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JP7119609B2 - シート及びシートの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、シート及びシートの製造方法に関する。
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10~50μmの繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。例えば、微細繊維状セルロースを含むシートや不織布、樹脂複合体の開発が進められている。
例えば、特許文献1には、セルロース繊維からなる微多孔膜であって、1μm以上の太さの繊維がセルロース繊維の全重量に対して1重量%以上含まれている微多孔膜が開示されている。また、特許文献2には、数平均繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、数平均繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1~20mmである第2の繊維とを含む不織布が開示されている。さらに、特許文献3には、平均繊維径0.1~50μmのセルロース繊維と平均繊維径1.5μm以下のポリオレフィン繊維とを含む不織布が開示されている。
特開2014-210987号公報 特開2015-4140号公報 特開2012-036518号公報
上述したように、各種セルロース繊維を含む膜や不織布が知られている。しかしながら、本発明者らは、繊維幅が10μm以上の繊維状セルロース(パルプ)と、繊維幅が1μm以下の微細繊維状セルロースを含むシートを製造する際において、得られるシートに撚れが発生する場合があることを突き止めた。
そこで本発明は、繊維幅が10μm以上の繊維状セルロース(パルプ)と、繊維幅が1μm以下の微細繊維状セルロースを含むシートであって、撚れの発生が抑制されたシートを提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維を含むシートにおいて、イオン性置換基を有する第1のセルロース繊維を用いることにより、撚れの発生が抑制されたシートが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] イオン性置換基を有し、かつ繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むシート。
[2] 第2のセルロース繊維は、イオン性置換基を有する[1]に記載のシート。
[3] 第1のセルロース繊維の含有量が、セルロース繊維の全質量に対して10質量%以上である[1]又は[2]に記載のシート。
[4] ヘーズが20%以上である[1]~[3]のいずれかに記載のシート。
[5] 全光線透過率が80%以上である[1]~[4]のいずれかに記載のシート。
[6] 坪量が40g/m2以下である[1]~[5]のいずれかに記載のシート。
[7] 透気度が10000秒以上である[1]~[6]のいずれかに記載のシート。
[8] 第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は0.3mmol/g以上である[1]~[7]のいずれかに記載のシート。
[9] 第1のセルロース繊維の保水度が220%以上である[1]~[8]のいずれかに記載のシート。
[10] 保水度が220%以上であり、かつ繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むスラリーからシートを形成する工程を含むシートの製造方法。
[11] 第2のセルロース繊維は、イオン性置換基を有する[10]に記載のシートの製造方法。
本発明によれば、撚れの発生が抑制されたシートが得られる。
図1は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。 図2は、カルボキシル基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。 図3は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。 図4は、比較例のシートに発生した撚れの一例を示す写真である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(シート)
本発明は、イオン性置換基を有し、かつ繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むシートに関する。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維を微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
本発明のシートは、上記構成を有するものであるため、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することが抑制されている。このため、本発明のシートは外観が良好であり、かつ均質性の高いシートが得られる。
本発明のシートのヘーズは、20%以上であることが好ましい。本発明のシートのヘーズは、セルロース繊維として主に微細繊維状セルロースを含むシートよりは高くなっていてもよい。また、本発明のシートのヘーズは、90%以下であってもよく、85%以下であってもよく、80%以下であってもよい。本発明のシートのヘーズを上記上限値以下とすることで、従来のグラシン紙やグラファン紙と比較して透明性に優れたシートが得られる。
本発明のシートの全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここで、シートのヘーズは、JIS K 7136に準拠し、たとえばヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。また、シートの全光線透過率は、JIS K 7361に準拠し、たとえばヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
さらに、本発明のシートはバリア性にも優れている。本発明のシートにおいては、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維を併用しているため、セルロース繊維を高密度化することができ、その結果、バリア性が高められる。具体的には、本発明のシートの透気度は、10000秒以上であることが好ましく、50000秒以上であることがより好ましく、100000秒以上であることがさらに好ましい。シートの透気度は、たとえばJ.TAPPI-5の王研式透気度法に準拠し、算出することができる。
本発明のシートは、低坪量であるから軽量である。従来、グラシン紙やグラファン紙を製造する際には、透明性やバリア性を向上させるために、セルロース繊維を高密度化することが検討されており、抄紙工程の後工程でカレンダー処理を施すことが常法として行われていた。しかし、カレンダー処理の作業性を確保するためには、低坪量化には限界があった。一方、本発明のシートにおいては、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維を併用しているため、カレンダー処理を施さずとも透明性やバリア性に優れたシートが得られ、その結果、低坪量化が可能となる。このため、シートの軽量化が達成される。本発明は、このように、通常はトレードオフの関係にある低坪量化と高バリア性を両立し得たものである。具体的には、本発明のシートの坪量は、40g/m2以下であることが好ましく、30g/m2以下であることがより好ましく、20g/m2以下であることがさらに好ましい。シートの坪量は、たとえばJIS P 8124に準拠し、算出することができる。なお、シートの坪量は、シートに求められる性能などに応じて、適宜調整することが可能である。
本発明のシートの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、とくに限定されないが、たとえば1000μmとすることができる。シートの厚みは、たとえばJIS P 8118に準拠し、測定する。
