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JP6830294B1 - トレハロースを含む哺乳動物細胞保存用液 - Google Patents

トレハロースを含む哺乳動物細胞保存用液 Download PDF

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Abstract

本発明は、哺乳動物細胞を液体中で保存したときに生じる細胞生存率低下や、哺乳動物幹細胞を液体中で保存したときに生じる自己複製能低下を効果的に抑制でき、かつ、哺乳動物細胞を、哺乳動物の生体内に投与したときに、哺乳動物の生態に悪影響を及ぼす可能性の低い哺乳動物細胞保存用液等を提供することを課題とし、その解決手段としては、トレハロース若しくはその誘導体又はこれらの塩、及び、pH調整剤としての炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素塩を含み、かつ、pHが6.5〜8.5である哺乳動物細胞保存用液を用いて哺乳動物細胞を保存する。

Description

本発明は、トレハロース若しくはその誘導体又はこれらの塩(以下、これらを総称して「トレハロース類」ということがある)を含み、かつ、水素イオン指数(pH)が6.5〜8.5である哺乳動物細胞保存用液(以下、「本件哺乳動物細胞保存用液」ということがある)や、本件哺乳動物細胞保存用液を用いて哺乳動物細胞を保存する方法等に関する。
近年、幹細胞研究の急速な発展によって再生医療への気運は高まっており、その知識や理解は、研究者のみならず、一般にも広く普及してきている。幹細胞を用いた再生医療は、幹細胞が有する自己複製能と多分化能や、幹細胞が分泌する因子を利用して、様々な疾患で損傷を受けた細胞や組織の機能を回復させることを目的とした医療である。白血病や再生不良性貧血などの血液難病の患者に骨髄移植をすると、造血系幹細胞が患者体内に生着し、ほぼ一生にわたって造血能の維持が可能となる。また、最近では多くの研究者が造血幹細胞以外の幹細胞を用いた臨床応用を目指し、中枢神経、末梢神経、骨髄、小腸などにおける幹細胞を同定し、外傷性疾患や組織変性疾患に対する組織幹細胞の移植治療が実践され始めている(非特許文献1〜3)。他方、がん免疫細胞療法は、がんを攻撃する働きを有する免疫細胞を体外に取り出し、その働きを強化後、再び体内に戻すという最先端の細胞医療であり、樹状細胞ワクチン療法、アルファ・ベータT細胞療法(αβT細胞療法)、ガンマ・デルタT細胞療法(γδT細胞療法)、CTL療法、ナチュラルキラー細胞療法(NK細胞療法)などのT細胞を用いた療法が実践されている。
移植治療に用いる幹細胞やT細胞を長期保存する場合、液体中での保存では細胞生存率を良好に保つことができない。例えば、ヒト骨髄幹細胞を生理食塩水中に冷蔵保存(4℃)すると、細胞生存率が48時間後には40%以下まで低下し、72時間後には20%以下まで低下することが報告されている(非特許文献4)。このため、移植用幹細胞や移植用T細胞を長期保存する場合、凍結保存することが一般的である。しかし、凍結保存液中には、通常DMSO、グリセロール等の凍結保存剤が添加されているため、凍結保存した幹細胞やT細胞を解凍した後、移植治療を行う前に凍結保存剤を除去する必要があり、手間がかかることが問題とされていた。また、凍結保存液に凍結保存剤を添加しても凍結時の水の結晶化による細胞骨格のダメージが大きく、凍結融解後の細胞生存率が低下することも問題とされていた。このため、簡便性に優れ、且つ細胞生存率の低下を抑制できる細胞保存液の開発が急務とされていた。
本発明者らは、トレハロースには、哺乳動物細胞を液体中で保存したときに生じる細胞生存率低下を、抑制する作用があることを報告している(特許文献1及び2)。しかしながら、これら液のpHを調整したときに、細胞生存率低下を抑制する効果がさらに高まることや、哺乳動物幹細胞の自己複製能低下を抑制する効果があることについては知られていなかった。
特開2012−115253号公報 国際公開第2014/208053号パンフレット
Gage, F.H. Science 287: 1433-1438 (2000) Morrison, S.J. et al., Cell 96: 737-749 (1999) Batle, E. et al., Cell 111: 251-263 (2002) Lane, T.A. et al., Transfusion 49: 1471-1481 (2009)
本発明の課題は、哺乳動物細胞を液体中で保存したときに生じる細胞生存率低下や、哺乳動物幹細胞を液体中で保存したときに生じる自己複製能低下を効果的に抑制でき、かつ、哺乳動物細胞を、哺乳動物の生体内に投与したときに、哺乳動物の生態に悪影響を及ぼす可能性の低い哺乳動物細胞保存用液等を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、トレハロース類と、pH調整剤としての炭酸水素塩とを含み、かつ、pHが6.5〜8.5である液中に、哺乳動物細胞を保存すると、当該液がpHの緩衝作用を有しない場合であっても、細胞死が効果的に抑制され、生細胞の割合を高めることができることを見いだした。また、当該液中に哺乳動物幹細胞を保存すると、当該液がpHの緩衝作用を有しない場合であっても、哺乳動物幹細胞の自己複製能低下が効果的に抑制されることも確認した。本発明は、これらの知見に基づき、完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕トレハロース若しくはその誘導体又はこれらの塩、及び、pH調整剤としての炭酸水素塩を含み、かつ、pHが6.5〜8.5である哺乳動物細胞保存用液。
〔2〕炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである、上記〔1〕に記載の保存用液。
〔3〕さらに、多糖類若しくはその誘導体又はこれらの塩を含む、上記〔1〕又は〔2〕に記載の保存用液。
〔4〕等張液である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔5〕等張液が、乳酸リンゲル液である、上記〔4〕に記載の保存用液。
〔6〕多糖類が、デキストランである、上記〔3〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔7〕トレハロース若しくはその誘導体又はこれらの塩の濃度が、2.0〜6.0(w/v)%である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔8〕デキストラン若しくはその誘導体又はこれらの塩の濃度が、4.0〜7.0(w/v)%である、上記〔6〕又は〔7〕に記載の保存用液。
〔9〕哺乳動物細胞を0〜40℃で保存するための、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔10〕哺乳動物細胞を6時間〜14日間保存するための、上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔11〕哺乳動物細胞の生存率低下を抑制するために用いられる、上記〔1〕〜〔10〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔12〕哺乳動物細胞の自己複製能低下を抑制するために用いられる、上記〔1〕〜〔11〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔13〕哺乳動物細胞の移植に用いられる、上記〔1〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔14〕哺乳動物細胞が、哺乳動物幹細胞である、上記〔1〕〜〔13〕のいずれか1項に記載の保存用液。
〔15〕哺乳動物幹細胞が、哺乳動物間葉系幹細胞である、上記〔14〕に記載の保存用液。
〔16〕トレハロース若しくはその誘導体又はこれらの塩、及び、pH調整剤としての炭酸水素塩を含む、上記〔1〕〜〔15〕のいずれか1項に記載の保存用液を調製するための粉末製剤。
