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JP2014201459A - リン酸鉄リチウムの製造方法 - Google Patents

リン酸鉄リチウムの製造方法 Download PDF

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JP2014201459A JP2013076922A JP2013076922A JP2014201459A JP 2014201459 A JP2014201459 A JP 2014201459A JP 2013076922 A JP2013076922 A JP 2013076922A JP 2013076922 A JP2013076922 A JP 2013076922A JP 2014201459 A JP2014201459 A JP 2014201459A
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Tomoyuki Tawara
知之 田原
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Abstract

【課題】正極活物質材料を改良することで剥離強度上昇させたリチウムイオン二次電池正極材用リン酸鉄リチウム粒子を提供する。【解決手段】リン酸およびヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を準備する水溶液準備工程と、上記水溶液に、0.1〜2質量%の酸素を含有する鉄粒子を添加し、酸化雰囲気下で当該水溶液中の上記リン酸および上記ヒドロキシカルボン酸と上記鉄粒子とを反応させて第1反応液を作製する第1の作製工程と、上記第1反応液にリチウム源を添加して第2反応液を作製する第2の作製工程と、上記第2反応液に炭素源を添加して第3反応液を作製する第3の作製工程と、上記第3反応液を乾燥させてリン酸鉄リチウム前駆体を生成させる前駆体生成工程と、上記リン酸鉄リチウム前駆体を非酸化性雰囲気下で焼成してリン酸鉄リチウムを得る焼成工程と、を備える製造工程で得ることができる。【選択図】図1

Description

本発明は、リン酸鉄リチウムの製造方法(method for producing lithium iron phosphate)に関するものである。
携帯機器を中心に広く普及している二次電池である小型リチウムイオン電池は、負極活物質(negative active material)や電解液等の改良によって、性能向上が達成されてきた。その一方で、正極活物質(cathode active material)については、高価なレアメタルのコバルトを含むコバルト酸リチウム(LiCoO2)や三元系(LiNixCoyMnz;x+y+z=1)が主に利用されている。これらの活物質は、高価な上、熱的安定性や化学的安定性が十分とはいえず、約180℃を超える高温下では、酸素を放出して有機電解液を発火させる危険性があって、安全性に問題が残っている。
そのため、大型機器用途への展開を睨んだリチウムイオン電池を開発するには、従前のレアメタルを含む活物質よりも安価であるだけでなく、熱的、化学的に安定で安全性の高い正極活物質の開発が不可欠である。
現在、レアメタルを含む活物質に代わる新たな正極活物質として有力視されているのが、資源制約が少なくて毒性が低い上に安全性が高い鉄系活物質のオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4、以下、単に「リン酸鉄リチウム」という)である。
このリン酸鉄リチウムは、結晶構造中の強固なP−O結合によって約400℃までは酸素を放出しないことから、安全性の高い活物質であり、さらには、長期安定性や高速充電特性も良好な活物質である。
しかしながら、正極活物質にリン酸鉄リチウムを適用するに際しては、正極活物質に要求される特性である高速充放電特性(high-speed charge/discharge characteristic)を確保するために、リン酸鉄リチウムの電子伝導性を改善すること、およびリチウムイオンの拡散距離を短縮することが要求される。
かかる要求に対する解決策としては、リン酸鉄リチウム粒子の表面に導電性物質を被覆すると同時に、リン酸鉄リチウム粒子を約100nmの粒径に微細化して反応表面積を増大させることが有効とされている。また、リン酸鉄リチウム粒子に他元素をドープすることが、電子伝導性の改善や結晶構造の安定化に有効であるという報告もある。
そのため、上述したように、表面に導電性物質が被覆された微細なリン酸鉄リチウム粒子を低コストかつ安定的に生産する方法の開発が、正極活物質としてのリン酸鉄リチウムの実用化を図る上で重要となる。