本発明のシートの密度は、0.1g/cm3以上であることが好ましく、0.2g/cm3以上であることがより好ましく、0.3g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、シートの密度の上限値は、とくに限定されないが、たとえば5.0g/cm3以下であることが好ましい。ここで、シートの密度は、JIS P 8124に準拠して坪量を測定し、JIS P 8118に準拠してシートの厚みを測定し、これらの値から算出したものである。なお、シートの密度は、シートに求められる性能などに応じて、たとえばカレンダー処理等を施すことにより適宜調整することが可能である。
(第1のセルロース繊維)
本発明のシートは、第1のセルロース繊維を含む。ここで、第1のセルロース繊維は、イオン性置換基を有し、かつ繊維幅が10μm以上のセルロース繊維である。第1のセルロース繊維の繊維幅は10μm以上であればよいが、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。なお、第1のセルロース繊維の繊維幅は100μm以下であることが好ましい。本明細書では、第1のセルロース繊維を粗大セルロース繊維ともいう。
第1のセルロース繊維の繊維幅は、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS-200形)を用いて測定することができる。ここで、第1のセルロース繊維の繊維幅とは、セルロース繊維の幹繊維における繊維幅である。たとえば、セルロース繊維がフィブリルセルロース繊維である場合には、フィブリル化して分枝化した繊維の繊維幅ではなく、主軸を構成している幹繊維の繊維幅を第1のセルロース繊維の繊維幅という。
第1のセルロース繊維の繊維原料としては、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプおよび脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。第1のセルロース繊維として上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
第1のセルロース繊維は、イオン性置換基を有する。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。アニオン性基としては、たとえばリン酸基またはリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基またはカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基およびカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることがとくに好ましい。
リン酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基には、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として第1のセルロース繊維に含まれていてもよい。
リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。
Figure 0007119609000001
式(1)中、a、b及びnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちa個がO-であり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αn及びα’の全てがO-であっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、第1のセルロース繊維の収率を高めることもできる。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.4mmol/g以上であることがより好ましく、0.5mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.7mmol/g以上であることが一層好ましく、1.0mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.5mmol/g以下であることがより好ましく、3.0mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、単位mmol/gは、たとえばアニオン性基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することをより効果的に抑制することができる。
第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、たとえば以下のような中和滴定法により測定することができる。
図1は、リン酸基を有する第1のセルロース繊維に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。第1のセルロース繊維に対するリン酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、第1のセルロース繊維をイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N塩酸を添加する。その後、濾過脱水により第1のセルロース繊維を回収する。この操作を、適宜1N塩酸の添加量を変えながら繰り返し、第1のセルロース繊維が有するリン酸基を完全に酸型へ変換する。そして、リン酸基の酸型への変換工程の後には、得られた第1のセルロース繊維をイオン交換水で希釈した後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流す。次いで、得られた第1のセルロース繊維(酸型)をイオン交換水で希釈した懸濁液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1に示すような滴定曲線を得る。図1に示すように、pHの増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が2つ得られる(増分が最大となる点と、二番目に大きくなる点)。このうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点(以下、第1終点と呼ぶ)までの領域を第1領域と呼び、第1終点から次に得られる増分の極大点(以下、第2終点と呼ぶ)までの領域を第2領域と呼び、第2領域の後には第3領域がある。第1終点はpHが4から7を示す間に得られ、第2終点はpHが9から10を示す間に得られる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。このため、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。したがって、上記で得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象の第1のセルロース繊維懸濁液中の固形分(g)で除して得られる値が、リン酸基導入量(mmol/g)となる。
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維が混在している場合には、遠心分離法により分離回収のうえ、前述した方法もしくは後述する方法にてリン酸基導入量を測定する。遠心分離は、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維が混在したセルロース分散液を固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H-2000B)を用い、12000G、10分の条件で行う。その後、得られる沈降固形分を第1のセルロース繊維、上澄み液を第2のセルロース繊維として回収する。