[17]炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである、上記[16]に記載の粉末製剤
〔18〕トレハロース若しくはその誘導体又はこれらの塩、及び、pH調整剤としての炭酸水素塩を含み、かつ、pHが6.5〜8.5である保存用液中で、哺乳動物細胞を保存する工程を含む、哺乳動物細胞の保存方法。
〔19〕炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである、上記〔18〕に記載の保存方法。
〔20〕保存用液が、さらに、多糖類若しくはその誘導体又はこれらの塩を含む、上記〔18〕又は〔19〕に記載の保存方法。
〔21〕保存用液が等張液である、上記〔18〕〜〔20〕のいずれか1項に記載の保存方法。
〔22〕等張液が乳酸リンゲル液である、上記〔21〕に記載の保存方法。
〔23〕多糖類が、デキストランである、上記〔20〕〜〔22〕のいずれか1項に記載の保存方法。
〔24〕保存用液中で、哺乳動物細胞を6時間〜14日保存することを特徴とする上記〔18〕〜〔23〕のいずれか1項に記載の保存方法。
また本発明の実施の他の形態として、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液を、哺乳動物細胞の移植を必要とする対象(例えば、外傷性疾患患者、組織変性疾患患者、がん患者)へ投与する工程を含む、哺乳動物細胞の移植方法;や、トレハロース類を含む液(好ましくは等張液)に、哺乳動物細胞を加えるか、或いは、哺乳動物細胞を含む液(好ましくは等張液)に、トレハロース類を加え、さらに、当該液のpHを6.5〜8.5に調整することにより、本件哺乳動物細胞保存用液を調製する工程と、調製した本件哺乳動物細胞保存用液中で、哺乳動物細胞を保存する工程と、保存した哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液を、哺乳動物細胞の移植を必要とする対象(例えば、外傷性疾患患者、組織変性疾患患者、がん患者)へ投与する工程とを含む、哺乳動物細胞の移植方法;や、本件哺乳動物細胞保存用液の製造における、トレハロース類の使用や、液体中の哺乳動物細胞の生存率低下を抑制するための、トレハロース類の使用;や、哺乳動物細胞移植治療を必要とする疾患(例えば、外傷性疾患、組織変性疾患、がん)の治療における使用のための、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液;や、トレハロース類を含む液(好ましくは等張液)に、哺乳動物細胞を加えるか、或いは、哺乳動物細胞を含む液(好ましくは等張液)に、トレハロース類を加え、さらに、当該液のpHを6.5〜8.5に調整することにより、本件哺乳動物細胞保存用液を調製する工程を含む、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液の調製方法;や、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液;を挙げることができる。なお、上記移植方法の、哺乳動物細胞を保存する工程は、通常、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液を、当該保存用液が液体の状態で存在する温度条件下で保存するものであり、当該保存用液が固体の状態で保存する工程(例えば、凍結保存する工程、凍結乾燥保存する工程等の哺乳動物細胞を休眠状態で保存する工程)を含まない。
本発明によると、トレハロース類を液体中に加え、さらに、当該液のpHを6.5〜8.5に調整することにより、哺乳動物細胞を液体中に保存したときに生じる細胞生存率低下や、哺乳動物幹細胞を液体中で保存したときに生じる自己複製能低下を効果的に抑制することができる。さらに、トレハロース類は、哺乳動物の生体内に投与した場合に、哺乳動物の生態に悪影響を及ぼす可能性の低い二糖類であることから、哺乳動物細胞を本件哺乳動物細胞保存用液中で保存した後、新しい移植用液に置換することなく、そのまま哺乳動物の生体内へ投与することができる。
実施例1〜3及び比較例1〜3において、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hAD−MSC;Human Adipose tissue-derived Mesenchymal Stem Cell)を、各保存期間(1日、2日間、4日間、7日間、及び14日間)トレハロース含有保存液CSP−01中で保存したときの細胞生存率(図1A)及び生細胞回収率(図1B)を測定した結果を示す図である。 実施例6〜10及び比較例6において、hAD−MSCを、各保存期間(24時間、48時間、96時間、及び168時間)トレハロース含有保存液CSP−01中で保存したときの細胞生存率(図2A)及び生細胞回収率(図2B)を測定した結果を示す図である。 実施例11〜14並びに比較例6及び7において、hAD−MSCを、各保存期間(24時間、48時間、96時間、及び168時間)トレハロース含有保存液CSP−01中で保存したときの細胞生存率(図3A)及び生細胞回収率(図3B)を測定した結果を示す図である。 ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBM−MSC;Human Bone Marrow Mesenchymal Stem Cell)を、トレハロース含有保存液CSP−01 (pH5.6未調整)、CSP−01(pH7.3NaOH)及びCSP−01(7.2NaHCO)中、5℃で3日間保存したときの細胞生存率を測定した結果を保存前(pre)の測定結果と合わせて示す図である。
本発明の哺乳動物細胞保存用液は、「哺乳動物細胞を保存するため」という用途に特定された、トレハロース類を含み、かつ、pHが6.5〜8.5である液(すなわち、本件哺乳動物細胞保存用液)である。なお、特許文献2において、哺乳動物細胞の保存に用いたトレハロースを含む乳酸リンゲル液や、トレハロース及びデキストランを含む乳酸リンゲル液は、それぞれ、後述する本実施例のCSP−01液(比較例3、4)及びCSP−11液(比較例5、7)に相当するpHが6.5未満の液であり、本件哺乳動物細胞保存用液とは異なる。
本件哺乳動物細胞保存用液におけるpHとしては、6.5〜8.5の範囲内であればよく、例えば、6.5〜8.4;6.5〜8.3;6.5〜8.2;6.5〜8.1;6.5〜8.0;6.5〜7.9;6.5〜7.8;6.5〜7.7;6.5〜7.6;6.5〜7.5;6.5〜7.4;6.5〜7.3;6.5〜7.2;6.5〜7.1;6.5〜7.0;6.5〜6.9;6.5〜6.8;6.6〜8.5;6.7〜8.5;6.8〜8.5;6.9〜8.5;7.0〜8.5;7.1〜8.5;7.2〜8.5;7.3〜8.5;7.4〜8.5;7.5〜8.5;7.6〜8.5;7.7〜8.5;7.8〜8.5;7.9〜8.5;8.0〜8.5;8.1〜8.5;8.2〜8.5;6.6〜8.4;6.6〜8.3;6.6〜8.2;6.6〜8.1;6.6〜8.0;6.6〜7.9;6.6〜7.8;6.6〜7.7;6.6〜7.6;6.6〜7.5;6.6〜7.4;6.6〜7.3;6.6〜7.2;6.6〜7.1;6.6〜7.0;6.6〜6.9;6.7〜8.4;6.7〜8.3;6.7〜8.2;6.7〜8.1;6.7〜8.0;6.7〜7.9;6.7〜7.8;6.7〜7.7;6.7〜7.6;6.7〜7.5;6.7〜7.4;6.7〜7.3;6.7〜7.2;6.7〜7.1;6.7〜7.0;6.8〜8.4;6.8〜8.3;6.8〜8.2;6.8〜8.1;6.8〜8.0;6.8〜7.9;6.8〜7.8;6.8〜7.7;6.8〜7.6;6.8〜7.5;6.8〜7.4;6.8〜7.3;6.8〜7.2;6.8〜7.1;6.9〜8.4;6.9〜8.3;6.9〜8.2;6.9〜8.1;6.9〜8.0;6.9〜7.9;6.9〜7.8;6.9〜7.7;6.9〜7.6;6.9〜7.5;6.9〜7.4;6.9〜7.3;6.9〜7.2;7.0〜8.4;7.0〜8.3;7.0〜8.2;7.0〜8.1;7.0〜8.0;7.0〜7.9;7.0〜7.8;7.0〜7.7;7.0〜7.6;7.0〜7.5;7.0〜7.4;7.0〜7.3;7.1〜8.4;7.1〜8.3;7.1〜8.2;7.1〜8.1;7.1〜8.0;7.1〜7.9;7.1〜7.8;7.1〜7.7;7.1〜7.6;7.1〜7.5;7.1〜7.4;7.2〜8.4;7.2〜8.3;7.2〜8.2;7.2〜8.1;7.2〜8.0;7.2〜7.9;7.2〜7.8;7.2〜7.7;7.2〜7.6;7.2〜7.5;7.3〜8.4;7.3〜8.3;7.3〜8.2;7.3〜8.1;7.3〜8.0;7.3〜7.9;7.3〜7.8;7.3〜7.7;7.3〜7.6;7.4〜8.4;7.4〜8.3;7.4〜8.2;7.4〜8.1;7.4〜8.0;7.4〜7.9;7.4〜7.8;7.4〜7.7;7.5〜8.4;7.5〜8.3;7.5〜8.2;7.5〜8.1;7.5〜8.0;7.5〜7.9;7.5〜7.8;7.6〜8.4;7.6〜8.3;7.6〜8.2;7.6〜8.1;7.6〜8.0;7.6〜7.9;7.7〜8.4;7.7〜8.3;7.7〜8.2;7.7〜8.1;7.7〜8.0;7.8〜8.4;7.8〜8.3;7.8〜8.2;7.8〜8.1;7.9〜8.4;7.9〜8.3;7.9〜8.2;8.0〜8.4;8.0〜8.3;8.1〜8.3;等を挙げることができる。
