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JP2015007537A - 高分子材料のエネルギーロスの計算方法 - Google Patents

高分子材料のエネルギーロスの計算方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高分子材料のエネルギーロスを安定的に精度良く計算する。【解決手段】コンピュータ1を用いて高分子材料のエネルギーロスを計算する方法である。この計算方法では、高分子材料モデル11の構造緩和を計算する工程S4、構造緩和の計算の後、高分子材料モデル11の変形を計算する変形計算工程S6及び変形の計算の結果に基づいて、高分子材料モデル11の応力と歪とからエネルギーロスを計算する工程S8を含む。変形計算工程S6は、ポテンシャルの固有振動数fを計算する固有振動数計算工程S61と、ポテンシャルの固有振動数fと異なる振動数を高分子材料モデル11に設定して、高分子材料モデル11の変形を計算する工程S62とを含む。【選択図】図3

Description

本発明は、高分子材料のエネルギーロスを安定的に精度良く計算しうる方法に関する。
ゴム又はプラスチック等の高分子材料において、そのエネルギーロスは、製品の様々な特性に影響を及ぼす重要な物理量である。例えば、ゴム製品であるタイヤでは、エネルギーロスと、燃費性能やグリップ性能とが密接に係わっており、適切な制御が必要と考えられている。
従来、目的とする性能を発揮しうるゴム材料を得るために、ゴム材料の配合設計、試作及びエネルギーロスの測定試験といった工程を含む開発サイクルが繰り返されている。しかしながら、従来の開発サイクルでは、実際に材料を試作して引張試験等を行う必要があるため、効率的ではなかった。
そこで、近年では、コンピュータを用いた高分子材料のシミュレーションを行い、その結果からエネルギーロスを計算することが提案されている。この方法では、例えば、次のようなステップa乃至eが時系列的に行われる。
a)解析対象となる高分子材料の高分子鎖をモデル化した粗視化モデルの設定
b)粗視化モデルにポテンシャルを定義
c)粗視化モデルを空間に配置した高分子材料モデルを用いて構造緩和を計算
d)構造緩和の計算後、高分子材料モデルに振動数を設定して変形を計算
e)計算結果からエネルギーロスを計算
関連する技術としては、次のものがある。
特開2007−107968号公報
しかしながら、従来の方法では、上記ステップdの計算途中において、計算が不安定となって異常終了してしまうことがあった。また、ステップeで計算されたエネルギーロスの値が、実験値等に比べて著しく異なる場合もあった。
発明者らは、鋭意研究の結果、粗視化モデルのポテンシャルの固有振動数と、高分子材料モデルに設定される振動数とが実質的に一致した場合に、計算が不安定となって異常終了することを突き止めた。
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、粗視化モデルのポテンシャルの固有振動数とは異なる振動数を、高分子材料モデルに設定して変形を計算することを基本として、高分子材料のエネルギーロスを安定的に精度良く計算しうる高分子材料のエネルギーロスの計算方法を提供することを主たる目的としている。
本発明のうち請求項1記載の発明は、コンピュータを用いて高分子材料のエネルギーロスを計算する方法であって、前記コンピュータに、前記高分子材料の高分子鎖の二つ以上の炭素原子を、一つの粗視化粒子に置換した粗視化モデルを設定する工程と、前記コンピュータに、前記各粗視化粒子間に作用するポテンシャルを定義する工程、前記コンピュータに、前記粗視化モデルを予め定められた空間内に配置して高分子材料モデルを設定する工程、前記コンピュータが、予め定めた条件と前記ポテンシャルとに基づいて、前記高分子材料モデルの構造緩和を計算する工程、前記構造緩和の計算の後、前記コンピュータが、前記高分子材料モデルの変形を計算する変形計算工程、及び前記高分子材料モデルの変形計算の結果に基づいて、前記コンピュータが、前記高分子材料モデルの応力と歪とからエネルギーロスを計算する工程を含み、前記変形計算工程は、前記ポテンシャルの固有振動数を計算する固有振動数計算工程と、前記ポテンシャルの固有振動数とは異なる振動数を前記高分子材料モデルに設定して、前記高分子材料モデルの変形を計算する工程とを含むことを特徴とする。
また、請求項2記載の発明は、前記構造緩和の計算は、前記空間において、圧力及び温度が一定、又は体積及び温度が一定の下で少なくとも10τ以上行われる請求項1に記載の高分子材料のエネルギーロスの計算方法である。
また、請求項3記載の発明は、前記空間の一辺の長さは、前記粗視化モデルの慣性半径の2倍以上である請求項1又は2に記載の高分子材料のエネルギーロスの計算方法である。
また、請求項4記載の発明は、前記粗視化モデルには、前記粗視化粒子間を結合するボンドが定義され、前記ポテンシャルは、前記ボンドに設定される結合ポテンシャルP1を含み、前記結合ポテンシャルP1は、下記式(1)で定義される斥力ポテンシャルRと、下記式(2)で定義される引力ポテンシャルGとの和(R+G)で定義される請求項1乃至3のいずれかに記載の高分子材料のエネルギーロスの計算方法である。


