本発明の実施形態において、前記変速制御部は、前記ダウンシフト操作が為されたときの駆動力が小さい程、前記変速機のギヤ段を2段以上低車速側のギヤ段へ切り替えるときに経由するギヤ段の数を多くすることにある。このようにすれば、大きな駆動力が要求された場合を想定して飛びダウンシフトの実行が設計されているような車両の場合に、駆動力が小さいとダウンシフトを進行させるパワーが足らず、ドライバビリティを悪化させる懸念があることに対して、駆動力が小さい程、経由するギヤ段の数が多くされることで、ダウンシフトが適切に進行させられる。見方を換えれば、駆動力が大きいときのみ、経由するギヤ段の数が少なくされるか、又は、1回の飛びダウンシフトの実行によって2段以上低車速側のギヤ段へ切り替えられる。又、副次的な効果として、ギヤ段を経由して2段以上低車速側のギヤ段へ切り替えるような複数のダウンシフトでは、1回の飛びダウンシフトと比較して、経由するギヤ段の数が多い程、急なエンジン回転速度の吹き上がりや早い減速度の立ち上がりが抑制され易くなる。
また、前記変速制御部は、前記走行制御が行われている走行中に前記運転者によるダウンシフト操作によって選択されたギヤ段が所定ギヤ段よりも高車速側のギヤ段である場合には、前記選択されたギヤ段への切替えを実行しない一方で、前記走行制御が行われている走行中に前記選択されたギヤ段が前記所定ギヤ段以下の低車速側のギヤ段である場合には、前記選択されたギヤ段への切替えを実行する。又、前記走行制御部は、前記走行制御を行っている走行中に前記選択されたギヤ段が前記所定ギヤ段よりも高車速側のギヤ段である場合には、前記走行制御を継続する一方で、前記走行制御を行っている走行中に前記選択されたギヤ段が前記所定ギヤ段以下の低車速側のギヤ段である場合には、前記走行制御を終了する。
また、前記所定ギヤ段以下の低車速側のギヤ段は、前記走行制御の継続よりも前記運転者によるダウンシフト操作に応じたギヤ段の切替えを優先する為の予め定められたギヤ段であって、前記現在のギヤ段に拘わらず一律に予め定められたギヤ段、又は、前記現在のギヤ段に対して相対的な関係で予め定められたギヤ段である。このようにすれば、前記運転者によるダウンシフト操作に応じたギヤ段の切替えが適切に行われる。
また、前記ダウンシフト操作が為されたときの駆動力は、前記ダウンシフト操作が為されたときの、前記走行制御部による前記走行制御にて要求される駆動力、前記走行制御時のスロットル弁開度、又は前記走行制御における指示車速と実際の車速との乖離量などである。このようにすれば、ダウンシフト操作が為されたときの駆動力が適切に取得される。
また、前記変速機は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置の係合によって複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される機械式変速機構である。又は、前記変速機は、無段変速可能な無段変速機である。前記変速機が前記無段変速機である場合には、前記変速機のギヤ段は、変速比が段階的に設定された、擬似的に形成されるギヤ段である。このようにすれば、機械式変速機構又は無段変速機を備える車両において、車速を制御して走行する走行制御が行われている走行中に2段以上低車速側のギヤ段を選択するダウンシフト操作が為された際に、減速度の立ち上がりの早さを必要に応じて変えることができる。
また、前記車両は、前記エンジンが動力伝達可能に連結された差動機構と前記差動機構に動力伝達可能に連結された第1回転機とを有して前記第1回転機の運転状態が制御されることにより前記差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、前記電気式変速機構の出力回転部材に動力伝達可能に連結された第2回転機と、前記変速機として機能する、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置の係合によって複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される機械式変速機構とを備えており、前記変速制御部は、前記走行制御が行われている走行中に前記機械式変速機構の現在のギヤ段よりも2段以上低車速側のギヤ段を選択する前記運転者によるダウンシフト操作が為された場合に、前記ダウンシフト操作が為されたときの駆動力が所定駆動力以下のときは、前記現在のギヤ段と前記2段以上低車速側のギヤ段との間の中間ギヤ段を経由して前記機械式変速機構のギヤ段を前記2段以上低車速側のギヤ段へ切り替えることにある。このようにすれば、電気式変速機構と機械式変速機構とを直列に備える車両の制御装置において、車速を制御して走行する走行制御が行われている走行中に2段以上低車速側のギヤ段を選択するダウンシフト操作が為された際に、減速度の立ち上がりの早さを必要に応じて変えることができる。
また、前記電気式変速機構と前記機械式変速機構とを直列に備える車両において、前記変速制御部は、前記中間ギヤ段を経由して前記機械式変速機構のギヤ段を前記2段以上低車速側のギヤ段へ切り替えることに合わせて、前記エンジンの回転速度を上昇させるように前記電気式変速機構の変速比を変更することにある。このようにすれば、運転者によるダウンシフト操作に応じた、電気式変速機構と機械式変速機構とを合わせた全体の複合変速機のダウンシフトが実行される。
図1は、本発明が適用される車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、動力源として機能するエンジン14と、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16(以下、ケース16という)内において共通の軸心上に配設された、エンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速部18(以下、無段変速部18という)と、無段変速部18の出力側に連結された機械式有段変速部20(以下、有段変速部20という)とを直列に備えている。又、車両用駆動装置12は、有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2回転機MG2から出力される動力は、有段変速部20へ伝達され、その有段変速部20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。尚、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。又、無段変速部18や有段変速部20等は上記共通の軸心であるエンジン14などの回転軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその回転軸心の下半分が省略されている。
エンジン14は、車両10の走行用の動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置80によってスロットル弁開度θth或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジン14の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速部18に連結されている。
無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1及び無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32と、中間伝達部材30に動力伝達可能に連結された第2回転機MG2とを備えている。無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、差動用回転機に相当し、又、第2回転機MG2は、動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン14及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ50を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ52に接続されており、後述する電子制御装置80によってインバータ50が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルクであるMG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、又、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ52は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材30は、有段変速部20の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、又は、無段変速部18の入力側にはエンジン14が連結されているので、有段変速部20は、動力源(第2回転機MG2又はエンジン14)と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、特に区別しない場合は、複数の係合装置を単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路54内のソレノイドバルブSL1−SL4等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合圧としての各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量(すなわち係合トルク)Tcbが変化させられることで、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。