本発明の非水電解質二次電池用活物質の原料としてフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子が用いられる。前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の原料としてフッ素含有遷移金属酸化物粒子が用いられる。前記フッ素含有遷移金属酸化物粒子の原料としてフッ素含有遷移金属水酸化物粒子が用いられる。また、前記フッ素含有遷移金属水酸化物粒子の原料として、遷移金属水酸化物粒子が用いられる。
〔遷移金属水酸化物粒子〕
遷移金属水酸化物粒子に用いられる遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn、V、Zr、W、Tiなどの遷移金属の水酸化物が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの遷移金属は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。遷移金属のなかでは、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、Co、NiおよびMnが好ましく、NiおよびCoがより好ましく、Niがさらに好ましい。なお、遷移金属水酸化物には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、Mg、Alなどの典型金属が含まれていてもよい。
遷移金属水酸化物粒子は、例えば、連続式共沈法、バッチ式共沈法などによって調製することができる。
以下においては、遷移金属としてNi、CoおよびMnを含む遷移金属水酸化物粒子を共沈法によって調製する場合の一例について説明するが、本発明は、当該一例のみに限定されるものではない。
遷移金属水酸化物粒子は、例えば、Ni塩水溶液、Co塩水溶液、Mn塩水溶液および必要により錯化剤を共存させ、アルカリで中和することにより、Ni、CoおよびMnを含有する遷移金属水酸化物粒子を調製することができる。
Ni塩水溶液の溶質であるNi塩としては、例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのNi塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。Co塩水溶液の溶質であるCo塩としては、例えば、硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルトなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのCo塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。Mn塩水溶液の溶質であるMn塩としては、例えば、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのMn塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
錯化剤には、水中でNi、CoおよびMnの各イオンと錯体を形成するものが用いられる。錯化剤としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどのアンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、グリシンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
Ni塩水溶液、Co塩水溶液、Mn塩水溶液および錯化剤の反応は、例えば、10~80℃の反応温度、好ましくは20~60℃の反応温度で行なうことができる。
Ni塩水溶液、Co塩水溶液、Mn塩水溶液および必要により錯化剤を共存させた後に、沈殿を促進させる観点から、反応溶液に、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液、アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を添加する。
以上のようにしてNi塩水溶液、Co塩水溶液、Mn塩水溶液および必要により錯化剤を共存させ、アルカリ水溶液を添加して生成した沈殿物を水洗した後、乾燥させることにより、Ni、CoおよびMnを含む水酸化物粒子を単離することができる。単離されたNi、CoおよびMnを含む水酸化物粒子は、例えば、粉砕や篩などの分級もしくは両者を併用することによって所定の粒子径を有するNi、CoおよびMnを含む水酸化物粒子を得ることができる。
遷移金属水酸化物粒子の粒子径は、特に限定されないが、通常、100nm~100μm程度であることが好ましい。
なお、本発明において、各粒子の粒子径は、以下の方法に基づいて測定したときの値である。
[粒子の粒子径の測定方法]
溶媒として水を用い、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製、品番:MT3300EXII〕を用いて粒子の粒度分布を測定し、当該粒度分布におけるD50(メジアン径)を当該粒子の粒子径とする。
〔フッ素含有遷移金属水酸化物粒子〕
フッ素含有遷移金属水酸化物粒子は、フッ素含有遷移金属水酸化物からなる粒子であり、複数の結晶子を有し、当該結晶子間の境界にフッ素が存在していることを特徴とする。
本発明においては、結晶子間の境界にフッ素が存在しているフッ素含有遷移金属水酸化物粒子が用いられている点に1つの大きな特徴がある。結晶子間の境界にフッ素が存在しているフッ素含有遷移金属水酸化物粒子を用いて非水電解質二次電池用活物質を調製した場合、当該非水電解質二次電池用活物質は、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れる。
結晶子の境界にフッ素が存在するフッ素含有遷移金属水酸化物粒子は、例えば、遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施すことにより、調製することができる。
遷移金属水酸化物粒子のフッ素処理は、乾式法または湿式法によって行なうことができる。
乾式法では、気体のフッ素化剤を用いて気相で遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施す。湿式法では、液体のフッ素化剤またはフッ素化剤溶液を用いて液相で遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施す。これらの方法のなかでは、操作が簡便であることから、乾式法が好ましい。
フッ素化剤としては、例えば、フッ素(F2)、三フッ化窒素、三フッ化塩素、三フッ化臭素、五フッ化臭素、七フッ化臭素、二フッ化カルボニルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのフッ素化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。フッ素化剤のなかでは、取り扱いやすさの観点から、フッ素、三フッ化窒素、三フッ化塩素、三フッ化臭素、五フッ化臭素および七フッ化臭素が好ましく、フッ素、三フッ化窒素および三フッ化塩素がより好ましい。また、必要に応じてフッ素化剤を窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、キセノンガスなどの不活性ガス、四フッ化炭素などのパーフルオロ炭素化合物ガスなどの希釈ガスで希釈してもよい。乾式法によって遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施す場合、フッ素化剤として、例えば、フッ素ガス、三フッ化窒素ガス、三フッ化塩素ガスなどのフッ素化剤ガスを用いることが好ましい。
以下においては、乾式法によって遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施す場合について説明する。
乾式法によって遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施す場合、遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させることにより、遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施すことができる。遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる方法としては、例えば、フッ素化剤ガスの閉鎖雰囲気中に遷移金属水酸化物粒子を存在させることにより、遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる方法(以下、バッチ法という)、遷移金属水酸化物粒子にフッ素化剤ガスを供給することにより、遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる方法(フロー法)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの方法のなかでは、安全性などの観点から、バッチ法が好ましい。
バッチ法によって遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施す場合、例えば、圧力が0.1~10kPaであり、温度が0~60℃であるフッ素化剤ガスの雰囲気中で遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させることにより、遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施すことができる。
遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる際のフッ素化剤ガスの圧力は、遷移金属水酸化物粒子のフッ素処理の効率を高める観点から、好ましくは0.1kPa以上、より好ましくは0.3kPa以上、さらに好ましくは0.5kPa以上、さらに一層好ましくは1kPa以上であり、安全性を高めるとともに過剰なフッ素処理を抑制する観点から、好ましくは10kPa以下、より好ましくは5kPa以下、さらに好ましくは3kPa以下である。
遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる際のフッ素化剤ガスの温度は、遷移金属水酸化物粒子のフッ素処理の効率を高める観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、安全性を高める観点および過剰なフッ素処理を抑制する観点から、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。したがって、本発明においては、遷移金属水酸化物粒子のフッ素処理は、室温で行なうことができることから、加熱または冷却のための熱エネルギーを必要としないので、効率よく遷移金属水酸化物粒子のフッ素処理を行なうことができる。
なお、本発明においては、フッ素化剤としてフッ素ガスを用い、当該フッ素ガスの雰囲気中で遷移金属水酸化物粒子をフッ素ガスと接触させることが、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子を効率よく製造する観点から好ましい。
遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる時間は、遷移金属水酸化物粒子と接触させるフッ素化剤ガスの温度およびその圧力などによって異なるので一概には決定することができない。遷移金属水酸化物粒子をフッ素化剤ガスと接触させる時間は、通常、遷移金属水酸化物粒子にフッ素を十分に付着させるのに要する時間、例えば、0.1~2時間程度である。
遷移金属水酸化物粒子のフッ素処理の終点は、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子におけるフッ素の含有率が所定値となるまで行なうことが好ましい。フッ素含有遷移金属水酸化物粒子におけるフッ素の含有率は、フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物との混合物を焼成する際に焼成温度が低くてもリチウムイオンを円滑に移動させることができ、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、前記と同様にフッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物との混合物を焼成する際に焼成温度が低くてもリチウムイオンを円滑に移動させることができ、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
なお、本発明において、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子におけるフッ素の含有率は、エネルギー分散型特性X線分光分析によって、測定したときの値である。
以上のようにして遷移金属水酸化物粒子にフッ素処理を施すことにより、遷移金属水酸化物粒子を構成している結晶子間の境界にフッ素が入るので、複数の結晶子を有し、当該結晶子間の境界にフッ素が存在するフッ素含有遷移金属水酸化物粒子を得ることができる。
なお、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子の結晶子間の境界にフッ素が存在することは、X線回折によってフッ素含有遷移金属水酸化物粒子の結晶の変化が認められないことと、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子をエッチングしながらX線光電子分光分析法によってフッ素のピークを検出することによって確認することができる。フッ素含有遷移金属水酸化物粒子を走査型電子顕微鏡で観察したとき、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子の結晶子およびその境界を観察することができる。フッ素は、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子の結晶子およびその境界のうちフッ素含有遷移金属水酸化物粒子の結晶子間の境界に入ることから、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子をエッチングしながらX線光電子分光分析法によってフッ素のピークが検出されるかどうかを調べることにより、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子の結晶子間の境界のどの程度の深さにまでフッ素が存在しているかどうかを確認することができる。
〔フッ素含有遷移金属酸化物粒子〕
フッ素含有遷移金属酸化物粒子は、フッ素含有遷移金属酸化物からなる粒子であり、複数の結晶子を有し、当該結晶子間の境界にフッ素が存在している。
フッ素含有遷移金属酸化物粒子は、複数の結晶子を有し、当該結晶子間の境界にフッ素が存在するフッ素含有遷移金属水酸化物粒子を焼成することによって調製することができる。
前記フッ素含有遷移金属水酸化物粒子を焼成する際の焼成温度は、フッ素含有遷移金属酸化物粒子を効率よく調製する観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは600℃以上、さらに一層好ましくは650℃以上であり、フッ素含有遷移金属酸化物粒子の粗大化を抑制し、高い結晶性を有し、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、好ましくは950℃以下、より好ましくは900℃以下、さらに好ましくは850℃以下である。
前記フッ素含有遷移金属水酸化物粒子を焼成する際の雰囲気は、通常、大気であるが、例えば、純酸素ガス、脱水した乾燥空気、脱二酸化炭素処理が施された乾燥空気などであってもよい。
前記フッ素含有遷移金属水酸化物粒子の焼成時間は、焼成温度などによって異なるので一概には決定することができない。前記フッ素含有遷移金属水酸化物粒子の焼成は、フッ素含有遷移金属酸化物粒子の粗大化を抑制し、高い結晶性を有し、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、結晶子の境界にフッ素が存在するフッ素含有遷移金属水酸化物粒子が消滅するまで行なうことが好ましい。前記フッ素含有遷移金属水酸化物粒子の焼成時間は、通常、3~10時間程度である。
以上のようにして前記フッ素含有遷移金属水酸化物粒子を焼成することにより、複数の結晶子を有し、当該結晶子間の境界にフッ素が存在しているフッ素含有遷移金属酸化物粒子を得ることができる。
なお、フッ素含有遷移金属酸化物粒子の結晶子間の境界にフッ素が存在することは、X線回折によってフッ素含有遷移金属酸化物粒子の結晶の変化が認められないことと、フッ素含有遷移金属酸化物粒子をエッチングしながらX線光電子分光分析法によってフッ素のピークを検出することによって確認することができる。フッ素含有遷移金属酸化物粒子を走査型電子顕微鏡で観察したとき、フッ素含有遷移金属酸化物粒子の結晶子およびその境界を観察することができる。フッ素は、フッ素含有遷移金属酸化物粒子の結晶子およびその境界のうちフッ素含有遷移金属酸化物粒子の結晶子間の境界に入ることから、フッ素含有遷移金属酸化物粒子をエッチングしながらX線光電子分光分析法によってフッ素のピークが検出されるかどうかを調べることにより、フッ素含有遷移金属酸化物粒子の結晶子間の境界のどの程度の深さにまでフッ素が存在しているかどうかを確認することができる。
〔フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子〕
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物からなる粒子であり、電子線難透過性領域および当該電子線難透過性領域に対して相対的に電子線を透過しやすい電子線易透過性領域が海-島の状態で当該粒子の切断面において形成されており、前記海状態が電子線難透過性領域であり、前記島状態が電子線易透過性領域であることを特徴とする。前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、前記構成を有することから、当該フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を用いることにより、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得ることができる。
前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、例えば、複数の結晶子を有し、当該結晶子間の境界にフッ素が存在しているフッ素含有遷移金属酸化物粒子を用い、当該フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物とを混合し、得られた混合物を焼成することによって調製することができる。
リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどのリチウム塩、酸化リチウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのリチウム化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。リチウム化合物は、通常、粒子状で用いることができる。リチウム化合物粒子の粒子径は、特に限定されないが、通常、100nm~100μm程度であることが好ましい。
前記フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物とを混合する際、両者の比率は、所望の非水電解質二次電池用活物質の組成に応じて適宜決定することが好ましい。前記フッ素含有遷移金属酸化物粒子に含まれている遷移金属の合計量1モルあたりのリチウム化合物の量は、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、好ましくは0.5~1.5モル、より好ましくは0.8~1.2モル、さらに好ましくは0.9~1.1モルである。
フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物とを混合する際、均質な組成を有する非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、両者が均一に分散するように混合することが好ましい。
フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物とを混合した後、得られた混合物を焼成する。前記混合物の焼成する際の雰囲気は、通常、大気であるが、例えば、酸素ガス、脱水した乾燥空気、脱二酸化炭素処理を施した乾燥空気、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスなどであってもよい。
本発明において、前記フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物とを混合したとき、当該フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物との間に当該フッ素含有遷移金属酸化物粒子の表面に存在するフッ素を介在させることができる。したがって、前記フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物粒子との混合物を焼成する際の焼成温度が低くてもリチウムイオンを円滑に移動させることができる。
前記混合物の焼成温度は、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子においてリチウムイオンを円滑に移動させ、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用正極活物質粒子を得る観点から、好ましくは600℃以上、より好ましくは650℃以上であり、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の粗大化を抑制し、高い結晶性を有し、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用正極活物質粒子を得る観点から、好ましくは1000℃以下、より好ましくは950℃以下、さらに好ましくは850℃以下、さらに一層好ましくは750℃以下である。
