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JP7318569B2 - 硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の前駆体、全固体電池および硫化物固体電解質の製造方法 - Google Patents

硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の前駆体、全固体電池および硫化物固体電解質の製造方法 Download PDF

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Description

本開示は、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質に関する。
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。全固体電池に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。
特許文献1には、リチウムと、リンと、硫黄と、ハロゲン元素から選択される1種以上の元素Xと、を含み、アルジロダイト型結晶構造を含み、所定の組成を有する硫化物固体電解質が開示されている。また、特許文献2には、立方晶系アルジロダイト型結晶構造を有し、所定の組成を有するリチウムイオン電池用硫化物系固体電解質が開示されている。
特開2018-045997号公報 特開2016-024874号公報
電池性能向上のため、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質が望まれている。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質を提供することを主目的とする。
上記課題を解決するために、本開示においては、Li元素と、M元素(Mは、P、Ge、Si、Snの少なくとも一種である)と、S元素とを含有する硫化物固体電解質であって、上記硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を有し、上記硫化物固体電解質は、31P-MAS-NMRにおいて、82.1ppm±0.5ppmに現れるピークAと、86.1ppm±0.5ppmに現れるピークBと、を有し、上記ピークAの面積比率をSとし、上記ピークBの面積比率をSとした場合に、上記Sに対する上記Sの割合(S/S)が0.23以下である、硫化物固体電解質を提供する。
本開示によれば、S/Sが小さいことから、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質とすることができる。
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、89.1ppm±0.5ppmに現れるピークCをさらに有し、上記ピークCの面積比率をSとした場合に、上記Sに対する上記Sおよび上記Sの合計の割合((S+S)/S)が0.27以下であってもよい。
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、84.1ppm±0.5ppmに現れるピークDをさらに有していてもよい。
上記開示においては、上記Mが、少なくともPを含有していてもよい。
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、X元素(Xは、ハロゲンである)をさらに含有していてもよい。
上記開示においては、上記Xが、少なくともClを含有していてもよい。
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、Li7-yPS6-y(yは0<y≦2を満たす)で表される組成を有していてもよい。
また、本開示においては、上述した硫化物固体電解質の前駆体であって、LiS残存率が、7.7%以上、54.7%以下である、硫化物固体電解質の前駆体を提供する。
本開示によれば、LiS残存率が所定の範囲にあることから、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質を得ることが可能な前駆体とすることができる。
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質を含有する、全固体電池を提供する。
本開示によれば、上述した硫化物固体電解質を用いることで、出力特性が高い全固体電池とすることができる。
また、本開示においては、上述した硫化物固体電解質の製造方法であって、少なくともLiSを含有する原料組成物を混合し、LiS残存率が7.7%以上、54.7%以下である前駆体を得る混合工程と、上記前駆体を焼成する焼成工程と、を有する、硫化物固体電解質の製造方法を提供する。
本開示によれば、LiS残存率が所定の範囲にある前駆体を用いることにより、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質を得ることができる。
本開示における硫化物固体電解質は、イオン伝導性が高いという効果を奏する。
本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。 本開示における硫化物固体電解質の製造方法の一例を示すフローチャートである。 実施例1、2で得られた前駆体に対するXRD測定の結果である。 実施例3~5で得られた前駆体に対するXRD測定の結果である。 比較例1、2で得られた前駆体に対するXRD測定の結果である。 比較例4で得られた前駆体に対するXRD測定の結果である。 実施例1、2で得られた硫化物固体電解質に対するNMR測定の結果である。 実施例3、4で得られた硫化物固体電解質に対するNMR測定の結果である。 比較例1~3で得られた硫化物固体電解質に対するNMR測定の結果である。