本件哺乳動物細胞保存用液としては、哺乳動物細胞の保存が可能な液(例えば、等張液、低張液、高張液)であればよく、等張液を好適に例示することができる。本明細書において「等張液」とは、体液や細胞液の浸透圧とほぼ同じ浸透圧を有する液を意味し、具体的には、250〜380mOsm/Lの範囲内の浸透圧を有する液を意味する。また、本明細書において「低張液」とは、体液や細胞液の浸透圧よりも低い浸透圧を有する液を意味し、具体的には、250mOsm/L未満の浸透圧を有する液を意味する。かかる低張液としては、細胞が破裂しない程度の低張液(具体的には、100〜250mOsm/L未満の範囲内の浸透圧を有する液)が好ましい。また、本明細書において「高張液」とは、体液や細胞液の浸透圧よりも高い浸透圧を有する液を意味し、具体的には、浸透圧が380mOsm/L超(好ましくは380mOsm/L超〜1000mOsm/Lの範囲内)を意味する。
上記等張液としては、体液や細胞液の浸透圧とほぼ同じになるようにナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等によって塩濃度や糖濃度等を調整した等張液であれば特に制限されず、具体的には生理食塩水や、緩衝効果のある生理食塩水(例えば、PBS、トリス緩衝生理食塩水[Tris Buffered Saline;TBS]、HEPES緩衝生理食塩水)、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、5%グルコース水溶液、動物細胞培養用基礎培地(例えば、DMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、M−199)、等張剤(例えば、ブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンニトール、ラクトース、塩化ナトリウム)等を挙げることができ、これらの中でも乳酸リンゲル液が好ましい。等張液は、市販のものであっても、自ら調製したものであってもよい。市販のものとしては、大塚生食注(大塚製薬工場社製)(生理食塩液)、リンゲル液「オーツカ」(大塚製薬工場社製)(リンゲル液)、ラクテック(登録商標)注(大塚製薬工場社製)(乳酸リンゲル液)、ヴィーン(登録商標)F輸液(扶桑薬品工業社製)(酢酸リンゲル液)、大塚糖液5%(大塚製薬工場社製)(5%グルコース水溶液)、ビカネイト(登録商標)輸液(大塚製薬工場社製)(重炭酸リンゲル液)を挙げることができる。
本件哺乳動物細胞保存用液は、トレハロース類を含む液、又は粉体のトレハロース類含有物を添加した液に、pH調整剤としての炭酸水素塩を添加することにより、pHが6.5〜8.5となるように調整し、得ることができる。上記炭酸水素塩としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム等を挙げることができ、炭酸水素ナトリウムが好ましい。また、上記炭酸水素塩でpHを調整した本件哺乳動物細胞保存用液は、pHの緩衝作用を有していなくてもよい。
上記トレハロース類におけるトレハロースとしては、2つのα-グルコースが1,1−グリコシド結合した二糖類であるα,α−トレハロースの他に、α-グルコースとβ−グルコースとが1,1−グリコシド結合した二糖類であるα,β−トレハロースや、2つのβ−グルコースが1,1−グリコシド結合した二糖類であるβ,β−トレハロースを挙げることができるが、これらの中でもα,α−トレハロースが好ましい。これらトレハロースは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、α,α−トレハロース(株式会社林原社製又は富士フィルム和光純薬社製)などの市販品を挙げることができる。
上記トレハロース類におけるトレハロース誘導体としては、二糖類のトレハロースに1又は複数の糖単位が結合したグリコシルトレハロース類であれば特に制限されず、グリコシルトレハロース類には、グルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロースなどが含まれる。
上記トレハロース類におけるトレハロースやその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、トレハロースの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
本件哺乳動物細胞保存用液中のトレハロース類の濃度としては、トレハロース類による細胞生存率低下の抑制効果が発揮される濃度であればよく、例えば、トレハロース換算で0.1(w/v)%以上、好ましくは0.3(w/v)%以上、より好ましくは0.6(w/v)%以上、さらに好ましくは1.0(w/v)%以上、最も好ましくは2.0(w/v)%以上である。また、細胞への悪影響を回避する観点から、例えば、トレハロース換算で40(w/v)%以下、好ましくは20(w/v)%以下、より好ましくは15(w/v)%以下、さらに好ましくは10%(w/v)%以下、最も好ましくは6.0(w/v)%以下である。したがって、本件哺乳動物細胞保存用液中のトレハロース類の濃度としては、例えば、トレハロース換算で0.1〜40(w/v)%の範囲内、好ましくは0.3〜20(w/v)%、より好ましくは0.6〜15(w/v)%、さらに好ましくは1.0〜10%(w/v)%、最も好ましくは2.0〜6.0(w/v)%である。
本件哺乳動物細胞保存用液は、哺乳動物細胞を、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液が液体の状態で存在する温度条件下で任意の期間保存するために用いるものである。本件哺乳動物細胞保存用液は、哺乳動物細胞を液体中で保存したときに生じる細胞生存率低下や、哺乳動物幹細胞を液体中で保存したときに生じる自己複製能低下を効果的に抑制する作用を有し、かつ、哺乳動物の生体内に投与した場合に、哺乳動物の生態に悪影響を及ぼす可能性の低い液である。このため、本件哺乳動物細胞保存用液は、さらに、「哺乳動物細胞の生存率低下を抑制するため」という用途;「哺乳動物細胞の自己複製能低下を抑制するため」という用途;及び/又は「哺乳動物細胞を移植するため」という用途;に特定されたものが好ましい。
本件哺乳動物細胞保存用液は、トレハロース類を単独で含む液であってもよいし、トレハロース類から選択される2種類以上を含む液や、トレハロース類以外に、さらに任意成分を含む液であってもよい。
本明細書において「任意成分」としては、例えば、等張剤(例えば、グルコース、ソルビトール、マンニトール、ラクトース、塩化ナトリウム)、キレート剤(例えば、EDTA、EGTA、クエン酸、サリチレート)、溶解補助剤、保存剤、酸化防止剤、アミノ酸(例えば、プロリン、グルタミン)、ポリマー(例えば、ポリエーテル)、リン脂質(例えば、リゾホスファチジン酸[LPA;Lysophosphatidic acid])、炭酸水素塩以外のpH調整剤(例えば、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩等のアルカリ;クエン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、氷酢酸、塩酸等の酸)を挙げることができる。本明細書において「任意成分」とは、含んでもよいし含まなくてもよい成分のことを意味する。
