以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〈エンジンの構成〉
図1は、実施形態による制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
図1に示すように、エンジン100(例えばガソリンエンジン)は、主に、外部から導入された吸気(空気)が通過する吸気通路10と、吸気通路10から供給された吸気と後述の燃料噴射弁23から供給された燃料との混合気を燃焼させてエンジン100を駆動するエンジン本体20と、このエンジン本体20内の燃焼により発生した排気が排出される排気通路(排気系)30と、エンジン100全体を制御するPCM(Powertrain Control Module)50とを有する。
吸気通路10には、上流側から順に、外部から導入された吸気を浄化するエアクリーナ2と、通過する吸気を昇圧させる、ターボ過給機4のコンプレッサ4aと、通過する吸気を冷却するインタークーラ9と、通過する吸気の流量を調整するスロットルバルブ11と、エンジン本体20に供給する吸気を一次的に蓄えるサージタンク13aを有する吸気マニホールド13とが設けられている。吸気マニホールド13は、エンジン本体20の吸気ポート14に接続されている。
また、吸気通路10には、コンプレッサ4aによって過給された吸気の一部を、コンプレッサ4aの上流側に還流するためのエアバイパス通路6が設けられている。エアバイパス通路6は、一端がコンプレッサ4aの下流側で且つスロットルバルブ11の上流側の吸気通路10に接続され、他端がコンプレッサ4aの上流側の吸気通路10に接続されている。また、このエアバイパス通路6には、エアバイパス通路6を流れる吸気の流量を制御するエアバイパスバルブ7が設けられている。
本明細書では、エアクリーナ2の上流端部から吸気ポート14の下流端部までの部分を吸気通路10と称する。また、吸気通路10のうちスロットルバルブ11よりも下流側の少なくとも一部を下流側通路10aと称する。この実施形態では、下流側通路10aは、吸気マニホールド13のサージタンク13aから吸気ポート14の下流端部まで続く通路である(図1の破線で囲む部分)。
エンジン本体20は、主に、吸気ポート14を開閉する吸気バルブ22と、気筒21内に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁23と、気筒21内に供給された吸気と燃料との混合気に点火する点火プラグ24と、気筒21内での混合気の燃焼により往復運動するピストン27と、ピストン27の往復運動により回転されるクランクシャフト28と、排気ポート31を開閉する排気バルブ29とを有する。
クランクシャフト28には、不図示の吸気カムシャフトと排気カムシャフトとが駆動連結されている。吸気カムシャフトは、クランクシャフト28に連動して回転することにより、吸気バルブ22を駆動する。この駆動によって、吸気バルブ22は、吸気ポート14を所定のタイミングで開閉するように往復運動する。同様に、排気カムシャフトは、クランクシャフト28に連動して回転することにより、排気バルブ29を駆動する。この駆動によって、排気バルブ29は、排気ポート31を所定のタイミングで開閉するように往復運動する。
エンジン本体20は、吸気カムシャフトの位相を進角又は遅角させるバルブタイミング可変機構(吸気VVT)25と、排気カムシャフトの位相を進角又は遅角させる第2のバルブタイミング可変機構(排気VVT)26とを備えている。
吸気VVT25は、吸気カムシャフトの位相を進角又は遅角させることによって、吸気バルブ22の開時期及び閉時期を、所定の最進角時期と最遅角時期との間で連続的に変更する。この実施形態では、吸気VVT25は、そのコントロールバルブとして、電磁バルブを用いて構成されている。同様に、排気VVT26は、排気カムシャフトの位相を進角又は遅角させることによって、排気バルブ29の開時期及び閉時期を連続的に変更する。この実施形態では、排気VVT26は、そのコントロールバルブとして、油圧式のソレノイドバルブを用いて構成されている。
