図1は、本発明が適用される車両10の走行に関わる各部の概略構成を説明する図であると共に、その各部を制御する為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源となり得る、エンジン(ENG)12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2と、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を有する動力伝達装置14と、駆動輪16とを備えるハイブリッド車両である。
エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、所定の燃料を燃焼させて動力を出力させる公知の内燃機関である。このエンジン12は、後述する電子制御装置80によってスロットル開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることにより、エンジントルクTeが制御される。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、インバータ部や平滑コンデンサなどを有する電力制御ユニット18を介して、各々電力を授受する蓄電装置としてのバッテリユニット20に接続されており、後述する電子制御装置80によって電力制御ユニット18が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルク(力行トルク又は回生トルク)であるMG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。
動力伝達装置14は、エンジン12と駆動輪16との間の動力伝達経路に備えられている。動力伝達装置14は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース22内に、第1動力伝達部24、第2動力伝達部26、第1動力伝達部24の出力回転部材であるドライブギヤ28と噛み合うドリブンギヤ30、ドリブンギヤ30を相対回転不能に固設するドリブン軸32、ドリブン軸32に相対回転不能に固設されたファイナルギヤ34(ドリブンギヤ30よりも小径のファイナルギヤ34)、デフリングギヤ36を介してファイナルギヤ34と噛み合うディファレンシャルギヤ38等を備えている。又、動力伝達装置14は、ディファレンシャルギヤ38に連結された車軸40等を備えている。
第1動力伝達部24は、第1動力伝達部24の入力回転部材である入力軸42と同軸心に配置されており、第1差動部44と第2差動部46とクラッチCRとを備えている。第1差動部44は、第1遊星歯車機構48及び第1回転機MG1を備えている。第2差動部46は、第2遊星歯車機構50、クラッチC1、及びブレーキB1を備えている。
第1遊星歯車機構48は、第1サンギヤS1、第1ピニオンギヤP1、第1ピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を有する公知のシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、差動作用を生じる差動機構として機能する。又、第2遊星歯車機構50は、第2サンギヤS2、第2ピニオンギヤP2、第2ピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2ピニオンギヤP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を有する公知のシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、差動作用を生じる差動機構として機能する。
第1キャリヤCA1は、第2差動部46の出力回転部材(すなわち第2遊星歯車機構50の第2リングギヤR2)に連結された入力要素としての第1回転要素RE1であり、第1差動部44の入力回転部材として機能する。第1サンギヤS1は、第1回転機MG1のロータ軸52に一体的に連結されており、第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された反力要素としての第2回転要素RE2である。第1リングギヤR1は、ドライブギヤ28に一体的に連結されており、駆動輪16に連結された出力要素としての第3回転要素RE3であり、第1差動部44の出力回転部材として機能する。
第2サンギヤS2は、入力軸42に一体的に連結され、その入力軸42を介してエンジン12が動力伝達可能に連結された第4回転要素RE4であり、第2差動部46の入力回転部材として機能する。第2キャリヤCA2は、ブレーキB1を介してケース22に選択的に連結される第5回転要素RE5である。第2リングギヤR2は、第1差動部44の入力回転部材(すなわち第1遊星歯車機構48の第1キャリヤCA1)に連結された第6回転要素RE6であり、第2差動部46の出力回転部材として機能する。又、第2キャリヤCA2と第2リングギヤR2とは、クラッチC1を介して選択的に連結される。又、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とは、クラッチCRを介して選択的に連結される。よって、クラッチC1は、第5回転要素RE5と第6回転要素RE6とを選択的に連結する第1係合装置である。又、クラッチCRは、第3回転要素RE3と第5回転要素RE5とを選択的に連結する第2係合装置である。又、ブレーキB1は、第5回転要素RE5を非回転部材であるケース22に選択的に連結する第3係合装置である。
クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRは、好適には何れも湿式の摩擦係合装置であり、油圧アクチュエータによって係合制御される多板型の油圧式摩擦係合装置である。これらのクラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRは、車両10に備えられた油圧制御回路54が後述する電子制御装置80によって制御されることにより、その油圧制御回路54から各々供給される油圧(例えばC1油圧Pc1、B1油圧Pb1、CR油圧Pcr)に応じて作動状態(係合や解放などの状態)が制御される。車両10には、機械式のオイルポンプ55(OP55ともいう)が備えられており、動力伝達装置14では、OP55により、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRの各作動状態の切替えや各部の潤滑や各部の冷却に用いられる作動油(オイル)oilが供給される。OP55は、動力伝達装置14の何れかの回転部材(回転要素も同意)に連結されており、その回転部材の回転に応じて駆動される。本実施例では、OP55は、第1回転要素RE1(ここでは第6回転要素RE6も同意)に連結されている。又、OP55が連結される回転部材の回転停止時に作動油oilの供給が必要となるのであれば、例えばOP55に加えて、電動式のオイルポンプが備えられる。或いは、OP55に替えて、電動式のオイルポンプが備えられても良い。
第1遊星歯車機構48は、差動が許容される状態では、第1キャリヤCA1に入力されるエンジン12の動力を第1回転機MG1及び第1リングギヤR1へ分割(分配も同意)する動力分割機構として機能することが可能である。よって、車両10では、第1キャリヤCA1に入力されるエンジントルクTeの反力を第1回転機MG1にて取ることにより、第1リングギヤR1へ機械的に伝達される直達トルク(エンジン直達トルクともいう)と、第1回転機MG1に分割された動力による第1回転機MG1の発電電力で駆動される第2回転機MG2によるMG2トルクTmとでエンジン走行することが可能である。これにより、第1差動部44は、後述する電子制御装置80によって電力制御ユニット18が制御されて第1回転機MG1の運転状態が制御されることによりギヤ比(変速比)を制御する公知の電気式差動部(電気式無段変速機)として機能する。つまり、第1差動部44は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより第1遊星歯車機構48の差動状態が制御される電気式変速機構である。
第2差動部46は、クラッチC1及びブレーキB1の各作動状態を切り替えることにより、直結状態、エンジン12の逆回転変速状態、ニュートラル状態(中立状態)、及び内部ロック状態の4つの状態を形成することが可能である。具体的には、第2差動部46は、クラッチC1の係合状態では、第2遊星歯車機構50の各回転要素が一体回転される直結状態とされる。又、第2差動部46は、ブレーキB1の係合状態では、エンジン回転速度Neの正回転に対して第2リングギヤR2(第2差動部46の出力回転部材)が負回転となるエンジン12の逆回転変速状態とされる。又、第2差動部46は、クラッチC1の解放状態且つブレーキB1の解放状態では、第2遊星歯車機構50の差動が許容されるニュートラル状態とされる。又、第2差動部46は、クラッチC1の係合状態且つブレーキB1の係合状態では、第2遊星歯車機構50の各回転要素が回転停止となる内部ロック状態とされる。
第1動力伝達部24では、第1差動部44における動力分割比とは異なる動力分割比にて作動する電気式無段変速機を構成することが可能である。すなわち、第1動力伝達部24では、第1キャリヤCA1(第1回転要素RE1)と第2リングギヤR2(第6回転要素RE6)とが連結されていることに加え、クラッチCRを係合状態とすることによって第1リングギヤR1(第3回転要素RE3)と第2キャリヤCA2(第5回転要素RE5)とが連結されることで、第1差動部44と第2差動部46とで1つの差動機構を構成し、第1差動部44と第2差動部46との全体を、第1差動部44単独での動力分割比とは異なる動力分割比にて作動する電気式無段変速機として機能させることが可能となる。
第1動力伝達部24では、上述した4つの状態が形成される第2差動部46と第1差動部44とが連結されており、車両10は、クラッチCRの作動状態の切替えと合わせて、後述する複数の走行モードを実現することが可能となる。
このように構成された第1動力伝達部24においては、エンジン12の動力や第1回転機MG1の動力はドライブギヤ28からドリブンギヤ30へ伝達される。従って、エンジン12及び第1回転機MG1は、第1動力伝達部24を介して駆動輪16に動力伝達可能に連結される。
第2動力伝達部26は、第2回転機MG2、入力軸42とは別にその入力軸42と平行に配置された、第2回転機MG2のロータ軸56、及びドリブンギヤ30と噛み合うと共にそのロータ軸56に連結されたリダクションギヤ58(ドリブンギヤ30よりも小径のリダクションギヤ58)を備えている。これにより、第2動力伝達部26においては、第2回転機MG2の動力は第1動力伝達部24を介すことなくドリブンギヤ30へ伝達される。従って、第2回転機MG2は、第1動力伝達部24を介さずに駆動輪16に動力伝達可能に連結される。つまり、第2回転機MG2は、第1動力伝達部24を介さずに動力伝達装置14の出力回転部材である車軸40に動力伝達可能に連結された回転機である。尚、動力伝達装置14の出力回転部材としては、車軸40の他に、ファイナルギヤ34やデフリングギヤ36も同意である。
このように構成された動力伝達装置14は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両に好適に用いられる。又、動力伝達装置14では、エンジン12の動力や第1回転機MG1の動力や第2回転機MG2の動力は、ドリブンギヤ30へ伝達され、そのドリブンギヤ30から、ファイナルギヤ34、ディファレンシャルギヤ38、車軸40等を順次介して駆動輪16へ伝達される。又、車両10では、エンジン12、第1動力伝達部24、及び第1回転機MG1と、第2回転機MG2とが異なる軸心上に配置されることで、軸長が短縮化されている。又、ドリブンギヤ30とリダクションギヤ58とのギヤ対により、第2回転機MG2の減速比を大きくとることができる。