そして、低コスト化を目的としたリン酸鉄リチウムの製造方法としては、鉄源として安価な鉄粒子(金属鉄、鉄粉等)を使用した方法が知られている。
例えば、特許文献1には、まず、金属鉄とリン酸イオンを遊離する化合物を水溶液中で反応させ、その後、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを加えてリン酸鉄リチウムの前駆体(precursor)を調製して乾燥し、この乾燥物を300〜450℃の温度範囲で一次焼成する。さらに、一次焼成後、熱分解により導電性炭素を生成する物質を加えて500〜800℃で二段目の焼成を行う方法が記載されている。
特許文献2には、鉄粉、リチウム塩およびリン酸基化合物をクエン酸水溶液中に溶解して前駆体を調製し、次いでこの前駆体を噴霧乾燥した後、500℃以上の温度で焼成する方法が記載されている。
特許文献3には、まず、リン酸とクエン酸(citric acid)を含む水溶液中で鉄粉末を反応させ、ついで水酸化リチウムを加えたのち、金属酸化物または焼成によって導電性酸化物に変化する金属塩を加え、前駆体を調製して乾燥し、最後にこの前駆体の乾燥物を焼成する方法が記載されている。
特許文献4には、リン酸とクエン酸(citric acid)を含む水溶液中、鉄粉末を酸化性雰囲気下で反応させ、ついで炭酸リチウムを加えたのち、炭素源を加えて前駆体を調製して乾燥し、最後にこの前駆体の乾燥物を焼成する方法が記載されている。
特許第4448976号公報 特許第4223463号公報 特開2007−305585号公報 特開2013−001605号公報
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、前駆体を調製する際に99.9%以上の純度の高い金属鉄をリン酸と反応させるため、難溶性の2価鉄化合物であるリン酸鉄(Fe3(PO42・8H2O)の凝集粒子が生成・成長し、溶液が白色〜淡青色を呈するクリーム状の高粘度物質となる。その結果、溶液の撹拌が不十分となって未反応の金属鉄が残存しやすい、また、原料が均一に混合されない等の支障をきたす。
なお、特許文献1には、未反応金属鉄の反応を促進するために、塩酸、シュウ酸等の酸を添加することも開示されている。しかし、塩酸を添加する場合には、生成物が酸化されやすく、また、シュウ酸を添加する場合は、安定なシュウ酸鉄が単体で沈殿物として生成する等、均一な前駆体を調製することが難しい。
加えて、特許文献1に記載された方法では、焼成を2回行う必要があるため工程数が多くなる。
また、特許文献2に記載された方法は、鉄粉の溶解を、リチウム塩およびリン酸基化合物が共存するクエン酸水溶液中で行う方法であって、溶解に長時間を要するため経済的ではない上に、有機酸または混合有機酸で鉄を酸化して有効な2価鉄を生成させる必要がある一方で、単に原料を混合するだけでは2価鉄を安定して存在させることは難しいという問題がある。
そして、特許文献2に記載された方法において、リチウム塩が硝酸リチウムである場合には、硝酸イオンが焼成時に酸化剤として作用してしまうという問題があり、またリチウム塩が酢酸リチウムである場合には、原料が高価であるため、低コスト化を図る上で問題がある。
さらに、特許文献3に記載された方法では、鉄粉末がリン酸と反応する際にクエン酸がキレート剤として有効に作用していないため、前駆体中の鉄が3価まで酸化されて3価の鉄化合物であるリン酸第二鉄が生成してしまうという問題がある。
加えて、特許文献4に記載された方法では、前駆体中の鉄が2価の化合物の状態で存在するものの、噴霧乾燥で形成される造粒粉は凹みや空洞のある変形粒子となるために、電極中の充填性および電極塗工性が悪いという問題がある。
上述したように、リン酸鉄リチウムの製造方法として、鉄源に鉄粒子を使用する場合、従来技術では鉄粒子の反応を十分に制御できないか、また、制御できる場合であっても、噴霧乾燥工程において造粒粉が変形してしまうため、電極中の充填性および電極塗工性に問題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたものであり、鉄粒子の反応を制御することによって、原子レベルで均一に混合し、かつ中実球形のリン酸鉄リチウム前駆体の造粒粉を調製し、さらに安価かつ放電容量の優れたリン酸鉄リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、正極活物質として高性能な放電容量の高いリン酸鉄リチウムを安価な鉄粒子原料より製造する上では、該鉄粒子とリン酸とを反応させる際にヒドロキシカルボン酸(hydroxyl carboxylic acid)を共存させるだけでなく、酸化雰囲気中で反応を行うことによって、鉄粒子表面に化学結合した酸素を補給し続けることが有効であることを知見した。
