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JPWO2015118684A1 - ドリル及び穴明け方法 - Google Patents

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JPWO2015118684A1
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Abstract

【課題】重ね板や厚い材料の穴明け加工に適用できながら、所要の穴径に達するまでの加工ステップ数を少なくでき、また工具寿命が長く、加工精度にも優れるドリル及び重ね板の穴明け方法を提供する。【解決手段】ボディ20の先端にボディ20よりも径小で同心に突設されたパイロット軸部30を有する。パイロット軸部30は軸主体部31とその軸主体部31の先端に位置する先端平坦面32と軸主体部31の外周面及び先端平坦面32との間に位置する所定の先端角βの先端テーパー面23とを備える。ボディ20には、外周面に奇数本のねじれ溝22と、外周面からパイロット軸部30に至る領域に所定の先端角αで形成された先端テーパー面25に3枚の主切れ刃23が設けられている。パイロット軸部30には、軸主体部31の外周面から先端テーパー面33にかけてねじれ溝22に連なった補助ねじれ溝24と、先端テーパー面33に補助切れ刃34とが形成されている。

Description

本明細書によって開示される技術は、厚い板材の深穴加工や合わせ板材の穴明け加工に適するドリル及びそのドリルを使用した穴明け方法に関する。
例えば、航空機製造の現場では、航空機用の高硬度アルミニウム合金からなる構造材や厚い合わせ板材に手作業によって多数の穴明け加工を施す。この場合、ドリルとしては、二枚刃の段付きダブルマージンドリルが使用されている。二枚刃のダブルマージンドリルは例えば特開2006−205272公報に示すような構造で、2カ所のマージンの存在により、穴の内周面の平滑性が高く、優れた穴加工精度が得られるという利点が知られている。また、先端に径小なドリルを突設した段付きタイプとするのは、特に航空機用材料においてワークに切削歪みが残留することは厳格に排除されねばならず、そのために1回の穴明け加工による切削代(段付きドリルにおける先端側径小部の外形寸法と、基端側径大部の外形寸法との差に相当する)を小さく抑えて徐々に穴径を拡大してゆく必要があるためである。
しかしながら、段付き二枚刃ダブルマージンドリルは、本来的に二枚の切れ刃のみで切削を行ってゆくから、切削抵抗が高く、1回の穴明け加工の切削代を大きくすることができない。このため、最終的に所望の穴径に達するまでに多くの加工ステップ数を必要とする。また、切削抵抗が大きいことは、切れ刃の摩耗量が大きいことにもなるから、工具寿命が短く、ドリル1本当たりの加工穴数を多くすることができない。
さらには、二枚刃ドリルは、切り屑を排出するためのねじれ溝は2本であり、所定体積の切り屑を排出するためにねじれ溝は比較的深くしなくてはならず、実質的な軸径(ウエブ)が細くなる。このことは、ドリルの剛性が低くなることを意味し、深穴加工時にドリルが撓んで、穴が途中で僅かに曲がってしまう可能性が高くなる。しかも、二枚刃ドリルは、アルミニウム合金を加工する場合には、切り屑が長く連なってねじれ溝内で詰まり、穴の内周面やワークの表面に傷を付けたり、ワークに比較的大きなバリを発生させるという問題があり、穴加工精度を低下させるという問題もあった。
これらの問題を解決するには、三枚刃ドリルとすることも考えられるが、そもそも高硬度のアルミニウム合金のワークに対して三枚刃ドリルを使用することは、当業者における工具選択の常識に反する。なぜなら、三枚刃ドリルは、切れ刃を設けられない先端のチゼルが二枚刃ドリルに比べて大きくなるため、ワークに対する食い付きが悪く、高硬度のアルミニウム合金では孔加工の位置精度が低下したり、ドリルが傾いて進入したりすることが懸念される。また、アルミニウム合金は鉄鋼に比べて熱膨張率が大きいため、切り屑の円滑な排出が必須であるところ、三枚刃ドリルでは切り屑排出用のねじれ溝の深さが十分にとれず、切り屑の排出性が劣ることが知られているからである。
