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JP6710023B2 - 歯ブラシの評価方法 - Google Patents

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本発明は、毛束の先端部が歯肉に当たる際の毛束の先端部による刺激を評価して、感触の良い歯ブラシを得るための歯ブラシの評価方法、及び該評価方法に用いる歯ブラシの評価装置に関する。
歯ブラシの性能を評価するための評価方法や評価装置として、例えば角部が曲面となるように形成された2個のブロック部材を用いて歯間部モデルを形成し、形成した歯間部モデルの対向する曲面部に沿って例えば磁性体塗布フィルムを貼り付けておき、ブラッシングマシーンを用いて歯ブラシで歯間部モデルを磨いた際の、磁性体塗布フィルムから磁性体が剥離した領域の幅寸法や面積によって、歯ブラシによる歯間部の歯垢除去率等を評価できるようにするものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
また、生活習慣病をはじめとする疾患の予防のために、保健指導が頻繁に行われているが、その内容は制約的、抑制的なことが多く、日々の生活の中で実施することが困難であることがしばしばある。一例を示すと、歯周病は予防可能な疾患であるにも関わらず、日本では成人の80%以上が罹患している。この原因は、成長期にある例えば中学生等に対して、実施できれば予防効果が顕著なブラッシング方法の指導が受容されず、指導されたブラッシング方法が日常生活の中では殆んど行われていないことにある。
特開2002−112837号公報
歯周病の原因は歯垢である。特に歯と歯肉の間の堺目部分の歯垢は病原性が高いにも関わらず、ブラッシングによって取り除かれていないことが多い。歯周病として例えば歯肉炎の予防及び改善を確実に行うためには、どのような理由から、歯と歯肉の間の辺縁部の歯垢を除することが困難になっているかについて考える必要がある。
そこで、歯垢が残る原因について、本発明の発明者は、以下のように考えた。すなわち、歯と歯肉の間をブラッシングする際に、歯ブラシの毛束の先端部の毛先部分が歯肉に当たると刺激を感じるため、このような毛束の先端部による刺激を感じる部分を避けてブラッシングするようになる。結果、歯と歯肉の間に毛束が届かず、歯と歯肉の間の辺縁部に歯垢が残ることになる。なお、本明細書では、「刺激」という場合は、専ら毛束の先端部による刺激を指す。そして、本明細書では、毛束とは、個々の植毛穴に植えられた一つのタフトを意味するのではなく、ヘッド全体の毛の集まりを指す。ヘッドの毛が集まり束になって口腔内粘膜へ与える刺激を、簡単に毛束の先端部による刺激と呼ぶ。
歯ブラシによるブラッシングの際に感じる毛束の先端部による刺激に注目して、さらに、口腔内に存在する刺激を感じる受容体との関連を考えてみる。歯肉炎の原因になっている歯と歯肉の間の境目部分の歯垢を除去するためには、歯ブラシの毛束の先端部の毛先部分を、歯肉に接触させながらブラッシングを行う必要がある。この際に、刺激を感じる受容体の分布密度の高い付着歯肉(辺縁部から離れた部分の柔らかい組織)にも、毛先部分が当たってしまうことから、毛先部分が当たって刺激を感じると、無意識に刺激を感じないようにブラッシングしてしまうために、辺縁部に歯ブラシが届かなくなることが考えられる。特に、ブラッシング時間が短い場合には、歯ブラシを強く大きく動かし易くなるため、刺激を感じることが多くなると考えられる。例えば中学校での健康教育の対象となっている中学生の場合、ブラッシング時間の平均が3分程度であるので、実質のブラッシング時間は2分程度と考えられる。このため、歯ブラシを強く大きく動かしていると予測でき、刺激を感じる受容体の密度が高い部分に歯ブラシの毛束の先端部が当たった場合には、明確に刺激を感じると考えられる。
このようなことから、特に病原性の高い歯と歯肉の間の境目部分をブラッシング(刷掃)して、歯垢を効果的に除去できるようにするには、歯肉に毛束の先端部が当たっても、毛束の先端部による刺激を感じ難い歯ブラシを開発することが必要であると考えた。しかしながら、毛束の先端部による刺激を感じ難い歯ブラシを開発できるようにするための歯ブラシの性能評価として、歯肉が感じる毛束の先端部による刺激を客観的に評価することは行われていない。
上記従来の歯ブラシの性能を評価するための評価方法や評価装置では、歯ブラシによる歯間部の歯垢除去率や歯間到達率等を所定のブラッシング動作において評価できるようになっているが、歯垢除去率や歯間到達率等を客観的に評価できても、ブラッシング時(刷掃時)に歯肉に毛束の先端部による刺激を感じると、刺激を感じないようにブラッシング(刷掃)してしまうことになるために、不適正なブラッシングとなって、所望の歯垢除去効果が得られなくなることが考えられる。
本発明は、毛束の先端部が刷掃時に歯肉に当たる際の毛束の先端部による刺激を客観的に評価して、刷掃時に毛束の先端部による刺激を感じ難い歯ブラシを容易に得ることのできる歯ブラシの評価方法、及び該評価方法に用いる歯ブラシの評価装置を提供することを目的とする。