また、上記反応によって水溶液中に均一に分散するリン酸鉄のキレート体が得られた際、続いてリチウム源を添加すると、原料が原子レベルで均一に混合されたリン酸鉄リチウムの前駆体が得られることを知見した。
加えて、上記のリン酸鉄リチウム前駆体の溶液に分散剤を加えることで、噴霧乾燥後の造粒粉が中実球形化し、最後に非酸化性雰囲気下で焼成することによって放電容量の高いリン酸鉄リチウムを製造できることを知見した。なお、リン酸鉄リチウムの粒子間の導電パスを補完するために、リン酸鉄リチウム前駆体の溶液に導電材を添加することもできる。
すなわち、本発明は、以下の1〜5を提供する。
1.リン酸およびヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を準備する水溶液準備工程と、
前記水溶液に、0.1〜2質量%の酸素を含有する鉄粒子を添加し、酸化雰囲気下で該水溶液中の前記リン酸および前記ヒドロキシカルボン酸と、前記鉄粒子とを反応させて第1反応液を作製する第1の作製工程と、
前記第1反応液に、リチウム源を添加して第2反応液を作製する第2の作製工程と、
前記第2反応液に、ポリアクリル酸および/またはナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアンモニウム塩である分散剤を添加して第3反応液を作製する第3の作製工程と、
前記第3反応液を噴霧乾燥して、リン酸鉄リチウム前駆体の造粒粉を生成させる前駆体生成工程と、
前記リン酸鉄リチウム前駆体を非酸化性雰囲気下で焼成して、リン酸鉄リチウムを得る焼成工程と、
を備えるリン酸鉄リチウムの製造方法。
2.前記第3反応液に、さらに導電材および/または導電材前駆体を添加する前記1に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
3.前記分散剤の添加量が、前記第3反応液中、0.1〜2質量%である前記1または2に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
4.前記導電材および/または導電材前駆体の添加量が、前記第3反応液中、0.1〜2質量%である前記1〜3のいずれかに記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
5.前記リン酸鉄リチウムが、二次電池用正極活物質である、前記1〜4のいずれかに記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
本発明によれば、安価で放電容量に優れ、かつ電極中の充填性に優れる球形状のリン酸鉄リチウム粉の製造方法を提供することができる。
発明例1および比較例1におけるリン酸鉄リチウム粉末(造粒粉)の電子顕微鏡写真である。
本発明のリン酸鉄リチウムの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)は、リン酸およびヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を準備する水溶液準備工程と、この水溶液に、0.1〜2質量%の酸素を含有する鉄粒子を添加し、酸化雰囲気下で当該水溶液中の上記リン酸および上記ヒドロキシカルボン酸と上記鉄粒子とを反応させて第1反応液を作製する第1の作製工程と、上記第1反応液にリチウム源を添加して第2反応液を作製する第2の作製工程と、上記第2反応液に分散剤を添加して第3反応液を作製する第3の作製工程と、上記第3反応液を噴霧乾燥させてリン酸鉄リチウム前駆体の造粒粉を生成させる前駆体生成工程と、上記リン酸鉄リチウム前駆体の造粒粉を非酸化性雰囲気下で焼成してリン酸鉄リチウムを得る焼成工程と、を備えるリン酸鉄リチウムの製造方法である。
以下、本発明の製造方法について、詳細に説明する。
[水溶液準備工程]
水溶液準備工程は、リン酸およびヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を準備する工程である。水溶液準備工程で準備される水溶液に含まれるリン酸およびヒドロキシカルボン酸の詳細は後述する。なお、当該水溶液に含まれる水としては、特に限定されず、例えば、イオン交換水や、蒸留水が好適に用いられる。
[第1の作製工程]
第1の作製工程は、水溶液準備工程で準備された水溶液に、0.1〜2質量%の酸素を含有する鉄粒子(iron particles)を添加し、酸化雰囲気下で当該水溶液中のリン酸およびヒドロキシカルボン酸と鉄粒子とを反応させて第1反応液を作製する工程である。
第1の作製工程においては、0.1〜2質量%の酸素を含有する鉄粒子を、リン酸およびヒドロキシカルボン酸を含む水溶液に添加し、酸化雰囲気中で反応させることにより、リン酸鉄のキレート体が形成される。