このような問題は、航空機用のアルミニウム合金に穴明けをする場合に限らず、高硬度の金属に穴明けをする場合に共通する問題であった。
特開2006−205272公報
本明細書は、重ね板や厚い材料の穴明け加工に適用できながら、所要の穴径に達するまでの加工ステップ数を少なくでき、また工具寿命が長く、加工精度にも優れるドリルを開示する。
本明細書によって開示されるドリルは、シャンクとこれに連なって所定の外径の外周面及び所定の先端角の先端テーパー面を有するボディとを備えたドリルであって、前記ボディの前記先端テーパー面から突出して前記ボディよりも径小で同心に設けられ、所定の外径の外周面を有するパイロット軸部であって、軸主体部とその軸主体部の先端に位置する先端平坦面と前記軸主体部の外周面及び前記先端平坦面との間に位置する所定の先端角の先端テーパー面とを備えたパイロット軸部と、前記ボディーの外周面から前記パイロット軸部の外周面にかけて所定のねじれ角で形成された奇数本のねじれ溝と、前記ねじれ溝の形成によって前記ボディの前記先端テーパー面に形成された奇数枚の主切れ刃と、前記ねじれ溝の形成によって前記パイロット軸部の前記先端テーパー面に形成された奇数枚の補助切れ刃と、を有するドリルである。
本明細書のドリルによれば、重ね板や厚い材料の穴明け加工に適用できながら、所要の穴径に達するまでの加工ステップ数を少なくでき、また工具寿命が長く、加工精度にも優れるドリル及び重ね板の穴明け方法を提供することができる。
ドリルの側面図(第1実施形態) ドリルの先端部の斜視図(第1実施形態) ドリルの先端部を拡大して示す側面図(第1実施形態) 図3中のX1−X1線での断面図(第1実施形態) 図3中のY1−Y1線での断面図(第1実施形態) ドリルの先端部の拡大側面図(第1実施形態) 第1実施形態のドリルを使った重ね板の穴明け方法の下穴形成工程を示す断面図(第1実施形態) 下穴形成工程の完了後の状態を示す断面図(第1実施形態) バリ取り工程を示す断面図(第1実施形態) 穴拡張工程を示す断面図(第1実施形態) 穴拡張工程の完了後の状態を示す断面図(第1実施形態) 2回目の穴拡張工程を示す断面図(第1実施形態) 穴拡張工程における単位板のズレ発生状況を示す断面図(第1実施形態) ドリルの主切れ刃の芯上がりを説明する正面図(第2実施形態) 第1実施形態のドリルのウエブを説明する断面図(第1実施形態) 第1実施形態と比較してドリルのウエブを説明する断面図(第2実施形態) ドリルの先端部の斜視図(第2実施形態) ドリルの先端部を拡大して示す側面図(第2実施形態) 図18中のX2−X2線での断面図(第2実施形態) 図18中のY2−Y2線での断面図(第2実施形態)
<第1実施形態>
第1実施形態で開示されるドリルの概要をまず述べる。このドリルは、ボディの先端テーパー面から突出して設けられたボディよりも径小で同心のパイロット軸部を有する。
パイロット軸部は、軸主体部とその軸主体部の先端に位置する先端平坦面と前記軸主体部の外周面及び前記先端平坦面との間に位置する所定の先端角の先端テーパー面とを備える。ボディーの外周面からパイロット軸部の外周面にかけて所定のねじれ角で3或いは5本等の奇数本のねじれ溝が形成されており、そのねじれ溝の形成によってボディの先端テーパー面に奇数枚の主切れ刃が形成されると共に、前記ねじれ溝の形成によってパイロット軸部の先端テーパー面に主切れ刃と同じ枚数の補助切れ刃が形成されている。
奇数枚数の主切れ刃のドリルでは、例えば3枚刃ではマージンの位置が120°の角度間隔で配置されることになり、二枚刃等の偶数刃ドリルに比べて振れが少なく、より真円に近く高精度な穴明け加工を行うことができる。また、切り屑の排出路となるねじれ溝の本数も多くなるから、そのねじれ溝の深さを浅くでき、結局、ボディの軸剛性が高くなり、撓みが減少してドリルの直進性が向上し、ひいては深穴でも直線性が良い穴明け加工が可能である。また、ワークが航空機用アルミニウム合金のような高硬度金属であっても、従来の二枚刃ダブルマージンドリルのように切り屑が一連に連なることがなく、粉々に分断されて排出されるから、切り屑による穴内周面の傷付きが少なく、その面からも穴明け精度の向上が可能になる。