前記混合物の焼成時間は、前記混合物の焼成温度などによって異なるので一概には決定することができない。前記混合物の焼成の終点は、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の粗大化を抑制し、高い結晶性を有し、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子が十分に形成されるまで行なうことが好ましい。前記混合物の焼成時間は、通常、10~40時間程度であることが好ましく、15~35時間程度であることがより好ましい。
前記フッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物粒子との混合物を焼成したとき、当該混合物に含まれているフッ素含有遷移金属酸化物粒子とリチウム化合物粒子とが反応することにより、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子が形成される。
以上のようにして前記混合物を焼成することにより、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を得ることができる。前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、複数の結晶子を有し、当該結晶子間の境界にフッ素が存在していることから、前記フッ素含有遷移金属酸化物粒子に含まれるリチウムイオンが当該フッ素を介して円滑に移動するので、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れている。したがって、前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、非水電解質二次電池用活物質に好適に使用することができる。
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子が生成されていることは、オージェ電子分光分析法により、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子からリチウムが検出されることによって確認することができる。また、前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子における遷移元素の原子比は、例えば、ICP発光分光分析法などの金属元素分析方法によって求めることができる。
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の粒子径は、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を得る観点から、100nm~100μmであることが好ましい。
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子には、電子線難透過性領域および当該電子線難透過性領域に対して相対的に電子線を透過しやすい電子線易透過性領域が海-島の状態で当該粒子の切断面において形成されており、前記海状態が電子線難透過性領域であり、前記島状態が電子線易透過性領域であることから、当該フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を用いることにより、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得ることができる。
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面において、電子線難透過性領域および当該電子線難透過性領域に対して相対的に電子線を透過しやすい電子線易透過性領域が海-島の状態で当該粒子の切断面において形成されていることは、以下の方法によって確認することができる。
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面に加速電圧1kVの電子線を照射しているときに当該フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、暗部領域と当該暗部領域に隣接する明部領域とが観察される。しかし、観察された暗部領域および明部領域だけでは、前記暗部領域および前記明部領域を具体的に定量的に特定することができない。
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、前記暗部領域におけるアースに流れる電流値(透過電流値)および前記明部領域におけるアースに流れる電流値(透過電流値)が相違しており、前記暗部領域に流れる透過電流値が前記明部領域に流れる透過電流値よりも大きいことが判明した。その例を示すと、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面に加速電圧1kVの電子線を照射しているとき、照射開始後60秒時点での暗部領域に流れる透過電流値が130pAであり、当該暗部領域に隣接する明部領域に流れる透過電流値が120pAであること、暗部領域に流れる透過電流値が80pAであり、当該暗部領域に隣接する明部領域に流れる透過電流値が70pAであること、暗部領域に流れる透過電流値が126pAであり、当該暗部領域に隣接する明部領域に流れる透過電流値が116pAであること、および暗部領域に流れる透過電流値が130pAであり、当該暗部領域に隣接する明部領域に流れる透過電流値が127pAであることが確認されている。また、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面において、前記暗部領域が島状に存在し、前記明部領域が海状に存在している。これらのことから、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面には、電子線難透過性領域および当該電子線難透過性領域に対して相対的に電子線を透過しやすい電子線易透過性領域が海-島の状態で当該粒子の切断面において形成されており、前記海状態が電子線難透過性領域であり、前記島状態が電子線易透過性領域である。
したがって、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面に電子線難透過性領域および当該電子線難透過性領域に対して相対的に電子線を透過しやすい電子線易透過性領域が海-島の状態で形成されており、前記海状態が電子線難透過性領域であり、前記島状態が電子線易透過性領域であるとき、当該フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れているものと認められる。
電子線易透過性領域と当該電子線易透過性領域に隣接する電子線難透過性領域との電子線の透過電流値の差は、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を得る観点から、3~15pAであることが好ましい。前記電子線易透過性領域における透過電流値および前記電子線難透過性領域における透過電流値は、電界放射型走査型電子顕微鏡〔ZEISS社製、商品名:Ultra plus〕を用い、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面に加速電圧1kVの電子線を照射することによって測定したときの値である。
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面に占める電子線易透過性領域の面積の比率は、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を得る観点から、15~80%であることが好ましい。フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面に占める電子線易透過性領域の面積の比率は、電界放射型走査型電子顕微鏡〔ZEISS社製、商品名:Ultra plus〕を用いて加速電圧1kVで測定した反射電子像を、閾値を50%として暗部と明部の面積をピクセル数に
よって求め、暗部と明部の面積の合計を分母として、暗部の面積を分子として、10個の粒子について算出したときの平均値である。
また、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の電子線易透過性領域の平均直径は、サイクル特性に優れたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を得る観点から、30~1000nmであることが好ましい。
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の電子線易透過性領域の平均直径は、電界放射型走査型電子顕微鏡〔ZEISS社製、商品名:Ultra plus〕を用い、加速電圧1kVで測定した二次電子像から、島状態の電子線易透過性領域10カ所を任意に選択し、選択された各領域における短辺と長辺との和を2で除した値の前記10カ所における平均値である。
好適なフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子としては、例えば、リチウム複合遷移金属酸化物が式(I):
LixMyO2 (I)
(式中、MはCo、Ni、Mn、V、Fe、Zr、WおよびTiからなる群より選ばれた少なくとも1種の原子であり、xは0.2≦x≦1.25を満足する数を示し、yは0.3≦y≦1.25を満足する数を示す)
で表わされる組成を有するフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子などが挙げられる。
式(I)において、Mは、Co、Ni、Mn、V、Fe、Zr、WおよびTiからなる群より選ばれた少なくとも1種の原子である。これらの原子は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの原子のなかでは、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用活物質を得る観点から、Co、NiおよびMnが好ましく、NiおよびCoがより好ましく、Niがさらに好ましい。なお、遷移金属水酸化物には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、Mg、Alなどの典型金属が含まれていてもよい。
式(I)において、xは、0.2~1.25の数である。xは、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の結晶構造を安定に維持する観点から、0.2以上の数、好ましくは0.4以上の数であり、単位質量または単位体積あたりのリチウム原子の収蔵量を向上させる観点から、1.25以下の数、好ましくは1.0以下の数である。
式(I)において、yは、0.3~1.25の数である。yは、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の結晶構造を安定に維持する観点から、0.3以上の数であり、単位質量または単位体積あたりのリチウム原子の収蔵量を向上させる観点から、1.25以下の数、好ましくは1.0以下の数である。
式(I)で表されるリチウム複合遷移金属酸化物のなかでは、電気化学的安定性を高める観点から、式(Ia):