車両10は、走行に関わる各部を制御する制御装置を含む電子制御装置80を備えている。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2の各出力制御、後述する走行モードの切替制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置80には、車両10に設けられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、出力回転速度センサ62、レゾルバ等のMG1回転速度センサ64、レゾルバ等のMG2回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、シフトポジションセンサ70、バッテリセンサ72、CR油圧センサ74、油温センサ76など)による検出値に基づく各種信号(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応するドライブギヤ28の回転速度である出力回転速度No、MG1回転速度Ng、MG2回転速度Nm、アクセル開度θacc、シフトレバーの操作位置POSsh、バッテリユニット20のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、CR油圧Pcr、作動油oilの温度である作動油温THoilなど)が供給される。又、電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン12、電力制御ユニット18、油圧制御回路54など)に各種指令信号(例えばエンジン制御指令信号Se、回転機制御指令信号Sm、油圧制御指令信号Spなど)が供給される。尚、電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリユニット20の充電状態(充電容量)SOC(以下、バッテリ容量SOCという)を算出する。
電子制御装置80は、車両10における各種制御の為の制御機能を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部82、及び動力伝達切替手段すなわち動力伝達切替部84を備えている。
ハイブリッド制御部82は、電子スロットル弁を開閉制御し、燃料噴射量や噴射時期を制御し、点火時期を制御するエンジン制御指令信号Seを出力して、エンジントルクTeの目標トルクが得られるようにエンジン12の出力制御を実行する。又、ハイブリッド制御部82は、第1回転機MG1や第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御指令信号Smを電力制御ユニット18へ出力して、MG1トルクTgやMG2トルクTmの目標トルクが得られるように第1回転機MG1や第2回転機MG2の出力制御を実行する。
ハイブリッド制御部82は、アクセル開度θaccからそのときの車速Vにて要求される駆動トルク(要求駆動トルク)を算出し、充電要求値(充電要求パワー)等を考慮して低燃費で排ガス量の少ない運転となるように、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2の少なくとも1つから要求駆動トルクを発生させる。
ハイブリッド制御部82は、走行モードとして、モータ走行(EV走行)モード或いはハイブリッド走行(HV走行)モード(エンジン走行(ENG走行)モードともいう)を走行状態に応じて選択的に成立させる。EV走行モードは、エンジン12の運転を停止した状態で、第1回転機MG1及び第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を走行用の駆動力源として走行するEV走行を可能とする制御様式である。HV走行モードは、少なくともエンジン12を走行用の駆動力源として走行する(すなわちエンジン12の動力を駆動輪16へ伝達して走行する)HV走行(エンジン走行)を可能とする制御様式である。尚、エンジン12の動力を第1回転機MG1の発電によって電力に変換し、専らその電力をバッテリユニット20に充電するモードのように、車両10の走行を前提としないモードであっても、エンジン12を運転した状態とするので、HV走行モードに含まれる。
動力伝達切替部84は、ハイブリッド制御部82により成立させられた走行モードに基づいて、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRの各係合作動(作動状態)を制御する。動力伝達切替部84は、ハイブリッド制御部82により成立させられた走行モードにて走行する為の動力伝達が可能となるように、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRを各々係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号Spを油圧制御回路54へ出力する。
ここで、車両10にて実行可能な走行モードについて図2、及び図3−図10を用いて説明する。図2は、各走行モードにおけるクラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRの各作動状態を示す図表である。図2の図表中の○印は係合装置(C1,B1,CR)の係合を示し、空欄は解放を示し、△印は運転停止状態のエンジン12を連れ回し状態とするエンジンブレーキ(エンブレともいう)の併用時に何れか一方を係合、又は両方を係合することを示している。又、「G」は回転機(MG1,MG2)を主にジェネレータとして機能させることを示し、「M」は回転機(MG1,MG2)を駆動時には主にモータとして機能させ、回生時には主にジェネレータとして機能させることを示している。図2に示すように、車両10は、走行モードとして、EV走行モード及びHV走行モードを選択的に実現することができる。EV走行モードは、第2回転機MG2を単独の駆動力源とするEV走行が可能な制御様式である単独駆動EVモードと、第1回転機及び第2回転機MG2を駆動力源とするEV走行が可能な制御様式である両駆動EVモードとの2つのモードを有している。HV走行モードは、オーバードライブ(O/D)インプットスプリットモード(以下、O/DHVモードという)と、アンダードライブ(U/D)インプットスプリットモード(以下、U/DHVモードという)と、固定段モードとの3つのモードを有している。
図3−図10は、第1遊星歯車機構48及び第2遊星歯車機構50の各々における各回転要素RE1−RE6の回転速度を相対的に表すことができる共線図である。この共線図において、各回転要素の回転速度を表す縦線Y1−Y4は紙面向かって左から順に、縦線Y1が第1回転機MG1に連結された第2回転要素RE2である第1サンギヤS1の回転速度を、縦線Y2が相互に連結された、第1回転要素RE1である第1キャリヤCA1の回転速度及び第6回転要素RE6である第2リングギヤR2の回転速度を、縦線Y3がドライブギヤ28に連結された第3回転要素RE3である第1リングギヤR1の回転速度、及びブレーキB1を介してケース22に選択的に連結される第5回転要素RE5である第2キャリヤCA2の回転速度を、縦線Y4がエンジン12に連結された第4回転要素RE4である第2サンギヤS2の回転速度をそれぞれ示している。又、白四角印(□)における矢印はMG1トルクTgを、白丸印(○)における矢印はエンジントルクTeを、黒丸印(●)における矢印はMG2トルクTmをそれぞれ示している。又、第2キャリヤCA2と第2リングギヤR2を選択的に連結するクラッチC1が白抜きで表されたものはクラッチC1の解放状態を、クラッチC1がハッチング(斜線)で表されたものはクラッチC1の係合状態をそれぞれ示している。又、第2キャリヤCA2をケース22に選択的に連結するブレーキB1における白菱形印(◇)はブレーキB1の解放状態を、黒菱形印(◆)はブレーキB1の係合状態をそれぞれ示している。又、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とを選択的に連結するクラッチCRにおける白菱形印(◇)はクラッチCRの解放状態を、黒菱形印(◆)はクラッチCRの係合状態をそれぞれ示している。又、第1遊星歯車機構48に関する回転速度を相対的に表す直線は実線で示され、第2遊星歯車機構50に関する回転速度を相対的に表す直線は破線で示されている。尚、黒丸印(●)における矢印は、第1回転機MG1に分割されたエンジン12の動力による第1回転機MG1の発電電力で駆動される第2回転機MG2によるMG2トルクTmであり、エンジン直達トルク分は含まれていない。又、クラッチCRにおける黒菱形印(◆)は、黒丸印(●)と重なっている為、図中では表されていない。
図3は、単独駆動EVモード時の共線図である。単独駆動EVモードは、図2に示すように、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRを共に解放した状態で実現される。単独駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が解放されており、第2遊星歯車機構50の差動が許容され、第2差動部46はニュートラル状態とされる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12の運転を停止させると共に、第2回転機MG2から走行用のMG2トルクTmを出力させる。図3は、第2回転機MG2が正回転(すなわち車両10の前進時における第1リングギヤR1の回転方向)にて正トルクを出力している前進時の場合である。後進時は、前進時に対して第2回転機MG2を逆回転させる。車両走行中には、第2回転機MG2の回転(ここでは駆動輪16の回転も同意)に連動してドライブギヤ28に連結された第1リングギヤR1が回転させられる。単独駆動EVモードでは、更に、クラッチCRが解放されているので、エンジン12及び第1回転機MG1は各々連れ回されず、エンジン回転速度Ne及びMG1回転速度Ngをゼロとすることができる。これにより、エンジン12及び第1回転機MG1における各々の引き摺り損失を低減して電費を向上する(すなわち電力消費を抑制する)ことができる。ハイブリッド制御部82は、フィードバック制御によりMG1回転速度Ngをゼロに維持する。或いは、ハイブリッド制御部82は、第1回転機MG1の回転が固定されるように第1回転機MG1に電流を流す制御(d軸ロック制御)を実行して、MG1回転速度Ngをゼロに維持する。或いは、MG1トルクTgをゼロとしても第1回転機MG1のコギングトルクによりMG1回転速度Ngをゼロに維持できるときはMG1トルクTgを加える必要はない。尚、MG1回転速度Ngをゼロに維持する制御を行っても、第1動力伝達部24はMG1トルクTgの反力を取れない中立状態であるので、駆動トルクに影響を与えない。又、単独駆動EVモードでは、第1回転機MG1を無負荷として空転させても良い。
単独駆動EVモードでは、運転が停止されたエンジン12は連れ回されずゼロ回転で停止状態とされるので、単独駆動EVモードでの走行中に第2回転機MG2にて回生制御を行う場合、回生量を大きく取ることができる。単独駆動EVモードでの走行時に、バッテリユニット20が満充電状態となり回生エネルギーが取れない場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。エンジンブレーキを併用する場合は、図2に示すように、クラッチC1又はクラッチCRが係合される(単独駆動EVモードのエンブレ併用を参照)。クラッチC1又はクラッチCRが係合されると、エンジン12は連れ回し状態とされる。この状態で、第1回転機MG1によってエンジン回転速度Neを上昇させると、エンジンブレーキを作用させることができる。尚、エンジン12の連れ回し状態においてもエンジン回転速度Neをゼロとすることは可能であり、この場合には、エンジンブレーキを作用させずにEV走行することができる。又、ブレーキB1の係合によってもエンジンブレーキを作用させることは可能である。
図4は、両駆動EVモード時の共線図である。両駆動EVモードは、図2に示すように、クラッチC1及びブレーキB1を係合した状態、且つクラッチCRを解放した状態で実現される。両駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が係合されており、第2遊星歯車機構50の差動が規制され、第2キャリヤCA2の回転が停止させられる。その為、第2遊星歯車機構50は何れの回転要素も回転が停止させられ、第2差動部46は内部ロック状態とされる。これによって、エンジン12はゼロ回転で停止状態とされ、又、第2リングギヤR2に連結された第1キャリヤCA1もゼロ回転で固定される。第1キャリヤCA1が回転不能に固定されると、第1キャリヤCA1にてMG1トルクTgの反力トルクが取れる為、MG1トルクTgに基づくトルクを第1リングギヤR1から機械的に出力させて駆動輪16へ伝達することができる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12の運転を停止させると共に、第1回転機MG1及び第2回転機MG2から各々走行用のMG1トルクTg及びMG2トルクTmを出力させる。図4は、第2回転機MG2が正回転にて正トルクを出力し且つ第1回転機MG1が負回転にて負トルクを出力している前進時の場合である。後進時は、前進時に対して第1回転機MG1及び第2回転機MG2を逆回転させる。
