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JP7058115B2 - アルミニウム合金線の製造方法、これを用いた電線の製造方法及びワイヤハーネスの製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金線の製造方法、これを用いた電線の製造方法及びワイヤハーネスの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、アルミニウム合金線の製造方法、これを用いた電線の製造方法及びワイヤハーネスの製造方法に関する。
近年、自動車の高性能化や高機能化が急速に進められてきており、自動車に搭載される各種の電気機器などの増加に伴い、これらの電気機器に使用される電線も増加傾向にある。一方、近年、環境対応のために、自動車の燃費を向上するべく電線の軽量化が強く望まれている。
そこで、電線として、導体を、銅線に代えてアルミニウム合金としたアルミニウム合金線が用いられるようになってきている。
しかし、アルミニウム合金は通常、銅系材料よりも耐衝撃性や屈曲特性に劣る。耐衝撃性や屈曲特性を向上させるためには、アルミニウム合金線の伸びを向上させることが重要である。
そこで、例えば下記特許文献1には、Si及びMgを含有するアルミニウム合金で構成されるワイヤロッド(荒引線)に対して、伸線加工及び溶体化工程を順次行った後、時効硬化処理工程を行うことにより引張強度と伸びとを両立させることが提案されている。
特開2010-265509号公報
しかし、上記特許文献1に記載のアルミニウム合金線の製造方法では、得られるアルミニウム合金線が優れた引張強度を有するものの、伸びの点で改善の余地を有していた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できるアルミニウム合金線の製造方法、これを用いた電線の製造方法及びワイヤハーネスの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下の発明によって上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、アルミニウム、添加元素、及び、前記添加元素とは異なる元素で構成される不可避的不純物からなるアルミニウム合金であって前記添加元素が少なくともSi及びMgを含有するアルミニウム合金で構成される荒引線を形成する荒引線形成工程と、前記荒引線に対し、処理ステップを行うことにより、アルミニウム合金線を得る荒引線処理工程とを含み、前記処理ステップが、少なくとも1回の伸線処理ステップと、前記少なくとも1回の伸線処理ステップのうち、最後の伸線処理ステップの直後に行われ、前記アルミニウム及び前記添加元素の固溶体を形成した後、焼き入れ処理して溶体化材を形成する溶体化処理ステップと、前記溶体化処理ステップの後に行われ、MgSiを析出させる析出処理ステップとを含み、前記析出処理ステップを、前記溶体化処理ステップの完了後、3時間以上経過した後に開始する、アルミニウム合金線の製造方法である。
本発明のアルミニウム合金線の製造方法によれば、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できる。
なお、本発明者らは、本発明のアルミニウム合金線の製造方法によって上記の効果が得られる理由については以下のように推察している。
すなわち、本発明のアルミニウム合金線の製造方法では、荒引線に対して行われる処理ステップにおいて、少なくとも1回の伸線処理ステップのうち最後の伸線処理ステップの直後に溶体化処理ステップを行い、溶体化処理ステップの完了後、析出処理ステップが開始されるまでの3時間以上の間に、本来ならば析出処理ステップで析出するはずのMgSiがゆっくりと成長し、この成長したMgSiが、その後の析出処理ステップで、アルミニウム合金線に優れた引張強度及び伸びを付与する方向に作用するのではないかと考えられる。
上記製造方法においては、前記析出処理ステップが、処理温度を140℃以下とし、処理時間を5時間以上とすることが好ましい。
この場合、析出処理ステップにおいて、処理温度を140℃超とするか、処理時間を5時間未満とする場合に比べて、得られるアルミニウム合金線の伸びをより十分に向上させることができる。
