JP7302248B2 - コネクタ用端子材及びコネクタ用端子 - Google Patents
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一方、特許文献2のように、アンチモンをめっき層に添加することで耐摩耗性を上昇させることも考えられるが、初期硬度は高いものの、加熱によって硬度が低下し、また、アンチモンがめっき層最表面に濃化後、酸化して接触抵抗が増大する。さらに、ニッケルめっき層を下地として用いていた場合、加熱によってニッケルめっき層と銀めっき層との間にニッケル酸化物が生成され、このニッケル酸化物が原因となりめっき層が剥離することがあった。さらに、耐摩耗性については、めっき層の硬度が特定されているが、摺動時にはめっき層同士で凝着が発生するなど、硬度だけで耐摩耗性について評価するのは不十分であった。
そこで、特許文献4のように、基材に対して直接銀錫合金めっきを施してめっき層全体の組成を均一に保つことが考えられている。
なお、銀錫合金めっき層中のAgが70at%未満では、その上の銀めっき層が十分に成膜されず、加熱後の接触抵抗が増加し、Agが85at%を超えると硬い銀錫合金に対する軟らかい銀の割合が増えるため、耐摩耗性が低下する。また、銀錫系金属間化合物としては、Ag3Sn及びAg4Snの金属間化合物を例示できる。
銀錫合金めっき層が0.5μm未満では、コネクタでの使用時の耐摩耗性向上の効果に乏しくなり、耐摩耗性が低下する。10μmを超える膜厚としても問題はないが、コストの面から10μm以下とするのが好ましい。銀めっき層の膜厚が0.05μm未満では薄すぎるため、早期に摩耗して消失し易い。2.0μmを超える厚さでは、軟らかい銀めっき層が厚いため、摩擦係数が増大する。
また、銀錫合金めっき層がニッケルめっき層上に形成されていることにより、銀錫合金とニッケルとが相互拡散し、かつ錫とニッケルが金属間化合物を生成するので、銀錫合金めっき層が剥離することを抑制できる。
[コネクタ用端子材の構成]
図1は一実施形態のコネクタ用端子材の断面を模式的に示したものである。このコネクタ用端子材は、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる板状の基材2と、該基材2の表面に被覆されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層3と、ニッケルめっき層3の表面の少なくとも一部(本実施形態では、ニッケル層3の上面全域)に被覆された銀錫合金めっき層4と、この銀錫合金めっき層4の上に形成された銀めっき層5とを備えている。
基材2は、銅または銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。また、母材の表面に銅又は銅合金からなる銅めっき層が施されためっき材により構成されてもよい。この場合、母材としては銅以外の金属材料であってもよい。
また、銀めっき層5中に炭素が共析していることにより、コネクタとして摺動したときに銀めっき層5同士の凝着が発生しがたくなり、摩擦係数が低下する。この場合、炭素の含有量が0.1質量%未満では摩擦係数を低減する効果が乏しく、0.6質量%を超えると銀めっき層5が脆くなり加工性が悪化するおそれがある。
銀めっき層5の膜厚は0.05μm以上2.0μm以下である。銀めっき層5の膜厚が0.05μm未満では薄すぎるため、早期に摩耗して消失し易い。2.0μmを超える膜厚では、軟らかい銀めっき層5が厚いため、摩擦係数が増大する。
まず、基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材に脱脂、酸洗等をすることによって表面を清浄する前処理を行う。
この基材2の表面の少なくとも一部に対して、ニッケル又はニッケル合金めっきを施してニッケルめっき層3を基材2に形成する。例えば、スルファミン酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/Lからなるニッケルめっき液を用いて、浴温45℃、電流密度3A/dm2の条件下でニッケルめっきを施して形成される。なお、ニッケル層3を形成するニッケルめっきは、緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴を用いて電気めっきにより形成してもよい。
