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JP6612507B2 - 非水電解質二次電池用炭素質材料、非水電解質二次電池用負極ならびに非水電解質二次電池 - Google Patents

非水電解質二次電池用炭素質材料、非水電解質二次電池用負極ならびに非水電解質二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池の負極に適した炭素質材料、非水電解質二次電池用負極ならびに非水電解質二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノートパソコンのような小型携帯機器に広く用いられている。リチウムイオン二次電池の負極材としては、黒鉛の理論容量372mAh/gを超える量のリチウムのドープ(充電)および脱ドープ(放電)が可能な難黒鉛化性炭素が開発され(例えば特許文献1)、使用されてきた。
難黒鉛化性炭素は、例えば石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂、植物を炭素源として得ることができる。これらの炭素源の中でも、植物は栽培することによって持続して安定的に供給可能な原料であり、安価に入手できるため注目されている。また、植物由来の炭素原料を焼成して得られる炭素質材料には、細孔が多く存在するため、良好な充放電容量が期待される(例えば特許文献1、特許文献2)。
一方、近年、環境問題への関心の高まりから、リチウムイオン二次電池の車載用途での開発が進められ、実用化されつつある。
特開平9−161801号公報 特開平10−21919号公報
特に車載用途でのリチウムイオン電池に用いられる炭素質材料には、良好な充放電容量とともに、さらに酸化劣化に対する耐性が求められる。
従って、本発明の目的は、良好な充放電容量とともに、酸化劣化に対する良好な耐性を有する、非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)の負極に用いる炭素質材料(非水電解質二次電池用炭素質材料)を提供することにある。
本発明者らは、以下に説明する本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料により上記目的を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕広角X線回折法によるBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔d002が0.36〜0.42nmの範囲にあり、
窒素吸着BET3点法により求めた比表面積が1〜20m/gの範囲にあり、
窒素元素含量が0.5重量%以下、および酸素元素含量が0.25重量%以下であり、
満充電状態となるまでリチウムがドープされた状態で7Li核−固体NMR分析により観測される主共鳴ピークの塩化リチウム基準の化学シフト値が、低磁場側の80〜105ppmの範囲にある、非水電解質二次電池用炭素質材料。
〔2〕前記非水電解質二次電池用炭素質材料が、比表面積100〜500m2/gの炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800〜1400℃の不活性ガス雰囲気下で焼成したものである、前記〔1〕に記載の非水電解質二次電池用炭素質材料。
〔3〕前記炭素前駆体が植物由来である、前記〔2〕に記載の非水電解質二次電池用炭素質材料。
〔4〕前記揮発性有機物は、常温で固体状態であり、残炭率が5重量%未満である、前記〔2〕または〔3〕に記載の非水電解質二次電池用炭素質材料。
〔5〕カリウム元素含量が0.1重量%以下、および鉄元素含量が0.02重量%以下である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の非水電解質二次電池用炭素質材料。
〔6〕ブタノール法により求めた真密度が1.40〜1.70g/cmである、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の非水電解質二次電池用炭素質材料。
〔7〕前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の非水電解質二次電池用炭素質材料を含む非水電解質二次電池用負極。
〔8〕前記〔7〕に記載の非水電解質二次電池用負極を含む非水電解質二次電池。
本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料を用いる非水電解質二次電池は、良好な充放電容量とともに、酸化劣化に対する良好な耐性を有する。
実施例1の炭素質材料を用いて作製した炭素電極のNMRスペクトルを示す図である。 比較例1の炭素質材料を用いて作製した炭素電極のNMRスペクトルを示す図である。
以下は本発明の実施形態を例示する説明であって、本発明を以下の実施形態に制限する趣旨ではない。なお、本明細書において、常温とは25℃を指す。
(非水電解質二次電池用炭素質材料)
本実施形態の非水電解質二次電池用炭素質材料は、例えば炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800〜1400℃の不活性ガス雰囲気下で焼成して得られる。
炭素前駆体は、炭素質材料を製造する際に炭素成分を供給する炭素質材料の前駆体であり、植物由来の炭素材(以下、「植物由来のチャー」と称することがある)を原料に用いて製造することができる。なお、チャーとは、一般的には、石炭を加熱した際に得られる溶融軟化しない炭素分に富む粉末状の固体を示すが、ここでは有機物を加熱して得られる溶融軟化しない炭素分に富む粉末状の固体も示す。
植物由来のチャーの原料となる植物(以下、「植物原料」と称することがある)には、特に制限はない。例えば、椰子殻、珈琲豆、茶葉、サトウキビ、果実(例えば、みかん、バナナ)、藁、籾殻、広葉樹、針葉樹、竹を例示できる。この例示は、本来の用途に供した後の廃棄物(例えば、使用済みの茶葉)、あるいは植物原料の一部(例えば、バナナやみかんの皮)を包含する。これらの植物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの植物の中でも、大量入手が容易な椰子殻が好ましい。
椰子殻としては、特に限定されるものではなく、例えばパームヤシ(アブラヤシ)、ココヤシ、サラク、オオミヤシの椰子殻を挙げることができる。これらの椰子殻は、単独または組み合わせて使用することができる。食品、洗剤原料、バイオディーゼル油原料等として利用され、大量に発生するバイオマス廃棄物である、ココヤシおよびパームヤシの椰子殻が特に好ましい。
植物原料からチャーを製造する方法は特に限定されるものではないが、例えば植物原料を、300℃以上の不活性ガス雰囲気下で、熱処理(以下、「仮焼成」と称することがある)することによって製造することができる。
また、チャー(例えば、椰子殻チャー)の形態で入手することも可能である。
植物由来のチャーから製造された炭素質材料は、多量の活物質をドープ可能であることから、非水電解質二次電池の負極材料として基本的には適している。しかし、植物由来のチャーには、植物に含まれていた金属元素が多く含有されている。例えば、椰子殻チャーでは、カリウムを0.3%程度、鉄元素を0.1%程度含んでいる。このような金属元素を多く含んだ炭素質材料を負極として用いると、非水電解質二次電池の電気化学的な特性や安全性に好ましくない影響を与えることがある。
また、植物由来のチャーは、カリウム以外のアルカリ金属(例えば、ナトリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、遷移金属(例えば、鉄、銅)およびその他の金属類も含んでいる。炭素質材料がこれらの金属類を含むと、非水電解質二次電池の負極からの脱ドープ時に不純物が電解液中に溶出し、電池性能に好ましくない影響を与え、安全性を害する可能性がある。
さらに、本発明者等の検討により、灰分により炭素質材料の細孔が閉塞され、電池の充放電容量に悪影響を及ぼすことがあると確認されている。
従って、植物由来のチャーに含まれているこのような灰分(アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、およびその他の元素類)は、炭素質材料を得るために焼成する前に、脱灰処理によって灰分を減少させておくことが望ましい。脱灰方法は特に制限されないが、例えば塩酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、蟻酸等の有機酸等を含む酸性水を用いて金属分を抽出脱灰する方法(液相脱灰)、塩化水素などのハロゲン化合物を含有した高温の気相に暴露させて脱灰する方法(気相脱灰)を用いることができる。適用する脱灰方法を限定する趣旨ではないが、以下では、脱灰後に乾燥処理の必要が無い点で好ましい気相脱灰について説明する。なお、脱灰された植物由来のチャーを以下において「植物由来のチャー炭素前駆体」とも称する。