上記製造方法においては、前記添加元素において、Siの含有率が0.45~0.65質量%であり、Mgの含有率が0.4~0.6質量%であり、Feの含有率が0.4質量%以下であり、Cuの含有率が0.3質量%以下であり、Ti及びVの合計含有率が0.05質量%以下であることが好ましい。
この場合、得られるアルミニウム合金線が、より優れた引張強度とより大きい伸びとを両立できるとともに、より優れた導電性を有する。
上記製造方法においては、前記析出処理ステップを、前記溶体化処理ステップの完了後、5時間以上経過した後に開始することが好ましい。
この場合、析出処理ステップを、溶体化処理ステップの完了後、5時間未満経過した後に開始する場合に比べて、得られるアルミニウム合金線の伸びをより一層向上させることができる。
また本発明は、上記アルミニウム合金線の製造方法によってアルミニウム合金線を準備するアルミニウム合金線準備工程と、前記アルミニウム合金線を被覆層で被覆して電線を製造する電線製造工程とを含む、電線の製造方法である。
この電線の製造方法によれば、アルミニウム合金線準備工程により、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できる。このため、本発明の電線の製造方法によれば、屈曲や振動が加えられる動的な箇所(例えば自動車のドア部、又は自動車のエンジンの近傍)に配置される電線として有用な電線を製造できる。
さらに本発明は、上記電線の製造方法によって電線を準備する電線準備工程と、前記電線を複数本用いてワイヤハーネスを製造するワイヤハーネス製造工程とを含む、ワイヤハーネスの製造方法である。
このワイヤハーネスの製造方法によれば、電線準備工程に含まれるアルミニウム合金線準備工程により、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できる。そして、本発明のワイヤハーネスの製造方法により製造されるワイヤハーネスは、このようなアルミニウム合金線を被覆層で被覆して得られる電線を含む。このため、本発明のワイヤハーネスの製造方法によれば、屈曲や振動が加えられる動的な箇所(例えば自動車のドア部、又は自動車のエンジンの近傍)に配置されるワイヤハーネスとして有用なワイヤハーネスを製造できる。
なお、本発明において、「溶体化処理ステップの完了」とは以下のことを言う。すなわち、溶体化処理ステップでは、固溶体が形成された後、この固溶体に対して行われる焼き入れ処理によって温度が低下し、最低値に達した後、再度上昇するが、「溶体化処理ステップの完了」とは、上記最低値に達した時を言うものとする。
本発明によれば、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できるアルミニウム合金線の製造方法、これを用いた電線の製造方法及びワイヤハーネスの製造方法が提供される。
以下、本発明の実施形態について説明する。
[アルミニウム合金線の製造方法]
本発明は、アルミニウム、添加元素、及び、添加元素とは異なる元素で構成される不可避的不純物からなるアルミニウム合金であって添加元素が少なくともSi及びMgを含有するアルミニウム合金で構成される荒引線を形成する荒引線形成工程と、荒引線に対し、処理ステップを行うことにより、アルミニウム合金線を得る荒引線処理工程とを含むアルミニウム合金線の製造方法である。上記処理ステップは、少なくとも1回の伸線処理ステップと、少なくとも1回の伸線処理ステップのうち、最後の伸線処理ステップの直後に行われ、アルミニウム及び添加元素の固溶体を形成した後、焼き入れ処理して溶体化材を形成する溶体化処理ステップと、溶体化処理ステップの後に行われ、MgSiを析出させる析出処理ステップとを含む。ここで、析出処理ステップは、溶体化処理ステップの完了後、3時間以上経過した後に開始される。
上記アルミニウム合金線の製造方法によれば、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できる。
次に、上述した荒引線形成工程及び荒引線処理工程について詳細に説明する。
<荒引線形成工程>
荒引線形成工程は、アルミニウム合金で構成される荒引線を形成する工程である。