鉄粒子としては、例えば、鉄粉を用いることができ、鉄粉の具体例としては、ミルスケール(酸化鉄)をコークスで還元した還元鉄粉、溶鋼を高圧水で粉化して冷却したアトマイズ鉄粉、鉄塩水溶液を電気分解して陰極に析出させた電解鉄粉等が挙げられる。
鉄粉の平均粒径は、後に続くリン酸およびヒドロキシカルボン酸との反応を促進してリン酸鉄のキレート体を形成する上で有利であることから、100μm以下であることが好ましく、30〜80μmであることがより好ましい。なお、平均粒径は、JIS M 8706に準拠して求める。
通常の一般工業用鉄粉の平均粒径は70〜80μmであるが、最大粒径が150〜180μmの粒子も含まれるため、必要に応じて篩いにより粗粒を除去したり、機械式粉砕で粗粒を微細化したりする等、反応面積を大きくして使用したほうがよい。
なお、本明細書においては、本発明で用いられる「鉄粒子」を適宜、「鉄」、「金属鉄」または「鉄粉」と呼ぶ場合がある。
本発明において、鉄粒子が含有する酸素とは、鉄に化学結合した酸素を意味する。鉄粒子の酸素含有量を0.1〜2質量%、好ましくは0.6〜2質量%とすることにより、反応初期におけるリン酸鉄キレート体の形成が促進される。
これに対して、鉄粒子の酸素含有量が0.1質量%未満である場合は、金属鉄とリン酸との直接反応が優先して、難溶性の2価鉄化合物であるリン酸鉄(Fe3(PO42・8H2O)の凝集粒子が生成・成長しやすくなる。そのため、水溶液が、白色〜淡青色を呈するクリーム状の高粘度物質となる場合がある。その結果、水溶液の撹拌が不十分となって、未反応の金属鉄が残存し易い、また原料が均一に混合されない等の支障をきたす。
一方、鉄粒子の酸素含有量が2質量%を超えると、鉄粉表面に酸化鉄のスケールが偏析するため、リン酸とヒドロキシカルボン酸の水溶液との反応が妨げられる。
鉄粒子の酸素含有量は、例えば、ミルスケール(酸化鉄)をコークスで還元しただけの還元鉄粉や、溶鋼を高圧水で粉化、冷却後に乾燥しただけのアトマイズ鉄粉の場合、0.5〜1.5質量%である場合が多い。また、この鉄粒子を水素還元した場合の酸素含有量は0.1〜0.4質量%となる場合が多い。
本発明に使用する鉄粒子は、高価な水素還元処理した鉄粒子を特に必要としない。
なお、鉄粒子の酸素含有量は、JIS Z 2613(1992年)真空融解赤外線吸収法に準拠し、LECO社製TC436を用いて定量したものである。
リン酸およびヒドロキシカルボン酸を含む水溶液に鉄粒子を添加して反応させる際の雰囲気は、酸化雰囲気とする必要がある。
キレート体が形成される反応(以下「キレート反応」ともいう)が進んで鉄粒子表面の酸素が消費されると、キレート反応は持続できず、金属鉄とリン酸イオンとの直接反応が優先して難溶性のリン酸鉄の凝集粒子が生成・成長してしまう。
そこで、本発明では、上記反応時の雰囲気を酸化雰囲気とすることにより、鉄粒子表面を適度に酸化して鉄粒子に化学結合した酸素を補給し、キレート反応を持続させる。
本発明における酸化雰囲気とは、水溶液中の鉄粒子の表面を適度に酸化できる状態であり、この状態は、例えば、水溶液の界面を酸素含有ガスと接触させる方法、水溶液中に酸素含有ガスを吹き込む方法等により実現され、これらの方法における具体的な操作としては、例えば、空気雰囲気下での撹拌や、空気のバブリングによる酸素の供給等が挙げられる。
リン酸は、オルトリン酸(H3PO4)の水溶液であるのが好ましいが、高次の縮合リン酸(Hn+2n3n+1)の水溶液を用いることも可能である。オルトリン酸は、通常、工業製品である75〜85質量%の水溶液として、入手できる。
リン酸の添加量は、鉄:1molに対して1molが化学量論的当量であるが、0.1mol程度過剰に添加してもよい。
ヒドロキシカルボン酸は、1分子中に水酸基およびカルボキシ基を有するカルボン酸であり、リン酸鉄のキレート体を形成する際のキレート剤として機能する。
本発明において用いられるヒドロキシカルボン酸としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸であり、例えば、鉄に対するキレート力の強いグリコール酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸およびクエン酸等が挙げられ、なかでも、キレート力が強く、かつ、酸化されにくいキレート体を形成するクエン酸が好ましい。サリチル酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸は、形成するキレート体の親水性を低下させるため、キレート体の生成反応の持続性が低下してしまうため、好ましくない。