気相脱灰としては、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む気相中で熱処理することが好ましい。ハロゲン化合物は特に制限されないが、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、臭化ヨウ素、フッ化塩素(ClF)、塩化ヨウ素(ICl)、臭化ヨウ素(IBr)、塩化臭素(BrCl)等を挙げることができる。熱分解によりこれらのハロゲン化合物を発生する化合物、またはこれらの混合物を用いることもできる。供給安定性および使用するハロゲン化合物の安定性の観点から、好ましくは塩化水素である。
気相脱灰は、ハロゲン化合物と不活性ガスとを混合して使用してもよい。不活性ガスは、植物由来のチャーを構成する炭素成分と反応しないガスであれば特に制限されない。例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、またはそれらの混合ガスを挙げることができる。供給安定性および経済性の観点から、好ましくは窒素である。
気相脱灰において、ハロゲン化合物と不活性ガスとの混合比は、十分な脱灰が達成できる限り、限定されるものではないが、例えば、安全性、経済性および炭素中への残留性の観点から、不活性ガスに対するハロゲン化合物の量は好ましくは0.01〜10.0体積%であり、より好ましくは0.05〜8.0体積%であり、さらに好ましくは0.1〜5.0体積%である。
気相脱灰の温度は、脱灰の対象物である植物由来のチャーにより変えてよいが、所望の窒素元素含量および酸素元素含量を得る観点から、例えば500〜950℃、好ましくは600〜940℃、より好ましくは650〜940℃、さらに好ましくは850〜930℃で実施することができる。脱灰温度が低すぎると、脱灰効率が低下し、十分に脱灰できないことがある。脱灰温度が高くなりすぎると、ハロゲン化合物による賦活が起きることがある。
気相脱灰の時間は、特に制限されるものではないが、反応設備の経済効率、炭素分の構造保持性の観点から、例えば5〜300分であり、好ましくは10〜200分であり、より好ましくは20〜150分である。
本実施形態における気相脱灰は、植物由来のチャーに含まれているカリウム、鉄等を除去するものである。気相脱灰処理後に得られる炭素前駆体に含まれるカリウム含有量は、脱ドープ容量を大きくする観点および非脱ドープ容量を小さくする観点から、0.1重量%以下が好ましく、0.05重量%以下がより好ましく、0.03重量%以下がさらに好ましい。気相脱灰処理後に得られる炭素前駆体に含まれる鉄含有量は、脱ドープ容量を大きくする観点および非脱ドープ容量を小さくする観点から、0.02重量%以下が好ましく、0.015重量%以下がより好ましく、0.01重量%以下がさらに好ましい。炭素前駆体に含まれるカリウムや鉄の含有量が多くなると、得られる炭素質材料を用いた非水電解質二次電池において、脱ドープ容量が小さくなることがある。また、非脱ドープ容量が大きくなることがある。さらに、これらの金属元素が電解液中に溶出し、再析出した際に短絡が生じ、非水電解質二次電池の安全性に大きな問題が生じることがある。気相脱灰後の植物由来のチャー炭素前駆体は、カリウム元素および鉄元素を、実質的に含有しないことが特に好ましい。カリウム元素および鉄元素の含量の測定の詳細は実施例に記載するとおりであり、蛍光X線分析装置(例えば島津製作所製「LAB CENTER XRF−1700」)を用いることができる。
気相脱灰の対象となる植物由来のチャーの粒子径は、特に限定されるものではないが、粒子径が小さすぎる場合、除去されたカリウム等を含む気相と、植物由来のチャーとを分
離することが困難になり得ることから、粒子径の平均値の下限は100μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましく、500μm以上が更に好ましい。また、粒子径の平均値の上限は、混合ガス気流中での流動性の観点から、10000μm以下が好ましく、8000μm以下がより好ましく、5000μm以下が更に好ましい。ここで、粒子径の測定の詳細は実施例に記載する通りであり、例えばレーザー回折法により、粒度分布測定器(例えば島津製作所製「SALD−3000S」)を用いることができる。
気相脱灰に用いる装置は、植物由来のチャーとハロゲン化合物を含む気相とを混合しながら加熱できる装置であれば、特に限定されない。例えば、流動炉を用い、流動床等による連続式またはバッチ式の層内流通方式を用いることができる。気相の供給量(流動量)は特に限定されないが、混合ガス気流中での流動性の観点から、例えば植物由来のチャー1g当たり好ましくは1ml/分以上、より好ましくは5ml/分以上、さらに好ましくは10ml/分以上の気相を供給する。
気相脱灰においては、ハロゲン化合物を含む不活性ガス雰囲気中での熱処理(以下において「ハロゲン熱処理」と称することがある)の後に、更にハロゲン化合物非存在下での熱処理(以下において「気相脱酸処理」と称することがある)を行うことが好ましい。前記ハロゲン熱処理により、ハロゲンが植物由来のチャーに含まれるため、気相脱酸処理により植物由来のチャーに含まれているハロゲンを除去することが好ましい。具体的には、気相脱酸処理は、ハロゲン化合物を含まない不活性ガス雰囲気中で500℃〜940℃、好ましくは600〜940℃、より好ましくは650〜940℃、さらに好ましくは850〜930℃で熱処理することによって行うが、熱処理の温度は、最初の熱処理の温度と同じか、またはそれよりも高い温度で行うことが好ましい。例えば、前記ハロゲン熱処理後に、ハロゲン化合物の供給を遮断して熱処理を行うことにより、ハロゲンを除去することができる。また、気相脱酸処理の時間も特に限定されるものではないが、好ましくは5分〜300分であり、より好ましくは10分〜200分であり、更に好ましくは10分〜100分である。
炭素前駆体は、必要に応じて粉砕工程、分級工程を経て、平均粒子径を調製される。粉砕工程、分級工程は、脱灰処理の後、実施することが好ましい。
粉砕工程では、炭素前駆体を、焼成工程後の平均粒子径が例えば3〜30μmの範囲になるように粉砕することが、電極作製時の塗工性の観点から好ましい。すなわち、本実施形態の炭素質材料の平均粒子径(Dv50)を、例えば3〜30μmの範囲になるように調製する。平均粒子径が3μm未満であると、微粉が増加し比表面積が増加し、電解液との反応性が高くなり充電しても放電しない容量である不可逆容量が増加し、正極の容量が無駄になる割合が増加する場合がある。また、得られた炭素質材料を用いて負極を製造すると、炭素質材料の間に形成される空隙が小さくなり、電解液中のリチウムイオンの移動が抑制される場合がある。本発明の炭素質材料の平均粒子径(Dv50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、更に好ましくは5μm以上である。一方、平均粒子径が30μm以下であると、粒子内でのリチウムイオンの拡散自由行程が少なく、急速な充放電が可能であり好ましい。更に、リチウムイオン二次電池では、入出力特性の向上には電極面積を大きくすることが重要であり、そのため電極調製時に集電板への活物質の塗工厚みを薄くする必要がある。塗工厚みを薄くするには、活物質の粒子径を小さくする必要がある。このような観点から、平均粒子径は30μm以下であることが好ましいが、より好ましくは19μm以下であり、更に好ましくは17μm以下であり、特に好ましくは16μm以下であり、最も好ましくは15μm以下である。
なお、植物由来のチャー炭素前駆体は、後述する本焼成の条件により、0〜20%程度収縮する。そのため、焼成後の平均粒子径が3〜30μmとなるようにするためには、植物由来のチャー炭素前駆体の平均粒子径を、所望する焼成後の平均粒子径よりも0〜20%程度大きい粒子系となるように調製することが好ましい。したがって、粉砕後の平均粒子径が、好ましくは3〜36μm、より好ましくは3〜22.8μm、更に好ましくは3〜20.4μm、特に好ましくは3〜19.2μm、最も好ましくは3〜18μmとなるように粉砕を行うことが好ましい。