(アルミニウム合金)
荒引線を構成するアルミニウム合金は、少なくともSi及びMgを添加元素として含有していればよいが、アルミニウム合金中のSiの含有率は0.45質量%以上0.65質量%以下であることが好ましい。この場合、Siの含有率が0.45質量%未満である場合と比べて、アルミニウム合金線において、より優れた引張強度とより大きい伸びとを両立でき、Siの含有率が0.65質量%より多い場合と比べて、アルミニウム合金線がより優れた導電性を有する。Siの含有率は好ましくは0.5質量%以上0.6質量%以下である。
上記アルミニウム合金中のMgの含有率は0.4質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。この場合、Mgの含有率が0.4質量%未満である場合と比べて、アルミニウム合金線において、より優れた引張強度とより大きい伸びとを両立でき、Mgの含有率が0.6質量%より多い場合と比べて、アルミニウム合金線がより優れた導電性を有する。Mgの含有率は好ましくは0.45質量%以上0.55質量%以下である。
上記アルミニウム合金中のFeの含有率は0.4質量%以下であることが好ましい。この場合、Feの含有率が0.4質量%より多い場合と比べて、アルミニウム合金線がより優れた導電性を有する。上記アルミニウム合金中のFeの含有率は0.3質量%以下であることが好ましい。但し、上記アルミニウム合金中のFeの含有率は好ましくは0.05質量%以上である。
上記アルミニウム合金中のCuの含有率は0.3質量%以下であることが好ましい。この場合、Cuの含有率が0.3質量%より多い場合と比べて、アルミニウム合金線がより優れた導電性を有する。上記アルミニウム合金中のCuの含有率は0.2質量%以下であることが好ましい。但し、上記アルミニウム合金中のCuの含有率は好ましくは0.01質量%以上である。
上記アルミニウム合金中のTi及びVの合計含有率は0.05質量%以下であることが好ましい。この場合、アルミニウム合金線がより優れた導電性を有する。Ti及びVの合計含有率は好ましくは0.03質量%以下である。但し、Ti及びVの合計含有率は0.005質量%以上であることが好ましい。なお、Ti及びVの合計含有率は0.05質量%以下であればよく、0質量%であってもよい。すなわち、Ti及びVの含有率がいずれも0質量%であってもよい。またTi及びVのうちTiの含有率のみが0質量%であってもよく、Vの含有率のみが0質量%であってもよい。
なお、Si、Fe、Cu及びMgの含有率、並びに、Ti及びVの合計含有率は、荒引線の質量を基準(100質量%)としたものである。
(荒引線)
荒引線は、例えば上述したアルミニウム合金からなる溶湯に対し、連続鋳造圧延やビレット鋳造後の熱間押出し等を行った後、必要に応じて例えばスウェージング加工や通常の熱処理を行うことにより得ることができる。
通常の熱処理は、スウェージング加工で生じた歪みを除去するための処理である。ここで、通常の熱処理は、溶体化を行わない熱処理(非溶体化処理)のことを言い、具体的には、スウェージング加工したアルミニウム合金を熱処理した後、徐冷(例えば自然冷却)する処理を言う。徐冷とは、100K/min未満の冷却速度で冷却することを言う。
通常の熱処理における熱処理温度は特に制限されるものではないが、通常は100~400℃であり、好ましくは200~400℃である。
また、通常の熱処理における熱処理時間は、熱処理温度にも依存するので一概には言えないが、通常は1~20時間である。
<荒引線処理工程>
荒引線処理工程は、荒引線に対し、処理ステップを行い、アルミニウム合金線を得る工程である。
上記処理ステップは、上述したように少なくとも1回の伸線処理ステップと、少なくとも1回の伸線処理ステップのうち最後の伸線処理ステップの直後に行われ、アルミニウム及び添加元素の固溶体を形成した後、焼き入れ処理して溶体化材を形成する溶体化処理ステップと、溶体化処理ステップの後に行われ、MgSiを析出させる析出処理ステップとを含む。
以下、伸線処理ステップ、溶体化処理ステップ及び析出処理ステップについて詳細に説明する。
(A)伸線処理ステップ