係合装置CBを滑らすことなく中間伝達部材30と出力軸22との間でトルク(例えば有段変速部20に入力される入力トルクであるAT入力トルクTi)を伝達する為には、そのトルクに対して係合装置CBの各々にて受け持つ必要がある伝達トルク分である係合装置CBの分担トルクが得られる係合トルクTcbが必要になる。但し、伝達トルク分が得られる係合トルクTcbにおいては、係合トルクTcbを増加させても伝達トルクは増加しない。つまり、係合トルクTcbは、係合装置CBが伝達できる最大のトルクに相当し、伝達トルクは、係合装置CBが実際に伝達するトルクに相当する。尚、係合装置CBを滑らせないことは、係合装置CBに差回転速度を生じさせないことである。又、係合トルクTcb(或いは伝達トルク)と係合油圧PRcbとは、例えば係合装置CBのパック詰めに必要な係合油圧PRcbを供給する領域を除けば、略比例関係にある。
有段変速部20は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置38の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速部20は、複数の係合装置CBのうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度ωi/出力回転速度ωo)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される、有段式の自動変速機である。つまり、有段変速部20は、係合装置CBの何れかが選択的に係合されることで、ギヤ段が切り替えられる、有段式の自動変速機である。有段変速部20のギヤ段が切り替えられることは、有段変速部20の変速が実行されることである。本実施例では、有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度ωiは、有段変速部20の入力回転部材の回転速度(角速度も同意)である有段変速部20の入力回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度ωmと同値である。AT入力回転速度ωiは、MG2回転速度ωmで表すことができる。出力回転速度ωoは、有段変速部20の出力回転速度である出力軸22の回転速度であって、無段変速部18と有段変速部20とを合わせた全体の複合変速機40の出力回転速度でもある。複合変速機40は、エンジン14と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。
有段変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)−AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、高車速側(すなわちハイ側)のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各作動状態(各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置)との関係をまとめたものである。すなわち、図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図2において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段を成立させるブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時や加速時にはブレーキB2を係合させる必要は無い。有段変速部20のコーストダウンシフトは、例えばアクセル開度θaccなどの駆動要求量の減少やアクセル開度θaccがゼロ又は略ゼロであるアクセルオフによる減速走行中の例えば車速Vなどの車速関連値の低下によってダウンシフトが判断されたパワーオフダウンシフトのうちで、アクセルオフの減速走行状態のままで要求されたダウンシフトである。尚、係合装置CBが何れも解放されることにより、有段変速部20は、何れのATギヤ段も形成されないニュートラル状態すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態とされる。又、ダウンシフトが判断されることは、ダウンシフトが要求されることである。
有段変速部20は、後述する電子制御装置80が備える後述するAT変速制御部82によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて、変速前のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの解放側係合装置の解放と変速後のATギヤ段を形成する所定の係合装置のうちの係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。つまり、有段変速部20の変速制御においては、例えば係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。例えば、AT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトでは、図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、係合側係合装置となるブレーキB2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やブレーキB2の係合過渡油圧が調圧制御される。解放側係合装置は、係合装置CBのうちの有段変速部20の変速に関与する係合装置であって、有段変速部20の変速過渡において解放に向けて制御される係合装置である。係合側係合装置は、係合装置CBのうちの有段変速部20の変速に関与する係合装置であって、有段変速部20の変速過渡において係合に向けて制御される係合装置である。尚、本実施例では、AT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフトを2→1ダウンシフトと表す。他のアップシフトやダウンシフトについても同様である。
図3は、無段変速部18と有段変速部20とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部20の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯車比ともいう)ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36,38の各歯車比ρ1,ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数Zs/リングギヤの歯数Zr)に対応する間隔とされる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速部20へ伝達するように構成されている。無段変速部18では、縦線Y2を横切る各直線L0,L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
又、有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されている。有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1,L2,L3,L4,LRにより、出力軸22における「1st」,「2nd」,「3rd」,「4th」,「Rev」の各回転速度が示される。
