以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
図1は、本実施形態に係る排気浄化装置1を示す概略構成図である。排気浄化装置1は、例えばトラック等の車両に搭載されており、内燃機関であるエンジン2から排出される排気ガスGを浄化する。エンジン2は、例えばディーゼルエンジンである。排気浄化装置1が搭載される車両としては、トラックの他、例えば、トラクター又はバス等の大型の車両であってもよいし、中型自動車、小型自動車、又は軽自動車であってもよい。なお、以下の説明において、「上流側」とは排気ガスGの流れ方向の上流側を意味し、「下流側」とは排気ガスGの流れ方向の下流側を意味する。
排気浄化装置1は、排気ガスGが流れる排気通路5に搭載されている。排気浄化装置1は、排気通路5の上流側から下流側に向かって順に、SCR11(第1の還元触媒)と、ASC12(第1のアンモニアスリップ触媒)と、DOC13(酸化触媒)と、DPF14(フィルタ)と、SCR15(第2の還元触媒)と、ASC16(第2のアンモニアスリップ触媒)と、を備えている。更に、排気浄化装置1は、SCR11の上流側を流れる排気ガスGに尿素水を噴射する尿素水噴射部21(第1の還元剤噴射部)と、SCR15の上流側を流れる排気ガスGに尿素水を噴射する尿素水噴射部22(第2の還元剤噴射部)と、尿素水噴射部21及び尿素水噴射部22を制御する制御部23と、SCR11の上流側を流れる排気ガスGの温度を検出するセンサ31と、SCR15を流れる排気ガスGの温度を検出するセンサ32と、を備えている。
SCR(Selective Catalytic Reduction)11は、排気ガスG中のNOx(窒化酸化物)を選択的に還元して浄化する選択還元触媒であり、例えば、排気ガスGの温度が高温となるエンジン2の直下に配置されている。エンジン2の直下は、エンジン2の流出口の下流側であって当該流出口に近接した位置である。エンジン2の直下は、エンジン2から流出した排気ガスGの冷却が実質的に無視できる範囲の位置としてもよい。SCR11は、尿素水噴射部21が噴射した尿素水から生成されるNH3(アンモニア)を還元剤として用いた還元反応により、排気ガスG中のNOxをN2(窒素)及びH2O(水)等の無害な物質に変換する。
ASC(Ammonia Slip Catalyst)12は、SCR11からリークしたNH3を低減する触媒である。SCR11からリークしたNH3がDOC13に流入すると、NH3は、DOC13においてN2Oに酸化される。N2Oは、浄化され難く且つ有害性が高いため、N2Oの生成を極力抑制することが望ましい。そこで、SCR11とDOC13との間にASC12を配置することによって、DOC13においてN2Oが多く生成されてしまう事態が抑制される。
DOC(Diesel Oxidation Catalyst)13は、排気ガスG中のNO(一酸化窒素)、HC(炭化水素)、及びCO(一酸化炭素)等を酸化する酸化触媒である。DOC13は、例えば、ゼオライト等の担体に金属又は金属酸化物を担持させたものから構成されている。DPF(Diesel Particulate Filter)14は、DOC13を通過した排気ガスG中の粒子状物質(PM:ParticulateMatter)を捕集して取り除くフィルタである。DPF14は、例えば、セラミックス又は金属多孔体から構成されている。DOC13の上流側には、DOC13に軽油を供給する軽油供給部が設けられてもよい。
SCR15は、排気ガスG中のNOxを選択的に還元して浄化する選択還元触媒である。SCR15は、尿素水噴射部22から噴射される尿素水から生成されるNH3を還元剤として用いた還元反応により、排気ガスG中のNOxをN2及びH2O等の無害な物質に変換する。ASC16は、SCR15からリークしたNH3を酸化する酸化触媒である。ASC16として、例えば、ゼオライト等の担体にPt等の貴金属を担持させたものが用いられてもよい。