排気通路30には、上流側から順に、通過する排気によって回転させられ、この回転によってコンプレッサ4aを回転駆動する、ターボ過給機4のタービン4bと、排気の浄化機能を有する排気浄化触媒37、38とが設けられている。排気浄化触媒37、38は、例えばNOx触媒や三元触媒や酸化触媒などである。
排気通路30を構成する排気管の上流端部は、排気ポート31に連結される分岐管30aと、分岐管30aが集合する集合部とを有している。分岐管30aの一部は、排気マニホールドにより構成されている。
また、排気通路30には、排気を吸気通路10に還流するEGR(Exhaust Gas Recirculation)通路32が接続されている。このEGR通路32は、一端がタービン4bの上流側の排気通路30に接続され、他端がスロットルバルブ11の下流側の吸気通路10に接続されている。加えて、EGR通路32には、還流させる排気を冷却するEGRクーラ33と、EGR通路32を流れる排気の流量を制御するEGRバルブ34とが設けられている。
さらに、排気通路30には、排気にターボ過給機4のタービン4bを迂回させるタービンバイパス通路35が設けられている。このタービンバイパス通路35には、タービンバイパス通路35を流れる排気の流量を制御するウェイストゲートバルブ(以下、「WGバルブ」と称する)36が設けられている。
また、図1に示すエンジン100には、各種のセンサが設けられている。具体的には、エンジン100の吸気系においては、エアクリーナ2の下流側の吸気通路10(詳しくは、エアクリーナ2とコンプレッサ4aとの間の吸気通路10)に、吸気流量を検出するエアフロメータ61と吸気温度を検出する第1温度センサ62とが設けられ、コンプレッサ4aとスロットルバルブ11との間の吸気通路10に、過給圧を検出する第1圧力センサ63が設けられ、スロットルバルブ11の下流側の吸気通路10(詳しくは、サージタンク13a内)に、サージタンク13a内の圧力であるインマニ圧力を検出する第2圧力センサ64が設けられている。この第2圧力センサ64には、サージタンク13a内の温度であるインマニ温度を検出する温度センサが内蔵されている。
そして、エンジン本体20においては、クランクシャフト28のクランク角を検出するクランク角センサ69、吸気カムシャフトのカム角を検出する吸気側カム角センサ70、及び、排気カムシャフトのカム角を検出する排気側カム角センサ71が設けられている。
さらに、エンジン100の排気系においては、EGRバルブ34の開度であるEGR開度を検出するEGR開度センサ65、及び、WGバルブ36の開度であるWG開度を検出するWG開度センサ66が設けられ、タービン4bの下流側の排気通路30(詳しくは、タービン4bと排気浄化触媒37との間の排気通路30)に、排気中の酸素濃度を検出するO2センサ67と排気温度を検出する排気温度センサ68とが設けられている。
その他、エンジン100には、大気圧を検出する大気圧センサ60、及び、アクセルペダル81の開度であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ72が設けられている。
エアフロメータ61は、検出した吸気流量に対応する検出信号S61をPCM50に供給し、第1温度センサ62は、検出した吸気温度に対応する検出信号S62をPCM50に供給し、第1圧力センサ63は、検出した過給圧に対応する検出信号S63をPCM50に供給し、第2圧力センサ64は、検出したインマニ圧力とインマニ温度に対応する検出信号S64をPCM50に供給し、EGR開度センサ65は、検出したEGR開度に対応する検出信号S65をPCM50に供給し、WG開度センサ66は、検出したWG開度に対応する検出信号S66をPCM50に供給し、O2センサ67は、検出した酸素濃度に対応する検出信号S67をPCM50に供給し、排気温度センサ68は、検出した排気温度に対応する検出信号S68をPCM50に供給する。クランク角センサ69は、検出したクランク角に対応する検出信号S69をPCM50に供給する。吸気側カム角センサ70及び排気側カム角センサ71は、それぞれ、検出したカム角に対応する検出信号S70,S71をPCM50に供給する。大気圧センサ60は、検出した大気圧に対応する検出信号S60をPCM50に供給する。アクセル開度センサ72は、検出したアクセル開度に対応する検出信号S72をPCM50に供給する。