図3中の実線で示す、直線L0及び直線L1,L2,L3,L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するエンジン走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=−(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ52に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ52からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度ωeはゼロとされ、MG2トルクTmが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。ここでのMG2トルクTmは、正回転の力行トルクである。
図3中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置80が備える後述するハイブリッド制御部84などによって、複数のATギヤ段のうちの前進用の低車速側(すなわちロー側)のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。ここでは、前進用のMG2トルクTmは正回転の正トルクとなる力行トルクであり、後進用のMG2トルクTmは負回転の負トルクとなる力行トルクである。このように、車両10では、前進用のATギヤ段を用いて、MG2トルクTmの正負を反転させることで後進走行を行う。前進用のATギヤ段を用いることは、前進走行を行うときと同じATギヤ段を用いることである。尚、ハイブリッド走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構(電気式差動機構ともいう)としての無段変速部18が構成される。中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3は、見方を換えれば第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3である。つまり、車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される無段変速部18が構成される。無段変速部18は、入力回転部材となる連結軸34の回転速度であるエンジン回転速度ωeと出力回転部材となる中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度ωmとの比である変速比γ0(=ωe/ωm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部20にてATギヤ段が形成されたことで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe)が上昇或いは下降させられる。従って、エンジン走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、ATギヤ段が形成された有段変速部20と無段変速機として作動させられる無段変速部18とで、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
又は、無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速部20と有段変速機のように変速させる無段変速部18とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40において、出力回転速度ωoに対するエンジン回転速度ωeの高さの程度を表す変速比γt(=ωe/ωo)が異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速部20と無段変速部18とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部18と有段変速部20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部18の変速比γ0と有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部20の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、図4は、ギヤ段割当テーブル(ギヤ段割付テーブルともいう)の一例である。図4において、複合変速機40のアップシフトでは、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段−模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段−模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。又、複合変速機40のダウンシフトでは、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段−模擬2速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬3速ギヤ段−模擬5速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬6速ギヤ段−模擬8速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬9速ギヤ段−模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。尚、図4では、アップシフトとダウンシフトとで、ATギヤ段に対して割り当てられる模擬ギヤ段が異なる場合がある一例を示したが、同じであっても良い。
図5は、図3と同じ共線図上に有段変速部20のATギヤ段と複合変速機40の模擬ギヤ段とを例示した図である。図5において、実線は、有段変速部20がAT2速ギヤ段のときに、模擬4速ギヤ段−模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものである。複合変速機40では、出力回転速度ωoに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度ωeとなるように無段変速部18が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、破線は、有段変速部20がAT3速ギヤ段のときに、模擬7速ギヤ段が成立させられる場合を例示したものである。複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部18が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
図1に戻り、車両10は、車輪(駆動輪28、不図示の従動輪)にホイールブレーキトルクによる制動トルクを付与する制動装置としてのホイールブレーキ装置55を備えている。ホイールブレーキ装置55は、運転者による例えばブレーキペダル操作による制動操作などに応じて、ホイールブレーキに設けられたホイールシリンダへブレーキ油圧(制動油圧ともいう)を供給する。このホイールブレーキ装置55では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキペダルの踏力に対応した大きさのブレーキフルード圧力であるマスタシリンダ油圧Pmcが直接的に制動油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置55では、例えば制動力協調制御、ABS制御、トラクション制御、VSC制御、ヒルホールド制御、又はクルーズ走行制御等の走行制御時などには、減速走行中の回生トルクに置き換えられるホイールブレーキトルクの発生、低μ路での車両10の制動、発進、旋回走行、坂路途中の車両停止の維持、又は前方車両との車間距離維持などの為に、ブレーキペダルの踏力に対応する制動油圧とは別に、各制御で必要な制動油圧がホイールシリンダへ供給される。尚、ブレーキペダルの踏力に替えて、ブレーキ操作量などを用いても良い。