尿素水噴射部21は、排気通路5におけるエンジン2とSCR11との間に配置されている。尿素水噴射部21は、エンジン2とSCR11との間を流れる排気ガスGに尿素水を噴射可能に構成されている。尿素水噴射部22は、排気通路5におけるDPF14とSCR15との間に配置されている。尿素水噴射部22は、DPF14とSCR15との間を流れる排気ガスGに尿素水を噴射可能に構成されている。尿素水噴射部21及び尿素水噴射部22は、制御部23の制御に応じて尿素水を噴射する。排気ガスGが所定の温度(例えば180℃)以上の場合に、排気ガスGに尿素水が噴射されると、熱分解反応及び加水分解反応によってNH3が生成される。
センサ31は、例えば、排気通路5におけるエンジン2とSCR11との間であって、尿素水噴射部21の上流側に配置されている。センサ31は、エンジン2とSCR11との間を流れる排気ガスGの温度を検出し、検出した温度を制御部23に出力する。センサ32は、例えば、DOC13に配置されている。センサ32は、DOC13の温度を検出し、検出した温度を制御部23に出力する。「DOC13の温度を検出する」とは、DOC13の温度を直接的に検出する場合と、DOC13の温度を間接的に検出する場合の両方を含む。センサ32は、例えば、DOC13又はDOC13の上流側を流れる排気ガスGの温度を検出し、検出した温度からDOC13の温度を推定することでDOC13の温度を間接的に検出してもよい。センサ32は、DOC13の上流側を流れる排気ガスGの温度を検出する場合、DOC13の上流側の排気通路5に配置されてもよい。例えば、センサ32は、排気通路5におけるASC12とDOC13との間に配置されてもよい。
制御部23は、例えば、CPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース等を含んで構成されたコンピュータであり、ROMに格納された制御プログラムに従って、入力インターフェース回路から各種センサ情報等を取り込み、出力インターフェース回路から各種制御に必要な指令信号を出力する。制御部23は、尿素水噴射部21、尿素水噴射部22、センサ31、及びセンサ32と電気的に接続されている。制御部23は、例えば車両のECU(Electronic Control Unit)であってもよい。
制御部23は、センサ31及びセンサ32により検出された温度に基づいて、尿素水噴射部21及び尿素水噴射部22を制御する。センサ31により検出された温度が所定の第1の温度(例えば200℃)以上である場合には、制御部23は、尿素水噴射部21から尿素水を噴射させる。一方、センサ31により検出された温度が第1の温度未満である場合には、制御部23は、尿素水噴射部21から尿素水を噴射させない。第1の温度とは、SCR11の活性温度であって、尿素水からNH3を生成するために必要な温度である。
センサ32により検出された温度が所定の第2の温度(例えば200℃)以上である場合には、制御部23は、尿素水噴射部22から尿素水を噴射させる。一方、センサ32により検出された温度が第2の温度以上である場合には、制御部23は、尿素水噴射部22から尿素水を噴射させない。第2の温度とは、DOC13の活性温度である。本実施形態では、第1の温度及び第2の温度は互いに同一となっているが、第1の温度及び第2の温度は互いに異なっていてもよい。
センサ31により検出された温度が第1の温度以上であって、センサ32により検出された温度が第2の温度以上である場合には、制御部23は、第1の噴射量の尿素水を尿素水噴射部21から噴射させ、第2の噴射量の尿素水を尿素水噴射部22から噴射させる。第1の噴射量は、尿素水噴射部21から噴射させる予定の噴射量であって、SCR11でのNOxの還元反応の進行に必要な分だけのNH3(すなわち、SCR11でのNOxの還元反応の際に消費しきれる量のNH3)を生成可能な尿素水の噴射量である。第2の噴射量は、尿素水噴射部22から噴射させる予定の噴射量であって、SCR15でのNOxの還元反応の進行に必要な分だけのNH3(すなわち、SCR15でのNOxの還元反応の際に消費しきれる量のNH3)を生成可能な尿素水の噴射量である。つまり、制御部23は、センサ31により検出された温度が第1の温度以上であって、センサ32により検出された温度が第2の温度以上である場合には、予定していた噴射量の尿素水をそのまま尿素水噴射部21及び尿素水噴射部22からそれぞれ噴射させる。