また、本発明には、トレハロース類を含む、本件哺乳動物細胞保存用液を調製するための粉末製剤が含まれる。当該粉末製剤には上記の任意成分を含んでいてもよい。
本件哺乳動物細胞保存用液としては、トレハロース類だけでも、哺乳動物細胞の生存率低下抑制効果を発揮するため、トレハロース類以外に、哺乳動物細胞の生存率低下抑制作用を有する成分(例えば、アカルボース、スタキオース、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ[Hydroxyethyl starch;HES]等の多糖類若しくはその誘導体又はこれらの塩;グルコース等の単糖類若しくはその誘導体又はこれらの塩)を含まないものであってもよいが、さらに、哺乳動物細胞の生存率低下抑制効果を高めるため、上記成分、具体的には、多糖類若しくはその誘導体又はこれらの塩をさらに含むものが好ましく、後述する本実施例においてその効果が実証されているため、デキストラン若しくはその誘導体又はこれらの塩(以下、これらを総称して「デキストラン類」ということがある)をさらに含むものを好適に例示することができる。
上記デキストラン類におけるデキストランとしては、D−グルコースからなる多糖(C10であって、α1→6結合を主鎖とするものであれば特に制限されず、デキストランの重量平均分子量(Mw)としては、例えば、デキストラン40(Mw=40000)、デキストラン70(Mw=70000)などを挙げることができる。これらデキストランは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法で製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、デキストラン40(東京化成工業社製)、デキストラン70(東京化成工業社製)、低分子デキストランL注(10[w/v]%デキストラン含有乳酸リンゲル液)(大塚製薬工場社製)等の市販品を挙げることができる。
上記デキストラン類におけるデキストラン誘導体としては、デキストラン硫酸、カルボキシル化デキストラン、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストランなどが含まれる。
上記デキストラン類におけるデキストランやその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、デキストランの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
本件哺乳動物細胞保存用液中のデキストラン類の濃度としては、デキストラン類による細胞生存率低下の抑制効果が発揮される濃度であればよく、例えば、デキストラン換算で0.1(w/v)%以上、好ましくは0.3(w/v)%以上、より好ましくは0.6(w/v)%以上、さらに好ましくは1.0(w/v)%以上、さらにより好ましくは2.0(w/v)%以上、最も好ましくは4.0(w/v)%以上である。また、細胞への悪影響を回避する観点から、例えば、デキストラン換算で50(w/v)%以下、好ましくは20(w/v)%以下、より好ましくは15(w/v)%以下、さらに好ましくは12%(w/v)%以下、さらにより好ましくは9.0%(w/v)%以下、最も好ましくは7.0(w/v)%以下である。したがって、本件哺乳動物細胞保存用液中のデキストラン類の濃度としては、例えば、デキストラン換算で0.1〜50(w/v)%の範囲内、好ましくは0.3〜20(w/v)%、より好ましくは0.6〜15(w/v)%、さらに好ましくは1.0〜12%(w/v)%、さらにより好ましくは2.0〜9.0%(w/v)%、最も好ましくは4.0〜7.0(w/v)%である。
本件哺乳動物細胞保存用液としては、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液をそのまま移植に用いる場合、哺乳動物細胞移植に適した液が好ましく、かかる哺乳動物細胞移植に適した液は、哺乳動物細胞移植に適さない物質、例えば、生体由来の成分(例えば、血清又は血清由来成分[例えば、アルブミン]);や、哺乳動物細胞を凍結保存又は凍結乾燥保存したときの哺乳動物細胞の生存率低下を抑制する作用を有する成分、例えば、ジメチルスルホキシド[Dimethyl sulfoxide;DMSO]、グリセリン、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコール[PEG]、ポリビニルピロリドン、血清又は血清由来成分(例えば、アルブミン)等の凍結保護剤又は凍結乾燥保護剤;を含まないことが好ましい。
本発明の哺乳動物細胞の保存方法は、トレハロース類を含み、かつ、pHが6.5〜8.5である液中で、哺乳動物細胞を任意の期間保存する工程を含むもの(以下、「本件保存方法」ということがある)である。本件保存方法は、通常、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液を、当該保存用液が液体の状態で存在する温度条件下で保存するものであり、当該保存用液が固体の状態で存在する温度条件下で保存する工程(例えば、凍結保存する工程、凍結乾燥保存する工程等の哺乳動物細胞を休眠状態で保存する工程)を含まない。また、本件哺乳動物細胞保存用液中の哺乳動物細胞の密度は、例えば、10〜1010個/mLの範囲内である。
本件保存方法としては、さらに、トレハロース類を含む液、又は粉体のトレハロース類含有物を添加した液に、上記pH調整剤としての炭酸水素塩を添加することにより、pHが6.5〜8.5となるように調整し、本件哺乳動物細胞保存用液を調製する工程;や、本件哺乳動物細胞保存用液中で哺乳動物細胞を保存する前に、トレハロース類を含む液(好ましくは等張液)に、哺乳動物細胞を加えるか、或いは、哺乳動物細胞を含む液(好ましくは等張液)に、トレハロース類を加えることにより、トレハロース類を含む液を調製する工程;を含むものであってもよい。
本発明において、哺乳動物細胞を保存する任意の期間としては、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液を液体の状態で保存したときに、当該保存用液中の哺乳動物細胞の細胞生存率低下を抑制し、生細胞の割合を高めることができる期間が好ましく、例えば、6時間以上、12時間以上、1日(24時間)以上、1.5日(36時間)以上、2日(48時間)以上、3日(72時間)以上、4日(96時間)以上、7日(168時間)以上であり、また、哺乳動物細胞の保存期間が長すぎると細胞の生存に悪影響を及ぼす可能性があるため、細胞の生存率への悪影響を回避する観点から、例えば、21日以下、16日以下、14日以下、10日以下、7日以下、4日以下である。したがって、上記保存期間としては、例えば、6時間〜21日;12時間〜21日;1〜21日;1.5〜21日;2〜21日;3〜21日;4〜21日;7〜21日;6時間〜16日;6時間〜14日;6時間〜10日;6時間〜7日;6時間〜4日;12時間〜16日;12時間〜14日;12時間〜10日;12時間〜7日;12時間〜4日;1〜16日;1〜14日;1〜10日;1〜7日;1〜4日;1.5〜16日;1.5〜14日;1.5〜10日;1.5〜7日;1.5〜4日;2〜16日;2〜14日;2〜10日;2〜7日;2〜4日;3〜16日;3〜14日;3〜10日;3〜7日;3〜4日;4〜16日;4〜14日;4〜10日;4〜7日;7〜16日;7〜14日;7〜10日;等を挙げることができ、後述する本実施例においてその効果が実証されているため、6時間〜14日を好適に例示することができる。本件哺乳動物細胞保存用液中に保存した哺乳動物細胞について、細胞死が抑制されたことは、トリパンブルー(Trypan Blue)染色法、TUNEL法、Nexin法、FLICA法などの細胞死を検出できる公知の方法を用いて確認することができる。