ヒドロキシカルボン酸は、焼成時に残炭するため、還元剤としても機能する。かかる機能を発揮すべく、本発明においては、ヒドロキシカルボン酸の残炭率を3質量%以上とするのが好ましい。残炭率が3質量%未満であると、得られるリン酸鉄リチウム前駆体が雰囲気中の微量な酸素で酸化されてしまう場合があるからである。また、残炭率が20質量%を超えると焼成後の残炭量が過剰となることから、残炭率は20質量%以下とするのが好ましい。
ここに、ヒドロキシカルボン酸の残炭率としては、グリコール酸:6質量%、グルコン酸:20質量%、乳酸:3質量%、酒石酸:4質量%、リンゴ酸:3質量%およびクエン酸:5質量%である。
なお、本発明における「残炭率」とは、焼成後に残留する炭素をJIS G 1211(1995年)高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法に準拠して定量し、元のヒドロキシカルボン酸量で除して得られた値である。
ヒドロキシカルボン酸の添加量は、焼成後のリン酸鉄リチウムに含まれる炭素量が1〜5質量%になるように、前記鉄粒子中の鉄1molに対して0.1〜0.5molが好ましく、0.15〜0.3molがより好ましい。
上記炭素量が1質量%未満である場合には、リン酸鉄リチウムの導電性が不十分となる場合があり、正極活物質としてのリン酸鉄リチウム粒子の性能を十分に引き出すことができないおそれがある。一方、上記炭素量が5質量%超である場合には、見かけ上の放電容量が低下する場合がある。
すなわち、炭素源の添加量が上記範囲内であれば、リン酸鉄リチウムの導電性が十分となり、見かけ上の放電容量も良好となる。
上記ヒドロキシカルボン酸の添加量が0.1mol未満の場合は、ヒドロキシカルボン酸によるキレート化の効果が小さくなるため、金属鉄とリン酸イオンとが直接反応して難溶性のリン酸鉄の凝集粒子が生成・成長し、水溶液が白色〜淡青色を呈するクリーム状態の高粘度物質となってしまい、その結果、水溶液の撹拌が不十分となり、未反応の金属鉄が残存しやすい、また原料が均一に混合されない等の支障をきたす場合がある。
上記添加量が0.5molを超える場合には、形成されるリン酸鉄のキレート体が水溶液中に均一に分散する(原料が均一に混合される)ものの、焼成後の残炭量が過剰となり、その結果、最終的に得られるリン酸鉄リチウムの見かけ上の放電容量が低下する場合がある。これに対し、上記添加量が上記範囲内であれば、未反応の金属鉄が残存しにくくなり、原料が均一に混合され、また、得られるリン酸鉄リチウムの見かけ上の放電容量が良好になる。
第1の作製工程のキレート反応においては、水溶液温度が10〜40℃であるのが好ましく、20〜30℃がより好ましい。
水溶液温度を10〜40℃の範囲に制御すると、上記キレート反応により鉄粒子表面の酸素が消費され、続いて新たに現れた鉄粒子表面が水溶液中の溶存酸素や空気バブル等と接触することにより適度に酸化されることで、連続的にリン酸鉄のキレート体を形成させることが可能となる。
これに対して、水溶液温度が10℃未満である場合には、鉄粒子のキレート反応が遅くなり、完全に反応が終了するまでに長時間を要する場合がある。
一方、水溶液温度が40℃を超える場合には、酸素が消費された鉄粒子表面に酸素を補うための酸化が追いつかず、そのため、金属鉄とリン酸との直接反応が優先して難溶性のリン酸鉄の凝集粒子が生成・成長し、水溶液が白色〜淡青色を呈するクリーム状の高粘度物質となってしまう場合があるからである。
本発明においては、リン酸およびヒドロキシカルボン酸を含む水溶液に鉄粒子を添加し、酸化雰囲気に晒すことによって、鉄粒子表面に存在する酸素または水酸基を介してヒドロキシカルボン酸が鉄とキレート化すると共に、リン酸が鉄を酸化して結合するが、特に、ヒドロキシカルボン酸がクエン酸の場合、以下の化学式(1)で表されるリン酸鉄のキレート体が形成されることで、このキレート体が均一に分散した第1反応液が得られるものと推測される。
[第2の作製工程]
第2の作製工程は、第1の作製工程で作製された第1反応液にリチウム源を添加して第2反応液を作製する工程である。
第2の作製工程では、上記化学式(1)で表されるキレート体が均一に分散した第1反応液にリチウム源を添加することによって、原料が原子レベルで均一に混合されたリン酸鉄リチウムの前駆体が得られる。
第1反応液に添加するリチウム源としては、水溶性のリチウム塩であれば特に限定されないが、焼成時に有害ガスを発生しないという理由から、水酸化リチウム、炭酸リチウムが好ましい。
第1反応液にリチウム源を添加すると、反応液は濃緑色に変化し、pH6〜7を示す第2反応液が得られる。また、この第2反応液を乾燥した乾燥物についてX線回折分析を行うと、結晶質の化合物は検出されず、原子レベルで均一に混合したキレート体に起因するアモルファス相が確認される。