図3,図4を用いた説明で示したように、単独駆動EVモードは第2回転機MG2のみにて車両10を駆動し、両駆動EVモードは第1回転機MG1及び第2回転機MG2にて車両10を駆動することが可能である。従って、EV走行する場合、低負荷時は、単独駆動EVモードが成立されて第2回転機MG2による単独走行とされ、高負荷時は、両駆動EVモードが成立されて第1回転機MG1及び第2回転機MG2による両駆動とされる。尚、HV走行を含め、車両減速中の回生は、主に第2回転機MG2にて実行される。
図5は、HV走行モードのO/DHVモード時の前進走行での共線図である。O/DHVモードの前進走行(以下、O/DHVモード(前進)という)は、図2に示すように、クラッチC1を係合した状態、且つブレーキB1及びクラッチCRを解放した状態で実現される。O/DHVモード(前進)では、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放されており、第2差動部46は直結状態とされるので、エンジン12の動力は、第2リングギヤR2に連結された第1キャリヤCA1に直接的に伝達される。加えて、O/DHVモード(前進)では、クラッチCRが解放されており、第1差動部44単独にて電気式無段変速機が構成される。これによって、第1動力伝達部24では、第1キャリヤCA1に入力されるエンジン12の動力を第1サンギヤS1と第1リングギヤR1とに分割することができる。すなわち、第1動力伝達部24では、第1キャリヤCA1に入力されるエンジントルクTeの反力を第1回転機MG1にて取ることにより、エンジン直達トルクが第1リングギヤR1へ機械的に伝達されると共に、第1回転機MG1に分割されたエンジン12の動力による第1回転機MG1の発電電力が所定の電気経路を介して第2回転機MG2に伝達される。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転(作動)させると共に、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させ、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる。図5は、第2回転機MG2が正回転にて正トルクを出力して前進走行している場合である。
図6は、HV走行モードのU/DHVモード時の共線図である。U/DHVモードは、図2に示すように、クラッチC1及びブレーキB1を解放した状態、且つクラッチCRを係合した状態で実現される。U/DHVモードでは、クラッチCRが係合されており、第1差動部44と第2差動部46とで1つの差動機構が構成される。加えて、U/DHVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が解放されており、第1差動部44と第2差動部46との全体にて、第1差動部44単独での動力分割比とは異なる動力分割比にて作動する電気式無段変速機が構成される。これによって、第1動力伝達部24では、第2サンギヤS2に入力されるエンジン12の動力を第1サンギヤS1と第1リングギヤR1とに分割することができる。すなわち、第1動力伝達部24では、第2サンギヤS2に入力されるエンジントルクTeの反力を第1回転機MG1にて取ることにより、エンジン直達トルクが第1リングギヤR1へ機械的に伝達されると共に、第1回転機MG1に分割されたエンジン12の動力による第1回転機MG1の発電電力が所定の電気経路を介して第2回転機MG2に伝達される。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転(作動)させると共に、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させ、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる。図5は、第2回転機MG2が正回転にて正トルクを出力している前進時の場合である。後進時は、前進時に対して第2回転機MG2を逆回転させる。この後進時では、電気式無段変速機としての機能を達成している構成に対して、エンジン12の回転とトルクとが正値のまま入力される、エンジン正転入力となる。
図7は、HV走行モードのO/DHVモード時の後進走行での共線図であり、電気式無段変速機としての機能を達成している構成に対して、エンジン12の回転とトルクとが負値に逆転して入力される、エンジン逆転入力の場合である。O/DHVモードのエンジン逆転入力での後進走行(以下、O/DHVモード逆転入力(後進)という)は、図2に示すように、ブレーキB1を係合した状態、且つクラッチC1及びクラッチCRを解放した状態で実現される。O/DHVモード逆転入力(後進)では、クラッチC1が解放され且つブレーキB1が係合されており、第2差動部46はエンジン12の逆回転変速状態とされるので、エンジン12の動力は、第2リングギヤR2に連結された第1キャリヤCA1に負回転及び負トルクにて伝達される。加えて、O/DHVモード逆転入力(後進)では、クラッチCRが解放されており、第1差動部44単独にて電気式無段変速機が構成される。これによって、第1動力伝達部24では、第1キャリヤCA1に逆転して入力されるエンジン12の動力を第1サンギヤS1と第1リングギヤR1とに分割することができる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転(作動)させると共に、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させ、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる。図7は、第2回転機MG2が負回転にて負トルクを出力して後進走行している場合である。
図8は、HV走行モードのO/DHVモード時の後進走行での共線図であり、エンジン正転入力の場合である。O/DHVモードのエンジン正転入力での後進走行(以下、O/DHVモード正転入力(後進)という)は、図2に示すように、クラッチC1を係合した状態、且つブレーキB1及びクラッチCRを解放した状態で実現される。O/DHVモード正転入力(後進)では、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放されており、第2差動部46は直結状態とされるので、エンジン12の動力は、第2リングギヤR2に連結された第1キャリヤCA1に直接的に伝達される。加えて、O/DHVモード正転入力(後進)では、クラッチCRが解放されており、第1差動部44単独にて電気式無段変速機が構成される。これによって、第1動力伝達部24では、第1キャリヤCA1に入力されるエンジン12の動力を第1サンギヤS1と第1リングギヤR1とに分割することができる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転(作動)させると共に、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させ、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる。図8は、第2回転機MG2が負回転にて負トルクを出力して後進走行している場合である。
図5−図8を用いた説明で示したように、O/DHVモードとU/DHVモードとでは、電気式無段変速機としての機能を達成している構成に対して、エンジン12の動力が入力される回転要素が異なっており、第1動力伝達部24を電気式無段変速機として機能させるときの動力分割比が異なる。すなわち、O/DHVモードとU/DHVモードとで、エンジン12に対する、回転機MG1,MG2の各出力トルクや各回転速度の比率が変えられる。クラッチCRは、エンジン走行中のエンジン12に対する、回転機MG1,MG2の各出力トルクや各回転速度の比率を変更する為に、作動状態が切り替えられる。
O/DHVモード(前進)でのエンジン直達トルクは、エンジントルクTeに対して減少される。一方で、U/DHVモードでのエンジン直達トルクは、エンジントルクTeに対して増大される。本実施例において、第1差動部44単独では、O/DHVモードにて電気式無段変速機が構成される(図5参照)。よって、第1差動部44は、クラッチC1の係合状態且つクラッチCRの解放状態で、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動状態が制御されるときには、エンジントルクTeよりも減少されたトルクが第1リングギヤR1に機械的に伝達される。
又、MG1回転速度Ngがゼロとされてエンジン12の動力が電気パス(第1回転機MG1や第2回転機MG2の電力授受に関わる電気経路である電気的な動力伝達経路)を介することなく全て機械的に第1リングギヤR1へ伝達される状態となる所謂メカニカルポイントの状態のときに、エンジン12の回転が増速されて第1リングギヤR1から出力されるオーバードライブ状態となる場合がO/DHVモードであり、又、エンジン12の回転が減速されて第1リングギヤR1から出力されるアンダードライブ状態となる場合がU/DHVモードである。
図9は、HV走行モードの固定段モード時の共線図であり、第1差動部44及び第2差動部46の各回転要素が一体回転される、直結の場合である。固定段モードの直結(以下、直結固定段モードという)は、図2に示すように、クラッチC1及びクラッチCRを係合した状態、且つブレーキB1を解放した状態で実現される。直結固定段モードでは、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放されており、第2差動部46は直結状態とされる。加えて、直結固定段モードでは、クラッチCRが係合されており、第1差動部44及び第2差動部46の各回転要素が一体回転させられる。これによって、第1動力伝達部24では、エンジン12の動力を直接的に第1リングギヤR1から出力することができる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12から走行用のエンジントルクTeを出力させる。この直結固定段モードでは、バッテリユニット20からの電力にて第1回転機MG1を駆動して、第1回転機MG1の動力を直接的に第1リングギヤR1から出力することもできる。又、この直結固定段モードでは、バッテリユニット20からの電力にて第2回転機MG2を駆動して、第2回転機MG2の動力を駆動輪16へ伝達することもできる。よって、ハイブリッド制御部82は、エンジントルクTeを出力させることに加えて、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の少なくとも一方の回転機から走行用のトルクを出力させても良い。つまり、直結固定段モードでは、エンジン12のみで車両10を駆動しても良いし、又、第1回転機MG1及び/又は第2回転機MG2でトルクアシストしても良い。
図10は、HV走行モードの固定段モード時の共線図であり、第1リングギヤR1が回転不能に固定される、出力軸固定の場合である。固定段モードの出力軸固定(以下、出力軸固定段モードという)は、図2に示すように、ブレーキB1及びクラッチCRを係合した状態、且つクラッチC1を解放した状態で実現される。出力軸固定段モードでは、クラッチCRが係合されており、第1差動部44と第2差動部46とで1つの差動機構が構成される。加えて、出力軸固定段モードでは、ブレーキB1が係合され且つクラッチC1が解放されており、第1リングギヤR1が回転不能に固定される。これによって、第1動力伝達部24では、第2サンギヤS2に入力されるエンジン12の動力の反力を第1回転機MG1にて取ることができる。従って、出力軸固定段モードでは、エンジン12の動力による第1回転機MG1の発電電力をバッテリユニット20に充電することができる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転(作動)させると共に、第1回転機MG1の発電によってエンジン12の動力に対する反力を取り、第1回転機MG1の発電電力を電力制御ユニット18を介してバッテリユニット20に充電する。この出力軸固定段モードは、第1リングギヤR1が回転不能に固定される為、車両10の停止時にバッテリユニット20を専ら充電するモードである。図9,図10を用いた説明で示したように、HV走行モードの直結固定段モードや出力軸固定段モードのときには、クラッチCRが係合される。