又、車両10は、エンジン14、無段変速部18、及び有段変速部20などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置80を備えている。よって、図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、出力回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、ブレーキスイッチ71、Gセンサ72、シフトポジションセンサ74、運転者がクルーズ走行制御による走行を設定する為のクルーズ制御スイッチ75、バッテリセンサ76、油温センサ78、マスタシリンダ圧力センサ79など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度ωe、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度ωg、AT入力回転速度ωiであるMG2回転速度ωm、車速Vに対応する出力回転速度ωo、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量としてのアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為の運転者によるブレーキペダル操作が為された制動操作状態を示す信号であるブレーキオンBon、車両10の前後加速度G、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー56の操作位置である操作ポジションPOSsh、クルーズ制御信号Scrs、バッテリ52のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、係合装置CBの油圧アクチュエータへ供給される作動油の温度である作動油温THoil、ブレーキマスタシリンダから発生させられるマスタシリンダ油圧Pmcなど)が、それぞれ供給される。運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量であるアクセル操作量である。又、電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置58、インバータ50、油圧制御回路54、ホイールブレーキ装置55など)に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、ホイールブレーキトルクを制御する為のブレーキ制御指令信号Sbなど)が、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、有段変速部20の変速を制御する為の油圧制御指令信号でもあり、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbを調圧する各ソレノイドバルブSL1−SL4等を駆動する為の指令信号である。電子制御装置80は、係合装置CBの狙いの係合トルクTcbを得る為の、各油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧PRcbの値に対応する油圧指示値を設定し、その油圧指示値に応じた駆動電流又は駆動電圧を油圧制御回路54へ出力する。
シフトレバー56の操作ポジションPOSshは、例えばP,R,N,D,M操作ポジションである。P操作ポジションは、複合変速機40がニュートラル状態とされ且つ機械的に出力軸22の回転が阻止された、複合変速機40のパーキングポジション(Pポジションともいう)を選択するパーキング操作ポジションである。複合変速機40のニュートラル状態は、例えば係合装置CBの何れもの解放によって有段変速部20が動力伝達不能なニュートラル状態とされることで実現される。出力軸22の回転が阻止された状態は、出力軸22が回転不能にロックされた状態である。R操作ポジションは、有段変速部20のAT1速ギヤ段が形成された状態で後進用のMG2トルクTmによる車両10の後進走行を可能とする、複合変速機40の後進走行ポジション(Rポジションともいう)を選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、複合変速機40がニュートラル状態とされた、複合変速機40のニュートラルポジション(Nポジションともいう)を選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、例えば模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段の総ての模擬ギヤ段を用いて自動変速制御を実行して前進走行を可能とする、複合変速機40の前進走行ポジション(Dポジションともいう)を選択する前進走行操作ポジションである。操作ポジションPOSshがD操作ポジションにあるときには、例えば後述する模擬ギヤ段変速マップのような変速マップに従って複合変速機40を自動変速する自動変速モードが成立させられる。M操作ポジションは、運転者によるシフト操作によって複合変速機40の模擬ギヤ段を切り替える手動変速を可能とする手動変速操作ポジションである。運転者によるシフト操作は、例えばM操作ポジションを挟むように設けられたアップシフト操作ポジション及びダウンシフト操作ポジションの何れかへシフトレバー56を操作することによるシフト操作である。アップシフト操作ポジションへのシフト操作はアップシフト操作であり、ダウンシフト操作ポジションへのシフト操作はダウンシフト操作である。操作ポジションPOSshがM操作ポジションにあるときには、運転者によるシフト操作により複合変速機40を変速することが可能な手動変速モードが成立させられる。車両10は、例えばステアリングホイールに設けられた、アップシフトスイッチ及びダウンシフトスイッチを有するパドルスイッチを備えている場合がある。このような場合、運転者によるシフト操作は、そのようなパドルスイッチを操作することによるシフト操作である。アップシフトスイッチにおけるシフト操作はアップシフト操作であり、ダウンシフトスイッチにおけるシフト操作はダウンシフト操作である。尚、車両10にパドルスイッチが設けられている場合には、シフトレバー56の操作ポジションPOSshとして必ずしもM操作ポジションが設けられている必要はない。又、車両10にパドルスイッチが設けられている場合には、操作ポジションPOSshがD操作ポジションにあるときであっても、パドルスイッチが操作されると手動変速モードが成立させられて、複合変速機40の模擬ギヤ段を切り替えることが可能である。複合変速機40の模擬ギヤ段を切り替えることは、複合変速機40を変速することである。D操作ポジションでの運転者によるパドルスイッチの操作を、「D」パドル操作と称する。このように、シフトレバー56やパドルスイッチは、人為的に操作されることで複合変速機40のシフトポジションの切替え要求を受け付ける切替操作部材として機能する。
電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ52の充電状態を示す値(以下、充電状態SOC[%]という)を算出する。又、電子制御装置80は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ52の充電状態SOCに基づいて、バッテリ52のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する充放電可能電力Win,Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、バッテリ52の入力電力の制限を規定する入力可能電力としての充電可能電力Win、及びバッテリ52の出力電力の制限を規定する出力可能電力としての放電可能電力Woutである。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電状態SOCが高い領域では充電状態SOCが高い程小さくされる。又、放電可能電力Woutは、例えば充電状態SOCが低い領域では充電状態SOCが低い程小さくされる。
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部82、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部84、及び走行制御手段すなわち走行制御部86を備えている。
AT変速制御部82は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えばATギヤ段変速マップを用いて有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部20の変速制御を実行して有段変速部20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1−SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路54へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば出力回転速度ωo及びアクセル開度θaccを変数とする二次元座標上に、有段変速部20の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、出力回転速度ωoに替えて車速Vなどを用いても良いし、又、アクセル開度θaccに替えて要求駆動トルクTdemやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、アップシフトが判断される為のアップシフト線、及びダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。この各変速線は、あるアクセル開度θaccを示す線上において出力回転速度ωoが線を横切ったか否か、又は、ある出力回転速度ωoを示す線上においてアクセル開度θaccが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値である変速点を横切ったか否かを判断する為のものであり、この変速点の連なりとして予め定められている。