本発明において、「哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液が液体の状態で存在する温度」としては、哺乳動物細胞を含む本件哺乳動物細胞保存用液が、凍結せずに液体の状態で存在し、かつ当該保存用液中の哺乳動物細胞が生育可能な温度であればよく、通常0〜40℃の範囲内、好ましくは0〜30℃(室温)の範囲内である。
本発明において、哺乳動物細胞としては、例えば、哺乳動物細胞移植治療を必要とする疾患(がん;I型糖尿病;肝疾患等の臓器疾患;など)に対する再生医療において、血管経由で投与される哺乳動物細胞、具体的には、幹細胞;膵島細胞;肝細胞;樹状細胞;などを例示することができ、好ましくは幹細胞や肝細胞である。これら細胞は、公知の一般的な方法で単離することができる。例えば、各種の細胞表面マーカーに対する抗体を用いた蛍光活性化セルソーター(FACS)や、蛍光物質やビオチン、アビジン等の標識物質で標識した上記細胞表面マーカーに対する抗体と、かかる標識物質に対する抗体とMACSビーズ(磁性ビーズ)とのコンジュゲート抗体とを用いた自動磁気細胞分離装置(autoMACS)により行うことができる。上記蛍光物質としては、アロフィコシアニン(APC)、フィコエリトリン(PE)、FITC(fluorescein isothiocyanate)、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 700、PE−Texas Red、PE−Cy5、PE−Cy7等を挙げることができる。
また上記「幹細胞」とは、自己複製能及び分化・増殖能を有する未熟な細胞を意味する。幹細胞には、分化能力に応じて、多能性幹細胞(pluripotent stem ce11)、複能性幹
細胞(multipotent stem ce11)、単能性幹細胞(unipotent stem ce11)等の亜集団が含まれる。多能性幹細胞とは、それ自体では個体になることができないが、生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。複能性幹細胞とは、全ての種類ではないが、複数種の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。単能性幹細胞とは、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。
上記多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(Embryonic stem cell;ES細胞)、EG細胞(Embryonic germ cell)、誘導多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cell;iPS細胞)等を挙げることができる。ES細胞は、内部細胞塊をフィーダー細胞上又はLIFを含む培地中で培養することにより製造することができる。ES細胞の製造方法は、例えば、WO96/22362、WO02/101057、US5,843,780、US6,200,806、US6,280,718等に記載されている。EG細胞は、始原生殖細胞をmSCF、LIF及びbFGFを含む培地中で培養することにより製造することができる(Ce11,70:841-847,1992)。iPS細胞は、体細胞(例えば線維芽細胞、皮膚細胞等)にOct3/4、Sox2及びKlf4(必要に応じて更にc−Myc又はn−Myc)等のリプログラミング因子を導入することにより製造することができる(Ce11,126:p.663-676,2006;Nature,448:p.313-317,2007;Nat Biotechno1,26;p,101-106,2008;Cel1 131:p.861-872,2007;Science,318:p.1917-1920,2007;Ce11 Stem Cells 1:p.55-70,2007;Nat Biotechnol,25:p.1177-1181,2007;Nature,448:p.318-324,2007;Cell Stem Cells 2:p.10-12,2008;Nature 451:p.141-146,2008;Science,318:p.1917-1920,2007)。体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立した幹細胞も、多能性幹細胞としてまた好ましい(Nature,385,810(1997);Science,280,1256(1998);Nature Biotechnology,17,456(1999);Nature,394,369(1998);Nature Genetics,22,127(1999);Proc.Nat1. Acad.Sci.USA,96,14984(1999)、Rideout IIIら(Nature Genetics,24,109(2000))。
上記複能性幹細胞としては、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞等の細胞に分化可能な間葉系幹細胞、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト等の細胞に分化可能な神経系幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞等の体性幹細胞等を挙げることができる。複能性幹細胞は、好ましくは間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞とは、骨芽細胞、軟骨芽細胞及び脂肪芽細胞の全て又はいくつかへの分化が可能な幹細胞を意味する。複能性幹細胞は、自体公知の方法により、生体から単離することができる。例えば、間葉系幹細胞は、哺乳動物の骨髄、脂肪組織、末梢血、臍帯血等から公知の一般的な方法で採取することができる。例えば、骨髄穿刺後の造血幹細胞等の培養、継代によりヒト間葉系幹細胞を単離することができる(Journal of Autoimmunity,30(2008)163-171)。複能性幹細胞は、上記多能性幹細胞を適切な誘導条件下で培養することによっても得ることができる。
本発明において、哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を例示することができ、中でも、マウス、ブタ、ヒトを好適に例示することができる。
本発明において、哺乳動物細胞としては、付着性(「接着性」ともいう)の細胞を例示することができる。本明細書中、「付着性」細胞とは、足場に接着することで生存、増殖、物質の生産を行うことができる足場依存性の細胞を意味する。付着性幹細胞としては、例えば、多能性幹細胞、間葉系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞等を挙げることができ、間葉系幹細胞を好適に例示することができる。
本発明において、哺乳動物細胞(集団)は、生体内から分離されたものであっても、インビトロで継代培養されたものであってもよいが、単離又は精製されていることが好ましい。本明細書中、「単離又は精製」とは、目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製された哺乳動物細胞の純度(全細胞数に対する、哺乳動物幹細胞数等の目的とする細胞の割合)は、通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば100%)である。
本件哺乳動物細胞保存用液中に保存する哺乳動物細胞(集団)は、単一細胞(シングルセル)の状態であってもよい。本明細書において、「単一細胞の状態」とは、他の細胞と寄り集まって塊を形成していないこと(即ち、凝集していない状態)を意味する。単一細胞の状態の哺乳動物細胞は、インビトロで培養した哺乳動物細胞をトリプシン/EDTA等で酵素処理することにより調製することができる。哺乳動物細胞中に含まれる単一細胞の状態の哺乳動物細胞の割合は、例えば70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上(例えば100%)である。単一細胞の状態の細胞の割合は、哺乳動物細胞をPBS中に分散させ、これを顕微鏡下で観察し、無作為に選択された複数個(例えば、1000個)の細胞について凝集の有無を調べることにより決定することができる。