本発明は、毛束の先端部が刷掃時に歯肉に当たる際の毛束の先端部による刺激を評価して、歯肉への感触の良い歯ブラシを得るための歯ブラシの評価方法であって、前歯部分の歯列弓の形状を模した模擬湾曲面を有する歯肉モデルを用い、該歯肉モデルの前記模擬湾曲面に対して、複数の種類の歯ブラシにより、ブラッシングマシーンを用いて所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた所定の物性値と、前記複数の種類の歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価との関係を求め、評価対象の歯ブラシを、前記歯肉モデルの前記模擬湾曲面に対して、ブラッシングマシーンを用いて所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた前記所定の物性値から、前記所定の物性値と前記毛束の先端部による刺激の官能評価との関係によって、評価対象の歯ブラシによる刷掃時における毛束の先端部による刺激を評価する歯ブラシの評価方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
また、本発明は、上記歯ブラシの評価方法に用いる歯ブラシの評価装置であって、前歯部分の歯列弓の形状を模した模擬湾曲面を有する歯肉モデルと、ブラッシングマシーンとを具備しており、該ブラッシングマシーンは、前記模擬湾曲面を刷掃する際の刷掃荷重を調整する荷重調整手段と、前記模擬湾曲面を刷掃する際の歯ブラシの植毛台の垂直方向の変位を計測する変位計測手段とを有している歯ブラシの評価装置を提供することにより、上記目的を達成したものである。
本発明の歯ブラシの評価方法、及び該評価方法に用いる歯ブラシの評価装置によれば、毛束の先端部が刷掃時に歯肉に当たる際の毛束の先端部による刺激を客観的に評価して、刷掃時に毛束の先端部による刺激を感じ難い歯ブラシを容易に得ることができる。
本発明の好ましい一実施形態に係る歯ブラシの評価方法に用いる歯ブラシの評価装置の構成を説明する略示斜視図である。 歯肉モデルの模擬湾曲面を歯ブラシによって刷掃する状態を説明する略示側面図である。 実施例におけるNo.1〜No.4の歯ブラシの形態を説明する、(a)はヘッド部の略示側面図、(b)はヘッド部の略示上面図である。 実施例におけるNo.5の歯ブラシの形態を説明する、(a)はヘッド部の略示側面図、(b)はヘッド部の略示上面図である。 実施例におけるNo.6の歯ブラシの形態を説明する、(a)はヘッド部の略示側面図、(b)はヘッド部の略示上面図である。 実施例の各歯ブラシによる刷掃によってマーカーインキが剥離した状態の、歯肉モデルの表面の画像の説明図である。 刷掃荷重と剥離面積との関係を示すチャートである。 刷掃荷重と接触圧との関係を示すチャートである。 刷掃荷重150gfにおける、歯ブラシの植毛台の垂直方向の変位の時系列データを示すチャートである。 刷掃荷重と歯ブラシの植毛台の垂直方向の平均変位との関係を示すチャートである。 毛束の先端部による刺激の官能評価と接触圧との関係を示すチャートである。 毛束の先端部による刺激の官能評価と歯ブラシの植毛台の垂直方向の平均変位との関係を示すチャートである。 毛束の先端部による刺激の官能評価と歯ブラシの植毛台の垂直方向の平均変位の平方根との関係を示すチャートである。
本発明の好ましい一実施形態に係る歯ブラシの評価方法は、図1に示す、歯肉モデル11と、ブラッシングマシーン12とを具備する歯ブラシの評価装置10を用いて、容易に実施することができる。歯ブラシの評価装置10の歯肉モデル11は、図2にも示すように、前歯部分の歯列弓の形状を模した模擬湾曲面11aを有しており、ブラッシングマシーン12は、模擬湾曲面11aを刷掃する際の刷掃荷重を調整する荷重調整手段13と、模擬湾曲面11aを刷掃する際の歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の変位を計測する変位計測手段(図示せず)とを有している。
そして、本実施形態の歯ブラシの評価方法は、毛束22の先端部が刷掃時に歯肉に当たる際の毛束22の先端部による刺激を評価して、歯肉への感触の良い歯ブラシを得るための評価方法であって、前歯部分の歯列弓の形状を模した模擬湾曲面11aを有する歯肉モデル11を用い、この歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対して、複数の種類の歯ブラシ20により、ブラッシングマシーン12を用いて所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた所定の物性値と、複数の種類の歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価との関係を求め、評価対象の歯ブラシ20を、歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対して、ブラッシングマシーン12を用いて所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた所定の物性値から、求められた所定の物性値と毛束22の先端部による刺激の官能評価との関係によって、評価対象の歯ブラシ20による刷掃時における毛束の先端部による刺激を評価するようになっている。
また、本実施形態の歯ブラシの評価方法では、所定の物性値と毛束22の先端部による刺激の官能評価との関係として、好ましくはこれらの相関関係を予め求めておき、評価対象の歯ブラシ20を、歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対して、ブラッシングマシーン12を用いて所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた所定の物性値から、予め求めた相関関係に基づいて、評価対象の歯ブラシ20による刷掃時における毛束22の先端部による刺激を評価するようになっている。