ハイブリッド制御部84は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ50を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部84は、予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで要求駆動パワーPdemを算出する。この要求駆動パワーPdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdemである。ハイブリッド制御部84は、バッテリ52の充放電可能電力Win,Wout等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するように、エンジン14を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度ωeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン14のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度ωgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度ωmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速部18を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度ωeとエンジントルクTeとなるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部18の無段変速制御を実行して無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γtが制御される。
ハイブリッド制御部84は、例えば無段変速部18を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部82による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度ωoに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωeを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力回転速度ωoの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。
ハイブリッド制御部84は、手動変速モードが成立させられているときには、運転者によるシフト操作に応じた模擬ギヤ段を成立させるように、AT変速制御部82による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して無段変速部18の変速制御を実行する。このように、AT変速制御部82及びハイブリッド制御部84は、複合変速機40のギヤ段である模擬ギヤ段を選択する運転者によるシフト操作に応じて複合変速機40の模擬ギヤ段を切り替えることが可能な変速制御手段すなわち変速制御部として機能する。
上記模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力回転速度ωo及びアクセル開度θaccをパラメータとして予め定められている。図6は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップシフト線であり、破線はダウンシフト線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された複合変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬変速制御が実行されても良い。
ハイブリッド制御部84による模擬変速制御と、AT変速制御部82による有段変速部20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段−AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。その為、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図6における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1→2」等参照)。又、図6における模擬ギヤ段の「2←3」、「5←6」、「8←9」の各ダウンシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1←2」等参照)。又は、図6の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部82に対して出力するようにしても良い。このように、有段変速部20のアップシフト時は、複合変速機40全体のアップシフトが行われる一方で、有段変速部20のダウンシフト時は、複合変速機40全体のダウンシフトが行われる。AT変速制御部82は、有段変速部20のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれる為、エンジン回転速度ωeの変化を伴って有段変速部20の変速が行なわれるようになり、その有段変速部20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
ハイブリッド制御部84は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。又、ハイブリッド制御部84は、要求駆動パワーPdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ52の充電状態SOCが予め定められた閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。
走行制御部86は、運転者による運転操作に因らず車速Vを制御して走行する走行制御を行うことが可能である。運転者による運転操作に因らず車速Vを制御して走行する走行制御は、例えば運転者によるアクセル操作及びブレーキ操作に因ることなく、運転者がクルーズ制御スイッチ75によって設定した設定値に基づいて、目標車速及び/又は先行車両に対する目標車間距離を維持するように制御しつつ、アクセル操作及びブレーキ操作を除く操舵操作などの他の運転操作を運転者が行うことによって走行するクルーズ走行を可能とするクルーズ走行制御である。尚、走行制御部86は、運転者による運転操作に因らず車速Vを制御して走行する走行制御とは別の走行制御として、アクセル操作、ブレーキ操作、操舵操作などの運転操作を運転者が行うことによって走行する通常走行を可能とする通常走行制御を実行することができる。
走行制御部86は、運転者がクルーズ制御スイッチ75によって設定した設定車速等の各種設定値に基づいて目標車速等の目標走行状態を設定する。走行制御部86は、目標走行状態に基づいて加減速と制動とを自動的に行うことでクルーズ走行制御を行う。この加減速は車両10の加速と車両10の減速とであり、ここでの減速には制動を含めても良い。具体的には、走行制御部86は、目標走行状態に基づいてクルーズ走行制御を実現する為の要求駆動トルク(要求駆動力も同意)又は要求制動トルク(要求制動力も同意)を算出する。走行制御部86は、要求駆動トルク又は要求制動トルクが得られるように、エンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を制御する指令をハイブリッド制御部84に出力する。走行制御部86は、要求制動トルクのうちでホイールブレーキにて賄う制動トルク分を演算し、その制動トルク分が得られるようにホイールブレーキトルクを制御する指令をホイールブレーキ装置55に出力する。これらの結果、エンジン14や回転機MG1,MG2や有段変速部20が制御されて、所望する駆動トルク又は制動トルクが得られる。ここでの制動トルクは、エンジン14によるエンジンブレーキトルクや第2回転機MG2による回生ブレーキトルクやホイールブレーキ装置55によるホイールブレーキトルクである。