さらには、従来の二枚刃ダブルマージンドリルに比べて主切れ刃が多い分、効率的に切削を行うことができるから、下穴からの穴径の拡大代をより大きくすることができ、それにより所要の穴径に達するまでの加工ステップ数を少なくでき、その上に、主切れ刃の1回当たりの摩耗量が少なくなるから、ドリル1本当たりの穴加工数を格段に増加させることができる。
三枚刃以上の多数刃ドリルでは、二枚刃ダブルマージンドリルに比べて優れた切削性能を発揮する一方で、高硬度ワークへの食い付きが悪くなって穴明け加工の位置精度が低下することが懸念される。しかし、本実施形態のドリルは、先端部がパイロット軸部の平坦面部となっているから、段付きドリルとは全く相違して自ら第1回目の穴明けを行うことができず、下穴を必要とする。このことは、かえって下穴形成用のドリルには、食い付きが良い二枚刃ドリルを使用することになり、高い位置精度で下穴を形成できることになる。そして、本実施形態のドリルでは先端にパイロット軸部を有するから、あらかじめ高精度で形成した下穴にパイロット軸部を挿入してドリル作業を行うことになる。このため、最終的に形成される穴の位置精度を高く維持することができる。
このドリルにおいて、パイロット軸部における先端角は、ボディにおける先端角と同程度に設定されることが好ましい。そのようにすると、ドリルの製造が容易になるからである。なお、パイロット軸部における先端テーパー面の先端角は60°以上であることが最も好ましい。
一方、複数枚の単位板を重ね合わせてなる重ね板に穴明け加工を行う場合、上記のドリルを使って次のように作業を行うことができる。まず、ワークである重ね板に所定の径寸法の下穴を形成する(下穴形成工程)。この場合には、本実施形態のドリルではなく、下穴を高い位置精度で形成できる二枚刃ドリル等の食い付きが良いドリルを使うことが好ましい。この下穴形成工程では、各単位板のドリル貫通先側の面にバリが発生することがあるため、重ね板を分離して単位板のバリを除去するバリ取り工程を行う。そして、バリ取り後の単位板を再組立し、2つの下穴が上下に繋がった重ね板を構成し(再重ね工程)、再組立した重ね板の下穴に本実施形態のドリルのパイロット軸部を挿入してボディーに形成されている主切れ刃によって穴を空け進める(穴拡張工程)。
このとき、再重ね工程における組立誤差によって各単位板の位置がずれた場合には、下穴の内周面が段付き状にずれていることがあり得るが、本実施形態のドリルのパイロット軸部には先端テーパー面に補助切れ刃が形成されており、その補助切れ刃がねじれ溝に連なっているから、補助切れ刃によって下穴の段付き状の内周面が切削され、その切削屑はねじれ溝を通して直ちに排出される。この結果、パイロット軸部の下穴貫通、ひいてはボディの主切れ刃による穴明け作業には影響がなく、途中で進行が止まることなく穴明け作業を完了させることができる。
なお、本実施形態のドリルによって穴拡張工程を行った後に、バリ取り工程及び再重ね工程を繰り返し、その穴を下穴としてより太い本実施形態のドリルを利用して穴拡張工程を繰り返すことで、ステップ的に穴を広げて必要な寸法の穴を空けることができる。
次に、第1実施形態のドリルとそれを使用した重ね板の穴明け方法について、より詳細に述べる。本実施形態のドリルは鋼製又は超硬合金製の丸棒を切削して製造したもので、シャンク10と、これに連なるボディ20とを有する。ボディ20は、図6に示すように、外径D(例えば7.8mm)である外周面21と、所定の先端角αの先端テーパー面25とを有する。
ボディ20の先端には、先端テーパー面25から同心に突出するパイロット軸部30を有する。パイロット軸部30は、図6に示すように、外径dの外周面を有する直円柱状をなし、基端がボディ20の先端テーパー面25に一体に連なる軸主体部31と、その軸主体部31の先端に位置する先端平坦面32と、軸主体部31の外周面及び前記先端平坦面32の間に位置する先端テーパー面33を備える。先端テーパー面33の先端角β(図6参照)は、この実施形態では一例として90°に設定してあるが、切削性を考慮すると、60°以上の範囲とすることが好ましい。また、前記ボディ20の先端テーパー面25の先端角αと同程度としておくことが、ドリルの製造上好ましい。
