本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも片面のうねり値Waが45nm以下である。Waはより好ましくは35nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。Waが45nmを超えると、保護フィルムやカバーフィルムとして他素材の製品と貼り合わせた後、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを剥がした際に、製品の表面に凹凸形状が転写してしまう場合がある。凹凸形状抑制の観点からは、Waは小さいほど好ましいが、実質的には5nm程度が下限である。また、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを他素材の製品と貼り合わせた後、ロール状に巻き取る場合などは、背面も製品と接触するため、両面のうねり値Waが45nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは両面とも35nm以下、さらに好ましくは両面とも30nm以下である。Waを上記範囲とするためには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とし、特に二軸延伸後の熱固定、弛緩条件、巻取り条件を後述する範囲とすることが効果的である。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、85℃60分後のMD方向の熱収縮率が0.3~2%である。MD方向の熱収縮率はより好ましくは0.3~1.7%、さらに好ましくは0.5~1.5%、さらに好ましくは0.5~1.2%である。MD方向の熱収縮率が2%を超えると、たとえば、保護フィルムやカバーフィルムとして他の素材と貼り合わせた後、熱がかかる乾燥工程等を通過する際などに、フィルムが変形して剥がれたり、しわが入る場合がある。また、被着体であるフィルムと貼り合わせてロール状に巻き取り、保管した際に環境温度が上がるとフィルムの寸法変化によりロールにシワなどが発生し、Waが大きくなる場合がある。一方、MD方向の熱収縮率が0.3%未満であっても、Waが大きくなる場合がある。この理由を以下の様に考える。製膜工程でフィルムをロール状に巻き取る際、通常巻き取られるフィルム間に僅かな空気を噛み込んで巻き取る。二軸配向ポリプロピレンフィルムは、製膜直後にポリマーの分子鎖の緩和などに伴い、寸法が変化するが、この際、MD方向にある程度収縮して、フィルムが余らない状態でロールが適度に巻き締まり、固定されることにより、Waが小さいフィルムを得ることが可能となる。MD方向の熱収縮率が0.3%未満であると、製膜直後のロールの巻き締まりが小さく、フィルムが余った状態で保管され、その結果、Waが大きくなる場合がある。熱収縮率を上記範囲内とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とし、特に二軸延伸後の熱固定、弛緩条件を後述する範囲とすることが効果的である。ここで熱収縮率とは、フィルムの幅方向について、幅10mm、長さ200mm(測定方向)の試料を5本切り出し、両端から25mmの位置に標線として印しを付けて、万能投影機で標線間の距離を測定し試長(l0)とし、次に、試験片を紙に挟み込み荷重ゼロの状態で85℃に保温されたオーブン内で、60分加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l1)を万能投影機で測定して下記式にて求めたものであり、5本の平均値を熱収縮率とした。
熱収縮率={(l0-l1)/l0}×100(%)
なお、本願においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムの一方の面と他方の面との静摩擦係数μsが0.55以下であることが好ましい。より好ましくは0.53以下、さらに好ましくは0.50以下である。静摩擦係数μsが0.55を超えると、フィルムロールが巻き締まる際に、均一に収縮できないため、Waが大きくなる場合がある。また、製膜工程中に搬送ロールとフィルム間のわずかな速度差によりフィルム表面が削れてPP粉が発生する、あるいはその発生量が増加する場合がある。PP粉抑制の観点からは静摩擦係数μsは小さいほど好ましいが、実質的には0.2程度が下限である。静摩擦係数μsを上記範囲とするためには、フィルムの原料組成やフィルムの積層構成を後述する範囲とし、特に積層構成の内、少なくとも片面の表層1層(表層(I))の原料組成を後述する範囲内とすることが好ましい。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、ヘイズが1%以下であることが好ましい。より好ましくは0.9%以下、さらに好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.7%以下である。ヘイズが1%を超えると、フィルム表面の表面粗さが大きく、表面形状が被着体に転写する場合がある。また、ディスプレイ部材など高品位が求められる製品の保護フィルムや製造用基材フィルムとして用いた際に製品と貼り合わせた状態で欠点検出を実施できない場合がある。ヘイズは透明性の観点から低いほど好ましいが、実質的には0.05%程度が下限である。ヘイズを上記範囲とするためには、フィルムの原料組成やフィルムの積層構成を後述する範囲とし粒子などによる透明性の悪化を防ぐこと、また、フィルム製膜時のキャスト条件や縦延伸条件を後述する範囲内とし、キャストシートのβ晶を低減させることが好ましい。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィッシュアイの個数が20個/m2以下であることが好ましい。フィッシュアイの個数はより好ましくは10個/m2以下、さらに好ましくは5個/m2以下である。フィッシュアイの個数が20個/m2を超えると、ディスプレイ部材など高品位が求められる製品の保護フィルムや製造用基材フィルムとして用いた際に歩留まりが低下する場合がある。フィッシュアイの個数を上記範囲とするためには、原料の組成や調整方法、フィルムの積層構成を後述する範囲内とし、原料中の添加剤成分や熱劣化してフィッシュアイの原因となるような樹脂の使用量を低減させることが効果的である。また、フィルム製膜時の条件を後述する範囲内とし、原料を溶融してシート化するまでにろ過により異物を除去することや、樹脂の滞留部を低減させることが効果的である。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みは用途によって適宜調整されるものであり特に限定はされないが、5μm以上100μm以下であることが好ましい。厚みが5μm未満であると、ハンドリングが困難になる場合があり、100μmを超えると、樹脂量が増加して生産性が低下する場合がある。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、厚みを薄くしても、適度な強度(ヤング率)を維持しハンドリング性を保つことができる。このような特徴を活かすためには、厚みは、5μm以上40μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下であることがさらに好ましく、5μm以上25μm以下であることが最も好ましい。厚みは他の物性を悪化させない範囲内で、押出機のスクリュウ回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。