以下、本開示における硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の前駆体、全固体電池および硫化物固体電解質の製造方法について、詳細に説明する。
A.硫化物固体電解質
本開示における硫化物固体電解質は、Li元素と、M元素(Mは、P、Ge、Si、Snの少なくとも一種である)と、S元素とを含有する。さらに、硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を有する。また、硫化物固体電解質は、31P-MAS-NMRにおいて、82.1ppm±0.5ppmに現れるピークAと、86.1ppm±0.5ppmに現れるピークBと、を有し、上記ピークAの面積比率をSとし、上記ピークBの面積比率をSとした場合に、上記Sに対する上記Sの割合(S/S)が所定の値以下である。
本開示によれば、S/Sが小さいことから、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質とすることができる。後述するように、ピークAは、アルジロダイト型結晶相に由来するピークであり、ピークBは、アルジロダイト型結晶相に関連するアモルファス相に由来するピークである。
ここで、アルジロダイト型結晶相を有する硫化物固体電解質の合成方法として、従来、原料組成物をミリングすることで、硫化物ガラスを作製し、その後、硫化物ガラスを焼成する方法が知られている。
本発明者が、硫化物ガラスのアモルファス性と、硫化物ガラスを焼成して得られる硫化物固体電解質のイオン伝導性との関係を詳細に検討したところ、硫化物ガラスのアモルファス性が高すぎると、得られる硫化物固体電解質にアモルファス相が残存しやすく、イオン伝導性が十分に向上しないという知見が得られた。同様に、硫化物ガラスのアモルファス性が低すぎると、焼成時に均一な固相反応が生じにくく、イオン伝導性が高いアルジロダイト型結晶相が析出しにくいという知見が得られた。そこで、原料組成物を適度にアモルファス化して前駆体を作成し、その前駆体を焼成したところ、アモルファス相の残存量が少ない硫化物固体電解質を得ることができた。このように、本開示においては、S/Sが小さいことから、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質とすることができる。
例えば特許文献1の実施例には、370rpm、25時間の条件でメカニカルミリングを行うことが開示されているが、後述する比較例4に記載するように、LiS残存率が低く、アモルファス化が進行しているため、S/Sは大きいことが示唆された。また、例えば特許文献2の実施例には、ボールミルで15時間粉砕混合することが記載されているが、ボールミルの回転数が不明であるため、直接的な対比は困難である。また、特許文献2の[0027]には、「そのため、原料粉末の結晶性を維持できる程度の粉砕混合が望ましい。」と記載されているものの、「原料粉末の結晶性」が、全ての原料粉末の結晶性を意味するのか、一部の原料粉末の結晶性を意味するのかが不明であり、定量的な比較は困難である。そもそも、特許文献2では、焼成時の硫黄欠損を防止することを目的としており、本開示とは目的が異なる。
本開示における硫化物固体電解質は、Li元素と、M元素(Mは、P、Ge、Si、Snの少なくとも一種である)と、S元素とを含有する。硫化物固体電解質は、X元素(Xは、ハロゲンである)をさらに含有していてもよい。
硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を有する。硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶相を有することは、X線回折(XRD)測定により確認することができる。硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定において、2θ=15.6°±0.5°、18.1°±0.5°、25.7°±0.5°、30.2°±0.5°、31.6°±0.5°にピークを有することが好ましい。これらのピークは、アルジロダイト型結晶相の典型的なピークである。硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を主相として含有することが好ましい。
硫化物固体電解質は、31P-MAS-NMRにおいて、82.1ppm±0.5ppmに現れるピークAと、86.1ppm±0.5ppmに現れるピークBとを有する。ピークAは、アルジロダイト型結晶相に由来するピークであり、ピークBは、アルジロダイト型結晶相に関連するアモルファス相に由来するピークである。また、ピークAの面積比率をSとし、ピークBの面積比率をSとした場合に、Sに対するSの割合(S/S)は小さいことが好ましい。結晶相はアモルファス相に比べて、イオン伝導性が高いからである。S/Sは、通常、0.23以下である。一方、S/Sは、0であってもよく、0より大きくてもよい。後者の場合、S/Sは、0.16以上であってもよい。
は大きいことが好ましい。Sは、例えば50%以上であり、51.8%以上であってもよく、55.6%以上であってもよい。一方、Sは、例えば65%以下であり、60.1%以下であってもよい。Sは小さいことが好ましい。Sは、例えば15%以下であり、13.2%以下であってもよい。一方、Sは、0%であってもよく、0%より大きくてもよい。後者の場合、Sは、9.6%以上であってもよい。