さらに、本実施形態の歯ブラシの評価方法では、複数の種類の歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価との関係(好ましくは相関関係)を求めるための、ブラッシングマシーン12を用いて所定の刷掃荷重で刷掃することで得られる所定の物性値は、好ましくは、歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対するブラッシングマシーン12を用いた刷掃時における、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の平均変位となっており、より好ましくは、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の平均変位の平方根となっている。
さらにまた、本実施形態の歯ブラシの評価方法では、複数の種類の歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価との関係(好ましくは相関関係)を求めるための、ブラッシングマシーン12を用いて所定の刷掃荷重で刷掃することで得られる所定の物性値は、歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対するブラッシングマシーン12による刷掃時における、所定の刷掃荷重を模擬湾曲面11aへの毛束22の接触面積(図4参照)で除した値である、歯ブラシ20の毛束22の接触圧であっても良い。
本実施形態では、歯ブラシの評価方法を実施するための評価装置10は、上述のように、歯肉モデル11と、ブラッシングマシーン12とを具備している。ブラッシングマシーン12は、図1に示すように、例えば特開2002−112837号公報に記載される、公知の歯磨きマシンに、適宜改良を加えて用いることができる。ブラッシングマシーン12は、本実施形態では、例えば固定台30の上に固定されたブラケット31に、ロッカアーム32が、枢軸33を介して略上下方向に回動可能に設けられている。ロッカアーム32の先端部には、歯ブラシ20を交換可能に保持することが可能な、ブラシホルダ34が取り付けられている。ロッカアーム32の後端部には、バランスウエイト35が取り付けられている。
また、ロッカアーム31の先端部には、歯ブラシ20による刷掃時に所定の刷掃荷重を付与することが可能なウエイト取付部が、荷重調整手段13として設けられている。荷重調整手段であるウエイト取付部13には、荷重設定ウエイト36が、着脱交換可能に取り付けられる。荷重設定ウエイト36は、重量の異なるものが複数種類、用意されており、ウエイト取付部13に取り付けられる荷重設定ウエイト36の種類や個数を変更することによって、刷掃荷重を容易に調整できるようになっている。
ロッカアーム32の先端部に取り付けられたブラシホルダ34の下方には、往復台装置37が配置されている。往復台装置37は、これの内部に設けられた往復駆動機構によって水平面上を往復駆動する、往復移動テーブル38を有している。往復移動テーブル38の上には、後述する歯肉モデル11を、着脱可能に固定できるようになっている。往復台装置37は、ダイヤル39による操作によって、往復移動テーブル38の往復ストローク(刷掃長さ)を変更したり、内蔵タイマによって、動作時間(刷掃回数)を変更したりできるようになっている。
さらに、本実施形態では、ブラッシングマシーン12は、歯ブラシ20によって歯肉モデル11の模擬湾曲面11aを刷掃する際に、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の変位を計測することが可能な、変位計測手段(図示せず)を有している。変位計測手段は、具体的には、レーザ変位計やLED変位計であって、本実施形態では、バランスウエイト35の上下動を検出することで、間接的に歯ブラシ20の上下動を検出する構成となっている。
なお、本実施形態では、ブラシホルダ34に保持される歯ブラシ20の長手方向と、往復移動テーブル38の往復移動方向とが合致するような位置関係で、ブラシホルダ34と往復移動テーブル38とが配置されている。また、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の変位は、歯肉モデル11の模擬湾曲面11aを刷掃する際に変位計測手段によって計測された、ブラシホルダ34の上下方向の変位を意味するものであり、例えば歯ブラシ20の植毛台21がブラシホルダ34に対して若干斜めに傾いた状態で把持されている場合には、歯ブラシ20の植毛台21に対して略垂直方向の変位も含まれる。
歯ブラシの評価装置10を構成する歯肉モデル11は、図2にも示すように、歯肉が毛束22の先端部による刺激を最も感じ易い部分として、好ましくは前歯部分の歯列弓の形状を模した模擬湾曲面11aを有している。本実施形態では、歯肉モデル11は、好ましくはプラスチック製の平板を、弧状に腕曲させてアーチ形状に形成したものとなっており、その上端部中央部分が、前歯部分の歯列弓の形状を模した模擬湾曲面11aとなっている。歯肉モデル11は、その両側の下辺部を、往復移動テーブル38の上面に往復方向に間隔をおいて固定された、一対の係止凸片41に各々係止することで、模擬湾曲面11aを上端部分に配置した状態で、往復移動テーブル38の上面に着脱交換可能に取り付けられる。