本件哺乳動物細胞保存用液中に保存する哺乳動物細胞(集団)は、浮遊していてもよい。本明細書において、「浮遊」とは、哺乳動物細胞が、保存用液を収容した容器の内壁に接触することなく、液中に保持されていることをいう。
本件哺乳動物細胞保存用液中に保存した哺乳動物細胞が、凝集又は沈殿している場合、移植前にピペッティングやタッピング等の当該技術分野における周知の方法により哺乳動物細胞を懸濁することが好ましい。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン40を含む乳酸リンゲル液を、便宜上「CSP−01液」ということがあり、また、3(w/v)%トレハロースを含む乳酸リンゲル液を、便宜上「CSP−11液」ということがある。
I 好適pHの検討
1.材料及び方法
[哺乳動物細胞]
以下の実験1〜4には、以下の表1に記載のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hAD−MSC)を用いた。
[CSP−01液]
CSP−01液は、α,α−トレハロース(株式会社林原社製又は富士フィルム和光純薬社製)と、低分子デキストランL注(10[w/v]%デキストラン含有乳酸リンゲル液)(大塚製薬工場社製)とを、トレハロース及びデキストランの終濃度がそれぞれ3(w/v)%及び5(w/v)%となるように乳酸リンゲル液(ラクテック輸液;大塚製薬工場社製)へ添加し、調製した(特許文献2参照)。
[CSP−11液]
CSP−11液は、α,α−トレハロース(株式会社林原社製又は富士フィルム和光純薬社製)を、トレハロースの終濃度が3(w/v)%となるように乳酸リンゲル液(ラクテック輸液;大塚製薬工場社製)へ添加し、調製した(特許文献2参照)。CSP−01液及びCSP−11液の組成を、以下の表2に示す。
[hAD−MSCの培養]
hAD−MSCは定法にしたがって培養した。すなわち、hAD−MSCを、ヒト脂肪由来幹細胞添加因子セット(Lonza Walkersville社製、PT-4503)を含むADSC−BM(Adipose Derived Stem Cell Basal Medium)(Lonza Walkersville社製、PT-3273)(以下、単に「培養液」という)を添加した75cmフラスコに入れ、COインキュベーター(37℃条件下)内で継代培養した。また、培養液の交換は3日毎行った。
[hAD−MSC含有液の調製]
hAD−MSC含有液を、以下の〔1〕〜〔10〕の手順に従って調製した。
〔1〕パーソナルインキュベーターを37±2℃に加温しておいた。
〔2〕hAD−MSCを培養している75cmフラスコを、COインキュベーターから取り出した。
〔3〕倒立顕微鏡下で細胞の状態を観察し、約80%コンフルエントのものを使用した。〔4〕培養液を吸引し、PBS(−)を各75cmフラスコに8mLずつ添加した。
〔5〕PBS(−)を吸引後、トリプシン/EDTA(CC-5012、Lonza Walkersville社製)をフラスコに4mLずつ添加し、パーソナルインキュベーターにて37±2℃条件下で5分間インキュベートした。
〔6〕細胞が90%程度剥離するまで倒立顕微鏡下で観察しながら、ゆっくりと揺らした。
〔7〕トリプシン反応を停止させるために、トリプシン中和液(TNS;CC-5002、Lonza Walkersville社製)を8mLずつ加えて、ピペッティングにより細胞を剥離し、50mLのコニカルチューブに移した。
〔8〕遠心処理(210×g、5分間、20℃)後、上清を除去し、一定量(各75cmフラスコ当たり1.5mL)のPBS(−)を添加し、細胞を懸濁した。
〔9〕細胞懸濁液から一部(20μL)分取し、20μLのトリパンブルー染色液(Gibco社製)と混合しワンセルカウンター(細胞計数盤;バイオメディカルサイエンス社製)で全細胞数(生細胞数及び死細胞数)を計測した。なお、細胞数は、ワンセルカウンターにおける9ヵ所のエリアのうち、4隅のエリア内にある細胞を計測し、以降の計測も同様に行った。
〔10〕全細胞数が5.0×10細胞/mLとなるようにPBS(−)を添加し、氷冷し、哺乳動物細胞含有液を調製した。
[細胞生存率及び生細胞回収率の測定]
被験液中に哺乳動物細胞を保存したときの細胞生存率及び生細胞回収率を、以下の〔1〕〜〔4〕の手順に従って測定した。
〔1〕調製した哺乳動物細胞含有液を、フィンピペット(100−1000μL)を用いて、15mLクラリファインドポリプロピレンコニカルチューブに1mLずつ分注し、遠心処理(210×g、5分間、25℃)後、氷冷した。
〔2〕上清を除去し、フィンピペット(100−1000μL)を用いて、1mLの各被験液に細胞を懸濁した後、その一部(20μL)を、予めトリパンブルー染色液(Gibco社製)20μLを添加した1.5mLマイクロチューブに分取した。トリパンブルー染色液と混和した細胞懸濁液を、ワンセルカウンターに分取し、光学顕微鏡(ECLIPSE TS100、ニコン社製)を用いて全細胞数及びトリパンブルー陽性細胞(死細胞)数を計測することにより、保存開始直後の細胞生存率を算出した。
〔3〕残りの細胞懸濁液は、薬用冷蔵ショーケース(5℃に設定)にて各保存期間まで静置保存した。
〔4〕各保存期間が経過した時点において、チップの先を、細胞を含む液が入ったチューブの底から目視で5mm程度の位置まで挿入し、緩やかに攪拌(500μLの液量でのピペッティングを5回)することにより細胞が懸濁した状態で、その一部(20μL)を1.5mLマイクロチューブに採取し、トリパンブルー染色液(Gibco社製)20μLと混和後、ワンセルカウンターに分取し、光学顕微鏡(ECLIPSE TS100、ニコン社製)を用いて全細胞数及びトリパンブルー陽性細胞(死細胞)数を計測することにより、各保存期間における細胞生存率及び生細胞回収率を算出した。なお、細胞生存率は、式「(全生細胞数/全細胞数)×100=([全細胞数−死細胞数]/全細胞数)×100=細胞生存率(%)」を用いて算出し、また、生細胞回収率は、式「(各保存期間の全生細胞数/保存開始直後の全生細胞数)×100=([各保存期間の全細胞数−各保存期間の死細胞数]/[保存開始直後の全細胞数−保存開始直後の死細胞数])×100=生細胞回収率(%)」を用いて算出した。
[CFUアッセイ]
被験液中に哺乳動物間葉系幹細胞を保存したときのコロニー形成能を、以下の〔1〕〜〔4〕の手順に従って測定した。
〔1〕調製した哺乳動物細胞含有液を、フィンピペット(100−1000μL)を用いて、15mLクラリファインドポリプロピレンコニカルチューブに1mLずつ分注し、遠心処理(210×g、5分間、25℃)後、氷冷した。
〔2〕上清を除去し、フィンピペット(100−1000μL)を用いて、1mLの各被験液に細胞を懸濁した後、その一部(20μL)を、60mmディッシュ(面積が21cm)に、15細胞/cmとなるように播種し、約8日後に形成されたコロニー数を測定し、保存開始直後のコロニー形成単位(CFU)、すなわち、播種した細胞数に対するコロニー数の比率を算出した。
〔3〕残りの細胞懸濁液は、薬用冷蔵ショーケース(5℃に設定)にて各保存期間まで静置保存した。
〔4〕各保存期間が経過した時点において、チップの先を、細胞を含む液が入ったチューブの底から目視で5mm程度の位置まで挿入し、緩やかに攪拌(500μLの液量でのピペッティングを5回)することにより細胞が懸濁した状態で、60mmディッシュ(面積が21cm)に、15細胞/cmとなるように播種し、約8日後に形成されたコロニー数を測定し、保存開始直後のCFUを算出した。
2.結果
[実験1]
hAD−MSCを、以下の表3に示す6種類の被験液中に各保存期間(1日、2日間、4日間、7日間、及び14日間)保存したときの細胞生存率(表4及び図1A参照)及び生細胞回収率(表5及び図1B参照)を、上記[細胞生存率及び生細胞回収率の測定]の項目に記載の方法に従って測定した。