PCM50は、CPUと、CPU上で実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを格納するためのROMやRAMの如き内部メモリとを備えるコンピュータにより構成される。PCM50は、上述した各種センサから供給された検出信号に基づいて、種々の制御や処理を行う。尚、PCM50は、制御装置の一例である。
図2に、PCM50の機能構成図を示す。詳しくは、PCM50は、各アクチュエータの制御の基本値を設定するトルクベース制御を行うベース設定部51と、ベース設定部51が設定した基本値に基づいて、吸気VVT25及び排気VVT26を制御するVVT制御部59とを有している。尚、VVT制御部59は、制御部の一例である。
ベース設定部51は、エンジン100の運転状態に基づいて出力トルクの要求値(以下、「目標トルク」と称する)を求め、その目標トルクを基準として、スロットルバルブ11の開度、WGバルブ36の開度、点火プラグ24の点火時期、吸気バルブ22の開閉時期、排気バルブ29の開閉時期、及び、燃料噴射弁23の噴射量などの基本値を設定する。各基本値は、目標トルクに応じて様々に変更される。
VVT制御部59は、吸気VVT25を制御する吸気VVT制御部53と、排気VVT26を制御する排気VVT制御部54とを有している。基本的には、吸気VVT制御部53は、ベース設定部51により設定された吸気バルブ22の開閉時期を実現するように吸気VVT25を制御する一方、排気VVT制御部54は、ベース設定部51により設定された排気バルブ29の開閉時期を実現するように排気VVT26を制御する。エンジン100の運転状態によっては、吸気行程中に吸気バルブ22の開弁期間と排気バルブ29の開弁期間とがオーバーラップするように、吸気バルブ22の開閉時期及び排気バルブ29の開閉時期が設定される場合がある。そのような場合、VVT制御部59は、吸気VVT制御部53及び排気VVT制御部54を介して、吸気バルブ22及び排気バルブ29の両方が開弁するバルブオーバーラップを実行する。バルブオーバーラップを実行することによって、吸気ポート14を介して気筒21内に取り込まれた新気がそのまま排気ポート31から排出される。例えばタービン流量を増加させたいとき、気筒21の温度を低下させたいとき、及び、気筒21の掃気を促進したいとき等にバルブオーバーラップが実行される。
また、吸気VVT制御部53は、下流側通路10aにおける吸気の状態とエンジン100の運転状態とに基づいて、ベース設定部51により設定された吸気バルブの開閉時期に対し、補正(具体的には、開閉時期の進角)を行う。この補正は、ターボ過給機4にターボラグが生じているときに行われ、この補正により、気筒21内に吸入される吸気の充填量が増加する。
さらに、排気VVT制御部54は、吸気バルブ22及び排気バルブ29の両方が開いている期間であるオーバーラップ期間を制御する。詳しくは、排気VVT制御部54は、ターボ過給機4にターボラグが生じているか否かを判定し、ターボラグが生じていると判定したときに、排気バルブ29の閉時期を遅角させる。排気VVT制御部54は、その遅角量に応じて、オーバーラップ期間を延長する。オーバーラップ期間を延長することで、後述の如く、排気通路30へ吹き抜ける新気の流量が増加することになる。
〈トルクベース制御〉
まず、トルクベース制御に関わる処理について、図3のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。図3は、ベース設定部51が行う処理と、VVT制御部59が行う処理とを示すフローチャートである。
まず、ステップS1において、ベース設定部51は、エンジン100の運転状態を取得する。具体的には、エンジン本体20の回転速度(以下、「エンジン回転数」と称する)、車速、アクセル開度、及び、変速比等をエンジン100の運転状態として読み込む。例えば、エンジン回転数は、クランク角センサ69の検出結果に基づいて取得される。