図11は、前進走行でのエンジン走行中における、エンジントルクTeに対するMG1トルクTgのトルク比率(Tg/Te)、及びエンジントルクTeに対するMG2トルクTmのトルク比率(Tm/Te)の一例を示す図である。このMG2トルクTmは、エンジン12の動力による第1回転機MG1の発電電力で駆動される第2回転機MG2によるMG2トルクTmである。図11において、第1動力伝達部24の減速比I(=Ne/No)が比較的大きな領域では、U/DHVモードの方がO/DHVモードよりもトルク比率(Tm/Te)が小さくされる。従って、減速比Iが比較的大きな領域では、U/DHVモードを成立させることで、エンジントルクTeに対する第2回転機MG2の負担を少なくすることができる。例えば、比較的大きな減速比Iを用いるエンジン12の高負荷時にU/DHVモードを成立させれば、MG2トルクTmを低く抑えられる。このことは、U/DHVモードの方がO/DHVモードよりも、MG2トルクTmの最大値にて大きな減速比Iまで対応可能ということであり、HV走行モードの領域を拡げられるということである。一方で、減速比Iが「1」よりも小さいような比較的小さな領域では、U/DHVモードの方がO/DHVモードよりもトルク比率(Tm/Te)の絶対値が大きくされる。又、トルク比率(Tm/Te)が負値となる状態は、第2回転機MG2が発電し、その発電電力が第1回転機MG1に供給される動力循環状態である。この動力循環状態となることは、できるだけ回避又は抑制されることが望ましい。その為、減速比Iが比較的小さな領域では、O/DHVモードを成立させることで、動力循環パワーを低減することができる。減速比Iに応じてU/DHVモードとO/DHVモードとを切り替えることで、より低トルクの第2回転機MG2でエンジンパワーを伝達することができる。
図12は、前進走行でのエンジン走行中における、エンジン回転速度Neに対するMG1回転速度Ngの回転速度比率(Ng/Ne)、及びエンジン回転速度Neに対するMG2回転速度Nmの回転速度比率(Nm/Ne)の一例を示す図である。図12において、第1動力伝達部24の減速比Iが「1」よりも大きいような比較的大きな領域では、U/DHVモードの方がO/DHVモードよりも回転速度比率(Ng/Ne)の絶対値が小さくされる。従って、減速比Iが比較的大きな領域では、U/DHVモードを成立させることで、MG1回転速度Ngの増大を抑制することができる。例えば、比較的大きな減速比Iを用いる発進時にU/DHVモードを成立させれば、MG1回転速度Ngを低く抑えられる。一方で、減速比Iが「1」よりも小さいような比較的小さな領域では、U/DHVモードの方がO/DHVモードよりも回転速度比率(Ng/Ne)の絶対値が大きくされる。その為、減速比Iが比較的小さな領域では、O/DHVモードを成立させることで、MG1回転速度Ngの増大を抑制することができる。減速比Iに応じてU/DHVモードとO/DHVモードとを切り替えることで、より低回転速度の第1回転機MG1でエンジンパワーを伝達することができる。
図13は、前進走行でのエンジン走行中における、エンジンパワーPeに対するMG1パワーPgの出力比率(Pg/Pe)、及びエンジンパワーPeに対するMG2パワーPmの出力比率(Pm/Pe)の一例を示す図である。図13において、第1動力伝達部24の減速比Iが比較的大きな領域では、U/DHVモードの方がO/DHVモードよりも、出力比率(Pg/Pe)及び出力比率(Pm/Pe)の各絶対値が小さくされる。従って、減速比Iが比較的大きな領域では、U/DHVモードを成立させることで、MG1パワーPgの増大及びMG2パワーPmの増大を各々抑制することができる。一方で、減速比Iが「1」よりも小さいような比較的小さな領域では、U/DHVモードの方がO/DHVモードよりも、出力比率(Pg/Pe)及び出力比率(Pm/Pe)の各絶対値が大きくされる。又、出力比率(Pm/Pe)が負値となる状態(すなわち出力比率(Pg/Pe)が正値となる状態)は、動力循環状態である。その為、減速比Iが比較的小さな領域では、O/DHVモードを成立させることで、動力循環パワーを低減することができる。減速比Iに応じてU/DHVモードとO/DHVモードとを切り替えることで、より低出力(低パワー)の回転機MG1,MG2でエンジンパワーを伝達することができる。
図11−図13を用いた説明で示したように、比較的大きな減速比Iを用いるエンジン12の高負荷時にU/DHVモードを成立させ、比較的小さな減速比Iを用いるエンジン12の低負荷時又は高車速時にO/DHVモードを成立させるように、U/DHVモードとO/DHVモードとを使い分けることで、回転機MG1,MG2の各トルクや各回転速度の増加が防止又は抑制され、高車速時には動力循環パワーが低減される。このことは、電気パスにおけるエネルギ変換損失が減り、燃費の向上につながる。又は、回転機MG1,MG2の小型化につながる。
U/DHVモードとO/DHVモードとは、どちらも第1動力伝達部24が電気式無段変速機として機能させられる。又、第1動力伝達部24の減速比Iが「1」となる状態は、クラッチC1及びクラッチCRが共に係合された直結固定段モードの状態(図9参照)と同等の状態である。従って、好適には、ハイブリッド制御部82は、クラッチC1が係合されたO/DHVモード(前進)と、クラッチCRが係合されたU/DHVモードとの切替えを、減速比Iが「1」の同期状態のときに、クラッチC1とクラッチCRとの各作動状態を切り替えることで実行する。
図14及び図15は、各々、エンジン走行とモータ走行との切替制御に用いる走行モード切替マップの一例を示す図である。これらの走行モード切替マップは、各々、車速Vと車両10の走行負荷(以下、車両負荷という)(例えば要求駆動トルク)とを変数としてエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)関係である。図14は、バッテリ容量SOCを保持した状態で走行するCS(Charge Sustain)走行での動力伝達装置14の状態遷移(つまり車両10の走行モードの切替え)を示している。この図14は、車両10が、例えばバッテリ容量SOCが元々比較的少なく設定されたハイブリッド車両等である場合に用いられる。又は、この図14は、車両10が、例えばバッテリ容量SOCが元々比較的多く設定されたプラグインハイブリッド車両、レンジエクステンデッド車両等においてバッテリ容量SOCを保持するモードが成立された場合に用いられる。一方で、図15は、バッテリ容量SOCを消費しながら走行するCD(Charge Depleting)走行での動力伝達装置14の状態遷移(つまり車両10の走行モードの切替え)を示している。この図15は、車両10が、例えばバッテリ容量SOCが元々比較的多く設定されたプラグインハイブリッド車両やレンジエクステンデッド車両等においてバッテリ容量SOCを消費するモードが成立された場合に用いられる。車両10が、例えばバッテリ容量SOCが元々比較的少なく設定されたハイブリッド車両等である場合には、この図15を用いないことが好ましい。
図14において、高負荷時にはU/DHVモードが成立され、低負荷時又は高車速時にはO/DHVモードが成立され易いように、車速V及び車両負荷等の走行状態に応じた各走行モードの領域が設定されている。又、直結固定段モードは、回転機MG1,MG2を介した動力伝達が無い為、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換に伴う熱損失が無くなる。よって、燃費向上や発熱回避に有利である。その為、トーイング等の高負荷時や高車速時は、積極的に直結固定段モードが成立されるように、直結固定段モードの領域が設定されている。又、バッテリユニット20の電力持ち出しが可能である場合(或いはエンジン12の暖機やエンジン12の運転による各装置の暖機が完了している場合)、エンジン12の運転効率が悪くなる領域では、EV走行において第2回転機MG2の力行を行う。その為、破線に示すような低車速且つ低負荷となる領域で、単独駆動EVモードの領域が設定されている。又、車両負荷が負の場合、U/DHVモード又はO/DHVモードにおいて、エンジン12の負トルクを用いたエンジンブレーキを作用させる減速走行が行われる。バッテリユニット20の電力受け入れが可能である場合、EV走行において第2回転機MG2の回生を行う。その為、一点鎖線に示すような車両負荷が負となる領域で、単独駆動EVモードの領域が設定されている。このように設定されたCS走行での走行モード切替マップでは、例えば発進時は、前後進走行共にU/DHVモードが成立される。これにより、エンジンパワーPeをより有効に使える為、発進加速性能が向上する。前進走行で車速Vの上昇と共に、第1動力伝達部24の減速比Iが「1」付近になる。この状態で、直結固定段モードに移行させる。低車速走行では、エンジン回転速度Neが極低回転となる為、U/DHVモードから直接O/DHVモードに移行させる。尚、EV走行を選択するスイッチが運転者によって操作されてEV走行が選択されているときには、破線に示すような領域で単独駆動EVモードが成立される。
図15において、車両負荷が低い領域では単独駆動EVモードが成立され、車両負荷が高い領域では両駆動EVモードが成立されるように、車速V及び車両負荷等の走行状態に応じた各走行モードの領域が設定されている。両駆動EVモードでは、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の運転効率に基づいて(例えば電費向上、回転機MG1,MG2の温度低下、電力制御ユニット18の温度低下等を目的として)、第1回転機MG1と第2回転機MG2とのパワー分担割合が決められる。又、回転機MG1,MG2の最大出力によっては、又は、EV走行時における車速Vの上昇による動力伝達装置14の何れかの回転要素の回転速度の上昇がエンジン12を運転することで緩和されるような場合には、図15に示すように、高負荷領域や高車速領域にてHV走行モードの領域が設定されて、エンジン12を走行用の駆動力源とした状態に移行させても良い。又、車両負荷が負となる領域では、EV走行において第2回転機MG2の回生が行われるように、単独駆動EVモードの領域が設定されている。又、単独駆動EVモードでは、第1回転機MG1とエンジン12とが切り離される(つまり第1回転機MG1とエンジン12との相互間の動力伝達が遮断される)為、図15に示すように、単独駆動EVモードの高車速側の領域を両駆動EVモードよりも高車速側に広げても良い。このように設定されたCD走行での走行モード切替マップでは、例えば車速Vが上昇すると、回転機MG1,MG2、遊星歯車機構48,50等の各要素の回転速度が増大する為、CS走行での走行モード切替マップで設定されたようなHV走行モードに移行させて、各要素の回転速度が制限内とされるように制御される。尚、車両負荷が負となる領域での回生は、単独駆動EVモードに替えて、両駆動EVモードとしても良い。又、駆動トルクや車速Vに上限を設けて、エンジン12が始動しないようにして、燃料消費しないようにしても良い。
ハイブリッド制御部82は、図14又は図15に示すような走行モード切替マップに車速V及び車両負荷(例えば要求駆動トルク)を適用することで、成立させる走行モードが何れの走行モードであるかを判断する。ハイブリッド制御部82は、判断した走行モードが現在の走行モードである場合には、現在の走行モードをそのまま成立させる一方で、判断した走行モードが現在の走行モードとは異なる場合には、現在の走行モードに替えてその判断した走行モードを成立させる。
ハイブリッド制御部82は、単独駆動EVモードを成立させた場合には、第2回転機MG2のみを走行用の駆動力源とするEV走行を可能とする。ハイブリッド制御部82は、両駆動EVモードを成立させた場合には、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の両方を走行用の駆動力源とするEV走行を可能とする。
ハイブリッド制御部82は、O/DHVモード又はU/DHVモードを成立させた場合には、エンジン12の動力に対する反力を第1回転機MG1の発電により受け持つことで第1リングギヤR1にエンジン直達トルクを伝達すると共に第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2を駆動することで駆動輪16にトルクを伝達して走行するエンジン走行を可能とする。ハイブリッド制御部82は、O/DHVモード又はU/DHVモードでは、公知のエンジン12の最適燃費線を考慮したエンジン動作点(すなわちエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン動作点)にてエンジン12を作動させる。尚、このO/DHVモード又はU/DHVモードでは、第1回転機MG1の発電電力にバッテリユニット20からの電力を加えて第2回転機MG2を駆動することも可能である。
