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JP2010242123A - 被削性に優れた機械構造用鋼 - Google Patents

被削性に優れた機械構造用鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】ハイス工具における低速での断続切削(例えばホブ加工)において優れた被削性(特に工具寿命)を発揮することのできる機械構造用鋼を提供する。
【解決手段】機械構造用鋼において、C:0.05〜0.8%、Si:0.03〜2%、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.006〜0.03%、Al:0.1〜0.5%、N:0.002〜0.015%、O:0.003%以下(0%を含まない)を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、円相当径が2μm以上である介在物が鋼断面の1平方ミリメートル(mm)あたり30個以下(0を含まない)であり、そのうち、酸化物と硫化物の複合介在物であって、(酸化物の質量)/(硫化物の質量)≦0.6を満たすものの個数比を50%以上とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、切削加工が施される機械部品を製造するための機械構造用鋼に関するものであり、特に、ホブ加工のような低速の断続切削で優れた被削性を有する機械構造用鋼に関するものである。
自動車用変速機や差動装置をはじめとする各種歯車伝達装置へ利用される歯車、シャフト、プーリや等速ジョイント等、さらにはクランクシャフト、コンロッド等の機械構造用部品は、鍛造等の加工を施した後、切削加工を施すことによって最終形状に仕上げられるのが一般的である。この切削加工に要するコストは製作費に占める割合が大きいことから、上記機械構造部品を構成する鋼材は被削性が良好であることが要求される。そのため、従来から被削性を改善するための技術が開示されている。
たとえば、Pbを添加することや、Sを添加してMnSを生成させることが代表的であるが、Pbは人体に有害であるため使用が規制されてきており、Sは硫化物に起因する機械的特性の劣化が問題となる部品では使用に限界がある。また、特に歯車などの切削加工においては、ホブによる歯切りが行われるのが一般的であるが、この場合の切削は、所謂旋削などの連続切削とは異なり、断続切削とよばれる様式であり、ホブ切りにおいて被削性を改善する鋼材はほとんど実用化されていないのが現状である。ホブとして用いられる工具素材はハイスでTiAlNなどのコーティングを施してあるのが一般的である。この場合、比較的低速での加工で切削と空転を繰り返して工具表面が酸化されながら磨耗することが知られている。
断続切削性を改善する方法として、特許文献1において、Al:0.04〜0.20%、O:0.0030%以下を含有させることによって、高速(切削速度:200m/min以上)での断続切削(工具寿命)に優れた鋼材が記載されている。
特許文献2には、C:0.05〜1.2%、Si:0.03〜2%、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:0.1〜3%、Al:0.06〜0.5%、N:0.004〜0.025%、O:0.003%以下を夫々含有すると共に、Ca:0.0005〜0.02%およびMg:0.0001〜0.005%を含有し、鋼中の固溶N:0.002%以上であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、且つ、(0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150を満足する機械構造用鋼が記載されている。
特許文献3には、鋼中に存在する酸化物系介在物が、該酸化物系介在物の平均組成合計を100%としたときに、CaO:15〜60%、SiO2:20%以下(0%を含まない)、Al23:20〜80%、MgO:40%以下(0%を含まない)を夫々含有すると共に、Li2O,Na2O,K2O,BaO,SrOおよびTi酸化物よりなる群から選ばれる1種以上の合計含有量が0.5〜20%である機械構造用鋼が記載されている。
特許文献4には、鋼の成分組成として、Al及びその他の窒化物生成元素とNの添加量調整をすると共に、適切な熱処理を付与することにより、被削性と衝撃特性に有害な固溶Nを抑え、また、高温脆化により被削性を向上させる固溶Al、及び高温脆化効果とへきかい性の結晶構造とにより被削性を向上させるAlN を適量確保することにより、低速から高速までの切削速度域に対して良好な切削性能を示し、また、Al添加量を高めることにより、従来のAlキルド鋼に比べて鋳片段階での偏析が小さく、均一分散性の高いMnS(SIMSの分類によるIII型MnS)を多くして、高衝撃特性を併せ持つ機械構造用鋼が記載されている。