LixMyO2 (Ia)
(式中、M、xおよびyは前記と同じ)
で表される組成を有するリチウム複合遷移金属酸化物が好ましく、LiMO2(Mは前記と同じ)、LiM2O4(Mは前記と同じ)、Li2MO3(Mは前記と同じ)およびLi4M5O12(Mは前記と同じ)がより好ましい。
なお、前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子が所望の粒子径を有さない場合には、必要により、当該フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子に粉砕、分級などを施すことが好ましい。
フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の粒子径は、電極作製時の操作性を向上させる観点および電気化学的反応場を増大させ、電極密度を高める観点から、好ましくは100nm~100μm、より好ましくは1~50μm、さらに好ましくは3~30μm、さらに一層好ましくは4~10μmである。
〔非水電解質二次電池用活物質〕
本発明の非水電解質二次電池用活物質は、前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を含有することを特徴とする。本発明の非水電解質二次電池用活物質は、前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子を含有することから、充放電操作の際にリチウムイオンを円滑に移動させることができ、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れている。
活物質には、正極活物質および負極活物質があるが、前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、いずれの活物質にも好適に用いることができる。これらのなかでも、前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、正極活物質に好適に用いることができる。
本発明の非水電解質二次電池用活物質における前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の含有率は、非水電解質二次電池の種類などによって異なるので一概に決定することができないことから、目的とする非水電解質二次電池などに応じて適宜決定することが好ましい。本発明の非水電解質二次電池用活物質は、前記フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子のみで構成されていてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で他の活物質用粒子が含まれていてもよい。
〔非水電解質二次電池用電極〕
本発明の非水電解質二次電池用電極は、前記非水電解質二次電池用活物質粒子を含有することを特徴とする。本発明の非水電解質二次電池用活物質は、前記非水電解質二次電池用活物質粒子を含有することから、充放電操作の際にリチウムイオンを円滑に移動させることができ、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れている。
本発明の非水電解質二次電池用電極は、非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池用負極のいずれにも用いることができる。
前記非水電解質二次電池用活物質粒子を含有する非水電解質二次電池用正極は、前記非水電解質二次電池用活物質粒子を含有するので、充放電操作の際にリチウムイオンを円滑に移動させることができることから、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れている。
非水電解質二次電池用正極は、例えば、前記非水電解質二次電池用正極活物質、導電剤および結着剤を混合し、得られたペーストを集電体に塗布し、乾燥させ、必要によりプレスすることによって得ることができる。
導電剤は、電池内で化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよく、特に限定されない。導電剤としては、例えば、鱗片状黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維などからなる導電性繊維;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属の粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの導電剤は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を混合して用いてもよい。これらの導電剤のなかでは、アセチレンブラックおよびニッケルが好ましい。
非水電解質二次電池用正極活物質100質量部あたりの導電剤の量は、特に限定されないが、通常、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは2~5質量部である。
結着剤の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、スチレン-ブタジエンゴムなどのゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの結着剤は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を混合して用いてもよい。これらの結着剤のなかでは、ポリフッ化ビニリデンおよびポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
非水電解質二次電池用正極活物質100質量部あたりの結着剤の量は、特に限定されないが、通常、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
前記非水電解質二次電池用正極活物質、導電剤および結着剤を混合することによって得られたペーストは、集電体に塗布される。
集電体は、電池内で化学変化を起こしがたい電子伝導体であれば特に制限されない。集電体を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、炭素などをはじめ、アルミニウムまたはステンレス鋼からなるプレートの表面に炭素、ニッケル、チタンまたは銀を付着させた複合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。集電体を構成する材料のなかでは、アルミニウムおよびアルミニウム合金が好ましい。
なお、必要により、集電体の表面を酸化させておいてもよく、表面処理によって集電体の表面に凹凸を形成させておいてもよい。
集電体の形状は、一般に電池に使用されているものであればよい。集電体の形状の具体例として、箔、フィルム、シート、ネット、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維、織布、不織布などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常、1~50μm程度であることが好ましい。
次に、ペーストが塗布された集電体を常法で乾燥させ、必要によりプレスすることにより、非水電解質二次電池用正極が得られる。
前記ペーストを塗布し、乾燥させ、必要によりプレスした集電体上の塗工層の密度である電極密度は、特に限定されないが、通常、1~4g/mL程度であることが好ましい。
前記非水電解質二次電池用活物質粒子を含有する非水電解質二次電池用負極は、前記非水電解質二次電池用活物質粒子を含有するので、充放電操作の際にリチウムイオンを円滑に移動させることができることから、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れている。
非水電解質二次電池用負極は、例えば、前記非水電解質二次電池用負極活物質、導電剤および結着剤を混合し、得られたペーストを集電体に塗布し、乾燥させ、必要によりプレスすことによって得ることができる。
導電剤は、電池内で化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよく、特に限定されない。導電剤としては、例えば、鱗片状黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維などの導電性繊維;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属の粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの導電剤は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を混合して用いてもよい。これらの導電剤のなかでは、アセチレンブラックおよびニッケルが好ましい。
非水電解質二次電池用負極活物質100質量部あたりの導電剤の量は、特に限定されないが、通常、好ましくは0~30質量部、より好ましくは1~20質量部、さらに好ましくは2~10質量部である。
結着剤の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、スチレン-ブタジエンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの結着剤は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を混合して用いてもよい。これらの結着剤のなかでは、ポリフッ化ビニリデンおよびポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
非水電解質二次電池用負極活物質100質量部あたりの結着剤の量は、特に限定されないが、通常、好ましくは0.5~30質量部、より好ましくは1~5質量部である。
前記非水電解質二次電池用負極活物質、導電剤および結着剤を混合することによって得られたペーストは、集電体に塗布される。
集電体は、電池内で化学変化を起こしがたい電子伝導体であれば特に制限されない。集電体を構成する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、炭素などをはじめ、アルミニウムまたはステンレス鋼からなるプレートの表面に炭素、ニッケル、チタンまたは銀を付着させた複合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの集電体を構成する材料のなかでは、銅、アルミニウムおよびアルミニウム合金が好ましい。
なお、必要により、集電体の表面を酸化させておいてもよく、表面処理によって集電体の表面に凹凸を形成させておいてもよい。
集電体の形状は、一般に電池に使用されているものであればよい。集電体の形状の具体例としては、例えば、箔、フィルム、シート、ネット、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維、織布、不織布などが挙げられる。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常、1~50μm程度であることが好ましい。