ここで、各定数及び変数は次のとおりである。
ij:粗視化粒子間の距離
1:粗視化粒子間のばね定数
ε:粗視化粒子間に定義される斥力ポテンシャルRの強度に関する定数
σ:粗視化粒子間に定義される斥力ポテンシャルRが作用する距離に関する定数(分子動力学の分野では、LJ球の直径と呼ばれる)
0:伸びきり長
また、請求項5記載の発明は、前記固有振動数計算工程は、下記式(3)で定義され、かつ前記結合ポテンシャルP1に近似するバネポテンシャルQ1を求める工程と、前記バネポテンシャルQ1のばね定数k2に基づいて、下記式(4)で定義される固有振動数fを計算する工程とを含む請求項4に記載の高分子材料のエネルギーロスの計算方法である。


ここで、各定数及び変数は次のとおりである。
2:ばね定数
x:粗視化粒子間の距離
0:平衡長
M:粗視化粒子の質量
本発明の高分子材料のエネルギーロスの計算方法は、コンピュータが、予め定めた条件と粗視化モデルポテンシャルとに基づいて、高分子材料モデルの構造緩和を計算する工程、構造緩和の計算の後、高分子材料モデルの変形を計算する変形計算工程、及び高分子材料モデルの変形計算の結果に基づいて、高分子材料モデルの応力と歪とからエネルギーロスを計算する工程を含んでいる。
発明者らの実験によれば、粗視化モデルのポテンシャルの固有振動数と、高分子材料モデルに設定される振動数とが一致した場合、計算が不安定となって異常終了する他、計算結果に大きな精度の低下が表れることが判明した。この理由については、明確になっていないが、ポテンシャルの固有振動数と同じ振動数で高分子材料モデルが変形した場合、変形を繰り返すにつれて粗視化粒子間の揺らぎの振幅が大きくなり、粗視化粒子に非常に大きな力がかかることが原因ではないかと推測される。
本発明では、変形計算工程において、ポテンシャルの固有振動数を計算する固有振動数計算工程と、ポテンシャルの固有振動数とは異なる振動数を高分子材料モデルに設定して、高分子材料モデルの変形を計算する工程とが行われている。このため、本発明では、ポテンシャルの固有振動数と、高分子材料モデルに設定される振動数とが一致した状態で変形が計算されるのを防ぐことができるため、計算の異常終了や計算精度の低下を確実に防止できる。
本実施形態の計算方法を実行するコンピュータの斜視図である。 ポリブタジエンの構造式である。 本実施形態の計算方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。 粗視化モデルの概念図である。 粗視化モデルのポテンシャルを説明する概念図である。 結合ポテンシャル及びバネポテンシャルのエネルギーと、粗視化粒子間の距離との関係を示すグラフである。 空間及び粗視化モデルの概念図である。 粗視化モデルが空間に配置された高分子材料モデルを示す概念図である。 平衡状態の粗視化モデルが空間に配置された高分子材料モデルを示す概念図である。 本実施形態の変形計算工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。 本実施形態の固有振動数計算工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。 (a)は変形計算を説明する高分子材料モデルの線図、(b)及び(c)は歪の変化を説明するグラフである。 高分子材料モデルの応力−歪曲線を示すグラフである。
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の高分子材料のエネルギーロスの計算する方法(以下、単に「計算方法」ということがある)は、コンピュータを用いて高分子材料のエネルギーロスを計算する方法である。
図1に示されるように、コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含む。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及びディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられる。また、記憶装置には、本実施形態の計算方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶される。
高分子材料としては、例えば、ゴム、樹脂又はエラストマー等が含まれる。本実施形態では、高分子材料として、図2に示されるように、cis-1,4ポリブタジエン(以下、単に「ポリブタジエン」ということがある)が例示される。このポリブタジエンを構成する高分子鎖は、メチレン基(−CH−)とメチン基(−CH−)とからなるモノマー{−[CH−CH=CH−CH]−}が、重合度nで連結されて構成されている。なお、高分子材料には、ポリブタジエン以外の高分子材料が用いられてもよい。
図3には、本実施形態のシミュレーション方法の具体的な処理手順が示されている。このシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、高分子材料の高分子鎖をモデル化した粗視化モデルが設定される(工程S1)。
図4に示されるように、粗視化モデル3は、粗視化粒子4と、ボンド5とを含んでモデル化されている。
粗視化粒子4は、高分子鎖の二つ以上の炭素原子(図2に示す)を一つのビーズ4aに置換して構成されている。図2及び図4に示されるように、本実施形態では、例えば、高分子材料の高分子鎖がポリブタジエンである場合、1.55個分のモノマーを構造単位6として、該構造単位6が一つの粗視化粒子4に置換される。これにより、粗視化モデル3には、複数(例えば、10〜5000個)の粗視化粒子4が含まれる。
なお、1.55個分のモノマーを構造単位6としたのは、論文(L,J.Fetters ,D.J.Lohse and R.H.Colby 著、「Chain Dimension and Entanglement Spacings 」Physical Properties of Polymers Handbook Second Edition P448)と、論文( Kurt Kremer & Gary S. Grest 著 「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 5057 (1990)) の記載に基づき求めたものである。また、高分子鎖がポリブタジエン以外の場合でも、上記論文に基づいて、構造単位6を設定することができる。
粗視化粒子4は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、粗視化粒子4には、質量、直径、電荷又は初期座標などのパラメータが定義される。これらの各パラメータは、数値情報としてコンピュータ1に記憶される。
ボンド5は、粗視化粒子4、4間を結合するものである。このようなボンド5も、数値情報としてコンピュータ1に記憶される。
次に、粗視化粒子4、4間にポテンシャルが定義される工程S2。図4及び図5に示されるように、本実施形態のポテンシャルPは、ボンド5に設定される結合ポテンシャルP1、及び隣接する粗視化モデル3、3の粗視化粒子4、4間に設定されるポテンシャルP2が含まれる。
結合ポテンシャルP1は、下記式(1)で定義される斥力ポテンシャルRと、下記式(2)で定義される引力ポテンシャルGとの和(R+G)で定義される。