特開2001−342539号公報 特許第4193998号公報 特開2009−7643号公報 特開2008−13788号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載された鋼材では、低速(例えば切削速度150m/min程度)での断続切削については対象としていない。また、Alの含有量が増えると熱間での延性が低下し、熱間鍛造等において割れが発生しやすくなるなどの問題が生じてくる。
また、特許文献2および3では、酸化物系介在物に着目したものであるが、酸化物系介在物は、一般的には連続切削性を劣化させる作用があり、実際のところ、酸化物系介在物の制御によって機械構造用鋼の連続切削性と断続切削性の両方をバランスさせることは難しい。
また、特許文献4では、AlN を適量確保することにより、機械構造用鋼の被削性を向上させることが記載されているが、機械構造用鋼の連続切削性と断続切削性の両方を向上させるものではない。
本発明は前記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、機械的特性の低下を伴うS添加量の増加により被削性の向上を図るのではなく、また、CaおよびMgの添加によるものでもなく、熱間加工性等の製造性を確保しつつ、ハイス工具における低速での断続切削(例えばホブ加工)において優れた被削性(特に工具寿命)を発揮することのできる機械構造用鋼を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明の機械構造用鋼とは、
C:0.05〜0.8%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.03〜2%、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.006〜0.03%、Al:0.1〜0.5%、N:0.002〜0.015%、O:0.003%以下(0%を含まない)を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、鋼断面に現れる円相当径2μm以上の介在物が1平方ミリメートル(mm)あたり30個以下(0を含まない)であり、そのうち、酸化物と硫化物の複合介在物であって下記式(1)を満たすものが個数比で50%以上存在するものである。
但し上記式(1)において、酸化物の質量も硫化物の質量も、鋼断面に現われている部分のみを計算の対象とする。
上記機械構造用鋼において、必要に応じ、Cr:3%以下(0%を含まない)、或いはMo:1.0%以下(0%を含まない)、或いはNb:0.15%以下(0%を含まない)、或いはZr:0.02%以下(0%を含まない)とHf:0.02%以下(0%を含まない)とTa:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、或いはV:0.5%以下(0%を含まない)とCu:3%以下(0%を含まない)とNi:3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、或いはCa:0.005%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.005%以下(0%を含まない)、或いはTi:0.05%以下(0%を含まない)および/またはB:0.008%以下(0%を含まない)をさらに含有していてもよい。
本発明によれば、Alを比較的多く添加した機械構造用鋼において、酸化物と硫化物の複合介在物であって、硫化物の存在割合が酸化物に対して一定以上あるものを増やすことにより、機械構造用鋼としての強度特性を満足しつつ、ハイス工具での断続切削および超硬工具での連続切削の両方で優れた被削性(特に、工具寿命)を発揮する機械構造用鋼を得ることができる。
図1は、走査型電子顕微鏡で観察した本発明の機械構造用鋼の断面像である。 図2は、連続切削試験時の平均逃げ面磨耗幅をグラフで示したものである。
本発明者らは、低速での断続切削における被削性を向上させるべく、様々な角度から検討した。その結果、Alを多めに添加している機械構造用鋼では、硬質の酸化物系介在物(主にアルミナ)が多量に生成して連続切削性を低下させるが、この酸化物を一定量以上の硫化物と複合化させることによってその悪影響を最小限に抑えることができることを見出し、本発明を完成した。本発明で規定する機械構造用鋼の化学成分組成の範囲限定理由は次の通りである。
[C:0.05〜0.8%]
Cは、機械構造部品として必要な強度を確保するために必須の元素であるため、0.05%以上とする必要がある。しかしながら、C含有量が過剰になると、硬さが上昇しすぎて、被削性や靭性が低下するので、0.8%以下とする必要がある。尚、C含有量の好ましい下限は0.10%(より好ましくは0.15%)であり、好ましい上限は0.6%(より好ましくは0.5%)である。
[Si:0.03〜2%]
