JP7128676B2 - アルミニウム合金箔及びその製造方法 - Google Patents
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Description
従来、銀、銅、亜鉛といった金属については、抗菌性を有することが確認されているが、鉄については抗菌性は無いと考えられ、添加する目的も強度の向上や圧延性の改善であった。
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、所定量のCuを含有するアルミニウム合金箔の表層(箔の厚み方向に表面から2μm以内の箇所)中に、Feを1.0質量%以上濃化させることで、コスト的に安価であり、優れた抗菌性及び加工性を有するアルミニウム合金箔を提供できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
ここで、アルミニウム合金箔の厚み方向に表面から2μm以内の箇所を表層とし、その余の箇所を中間層とする。
[1]GD-OES(グロー放電発光分析装置)分析で表層のFeの濃度が1.0質量%以上であり、前記表層のFe濃度が、前記中間層のFe濃度より高く、ICP(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)分析でアルミニウム合金中のCuの含有量が0.05≦Cu≦0.30質量%であることを特徴とするアルミニウム合金箔。
[2]表層のCuの濃度が0.2質量%以上であり、前記表層のCu濃度が、前記中間層のCu濃度より高いことを特徴とする[1]に記載のアルミニウム合金箔。
[4]引張強度が100N/mm2未満であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のアルミニウム合金箔。
[5]0<Si≦0.20質量%のSi、1.0≦Fe≦1.7質量%のFe、0.05≦Cu≦0.30質量%のCu、0<Mn≦0.20質量%のMn、0<Mg≦0.20質量%のMg、0<Zn≦0.03質量%のZn、及び0<Ti≦0.03質量%のTiを含有し、残部がAl及び不可避不純物であるアルミニウム合金からなることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載のアルミニウム合金箔。
[7]0<Si≦0.20質量%のSi、1.0≦Fe≦1.7質量%のFe、0.05≦Cu≦0.30質量%のCu、0<Mn≦0.20質量%のMn、0<Mg≦0.20質量%のMg、0<Zn≦0.03質量%のZn、及び0<Ti≦0.03質量%のTiを含有し、残部がAlと不可避不純物とからなるアルミニウム合金を準備する工程と、前記アルミニウム合金に冷間圧延をおこなう工程と、ついで前記アルミニウム合金を200~290℃雰囲気で10~20時間保持した後、300~350℃雰囲気で5~15時間保持後冷却する熱処理をおこなう工程と、を含むアルミニウム合金箔の製造方法。
実施形態のアルミニウム合金箔は、表層(箔の厚み方向に表面から2μm以内の箇所)中のFe(鉄)の濃度が1.0質量%以上であることを特徴とする。従来から抗菌性があると考えられてきた銀、銅等の金属については、水中に金属イオンが溶け出すことで抗菌性を発揮すると考えられている。鉄については、これまで抗菌性を有するとは考えられておらず、そのメカニズムは不明であるが、アルミニウム合金箔の表層中の鉄の濃度を1.0質量%以上とすることで、水中への溶出量が増え、十分な抗菌性を発揮すると考えられる。より好ましくは1.2質量%以上である。上限は特に限定されないが、表層中の鉄の濃度を3.0質量%より多くしようとすると、アルミニウム合金中への鉄の添加量を多くする必要が生じ、鋳造及び圧延が困難となるため、3.0質量%以下であることが望ましい。
このアルミニウム合金箔中の表層中のFe濃度を中間層のFe濃度より高くする方法としては、後記する熱処理による濃化の方法が挙げられる。
実施形態のアルミニウム合金箔を構成するアルミニウム合金は、Al(アルミニウム)及びFe以外に、後記のように所定量のCu(銅)を含有する。そして、このCuを含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔は、表層中のCuの濃度が0.2質量%以上であることが好ましい。従来より銅は水中に金属イオンが溶け出すことで抗菌性を発揮すると考えられてきた。アルミニウム合金箔の表層中の銅の濃度を0.2質量%以上とすることで、アルミニウム合金箔の抗菌性をより高めることができる。より好ましくは0.23質量%以上である。上限は特に限定されないが、表層中の銅の濃度を0.30質量%より多くしようとすると、アルミニウム合金中への銅の添加量を多くする必要が生じ、コスト増となるため0.30質量%以下であることが好ましい。