ここで、各定数及び変数は次のとおりである。
ij:粗視化粒子間の距離
1:粗視化粒子間のばね定数
ε:粗視化粒子間に定義される斥力ポテンシャルRの強度に関する定数
σ:粗視化粒子間に定義される斥力ポテンシャルRが作用する距離に関する定数(分子動力学の分野では、LJ球の直径と呼ばれる)
0:伸びきり長
なお、距離rij及び伸びきり長R0は、各粗視化粒子4、4の中心4c、4c間の距離として定義される。
上記式(1)において、粗視化粒子4、4間の距離rijが小さいほど、斥力ポテンシャルRが大きくなる。さらに、上記式(1)では、粗視化粒子4、4間の距離rijが小さくなるほど、斥力ポテンシャルRが無限に大きくなる。
一方、上記式(2)において、粗視化粒子4、4間の距離rijが大きいほど、引力ポテンシャルGが大きくなる。従って、結合ポテンシャルP1は、距離rijを、斥力ポテンシャルRと引力ポテンシャルGとが互いに釣り合う位置に戻そうとする復元力が定義される。
また、上記式(2)では、距離rijが伸びきり長R0以上となる場合に、引力ポテンシャルGが∞に設定される。従って、結合ポテンシャルP1は、伸びきり長R0以上の距離rijを許容しない。
このような結合ポテンシャルP1は、粗視化モデル3を、高分子材料の分子運動に近似させることができる。図6には、結合ポテンシャルP1のエネルギーと、粗視化粒子間の距離との関係が示される。
なお、斥力ポテンシャルR及び引力ポテンシャルGの各定数及び変数の値としては、適宜設定することができる。本実施形態では、論文(Kurt Kremer & Gary S. Grest 著 「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 5057 (1990)) に基づいて、次の値が設定される。
ばね定数k1:30
伸びきり長R0:1.5
定数ε:1.0
定数σ:1.0
また、図5に示されるポテンシャルP2は、隣接する粗視化モデル3、3の粗視化粒子4、4間に作用する斥力を定義するものである。このポテンシャルP2は、例えば、上記式(1)の斥力ポテンシャルRによって定義される。なお、ポテンシャルP2に引力相互作用を加味する場合は、例えば、上記式(1)において、ポテンシャルが変わる距離を、21/6σより大きく設定する事によって実現できる。
このような結合ポテンシャルP1及びポテンシャルP2は、コンピュータ1に記憶される。
次に、粗視化モデル3を予め定められた空間内に配置して高分子材料モデルが設定される(工程S3)。図7に示されるように、本実施形態の空間9は、互いに向き合う三対の平面10、10を有する立方体として定義されている。各平面10には、周期境界条件が定義されている。これにより、空間9は、一方の平面10が、反対側の平面10と繋がっているものとして取り扱われる。
また、空間9の一辺の長さL1は、粗視化モデル3の慣性半径Rgの2倍以上に設定されるのが望ましい。慣性半径Rgは、分子動力学計算において、粗視化モデル3の拡がりを示すパラメータである。このような空間9では、分子動力学計算において、粗視化モデル3の回転運動をスムーズに計算することができる。さらに、空間9の大きさは、例えば、上記論文に基づいて、粒子数密度が0.85個/σ3程度に設定される。
図8に示されるように、粗視化モデル3は、空間9内に複数個配置される。本実施形態では、粗視化モデル3が200〜4000本程度配置されている。このような空間9及び粗視化モデル3により、解析対象の高分子材料の微小構造部分である高分子材料モデル11が設定される。このような高分子材料モデル11も数値データであり、コンピュータ1に記憶される。
