次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るロボットトラクタ1の全体的な構成を示す側面図である。図2は、ロボットトラクタ1の平面図である。図3は、第1実施形態におけるロボットトラクタ1の制御系の主要な構成を示すブロック図である。
初めに、本発明に係る農業用作業車両の実施の一形態であるロボットトラクタ(以下、単に「トラクタ」と称する場合がある。)1について説明する。第1実施形態に係るトラクタ1は、圃場領域内を自走する車体部としての走行機体2を備える。走行機体2には、図1及び図2において鎖線で示す作業機3が着脱可能に取り付けられている。この作業機3としては、例えば、耕耘機、プラウ、施肥機、草刈機、播種機等の種々の作業機があり、これらの中から必要に応じて所望の作業機3を選択して走行機体2に装着することができる。走行機体2は、装着された作業機3の高さ及び姿勢を変更可能に構成されている。
トラクタ1の構成について、図1及び図2を参照して説明する。トラクタ1の車体部である走行機体2は、図1に示すように、その前部が左右1対の前輪7,7で支持され、その後部が左右1対の後輪8,8で支持されている。
走行機体2の前部にはボンネット9が配置されている。このボンネット9内にはトラクタ1の駆動源であるエンジン10が収容されている。このエンジン10は、例えばディーゼルエンジンにより構成することができるが、これに限るものではなく、例えばガソリンエンジンにより構成しても良い。
ボンネット9の後方には、オペレータが搭乗するためのキャビン11が配置されている。このキャビン11の内部には、オペレータが操向操作するためのハンドル12と、オペレータが座る座席13と、各種の操作を行うための様々な操作装置と、が主として設けられている。ただし、農業用作業車両は、キャビン11付きのものに限るものではなく、キャビン11を備えないものであってもよい。
上記の操作装置としては、図2に示すモニタ装置14、スロットルレバー15、シフトレバー、昇降レバー、PTOスイッチ17、PTO変速レバー18、及び複数の油圧変速レバー16等を例として挙げることができる。これらの操作装置は、座席13の近傍、又はハンドル12の近傍に配置されている。モニタ装置14は、トラクタ1の様々な情報を表示可能に構成されている。スロットルレバー15は、エンジン10の回転速度を設定するためのものである。前記シフトレバーは、トランスミッション22の変速比を変更操作するためのものである。昇降レバーは、走行機体2に装着された作業機3の高さを所定範囲内で昇降操作するためのものである。PTOスイッチ17は、トランスミッション22の後端から突出した図略のPTO軸(動力取出軸)への動力の伝達/遮断を切替操作するためのものである。即ち、PTOスイッチ17がON状態であるときPTO軸に動力が伝達されてPTO軸が回転し、作業機3が駆動される一方、PTOスイッチ17がOFF状態であるときPTO軸への動力が遮断されてPTO軸が回転せず、作業機3が停止される。PTO変速レバー18は、作業機3に入力される動力の変更操作を行うものであり、具体的にはPTO軸の回転速度の変速操作を行うものである。油圧変速レバー16は、図略の油圧外部取出バルブを切換操作することができる。
図1に示すように、走行機体2の下部には、トラクタ1のシャーシ20が設けられている。当該シャーシ20は、機体フレーム21、トランスミッション22、フロントアクスル23、及びリアアクスル24等から構成されている。
機体フレーム21は、トラクタ1の前部における支持部材であって、直接、又は防振部材等を介してエンジン10を支持している。トランスミッション22は、エンジン10からの動力を変化させてフロントアクスル23及びリアアクスル24に伝達する。フロントアクスル23は、トランスミッション22から入力された動力を前輪7に伝達するように構成されている。リアアクスル24は、トランスミッション22から入力された動力を後輪8に伝達するように構成されている。
図3に示すように、トラクタ1は、走行機体2の操作(前進、後進、停止及び旋回等)並びに作業機3の動作(昇降、駆動、及び停止等)を制御するための制御部として、制御装置4を備える。制御装置4には、ガバナ装置41、変速装置42、及び昇降アクチュエータ44等がそれぞれ電気的に接続されている。
ガバナ装置41は、エンジン10の回転数を調整するものである。ガバナ装置41を制御装置4により制御してラック位置を適宜に調整することにより、エンジン10の回転数を所望の回転数にすることができる。
変速装置42は、具体的には例えば可動斜板式の油圧式無段変速装置であり、トランスミッション22に備えられている。変速装置42を制御装置4により制御して図略の前記斜板の角度を適宜に調整することにより、トランスミッション22の変速比を所望の変速比にすることができる。
昇降アクチュエータ44は、例えば作業機3を走行機体2に連結している3点リンク機構を動作させることにより、作業機3を退避位置(農作業を行わない位置)又は作業位置(農作業を行う位置)の何れかに上げ下げするものである。昇降アクチュエータ44を制御装置4により制御して作業機3を適宜に昇降動作させることにより、例えば圃場領域の所望の高さで作業機3により農作業を行うことができる。
上述のような制御装置4を備えるトラクタ1は、オペレータがキャビン11内に搭乗して各種操作をすることにより、当該制御装置4によりトラクタ1の各部(走行機体2、作業機3等)を制御して、圃場領域内を走行しながら農作業を行うことができるように構成されている。加えて、本実施形態のトラクタ1は、オペレータがトラクタ1に搭乗しなくても、図1及び図3に示す遠隔操作装置46により前進、後進、旋回等を指示して走行させたり、トラクタ1に自律走行させたりすることも可能となっている。
具体的には、図3に示すように、このトラクタ1は自律走行を可能とするための各種の構成を制御装置4内に備えている。更に、トラクタ1は、測位システムに基づいて自ら(の車体部)の位置情報を取得するために必要な測位用アンテナ6等の各種の構成を備えている。このような構成により、トラクタ1は、測位システムに基づいて自らの位置情報を取得して、圃場領域内を自律走行することが可能となっている。
次に、自律走行を可能にするためにトラクタ1が備える構成について詳細に説明する。具体的には、トラクタ1は、図1及び図3に示すように、操舵アクチュエータ43、測位用アンテナ6、及び無線通信用アンテナ48等を備える。
操舵アクチュエータ43は、例えば、ハンドル12の回転軸(ステアリングシャフト)の中途部に設けられ、ハンドル12の回転角度(操舵角)を調整するものである。操舵アクチュエータ43を制御装置4により制御して適宜に動作させることにより、ハンドル12の操舵角を所望の値にして、操舵輪である前輪7を旋回させて、トラクタ1を所望の旋回半径で旋回操作することができる。