このアルミニウム合金箔中の表層のCu濃度を中間層のCu濃度より高くする方法としては、後記する熱処理による濃化の方法が挙げられる。
前記のアルミニウム合金箔の表層及び中間層のFe及びCuの濃度は、グロー放電発光分析装置(GD-OES)((株)堀場製作所製 GD-Profiler2)によって測定することができる。より具体的には、測定対象のアルミニウム合金箔を所定のサイズにカットし、所定の金属製治具に貼り付けた後、圧延面法線方向(ND)にグロー放電発光分析装置で測定を行い、得られた結果の任意の最表面(両面のどちらでも良いが、ブライト面とマット面が存在する場合はブライト面が望ましい)から深さ方向(厚み方向)に鉄及び銅の濃度を測定することができる。測定はAl(アルミニウム)、Fe(鉄)、Cu(銅)及びO(酸素)について行い、Al濃度、Fe濃度、Cu濃度及びO濃度の和を100質量%として、それぞれの濃度を得た。上記濃度のうち、表層中の最大値(ピーク値)を表層の濃度、中間層中の最大値を中間層の濃度とした。
実施形態のアルミニウム合金箔は、大腸菌及び黄色ブドウ球菌両菌それぞれで測定した抗菌活性値が3.0以上であることが好ましい。かかる抗菌活性値を有していれば、細菌の増加を効果的に抑えることができ、クッキングホイルや食品包材として好適に用いることが出来る。より好ましくは3.5以上である。
実施形態のアルミニウム合金箔は引張強度が100N/mm2未満であることが好ましい。かかる引張強度を有していれば、アルミニウム合金箔を所望のサイズに切断又は/及び加工しやすい、また、内容物を包みやすいといった使用感において優れている。アルミニウム合金箔の引張強度は40N/mm2以上99N/mm2以下がより好ましく、かかる引張強度を有していれば、優れた使用感を確保しつつ、割れや破れを防ぐために十分な強度を確保することができる。
前記アルミニウム合金箔は、アルミニウム合金から製造される。このアルミニウム合金は、前記Alを主成分とし、前記Fe及びCuを必須成分として含有し、必要に応じて、Si(シリコン)、Mn(マンガン)、Mg(マグネシウム)等、及び不可避不純物を含有する合金である。
本発明のアルミニウム合金箔において、使用されるアルミニウム純度は特に限定されないが、前記不可避不純物の理由で97.0質量%以上99.7質量%未満であることが好ましい。前記不可避不純物としては、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)等の遷移元素、B(ホウ素)、Ga(ガリウム)、及びBi(ビスマス)等が挙げられる。
実施形態のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、1.0質量%以上1.7質量%以下のFeを含有することが好ましい。アルミニウム合金箔中に一定量のFeを加えることにより、表層中のFeの濃度を特定の範囲とすることができ、抗菌性を有するアルミニウム合金箔とすることができる。アルミニウム合金箔100質量%中のFeの含有量が1.0質量%に満たない場合、後記のように濃化したとしても、表層中のFeの濃度が不十分となるおそれがあり、抗菌性が低下するおそれが生じる。
一方、Feの含有量が1.7質量%を超えると、鋳造及び圧延等が困難となり、加工性が低下する傾向がある。このため、歩留りが悪化しコスト増の原因となる。より好ましくは1.2質量%以上1.5質量%以下である。
実施形態のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、0.05質量%以上0.3質量%以下のCuを含有する。アルミニウム合金箔中に一定量のCuを加えることにより、表層中のCuの濃度を特定の範囲とすることができ、アルミニウム合金箔の抗菌性をより向上させることができる。アルミニウム合金箔100質量%中のCuの含有量が0.05質量%に満たない場合、後記する濃化をしたとしても、表層中のCuの濃度が不十分となるおそれがあり、抗菌性を向上することが困難となるおそれが生じる。
一方、Cuの含有量が0.3質量%を超えると、アルミニウム合金箔の加工性が悪化する傾向が生じる。このため、コスト増の原因となる。さらに耐食性が低下し腐食しやすくなる。より好ましくは0.12質量%以上0.2質量%以下である。
実施形態のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、0質量%より多く0.20質量%以下のSiを含有させることが好ましい。Siは、アルミニウム合金中に存在させると、得られるアルミニウム合金箔の強度を向上させることができるという特徴を発揮することができる。一方、0.20質量%を越える多量が存在すると、耐食性、圧延性の低下を招く傾向がある。より好ましくは0.05質量%以上0.18質量%以下である。