硫化物固体電解質は、89.1ppm±0.5ppmに現れるピークCをさらに有していてもよく、ピークCを有していなくてもよい。例えば、硫化物固体電解質に含まれるX元素の割合が多いと、イオン伝導度の向上が期待できるものの、ピークCが生じやすい。ピークCの面積比率をSとした場合に、Sに対するSおよびSの合計の割合((S+S)/S)は小さいことが好ましい。(S+S)/Sは、例えば0.27以下であり、0.24以下であってもよい。一方、(S+S)/Sは、例えば0.05以上であり、0.18以上であってもよい。Sは小さいことが好ましい。Sは、例えば2.1%以下であり、1.1%以下であってもよい。一方、Sは、0%であってもよく、0%より大きくてもよい。後者の場合、Sは、0.7%以上であってもよい。
硫化物固体電解質は、84.1ppm±0.5ppmに現れるピークDをさらに有していてもよく、ピークDを有していなくてもよい。ピークDの面積比率をSとした場合、Sは、例えば1%以上であり、10%以上であってもよい。一方、Sは、例えば35%以下である。
本開示における硫化物固体電解質は、Li元素と、M元素(Mは、P、Ge、Si、Snの少なくとも一種である)と、S元素とを含有する。M元素は、一種であってもよく、二種以上であってもよい。硫化物固体電解質は、M元素として、少なくともP元素を含有することが好ましい。また、硫化物固体電解質は、X元素(Xは、ハロゲンである)をさらに含有していてもよく、X元素を含有していなくてもよい。X元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。X元素は、一種であってもよく、二種以上であってもよい。硫化物固体電解質は、X元素として、少なくともCl元素を含有することが好ましい。硫化物固体電解質が、二種以上のX元素を含有する場合、全てのX元素に対するCl元素の割合は、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。
また、31P-MAS-NMRにおけるピークAおよびピークBは、アルジロダイト型結晶相に起因する。そのため、硫化物固体電解質の組成は、そのようなアルジロダイト型結晶相を得られる組成であれば、特に限定されない。硫化物固体電解質の組成としては、例えば、Li7-yPS6-y(yは0≦y≦2を満たす)が挙げられる。yは、0であってもよく、0より大きくてもよい。後者の場合、yは、0.5以上であってもよく、1.0以上であってもよく、1.2以上であってもよく、1.4以上であってもよい。yの増加に伴って、硫化物固体電解質のイオン伝導性も向上する。一方、yは、通常、2以下であり、1.8以下であってもよく、1.7以下であってもよく、1.6以下であってもよい。yが大きすぎると、イオン伝導性が低い結晶相(異相)が生じやすい。
硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高いことが好ましい。25℃におけるイオン伝導度は、例えば、7mS/cm以上であり、8mS/cm以上であってもよく、9mS/cm以上であってもよい。
硫化物固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。また、硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上、50μm以下である。平均粒径(D50)は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。硫化物固体電解質の用途は特に限定されないが、例えば、全固体電池に用いられることが好ましい。
B.硫化物固体電解質の前駆体
本開示における硫化物固体電解質の前駆体は、上述した硫化物固体電解質の前駆体であって、LiS残存率が所定の範囲にある。
本開示によれば、LiS残存率が所定の範囲にあることから、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質を得ることが可能な前駆体とすることができる。
前駆体の構成元素、組成およびその他の事項については、上記「A.硫化物固体電解質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
LiS残存率は、通常、7.7%以上であり、23.3%以上であってもよい。LiS残存率が低すぎると、前駆体を焼成して得られる硫化物固体電解質にアモルファス相が残存しやすい。その結果、イオン伝導性が十分に向上しない可能性がある。一方、前駆体のLiS残存率は、通常、54.7%以下であり、34.2%以下であってもよい。LiS残存率が高すぎると、焼成時に均一な固相反応が生じにくいため、イオン伝導性が高いアルジロダイト型結晶相が析出しにくい。その結果、イオン伝導性が十分に向上しない可能性がある。LiS残存率の算出方法については、後述する実施例に記載する。
CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った場合、前駆体は、通常、LiSのピークを有する。また、前駆体は、LiX(Xはハロゲンである)のピークを有していてもよく、有していなくてもよい。LiXとしては、例えば、LiF、LiCl、LiBr、LiIが挙げられる。また、前駆体は、Pのピークを有していてもよく、有していなくてもよい。なお、前駆体は、通常、アルジロダイト型結晶相を有しないが、焼成により、アルジロダイト型結晶相が生じる。
硫化物固体電解質の前駆体は、上記「A.硫化物固体電解質」に記載した硫化物固体電解質を得るために用いられることが好ましい。
C.全固体電池