ここで、歯肉モデル11は、平板を弧状に腕曲させて形成したものの他、前歯部分の歯列弓の形状を模した模擬湾曲面を備える、円柱状や円筒状や半円柱状等の形状の部材を用いて形成したもの、もしくはそれらにフィルムを貼付したものを使用することもできる。平板を弧状に腕曲させて歯肉モデル11を形成する場合には、好ましくはポリプロピレン、高密度ポリエチレン、塩化ビニル等のプラスチック製の平板の他、金属製の平板等を用いて形成することもできる。歯肉モデル11の模擬湾曲面11aの曲率半径は、10〜200mmとなっていることが好ましく、30〜100mmとなっていることがさらに好ましい。歯肉モデル11の往復移動テーブル38の移動方向の長さは、10〜200mmとなっていることが好ましく、移動方向と垂直な方向の幅は、5〜50mmとなっていることが好ましい。模擬湾曲面11aが形成された歯肉モデル11の上端部分の、往復移動テーブル38の上面からの高さは、20〜200mmとなっていることが好ましい。
また、本実施形態では、歯肉モデル11の模擬湾曲面11aには、当該模擬湾曲面11aから剥離可能な塗膜形成材が塗布されている。塗膜形成材は、ブラッシングマシーン12を用いて歯ブラシ20により所定の刷掃荷重で当該模擬湾曲面11aを刷掃する際に、毛束22の先端部が模擬湾曲面11aに接触する領域を、剥離部として判別させるようにするものである(図4参照)。本実施形態では、塗膜形成材として、好ましくはホワイトボード用のマーカーインキが模擬湾曲面11aに塗布されており、刷掃によりマーカーインキが模擬湾曲面か11aから剥離した領域の面積から、例えば画像処理によって、歯ブラシ20の刷掃時における毛束22の模擬湾曲面11aへの接触面積を、容易に算出できるようになっている。
ホワイトボード用のマーカーインキは、従来の歯ブラシの評価装置に用いられていた、歯間部に付着した歯垢を模した塗膜形成材である、磁性体塗布フィルムに塗着された磁性体と比較して、毛束22の先端部との軽い接触によっても、模擬湾曲面11aから容易に剥離する物性を備えている。これによって、毛束22の先端部の模擬湾曲面11aへの接触を、容易に剥離することで、さらに感度良く反映させることが可能になるので、毛束22の先端部が刷掃時に模擬湾曲面11aと接触する領域を、より精度良く判別させることが可能になる。
そして、本実施形態の歯ブラシの評価方法では、上述の構成を備える歯ブラシの評価装置10を用いて、後述する実施例のように、ブラッシングマシーン12によって、複数の種類の歯ブラシ20により、所定の刷掃荷重で歯肉モデル11の模擬湾曲面11aを刷掃することで得られた所定の物性値と、複数の種類の歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価との相関関係を、予め求めておくことができる。
ここで、複数の種類の歯ブラシ20により歯肉モデル11の模擬湾曲面11aを刷掃する際の、所定の刷掃荷重は、10〜500gfの範囲で適宜設定することができるが、毛束22の先端部を歯肉に強く接触させる方が、毛束22の先端部による刺激を感じ易いと考えられることや、実際のブラッシングでの力の加え方から、例えば50〜200gf程度に設定することが好ましく、100〜200gf程度に設定するのが更に好ましい。また、毛束22の先端部を歯肉に沿って大きく且つ早く動かす方が、毛束22の先端部による刺激を感じ易いと考えられることから、刷掃条件として、例えば往復移動テーブル38による往復ストローク(刷掃長さ)を、0.5〜3cm程度で歯ブラシ20の植毛台21の長さを超えない長さとし、往復速度を1〜5Hz程度とし、往復回数を1〜100回程度として、所定の物性値を得るようにすることが好ましい。なお、本実施形態での往復動作は正弦波である。
また、本実施形態では、歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価との相関関係を求めるための、所定の刷掃荷重で刷掃することで得られる所定の物性値は、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の平均変位(撓みの平均)とすることが好ましい。歯肉に感じる毛束22の先端部による刺激は、特に刷掃荷重が大きい場合に、毛束22の変形(撓み)によって一層やわらげられると類推できるからである。所定の刷掃荷重で刷掃することで得られる所定の物性値は、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の平均変位(撓みの平均)の平方根とすることが特に好ましい。後述する実施例によって、垂直方向の平均変位の平方根は、官能評価による毛束22の先端部による刺激との間で、より高い相関性が認められたからである。歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対するブラッシングマシーン12を用いた刷掃時における、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の平均変位や、これの平方根は、ブラッシングマシーン12に設けられた、模擬湾曲面11aを刷掃する際の歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の変位を計測するための、変位計測手段による計測値から、容易に算出することができる。ここで、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の平均変位は、垂直方向の変位を所定時間毎に計測したときの平均変位である。例えば、歯ブラシ20を1往復させた時の垂直方向の変位の平均値であって、荷重を加えずに、歯ブラシ20の毛束22の先端が歯肉モデル11に最初に接触した際の水平位置を基準とした、垂直方向の変位の平均値である。