実施形態のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、0質量%より多く0.20質量%以下のMnを含有することが好ましい。MnはAl-Mn-Fe金属間化合物の生成を促し、本願におけるFeの濃化を妨げる要因となるため、0.20質量%以下とすることが好ましい。
実施形態のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、0質量%より多く0.20質量%以下のMgを含有することが好ましい。Mg添加は、著しくアルミニウム合金箔の強度を向上させるが、本願用途のクッキングホイルやホイルケースに適用する場合、添加量によっては、過度の強度向上となるおそれがある。このため、クッキングホイルやホイルケースとしては、使用感を損なう可能性があるので、0.20質量%以下とすることが好ましい。
実施形態のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、0質量%より多く0.05質量%以下、好ましくは0.03質量%以下のZnを含有することが好ましい。Znは、Fe、Cu等ほどの抗菌性を有さないが、Al程度の抗菌性を有する。また、Znが存在すると、イオン化傾向の関係から、Alの溶出が生じやすくなり、溶出したAlによって抗菌性がより高くなる傾向が生じる。ただ、Znが多すぎると、耐食性が低下するおそれがあるので、Znの量は、0.05質量%以下がよく、0.03質量%以下が好ましくなる。
実施形態のアルミニウム合金箔は、上述した金属元素以外に、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)等の遷移元素、B(ホウ素)、Ga(ガリウム)、及びBi(ビスマス)等からなる群より選択される一種以上の元素を含有してもよい。これら各元素の含有量は、アルミニウム合金箔100質量%中に、それぞれ0.05質量%以下とすることが好ましく、それぞれ0.03質量%以下とすることがより好ましい。また、これら各元素は、必要に応じて含有させればよく、含有させる場合の含有量の下限は、いずれも0質量%を越えればよい。
実施形態のアルミニウム合金箔の厚みは、強度及び製造の容易性の観点から、5μm以上であることが好ましい。また、使用感(希望のサイズへのカットしやすさ、折り曲げやすさ、取り扱いやすさ)という観点から、アルミニウム合金箔の厚みは40μm以下とすることが好ましい。より好ましくは20μm以下である。さらに好ましくは、7μm以上15μm以下とすることが好ましい。アルミニウム合金箔の厚みを上記範囲とするには、常法に従って、鋳造、圧延を行えばよい。
実施形態のアルミニウム合金箔の構成は以上のようであり、次に実施形態のアルミニウム合金箔の製造方法について説明する。
まず、アルミニウム地金を溶解した後、前記の所定の金属成分を加えて所定の成分とした溶湯を凝固させて鋳造することにより、鋳塊を得ることができる。
この鋳造方法としては、特に限定されず、半連続鋳造、連続鋳造、及び金型鋳造等からなる群より選択される方法を採用することができる。
ただし、アルミニウム合金箔の厚みを調整しやすくするという観点から、熱間圧延工程の後に、冷間圧延工程を設けることが好ましい。また、熱間圧延工程における熱間圧延の回数及び冷間圧延工程における冷間圧延の回数は目的とする最終厚みに応じて適宜設定すればよい。
0.17質量%のSi、1.28質量%のFe、0.15質量%のCu、0.01質量%以下のMn、0.01質量%以下のMg、0.03質量%のZn、及び0.02質量%のTiとを含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなるアルミニウム合金箔を用い、冷間圧延工程にて11μmの厚みまで冷間圧延されたアルミニウム合金箔を準備した。アルミニウム合金箔中の組成の測定は、(株)島津製作所製(ICPE9800)を用い、誘導結合プラズマ発光分光分析法によって測定した(以下、同様)。
次いで、このアルミニウム合金箔を研究用小型焼鈍炉内に空気雰囲気中に静置し、当該焼鈍炉内250℃雰囲気で11時間保持しついで300℃で5時間保持後、自然冷却する熱処理工程を行った。
アルミニウム合金箔を幅200mm、長さ300mmのサイズにカットして試料を作製した。
(実施例2)
熱処理工程を200℃雰囲気で20時間保持し、300℃雰囲気で5時間保持後、自然冷却するとした以外は実施例1と同様とした。
(実施例3)
熱処理工程を、250℃雰囲気で20時間保持後、自然冷却するとした以外は実施例1と同様とした。
(実施例4)