続いて、ベース設定部51は、取得された運転状態に応じて目標加速度を求める(ステップS2)。また、ベース設定部51は、目標加速度を実現するために必要な目標トルクを求める(ステップS3)。
さらに、ベース設定部51は、ステップS4において、目標トルクを実現するために必要な充填効率の目標値(以下、「目標充填効率」と称する)を求める。詳しくは、目標充填効率は、目標トルク、エンジン回転数、及び、図示平均有効圧力の目標値(以下、「目標図示平均有効圧力」と称する)に基づいて求められる。目標図示平均有効圧力は、目標トルク、並びに、トルク損失となる機械抵抗及びポンプ損失(ポンピングロス)に基づいて求められる。
ステップS5において、ベース設定部51は、前記のように求められた目標充填効率に基づいて、吸気バルブ22の開閉時期の基本値及び排気バルブ29の開閉時期の基本値を設定する。吸気バルブ22の開閉時期の基本値は、PCM50の内部メモリに予め記憶された、エンジン回転数及び目標充填効率とそれらに応じた吸気バルブ22の開閉時期とが関連付けて規定された吸気VVTマップに基づいて求められる。同様に、排気バルブ29の開閉時期の基本値は、PCM50の内部メモリに予め記憶された、エンジン回転数及び目標充填効率とそれらに応じた排気バルブ29の開閉時期とが関連付けて規定された排気VVTマップに基づいて求められる。
図4は、エンジン100の始動時において、吸気バルブ22の開閉時期を基本値に設定した状態を概略的に示す説明図である。図4に示すように、吸気バルブ22の開閉時期の基本値は、基本的には、吸気バルブ22が吸気行程の途中で開き、BDCを過ぎて圧縮行程の途中で閉じるように設定されている。つまり、吸気バルブ22は、所謂、“遅閉じ”に設定されている。また、排気バルブ29の開閉時期の基本値は、エンジン回転数及び目標充填効率によっては、前述のバルブオーバーラップが実行されるように設定される。
ステップS5の後には、ステップS6〜ステップS9と、ステップS10〜S15とが並行して行われる。
ステップS6においては、ベース設定部51は、目標充填効率を実現するために必要な吸気マニホールド13内の吸気の量の目標値(以下、「目標インマニ空気量」と称する)を求める。目標インマニ空気量は、吸気マニホールド13内の吸気密度を基準とした体積効率、所謂インマニ基準の体積効率と、吸気マニホールド13の容積(以下、「インマニ容積」と称する)Viと、気筒21の容積(以下、「シリンダ容積」と称する)Vcと、気筒21内に吸入される1行程あたりの吸気の質量であるシリンダ吸入空気量Qcrの目標値(以下、「目標シリンダ空気量」と称する)とに基づいて求められる。インマニ容積Vi及びシリンダ容積Vcは、双方とも予め規定されており、それぞれPCM50の内部メモリに記憶されている。目標シリンダ空気量は、ステップS4で設定された目標充填効率と、シリンダ容積Vcと、標準大気密度ρ0とに基づいて求められる。標準大気密度ρ0は、標準状態における大気の密度(約1.2kg[kg/m3])である。
ステップS7において、ベース設定部51は、目標インマニ空気量を実現するため必要となる、スロットルバルブ11を通過する吸気の流量の目標値(以下、「目標スロットル通過流量」と称する)を求める。この目標スロットル通過流量は、ステップS4で求められた目標充填効率と、ステップS5で求められた目標インマニ空気量と、現在のインマニ空気量の推定値(以下、「実インマニ空気量」と称する)とに基づいて求められる。実インマニ空気量は、第2圧力センサ64により検出されたインマニ圧力及びインマニ温度に基づいて推定される。尚、この実インマニ空気量は、吸気マニホールド13に流入する空気量と吸気マニホールド13から気筒21内へ流出する空気量との間の収支を計算することにより推定してもよい。
ステップS8において、ベース設定部51は、目標スロットル通過流量を実現するために必要となる、スロットルバルブ11のバルブ開度の目標値(以下、「目標スロットル開度」と称する)を設定する。この目標スロットル開度は、目標スロットル通過流量と、第1圧力センサ63により検出された、スロットルバルブ11上流側の吸気圧力(過給圧)と、第2圧力センサ64により検出された、スロットルバルブ11下流側の吸気圧力とに基づいて求められる。