次に、ペーストが塗布された集電体を常法で乾燥させ、必要によりプレスすることにより、非水電解質二次電池用負極が得られる。
前記ペーストを塗布し、乾燥させ、必要によりプレスした集電体上の塗工層の密度である電極密度は、特に限定されないが、通常、1~4g/mL程度であることが好ましい。
〔非水電解質二次電池〕
本発明の非水電解質二次電池は、前記非水電解質二次電池用電極を有することを特徴とする。本発明の非水電解質二次電池には、正極、負極、セパレータおよび電解質が用いられる。前記正極および/または負極に、前記非水電解質二次電池用正極および/または前記非水電解質二次電池用負極を用いることができる。したがって、本発明の非水電解質二次電池は、非水電解質二次電池用正極および前記非水電解質二次電池用負極のうち少なくとも一方の電極を有する。本発明の非水電解質二次電池の正極が前記非水電解質二次電池用正極であり、負極が前記非水電解質二次電池用負極であることが、非水電解質二次電池の信頼性および安全性を向上させる観点から好ましい。
本発明の非水電解質二次電池において、負極に前記非水電解質二次電池用負極が用いられている場合、正極は、前記非水電解質二次電池用正極であってもよく、他の正極であってもよい。他の正極としては、例えば、リン酸鉄リチウム、フッ化リン酸鉄リチウム、ケイ酸鉄リチウム、ホウ酸鉄リチウムなどの化合物が活物質として使用されている正極などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
本発明の非水電解質二次電池において、正極に前記非水電解質二次電池用正極が用いられている場合、負極は、前記非水電解質二次電池用負極であってもよく、他の負極であってもよい。他の負極に用いられる負極材料としては、例えば、リチウム、リチウム合金、金属間化合物、炭素材料などのリチウムイオンを吸蔵または放出し得る化合物であればよい。これらの負極材料は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に組み合わせて用いてもよい。
リチウム合金としては、例えば、Li-Al系合金、Li-Al-Mn系合金、Li-Al-Mg系合金、Li-Al-Sn系合金、Li-Al-In系合金、Li-Al-Cd系合金、Li-Al-Te系合金、Li-Ga系合金、Li-Cd系合金、Li-In系合金、Li-Pb系合金、Li-Bi系合金、Li-Mg系合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのリチウム合金は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を組み合わせて用いてもよい。リチウム合金におけるリチウムの含有率は、10質量%以上であることが好ましい。
金属間化合物としては、例えば、遷移金属とケイ素との化合物、遷移金属とスズとの化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属間化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
炭素材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長炭素系炭素繊維などの炭素繊維、コークス、熱分解炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛化メソフェーズ小球体、気相成長炭素、ガラス状炭素、ポリ不定形炭素などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの炭素材料は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
セパレータは、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス繊維などからなるシート、不織布などのイオン透過度および機械的強度が高く、絶縁性、耐有機溶媒性および疎水性を有する微多孔性薄膜であることが好ましい。セパレータの孔径は、0.1~1μm程度であることが好ましい。セパレータの厚さは、5~100μm程度であることが好ましい。また、セパレータの空孔率は、イオンの透過性などに応じて適宜決定されるが、一般的には30~80%程度であることが好ましい。
電解液は、電解質を有機溶媒に溶解させることによって得られる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの非環状カーボネート;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル;γ-ブチロラクトンなどのγ-ラクトン;1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタンなどの非環状エーテル;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、ジオキソラン誘導体、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、1,3-プロパンサルトン、アニソール、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
電解質は、非水電解質であることが好ましい。非水電解質としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiN(CF3SO2)(C2F5SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの電解質は、それぞれ単独で用いてもよく、本発明の目的が損なわれない範囲内で任意に2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶媒1リットルあたりの電解質の量は、特に限定されないが、好ましくは0.2~2mol、より好ましくは0.5~1.5molである。
なお、電解液には、電池特性を高める観点から、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、プロパンスルトン、2-メチルフラン、チオフェン、ピロール、アニリン、クラウンエーテル、ピリジン、トリエチルフォスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体などを溶解させてもよい。
また、電解液に不燃性を付与してもよい。不燃性は、例えば、四塩化炭素、三フッ化塩化エチレンなどの含ハロゲン有機溶媒を電解液に含有させることによって付与することができる。さらに、高温における電解液の保存安定性を向上させる観点から、電解液に炭酸ガスを吹き込んでもよい。
電解液は、通常、多孔質ポリマー、ガラスフィルタ、不織布などのセパレータに含浸させることによって用いることができる。
電池の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられるが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。電池の形状がコイン型またはボタン型である場合、正極材料および負極材料をペレットに成形することによって用いることができる。ペレットの厚さおよび直径は、電池の用途などに応じて適宜決定すればよい。また、本発明の非水電解質二次電池は、金属を蒸着した多層ラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池(ラミネートセルまたはポーチセル)とすることもできる。
以上のようにして構成される本発明の非水電解質二次電池は、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子が用いられているので、電池としての信頼性に優れている。
本発明の非水電解質二次電池は、充放電容量が大きく、サイクル特性に優れているので、例えば、携帯電話、ノート型パソコンなどのポータブル電子機器、電源システム、電気自動車、電動自転車、搬送車などの車両、各種機器の電源などの幅広い用途に使用することができる。
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
(1)フッ素含有水酸化ニッケル粒子の調製
水酸化ニッケル粒子(粒子径:約6μm)1gをニッケル製反応容器に入れ、できるだけ水酸化ニッケル粒子同士の重なりが小さくなるようにして広げた後、この反応容器を150mL容のステンレス鋼(SUS316L)製反応容器内に設置し、フッ素ガス導入ラインに接続した。反応容器とフッ素ガス導入ラインとの接続部の機密性を確認した後、圧力が1Pa以下となるように反応容器の内部を減圧した。
次に、反応容器内の温度を25℃に調整し、絶対圧で6.67kPaとなるまでフッ素ガスを反応容器内に導入し、1時間保持した。その後、フッ素ガスを活性アルミナで吸着し、アルゴンガスを大気圧となるまで反応容器内に導入した。反応容器をフッ素ガス導入ラインから切り離し、アルゴンガス雰囲気中で反応容器を開け、フッ素含有遷移金属水酸化物粒子としてフッ素含有水酸化ニッケル粒子を取り出した。得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子におけるフッ素の含有率は、2.3質量%であった。
なお、各実施例および各比較例において、フッ素含有水酸化ニッケル粒子におけるフッ素の含有率は、電界放射型走査型電子顕微鏡〔ZEISS社製、商品名:Ultra plus〕に連携した、エネルギー分散型特性X線分光分析装置〔Bruker AXS社製、商品名:QUANTAX Esprit1.9〕を用いて、加速電圧5kVの電子線照射下で測定した特性X線の発生強度から、解析ソフト〔Bruker Nano GmbH〕を用いて求めた。
(2)フッ素含有酸化ニッケル粒子の調製
前記で得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子をプレスすることにより、ペレット(直径:20mm、高さ:5mm)を作製し、得られたペレットを電気炉に入れ、昇温速度5℃/minにて750℃まで昇温し、同温度を6時間保持することにより、フッ素含有遷移金属酸化物粒子としてフッ素含有酸化ニッケル粒子を得た。
(3)フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の調製
前記で得られたフッ素含有酸化ニッケル粒子と炭酸リチウム粒子(粒子径:約4μm)とをLi/Ni(モル比)が1.05/1.00となるように25℃の空気中で1時間混合することにより、均一な組成を有する混合物を得た。得られた混合物をプレスすることにより、ペレット(直径:20mm、高さ:5mm)を作製し、得られたペレットを電気炉に入れ、昇温速度2℃/minにて700℃まで昇温し、同温度を20時間保持することにより、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子としてフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子を得た。
(4)電極の作製
前記で得られたフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子を非水電解質二次電池用活物質として用いた。
フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子と導電材(アセチレンブラック)と結着剤(ポリフッ化ビニリデン)とを8:1:1の質量比で混合した後、得られた混合物1gに溶媒(N-メチル-2-ピロリドン)0.5mLを添加し、ボールミルで攪拌し、得られた正極材をアルミニウムシートに0.35mmの間隔を有するドクターブレードで塗布した。
前記アルミニウムシートを乾燥機内に入れ、120℃の温度で1時間乾燥させた後、乾燥機から取り出した。当該アルミニウムシートから直径16mmの円形のサンプルを切り取り、当該サンプルに圧力2MPaで10分間プレスした後、当該サンプルを12時間減圧乾燥させることにより、電極を得た。
(5)非水電解質二次電池の作製
前記で得られた電極を正極板として用いた。アルゴンガス雰囲気中で正極板と対極板(リチウム金属)との間にポリエチレン製の多孔膜セパレータ(厚さ:25μm、空孔率:45%)を介在させて正極板の電極層と対極板とを対向させて重ね合わせ、得られた積層体をトムセル〔有限会社日本トムセル製、商品名:TOMCELL(登録商標)〕内に入れた。
次に、アルゴンガス雰囲気中で、プロピレンカーボネート50容量部およびジメチルエーテル50容量部の割合で混合した溶液にLiPF6を溶解させ、当該LiPF6の濃度が1mol/Lである非水電解液を調製し、この非水電解液を前記トムセル内に入れ、トムセルを封止することにより、非水電解質二次電池を作製した。
非水電解質二次電池に終止電圧が4.3Vとなるまで0.1Cの定電流で充電し、次いで終止電圧が3.0Vとなるまで0.1Cで非水電解質二次電池の放電を行なった。なお、充放電サイクルに伴う放電容量変化が十分に小さくなった3サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。
参考のため、フッ素含有酸化ニッケル粒子の代わりに酸化ニッケル粒子を用いたこと以外は、前記「(3)フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の調製」に記載の操作と同様の操作を行なうことにより、リチウム複合酸化ニッケル粒子を得た。
(6)物性の評価
原料として用いられた水酸化ニッケル粒子、実施例1で得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子、実施例1で得られたフッ素含有酸化ニッケル粒子、酸化ニッケル粒子、実施例1で得られたフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子およびリチウム複合酸化ニッケル粒子の各物性を以下の方法に基づいて調べた。
〔粉末X線回折(XRD)〕
粉末X線回折を調べる際の測定条件は、以下のとおりである。
[使用装置]
・粉末X線回折装置〔(株)島津製作所製、品番:XRD-6100〕
[測定条件]
・ターゲット:Cu
・電圧:30kV
・電流:20mA
・スケールファクター:1~4kcps
・タイムコンスタント:0.4sec
・スキャンスピード:2°/min
・2θ:10~80°
〔走査型電子顕微鏡(SEM)による観察〕
[使用装置]
・走査型電子顕微鏡〔(株)日立製作所製、品番:S-3400NまたはZEISS社製、商品名:Ultra plus〕
[測定条件]
・倍率:1900倍、2300倍、4700倍または8000倍
・加速電圧:15.0kV(前記S-3400Nを使用したとき)、3.00kV(前記Ultra plusを使用したとき)
〔X線光電子分光分析(XPS)〕
X線光電子分析の測定条件は、以下のとおりである。
[使用装置]
・光電子分析装置〔日本電子(株)製、品番:JSP-9010MC〕
[測定条件]
・分析対象元素:4Be~92U
・X線源:Mg
・電源出力:600W(12kV、50mA)
・エネルギーアナライザー:中心起動半径:100mm、静電半球形
結合エネルギー範囲:0~1458eV
到達真空度測定:10-8Paオーダー
〔オージェ電子分光分析(AES)〕
[使用装置]
・フィールドエミッションオージェマイクロプローブ〔日本電子(株)製、品番:JAMP-9500F〕
[測定条件]
・電子線出力:10kV、10nA
・分析対象元素:3Li~92U
分解能:M4
・収集時間(Dwell time):50~150ms
・積算回数:3~25回
・測定範囲:0~2500eV
(7)物性の評価結果
〔水酸化ニッケルとフッ素含有水酸化ニッケルとの対比〕
A.粉末X線回折
水酸化ニッケルおよびフッ素含有水酸化ニッケルの粉末X線回折の測定結果を図1に示す。図1において、Aはフッ素含有水酸化ニッケルの粉末X線回折の測定結果、Bは水酸化ニッケルの粉末X線回折の測定結果を示す。
図1に示された結果から、水酸化ニッケルおよびフッ素含有水酸化ニッケルには、ピークの移動、新たなピークの出現および消失が見受けられないことから、両者の結晶構造および格子定数に大きな変化がないものと考えられる。
B.走査型電子顕微鏡(SEM)による観察
水酸化ニッケルおよびフッ素含有水酸化ニッケルの走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。
図2において、(a)は水酸化ニッケルの走査型電子顕微鏡写真、(b)はフッ素含有水酸化ニッケルの走査型電子顕微鏡写真である。図2に示された結果から、水酸化ニッケルおよびフッ素含有水酸化ニッケルには、表面の形状および形態に変化が見受けられないことがわかる。
C.X線光電子分光分析(XPS)
水酸化ニッケルおよびフッ素含有水酸化ニッケルのX線光電子分光分析の測定結果を図3に示す。図3において、Aはフッ素含有水酸化ニッケルのX線光電子分光分析の測定結果、Bは水酸化ニッケルのX線光電子分光分析の測定結果を示す。
図3に示された結果から、水酸化ニッケルにはフッ素に基づくピークが存在していないのに対し、フッ素含有水酸化ニッケルにはフッ素に基づくピークが存在していることから、フッ素含有水酸化ニッケルにフッ素が結合しているものと考えられる。
D.オージェ電子分光分析(AES)
フッ素含有水酸化ニッケル粒子のオージェ電子分光分析の測定結果を図4に示す。なお、図4において、距離は、フッ素含有水酸化ニッケル粒子の表面からの距離を示す。また、図4において、Niはニッケルの測定結果、Oは酸素の測定結果、Fはフッ素の測定結果を示す。
図4に示された結果から、フッ素含有水酸化ニッケルの粒子の内部にまでフッ素が存在していることがわかる。また、フッ素は、フッ素含有水酸化ニッケル粒子の内部において、粒界が存在しない箇所に浸透しないことから、フッ素含有水酸化ニッケル粒子を構成している結晶子間の境界にフッ素が存在していることがわかる。
〔フッ素含有酸化ニッケル粒子と酸化ニッケル粒子との対比〕
A.粉末X線回折
フッ素含有酸化ニッケル粒子および酸化ニッケル粒子の粉末X線回折の測定結果を図5に示す。図5において、Aはフッ素含有酸化ニッケル粒子の粉末X線回折の測定結果、Bは酸化ニッケル粒子の粉末X線回折の測定結果を示す。
図5に示された結果から、フッ素含有酸化ニッケル粒子および酸化ニッケル粒子には、ピークの移動、新たなピークの出現および消失が見受けられないことから、両者の結晶構造および格子定数に大きな変化がないものと考えられる。
B.走査型電子顕微鏡(SEM)による観察
フッ素含有酸化ニッケル粒子および酸化ニッケル粒子の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。
図6において、(a)は酸化ニッケル粒子の走査型電子顕微鏡写真、(b)はフッ素含有酸化ニッケル粒子の走査型電子顕微鏡写真である。図6に示された結果から、フッ素含有酸化ニッケル粒子および酸化ニッケル粒子には、表面の形状および形態に変化が見受けられないことがわかる。
C.X線光電子分光分析(XPS)
フッ素含有酸化ニッケル粒子および酸化ニッケル粒子のX線光電子分析の測定結果を図7に示す。図7において、Aはフッ素含有酸化ニッケル粒子のX線光電子分光分析の測定結果、Bは酸化ニッケル粒子のX線光電子分光分析の測定結果を示す。
図7に示された結果から、酸化ニッケル粒子にはフッ素に基づくピークが存在していないのに対し、フッ素含有酸化ニッケル粒子にはフッ素に基づくピークが存在していることから、フッ素含有酸化ニッケル粒子にフッ素が結合しているものと考えられる。
D.オージェ電子分光分析(AES)
フッ素含有酸化ニッケル粒子のオージェ電子分光分析の測定結果を図8に示す。なお、図8において、距離は、フッ素含有酸化ニッケル粒子の表面からの距離を示す。また、図8において、Niはニッケルの測定結果、Oは酸素の測定結果、Cは炭素の測定結果、Fはフッ素の測定結果を示す。
図8に示された結果から、フッ素含有酸化ニッケル粒子の内部にまでフッ素が存在していることがわかる。また、フッ素は、フッ素含有酸化ニッケル粒子の内部において、粒界が存在しない箇所に浸透しないことから、フッ素含有酸化ニッケル粒子を構成している結晶子間の境界にフッ素が存在していることがわかる。
〔フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子とリチウム複合酸化ニッケル粒子との対比〕
A.粉末X線回折
フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子およびリチウム複合酸化ニッケル粒子の粉末X線回折の測定結果を図9に示す。図9において、Aはフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の粉末X線回折の測定結果、Bはリチウム複合酸化ニッケル粒子の粉末X線回折の測定結果を示す。
図9に示された結果から、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子およびリチウム複合酸化ニッケル粒子には、ピークの移動、新たなピークの出現および消失が見受けられないことから、両者の結晶構造および格子定数に大きな変化がないものと考えられる。
B.走査型電子顕微鏡(SEM)による観察
フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子およびリチウム複合酸化ニッケル粒子の走査型電子顕微鏡写真を図10に示す。
図10において、(a)はフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の走査型電子顕微鏡写真、(b)はリチウム複合酸化ニッケル粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図10に示された結果から、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子およびリチウム複合酸化ニッケル粒子のなかでは、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子のほうが、1次粒子径が比較的小さく、エッジ部に丸みを帯びていることがわかる。
C.X線光電子分光分析(XPS)
フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子およびリチウム複合酸化ニッケル粒子のX線光電子分光分析の測定結果を図11に示す。図11において、NTはリチウム複合酸化ニッケル粒子のX線光電子分析の測定結果、0s、5s、10s、15s、20sは、それぞれ順に、アルゴンエッチングが0秒、5秒、10秒、15秒、20秒後のフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子のX線光電子分析の測定結果を示す。
