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JP7452542B2 - シート及び積層体 - Google Patents

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Description

本発明は、シート及び積層体に関する。
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10~50μmの繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。例えば、微細繊維状セルロースを含むシートや不織布、樹脂複合体の開発が進められている。
例えば、特許文献1には、セルロース繊維からなる微多孔膜であって、1μm以上の太さの繊維がセルロース繊維の全重量に対して1重量%以上含まれている微多孔膜が開示されている。また、特許文献2には、数平均繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、数平均繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1~20mmである第2の繊維とを含む不織布が開示されている。さらに、特許文献3には、セルロースナノファイバーとパルプを含むセルロース繊維を主成分とし、所定の弾性率を有するセルロースナノファイバー成形体が開示されている。また、特許文献4には、平均繊維径0.1~50μmのセルロース繊維と平均繊維径1.5μm以下のポリオレフィン繊維とを含む不織布が開示されている。
特開2014-210987号公報 特開2015-4140号公報 特許第6313512号公報 特開2012-36518号公報
上述したように、各種セルロース繊維を含むシートが知られている。しかしながら、本発明者らは、このようなシートに樹脂を塗布した場合、樹脂との密着性に課題があることを突き止めた。
そこで本発明は、繊維幅が10μm以上の繊維状セルロース(パルプ)と、繊維幅が1μm以下の微細繊維状セルロースを含むシートであって、樹脂との密着性が良好なシートを提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維を含むシートにおいて、シートの各面の平滑度を所定範囲とすることにより、樹脂との密着性に優れたシートが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維とを含むシートであって、
シートの一方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度が10秒以下であり、シートの他方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度が100秒以上である、シート。
[2] シートは単層シートである、[1]に記載のシート。
[3] 第1のセルロース繊維は、イオン性置換基を有する[1]又は[2]に記載のシート。
[4] 第2のセルロース繊維は、イオン性置換基を有する[1]~[3]のいずれかに記載のシート。
[5] 第1のセルロース繊維の含有量が、セルロース繊維の全質量に対して10質量%以上である[1]~[4]のいずれかに記載のシート。
[6] 第1のセルロース繊維の含有量が、セルロース繊維の全質量に対して70質量%以上である[1]~[5]のいずれかに記載のシート。
[7] ヘーズが20%以上である[1]~[6]のいずれかに記載のシート。
[8] 全光線透過率が70%以上である[1]~[7]のいずれかに記載のシート。
[9] 透気度が10000秒以上である[1]~[8]のいずれかに記載のシート。
[10] 第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は0.3mmol/g以上である[3]~[9]のいずれかに記載のシート。
[11] 第1のセルロース繊維の保水度が220%以上である[1]~[10]のいずれかに記載のシート。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載のシートを2層以上含む、複層シート。
[13] [1]~[12]のいずれかに記載のシートの少なくとも一方の面上に樹脂層を有する、積層体。
[14] 前記シートと前記樹脂層の間にさらに接着層を有する[13]に記載の積層体。
本発明によれば、樹脂との密着性が良好なシートが得られる。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。 図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。 図3は、実施例7のシートに発生した撚れの一例を示す写真である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(シート)
本発明の一実施形態は、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維とを含むシートである。ここで、シートの一方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度は10秒以下であり、シートの他方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度は100秒以上である。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維を微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。また、本明細書においては、上記シートを繊維シートと呼ぶこともある。
本実施形態のシートは、上記構成を有するものであるため、樹脂との密着性が良好である。具体的には、本実施形態のシート上に樹脂層を積層し、熱プレス(例えば、プレス圧0.5MPa以上)した後の、樹脂層とシートの密着性が良好であり、層間に剥離が生じず、積層構造が維持される。
本実施形態のシートの一方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度は10秒以下であり、8秒以下であることが好ましく、6秒以下であることがより好ましく、4秒以下であることがさらに好ましく、3秒以下であることが一層好ましく、2秒以下であることが特に好ましい。なお、本実施形態のシートの一方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度は0秒であってもよい。また、本実施形態のシートの他方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度は100秒以上であり、500秒以上であることが好ましく、1000秒以上であることがより好ましく、1500秒以上であることがさらに好ましく、2000秒以上であることが特に好ましい。シートの他方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度の上限値は、特に限定されないが、例えば100,000秒以下である。
本実施形態のシートにおいては、JIS P 8155:2010に準拠して測定したシートの両表面の平滑度に差がある。本明細書においては、シートにおいて平滑度が小さい方の面を粗面と言い、平滑度が大きい方の面を平滑面と言う。なお、平滑面の平滑度/粗面の平滑度の値が10以上の場合、シートの両表面の平滑度に差があり、シートに表裏差があると言える。ただし、平滑度の値が0秒の場合は、平滑度1秒として平滑面の平滑度/粗面の平滑度の値を計算する。平滑面の平滑度/粗面の平滑度の値は、100以上であることがより好ましく、1000以上であることがさらに好ましい。
本実施形態のシートのヘーズは、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましい。本実施形態のシートのヘーズは、セルロース繊維として主に微細繊維状セルロースを含むシートよりは高くなっていてもよい。また、本実施形態のシートのヘーズは、90%以下であってもよく、85%以下であってもよく、80%以下であってもよい。本実施形態のシートのヘーズを上記上限値以下とすることで、従来のグラシン紙やグラファン紙と比較して透明性に優れたシートが得られる。なお、シートのヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠し、たとえばヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
本実施形態のシートの全光線透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。ここでシートの全光線透過率は、JIS K 7361:1997に準拠し、たとえばヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
さらに、本実施形態のシートはバリア性にも優れている。本実施形態のシートにおいては、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維を併用しているため、セルロース繊維を高密度化することができ、その結果、バリア性が高められる。具体的には、本実施形態のシートの透気度は、10000秒以上であることが好ましく、50000秒以上であることがより好ましく、100000秒以上であることがさらに好ましい。シートの透気度は、たとえばJ.TAPPI-5の王研式透気度法に準拠し、算出することができる。