図2は、カルボキシル基を有する第1のセルロース繊維に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。第1のセルロース繊維に対するカルボキシル基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、第1のセルロース繊維をイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N塩酸を添加する。その後、濾過脱水により第1のセルロース繊維を回収する。この操作を、適宜1N塩酸の添加量を変えながら繰り返し、第1のセルロース繊維が有するカルボキシル基を完全に酸型へ変換する。そして、カルボキシル基の酸型への変換工程の後には、得られた第1のセルロース繊維をイオン交換水で希釈した後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流す。次いで、得られた第1のセルロース繊維(酸型)をイオン交換水で希釈した懸濁液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図2に示すような滴定曲線を得る。なお、必要に応じて、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。滴定曲線は、図2に示すように、電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでの第1領域と、その後に伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の第1のセルロース繊維含有スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、カルボキシル基の導入量(mmol/g)となる。
なお、上述のカルボキシル基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の第1のセルロース繊維の質量であることから、酸型の第1のセルロース繊維が有するカルボキシル基量(以降、カルボキシル基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシル基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの第1のセルロース繊維の質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである第1のセルロース繊維が有するカルボキシル基量(以降、カルボキシル基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によってカルボキシル基導入量を算出する。
カルボキシル基量(C型)=カルボキシル基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシル基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
なお、滴定法による置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液の滴定間隔が短すぎる場合、本来より低い置換基量となることがあるため、適切な滴定間隔、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を30秒間に50μLずつ滴定するなどが望ましい。
第1のセルロース繊維の保水度は、220%以上であることが好ましく、230%以上であることがより好ましく、240%以上であることがさらに好ましく、250%以上であることが一層好ましく、280%以上であることが特に好ましい。また、第1のセルロース繊維の保水度は、600%以下であることが好ましい。第1のセルロース繊維の保水度は、J.TAPPI-26に準拠して測定した値である。なお、第1のセルロース繊維の保水度は、シート化する前の第1のセルロース繊維の保水度であるが、シート化後の第1のセルロース繊維の保水度が上記範囲を満たすものであってもよい。
第1のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、第1のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましく、80質量%以下であることが一層好ましく、75質量%以下であることが特に好ましい。
<第1のセルロース繊維の製造工程>
<リン酸基導入工程>
第1のセルロース繊維がイオン性置換基としてリン酸基を有する場合、第1のセルロース繊維の製造工程は、リン酸基導入工程を含む。リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リン酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、第1のセルロース繊維の収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば攪拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い第1のセルロース繊維を得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリン酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリン酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リン酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
<カルボキシル基導入工程>
第1のセルロース繊維がイオン性置換基としてカルボキシル基を有する場合、第1のセルロース繊維の製造工程は、カルボキシル基導入工程を含む。カルボキシル基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
カルボキシル基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、例えばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシル基まで酸化することができる。
また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
<洗浄工程>
本実施形態における第1のセルロース繊維の製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶剤によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
<アルカリ処理工程>
本実施形態における第1のセルロース繊維の製造方法においては、必要に応じて洗浄後のイオン性置換基導入繊維に対して、アルカリ処理を行ってもよい。この場合、洗浄後のイオン性置換基導入繊維を10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nのアルカリ溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下に調整することが好ましい。アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶剤のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶剤などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性置換基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばイオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
なお、アルカリ処理工程の後には、さらに上述した洗浄工程を設けてもよい。
(第2のセルロース繊維)
本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維(微細繊維状セルロース)を含む。第2のセルロース繊維の繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。なお、第2のセルロース繊維は、たとえば単繊維状のセルロースである。