第1反応液にリチウム源を添加して第2反応液を作製すると、上記化学式(1)で表されるキレート体のカルボキシ基の水素の一部がリチウムに置換され、特に、ヒドロキシカルボン酸がクエン酸の場合、以下の化学式(2)で表されるリン酸鉄リチウムのキレート体が生成されるものと推測される。
このリン酸鉄リチウムのキレート体は、第2反応液中に分散して存在するが、キレート体の一部が凝集粒子として存在し、沈殿物となってしまう場合がある。
このような場合には、後の工程で行われる乾燥の前に、前駆体溶液の均一化を図るため、凝集粒子を湿式で機械粉砕して微細化することが望ましい。なお、湿式粉砕方法としては、例えば、超音波照射、湿式ジェットミル、ビーズミル等による方法が挙げられる。
[第3の作製工程]
第3の作製工程は、第2作製工程で作製された第2反応液に分散剤を添加して第3反応液を作製する工程である。
第2反応液に添加する分散剤としては、ポリアクリル酸および/またはナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアンモニウム塩である。
分散剤は前駆体粒子の表面に吸着して、粒子間に電荷または立体的な反発を発生させることで粒子間の距離が一定に保たれるように作用するため、後述の噴霧乾燥時に液滴中の粒子の偏りが抑制されて球形に造粒される。そのため、分散剤の分子量は、分散させる粒子サイズがサブミクロンであることから、1000〜10000の範囲が好ましく、3000〜6000の範囲がより好ましい。また、上記分散剤は、第3反応液中、0.1〜2質量%添加することが好ましい。かかる範囲を満足することで、乾燥造粒粉が球形化するからである。
本発明では、前記第3反応液に、導電材および/または導電材前駆体を添加することができる。その際、導電材および/または導電材前駆体は、第3反応液中、合計で0.1〜2質量%添加することができる。かかる範囲を満足することで粒子間の導電性が増大するからである。
前記第3反応液に添加する導電材は、リン酸鉄リチウムの粒子間の導電パスを補完することを目的にカーボンブラック、カーボンナノチューブ、および黒鉛からなるグループから選択された少なくとも一つを用いることができ、添加する際の形態としては水分散体であることが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを用いることができ、カーボンナノチューブとしては、シングルウォール型、マルチウォール型などを用いることができ、黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛などを用いることができる。
また、前記第3反応液に添加する導電材前駆体は、セルロースナノファイバー、アラミドナノファイバー等の有機物ナノファイバーから選択された少なくとも一つを用いることができ、添加する際の形態としては水分散体であることが好ましい。
[前駆体生成工程]
前駆体生成工程は、第3の作製工程で作製された第3反応液を噴霧乾燥させてリン酸鉄リチウム前駆体の造粒粉を生成させる工程である。
第3反応液の乾燥造粒粉であるリン酸鉄リチウム前駆体は、球形状であり、その粒径は特に限定されないが、取扱いのしやすさの観点から、5〜30μmが好ましい。
第3反応液を乾燥させる方法としては、乾燥効率が良好であるという理由から、噴霧乾燥法を採用する。噴霧乾燥法は、高温加熱空気中に試料溶液を噴霧して乾燥する方法であるため、形状の揃った造粒粉末を得ることができるからである。
ここで、乾燥造粒粉の粒径は、溶液の固形分濃度、噴霧方法として回転ディスク式やノズル式の選択により調整することができる。噴霧乾燥法に用いられるスプレードライ装置の入口温度(加熱空気温度)は100〜250℃とすることが好ましい。入口温度を100〜250℃にすれば、生成する乾燥物の到達温度は、送液量とのバランスにも依存するが、80〜150℃となって、上記所望の形状が得られるからである。
[焼成工程]
焼成工程は、前駆体生成工程で生成したリン酸鉄リチウム前駆体(造粒粉)を非酸化性雰囲気下で焼成してリン酸鉄リチウムを得る工程である。
前駆体生成工程で生成したリン酸鉄リチウム前駆体を、非酸化性雰囲気下で焼成することによって、リン酸鉄リチウム前駆体に含まれる水酸基および有機物が熱分解によりH2O,CO2,H2および炭化水素として除去され、アモルファス相を有する乾燥物が結晶化して、オリビン構造であるリン酸鉄リチウムの結晶体に変化すると共に、熱分解炭素がリン酸鉄リチウムの粒子表面に析出する。
なお、非酸化性雰囲気下とは、例えば、酸素濃度が1000ppm以下の窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、水素や一酸化炭素などの還元性ガスを含む還元性ガス雰囲気下等のことをいう。焼成を非酸化性雰囲気下で行うのは、酸化を防止するためである。