次に本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの原料について説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンを主成分とするフィルムである。ここで、本願において「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムには、少なくとも2種類のポリプロピレン原料(ポリプロピレン原料A、および、ポリプロピレン原料Bとする)を用いることが好ましい。ポリプロピレン原料Aとしては、熱収縮率を低減させるため、結晶性の高いポリプロピレン原料を用いることが好ましく、ポリプロピレン原料Bとしては、フィルムの引張弾性率を小さくさせるため結晶性の低いポリプロピレン原料を用いることが好ましい。
ポリプロピレン原料Aは、冷キシレン可溶部(以下CXS)が4質量%以下でありかつメソペンタッド分率が0.95以上であるポリプロピレンである。これらを満たさないと製膜安定性に劣ったり、熱収縮率が大きくなる場合がある。
ここで冷キシレン可溶部(CXS)とはフィルムをキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分のことをいい、立体規則性の低い、分子量が低い等の理由で結晶化し難い成分に該当していると考えられる。このような成分が多く樹脂中に含まれていると熱収縮率が大きくなる場合がある。従って、CXSは4質量%以下であることが好ましいが、さらに好ましくは3質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下である。CXSは低いほど好ましいが、0.1質量%程度が下限である。このようなCXSを有するポリプロピレンとするには、樹脂を得る際の触媒活性を高める方法、得られた樹脂を溶媒あるいはプロピレンモノマー自身で洗浄する方法等の方法が使用できる。
同様な観点からポリプロピレン原料Aのメソペンタッド分率は0.93以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.97以上である。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度が高く、融点が高くなり、高温での使用に適するため好ましい。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではない。このように立体規則性の高い樹脂を得るには、n-ヘプタン等の溶媒で得られた樹脂パウダーを洗浄する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行う方法等が好ましく採用される。
また、ポリプロピレン原料Aとしては、メルトフローレート(MFR)が1~10g/10分(230℃、21.18N荷重)。好ましくは2~5g/10分(230℃、21.18N荷重)の範囲のものが、製膜性の観点から好ましい。MFRを上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。
ポリプロピレン原料Aとしては、主としてプロピレンの単独重合体からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有してもよいし、プロピレンが単独ではない重合体がブレンドされていてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成する単量体成分として例えばエチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテンー1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。共重合量またはブレンド量は、厚み方向の弾性率向上の観点から、共重合量では1mol%未満とし、ブレンド量では10質量%未満とするのが好ましい。
続いてポリプロピレン原料Bについて説明する。
ポリプロピレン原料Bとしては、上述したポリプロピレン原料Aとの相溶性が良く、かつ、柔軟性を向上させるために、結晶性の低いポリプロピレン原料であることが好ましい。このようなポリプロピレン原料Bとしては、非晶性ポリプロピレンや低立体規則性ポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、α-オレフィン共重合体などを用いることができるが、少ない添加量で優れた透明性を得ることができることから、非晶性ポリプロピレンや低立体規則性ポリプロピレンが特に好ましい。
ポリプロピレン原料Bとして、好ましく用いられる非晶性ポリプロピレンとしては、主としてアタクチックな立体規則性を有するポリプロピレンポリマーが主成分であることが好ましく、具体的には、ホモポリマーあるいは、α-オレフィンとのコポリマーが挙げられる。特に後者、即ち、非晶性ポリプロピレン-α-オレフィン共重合体が好ましい。
上記非晶性ポリプロピレンは、ホモポリプロピレン重合の際、アイソタクチックポリプロピレンの副産物として製造することができる。ガラス転移温度が一般のポリプロピレンと比べると低いため、ホモポリプロピレンの沸騰n-ヘプタン(またはキシレン)可溶分として抽出することができる。あるいは、結晶性ポリプロピレンとは、触媒及び重合条件を変えて独立して重合することも可能である。本発明に好ましく用いられる非晶性ポリプロピレンは、従来公知の製造方法により製造されたものであれば特に限定することなく使用することができる。以上のような特徴を有する非晶性ポリプロピレンとしては、住友化学(株)製“タフセレン”(登録商標)などの市販品を適宜選択の上、使用することができる。
本発明における非晶性ポリプロピレンとして非晶性ポリプロピレン-α-オレフィン共重合体を用いる場合、該α-オレフィンとしては、例えば1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、4-メチル・1-ペンテン、あるいはプロピレン―エチレン-1-ブテンなどが望ましい。
またこのようなα-オレフィンを用いた非晶性ポリプロピレン-α-オレフィン共重合体としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・環状オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・ブタジエン共重合体などが挙げられる。