第2のセルロース繊維の繊維幅は、1000nm以下であればよく、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが一層好ましく、50nm以下であることがより一層好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。本発明のシートは、このように繊維幅が小さい微細繊維状セルロースを、イオン性置換基を有する第1のセルロース繊維(粗大セルロース繊維)と併用することで、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することを抑制することができる。
第2のセルロース繊維の繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の第2のセルロース繊維の水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。
第2のセルロース繊維の繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、第2のセルロース繊維の結晶領域の破壊を抑制できる。また、第2のセルロース繊維のスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、第2のセルロース繊維の繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
第2のセルロース繊維はI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、第2のセルロース繊維がI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
第2のセルロース繊維に占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
第2のセルロース繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、第2のセルロース繊維を含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば第2のセルロース繊維を水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
本実施形態における第2のセルロース繊維は、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。とくに、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い第2のセルロース繊維は、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
本実施形態における第2のセルロース繊維は、イオン性置換基を有することが好ましい。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。アニオン性基としては、たとえばリン酸基またはリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基またはカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基およびカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることがとくに好ましい。リン酸基は、第1のセルロース繊維が有し得るリン酸基と同様である。
第2のセルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、たとえば第2のセルロース繊維1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.3mmol/g以上であることがより好ましく、0.5mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.7mmol/g以上であることが一層好ましく、1.0mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、第2のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.5mmol/g以下であることがより好ましく、3.0mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、単位mmol/gは、たとえばアニオン性基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの第2のセルロース繊維の質量1gあたりの置換基量を示す。
第2のセルロース繊維に対するアニオン性基の導入量は、たとえば伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定法による測定では、得られた第2のセルロース繊維を含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。
図3は、リン酸基を有する第2のセルロース繊維に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。第2のセルロース繊維に対するリン酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、第2のセルロース繊維を含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図3に示すような滴定曲線を得る。図3に示すように、最初は急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このように、滴定曲線には、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。このため、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。したがって、上記で得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リン酸基導入量(mmol/g)となる。
第2のセルロース繊維に対するカルボキシル基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、第2のセルロース繊維を含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図2と同様の滴定曲線を得る。滴定曲線は電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでの第1領域と、その後に伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の第2のセルロース繊維含有スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、カルボキシル基の導入量(mmol/g)となる。
なお、上述のカルボキシル基導入量(mmol/g)は、カルボキシル基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの第2のセルロース繊維の質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシル基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシル基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの第2のセルロース繊維の質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである第2のセルロース繊維が有するカルボキシル基量(以降、カルボキシル基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によってカルボキシル基導入量を算出する。
カルボキシル基導入量(C型)=カルボキシル基量(酸型)/[1+(W-1)×(カルボキシル基量(酸型))/1000]
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