Siは、脱酸元素として鋼材の内部品質を向上させるのに有効な元素であり、こうした効果を有効に発揮させるためには、Si含有量は0.03%以上とする必要があり、好ましくは0.07%以上(さらに好ましくは0.1%以上)とすることが望ましい。また、Si含有量が過剰になると、浸炭時の異常組織が生成したり、熱間および冷間加工性を損ねるため、2%以下とする必要があり、好ましくは1.7%以下(さらに好ましくは1.5%以下)とするのが良い。
[Mn:0.2〜1.8%]
Mnは、焼入れ性を向上させて鋼材の強度向上のために有効な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、0.2%以上(好ましくは0.4%以上、さらに好ましくは0.5%以上)含有させる。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、焼入れ性が増大し過ぎて、焼きならし後でも過冷組織が生成して被削性を低下させるので、1.8%以下(好ましくは1.6%以下、さらに好ましくは1.5%以下)とする。
[P:0.03%以下(0%を含まない)]
Pは、鋼材中に不可避的に含まれる元素(不純物)であり、熱間加工時の割れを助長するので、できるだけ低減することが好ましい。そのためP量を、0.03%以下(より好ましくは0.02%以下、さらに好ましくは0.01%以下)と定めた。Pは、その量を0%とすることは工業的に困難である。
[S:0.006〜0.03%]
Sは、MnSを形成し、被削性を向上させる元素である。特に本発明では、機械構造用鋼に必要量のSを添加することにより、Alを含有する酸化物を核としてその周りに硫化物が生成し、複合介在物を形成することができる。この複合介在物の特徴については後述するが、必要な量の硫化物を生成するためには、Sは、例えば0.006%以上(好ましくは0.007%以上、より好ましくは0.008%以上)含有させる。一方、Sを過剰に含有させると鋼材の延性・靭性を低下させる。そのため、S量の上限を0.03%(より好ましくは0.02%、さらに好ましくは0.015%)とした。特に、S含有量が過剰になると、Mnと反応してMnS介在物を形成する量が増大し、この介在物が圧延時に圧延方向に伸展して、圧延直角方向の靭性(横目の靭性)を劣化させる。
[Al:0.1〜0.5%]
Alは、断続切削性を向上させるために従来の肌焼き鋼に比べて多めに必要であり、特に固溶状態で0.05%以上存在することが好ましい。また、Alの一部はNと結合して浸炭処理時の異常粒成長を抑制するほか、脱酸剤としての役割をもつため、トータルAlとして0.1%以上(好ましくは0.15%以上、さらに好ましくは0.2%以上)必要である。一方、Alが多すぎると高温でNと結合してAlNが生成しやすくなって熱間加工性を低下させるため、上限を0.5%(好ましくは0.45%、より好ましくは0.4%)とする。
[N:0.002〜0.015%]
Nは、Alと結合して粒成長を抑制し、機械構造用鋼の強度向上の効果を発揮する。このような効果を有効に発揮させるためには、N:0.002%以上(好ましくは0.003%以上、さらに好ましくは0.004%以上)含有させる。一方、N量が多すぎると高温でAlNを生成して熱間加工性を低下させるため、0.015%以下(好ましくは0.013%以下、より好ましくは0.011%以下)とした。
[O:0.003%以下(0%を含まない)]
O含有量が過剰になると、粗大な酸化物系介在物が生成して、被削性や延性・靭性、鋼の熱間加工性および延性に悪影響を及ぼす。そこでO含有量の上限を、0.003%(好ましくは0.002%、より好ましくは0.0015%)と定めた。
本発明で使用される機械構造用鋼の基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄であるが、該機械構造用鋼中には不可避的不純物の含有が許容されることは勿論のこと、本発明の作用に悪影響を与えない範囲でさらに他の元素を積極的に含有させた機械構造用鋼を使用することも可能であり、これらの任意元素については後述する。
本発明では、機械構造用鋼の化学成分を上記規定範囲に調整することに加えて、円相当径が2μm以上である介在物(以下、「対象介在物」と記載する。)が鋼断面の1平方ミリメートル(mm)あたり30個以下(0を含まない)であり、そのうち、酸化物と硫化物の複合介在物であって下記式(1)を満たすものを個数比で50%以上存在させることが重要なポイントであるので、以下に詳しく説明する。
(対象介在物が30個/mm以下)
鋼中に存在する酸化物系介在物は、連続切削性を劣化させ、硫化物系介在物は被削性を向上させるが機械的特性を劣化させる。酸化物の介在物は、鋼材の脱酸時に不可避的に生成される。また、不純物として存在するSがMn等と結合し、硫化物も不可避的に生成されるものである。しかし介在物の量が多すぎると機械構造用鋼の被削性が劣化したり、機械的特性が低下したりするため、介在物密度の上限を設ける必要がある。そこで本発明では、対象介在物が鋼材断面の1平方ミリメートル(mm)あたり30個以下(0を含まない)に制限した。好ましくは20個以下、さらに好ましくは10個以下である。
(式(1)を満たす複合介在物の数が50%以上)