その結果、比較例1(乳酸リンゲル)及び比較例2(CSP−01液[pH5.65])においては、細胞保存開始後2日目の細胞生存率が、ともに約65%まで低下し、4日目には、ともに30%以下まで低下していた(表4及び図1A参照)。一方、実施例1〜3(CSP−01液[pH6.60〜7.29])においては、細胞保存開始後2日目の細胞生存率が、いずれも96%を超え、4日目には、いずれも70%を超えていた(表4及び図1A参照)。また、細胞保存開始後4日目以降の細胞生存率を、実施例1〜3の間で比較すると、実施例1(CSP−01液[pH6.60])よりも実施例2(CSP−01液[pH6.95])の方が高く、また、実施例2(CSP−01液[pH6.95])よりも実施例3(CSP−01液[pH7.29])の方が高かった(表4及び図1A参照)。また、生細胞回収率についても同様の傾向が認められた(表5及び図1B参照)。
この結果は、CSP−01液、すなわち、トレハロース及びデキストランを含む乳酸リンゲル液のpHを約6.6以上(好ましくは約7.29前後)に調整し、当該液中に哺乳動物細胞を保存すると、トレハロース及びデキストラン不含の乳酸リンゲル液や、トレハロース及びデキストランを含み、かつpHが6.15以下の乳酸リンゲル液に哺乳動物細胞を保存した場合と比べ、細胞死が効果的に抑制され、生細胞の割合を高めることができることを示している。
表中の数値は、細胞生存率(平均値±標準偏差[SD];n=3)を示す。
表中の数値は、生細胞回収率(平均値±標準偏差[SD];n=3)を示す。
[実験2]
hAD−MSCを、以下の表6に示す4種類の被験液中に各保存期間(6時間、24時間、48時間、及び96時間)保存したときの細胞生存率(表7参照)及び生細胞回収率(表8参照)を、上記[細胞生存率及び生細胞回収率の測定]の項目に記載の方法に従って測定した。
その結果、比較例4(CSP−01液[pH6.16])においては、細胞保存開始後48時間(2日)目の細胞生存率が、約50%まで低下し、96時間(4日)目には、37%まで低下していた(表7参照)。一方、実施例4(CSP−01液[pH7.29])においては、細胞保存開始後48時間(2日)目の細胞生存率が、90%を超え、96時間(4日)目には、70%を超えていた(表7参照)。また、生細胞回収率についても同様の傾向が認められた(表8参照)。
また、比較例5(CSP−11液[pH6.35])においては、細胞保存開始後48時間(2日)目の細胞生存率が、約45%まで低下し、96時間(4日)目には、約15%まで低下していた(表7参照)。一方、実施例5(CSP−11液[pH7.04])においては、細胞保存開始後48時間(2日)目の細胞生存率が、75%を超え、96時間(4日)目には、45%を超えていた(表7参照)。また、生細胞回収率についても同様の傾向が認められた(表8参照)。
これらの結果は、上記[実験1]の結果を支持するとともに、CSP−11液、すなわち、(デキストラン不含の)トレハロースを含む乳酸リンゲル液についても同様に、pHを約7.04以上に調整し、当該液中に哺乳動物細胞を保存すると、トレハロースを含み、かつpHが6.35以下の乳酸リンゲル液に哺乳動物細胞を保存した場合と比べ、細胞死が効果的に抑制され、生細胞の割合を高めることができることを示している。
表中の数値は、細胞生存率(平均値±標準偏差[SD];n=4)を示す。実施例4における「*」及び「***」は、同じ保存期間の比較例4との間で、それぞれ統計学的に有意差(p<0.05及びp<0.001)があることを示す。また、実施例5における「*」及び「***」は、同じ保存期間の比較例5との間で、それぞれ統計学的に有意差(p<0.05及びp<0.001)があることを示す。
表中の数値は、生細胞回収率(平均値±標準偏差[SD];n=4)を示す。実施例4における「*」及び「***」は、同じ保存期間の比較例4との間で、それぞれ統計学的に有意差(p<0.05及びp<0.001)があることを示す。また、実施例5における「*」及び「***」は、同じ保存期間の比較例5との間で、それぞれ統計学的に有意差(p<0.05及びp<0.001)があることを示す。
[実験3]
hAD−MSCを、以下の表9に示す11種類の被験液中に各保存期間(24時間、48時間、96時間、及び168時間)保存したときの細胞生存率(表10及び12参照)及び生細胞回収率(表11及び13参照)を、上記[細胞生存率及び生細胞回収率の測定]の項目に記載の方法に従って測定した。
その結果、実施例6〜10(CSP−01液[pH6.69〜8.02])は、比較例6(乳酸リンゲル)と比べ、いずれの保存期間においても細胞生存率及び生細胞回収率が高く、特に実施例8(CSP−01液[pH7.35])及び実施例9(CSP−01液[pH7.68])の細胞生存率及び生細胞回収率が最も高い傾向にあった(表10及び11並びに図2参照)。
この結果は、上記[実験1]及び[実験2]の結果を支持するとともに、CSP−01液、すなわち、トレハロース及びデキストランを含む乳酸リンゲル液のpHを6.69以上に調整し、当該液中に哺乳動物細胞を保存すると、乳酸リンゲル液に哺乳動物細胞を保存した場合と比べ、細胞死が効果的に抑制され、生細胞の割合を高めることができることを示している。
また、実施例11〜14(CSP−11液[pH7.04〜8.00])は、比較例6(乳酸リンゲル)や比較例7(CSP−11液[pH6.44])と比べ、いずれの保存期間においても細胞生存率及び生細胞回収率が高く、特に実施例12〜14(CSP−11液[pH7.16〜8.00])の細胞生存率及び生細胞回収率が最も高い傾向にあった(表12及び13並びに図3参照)。
この結果は、上記[実験2]の結果を支持するとともに、CSP−11液、すなわち、(デキストラン不含の)トレハロースを含む乳酸リンゲル液のpHを7.04以上に調整し、当該液中に哺乳動物細胞を保存すると、トレハロース不含の乳酸リンゲル液や、トレハロースを含み、かつpHが6.44以下の乳酸リンゲル液に哺乳動物細胞を保存した場合と比べ、細胞死が効果的に抑制され、生細胞の割合を高めることができることを示している。
表中の数値は、細胞生存率(平均値±標準偏差[SD];n=3)を示す。
表中の数値は、生細胞回収率(平均値±標準偏差[SD];n=3)を示す。
表中の数値は、細胞生存率(平均値±標準偏差[SD];n=3)を示す。
表中の数値は、生細胞回収率(平均値±標準偏差[SD];n=3)を示す。
[実験4]
hAD−MSCを、以下の表14に示す4種類の被験液中に各保存期間(6時間、24時間、及び48時間)保存したときのコロニー形成能(表15参照)を、上記[CFUアッセイ]の項目に記載の方法に従って測定した。
その結果、比較例8(CSP−01液[pH6.16])においては、hAD−MSCのコロニー形成能が、保存期間が長くなるに従って低下するのに対して、実施例15(CSP−01液[pH7.29])においては、かかるコロニー形成能の低下が抑制された(表15参照)。
この結果は、CSP−01液、すなわち、トレハロース及びデキストランを含む乳酸リンゲル液のpHを7.29前後に調整し、当該液中に哺乳動物間葉系幹細胞を保存すると、トレハロース及びデキストランを含み、かつpHが6.16前後の乳酸リンゲル液に哺乳動物間葉系幹細胞を保存した場合と比べ、コロニー形成能の低下を抑制することができることを示している。
また、比較例9(CSP−11液[pH6.35])においては、hAD−MSCのコロニー形成能が、保存期間が長くなるに従って低下するのに対して、実施例16(CSP−11液[pH7.04])においては、かかるコロニー形成能の低下が抑制された(表15参照)。
この結果は、CSP−11液、すなわち、(デキストラン不含の)トレハロースを含む乳酸リンゲル液のpHを7.04前後に調整し、当該液中に哺乳動物幹細胞を保存すると、トレハロースを含み、かつpHが6.35前後の乳酸リンゲル液に哺乳動物幹細胞を保存した場合と比べ、コロニー形成能(すなわち、自己複製能)の低下を抑制することができることを示している。
表中の数値は、播種した細胞数に対するコロニー数の比率(平均値±標準偏差[SD];n=4)を示す。実施例15における「**」及び「***」は、同じ保存期間の比較例8との間で、それぞれ統計学的に有意差(p<0.01及びp<0.001)があることを示す。また、実施例16における「*」は、同じ保存期間の比較例9との間で、統計学的に有意差(p<0.05)があることを示す。
II pH調整剤の検討
1.材料及び方法
[哺乳動物細胞]
以下の実験には、以下の表16に記載のヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBM−MSC)を用いた。