伸線処理ステップは、荒引線、荒引線を伸線して得られる伸線材、又は伸線材をさらに伸線して得られる伸線材(以下、「荒引線」、「荒引線を伸線して得られる伸線材」、又は「伸線材をさらに伸線して得られる伸線材」をまとめて「線材」と呼ぶ)などの径を低減させるステップである。伸線処理ステップは、熱間伸線であっても冷間伸線であってもよいが、通常は冷間伸線である。
伸線処理ステップは、複数回行われてもよいし、1回だけ行われてもよいが、伸線処理ステップは、複数回行われることが好ましい。伸線処理ステップのうち、最後の伸線処理ステップで得られる線材(以下、「最終線材」と呼ぶ)の線径は、特に限定されるものではないが、本発明の製造方法は、最終線径が0.5mm以下である場合に有効である。但し、最終線材の線径は、0.1mm以上であることが好ましい。
(B)溶体化処理ステップ
溶体化処理ステップは、処理ステップにおける最後の伸線処理ステップの直後に行われ、アルミニウム及び添加元素の固溶体を形成した後、焼き入れ処理して溶体化材を形成するステップである。ここで、固溶体の形成は、最終線材を高温に加熱して熱処理することにより、アルミニウム中に溶け込んでいない添加元素をアルミニウム中に溶け込ませることで行われる。
焼き入れ処理は、固溶体を形成した後に最終線材に対して行われる急冷処理である。最終線材の急冷処理は、最終線材を自然冷却する場合と比べて、アルミニウム中に溶け込んだ添加元素が冷却中に析出することを抑制するために行われる。ここで、急冷とは、100K/min以上の冷却速度で冷却することを言う。急冷は、例えば最終線材を水に入れることで行うことができる。
溶体化処理ステップにおいて、固溶体を形成する際の熱処理温度は、アルミニウム中に溶け込んでいない添加元素をアルミニウム中に溶け込ませることができる温度であれば特に制限されるものではないが、450℃以上であることが好ましい。この場合、熱処理温度が450℃未満である場合と比べて、添加元素をアルミニウム中に溶け込ませることができる。固溶体を形成する際の熱処理温度は、500℃以上であることがより好ましい。但し、固溶体を形成する際の熱処理温度は650℃以下であることが好ましい。この場合、熱処理温度が650℃より高い場合と比べて、最終線材が部分的に溶解することをより十分に抑制できる。固溶体を形成する際の熱処理温度は、600℃以下であることがより好ましい。
また固溶体を形成する際の熱処理時間は、特に限定されるものではないが、3時間以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。この場合、固溶体を形成する際の熱処理時間が10分を超える場合と比べて、より優れた引張強度を有しながら、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。さらに固溶体を形成する際の熱処理時間は、60秒以下であることが好ましい。この場合、より優れた引張強度を有しながら、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。なお、固溶体を形成する際の熱処理時間は、最終線材の中心部が熱処理温度と同じになるまで加熱される時間であれば良く、前述の条件を満たす限りより短い時間であることがより好ましい。
焼き入れ処理における最終線材の冷却速度は、急冷となる冷却速度であれば特に限定されるものではないが、200K/min以上であることが好ましい。この場合、より優れた引張強度を有しながら、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。
なお、溶体化処理ステップでは、最終線材に対して溶体化処理が行われるとともに、最後の伸線処理ステップで最終線材に生じたひずみを除去することが可能となる。
(C)析出処理ステップ
析出処理ステップは、溶体化材を構成するアルミニウム合金中に析出物を形成させる熱処理ステップである。ここで、析出物はMgSiである。
析出処理ステップにおいては、熱処理温度はMgSiを析出させることが可能な温度であれば特に制限されないが、140℃以下であることが好ましい。この場合、熱処理温度が140℃を超える場合に比べて、優れた引張強度を有しながら、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。熱処理温度は130℃以下とすることがより好ましい。この場合、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。但し、析出処理ステップにおける熱処理温度は、100℃以上であることが好ましい。この場合、熱処理温度が100℃未満である場合と比べて、溶体化材を短時間で効率よく析出処理することができる。