ステップS9において、ベース設定部51は、燃料噴射弁23及び点火プラグ24についても、PCM50の内部メモリに予め記憶された適宜のマップに基づいて基本値を求める。例えば、ベース設定部51は、目標充填効率に基づいて燃料噴射弁23の噴射量を設定し、目標トルクを実現するように点火プラグ24の点火時期を設定する。そして、ベース設定部51は、燃料噴射弁23、点火プラグ24に対して各々の制御値(基本値)に対応する制御信号を出力する。
一方で、ステップS10において、ベース設定部51は、目標充填効率を実現するために必要となる、過給圧の目標値である目標過給圧を求める。目標過給圧は、PCM50の内部メモリに予め記憶された、エンジン回転数、目標充填効率及び吸気バルブ22の開閉時期とそれらに応じた目標過給圧とが関連付けて規定された過給圧マップに基づいて求められる。
ステップS11において、ベース設定部51は、目標過給圧に基づいて、タービン4bを通過する流量の目標値である目標タービン流量を求める。詳しくは、目標タービン流量は、圧縮機駆動力の目標値である目標圧縮機駆動力、及び、エンジン回転数等に基づいて求められる。目標圧縮機駆動力は、目標過給圧に基づいて求められる。
ステップS11の後には、ステップS12〜ステップS13と、ステップS14〜S15とが並行して行われる。
ステップS12においては、ベース設定部51は、算出された目標タービン流量を実現するために必要な、WGバルブ36のバルブ開度の目標値(以下、「目標WG開度」と称する)を設定する。目標WG開度は、目標タービン流量と排気の総流量とに基づいて求められる。
そして、ステップS13において、ベース設定部51は、WGバルブ36のバルブ開度が目標WG開度となるようにWGバルブ36を駆動するための制御信号を出力する。
一方で、ステップS14において、VVT制御部59は、ベース設定部51が設定した吸気バルブ22及び排気バルブ29の開閉時期の基本値を調整(補正)する。ステップS14の詳細については後述する。
そして、ステップS15において、PCM50は、吸気バルブ22及び排気バルブ29に対して各々の制御値(補正後の基本値)に対応する制御信号を出力する。
尚、これらのステップの順番は一例であり、ステップの順番を可能な範囲で適宜入れ替えたり、複数のステップを並行して処理したりしてもよい。例えば、ステップS6からステップS9まで続くステップと、ステップS10からステップS13まで続くステップとを並行に処理せずに、一つずつ順番に処理してもよい。
続いて、前述のステップS14において行われる処理のうち、吸気VVT制御部53による吸気バルブ22の開閉時期の補正方法について、図7を参照しながら説明する。図7は、吸気VVT25の制御方法を示すブロック図である。
〈吸気VVT制御〉
吸気VVT制御部53は、図2に示すように、体積効率の目標値(以下、「目標体積効率」と称する)Kvtを算出する目標体積効率演算部53aと、体積効率の予測値(以下、「予測体積効率」と称する)Kvsを算出する体積効率予測部53bと、吸気バルブ22の開閉時期を現在の基本値から所定のクランク角分だけ進角させたときの体積効率(以下、「仮想体積効率」と称する)Kvvを算出する仮想体積効率演算部53cと、目標体積効率演算部53a、体積効率予測部53b、及び仮想体積効率演算部53cの算出結果に基づいて、吸気バルブ22の開閉時期の進角量を算出する吸気進角量算出部53dとを有する。尚、この例における体積効率は、いずれも標準状態における吸気の状態を基準とした体積効率(すなわち、充填効率)である。基本的には、体積効率が増加するにつれて充填量が増加する一方、体積効率が減少するにつれて充填量も減少することになる。
−目標体積効率演算部−