ポリプロピレン原料Bとして、好ましく用いられる低立体規則性ポリプロピレンとしては、プロピレンの単独重合体であって、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて製造されたものが好ましい。低立体規則性ポリプロピレンの融点は、100℃以下であり、60~90℃であることがより好ましく、65~85℃であることが特に好ましい。重量平均分子量は4万~20万であることが好ましく、分子量分布Mw/Mnは1~3であることが好ましい(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)。以上のような特徴を有する低立体規則性ポリプロピレンとしては、出光興産(株)製“エルモーデュ”(登録商標)などの市販品を適宜選択の上、使用することができる。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムを構成するポリマー中に含まれるエチレン成分の含有量が10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。エチレン成分の含有量が多いほど、結晶性が低下して、柔軟性や透明性を向上させやすいが、エチレン成分の含有量が10質量%を超えると、耐熱性が低下したり、フィッシュアイが発生しやすくなる場合がある。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムを構成するポリマー中に含まれる石油樹脂の含有量が5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、石油樹脂を含まないことが最も好ましい。石油樹脂を添加することにより、透明性を向上させることができるが、石油樹脂の含有量が5質量%を超えると、引張弾性率が高くなりすぎたり、また、原料コストが高くなる場合がある。
本発明のポリプロピレン原料には、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることもできる。
これらの中で、酸化防止剤の種類および添加量の選定は長期安定性の観点から重要である。すなわち、かかる酸化防止剤としては立体障害性を有するフェノール系のもので、そのうち少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。その具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)またはテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”1010:分子量1177.7)等を併用することが好ましい。これら酸化防止剤の総含有量はポリプロピレン全量に対して0.03~1.0質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤が少なすぎると押出工程でポリマーが劣化してフィルムが着色したり、長期耐熱性に劣る場合がある。酸化防止剤が多すぎるとこれら酸化防止剤のブリードアウトにより透明性が低下する場合がある。より好ましい含有量は0.1~0.9質量%であり、特に好ましくは0.2~0.8質量%である。
本発明のポリプロピレン原料には、本発明の目的に反しない範囲で、結晶核剤を添加することができる。結晶核剤としては、α晶核剤(ジベンジリデンソルビトール類、安息香酸ナトリウム等)、β晶核剤(1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド等のアミド系化合物、キナクリドン系化合物等)等が例示される。但し、上記別種の核剤の過剰な添加は延伸性の低下やボイド形成等による透明性や強度の低下を引き起こす場合があるため、添加量は通常0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下とすることが好ましい。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上述した原料を用い、二軸延伸されることによって得られる。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの高剛性と寸法安定性を制御する点においてステンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
次に、上記ポリプロピレン原料を用いたフィルムの構成について説明する。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、透明性、滑り性との両立の観点から、少なくとも2層の積層構成とする。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、積層構成の内、少なくとも片面の表層1層(表層(I))は、ポリプロピレン原料Aを96質量%以上含む。表層(I)中のポリプロピレン原料Aの含有量は、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。表層(I)中のポリプロピレン原料Aの含有量が96質量%未満であると、フィルムの配向が低くなり引張剛性が低下したり、また、耐熱性の低い添加成分が多い場合には、滑り性が低下する場合がある。
また、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、積層構成の内、表層(I)以外の少なくとも1層(基層(II))は、透明性を向上させる観点からポリプロピレン原料Bを含有することが好ましく、ポリプロピレン原料Aとポリプロピレン原料Bの混合割合が0:100~95:5(質量比。以下同じ)であることが好ましい。より好ましくは0:100~90:10、さらに好ましくは0:100~85:15である。基層(II)中のポリプロピレン原料Bの混合割合が5未満であると透明性が悪化する場合がある。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、表層(I)の厚みdが0.1~2.0μmであることが好ましい。より好ましくは0.2~1.5μm、さらに好ましくは0.3~1.0μm、さらに好ましくは0.3~0.8μmである。表層(I)の厚みdが2.0μmを超えると、透明性が悪化する場合がある。0.1μm未満では、積層精度が不安定となり、表層(I)の厚みムラが大きくなる場合がある。表層(I)の厚みdは他の物性を悪化させない範囲内で、押出機のスクリュウ回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。なお、フィルムの両表面に表層(I)を設ける場合は、それぞれの層について、上記範囲を満たすことが好ましい。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルム全体の厚みに対する表層(I)の割合が1~15%であることが好ましい。より好ましくは1~10%、さらに好ましくは1~5%である。表層(I)の割合が15%を超えると、透明性が悪化する場合がある。1%未満では、積層精度が不安定となり、表層(I)の厚みムラが大きくなる場合がある。表層(I)の厚みdは他の物性を悪化させない範囲内で、押出機のスクリュウ回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。なお、フィルムの両表面に表層(I)を設ける場合は、それぞれの層について、上記範囲を満たすことが好ましい。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上述した積層構成の内、少なくとも片面の表層に易滑粒子または融点が180℃以上の樹脂を含むことが、摩擦係数低減の観点から好ましく、融点が180℃以上の樹脂を含むことがより好ましい。