上述のように、鋼中に生成する酸化物と硫化物とを介在物中に複合化することによって酸化物の悪影響(連続切削性の低下)を少なく抑え、連続切削性と断続切削性のバランスを図ることができる。このような効果が現れるのは、対象介在物のうち個数比で50%以上(好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上)が、上記式(1)を満たす場合である。なお、上記(1)式の左辺で表される比の値は、例えば以下の手順で計算することができる。すなわち、まず鋼断面において介在物の組成をEPMAで測定し、[S]、[Mn]、[Al]等の値を測定する(但し、本発明において、[X]は、介在物の断面におけるX元素の全質量を意味するものとする)。EPMAでは[O]の値を測定することはできないため、近似計算として、介在物中のS全量がMnと結合してMnSを形成すると仮定し、また介在物中のMn全量からMnSの生成分を差し引いた残りのMn及びその他の合金元素は、すべて酸化物を形成するものと仮定して、酸化物/硫化物の比の値は、([MO]+[MnO])/[MnS]として計算される(「M」は、Mn以外の合金元素を示す)。なお、EPMA測定された各元素の質量は、上記のように介在物の断面における質量であるから、式(1)において酸化物の質量も硫化物の質量も、鋼断面に現われている部分のみが計算対象である。
本発明では、上記のように酸化物と硫化物の複合介在物により機械構造用鋼の連続切削性と断続切削性のバランスを図るものであり、硫化物と酸化物が別々の介在物を形成していても上記した効果は得られない。特に、鋼中の酸化物は機械構造用鋼の連続切削性を低下させてしまう。なお、本発明ではAlを多く含むものであるため固溶状態のAlが多く存在して断続切削性は良好であり、上記の複合介在物が増加しても断続切削性は低下しない。
機械構造用鋼を通常の方法によって溶製しても、酸化物と硫化物とが別々に生成されやすく、上記(1)式で規定した本発明の複合介在物は生成されない。本発明の機械構造用鋼を製造するためには、例えば次の方法を用いる必要がある。まず溶綱中のSを一旦0.005%以下に減少させてから、その後にAlを添加することによりAlを析出させる。その後、必要量のSを添加する。このような順序を経ることにより、まずはAlを含有する酸化物が生成し、この酸化物を核として周囲を覆うように硫化物が生成することにより、上記(1)式で規定した本発明の複合介在物を形成することができる。なお、Mn、Si、C等、他の合金元素の添加順序は特に制限されない。
後述するMgやCaを添加する場合には、S量を下げた後にAlを添加し、その後にMg、Caを添加し、最後にSを添加する。これにより、上記(1)式で規定する、酸化物と硫化物が複合化した介在物を生成することができる。
図1は、走査型電子顕微鏡で観察した本発明の機械構造用鋼の断面像である。図1に示すように、酸化物(Al)を核として周囲を覆うように硫化物(MnS)が形成されており、複合酸化物が生成されている。
以上、本発明の機械構造用鋼について説明したが、以下では、本発明の機械構造用鋼の特性をさらに向上させることを目的として必要に応じて添加される元素について説明する。
[Cr:3%以下(0%を含まない)]
Crは、鋼材の焼入性を高め、機械構造用鋼の強度を高めるために有効な元素である。またAlとの複合添加によって、鋼材の断続切削性を高めるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Cr含有量は、例えば0.1%以上(より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.7%以上)とする。しかし、Cr含有量が過剰になると、粗大炭化物の生成或では過冷組織の発達によって被削性を劣化させるので、3%以下(より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.6%以下)とすることが望ましい。
[Mo:1.0%以下(0%を含まない)]
Moは、母材の焼入れ性を確保して、不完全焼入れ組織の生成を抑制するのに有効な元素であり、必要に応じて機械構造用鋼に含有させてもよい。Moのこうした効果を有効に発揮させるためには、例えば0.05%以上(より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.15%以上)含有させる。Moの含有量が増加するにつれてこのような効果は増大するものの、過剰に含有させると、焼きならし後でも過冷組織が生成して機械構造用鋼の被削性を低下させるので、1.0%以下(より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下)とすることが望ましい。
[Nb:0.15%以下(0%を含まない)]