析出処理ステップにおける熱処理時間は5時間以上であることが好ましい。この場合、溶体化材の熱処理時間を5時間未満とする場合に比べて、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。熱処理時間は7時間以上であることがより一層好ましい。ここで、熱処理温度が130℃以下である場合には、熱処理時間を10時間より長い時間とすることが好ましい。この場合、優れた引張強度を有しながら、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。但し、熱処理時間は、アルミニウム合金線の製造効率の観点から、36時間以下とすることが好ましい。
析出処理ステップは、溶体化処理ステップの完了後、3時間以上経過した後に開始する。この場合、析出処理ステップが、溶体化処理ステップの完了後、3時間未満経過した後に開始する場合に比べて、得られるアルミニウム合金線において、より優れた伸びが得られる。
溶体化処理ステップの完了後、析出処理ステップを開始するまでの時間(以下、「保持時間」と呼ぶ)は5時間以上であることが好ましい。この場合、保持時間が5時間未満である場合に比べて、得られるアルミニウム合金線において、より優れた引張強度及び伸びが得られる。
(D)他の溶体化処理ステップ
上記処理ステップは、上記溶体化処理ステップ(以下、「第2溶体化処理ステップ」と呼ぶ)の前に、溶体化処理ステップ(以下、「第1溶体化処理ステップ」と呼ぶ)をさらに行ってもよいし、行わなくてもよいが、第1溶体化処理ステップをさらに行うことが好ましい。この場合、より優れた引張強度を有しながら、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。
第1溶体化処理ステップは、アルミニウム及び添加元素の固溶体を形成した後、焼き入れ処理して線材を得るステップである。ここで、固溶体の形成は、線材を高温に加熱して熱処理することにより、アルミニウム中に溶け込んでいない添加元素をアルミニウム中に溶け込ませることで行われる。
固溶体を形成する際の熱処理温度は、第2溶体化処理ステップにおける熱処理温度と同じ温度であってもよいし、異なる温度であってもよい。
固溶体を形成する際の熱処理時間は、10秒以上であることが好ましく、1分以上であることがより好ましい。この場合、固溶体を形成する際の熱処理時間が10秒未満である場合と比べて、伸びがより向上したアルミニウム合金線を製造できる。なお、熱処理時間は、第2溶体化処理ステップにおける熱処理時間以下であってもよいし、第2溶体化処理ステップにおける熱処理時間より長くてもよいが、第2溶体化処理ステップにおける熱処理時間より長いことが好ましい。
焼き入れ処理における冷却速度は、第2溶体化処理ステップの焼き入れ処理における冷却速度と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
(E)処理ステップの手順の具体的な態様
上記処理ステップの手順の具体的な態様としては、例えば以下のものが挙げられる。
(1)第1溶体化処理ステップ→伸線処理ステップ(最後の伸線処理ステップ)→第2溶体化処理ステップ→析出処理ステップ
(2)伸線処理ステップ→第1溶体化処理ステップ→伸線処理ステップ(最後の伸線処理ステップ)→第2溶体化処理ステップ→析出処理ステップ
(3)伸線処理ステップ→通常熱処理ステップ→伸線処理ステップ→第1溶体化処理ステップ→伸線処理ステップ(最後の伸線処理ステップ)→第2溶体化処理ステップ→析出処理ステップ
[電線の製造方法]
本発明の電線の製造方法は、上述したアルミニウム合金線の製造方法によってアルミニウム合金線を準備するアルミニウム合金線準備工程と、アルミニウム合金線を被覆層で被覆して電線を製造する電線製造工程とを含む電線の製造方法である。