ボディ20には、外周面に奇数、例えば3本のねじれ溝22が所定のリード(例えば42mm)、ねじれ角(例えば30°)及び溝長(例えば70mm)で形成されている。ボディ20の外周面からパイロット軸部30の軸主体部31の基端部に連なる先端テーパー面25は、軸主体部31の基端部の周りを環状に取り巻くように位置しているが、前記ねじれ溝22によって3分割された状態となっている。その先端テーパー面25は、所定の先端角α(図6参照)を有する先細のテーパ状をなしており、この実施形態の場合、先端角αは例えば118°に設定してあるが、ドリルの強度及び切削効率から適切な値を選定すればよい。先端テーパー面25には、各ねじれ溝22毎に合計3枚の主切れ刃23が形成されている。このねじれ溝22に沿って、ボディ20の最外周面に相当してその外径Dを決めているマージン24が形成されている。
ねじれ溝22は、ボディ20の外周面からパイロット軸部30の外周面にかけて連続して形成され、パイロット軸部30の外周面も削っているから、パイロット軸部30の先端平坦面32の外周を環状に取り巻くように位置している先端テーパー面33も、そのねじれ溝22によって3カ所に分断された状態にある。これにより、パイロット軸部30の先端テーパー面33に3本の各ねじれ溝22に隣接する3枚の補助切れ刃34が形成されている。なお、この補助切れ刃34の切り代は、例えば0.3mmとなるように設定されている。補助切れ刃34の切り代は自由に設定することができるが、大きく設定するとパイロット軸部30の軸方向の有効寸法が短くなってパイロット軸部30によるガイド性が低下するという問題を生ずる。
次に、本実施形態のドリルを使用した、例えば航空機用の高強度アルミニウム合金製の重ね板40の穴明け方法について説明する。図7に示した重ね板40は、2枚の単位板41をボルト(図示せず)によって密着状態に積層した材料である。まず、この重ね板40に下穴形成用のドリル42によって、図8のように所定寸法の下穴43を形成する(下穴形成工程)。この下穴形成用のドリル42は、食い付きが良くて位置精度を出しやすい二枚刃のドリルを用いることが好ましい。
そして、上記ボルトを外し、図9に示すように重ね板40を二枚の単位板41に分離し、各単位板41に生じたバリ44をカウンターカッター等の適切な工具によって除去する(バリ取り工程)。そして、バリ44の除去後、各単位板41を再び下穴43が連続するように位置合わせして重ね合わせてボルトで固定し(再重ね工程)、図10に示すように、上記の本実施形態のドリル50を使用して穴拡張工程を実行する。すなわち、ドリル50において、パイロット軸部30の外径寸法dは下穴43の内径とほぼ同一のものを使用し、そのパイロット軸部30を下穴43に嵌め込んで穴明け作業を行う。ドリル50を回転させて押し込めば、ボディ20の先端に設けられている主切れ刃23によって下穴43の内周面が切削され、ボディ20の外径寸法まで穴径が拡がる。
このとき、ドリル50はパイロット軸部30により切り込み位置が確実に決められており、かつ、パイロット軸部30と下穴43との嵌合によって進行方向が直線的にガイドされるから、図11に示すように正確な位置に真っ直ぐな穴45を明けることができる。また、本実施形態のドリル50は、3枚の主切れ刃23を有するいわゆる三枚刃ドリルであるから、マージン24の位置が120°の角度間隔で配置されてドリル50がいわゆる三点支持された状態になり、二枚刃ドリルに比べて振れが少なくなる。従来の二枚刃ダブルマージンドリルでは、二点支持構造のためにドリルが縦に振れ、穴が長円形になりやすいという傾向があったところ、本実施形態では、より真円に近い高精度な穴明け加工を行うことができた。
また、切り屑の排出路となるねじれ溝22が3本と多くなるから、そのねじれ溝22の深さを浅くでき、結局、ドリル1の軸剛性が高くなり、撓みが減少してドリルの直進性が向上し、ひいては深穴でも直線性が良い穴明け加工が可能である。また、高硬度アルミニウム合金に穴明けを行う場合でも、従来の二枚刃ダブルマージンドリルのように切り屑が一連に連なることがなく、粉々に分断されて排出されるから、切り屑による穴35の内周面の傷付きが少なく、その面からも精度の高い穴明け作業が可能である。