[試験液の調製]
CSP−01液は、実施例1と同様に、α,α−トレハロース(株式会社林原社製又は富士フィルム和光純薬社製)と、低分子デキストランL注(10[w/v]%デキストラン含有乳酸リンゲル液)(大塚製薬工場社製)を、トレハロース及びデキストランの終濃度がそれぞれ3(w/v)%及び5(w/v)%となるように乳酸リンゲル液(ラクテック輸液;大塚製薬工場社製)へ添加し、CSP−01液(5.6未調整)を得た。0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を、pHが7.300になるように添加し、CSP−01液(7.3NaOH)を得た。pH調整剤として炭酸水素ナトリウム溶液を添加し、CSP−01液(7.2NaHCO) を調製した。 CSP−01液(7.2NaHCO) のpHは7.158であった。なお、各被験液におけるpHは、室温(21.2〜24.0℃)で測定した際の値である。
[hBM−MSCを含む乳酸リンゲル液の調製]
hBM−MSCを含む乳酸リンゲル液は、以下の手順〔1〕〜〔8〕に従って調製した。
〔1〕4×10個のhBM−MSCを、75cmフラスコに加え、ヒト間葉系幹細胞専用培地キット(Lonza社製)(以下、「MSC培地」という)存在下で37℃、5%COインキュベーターにて培養を行った。顕微鏡下で細胞の状態を観察し、約80%程度コンフルエントになるまで培養した。
〔2〕MSC培地を除き、10mLのPBS(−)でhBM−MSCをリンスした。
〔3〕PBS(−)を除き、4mLのトリプシン−EDTA(CC−3232、Lonza社製)を加え、室温で5分間静置した。
〔4〕hBM−MSCが90%程度剥離するまで顕微鏡下で観察しながら、ゆっくりと揺らした。
〔5〕5mLのMSC培地を加え、トリプシン反応を停止させ、ピペッティングによりhBM−MSCを回収し、50mL遠心チューブに移した。
〔6〕600×g、5分間、室温で遠心分離を行った。
〔7〕上清(MSC培地)を除き、9mLの乳酸リンゲル液を加え、沈殿(hBM−MSC)を懸濁した。
〔8〕細胞数を計測し、5×10cells/mLとなるように乳酸リンゲル液で調整し、hBM−MSCを含む乳酸リンゲル液を調製した。
[各種被験用等張液中でのhBM−MSCの保存方法]
各種被験用等張液中でのhBM−MSCの保存は、以下の手順〔1〕〜〔2〕に従って行った。
〔1〕調製したhBM−MSCを含む乳酸リンゲル液を、各チューブに0.5mLずつ分注し、遠心分離(600×g、5分間)を行った。
〔2〕上清(乳酸リンゲル液)を除き、沈殿(hBM−MSC)を、0.5mLの各種被験用等張液で懸濁し、5℃で3日間保存した。
[トリパンブルー染色法によるhBM−MSCの細胞生存率の解析]
トリパンブルー染色法によるhBM−MSCの細胞生存率の解析は、以下の手順〔1〕〜〔2〕に従って行った。
〔1〕5℃で3日間保存後のhBM−MSCを含む各種被験用等張液のそれぞれから、20μLを採取し、チューブに移した後、トリパンブルー染色液(Gibco社製)20μLを混合した。なお、比較対照として、各種被験用等張液に懸濁する前(5℃で保存前)のhBM−MSCを含む乳酸リンゲル液のそれぞれから、20μLを採取し、チューブに移した後、トリパンブルー染色液20μLを混合した。
〔2〕顕微鏡下にてワンセルカウンター(バイオメディカルサイエンス社製)を用いて全細胞数とトリパンブルー陽性細胞(死細胞)数の測定を行い、全細胞数に対するトリパンブルー陰性細胞の割合、すなわち、細胞生存率を算出した。細胞生存率(%)を以下の式1を用いて算出した。
[式1]
細胞生存率(%)=(全細胞数−死細胞数)/全細胞数×100
2.結果
[実験]
hBM−MSCを、以下の表17に示す3種類の被験中に5℃で3日間保存したときの細胞生存率(図4参照)を、上記[細胞生存率の測定]の項目に記載の方法に従って測定した。結果を、表18及び図4に示す。
その結果、hBM−MSCを、5℃で3日間保存すると、CSP−01 (5.6未調整)に保存した場合と比べ、CSP−01(7.3NaOH)に保存した場合には細胞生存率が有意に低下した。しかしながら、CSP−01(7.2NaHCO)に保存するとCSP−01(5.6未調整)及びCSP−01(7.3NaOH)に保存した場合と比べ、細胞生存率が高値傾向を示した。
これらの結果は、CSP−01のpHを7.2〜7.3に調整した際、pH調整剤により細胞生存率に影響を与えることを示しており、水酸化ナトリウムよりも、炭酸水素ナトリウムを用いた方が、細胞生存率を高く維持できることを示している。
本発明によると、トレハロース類を液体中に加えることにより、哺乳動物細胞を液体中に保存したときに生じる細胞生存率低下や、哺乳動物幹細胞を液体中で保存したときに生じる自己複製能低下を効果的に抑制することができる。さらに、トレハロース類は、哺乳動物の生体内に投与した場合に、哺乳動物の生態に悪影響を及ぼす可能性の低い二糖類であることから、哺乳動物細胞を本件哺乳動物細胞保存用液中で保存した後、新しい移植用液に置換することなく、そのまま哺乳動物の生体内へ投与することができる。

Claims (24)

  1. トレハロース又はの塩、及び、pH調整剤としての炭酸水素塩を含み、かつ、pHが6.5〜8.5である哺乳動物細胞保存用液。
  2. 炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである、請求項1に記載の保存用液。
  3. さらに、多糖類又はこれらの塩を含む、請求項1又は2に記載の保存用液。
  4. 等張液である、請求項1〜3のいずれかに記載の保存用液。
  5. 等張液が乳酸リンゲル液である、請求項4に記載の保存用液。
  6. 多糖類がデキストランである、請求項3〜5のいずれかに記載の保存用液。
  7. トレハロース又はの塩の濃度が、2.0〜6.0(w/v)%である、請求項1〜6のいずれかに記載の保存用液。
  8. デキストラン又はの塩の濃度が、4.0〜7.0(w/v)%である、請求項6又は7に記載の保存用液。
  9. 哺乳動物細胞を0〜40℃で保存するための、請求項1〜8のいずれかに記載の保存用液。
  10. 哺乳動物細胞を6時間〜14日間保存するための、請求項1〜9のいずれかに記載の保存用液。
  11. 哺乳動物細胞の生存率低下を抑制するために用いられる、請求項1〜10のいずれかに記載の保存用液。
  12. 哺乳動物細胞の自己複製能低下を抑制するために用いられる、請求項1〜11のいずれかに記載の保存用液。
  13. 哺乳動物細胞の移植に用いられる、請求項1〜12のいずれかに記載の保存用液。
  14. 哺乳動物細胞が、哺乳動物幹細胞である、請求項1〜13のいずれかに記載の保存用液。
  15. 哺乳動物幹細胞が、哺乳動物間葉系幹細胞である、請求項14に記載の保存用液。
  16. トレハロース又はの塩、及び、pH調整剤としての炭酸水素塩を含む、請求項1〜15のいずれかに記載の保存用液を調製するための粉末製剤。
  17. 炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである、請求項16に記載の粉末製剤。
  18. トレハロース又はの塩、及び、pH調整剤としての炭酸水素塩を含み、かつ、pHが6.5〜8.5である保存用液中で、哺乳動物細胞を保存する工程を含む、哺乳動物細胞の保存方法。
  19. 炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである、請求項18に記載の保存方法。
  20. 保存用液が、さらに、多糖類又はこれらの塩を含む、請求項18又は19に記載の保存方法。
  21. 保存用液が等張液である、請求項18〜20のいずれかに記載の保存方法。
  22. 等張液が乳酸リンゲル液である、請求項21に記載の保存方法。
  23. 多糖類がデキストランである、請求項20〜22のいずれかに記載の保存方法。
  24. 保存用液中で、哺乳動物細胞を6時間〜14日保存する、請求項18〜23のいずれかに記載の保存方法。
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