本実施形態のシートは、低坪量であるから軽量である。従来、グラシン紙やグラファン紙を製造する際には、透明性やバリア性を向上させるために、セルロース繊維を高密度化することが検討されており、抄紙工程の後工程でカレンダー処理を施すことが常法として行われていた。しかし、カレンダー処理の作業性を確保するためには、低坪量化には限界があった。一方、本実施形態のシートにおいては、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維を併用しているため、カレンダー処理を施さずとも透明性やバリア性に優れたシートが得られ、その結果、低坪量化が可能となる。このため、シートの軽量化が達成される。本発明は、このように、通常はトレードオフの関係にある低坪量化と高バリア性を両立し得たものである。具体的には、本実施形態のシートの坪量は、40g/m以下であることが好ましく、30g/m以下であることがより好ましく、20g/m以下であることがさらに好ましい。シートの坪量は、たとえばJIS P 8124:2011に準拠し、算出することができる。なお、シートの坪量は、シートに求められる性能などに応じて、適宜調整することが可能であり、厚物シートが求められる用途においては、坪量は40g/m超であってもよく、100g/m以上であってもよく、150g/m以上であってもよい。
本実施形態のシートの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが特に好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μmとすることができる。シートの厚みは、たとえばJIS P 8118:2014に準拠し、測定する。
本実施形態のシートの密度は、0.1g/cm以上であることが好ましく、0.2g/cm以上であることがより好ましく、0.3g/cm以上であることがさらに好ましく、0.50g/cm以上であることが一層好ましく、0.60g/cm以上であることがより一層好ましく、0.65g/cm以上であることが特に好ましい。また、シートの密度の上限値は、特に限定されないが、たとえば5.0g/cm以下であることが好ましい。ここで、シートの密度は、JIS P 8124:2011に準拠して坪量を測定し、JIS P 8118:2014に準拠してシートの厚みを測定し、これらの値から算出したものである。なお、シートの密度は、シートに求められる性能などに応じて、たとえばカレンダー処理等を施すことにより適宜調整してもよい。
本実施形態のシートは、単層シートである。具体的には、単層のシート内に、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方がランダムに存在している。なお、本実施形態のシートは、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれている単層シートを2層以上積層した複層シートであってもよい。例えば、本実施形態のシートは、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれる第1層と、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれる第2層とを有する複層シートであってもよい。この場合、第1層と第2層は同一の層であってもよく、異なる層であってもよい。また、第1層と第2層の厚みや坪量はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。すなわち、本発明のシートは、単層シートが2層以上積層した複層シート(例えば2層シート)に関するものでもある。
(第1のセルロース繊維)
本実施形態のシートは、第1のセルロース繊維を含む。ここで、第1のセルロース繊維は、繊維幅が10μm以上のセルロース繊維である。第1のセルロース繊維の繊維幅は10μm以上であればよいが、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましい。なお、第1のセルロース繊維の繊維幅は100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましく、40μm以下であることが特に好ましい。本明細書では、第1のセルロース繊維を粗大セルロース繊維又はパルプともいう。
第1のセルロース繊維の繊維幅は、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS-200形)を用いて測定することができる。ここで、第1のセルロース繊維の繊維幅とは、セルロース繊維の幹繊維における繊維幅である。たとえば、セルロース繊維がフィブリル化セルロース繊維である場合には、フィブリル化して分枝化した繊維の繊維幅ではなく、主軸を構成している幹繊維の繊維幅を第1のセルロース繊維の繊維幅という。
第1のセルロース繊維の繊維原料としては、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプおよび脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。第1のセルロース繊維として上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
第1のセルロース繊維は、イオン性置換基を有することが好ましい。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。アニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基およびカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。第1のセルロース繊維が上述したようなイオン性置換基を有することにより、例えば、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することを抑制することができる。
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。リンオキソ酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)としてセルロース繊維に含まれていてもよい。また、リンオキソ酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リンオキソ酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
式(1)中、a、bおよびnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α,α,・・・,αおよびα’のうちa個がOであり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αおよびα’の全てがOであっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、nは1であることが好ましい。
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。なお、βb+は有機オニウムイオンであってもよく、この場合、有機アンモニウムイオンであることが特に好ましい。
第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.4mmol/g以上であることがより好ましく、0.5mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.7mmol/g以上であることが一層好ましく、1.0mmol/g以上であることが特に好ましい。また、第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、単位mmol/gは、たとえばアニオン性基の対イオンが水素イオン(H)であるときの第1のセルロース繊維の質量1gあたりの置換基量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することをより効果的に抑制することができる。
第1のセルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた第1のセルロース繊維を含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
図1は、リンオキソ酸基を有するセルロース繊維含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。セルロース繊維に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、セルロース繊維を含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、第1のセルロース繊維については、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施する。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロース繊維の第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロース繊維の第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロース繊維の総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型のセルロース繊維の質量を示すことから、酸型のセルロース繊維が有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときのセルロース繊維の質量に変換することで、陽イオンCが対イオンであるセルロース繊維が有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:セルロース繊維が有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