測位用アンテナ6は、例えば衛星測位システム(GNSS)等の測位システムを構成する測位衛星からの信号を受信するものである。図1に示すように、測位用アンテナ6は、トラクタ1のキャビン11のルーフ92の上面に配置されている。測位用アンテナ6で受信された測位信号は、図3に示す位置情報算出部49に入力されて、当該位置情報算出部49でトラクタ1(厳密には、測位用アンテナ6)の位置情報が、例えば緯度・経度情報として算出される。当該位置情報算出部49で算出された位置情報は、制御装置4の図略の位置情報取得部により取得されて、トラクタ1の制御に利用される。
ここで、測位システムの具体例としては、GPS技術(GPS衛星)を活用した衛星測位システムが挙げられるが、これに代えて、準天頂衛星、グロナス衛星等の他の衛星を用いたシステムを利用することも可能である。また、GPS技術を活用した測位システムとしては、単独測位、相対測位、DGPS測位、RTK−GPS測位等を採用することができる。
無線通信用アンテナ48は、遠隔操作装置46からの信号を受信したり、遠隔操作装置46への信号を送信したりするものである。図1に示すように、無線通信用アンテナ48は、トラクタ1のキャビン11のルーフ92の上面に配置されている。無線通信用アンテナ48で受信した遠隔操作装置46からの信号は、図3に示す送受信処理部91で信号処理された後、制御装置4に入力される。また、制御装置4から遠隔操作装置46に送信する信号は、送受信処理部91で信号処理された後、無線通信用アンテナ48から送信されて、遠隔操作装置46で受信される。
遠隔操作装置46は、具体的には、タッチパネルを備えるタブレット型のパーソナルコンピュータとして構成される。オペレータは、遠隔操作装置46のディスプレイに表示された情報(例えば、自律走行を行うときに必要な圃場領域の情報等)を参照して確認することができる。また、オペレータは、遠隔操作装置46を操作して、トラクタ1の制御装置4に、トラクタ1を制御するための制御信号を送信することができる。なお、遠隔操作装置46はタブレット型のパーソナルコンピュータに限るものではなく、これに代えて、例えばノート型のパーソナルコンピュータで構成することも可能である。あるいは、有人のトラクタ(図略)を無人のトラクタ1に付随して走行させる場合、有人側のトラクタに搭載されるモニタ装置を遠隔操作装置とすることもできる。
図3に示す制御装置4は、トラクタ1が自律走行するように制御するための各部を備えており、これと併せて測位用アンテナ6等の各種構成をトラクタに設けることにより、既存のトラクタを無人のロボットトラクタ1として利用することが可能となる。制御装置4は、CPU、ROM、RAM等を有する小型のコンピュータとして構成されており、上記のROMには、オペレーションプログラムやアプリケーションプログラムや各種データが記憶されている。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御装置4を、圃場情報記憶部51、作業情報記憶部52、作業経路作成部53、記憶部としての端部位置情報記憶部61、形状特定部としての領域形状取得部62、及び表示用データ作成部60等として動作させることができる。
このように構成されたトラクタ1は、遠隔操作装置46を用いるオペレータの指示に基づいて、圃場領域での作業経路を作業経路作成部53によって算出し、当該作業経路に沿って自律走行しつつ、作業機3による農作業を行うことができる。このように、トラクタ1が自律走行する圃場領域上の経路を、以下の説明において「作業経路」と称する場合がある。また、圃場領域においてトラクタ1の作業機3による農作業の対象となる領域を「作業領域」と称する場合がある。この作業領域は、圃場領域の全体から枕地及び余裕代を除いた領域として定められ、オペレータ等によりトラクタ1の周回走行(後に詳述する。)が行われることにより予め設定される。
次に、自律走行を可能とするために制御装置4に備えられている各部について、図3を参照して個別に説明する。
圃場情報記憶部51は、トラクタ1で自律走行による農作業を行う対象となる圃場領域に関する様々な情報を記憶するものである。圃場領域に関する情報としては、具体的には、圃場領域の位置及び形状、圃場領域において作業機3による農作業が行われる領域である作業領域の位置及び形状、作業領域で作業機3による農作業が開始される地点である作業開始点、農作業が終了される地点である作業終了点等を挙げることができる。ここで、圃場領域の位置及び形状は、画像処理等により畦等の場所を把握することにより取得することができる。また、作業領域の位置及び形状は、後述するようにトラクタ1を周回走行させることにより領域形状取得部62により取得される。また、その他の情報は、例えば、オペレータが遠隔操作装置46のタッチパネルを操作すること等により設定することができる。
作業情報記憶部52は、トラクタ1に装着した作業機3により行われる作業の種類及び作業幅等を、作業情報として記憶する。本実施形態では、これらの情報は、オペレータが遠隔操作装置46のタッチパネルを操作することにより設定することができる。作業の種類としては、例えば耕耘作業、播種作業等である。作業幅は、作業機3により作業が行われる有効幅を意味し、例えば3メートルである。
作業経路作成部53は、作業情報記憶部52から読み出した作業情報、及び圃場情報記憶部51から読み出した圃場情報に基づいて、前記作業経路を計算により作成する。作業経路は、農作業が行われる直線状の経路である農作業経路と、旋回操作(方向転換)が行われる旋回経路と、を交互に繋いだ一連の経路として生成される。
記憶部としての端部位置情報記憶部61は、図4に示す距離の情報、具体的には、例えばトラクタ1の車幅方向における測位用アンテナ6からトラクタ1の左端までに相当する距離L、及び、測位用アンテナ6からトラクタ1の右端までに相当する距離Rをオフセット補正値として記憶する。なお、本実施形態のようにトラクタ1に作業機3が装着されている場合は、上記の距離L,Rが示すトラクタ1の「左端」「右端」とは、作業機3を含めた形でのトラクタ1の車幅方向での左端及び右端を意味する。なお、距離Lと距離Rとは、同一の値であっても、異なる値であっても良い。
これらの距離L,Rは、例えばオペレータが実際に距離を測定して遠隔操作装置46に入力すること等により、端部位置情報記憶部61に記憶させることができる。ただし、これらの距離L,Rを取得する方法はこれに限るものではなく、例えばこれに代えて、オペレータが作業機3の種類を遠隔操作装置46に入力することにより、距離L,Rが自動で算出(推定)されるものとしてもよい。
図3に示す形状特定部としての領域形状取得部62は、作業機3による農作業の対象となる作業領域の形状を取得するためのものである。この領域形状取得部62は、位置情報取得部としての周回アンテナ経路記憶部63、操舵角記憶部64、周回方向判定部65、外周側端部経路算出部66、オフセット補正値調整部としてのオフセット調整部67、及び旋回部分修正部68等を備えて構成される。