易滑粒子としては、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定はされず、例えば無機粒子や有機粒子などが使用できる。無機粒子としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライト粒子等、有機粒子としては、アクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ポリウレタン系樹脂粒子、ポリカーボネート系樹脂粒子、ポリアミド系樹脂粒子、シリコーン系樹脂粒子、フッ素系樹脂粒子、あるいは上記樹脂の合成に用いられる2種以上のモノマーの共重合樹脂粒子等が挙げられる。ただし、ポリプロピレン樹脂は表面エネルギーが低いために、粒子を添加して延伸すると、延伸時に粒子界面が剥離してボイドが発生し、ヘイズが上昇して透明性が低下する場合がある。透明性向上の観点から、表面にシランカップリング処理をした上記無機粒子または有機粒子を用いることが好ましく、特にシランカップリング処理したシリカ粒子が好ましい。
易滑粒子の平均粒子径は、0.01μm以上1.0μm未満であることが好ましい。平均粒子径が0.01μm未満であると、粒子が凝集して粗大粒子となり、透明性が低下する場合がある。平均粒子径が1.0μm以上であると、延伸時に粒子界面にボイドが発生しやすくなり、透明性が低下する場合がある。また、表層に添加した粒子が製膜中に脱落し、表面粗さが大きくなったり、ヘイズが上昇する場合がある。平均粒子径は、0.15μm以上0.9μm未満であることがより好ましく、0.15μm以上0.8μm未満であることがさらに好ましい。また、ハンドリング性向上の観点から、2種類以上の平均粒子径の異なる粒子を併用しても構わない。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも2層の積層構成とし少なくとも片面の表層に易滑粒子を含むことが好ましい。このとき易滑粒子を含む層の厚みは0.2~2.0μmであることが好ましい。0.2μm未満であると、製膜中に易滑粒子が脱落する場合がある。2.0μmを超えると、ヘイズが上昇し透明性が低下する場合がある。易滑粒子を含む層の厚みは0.2~1.6μmであることがより好ましく、0.3~1.4μmであることがさらに好ましい。
易滑粒子を含む層の原料における、易滑粒子の含有量は、0.01質量%以上1.0質量%未満であることが好ましい。含有量が0.01質量%未満では、摩擦係数低減の効果が得られない場合がある。含有量が1.0質量%以上では、ヘイズが上昇し透明性が低下する場合がある。含有量は、より好ましくは0.05質量%以上0.9質量%未満であり、さらに好ましくは0.1質量%以上0.8質量%未満である。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、摩擦係数低減の観点から、融点が180℃以上の樹脂を含有することも好ましい。融点はより好ましくは180℃以上240℃以下である。フィルムの表層に融点が180℃以上の樹脂を含有させ、後述する条件でフィルム化することにより、フィルム表面に微細な突起を形成させることが可能となり、滑り性を向上させることができる。このような場合は、表層(I)と基層(II)の少なくとも2層からなるフィルムであって、表層(I)には融点が180℃以上の樹脂が含まれることが好ましい。融点が180℃以上を表層(I)に存在させると、後述する溶融押出工程では、融解してポリプロピレン中に分散し、延伸工程では変形せず上述した突起を形成可能となる。形成させる突起を上述したような微細なものにするためには、溶融押出工程においてポリプロピレン中に微分散することが必要であり、ポリプロピレンとの親和性が高いことが重要である。この観点から融点が180℃以上の樹脂はオレフィン系樹脂であることが好ましいが、オレフィン系樹脂の中でも、特に、4-メチルペンテン-1単位を含んでなるオレフィン系樹脂を主成分とすることが好ましい。4-メチルペンテン-1単位を含む樹脂は非オレフィン系樹脂と比較して、ポリプロピレン樹脂との親和性が高いため、分散性を高めることができる。4-メチルペンテン-1単位を含んでなるオレフィン系樹脂としては、例えば、三井化学株式会社製、“TPX”(登録商標)DX310、“TPX”DX231、“TPX”MX004などが例示できる。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムにおいて、表層(I)の樹脂組成物のうち、4-メチルペンテン-1単位を含んでなるオレフィン系樹脂の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~4質量%、さらに好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.1~2.5質量%である。4-メチルペンテン-1単位を含んでなるオレフィン系樹脂の含有量が5質量%より多い場合、突起が長手方向に長い山脈状になる場合があり、基材フィルムやカバーフィルムとして用いた際、製品の表面に凹凸を転写してしまう場合や、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムに粘着層を塗工して保護フィルムとして使用する際など、巻取りが困難な場合においてエア噛みなどの欠点が生じやすくなる場合がある。含有量が0.1質量%より少ない場合、形成される突起の頻度が低くなりすぎて、滑り性向上に寄与せず、巻取性が低下する場合がある。
上述した易滑粒子または融点が180℃以上の樹脂は、目的や用途に応じ少なくともどちらか一方を含んでいることが好ましいが、両方含んでいても構わない。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの表層に使用する原料は、高融点樹脂とポリプロピレン樹脂をブレンドするが、あらかじめ二軸押出機で混練させてチップ化しておく手法が好ましい。この際の混練温度は高融点樹脂の融点より高い方が分散均一性の観点から好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。混練温度が高融点樹脂の融点より低い場合、分散性が低下し、突起が粗大になる場合がある。混練温度の上限は特に定めないが、あまり高い場合、ポリプロピレン樹脂の熱分解が起きる場合があり、280℃が上限である。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、溶融押出する際の押出温度が高融点樹脂の融点以下であることが好ましい。より好ましくは10℃以下であり、20℃以下がさらに好ましい。高融点樹脂の融点以上の温度で溶融押出をした場合、ポリプロピレン樹脂中に均一微細分散した高融点樹脂が溶融し、融合粗大化したり、押出時の剪断流動により長く伸ばされる場合がある。その結果、フィルム表面の突起が粗大になる場合がある。溶融温度の下限は特に定めないが、あまり低い場合、押出時のろ圧上昇やポリプロピレン樹脂の未溶融物が発生する場合があり、200℃が下限である。
上述した易滑粒子または融点が180℃以上の樹脂は、目的や用途に応じ少なくともどちらか一方を含んでいることが好ましいが、両方含んでいても構わない。