図2は、イオン性置換基としてカルボキシ基を有するセルロース繊維を含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。セルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、セルロース繊維を含有する分散液を強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、第1のセルロース繊維については、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施する。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象のセルロース繊維を含有する分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型のセルロース繊維の質量であることから、酸型のセルロース繊維が有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときのセルロース繊維の質量に変換することで、陽イオンCが対イオンであるセルロース繊維が有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
滴定法によるイオン性置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いイオン性置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、セルロース繊維含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
なお、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維が混在している場合には、遠心分離法により分離回収のうえ、前述した方法にてリンオキソ酸基導入量を測定する。遠心分離は、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維が混在したセルロース分散液を固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H-2000B)を用い、12000G、10分の条件で行う。その後、得られる沈降固形分を第1のセルロース繊維、上澄み液を第2のセルロース繊維として回収する。
第1のセルロース繊維の保水度は、220%以上であることが好ましく、230%以上であることがより好ましく、240%以上であることがさらに好ましく、250%以上であることが一層好ましく、280%以上であることが特に好ましい。また、第1のセルロース繊維の保水度は、600%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましく、400%以下であることがさらに好ましい。第1のセルロース繊維の保水度は、J.TAPPI-26に準拠して測定した値である。なお、第1のセルロース繊維の保水度は、シート化する前の第1のセルロース繊維の保水度であるが、シート化後の第1のセルロース繊維の保水度が上記範囲を満たすものであってもよい。
第1のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%超、41質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、50質量%超または55質量%以上であることが一層好ましく、60質量%以上であることがより一層好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。また、第1のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましく、85質量%以下であることが一層好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。
<第1のセルロース繊維の製造工程>
<リンオキソ酸基導入工程>
第1のセルロース繊維がイオン性置換基としてリンオキソ酸基を有する場合、第1のセルロース繊維の製造工程は、リンオキソ酸基導入工程を含む。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩または亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、または亜リン酸、亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、第1のセルロース繊維の収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い第1のセルロース繊維を得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。
<カルボキシ基導入工程>
第1のセルロース繊維がイオン性置換基としてカルボキシ基を有する場合、第1のセルロース繊維の製造工程は、カルボキシ基導入工程を含む。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、たとえばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
第1のセルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、第1のセルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましく、2.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.00mmol/g以下であることが一層より好ましく、1.50mmol/g以下であることがより一層さらに好ましく、1.00mmol/g以下であることがとくに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、セルロース繊維1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。カルボキシ基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、第1のセルロース繊維の安定性を高めることが可能となる。
<洗浄工程>
本実施形態における第1のセルロース繊維の製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶剤によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
<アルカリ処理工程>
本実施形態における第1のセルロース繊維の製造方法においては、必要に応じて洗浄後のイオン性置換基導入繊維に対して、アルカリ処理を行ってもよい。この場合、洗浄後のイオン性置換基導入繊維を10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nのアルカリ溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下に調整することが好ましい。アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶剤のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶剤などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性置換基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばイオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
なお、アルカリ処理工程の後には、さらに上述した洗浄工程を設けてもよい。
(第2のセルロース繊維)
本実施形態のシートは、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維(微細繊維状セルロース)を含む。第2のセルロース繊維の繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。なお、第2のセルロース繊維は、たとえば単繊維状のセルロースである。
第2のセルロース繊維の繊維幅は、1000nm以下であればよく、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが一層好ましく、50nm以下であることがより一層好ましく、20nm以下であることがさらに一層好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。本実施形態のシートは、このように繊維幅が小さい微細繊維状セルロースを、第1のセルロース繊維(粗大セルロース繊維)と併用することで、樹脂との密着性を効果的に高めることができる。また、繊維幅が小さい微細繊維状セルロースを、イオン性置換基を有する第1のセルロース繊維(粗大セルロース繊維)と併用することで、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することを抑制することができる。また、繊維幅が小さい微細繊維状セルロースを、イオン性置換基を有する第1のセルロース繊維(粗大セルロース繊維)と併用することで、シートの透明性が向上する。
第2のセルロース繊維の繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の第2のセルロース繊維の水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。
第2のセルロース繊維の繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、第2のセルロース繊維の結晶領域の破壊を抑制できる。また、第2のセルロース繊維のスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、第2のセルロース繊維の繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