図1は、本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。図1に示される全固体電池10は、正極活物質を含有する正極層1と、負極活物質を含有する負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。さらに、正極層1、負極層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.硫化物固体電解質」に記載した硫化物固体電解質を含有する。
本開示によれば、上述した硫化物固体電解質を用いることで、出力特性が高い全固体電池とすることができる。
1.正極層
本開示における正極層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。正極層は、正極活物質の他に、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
正極活物質としては、例えば酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、具体的には、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCuPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
正極活物質の表面は、コート層で被覆されていてもよい。正極活物質と硫化物固体電解質との反応を抑制できるからである。コート層の材料としては、例えば、LiNbO、LiPO、LiPON等のLiイオン伝導性酸化物が挙げられる。コート層の平均厚さは、例えば1nm以上20μm以下であり、1nm以上10nm以下であってもよい。
本開示における正極層は、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。また、導電材としては、例えば、炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系バインダーが挙げられる。正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
2.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有する層である。また、固体電解質層は、固体電解質の他に、バインダーを含有していてもよい。固体電解質およびバインダーについては、上述した内容と同様である。本開示における固体電解質層は、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
3.負極層
本開示における負極層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極層は、負極活物質の他に、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
負極活物質としては、例えば、金属活物質およびカーボン活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSnが挙げられる。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。
固体電解質、導電材およびバインダーについては、上述した内容と同様である。本開示における負極層は、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
4.その他の構成
本開示における全固体電池は、通常、正極活物質の集電を行う正極集電体、および、負極活物質の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。また、電池ケースには、SUS製電池ケース等の一般的な電池ケースを用いることができる。
5.全固体電池
本開示における全固体電池は、全固体リチウムイオン電池であることが好ましい。また、全固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。なお、二次電池には、二次電池の一次電池的使用(充電後、一度の放電だけを目的とした使用)も含まれる。また、全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型が挙げられる。
D.硫化物固体電解質の製造方法
図2は、本開示における硫化物固体電解質の製造方法の一例を示すフローチャートである。図2では、LiS、PおよびLiX(Xはハロゲンである)を含有する原料組成物を準備する。次に、原料組成物を、例えばメカニカルミリングにより混合し、LiS残存率が所定の範囲にある前駆体を得る。次に、得られた前駆体を焼成する。これにより、上記「A.硫化物固体電解質」に記載した硫化物固体電解質が得られる。
本開示によれば、LiS残存率が所定の範囲にある前駆体を用いることにより、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質を得ることができる。
1.混合工程
混合工程は、少なくともLiSを含有する原料組成物を混合し、LiS残存率が所定の範囲にある前駆体を得る工程である。
硫化物固体電解質の原料組成物は、Li元素、M元素(Mは、P、Ge、Si、Snの少なくとも一種である)と、S元素とを含有する。原料組成物は、X元素(Xはハロゲンである)をさらに含有していてもよい。Li元素を含有する原料としては、例えば、Li硫化物が挙げられる。原料組成物は、通常、Li硫化物として、LiSを含有する。M元素を含有する原料としては、例えば、M元素を含有する硫化物が挙げられる。M元素を含有する硫化物としては、例えば、P、GeS、SiS、SnSが挙げられる。X元素を含有する原料としては、例えば、ハロゲン化リチウムが挙げられる。ハロゲン化リチウムとしては、例えば、LiF、LiCl、LiBr、LiIが挙げられる。S元素を含有する原料としては、例えば、上述した硫化物、および、硫黄単体が挙げられる。