焼成工程における焼成の温度(焼成温度)は、300℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、600〜800℃がさらに好ましい。
焼成温度が300℃未満の場合には、揮発成分であるH2O,CO2,H2および炭化水素の熱分解除去が不十分となる場合だけでなく、結晶化が生じない場合もある。一方、焼成温度が800℃を超えると、得られる結晶粒子の粗大化が進行し、Fe2Pなどの副生成物が生成する場合があるからである。
しかし、焼成温度が上記範囲内であれば、揮発成分の熱分解除去および結晶化が十分に進行し、また、結晶粒子の粗大化やFe2Pなどの副生成物の生成も抑制される。
リン酸鉄リチウム前駆体を非酸化性雰囲気下で焼成して得られるリン酸鉄リチウムの一次粒径は、リチウムイオンの拡散距離を短縮するという理由から、200nm以下が好ましく、50〜150nmがより好ましい。一次粒径とは、結晶粒子径のことで結晶の最小単位である。
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、原料が原子レベルで均一に混合されたリン酸鉄リチウム前駆体の溶液(第2反応液)が得られ、この溶液に分散剤を加え、噴霧乾燥後、非酸化性雰囲気下で焼成することによって放電容量の高い中実球形状のリン酸鉄リチウムを製造することができる。
そして、正極活物質には高速充放電特性が要求されるが、本発明の製造方法により得られるリン酸鉄リチウムは、放電容量が高いため、リチウムイオン電池等の二次電池用正極活物質として好適に用いられる。なお、本発明においては、安価な鉄粒子が使用されているため、低コスト化も実現されている。
さらに、本発明では、導電材または導電材前駆体を加えて、噴霧乾燥後、非酸化性雰囲気下で焼成することによって、導電パスが補完され、より放電容量の高い中実球形状のリン酸鉄リチウムを製造することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔発明例1〕
蒸留水:2000gに、85質量%のリン酸:10molおよびクエン酸一水和物:2molを溶解し、この混合溶液に鉄粉(JFEスチール社製、酸素含有量:0.68質量%、平均粒径:80μm):10molを添加して、液温:20℃、空気バブリング下で撹拌しながら1日間反応させた。次いで、炭酸リチウム:5molを加えてリン酸鉄リチウムとし、最後に、分散剤としてポリアクリル酸(和光純薬工業社製、分子量:5000):8gを加えて前駆体溶液を調製した。
この前駆体溶液を、スプレードライヤ(大川原化工機社製NL5)を用いて、入口温度:200℃で乾燥し、SEM観察による平均粒径が約12μmの乾燥造粒粉を得た。この乾燥造粒粉を窒素気流中にて、750℃×5hの焼成を施し、最後に目開き45μmで篩い、リン酸鉄リチウムを調製した。
なお、鉄粉の酸素含有量は、LECO社製TC436を用いて定量した。
〔発明例2〕
上記クエン酸一水和物に代えて、乳酸:2molを使用したこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
〔発明例3〕
上記クエン酸一水和物に代えて、リンゴ酸:2molを使用したこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
〔発明例4〕
上記クエン酸一水和物に代えて、酒石酸:2molを使用したこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
〔発明例5〕
上記クエン酸一水和物に代えて、クエン酸1水和物:1.8molおよびグルコン酸:0.02molを使用したこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
〔発明例6〕
前記鉄粉に代えて、鉄粉(JFEスチール社製、酸素含有量:0.41質量%、平均粒径:80μm)を使用したこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
〔発明例7〕
前記分散剤のポリアクリル酸に代えて、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物アンモニウム塩水溶液(サンノプコ製、40質量%):20gを使用したこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
〔発明例8〕
前記前駆体溶液に、導電材の黒鉛分散液(溶媒:水、分散剤:ポリアクリル酸、平均粒径:0.8μm、黒鉛濃度:10質量%):80gを加えたこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