第2のセルロース繊維はI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、第2のセルロース繊維がI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
第2のセルロース繊維に占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
第2のセルロース繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、第2のセルロース繊維を含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば第2のセルロース繊維を水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
本実施形態における第2のセルロース繊維は、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い第2のセルロース繊維は、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
本実施形態における第2のセルロース繊維は、イオン性置換基を有することが好ましい。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。アニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基およびカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。リンオキソ酸基は、第1のセルロース繊維が有し得るリンオキソ酸基と同様である。第1のセルロース繊維および第2のセルロース繊維がともにイオン性置換基を有するとき、第1のセルロース繊維のイオン性置換基と、第2セルロース繊維のイオン性置換基は、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
第2のセルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、たとえば第2のセルロース繊維1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.3mmol/g以上であることがより好ましく、0.5mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.7mmol/g以上であることが一層好ましく、1.0mmol/g以上であることが特に好ましい。また、第2のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、単位mmol/gは、たとえばアニオン性基の対イオンが水素イオン(H)であるときの第2のセルロース繊維の質量1gあたりの置換基量を示す。
第2のセルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた第2のセルロース繊維を含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。具体的なイオン性置換基の導入量の測定方法は、第1のセルロース繊維におけるイオン性置換基の導入量の測定方法と同様である。なお、第1のセルロース繊維におけるイオン性置換基の導入量を測定する際には、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、解繊処理を実施するが、第2のセルロース繊維におけるイオン性置換基の導入量を測定する際には、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、解繊処理を実施しなくてもよい。
第2のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが一層好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、第2のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが一層好ましく、40質量%以下であることがより一層好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
<微細繊維状セルロースの製造工程>
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
<リンオキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースがリンオキソ酸基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、リンオキソ酸基導入工程を含む。リンオキソ酸基導入工程は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるリンオキソ酸基導入工程と同様の工程である。
<カルボキシ基導入工程>
微細繊維状セルロースがカルボキシ基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、カルボキシ基導入工程を含む。カルボキシ基導入工程は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるカルボキシ基導入工程と同様の工程である。
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてリンオキソ酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、第1のセルロース繊維の製造工程における洗浄工程と同様の工程である。
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるアルカリ処理の方法と同様である。
なお、アルカリ処理工程の後には、さらに上述した洗浄工程を設けてもよい。
<解繊処理>
繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、繊維を分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶剤などの有機溶剤から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶剤としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのイオン性置換基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
(比率)
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維の質量比率(第1のセルロース繊維:第2のセルロース繊維)は、30:70~90:10であることが好ましく、40:60~90:10であることがより好ましく、60:40~90:10であることがさらに好ましく、70:30~90:10であることが特に好ましい。ここで、シート中の第1のセルロース繊維は、たとえば走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-3600N)にて観察することが可能である。また、第2のセルロース繊維は、たとえば高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(日立製作所製、S-5200)にて観察することが可能である。このような観察により、各繊維の体積比率から質量比率を算出してもよい。但し、後述するようなシートの製造工程における、各セルロース繊維の混合比は、シートにおける第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維の比率と同等である。
(その他の繊維)
本実施形態のシートは第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維以外に、その他のセルロース繊維を含んでいてもよい。その他のセルロース繊維としては、たとえば第1のセルロース繊維を叩解して繊維幅を1μmより大きく10μm未満とした、高叩解パルプを挙げることができる。ここで、その他の繊維の繊維幅とは、セルロース繊維の幹繊維における繊維幅である。たとえば、その他の繊維がフィブリル化セルロース繊維である場合には、フィブリル化して分枝化した繊維の繊維幅ではなく、幹繊維の繊維幅をその他の繊維の繊維幅という。
その他のセルロース繊維の叩解は、たとえば解繊処理装置を用いて行うことができる。解繊処理装置としては特に限定されない。例えば、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、クレアミックス、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーが挙げられる。また、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーター等、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。
(水溶性高分子/低分子化合物)
本実施形態のシートは、水溶性高分子をさらに含んでいてもよい。水溶性高分子としては、たとえばカルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、およびポリアクリルアミドなどに例示される合成水溶性高分子;キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、およびペクチンなどに例示される増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒロドキシエチルセルロースなどに例示されるセルロース誘導体;カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、およびアミロースなどに例示されるデンプン類;ポリグリセリンなどに例示されるグリセリン類;ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。これらの中でも、水溶性高分子はポリビニルアルコールであることが好ましい。