位置情報取得部としての周回アンテナ経路記憶部63は、測位用アンテナ6の位置情報を登録しながら図5に示すように作業領域Cの形状に沿って(例えば、輪郭に沿って)トラクタ1を実際に周回(1回り)させる作業をオペレータが行ったときに、当該位置情報の経時変化(推移)を記憶することで、測位用アンテナ6の周回軌跡を実質的に記憶するものである。なお、以下では、トラクタ1を上記のように作業領域Cの形状に沿って(例えば、輪郭に沿って)周回するように走行させる作業を「周回走行」と呼び、このときに登録された位置情報を用いて得られた測位用アンテナ6の周回軌跡を「周回アンテナ経路」と呼ぶことがある。この周回アンテナ経路の形状は、本実施形態における「第1作業領域形状」に相当する。測位用アンテナ6の位置情報の推移は、例えば、一定の時間間隔をおいて衛星からの測位信号を測位用アンテナ6により反復して受信することにより取得することができる。あるいは、トラクタ1に搭乗したオペレータが、位置情報を登録したいタイミングで操作具(例えば、スイッチ)を操作することにより、周回走行中の作業領域Cの外形のうち所望の位置に相当する位置情報を取得することもできる。
図3に示す操舵角記憶部64は、上記のトラクタ1の周回走行の過程におけるトラクタ1の操舵角の経時変化(推移)を記憶するものである。具体的には、上記の周回走行時において、操舵角センサ93はハンドル12の操舵角を監視し、その検出結果が操舵角記憶部64に順次記憶される。本実施形態において操舵角の検出値は、ハンドル12の操作位置がニュートラルの場合はゼロ、左旋回側の場合はマイナス、右旋回側の場合はプラスとなり、その絶対値はハンドル12の操舵角が大きくなるにつれて大きくなるように定められている。
周回方向判定部65は、上記のトラクタ1の周回走行の方向が右回りであったか左回りであったかを判定するものである。本実施形態において、周回方向判定部65は、操舵角記憶部64から読み出した操舵角の推移(経時変化)に基づいて、トラクタ1が周回した方向が全体として右回りであったか、左回りであったかを判定する。周回走行の方向の判定方法は様々であるが、例えば、操舵角記憶部64に記憶されている操舵角の検出値を上記の周回走行の全過程にわたって累積し、その累積値がプラスであるかマイナスであるかによって判定することが考えられる。
外周側端部経路算出部66は、周回アンテナ経路記憶部63から読み出した周回アンテナ経路に基づいて、上記のトラクタ1の周回走行に伴って当該トラクタ1の車幅方向における作業領域Cの輪郭に近い側の端部(本実施形態では、走行外周側の端部)が通過した経路(以下、「外周側端部経路」と呼ぶことがある。)を計算(補正)により求める。なお、外周側端部経路の計算には、周回アンテナ経路記憶部63から読み出した周回アンテナ経路と、周回方向判定部65による周回方向の判定結果と、端部位置情報記憶部61から読み出されたオフセット補正値(本実施形態では、図4の距離L又は距離R)と、が用いられる。
具体的には、外周側端部経路算出部66は、周回方向判定部65で判定した結果が右回りであった場合には、トラクタ1の車幅方向において測位用アンテナ6からトラクタ1の左端までに相当する距離Lの分だけ、上記の周回アンテナ経路の位置情報をトラクタ1の進行方向に対して左側へオフセットすることにより、第2作業領域形状としての外周側端部経路の形状を算出する。なお、トラクタ1の進行方向は、周回アンテナ経路記憶部63に記憶される位置情報の推移から容易に求めることができる。
一方、外周側端部経路算出部66は、周回方向判定部65で判定した結果が左回りであった場合には、トラクタ1の車幅方向において測位用アンテナ6からトラクタ1の右端までに相当する距離Rの分だけ、上記の周回アンテナ経路の位置情報をトラクタ1の進行方向に対して右側へオフセットすることにより、第2作業領域形状としての外周側端部経路の形状を算出する。
図5には、トラクタ1をSTARTの地点からENDの地点(ENDの地点はSTARTの地点と同一である)まで左回りに周回走行させた例が示されている。この場合、周回方向判定部65により、トラクタ1の周回走行の方向は左回りであると判定される。従って、上記の外周側端部経路算出部66は、図6に示すように周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して右側へ距離Rの分だけオフセットする計算(補正)を行って、第2作業領域形状としての外周側端部経路の形状を取得する。
図3に示すオフセット補正値調整部としてのオフセット調整部67は、外周側端部経路算出部66で得られた外周側端部経路を、内側又は外側に適宜オフセットすることで調整する。このオフセットの方向及び距離は、トラクタ1の周回走行時の状況を考慮して、ユーザが遠隔操作装置46を操作することにより指示(設定)することができる。例えば、図5に示す作業領域Cにおいて、当該作業領域Cの輪郭のすぐ外側に図示しない畦等が位置している場合には、オペレータは、上記のトラクタ1の周回走行にあたっては、当該畦等に作業機3が接触するのを防止するために、作業領域Cの輪郭と作業機3の端部との間に例えば15cm程度の隙間を形成した状態を保ちながらトラクタ1を当該輪郭に沿って走行させる。この場合、オペレータは、当該隙間を考慮して、外周側端部経路を外側に15cmオフセットするように設定する。なお、図7には、オフセット調整部67が外周側端部経路を外側に距離t(=15cm)だけオフセットさせる様子が示されている。この調整により、様々な状況に応じて、外周側端部経路を作業領域Cの実際の形状に柔軟に近づけることができる。
図3に示す旋回部分修正部68は、トラクタ1の周回走行時において作業領域Cの輪郭の角部の内側で旋回するときに最小旋回半径の関係で小回りに限界があることを考慮して、当該旋回部分に相当する外周側端部経路の形状を、角が鋭くなる方向に修正するものである。旋回部分修正部68によって外周側端部経路の形状が修正されることで、当該外周側端部経路を、特に作業領域Cの角部の部分において、当該作業領域Cの実際の形状に近づけることができる。なお、旋回部分修正部68の詳細な構成については後述する。領域形状取得部62は、旋回部分修正部68で修正された後の外周側端部経路の形状を、作業領域Cの形状として取得する。
この旋回部分修正部68は、図8に示すように、直線部分抽出部71と、交点取得部72と、形状修正部73と、を備える。
直線部分抽出部71は、オフセット調整部67から旋回部分修正部68に入力された外周側端部経路の形状のうち、直線状となっている部分(直線部分S)を図9に示すように抽出する。なお、直線状となっている部分(直線路)の検出は、公知の幾何学的な方法により行うことができる。具体的には、例えば、旋回走行が終了したときに、走行方向に沿った任意の2点を結ぶ線分と平行に、車幅方向に間隔を隔てた2本の平行な直線を判定ラインとして設定し、走行軌跡がこの判定ラインに収まっている距離が所定の距離以上の場合に、「直線部分」(直線路)であると判定することが可能である。