さらに、本実施形態では、歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価との相関関係を求めるための、所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた所定の物性値は、歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対するブラッシングマシーン12による刷掃時における、所定の刷掃荷重を模擬湾曲面11aへの毛束22の接触面積(図6参照)で除した値である、歯ブラシ20の毛束22の接触圧とすることもできる。歯肉に感じる毛束22の先端部による刺激に関しては、高荷重及び高接触圧の下で、毛束22の先端部による刺激をより感じ易くなると類推できるからである。歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対するブラッシングマシーン12による刷掃時における、歯ブラシ20の毛束22の模擬湾曲面11aへの接触圧は、設定された所定の刷掃荷重を、刷掃によりマーカーインキ等の塗膜形成材が剥離した領域の面積から算出した接触面積で除することによって、容易に算出することができる。
さらにまた、本実施形態では、ブラッシングマシーン12を用いて所定の刷掃荷重で歯ブラシ20により模擬湾曲面11aを刷掃することで得られた所定の物性値との相関関係を求めるための、歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価は、後述するように、例えば毛束22の植毛形態が異なる複数の種類の歯ブラシ20を用いて、例えば10〜50名程度のモニターに実際に歯磨きを行なって貰うと共に、実際に歯磨きを行なった時に前歯部分の歯肉に感じる毛束22の先端部による刺激を、最も刺激を感じた時の点数を100として数値化して貰うことで行った。歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価は、例えば複数のモニターによって数値化された数値の平均値として、容易に算出することができる。
本実施形態では、ブラッシングマシーン12を用いて所定の刷掃荷重で歯ブラシ20により模擬湾曲面11aを刷掃することで得られた所定の物性値と、複数の種類の歯ブラシ20を実際に使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価との相関関係は、例えば上述のようにして得られた所定の物性値である、歯ブラシ20の植毛台21の垂直方向の平均変位、又はこれの平方根、或いは歯ブラシ20の毛束22の接触圧と、上述のようにして数値化された、実際に感じる毛束22の先端部による刺激の官能評価とを、公知の回帰分析によって解析することにより、好ましくは回帰直線として、該回帰直線に用いる相関係数と共に容易に求めることができる。
そして、本実施形態では、例えば所望の歯垢除去性能を備えると共に、刷掃時に毛束22の先端部による刺激を感じ難い歯ブラシを開発する際に、評価対象となる開発中の歯ブラシ20を、歯肉モデル11の模擬湾曲面11aに対して、ブラッシングマシーン12を用いて所定の刷掃荷重で刷掃する。これによって得られた所定の物性値である、例えば上述の植毛台21の垂直方向の平均変位や、平均変位の平方根や、歯ブラシの毛束の接触圧から、上述のようにして予め求められた相関関係に基づいて、評価対象の歯ブラシ20による、刷掃時に生じると予想される毛束22の先端部による刺激を、容易に評価することが可能になる。
すなわち、本実施形態では、上述の構成を備える歯ブラシの評価装置10を用いて、官能評価との相関関係を求めた際の複数の種類の歯ブラシ20と同様に、評価対象の歯ブラシ20により、所定の刷掃荷重で歯肉モデル11の模擬湾曲面11aを刷掃する。これによって、所定の物性値として、例えば植毛台21の垂直方向の平均変位や、平均変位の平方根や、歯ブラシの毛束の接触圧を得る。そして、得られた所定の物性値を、予め求められている、歯ブラシ20を使用した際に感じる毛束22の先端部による刺激の数値化された官能評価との、好ましくは回帰直線による、相関関係に当てはめることによって、評価対象の歯ブラシ20の刷掃時に生じると予想される毛束22の先端部による刺激を、好ましくは数値によって、客観的に容易に評価することが可能になる。
このようにして、本実施形態の歯ブラシの評価方法や歯ブラシの評価装置10によれば、毛束22の先端部が刷掃時に歯肉に当たる際の、毛束22の先端部による刺激を客観的に評価することができ、結果、刷掃時に毛束22の先端部による刺激を感じ難い歯ブラシ20が何れであるかを判定することが可能になる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価との関係を求めるための、ブラッシングマシーンを用いて所定の刷掃荷重で歯ブラシにより歯肉モデルの模擬湾曲面を刷掃することで得られる、所定の物性値は、植毛台の垂直方向の平均変位や、平均変位の平方根や、歯ブラシの毛束の接触圧である必要は必ずしも無く、垂直方向の平均変位を刷掃荷重で除することで得られる柔軟性や、接触面積や、横応力等の、その他の種々の物性値であっても良い。