アルミニウム合金箔の組成を、0.17質量%のSi、1.32質量%のFe、0.05質量%のCu、0.01質量%以下のMn、0.01質量%以下のMg、0.03質量%のZn、及び0.02質量%のTiとを含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなるものとした以外は実施例1と同様とした。
(実施例5)
アルミニウム合金箔の厚みを20μmとした以外は実施例1と同様とした。
アルミニウム合金箔の組成を0.17質量%のSi、0.43質量%のFe、0.059質量%のCu、0.01質量%以下のMn、0.01質量%以下のMg、0.03質量%のZn、及び0.02質量%のTiとを含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなるものとした以外は実施例1と同様とした。
(比較例2)
アルミニウム合金箔の組成を、0.4質量%のSi、0.7質量%のFe、0.1質量%のCu、0.2質量%のMn、0.05質量%のMg、0.05質量%のCr、0.1質量%のZn、及び0.08質量%のTiとを含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなるものとした以外は実施例1と同様とした。
(比較例3)
熱処理工程の条件を、焼鈍炉内250℃雰囲気で11時間保持し、300℃で20時間保持後、自然冷却する焼鈍処理を行った以外は実施例1と同様とした。
(比較例4)
アルミニウム合金箔の組成を0.17質量%のSi、1.28質量%のFe、0.4質量%のCu、0.01質量%以下のMn、0.01質量%以下のMg、0.03質量%のZn、及び0.02質量%のTiとを含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物とからなるものとした以外は実施例1と同様とした。
得られた試料を用いて、前記した測定方法に従い、アルミニウム合金箔の表層中のFe及びCuの濃度、及び抗菌活性値を測定した。
表層濃度は、グロー放電発光分析装置(GD-OES)((株)堀場製作所製:GD-Profiler2)による深さ方向の元素分布を測定した。
抗菌活性値は、測定方法はJIS Z 2801(2012年版)にしたがって測定した。
結果を表1に示す。
冷間圧延工程中に、破断せずに作製できた試料を圧延性「○」、破断するなど圧延性が低い試料を圧延性「×」とした。
結果を表2に示す。
焼鈍工程を経て得られた試料を、巾15mm長さ200mmの寸法に裁断し、(株)東洋精機製ストログラフVE5Dにて引張強度を測定した。使用感の観点から、強度評価として、100N/mm2未満を「○」、100N/mm2以上を「×」とした。
結果を表2に示す。
Claims (4)
- 厚み方向に表面から2μm以内の箇所を表層とし、その余の箇所を中間層とした場合に、
GD-OES分析で前記表層のFeの濃度が1.0質量%以上であり、
前記表層のFe濃度が、前記中間層のFe濃度より高く、
ICP分析でアルミニウム合金中のCuの含有量が0.12≦Cu≦0.20質量%であるアルミニウム合金箔であって、
GD-OES分析で前記表層のCuの濃度が0.2質量%以上であり、
前記表層のCu濃度が、前記中間層のCu濃度より高く、
0<Si≦0.20質量%のSi、1.0≦Fe≦1.7質量%のFe、0.12≦Cu≦0.20質量%のCu、0<Mn≦0.20質量%のMn、0<Mg≦0.20質量%のMg、0<Zn≦0.03質量%のZn、及び0<Ti≦0.03質量%のTiを含有し、残部がAl及び不可避不純物であるアルミニウム合金からなり、
JIS Z 2801に規定する抗菌力試験において、抗菌活性値が3.0以上である、ことを特徴とするアルミニウム合金箔。 - 引張強度が100N/mm2未満であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
- 厚さが5μm以上40μm以下である請求項1または2に記載のアルミニウム合金箔。
- 0<Si≦0.20質量%のSi、1.0≦Fe≦1.7質量%のFe、0.05≦Cu≦0.30質量%のCu、0<Mn≦0.20質量%のMn、0<Mg≦0.20質量%のMg、0<Zn≦0.03質量%のZn、及び0<Ti≦0.03質量%のTiを含有し、残部がAlと不可避不純物とからなるアルミニウム合金を準備する工程と、
前記アルミニウム合金に冷間圧延をおこなう工程と、
ついで前記アルミニウム合金を200~290℃雰囲気で10~20時間保持した後、300~350℃雰囲気で5~15時間保持後冷却する熱処理をおこなう工程と、を含むアルミニウム合金箔の製造方法。
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