求めることができる。したがって、この基準噴射量を用いて圧縮行程噴射制御を実施することで、燃料噴射弁の個体差や経時変化等に依存しない適正なる燃料噴射制御を実施できることとなる。その結果、微少量の燃料噴射に関してその制御精度を向上させ、ひいては燃焼安定性を向上や排気エミッションの低減を実現することができる。
多気筒内燃機関では、基準噴射量を気筒ごとに算出することが望ましい。これにより、気筒ごとに燃料噴射弁の特性が異なっていても、各燃料噴射弁にとって最適な基準噴射量を各々算出できる。
非線形領域での最適なる圧縮行程噴射量(基準噴射量)を求めるに際し、燃焼により変化する機関回転速度をパラメータとする以外に、機関回転速度のばらつきの範囲を示す散布度をパラメータとすることが考えられる。非線形領域において最適となる燃料噴射量で燃焼を行わせた場合、燃焼状態が安定することから機関回転速度のばらつきの範囲が小さくなるためである。散布度を表すものとして、データの平均値との差(偏差)の二乗を平均しその平方根をとった標準偏差や、平方根をとる前の値である分散(標準偏差の二乗)を用いることができる。
この点を勘案し、請求項2に記載の発明では以下の構成としている。すなわち、圧縮行程の燃料噴射量が同一となっている機関運転期間内で回転検出手段により検出した機関回転速度に基づいて、該機関回転速度のばらつきの範囲を示す散布度を算出する(散布度算出手段)。そして、変更された燃料噴射量のうち、回転検出手段により検出した機関回転速度が最大となる燃料噴射量を、第1の仮設定噴射量として算出するとともに、同じく変更された燃料噴射量のうち、散布度算出手段により算出した前記散布度が最小となる燃料噴射量を、第2の仮設定噴射量として算出し、第1の仮設定噴射量と第2の仮設定噴射量とに基づいて基準噴射量を算出する。
請求項2の発明によれば、機関回転速度だけでなく、機関回転速度の散布度をも加味して基準噴射量が算出されるため、その基準噴射量の算出精度を高めることができ、信頼性の高い燃料噴射制御を実施できる。
請求項3に記載の発明では、内燃機関の始動時における機関温度を検出する(始動時温度検出手段)。そしてかかる構成において、始動時機関温度が所定の低温域にある場合には、第2の仮設定噴射量を基準噴射量とし、始動時機関温度が所定の低温域よりも高温域にある場合には、第1の仮設定噴射量を前記基準噴射量とする。
内燃機関始動時の機関温度(例えばエンジン水温)が比較的低く、所定の低温域にある場合には、内燃機関のフリクションが大きくなり、かかる場合には、機関回転速度のばらつき(散布度)が大きなものとなる。したがって、圧縮行程噴射量の違いによる燃焼状態のばらつきを把握するには、機関回転速度そのものを利用したパラメータ(平均値等)よりも標準偏差等の散布度を用いた方が良いと考えられる。つまり、請求項3に記載の発明では、始動時機関温度が所定の低温域にある場合において、基準噴射量を正確に算出することができる。
ちなみに、分割噴射は内燃機関の冷間始動時に実施されることを考えると、その冷間始動時であることを判定する冷間始動判定温度域の中に「所定の低温域」を定めておき、始動時機関温度が冷間始動判定温度域内であって、かつ特に「所定の低温域」にある場合に、第2の仮設定噴射量を基準噴射量とする処理を実施するとよい。
請求項4に記載の発明では、基準噴射量を学習値としてバックアップ用メモリに記憶する(学習手段)。そしてかかる構成において、基準噴射量の学習が未実施である場合には、第1の仮設定噴射量を算出し、該第1の仮設定噴射量を基準噴射量とする。また、基準噴射量の学習が実施済みである場合には、第2の仮設定噴射量を算出し、該第2の仮設定噴射量を基準噴射量とする。
基準噴射量を学習値として算出する構成において、未学習時にはいち早く学習値を得ることが望ましい。この場合、機関回転速度の散布度を精度良く算出するには、ある程度多数の機関回転速度のサンプリングが必要となるから、散布度を算出しその上で散布度に基づいて学習値を算出する構成では学習値の算出に時間を要する。上記のとおり未学習時には第1の仮設定噴射量を算出し、学習済み時には第2の仮設定噴射量を算出する構成では、未学習時にはいち早く学習値を取得できる一方、学習済み後の再学習時(学習値の更新時)には学習値の精度を高めることができる。
請求項5に記載の発明では、機関回転速度のばらつきの範囲を示す散布度に基づいて基準噴射量を算出する構成としている。つまり、変更された燃料噴射量のうち、機関回転速度の散布度が最小となる燃料噴射量を基準噴射量として算出する。
本発明では、請求項1に記載の発明と同様、非線形領域での微少噴射量として、燃焼状態の最適化が可能な基準噴射量を求めることができる。したがって、この基準噴射量を用いて圧縮行程噴射を実施することで、燃料噴射弁の個体差や経時変化等に依存しない適正なる燃料噴射制御を実施できることとなる。その結果、微少量の燃料噴射に関してその制御精度を向上させ、ひいては燃焼安定性を向上や排気エミッションの低減を実現することができる。
請求項6,7に記載の発明では、基準噴射量を学習値としてバックアップ用メモリに記憶する学習手段を備えている。そして、請求項6に記載の発明では、燃料噴射弁により噴射される燃料の圧力である燃圧を検出するとともに、燃圧について複数に区分して定めた燃圧領域ごとに基準噴射量を学習する。また、請求項7に記載の発明では、燃焼室内の圧力である筒内圧力を検出するとともに、筒内圧力について複数に区分して定めた筒内圧力領域ごとに基準噴射量を学習する。
燃圧が異なると、燃料噴射弁の噴射特性が変わると考えられる。この場合特に、燃料噴射特性における非線形領域では、燃圧と燃料噴射量との関係が一義的な関係にならないと考えられるが、燃圧に応じて基準噴射量を学習することで、都度の燃圧が変わるとしても、学習値による適切なる圧縮行程噴射(微少量燃料噴射)を実施できる。