混合工程では、原料組成物を混合し、LiS残存率が所定の範囲にある前駆体を得る。すなわち、混合により原料組成物を適度にアモルファス化し、前駆体を得る。原料組成物を混合する方法としては、例えば、ボールミル、振動ミル等のメカニカルミリング法が挙げられる。メカニカルミリング法は、乾式であってもよく、湿式であってもよいが、均一処理の観点で後者が好ましい。湿式メカニカルミリング法に用いられる分散媒の種類は特に限定されない。
メカニカルミリングの各種条件は、所望の前駆体が得られるように設定する。例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。遊星型ボールミルの台盤回転数は、例えば、150rpm以上である。一方、遊星型ボールミルの台盤回転数は、例えば500rpm以下であり、250rpm以下であってもよい。また、遊星型ボールミルの処理時間は、例えば5分間以上であり、10分間以上であってもよい。一方、遊星型ボールミルの処理時間は、例えば15時間以下であり、12時間以下であってもよく、10時間以下であってもよい。
混合工程により得られる前駆体については、上記「B.硫化物固体電解質の前駆体」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
2.焼成工程
焼成工程は、上記前駆体を焼成する工程である。
焼成温度は、例えば、400℃より高いことが好ましく、450℃以上であってもよく、480℃以上であってもよい。一方、焼成温度は、例えば800℃以下である。焼成時間は、例えば1時間以上であり、2時間以上であってもよい。一方、焼成時間は、例えば10時間以下であり、5時間以下であってもよい。焼成雰囲気は、例えば、不活性ガス雰囲気、真空が挙げられる。
3.硫化物固体電解質
上述した工程により得られる硫化物固体電解質については、上記「A.硫化物固体電解質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
[比較例1]
LiS(フルウチ化学製)0.6557gと、P(アレドリッチ製)0.8348gと、LiCl(高純度化学製)0.5095gとを秤量し、原料組成物を得た(組成:Li5.4PS4.4Cl1.6)。得られた原料組成物を、5mm径のジルコニアボールとともに、ジルコニアポット(45ml)に投入し、その後、脱水ヘプタン(関東化学工業製)を4g投入し、密閉した。密閉したポットを遊星型ボールミル装置(Fritch P-7)にセットし、500rpmで15時間メカニカルミリングすることで、硫化物固体電解質の前駆体を得た。
得られた前駆体をペレット成型し、カーボンコート処理された石英管に入れ、真空封入し、500℃、3時間(昇温速度1℃/min)で焼成し、乳鉢粉砕することによって、硫化物固体電解質を得た。
[実施例1]
メカニカルミリングの条件を、200rpm、10分間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質の前駆体を得た。得られた前駆体を用いたこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[実施例2]
メカニカルミリングの条件を、200rpm、30分間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質の前駆体を得た。得られた前駆体を用いたこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[実施例3]
メカニカルミリングの条件を、200rpm、60分間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質の前駆体を得た。得られた前駆体を用いたこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[実施例4]
メカニカルミリングの条件を、500rpm、10時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質の前駆体を得た。得られた前駆体を用いたこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[実施例5]
メカニカルミリングの条件を、200rpm、15時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質の前駆体を得た。得られた前駆体を用いたこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[比較例2]
メカニカルミリングの代わりに、乳鉢で原料組成物が均一になるまで混合したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質の前駆体を得た。得られた前駆体を用いたこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[比較例3]
焼成温度を400℃、3時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[比較例4]
メカニカルミリングの条件を、370rpm、25時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質の前駆体を得た。得られた前駆体を用いたこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[評価]