炭素前駆体は、後述する熱処理工程を実施しても溶解しないため、粉砕工程の順番は、脱灰工程後であれば特に限定されない。炭素質材料の比表面積の低減の観点から、焼成工程の前に実施することが好ましい。これは植物由来のチャーを揮発性有機物と混合して焼成した後に粉砕すると、比表面積が十分に低減されない場合があるためである。しかしながら、焼成工程後に粉砕工程を実施することを排除するものではない。
粉砕工程に用いる粉砕機は特に限定されるものではなく、例えばジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミルなどを使用することができる。微粉の発生が少ない観点からは、分級機能を備えたジェットミルが好ましい。ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミルなどを用いる場合は、粉砕工程後に分級を行うことで微粉を取り除くことができる。
分級工程によって、炭素質材料の平均粒子径をより正確に調製することが可能となる。例えば、粒子径が1μm以下の粒子を除くことが可能となる。
分級によって粒子径1μm以下の粒子を除く場合、本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料において、粒子径1μm以下の粒子を含量が3体積%以下となるようにすることが好ましい。粒子径1μm以下の粒子の除去は、粉砕後であれば特に限定されないが、粉砕において紛級と同時に行うことが好ましい。本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料において、粒子径1μm以下の粒子の含量は、比表面積を低下させ、不可逆容量を低下させる観点から、3体積%以下であることが好ましく、2.5体積%以下であることがより好ましく、2.0体積%以下であることが更に好ましい。
分級方法は、特に制限されないが、例えば篩を用いた分級、湿式分級、乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。
粉砕工程と分級工程は、1つの装置を用いて実施することもできる。例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミルを用いて、粉砕工程と分級工程を実施することができる。更に、粉砕機と分級機とが独立した装置を用いることもできる。この場合、粉砕と分級とを連続して行うこともできるが、粉砕と分級とを不連続に行うこともできる。
本実施形態において、粉砕後の炭素前駆体の比表面積は、100〜500m/gであり、好ましくは200〜500m/gであり、例えば200〜400m/gである。比表面積が小さすぎると、後述する焼成工程を経ても、炭素質材料の微細孔を十分に低減することができないことがあり、炭素質材料の吸湿性が低下しにくくなることがある。炭素質材料に水分が存在すると、電解液の加水分解に伴う酸の発生や水の電気分解によるガスの発生が問題を引き起こすことがある。また、空気雰囲気下で炭素質材料の酸化が進み、電池性能が大きく変化することもある。比表面積が大きくなりすぎると、後述する焼成工程を経ても炭素質材料の比表面積が小さくならず、非水電解質二次電池のリチウムイオンの利用効率が低下することがある。炭素前駆体の比表面積は、気相脱灰の温度の制御によって調製することが可能である。なお、本明細書において、比表面積はBET法(窒素吸着BET3点法)により定まる比表面積(BET比表面積)を意味する。具体的には後述する方法を用いて測定することができる。
本実施形態の非水電解質二次電池用炭素質材料の製造方法は、
比表面積100〜500m2/gの炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800〜1400℃の不活性ガス雰囲気下で焼成し、炭素質材料を得る工程(以下、「焼成工程」と称することがある)、を具備する。焼成工程は、脱灰工程後に実施するのが好ましく、脱灰工程、粉砕工程および分級工程後に実施するのが好ましい。
炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を焼成することによって、本実施形態の炭素質材料が得られる。炭素前駆体と揮発性有機物とを混合して焼成することにより、得られる炭素質材料の比表面積を低減させることができ、非水電解質二次電池用の負極材として好適な比表面積とすることができる。更に、炭素質材料への二酸化炭素の吸着量を調製することができる。
本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料の比表面積が低減される機構は、詳細には解明されていないが、以下のように考えることができる。しかしながら、本発明は、以下の説明によって限定されるものではない。植物由来のチャー炭素前駆体と、揮発性有機物とを混合して焼成することで、植物由来のチャー炭素前駆体の表面に、揮発性有機物の熱処理により得られる炭素質皮膜が形成されると考えられる。この炭素質被膜により、植物由来のチャー炭素前駆体から生成する炭素質材料の比表面積が減少し、その炭素質材料とリチウムとの反応によるSEI(Solid Electrolyte Interphase)と呼ばれる被膜の形成反応が抑制されるので、不可逆容量を低減させることが期待できる。また、生成した炭素質被膜もリチウムをドープおよび脱ドープすることができるため、容量が増加する効果も期待できる。
揮発性有機物は、残炭率が5%未満である有機物であることが好ましく、800℃で灰化した場合に残炭率が5%未満である有機物であることが好ましい。揮発性有機物は、植物由来のチャーから製造される炭素前駆体の比表面積を低減させることのできる揮発物質(例えば、炭化水素系ガスやタール)を発生させるものが好ましい。なお、揮発性有機物において、比表面積を低減させることのできる揮発物質(例えば、炭化水素系ガス、またはタール成分)の含量は特に限定されるものではないが、焼成機器の安定稼動の観点から、10重量%以上であることが好ましい。また、揮発成分の含量の上限は、特に限定されないが、焼成機器中でのタール分の生成を抑制する観点から、95重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましく、50重量%以下が更に好ましい。揮発成分は、試料を不活性ガス中で強熱した後の強熱残分、仕込み量から算出する。強熱は、揮発性有機物およそ1g(この正確な重量をW(g)とする)をるつぼに入れ、1分間に20リットルの窒素を流しながらるつぼを電気炉にて10℃/分で800℃まで昇温、その後800℃で1時間強熱する。このときの残存物を強熱残分とし、その重量をW(g)とし、以下の式から揮発成分P(%)を算出する。
Figure 0006612507
揮発性有機物としては、例えば熱可塑性樹脂、低分子有機化合物が挙げられる。具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。なお、この明細書において、(メタ)アクリルとは、メタクリルとメタアクリルの総称である。低分子有機化合物としては、トルエン、キシレン、メシチレン、スチレン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等を挙げることができる。焼成温度下で揮発し、熱分解した場合に炭素前駆体の表面を酸化賦活しないものが好ましいことから、熱可塑性樹脂としてはポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。低分子有機化合物としては、さらに安全上の観点から常温下において揮発性が小さいことが好ましく、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等が好ましい。
本発明の一態様において、熱可塑性樹脂として、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、および(メタ)アクリル酸系樹脂を挙げることができる。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンのランダム共重合体、エチレンとプロピレンのブロック共重合体等を挙げることができる。スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜12、好ましくは1〜6)の共重合体等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸系樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体(アルキル基の炭素数は1〜12、好ましくは1〜6)等を挙げることができる。