図8に示す交点取得部72は、直線部分抽出部71で抽出された複数の直線部分S(直線路)のうち、外周側端部経路上で互いに隣接する任意の2つの直線部分Sについて、図9に示すように、それぞれの直線部分Sを延長して交わる点(交点E)を計算により求める。即ち、直線部分抽出部71で抽出された隣接する2本の直線部分S(直線路)の接続されている部分を、旋回部分(旋回路)とみなし、この旋回部分の位置情報を実際の作業領域Cの外形(輪郭)に近づけるために、交点Eを求める。この交点Eは、作業領域Cの形状を多角形とみなしたときの頂点に相当する。
図8に示す形状修正部73は、旋回部分修正部68に入力された外周側端部経路の形状を、上記の交点Eを通過するように修正する。
以上により、外周側端部経路の形状のうちトラクタ1が旋回した部分に相当する形状を角張らせるように修正して、図9に示すように実際の作業領域Cの形状に近づけることができる。なお、図9に示した旋回部修正後の外周側端部経路の形状は、本実施形態における「第3作業領域形状」に相当する。
図3に示す表示用データ作成部60は、領域形状取得部62で取得した作業領域Cの形状を、作業開始点及び作業終了点等の情報とともに、遠隔操作装置46のディスプレイに表示させるための表示用データを作成する。表示用データ作成部60で作成された表示用データは、送受信処理部91を介して遠隔操作装置46で受信され、当該遠隔操作装置46のディスプレイに画像として表示される。
次に、作業領域Cの形状を取得するために制御装置4により行われる制御について、図10のフローチャートを参照して説明する。図10は、作業領域Cの形状を取得するときに制御装置4が行う処理を示すフローチャートである。
オペレータは遠隔操作装置46の適宜のメニュー画面から作業領域形状登録を指示することによって図10の処理が開始され、オペレータはその後(作業領域形状登録を指示した後)図5に示すように、作業領域Cの外形に沿って(例えば、輪郭の際に沿って)トラクタ1を周回走行させる。このときのトラクタ1の周回方向は任意であり、左回りでも右回りでも良い。図10のステップS101において、周回アンテナ経路記憶部63は、上記の周回走行時における測位用アンテナ6の位置情報を順次記憶し、操舵角記憶部64は、周回走行時における操舵角センサ93の検出結果(操舵角の検出値)を順次記憶する。これにより、周回アンテナ経路記憶部63は実質的に、トラクタ1の周回走行に伴って測位用アンテナ6が通過した経路である周回アンテナ経路を記憶することになる。なお、操舵角記憶部64は周回アンテナ経路における各位置座標(各測位用アンテナ6の位置座標)に対応付けて操舵角センサ93の検出結果を記憶することとしてもよい。
続いて、周回方向判定部65は、上記の周回走行時にステップS101で操舵角記憶部64に記憶させた操舵角を当該操舵角記憶部64から読み出し、当該操舵角の推移に基づいて、トラクタ1の周回走行の方向が左回りであったか否かを判定する(ステップS102)。
図5に示した例の場合、トラクタ1の周回走行の過程で、右側(操舵角の検出値がプラスになる側)への略90°の旋回が2回行われ、左側(操舵角の検出値がマイナスになる側)への略90°の旋回が6回行われる。従って、トラクタ1の周回走行の過程にわたって操舵角の検出値を累積するとマイナスになるため、図10のステップS102で、周回方向判定部65はトラクタ1の周回走行の方向が左回りであると判定する。
ステップS102の判断で、トラクタ1の周回走行の方向が左回りであった場合、外周側端部経路算出部66は、トラクタ1の車幅方向における測位用アンテナ6からトラクタ1の右端までの距離Rを作業情報記憶部52から読み出すとともに、上記の周回アンテナ経路を周回アンテナ経路記憶部63から読み出し、図6に示すように当該周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して右側へ当該距離Rだけオフセットすることにより、上記のトラクタ1の周回走行時にトラクタ1の車幅方向右端(作業機3を含めた形での右端)が通った経路を外周側端部経路として算出する(図10のステップS103)。
ステップS102の判断で、トラクタ1の周回走行の方向が右回りであった場合(トラクタ1の周回走行の方向が左回りではないと判断された場合)、外周側端部経路算出部66は、トラクタ1の車幅方向における測位用アンテナ6からトラクタ1の左端までの距離Lを作業情報記憶部52から読み出すとともに、上記の周回アンテナ経路を周回アンテナ経路記憶部63から読み出し、当該周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して左側へ当該距離Lだけオフセットすることにより、上記のトラクタ1の周回走行時にトラクタ1の車幅方向左端(作業機3を含めた形での左端)が通った経路を外周側端部経路として算出する(ステップS104)。
次に、オフセット調整部67は、オペレータが外周側端部経路を例えば外側へtcmオフセットする設定をしている場合には、ステップS103又はステップS104で得られた外周側端部経路を、図7に示すように外側にtcmだけオフセットする(図10のステップS105)。なお、オフセット調整部67は、オペレータの設定により、外周側端部経路の形状を外側でなく内側にオフセットすることもできるようになっている。これにより、オペレータの好み等の様々な状況に応じて、領域形状取得部62が取得する作業領域Cの形状を柔軟に調整することができる。
続いて、旋回部分修正部68が有する直線部分抽出部71は、ステップS105で得られた外周側端部経路の形状から、図9に示す直線部分Sを抽出する(図10のステップS106)。
次に、交点取得部72は、ステップS106で直線部分抽出部71が抽出した直線部分Sのうち、外周側端部経路において互いに隣接する2つの直線部分S同士を延長して交わる点(図9に示す交点E)を、計算により取得する(図10のステップS107)。
その後、形状修正部73は、ステップS105で得られた外周側端部経路を、ステップS107で交点取得部72が取得した交点Eを通るように修正する(ステップS108)。なお、この修正の様子は図9に示されている。こうして得られた修正後の外周側端部経路を、領域形状取得部62は、作業領域Cの形状として取得する。なお、この修正後の外周側端部経路の形状は、本実施形態における「第3作業領域形状」に相当する。
そして、表示用データ作成部60は、図10のステップS101からステップS108までの処理の結果として領域形状取得部62が取得した作業領域Cの形状を遠隔操作装置46のディスプレイに表示するための表示用データを作成する(ステップS109)。この表示用データは、送受信処理部91にて信号処理がされた後、無線通信用アンテナ48から送信される。これを受信した遠隔操作装置46においては、表示用データが読み出されることにより、作業領域Cの形状が画像としてディスプレイに表示される。