(XRD測定)
実施例1~5および比較例1、2、4で得られた前駆体に対して、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。その結果を図3~5に示す。図3(a)に示すように、実施例1では、2θ=27.0°付近および2θ=31.2°付近にLiSのピークが確認された。また、実施例1では、2θ=30.0°付近および2θ=34.8°付近にLiClのピークが確認された。また、図3(b)、図4(a)~図4(c)に示すように、実施例2~5においても、実施例1と同様に、LiSのピークおよびLiClのピークが確認された。
一方、図5(a)に示すように、比較例1では、LiSのピークおよびLiClのピークは確認されたものの、これらのピークは、実施例2~5におけるピークと比べて、ブロードであり、アモルファス化が進行していることが確認された。また、図5(b)に示すように、比較例2では、LiSのピークおよびLiClのピークが確認された。特に、比較例2では、2θ=27.0°付近に非常に大きなピークが確認された。また、図6に示すように、比較例4も、比較例1と同様に、アモルファス化が進行していることが確認された。また、比較例2におけるLiSのピーク(2θ=27.0°±0.5°のピーク)の強度を100%とし、実施例1~5および比較例1におけるLiSのピークの強度を求め、LiS残存率とした。その結果を表1に示す。なお、比較例2では、2θ=25.6°付近にPのピークが確認された。一方、実施例1でも、2θ=25.6°付近にPのピークが確認されたが、その強度は減少していた。
(NMR測定)
実施例1~4および比較例1~3で得られた硫化物固体電解質に対して、31P-MAS-NMR測定を行った。測定条件は、以下の通りである。
・装置:INOVA300(Agilent社製)
・試料管:7mmφZrOロータ
・回転数:7000Hz
・標準:リン酸=0ppm
・積算回数:100~500 Gain=auto
・繰り返し待ち時間:10秒間
その結果を図7~図9に示す。なお、硫化物固体電解質は、緩和時間が短い材料であるが、繰り返し待ち時間は、例えば8秒間以上であることが好ましい。繰り返し待ち時間が短すぎると、十分な緩和が得られず、波形が乱れやすくなるからである。一方、繰り返し待ち時間は、例えば15秒間以下である。
図7~図9に示すように、実施例1~4および比較例1~3では、以下のピークA~Dが確認された。
ピークA:82.1±0.5ppm
ピークB:86.1±0.5ppm
ピークC:89.1±0.5ppm
ピークD:84.1±0.5ppm
ピークAは、アルジロダイト型結晶相に由来するピークである。ピークBは、アルジロダイト型結晶相に関連するアモルファス相に由来するピークである。一方、ピークCは、アルジロダイト型結晶相以外の結晶相(異相)に由来するピークであり、ピークDは、アルジロダイト型結晶相においてClが固溶していないサイト近傍のP-S結合に由来するピークであると推定される。
実施例1~4および比較例1、3では、76ppm以上100ppm以下の範囲おいて、ピークA~Dのみが確認され、他のピークは確認されなかった。これに対して、比較例2では、76ppm以上100ppm以下の範囲おいて、ピークA~Dに加えて、ピークE、Fが確認された。また、図7~図9に示すように、得られたNMRチャートについて各ピークトップが指定の範囲内に入るように固定した状態でフィッティングすることにより波形分離を行い、ピークA~Dの面積比率を求めた。その結果を表1に示す。
(イオン伝導度測定)
実施例1~5および比較例1~4で得られた硫化物固体電解質に対して、イオン伝導度測定(25℃)を行った。得られた硫化物固体電解質の粉末100mgを、ペレット成型機を用いて圧力6ton/cmでプレスし、ペレットを作製した。交流インピーダンス法によりペレットの抵抗を求め、ペレットの厚さからイオン伝導度を求めた。その結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1~5では、比較例1~4に比べて、イオン伝導度が高かった。実施例2、3では、イオン伝導度が9mS/cm以上であり、イオン伝導度が特に高かった。また、実施例1~5では、前駆体におけるLiS残存率が7.7%以上54.7%以下であり、比較例1に比べて多かった。このように、LiS残存率をある程度高くすることで、イオン伝導度が高い硫化物固体電解質が得られることが確認された。
また、NMRの結果から、ピークA~Cの面積比率が、硫化物固体電解質のイオン伝導度と相関を有することが示唆された。例えば、実施例1~4を比べると、ピークAの面積比率Sが大きいほどイオン伝導度が高い傾向が示唆された。また、実施例3および比較例1を比べると、ピークA、Cの面積比率S、Sはほぼ同じであるが、ピークBの面積比率Sが小さいほどイオン伝導度が高い傾向が示唆された。また、実施例2および比較例2を比べると、ピークA、Bの面積比率S、Sはほぼ同じであるが、ピークCの面積比率Sが小さいほどイオン伝導度が高い傾向が示唆された。このように、S/Sまたは(S+S)/Sが小さいほど、イオン伝導度が高くなった。
また、比較例1(焼成温度500℃)および比較例3(焼成温度400℃)を比べると、比較例1は、比較例3に比べて、面積比率Sが高く面積比率Sが低くなった。このように、面積比率Sを高くするためには、焼成温度を比較的高くすることが好ましいことが示唆された。また、比較例4におけるメカニカルミリングの条件(370rpm、25時間)は、特許文献1の実施例におけるメカニカルミリングの条件と同じであるが、LiS残存率が低く、アモルファス化が進行しているため、S/Sは大きいことが示唆された。