また、本実施形態のシートは、水溶性高分子の代わりに親水性の低分子化合物を含んでいてもよい。親水性の低分子化合物としては、グリセリン、ジグリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトールなどを挙げることができるが、特に限定されない。
シート中における水溶性高分子又は親水性低分子化合物の含有量は、セルロース繊維100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることがさらに好ましく、5.0質量部以上であることが特に好ましい。また、水溶性高分子の含有量は、セルロース繊維100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが特に好ましい。水溶性高分子又は親水性低分子化合物の含有量を上述の範囲とすることにより、シートの強度をより効果的に向上させることができる。
(紙力増強剤)
本実施形態のシートは、紙力増強剤をさらに含むものであることが好ましい。これにより、シートの強度をさらに向上させることが可能となる。紙力増強剤としては、乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤を挙げることができる。乾燥紙力剤としては、例えば、カチオン化澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂等を挙げることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピハロヒドリン、尿素、メラミン、熱架橋性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。中でも、本実施形態のシートは、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを含有することが好ましい。
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは、脂肪族二塩基性カルボン酸又はその誘導体と、ポリアルキレンポリアミンを加熱縮合させてポリアミドポリアミンを合成し、次いで該ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリンを反応させることで得られるカチオン性熱硬化性樹脂である。なお、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは水性樹脂であるから、シート形成用スラリーにはポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを水溶液として添加することもできる。
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンとしては、例えば、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンポリアミドエピブロモヒドリン、ポリアミンポリアミドエピヨードヒドリン等を挙げることができる。
シート中における紙力増強剤の含有量は、セルロース繊維100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、2.0質量部以上であることが特に好ましい。また、紙力増強剤の含有量は、セルロース繊維100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましく、15質量部以下であることが一層好ましく、7.0質量部以下であることが特に好ましい。紙力増強剤の含有量を上述の範囲とすることにより、シートの強度をより効果的に向上させることができる。
(任意成分)
本実施形態のシートには、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、防腐剤、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、サイズ剤、凝結剤、歩留まり向上剤、嵩高剤、濾水性向上剤、pH調整剤、蛍光増白剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、消泡剤、保水剤、分散剤等を挙げることができる。
シート中に含まれる上記任意成分の含有量は、シートの全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが一層好ましく、10質量%以下であることがより一層好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
(シートの製造方法)
本実施形態のシートの製造方法は、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むスラリーからシートを形成する工程を含む。なお、本発明のシートが、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれる第1層と、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれる第2層とを有する複層シートである場合、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維とを含むスラリーから第1層(もしくは第2層)を形成した後に、該層上に繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維とを含むスラリーを塗工して第2層(もしくは第1層)を形成する工程を設けてもよい。また、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むスラリーから第1層と第2層をそれぞれ形成した後に、これらの層を重ね合わせることで第1層と第2層を有する複層シートを形成してもよい。
シートの製造工程においては、シートを形成する工程において、シートの一方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度が10秒以下となり、シートの他方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度が100秒以上となる工程や条件が採用される。例えば、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を含むスラリーを抄紙し、シートを形成した後にシートの一方の面のみにカレンダー処理を施す方法や、シートの一方の面のみに微細凹凸構造を形成する方法、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を含むスラリーを基板上に塗工する方法等を適宜選択することで、シートの両面の平滑度を所望の条件とすることができる。
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を分散させたスラリー中に含まれる固形分濃度は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、スラリー中に含まれる固形分濃度は、0.01質量%以上であることが好ましい。
ここで、第1のセルロース繊維の保水度は、220%以上であることが好ましく、230%以上であることがより好ましく、240%以上であることがさらに好ましい。また、第1のセルロース繊維の保水度は、600%以下であることが好ましい。なお、第1のセルロース繊維の保水度は、J.TAPPI-26に準拠して測定した値である。本実施形態のシートの製造工程では、保水度が220%以上の第1のセルロース繊維を用いることにより、繊維が均一に分散したスラリーを得ることができる。また、保水度が220%以上の第1のセルロース繊維を用いることにより、セルロース繊維濃度が高いスラリーにおいても、セルロース繊維が凝集することを抑制できる。
<抄紙工程>
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を含むスラリーを抄紙する場合、抄紙機によりスラリーを抄紙する。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、特に限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
抄紙工程は、スラリーをワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、このシートをプレス、乾燥することにより行われる。スラリーを濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、特に限定されないが、たとえば繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、特に限定されないが、たとえば有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
シート化工程において、スラリーからシートを製造する方法は、たとえばセルロース繊維を含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