センサ31により検出された温度が第1の温度以上であるとき、SCR11の上流側を流れる排気ガスGの温度は、尿素水からNH3を生成するために必要な温度以上となっている。この環境下において、SCR11の上流側において尿素水噴射部21から第1の噴射量の尿素水が噴射されると、熱分解反応及び加水分解反応によって、噴射した尿素水からNH3が生成される。生成されたNH3がSCR11に流入すると、SCR11においてNOxの還元反応が進行する。また、センサ32により検出された温度が第2の温度以上であるとき、DOC13の温度は、活性温度以上になっている。DOC13の温度が活性温度以上の高温となっていれば、下流側の排気ガスGの温度は十分昇温しているので、SCR15付近の温度は、尿素水からNH3を生成するために必要な温度以上となる。この環境下において尿素水噴射部22から第2の噴射量の尿素水が噴射されると、熱分解反応及び加水分解反応によって、噴射した尿素水からNH3が生成される。生成されたNH3がSCR15に流入すると、SCR15においてNOxの還元反応が進行する。
センサ31により検出された温度が第1の温度以上であって、センサ32により検出された温度が第2の温度未満である場合には、制御部23は、第1の噴射量と第2の噴射量との合計量の尿素水を尿素水噴射部21から噴射させ、尿素水噴射部22から尿素水を噴射させない。つまり、制御部23は、センサ31により検出された温度が第1の温度以上であって、センサ32により検出された温度が第2の温度未満である場合には、尿素水噴射部21から噴射させる予定の噴射量に、尿素水噴射部22から噴射させる予定の噴射量を加えた量の尿素水を尿素水噴射部21から噴射させる。
センサ31により検出された温度が第1の温度以上であるとき、SCR11の上流側を流れる排気ガスGの温度は、尿素水からNH3を生成するために必要な温度以上となっている。この環境下において、第1の噴射量と第2の噴射量との合計量の尿素水が尿素水噴射部21から噴射されると、熱分解反応及び加水分解反応によって、当該合計量の尿素水に応じた多量のNH3が生成される。このNH3がSCR11に流入すると、SCR11においてNOxの還元反応が進行する。SCR11におけるNOxの還元反応の際に、第1の噴射量分に対応する量のNH3が消費され、第2の噴射量分に対応する量のNH3はSCR11で消費しきれず、SCR11の下流にリークする。SCR11からリークしたNH3は、ASC12、DOC13、及びDPF14を経て、SCR15に到達する。そして、SCR15において、リークしたNH3を用いたNOxの還元反応が進行する。
次に、図2を参照して、SCR11及びASC12の触媒構成について説明する。図2は、SCR11及びASC12の触媒構成を示す概略図である。図2に示すように、SCR11は、Cu(銅)を含有するSCRである。以下では、Cuを含有するSCRを「Cu系SCR」と称する。Cu系SCRとしては、例えば、セラミック等の担体に銅ゼオライトを担持させたものが挙げられる。Cu系SCRは、NOが多く存在する環境下において、NOxの還元反応を十分に進行させることができる。NOが多く存在する環境とは、NOxのうちのNO2(二酸化窒素)が占める割合と比べて、NOxのうちのNOが占める割合の方が高い環境を意味する。
Cu系SCRは、NH3を多く吸着する性質を有する。このため、SCR11の上流側において尿素水から生成されたNH3の多くは、SCR11を通過する際にSCR11に吸着する。SCR11に吸着したNH3は、エンジン2から排出された直後の排気ガスGによる急激な温度上昇によって、SCR11からリークする。なお、図2に示す例では、SCR11の全体がCu系SCRとなっているが、SCR11の一部のみがCu系SCRとなっていてもよい。
ASC12は、酸化触媒としての機能に加え、SCRとしての機能を有する触媒である。ASC12は、酸化触媒として機能する酸化部12aと、SCRとして機能する還元部12bと、を有している。酸化部12aは、ASC12の上流側に配置されている。酸化部12aは、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、又はRu(ルテニウム)等の貴金属を含有している。酸化部12aとしては、例えば、ゼオライト等の担体にPtを担持させたものが挙げられる。