ハイブリッド制御部82は、直結固定段モードを成立させた場合には、エンジン12の動力を直接的に第1リングギヤR1から出力して走行するエンジン走行を可能とする。ハイブリッド制御部82は、直結固定段モードでは、エンジン12の動力に加えて、バッテリユニット20からの電力にて第1回転機MG1を駆動して、第1回転機MG1の動力を直接的に第1リングギヤR1から出力したり、バッテリユニット20からの電力にて第2回転機MG2を駆動して、第2回転機MG2の動力を駆動輪16に伝達して走行することも可能である。
ハイブリッド制御部82は、車両停止時に、バッテリ容量SOCが充電の必要があると判断される予め定められた所定容量以下の場合には、出力軸固定段モードを成立させる。ハイブリッド制御部82は、出力軸固定段モードを成立させた場合には、エンジン12の動力に対する反力を第1回転機MG1の発電により受け持つと共に第1回転機MG1の発電電力を電力制御ユニット18を介してバッテリユニット20に充電する。
ここで、上述したように、単独駆動EVモードでは、クラッチC1又はクラッチCR又はブレーキB1を係合することで、エンジン12が連れ回し状態とされ、この状態で、第1回転機MG1によってエンジン回転速度Neを上昇させることができる。よって、電子制御装置80は、単独駆動EVモードからエンジン12を始動する場合には、クラッチC1又はクラッチCR又はブレーキB1を係合した状態とし、この状態で必要に応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを引き上げて点火する。
図16は、図3−図10の共線図と同様の共線図を用いて、単独駆動EVモードにおいてクラッチC1を係合させた状態でMG1トルクTgを発生させることで、エンジン回転速度Neを上昇させてエンジン12を始動する場合の一例を説明する図である。図16において、このようなエンジン始動では、駆動輪16に連結された第1リングギヤR1(「OUT」)には、エンジン回転速度Neを上昇させる為の反力として、運転停止中のエンジン12の回転を引き上げることに伴うエンジン12の負トルク(エンジン引き込みトルクともいう)Teに対応したトルクTedが伝達される為、駆動トルクの落ち込みが生じる。これに対して、駆動トルクの落ち込みを補償するトルク(補償トルクともいう)Tmaddを第2回転機MG2により出力して、エンジン始動時のショックを抑制する。すなわち、電子制御装置80は、このようなエンジン始動では、第2回転機MG2に反力キャンセルトルクとしての補償トルクTmaddを追加で出力させる。尚、図16に示した状態はエンジン回転速度Neが上昇中とされているエンジン始動の過渡中であり、EV走行中であれば、クラッチC1の係合によって一体回転させられる破線で示した第2遊星歯車機構50の各回転要素はゼロ回転とされる。但し、エンジンブレーキを作用させているときには、図16に示した状態のように、エンジン回転速度Neが上昇させられる。
図16において、縦線Y1−Y4において隣接する線の相互の間隔の比は、図示するように「1:λ:λ」となっている。尚、2項目及び3項目の各「λ」は、遊星歯車機構48,50の各歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に基づいて算出されており、必ずしも同じ値になる訳ではないが、本実施例では、便宜上、同じ値としている。図16に示すようなエンジン始動では、クラッチC1の係合によって破線で示した第2遊星歯車機構50の各回転要素は一体回転させられる。この状態で、第1回転機MG1から正トルクTgが出力されることで、第2遊星歯車機構50の第2サンギヤS2に連結されたエンジン12の回転が上昇させられる。このエンジン始動の際、第1リングギヤR1(「OUT」)に伝達されるトルクTedは、1/(1+λ)×Teである。その為、第1リングギヤR1(「OUT」)において、駆動トルクの落ち込みを補償する補償トルクTmaddは、−1/(1+λ)×Teである。これは、前述した、O/DHVモード(前進)でのエンジン直達トルクは、エンジントルクTeに対して減少される、ということと同じ原理である。尚、ここでの各計算では、慣性項は除いている。
ところで、補償トルクTmaddは第2回転機MG2のトルク増加分である為、第2回転機MG2が既に大きなMG2トルクTmを出力している状態でエンジン12を始動すると、第2回転機MG2が必要な補償トルクTmaddを賄うことができない可能性がある。そうすると、駆動トルクの落ち込みを第2回転機MG2が補償しきれず、エンジン始動時のショックを抑制できないおそれがある。
そこで、電子制御装置80は、単独駆動EVモードにおいてエンジン12を始動するときには、クラッチC1の係合状態でクラッチCRを解放から係合に向けて作動させると共に、第1回転機MG1に補償トルクTmaddを出力させる。クラッチC1の係合状態に加えて、クラッチCRにトルク容量(以下、CRトルクTcrという)を発生させると、クラッチC1及びクラッチCRが共に係合された直結固定段モードの状態(図9参照)に遷移していくことになるので、MG1トルクTg(正トルク)を発生させることなくエンジン回転速度Neを上昇させることができる。このようなクラッチCRにCRトルクTcrを発生させることによるエンジン始動では、MG1トルクTg(正トルク)を用いていないので、補償トルクTmaddを賄う為にMG1トルクTg(負トルク)を用いることが可能である。これによって、エンジン12を始動するときに、駆動トルクの落ち込みを補償し易くすることができる。又、第1回転機MG1が補償トルクTmaddを出力できる分、第2回転機MG2が補償トルクTmadd分をEV走行に使わずに残しておく必要がないので、第2回転機MG2によってEV走行できる領域(すなわち単独駆動EVモードの領域)が拡がる。
図17は、図16と同様の共線図を用いて、単独駆動EVモードにおいてクラッチC1の係合状態でクラッチCRを解放から係合に向けて作動させることでエンジン回転速度Neを上昇させてエンジン12を始動すると共に、第1回転機MG1に補償トルクTmaddを出力させる場合の一例を説明する図である。又、図18は、第1回転機MG1が補償トルクTmaddを出力する場合に、クラッチCRに発生させる必要があるCRトルクTcr(以下、必要CRトルクTcrn)を説明する図である。
図17において、クラッチC1の係合によって破線で示した第2遊星歯車機構50の各回転要素は一体回転させられる。この状態で、クラッチCRを解放から係合に向けて作動させてクラッチCRにCRトルクTcrを発生させることで、第2遊星歯車機構50の第2サンギヤS2に連結されたエンジン12の回転が上昇させられる。このエンジン始動の際、クラッチCRはスリップ状態であるが、CRトルクTcrが発生させられてエンジン回転速度Neを引き上げているので、第1リングギヤR1(「OUT」)に伝達されるトルクTedは、エンジン引き込みトルクTeとなる。
加えて、クラッチCRにCRトルクTcrを発生させることでエンジン始動する際、MG1トルクTg(負トルク)で補償トルクTmaddを発生させている。MG1トルクTg(負トルク)は、第1リングギヤR1(「OUT」)に対して駆動トルクの落ち込みを補償するトルクを付与する(このトルクをTgdとする)。一方で、MG1トルクTg(負トルク)は、エンジン回転速度Neを下げる方向のトルクを、クラッチC1の係合によって一体回転させられる破線で示した第2遊星歯車機構50に付与する(このトルクをTgddとする)。従って、CRトルクTcrが発生させられてエンジン回転速度Neを引き上げられるときに第1リングギヤR1(「OUT」)に掛かるトルクは、Tgd−|Te+Tgdd|となる。クラッチC1の係合状態に加えてCRトルクTcrを発生させた状態は、クラッチC1及びクラッチCRが共に係合された直結固定段モードの状態(図9参照)と同等の状態であると考えると、MG1トルクTg(負トルク)の絶対値は、Tgd−|Tgdd|となる。その為、上記第1リングギヤR1(「OUT」)に掛かるトルクは、|Tg|−|Te|となる。よって、第1回転機MG1は、MG1トルクTg(負トルク)として少なくともエンジン引き込みトルクTe分のトルクを出力すれば、駆動トルクの落ち込みを補償することができる。尚、ここでの各計算では、慣性項は除いている。
CRトルクTcrを発生させることでエンジン回転速度Neを上昇させることができる条件は、エンジン引き込みトルクTe分に加えて、MG1トルクTg(負トルク)によって第2遊星歯車機構50に付与されるトルクTgdd分のCRトルクTcrが少なくとも必要である。よって、必要CRトルクTcrnは、|Te+Tgdd|を超えるトルクとなる。トルクTgdd分は、(1+λ)/λ×Tgであるので、エンジン回転速度Neを上昇させることができる必要CRトルクTcrnは、図18の実線で示すようなトルク分(=|Te+(1+λ)/λ×Tg|)を超えるトルクである。尚、ここでの各計算では、慣性項は除いている。
図17,図18を用いた説明で示したように、第2回転機MG2が補償トルクTmaddの一部分も出力しない場合でも、第1回転機MG1がエンジン引き込みトルクTe分のMG1トルクTg(負トルク)を出力すれば、補償トルクTmaddを賄うことができる。従って、第2回転機MG2の最大トルク分に基づいて単独駆動EVモードの領域を設定することが可能となり、第2回転機MG2の最大トルクから補償トルクTmadd分を差し引いたトルク分に基づいて設定する単独駆動EVモードの領域よりもEV走行の領域を拡大することができる。
又、MG1トルクTg(負トルク)の絶対値が大きい程、必要CRトルクTcrnも大きくされる。加えて、CRトルクTcrを発生させることによるエンジン始動では、クラッチCRはスリップ状態であるので、熱的な問題が生じる可能性がある。その為、CRトルクTcrとして可能な値を考慮して、MG1トルクTg(負トルク)の絶対値の上限値を設定することが望ましい。
又、第1回転機MG1が補償トルクTmaddを賄う分を超えるMG1トルクTg(負トルク)を出力することで、駆動トルクを増加させて、エンジン始動しながら加速することが可能となる。
電子制御装置80は、上述したエンジン始動制御を実現する為に、条件成立判定手段すなわち条件成立判定部86、始動制御手段すなわち始動制御部88、及びトルク補償制御手段すなわちトルク補償制御部89を更に備えている。
条件成立判定部86は、MG1トルクTg(正トルク)を発生させることによるエンジン始動(図16参照)を実行した場合に、第2回転機MG2が必要な補償トルクTmaddを賄うことができるか否かを判定する。例えば、条件成立判定部86は、単独駆動EVモードでのEV走行中において、第2回転機MG2が現在出力可能なMG2トルクTmから、第2回転機MG2が現在出力している要求駆動トルクに対応したMG2トルクTmを差し引いたトルクでは補償トルクTmaddが不足するか否かを判定する。ここでの補償トルクTmaddは、前述したように、−1/(1+λ)×Teである。このエンジン引き込みトルクTeは、例えば排気ガスの浄化要件に基づくエンジン始動時の回転上昇加速度などに基づいて算出される。
始動制御部88は、エンジン12を始動するときに、MG1トルクTg(正トルク)を発生させることによるエンジン始動における補償トルクTmaddが不足しないと条件成立判定部86により判定された場合には、例えばクラッチC1の係合状態で第1回転機MG1からMG1トルクTg(正トルク)を出力させ、エンジン回転速度Neを引き上げて点火することで、エンジン12を始動する(図16参照)。
始動制御部88は、エンジン12を始動するときに、MG1トルクTg(正トルク)を発生させることによるエンジン始動における補償トルクTmaddが不足すると条件成立判定部86により判定された場合には、クラッチC1の係合状態でクラッチCRを解放から係合に向けて作動させ、エンジン回転速度Neを引き上げて点火することで、エンジン12を始動する(図17参照)。