以上のようにして、本実施形態の制御装置4は、オペレータがトラクタ1に実際に作業領域Cの外形に沿って走行させたときの測位用アンテナ6の位置情報に基づいて上記の処理を行うことにより、当該作業領域Cの形状を取得することができる。このとき、オペレータがトラクタ1を周回させる方向が右回りであっても左回りであっても、実際に即した作業領域Cの形状を取得できるので、形状の登録作業の自由度が高くなり、利便性に優れる。
そして、このようにして得られた作業領域Cが圃場情報記憶部51に記憶される。そして作業領域Cにおいて農作業を行う場合、オペレータが遠隔操作装置46を操作して作業領域Cにおける農作業の作業開始点及び作業終了点を設定することで、作業経路作成部53がトラクタ1の作業経路を作成する。この作業経路に沿ってトラクタ1を自律走行させることにより、作業領域Cに対して自動で農作業を行うことができる。
以上で説明したように、本実施形態のトラクタ1は、車体部としての走行機体2と、位置情報取得部としての周回アンテナ経路記憶部63と、記憶部としての端部位置情報記憶部61と、形状特定部としての領域形状取得部62と、を備える。周回アンテナ経路記憶部63は、測位用アンテナ6が受信した測位システムからの測位信号に基づいて走行機体2の位置情報を取得可能である。端部位置情報記憶部61は、走行機体2に対して予め設定されたオフセット補正値(距離)L,Rを記憶する。領域形状取得部62は、農作業が行われる作業領域Cの形状を特定する。領域形状取得部62の周回アンテナ経路記憶部63は、作業領域Cにて走行機体2を周回走行させた際の走行機体2の位置情報に基づいて第1作業領域形状としての周回アンテナ経路を特定する。また、領域形状取得部62の外周側端部経路算出部66は、前記周回走行における走行機体2の周回方向と前記周回アンテナ経路とオフセット補正値L,Rに基づいて、前記第1作業領域形状とは異なる第2作業領域形状を特定可能である。この外周側端部経路算出部66は、当該第2作業領域形状としての外周側端部経路を作業領域Cの形状として特定する。
これにより、走行機体2を周回走行させた際の測位用アンテナ6から受信した測位信号に基づいて把握される第1作業領域形状(周回アンテナ経路)そのものを作業領域Cの形状として認識するのではなく、走行機体2に対して予め設定されたオフセット補正値L,Rも考慮に入れて得られる第2作業領域形状(外周側端部経路)を作業領域Cの形状として取得することができる。従って、より実際に即した作業領域Cの形状を取得することができる。また、オペレータがトラクタ1を周回走行させる方向が右回り、左回りの何れであっても、周回方向も考慮に入れた上で第1作業領域形状(周回アンテナ経路)とオフセット補正値L,Rに基づいて第2作業領域形状(外周側端部経路)を算出することができるので、作業領域Cの形状を登録する作業の手間を軽減することができる。
また、本実施形態のトラクタ1においては、オペレータの指示に応じて前記オフセット補正値L,Rを調整可能なオフセット補正値調整部としてのオフセット調整部67を備える。
これにより、領域形状取得部62の外周側端部経路算出部66が取得する作業領域の形状に対して、更にオフセット調整部67で適宜のオフセット量(例えば、距離t)を指定して補正できるようにすることにより、様々な状況に応じて柔軟に調整することができる。
また、本実施形態のトラクタ1においては、前記第2作業領域形状としての外周側端部経路において旋回路を介して2本の直線路としての直線部分Sが接続されている場合、領域形状取得部62の旋回部分修正部68は、当該2本の直線部分Sを延長して交わる点である交点Eに基づいて、前記第2作業領域形状としての外周側端部経路とは異なる第3作業領域形状としての旋回部修正後の外周側端部経路を特定可能である。
これにより、トラクタ1の周回走行時に作業領域Cの外形(輪郭)の角部において最小旋回半径の事情で鋭く旋回できないために経路の角部が丸みを帯びてしまう部分を修正して、より実際に即した作業領域Cの形状を取得することができる。
また、本実施形態のトラクタ1において、端部位置情報記憶部61は、右回りの周回走行に対応付けられた第1オフセット調整値Lと左回りの周回走行に対応付けられた第2オフセット調整値Rを記憶する。領域形状取得部62は、走行機体2の周回方向が右回りである場合は第1オフセット調整値Lを用い、走行機体2の周回方向が左回りである場合は第2オフセット調整値Rを用いて、第2作業領域形状としての外周側端部経路を特定する。
これにより、例えば測位用アンテナ6から走行機体2の左端までの距離Lと、測位用アンテナ6から走行機体2の右端までの距離Rと、が異なっているような場合においても、適切なオフセット調整値L,Rを適用して作業領域Cの形状を特定することができる。
また、本実施形態の制御装置4を備えるトラクタ1は、測位システムからの測位信号を受信する測位用アンテナ6を備え、当該測位用アンテナ6により受信した信号に基づいて自らの位置情報を取得可能に構成されている。そして、制御装置4は、当該トラクタ1が農作業を行う作業領域Cの形状を取得する。制御装置4は、周回アンテナ経路記憶部63と、周回方向判定部65と、外周側端部経路算出部66と、を備える。周回アンテナ経路記憶部63は、作業領域Cの外形に沿って(例えば、輪郭のすぐ内側に沿って)トラクタ1が周回走行したときの測位用アンテナ6の位置情報に基づいて、当該周回走行に伴って測位用アンテナ6が通過した経路である周回アンテナ経路を記憶する。周回方向判定部65は、トラクタ1の周回走行の方向が右回りであったか、左回りであったかを判定する。外周側端部経路算出部66は、周回方向判定部65で判定した結果が右回りであった場合は、トラクタ1の車幅方向で測位用アンテナ6からトラクタ1の左端(作業機3を含めた形での左端)までに相当する距離Lの分だけ、周回アンテナ経路記憶部63から読み出された周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して左側へオフセットした経路を外周側端部経路として算出する。一方、外周側端部経路算出部66は、周回方向判定部65で判定した結果が左回りであった場合は、トラクタ1の車幅方向で測位用アンテナ6からトラクタ1の右端(作業機3を含めた形での右端)までに相当する距離Rの分だけ、周回アンテナ経路記憶部63から読み出された周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して右側へオフセットした経路を外周側端部経路として算出する。そして、制御装置4は、前記外周側端部経路に基づいて作業領域Cの形状を取得する。