目標体積効率演算部53aは、図7に示すように、ベース設定部51により求められた目標タービン流量Qttと、標準大気密度ρ0とに基づいて目標体積効率Kvtを算出する。詳しくは、目標体積効率Kvtは、PCM50の内部メモリに予め記憶された、目標タービン流量Qtt及び標準大気密度ρ0と、それらに応じた目標体積効率Kvtとが関連付けて規定された目標体積効率マップに基づいて求められる。ここで、目標体積効率Kvtは、目標タービン流量Qtt、ひいては目標過給圧を実現するのに必要な体積効率に相当する。
−体積効率予測部−
予測体積効率Kvsは、下流側通路10a内の現在の吸気が気筒21内に吸入された場合の体積効率の予測値を示しており、下流側通路10aにおける吸気の状態と、エンジン100の運転状態とに基づいて、体積効率予測部53bにより求められる。具体的に、体積効率予測部53bは、図7に示すように、エンジン回転数、インマニ圧力、大気圧、並びに、吸気バルブ22及び排気バルブ29の現在の開閉時期に基づいて、予測体積効率Kvsを算出する。ここで、インマニ圧力は、「吸気の状態」の一例であり、このインマニ圧力を介して、下流側通路10aにおける吸気の量、ひいては体積効率の予測値(予測体積効率)Kvsが算出されることになる。インマニ圧力は、第2圧力センサ64により検出される。また、エンジン回転数、吸気バルブ22の現在の開閉時期、及び、排気バルブ29の現在の開閉時期は、それぞれ、「エンジンの運転状態」の一例である。吸気バルブ22及び排気バルブ29の現在の開閉時期は、それぞれ、クランク角センサ69、吸気側カム角センサ70、及び排気側カム角センサ71による検出結果に基づいて求められる。
−仮想体積効率演算部−
仮想体積効率演算部53cは、吸気バルブ22の開時期及び閉時期の両方を現在の開閉時期から5deg.CA(クランク角)ずつ進角させたときの予測体積効率Kvsに相当している。詳しくは、仮想体積効率演算部53cは、図7に示すように、エンジン回転数、インマニ圧力及び大気圧については、対応する予測体積効率Kvsの算出に用いた値と同一の値を使用する一方、吸気バルブ22の開時期と閉時期とについては、対応する予測体積効率Kvsの算出に用いた値から5deg.CAずつ進角させた値を使用する。
−吸気進角量算出部−
吸気進角量算出部53dは、図7に示すように、目標体積効率演算部53aにより算出された目標体積効率Kvtと、体積効率予測部53bにより算出された予測体積効率Kvsと、仮想体積効率演算部53cにより算出された仮想体積効率Kvvとに基づいて、吸気バルブ22の進角量を示す吸気オフセット量Δθiを算出する。
詳しくは、吸気進角量算出部53dは、図7に示すように、目標体積効率Kvtから予測体積効率Kvsを減算することによって、目標体積効率Kvtと予測体積効率Kvsとの間の差分ΔKv1(=Kvt−Kvs)を算出する。この差分ΔKv1は、充填量が不足し得るか否かを示す指標である。例えば、差分ΔKv1が0より大きい場合つまり、予測体積効率Kvsが目標体積効率Kvt未満の場合には、目標過給圧を達成するために必要な充填量よりも、実際の充填量が不足し得ることを示している。このことは、例えば加速過渡時において、充填量が十分に増加せず、目標過給圧が達成されない状況に対応している。
一方で、吸気進角量算出部53dは、図7に示すように、差分ΔKv1の算出とは別に、仮想体積効率Kvvから予測体積効率Kvsを減算することによって、仮想体積効率Kvvと予測体積効率Kvsとの間の差分ΔKv2(=Kvv−Kvs)を算出する。この差分ΔKv2は、吸気バルブ22の開時期と閉時期とを5deg.CAずつ進角させたときの体積効率の増加量を示している。例えば差分ΔKv2が0よりも大きい場合には、吸気バルブ22の開閉時期を5deg.CAずつ進角させたときに、体積効率、ひいては充填量が増加することを示している。
吸気進角量算出部53dは、図7に示すように、差分ΔKv1を差分ΔKv2で除算することによって、5deg.CA基準の過不足率Rv(=ΔKv1/ΔKv2)を算出する。そして、過不足率Rvに対して5deg.CAを乗算することによって、吸気オフセット量Δθi(クランク角単位)を算出する。過不足率Rvが1よりも大きいときには、吸気バルブ22の開閉時期を5deg.CAずつ進角させてもなお、予測体積効率Kvsが目標体積効率Kvtまで増加せず、充填量が依然として不足し得るということを示している。このときには、吸気オフセット量Δθiは、5deg.CAよりも大きく設定される。一方で、過不足率Rvが1以下のときには、吸気バルブ22の開閉時期を5deg.CAずつ進角させてしまうと、予測体積効率Kvsが目標体積効率Kvtよりも大きくなって、充填量が必要以上に増加し得ることを示している。このとき、吸気オフセット量Δθiは、5deg.CA未満に設定される。