クラッチCRを解放から係合に向けて作動させることによるエンジン始動では、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の何れでも補償トルクTmaddを発生させられる。つまり、トルク補償制御部89は、エンジン12を始動するときには、駆動輪トルクの落ち込みが抑制されるように、第1回転機MG1及び第2回転機MG2から各々トルクを出力することができる。第2回転機MG2による駆動トルクの落ち込みの補償では、駆動輪16に直接的に補償トルクTmaddを作用させられることから、補償トルクTmaddの大きさを制御することが比較的容易である。一方で、第1回転機MG1による駆動トルクの落ち込みの補償では、解放から係合に向けてスリップしているクラッチCRにて反力トルクを取っていることから、駆動輪16に作用させる補償トルクTmaddの大きさを制御することが比較的難しい。その為、第2回転機MG2による補償トルクTmaddが第1回転機MG1による補償トルクTmaddよりも優先的に出力されるように、トルク補償制御部89は、駆動輪トルクの落ち込みを抑制するトルクに対してMG2トルクTmでは不足するトルク分を第1回転機MG1から出力する。つまり、第1回転機MG1がMG1トルクTg(負トルク)を出力して不足する分の補償トルクTmaddを賄う。
より具体的には、トルク補償制御部89は、始動制御部88によりクラッチCRを解放から係合に向けて作動させることでエンジン12が始動されるときには、第1回転機MG1が補償トルクTmaddを発生する、MG1アシストを行う。トルク補償制御部89は、このMG1アシストでは、駆動輪トルクの落ち込みが抑制されるように、第1回転機MG1からMG1トルクTg(負トルク)を出力する。
クラッチCRを解放から係合に向けて作動させることによるエンジン始動では、前述したように、第1リングギヤR1(「OUT」)に伝達されるトルクTedはエンジン引き込みトルクTeとなる。従って、このようなエンジン始動において、MG1トルクTg(負トルク)で補償トルクTmaddを発生させない場合には、第2回転機MG2による補償トルクTmaddは−Teとなる。従って、MG1アシストにおけるMG1トルクTg(負トルク)は、補償トルクTmadd(=−Te)に対してMG2トルクTmでは不足するトルク分である。すなわち、MG1トルクTg(負トルク)は、第2回転機MG2が現在出力可能なMG2トルクTmから、第2回転機MG2が現在出力している要求駆動トルクに対応したMG2トルクTmを差し引いたトルクが、補償トルクTmadd(=−Te)に対して不足するトルク分である。尚、第2回転機MG2が補償トルクTmaddの一部分も出力できない場合には、又は、元々第2回転機MG2が補償トルクTmaddを出力しないような態様を採用する場合には、トルク補償制御部89は、第1回転機MG1のみで駆動輪トルクの落ち込みが抑制されるように、第1回転機MG1からMG1トルクTg(負トルク)を出力する。
車両負荷(例えば要求駆動トルク)が小さい程、車両駆動に用いているMG2トルクTmが小さい為、補償トルクTmaddに使えるMG2トルクTmの余剰が比較的大きくなる。前述したように、補償トルクTmaddにはMG1トルクTg(負トルク)よりもMG2トルクTmを優先して使うことが好ましい。従って、トルク補償制御部89は、車両負荷が小さい程、第1回転機MG1から出力するMG1トルクTg(負トルク)の絶対値を低くする。
第1回転機MG1にて発生させる補償トルクTmaddは、第1キャリヤCA1に連結された第2リングギヤR2(つまり、クラッチC1の係合によって一体回転させられる第2差動部46の各回転要素)の回転速度を引き下げる方向に作用する(すなわち解放から係合に向けたクラッチCRに反力トルクとして作用する)。その為、トルク補償制御部89は、第1回転機MG1から出力するMG1トルクTg(負トルク)の絶対値を所定値以下とする。この所定値は、例えば熱的負荷等に基づく発生可能なCRトルクTcrと、図18の実線で示すようなトルク分(=|Te+(1+λ)/λ×Tg|)とに基づいて設定される。
解放から係合に向けたクラッチCRの作動によるエンジン始動では、エンジン回転速度Neの変化が目標値に対してばらつき易いことから、エンジン12の燃焼安定性が損なわれる可能性がある。クラッチCRを作動させるCR油圧Pcrより時定数の小さいMG1トルクTgでエンジン回転速度Neをフィードバック制御する。すなわち、トルク補償制御部89は、エンジン12を始動するときには、エンジン回転速度Neを目標値に沿って変化させるように、フィードバック制御により第1回転機MG1からMG1トルクTgを出力する。
クラッチCRを作動させる作動油温THoilが低い場合には、作動油oilの粘度が高い為にクラッチCRの応答性(ここでは制御性も同意)が低くなる可能性がある。又は、作動油温THoilが高い場合には、クラッチCRへの油圧供給に関与するバルブ(油圧制御回路54に設けられたソレノイドバルブ、調圧バルブ等)の隙間等からの作動油oil漏れの為にクラッチCRの応答性が低くなる可能性がある。クラッチCRの応答性が低いと、エンジン始動の応答性が低下する可能性がある。このような場合、補償トルクTmaddは不足するものの、MG1トルクTg(正トルク)を発生させることによるエンジン始動を実行する方が、解放から係合に向けたクラッチCRの作動によるエンジン始動を実行するよりも好ましい。つまり、駆動トルクの落ち込みが抑制できなくても、エンジン始動の応答性が確保できることを優先する。
より具体的には、条件成立判定部86は、エンジン12を始動するときに、MG1トルクTg(正トルク)を発生させることによるエンジン始動における補償トルクTmaddが不足すると判定した場合には、クラッチCRを作動させる作動油oilの作動油温THoilに基づいて、クラッチCRを作動させるときの応答性(制御性)が高いか低いかを判定する。条件成立判定部86は、作動油温THoilが所定油温よりも高いか否かに基づいてクラッチCRを作動させるときの応答性が高いか否かを判定する。この所定油温は、例えばクラッチCRの応答性が確保される程度に作動油oilの粘度が低くなっていることを判断する為の予め定められた閾値である。又は、条件成立判定部86は、作動油温THoilが第2所定油温よりも低いか否かに基づいてクラッチCRを作動させるときの応答性が高いか否かを判定する。この第2所定油温は、例えば前記所定油温よりも高い値であって、クラッチCRの応答性が確保される程度にバルブからの作動油oil漏れが抑えられていることを判断する為の予め定められた閾値である。
始動制御部88は、条件成立判定部86によりクラッチCRを作動させるときの応答性が高いと判定された場合には、クラッチC1の係合状態でクラッチCRを解放から係合に向けて作動させる、エンジン始動制御(CRクラッチ係合エンジン始動ともいう)を実行する。一方で、始動制御部88は、条件成立判定部86によりクラッチCRを作動させるときの応答性が低いと判定された場合には、クラッチC1の係合状態且つクラッチCRの解放状態で第1回転機MG1によってエンジン回転速度Neを引き上げる、エンジン始動制御(通常エンジン始動ともいう)を実行する。
図19は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちエンジン12を始動するときに駆動トルクの落ち込みを補償し易くする為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えばEV走行中にエンジン始動が判断された場合に実行される。図20は、図19のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図19において、先ず、条件成立判定部86の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、通常エンジン始動を実行した場合に第2回転機MG2による補償トルクTmaddが不足するか否かを判定する。このS10の判断が肯定される場合は条件成立判定部86の機能に対応するS20において、作動油温THoilが所定油温よりも高いか否かに基づいてクラッチCRを作動させるときの応答性が高いか否かが判定される。ここでは、例えば作動油温THoilが第2所定油温(>所定油温)よりも低いか否かに基づいてクラッチCRを作動させるときの応答性が高いか否かが判定されても良い。このS20の判断が肯定される場合は始動制御部88及びトルク補償制御部89の機能に対応するS30において、CRクラッチ係合エンジン始動が選択されると共に、MG1アシストを実行すること(すなわちMG1アシスト有り)が選択される。そして、このS30に次いで、クラッチC1の係合状態でクラッチCRが解放から係合に向けて作動させられ、エンジン回転速度Neが引き上げられて点火されることで、エンジン12が始動される。このエンジン始動では、第1回転機MG1及び第2回転機MG2にて補償トルクTmaddが出力される。必要な補償トルクTmaddに対してMG2トルクTmでは不足するトルク分として、MG1アシストによってMG1トルクTg(負トルク)が出力される(図17参照)。一方で、上記S10の判断が否定される場合は、又は、上記S20の判断が否定される場合は、始動制御部88の機能に対応するS40において、通常エンジン始動が選択される。そして、このS40に次いで、クラッチC1の係合状態で第1回転機MG1からMG1トルクTg(正トルク)が出力され、エンジン回転速度Neが引き上げられて点火されることで、エンジン12が始動される(図16参照)。
図20は、アクセル一定でEV走行している状態からCRクラッチ係合エンジン始動を実行する場合を示している。図20において、クラッチC1が係合された単独駆動EVモード(図2のエンブレ併用を参照)或いはO/DHVモード(前進)が成立した状態でエンジン12が運転停止されたEV走行中に、アクセル開度θaccが上昇し始める(t1時点参照)。これに伴って、要求駆動トルクが増加するので、MG2トルクTmも増加し、バッテリユニット20の電力(バッテリ電力ともいう)の正側電力(すなわちバッテリ放電電力)も比例して増加する(t1時点−t4時点参照)。その後、アクセル開度θaccが増加したことで、エンジン始動の開始判断が為される(t3時点参照)。これによって、クラッチCRにCRトルクTcrが発生させられる。エンジン始動の開始判断時点からCR油圧Pcrを供給する油圧指示値を出力しても良いが、クラッチCRの係合応答性を向上する為に、図20の実施例に示すように、エンジン始動の予測判断を行い、予測判断時点からCRトルクTcrを発生させる準備を開始しても良い。例えば、エンジン始動の開始判断が為される閾値よりも低いアクセル開度θaccにてエンジン始動の予測判断が為される閾値が設定される。t2時点は、アクセル開度θaccがエンジン始動の予測判断が為される閾値に到達したことで、CRトルクTcrを発生させる準備が開始されたことを示している。このCRトルクTcrを発生させる準備では、CR油圧Pcrの油圧指示値として、先ず、CR油圧Pcrを供給する調圧バルブを動かす為の一時的な高油圧が出力され、その後、クラッチCRのピストンを動かす為の定圧待機圧が出力される(t2時点−t3時点参照)。尚、この定圧待機圧は、クラッチCRの摩擦材のクリアランスを詰める所謂パック詰めを完了するまでピストンを移動させるものではない。図20の実施例では、エンジン始動の予測判断後、そのままアクセル開度θaccが増加した為、エンジン始動の開始判断が為され、CRトルクTcrを発生させる為のCR油圧Pcrの油圧指示値の出力が開始される(t3時点参照)。この油圧指示値の出力では、先ず、クラッチCRのパック詰めを行う為の一時的な高油圧が出力され、その後、定圧待機圧が出力される(t3時点−t6時点参照)。CRトルクTcrを発生させる為のCR油圧Pcrの油圧指示値の出力によって、実際にCRトルクTcrが発生し始めると、エンジン回転速度Neが上昇し始める(t5時点参照)。エンジン回転速度Neの上昇が検知されると、補償トルクTmaddを出力する為に、MG2トルクTmが増加され、MG1トルクTg(負トルク)が出力される(t5時点−t6時点参照)。回転機MG1,MG2には各々レゾルバが備えられているので、MG1回転速度Ng及びMG2回転速度Nmに基づいてエンジン回転速度Neの上昇し始めが正確に検知され得る。このようなエンジン回転速度Neの上昇し始めを検知することを利用して、CRトルクTcrを発生させる為のCR油圧Pcrの油圧指示値と、CRトルクTcrとの関係を学習し、次回のエンジン始動時に用いるCR油圧Pcrの油圧指示値を補正しても良い。又は、CR油圧センサ74によるCR油圧Pcrの検出値、又は、クラッチCRにおけるピストンストロークセンサの検出値を用いてCR油圧Pcrの油圧指示値を補正しても良い。エンジン回転速度Neが上昇し始めると、第1回転機MG1で所望のエンジン回転速度Neの上昇軌跡になるように、フィードバック制御される。CR油圧Pcrよりも第1回転機MG1の方が応答が速いので、目標への追従性が良くなる。このフィードバック制御におけるMG1トルクTg(負トルク)の変動で駆動トルクが変動するので、MG2トルクTmでその変動分が相殺される(t5時点−t6時点参照)。エンジン回転速度Neが所定回転速度に到達すると、エンジン12が点火される(t6時点参照)。点火後のエンジントルクTeの上昇に伴って、CR油圧Pcrを低下させる油圧指示値が出力されて、その後のエンジン走行に備える(t6時点−t8時点参照)。点火後、エンジン12の完爆判定が為され(t7時点参照)、燃焼が安定するとエンジントルクTeが上昇される(t8時点以降参照)。エンジンパワーPeを主動力源とした走行に切り替えられるので、バッテリ電力の持ち出しによる駆動が減らされる(t8時点−t9時点参照)。