第2のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが一層好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。また、第2のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
<微細繊維状セルロースの製造工程>
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
<リン酸基導入工程>
微細繊維状セルロースがリン酸基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、リン酸基導入工程を含む。リン酸基導入工程は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるリン酸基導入工程と同様の工程である。
<カルボキシル基導入工程>
微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、カルボキシル基導入工程を含む。カルボキシル基導入工程は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるカルボキシル基導入工程と同様の工程である。
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてリン酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、第1のセルロース繊維の製造工程における洗浄工程と同様の工程である。
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるアルカリ処理の方法と同様である。
なお、アルカリ処理工程の後には、さらに上述した洗浄工程を設けてもよい。
<解繊処理>
繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、繊維を分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶剤などの有機溶剤から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶剤としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのリン酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
(比率)
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維の質量比率(第1のセルロース繊維:第2のセルロース繊維)は、30:70~90:10であることが好ましく、40:60~90:10であることがより好ましい。ここで、シート中の第1のセルロース繊維は、たとえば走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-3600N)にて観察することが可能である。また、第2のセルロース繊維は、たとえば高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(日立製作所製、S-5200)にて観察することが可能である。このような観察により、各繊維の体積比率から質量比率を算出してもよい。但し、後述するようなシートの製造工程における、各セルロース繊維の混合比は、シートにおける第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維の比率と同等である。
(その他の繊維)
本発明のシートは第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維以外に、その他のセルロース繊維を含んでいてもよい。その他のセルロース繊維としては、たとえば第1のセルロース繊維を叩解して繊維幅を1μmより大きく10μm未満とした、高叩解パルプを挙げることができる。ここで、その他の繊維の繊維幅とは、セルロース繊維の幹繊維における繊維幅である。たとえば、その他の繊維がフィブリル化セルロース繊維である場合には、フィブリル化して分枝化した繊維の繊維幅ではなく、幹繊維の繊維幅をその他の繊維の繊維幅という。
その他のセルロース繊維の叩解は、たとえば解繊処理装置を用いて行うことができる。解繊処理装置としては特に限定されない。例えば、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、クレアミックス、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーが挙げられる。また、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーター等、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。
(水溶性高分子)
本発明のシートは、水溶性高分子をさらに含んでいてもよい。水溶性高分子としては、たとえばカルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、およびポリアクリルアミドなどに例示される合成水溶性高分子;キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、およびペクチンなどに例示される増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒロドキシエチルセルロースなどに例示されるセルロース誘導体;カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、およびアミロースなどに例示されるデンプン類;グリセリン、ジグリセリン、およびポリグリセリンなどに例示されるグリセリン類;ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。
(紙力増強剤)
本発明のシートは、紙力増強剤をさらに含むものであることが好ましい。これにより、シートの強度をさらに向上させることが可能となる。紙力増強剤としては、乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤を挙げることができる。乾燥紙力剤としては、例えば、カチオン化澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂等を挙げることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピハロヒドリン、尿素、メラミン、熱架橋性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。中でも、本発明のシートは、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを含有することが好ましい。
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは、脂肪族二塩基性カルボン酸又はその誘導体と、ポリアルキレンポリアミンを加熱縮合させてポリアミドポリアミンを合成し、次いで該ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリンを反応させることで得られるカチオン性熱硬化性樹脂である。なお、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは水性樹脂であるから、シート形成用スラリーにはポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを水溶液として添加することもできる。
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンとしては、例えば、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンポリアミドエピブロモヒドリン、ポリアミンポリアミドエピヨードヒドリン等を挙げることができる。
シート中における紙力増強剤の含有量は、セルロース繊維100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。また、紙力増強剤の含有量は、セルロース繊維100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。紙力増強剤の含有量を上述の範囲とすることにより、シートの強度をより効果的に向上させることができる。