ハイブリッド制御部84は、クルーズ走行制御が行われている走行中に運転者によるダウンシフト操作によって選択された複合変速機40の模擬ギヤ段が所定ギヤ段よりも高車速側の模擬ギヤ段である場合には、その選択された模擬ギヤ段への切替えを実行しない。この際、模擬ギヤ段を表示する表示装置が車両10に備えられているのであれば、この表示装置に表示する模擬ギヤ段については、運転者によるダウンシフト操作に応じた模擬ギヤ段としても良い。一方で、ハイブリッド制御部84は、クルーズ走行制御が行われている走行中に前記選択された模擬ギヤ段が前記所定ギヤ段以下の低車速側の模擬ギヤ段である場合には、前記選択された模擬ギヤ段への切替えを実行する。走行制御部86は、クルーズ走行制御を行っている走行中に前記選択された模擬ギヤ段が前記所定ギヤ段よりも高車速側の模擬ギヤ段である場合には、クルーズ走行制御を継続する。一方で、走行制御部86は、クルーズ走行制御を行っている走行中に前記選択された模擬ギヤ段が前記所定ギヤ段以下の低車速側の模擬ギヤ段である場合には、クルーズ走行制御を終了する。このように、走行制御部86は、クルーズ走行制御を行っている走行中に運転者によるシフト操作に応じて複合変速機40の模擬ギヤ段が切り替えられる場合には、クルーズ走行制御を終了する。尚、模擬ギヤ段における高車速側は、複合変速機40の変速比γtが比較的小さなハイ側であり、模擬ギヤ段における低車速側は、複合変速機40の変速比γtが比較的大きなロー側である。
前記所定ギヤ段以下の低車速側のギヤ段は、クルーズ走行制御の継続よりも運転者によるダウンシフト操作に応じた模擬ギヤ段の切替えを優先する為の予め定められたギヤ段である。例えば、前記所定ギヤ段以下の低車速側のギヤ段は、現在の模擬ギヤ段に拘わらず一律に予め定められた模擬ギヤ段であり、前記所定ギヤ段が例えば模擬3速ギヤ段のような低車速側のギヤ段に設定されている。或いは、前記所定ギヤ段以下の低車速側のギヤ段は、現在の模擬ギヤ段に対して相対的な関係で予め定められた模擬ギヤ段であっても良い。これにより、運転者によるダウンシフト操作に応じた模擬ギヤ段の切替えが適切に行われる。
ここで、クルーズ走行制御が行われている走行中に運転者によるダウンシフト操作によって前記所定ギヤ段以下の低車速側の模擬ギヤ段が選択された場合について検討する。クルーズ走行制御での定速走行では、比較的ハイ側の模擬ギヤ段が用いられる。この状態で、ダウンシフト操作が繰り返し為されて、現在の模擬ギヤ段よりも2段以上低車速側の模擬ギヤ段となる前記所定ギヤ段が選択されると、クルーズ走行制御が終了させられると共に、比較的ハイ側の模擬ギヤ段からその所定ギヤ段への飛びダウンシフトが実行されることになる。以下に、前記所定ギヤ段として模擬3速ギヤ段が設定され、「D」パドル操作で模擬3速ギヤ段が選択された際にクルーズ走行制御が解除される態様を例示して、クルーズ走行制御解除時の減速トルクの変化やエンジン回転速度ωeの変化を説明する。
図7、図8は、各々、「D」パドル操作で各模擬ギヤ段を選択した際の減速トルクと車速Vとの関係を示している。図中の「M1」−「M10」は、模擬1速ギヤ段−模擬10速ギヤ段を示している。図7、図8において、クルーズ走行制御における模擬10速ギヤ段での定速走行中に「D」パドル操作で模擬3速ギヤ段が選択された場合、クルーズ走行制御が解除され、模擬3速ギヤ段へのダウンシフトが実行される。図7に示す実施態様では、模擬10速ギヤ段から直接的に模擬3速ギヤ段へのダウンシフトが実行されているので、クルーズ走行制御の解除と同時に減速トルクは模擬3速ギヤ段での減速トルクまで一度で立ち上がる。一方で、図8に示す実施態様では、模擬10速ギヤ段から模擬6速ギヤ段へのダウンシフトを経由して模擬3速ギヤ段へのダウンシフトが実行されているので、クルーズ走行制御解除時の減速トルクの変化は2段階となり、模擬3速ギヤ段へのダウンシフトによる早い減速トルクの立ち上がりが抑制される。
図9、図10は、各々、「D」パドル操作で各模擬ギヤ段を選択した際のエンジン回転速度ωeと車速Vとの関係を示している。図9、図10において、クルーズ走行制御における模擬10速ギヤ段での定速走行中に「D」パドル操作で模擬3速ギヤ段が選択された場合、クルーズ走行制御が解除され、模擬3速ギヤ段へのダウンシフトが実行される。図9に示す実施態様では、模擬10速ギヤ段から直接的に模擬3速ギヤ段へのダウンシフトが実行されているので、クルーズ走行制御の解除と同時にエンジン回転速度ωeは模擬3速ギヤ段でのエンジン回転速度ωeまで一度で立ち上がる。一方で、図10に示す実施態様では、模擬10速ギヤ段から模擬6速ギヤ段へのダウンシフトを経由して模擬3速ギヤ段へのダウンシフトが実行されているので、クルーズ走行制御解除時のエンジン回転速度ωeの変化は2段階となり、模擬3速ギヤ段へのダウンシフトによるエンジン回転速度ωeの吹き上がりが抑制される。
ところで、飛びダウンシフトは、大きな駆動力が要求された場合を想定して設計されている。その為、駆動力が小さいとダウンシフトを進行させるパワーが足らず、ドライバビリティを悪化させる懸念がある。そこで、模擬ギヤ段の切替えを伴うダウンシフト操作が為されたときの駆動力が大きいときのみ、経由する模擬ギヤ段の数を少なくするか、又は、1回の飛びダウンシフトの実行によって2段以上低車速側の模擬ギヤ段へ切り替える。つまり、ハイブリッド制御部84は、クルーズ走行制御が行われている走行中に複合変速機40の現在の模擬ギヤ段よりも2段以上低車速側の模擬ギヤ段を選択する運転者によるダウンシフト操作が為された場合には、そのダウンシフト操作が為されたときの駆動力が小さい程、複合変速機40の模擬ギヤ段を2段以上低車速側の模擬ギヤ段へ切り替えるときに経由する模擬ギヤ段の数を多くする。これにより、ダウンシフトが適切に進行させられる。又、副次的な効果として、現在の模擬ギヤ段と2段以上低車速側の模擬ギヤ段との間の中間ギヤ段を経由して2段以上低車速側の模擬ギヤ段へ切り替えるような複数のダウンシフトでは、1回の飛びダウンシフトと比較して、経由する模擬ギヤ段の数が多い程、急なエンジン回転速度ωeの吹き上がりや早い減速度の立ち上がりが抑制され易くなる。
前記ダウンシフト操作が為されたときの駆動力は、例えばそのダウンシフト操作が為されたときの、走行制御部86によるクルーズ走行制御における要求駆動力、クルーズ走行制御時のスロットル弁開度θth、又はクルーズ走行制御における指示車速である設定車速又は目標車速と実際の車速Vとの乖離量などである。これにより、ダウンシフト操作が為されたときの駆動力が適切に取得される。
駆動力が小さいとダウンシフトを進行させるパワーが足らないという観点とは別に、クルーズ走行制御での定速走行が降坂路走行である場合には、ダウンシフト操作が為されたときの減速度の立ち上がりは早い方が好ましいという観点もある。クルーズ走行制御での定速走行が登坂路走行である場合には、要求駆動力が比較的大きくされる一方で、クルーズ走行制御での定速走行が降坂路走行である場合には、要求駆動力が比較的小さくされる。その為、ハイブリッド制御部84は、クルーズ走行制御が行われている走行中に複合変速機40の現在の模擬ギヤ段よりも2段以上低車速側の模擬ギヤ段を選択する運転者によるダウンシフト操作が為された場合には、そのダウンシフト操作が為されたときの駆動力が小さい程、複合変速機40の模擬ギヤ段を2段以上低車速側の模擬ギヤ段へ切り替えるときに経由する模擬ギヤ段の数を少なくする。ここでの、経由する模擬ギヤ段の数を少なくするという態様には、1回の飛びダウンシフトの実行によって2段以上低車速側の模擬ギヤ段へ切り替えるという態様も含まれる。
以上示したように、ハイブリッド制御部84は、クルーズ走行制御が行われている走行中に複合変速機40の現在の模擬ギヤ段よりも2段以上低車速側の模擬ギヤ段を選択する運転者によるダウンシフト操作が為された場合には、そのダウンシフト操作が為されたときの駆動力に応じて、複合変速機40の模擬ギヤ段を2段以上低車速側の模擬ギヤ段へ切り替えるときに経由する模擬ギヤ段の数を変更する。
上述した実施態様では、運転者によるダウンシフト操作に応じて複合変速機40の模擬ギヤ段が2段以上低車速側の模擬ギヤ段へ切り替えられる場合に着目した。これとは別に、運転者によるダウンシフト操作に応じて複合変速機40の模擬ギヤ段が切り替えられるときに有段変速部20のATギヤ段が2段以上低車速側のATギヤ段へ切り替えられる場合に着目しても良い。つまり、AT変速制御部82は、クルーズ走行制御が行われている走行中に有段変速部20の現在のATギヤ段よりも2段以上低車速側のATギヤ段を選択する運転者によるダウンシフト操作が為された場合には、そのダウンシフト操作が為されたときの駆動力に応じて、有段変速部20のATギヤ段を2段以上低車速側のATギヤ段へ切り替えるときに経由するATギヤ段の数を変更する。