上述のように、本実施例によれば、エンジン12を始動するときには、クラッチC1の係合状態且つクラッチCRの解放状態でエンジン12の始動に用いるMG1トルクTg(正トルク)を発生させるのではなく、クラッチC1の係合状態でクラッチCRを解放から係合に向けて作動させると共に、駆動トルクの落ち込みが抑制されるように、MG1トルクTg(負トルク)が出力されるので、第1回転機MG1にて補償トルクTmaddを発生させることができる。よって、エンジン12を始動するときに、駆動トルクの落ち込みを補償し易くすることができる。これにより、例えば第2回転機MG2にて補償トルクTmaddを全て賄う場合にその補償トルクTmadd分を確保しておくように予め定められた第2回転機MG2によるモータ走行領域を、拡大することができる。
また、本実施例によれば、エンジン12を始動するときには、駆動トルクの落ち込みが抑制されるように、第1回転機MG1及び第2回転機MG2から各々トルクが出力されるので、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の両方で補償トルクTmaddを発生させることができる。これにより、エンジン始動時のショックを抑制し易くなる。
また、本実施例によれば、MG1トルクTg(負トルク)の絶対値が所定値以下とされるので、クラッチCRによるエンジン回転速度Neの引き上げと、第1回転機MG1による駆動トルクの落ち込みの補償とを両立することができる。
また、本実施例によれば、MG2トルクTmの余剰が比較的大きくなる、車両負荷が小さい程、MG1トルクTg(負トルク)の絶対値が低くされるので、第2回転機MG2による補償トルクTmaddが大きくされて、駆動トルクの落ち込みの補償を安定して行うことができる。これにより、エンジン始動時のショックを抑制し易くなる。
また、本実施例によれば、駆動トルクの落ち込みを抑制するトルクに対してMG2トルクTmでは不足するトルク分が第1回転機MG1から出力されるので、第2回転機MG2による補償トルクTmaddが第1回転機MG1による補償トルクTmaddよりも優先的に出力されて、駆動トルクの落ち込みの補償を安定して行うことができる。これにより、エンジン始動時のショックを抑制し易くなる。
また、本実施例によれば、エンジン12を始動するときには、エンジン回転速度Neを目標値に沿って変化させるように、フィードバック制御によりMG1トルクTgが出力されるので、クラッチCRの作動よりも応答性の高い第1回転機MG1を用いることによりエンジン回転速度Neの変化のばらつきを小さくすることができる。これにより、エンジン12の燃焼安定性が確保され易くなる。
また、本実施例によれば、クラッチCRを作動させるときの応答性が低い場合には、クラッチC1の係合状態且つクラッチCRの解放状態で第1回転機MG1によってエンジン回転速度Neを引き上げるエンジン始動制御が実行されるので、エンジン12の始動の応答性を確保することができる。
また、本実施例によれば、クラッチCRを作動させる作動油oilの作動油温THoilに基づいてクラッチCRを作動させるときの応答性が高いか低いかが判定され、クラッチCRの応答性が低いときには、滑らかなエンジン12の始動を確保する為に、第1回転機MG1によるエンジン始動制御が実行されてエンジン12の始動の応答性を確保することができる。
また、本実施例によれば、第1差動部44は、第1サンギヤS1が第2回転要素RE2であり、第1リングギヤR1が第3回転要素RE3であり、第1キャリヤCA1が第1回転要素RE1であるシングルピニオン型の遊星歯車機構を備えているので、第1差動部44は、クラッチC1の係合状態且つクラッチCRの解放状態で差動状態が制御されるときには、エンジントルクTeよりも減少されたトルクが第1リングギヤR1に機械的に伝達される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図22は、本発明が適用される車両100の走行に関わる各部の概略構成を説明する図である。図22において、車両100は、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2と、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を有する動力伝達装置102と、駆動輪16とを備えるハイブリッド車両である。
動力伝達装置102は、エンジン12と駆動輪16との間の動力伝達経路に備えられている。動力伝達装置102は、ケース22内に、第1動力伝達部104、第2動力伝達部26、第1動力伝達部104の出力回転部材であるドライブギヤ28と噛み合うドリブンギヤ30、ドリブンギヤ30を相対回転不能に固設するドリブン軸32、ドリブン軸32に相対回転不能に固設されたファイナルギヤ34(ドリブンギヤ30よりも小径のファイナルギヤ34)、デフリングギヤ36を介してファイナルギヤ34と噛み合うディファレンシャルギヤ38等を備えている。又、動力伝達装置102は、ディファレンシャルギヤ38に連結された車軸40等を備えている。
第1動力伝達部104は、第1動力伝達部104の入力回転部材である入力軸42と同軸心に配置されており、第1差動部106と第2差動部108とクラッチCRとを備えている。第1差動部106は、第1遊星歯車機構48及び第1回転機MG1を備えている。第2差動部108は、第2遊星歯車機構50、クラッチC1、及びブレーキB1を備えている。
第1差動部106において、第1キャリヤCA1は、第2差動部108の出力回転部材(すなわち第2遊星歯車機構50の第2キャリヤCA2)に連結された入力要素としての第1回転要素RE1であり、第1差動部106の入力回転部材として機能する。第1サンギヤS1は、第1回転機MG1のロータ軸52に一体的に連結されており、第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された反力要素としての第2回転要素RE2である。第1リングギヤR1は、ドライブギヤ28に一体的に連結されており、駆動輪16に連結された出力要素としての第3回転要素RE3であり、第1差動部106の出力回転部材として機能する。
第2差動部108において、第2サンギヤS2は、入力軸42に一体的に連結され、その入力軸42を介してエンジン12が動力伝達可能に連結された第4回転要素RE4であり、第2差動部108の入力回転部材として機能する。第2リングギヤR2は、ブレーキB1を介してケース22に選択的に連結される第5回転要素RE5である。第2キャリヤCA2は、第1差動部106の入力回転部材(すなわち第1遊星歯車機構48の第1キャリヤCA1)に連結された第6回転要素RE6であり、第2差動部108の出力回転部材として機能する。又、第2サンギヤS2と第2キャリヤCA2とは、クラッチC1を介して選択的に連結される。又、第1サンギヤS1と第2リングギヤR2とは、クラッチCRを介して選択的に連結される。よって、クラッチC1は、第4回転要素RE4と第6回転要素RE6とを選択的に連結する第1係合装置である。又、クラッチCRは、第2回転要素RE2と第5回転要素RE5とを選択的に連結する第2係合装置である。又、ブレーキB1は、第5回転要素RE5を非回転部材であるケース22に選択的に連結する第3係合装置である。
第1遊星歯車機構48は、差動が許容される状態では、第1キャリヤCA1に入力されるエンジン12の動力を第1回転機MG1及び第1リングギヤR1へ分割する動力分割機構として機能することが可能である。これにより、第1差動部106は、公知の電気式差動部(電気式無段変速機)として機能する。つまり、第1差動部106は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより第1遊星歯車機構48の差動状態が制御される電気式変速機構である。
第2差動部108は、クラッチC1及びブレーキB1の各作動状態を切り替えることにより、直結状態、アンダードライブ状態、ニュートラル状態(中立状態)、及び内部ロック状態の4つの状態を形成することが可能である。具体的には、第2差動部108は、クラッチC1の係合状態では、第2遊星歯車機構50の各回転要素が一体回転される直結状態とされる。又、第2差動部108は、ブレーキB1の係合状態では、第2キャリヤCA2の回転速度がエンジン回転速度Neよりも減速されるアンダードライブ状態とされる。又、第2差動部108は、クラッチC1の解放状態且つブレーキB1の解放状態では、第2遊星歯車機構50の差動が許容されるニュートラル状態とされる。又、第2差動部108は、クラッチC1の係合状態且つブレーキB1の係合状態では、第2遊星歯車機構50の各回転要素が回転停止となる内部ロック状態とされる。
第1動力伝達部104では、第1差動部106における動力分割比とは異なる動力分割比にて作動する電気式無段変速機を構成することが可能である。すなわち、第1動力伝達部104では、第1キャリヤCA1(第1回転要素RE1)と第2キャリヤCA2(第6回転要素RE6)とが連結されていることに加え、クラッチCRを係合状態とすることによって第1サンギヤS1(第2回転要素RE2)と第2リングギヤR2(第5回転要素RE5)とが連結されることで、第1差動部106と第2差動部108とで1つの差動機構を構成し、第1差動部106と第2差動部108との全体を、第1差動部106単独での動力分割比とは異なる動力分割比にて作動する電気式無段変速機として機能させることが可能となる。
第1動力伝達部104では、上述した4つの状態が形成される第2差動部108と第1差動部106とが連結されており、車両100は、クラッチCRの作動状態の切替えと合わせて、後述する複数の走行モードを実現することが可能となる。
このように構成された第1動力伝達部104においては、エンジン12の動力や第1回転機MG1の動力はドライブギヤ28からドリブンギヤ30へ伝達される。従って、エンジン12及び第1回転機MG1は、第1動力伝達部104を介して駆動輪16に動力伝達可能に連結される。
第2動力伝達部26においては、第2回転機MG2の動力は第1動力伝達部104を介すことなくドリブンギヤ30へ伝達される。従って、第2回転機MG2は、第1動力伝達部104を介さずに駆動輪16に動力伝達可能に連結される。つまり、第2回転機MG2は、第1動力伝達部104を介さずに動力伝達装置102の出力回転部材である車軸40に動力伝達可能に連結された回転機である。
このように構成された動力伝達装置102は、FF方式の車両に好適に用いられる。又、動力伝達装置102では、エンジン12の動力や第1回転機MG1の動力や第2回転機MG2の動力は、ドリブンギヤ30へ伝達され、そのドリブンギヤ30から、ファイナルギヤ34、ディファレンシャルギヤ38、車軸40等を順次介して駆動輪16へ伝達される。又、車両100では、エンジン12、第1動力伝達部104、及び第1回転機MG1と、第2回転機MG2とが異なる軸心上に配置されることで、軸長が短縮化されている。
車両100は、走行に関わる各部を制御する制御装置を含む電子制御装置80を備えている。又、車両100は、電力制御ユニット18、バッテリユニット20、油圧制御回路54、機械式のオイルポンプ(不図示)などを備えている。
ここで、車両100にて実行可能な走行モードについて図23、及び図24−図31を用いて説明する。図23は、各走行モードにおけるクラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRの各作動状態を示す図表である。図23の図表中の○印、空欄、△印、「G」、「M」は、前述の実施例1の図2と同じであるので、説明を省略する。図23に示すように、車両100は、走行モードとして、EV走行モード及びHV走行モードを選択的に実現することができる。