次に、コンピュータ1が、予め定めた条件とポテンシャルPとに基づいて、高分子材料モデル11の構造緩和を計算する(工程S4)。
本実施形態の分子動力学計算では、例えば、空間9について所定の時間、粗視化モデル3が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での粗視化粒子4の動きが、単位時間毎に追跡される。
また、本実施形態の構造緩和の計算は、空間9において、圧力及び温度が一定、又は体積及び温度が一定に保たれる。これにより、工程S4では、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、粗視化モデル3の初期配置を精度よく緩和することができる。
次に、コンピュータ1が、粗視化モデル3の初期配置を十分に緩和できたか否かを判断する(工程S5)。この工程S5では、粗視化モデル3の初期配置を十分に緩和できたと判断された場合、次の変形計算工程S6が実施される。一方、粗視化モデル3の初期配置を十分に緩和できていないと判断された場合は、単位ステップを進めて(工程S7)、工程S4(分子動力学計算)が再度実施される。これにより、工程S4では、図9に示されるように、粗視化モデル3の平衡状態(構造が緩和した状態)を確実に計算することができる。
なお、構造緩和の計算時間は、上記条件の下で、少なくとも10τ以上、より好ましくは100τ以上行われるのが望ましい。これにより、工程S4では、隣接する粗視化粒子4、4を確実に離間させることができるため、粗視化モデル3を効果的に緩和することができる。
次に、コンピュータ1が、高分子材料モデル11の変形を計算する(変形計算工程S6)。図10には、本実施形態の変形計算工程S6の処理手順の一例が示されている。
変形計算は、高分子材料モデル11に所定の振動数が与えられて、高分子材料モデル11の変形が計算される。発明者らの実験によれば、粗視化モデル3のポテンシャル(本実施形態では、結合ポテンシャルP1)の固有振動数と、高分子材料モデル11に設定される振動数とが一致した場合に、変形計算が不安定となって異常終了する他、計算結果に大きな精度の低下が表れることが判明した。この理由については、明確になっていないが、ポテンシャルP1の固有振動数と同じ振動数で高分子材料モデル11が変形した場合、変形を繰り返すにつれて粗視化粒子4、4間の揺らぎの振幅が大きくなり、粗視化粒子4に非常に大きな力がかかることが原因ではないかと推測される。
このような推測に基づいて、本実施形態の変形計算工程S6は、高分子材料モデル11の変形計算に先立ち、結合ポテンシャルP1の固有振動数が計算される(固有振動数計算工程S61)。図11には、本実施形態の固有振動数計算工程S61の処理手順の一例が示されている。
上述したように、結合ポテンシャルP1は、粗視化粒子4、4間の距離rijが小さくなるほど、斥力ポテンシャルRが無限に大きくなる。しかしながら、結合ポテンシャルP1は、距離rijが伸びきり長R0以上となる場合に、引力ポテンシャルGに∞が設定される。このように、結合ポテンシャルP1は、線形バネではないため、このままでは固有振動数を計算することができない。
このため、本実施形態の固有振動数計算工程S61では、先ず、結合ポテンシャルP1に近似するバネポテンシャルを求める(工程S611)。バネポテンシャルQ1は、下記式(3)で定義される。