抄紙工程において用いられる脱水方法としては、特に限定されないが、たとえば紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられる。これらの中でも、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、さらにロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、抄紙工程において用いられる乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば紙の製造で用いられている方法が挙げられる。これらの中でも、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法がより好ましい。
このような抄紙工程の後には、得られたシートの一方の面にカレンダー処理を施してもよい。また、一方の面を再湿潤液により再湿潤させ、キャストドラムに圧着するリウェットキャスト処理を施してもよい。これらにより、シートの一方の面のみの平滑度を100以上としてもよい。また、抄紙工程の後には、得られたシートの一方の面に微細凹凸構造を形成する工程を設けてもよい。例えば、サンドブラスト処理や、微細凹凸構造を有するローラー等を用いた転写処理工程等を設けることで、シートの一方の面のみの平滑度を10以下としてもよい。
<塗工工程>
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を含むスラリーを基材上に塗工する工程(塗工工程)では、たとえば繊維状セルロースを含むスラリー(塗工液)を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の材質は、特に限定されないが、スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、特に限定されない。たとえばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、特に限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばポリプロピレン板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
スラリーを基材に塗工する塗工機としては、特に限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが特に好ましい。
スラリーを基材へ塗工する際のスラリー温度および雰囲気温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることが特に好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーをより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が好ましくは5g/m以上500g/m以下となるように、より好ましくは10g/m以上300g/m以下となるように、スラリーを基材に塗工することが好ましい。なお、塗工工程は、例えば坪量が30g/m以下といった薄膜シートを製造することも可能である。
塗工工程は、上述のとおり、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含む。スラリーを乾燥させる工程は、特に限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、特に限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
加熱乾燥法における加熱温度は、特に限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制およびセルロース繊維の熱による変色の抑制を実現できる。
(用途)
本実施形態のシートの用途は特に限定されない。例えば、シートは、包装紙、トレーシングペーパー、クッキングシート、薬包紙、電池用セパレータ、フィルター、全熱交換用ライナー、振動板、プレス成形用部材、フレキシブル基板、樹脂複合材、強化繊維プラスチック積層体等の用途に適している。
(積層体)
本実施形態のシートは、樹脂との密着性が良好であるため、樹脂層との積層体を形成する用途に好ましく用いられる。すなわち、本発明は、上述したシートの少なくとも一方の面上に樹脂層を有する積層体に関するものであってもよい。
積層体に含まれ得る樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン-酢酸ビニル(EVA)樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂は、ポリカーボネート樹脂、PET樹脂、ABS樹脂、EVA樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010-023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
樹脂層を構成する樹脂は1種を単独で用いてもよく、複数の樹脂成分が共重合又は、グラフト重合してなる共重合体を用いてもよい。また、複数の樹脂成分を物理的なプロセスで混合したブレンド材料として用いてもよい。
なお、シートと樹脂層の間には、接着層もしくは樹脂塗工層が設けられていてもよく、また接着層や樹脂塗工層が設けられておらず、シートと樹脂層が直接密着をしていてもよい。
シートと樹脂層の間に接着層が設けられる場合は、接着層を構成する接着剤として、例えば、アクリル樹脂を挙げることができる。また、アクリル樹脂以外の接着剤としては、例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
シートと樹脂層の間に樹脂塗工層が設けられる場合は、樹脂塗工層を構成する成分としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、あるいは有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした樹脂等を挙げることができる。また、このような樹脂を塗工する際には、樹脂塗工液中に必要に応じて密着助剤を含有させてもよい。密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。なお、このような密着助剤は、積層体に含まれ得る樹脂層に含まれていてもよい。
シートと樹脂層の間に接着層や樹脂塗工層が設けられていない場合は、樹脂層の表面に親水化処理等の表面処理を行ってもよい。また、樹脂層の表面には、親水化処理以外の表面処理を施してもよく、このような処理方法としては、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。
積層体には、無機層が含まれていてもよい。このような無機層は、繊維シート上に積層されるものであってもよく、樹脂層上に積層されるものであってもよい。
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;又はこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、又はこれらの混合物が好ましい。
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
(実施例1)
<第1のセルロース繊維(1)の作製>
[リン酸化パルプの作製]
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
[洗浄処理]
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
[中和処理]
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。
[洗浄処理]
次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gだった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μmであった。得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%の第1のセルロース繊維(1)を含む、第1のセルロース繊維分散液(1)を得た。
<第2のセルロース繊維(1)の作製>
[微細化]
上記方法にて得られた第1のセルロース繊維分散液(1)を、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、第2のセルロース繊維(1)を含む、第2のセルロース繊維分散液(1)を得た。X線回折により、この第2のセルロース繊維(1)がセルロースI型結晶を維持していることが確認された。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gだった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は3~5nmであった。
<シート化>
第1のセルロース繊維(1)が75質量部、第2のセルロース繊維(1)が25質量部、ポリビニルアルコール(PVA)が10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリン(PAE)が5質量部となるように、第1のセルロース繊維分散液(1)と、第2のセルロース繊維分散液(1)と、ポリビニルアルコール溶液(日本合成化学工業製、ゴーセネックス Z-200)と、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリン溶液(荒川化学工業製、アラフィックス 255)を混合して塗工液1を得た。塗工液1の固形分濃度は0.5質量%に調製した。
次いで、得られるシート(上記塗工液の固形分から構成される層)の坪量が25g/mになるように塗工液1を計量して、市販のアクリル板に塗工し、50℃の恒温乾燥機にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mm、高さ5cmの金枠)を配置した。次いで、上記アクリル板から乾燥後のシートを剥離し、第1のセルロース繊維(1)と第2のセルロース繊維(1)を含有するシートを得た。なお、アクリル板に接触していた面を平滑面、アクリル板への接触面とは反対側の面(非接触面)を粗面として、後述する方法で平滑度を測定した。