図24−図31は、第1遊星歯車機構48及び第2遊星歯車機構50の各々における各回転要素RE1−RE6の回転速度を相対的に表すことができる共線図である。この共線図において、各回転要素の回転速度を表す縦線Y1−Y4は紙面向かって左から順に、縦線Y1が第1回転機MG1に連結された第2回転要素RE2である第1サンギヤS1の回転速度、及びブレーキB1を介してケース22に選択的に連結される第5回転要素RE5である第2リングギヤR2の回転速度を、縦線Y2が相互に連結された、第1回転要素RE1である第1キャリヤCA1の回転速度及び第6回転要素RE6である第2キャリヤCA2の回転速度を、縦線Y3がドライブギヤ28に連結された第3回転要素RE3である第1リングギヤR1の回転速度を、縦線Y4がエンジン12に連結された第4回転要素RE4である第2サンギヤS2の回転速度をそれぞれ示している。又、各種の印(□)、印(○)、印(◇)、印(●)、印(◆)、矢印、クラッチC1、実線、破線は、前述の実施例1の図3−図10と同じであるので、説明を省略する。
図24は、単独駆動EVモード時の共線図である。単独駆動EVモードは、図23に示すように、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRを共に解放した状態で実現される。ハイブリッド制御部82は、エンジン12の運転を停止させると共に、第2回転機MG2から走行用のMG2トルクTmを出力させる。図24は、第2回転機MG2が正回転(すなわち車両100の前進時における第1リングギヤR1の回転方向)にて正トルクを出力している前進時の場合である。後進時は、前進時に対して第2回転機MG2を逆回転させる。エンジンブレーキを併用する場合は、図23に示すように、クラッチC1又はクラッチCRが係合される(単独駆動EVモードのエンブレ併用を参照)。又、ブレーキB1の係合によってもエンジンブレーキを作用させることは可能である。
図25は、両駆動EVモード時の共線図である。両駆動EVモードは、図23に示すように、クラッチC1及びブレーキB1を係合した状態、且つクラッチCRを解放した状態で実現される。ハイブリッド制御部82は、エンジン12の運転を停止させると共に、第1回転機MG1及び第2回転機MG2から各々走行用のMG1トルクTg及びMG2トルクTmを出力させる。図25は、第2回転機MG2が正回転にて正トルクを出力し且つ第1回転機MG1が負回転にて負トルクを出力している前進時の場合である。後進時は、前進時に対して第1回転機MG1及び第2回転機MG2を逆回転させる。
図26は、HV走行モードのO/DHVモード時の前進走行での共線図であり、電気式無段変速機の機能を達成させる構成に対してエンジン回転速度Neが減速されて入力される、ロー入力の場合である。図27は、HV走行モードのO/DHVモード時の前進走行での共線図であり、電気式無段変速機の機能を達成させる構成に対してエンジン回転速度Neが等速で入力される、ハイ入力の場合である。図28は、HV走行モードのO/DHVモード時の後進走行での共線図であり、電気式無段変速機の機能を達成させる構成に対してエンジン回転速度Neが等速で入力される、ハイ入力の場合である。O/DHVモードのロー入力(以下、O/DHVモードLoという)は、図23に示すように、ブレーキB1を係合した状態、且つクラッチC1及びクラッチCRを解放した状態で実現される。O/DHVモードのハイ入力(以下、O/DHVモードHiという)は、図23に示すように、クラッチC1を係合した状態、且つブレーキB1及びクラッチCRを解放した状態で実現される。O/DHVモードLoでは、クラッチC1が解放され且つブレーキB1が係合されており、第2差動部108はアンダードライブ状態とされるので、エンジン12の動力は、エンジン回転速度Neが減速された状態で、第2キャリヤCA2に連結された第1キャリヤCA1に伝達される。一方で、O/DHVモードHiでは、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放されており、第2差動部108は直結状態とされるので、エンジン12の動力は、エンジン回転速度Neがそのままの状態で、第2キャリヤCA2に連結された第1キャリヤCA1に伝達される。加えて、O/DHVモードでは、クラッチCRが解放されており、第1差動部106単独にて電気式無段変速機が構成される。これによって、第1動力伝達部104では、第1キャリヤCA1に入力されるエンジン12の動力を第1サンギヤS1と第1リングギヤR1とに分割することができる。すなわち、第1動力伝達部104では、第1キャリヤCA1に入力されるエンジントルクTeの反力を第1回転機MG1にて取ることにより、エンジン直達トルクが第1リングギヤR1へ機械的に伝達されると共に、第1回転機MG1に分割されたエンジン12の動力による第1回転機MG1の発電電力が所定の電気経路を介して第2回転機MG2に伝達される。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転(作動)させると共に、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させ、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる。図26は、第2回転機MG2が正回転にて正トルクを出力している前進時の場合であり、後進時は、前進時に対して第2回転機MG2を逆回転させる。図27は、第2回転機MG2が正回転にて正トルクを出力して前進走行している場合である。図28は、第2回転機MG2が負回転にて負トルクを出力して後進走行している場合である。
図29は、HV走行モードのU/DHVモード時の共線図である。U/DHVモードは、図23に示すように、クラッチC1及びブレーキB1を解放した状態、且つクラッチCRを係合した状態で実現される。U/DHVモードでは、第1差動部106と第2差動部108との全体にて、第1差動部106単独での動力分割比とは異なる動力分割比にて作動する電気式無段変速機が構成される。これによって、第1動力伝達部104では、第2サンギヤS2に入力されるエンジン12の動力を第1サンギヤS1と第1リングギヤR1とに分割することができる。すなわち、第1動力伝達部104では、第2サンギヤS2に入力されるエンジントルクTeの反力を第1回転機MG1にて取ることにより、エンジン直達トルクが第1リングギヤR1へ機械的に伝達されると共に、第1回転機MG1に分割されたエンジン12の動力による第1回転機MG1の発電電力が所定の電気経路を介して第2回転機MG2に伝達される。ハイブリッド制御部82は、エンジン12を運転(作動)させると共に、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させ、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる。図29は、第2回転機MG2が正回転にて正トルクを出力している前進時の場合である。後進時は、前進時に対して第2回転機MG2を逆回転させる。
図26−図29を用いた説明で示したように、O/DHVモードとU/DHVモードとでは、電気式無段変速機としての機能を達成している構成に対して、エンジン12の動力が入力される回転要素が異なっており、第1動力伝達部104を電気式無段変速機として機能させるときの動力分割比が異なる。O/DHVモードHiでのエンジン直達トルクは、エンジントルクTeに対して減少される。一方で、U/DHVモードでのエンジン直達トルクは、エンジントルクTeに対して増大される。本実施例において、第1差動部106単独では、O/DHVモードにて電気式無段変速機が構成される(図26−図28参照)。よって、第1差動部106は、クラッチC1の係合状態且つクラッチCRの解放状態で、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動状態が制御されるときには、エンジントルクTeよりも減少されたトルクが第1リングギヤR1に機械的に伝達される。
図30は、HV走行モードの固定段モード時の共線図であり、第1差動部106及び第2差動部108の各回転要素が一体回転される、直結の場合である。直結固定段モードは、図23に示すように、クラッチC1及びクラッチCRを係合した状態、且つブレーキB1を解放した状態で実現される。これによって、第1動力伝達部104では、エンジン12の動力を直接的に第1リングギヤR1から出力することができる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12から走行用のエンジントルクTeを出力させる。又、ハイブリッド制御部82は、エンジントルクTeを出力させることに加えて、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の少なくとも一方の回転機から走行用のトルクを出力させても良い。
図31は、HV走行モードの固定段モード時の共線図であり、エンジン12の回転が減速されて第1リングギヤR1から出力される、アンダードライブ(U/D)の場合である。固定段モードのU/D(以下、U/D固定段モードという)は、図23に示すように、ブレーキB1及びクラッチCRを係合した状態、且つクラッチC1を解放した状態で実現される。U/D固定段モードでは、クラッチCRが係合されており、第1差動部106と第2差動部108とで1つの差動機構が構成される。加えて、U/D固定段モードでは、ブレーキB1が係合され且つクラッチC1が解放されており、第2差動部108はアンダードライブ状態とされる。これによって、第1動力伝達部104では、第2サンギヤS2に入力されるエンジン12の回転が減速されて第1リングギヤR1から出力される。ハイブリッド制御部82は、エンジン12から走行用のエンジントルクTeを出力させる。又、ハイブリッド制御部82は、エンジントルクTeを出力させることに加えて、第2回転機MG2から走行用のトルクを出力させても良い。このU/D固定段モードは、例えば登坂時やトーイング時などに有利である。
ハイブリッド制御部82は、前述の実施例1の図14又は図15に示すような走行モード切替マップに車速V及び車両負荷(例えば要求駆動トルク)を適用することで、成立させる走行モードが何れの走行モードであるかを判断する。ハイブリッド制御部82は、判断した走行モードが現在の走行モードである場合には、現在の走行モードをそのまま成立させる一方で、判断した走行モードが現在の走行モードとは異なる場合には、現在の走行モードに替えてその判断した走行モードを成立させる。尚、本実施例では、図14,図15の各直結固定段モードの領域において、低車速側の領域をU/D固定段モードの領域としても良い。
動力伝達切替部84は、ハイブリッド制御部82により成立させられた走行モードに基づいて、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRの各係合作動(作動状態)を制御する。動力伝達切替部84は、ハイブリッド制御部82により成立させられた走行モードにて走行する為の動力伝達が可能となるように、クラッチC1、ブレーキB1、及びクラッチCRを各々係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号Spを油圧制御回路54へ出力する。
電子制御装置80は、単独駆動EVモードからエンジン12を始動する場合には、クラッチC1又はクラッチCR又はブレーキB1を係合した状態とし、この状態で必要に応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを引き上げて点火する。電子制御装置80は、このようなエンジン始動では、第2回転機MG2に反力キャンセルトルクとしての補償トルクTmaddを追加で出力させる。
本実施例の車両100では、前述の実施例1,2の車両10と同様に、駆動トルクの落ち込みを第2回転機MG2が補償しきれず、エンジン始動時のショックを抑制できないおそれがある。これに対して、本実施例の車両100では、前述の実施例1,2の車両10と同様に、CRクラッチ係合エンジン始動を実行すると共にMG1アシストによってMG1トルクTg(負トルク)を出力して補償トルクTmaddを賄う。つまり、本実施例の車両100においては、前述の実施例1,2にて示した電子制御装置80の制御作動を適用することができる。よって、本実施例によれば、前述の実施例1,2と同様の効果を得ることができる。