上記のようにドリル50により穴45を明けた後、更にその穴径を広げるには、上記のバリ取り工程、再重ね工程及び図12に示すように更に大径のドリル50を使用した穴拡張工程とを段階的に繰り返せば、所望の穴径まで広げることができる。この場合、本実施形態のドリル50では、従来の二枚刃ダブルマージンドリルに比べて多い3枚の主切れ刃23を有するから、その分、1回の穴明け作業での切削を効率的に行うことができる。この結果、各ステップでの穴径の拡大代をより大きくすることができるから、結局、所要の穴径に達するまでの加工ステップ数を従来よりも少なくでき、作業効率が高い。また、本実施形態のドリル50では、主切れ刃23の枚数が従来ドリルの1,5倍に相当することから、1ステップ当たりのドリル1の摩耗量は少なくなり、ドリル1本当たりの穴加工数を格段に増加させることができた。
さて、再重ね工程では、各単位板41の重ね位置にずれが発生し、図13に示すように下穴43の内周面が段付き状にずれてしまうことがある。本実施形態で説明する重ね板40では、組付けの誤差(公差)は例えば0.2mmが予定されており、このようなズレが発生した場合、パイロット軸部30に補助切れ刃34を設けていないと、パイロット軸部30の先端が下穴43の段差部46に突き当たり、それ以上のドリル50の進行が妨げられることがある。
これに対して、本実施形態では、パイロット軸部30の先端平坦面32の外周部に先端テーパー面33を設け、ここに補助切れ刃34を形成しているから、単位板41相互のズレに起因する段差部46が発生していたとしても、その段差部46は補助切れ刃34によって削り取られ、そのまま真っ直ぐに穴明けを継続することができる。従って、複数枚の単位板41を積層して構成した重ね板40に対して、下穴形成工程と、バリ取り工程と、再重ね工程と、穴拡張工程とを順に実行することとして単位板41のズレが不可避である穴明け作業であっても、支障なく穴明け作業を完遂することができる。
<第2実施形態>
本明細書が開示する第2実施形態のドリルの概要を述べる。このドリルは、前述の第1実施形態のドリルと同様に、ボディの先端テーパー面に同心のパイロット軸部が突出されており、ボディーの外周面に奇数本の主ねじれ溝が形成されている。この結果、ボディの先端テーパー面には奇数枚の主切れ刃が形成される。
従って、本実施形態のドリルでも、前記第1実施形態と同様に二枚刃ドリルに比べてボディの軸剛性が高く、深穴でも直線性が良い穴明け加工が可能で、航空機用アルミニウム合金のような高硬度金属をワークとする場合であっても、切り屑による穴内周面の傷付きが少ないので穴明け精度が高い。また、切削性が高いから所要の穴径に達するまでの加工ステップ数を少なくできる。さらに、複数枚の板を重ね合わせた重ね板に穴明け加工を行う場合に、本実施形態のドリルを使うと効果的である。
さらに、この実施形態では、ボディの先端付近で主ねじれ溝の底部からパイロット軸部の外周面に到る領域を削って形成された補助ねじれ溝を有する。補助ねじれ溝の形成によってパイロット軸部の先端テーパー面に補助切れ刃が形成されるのみならず、前記主切れ刃は、前記主ねじれ溝によって形成されたボディの外周側に位置する第1の主切れ刃と、補助ねじれ溝によって形成されて前記第1の主切れ刃にボディの内周側において連続する第2の主切れ刃とを備えた構成となり、補助ねじれ溝は主ねじれ溝に沿ってその底部を削るように形成されているから、第1及び第2の主切れ刃はそれぞれ所定のすくい角を有する。このため、両主切れ刃は共にワークの切削に十分に寄与する。
ところで、ドリルの切れ刃における芯上がりは、それが低いほど切削性が高く、芯上がりが高いほど切り刃の耐久性が高くなることが知られている。第1実施形態のドリルにおける主切れ刃の芯上がりは一種類であるところ、第2実施形態では主切れ刃は、芯上がりが異なる第1及び第2の二種類の主切れ刃を備える。このドリルでは、ボディの内周側に位置して周速度が遅い第2の切れ刃は、ボディの外周側の位置して周速度が速い第1の切れ刃よりも、芯上がりが低くなるよう形成してある。
この関係を模式的に表すと図14に示すようになる。同図は、ドリルを先端側(パイロット軸部側)から見た正面図で、ボディの中心軸と直交する面に対して主切れ刃を投影して示した図である。ここで、主切れ刃1は、ボディの外周側に位置する第1の主切れ刃2と、内周側に位置する第2の主切れ刃3とからなり、第2の主切れ刃の芯上がりBは、第1の主切れ刃2の芯上がりAよりも低い(A>B)。各切れ刃2,3の芯上がりA,Bは、各切れ刃2,3の刃先に沿った直線(刃先線)と、ボディの中心軸を通って上記刃先線と平行な直線との間の距離によって定義される。