本発明の電線の製造方法によれば、アルミニウム合金線準備工程により、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できる。このため、本発明の電線の製造方法によれば、屈曲や振動が加えられる動的な箇所(例えば自動車のドア部、又は自動車のエンジンの近傍)に配置される電線として有用な電線を製造できる。
<アルミニウム合金線準備工程>
アルミニウム合金線準備工程は、上記アルミニウム合金線の製造方法によって、アルミニウム合金線を準備する工程である。
<電線製造工程>
電線製造工程は、上記アルミニウム合金線準備工程で準備したアルミニウム合金線を被覆層で被覆して電線を製造する工程である。
(被覆層)
被覆層は、特に限定されるものではないが、例えばポリ塩化ビニル樹脂や、ポリオレフィン樹脂に難燃剤等を添加してなる難燃性樹脂組成物などの絶縁材で構成される。
被覆層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば0.1~1mmである。
被覆層をアルミニウム合金線に被覆する方法は、特に限定されるものではないが、例えばテープ状に成型した被覆層をアルミニウム合金線に巻き付ける方法、及び、アルミニウム合金線に押出被覆する方法が挙げられる。
[ワイヤハーネスの製造方法]
本発明のワイヤハーネスの製造方法は、上記電線の製造方法によって電線を準備する電線準備工程と、電線を複数本用いてワイヤハーネスを製造するワイヤハーネス製造工程とを含むワイヤハーネスの製造方法である。
本発明のワイヤハーネスの製造方法によれば、電線準備工程に含まれるアルミニウム合金線準備工程により、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できる。そして、本発明のワイヤハーネスの製造方法により製造されるワイヤハーネスは、このようなアルミニウム合金線を被覆層で被覆して得られる電線を含む。このため、本発明のワイヤハーネスの製造方法によれば、屈曲や振動が加えられる動的な箇所(例えば自動車のドア部、又は自動車のエンジンの近傍)に配置されるワイヤハーネスとして有用なワイヤハーネスを製造できる。
<ワイヤハーネス製造工程>
ワイヤハーネス製造工程は、電線準備工程で準備した電線を複数本用いてワイヤハーネスを製造する工程である。
ワイヤハーネス製造工程においては、すべての電線が異なる線径を有していてもよいし、同じ線径を有していてもよい。
また、ワイヤハーネス製造工程においては、すべての電線が異なる組成のアルミニウム合金で構成されていてもよいし、同じ組成のアルミニウム合金で構成されていてもよい。
また、ワイヤハーネス製造工程において用いる電線の本数は、2本以上であれば特に限定されるものではないが、200本以下であることが好ましい。
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1~27及び比較例1~18)
Si、Fe、Mg、Cu、Ti及びVを表1及び2に示す含有率(単位:質量%)となるようにアルミニウムとともに溶解し、直径25mmの鋳型に流し込むことで線径25mmのアルミニウム合金を鋳造した。こうして得られたアルミニウム合金について、スウェージングマシン(吉田記念社製)によって線径9.5mmとなるようにスウェージング加工を行った後、270℃、8時間で熱処理することで線径9.5mmの荒引線を得た。こうして得られた荒引線に対し、下記の処理ステップを行うことにより、アルミニウム合金線を得た。
なお、表1及び2においては、溶体化処理ステップ完了から析出処理ステップ開始までの時間、析出処理ステップ後の引張強度、伸び及び導電率についても示した。
また、下記処理ステップの最後の伸線処理ステップの直前の第1溶体化処理ステップでは、アルミニウム及び添加元素の固溶体を形成した後、水冷による焼き入れ処理を行った。このときの焼き入れ処理の冷却速度は800K/minとした。また下記の処理ステップの最後の伸線処理ステップの直後の第2溶体化処理ステップでも、アルミニウム及び添加元素の固溶体を形成した後、水冷による焼き入れ処理を行った。このときの焼き入れ処理の冷却速度は800K/minとした。

(処理ステップ)
1.線径1.2mmまで伸線(伸線処理ステップ)
2.550℃×3時間→水冷で溶体化処理(第1溶体化処理ステップ)