本発明の一態様において、低分子有機化合物として、例えば炭素数が1〜20の炭化水素化合物を用いることができる。炭化水素化合物の炭素数は、好ましくは2〜18より好ましくは3〜16である。炭化水素化合物は、飽和炭化水素化合物または不飽和炭化水素化合物でもよく、鎖状の炭化水素化合物でも、環式の炭化水素化合物でもよい。不飽和炭化水素化合物の場合、不飽和結合は二重結合でも三重結合でもよく、1分子に含まれる不飽和結合の数も特に限定されるものではない。例えば、鎖状の炭化水素化合物は、脂肪族炭化水素化合物であり、直鎖状または分枝状のアルカン、アルケン、またはアルキンを挙げることができる。環式の炭化水素化合物としては、脂環式炭化水素化合物(例えば、シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキン)または芳香族炭化水素化合物を挙げることができる。具体的には、脂肪族炭化水素化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンまたはアセチレン等を挙げることができる。脂環式炭化水素化合物としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロプロパン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、デカリン、ノルボルネン、メチルシクロヘキサン、またはノルボルナジエン等を挙げることができる。さらに、芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、ブチルベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン等の単環芳香族化合物、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等の3環〜6環の縮合多環芳香族化合物を挙げることができるが、好ましくは縮合多環芳香族化合物、より好ましくはナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレンである。ここで、前記炭化水素化合物は、任意の置換基を有していてよい。置換基は特に限定されるものではないが、例えば炭素数1〜4のアルキル基(好ましくは炭素数1〜2のアルキル基)、炭素数2〜4のアルケニル基(好ましくは炭素数2のアルケニル基)、炭素数3〜8のシクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜6のシクロアルキル基)を挙げることができる。
揮発性有機物は、常温で固体であることが好ましく、例えばポリスチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレン等の常温で固体の熱可塑性樹脂、または、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレン等の常温で固体の低分子有機化合物がより好ましい。揮発し、焼成温度下に熱分解した場合に、植物由来のチャー炭素前駆体の表面を酸化賦活しないものが好ましいことから、熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂が好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンがより好ましい。低分子有機化合物としては、さらに常温下に揮発性が小さいことが安全上好ましいことから、炭素数1〜20の炭化水素化合物が好ましく、縮合多環芳香族化合物がより好ましく、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレンがさらに好ましい。さらに、炭素前駆体との混合し易さの観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、オレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂がより好ましく、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンがさらに好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンが特に好ましい。
残炭率は、試料を不活性ガス中で強熱した後の強熱残分の炭素量を定量することにより測定する。強熱とは、揮発性有機物およそ1g(この正確な重量をW1(g)とする)を坩堝に入れ、1分間に20リットルの窒素を流しながら坩堝を電気炉にて、10℃/分の昇温速度で常温から800℃まで昇温、その後800℃で1時間強熱する。このときの残存物を強熱残分とし、その重量をW(g)とする。
次いで上記強熱残分について、JIS M8819に定められた方法に準拠して元素分析を行い、炭素の重量割合P(%)を測定する。残炭率P(%)は以下の式により算出する。
Figure 0006612507
本実施形態において焼成される混合物は、特に限定されるものではないが、好ましくは炭素前駆体と揮発性有機物とを97:3〜40:60の重量比で含む混合物である。炭素前駆体と揮発性有機物との混合量は、より好ましくは95:5〜60:40、更に好ましくは93:7〜80:20である。例えば、揮発性有機物が3重量部以上であると比表面積を十分に低減させることができる。一方、揮発性有機物が多すぎると、比表面積の低減効果が飽和し、揮発性有機物を無駄に消費してしまうことがあるため好ましくない。
炭素前駆体と常温で液体または固体の揮発性有機物との混合は、粉砕工程の前あるいは粉砕工程の後のいずれの段階で行ってもよい。
粉砕工程の前に混合する場合には、炭素前駆体と常温で液体または固体の揮発性有機物とを計量しながら、粉砕装置に同時に供給することにより粉砕と混合を同時に行うことができる。また、常温で気体である揮発性有機物を用いる場合、気体の揮発性有機物を含む非酸化性ガスを、植物由来のチャー炭素前駆体を含む熱処理装置内に流通させて熱分解させて、物由来のチャー炭素前駆体と混合させる方法を用いることができる。
粉砕工程の後に混合する場合には、混合方法は両者が均一に混合される手法であれば、公知の混合方法を用いることができる。揮発性有機物が常温で固体の場合は、粒子の形状で混合されることが好ましいが、粒子の形や粒子径は特に限定されない。揮発性有機物を粉砕された炭素前駆体に均一に分散させる観点からは、揮発性有機物の平均粒子径は好ましくは0.1〜2000μm、より好ましくは1〜1000μm、更に好ましくは2〜600μmである。
上述した混合物は、炭素前駆体および揮発性有機物以外の他の成分を含んでいてもよい。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、金属系材料、合金系材料、または酸化物系材料を含むことができる。他の成分の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、炭素前駆体と揮発性有機物との混合物100重量部に対して、50重量部以下であり、より好ましくは30重量部以下であり、更に好ましくは20重量部以下であり、最も好ましくは10重量部以下である。
本実施形態の製造方法における焼成工程は、炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800〜1400℃で焼成する。
焼成工程は、
(a)粉砕された混合物を、800〜1400℃で焼成し、本焼成を行う焼成工程、を具備していてもよく、
(b)粉砕された混合物を、350℃以上800℃未満で予備焼成し、その後800〜1400℃で本焼成を行う焼成工程、を具備していてもよい。
焼成工程(a)を実施する場合、本焼成の工程で炭素前駆体へのタール成分および炭化水素系ガスの被覆が起こると考えられる。焼成工程(b)を実施する場合には、予備焼成の工程で炭素前駆体へのタール成分および炭化水素系ガスの被覆が起こると考えられる。
以下に、本発明の一実施形態として、予備焼成および本焼成の手順の一例を説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
(予備焼成)
本実施形態における予備焼成工程は、例えば粉砕された混合物を350℃以上800℃未満で焼成することによって行うことができる。予備焼成工程によって、揮発分(例えばCO2、CO、CH4、H2等)とタール分とを除去できる。予備焼成工程後に実施する本焼成工程における揮発分やタール分の発生を軽減でき、焼成機の負担を軽減することができる。