(任意成分)
本発明のシートには、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、防腐剤、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、サイズ剤、凝結剤、歩留まり向上剤、嵩高剤、濾水性向上剤、pH調整剤、蛍光増白剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、消泡剤、保水剤、分散剤等を挙げることができる。
シート中に含まれる上記任意成分の含有量は、シートの全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
(シートの製造方法)
本発明のシートの製造方法は、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むスラリーからシートを形成する工程を含む。ここで、第1のセルロース繊維の保水度は220%以上である。また、第2のセルロース繊維は、イオン性置換基を有するセルロース繊維であることが好ましい。
スラリーを作製する際には、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を分散させた分散液を必要に応じて希釈する。この際、希釈後のスラリー中に含まれる固形分濃度は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、希釈後のスラリー中に含まれる固形分濃度は、0.01質量%以上であることが好ましい。本発明のシートの製造工程では、保水度が220%以上の第1のセルロース繊維を用いることにより、繊維が均一に分散したスラリーを得ることができる。また、保水度が220%以上の第1のセルロース繊維を用いることにより、セルロース繊維濃度が高いスラリーにおいても、セルロース繊維が凝集することを抑制できる。
第1のセルロース繊維の保水度は、220%以上であることが好ましく、230%以上であることがより好ましく、240%以上であることがさらに好ましい。また、第1のセルロース繊維の保水度は、600%以下であることが好ましい。なお、第1のセルロース繊維の保水度は、J.TAPPI-26に準拠して測定した値である。
スラリーからシートを形成する工程は、該スラリーを基材上に塗工する塗工工程、または該スラリーを抄紙する抄紙工程を含む。なお、本発明のシートの製造方法は、塗工工程もしくは抄紙工程の後工程としてカレンダー処理工程を含まないことが好ましい。
<塗工工程>
塗工工程では、たとえば繊維状セルロースを含むスラリー(塗工液)を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の材質は、とくに限定されないが、スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、とくに限定されない。たとえばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、とくに限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばポリプロピレン板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
スラリーを基材に塗工する塗工機としては、とくに限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターがとくに好ましい。
スラリーを基材へ塗工する際のスラリー温度および雰囲気温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることがとくに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーをより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が好ましくは5g/m2以上100g/m2以下となるように、より好ましくは10g/m2以上60g/m2以下となるように、スラリーを基材に塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、撚れの発生がなく、均一なシートが得られるため、シートの薄膜化も可能となる。
塗工工程は、上述のとおり、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含む。スラリーを乾燥させる工程は、とくに限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。
非接触の乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、とくに限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
加熱乾燥法における加熱温度は、とくに限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制およびセルロース繊維の熱による変色の抑制を実現できる。
<抄紙工程>
抄紙工程は、抄紙機によりスラリーを抄紙することにより行われる。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、とくに限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
抄紙工程は、スラリーをワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、このシートをプレス、乾燥することにより行われる。スラリーを濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、とくに限定されないが、たとえば繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、とくに限定されないが、たとえば有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしてはとくに限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
シート化工程において、スラリーからシートを製造する方法は、たとえばセルロース繊維を含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
抄紙工程において用いられる脱水方法としては、とくに限定されないが、たとえば紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられる。これらの中でも、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、さらにロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、抄紙工程において用いられる乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば紙の製造で用いられている方法が挙げられる。これらの中でも、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法がより好ましい。
(用途)
本発明のシートの用途は特に限定されない。例えば、シートは、包装紙、トレーシングペーパー、クッキングシート、薬包紙、電池用セパレータ、フィルター、全熱交換用ライナー、振動板、プレス成形用部材、フレキシブル基板、樹脂複合材、強化繊維プラスチック積層体、等の用途に適している。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において、実施例13は、参考例13と読み替えるものとする。
(実施例1)
<第1のセルロース繊維(1)の作製>
[リン酸化パルプの作製]
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
[洗浄処理]