同一のボディに芯上がりが異なる二種の切れ刃2,3を有することは、二種類の切れ刃が異なる回転位相で切削を進める状況になぞらえることができ、切削抵抗が位置的・時間的に分散して作用することを意味し、それにより切削抵抗の急変が少ない。また、内周側に位置するために周速度が遅くなる第2の切れ刃3について、第1の切れ刃2よりも芯上がりAを低くして切削性を高めているから、内周側の第2の切れ刃3では周速度が遅いという事情があっても、主切れ刃1の全体では、切削性を高く維持することができる。特に、主切れ刃1全体の長さが1.4mm以上の大径のドリルにおいては切削性の改善が顕著で、第1実施形態のドリルに比べて、切削抵抗を劇的に低減することができる。
また、この第2実施形態によれば、同一の切削性を得ながら、ボディのウエブ(芯厚)を第1実施形態のドリルよりも太くすることができる。その理由を図15及び図16を参照して説明する。図15は一種類の主切れ刃1を有する第1実施形態のドリルのボディ部の断面を概略的に示している。第1実施形態のドリルでは、パイロット軸部の外周面まで連続して主ねじれ溝を形成しなくてはならないから、図15のようにパイロット軸部の外周面7をさらに切り込むようにねじれ溝4を切削することになる。この場合、ボディ全体にそのねじれ溝4を連続して形成するから、ウエブはW1で示す円になる。
これに対して、第1及び第2の二種類の主切れ刃2,3を備える第2実施形態のドリルは、図16に示されるように、第1の主切れ刃2はボディの全域に形成される主ねじれ溝5によって形成され、第2の主切れ刃3はボディの先端に形成される補助ねじれ溝6によって形成される。補助ねじれ溝6によってパイロット軸部の外周面7を切削することになるから、主ねじれ溝4はパイロット軸部の外周面7を切り込むまで深くねじれ溝4を切削する必要はない。この結果、ボディのウエブをW2に示すような図15のW1よりも大きな円にすることができる。また、第2の主切れ刃3を形成する補助ねじれ溝6は、主ねじれ溝4に近いねじれ角となって第2の主切れ刃3もすくい角を有することになり、ウエブを大きくしても切削性が低下することはない。
第1の主切れ刃2と第2の主切れ刃3との比率は、必要とする切削性と耐久性等を考慮して決定することができるが、第2の主切れ刃3の長さの、第1及び第2の両切れ刃2,3の合計長さに対する割合が20%〜80%とすることが、両方の性質のバランスがよく、好ましい。特に、40%〜60%程度が最も好ましい。
第2の主切れ刃3の芯上がりBは、0から第1の主切れ刃の芯上がりAの1/2となる範囲に設定することが望ましい。0前後で第2の主切れ刃の切削性が最大になるが、被切削材の種類に応じて芯上がりを調整することが望ましく、第1の主切れ刃の芯上がりの半分を超えるような値では、切削抵抗低減という補助ねじれ溝の形成の効果が少なくなるからである。
次に、第2実施形態についても詳細に説明する。本実施形態のドリルは、第1実施形態と同様に、鋼製又は超硬合金製の丸棒を切削して製造したもので、シャンク10とこれに連なるボディ20とを有する。第2実施形態のドリルは図17〜図20に表してあるが、第1実施形態と同一部分は、第1実施形態の説明と同一の図面及び符号を援用しつつ説明する。
ボディ20は、図6に示すように、外径D(例えば7.8mm)である外周面21と、所定の先端角αの先端テーパー面25とを有する。ボディ20の先端には、先端テーパー面25から同心に突出するパイロット軸部30を有する。パイロット軸部30は、図6に示すように、外径dの外周面を有する直円柱状をなし、基端がボディ20の先端テーパー面25に一体に連なる軸主体部31と、その軸主体部31の先端に位置する先端平坦面32と、軸主体部31の外周面及び前記先端平坦面32の間に位置する先端テーパー面33を備える。先端テーパー面33の先端角β(図6参照)は、この実施形態では一例として90°に設定してあるが、切削性を考慮すると、60°以上の範囲とすることが好ましい。また、前記ボディ20の先端テーパー面25の先端角αと同程度としておくことが、ドリルの製造上好ましい。