次に本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法を、一態様を例として説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
まず、ポリプロピレン原料Aを90質量部と4-メチル-1-ペンテン系重合体を10質量部、二軸押出機に投入し、マスター原料を作製する。この際の溶融混練温度は、230~280℃、より好ましくは240~280℃、さらに好ましくは250~280℃である。マスター原料、20質量部とポリプロピレン原料A、80質量部をドライブレンドしてA層(表層(I))用の単軸押出機に供給し、ポリプロピレン原料A、60質量部とポリプロピレン原料B、40質量部とをB層(基層(II))用の単軸押出機に供給し、200~260℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、マルチマニホールド型のA層/B層/A層複合Tダイにて積層し、キャスティングドラム上に吐出し、A層/B層/A層の層構成を有する積層未延伸シートを得る。この際、積層厚み比は、1/8/1~1/50/1が好ましい。また、キャスティングドラムは表面温度が10~40℃であることが、透明性の観点から好ましい。また、A層/B層の2層積層構成としても構わない。
この際、口金のリップ温度を溶融押出温度から20~40℃低温に設定することが好ましく、30~40℃がより好ましい。リップ温度を低温化することで、口金内壁に接する溶融ポリマーの剪断応力が高くなり、フィルム表層の配向が特に高まり、フィルムロールが巻き締まる際に、フィルム表面が変形しにくく、Waの低下に有効であることを見出した。
キャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、平面性が良好でかつ表面粗さの制御が可能なエアーナイフ法が好ましい。エアーナイフのエアー温度は、0~50℃、好ましくは0~30℃で、吹き出しエアー速度は130~150m/sが好ましい。また、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアーが流れるようにエアーナイフの位置を適宜調整することが好ましい。
また、キャスティングドラムへ密着させた後に、フィルムの非キャスティングドラム面をさらに強制的に冷却させることで、非キャスティングドラム面のβ晶生成を抑えることができ、フィルムの平滑性や透明性を向上させることができる。非キャスティングドラム面の冷却方法は、エアーによる空冷、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、設備として簡易で、表面粗さの制御がし易く、平滑性が良好であるエアーによる空冷が好ましい。
得られた未延伸シートは、縦延伸工程に導入される。縦延伸工程ではまず複数の120℃以上150℃未満に保たれた金属ロールに未延伸シートを接触させて予熱し延伸温度まで昇温され、周速差を設けた二対のニップロール間で長手方向に3~8倍に延伸した後、室温まで冷却する。延伸温度が150℃以上であると、フィルムの表面が粗れ、透明性が低下する場合がある。また延伸倍率が3倍未満であるとフィルムの表面が粗れ、透明性が低下する場合がある。また、この際、周速差を設けた二対のニップロールの内、下流側の速度の速いロールの温度は、上流側のロールの温度より10℃以上低いことが好ましい。温度差が10℃未満であると、85℃60分後のMD方向の熱収縮率が小さくなりすぎて、Waが大きくなり、基材フィルムやカバーフィルムとして用いた際、製品の表面に凹凸を転写してしまう場合がある。上述した観点から上流側のロールの温度は120℃以上150℃未満であることが好ましく、下流側のロールの温度は30℃以上100℃未満であることがより好ましい。
次いで縦一軸延伸フィルムをテンターに導いてフィルムの端部をクリップで把持し140~165℃の温度で幅方向に7~13倍に横延伸する。延伸温度が低いと、フィルムが破断したり透明性が低下する場合があり、延伸温度が高すぎると、フィルムの配向が弱く強度が低下する場合がある。また、倍率が高いとフィルムが破断する場合があり、倍率が低いとフィルムの配向が弱く強度が低下する場合がある。
続く熱処理および弛緩処理工程ではクリップで幅方向を緊張把持したまま幅方向に2~20%の弛緩率で弛緩を与えつつ、100℃以上160℃度未満の温度で熱固定し、クリップで幅方向を緊張把持したまま80~100℃での冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットし、広幅のフィルムロールを巻き取る。この際の巻取り張力は10~100N/mであることが好ましい。張力が10N/m未満であると、フィルムが巻きずれる場合があり、100N/mを超えると製膜直後の二軸配向ポリプロピレンフィルムの寸法収縮で巻き締まり、平面性が悪化する場合がある。
得られた広幅のフィルムロールは、25~50℃の雰囲気下で1~72時間エージングすることが好ましい。その後、用途に応じて所定の幅にスリットし、製品フィルムロールを巻き取る。この際の巻取り張力は、前記広幅のフィルムロールの巻取り張力より高いことが好ましく、80~200N/mであることがより好ましい。上述した所定の条件下でエージングして、製膜直後の二軸配向ポリプロピレンフィルムの寸法収縮を促進させ、寸法変化量が小さくなった後に、スリットして上記張力で巻き取ることにより、Waが小さいフィルムを得ることが可能になる。
以上のようにして得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムは、包装用フィルム、表面保護フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途で用いることができるが、特に表面平滑性や品位に優れることから、表面保護フィルム、工程フィルム、離型フィルムとして好ましく用いることができる。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをカバーフィルムとして用いる例を、レジスト用のカバーフィルムを例にとって説明する。シリコーン離型処理を施したPETフィルムを工程フィルムとして巻き出し、フィルム上にレジスト用塗液を塗工する。塗液を所定の温度で乾燥した後、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをレジスト用カバーフィルムとして貼り合わせて、PETフィルム、レジスト層、二軸配向ポリプロピレンフィルムの積層体を巻き取り、製品とする。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、表面が平滑であるため、レジスト面への凹凸転写が少なく、高精細な露光パターンが要求される用途で好ましく用いることができる。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを工程フィルムとして用いる例を、光学フィルムの溶液製膜用の工程フィルムを例にとって説明する。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをコーターから巻き出し、光学部材の溶液を塗工して80~100℃で乾燥し、その後、工程フィルムから光学フィルムを剥離して、溶媒が完全に除去されるまで更に乾燥して光学フィルムを得る。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、表面が平滑であるため、光学フィルムへの表面凹凸転写が少なく、高品位の光学フィルムの保護フィルムとして好ましく用いることができる。