また、筒内圧力についても、都度の筒内圧力に応じて燃料噴射弁の噴射特性が変わると考えられる。この場合特に、燃料噴射特性における非線形領域では、筒内圧力と燃料噴射量との関係が一義的な関係にならないと考えられるが、筒内圧力に応じて基準噴射量を学習することで、都度の筒内圧力が変わるとしても、学習値による適切なる圧縮行程噴射(微少量燃料噴射)を実施できる。なお、筒内圧力は、筒内圧力センサにて検出して取得する以外に、機関回転速度や負荷等の機関運転状態に基づいての推定により取得することが可能である。
請求項8に記載の発明では、各気筒での燃焼後における所定の回転検出位置で機関回転速度を検出する。この場合、機関回転速度を検出する回転検出位置を、内燃機関の運転状態に基づいて可変設定する。
圧縮行程噴射での燃料噴射量を徐々に変更していき、それに伴う機関回転速度の変化分の違いから基準噴射量を算出する構成では、機関回転速度として、都度の燃焼状態をより良く反映したデータを取得することが望ましい。この点、上記のとおり回転検出位置を都度の機関運転状態に基づいて可変とすることで、内燃機関の運転状態の変化により気筒ごとの機関回転速度のピーク位置が変化したりしても、そのピーク位置の変化に応じて回転検出位置を適宜変更できる。これにより、基準噴射量の算出に際し、都度の燃焼状態をより良く反映した機関回転速度を取得でき、基準噴射量の信頼性を高めることができる。
発明の実施の形態におけるエンジン制御システムの概略を示す構成図。 エンジン燃焼室付近の構成を示す断面図。 分割噴射を説明するためのタイムチャート。 圧縮行程噴射の噴射特性を示す図。 圧縮行程噴射の噴射特性を示す図。 エンジン運転時におけるエンジン角速度の推移を詳細に示すタイムチャート。 圧縮行程噴射量を変更する場合において圧縮行程噴射量と平均値T30aveとの関係、圧縮行程噴射量と標準偏差σT30との関係を示す図。 エンジン冷間始動時の動作を説明するためのタイムチャート。 最適微少噴射量の学習処理について具体的に示すタイムチャート。 最適微少噴射量の学習処理を示すフローチャート。 圧縮行程噴射の噴射特性を示す図。 圧縮行程噴射の噴射特性を示す図。
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車両用の筒内噴射式内燃機関(直噴エンジン)を制御対象とするエンジン制御システムとして具体化しており、同制御システムの概要を図1に示す。
図1において、エンジン11は例えば4気筒エンジンよりなり、エンジン11の吸気管12の最上流部にはエアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、モータ14によって開度調節されるスロットルバルブ15が設けられている。スロットルバルブ15の下流側にはサージタンク16が設けられ、このサージタンク16には吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ17が設けられている。また、サージタンク16には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド18が設けられている。
エンジン11のシリンダヘッド31には、燃料を筒内に直接噴射する燃料噴射弁19が気筒ごとにそれぞれ取り付けられている。高圧燃料ポンプ21から吐出された燃料は高圧燃料配管22を通してデリバリパイプ23に送られ、このデリバリパイプ23から各気筒の燃料噴射弁19に高圧の燃料が分配供給される。デリバリパイプ23には、燃料噴射弁19に供給される燃料の圧力(燃圧)を検出する燃圧センサ24が取り付けられている。
図2に示すように、エンジン11のシリンダヘッド31には、気筒ごとにそれぞれ点火プラグ20が取り付けられ、各点火プラグ20の火花放電によって筒内の混合気が着火される。エンジン11は、センタ噴射式の筒内噴射エンジンであり、燃焼室32の略中心上方(点火プラグ20の近傍)に燃料噴射弁19が配置されている。燃料噴射弁19は、燃焼室32内において燃料を下向きに、すなわちピストン上面33に向けて噴射する。ただし、燃料噴射弁19の噴射燃料をピストン上面33やシリンダ内壁面34に衝突させないように燃料の噴射力(貫徹力)を弱めに設定することで、ピストン上面33やシリンダ内壁面34に付着する燃料を低減するようにしている。
また、図1に示すように、エンジン11の排気管25には、排気の空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排気センサ26(空燃比センサ、酸素センサ等)と、排気を浄化するための触媒27とが設けられている。
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ41や、エンジン11のクランク軸が所定クランク角(例えば、6°CA)回転するごとに回転検出信号(NEパルス信号)を出力するクランク角センサ42が取り付けられている。このクランク角センサ42の回転検出信号に基づいてクランク角位置やエンジン回転速度(瞬時回転速度であるエンジン角速度を含む)が検出される。また、吸気温センサ43によってエンジン11の吸気温度が検出され、筒内圧力センサ44によって燃焼室32内の圧力(筒内圧力)が検出される。
これら各種センサの出力は、エンジン制御装置(以下、ECUという)40に入力される。このECU40は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁19の燃料噴射量や点火プラグ20の点火時期を制御する。ECU40には、各種の学習値や故障診断データ等を記憶するためのバックアップ用メモリとしてEEPROM40aが設けられている。
燃料噴射制御に関して詳しくは、ECU40は、エンジン11の吸気行程で燃料噴射を行う吸気行程噴射と、圧縮行程で燃料噴射を行う圧縮行程噴射とを実施することとしており、エンジン回転速度や負荷等によるエンジン運転状態に応じて、吸気行程噴射と圧縮行程噴射とのいずれを実施するかを切り替えるものとなっている。吸気行程噴射モードは均質燃焼モードとも言われ、圧縮行程噴射は成層燃焼モードとも言われる。圧縮行程噴射モード(成層燃焼モード)は、比較的少量の燃料を圧縮行程で筒内に直接噴射し、点火プラグ20の近傍に成層混合気を形成して成層燃焼させることで、燃費を向上させるものである。一方、吸気行程噴射モード(均質燃焼モード)は、増量した燃料を吸気行程で筒内に直接噴射し、均質混合気を形成して均質燃焼させることで、エンジン出力を高めるものである。