予備焼成工程は、350℃以上で実施することが好ましく、400℃以上で実施することがより好ましい。予備焼成工程は、通常の予備焼成の手順に従って実施することができる。具体的には、予備焼成は、不活性ガス雰囲気中で行うことができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等を挙げることができる。また、予備焼成は、減圧下で実施してもよく、例えば、10kPa以下で行うことができる。予備焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.5〜10時間の範囲で実施することができ、1〜5時間がより好ましい。
(本焼成)
本焼成工程は、通常の本焼成の手順に従って行うことができる。本焼成を行うことにより、非水電解質二次電池用炭素質材料を得ることができる。
具体的な本焼成工程の温度は、800〜1400℃であり、好ましくは1000〜1350℃であり、より好ましくは1100〜1300℃である。本焼成は、不活性ガス雰囲気下で実施する。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等を挙げることができ、ハロゲンガスを含有する不活性ガス中で本焼成を行うことも可能である。また、本焼成工程は、減圧下で行うこともでき、例えば、10kPa以下で実施することも可能である。本焼成工程を実施する時間は特に限定されるものではないが、例えば0.05〜10時間で行うことができ、0.05〜8時間が好ましく、0.05〜6時間がより好ましい。
本発明の炭素質材料を用いる非水電解質二次電池は、良好な放電容量とともに、酸化劣化に対する良好な耐性を有する。本発明の炭素質材料を用いる非水電解質二次電池は、酸化劣化に対する良好な耐性を有し、リチウムイオンが不活性化されることによる不可逆容量の増加が抑制され、充放電効率を高く維持することができる。
本発明の炭素質材料の比表面積は、1m/g〜20m/gであり、1m/g〜10m/gであることが好ましく、より好ましくは1.2m/g〜9.5m/g、さらに好ましくは1.4m/g〜9.0m/gである。小さすぎる比表面積では、炭素質材料へのリチウムイオンの吸着量が少なくなり、非水電解質二次電池の充電容量が少なくなることがある。高すぎる比表面積では、リチウムイオンが炭素質材料の表面で反応して消費されるので、リチウムイオンの利用効率が低くなる。
比表面積を上記範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、炭素質材料を与える炭素質前駆体の焼成温度や焼成時間を調整する方法を用いることができる。すなわち、焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くすると比表面積は小さくなる傾向があるので、上記の範囲の比表面積が得られるように、焼成温度や焼成時間を調整すればよい。また、揮発性有機化合物と混合して焼成する方法を用いてもよい。上記に述べたように、炭素質前駆体と揮発性有機化合物とを混合して焼成することで、炭素前駆体の表面には、揮発性有機化合物の熱処理により得られる炭素質皮膜が形成されると考えられる。そして、この炭素質被膜により、炭素前駆体から得た炭素質材料の比表面積が減少すると考えられる。そのため、混合する揮発性有機化合物の量を調整することで、炭素質材料の比表面積の上記の範囲に調整することができる。
本発明の炭素質材料は、広角X線回折法からBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔d002が、0.36nm〜0.42nmであり、好ましくは0.38nm〜0.40nmであり、より好ましくは0.382nm〜0.396nmである。(002)面の平均面間隔d002が小さすぎる場合には、リチウムイオンが炭素質材料に挿入される際の抵抗が大きくなることがあり、出力時の抵抗が大きくなることがあり、リチウムイオン電池としての入出力特性が低下することがある。また、炭素質材料が膨張収縮を繰り返すため、電池材料としての安定性を損なうことがある。平均面間隔d002が大きすぎる場合には、リチウムイオンの拡散抵抗は小さくなるものの、炭素質材料の体積が大きくなり、体積あたりの実行容量が小さくなることがある。
平均面間隔を上記範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、炭素質材料を与える炭素質前駆体の焼成温度を800〜1400℃の範囲で行えばよい。また、ポリスチレンなどの熱分解性樹脂と混合して焼成する方法を用いることもできる。
本発明の炭素質材料が含む窒素元素含量は、少ないほどよいが、通常、元素分析によって得られた分析値より、0.5重量%以下、好ましくは0.48重量%以下、より好ましくは0.45重量%以下である。炭素質材料は、窒素元素を実質的に含有しないことが更に好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、後述の元素分析法(不活性ガス融解−熱伝導法)の検出限界である10−6重量%以下であることを意味する。窒素元素含量が多すぎると、リチウムイオンと窒素とが反応してリチウムイオンが消費されるので、リチウムイオンの利用効率を低下させるだけでなく、保存中に空気中の酸素と反応することがある。
窒素元素含量を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガス雰囲気中、500℃〜940℃で熱処理する工程を含む方法で気相脱灰することや、植物由来のチャーを揮発性有機物と混合して焼成することにより、窒素元素含量を上記の範囲に調整することができる。
本実施形態で得られる炭素質材料が含む酸素元素含量は、少ないほどよいが、通常、元素分析によって得られた分析値より、0.25重量%以下、好ましくは0.24重量%以下である。炭素質材料は、酸素元素を実質的に含有しないことが更に好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、後述の元素分析法(不活性ガス融解−熱伝導法)の検出限界である10−6重量%以下であることを意味する。酸素元素含量が多すぎると、リチウムイオンと酸素とが反応してリチウムイオンが消費されるので、リチウムイオンの利用効率を低下させる。さらに、空気中の酸素、水分を誘引し、炭素質材料と反応する確率を高めるだけでなく、水を吸着したときに、容易に脱離させないなど、リチウムイオンの利用効率が低下することがある。
酸素元素含量を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガス雰囲気中、500℃〜940℃で熱処理する工程を含む方法で気相脱灰することや、植物由来のチャーを揮発性有機物と混合して焼成することにより、酸素元素含量を上記の範囲に調整することができる。
本発明の炭素質材料は、電池における重量あたりの容量を高くする観点から、ブタノール法による真密度ρBtが1.40〜1.70g/cmであることが好ましく、1.42〜1.65/cmであることがより好ましく、1.44〜1.60/cmであることが更に好ましい。このような真密度を有する植物由来のチャー炭素前駆体は、例えば植物原料を800−1400℃で焼成することによって製造することができる。ここで、真密度ρBtの測定の詳細は実施例に記載する通りであり、JIS R 7212に定められた方法に従い、ブタノール法により測定することができる。
本発明の炭素質材料は、特に自動車用途等において求められるリチウムのドープ、脱ドープにおける繰り返し特性の観点から、3nm以下のLc(炭素六角網面積層方向)を有することが好ましい。Lcは、0.5〜2nmであることがより好ましい。Lcが3nmを超えると、炭素六角網面が多層に積層し、リチウムのドープ、脱ドープに伴う体積膨張収縮が大きくなる場合がある。そのため、体積膨張収縮により炭素構造が破壊され、リチウムのドープ・脱ドープが遮断されて、繰り返し特性が低下する場合がある。ここで、Lcの測定の詳細は実施例に記載する通りであり、X線回折法により、Scherrerの式を用いて得ることができる。
本発明の炭素質材料の平均粒子径(Dv50)は、好ましくは3〜30μmである。平均粒子径が小さすぎると、微粉が増加し、炭素質材料の比表面積が増加する。その結果、炭素質材料と電解液との反応性が高くなり、不可逆容量が増加し、正極の容量が無駄になる割合が増加することがある。ここで不可逆容量とは、非電解質二次電池に充電した容量のうち、放電しない容量である。平均粒子径が小さすぎる炭素質材料を用いて負極電極を製造した場合、炭素質材料間に形成される空隙が小さくなり、電解液中のリチウムの移動が制限されるため、好ましくない。炭素質材料の平均粒子径は、より好ましくは4μm以上、特に好ましくは5μm以上である。平均粒子径が30μm以下の場合、粒子内でのリチウムの拡散自由行程が少なく、急速な充放電が可能となり好ましい。更に、リチウムイオン二次電池では、入出力特性の向上には電極面積を大きくすることが重要であり、そのため電極調製時に集電板への活物質の塗工厚みを薄くする必要がある。塗工厚みを薄くするには、活物質の粒子径を小さくする必要がある。このような観点から、平均粒子径の上限としては30μm以下が好ましいが、より好ましくは19μm以下であり、更に好ましくは17μm以下であり、更に好ましくは16μm以下、最も好ましくは15μm以下である。