次に、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを粘着フィルム用の塗工基材として用いる場合の例について説明する。
粘着層に用いる粘着剤は、特に限定されず、ゴム系、ビニル重合系、縮合重合系、熱硬化性樹脂系、シリコーン系などを用いることができる。この中で、ゴム系の粘着剤としては、ブタジエン-スチレン共重合体系、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体系、イソブチレン-イソプレン共重合体系などを挙げることができる。ビニル重合系の粘着剤としては、アクリル系、スチレン系、酢酸ビニル-エチレン共重合体系、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系などを挙げることができる。また、縮合重合系の粘着剤としては、ポリエステル系を挙げることができる。さらに熱硬化樹脂系の粘着剤としては、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系などを挙げることができる。
これらの中でも透明性に優れ、耐候性、耐熱性、耐湿熱性、基材密着性等を考慮すると、アクリル系粘着剤が好適に用いられる。かかるアクリル系粘着剤の具体例としては、綜研化学(株)製 SKダイン(登録商標)1310、1435、SKダイン1811L、SKダイン1888、SKダイン2094、SKダイン2096、SKダイン2137、SKダイン3096、SKダイン1852等が好適な例として挙げられる。
また、前記のアクリル系粘着剤には、硬化剤をともに用いることが好ましい。硬化剤の具体例としては、例えばイソシアネートの場合、トルエンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4-4'-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2-4'-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4-4'-ジイソシアネート、ジシキウロヘキシルメタン-2-4'-ジイソシアネート、リジンイソシアネートなどがあげられる。硬化剤の混合割合は、粘着剤100質量部に対して、0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部である。0.1質量部より少ないと乾燥炉内で粘着剤層の硬化が不十分となり、裏取られが生じる場合がある。10質量部を超えると、余剰となった硬化剤が基板に移行したり高温時にガス化して汚染原因となることがある。
また、アクリル系粘着剤には、被着体(ガラスや機能フィルム)の材質に応じて、酸化防止剤や紫外線吸収剤、シランカップリング剤、金属不活性剤などを適宜添加配合してもよい。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを用いた粘着フィルムは、粘着層の厚みdが1.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.6μm以下、さらに好ましくは0.4μm以下である。粘着層の厚みdが1.0μmを超えると、基材フィルムの背面と粘着層表面との滑り性が悪化して巻取りが困難となる場合がある。また、粘着層の裏取られが生じる場合がある。裏取られとは、基材フィルムの片面に粘着層の溶液を塗工後、乾燥炉内で乾燥・硬化して本発明の粘着フィルムを、離型フィルムを介することなくロール状に巻き取った後、使用時に粘着フィルムを巻き出す際、基材フィルムの背面に粘着層の一部が移行してしまう現象をさす。粘着層の厚みdが1.0μmを超えると、乾燥炉での粘着層の乾燥が不十分となり、裏取られが生じる場合がある。更に、粘着層の厚みが厚いと本発明のフィルムを製品に貼合し、蒸着やスパッタなど減圧が必要な工程に用いる場合などに、粘着層からの揮発成分が減圧度低下の障害になる場合がある。粘着層の厚みを上記範囲とする方法は公知の技術を用いることができ、粘着層の溶液の固形分濃度や各種塗工方法における塗工厚み調整により制御可能である。粘着層の厚みは薄すぎると安定した塗工が困難であったり、粘着力が低すぎて被着体に粘着しない場合があるため、0.1μm程度が下限である。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを用いた粘着フィルムは、ガラス板に貼り合わせた後の180℃剥離力が1N/25mm以下であることが好ましい。剥離力はより好ましくは、0.5N/25mm以下、さらに好ましくは0.2N/25mm以下、さらに好ましくは0.05N/25mm以下である。剥離力が1N/25mmを超えると、基材フィルムの背面と粘着層表面との滑り性が悪化して巻取りが困難となる場合や裏取られが生じる場合がある。剥離力を上記範囲とするには、粘着層の組成や厚みを後述する範囲とすること、また、フィルムの原料組成や製膜条件を後述する範囲とし、基材フィルムの表面粗さを制御することが効果的である。剥離力が0.01N/25mm未満であると、被着体との貼り合わせ後、搬送中などに粘着フィルムが剥がれてしまう場合があるため、下限は0.01N/25mm程度である。
次に粘着層の製造方法を説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
まず、粘着層用の塗剤を準備する。塗剤は、上述した粘着剤や硬化剤などの添加剤を溶媒に溶かし用いることができる。溶剤は、コーターでの乾燥温度や塗剤の粘度などによって適宜調整して用いることができ、具体例としては、メタノールやエタノール、イソプロピルアルコール、n一ブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセチルアセトン、アセチルアセトンから選ばれる少なくとも1種以上の溶剤を用いることができる。
塗剤中の固形分濃度は、塗剤の粘度や粘着層の厚みにより適宜選択されるものであるが、5~20質量%であることが好ましい。
次に、コーターに上述した基材フィルムを搬送させ、粘着層用の塗剤を塗工する。ここで、粘着層を塗工する面は、基材フィルムのどちらの面でも構わないが、塗工面には予めコロナ処理などの前処理により、塗剤との濡れ性を向上しておくことが好ましい。一方、基材フィルムの背面は離型性を向上させるため、コロナ処理などの前処理を実施しないことが好ましい。塗布方式(塗工方式)は特に限定されず、メタバー方式、ドクターブレード方式、グラビア方式、ダイ方式、ナイフ方式、リバース方式、ディップ方式など既存の塗工方式を採用することができる。ただし、上述したとおり粘着層厚みは、1.0μm以下と薄膜であることが好ましく、薄膜の塗工層を安定して得られる観点から、グラビア方式やリバース方式が好ましい。
