犬のアトピー性皮膚炎のかゆみを抑える 皮膚科の専門医が伝えたい治療法とケアとは
犬アトピー性皮膚炎は、かゆみが続くつらい皮膚病です。生まれもった体質やアレルギーなどが影響していることもあり、生涯付き合っていくケースがほとんど。しかし「治らない」と決めつけ、あきらめるのは早計です。
アジア獣医皮膚科専門医であり、犬と猫の皮膚科クリニックの代表を務める村山信雄先生によれば、「かゆみを管理できればきれいな肌を維持できる」とのこと。手作り食やスキンケアが注目されていますが、かゆみ止めの薬を上手に使うことも犬のつらさを早く取り除ける方法かもしれません。犬アトピー性皮膚炎の犬がよりよい治療を受けるために、村山先生に話をうかがいました。
人のアトピー性皮膚炎と似ている「犬アトピー性皮膚炎」
犬アトピー性皮膚炎の原因は、皮膚のバリアー機能の異常です。いわゆる敏感肌といわれる体質(皮膚の個性)をもっていることが挙げられます。きれいな肌にかゆみが生じ、なめたりかいたりかじったりした結果、赤みや脱毛などの症状が現れます。かゆみが出やすいのはしわがある部分(間擦部)で、多くは左右対称になっているのが特徴です。
犬アトピー性皮膚炎には遺伝的な背景が疑われていて、若い年齢から発症することが多い皮膚疾患です。一般的には1〜3歳で発症しやすく、遅くとも5歳ぐらいまでには症状が見られます。年齢とともに悪化していくことも少なくありません。かゆみなどの症状が1回出てしまうと、生涯にわたって付き合っていかなければいけないことが大きな問題です。
人のアトピー性皮膚炎も、20〜30代で発症し年齢とともに悪化していく成人型が増えています。犬アトピー性皮膚炎の発症も成犬(おとな)になる1歳ごろから増えるので、人のアトピー性皮膚炎に近い印象をもっています。
食物アレルギーによるかゆみは、犬アトピー性皮膚炎と症状や症状の分布は変わらないので、犬がシニアになってからかゆみが出た場合は、食物アレルギーの評価を行い、違う場合は犬アトピー性皮膚炎を考え、治療を行っていきます。
かゆみを生じる皮膚病は犬アトピー性皮膚炎だけではありません。膿皮(のうひ)症といわれる細菌感染による皮膚病もかゆみが見られます。膿皮症では、かゆみに先行して赤みやブツブツが生じ、なめたりかいたりかじったりした結果、症状が悪化します。
「犬アトピー性皮膚炎」のかゆみの原因
犬アトピー性皮膚炎のかゆみにはさまざまな原因があります。治療のためには原因を絞ることが重要です。
[犬のかゆみの原因]
(1)乾燥しやすい
皮膚のバリアー機能の異常により、肌から水分が蒸発しやすく乾燥してしまう。また、乾燥肌は刺激を受けやすい。
(2)刺激に弱い
こすれただけでかゆみが出る。自分の皮膚や毛であっても刺激になるため、しわ(間擦部)に症状が出やすい。目や口の周り、脇、股、足先、肛門(こうもん)の周りなど。
(3)アレルギー
犬アトピー性皮膚炎の犬では、環境中のものに対してアレルギーが見られる。チリダニといわれるハウスダストマイトは代表的なアレルゲンである。それ以外にも花粉や草などにアレルギーを示すこともある。人ではアトピー性皮膚炎の原因の一つとして、食物が指摘されているが、犬では食物アレルギーが十分に解明されていない。したがって、犬アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは分けたほうが理解しやすい。
(4)かゆみを悪化させる繊細さ
手持ち無沙汰のときやイライラしたときに、目の前にかゆい皮膚があると気になり、なめ壊してしまう。
犬アトピー性皮膚炎を発症しやすい代表的な犬種は、柴犬です。ただし、フレンチ・ブルドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ラブラドル・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、トイ・プードルなども見る機会が多く、いずれの犬種でも可能性があると考えています。
犬種は多かれ少なかれ人為的にブリーディングされてきた歴史があり、その中でかわいい容姿や飼いやすい性格の犬が残されてきた結果、長所とともに犬アトピー性皮膚炎などの疾患になりやすい短所も遺伝的に受け継がれた可能性があると思われます。
犬アトピー性皮膚炎の治療はかゆみを抑えること