ここで、各定数及び変数は次のとおりである。
2:ばね定数
x:粗視化粒子間の距離
0:平衡長
バネポテンシャルQ1は、Harmonic型である。Harmonic型とは、いわゆる線形バネが定義され、平衡長x0からのずれの大きさに比例した復元力が働くポテンシャルである。なお、平衡長x0は、各粗視化粒子の中心間の距離として定義される。
ここで、バネポテンシャルQ1を展開すると、下記式(5)になる。さらに、下記式(5)を平衡長x0のまわりでテーラー展開すると、下記式(6)になる。これらの下記式(5)、(6)を比較すると、下記式(5)のばね定数k2は、下記式(6)の二階の偏微分の項∂2Q1(x0)/∂x0 2で表しうることを確認できる。このような観点より、本実施形態では、結合ポテンシャルP1とバネポテンシャルQ1とが近似するとみなして、下記式(7)のように結合ポテンシャルP1を平衡長r0のまわりでテーラー展開したときの二階の偏微分の項∂2P1(r0)/∂r0 2を計算することにより、バネポテンシャルQ1のばね定数k2が求められる。


また、バネポテンシャルQ1の平衡長x0は、バネポテンシャルQ1(エネルギー)が最小となる粗視化粒子4、4間の距離xである。バネポテンシャルQ1は、二次関数である。このため、平衡長x0は、バネポテンシャルQ1を粗視化粒子間の距離xで微分した値∂Q1(x)/∂xが0となる距離xを計算することにより求めることができる。このような観点より、本実施形態では、結合ポテンシャルP1とバネポテンシャルQ1とが近似するとみなし、結合ポテンシャルP1を粗視化粒子間の距離rijで微分した値∂P1(rij)/∂rijが0となる距離rijを計算することにより、バネポテンシャルQ1の平衡長x0が求められる。
本実施形態の工程S611において、計算されたばね定数k2及び平衡長x0は、下記の通りである。なお、結合ポテンシャルP1の各定数(ばね定数k、伸びきり長R0、定数ε及び定数σ)には、上記数値が代入される。図6には、結合ポテンシャルP1に近似するバネポテンシャルQ1のエネルギーと粒子間距離との関係を示すグラフが示される。
平衡長x0=0.96σ
ばね定数k2=919ε/σ2
次に、コンピュータ1が、ばね定数k2に基づいて、下記式(4)で定義される固有振動数fを計算する(工程S612)。