また特に、エンジン11の冷間始動時には、吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ燃料噴射を分割して行わせる分割噴射を実施することとしており、エンジン運転状態に基づいて設定した分割比に応じて吸気行程噴射と圧縮行程噴射とを実施する。より具体的には、図3に示すように、吸気行程で吸気行程噴射が行われ、圧縮行程で圧縮行程噴射が行われる。この場合、1回の燃焼に要する必要燃料量が前後2回分に分割され、それぞれ吸気行程噴射量Q1、圧縮行程噴射量Q2として設定されている。吸気行程噴射量Q1と圧縮行程噴射量Q2とを比べると、Q1>Q2であって、圧縮行程噴射量Q2は微少燃料量となっている。また、吸気行程噴射での噴射開始時期は、例えばBTDC300°CAとして設定されるのに対し、圧縮行程噴射での噴射開始時期は、都度のエンジン運転状態(エンジン回転速度及び負荷)や点火時期に基づいて可変に設定されるものとなっている。
ここで、圧縮行程噴射の噴射特性は図4(a)に示すとおりであり、噴射時間Txを境界点として、それよりも長い噴射時間となる領域が、燃料噴射時間に対して燃料噴射量が単調増加する線形領域となり、噴射時間Txよりも短い噴射時間となる領域が、燃料噴射時間に対する燃料噴射量が燃料噴射弁19の個体差や経時変化など種々の要因で変動しがちとなる非線形領域となっている。なお、図4(a)では、燃料噴射弁19の通電時間である燃料噴射時間を横軸、燃料噴射弁19の開弁により噴射される燃料量を縦軸として燃料噴射特性が示されている。図4において一点鎖線は噴射特性のばらつきの範囲を示している。
一般に非線形領域では燃料噴射弁19の精度を保証できないことから、圧縮行程噴射では、非線形領域での燃料噴射は行われず、線形領域を通常使用域とし、同線形領域を使って燃料噴射が行われる。この点からすれば、噴射時間Txは、燃料噴射弁19の通常使用領域における最小噴射期間であると言える。ただし本実施形態では、通常使用域(線形領域)よりも燃料噴射量が少量となる(すなわち、燃料噴射時間が微小時間となる)非線形領域を使って圧縮行程噴射を実施することとし、その圧縮行程噴射での制御性を高めるべく、非線形領域内での基準噴射量として最適微少噴射量QLを気筒ごとに算出するとともに、その最適微少噴射量QLを学習値として記憶保持することとしている。
特に本実施形態のようにセンタ噴射式のエンジンを採用する場合、ピストン上面33やシリンダ内壁面34に付着する燃料(ウエット燃料)が低減されているため、圧縮行程での要求噴射量が極端に小さくなることが考えられる。かかる場合、圧縮行程噴射として非線形領域を用いた微少量噴射の要求が生じると考えられる。
ところで、発明者は、非線形領域において圧縮行程での燃料噴射量を増加側又は減少側に徐々に変更していくと、それに伴いエンジン各気筒での燃焼状態が徐々に変化し、ひいては燃焼によるエンジン回転速度の上昇分(気筒ごとの回転上昇量)に差異が現れることを見出した。非線形領域においてエンジン回転速度の上昇分が最大となる燃料噴射量は、非線形領域内で燃焼状態が最良となる噴射量であると考えられる。
これを図4で説明する。図4において、(b)には、圧縮行程噴射の燃料噴射時間を横軸としてそれに対する排出HC量を実線で、燃焼安定性を表す指標である燃焼安定指数COVを一点鎖線で示している。また、(c)には、圧縮行程噴射の燃料噴射時間を横軸としてそれに対するパルス間隔T30を実線で、そのT30の標準偏差σT30を一点鎖線で示している。なお、図4(b)、(c)は、分割噴射を実施する際の総燃料噴射量を一定とした条件下で、分割比を大小変化させながら圧縮行程噴射の燃料噴射時間(燃料噴射量)を大小変化させて計測したものである。
燃焼安定性は、例えばエンジンの失火度合いで表され、燃焼安定性が良いとは、燃焼のばらつきが少なく、失火しにくいことを意味する。本実施形態では、燃焼安定性を表すパラメータとして、燃焼安定指数COV(Coefficient Of Variation)を用いている。燃焼安定指数COVは、最も安定性の低い失火から最も安定性の高い完全燃焼までの度合を示す指数であり、その値が小さいほど燃焼の安定性が高いことを示すものである。また、パルス間隔T30は、エンジンクランク軸が30°CA回転するのに要する所要時間であり、30°CA離れたNEパルス同士の時間間隔により算出される。パルス間隔T30は、エンジン角速度の逆数であり、エンジン角速度が大きいほど小さい値としてされる。本実施形態では、各気筒での燃焼による上昇分のエンジン回転速度を表すパラメータとしてパルス間隔T30を算出している。
ここで、図4(b)、(c)から分かるように、非線形領域においてパルス間隔T30が最小となる燃料噴射時間Ty(エンジン回転速度の上昇分が最大となる燃料噴射量に相当)では、標準偏差σT30が同様に最小になることに加え、排出HC量が最小となるとともに、COVが最小(燃焼安定性が最良に相当)となっている。つまり、燃料噴射量を微少量とする領域において、パルス間隔T30、その標準偏差σT30、排出HC量、及び燃焼安定性(COV)についてこれら全てが最良となる燃料噴射時間が存在していることが分かる。本実施形態では、こうした事情を利用して、非線形領域における最適微少噴射量QL(基準噴射量)を求め、この最適微少噴射量QLを用いて圧縮行程噴射を実施するものである。
センタ噴射式のエンジンの場合特に、エンジン11での燃焼状態を最適化できる領域、すなわち排出HC量が最小になり、かつエンジンの燃焼安定性が損なわれない領域が、非線形領域となることがあると考えられる。
多気筒エンジンの場合、気筒ごとに燃料噴射弁19の特性が相違することが考えられる。具体的には、図5に示すように、第1気筒(#1)では、パルス間隔T30が最小となる燃料噴射時間がTy1であるのに対し、第2気筒(#2)では、パルス間隔T30が最小となる燃料噴射時間がTy2である場合が考えられる。そこで本実施形態では、気筒ごとに最適微少噴射量QLを算出(学習)する。