ボディ20には、外周面に奇数、例えば3本の主ねじれ溝22が所定のリード(例えば42mm)、ねじれ角(例えば30°)及び溝長(例えば70mm)で形成されている。ボディ20の外周面からパイロット軸部30の軸主体部31の基端部に連なる先端テーパー面25は、軸主体部31の基端部の周りを環状に取り巻くように位置しているが、前記主ねじれ溝22によって3分割された状態となっている。その先端テーパー面25は、所定の先端角α(図6参照)を有する先細のテーパー状をなしており、この実施形態の場合、先端角αは例えば118°に設定してあるが、ドリルの強度及び切削効率から適切な値を選定すればよい。ねじれ溝22に沿って、ボディ20の最外周面に相当してその外径Dを決めているマージン24が形成されている。
先端テーパー面25には、各主ねじれ溝22毎に合計3枚の主切れ刃23が形成されているが、後に詳述するように、この主切れ刃23は第1実施形態とは異なり、第1及び第2の二種の主切れ刃23A,23Bからなる(図17参照)。3本の主ねじれ溝22は、ボディ20の外周面において先端テーパー面25に到るまで全域に連続して形成されている。ボディ20の先端側には、主ねじれ溝22の底部からパイロット軸部30の外周面に到る領域を削った補助ねじれ溝35が所定の長さと所定の深さで形成されている。図18では、補助ねじれ溝35の形成部位を明確に示すため、特別にその形成領域に網点を付して表示してあり、図19及び図20には補助ねじれ溝35の形成によって削られることとなった主ねじれ溝22の底部を一点鎖線で示してある。
この補助ねじれ溝35によって、主切れ刃23部分も削られている。この結果、主切れ刃23は、主ねじれ溝22の切削過程で形成された第1の主切れ刃23Aと、補助ねじれ溝35の切削過程で形成された第2の主切れ刃23Bとを備えることになる。図17及び図18に示すように、第1の主切れ刃23Aは、ボディ20の先端テーパー面23の外周側に位置し、第2の主切れ刃23Bは第1の主切れ刃23Aと連続して先端テーパー面23の内周側に位置する。
主ねじれ溝22は30°のねじれ角を有し、補助ねじれ溝35も主ねじれ溝22の底部に形成されてこれとほぼ同様にねじれ角を有する。この結果、第1の主切れ刃23Aの最外周におけるすくい角は30°、第1の主切れ刃23Aと第2の主切れ刃23Bとの境界部分(主切れ刃23の長さの略半分の箇所)でのすくい角は約22°、第2の主切れ刃23Bの最内周部分でのすくい角は約13°と、すくい角が連続的に変化する刃となる。また、第1の主切れ刃23Aの芯上がりは、例えば0.27mmに設定してあり、第2の主切れ刃23Bの芯上がりは例えば0.05mmに設定してある。この結果、主切れ刃23は、図14に誇張して示したように、芯上がりが異なる二種類の主切れ刃23A,23Bから構成されることになる。
また、補助ねじれ溝35によって、パイロット軸部30の外周面も削られ、パイロット軸部30の先端平坦面32の外周を環状に取り巻くように位置している先端テーパー面33も、そのねじれ溝22によって3カ所に分断された状態にある。これにより、パイロット軸部30の先端テーパー面33に3本の各ねじれ溝22に隣接する3枚の補助切れ刃34が形成されている。なお、この補助切れ刃34の切り代は、例えば0.3mmとなるように設定されている。
この第2実施形態のドリルでは、第1実施形態のドリルと同様に使用して重ね板の穴明けに好適である上に、第1実施形態のドリルに比べて、切削抵抗を劇的に低減することができた。
<他の実施形態>
本明細書では次のような実施形態も開示する。
(1)上記各実施形態に例示したボディ20における先端角α及びパイロット軸部30における先端角βは一例であり、具体的に示した角度とは異なる角度に設定しても良い。
(2)上記各実施形態では3枚刃のドリルを例示したが、5枚刃としてもよい。奇数の刃数とすると、マージンが全周に対して奇数で均等配置され、振れ止めに効果的だからである。
(3)第2実施形態における補助ねじれ溝35は、主ねじれ溝22に沿って第2の主切れ刃23Bが形成されるように形成すれば良く、その長さや深さは任意であり、深さを変化させることもできる。ドリルが摩耗したときに再研磨する範囲内で予め形成しておくことが望ましい。
(4)上記各実施形態では、ねじれ溝のねじれ角を30°とした例を示したが、これに限られるものではなく、被切削材の硬さ等によって適宜変更できることはもちろんである。