[参考例1]
LiS(フルウチ化学製)0.7896gと、P(アレドリッチ製)0.8304gと、LiCl(高純度化学製)0.3801gとを秤量し、原料組成物を得た(組成:Li5.8PS4.8Cl1.2)。得られた原料組成物を用いたこと以外は、比較例3と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[参考例2]
LiS(フルウチ化学製)0.7228gと、P(アレドリッチ製)0.8326gと、LiCl(高純度化学製)0.4446gとを秤量し、原料組成物を得た(組成:Li5.6PS4.6Cl1.4)。得られた原料組成物を用いたこと以外は、比較例3と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[参考例3]
LiS(フルウチ化学製)0.5883gと、P(アレドリッチ製)0.8370gと、LiCl(高純度化学製)0.5747gとを秤量し、原料組成物を得た(組成:Li5.2PS4.2Cl1.8)。得られた原料組成物を用いたこと以外は、比較例3と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[参考例4]
LiS(フルウチ化学製)0.5205gと、P(アレドリッチ製)0.8393gと、LiCl(高純度化学製)0.6403gとを秤量し、原料組成物を得た(組成:Li5.0PS4.0Cl2.0)。得られた原料組成物を用いたこと以外は、比較例3と同様にして硫化物固体電解質を得た。
[評価]
参考例1~4で得られた硫化物固体電解質に対して、31P-MAS-NMR測定を行った。測定条件は、上記と同様である。その結果を表2に示す。
表2に示すように、参考例1~4では、yの増加とともに、ピークCの面積比率が大きくなることが確認された。そのため、ピークCは、アルジロダイト型結晶相に固溶できなかったClが関係する異相であることが示唆された。そのため、異相の析出抑制という観点では、yは1.8以下であることが好ましいことが示唆された。また、参考例1、2では、ピークCの面積比率が0%であった。そのため、yの値が低い場合には、ピークCが生じないことが示唆された。
1 … 正極層
2 … 負極層
3 … 固体電解質層
4 … 正極集電体
5 … 負極集電体
6 … 電池ケース
10 … 全固体電池

Claims (8)

  1. 硫化物固体電解質の前駆体であって、
    前記硫化物固体電解質は、Li元素と、M元素(Mは、P、Ge、Si、Snの少なくとも一種である)と、S元素とを含有し、
    前記硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を有し、
    前記硫化物固体電解質は、31P-MAS-NMRにおいて、
    82.1ppm±0.5ppmに現れるピークAと、
    86.1ppm±0.5ppmに現れるピークBと、
    を有し、
    前記ピークAの面積比率をSとし、前記ピークBの面積比率をSとした場合に、前記Sに対する前記Sの割合(S/S)が0.23以下であり、
    前記前駆体は、Li S残存率が、7.7%以上、54.7%以下である、硫化物固体電解質の前駆体
  2. 前記硫化物固体電解質が、89.1ppm±0.5ppmに現れるピークCをさらに有し、
    前記ピークCの面積比率をSとした場合に、前記Sに対する前記Sおよび前記Sの合計の割合((S+S)/S)が0.27以下である、請求項1に記載の硫化物固体電解質の前駆体
  3. 前記硫化物固体電解質が、84.1ppm±0.5ppmに現れるピークDをさらに有する、請求項1または請求項2に記載の硫化物固体電解質の前駆体
  4. 前記Mが、少なくともPを含有する、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質の前駆体
  5. 前記硫化物固体電解質が、X元素(Xは、ハロゲンである)をさらに含有する、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質の前駆体
  6. 前記Xが、少なくともClを含有する、請求項5に記載の硫化物固体電解質の前駆体
  7. 前記硫化物固体電解質が、Li7-yPS6-y(yは0<y≦2を満たす)で表される組成を有する、請求項5または請求項6に記載の硫化物固体電解質の前駆体
  8. 化物固体電解質の製造方法であって、
    前記硫化物固体電解質は、Li元素と、M元素(Mは、P、Ge、Si、Snの少なくとも一種である)と、S元素とを含有し、
    前記硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を有し、
    前記硫化物固体電解質は、 31 P-MAS-NMRにおいて、
    82.1ppm±0.5ppmに現れるピークAと、
    86.1ppm±0.5ppmに現れるピークBと、
    を有し、
    前記ピークAの面積比率をS とし、前記ピークBの面積比率をS とした場合に、前記S に対する前記S の割合(S /S )が0.23以下であり、
    前記製造方法は、
    前記Li元素、前記M元素および前記S元素を含有し、かつ、少なくともLiSを含有する原料組成物を混合し、LiS残存率が7.7%以上、54.7%以下である前駆体を得る混合工程と、
    前記前駆体を焼成する焼成工程と、
    を有する、硫化物固体電解質の製造方法。
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