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
[中和処理]
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。
[洗浄処理]
次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は29μmであった。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(強酸性基量)は、1.2mmol/gだった。得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%の第1のセルロース繊維(1)を含む、第1のセルロース繊維分散液(1)を得た。
<第2のセルロース繊維(1)の作製>
[微細化]
上記方法にて得られた第1のセルロース繊維分散液(1)を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、第2のセルロース繊維(1)を含む、第2のセルロース繊維分散液(1)を得た。X線回折により、この第2のセルロース繊維(1)がセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は3~5nmであった。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(強酸性基量)は、1.2mmol/gだった。
<第1のセルロース繊維のリン酸基量の測定>
第1のセルロース繊維のリン酸基量は、中和滴定法により測定した。まず、第1のセルロース繊維をイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N塩酸を添加し、その後、濾過脱水により第1のセルロース繊維を回収した。この操作を、繰り返し、第1のセルロース繊維が有するリン酸基を完全に酸型へ変換した。次いで、得られた第1のセルロース繊維をイオン交換水で希釈した後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流した。その後、得られた第1のセルロース繊維(酸型)をイオン交換水で希釈した懸濁液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1に示すような滴定曲線を得た。得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象の第1のセルロース繊維懸濁液中の固形分(g)で除して、リン酸基導入量(mmol/g)とした。
<第2のセルロース繊維のリン酸基量の測定>
第2のセルロース繊維のリン酸基量は、伝導度滴定法により測定した。まず、対象となる微細繊維状セルロースを含む第2のセルロース繊維分散液(1)をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。リン酸基量(mmol/g)は、計測結果のうち図3に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
<第1のセルロース繊維の繊維幅の測定>
第1のセルロース繊維の繊維幅は、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS-200形)を用いて測定することにより求めた。
<第2のセルロース繊維の繊維幅の測定>
第2のセルロース繊維の繊維幅を下記の方法で測定した。湿式微粒化装置にて処理をして得られた上記微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察した。
<シート化>
第1のセルロース繊維(1)が50質量部、第2のセルロース繊維(1)が50質量部、ポリビニルアルコールが10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリンが5質量部となるように、第1のセルロース繊維分散液(1)と、第2のセルロース繊維分散液(1)と、ポリビニルアルコール溶液(日本合成化学工業製、ゴーセネックス Z-200)と、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリン溶液(荒川化学工業製、アラフィックス 255)を混合して塗工液1を得た。塗工液1の固形分濃度は0.5質量%に調製した。
次いで、得られるシート(上記塗工液の固形分から構成される層)の坪量が10g/m2になるように塗工液1を計量して、市販のアクリル板に塗工し、50℃の恒温乾燥機にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mm、高さ5cmの金枠)を配置した。次いで、上記アクリル板から乾燥後のシートを剥離し、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を含有するシートを得た。
(実施例2)
シート化工程において、シートの坪量が15g/m2になるように塗工液1を計量した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
(実施例3)
シート化工程において、シートの坪量が25g/m2になるように塗工液1を計量した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
(実施例4)
シート化工程において、シートの坪量が30g/m2になるように塗工液1を計量した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
(実施例5)
第1のセルロース繊維(1)が75質量部、第2のセルロース繊維(1)が25質量部、ポリビニルアルコールが10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリンが5質量部となるように各液を混合して、塗工液2を得た。シート化工程で用いられる塗工液1を塗工液2とした以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
(実施例6)
シート化工程において、シートの坪量が25g/m2になるように塗工液2を計量した以外は、実施例5と同様にしてシートを得た。
(実施例7)
第1のセルロース繊維(1)が90質量部、第2のセルロース繊維(1)が10質量部、ポリビニルアルコールが10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリンが5質量部となるように各液を混合して、塗工液3を得た。シート化工程で用いられる塗工液1を塗工液3とした以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
(実施例8)
シート化工程において、シートの坪量が25g/m2になるように塗工液3を計量した以外は、実施例7と同様にしてシートを得た。
(実施例9)
<第1のセルロース繊維(2)の作製>
実施例1の[リン酸化パルプの作製]において、薬液含浸パルプを熱風乾燥機で150秒加熱し、リン酸化パルプを得た以外は、第1のセルロース繊維(1)と同様にして第1のセルロース繊維(2)を得た。得られた第1のセルロース繊維(2)の繊維幅は29μmであり、リン酸基量(強酸性基量)は、0.7mmol/gだった。
<第2のセルロース繊維(2)の作製>
[微細化]
実施例1の[微細化]において、第1のセルロース繊維(2)を用いた以外は、同様の方法で第2のセルロース繊維(2)を得た。得られた第2のセルロース繊維(2)の繊維幅は3~5nmであり、リン酸基量(強酸性基量)は、0.7mmol/gだった。
[シート化]
シート化工程において、上記で得られた第1のセルロース繊維(2)と第2のセルロース繊維(2)を使用した以外は、実施例4と同様にしてシートを得た。
(実施例10)
第1のセルロース繊維(2)が80質量部、第2のセルロース繊維(2)が20質量部、ポリビニルアルコールが10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリンが5質量部となるように各液を混合して、塗工液4を得た。シート化工程で用いられる塗工液を塗工液4とし、シートの坪量が25g/m2になるように塗工液4を計量した以外は、実施例9と同様にしてシートを得た。