具体的には、吸気オフセット量Δθiは、差分ΔKv1が0よりも大きくなるにつれて大きくなるような且つ、差分ΔKv2が0よりも大きくなるにつれて小さくなるような値として算出される。
吸気進角量算出部53dは、算出された吸気オフセット量Δθiが0よりも小さい場合には、吸気オフセット量Δθiを0に変更する。つまり、吸気オフセット量Δθiは0以上の値となる。吸気オフセット量Δθiが0か、0よりも大きいかに応じて、ターボラグが生じているか否かが間接的に判定される。
詳しくは、吸気オフセット量Δθiが負の値であることは、充填量が不足していないこと、ひいてはターボラグが生じていないことを示している。そのような状況では、吸気バルブ22の開閉時期を補正する必要が無いため、吸気オフセット量Δθiの算出値が0以下の場合には、吸気進角量算出部53dは吸気オフセット量Δθiを0に変更する。一方で、吸気オフセット量Δθiが正の値であることは、充填量が不足していること、ひいてはターボラグが生じていることを示している。そのような状況では、吸気オフセット量Δθiを変更せずに算出値のままに保つ。
最終的に、吸気VVT制御部53は、吸気バルブ22の開時期及び閉時期それぞれの現在の基本値から吸気オフセット量Δθiを減算することにより、吸気バルブ22の開閉時期を進角させる。前述のように、吸気オフセット量Δθiは、ターボラグが生じているときに、0よりも大きい値を取る。このことは、吸気VVT制御部53は、ターボラグが生じているときに、吸気バルブ22の開閉時期を進角させることを示している。
吸気VVT制御部53は、図3のステップS14から続くステップS15において、進角後の開閉時期を実現するように吸気VVT25を制御する。そのような制御によって、充填量が増加することになる。詳しくは、一般的に、気筒21内には、ピストン27が下降するときに生じる負圧によって吸気が吸い込まれることになるものの、ピストン27がBDC(下死点)を通過して下降から上昇に転じた後も、BDCの少し後(ABDC)までは、吸気の慣性によって、気筒21内に吸気が導入されることになる。充填量は、図4に示すように、TDCからABDCまでの区間におけるバルブリフト量の積分量(図4における領域Aの面積に相当する。)に依存する。一方で、ABDCから次のTDCまでの区間において吸気バルブ22が開いている期間は、吸気の一部が吸気ポート14に排出されている。気筒21から吸気ポート14へ排出される吸気量は、ABDCから次のTDCまでの区間における吸気バルブ22のバルブリフト量の積分量(図4における領域Bの面積に相当する。)に依存するため、領域Aの面積と領域Bの面積との収支で充填量が決まる。吸気バルブ22の開閉時期が変更されれば、領域Aの面積と領域Bの面積とが変化するので、充填量が変化することになる。例えば、図5に示すように、吸気バルブ22の開時期と閉時期とを図4の状態から進角させると、領域Aの面積が増大して且つ領域Bの面積が減少する。これにより、充填量は、図4に図示した状態よりも増加することになる。
以上、説明してきた吸気バルブ22の進角に係る処理は、PCM50によって所定の周期で繰り返し実行される。
次に、図3のステップS14において行われる処理のうち、排気VVT制御部54による排気バルブ29の開閉時期の補正方法について、図8を参照しながら説明する。図8は、排気VVT26の制御方法を示すブロック図である。
〈排気VVT制御〉