基材2に形成されたニッケルめっき層3の表面に5質量%~10質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて活性化処理を行った後、銀ストライクめっきを施す。この銀ストライクめっきは、ニッケルめっき層3上に形成される銀錫合金めっき層4とニッケルめっき層3との密着性を高めるために実行される。この銀ストライクめっきを施すためのめっき液の組成は、ノーシアン浴(シアン化物であるシアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等を含まないめっき浴)であれば特に限定されないが、メタンスルホン酸銀浴を主体としたものが望ましい。
そして、銀ストライクめっきを施したニッケルめっき層3上に銀錫合金めっきを施して銀錫合金めっき層4を形成する。この銀錫合金めっきのためのめっき浴としては、例えば、メタンスルホン酸、メタンスルホン酸錫、メタンスルホン酸銀、硫黄を含有した有機添加剤を含む組成とする。具体的には、遊離メタンスルホン酸濃度を40g/L、Ag濃度を40g/Lを超えて90g/L以下、Sn濃度を5~35g/Lの範囲で調整した銀錫合金めっき液を用いるとよい。なお、この銀錫合金めっき液は、シアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等のシアン化物を含んでいない。また、錫陽極は、AgとPt/Ti不溶性電極との両方を用い、これらの面積は、陰極の2倍以上、AgとPt/Tiの電流配分はAg:Pt/Ti=4:1とすることが好ましい。さらに、浴温は40℃~60℃、電流密度1~15A/dm2とし、銀錫合金めっき層4を形成する。
銀錫合金めっき層4の上に、銀めっきを施す。この銀めっきのためのめっき浴の組成は、特に限定されないが、例えば、シアン化銀カリウム(K[Ag(CN)2])30g/L~60g/L、シアン化カリウム(KCN)120g/L~160g/L、炭酸カリウム(K2CO3)10g/L~20g/L、めっき層中に取り込まれやすい有機添加剤からなるめっき浴が好適である。有機添加剤としては、例えば、2,2チオエタノールなどのチオアルコール類、ベンゾチアゾール類、ベンゾトリアゾールなどのアゾール類、イミダゾールなどのイミダゾール類を用いることができる。この有機添加剤の添加濃度は0.1g/L以上10g/L以下とするのがよい。メタンスルホン酸、またはヨウ化カリウムと主体にしたノーシアン浴も使用可能である。
そして、この銀めっき浴に対してアノードとして純銀板を用いて、浴温10℃以上40℃以下、電流密度1A/dm2以上10A/dm2以下の条件下で銀めっきを1秒~7分程度施すことにより銀めっき層が形成される。
また、銀ストライクめっき、銀錫合金めっきにシアン化物を含まないめっき液を用いており、排水処理が容易になるなど、環境負荷を低減できる。銀めっき層5を形成する際にもノーシアン浴とすれば、さらに環境負荷を低減できる。
また、端子材の表面の一部、具体的にはコネクタ端子として接点部となる部分に銀錫合金めっき層、銀めっき層を形成したが、表面全体に銀錫合金めっき層、銀めっき層を形成することは妨げない。
なお、各めっきの条件は以下のとおりとした。
・めっき浴組成
スルファミン酸ニッケル:300g/L
塩化ニッケル:30g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:45℃
・電流密度:3A/dm2
・めっき浴組成
大和化成株式会社製 ダインシルバーGPE-ST
・アノード
IrO2/Ti不溶性アノード
・浴温:25℃
・電流密度:1A/dm2
・めっき浴組成
遊離メタンスルホン酸:40g/L
メタンスルホン酸錫:20g/L
メタンスルホン酸銀:60g/L
有機添加剤:5mg/L
・浴温:50℃
・電流密度:10A/dm2
・めっき浴組成
シアン化銀カリウム:55g/L
シアン化カリウム:130g/L
炭酸カリウム:15g/L
非イオン性界面活性剤:1g/L
2,2チオエタノール:5g/L
・アノード
純銀板
・浴温:25℃
・電流密度:5A/dm2