基材フィルムに粘着層用の塗剤を塗工後、乾燥炉に導き塗剤中の溶媒を除去して粘着フィルムを得る。ここでの乾燥温度は基材フィルムの耐熱性や溶剤の沸点により適宜設定されるものであるが、60~170℃であることが好ましい。60℃未満であると、粘着層の硬化が十分に進まず裏取られが生じる場合がある。170℃を超えると、基材フィルムが変形し平面性が悪化する場合がある。また乾燥時間は、15~60秒であることが好ましい。15秒未満では、粘着層の硬化が十分に進まず裏取られが生じる場合がある。60秒を超えると生産性が低下するため好ましくない。
乾燥後の粘着フィルムを離型フィルム等を用いずに巻取機で巻取り、粘着フィルムロールを得ることができる。本発明の粘着フィルムは、上述した構成とすることにより、粘着層の硬化が十分進み、基材フィルムの背面と粘着層表面との滑り性も良好なことから、離型フィルムを介することなく巻き取っても裏取られや巻取り時のシワ発生などの問題がなく、品位の良い粘着フィルムロールを得ることができる。ただし、必要に応じて離型フィルムを用いて巻き取っても構わない。
以上のようにして得られた粘着フィルムは、包装用フィルム、表面保護フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途で用いることができるが、特に表面平滑性に優れることから、表面保護フィルム、工程フィルムとして好ましく用いることができる。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを離型フィルムとして用いる例を、光学部材用の離型フィルムを例にとって説明する。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをコーターから巻き出し、片面に粘着剤を塗工して80~100℃で乾燥し、粘着フィルムを得る。その後、光学用部材の製膜工程や検査工程で、粘着フィルムを貼り合わせて使用することができる。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、表面が平滑であるため、光学部材への表面凹凸転写が少なく、高精細な画像表示素子の部材用離型フィルムとして好ましく用いることができる。
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを溶液製膜用工程フィルムとして用いる例を説明する。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをコーターから巻き出し、ポリマー溶液を塗工して80~100℃で乾燥し、その後、工程フィルムから溶液製膜フィルムを剥離して、溶媒が完全に除去されるまで更に乾燥して溶液製膜フィルムを得る。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、表面が平滑であるため、溶液製膜フィルムへの表面凹凸転写が少なく、品位の良いフィルムとして好ましく用いることができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
(1)フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて測定した。フィルムを10cm四方にサンプリングし、任意に5点測定し、平均値を求めた。
(2)うねり値(Wa)
測定は(株)菱化システムVertScan2.0 R5300GL-Lite-ACを使用して行い、付属の解析ソフトにより撮影画面を多項式4次近似にて面補正して表面形状を求めた。測定条件は下記のとおり。測定は、JIS B0601(2001)に規定された方法に準じて、フィルムの両面について、それぞれn=3で行い、その平均値を各面のWaとして採用した。
製造元 : 株式会社菱化システム
装置名 : VertScan2.0 R5300GL-Lite-AC
測定条件 : CCDカメラ SONY HR-57 1/2インチ
対物レンズ 5x分
中間レンズ 0.5x
波長フィルタ 530nm white
測定モード:Wave
測定ソフトウェア :VS-Measure Version5.5.1
解析ソフトウェア :VS-Viewer Version5.5.1
測定面積:1.252×0.939mm2。
(3)MD方向の熱収縮率
フィルムの幅方向のそれぞれについて、幅10mm、長さ200mm(測定方向)の試料を5本切り出し、両端から25mmの位置に標線として印しを付けて、万能投影機で標線間の距離を測定し試長(l0)とする。次に、試験片を紙に挟み込み荷重ゼロの状態で85℃に保温されたオーブン内で、60分加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l1)を万能投影機で測定して下記式にて求め、5本の平均値を熱収縮率とした。
熱収縮率={(l0-l1)/l0}×100(%) 。
(4)フィルムのヘイズ
フィルムを、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-5000)を用いて、JIS K7136(2000)に準じて23℃でのヘイズ値(%)を3回測定し、平均値を用いた。
(5)静摩擦係数μs
東洋テスター工業製摩擦測定器を用い、ASTM D1894に準じて、フィルムの一方の面と他方の面とが接触するように重ねてMD方向同士を摩擦させた時の初期の立ち上がり抵抗値を測定し、最大値を静摩擦係数μsとした。ただし、初期の立ち上がりが大きくて測定値上限(5.0)を超えた場合は測定不能とした。サンプルは、幅80mm、長さ200mmの長方形とし、5セット(10枚)切り出した。5回測定を行い、平均値を求めた。
(6)被着体への転写評価
粘着フィルムおよび厚み40μmの日本ゼオン株式会社製“ゼオノアフィルム”(登録商標)を幅100mm、長さ100mmの正方形にサンプルリングし、粘着フィルムの背面と“ゼオノアフィルム”とが接触するように重ねて、それを2枚のアクリル板(幅100mm、長さ100mm)に挟んで、3kgの荷重をかけ、23℃の雰囲気下で24時間静置した。24時間後に、“ゼオノアフィルム”の表面(粘着フィルムが接していた面)を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:きれいであり、荷重をかける前と同等
B:弱いゆず肌の転写、あるいは弱い凹凸の転写のいずれかが確認される
C:弱いゆず肌の転写および弱い凹凸の転写が確認される
D:強いゆず肌の転写あるいは/および強い凹凸の転写が確認される。
(7)加熱後の被着体への転写評価
粘着フィルムおよび厚み40μmの日本ゼオン株式会社製“ゼオノアフィルム”(登録商標)を幅100mm、長さ100mmの正方形にサンプルリングし、粘着フィルムの背面と“ゼオノアフィルム”とが接触するように重ねて、それを2枚のアクリル板(幅100mm、長さ100mm)に挟んで、3kgの荷重をかけ、85℃に加熱したオーブン中で1時間加熱した。その後、オーブンから取り出し、加重を外し、24時間静置後に、“ゼオノアフィルム”の表面(粘着フィルムが接していた面)を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:きれいであり、荷重をかける前と同等
B:弱いゆず肌の転写、あるいは弱い凹凸の転写のいずれかが確認される
C:弱いゆず肌の転写および弱い凹凸の転写が確認される
D:強いゆず肌の転写あるいは/および強い凹凸の転写が確認される。
(実施例1)