図6は、エンジン運転時におけるエンジン角速度の推移を詳細に示すタイムチャートである。図6には、エンジン角速度の推移を実線で示すとともに、第1気筒(#1)の筒内圧力の推移を一点鎖線で示している。
図6において、エンジン11の燃焼順序は第1気筒(#1)→第3気筒(#3)→第4気筒(#4)→第2気筒(#2)であり、各気筒のTDC付近でエンジン角速度が上昇するものとなっている。パルス間隔T30の算出に関しては、6°CA周期で出力されるNEパルス信号を用い、クランク軸が30°CA回転するのに要する時間がパルス間隔T30として算出される。本実施形態では、ATDC20°CA〜ATDC50°CAをT30検出区間としており、同検出区間での所要時間がパルス間隔T30として算出される。エンジン角速度のピーク値は気筒ごとに異なっており、気筒ごとにパルス間隔T30が算出される。
なお、本実施形態では、6°CAごとにNEパルス信号が出力される構成であるため、6°CAを最小分解能として、T30検出範囲が進角側又は遅角側に変更できる構成となっている。
図7には、圧縮行程噴射量を非線形領域内で減少変化させる場合において、各噴射量ごとのT30、σT30の違いを示しており、(a)は、圧縮行程噴射量とパルス間隔T30の平均値T30aveとの関係を示し、(b)は、圧縮行程噴射量と標準偏差σT30との関係を示している。
図7(a)では、圧縮行程噴射量を所定量ずつ減少変化させた場合に、それら噴射量ごとに算出されるパルス間隔T30の平均値T30aveがプロットされている。また、図7(b)では、(a)と同様に圧縮行程噴射量を所定量ずつ減少変化させた場合に、それら噴射量ごとに算出されるパルス間隔T30の標準偏差σT30がプロットされている。なお、パルス間隔T30のサンプリング数は例えば20(n=20)である。
図7(a)、(b)ではいずれも圧縮行程噴射量=QA1である場合に、パルス間隔T30の平均値T30ave、標準偏差σT30が共に最小値となり、このQA1が微少量噴射を行う上での最適微少噴射量QLとなっている。
次に、エンジン11の冷間始動時や触媒早期暖機中に実施される燃料噴射の実施態様についてタイムチャートを参照しながら具体的に説明する。
図8は、エンジン11の冷間始動時におけるエンジン回転速度、パルス間隔T30、標準偏差σT30、圧縮行程噴射量の推移を示すタイムチャートである。
さて、図8において、エンジン11のクランキングが開始されると、その後、エンジン11での燃焼開始に伴いエンジン回転速度が上昇する。このとき、エンジン始動当初には圧縮行程でのみ各気筒への燃料噴射が行われ、タイミングt1以降、分割噴射が実施される。つまり、タイミングt1以降は、圧縮行程噴射に加えて吸気行程噴射が実施されるため、t1以前に対して分圧縮行程噴射量が減少している。
タイミングt1〜t2の期間は、エンジン始動後にエンジン回転の安定化を図る安定化期間である。図中、Qminは、燃料噴射特性の線形領域における最小燃料噴射量(線形領域最小噴射量)であり、これは図4に示した噴射時間Txに相当する燃料噴射量である。安定化期間(t1〜t2)では、線形領域最小噴射量Qmin、又はQminよりも僅かに増量した燃料噴射量で圧縮行程噴射が実施される。
その後、タイミングt2〜t4の期間は、最適微少噴射量QLの学習処理を実施する学習実施期間である。この学習実施期間(t2〜t4)では、圧縮行程噴射量が徐々に減少変化され、その過程においてパルス間隔T30が最小となる圧縮行程噴射量が最適微少噴射量QLとして学習される。図8では、タイミングt3での圧縮行程噴射量が最適微少噴射量QLとして学習されている。
タイミングt4以降、学習済みの最適微少噴射量QLを用いて圧縮行程噴射が実施される。なお本実施形態では、最適微少噴射量QLを、圧縮行程噴射量の最小ガード値として用いることとしている。具体的には、まずは都度のエンジン運転状態に基づいて燃焼回ごとの総燃料噴射量を算出し、その総燃料噴射量と都度の分割比とに基づいて圧縮行程噴射量を算出する。なお、分割比は、エンジン回転速度、負荷、エンジン始動時点からの経過時間に基づいて設定される。そして、その圧縮行程噴射量を最適微少噴射量QLと比較し、圧縮行程噴射量<最適微少噴射量QLであれば、圧縮行程噴射量を最適微少噴射量QLでガードする(圧縮行程噴射量=最適微少噴射量QLとする)。ただし、圧縮行程噴射を実施する場合に、単に圧縮行程噴射量=QLとして燃料噴射制御を実施することも可能である。
図9は、最適微少噴射量QLの学習処理について具体的に示すタイムチャートである。図9では、説明の便宜上、エンジン全気筒のうち第1気筒と第2気筒についてパルス間隔T30の平均値T30aveの推移を示している。
図9において、タイミングt10で学習の実行条件が成立し、学習処理が開始される。このとき、まずは学習開始時における圧縮行程噴射量の初期値として「線形領域最小噴射量Qmin−ΔQ」が設定され、その「Qmin−ΔQ」により圧縮行程噴射が実施される。ΔQは、圧縮行程噴射量を減量側に変更するための変更量であり、本実施形態ではあらかじめ定めた固定値としている。なお、圧縮行程噴射量が減量される場合、その減量の相当分だけ吸気行程噴射量が増量されるようになっている(すなわち、総噴射量は一定である)。
t10〜t11が、「Qmin−ΔQ」を圧縮行程噴射量とするエンジン運転期間であり、この期間内において気筒ごとにパルス間隔T30のサンプリングが行われる。そして、所定数のサンプリングが完了するタイミングt11では、気筒ごとにパルス間隔T30の平均値T30aveの算出、及び標準偏差σT30の算出が行われる。図では、第1気筒の平均値T30aveとして「a1」が算出され、第2気筒の平均値T30aveとして「b1」が算出されるとしている。
また、タイミングt11では、圧縮行程噴射量が更にΔQだけ減量側に変更される。t11〜t12が、「Qmin−2ΔQ」を圧縮行程噴射量とするエンジン運転期間であり、t10〜t11の期間と同様、パルス間隔T30について所定数のサンプリングが行われる。そして、所定数のサンプリングが完了するタイミングt12では、気筒ごとにパルス間隔T30の平均値T30aveの算出、及び標準偏差σT30の算出が行われる。図では、第1気筒の平均値T30aveとして「a2」が算出され、第2気筒の平均値T30aveとして「b2」が算出されるとしている。