酸化部12aは、SCR11からリークしたNH3をNO及びNO2等のNOxに酸化すると共に、SCR11を通過した排気ガスG中のNOをNO2に酸化する。NH3に対する酸化部12aの酸化力が高すぎると酸化部12aがNH3をN2Oに酸化してしまうため、NH3に対する酸化部12aの酸化力は、NH3をN2Oに酸化せずに、NH3をNO及びNO2等に酸化することが可能な程度に設定される。
還元部12bは、ASC12の下流側に配置されている。還元部12bは、例えば、Fe(鉄)又はCu(銅)等の金属を含有するSCRである。本実施形態では、還元部12bが、Feを含有するSCRである場合を例示する。以下では、Feを含有するSCRを「Fe系SCR」と称する。Fe系SCRとしては、例えば、セラミック等の担体に鉄ゼオライトを担持させたものが挙げられる。還元部12bは、酸化部12aを通過した排気ガスG中のNOxを選択的に還元して浄化する。具体的には、還元部12bは、SCR11において還元しきれなかったNOxを還元すると共に、酸化部12aにおけるNH3の酸化により生成されたNOxを還元する。
ASC12に流入した排気ガスG中のNH3は、酸化部12aにおいてNO及びNO2等のNOxに酸化され、還元部12bにおいてNOxを還元反応のために消費されるので、ASC12からのNH3のリークが抑制される。更に、還元部12bにおけるNOxの還元反応によって、ASC12から流出する排気ガスG中のNOxが浄化される。なお、酸化部12a及び還元部12bは、例えば、2層コート又はゾーンコートにより、ASC12の上流側部分及び下流側部分にそれぞれに形成される。
次に、図3を参照して、SCR15の触媒構成について説明する。図3は、SCR15の触媒構成を示す概略図である。図3に示すように、SCR15の上流側部分15aがFe系SCRとなっており、SCR15の下流側部分15bがCu系SCRとなっている。Fe系SCRは、排気ガスGにNO及びNO2が共存する環境下において、NOxの還元反応を十分に進行させることができる。NO及びNO2が共存する環境とは、NO及びNO2が共に或る程度存在する環境、例えば、NOxのうちのNOが占める割合(NOの割合)と、NOxのうちのNO2が占める割合(NO2の割合)とが同程度となっている環境を意味する。これに対し、Cu系SCRは、上述したように、NOが多く存在する(或いはNOのみが存在する)環境下において、NOxの還元反応を十分に進行させることができる。SCR15に流入した排気ガスGのNOxは、Fe系SCRにおいて浄化された後、Cu系SCRにおいて更に浄化される。
図3に示す例では、SCR15においてFe系SCRが占める割合(Fe系SCRの割合)、及び、SCR15においてCu系SCRが占める割合(Cu系SCRの割合)は共に1/2程度となっているが、この例に限定されず、Fe系SCRの割合及びCu系SCRの割合は適宜変更可能である。Fe系SCRの割合は、例えば、DOC13におけるNO2の割合とNOの割合との大小に応じて決定されてもよい。
次に、本実施形態に係る排気浄化装置1の作用・効果について、比較例が有する課題と共に説明する。
図4は、比較例に係る排気浄化装置100を示す概略構成図である。図4に示すように、排気浄化装置100は、排気通路5の上流側から順に、排気ガスG中のCO及びHCを浄化すると共にNOxのうちNOを酸化するDOC113と、排気ガスG中の粒状物質を捕集するDPF114と、排気ガスG中のNOxを浄化するSCR115と、SCR115からリークしたNH3を酸化するASC116と、を備えている。排気浄化装置100では、SCR115の上流側に配置されたセンサ132が排気ガスGの温度を検出し、排気ガスGの温度が所定温度以上となった場合に、制御部123が尿素水噴射部122から尿素水を噴射させる。一方、排気ガスGの温度が所定温度未満である場合には、尿素水噴射部122から尿素水を噴射しても、尿素水からNH3を生成することはできず、SCR115においてNOxの還元反応が促進されない。