<積層体の製造>
上記で得られたシートを、カッターで裁断し、寸法100mm×100mmの断片を作製した。シート断片の粗面に、同じ寸法に裁断した下記に記載する市販の樹脂板それぞれを重ね合わせた。次いで、重ね合わせたシート断片と樹脂板を、厚み2mm、寸法200mm×200mmのステンレス板で挟み、常温に設定したミニテストプレス(東洋精機工業社製、MP-WCH)に挿入した。上記ミニテストプレスを3MPaのプレス圧力下、3分かけて所定の温度(下記に記載のプレス温度)まで昇温し、この状態で5分間保持した後、5分かけて30℃まで冷却した。上記の手順により、樹脂板とシートで構成された積層体を得た。
・ABS樹脂板 …厚み:1.5mm、プレス温度:150℃
・EVA樹脂シート …厚み:0.8mm、プレス温度:150℃
・アクリル板 …厚み:2.0mm、プレス温度:150℃
・ポリカーボネート樹脂板 …厚み:2.0mm、プレス温度:150℃
・PET樹脂板 …厚み:0.5mm、プレス温度:180℃
(実施例2)
シート化工程において、シートの坪量が100g/mになるように塗工液1を計量した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(実施例3)
シート化工程において、シートの坪量が180g/mになるように塗工液1を計量した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(実施例4)
<第1のセルロース繊維(2)の作製>
[TEMPO酸化パルプの作製]
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して3.8mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、パルプ中のセルロースにカルボキシ基が導入されたTEMPO酸化パルプを得た。
[洗浄処理]
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5,000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。また、得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。これにより得られたTEMPO酸化パルプについて、後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.30mmol/gだった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μmであった。得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%の第1のセルロース繊維(2)を含む、第1のセルロース繊維分散液(2)を得た。
<第2のセルロース繊維(2)の作製>
[微細化]
上記方法にて得られた第1のセルロース繊維分散液(2)を用いた以外は、第2のセルロース繊維(1)と同様にして、第2のセルロース繊維(2)を含む、第2のセルロース繊維分散液(2)を得た。X線回折により、この第2のセルロース繊維(2)がセルロースI型結晶を維持していることが確認された。後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.30mmol/gだった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は3~5nmであった。
<シート化及び積層体の製造>
シート化工程において、第1のセルロース繊維(1)に代えて第1のセルロース繊維(2)を、第2のセルロース繊維(1)に代えて第2のセルロース繊維(2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(実施例5)
<第1のセルロース繊維(3)の作製>
[亜リン酸化パルプの作製]
リン酸二水素アンモニウムの代わりに亜リン酸(ホスホン酸)33質量部を用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い、パルプ中のセルロースに亜リン酸基を導入した、亜リン酸化パルプを得た。
これにより得られた亜リン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。なお、得られた亜リン酸化パルプについて、後述する測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μmであった。得られた亜リン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%の第1のセルロース繊維(3)を含む、第1のセルロース繊維分散液(3)を得た。
<第2のセルロース繊維(3)の作製>
[微細化]
上記方法にて得られた第1のセルロース繊維分散液(3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、第2のセルロース繊維(3)を含む、第2のセルロース繊維分散液(3)を得た。X線回折により、この第2のセルロース繊維(2)がセルロースI型結晶を維持していることが確認された。後述する測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mol/gであった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は3~5nmであった。
<シート化及び積層体の製造>
シート化工程において、第1のセルロース繊維(1)に代えて第1のセルロース繊維(3)を、第2のセルロース繊維(1)に代えて第2のセルロース繊維(3)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(実施例6)
<第2のセルロース繊維(4)の作製>
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)をダブルディスクリファイナーにて変則フリーネスが100mlになるまで叩解し、固形分濃度が2質量%のパルプ分散液を得た。パルプ分散液を固形分濃度が0.2質量%になるようにイオン交換水で希釈し、NiroSoavi社製高圧ホモジナイザー「Panda Plus2000」により処理圧力120MPaで3回の微細化処理を行い、第2のセルロース繊維(4)を含む、第2のセルロース繊維分散液(4)を得た。得られた第2のセルロース繊維(4)の繊維幅は130nmであり、カルボキシ基量は、0.03mmol/gだった。
<シート化及び積層体の製造>
シート化工程において、第2のセルロース繊維(1)に代えて第2のセルロース繊維(4)を使用した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(実施例7)
<第1のセルロース繊維(4)の作製>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%の第1のセルロース繊維(4)を含む、第1のセルロース繊維分散液(4)を得た。第1のセルロース繊維(4)の繊維幅は29μmであり、カルボキシ基量は、0.03mmol/gだった。
<シート化及び積層体の製造>
シート化工程において、第1のセルロース繊維(1)に代えて第1のセルロース繊維(4)を使用した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(実施例8)
<シート化>
実施例1と同様にして、第1のセルロース繊維(1)と第2のセルロース繊維(1)を含有するシートを得た。
<樹脂塗工>
溶媒溶解性を高めた特殊ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製、ユピゼータ2136)15質量部、トルエン57質量部、メチルエチルケトン28質量部を混合し、樹脂組成物を得た。次いで上記樹脂組成物に密着助剤としてイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、デュラネートTPA-100)を2.25質量部添加して混合し、上記で得られたシートの粗面に、バーコーターにて塗布した。さらに100℃で1時間加熱して硬化させ、樹脂層を形成した。上記の手順により、繊維層(セルロース繊維含有層)の粗面に樹脂層が塗工された樹脂塗工シートを得た。
<積層体の製造>
得られた樹脂塗工シートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(実施例9)
<シート化>
第1のセルロース繊維(1)が75質量部、第2のセルロース繊維(1)が25質量部、ポリビニルアルコールが10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリンが5質量部となるように、第1のセルロース繊維分散液(1)と、第2のセルロース繊維分散液(1)と、ポリビニルアルコール溶液(日本合成化学工業製、ゴーセネックス Z-200)と、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリン溶液(荒川化学工業製、アラフィックス 255)を混合して塗工液1を得た。塗工液1の固形分濃度は0.5質量%に調製した。
次いで、得られるシートの坪量が100g/mになるように塗工液1を計量して、市販のアクリル板に塗工し、50℃の恒温乾燥機にて乾燥した。次いで、乾燥したシート上に、再度、得られるシートの坪量が100g/mになるように塗工液1を計量して塗工し、50℃の恒温乾燥機にて乾燥した。このようにして、シートの合計の坪量が200g/mになるシートを作製した。次いで、上記アクリル板から乾燥後のシートを剥離し、第1のセルロース繊維(1)と第2のセルロース繊維(1)を含有するシートを得た。なお、アクリル板に接触していた面を平滑面、アクリル板への接触面とは反対側の面(非接触面)を粗面として、後述する方法で平滑度を測定した。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(比較例1)