t12〜t13の期間、t13〜t14の期間では、圧縮行程噴射量がΔQずつ徐々に減少側に変更される。そして、上記と同様にパルス間隔T30のサンプリングが行われ、タイミングt13,t14ではそれぞれパルス間隔T30の平均値T30aveの算出、及び標準偏差σT30の算出が行われる。タイミングt13では、第1気筒の平均値T30aveとして「a3」、第2気筒の平均値T30aveとして「b3」が算出され、タイミングt14では、第1気筒の平均値T30aveとして「a4」、第2気筒の平均値T30aveとして「b4」が算出される。
ここで、第1気筒のT30aveについては、各タイミングの算出値のうち「a3」が最小値となり、第2気筒のT30aveについては、各タイミングの算出値のうち「b2」が最小値となっている。なお、第1気筒のT30aveは、タイミングt14で、前回値に対して今回値が増加していることから、タイミングt13での「a3」が最小値であると判断される。また、第2気筒のT30aveは、タイミングt13で、前回値に対して今回値が増加していることから、タイミングt12での「b2」が最小値であると判断される。
かかる場合、第1気筒については、「a3」を算出するためのパルス間隔T30をサンプリングしたt12〜t13での圧縮行程噴射量が、燃焼状態を最も良くする燃料噴射量であると考えられ、t12〜t13での圧縮行程噴射量である「Qmin−3ΔQ」が最適微少噴射量QLとして算出される。そして、その最適微少噴射量QLが第1気筒学習値としてEEPROM40aに記憶される。また、第2気筒については、「b2」を算出するためのパルス間隔T30をサンプリングしたt11〜t12での圧縮行程噴射量が、燃焼状態を最も良くする燃料噴射量であると考えられ、t11〜t12での圧縮行程噴射量である「Qmin−2ΔQ」が最適微少噴射量QLとして算出される。そして、その最適微少噴射量QLが第2気筒学習値としてEEPROM40aに記憶される。
図10は、ECU40により実行される最適微少噴射量QLの学習処理を示すフローチャートであり、本処理はIGスイッチがオンされECU40に電源投入されることに伴い起動される。
図10において、ステップS11では、分割噴射の実施条件が成立しているか否かを判定する。ここでは、エンジン11の冷間始動時でありかつ触媒27の早期暖機期間中であることを分割噴射の実施条件としている。より具体的には、始動時エンジン水温が所定値以下(例えば、30℃以下)であって、エンジン始動後に触媒27の温度が所定の活性温度に達するまでを、前記実施条件が成立する分割噴射実施期間(すなわち冷間始動期間)としている。続くステップS12では、最適微少噴射量QLの学習条件が成立しているか否かを判定する。ここでは、エンジン回転速度が安定していることを最適微少噴射量QLの学習条件としており、より具体的には、エンジン回転速度の変化が所定値以内である場合に、学習条件が成立するとしている。そして、ステップS11,S12が共にYESである場合に、後続のステップS13に進む。
ステップS13では、都度のエンジン運転状態(エンジン回転速度や負荷等)に基づいて燃焼回ごとの総燃料噴射量を算出する。続いてステップS14では、本学習処理を実施する上での吸気行程噴射量Q1と圧縮行程噴射量Q2との各初期値を算出する。ステップS14について具体的には、線形領域最小噴射量Qminから所定の変更量ΔQを減算した値(Qmin−ΔQ)を圧縮行程噴射量Q2の初期値とするとともに、総燃料噴射量から圧縮行程噴射量Q2を減算して吸気行程噴射量Q1の初期値を算出する。
その後、ステップS15では、ステップS14(又は後述のステップS20)で算出した噴射量Q1,Q2に基づいて噴射指令信号を生成するとともに、同噴射指令信号を気筒ごとに出力する。これにより、燃料噴射弁19が然るべきタイミングで駆動され、各気筒に対して燃料噴射が行われる。
その後、ステップS16では、気筒ごとに所定の検出区間でのパルス間隔T30を算出する。続いてステップS17では、気筒ごとのパルス間隔T30のサンプリング数nが、所定値(本実施形態では20)に達したか否かを判定する。ステップS17がNOの場合、ステップS15に戻り、YESの場合、ステップS18に進む。ステップS17がNOの場合、圧縮行程噴射量Q2を一定にしたまま、各気筒ごとにパルス間隔T30が繰り返し算出されることとなる。
ステップS18では、気筒ごとにパルス間隔T30の平均値T30aveを算出するとともに標準偏差σT30を算出する。このとき、標準偏差σT30は、パルス間隔T30の各サンプリング値と平均値T30aveとの差(偏差)の二乗を平均しその平方根をとることで算出される。
その後、ステップS19では、パルス間隔T30の平均値T30aveについて、これまで算出したデータの中で、非線形領域内での最小値となるデータが含まれているか否かを判定する。また、標準偏差σT30について、これまで算出したデータの中で、非線形領域内での最小値となるデータが含まれているか否かを判定する。具体的には、今回値と前回値とを比較し、今回値>前回値であれば、前回値を最小値であるとする。平均値T30aveと標準偏差σT30とについては、どちらか一方のデータを優先して最小値の判定を行ってもよいし、両方で最小値の判定を行ってもよい。両方のデータを用いる構成では、平均値T30aveによる判定結果と標準偏差σT30による判定結果とが同じになる場合(最適微少噴射量QLとなる圧縮行程噴射量Q2が同じ値となる場合)のみ、正しい学習値が取得できたとして判断することも可能である。そして、ステップS19がNOであればステップS20に進み、YESであればステップS21に進む。