機械構造用鋼のなかで特に肌焼鋼では、通常浸炭処理を行って表面を硬化するが、この処理の際に浸炭温度・時間、加熱速度等によって、結晶粒の異常成長が発生する場合がある。Nbにはこのような現象を抑制する効果がある。Nbのこうした効果を有効に発揮させるためには、例えば0.01%以上(より好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.05%以上)含有させる。Nb含有量を増加するにつれてNbのこうした効果は、増大するが、過剰に含有させると硬質の炭化物が生成して被削性が低下するので、0.15%以下(より好ましくは0.12%以下、さらに好ましくは0.1%以下)とすることが望ましい。
[Zr:0.02%以下(0%を含まない)、Hf:0.02%以下(0%を含まない)、Ta:0.02%以下(0%を含まない)のうちの1種以上を含有する]
Zr,HfおよびTaは、上記Nbと同様に、結晶粒の異常成長を抑制する効果があるので、必要に応じて鋼に含有させても良い。こうした効果は、これらの元素の含有量(1種以上の合計量)が増加するにつれて増大するが、過剰に含有させると硬質の炭化物が生成して機械構造用鋼の被削性が低下するので、夫々上記した量を上限とすることが好ましく、合計で0.02%以下とすることがさらに好ましい。
[V:0.5%以下(0%を含まない)、Cu:3%以下(0%を含まない)、およびNi:3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
これらの元素は、鋼材の焼入れ性を向上させて高強度化させるのに有効であり、必要に応じて機械構造用鋼に含有させてもよい。一方、こうした効果は、これらの元素の含有量が増加するにつれて増大するが、過剰に含有させると過冷組織が生成したり、延性・靭性が低下するので、夫々上記した量を上限とすることが好ましい。
[Ca:0.005%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.005%以下(0%を含まない)]
Ca、MgはCaO−Al、MgO−Alを形成することにより酸化物系介在物が軟質化することで断続切削性が改善されるため、必要に応じて添加してもよい。一方、過剰に含有させるとSと結合して高融点の硫化物を形成し、鋳造時にノズル閉塞を起こす可能性があるため、夫々上記した量を上限とすることが好ましい。
[Ti:0.05%以下(0%を含まない)および/またはB:0.008%以下(0%を含まない)]
Tiを添加した場合はTiNを生成して粒成長抑制に寄与する。より詳しくは、添加したTiの多くがNと結合することでNの固溶量を抑制して鋼材の熱間加工性を改善するほか、一部は酸化物系介在物の中に入ることによって介在物の融点を低下させ、被削性改善に寄与する。
Bを添加した場合にはBNを生成して被削性改善に寄与する。より詳しくは、BはNと結合してBNを生成し、Nの固溶量を抑制して鋼材の熱間加工性を改善するほか、BNは被削性改善効果も有する。
以上のように、Ti,Bのいずれも、Nと結合することによりNの固溶量が抑制され、高温でのAlNが抑制されるために鋼材の熱間加工性を改善できるという作用を有するものであり、断続切削性を向上するためにTiおよび/またはBを含有させてもよい。
上記したTiの効果を有効に発揮させるためには、Ti量を例えば0.001%以上(好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.009%以上)とすることが望ましい。一方、Tiを過剰に添加すると、粗大なTiNが機械構造用鋼の被削性を低下させる。したがって、Ti量を0.05%以下(好ましくは0.045%以下、さらに好ましくは0.04%以下)とすることが望ましい。
上記したBの効果を有効に発揮させるためには、B量を例えば0.0005%以上(好ましくは0.0006%以上、さらに好ましくは0.0007%以上)とすることが望ましい。一方、Bを過剰に添加すると、必要以上に焼入れ性が高くなって機械構造用鋼の硬さが高くなり被削性が低下する。したがって、B量を0.008%以下(好ましくは0.0075%以下、さらに好ましくは0.007%以下)とすることが望ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
[試験片の作成]
表1に示す化学成分の鋼150kgを真空誘導炉で溶解し、上面での直径が245mm、下面での直径が210mmであり、長さが480mmの略円柱状のインゴットに鋳造した。なお、表1中「―」は、該当元素を添加していないこと(無添加)を意味する。
続いて、このインゴットを鍛造し(ソーキング:1250℃×3時間程度、鍛造加熱:1100℃×1時間程度)、これを切断することにより一辺150mm×150mm×長さ680mmの四角材形状を経由して、下記(a)、(b)の2種類の鍛造材に加工した。
(a)厚さ30mm、幅155mm、長さ100mmの板材
(b)直径80mm、長さ100mmの丸棒材
得られた板材および丸棒材を、900℃で1時間の加熱をしたのち放冷し、その後、板材(鍛造材(a))はエンドミル切削試験片とし、丸棒材(鍛造材(b))は旋削試験片とした。
(1)断続切削時の被削性評価