また、本発明の炭素質材料の吸湿量は、好ましくは15,000ppm以下、より好ましくは10,000ppm以下、さらに好ましくは5,000ppm以下である。吸湿量が少ないほど、炭素質材料に吸着する水分が減り、炭素質材料に吸着するリチウムイオンが増加するので好ましい。また、吸湿量が少ないほど、吸着した水分と炭素質材料の窒素原子との反応や、吸着した水分とリチウムイオンとの反応による自己放電を低減できるので好ましい。炭素質材料の吸湿量は、例えば、炭素質材料に含まれる窒素原子や酸素原子の量を減らすことにより、減らすことができる。炭素質材料の吸湿量は、例えば、カールフィッシャー等を用いて測定することができる。
また、本発明の炭素質材料は、満充電状態となるまでリチウムをドープし、7Li核−固体NMR分析を行ったとき、基準物質である塩化リチウムの共鳴線に対して低磁場側に80ppm〜105ppmシフトした主共鳴ピークを有する。共鳴ピークの低磁場側フト値は、80ppm〜105ppm、好ましくは82ppm〜103ppmである。低磁場側への化学シフト値が105ppmより大きい共鳴ピークは、クラスター化したリチウムの組成量が多いことを示しており、105ppmより低磁場に観測されることは、電池の早い充放電に使用するには、クラスターの解離に時間がかかるため使用できず好ましくない。また低磁場側への化学シフト値が80ppmより小さい共鳴ピークは、炭素層間に存在するリチウムの組成量が多いことを示しており、80ppmより高磁場で観測されるということは、より狭い炭素層間に多量のリチウムが存在することを表し、繰り返される充放電により、層間の破壊を伴い、電池の長期安定性が損なわれるため好ましくない。なお、主共鳴ピークが観測されるとは、主共鳴ピークを与えるリチウム種が後述の7Li核−固体NMR分析法の検出限界である3%以上存在することを意味する。満充電状態における主共鳴ピークの低磁場側への化学シフト値を、80ppm〜105ppmの範囲にするためには、例えば、500℃程度で炭化された椰子殻炭化物を不活性ガス下に1200℃以上で焼成する方法を用いることができる。
なお、本発明において、「満充電状態となるまでリチウムをドープし」とは、炭素質材料を含む電極を正極とし、金属リチウムを含む電極を負極とする非水電解質二次電池を組み立て、終了電圧を、通常、0.1〜0mV、好ましくは0.05〜0mV、より好ましくは0.01〜0mVの範囲として充電を行う場合を含む。また、本発明において、満充電状態の炭素質材料は、通常、300〜490mAh/g、好ましくは310〜480mAh/gの容量を有する。
(非水電解質二次電池用負極)
本発明の非水電解質二次電池用負極は、本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料を含むものである。
以下において、本発明の非水電解質二次電池用の負極の製造方法を具体的に述べる。本発明の負極電極は、本発明の炭素質材料に結合剤(バインダー)を添加し、適当な溶媒を適量添加、混練し、電極合剤とした後に、金属板等からなる集電板に塗布・乾燥後、加圧成形することにより製造することができる。
本発明の炭素質材料を用いることにより、導電助剤を添加しなくとも高い導電性を有する電極を製造することができる。更に高い導電性を賦与することを目的として、必要に応じて電極合剤の調製時に、導電助剤を添加することができる。導電助剤としては、導電性のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノチューブ等を用いることができる。導電助剤の添加量は、使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性が得られないことがあり、多すぎると電極合剤中の分散が悪くなることがある。このような観点から、添加する導電助剤の好ましい割合は0.5〜10重量%(ここで、活物質(炭素質材料)量+バインダー量+導電助剤量=100重量%とする)であり、更に好ましくは0.5〜7重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%である。結合剤としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等の電解液と反応しないものであれば特に限定されない。中でもPVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性を得るために好ましい。PVDFを溶解し、スラリーを形成するためにN−メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒を好ましく用いられるが、SBR等の水性エマルジョンやCMCを水に溶解して用いることもできる。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させることがある。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料の粒子相互間および集電材との結合が不十分となることがある。結合剤の好ましい添加量は、使用するバインダーの種類によっても異なるが、例えばPVDF系のバインダーでは好ましくは3〜13重量%であり、更に好ましくは3〜10重量%である。一方、溶媒に水を使用するバインダーでは、SBRとCMCとの混合物など、複数のバインダーを混合して使用することが多く、使用する全バインダーの総量として0.5〜5重量%が好ましく、更に好ましくは1〜4重量%である。
電極活物質層は、集電板の両面に形成されることが基本であるが、必要に応じて片面に形成されてもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板やセパレータ等が少なくて済むため、高容量化には好ましい。しかし、対極と対向する電極面積が広いほど入出力特性の向上に有利なため、電極活物質層が厚すぎると入出力特性が低下することがある。好ましい活物質層(片面当たり)の厚みは、電池放電時の出力の観点から、10〜80μmであり、更に好ましくは20〜75μm、特に好ましくは20〜60μmである。
(非水電解質二次電池)
本発明の非水電解質二次電池は、本発明の非水電解質二次電池用負極を含むものである。本発明の炭素質材料を使用した非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池は、優れた出力特性および優れたサイクル特性を示す。
本発明の炭素質材料を用いて、非水電解質二次電池用の負極を形成した場合、正極材料、セパレータ、および電解液など電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、非水溶媒二次電池として従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
例えば、正極材料としては、層状酸化物系(LiMOと表されるもので、Mは金属:例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、またはLiNiCoMo(ここでx、y、zは組成比を表わす))、オリビン系(LiMPOで表され、Mは金属:例えばLiFePOなど)、スピネル系(LiMで表され、Mは金属:例えばLiMnなど)の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。これらの正極材料を適当なバインダーと電極に導電性を付与するための炭素材料とともに成形して、導電性の集電材上に層形成することにより正極が形成される。
これらの正極および負極と組み合わせて用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、または1,3−ジオキソラン等の有機溶媒を、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiAsF、LiCl、LiBr、LiB(C、またはLiN(SOCF等が用いられる。