また、求められる所定の物性値と毛束の先端部による刺激の官能評価との関係は、これらの相関関係である必要は必ずしも無く、例えば評価対象の複数の未知の歯ブラシについて、ブラッシングマシーンを用いて得られる変位や接触面積等の物性値から、刺激を感じない順に序列をつけることにより、所定の物性値と毛束の先端部による刺激の官能評価との関係を求めることによって、回帰直線等による相関関係を介することなく、歯ブラシの刷掃時における毛束の先端部による刺激を評価することもできる。また、例えば毛束の先端部による刺激をより感じないように、ある歯ブラシを改良する場合には、特に標準サンプルが無くても、改良前の歯ブラシの所定の物性値と改良後の歯ブラシの所定の物性値とを比較するだけで、相関関係を示す式を用いることなく、毛束の先端部による刺激をより感じない方向に改良されたか否かについて、容易に評価することが可能になる。
以下、実施例により、本発明の歯ブラシの評価方法をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
No.1〜No.6の6種類の歯ブラシについて、上述の実施形態のものと同様の構成の歯ブラシの評価装置10を用いて、ブラッシングマシーンにより、所定の刷掃荷重で歯肉モデルの模擬湾曲面を刷掃し、その時の模擬湾曲面に対する毛束の先端部の接触面積と、刷掃荷重を接触面積で除した値である接触圧と、植毛台の垂直方向の平均変位とを算出、又は測定した。また、No.1〜No.6の歯ブラシを実際に使用した際に感じる官能評価を、毛束の硬さと毛束の先端部による刺激について行ない、これらの歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価と、刷掃荷重を接触面積で除した値である接触圧との相関関係、及び歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価と、植毛台の垂直方向の平均変位との相関関係を確認した。
〔No.1〜No.6の6種類の歯ブラシ〕
図3(a)に示す側面形状を有し、図3(b)に示すように植毛台に配置されたφ1.6mmの植毛穴に各々毛束が植毛された歯ブラシを、No.1〜No.4の歯ブラシとした。No.1の歯ブラシでは、各々の毛束を構成するブリッスルは、先端がラウンド加工された太さが6milのやわらかめのナイロン毛となっており、11mmの毛丈で植設されている。No.2の歯ブラシでは、各々の毛束を構成するブリッスルは、先端がラウンド加工された太さが8milのふつうの硬さのナイロン毛となっており、11mmの毛丈で植設されている。No.3の歯ブラシでは、各々の毛束を構成するブリッスルは、先端がラウンド加工された太さが10milの硬めのナイロン毛となっており、11mmの毛丈で植設されている。No.4の歯ブラシでは、No.1〜No.3の歯ブラシと仕様が異なり、各々の毛束を構成するブリッスルは、先端部分がテーパー形状となるように研削加工された太さが8milのふつうの硬さのナイロン毛となっており、11mmの毛丈で植設されている。
図4(a)に示す側面形状を有し、図4(b)に示すように植毛台に配置された植毛穴に各々毛束を植毛した、市販品の歯ブラシを、No.5の歯ブラシとした。No.5の歯ブラシでは、歯肉にあたる外側の毛(図4(a)の白抜きの○を参照)がやわらかいので、毛束の先端部による刺激を感じにくいため歯と歯肉の境目部分も優しく刷掃できると考えられる。また、毛束の先端を連ねた先端刷掃面が、側面視して凸凹カットされた形状を有しており、歯と歯の間に入り易い形状となっている。さらに、毛束を構成するブリッスルの毛先部分である先端部分が、テーパー形状となるように先細加工されており、ざらざらしていて歯垢が取れ易くなっている。
図5(a)に示す側面形状を有し、図5(b)に示すように植毛台に配置された植毛穴に各々毛束を植毛した、他の市販品の歯ブラシを、No.6の歯ブラシとした。No.6の歯ブラシは、歯科医院で一般に推奨、使用されるタイプの歯ブラシとして知られており、ヘッド部は小さく、毛丈は短めとなっている。No.6の歯ブラシは、硬く感じるようになっており、歯垢を落とすためには、角度付けや細かいストローク等について相当の技術を必要とし、長時間のブラッシングを必要とするブラッシング指導に用いられている。
〔刷掃条件等〕
ブラッシングマシーンを用いて歯肉モデルの模擬湾曲面を刷掃する際の刷掃条件を、以下ように設定し、歯肉モデルの模擬湾曲面からホワイトボード用のマーカーインキが剥離した領域の面積を、画像処理装置を用いて算出すると共に、刷掃時の横応力、及び植毛台の垂直方向の変位を計測した。
刷掃条件
使用機器:ブラッシングマシーン(図1参照)
刷掃荷重:20gf、50gf、100gf、150gf、200gfの5段階
往復ストローク(刷掃長さ):1.5cm
往復速度:2Hz
往復回数:20回
歯肉モデルは、歯列弓の形状を参考にして、毛束の先端部による刺激を最も感じやすい前歯部分の歯列弓を模した模擬湾曲面を備えるモデルとして作成した。歯肉モデルは、ポリプロピレン製のプラスチック板(縦横6×3cm、厚さ1mm)の両側の下辺部を、往復移動テーブルの上面に往復方向に5cmの間隔をおいて固定された、一対の係止凸片に各々係止することで、上端部分に模擬湾曲面を備える、上方に向けて弧状に凸となった形状となるように形成した(図2参照)。歯肉モデルの模擬湾曲面には、擦過により容易に剥離する、ホワイトボード用のマーカーインキを塗布した。画像処理装置として D1X f22 1/15s を使用し、蛍光灯2灯照明の下、撮影距離30cmで撮影することにより、図6に示すような、ホワイトボード用のマーカーインキが剥離した状態の、歯肉モデルの表面の画像を得た。