3.線径0.33mmまで伸線(最後の伸線処理ステップ)
4.550℃×1分→水冷で溶体化処理(第2溶体化処理ステップ)
5.120℃×24時間で析出処理(析出処理ステップ)
[特性評価]
(1)引張強度及び伸び
実施例1~27及び比較例1~18で得られたアルミニウム合金線(析出処理後のアルミニウム合金線)について、JIS C3002に準拠した引張試験による引張強度及び伸びを測定した。結果を表1及び2に示す。引張強度及び伸びの合格基準は下記の通りである。ここで、引張強度及び伸びの合格基準は、JASO D603の0.5sqについての規格(引張強度:160MPa以上、伸び8%以上)に基づくものである。但し、引張強度の合格基準については、実施例1~27及び比較例1~18で作製したアルミニウム合金線の断面積が0.35sqであり0.5sqではないため、同じ破断荷重に耐えられるように下記式で算出される値に換算してある。

160MPa×0.5sq/0.35sq≒230MPa

(引張強度の合格基準)
引張強度が230MPa以上であること
(伸びの合格基準)
伸びが8%以上であること
(2)導電性
実施例1~27及び比較例1~18のアルミニウム合金線について導電率を、JIS C3002に準拠して測定し、この導電率を導電性の指標とした。結果を表1及び2に示す。


Figure 0007058115000001

Figure 0007058115000002
表1及び2に示す結果より、実施例1~27及び比較例1~18のアルミニウム合金線はいずれも引張強度の合格基準を満たしていた。一方、実施例1~27のアルミニウム合金線は伸びの合格基準を満たしていたのに対し、比較例1~18のアルミニウム合金線は伸びの合格基準を満たしていないことが分かった。
以上のことから、本発明のアルミニウム合金線の製造方法によれば、優れた引張強度及び伸びを有するアルミニウム合金線を製造できることが確認された。

Claims (4)

  1. アルミニウム、添加元素、及び、前記添加元素とは異なる元素で構成される不可避的不純物からなるアルミニウム合金であって前記添加元素が少なくともSi及びMgを含有するアルミニウム合金で構成される荒引線を形成する荒引線形成工程と、
    前記荒引線に対し、処理ステップを行うことにより、アルミニウム合金線を得る荒引線処理工程とを含み、
    前記処理ステップが、
    少なくとも1回の伸線処理ステップと、
    前記少なくとも1回の伸線処理ステップのうち、最後の伸線処理ステップの直後に行われ、前記アルミニウム及び前記添加元素の固溶体を形成した後、焼き入れ処理して溶体化材を形成する溶体化処理ステップと、
    前記溶体化処理ステップの後に行われ、MgSiを析出させる析出処理ステップとを含み、
    前記析出処理ステップを、前記溶体化処理ステップの完了後、3時間以上経過した後に開始し、
    前記析出処理ステップが、処理温度を120℃以上140℃以下とし、処理時間を5時間以上24時間以下とし、
    前記添加元素は、
    Siの含有率が0.45~0.65質量%であり、
    Mgの含有率が0.4~0.6質量%であり、
    Feの含有率が0.4質量%以下であり、
    Cuの含有率が0.3質量%以下であり、
    Ti及びVの合計含有率が0.05質量%以下である、
    アルミニウム合金線の製造方法。
  2. 前記析出処理ステップを、前記溶体化処理ステップの完了後、5時間以上経過した後に開始する、請求項1に記載のアルミニウム合金線の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載のアルミニウム合金線の製造方法によってアルミニウム合金線を準備するアルミニウム合金線準備工程と、
    前記アルミニウム合金線を被覆層で被覆して電線を製造する電線製造工程とを含む、電線の製造方法。
  4. 請求項3に記載の電線の製造方法によって電線を準備する電線準備工程と、
    前記電線を複数本用いてワイヤハーネスを製造するワイヤハーネス製造工程とを含む、ワイヤハーネスの製造方法。
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