非水電解質二次電池は、一般に上記のようにして形成した正極と負極とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料等からなる透液性セパレータを介して対向させ電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料は、例えば自動車などの車両に搭載される電池(典型的には車両駆動用非水電解質二次電池)用炭素質材料として好適である。本発明において車両とは、通常、電動車両としてしられるものや、燃料電池や内燃機関とのハイブリッド車など、特に制限されることなく対象とすることができるが、少なくとも上記電池を備えた電源装置と、該電源装置からの電源供給により駆動する電動駆動機構と、これを制御する制御装置とを備える。車両は、さらに、発電ブレーキや回生ブレーキを備え、制動によるエネルギーを電気に変換して、前記非水電解質二次電池に充電する機構を備えていてもよい。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下に非水電解質二次電池用炭素質材料の物性値の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
(窒素吸着法による比表面積測定)
以下にBETの式から誘導された近似式を記す。
Figure 0006612507
上記の近似式を用いて、液体窒素温度における、窒素吸着による3点法によりvを求め、次式により試料の比表面積を計算した。
Figure 0006612507
このとき、vmは試料表面に単分子層を形成するに必要な吸着量(cm/g)、vは実測される吸着量(cm/g)、pは飽和蒸気圧、pは絶対圧、cは定数(吸着熱を反映)、Nはアボガドロ数6.022×1023、a(nm)は吸着質分子が試料表面で占める面積(分子占有断面積)である。
具体的には、日本BELL社製「BELL Sorb Mini」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における炭素材料への窒素の吸着量を測定した。粒子径約5〜50μmに粉砕した炭素材料を試料管に充填し、試料管を−196℃に冷却した状態で、一旦減圧し、その後所望の相対圧にて炭素材料に窒素(純度99.999%)を吸着させる。各所望の相対圧にて平衡圧に達した時の試料に吸着した窒素量を吸着ガス量vとした。
(X線回折法による平均面間隔d002測定)
「株式会社リガク製MiniFlexII」を用い、炭素質材料粉末を試料ホルダーに充填し、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得た。回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正した。CuKα線の波長を0.15418nmとし、以下に記すBraggの公式によりd002を算出した。
Figure 0006612507
(元素分析)
株式会社堀場製作所製、酸素・窒素・水素分析装置EMGA−930を用いて元素分析を行った。
当該装置の検出方法は、酸素:不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法(NDIR)、窒素:不活性ガス融解−熱伝導度法(TCD)、水素:不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法(NDIR)であり、校正は、(酸素・窒素)Niカプセル、TiH(H標準試料)、SS−3(N、O標準試料)で行い、前処理として250℃、約10分で水分量を測定した試料20mgをNiカプセルに取り、元素分析装置内で30秒脱ガスした後に測定した。試験は3検体で分析し、平均値を分析値とした。
(残炭率の測定)
残炭率は、試料を不活性ガス中で強熱した後の強熱残分の炭素量を定量することにより測定した。強熱は、揮発性有機物およそ1g(この正確な重量をW1(g)とする)を坩堝にいれ、1分間に20リットルの窒素を流しながら坩堝を電気炉にて、10℃/分の昇温速度で常温から800℃まで昇温、その後800℃で1時間強熱した。このときの残存物を強熱残分とし、その重量をW(g)とした。
次いで上記強熱残分について、JIS M8819に定められた方法に準拠して元素分析を行い、炭素の重量割合P(%)を測定した。残炭率P(%)は以下の式により算出した。
Figure 0006612507
(ブタノール法による真密度)
真密度は、JIS R 7212に定められた方法に従い、ブタノール法により測定した。内容積約40mLの側管付比重びんの質量(m)を正確に量った。次に、その底部に試料を約10mmの厚さになるように平らに入れた後、その質量(m)を正確に量った。これに1−ブタノールを静かに加えて、底から20mm 程度の深さにした。次に比重びんに軽い振動を加えて、大きな気泡の発生がなくなったのを確かめた後、真空デシケーター中に入れ、徐々に排気して2.0〜2.7kPaとした。その圧力に20分間以上保ち、気泡の発生が止まった後に、取り出し、更に1−ブタノールを満たし、栓をして恒温水槽(30±0.03℃に調節してあるもの)に15分間以上浸し、1−ブタノールの液面を標線に合わせた。次に、これを取り出して外部をよくぬぐって室温まで冷却した後質量(m)を正確に量った。次に、同じ比重びんに1−ブタノールだけを満たし、前記と同じようにして恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m)を量った。また使用直前に沸騰させて溶解した気体を除いた蒸留水を比重びんにとり、前記と同様に恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m)を量った。
真密度ρBtは次の式により計算した。
Figure 0006612507
このとき、dは水の30℃における比重(0.9946)である。
(平均粒子径)
植物由来のチャーおよび炭素質材料の平均粒子径(粒度分布)は、例えば以下の方法により測定した。試料を界面活性剤(和光純薬工業(株)製「ToritonX100」)が0.3質量%含まれた水溶液に投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒子径・粒度分布測定装置(日機装(株)製「マイクロトラックM T3000」)を用いて行った。d50は、累積体積が50%となる粒子径であり、この値を平均粒子径として用いた。
(金属含量)
カリウム元素含量および鉄元素含量の測定方法は、例えば以下の方法により測定した。予め所定のカリウム元素および鉄元素を含有する炭素試料を調製し、蛍光X線分析装置を用いて、カリウムKα線の強度とカリウム含有量との関係、および鉄Kα線の強度と鉄含有量との関係に関する検量線を作成した。ついで試料について蛍光X線分析におけるカリウムKα線および鉄Kα線の強度を測定し、先に作成した検量線よりカリウム含有量および鉄含有量を求めた。蛍光X線分析は、(株)島津製作所製LAB CENTER XRF−1700を、以下の条件で行った。上部照射方式用ホルダーを用い、試料測定面積を直径20mmの円周内とした。被測定試料の設置は、内径25mmのポリエチレン製容器の中に被測定試料を0.5g入れ、裏をプランクトンネットで押さえ、測定表面をポリプロピレン製フィルムで覆い測定を行った。X線源は40kV、60mAに設定した。カリウムについては、分光結晶にLiF(200)、検出器にガスフロー型比例係数管を使用し、2θが90〜140°の範囲を、走査速度8°/分で測定した。鉄については、分光結晶にLiF(200)、検出器にシンチレーションカウンターを使用し、2θが56〜60°の範囲を、走査速度8°/分で測定した。
(吸湿量)
粒子径約5〜50μmに粉砕した炭素材料10gをサンプル管に入れ、133Paの減圧下、120℃にて2時間事前乾燥し、50mmφのガラス製シャーレに移し、25℃、湿度50%の恒温恒湿槽にて、所定時間暴露した。サンプル1gを取り、カールフィッシャー(三菱化学アナリテック社製)にて、250℃に加熱し、窒素気流下に水分量を測定した。
(調製例1)
椰子殻を破砕し、500℃で乾留して、粒径2.360〜0.850mmの椰子殻チャー(粒径2.360〜0.850mmの粒子を98重量%含有)を得た。この椰子殻チャー100gに対して、塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスを10L/分の流量で供給しながら870℃で30分間気相脱灰処理を実施した。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、窒素ガスを10L/分の流量で供給しながら、さらに900℃で30分間気相脱酸処理を実施し、炭素前駆体を得た。
得られた炭素前駆体を、ボールミルを用いて平均粒子径10μmに粗粉砕した後、コンパクトジェットミル(株式会社セイシン企業製、コジェットシステムα―mkIII)を用いて粉砕および分級し、平均粒径9.6μmの炭素前駆体を得た。得られた炭素前駆体の比表面積は、350m/gであった。