(5)上記各実施形態では重ね板の穴明け作業を例示したが、本技術のドリルではワークが重ね板に限定されるものではない。例えば、5D程度或いはそれ以上の深穴加工を行う場合でも、穴の直線性は重要であり、軸剛性が高くて撓みの少ない本技術のドリルはそれに最適だからである。
10:シャンク
20:ボディ
22:ねじれ溝(主ねじれ溝)
23:主切れ刃
23A:第1の主切れ刃
23B:第2の主切れ刃
25:ボディの先端テーパー面
30:パイロット軸部
31:軸主体部
32:先端平坦面
33:パイロット軸部の先端テーパー面
34:補助切れ刃
35:補助ねじれ溝
40:重ね板
41:単位板

Claims (7)

  1. シャンクとこれに連なって所定の外径の外周面及び所定の先端角の先端テーパー面を有するボディとを備えたドリルであって、
    前記ボディの前記先端テーパー面から突出して前記ボディよりも径小で同心に設けられ、所定の外径の外周面を有するパイロット軸部であって、軸主体部とその軸主体部の先端に位置する先端平坦面と前記軸主体部の外周面及び前記先端平坦面との間に位置する所定の先端角の先端テーパー面とを備えたパイロット軸部と、
    前記ボディーの外周面から前記パイロット軸部の外周面にかけて所定のねじれ角で形成された奇数本のねじれ溝と、
    前記ねじれ溝の形成によって前記ボディの前記先端テーパー面に形成された奇数枚の主切れ刃と、
    前記ねじれ溝の形成によって前記パイロット軸部の前記先端テーパー面に形成された奇数枚の補助切れ刃と、を有するドリル。
  2. 前記パイロット軸部の先端テーパー面の前記先端角は、60°以上に設定されていることを特徴とする請求項1記載のドリル。
  3. シャンクとこれに連なって所定の外径の外周面及び所定の先端角の先端テーパー面を有するボディとを備えたドリルであって、
    前記ボディの先端テーパー面から突出して前記ボディよりも径小で同心に設けられ、所定の外径の外周面を有するパイロット軸部であって、軸主体部とその軸主体部の先端に位置する先端平坦面と前記軸主体部の外周面及び前記先端平坦面との間に位置する所定の先端角の先端テーパー面とを備えたパイロット軸部と、
    前記ボディーの外周面に所定のねじれ角で形成されて底部を有する奇数本の主ねじれ溝と、
    前記ボディの先端のうち、前記ボディの外周面から前記パイロット軸部の前記外周面に至る領域に所定の先端角で形成された奇数枚の主切れ刃と、
    前記ボディの先端側に位置して前記主ねじれ溝の底部から前記パイロット軸部の外周面に到る領域を削って形成された補助ねじれ溝とを有し、
    前記補助ねじれ溝の形成によって前記パイロット軸部の前記先端テーパー面に補助切れ刃が形成され、
    前記主切れ刃が前記主ねじれ溝によって形成された前記ボディの外周側に位置する第1の主切れ刃と、前記補助ねじれ溝によって形成されて前記第1の主切れ刃に前記ボディの内周側において連続する第2の主切れ刃とを備えてなり、前記第1及び第2の主切れ刃はそれぞれ所定のすくい角及び所定の芯上がりを有し、前記第2の主切れ刃の芯上がりが前記第1の主切れ刃の芯上がりよりも低い、ドリル。
  4. 前記パイロット軸部における前記先端角は、60°以上に設定されていることを特徴とする請求項3記載のドリル。
  5. 前記第2の主切れ刃の長さの、前記第1及び第2の両切れ刃の合計長さに対する割合が20%〜80%である請求項3又は請求項4に記載のドリル。
  6. 前記第2の主切れ刃の芯上がりは、0から前記第1の主切れ刃の芯上がりの1/2の範囲に設定されている請求項3ないし請求項5のいずれかに記載のドリル。
  7. 複数枚の単位板を重ねた重ね板にドリルによって穴を空ける方法であって、
    前記重ね板に所定の径寸法の下穴を形成する下穴形成工程と、
    前記下穴形成後の前記重ね板を分離して前記単位板のバリを除去するバリ取り工程と、
    前記単位板を再組立して前記重ね板を構成する再重ね工程と、
    前記再組立した前記重ね板の前記下穴に請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のドリルを使用して穴を空ける穴拡張工程と、
    とを順に実行する重ね板の穴明け方法。
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