ステップS20に進んだ場合、噴射量Q1,Q2を新たな値に変更し、その後ステップS15に戻る。具体的には、これまでの吸気行程噴射量Q1に変更量ΔQを加算するとともに、これまでの圧縮行程噴射量Q2から変更量ΔQを減算する。これにより、前回値に対して減量された圧縮行程噴射量Q2で燃料噴射が行われ、その上で再びパルス間隔T30のサンプリングが実施される。
また、ステップS21では、過去の圧縮行程噴射量Q2に基づいて最適微少噴射量QLを算出し、その算出値を気筒ごとの学習値としてEEPROM40aに記憶する。最適微少噴射量QLの具体的な求め方は上述の図9の説明を参照されたい。
その後、ステップS22では、最適微少噴射量QLの学習が全気筒について完了したか否かを判定する。そして、学習未完了の気筒があれば、ステップS20で噴射量Q1,Q2を再び変更した後、ステップS15に戻る。また、全気筒について学習完了していれば、本処理を終了する。
ここで、最適微少噴射量QLを燃圧に応じて領域ごとに学習する構成であってもよい。要するに、燃圧が異なると、燃料噴射弁19の噴射特性が変わると考えられ、特に燃料噴射特性における非線形領域では、燃圧と燃料噴射量との関係が一義的な関係にならないと考えられる。つまり、図11に示すように、燃料噴射特性は燃圧に応じて変化し、線形領域と非線形領域とでは特性ばらつきの傾向に違いが出る。
例えば、図11において、線形領域では、燃圧が高いほど燃料噴射時間に対する燃料噴射量が大きくなるのに対し、非線形領域では、燃圧が高いほど燃料噴射時間に対する燃料噴射量が少なくなっているが、これは次の理由からであると考えられる。つまり、燃料噴射弁19が、燃圧に抗して駆動ソレノイドにより弁体を開弁側に移動させる、いわゆる直動式の燃料噴射弁である場合、燃圧が高いほど、開弁当初に弁体が開弁しにくくなる。そのため、燃料噴射時間(=ソレノイド通電時間)が微小である領域では、高燃圧であるほど燃料噴射時間に対する燃料噴射量が少なくなっている。
本実施形態では、燃圧について複数の燃圧領域を定めておき、最適微少噴射量QLの学習を実施する際の燃圧に応じて最適微少噴射量QLの学習を実施する。
より詳しくは、ECU40は、都度のエンジン運転状態に基づいて燃圧制御を実施する。具体的には、エンジン回転速度や負荷等に基づいて目標燃圧を設定するとともに、実燃圧が目標燃圧に一致するよう燃圧フィードバック制御を実施する。目標燃圧は、例えば全運転領域で3〜25MPaの範囲内で可変に設定され、特にアイドル運転状態に限って言えば、3〜15MPaの範囲内で可変に設定されるようになっている。分割噴射は、エンジン冷間始動時のアイドル状態で実施される。そのため、ECU40は、アイドル運転状態での目標燃圧の設定範囲を区分して複数の燃圧領域を定めておき、燃圧センサ24の検出値に応じて、前記複数の燃圧領域ごとに学習値としての最適微少噴射量QLを記憶する。
燃圧に対応する学習値(最適微少噴射量QL)をEEPROM40aに記憶保持している構成では、燃圧制御における目標燃圧が変更された場合に、最適微少噴射量QLをフィードフォワード項として用いて圧縮行程噴射量の補正を行うことも可能である。
また、同じ燃料噴射時間に設定されている場合でも、燃料噴射弁19の開弁により実際に燃焼室32内に供給される圧縮行程噴射量は筒内圧力(燃焼室32内の圧力)によって異なるため、最適微少噴射量QLを筒内圧力に応じて領域ごとに学習するとよい。ECU40は、筒内圧力の設定範囲を区分して複数の筒内圧力領域を定めておき、筒内圧力センサ44の検出値に応じて、前記複数の筒内圧力領域ごとに学習値としての最適微少噴射量QLを記憶する。なお、筒内圧力は、エンジン回転速度や負荷等のエンジン運転状態に基づいての推定により取得することも可能である。
筒内圧力に対応する学習値(最適微少噴射量QL)をEEPROM40aに記憶保持している構成では、エンジン運転状態が変更された場合に、最適微少噴射量QLをフィードフォワード項として用いて圧縮行程噴射量の補正を行うことも可能である。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
圧縮行程噴射量を徐々に減少側に変更しつつ、各気筒で燃焼により増加変化するパルス間隔T30の平均値T30ave、及び標準偏差σT30に基づいて最適微少噴射量QL(基準噴射量)を算出する構成とした。これにより、非線形領域での微少噴射量として、燃焼状態の最適化が可能な最適微少噴射量QLを求めることができる。したがって、この最適微少噴射量QLを用いて圧縮行程噴射制御を実施することで、燃料噴射弁19の個体差や経時変化等に依存しない適正なる燃料噴射制御を実施できることとなる。その結果、微少量の燃料噴射に関してその制御精度を向上させ、ひいては燃焼安定性を向上や排気エミッションの低減を実現することができる。
最適微少噴射量QLを気筒ごとに算出する構成としたため、気筒ごとに燃料噴射弁19の特性が異なっていても、各燃料噴射弁19にとって最適な基準噴射量(最適微少噴射量QL)を各々算出できる。
都度の燃圧に応じて最適微少噴射量QLを学習することにより、燃料噴射特性における非線形領域で燃圧と燃料噴射量との関係が一義的な関係にならないとしても、都度の燃圧に応じた適切な学習値を得ることができ、圧縮行程噴射(微少量燃料噴射)の制御精度を高めることができる。
また、都度の筒内圧力に応じて最適微少噴射量QLを学習することにより、燃料噴射特性における非線形領域で筒内圧力と燃料噴射量との関係が一義的な関係にならないとしても、都度の筒内圧力に応じた適切な学習値を得ることができ、圧縮行程噴射(微少量燃料噴射)の制御精度を高めることができる。
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
・パルス間隔T30を検出する回転検出位置(T30検出位置)を、エンジン運転状態に基づいて可変設定するようにしてもよい。具体的には、シリンダ温度に応じて回転検出位置を進角側及び遅角側に変更する。例えば、ATDC20°CA〜ATDC50°CAを基準検出位置とし、シリンダ温度が低いほど、回転検出位置を基準検出位置に対して遅角側に変更し、シリンダ温度が高いほど、回転検出位置を基準検出位置に対して進角側に変更する。かかる場合、エンジン運転状態の変化により気筒ごとのエンジン回転速度のピーク位置が変化したりしても、そのピーク位置の変化に応じて回転検出位置を適宜変更できる。これにより、最適微少噴射量QLの算出に際し、都度の燃焼状態をより良く反映したパルス間隔T30(エンジン回転速度)を取得することができる。