これにより、トラクタ1の周回走行時に測位用アンテナ6が通った経路そのものを作業領域Cの形状として認識するのではなく、測位用アンテナ6からトラクタ1の車幅方向の端(左端又は右端)までの距離L,Rを考慮に入れて算出された外周側端部経路に基づいて作業領域Cの形状を取得することができる。従って、より実際に即した作業領域Cの形状を取得することができる。また、オペレータがトラクタ1を周回走行させる方向が右回り、左回りの何れであっても、周回方向判定部65によりトラクタ1の周回走行の方向を自動的に判定して適切に外周側端部経路を算出することができるので、作業領域Cの形状を登録する作業の手間を軽減することができる。
また、本実施形態のトラクタ1は、当該トラクタ1の周回走行時における当該トラクタ1の操舵角を順次記憶する操舵角記憶部64を備える。周回方向判定部65は、操舵角記憶部64から読み出した操舵角の推移に基づいて、トラクタ1の周回走行の方向が右回りであったか、左回りであったかを判定する。
これにより、トラクタ1の操舵角の推移の情報を用いて、周回走行の方向を適切に判定することができる。
また、本実施形態のトラクタ1の制御装置4の旋回部分修正部68は、直線部分抽出部71と、交点取得部72と、形状修正部73と、を備える。直線部分抽出部71は、外周側端部経路のうち直線部分S(直線路)を抽出する。交点取得部72は、直線部分抽出部71で抽出された直線部分Sのうち、外周側端部経路において互いに隣接する2つの直線部分S同士を延長して交わる点である交点Eを取得する。形状修正部73は、交点取得部72で取得された交点Eを通るように外周側端部経路の形状を修正する。
これにより、トラクタ1の周回走行時に作業領域Cの角部において最小旋回半径の事情で鋭く旋回できないために経路の角部が丸みを帯びてしまう部分を修正して、より実際に即した作業領域Cの形状を取得することができる。
更に、本実施形態のトラクタ1は、外周側端部経路算出部66が算出した外周側端部経路を内側又は外側にオフセットすることで外周側端部経路の形状を調整するオフセット調整部67を備える。そして、制御装置4は、オフセット調整部67が行うオフセットの方向及びオフセット量を変更可能に構成されている。
これにより、領域形状取得部62が取得する作業領域Cの形状を、様々な状況に応じて柔軟に調整することができる。
次に、上記の第1実施形態に関する3つの変形例をそれぞれ説明する。なお、これらの変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
初めに、第1変形例に係るトラクタ1について説明する。
第1変形例に係るトラクタ1の端部位置情報記憶部61は、測位用アンテナ6からトラクタ1の左端までに相当する距離L、及び、測位用アンテナ6からトラクタ1の右端までに相当する距離Rを、直線路(直線部分S)に対して適用するオフセット補正値として記憶するほか、旋回路(旋回部分)に対して適用するオフセット補正値として別途の補正値XL,XRを記憶している。補正値XL,XRは、例えば、走行機体2の旋回角度との関係で関数により定められているものとすることができる。このように、旋回路に対しては、直線路のときとは異なる特別なオフセット補正値XL,XRを適用することにより、走行機体2の最小旋回半径の関係でトラクタ1を周回走行する際に輪郭の際を走行できない角部においても、好適に輪郭の形状を求めることが可能となる。
旋回路に関する上記のオフセット補正値XL,XRは、旋回方向が右回りか左回りかで異なる。例えば右回りの場合、外周側である左側のオフセット補正値(XL)は、旋回開始時点では直線路のオフセット補正値Lと殆ど等しいが、旋回の中間地点に近づくに従って徐々に増大し、中間地点を超えると、旋回終了まで徐々に減少して直線路のオフセット補正値Lに近づくように定められる。一方、内周側である右側のオフセット補正値(XR)は、旋回開始時点では直線路のオフセット補正値Rと殆ど等しいが、旋回の中間地点に近づくに従って徐々に減少し、中間地点を超えると、旋回終了まで徐々に増大して直線路のオフセット補正値Rに近づくように定められる。これにより、旋回路において、角張った作業領域Cの形状に近づくように周回アンテナ経路をオフセットすることができる。
このように、第1変形例に係るトラクタ1において、端部位置情報記憶部61は、直線路(直線部分S)に対応付けられた第1オフセット補正値L,Rと旋回路(旋回部分)に対応付けられた第2オフセット補正値XL,XRを記憶する。領域形状取得部62は、前記第1作業領域形状としての周回アンテナ経路において直線路(直線部分S)に対しては前記第1オフセット補正値L,Rを用い、旋回路(旋回部分)に対しては第2オフセット補正値XL,XRを用いて、前記第2作業領域形状としての旋回部分修正後の周回アンテナ経路を特定する。
これにより、走行機体2を周回走行させたときの経路が直線路であっても、旋回路であっても、適切なオフセット補正値L,R,XL,XRを適用して、実際に即した作業領域Cの形状を取得することができる。
なお、例えばトラクタ1の周回走行における周回方向が左回りである場合、旋回方向が左回りであれば作業領域の輪郭の際(角部)を走行することはできないが、旋回方向が右回りであれば作業領域の輪郭の際を走行することが可能である。従って、周回方向と旋回方向とが共通である場合、当該旋回路においては上記特別なオフセット補正値(本例ではオフセット補正値XR)を用い、周回方向と旋回方向とが異なっている場合、当該旋回路では直線路と共通のオフセット補正値(本例ではオフセット補正値R)を用いて前記第2作業領域形状としての旋回部分修正後の周回アンテナ経路を特定することとしてもよい。
加えて、第1変形例では、直線路、旋回路に応じて異なるオフセット補正値を設けることしたが、オフセット補正値は直線路、旋回路で共通であってもよく、その場合、オペレータが設定する距離t(図10のステップS105参照)に基づいて旋回路におけるオフセット値t’を算出し、図10のステップS105において直線路については距離tに基づいてオフセットし、旋回路については距離t’に基づいてオフセットすることとしてもよい。距離t’は上記オフセット補正値XL、XRと同様、旋回状況に応じて(即ち、操舵角センサ93の検出結果に応じて)異なる値をとってもよい。
次に、第2変形例に係るトラクタ1について、図11を参照して説明する。図11は、第2変形例に係るトラクタ1に備えられる制御装置75の主要な構成を示すブロック図である。
図11に示す第2変形例のトラクタ1において、制御装置75は、(i)操舵角センサ93に代えて慣性計測装置94を備える点、及び、(ii)操舵角記憶部64に代えてヨー角記憶部74を備える点等において、上記第1実施形態に係るトラクタ1の制御装置4とは異なっている。以下では、第1実施形態とは異なる点を中心に説明する。
慣性計測装置94は、トラクタ1のヨー角やロール角やピッチ角を検出するものである。慣性計測装置94は、トラクタ1のヨー角を連続的に検出することができる。慣性計測装置94は、制御装置75に電気的に接続される。
ヨー角記憶部74は、作業領域Cの外形に沿って(例えば、輪郭に沿って)トラクタ1が周回走行したときの、トラクタ1のヨー角の経時変化(推移)を記憶するものである。ヨー角記憶部74は、慣性計測装置94により検出されたトラクタ1のヨー角(検出結果)を順次記憶する。ヨー角記憶部74は、領域形状取得部62の一部を構成する。