図11に示された結果から、リチウム複合酸化ニッケル粒子にはフッ素に基づくピークが存在していないのに対し、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子にはフッ素に基づくピークが存在していることから、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子にフッ素が結合しているものと考えられる。
また、図11には、アルゴンエッチングによるフッ素に基づくピークの影響を調べた結果が示されており、エッチングしない初期からアルゴンエッチング10秒間にかけてフッ素に基づくピークが認められるが、アルゴンエッチング時間が15秒間以上ではフッ素に基づくピークが認められないことから、フッ素は、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の表面付近に存在していることがわかる。
D.電気特性評価
フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子およびリチウム複合酸化ニッケル粒子を用い、充放電レートを0.1Cに調整して充電-放電曲線を調べた。その結果を図12に示す。なお、図12において、(a)は充電曲線、(b)は放電曲線を示す。
図12に示された結果から、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子(図中の符号A)は、リチウム複合酸化ニッケル粒子(図中の符号B)と対比して充放電容量が大きいことがわかる。
フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子およびリチウム複合酸化ニッケル粒子を用い、充放電レートを1Cに調整して、充電条件:4.3Vカット・放電条件:3.0Vカットにおける放電容量のサイクル数変化(サイクル特性)を調べた。その結果を図13に示す。図13において、Aはフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子のサイクル特性を調べた結果、Bはリチウム複合酸化ニッケル粒子のサイクル特性を調べた結果を示す。
図13に示された結果から、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子は、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子と対比してサイクル特性に優れていることがわかる。このようにフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子がフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子と対比してサイクル特性に優れている理由は、定かではないが、おそらくフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の結晶子間の境界に存在するフッ素により、リチウムイオンの挿入脱離が円滑に進行したこと、およびフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子に存在するフッ素により、電解液と当該フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子との親和性が向上したことに基づくものと考えられる。
実施例2
水酸化ニッケル粒子(粒子径:6μm)0.1gをニッケル製反応容器に入れ、できるだけ粒子同士の重なりが小さくなるようにして広げた後、この反応容器を150mL容のステンレス鋼(SUS316L)製反応容器内に設置し、フッ素ガス導入ラインに接続した。接続部の機密性を確認した後、圧力が1Pa以下となるように減圧した。
次に、反応容器内の温度を25℃に調整し、絶対圧で1.3kPaとなるまでフッ素ガスを反応容器内に導入し、1時間保持した。その後、フッ素ガスを排気し、アルゴンガスを大気圧となるまで反応容器内に導入した。反応容器をフッ素ガス導入ラインから切り離し、アルゴンガス雰囲気中で容器を開け、フッ素含有水酸化ニッケル粒子を取り出した。得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子におけるフッ素の含有率は、1.44質量%であった。
実施例3
水酸化ニッケル粒子(粒子径:6μm)0.1gをニッケル製反応容器に入れ、できるだけ粒子同士の重なりが小さくなるようにして広げた後、この反応容器を150mL容のステンレス鋼(SUS316L)製反応容器中に設置し、フッ素ガス導入ラインに接続した。接続部の機密性を確認した後、圧力が1Pa以下となるように減圧した。
次に、反応容器内の温度を25℃に調整し、絶対圧で4.0kPaとなるまでフッ素ガスを反応容器内に導入し、1時間保持した。その後、フッ素ガスを排気し、アルゴンガスを1気圧となるまで反応容器内に導入した。反応容器をフッ素ガス導入ラインから切り離し、アルゴンガス雰囲気中で容器を開け、フッ素含有水酸化ニッケル粒子を取り出した。得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子におけるフッ素の含有率は、2.89質量%であった。
実施例4
水酸化ニッケル粒子(粒子径:6μm)0.1gをニッケル製反応容器に入れ、できるだけ粒子同士の重なりが小さくなるようにして広げた後、この反応容器を150mL容のステンレス鋼(SUS316L)製反応容器中に設置し、フッ素ガス導入ラインに接続した。接続部の機密性を確認した後、圧力が1Pa以下となるように減圧した。
次に、反応容器内の温度を25℃に調整し、絶対圧で6.7kPaとなるまでフッ素ガスを反応容器内に導入し、1時間保持した。その後、フッ素ガスを排気し、アルゴンガスを1気圧となるまで反応容器内に導入した。反応容器をフッ素ガス導入ラインから切り離し、アルゴンガス雰囲気中で容器を開け、水酸化ニッケル粒子を取り出した。得られた水酸化ニッケル粒子におけるフッ素の含有率は、4.55質量%であった。
実施例5
水酸化ニッケル粒子(粒子径:6μm)0.1gをニッケル製反応容器に入れ、できるだけ粒子同士の重なりが小さくなるようにして広げた後、この反応容器を150mL容のステンレス鋼(SUS316L)製反応容器中に設置し、フッ素ガス導入ラインに接続した。接続部の機密性を確認した後、圧力が1Pa以下となるように減圧した。
次に、反応容器内の温度を25℃に調整し、絶対圧で9.3kPaとなるまでフッ素ガスを反応容器内に導入し、1時間保持した。その後、フッ素ガスを排気し、アルゴンガスを1気圧となるまで反応容器内に導入した。反応容器をフッ素ガス導入ラインから切り離し、アルゴンガス雰囲気中で容器を開け、フッ素含有水酸化ニッケル粒子を取り出した。得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子におけるフッ素の含有率は、5.17質量%であった。
実施例2~5の結果から、水酸化ニッケル粒子にフッ素処理を施すときのフッ素ガスの圧力が高くなるにしたがい、得られるフッ素含有水酸化ニッケル粒子に存在するフッ素の量が増大することがわかる。
〔走査型電子顕微鏡(SEM)による観察〕
実施例2~5で得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子および表面にフッ素を有しない水酸化ニッケル粒子の外観を走査型電子顕微鏡にて観察した。その結果、フッ素含有水酸化ニッケル粒子および表面にフッ素を有しない水酸化ニッケル粒子の外観には、大きな相違が認められなかった。
〔X線光電子分光分析(XPS)〕
実施例4で得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子のX線光電子分光分析(XPS)を実施例1と同様にして行なった。その結果、スペクトルに少なくとも687eV付近および684eV付近にピークが存在していることから、水酸化ニッケル粒子がフッ素と接触することによって当該水酸化ニッケル粒子に導入されたフッ素は、少なくとも2種類の化学状態を有しており、それらのうちの1つは、+2に近い価数を有するニッケルとの相互作用を有し、他の1つは、より大きい価数有するニッケルとの相互作用を有するものであることがわかった。
以上の結果から、ニッケル原子のなかにはフッ素化によって酸化され、+2よりも大きい価数を有する状態になっているものが存在していることがわかる。
実施例6
実施例4で得られたフッ素含有水酸化ニッケル粒子を空気中で750℃の温度で6時間焼成することにより、フッ素含有酸化ニッケル粒子を調製した。
次に、前記で得られたフッ素含有酸化ニッケル粒子と炭酸リチウム粒子(粒子径:4μm)とをLi/Ni(モル比)が1.05/1.00となるように25℃の空気中で1時間混合することにより、均一な組成を有する混合物を得た。
前記で得られた混合物を実施例1と同様にしてペレット化し、70℃の空気中に放置することによって乾燥させた後、空気中で700℃の温度で5時間焼成することにより、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子としてフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子(粒子径:21μm、屈折率:1.7)を得た。
前記で得られたフッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の切断面に加速電圧1kVの電子線を照射し、当該切断面を電界放射型走査型電子顕微鏡〔ZEISS社製、商品名:Ultra plus〕で観察しながら照射開始後60秒時点でアースに流れる電流を測定することにより、暗部領域に流れる透過電流値が130pAであり、当該暗部領域に隣接する明部領域に流れる透過電流値が120pAであり、図14に示されるように、電子線易透過性領域(暗部領域)が島状態で、電子線難透過性領域(明部領域)が海状態で分散した海-島状態を有することを確認した。
なお、図14は、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の切断面に電子線を照射したときの走査型電子顕微鏡写真である。
また、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケルの切断面に占める電子線易透過性領域の面積の比率を電界放射型走査型電子顕微鏡〔ZEISS社製、商品名:Ultra plus〕を用い、加速電圧1kVで測定した反射電子像を、閾値を50%として暗部と明部の面積をピクセル数によって求め、暗部と明部の面積の合計を分母として、暗部の面積を分子として、10個の粒子について算出し、その平均値を求めたところ、38%であった。また、フッ素含有リチウム複合酸化ニッケル粒子の電子線易透過性領域の平均直径を電界放射型走査型電子顕微鏡〔ZEISS社製、商品名:Ultra plus〕を用い、加速電圧1kVで測定した反射電子像の島状態の電子線易透過性領域10カ所を任意に選択し、選択された各領域における短辺と長辺との和を2で除した値の前記10カ所における平均することによって求めたところ、40nmであった。