(実施例11)
<第1のセルロース繊維(3)の作製>
リン酸化パルプの作製において、薬液含浸パルプを熱風乾燥機で125秒加熱し、リン酸化パルプを得た以外は、第1のセルロース繊維(1)と同様にして第1のセルロース繊維(3)を得た。得られた第1のセルロース繊維(3)の繊維幅は29μmであり、リン酸基量(強酸性基量)は、0.5mol/gだった。
<第2のセルロース繊維(3)の作製>
[微細化]
実施例1の[微細化]において、第1のセルロース繊維(3)を用いた以外は、同様の方法で第2のセルロース繊維(3)を得た。得られた第2のセルロース繊維(3)の繊維幅は3~5nmであり、リン酸基量(強酸性基量)は、0.5mmol/gだった。
[シート化]
シート化工程において、上記で得られた第1のセルロース繊維(3)と第2のセルロース繊維(3)を使用し、坪量が30g/m2になるように塗工液を計量した以外は、実施例4と同様にしてシートを得た。
(実施例12)
第1のセルロース繊維(3)が80質量部、第2のセルロース繊維(3)が20質量部、ポリビニルアルコールが10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリンが5質量部となるように各液を混合して、塗工液5を得た。シート化工程で用いられる塗工液を塗工液5とし、シートの坪量が25g/m2になるように塗工液5を計量した以外は、実施例11と同様にしてシートを得た。
(実施例13)
<第2のセルロース繊維(4)の作製>
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)をダブルディスクリファイナーにて変則フリーネスが100mlになるまで叩解し、固形分濃度が2質量%のパルプ分散液を得た。パルプ分散液を固形分濃度が0.2質量%になるようにイオン交換水で希釈し、NiroSoavi社製高圧ホモジナイザー「Panda Plus2000」により処理圧力120MPaで3回の微細化処理を行い、第2のセルロース繊維(4)を含む、第2のセルロース繊維分散液(4)を得た。得られた第2のセルロース繊維(4)の繊維幅は130nmであり、リン酸基量(強酸性基量)は、0.03mmol/gだった。
[シート化]
シート化工程において、第2のセルロース繊維として第2のセルロース繊維(4)を使用した以外は、実施例3と同様にしてシートを得た。
(実施例14)
第1のセルロース繊維(1)が50質量部、第2のセルロース繊維(1)が50質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリンが5質量部となるように各液を混合して、塗工液6を得た。シート化工程で用いられる塗工液1を塗工液6とした以外は、実施例3と同様にしてシートを得た。
(比較例1)
第1のセルロース繊維として、何らの化学変性処理も行っていない未変性のパルプである針葉樹晒クラフトパルプを使用した。第1のセルロース繊維(4)の繊維幅は29μmであった。
シート化工程において、第1のセルロース繊維として第1のセルロース繊維(4)を使用した以外は、実施例3と同様にしてシートを得た。
(比較例2)
シート化工程において、第1のセルロース繊維として上記で得られた第1のセルロース繊維(4)を使用した以外は、実施例6と同様にしてシートを得た。
(比較例3)
<第1のセルロース繊維(5)の作製>
固形分濃度が4.0質量%になるように針葉樹晒クラフトパルプに水を加えて、分散した後、ダブルディスクリファイナーで1回処理をし、第1のセルロース繊維(5)を得た。第1のセルロース繊維(5)の繊維幅は16μmであった。
シート化工程において、第1のセルロース繊維として第1のセルロース繊維(5)を使用した以外は、実施例2と同様にしてシートを得た。
(比較例4)
シート化工程において、第1のセルロース繊維として第1のセルロース繊維(5)を使用した以外は、実施例3と同様にしてシートを得た。
(比較例5)
シート化工程において、第1のセルロース繊維として第1のセルロース繊維(5)を使用した以外は、実施例5と同様にしてシートを得た。
(比較例6)
シート化工程において、第1のセルロース繊維として第1のセルロース繊維(5)を使用した以外は、実施例6と同様にしてシートを得た。
(評価及び分析)
(坪量)
JIS P 8124に準拠して坪量を測定した。
(紙厚)
JIS P 8118に準拠してシートの厚みを測定した。
(密度)
JIS P 8124に準拠して坪量を測定し、JIS P 8118に準拠してシートの厚みを測定し、これらの値から密度を算出した。
(透気度)
J.TAPPI-5の王研式透気度法に準拠して透気度を測定した。
(ヘーズ及び全光線透過率)
JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150 )を用いてヘーズを測定した。また、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて全光線透過率を測定した。
(シート外観)
作製したシート(サイズ縦18cm、横18cm)20枚(総面積0.648m2分)、における撚れ個数を目視にて確認した。1m2あたりの撚れの個数に換算し、以下の基準で評価した。なお、「撚れ」とは、図4の点線枠内に示されるようなシート表面に確認される白い塊部分のことをいう。
◎:撚れなし(0個/m2
○:撚れ個数 1個/m2以上、2個/m2未満
△:撚れ個数 2個/m2以上、10個/m2未満
×:撚れ個数 10個/m2以上
(シート中の繊維の観察)
シート中の第1のセルロース繊維は、走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-3600N)にて確認した。また、シート中の第2のセルロース繊維は、高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(日立製作所製、S-5200)にて確認した。
(保水度)
J.TAPPI-26に準拠して保水度を測定した。
Figure 0007119609000002
Figure 0007119609000003
Figure 0007119609000004
実施例で得られたシートにおいては撚れの発生が抑制されていた。一方、比較例で得られたシートにおいては撚れが多数発生していた。

Claims (9)

  1. リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有し、かつ繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むシート。
  2. 前記第1のセルロース繊維の含有量が、セルロース繊維の全質量に対して10質量%以上である請求項に記載のシート。
  3. ヘーズが20%以上である請求項1又は2に記載のシート。
  4. 全光線透過率が80%以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  5. 坪量が40g/m以下である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  6. 透気度が10000秒以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  7. 前記第1のセルロース繊維のリン酸基又はリン酸基に由来する置換基の導入量は0.3mmol/g以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  8. 前記第1のセルロース繊維の保水度が220%以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
  9. 保水度が220%以上であり、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有し、かつ繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、
    リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むスラリーからシートを形成する工程を含むシートの製造方法。
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