前記所定ギヤ段として設定された複合変速機40の模擬3速ギヤ段では、ダウンシフトにおいては有段変速部20のATギヤ段はAT2速ギヤ段とされる(図4参照)。その為、有段変速部20においてAT2速ギヤ段へのダウンシフトが飛びダウンシフトとなるのは、AT4速ギヤ段からAT2速ギヤ段へのダウンシフトである。そのAT4速ギヤ段からAT2速ギヤ段へのダウンシフトとなるのは、例えば図7−図10で例示した、複合変速機40の模擬10速ギヤ段から模擬3速ギヤ段へのダウンシフトの場合である。その為、有段変速部20のATギヤ段を2段以上低車速側のATギヤ段へ切り替えるときに経由するATギヤ段の数を変更するという実施態様では、AT4速ギヤ段からAT2速ギヤ段へ一度でダウンシフトする飛び変速と、AT4速ギヤ段からAT3速ギヤ段を経由してAT2速ギヤ段へ順にダウンシフトする順番変速とが選択的に切り替えられる。図8、図10で示した模擬10速ギヤ段から模擬6速ギヤ段を経由して模擬3速ギヤ段へダウンシフトする実施態様は、AT4速ギヤ段からAT3速ギヤ段を経由してAT2速ギヤ段へ順にダウンシフトする順番変速に対応する実施態様でもある。
2段以上低車速側のATギヤ段へ切り替えるときに経由するATギヤ段の数を変更する実施態様が飛び変速と順番変速との2通りであるので、ダウンシフト操作が為されたときの駆動力Tpが所定駆動力T1を超えているか否かに基づいて飛び変速と順番変速とを選択的に実行する。例えば、AT変速制御部82は、クルーズ走行制御が行われている走行中に有段変速部20の現在のATギヤ段よりも2段以上低車速側のATギヤ段を選択する運転者によるダウンシフト操作が為された場合に、そのダウンシフト操作が為されたときの駆動力Tpが所定駆動力T1以下のときは、現在のATギヤ段と2段以上低車速側のATギヤ段との間の中間ギヤ段を経由して有段変速部20のATギヤ段を2段以上低車速側のATギヤ段へ切り替える。つまり、AT変速制御部82は、ダウンシフト操作が為されたときの駆動力Tpが所定駆動力T1を超えているときは飛び変速を実行する一方で、ダウンシフト操作が為されたときの駆動力Tpが所定駆動力T1以下のときは順番変速を実行する。前記所定駆動力T1は、例えば有段変速部20の飛びダウンシフトを許容できる駆動力Tpであることを判断する為の予め定められた閾値である。
ハイブリッド制御部84は、前記中間ギヤ段を経由して有段変速部20のATギヤ段が2段以上低車速側のATギヤ段へ切り替えられることに合わせて、エンジン回転速度ωeを上昇させるように無段変速部18の変速比γ0を変更する。つまり、ハイブリッド制御部84は、AT変速制御部82によって順番変速が実行されるときは、その順番変速でのATギヤ段に対応する模擬ギヤ段における複合変速機40の変速比γtとなるように無段変速部18を制御する。これにより、運転者によるダウンシフト操作に応じた複合変速機40のダウンシフトが実行される。
具体的には、電子制御装置80は、減速度の立ち上がりの早さを必要に応じて変える制御機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部88を備えている。
状態判定部88は、走行制御部86によるクルーズ走行制御が行われているクルーズ走行中であるか否か、すなわちクルーズコントロール中であるか否かを判定する。
状態判定部88は、クルーズコントロール中であると判定した場合には、クルーズ走行制御の解除を要求する、クルーズ解除要求が有るか否かを判定する。例えば、状態判定部88は、クルーズ走行中に、前記所定ギヤ段以下の低車速側の模擬ギヤ段を選択するような運転者による「D」パドル操作等のダウンシフト操作が為されたか否かを判定する。
状態判定部88は、クルーズ解除要求が有ると判定した場合には、運転者によるダウンシフト操作に応じたダウンシフトが有段変速部20の飛びダウンシフトを要求するものであるか否か、すなわち有段変速部20の飛びダウンシフト要求が有るか否かを判定する。
状態判定部88は、有段変速部20の飛びダウンシフトの要求が有ると判定した場合には、ダウンシフト操作が為されたときの駆動力Tpが所定駆動力T1を超えているか否かを判定する。
AT変速制御部82は、状態判定部88により駆動力Tpが所定駆動力T1を超えていると判定された場合には、有段変速部20の飛び変速を実行する。AT変速制御部82は、状態判定部88により駆動力Tpが所定駆動力T1以下であると判定された場合には、有段変速部20の順番変速を実行する。
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち車速Vを制御して走行する走行制御が行われている走行中に2段以上低車速側のギヤ段を選択するダウンシフト操作が為された際に減速度の立ち上がりの早さを必要に応じて変える為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば走行中に繰り返し実行される。図12は、図11のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例である。
図11において、先ず、状態判定部88の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、クルーズコントロール中であるか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は状態判定部88の機能に対応するS20において、クルーズ解除要求が有るか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合は状態判定部88の機能に対応するS30において、有段変速部20の飛びダウンシフト要求が有るか否かが判定される。上記S10、上記S20、及び上記S30のうちの何れかの判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられる。上記S30の判断が肯定される場合は状態判定部88の機能に対応するS40において、有段変速部20の飛びダウンシフト要求が有った時の駆動力Tpが所定駆動力T1を超えているか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合はAT変速制御部82の機能に対応するS50において、有段変速部20の飛び変速が実行される。一方で、上記S40の判断が否定される場合はAT変速制御部82の機能に対応するS60において、有段変速部20の順番変速が実行される。
図12は、運転者による「D」パドル操作によってクルーズ走行制御が解除された場合の実施態様の一例を示している。図12において、クルーズコントロール中、アクセル操作やブレーキ操作が行われず、「D」パドル操作でのダウンシフト操作が行われている(t1時点以前参照)。この際、車両10では、ダウンシフト操作を受け付けて、表示装置に表示する模擬ギヤ段はダウンシフト操作に応じた模擬ギヤ段に更新されるが、実際の模擬ギヤ段やATギヤ段、及び要求駆動力は変更されず、クルーズ走行制御において設定された目標車速を実現するだけの駆動力が出力される。この実施態様では、模擬ギヤ段として模擬10速ギヤ段が設定されている。そして、「D」パドル操作にて、前記所定ギヤ段として設定された模擬3速ギヤ段が選択されると、クルーズ走行制御が解除されると共に、「D」パドル操作で選択された模擬3速ギヤ段へのダウンシフトが開始される(t1時点参照)。この際、実線に示すように、要求駆動力が所定駆動力T1以下である場合には、ATギヤ段の飛び変速が回避され、AT4速ギヤ段からAT3速ギヤ段へのダウンシフトを経由してAT2速ギヤ段へ順にダウンシフトする順番変速が実行される(t1時点以降参照)。模擬ギヤ段も図4のギヤ段割当テーブルの関係に従い、模擬10速ギヤ段から模擬6速ギヤ段へのダウンシフトを経由して模擬3速ギヤ段へダウンシフトされる。これにより、実線で示す本実施例では、図12中の太破線で示した、AT4速ギヤ段からAT2速ギヤ段への飛び変速を実行した場合の比較例と比べて、エンジン回転速度ωeの吹き上がりや被駆動トルクの増加速度が抑制され得る。
上述のように、本実施例によれば、クルーズ走行中に2段以上低車速側のギヤ段を選択するダウンシフト操作が為された場合には、そのダウンシフト操作が為されたときの駆動力に応じて、その2段以上低車速側のギヤ段へ切り替えるときに経由するギヤ段の数が変更されるので、1回の飛びダウンシフトの実行によって2段以上低車速側のギヤ段へ切り替えられ得たり、複数のダウンシフトの実行によって2段以上低車速側のギヤ段へ切り替えられ得る。複数のダウンシフトでは、1回の飛びダウンシフトと比較して、早い減速度の立ち上がりが抑制される。よって、クルーズ走行中に2段以上低車速側のギヤ段を選択するダウンシフト操作が為された際に、減速度の立ち上がりの早さを必要に応じて変えることができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施例では、前述の実施例1で示した無段変速部18と有段変速部20とを直列に備える車両10とは別の、図13に示すような車両100を例示する。