本変形例において、周回方向判定部65は、ヨー角記憶部74から読み出したヨー角の推移(経時変化)に基づいて、上記のトラクタ1の周回走行の向きが右回りであったか、左回りであったかを判定する。具体的には、ヨー角記憶部74から読み出したヨー角の変化の累積値が右回り側であった場合には、ステップS101でトラクタ1を周回させた方向が右回りであると判定する。一方、上記のヨー角の変化の累積値が左回り側であった場合には、トラクタ1を周回させた方向が左回りであると判定する。
このように、第2変形例に係るトラクタ1は、当該トラクタ1の周回走行時におけるトラクタ1のヨー角を順次記憶するヨー角記憶部74を更に備える。周回方向判定部65は、ヨー角記憶部74から読み出したヨー角の推移に基づいて、トラクタ1の周回走行の方向が右回りであったか、左回りであったかを判定する。
これにより、トラクタ1のヨー角の推移の情報を用いることで、作業領域Cが複雑な形状を有していても、周回走行の方向を適切に判定することができる。
次に、第3変形例に係るトラクタ1について、図12を参照して説明する。図12は、第3変形例に係るトラクタ1に備えられる制御装置76の主要な構成を示すブロック図である。
第3変形例のトラクタ1において、制御装置76は、操舵角センサ93、慣性計測装置94、操舵角記憶部64及びヨー角記憶部74の何れも備えない点において、上記の第1実施形態、第1変形例、及び第2変形例に係る制御装置4,75とは異なっている。以下では、第1実施形態、第1変形例及び第2変形例とは異なる点を中心に説明する。
図12に示す第3変形例のトラクタ1に備えられる制御装置76において、周回方向判定部65は、周回アンテナ経路記憶部63で記憶した測位用アンテナ6の位置情報の推移に基づいて、トラクタ1の周回走行の方向が右回りであったか、左回りであったかを判定する。より具体的に説明すると、トラクタ1の進行方向が右側へ変化したか、左側へ変化したかは、アンテナ位置情報の変化に基づいて求めることができる。これに基づいて、周回方向判定部65は、周回走行の過程においてトラクタ1の進行方向の変化を累積し、右側への変化が大きかった場合は右回りと判定し、左側への変化が大きかった場合は左回りと判定する。
このように、第3変形例に係る制御装置76を備えるトラクタ1においては、周回方向判定部65は、周回アンテナ経路記憶部63で記憶した測位用アンテナ6の位置情報の推移に基づいて、トラクタ1を周回させた方向が右回りであったか、左回りであったかを判定する。
これにより、トラクタ1の周回走行の方向を、特別なセンサ等(例えば、図3の操舵角センサや図11の慣性計測装置94)を設けることなく判定することができるので、構成を簡素化することができる。
次に、第2実施形態に係るトラクタ1について説明する。図13は、第2実施形態に係るトラクタ1に備えられる制御装置77の主要な構成を示すブロック図である。なお、本実施形態の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
図13に示す第2実施形態のトラクタ1に備えられる制御装置77において、領域形状取得部62は、外周側端部経路候補算出部79と、候補選択部80と、を備える。
外周側端部経路候補算出部79は、周回アンテナ経路記憶部63で記憶された周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して右側及び左側へそれぞれオフセットし、2つの外周側端部経路候補を作成するものである。
より具体的には、外周側端部経路候補算出部79は、端部位置情報記憶部61から、トラクタ1の幅方向における測位用アンテナ6からトラクタ1の左端(作業機3を含めた形での左端)までに相当する距離L、及びトラクタ1の幅方向における測位用アンテナ6からトラクタ1の右端(作業機3を含めた形での右端)までに相当する距離Rを読み出す。そして、外周側端部経路候補算出部79は、図14に示すように、周回アンテナ経路記憶部63から読み出した周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して右側へ距離Rの分だけオフセットすることにより第1外周側端部経路候補を算出し、周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して左側へ距離Lの分だけオフセットすることにより第2外周側端部経路候補を算出する。
図13に示す候補選択部80は、外周側端部経路候補算出部79で算出した2つの外周側端部経路候補のうち何れか1つを、外周側端部経路として選択するものである。具体的に説明すると、周回アンテナ経路はループ状に形成されているので、当該周回アンテナ経路を右側及び左側にオフセットすることは、内周側又は外周側にオフセットすることを意味する。そして、外周側にオフセットした場合は、内周側にオフセットした場合と比較して、オフセット後の経路に囲まれる領域の面積が大きくなる。従って、オペレータがトラクタ1を作業領域Cの輪郭の内側で当該輪郭に沿って周回走行させた場合には、前記領域の面積が大きくなるようなオフセット方向(トラクタ周回方向に関する外周側へのオフセット方向)が、周回アンテナ経路を作業領域Cの形状に近づけるオフセット方向であるということができる。一方、オペレータがトラクタ1を作業領域Cの輪郭の外側で当該輪郭に沿って周回走行させた場合には、前記領域の面積が小さくなるようなオフセット方向(トラクタ周回方向に関する内周側へのオフセット方向)が、周回アンテナ経路を作業領域Cの形状に近づけるオフセット方向であるということができる。このことを利用して、候補選択部80は、トラクタ1を周回走行させるときに作業領域Cの輪郭の内側と外側何れを走行させるかをオペレータの操作等に基づいて予め取得した上で、2つの外周側端部経路候補で囲まれる領域の面積を比較して、領域の面積が大きい又は小さい方の外周側端部経路候補を適宜に選択し、これを外周側端部経路とする。或いは、第1及び第2外周側端部経路候補で囲まれる領域の面積を算出した後で、トラクタ1を作業領域Cの輪郭の内側及び外側の何れを走行させたかをオペレータの操作等に基づいて特定し、その特定結果に応じて領域の面積が大きい又は小さい方の外周側端部経路候補を適宜に選択し、これを外周側端部経路とすることとすればよい。
次に、作業領域Cの形状を取得するために制御装置77により行われる制御について、図15のフローチャートを参照して説明する。図15は、作業領域Cの形状を取得するときに制御装置77が行う処理を示すフローチャートである。
まず、オペレータは上記の第1実施形態と同様に、作業領域Cの形状を登録するために、図5に示すように、作業領域Cの外形に沿って(例えば、輪郭のすぐ内側に沿って)任意の方向にトラクタ1を周回走行させる。図15のステップS201において、周回アンテナ経路記憶部63は、上記の周回走行時における測位用アンテナ6の位置情報(周回アンテナ経路)を記憶する。