・パルス間隔T30の平均値T30aveに基づいて算出される最適微少噴射量QLを第1仮学習値(第1の仮設定噴射量)、標準偏差σT30に基づいて算出される最適微少噴射量QLを第2仮学習値(第2の仮設定噴射量)とし、それら第1仮学習値と第2仮学習値とのうちから最終の最適微少噴射量QLを算出する構成としてもよい。
この場合、エンジン11の始動時水温(始動時機関温度)を検出し、その始動時水温が所定の低温域(例えは5℃未満)にある場合には、第2仮学習値を最終の最適微少噴射量QLとする。また、始動時水温が所定の低温域よりも高温域(5℃以上)にある場合には、第1仮学習値を最適微少噴射量QLとする。
つまり、エンジン11の始動時水温が比較的低い場合には、エンジン11のフリクションが大きくなり、かかる場合には、エンジン回転速度のばらつき(散布度)が大きなものとなる。したがって、圧縮行程噴射量の違いによる燃焼状態のばらつきを把握するには、パルス間隔T30の平均値T30aveよりも標準偏差σT30を用いた方が良いと考えられる。この場合、始動時水温が低い場合において、最適微少噴射量QLを正確に算出することができる。
・最適微少噴射量QLの学習が未実施である場合には、標準偏差σT30に基づいて第1仮学習値を算出し、その第1仮学習値を最適微少噴射量QLとする一方、最適微少噴射量QLの学習が実施済みである場合には、平均値T30aveに基づいて第2仮学習値を算出し、その第2仮学習値を最適微少噴射量QLとすることも可能である。なお、標準偏差σT30を算出するためのパルス間隔T30のサンプリング数n1を、平均値T30aveを算出するためのパルス間隔T30のサンプリング数n2よりも大きくしている(n1>n2)。つまり、未学習時にはいち早く学習値を得ることが望ましい。この場合、標準偏差σT30を精度良く算出するには、ある程度多数のサンプリングが必要となるから、その分学習値の算出に時間を要する。これに対し、平均値T30aveを算出するにはサンプリングを減らしてもよい。このように未学習時と学習済み時とで最適微少噴射量QLの算出の仕方を変更することで、未学習時にはいち早く学習値を取得できる一方、学習済み後の再学習時(学習値の更新時)には学習値の精度を高めることができる。
・図10の処理において、最適微少噴射量QLの学習が未実施である場合(初回学習時)と学習が実施済みである場合(2回目以降の学習時)とで、パルス間隔T30のサンプリング数を異なるものにしてもよい。学習が未学習である場合にはサンプリング数を比較的少なくし、学習済みである場合にはサンプリング数を比較的多くする。
・初回の最適微少噴射量QLの学習時には、標準偏差σT30に基づいて最適微少噴射量QLを算出し、2回目以降の最適微少噴射量QLの学習時には、平均値T30aveに基づいて最適微少噴射量QLを算出する構成であってもよい。
・最適微少噴射量QLの学習が一旦完了した後に再学習する場合(学習値を更新する場合)には、圧縮行程噴射量の変更を、非線形領域内において噴射量の変更範囲を狭めて実施したり、1回当たりの圧縮行程噴射量の変更量ΔQを小さくして実施したりすることが可能である。例えば、学習値の更新時には、圧縮行程噴射量を変更していく際の初回値を、線形領域最小噴射量Qmin−ΔQとして定めて開始するのではなく、前回の学習値(最適微少噴射量QL)に基づいて、Qmin−ΔQよりも小さい噴射量で開始する。これにより、再学習時において学習の精度を高めることができる。
・上記実施形態では、最適微少噴射量QLの学習に際し、パルス間隔T30(エンジン角速度)の平均値T30aveと標準偏差σT30とを両方算出する構成としたが、これらのうちいずれか一方のみを算出する構成であってもよい。
・エンジン回転速度を示すデータとして、パルス間隔T30に代えて、パルス間隔T30の逆数により算出されるエンジン角速度を用いることも可能である。この場合、エンジン角速度の平均値に基づいて最適微少噴射量QLを算出する。また、エンジン回転速度のばらつきの範囲を示す散布度として、標準偏差σT30に代えて、分散を用いることも可能である。分散は、標準偏差の二乗の値として算出される。この場合、分散のデータに基づいて最適微少噴射量QLを算出する。
・パルス間隔T30(機関回転速度)に基づいて最適微少噴射量QLを算出する構成として、パルス間隔T30の平均値T30aveに基づいて最適微少噴射量QLを算出する構成に代えて、パルス間隔T30そのもの(平均値でないT30)に基づいて最適微少噴射量QLを算出したり、パルス間隔T30の積算値に基づいて最適微少噴射量QLを算出したりする構成であってもよい。
・上記実施形態では、最適微少噴射量QL(基準噴射量)の学習に際し、圧縮行程噴射量をあらかじめ固定値として定めた変更量ΔQだけ順次減量する構成としたが、この構成を変更してもよい。例えば、1回の学習処理において変更量ΔQを圧縮行程噴射量の変更の都度変更してもよい。また、圧縮行程噴射量を減量側に変更する構成に変えて、増量側に変更する構成であってもよい。
11…エンジン、19…燃料噴射弁、32…燃焼室、40…ECU(噴射量変更手段、回転検出手段、基準噴射量算出手段、燃料噴射制御手段、始動時温度検出手段、学習手段、散布度算出手段)、40a…EEPROM(バックアップ用メモリ)、42…クランク角センサ、44…筒内圧力センサ。

Claims (8)

  1. 燃料噴射弁により燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射式内燃機関に適用され、
    前記内燃機関の吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ燃料噴射を行わせる分割噴射を実施する筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置において、