図13において、車両100は、動力源として機能するエンジン102と、動力源として機能する回転機MGと、動力伝達装置104とを備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置104は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース106内において、エンジン102側から順番に、クラッチK0、トルクコンバータ108、及び自動変速機110等を備えている。又、動力伝達装置104は、差動歯車装置112、車軸114等を備えている。トルクコンバータ108のポンプ翼車108aは、クラッチK0を介してエンジン102と連結されていると共に、直接的に回転機MGと連結されている。トルクコンバータ108のタービン翼車108bは、自動変速機110と直接的に連結されている。動力伝達装置104において、エンジン102の動力及び/又は回転機MGの動力は、クラッチK0、トルクコンバータ108、自動変速機110、差動歯車装置112、車軸114等を順次介して車両100が備える駆動輪116へ伝達される。クラッチK0を介して動力が伝達されるのは、エンジン102の動力を伝達する場合である。自動変速機110は、前記動力源(エンジン102、回転機MG)と駆動輪116との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機であって、前述の実施例1で示した有段変速部20と同様に、機械式変速機構であり、複数の係合装置Cのうちの何れかの係合装置の係合によって複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される、公知の遊星歯車式の自動変速機である。又、車両100は、インバータ118と、インバータ118を介して回転機MGに対して電力を授受する蓄電装置としてのバッテリ120と、制御装置122とを備えている。
制御装置122は、クラッチK0を解放し、エンジン102の運転を停止した状態で、バッテリ120からの電力を用いて回転機MGのみを走行用の動力源とするモータ走行を可能とする。制御装置122は、クラッチK0を係合した状態でエンジン102を運転させて、エンジン102を走行用の動力源とするハイブリッド走行を可能とする。制御装置122は、ハイブリッド走行を可能とするハイブリッド走行モードでは、バッテリ120からの電力を用いて回転機MGが発生する駆動トルクを更に付加して走行したり、又は、エンジン102の動力により回転機MGで発電を行い、回転機MGの発電電力をバッテリ120に蓄電することも可能である。回転機MGは、電動機としての機能及び発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。回転機MGは、制御装置122によってインバータ118が制御されることにより、出力トルク(力行トルク又は回生トルク)が制御される。
制御装置122は、前述の実施例1における電子制御装置80が備える、AT変速制御部82、ハイブリッド制御部84、走行制御部86、及び状態判定部88の各機能と同等の機能を有している。制御装置122は、電子制御装置80と同様に、減速度の立ち上がりの早さを必要に応じて変える制御機能を実現することが可能である。
本実施例によれば、前述の実施例1と同様の効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、運転者による運転操作に因らず車速Vを制御して走行する走行制御として、クルーズ走行制御を例示したが、この態様に限らない。例えば、運転者による運転操作に因らず車速Vを制御して走行する走行制御は、アクセル操作、ブレーキ操作、操舵操作などの運転者の運転操作等に因ることなく、地図情報、道路情報などのうちの少なくとも1つの情報に基づいて自動的に目標走行状態を設定し、その目標走行状態や各種センサからの信号等に基づく電子制御装置80による制御により加減速、制動、操舵などを自動的に行うことによって走行する自動運転走行を可能とする自動運転走行制御であっても良い。
また、前述の実施例では、クルーズ走行中に運転者によるダウンシフト操作によって選択された模擬ギヤ段が所定ギヤ段よりも高車速側の模擬ギヤ段である場合には、クルーズ走行制御を継続し、その選択された模擬ギヤ段への切替えを実行しなかったが、この態様に限らない。例えば、クルーズ走行中に運転者によるダウンシフト操作が為された場合には、クルーズ走行制御を終了し、そのダウンシフト操作に応じた模擬ギヤ段の切替えを実行しても良い。このような場合、例えば短時間に運転者によるダウンシフト操作が連続して為されると、そのときの最後のダウンシフト操作が有効とされて、現在のギヤ段よりも2段以上低車速側の模擬ギヤ段が選択され、その2段以上低車速側の模擬ギヤ段へのダウンシフトが実行される。
また、前述の実施例1では、車両10は、シングルピニオン型の遊星歯車装置である差動機構32を有して、電気式変速機構として機能する無段変速部18を備えていたが、この態様に限らない。例えば、無段変速部18は、差動機構32の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限される変速機構であっても良い。又、差動機構32は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構32は、エンジン14によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材30が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、差動機構32は、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
また、前述の実施例2において、車両100は、回転機MGやクラッチK0を備えず、自動変速機110の入力側にエンジン102が連結されるような車両であっても良い。要は、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。尚、車両100では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ108が用いられているが、トルク増幅作用のない流体継手などの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又、トルクコンバータ108は、必ずしも設けられなくても良いし、或いは、単なるクラッチに置き換えられても良い。
また、前述の実施例において、変速機として、有段変速部20、複合変速機40、自動変速機110を例示したが、この態様に限らない。例えば、本発明を適用することができる変速機としては、無段変速部18のような電気式の無段変速機(CVT)でも良いし、又は、同期噛合型平行2軸式自動変速機、その同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備える公知のDCT(Dual Clutch Transmission)、ベルト式の無段変速機等の公知の無段変速可能な機械式の無段変速機などの自動変速機であっても良い。変速機が無段変速機である場合には、その変速機のギヤ段は、変速比が段階的に設定された、模擬ギヤ段のような擬似的に形成されるギヤ段となる。このような擬似的に形成されるギヤ段は、例えばエンジン回転速度ωeの高さの違いに相当する。
また、前述の実施例1では、4種類のATギヤ段に対して10種類の模擬ギヤ段を割り当てる実施態様を例示したが、この態様に限らない。好適には、模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数以上であれば良く、ATギヤ段の段数と同じであっても良いが、ATギヤ段の段数よりも多いことが望ましく、例えば2倍以上が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材30やその中間伝達部材30に連結される第2回転機MG2の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、又、模擬ギヤ段の変速は、エンジン回転速度ωeが所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それら各々の段数は適宜定められる。
また、前述の実施例1では、シフトレバー56の操作ポジションPOSshの一つであるM操作ポジションは、運転者によるシフトレバー56の操作によって複合変速機40のギヤ段を切り替える手動変速を可能とする手動変速操作ポジションであったが、この態様に限らない。例えば、M操作ポジションは、複合変速機40の変速可能なハイ側のギヤ段が異なる複数種類の変速範囲(変速レンジ)を切り替えることにより手動変速を可能とする手動変速操作ポジションであっても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。