排気浄化装置100では、図4に示すように、SCR115がDOC113及びDPF114の下流側に配置されているので、エンジン2からSCR115までの距離が長い。このため、エンジン2の始動時等においては、SCR115の上流側の排気ガスGの温度が所定温度に達するまでに時間を要する。よって、この排気ガスGの温度が所定温度に達するまでの期間は、SCR115においてNOxの還元反応が促進されない。したがって、排気浄化装置100では、NOxの浄化効率の向上を図ることは難しい。
これに対し、本実施形態に係る排気浄化装置1では、図1に示すように、SCR11がDOC13及びDPF14の上流側に配置されているので、エンジン2から排出された直後の高温の排気ガスGをSCR11に流すことができる。これにより、SCR11を早期に活性化させることができ、NOxの浄化効率の向上を図ることができる。更に、SCR11はCu系SCRとなっている。エンジン2から排出される排気ガスGはNOを多く含むため、SCR11には、NOの割合が高い状態の排気ガスGが流入する。このようにNOが多く存在する(或いはNOのみが存在する)環境下においては、NOxの浄化性能を十分に発揮させる観点から、他のSCRを用いるよりもCu系SCRを用いることが好適である。したがって、SCR11をCu系SCRとすることにより、エンジン2の直後に配置されたSCR11においてNOxの還元反応を十分に進行させることができ、NOxを効率的に浄化することができる。
SCR11を通過した排気ガスGは、DOC13及びDPF14を通過した後、SCR15に流入する。ここで、エンジン2の始動時等は、下流側の排気ガスGの温度が十分に上昇するまでに時間を要する。下流側の排気ガスGの温度が十分に上昇するまでの期間は、下流側のDOC13及びSCR15等の触媒の温度も十分に昇温しない。図5は、排気ガスGの温度、及び排気ガスGが通過する各触媒の温度を時系列で示すグラフである。図5において、横軸は、車両の運転時間を示し、縦軸は、排気ガスGの温度、及び排気ガスGが通過する各触媒の温度を示している。図5において、「ガス温度」は、エンジン2から排出された直後の排気ガスGの温度を示し、「SCR IN」は、SCR11の入口の温度を示し、「DOC IN」は、DOC13の入口の温度を示し、「DPF OUT」は、DPF14の出口の温度を示し、「SCR2 IN」は、SCR15の入口の温度を示している。
図5に示すように、エンジン2の直下の「ガス温度」及び「SCR IN」は、運転を開始してから急峻に上昇し、運転を開始してから50秒を経過した時点で200℃付近に到達している。一方、エンジン2から離れた下流側の「DOC IN」、「DPF OUT」、及び「SCR2 IN」は、運転時間の経過に応じて緩やかに上昇している。「DOC IN」は、運転を開始してから300秒を経過するまでは200℃付近に到達せず、「SCR2 IN」は、運転を開始してから600秒を経過するまでは200℃付近に到達しない。このように、運転を開始してから600秒を経過するまでの期間では、SCR15の温度が、尿素水からNH3が生成されるために必要な温度(200℃付近)に到達しないので、尿素水噴射部22から尿素水を噴射しても、この尿素水からNH3を生成することはできない。しかし、運転を開始してから300秒を経過するまでの期間においては、DOC13の温度も十分に上昇しておらず、DOC13の活性温度(200℃付近)に到達していない。つまり、DOC13が活性化してないので、DOC13における酸化反応が十分に進行しない。よって、このように下流側の触媒の温度が十分に上昇するまでの期間においては、SCR11を通過した排気ガスG中のNH3の多くは、DOC13において酸化されずに、DOC13から流出することとなる。
図6は、DOC13の入口に流入する排気ガスGの温度、及びDOC13の出口から流出する排気ガスG中の各成分の濃度を時系列で示すグラフである。図6において、横軸は、車両の運転時間を示し、左縦軸は、DOC13の出口から流出する排気ガスG中の各成分の濃度を示し、右縦軸は、DOC13の入口に流入する排気ガスGの温度を示している。図6において、「ガス温度」は、DOC13の入口に流入する排気ガスGの温度(すなわちDOC13の入口の温度)を示し、「NH3」は、DOC13の出口から流出する排気ガスG中のNH3の濃度を示し、「NO」は、DOC13の出口から流出する排気ガスG中のNOの濃度を示し、「NO2」は、DOC13の出口から流出する排気ガスG中のNO2の濃度を示し、「N2O」は、DOC13の出口から流出する排気ガスG中のN2Oの濃度を示している。