シート化工程において、第2のセルロース繊維(1)が100質量部、ポリビニルアルコールが10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリンが5質量部となるように配合した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。比較例1のシートでは、セルロース繊維として、第2のセルロース繊維(1)のみを含む。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(比較例2)
シート化工程において、シートの坪量が100g/mになるようにした以外は、比較例1と同様にしてシートを得た。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
(比較例3)
シート化工程において、シートの坪量が180g/mになるようにした以外は、比較例1と同様にしてシートを得た。また、得られたシートから実施例1と同様にして積層体を得た。
<測定方法>
(リンオキソ酸基量の測定)
第2のセルロース繊維(1)及び(3)のイオン性基量は、対象となる微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した微細繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに、体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ(株)、コンディショニング済を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(第1解離酸量)(mmol/g)とした。
なお、第1のセルロース繊維(1)及び(3)については、第1のセルロース繊維(1)及び(3)にイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製し、このスラリーを、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理して得られた分散液に対して、上述した方法と同様にアルカリを用いた滴定を行った。
(カルボキシ基量の測定)
第2のセルロース繊維(2)及び(4)の微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、中和滴定法により測定した。対象となる微細繊維状セルロース分散液にイオン交換水を添加して、含有量を0.2質量%とし、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。イオン交換樹脂による処理は、0.2質量%の微細繊維状セルロース含有分散液に体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ(株)製、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有分散液に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察すると、図2に示されるような滴定曲線が得られる。図2に示されるように、この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ観測される。この増分の極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出した。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、カルボキシ基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。
なお、第1のセルロース繊維(2)については、第1のセルロース繊維(2)にイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製し、このスラリーを、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理して得られた分散液に対して、上述した方法と同様にアルカリを用いた滴定を行った。
<第1のセルロース繊維の繊維幅の測定>
第1のセルロース繊維の繊維幅は、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS-200形)を用いて測定することにより求めた。
<第2のセルロース繊維の繊維幅の測定>
第2のセルロース繊維の繊維幅を下記の方法で測定した。湿式微粒化装置にて処理をして得られた上記微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察した。
(坪量)
JIS P 8124:2011に準拠してシートの坪量を測定した。
(紙厚)
JIS P 8118:2014に準拠してシートの厚みを測定した。
(密度)
JIS P 8124:2011に準拠してシートの坪量を測定し、JIS P 8118:2014に準拠してシートの厚みを測定し、これらの値からシートの密度を算出した。
(平滑度)
JIS P 8155:2010に準拠してシートの両表面の平滑度をそれぞれ測定した。平滑面の平滑度/粗面の平滑度の値が10以上の場合を表裏差有、10未満の場合を表裏差無とした。ただし、平滑度の値が0秒の場合は、平滑度1秒として平滑面の平滑度/粗面の平滑度の値を計算した。
(透気度)
J.TAPPI-5の王研式透気度法に準拠してシートの透気度を測定した。
(ヘーズ及び全光線透過率)
JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150 )を用いてシートのヘーズを測定した。また、JIS K 7361:2000に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いてシートの全光線透過率を測定した。
(樹脂密着性)
実施例及び比較例で得た樹脂板と繊維シートの積層体の密着性を、以下の手順で評価した。樹脂層と繊維シートの積層体を、曲げ試験機(テンシロンRTC-1250A)の三点曲げ治具上に静置した。三点曲げ冶具のスパン長を300mm、試験速度を5mm/分に設定し、曲げ応力を付与した。曲げ破壊に至った後に樹脂層と繊維シートの積層体を観察し、以下の基準に従って評価を行った。
○:層間に剥離が認められず、積層構成を維持している。
×:層間の少なくとも一部に剥離が認められ、層が分離しており、積層構成が維持されていない。
(シート外観)
作製したシート(サイズ縦18cm、横18cm)20枚(総面積0.648m分)、における撚れ個数を目視にて確認した。1mあたりの撚れの個数に換算した。なお、「撚れ」とは、図3の点線枠内に示されるようなシート表面に確認される白い塊部分のことをいう。
(保水度)
J.TAPPI-26に準拠して第1のセルロース繊維の保水度を測定した。
実施例で得られたシートは樹脂との密着性が良好であった。一方、比較例で得られたシートにおいては樹脂との密着性が劣っていた。
なお、第1のセルロース繊維としてイオン性置換基を有するセルロース繊維を用いた実施例では、シート中の撚れの発生も抑制されていた。

Claims (13)

  1. 繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維とを含むシートであって、
    前記第1のセルロース繊維はイオン性置換基を有し、前記イオン性置換基は、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基であり、
    前記シートの一方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度が10秒以下であり、前記シートの他方の面のJIS P 8155:2010に準じて測定した平滑度が100秒以上である、シート。
  2. 前記シートは単層シートである、請求項1に記載のシート。
  3. 前記第2のセルロース繊維は、イオン性置換基を有する請求項1又は2に記載のシート。
  4. 前記第1のセルロース繊維の含有量が、セルロース繊維の全質量に対して10質量%以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  5. 前記第1のセルロース繊維の含有量が、セルロース繊維の全質量に対して70質量%以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  6. ヘーズが20%以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  7. 全光線透過率が70%以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  8. 透気度が10000秒以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  9. 前記第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は0.3mmol/g以上である請求項1~8のいずれか1項に記載のシート。
  10. 前記第1のセルロース繊維の保水度が220%以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  11. 請求項1~10のいずれか1項に記載のシートを2層以上含む、複層シート。
  12. 請求項1~10のいずれか1項に記載のシートの少なくとも一方の面上に樹脂層を有する、積層体。
  13. 前記シートと前記樹脂層の間にさらに接着層を有する請求項12に記載の積層体。
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