実施例7
実施例4と同様の方法で得られたフッ素含有水酸化ニッケルコバルトマンガン粒子〔Ni/Co/Mn(モル比):5/2/3、粒子径:6μm〕を750℃の温度で6時間焼成することにより、フッ素含有酸化ニッケルコバルトマンガン粒子を得た。
前記で得られたフッ素含有酸化ニッケルコバルトマンガン粒子と炭酸リチウム粒子(粒子径:4μm)とをLi/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.05/1.00となるように25℃の空気中で1時間混合することにより、均一な組成を有する混合物を得た。
次に、前記で得られた混合物を70℃の空気中に放置することによって乾燥させた後、空気中で900℃の温度で10時間焼成することにより、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子としてフッ素含有リチウム複合酸化ニッケルコバルトマンガン粒子〔Ni/Co/Mn(モル比):5/2/3、粒子径5μm、屈折率:1.7〕を得た。
前記で得られたフッ素含有リチウム複合酸化ニッケルコバルトマンガン粒子の切断面を走査型電子顕微鏡で観察しながら当該切断面に実施例6と同様にして加速電圧1kVの電子線を照射することにより、暗部領域に流れる透過電流値が80pAであり、当該暗部領域に隣接する明部領域に流れる透過電流値が70pAであり、電子線易透過性領域(暗部領域)が島状態で、電子線難透過性領域(明部領域)が海状態で分散した海-島状態を有することを確認した。また、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面に占める電子線易透過性領域の面積の比率を実施例6と同様にして測定したところ、45%であった。また、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の電子線易透過性領域の平均直径を実施例6と同様にして測定したところ、65nmであった。
実施例8
実施例4と同様の方法で得られたフッ素含有水酸化コバルト粒子を750℃の温度で6時間焼成することにより、フッ素含有酸化コバルト粒子を得た。
前記で得られたフッ素含有酸化コバルト粒子と炭酸リチウムとをLi/Co(モル比)が1.05/1.00となるように25℃の空気中で1時間混合することにより、均一な組成を有する混合物を得た。前記で得られた混合物を70℃の空気中に放置することによって乾燥させた後、空気中で900℃の温度で20時間焼成することにより、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子としてフッ素含有リチウム複合酸化コバルト粒子(粒子径:5μm、屈折率:1.7)を得た。
前記で得られたフッ素含有リチウム複合酸化コバルト粒子の切断面を走査型電子顕微鏡で観察しながら当該切断面に実施例6と同様にして加速電圧1kVの電子線を照射することにより、暗部領域に流れる透過電流値が126pAであり、当該暗部領域に隣接する明部領域に流れる透過電流値が116pAであり、電子線易透過性領域(暗部領域)が島状態で、電子線難透過性領域(明部領域)が海状態で分散した海-島状態を有することを確認した。また、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の切断面に占める電子線易透過性領域の面積の比率を実施例6と同様にして測定したところ、75%であった。また、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子の電子線易透過性領域の平均直径を実施例6と同様にして測定したところ、80nmであった。
比較例1
実施例4で用いたフッ素含有水酸化ニッケル粒子の代わりに、実施例4で用いられた水酸化ニッケル粒子と同じ種類のフッ素処理が施されていない水酸化ニッケル粒子を用いたこと以外は、実施例6と同様にしてリチウム複合酸化ニッケル粒子を得た。
前記リチウム複合酸化ニッケル粒子の切断面を走査型電子顕微鏡で観察しながら当該切断面に実施例6と同様にして加速電圧1kVの電子線を照射したが、当該切断面は、いずれも明部領域(白色~灰白色)で表示されたことから、全体的に電子線難透過性領域で形成され、電子線易透過性領域が形成されていないことが確認された。
比較例2
実施例7で用いたフッ素含有水酸化ニッケルコバルトマンガンの代わりに、実施例7で用いられた水酸化ニッケルコバルトマンガンと同じ種類のフッ素処理が施されていない水酸化ニッケルコバルトマンガンを用いたこと以外は、実施例7と同様にしてリチウム複合酸化ニッケルコバルトマンガン粒子を得た。
前記リチウム複合酸化ニッケルコバルトマンガン粒子の切断面を走査型電子顕微鏡で観察しながら当該切断面に実施例6と同様にして加速電圧1kVの電子線を照射したが、当該切断面は、いずれも明部領域(白色~灰白色)で表示されたことから、全体的に電子線難透過性領域で形成され、電子線易透過性領域が形成されていないことが確認された。
比較例3
実施例8で用いたフッ素を有する水酸化コバルトの代わりに、実施例8で用いられた水酸化コバルトと同じ種類のフッ素処理が施されていない水酸化コバルトを用いたこと以外は、実施例8と同様にしてリチウム複合酸化コバルト粒子を得た。
前記リチウム複合酸化コバルト粒子の切断面を走査型電子顕微鏡で観察しながら当該切断面に実施例6と同様にして加速電圧1kVの電子線を照射したが、当該切断面は、いずれも明部領域(白色~灰白色)で表示されたことから、全体的に電子線難透過性領域で形成され、電子線易透過性領域が形成されていないことが確認された。
実験例1
実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子および比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属複合酸化物粒子に銅の特性X線(波長1.54Å)を照射し、2θが10~85°の範囲で毎分2°で走査することにより、X線回折を調べた。なお、X線回折の測定には、X線回折装置〔(株)島津製作所製、品番:XRD-6100〕を用いた。
実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子および比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属複合酸化物粒子の(003)面と(104)面の回折強度比〔ピーク強度比[(003)/(104)]〕を表1に示す。
表1に示された結果から、実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子のピーク強度比は1.2~1.6程度であるのに対し、比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属酸化物粒子のピーク強度比は1.4~1.6程度であることがわかる。
以上の結果から、実施6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、結晶の成長が促進されるが、一次粒子の成長が抑制されたことから、結晶化が促成され、一次粒子の粗大化が抑制されたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子が生成しているものと考えられる。
実験例2
実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子および比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属酸化物粒子の充放電試験を以下の方法に基づいて行なった。
〔充放電試験の方法〕
実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子および比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属酸化物粒子の各粒子80質量部、導電剤としてアセチレンブラック10質量部および結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部の割合で各成分を混合し、得られた混合物を有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン中でさらに混合し、分散させることにより、ペーストを得た。
前記で得られたペーストをアルミニウム集電体シートに乾燥後の厚さが100μmとなるように塗工し、乾燥およびプレス圧延を行ない、直径が16mmとなるように切り出すことにより、正極板を得た。
アルゴンガス雰囲気中で、前記で得られた正極板と対極板(リチウム板)との間にポリエチレン製の多孔膜セパレータ(厚さ:25μm、空孔率:45%)を介在させて正極板の電極層と対極板とを対向させて重ね合わせ、得られた積層体をトムセル〔有限会社日本トムセル製、商品名:TOMCELL(登録商標)〕内に入れた。
次に、アルゴンガス雰囲気中で、プロピレンカーボネート50容量部およびジメチルエーテル50容量部の割合で混合した溶液にLiPF6を溶解させ、当該LiPF6の濃度が1mol/Lである非水電解液を調製し、この非水電解液を前記トムセル内に入れ、トムセルを封止することにより、非水電解質二次電池を作製した。
前記で得られた非水電解質二次電池に終止電圧が4.3Vとなるまで0.2Cの定電流で充電し、次いで終止電圧が3.0Vとなるまで0.2Cで非水電解質二次電池の放電を行なった。なお、充放電サイクルに伴う放電容量変化が十分に小さくなった3サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。
実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子および比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属酸化物粒子の初期放電容量を表2に示す。
表2に示された結果から、実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、それぞれ比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属酸化物粒子と対比して、初期放電容量が大きいことがわかる。
実験例3
実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子および比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属酸化物粒子を用い、0.5C充電-0.5C放電を繰り返す試験、いわゆるサイクル試験を50サイクル行なった後、各トムセルの放電容量を調べた。この50サイクル目の放電容量を表3に示す。
表3に示された結果から、実施例6~8で得られたフッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子は、それぞれ比較例1~3で得られたフッ素を含有しないリチウム複合遷移金属酸化物粒子と対比して、放電容量が高水準で維持されることがわかる。
以上の結果から、本発明の非水電解質二次電池は、フッ素含有リチウム複合遷移金属酸化物粒子が用いられているので、初期充放電容量が大きく、サイクル特性にも優れていることがわかる。