犬アトピー性皮膚炎は、根本的に治しきれる病気ではありません。冒頭でお伝えしたように遺伝的な体質であり、皮膚の個性です。だからこそ、かゆいところを「なめさせない・かかせない」ための対策が非常に重要です。たとえ遺伝的に皮膚バリアーの異常があったとしても、きれいな肌を保っていれば症状を抑えることができます。
私がおすすめする治療法は、かゆみが出やすい春から秋の高温多湿の時期を中心にかゆみ止めの薬を飲み、きれいな肌を維持すること。それができれば、かゆみの少ない、またはかゆみのない冬に薬をやめられる可能性があります。
薬に対して抵抗感をもつ飼い主さんが多いのは十分承知していますが、獣医師が処方したかゆみ止めの飲み薬を飲ませたり飲ませなかったりすることで、中途半端なかゆみが続いてしまいます。結果としてかゆみがダラダラと続いて、犬がつらい思いをします。薬も一年中ずっと使い続けることになりかねません。生涯使い続けられる安全性が高い飲み薬や塗り薬があるとはいえ、かゆみも医療費も抑えられるに越したことはないでしょう。
皮膚科専門医の診察を受けるためには
犬アトピー性皮膚炎などのかゆみの治療には、かかりつけの獣医師に犬に合う飲み薬や塗り薬、スキンケアを相談することが重要です。飼い主さんからはよく「ずっと治療したけれど治らなかった」という話を聞きます。しかし、それまでの検査や治療が必ずしも間違っているとは限りません。獣医師と飼い主さんでは「治る」という意味の捉え方が違う場合が多いからです。
私たち獣医師は適切な薬を使い、かゆみを抑え、きれいな肌を維持することを「治る」と考えていますが、飼い主さんはかゆみがなくなって薬をやめることが「治る」と思っていることも。行き違いがないように、犬の病気や状態に関してかかりつけの獣医師の説明を受けましょう。
そのうえで、解消しない疑問や納得できない気持ちがあれば、かかりつけの獣医師に皮膚科へのセカンドオピニオンを相談してみてください。犬アトピー性皮膚炎などの皮膚病は生涯にわたって付き合わなければいけないケースが大半なので、飼い主さんが治療法を理解し、納得することが必要だと思います。
手作り食やスキンケアより毎日のブラッシング
犬アトピー性皮膚炎や皮膚病を治すために、手作り食を試みる飼い主さんもいます。しかし、先にお伝えしたようにかゆみの原因はさまざまなので、食事で直すのはかなり難しいと思います。まずはかゆみを抑える治療を優先し、犬も飼い主さんもつらくない生活を維持することから始めて、余裕ができたら食事を変えてみるほうがいいでしょう。
人のアトピー性皮膚炎では有効とされる保湿剤のスキンケアも、犬では十分な効果を発揮できないこともあります。人は毎日体を洗って全身を保湿しますが、犬では頭から脚先まで全身の保湿は現実的ではないですよね。シャンプーの頻度も週に1回程度で、保湿剤もかゆみが出やすい部分に塗るのが一般的ではないでしょうか。
しかし犬アトピー性皮膚炎による敏感肌は全身の皮膚の問題なので、症状が出ていない頭や背中にもスキンケアをしたほうがいいと考えられていますが、犬の全身に保湿剤を塗ったらベタベタして、余計になめ壊す可能性もあります。
犬アトピー性皮膚炎が体質であり、根本的に治しきれる病気ではない考えれば、大事なことは継続できるかどうか。スキンケアとして、犬と飼い主さんが無理なく続けられるブラッシングを毎日の習慣にし、皮膚の問題を早いタイミングで見つけてもらうほうが大切だと思います。週1回の保湿剤によるスキンケアで、犬アトピー性皮膚炎の10~20%のかゆみを軽減できる可能性も示されているので、余裕があれば保湿剤を使うといいでしょう。
日々の楽しい変化が犬のかゆみの対策に
犬アトピー性皮膚炎やかゆみを起こす皮膚病が増えた背景には、室内飼育が広まったことも関係しているかもしれません。外的刺激の少ない環境でリラックスして過ごせる反面、持て余した体力やイライラした気分を発散する手段として、なめたりかいたりすることになり、犬アトピー性皮膚炎の悪化につながります。
犬はできる限り散歩に行き、できる範囲で室内でも遊ぶ機会をつくれば、かゆみの問題が落ち着く可能性も考えられるのではないでしょうか
- 犬と猫の皮膚科 村山信雄
- 獣医師。博士(獣医学)。アジア獣医皮膚科専門医。1994年、帯広畜産大学畜産学部獣医学科卒業後、動物病院などでの勤務を経て2010年にアジア獣医皮膚科専門医を取得。2012年には岐阜大学連合大学院にて博士(獣医学)を取得。犬と猫の皮膚科を設立し、2016年より同クリニックの代表を務める。
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