結晶性ポリプロピレン(プライムポリマー(株)製、TF850H、MFR:2.9g/10分、メソペンタッド分率:0.94)を単軸の溶融押出機に供給し、溶融温度240℃、リップ温度200℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、30℃に表面温度を制御したキャスティングドラムに吐出し、エアナイフによりキャスティングドラムに密着させた。その後、キャスティングドラム上のシートの非冷却ドラム面に、温度30℃、圧力0.3MPaの圧空エアーを噴射させて冷却し、未延伸シートを得た。続いて、該シートをセラミックロールを用いて145℃に予熱し、周速差を設けたロール間でフィルムの長手方向に4.2倍延伸を行った。この時、周速差を設けたロールの内、上流側のロールの温度は143℃、下流側の速度の速いロールの温度は、70℃とした。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、170℃で3秒間予熱後、165℃で8.0倍に延伸し、幅方向に10%の弛緩を与えながら150℃で熱処理をおこない、その後100℃の冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、幅800mmのフィルムをコアに巻き取った。この時の巻取り張力は50N/mであった。25℃の雰囲気下で48時間保管後に、両端部100mmずつをスリットして幅600mmとし、100N/mでコアに巻取り、厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。ただし、キャスティングドラムとの接触面をA面、反対面をB面とした。
(実施例2)
結晶性ポリプロピレン(PP(a))(プライムポリマー(株)製、TF850H、MFR:2.9g/10分、メソペンタッド分率:0.94)90質量部、4-メチル-1-ペンテン系重合体(三井化学(株)製、MX004)10質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、260℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてA層用のポリプロピレン原料(1)を得た。
表層(A)用のポリプロピレン原料として上記ポリプロピレン原料(1)20質量部と上記結晶性PP(a)80質量部とをドライブレンドして、A層用の単軸の溶融押出機に供給し、コア層(B)用のポリプロピレン原料として、上記結晶性PP(a)100質量部をB層用の単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、10μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のA/B/A複合Tダイにて1/22/1の厚み比で積層し、25℃に表面温度を制御したキャスティングドラムに吐出し、エアナイフによりキャスティングドラムに密着させた。その後、キャスティングドラム上のシートの非冷却ドラム面に、温度30℃、圧力0.3MPaの圧空エアーを噴射させて冷却し、未延伸シートを得た。以下は実施例1と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例2において、コア層(B)用のポリプロピレン原料として、住友化学製ポリプロピレン樹脂FSX20L8(MFR=2.0g/10min、アイソタクチックインデックス(II)=96%)90質量部と出光興産株式会社製“エルモーデュ”(L-MODU)(登録商標)S901(MFRが50g/10min、メソペンタッド分率50%)10質量部とをドライブレンドして、B層用の単軸の溶融押出機に供給し、それ以外は実施例2と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例2において、縦延伸の周速差を設けたロールの内、下流側のロールの温度を125℃とし、更に、続くロールとの間でMD方向に5%のリラックスをかけ、それ以外は実施例2と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(実施例5)
実施例2において、積層時の厚み比を1/38/1とし、それ以外は実施例3と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(実施例6)
実施例3において、キャスティングドラムの温度を45℃とし、二軸延伸後の熱処理を163℃とし、それ以外は実施例3と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(実施例7)
実施例2おいて、表層(A)用のポリプロピレン原料として上記ポリプロピレン原料(1)25質量部と上記結晶性PP(a)75質量部とをドライブレンドして、A層用の単軸の溶融押出機に供給し、コア層(B)用のポリプロピレン原料として、住友化学製ポリプロピレン樹脂FSX20L8を80質量部と出光興産株式会社製“エルモーデュ”S901を20質量部とをドライブレンドして、B層用の単軸の溶融押出機に供給し、溶融温度210℃、リップ温度200℃で溶融押出を行い、また、幅800mmのフィルムをコアに巻き取った後、40℃の雰囲気化で60時間保管後に、スリットを行い二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。それ以外は実施例2同様の方法で厚み22μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例2において、幅800mmのフィルムをコアに巻き取る際の巻取り張力を120N/mとし、それ以外は実施例2と同様の方法で、厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。うねり値Waが大きくなり、ゆず肌の転写が確認された。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(比較例2)
実施例1において、縦延伸の周速差を設けたロールの内、下流側のロールの温度を140℃とし、更に、続くロールとの間でMD方向に10%のリラックスをかけ、それ以外は実施例1と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。MD方向の熱収が小さく、うねり値Waが大きくなり、ゆず肌の転写が確認された。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例1において、縦延伸の周速差を設けたロールの内、上流側のロールの温度を125℃とし、更に、テンターでの幅方向の弛緩を100℃雰囲気下で0%とし、それ以外は実施例1と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(比較例4)
実施例1において、溶融押出時のリップ温度を240℃とし、縦延伸の周速差を設けたロールの内、下流側のロールの温度を138℃とし、それ以外は実施例1と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
(比較例5)
実施例3において、縦延伸の延伸倍率を4.8倍とし、二軸延伸後の冷却温度を150℃とし、それ以外は実施例3と同様の方法で厚み24μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。