図6に示すように、「ガス温度」が200℃付近に到達するまでの期間において、NH3の濃度が極端に高くなっており、NO、NO2、及びN2Oの濃度は低い状態となっている。そして、「ガス温度」が200℃付近を超えると、NH3の濃度が極端に低下し、NO、NO2、及びN2Oの濃度が増加する。これは、DOC13の温度が200℃付近に到達するまでの期間においては、DOC13に流入した排気ガスG中のNH3の多くが、DOC13によってNO、NO2、及びN2O等のNOxに酸化されずに、DOC13から流出していることを意味している。一方、DOC13の温度が200℃付近を超えると、排気ガスG中のNH3がDOC13によってNOxに酸化されるので、NH3の濃度が低下すると共にNOxの濃度が増加する。このように、DOC13の温度が活性温度である200℃付近に到達するまでの期間においては、排気ガスG中のNH3の多くは、DOC13において酸化されずに、そのままDOC13の下流側に流出することが分かる。そして、DOC13の下流側に流出したNH3は、DPF14を経てSCR15に供給される。したがって、この期間を利用してSCR15へNH3を積極的にリークさせれば、SCR15において、リークしたNH3を用いたNOxの還元反応を進行させることができると考えられる。
そこで、本実施形態に係る排気浄化装置1では、DOC13の温度が活性温度以上である場合に、尿素水噴射部22から尿素水を噴射させずに、尿素水噴射部21から噴射させる予定の第1の噴射量に、尿素水噴射部22から噴射させる予定の第2の噴射量を加えた量の尿素水を、尿素水噴射部21から噴射させる。このように、SCR11において処理しきれない余剰の尿素水を尿素水噴射部21から噴射させることにより、尿素水から生成されるNH3をSCR11の下流側に積極的にリークさせることができる。そして、リークしたNH3の多くは、DOC13の温度が活性温度未満である場合、DOC13において酸化されずにSCR15に供給されるので、SCR15においてNOxの還元反応を進行させることができる。つまり、下流側の排気ガスGの温度が十分に上昇するまでの期間において、NOxの還元反応を効率的に進行させることができる。したがって、本実施形態に係る排気浄化装置1によれば、NOxの浄化効率を向上させることができる。
本実施形態に係る排気浄化装置1では、制御部23は、センサ32により検出されたDOC13の温度がDOC13の活性温度以上である場合に、尿素水噴射部21から第1の噴射量の尿素水を噴射させ、尿素水噴射部22から第2の噴射量の尿素水を噴射させる。DOC13の温度がDOC13の活性温度以上である場合、DOC13にNH3がリークすると、DOC13において、リークしたNH3は、浄化され難く且つ有害性の高いN2Oに酸化されてしまう。そこで、尿素水噴射部21から、余剰の尿素水ではなく、予定量(第1の噴射量)の尿素水を噴射させることにより、DOC13へのNH3のリークを抑制している。これにより、DOC13においてN2Oが生成されてしまう事態を抑制できる。また、DOC13の温度がDOC13の活性温度以上である場合には、SCR15の付近にて尿素水からNH3を生成できる。よって、尿素水噴射部22から予定量(第2の噴射量)の尿素水を噴射させることで、SCR15においてNOxの還元反応を進行させることができる。
本実施形態に係る排気浄化装置1では、SCR15の上流側部分15aはFe系SCRであり、SCR15の下流側部分15bはCu系SCRである。ASC12を通過した排気ガスG中のNOは、DOC13によってNO2に酸化されるので、SCR15の上流側部分15aには、NO2の割合が増加した状態(例えば、NO及びNO2の割合が同程度の状態)の排気ガスGが流入する。このようにNO及びNO2が共存する環境下においては、上述したようにFe系SCRを用いることが好適である。したがって、SCR15の上流側部分15aをFe系SCRとすることにより、上流側部分15aにおいて、NOxの還元反応を十分に進行させることができ、NOxを効率的に浄化することができる。