ここで、各定数及び変数は、次に示すものを除いて、上記式(3)と同一である。
M:粗視化粒子の質量
粗視化粒子の質量Mは、上述の論文(J. Chem. Phys. vol.92, No.8, 5057, (1990)) に定義された値に基づいて、1mが設定される。このような粗視化粒子4の質量M、及びバネ定数k2に基づいて、固有振動数fが計算される。本実施形態の固有振動数fは、4.82(1/τ)である。
次に、高分子材料モデル11の変形が計算される(工程S62)。本実施形態の工程S62では、図12(a)に示されるように、高分子材料モデル11に、初期の状態から1軸の引張変形を与えた後、それと逆方向に同一の歪で圧縮変形を与えて、初期の状態に戻す工程を1周期とする引張・圧縮変形をシミュレーションする。なお、高分子材料モデル11の変形としては、引張・圧縮変形だけでなく、例えば、ずり変形等でもよい。
図12(b)には、高分子材料モデル11の周期的な変形を表すものとして、歪と時間との関係が示されている。本実施形態では、歪が正弦波で変化するものが例示されるが、図12(c)に示す三角波のように、歪が変化するものでも良い。高分子材料モデル11には、振動数(周期Tsの逆数)、歪の大きさ、又はポアソン比などが設定される。高分子材料モデル11の変形計算によって求められる応力や歪等の物理量が、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態の工程S62では、結合ポテンシャルP1の固有振動数fと異なる振動数が、高分子材料モデル11に設定される。これにより、本実施形態では、結合ポテンシャルP1の固有振動数fと、高分子材料モデル11に設定される振動数とが一致した状態で変形が計算されるのを防ぐことができ、計算の異常終了や計算精度の低下を確実に防止することができる。
このような作用を効果的に発揮させるために、高分子材料モデル11に設定される振動数は、結合ポテンシャルP1の固有振動数fの0.9倍以下、さらに好ましくは0.8倍以下が望ましい。または、振動数は、結合ポテンシャルP1の固有振動数fの1.1倍以上、さらに好ましくは1.2倍以上が望ましい。なお、いずれの振動数も、固有振動数の整数倍以外であるのが望ましい。
また、図7に示されるように、本実施形態では、空間9の一辺の長さL1が、粗視化モデル3の慣性半径Rgの2倍以上に設定されているため、粗視化モデル3が周期境界を跨いで重なるのを抑制でき、粗視化モデル3の運動を正しく表現する事ができる。従って、本実施形態の工程S62では、計算の異常終了や計算精度の低下を、より確実に防止することができる。このような作用を効果的に発揮させるために、空間9の一辺の長さL1は、粗視化モデル3の慣性半径Rgの2倍以上、さらに好ましくは4倍以上である。
次に、高分子材料モデル11の変形計算の結果に基づいて、コンピュータ1が、高分子材料モデル11のエネルギーロスを計算する(工程S8)。工程S8では、先ず、図13に示されるように、高分子材料モデル11の応力と、歪とから描かれる応力−歪曲線12が求められる。そして、応力−歪曲線12が描くヒステリシスループ12hの面積が計算されることにより、高分子材料モデル11のエネルギーロスが求められる。このようなエネルギーロスは、コンピュータ1に記憶される。
次に、コンピュータ1が、高分子材料モデル11のエネルギーロスが、許容範囲内であるかを判断する(工程S9)。この工程S9では、エネルギーロスが許容範囲内であると判断された場合、粗視化モデル3を含む高分子材料モデル11の条件等に基づいて、高分子材料が製造される(工程S10)。
一方、エネルギーロスが許容範囲内でないと判断された場合は、粗視化モデル3を含む高分子材料モデル11の諸条件を変更して(工程S11)、工程S4〜S9が再度行われる。このように、本実施形態の計算方法では、高分子材料のエネルギーロスが許容範囲内になるまで、粗視化モデル3を含む高分子材料モデル11の諸条件が変更されるため、所望の性能を有する高分子材料を、効率よく設計することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示される手順に従って、平衡状態の高分子材料モデル(図9に示す)の変形が計算され、高分子材料モデルのエネルギーロスが計算された(実施例)。実施例の変形計算工程では、高分子材料モデルに、振動数(0.482(1/τ))が設定された。この振動数は、粗視化モデルの結合ポテンシャルの固有振動数(4.82)の1/10の大きさである。
また、比較のために、結合ポテンシャルの固有振動数と同一の振動数(4.82(1/τ))が設定された高分子材料モデルの変形、及びエネルギーロスが計算された(比較例)。
そして、実施例及び比較例において、変形計算が途中で異常終了(計算落ち)するか否かが確認された。なお、各ポテンシャルのパラメータ等は、明細書中の記載通りであり、共通仕様は次のとおりである。
粗視化モデル:
粗視化粒子の個数:50個
慣性半径:2.89σ
空間:
1辺の長さL1(一対の平面間の距離D1):28.9σ
粗視化モデルの個数:500
テストの結果、実施例では、変形計算が途中で異常終了することなく、図13に示した応力−歪曲線を得ることができた。一方、比較例では、変形計算が途中で異常終了し、図13に示した応力−歪曲線を得ることができなかった。
さらに、高分子材料モデルに設定される振動数を種々異ならせて、高分子材料モデルの変形計算を行ったところ、固有振動数の0.8倍以下、又は固有振動数の1.2倍以上の振動数(いずれも、固有振動数の整数倍以外の振動数)が与えられた場合に、変形計算が途中で異常終了することなく、応力−歪曲線を確実に得ることができた。
11 高分子材料モデル
f 固有振動数