ブラッシングマシーンにより、No.1〜No.6の歯ブラシを用いて上述の刷掃条件で歯肉モデルの模擬湾曲面を刷掃することによって得られた、歯ブラシの刷掃荷重と接触面積との関係を図7に示す。歯ブラシの刷掃荷重と、刷掃荷重を接触面積で除した値である接触圧との関係を図8に示す。図9に、刷掃荷重150gfにおける、歯ブラシの植毛台の垂直方向の変位の時系列データ(2往復分)を示す。図10に刷掃荷重と歯ブラシの植毛台の垂直方向の平均変位との関係を示す。
〔官能評価〕
No.1〜No.6の歯ブラシを実際に使用した際に感じる官能評価を、毛束の硬さと毛束の先端部による刺激について行った。すなわち、No.1〜No.6の歯ブラシを用いて、15名のモニターに実際に歯磨きを行なって貰うと共に、毛束の硬さについては「最も硬く感じる」を100とし、毛束の先端部による刺激については「最も強く感じる」を100として各々数値化して貰い、15名の平均値を算出して評価した。毛束の硬さ及び毛束の先端部による刺激について算出した官能評価の平均値を表1に示す。
〔歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価との相関関係〕
No.1〜No.6の歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価と、ブラッシングマシーンにより所定の刷掃荷重で歯肉モデルの模擬湾曲面を刷掃した際の、刷掃荷重を接触面積で除した値である接触圧との関係を図11に示すと共に、これらの相関を表2に示す。表2の毛束の先端部による刺激の官能評価と接触圧との相関は、回帰直線で近似させた際の相関係数の2乗の値(r2)で示した。表2の毛束の先端部による刺激の官能評価と接触圧との相関は、No.1〜No.6すべての歯ブラシのデータを用いた場合を(ALL)、同様の仕様のNo.1〜No.3の歯ブラシのデータを用いた場合を(1,2,3)、これに先細加工したNo.4の歯ブラシを加えたものを(1,2,3,4)、さらにNo.5の歯ブラシを加えたもの(1,2,3,4,5)とした。
刺激の官能評価と接触圧との関係は、同様の仕様のNo.1〜No.3の歯ブラシに、異なる仕様のNo.4の歯ブラシを加えた(1,2,3、4)や、さらに異なる仕様のNo.5の歯ブラシを加えた(1.2,3,4,5)においても、刷掃荷重200gfで、相関が高くなっていた。
No.1〜No.6の歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価と、ブラッシングマシーンにより所定の刷掃荷重で歯肉モデルの模擬湾曲面を刷掃した際の、植毛台の垂直方向の平均変位との関係を図12に示すと共に、これらの相関を表3に示す。表3の毛束の先端部による刺激の官能評価と平均変位との相関は、接触圧との相関と同様に、回帰直線で近似させた際の相関係数の2乗の値(r2)で示した。
毛束の先端部による刺激の官能評価と平均変位との相関は、同様の仕様のNo.1〜No.3の歯ブラシに、異なる仕様のNo.4の歯ブラシを加えた(1,2,3,4)においても、全ての刷掃荷重で良好であった。図12のように、No.1の歯ブラシとNo.5の歯ブラシとでは平均変位の差が大きくなっているが、直線回帰による相関は、高荷重側である程度得られている。さらに相関を高くするためには、他の関数について検討することが好ましい。
そこで、平均変位の平方根を算出し、No.1〜No.6の歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価との関係を調べた。その結果を表4、及び図13に示す。
毛束の先端部による刺激の官能評価と平均変位の平方根との相関は、毛束の先端部による刺激を感じる可能性が高いと考えられる150gfや200gfの高い刷掃荷重側で、No.1〜No.6のすべての歯ブラシのデータにおいて高い相関が認められた。これは、接触圧に比べて、平均変位や平均変位の平方根が歯ブラシの設計の影響を受けにくいパラメーターであり、歯肉に感じる毛束の先端部による刺激は、大きな変形によって効果的にやわらげられていると考えることができる。
これらによって、本発明の歯ブラシの評価方法によれば、歯ブラシを実際に使用した際に感じる刺激の官能評価と高い相関性を有する、刷掃荷重を接触面積で除した値である接触圧や、植毛台の垂直方向の平均変位や、これの平方根との相関関係を予め求めておくことによって、歯ブラシの毛束の先端部が刷掃時に歯肉に当たる際の毛束の先端部による刺激を客観的に評価できるようにして、刷掃時に毛束の先端部による刺激を感じ難い歯ブラシを、容易に得ることを可能にすることが判明する。特に、平均変位の平方根は、歯ブラシの種類によらず、歯ブラシを使用した際に感じる毛束の先端部による刺激との高い相関があるので、所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた所定の物性値として好ましく用いることができる。
また、ヘッドの大きさや植毛パターンの異なる歯ブラシを比較する際には、所定の物性値として、変位の平方根や立方根、階乗、指数、対数などを用いたほうが、毛束の先端部による刺激の官能評価との相関性が高くなる場合がある。また、変位のみを用いるのではなく、変位と圧力とを加算しあるいは乗算した値を用いたり、あるいは、その値の平方根や立方根、階乗、指数、対数などを用いてもよい。
〔補足説明〕