    前記分割噴射の実施に際し、前記圧縮行程での燃料噴射量を徐々に減少側又は増加側に変更する噴射量変更手段と、
    前記噴射量変更手段により変更された燃料噴射量ごとに、その噴射燃料の燃焼により変化する機関回転速度を検出する回転検出手段と、
    前記噴射量変更手段により変更された燃料噴射量のうち、前記回転検出手段により検出した機関回転速度が最大となる燃料噴射量を、前記圧縮行程での燃料噴射量の基準となる基準噴射量として算出する基準噴射量算出手段と、
    前記基準噴射量算出手段による前記基準噴射量の算出後において、燃料噴射の実施に際し前記基準噴射量を用いて前記圧縮行程での燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段と、
    を備えることを特徴とする筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置。
  2. 前記圧縮行程の燃料噴射量が同一となっている機関運転期間内で前記回転検出手段により検出した機関回転速度に基づいて、該機関回転速度のばらつきの範囲を示す散布度を算出する散布度算出手段をさらに備え、
    前記基準噴射量算出手段は、
    前記噴射量変更手段により変更された燃料噴射量のうち、前記回転検出手段により検出した機関回転速度が最大となる燃料噴射量を、第1の仮設定噴射量として算出する手段と、
    同じく前記噴射量変更手段により変更された燃料噴射量のうち、前記散布度算出手段により算出した前記散布度が最小となる燃料噴射量を、第2の仮設定噴射量として算出する手段と、
    前記第1の仮設定噴射量と前記第2の仮設定噴射量とに基づいて前記基準噴射量を算出する手段と、
    を有する請求項1に記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置。
  3. 前記内燃機関の始動時における機関温度を検出する始動時温度検出手段を備え、
    前記基準噴射量算出手段は、前記始動時温度検出手段により検出した始動時機関温度が所定の低温域にある場合に、前記第2の仮設定噴射量を前記基準噴射量とし、前記始動時機関温度が前記所定の低温域よりも高温域にある場合に、前記第1の仮設定噴射量を前記基準噴射量とする請求項2に記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置。
  4. 前記基準噴射量を学習値としてバックアップ用メモリに記憶する学習手段を備え、
    前記基準噴射量算出手段は、前記学習手段による前記基準噴射量の学習が未実施である場合に、前記第1の仮設定噴射量を算出し該第1の仮設定噴射量を前記基準噴射量とし、前記学習手段による前記基準噴射量の学習が実施済みである場合に、前記第2の仮設定噴射量を算出し該第2の仮設定噴射量を前記基準噴射量とする請求項2又は3に記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置。
  5. 燃料噴射弁により燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射式内燃機関に適用され、
    前記内燃機関の吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ燃料噴射を行わせる分割噴射を実施する筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置において、
    前記分割噴射の実施に際し、前記圧縮行程での燃料噴射量を徐々に減少側又は増加側に変更する噴射量変更手段と、
    前記噴射量変更手段により変更された燃料噴射量ごとに、その噴射燃料の燃焼により変化する機関回転速度を検出する回転検出手段と、
    前記圧縮行程の燃料噴射量が同一となっている機関運転期間内で前記回転検出手段により検出した機関回転速度に基づいて、該機関回転速度のばらつきの範囲を示す散布度を算出する散布度算出手段と、
    前記噴射量変更手段により変更された燃料噴射量のうち、前記散布度算出手段により算出した前記散布度が最小となる燃料噴射量を、前記圧縮行程での燃料噴射量の基準となる基準噴射量として算出する基準噴射量算出手段と、
    前記基準噴射量算出手段による前記基準噴射量の算出後において、燃料噴射の実施に際し前記基準噴射量を用いて前記圧縮行程での燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段と、
    を備えることを特徴とする筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置。
  6. 前記基準噴射量を学習値としてバックアップ用メモリに記憶する学習手段と、
    前記燃料噴射弁により噴射される燃料の圧力である燃圧を検出する燃圧検出手段とを備え、
    前記学習手段は、前記燃圧について複数に区分して定めた燃圧領域ごとに前記基準噴射量を学習する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置。
  7. 前記基準噴射量を学習値としてバックアップ用メモリに記憶する学習手段と、
    前記燃焼室内の圧力である筒内圧力を検出する筒内圧力検出手段とを備え、
    前記学習手段は、前記筒内圧力について複数に区分して定めた筒内圧力領域ごとに前記基準噴射量を学習する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置。
  8. 前記回転検出手段は、各気筒での燃焼後における所定の回転検出位置で前記機関回転速度を検出するものであり、
    前記機関回転速度を検出する前記回転検出位置を、前記内燃機関の運転状態に基づいて可変設定する手段を備える請求項1乃至7のいずれか一項に記載の筒内噴射式内燃機関の燃料噴射制御装置。
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