〔比較例1〕
分散剤を添加しなかったこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
〔比較例2〕
分散剤として分子量が13000のポリアクリル酸アンモニウムを添加したこと以外は、発明例1と同様にして、リン酸鉄リチウムを調製した。
発明例1〜8および比較例1〜2において調製された各々のリン酸鉄リチウムについて、X線回折分析による同定分析(生成相の同定)、および、炭素の定量を行った。また、各々のリン酸鉄リチウムの造粒粉について、SEMにて形状および粒子径を測定した。なお、粒子径は、それぞれの試験ごとに、SEM画面(0.04mm×0.12mmを1000倍で観察したもの)から任意に10個ずつ選んで、計測した。
X線回折分析は、Rigaku社製UltimaIV(X−Ray:Cu−Kα1)を使用して行った。炭素の定量は、HORIBA社製EMIA620を使用し、リン酸鉄リチウムの炭素含有量を定量した。上記同定分析、炭素量、粒子の形状および粒径の測定結果を、表1に示す。
さらに、発明例1〜8および比較例1〜2において調製された各々のリン酸鉄リチウムについて、次の方法により放電容量を測定した。
アルミ箔の集電体に、リン酸鉄リチウム:VGCF:ポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KFL#1320)=86:4:10(質量比)のペーストを10mg/cm2塗布し、80kNでプレスして、正極を作製した。負極は金属リチウムを用いてハーフセル(宝泉製)を組み立てた。電解液は、1M−LiPF6/EC(エチレンカーボネート):EMC(エチルメチルカーボネート)=3:7(質量比)を使用した。測定条件は、定電流充電を0.2mA/cm2で4.0Vまで行った後、定電流放電を0.2mA/cm2で2.5Vまで行い、放電容量を求めた。
上記測定結果を、表1に併記する。
表1から明らかなように、発明例1〜8においては、いずれも炭素量が1.7〜2.3質量%であり、中実球形で粒子径が12〜15μmであって、電極密度が2.1g/cmであり、かつ放電容量の高いオリビン型リン酸鉄リチウムが得られた。
さらに、図1に、発明例1と比較例1の外観と断面のSEM(電子顕微鏡)写真を示す。
同図から、本発明に従うリン酸鉄リチウム粉末は、球形状であってかつ中実であることが分かる。
これに対し、比較例1〜2においては、電極密度が低く、十分な放電容量を有するリン酸鉄リチウムが得られなかった。これは、比較例1〜2において、図1に示したように造粒粉が変形しているため、それにより形成された電極膜が不均一になっているからと推測される。

Claims (5)

  1. リン酸およびヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を準備する水溶液準備工程と、
    前記水溶液に、0.1〜2質量%の酸素を含有する鉄粒子を添加し、酸化雰囲気下で該水溶液中の前記リン酸および前記ヒドロキシカルボン酸と、前記鉄粒子とを反応させて第1反応液を作製する第1の作製工程と、
    前記第1反応液に、リチウム源を添加して第2反応液を作製する第2の作製工程と、
    前記第2反応液に、ポリアクリル酸および/またはナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアンモニウム塩である分散剤を添加して第3反応液を作製する第3の作製工程と、
    前記第3反応液を噴霧乾燥して、リン酸鉄リチウム前駆体の造粒粉を生成させる前駆体生成工程と、
    前記リン酸鉄リチウム前駆体を非酸化性雰囲気下で焼成して、リン酸鉄リチウムを得る焼成工程と、
    を備えるリン酸鉄リチウムの製造方法。
  2. 前記第3反応液に、さらに導電材および/または導電材前駆体を添加する請求項1に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
  3. 前記分散剤の添加量が、前記第3反応液中、0.1〜2質量%である請求項1または2に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
  4. 前記導電材および/または導電材前駆体の添加量が、前記第3反応液中、0.1〜2質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
  5. 前記リン酸鉄リチウムが、二次電池用正極活物質である、請求項1〜4のいずれかに記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
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