図6に示す、マーカーインキが剥離した状態の歯肉モデルの表面の画像では、No.1の歯ブラシは、200gfの刷掃荷重で接触面積が大きく増えており、また剥離した領域も不連続な島状の部分が大きくなっている。これは、毛束のブリッスルが荷重に耐えきれなくなって左右に開いてしまったためで、この状態ではブリッスルの腹が歯や歯茎にあたるため、清掃効果が大幅に低下すると考えられる。歯ブラシの刷掃荷重と接触面積との関係を示す図7においても、No.1の歯ブラシは、150gf以上の刷掃荷重で不連続な挙動を示している。それ以外のNo.2〜No.6の歯ブラシは、刷掃荷重と共に接触面積が増加していることから、刷掃荷重に対して安定した挙動となっている。歯科医院でブラッシング指導に用いるタイプの歯ブラシであるNo.6の歯ブラシは、他の歯ブラシと比較して、明らかに接触面積が小さいことが判明する。歯ブラシの刷掃荷重と、刷掃荷重を接触面積で除した値である接触圧との関係を示す図8において、No.6の歯ブラシは、刷掃荷重の増加に従い接触圧も増加し、最も高い値を示した。一方、ブリッスルがテーパー形状に毛先加工されているNo.5の歯ブラシとNo.4の歯ブラシは、刷掃荷重に関わらず低い安定した接触圧を示した。200gfの刷掃荷重での接触圧を比べると、No.5の歯ブラシに対してNo.6の歯ブラシは、3倍以上の接触圧となっていた。
刷掃荷重150gfにおける、歯ブラシの植毛台の垂直方向の変位の時系列データ(2往復分)を示す図9や、刷掃荷重と歯ブラシの植毛台の垂直方向の平均変位との関係を示す図10では、垂直方向の平均変位は、No.5の歯ブラシが最も大きくなり、No.3の歯ブラシが最も小さくなる結果となった。同様の仕様で植毛したNo.1〜No.3の歯ブラシでは、ブリッスルの太さが細いものほど垂直方向の平均変位が大きく、テーパー形状に先細加工したNo.4の歯ブラシは、垂直方向の平均変位が、ラウンド加工のNo.1の歯ブラシに近い結果となった。
表1に示す評価結果では、毛束の硬さ/毛束の先端部による刺激の値については、使用したNo.1〜No.4及びNo.6の歯ブラシは、1付近になったが、No.5の歯ブラシのみ2.4となり、毛束に硬さ(しっかり感)があるにもかかわらず、毛束の先端部による刺激が最も少ないという結果になった。No.5の歯ブラシは、他の歯ブラシと異なり、毛先加工、カット形状、毛束(植毛穴)の径などが異なっており、これらの影響によるものと考えられる。
10 歯ブラシの評価装置
11 歯肉モデル
11a 模擬湾曲面
12 ブラッシングマシーン
13 荷重調整手段(ウエイト取付部)
20 歯ブラシ
21 植毛台
22 毛束
30 固定台
31 ブラケット
32 ロッカアーム
33 枢軸
34 ブラシホルダ
35 バランスウエイト
36 荷重設定ウエイト
37 往復台装置
38 往復移動テーブル
39 ダイヤル
41 係止凸片

Claims (8)

  1. 毛束の先端部が刷掃時に歯肉に当たる際の毛束の先端部による刺激を評価して、歯肉への感触の良い歯ブラシを得るための歯ブラシの評価方法であって、
    前歯部分の歯列弓の形状を模した模擬湾曲面を有する歯肉モデルを用い、該歯肉モデルの前記模擬湾曲面に対して、複数の種類の歯ブラシにより、ブラッシングマシーンを用いて設定された所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた所定の物性値と、前記複数の種類の歯ブラシを実際に使用した際に感じる毛束の先端部による刺激の官能評価との関係を予め求めておき、
    評価対象の歯ブラシにより、前記歯肉モデルの前記模擬湾曲面に対して、ブラッシングマシーンを用いて前記設定された所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた前記所定の物性値から、前記予め求められた、前記所定の物性値と前記毛束の先端部による刺激の官能評価との関係によって、評価対象の歯ブラシによる刷掃時における毛束の先端部による刺激を評価する歯ブラシの評価方法。
  2. 前記設定された所定の刷掃荷重は、100〜200gfである請求項1記載の歯ブラシの評価方法。
  3. 前記ブラッシングマシーンを用いた歯ブラシによる刷掃は、その往復ストロークが、歯ブラシの植毛台の長さを超えない長さとなっている請求項1又は2記載の歯ブラシの評価方法。
  4. 前記ブラッシングマシーンを用いた歯ブラシによる刷掃は、その往復速度が1〜5Hzとなっている請求項1〜3のいずれか1項記載の歯ブラシの評価方法。
  5. 前記所定の物性値と前記毛束の先端部による刺激の官能評価との関係として、これらの相関関係を予め求めておき、評価対象の歯ブラシにより、前記歯肉モデルの前記模擬湾曲面に対して、ブラッシングマシーンを用いて前記設定された所定の刷掃荷重で刷掃することで得られた前記所定の物性値から、予め求められた前記相関関係に基づいて、評価対象の歯ブラシによる刷掃時における毛束の先端部による刺激を評価する請求項1〜4のいずれか1項記載の歯ブラシの評価方法。
  6. 前記所定の物性値は、前記模擬湾曲面に対するブラッシングマシーンを用いた刷掃時における、歯ブラシの植毛台の垂直方向の平均変位である請求項1〜5のいずれか1項記載の歯ブラシの評価方法。
  7. 前記所定の物性値は、前記平均変位の平方根である請求項6記載の歯ブラシの評価方法。
  8. 前記所定の物性値は、前記模擬湾曲面に対するブラッシングマシーンを用いた刷掃時における、前記設定された所定の刷掃荷重を前記模擬湾曲面への毛束の接触面積で除した値である、歯ブラシの毛束の接触圧となっている請求項1〜5のいずれか1項記載の歯ブラシの評価方法。
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