続いて、制御装置77の外周側端部経路候補算出部79は、ステップS201で周回アンテナ経路記憶部63が記憶した周回アンテナ経路を読み出して、トラクタ1の進行方向に対して右側へ距離Rの分だけオフセットした位置情報を、図14に示す第1外周側端部経路候補として算出する(図15のステップS202)。また、外周側端部経路候補算出部79は、上記の周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して左側へ距離Lの分だけオフセットした位置情報を、図14に示す第2外周側端部経路候補として算出する(図15のステップS203)。なお、上記の距離R,Lの値は、端部位置情報記憶部61から読み出される。
次に、候補選択部80は、ステップS202及びステップS203により得られた2つの外周側端部経路候補の内部領域の面積を計算し、大きい方又は小さい方の候補を外周側端部経路として選択する(ステップS204)。図14等に示す本実施形態の場合、トラクタ1を周回走行させたときの軌跡が作業領域Cの輪郭の内側であるので、面積が大きい方の候補が外周側端部経路となる。一方、トラクタ1を周回走行させたときの軌跡が作業領域Cの輪郭の外側である場合には、面積が小さい方の候補が外周側端部経路となる。これにより、オペレータがトラクタ1をどの向きで周回走行させても、簡素な計算で外周側端部経路を適切に求めて、実際に即した作業領域Cの形状を取得することができる。
その後の処理(ステップS205〜ステップS209)は、図10に示す第1実施形態の処理のステップS105〜ステップS109の処理と全く同様であるので、説明を省略する。
以上に説明したように、第2実施形態に係るトラクタ1が備える制御装置77は、周回アンテナ経路記憶部63と、外周側端部経路候補算出部79と、候補選択部80と、を備える。周回アンテナ経路記憶部63は、作業領域Cの外形に沿って(例えば、輪郭に沿って)トラクタ1が周回走行したときの測位用アンテナ6の位置情報に基づいて、当該周回走行に伴って測位用アンテナ6が通過した経路である周回アンテナ経路を記憶する。外周側端部経路候補算出部79は、周回アンテナ経路記憶部63から読み出された周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して右側へオフセットして得られる第1外周側端部経路候補と、前記周回アンテナ経路をトラクタ1の進行方向に対して左側へオフセットして得られる第2外周側端部経路候補とを、それぞれ算出する。候補選択部80は、第1外周側端部経路候補により囲まれる領域の面積と、第2外周側端部経路候補により囲まれる領域の面積と、を比較して、走行機体2を周回走行させた走行軌跡が作業領域Cの輪郭の内側である場合には面積が大きい側の候補を、走行機体2を周回走行させた走行軌跡が作業領域Cの輪郭の外側である場合には面積が小さい方の候補を、外周側端部経路として選択する。そして、制御装置77は、外周側端部経路に基づいて作業領域Cの形状を取得する。
これにより、トラクタ1の周回走行時に測位用アンテナ6が通った経路そのものを作業領域Cの形状として認識するのではなく、測位用アンテナ6からトラクタ1の車幅方向の端(左端又は右端)までの距離L,Rを考慮に入れて算出された外周側端部経路に基づいて作業領域Cの形状を取得することができる。従って、より実際に即した作業領域Cの形状を取得することができる。また、オペレータがトラクタ1を周回走行させる方向が右回り、左回りの何れであっても、アンテナ通過経路を進行方向右側にオフセットして得られる第1外周側端部経路候補と左側にオフセットして得られる第2外周側端部経路候補との間で面積を比較することで適切に外周側端部経路を算出することができるので、作業領域Cの形状を登録する作業の手間を軽減することができる。
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
第1実施形態及び第2実施形態において、オフセット調整部67による外周側端部経路の調整は、旋回部分修正部68による外周側端部経路の修正より後に行うこともできる。また、オフセット調整部67及び旋回部分修正部68のうち少なくとも何れかを省略することもできる。
上記の例では、トラクタ1は、後部に作業機3を装着した状態で、作業領域Cの輪郭に沿って周回走行を行っている。しかしながら、作業機3を取り外した状態で、作業領域Cの形状を登録するための周回走行を行っても良い。この場合、端部位置情報記憶部61が記憶する上記の距離Lは、トラクタ1の車幅方向において、測位用アンテナ6からトラクタ1の走行機体2の左端までの距離となる。また、上記の距離Rは、トラクタ1の車幅方向において、測位用アンテナ6からトラクタ1の走行機体2の右端までの距離となる。なお、距離Lと距離Rとは、同一であっても、異なっていても良い。
上記の実施形態では、制御装置に備えられる表示用データ作成部60により、作業領域Cの形状を遠隔操作装置46のディスプレイ上に表示するための表示用データが作成されるものとした。しかしながら、表示用データは必ずしも制御装置で作成される必要はなく、例えばこれに代えて、遠隔操作装置46に備えられる制御装置で表示用データが作成されることとしても良い。
上記の実施形態では、制御装置4,75,76,77は、走行機体2及び作業機3を構成する各部を統括的に制御するものとした。しかしながら、これに代えて、制御装置4,75,76,77が走行機体2及び作業機3を構成する各部を個別に制御する制御装置の集合体であるものとしても良い。これにより、例えば自律走行に用いない構成を主として制御する制御装置を備える既存のトラクタに対して、自律走行に用いる構成を主として制御する新たな制御装置を追加することで、既存のトラクタを自律走行用トラクタ(ロボットトラクタ)として利用できるものとすることができる。
上記の実施形態では、圃場領域の位置及び形状は画像処理等により取得され、作業領域Cの位置及び形状はトラクタ1を周回走行させることにより領域形状取得部62により取得されることとしたが、圃場領域の位置及び形状についても、トラクタ1を周回走行させて領域形状取得部62により取得されることとしてもよい。領域形状取得部62により圃場領域の位置及び形状を取得する場合の処理は、上述した作業領域Cの位置及び形状を取得する場合の処理と同様であり説明を省略する。
上記の実施形態では、本発明は、自律走行するロボットトラクタ1に適用されるものとした。しかしながら、必ずしもこれに限るものではなく、オペレータが搭乗して操向操作する一般的なトラクタに本発明を適用することもできる。
本発明は、上記の実施形態のようにトラクタに適用することに限定されず、例えば田植機に適用することもできる。その場合、植付部(植付装置)が作業機に相当することとなる。更に、本発明は、他の様々な農業用作業車両に適用することもできる。