(調製例2)
気相脱灰処理温度および気相脱酸処理温度を800℃に変更した以外は、調製例1と同様にして、炭素前駆体を得た。得られた炭素前駆体の比表面積は、520m/gであった。
(実施例1)
調製例1で調製した炭素前駆体9.1gと、ポリスチレン(積水化成品工業株式会社製、平均粒径400μm、残炭率1.2%)0.9gとを混合した。この混合物10gを黒鉛製鞘(縦100mm、横100mm、高さ50mm)に入れ、株式会社モトヤマ製高速昇温炉中、毎分5Lの窒素流量下、毎分60℃の昇温速度で1320℃まで昇温した後、11分間保持し、自然冷却した。炉内温度が200℃以下に低下したことを確認し、炉内から炭素質材料を取り出した。回収された炭素質材料は8.1gであり、炭素前駆体に対する回収率は89%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
(実施例2)
焼成温度を1250℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。炭素質材料の回収量は8.1gであり、炭素前駆体に対する回収率は89%であった。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
(比較例1)
炭素前駆体のみを用い、ポリスチレンを混合しなかった以外は、実施例2と同様に行った。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
(比較例2)
調製例2で調製した炭素前駆体を用いた以外は、実施例2と同様に行った。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
(電極の作製)
実施例1〜2、比較例1〜2で得られた炭素質材料をそれぞれ用いて、以下の手順に従って負極の作製を行った。
調製した炭素質材料92質量部、アセチレンブラック2質量部、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)6質量部およびNMP(N−メチルピロリドン)90質量部を混合し、スラリーを得た。厚さ14μmの銅箔に、得られたスラリーを塗布し、乾燥後プレスして、厚さ60μmの電極を得た。得られた電極の密度は、0.9〜1.1g/cmであった。
(電池初期容量および充放電効率)
上記で作製した電極を作用極とし、金属リチウムを対極および参照極として使用した。溶媒として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとを、体積比で3:7となるように混合して用いた。この溶媒に、LiPFを1mol/L溶解し、電解質として用いた。セパレータにはガラス繊維不織布を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でコインセルを作製した。
上記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置(東洋システム株式会社製、「TOSCAT」)を用いて充放電試験を行った。リチウムのドーピングは、活物質質量に対し70mA/gの速度で行い、リチウム電位に対して1mVになるまでドーピングした。更にリチウム電位に対して1mVの定電圧を8時間印加して、ドーピングを終了した。このときの容量(mAh/g)を充電容量とした。次いで、活物質重量に対し70mA/gの速度で、リチウム電位に対して2.5Vになるまで脱ドーピングを行い、このとき放電した容量を放電容量とした。放電容量/充電容量の百分率を充放電効率(初期の充放電効率)とし、電池内におけるリチウムイオンの利用効率の指標とした。
また、7日後に再度同様の電池性能を測定し、放電容量、充電容量、充放電効率を測定した。初期の充放電効率の値に対する、7日後の充放電効率の値を、効率維持率(%)とし、炭素質材料の酸化劣化に対する耐性の指標とした。なお7日後の電池性能は、作製した電極を室温、空気中で、7日間保存した後に、7日間保存前と同様の電池性能を測定し得られた値である。
得られた電池性能を表2に示す。
(NMR測定用試料作製)
実施例1〜2および比較例1〜2で調製した炭素質材料90重量部、ポリフッ化ビニリデン10重量部に、N−メチル−2−ピロリドンを加えてペースト状とし、フィルム上に均一に塗布し、乾燥、プレスをかけた後、フィルムから剥離させ直径16mmの円板状に打ち抜き炭素電極を得た。負極には、厚さ1mmの金属リチウム薄膜を直径16mmの円板状に打ち抜いたものを用いた。電解液には、ジエチルカーボネートとエチレンカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒に1モル/リットルの割合でLiPFを加えたものを用い、セパレータにはポリプロピレン製微細孔膜を用いた。炭素電極と負極との間にセパレータを挟み、電解液を注入してコインセルを作製した。
作製したコインセルを用いて、電流密度0.5mA/cmの電気量で0mVに到達するまでドーピングし、その後0mVの一定電圧下で0.02mAの電流値まで充電することで、リチウムイオンが満充電状態でドープされた炭素電極を得た。ドープ終了後は、2時間休止した後、アルゴン雰囲気下で炭素電極を取り出し、電解液を拭き取った炭素電極を全てNMR用サンプル管に充填した。
(NMR測定)
NMR分析は、BRUKER製、核磁気共鳴装置AVANCE300によりMAS−7Li−NMRの測定を行った。測定に際して、塩化リチウムを基準物質として、これを0ppmに設定した。実施例1と比較例1の炭素質材料を用いて作製した炭素電極のNMRスペクトルを、それぞれ図1と図2に示す。
Figure 0006612507
Figure 0006612507
実施例1〜2で得られた炭素質材料を用いると、比較例1〜2で得られた炭素質材料を用いた場合に比べて、高い効率保持率が得られた。
本発明の炭素質材料を用いた非水電解質二次電池は、良好な充放電容量とともに、酸化劣化に対する良好な耐性を有する。また、本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料を負極に用いた非水電解質二次電池は、高いドープ容量(充電容量)および脱ドープ容量(放電容量)、および低い非脱ドープ容量(不可逆容量)を有し、充放電効率に優れている。従って、長寿命が求められるハイブリッド自動車(HEV)および電気自動車(EV)等の車載用途に特に用いることができる。

Claims (8)

  1. 広角X線回折法によるBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔d002が0.36〜0.42nmの範囲にあり、
    窒素吸着BET3点法により求めた比表面積が1〜20m/gの範囲にあり、
    窒素元素含量が0.5重量%以下、および酸素元素含量が0.25重量%以下であり、
    満充電状態となるまでリチウムがドープされた状態で7Li核−固体NMR分析により観測される主共鳴ピークの塩化リチウム基準の化学シフト値が、低磁場側の80〜105ppmの範囲にある、非水電解質二次電池用炭素質材料。
  2. カリウム元素含量が0.1重量%以下、および鉄元素含量が0.02重量%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用炭素質材料。
  3. ブタノール法により求めた真密度が1.40〜1.70g/cmである、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用炭素質材料。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用炭素質材料を含む非水電解質二次電池用負極。
  5. 請求項に記載の非水電解質二次電池用負極を含む非水電解質二次電池。
  6. 比表面積が100〜500m 2 /gの炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を800〜1400℃の不活性ガス雰囲気下で焼成して炭素質材料を得る工程を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用炭素質材料の製造方法。
  7. 前記炭素前駆体が植物由来である、請求項6に記載の製造方法。
  8. 前記揮発性有機物は、常温で固体状態であり、残炭率が5重量%未満である、請求項6または7に記載の製造方法。
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