収束イオンビーム装置(FIB)にてめっき材を加工して断面試料を作製し、銀錫合金めっき中のAg濃度は、日本電子株式会社製の電子線マイクロアナライザー:EPMA(型番JXA-8530F)を用いて、加速電圧10kV、ビーム径φ30μmとし、各試料の断面を測定した。
[銀めっき層中のAg濃度(質量%)]
アメテック株式会社製グロー放電質量分析計(Astrum)を用いて、以下の条件で測定した。
積分時間:160msec/Ch
放電電流:2.0mA
放電電圧:1.0kV
放電ガス:Ar(>99.9999)
予備放電:20min
収束イオンビーム装置(FIB)にてめっき材を加工して断面試料を作製し、その断面表面を走査イオン顕微鏡(SIM)で観察して測定した。
[耐摩耗性]
各試料を60mm×10mmの試験片に切り出し、平板サンプルをオス端子の代用とし、この平板サンプルに曲率半径2.5mmの凸加工を行ったサンプルをメス端子の代用とした。摺動試験は、ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス試験片の凸面を接触させ、5Nの荷重を負荷した状態で、オス端子試験片を水平に移動距離5mm、摺動速度1Hzで摺動させ、摺動50回後の摩耗深さを、摺動試験後に平板サンプルの下地(ニッケル層)が露出しているか否かで判定した。この際、摩耗深さが2.5μm未満(摺動試験後に下地が露出していない)のものを良好「A」、摺動試験後に下地が露出しているものを不可「B」とした。
各試料のそれぞれを60mm×10mmの試験片に切り出し、平板サンプルをオス端子の代用とし、この平板サンプルに曲率半径2.5mmの凸加工を行ったサンプルをメス端子の代用とした。これらを加熱前及び150℃で250時間加熱後について、それぞれ接触抵抗を測定した。ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス試験片の凸面を接触させ、オス端子試験片を荷重負荷速度1/15N/secで、0Nから10Nまで荷重をかけた時の10Nの時の接触抵抗値を4端子法により測定した。
耐熱剥離試験は、大気加熱炉にて150℃で1000時間加熱後、JISK5600-5-6に記載のクロスカット法にて試験を行い、皮膜が剥がれなかったものを良好「A」、1マスでも剥がれたものを不可「B」とした。
これに対して、試料5は、銀錫合金めっき層の膜厚が0.4μmと小さいため、耐摩耗性が劣っていた。
試料8は、銀錫合金めっき層中のAg濃度が65at%であったことから、銀錫合金めっき層の析出が粗雑となり、その上の銀めっき層が成膜できなかった。
試料9は、銀錫合金めっき層中のAg濃度が95at%と高かったため、耐摩耗性に劣っていた。
試料10は、銀めっき層の膜厚が0.02μmと小さいため、加熱後の接触抵抗が増加した。
2 基材
3 ニッケルめっき層
4 銀錫合金めっき層
5 銀めっき層
Claims (3)
- 少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面の少なくとも一部に被覆された銀錫合金からなる銀錫合金めっき層と、該銀錫合金めっき層の上に形成された純度99質量%以上の銀からなる銀めっき層とを備え、前記銀錫合金めっき層は、Agを70at%以上85at%以下の範囲で含み、かつ、銀錫系金属間化合物を主成分としており、前記銀錫合金めっき層の膜厚は0.5μm以上10μm以下であり、前記銀めっき層の膜厚は0.05μm以上2.0μm以下であり、
さらに前記銀めっき層では、炭素が0.1質量%以上0.6質量%以下の含有率で共析していることを特徴とするコネクタ用端子材。 - 前記基材と前記銀錫合金めっき層との間には、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層が設けられ、該ニッケルめっき層の膜厚は0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用端子材。
- 請求項1又は2に記載のコネクタ用端子材からなるコネクタ用端子であって、相手方コネクタ用端子との接点部分の表面が前記銀めっき層からなることを特徴とするコネクタ用端子。
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