一方、Fe系SCRは、NOのみが存在する(或いはNOの割合が高い)環境下においては、NOxの還元反応を十分に進行させることができない。このため、仮に、NOの割合がNO2の割合に対して比較的高い状態の排気ガスGが上流側部分15aに流入した場合には、Fe系SCRにおけるNOxの還元反応の際にNOが還元しきれず、NOが排気ガスG中に残存してしまうことが想定される。これに対し、Cu系SCRは、上述したように、NOのみが存在する(或いはNOの割合が高い)環境下において、NOxの還元反応を十分に進行させることができる。よって、SCR15の下流側部分15bをCu系SCRとすることにより、Fe系SCRを通過した排気ガスG中のNOxを効率的に浄化することができる。更に、SCR15の上流側部分15aにおいてNO及びNO2等が浄化されることで、SCR15の下流側部分15b(Cu系SCR)に流入する排気ガスG中のNO及びNO2等が減少する。このように、Cu系SCRに流入するNO2を減少させることで、Cu系SCRにおいて、浄化され難く且つ有害性の高いN2Oが多く生成されてしまう事態を抑制できる。したがって、本実施形態に係る排気浄化装置1によれば、排気ガスG中のNOxの浄化効率を一層向上させることができる。
本実施形態に係る排気浄化装置1は、排気通路5におけるSCR11とDOC13との間に配置されたASC12を備えている。上述したように、Cu系SCRであるSCR11は、NH3を多く吸着する性質を有するため、尿素水から生成されたNH3の多くはSCR11に吸着し、SCR11に吸着したNH3は、エンジン2から排出された直後の排気ガスGによる急激な温度上昇によって、SCR11からリークする。SCR11とDOC13との間にASC12が配置されると、リークしたNH3は、ASC12によって低減された後、DOC13に流入する。これにより、DOC13において、リークしたNH3が、浄化され難く且つ有害性の高いN2Oに酸化されてしまう事態を抑制できる。その結果、NOxの浄化効率を一層向上させることができる。
本実施形態に係る排気浄化装置1は、排気通路5におけるSCR15の下流側に配置されたASC16を備えている。これにより、排気ガスG中のNH3は、ASC16によってNO及びNO2等のNOxに酸化された後、排気浄化装置1の外部に排出されるので、有害物質であるNH3が大気中に放出されてしまう事態を抑制できる。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。排気浄化装置の構成は、上述した実施形態に限られず、特許請求の範囲の記載の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、排気浄化装置は、ASC12及びASC16を備えていなくてもよいし、ASC12及びASC16のいずれか一方のみを備えていてもよい。ASC12は、ASC16と同様の構成を有していてもよい。すなわち、ASC12は、酸化部12aのみを有していてもよい。逆に、ASC16は、ASC12と同様に、酸化部12a及び還元部12bを有していてもよい。尿素水噴射部21、尿素水噴射部22、センサ31、及びセンサ32の配置は、適宜変更可能である。例えば、センサ31は、尿素水噴射部21の下流側に配置されていてもよいし、センサ32は、尿素水噴射部22の下流側に配置されていてもよい。排気浄化装置は、センサ31を備えていなくてもよい。下流側のセンサ32により検出された温度が第2の温度以上である場合、上流側のセンサ31により検出された温度は第1の温度以上になっていると考えられるので、制御部23は、センサ32により検出された温度のみに基づいて、尿素水噴射部21及び尿素水噴射部22を制御してもよい。すなわち、制御部23は、センサ32により検出された温度が第2の温度以上である場合に、尿素水噴射部21及び尿素水噴射部22から、それぞれ第1の噴射量の尿素水、及び第2の噴射量の尿素水を噴射させてもよい。