断続切削時の被削性を評価するために、エンドミル加工での工具磨耗を評価した。上記鍛造材(a)(焼ならし材、または焼ならし後熱間鍛造したもの)をスケールおよび脱炭層の影響を取り除くため、表面約2mmを切削除去し、エンドミル切削試験片とした。具体的には、マニシングセンタ主軸にエンドミル工具を取り付け、上記のようにして製造され、表面約2mmの切削除去後の厚さ25mm×幅150mm×長さ100mmの試験片をバイスにより固定し、乾式の切削雰囲気下でダウンカット加工を行った。詳細な加工条件を下記表2に示す。断続切削を200カット行った後、光学顕微鏡により、平均逃げ面磨耗幅(工具磨耗量)Vbを測定した。その結果を表3に示す。試験片番号(No.)は、表1の試験片番号(No.)に対応する。断続切削後のVbが70μm以下のものを、断続切削時の被削性に優れると評価した。
(2)連続切削時の被削性評価
連続切削時の被削性を評価するために、直径80mm×長さ350mmの丸棒材(焼きならし材)をスケール除去した後表面を約2mm切削除去した試料を用いて、外周旋削加工を行なった後、光学顕微鏡により、平均逃げ面磨耗幅(工具磨耗量)Vbを測定し、磨耗幅が70μm以下のものを被削性が優れると評価した。このときの外周旋削加工条件は、下記の通りである。その結果も、上記の断続切削時の被削性試験の結果と併せて表3に示す。図2は、連続切削試験時の平均逃げ面磨耗幅をグラフで示したものである。
(外周旋削加工条件)
工具:超硬合金P10(JIS B4053)
切削速度:200m/min
送り:0.25mm/rev
切り込み:1.5mm
潤滑方式:乾式
[考察]
試験片No.1〜11はいずれも本発明に属するものであり、断続切削時の被削性および連続切削時の被削性に優れていた。一方、試験片No.12〜15は機械構造用鋼における複合介在物の条件から外れるものであり、断続切削時の被削性および連続切削時の被削性の少なくとも一方が劣っていた。具体的には、No.12〜14では、Alを添加する際に溶綱中のSを一旦0.005%以下に減少させていないため、(1)式において規定する複合介在物が所定の個数比(対象介在物の50%以上)に満たず、連続切削時の被削性が劣っていた。No.15では、鋼の化学成分は本発明において規定する範囲を満たすものであったが、対象介在物が30個を超えていたため、断続切削時の被削性および連続切削時の被削性の双方において劣っていた。

Claims (8)

  1. C :0.05〜0.8%(質量%の意味、以下同じ)、
    Si:0.03〜2%、
    Mn:0.2〜1.8%、
    P :0.03%以下(0%を含まない)、
    S :0.006〜0.03%、
    Al:0.1〜0.5%、
    N :0.002〜0.015%、
    O :0.003%以下(0%を含まない)
    を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
    鋼断面に現れる円相当径2μm以上の介在物が1平方ミリメートル(mm)あたり30個以下(0を含まない)であり、そのうち、酸化物と硫化物の複合介在物であって下記式(1)を満たすものが個数比で50%以上存在することを特徴とする被削性に優れた機械構造用鋼。
    但し上記式(1)において、酸化物の質量も硫化物の質量も、鋼断面に現われている部分のみを計算の対象とする。
  2. さらに、Cr:3%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の機械構造用鋼。
  3. さらに、Mo:1.0%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の機械構造用鋼。
  4. さらに、Nb:0.15%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の機械構造用綱。
  5. さらに、Zr:0.02%以下(0%を含まない)、Hf:0.02%以下(0%を含まない)、Ta:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の機械構造用鋼。
  6. さらに、V:0.5%以下(0%を含まない)、Cu:3%以下(0%を含まない)、Ni:3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の機械構造用鋼。
  7. さらに、Ca:0.005%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.005%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の機械構造用鋼。
  8. さらに、Ti:0.05%以下(0%を含まない)および/またはB:0.008%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜7のいずれかに記載の機械構造用鋼。
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