Claims (5)

  1. コンピュータを用いて高分子材料のエネルギーロスを計算する方法であって、
    前記コンピュータに、前記高分子材料の高分子鎖の二つ以上の炭素原子を、一つの粗視化粒子に置換した粗視化モデルを設定する工程と、
    前記コンピュータに、前記各粗視化粒子間に作用するポテンシャルを定義する工程、
    前記コンピュータに、前記粗視化モデルを予め定められた空間内に配置して高分子材料モデルを設定する工程、
    前記コンピュータが、予め定めた条件と前記ポテンシャルとに基づいて、前記高分子材料モデルの構造緩和を計算する工程、
    前記構造緩和の計算の後、前記コンピュータが、前記高分子材料モデルの変形を計算する変形計算工程、及び
    前記高分子材料モデルの変形計算の結果に基づいて、前記コンピュータが、前記高分子材料モデルの応力と歪とからエネルギーロスを計算する工程を含み、
    前記変形計算工程は、前記ポテンシャルの固有振動数を計算する固有振動数計算工程と、
    前記ポテンシャルの固有振動数とは異なる振動数を前記高分子材料モデルに設定して、前記高分子材料モデルの変形を計算する工程とを含むことを特徴とする高分子材料のエネルギーロスの計算方法。
  2. 前記構造緩和の計算は、前記空間において、圧力及び温度が一定、又は体積及び温度が一定の下で少なくとも10τ以上行われる請求項1に記載の高分子材料のエネルギーロスの計算方法。
  3. 前記空間の一辺の長さは、前記粗視化モデルの慣性半径の2倍以上である請求項1又は2に記載の高分子材料のエネルギーロスの計算方法。
  4. 前記粗視化モデルには、前記粗視化粒子間を結合するボンドが定義され、
    前記ポテンシャルは、前記ボンドに設定される結合ポテンシャルP1を含み、
    前記結合ポテンシャルP1は、下記式(1)で定義される斥力ポテンシャルRと、下記式(2)で定義される引力ポテンシャルGとの和(R+G)で定義される請求項1乃至3のいずれかに記載の高分子材料のエネルギーロスの計算方法。


    ここで、各定数及び変数は次のとおりである。
    ij:粗視化粒子間の距離
    1:粗視化粒子間のばね定数
    ε:粗視化粒子間に定義される斥力ポテンシャルRの強度に関する定数
    σ:粗視化粒子間に定義される斥力ポテンシャルRが作用する距離に関する定数(分子動力学の分野では、LJ球の直径と呼ばれる)
    0:伸びきり長
  5. 前記固有振動数計算工程は、下記式(3)で定義され、かつ前記結合ポテンシャルP1に近似するバネポテンシャルQ1を求める工程と、
    前記バネポテンシャルQ1のばね定数k2に基づいて、下記式(4)で定義される固有振動数fを計算する工程とを含む請求項4に記載の高分子材料のエネルギーロスの計算方法。


    ここで、各定数及び変数は次のとおりである。
    2:ばね定数
    x:粗視化粒子間の距離
    0:平衡長
    M:粗視化粒子の質量
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