排気VVT制御部54は、図2に示すように、現在の新気吹き抜け率(以下、「現在吹き抜け率」と称する)Fsを推定する吹き抜け率推定部54bと、新気吹き抜け率の不足量(以下、「吹き抜け率不足量」と称する)ΔF1を算出する吹き抜け率不足分演算部54aと、排気バルブ29の開閉時期を現在の基本値から所定のクランク角分だけ遅角させたときの新気吹き抜け率(以下、「仮想吹き抜け率」と称する)Fvを算出する仮想吹き抜け率演算部54cと、吹き抜け率推定部54b、吹き抜け率不足分演算部54a、及び仮想吹き抜け率演算部54cの算出結果に基づいて、排気バルブ29の開閉時期の遅角量を算出する排気遅角量算出部54dとを有する。ここで、新気吹き抜け率は、気筒21内に吸入される新気のうち、気筒21内に留まらずに排気ポート31へ吹き抜ける新気の割合を示している。
−吹き抜け率推定部−
吹き抜け率推定部54bは、下流側通路10aにおける吸気の状態と、エンジン100の運転状態とに基づいて、現在吹き抜け率Fsを推定する。具体的に、吹き抜け率推定部54bは、吸気の状態として、第2圧力センサ64により検出されたインマニ圧力を読み込むと共に、エンジン100の運転状態として、図8に示すように、エンジン回転数、大気圧センサ60により検出された大気圧、並びに、吸気バルブ22及び排気バルブ29それぞれの現在の開閉時期を読み込む。吹き抜け率推定部54bは、読み込んだ各パラメータに基づいて、現在吹き抜け率Fsを推定する。
−吹き抜け率不足分演算部−
吹き抜け率不足量ΔF1は、目標タービン流量Qttの実現に必要な新気吹き抜け率から、現在の新気抜き抜け率を減算することにより得られる値であり、新気吹き抜け率の不足分を示している。例えば、吹き抜け率不足量ΔF1が0よりも大きい場合には、新気吹き抜け率、ひいては排気系へ吹き抜けてタービン4bに送られる空気の流量が不足し得ることを示している。吹き抜け率不足分演算部54aは、図8に示すように、ベース設定部51により求められた目標タービン流量Qttと、吹き抜け率推定部54bにより推定された現在吹き抜け率Fsとに基づいて吹き抜け率不足量ΔF1を求める。
−仮想吹き抜け率演算部−
仮想吹き抜け率演算部54cは、排気バルブ29の開時期及び閉時期の両方を現在の開閉時期から5deg.CA(クランク角)ずつ遅角させたときの現在吹き抜け率Fsに相当する仮想吹き抜け率Fvを算出する。詳しくは、仮想吹き抜け率演算部54cは、図8に示すように、インマニ圧力、エンジン回転数及び大気圧については、対応する現在吹き抜け率Fsの算出に用いた値と同一の値を使用する一方、排気バルブ29の開時期と閉時期とについては、対応する現在吹き抜け率Fsの算出に用いた値から5deg.CAずつ遅角させた値を使用する。
−排気遅角量算出部−
排気遅角量算出部54dは、図8に示すように、吹き抜け率推定部54bにより算出された現在吹き抜け率Fsと、吹き抜け率不足分演算部54aにより求められた吹き抜け率不足量ΔF1と、仮想吹き抜け率演算部54cにより算出された仮想吹き抜け率Fvとに基づいて、排気バルブ29の遅角量を示す排気オフセット量Δθeを算出する。
詳しくは、排気遅角量算出部54dは、図8に示すように、仮想吹き抜け率Fvから現在吹き抜け率Fsを減算することによって、仮想吹き抜け率Fvと現在吹き抜け率Fsとの間の差分ΔF2(=Fv−Fs)を算出する。この差分ΔF2は、排気バルブ29の開時期と閉時期とを仮に5deg.CAずつ遅角させたときの新気吹き抜け率の増加量を示している。例えば差分ΔF2が0よりも大きい場合には、排気バルブ29の開閉時期を5deg.CAずつ進角させたときに、新気吹き抜け率、ひいてはタービン4bへ送られる空気の流量が増加することを示している。
排気遅角量算出部54dは、図8に示すように、吹き抜け率不足量ΔF1を差分ΔF2で除算することにより、5deg.CA基準の過不足率Rf(=ΔF1/ΔF2)を算出する。そして、この過不足率Rfに対して5deg.CAを乗算することによって、排気オフセット量Δθe(クランク角単位)を算出する。例えば、過不足率Rfが1よりも大きいときには、排気バルブ29の開閉時期を5deg.CAずつ遅角させてもなお、新気吹き抜け率の不足分が解消されず、タービン4bへ送られる空気の流量が依然として不足し得ることを示している。このときには、排気オフセット量Δθeは、5deg.CAよりも大きく設定される。一方で、過不足率Rfが1以下のときには、排気バルブ29の開閉時期を5deg.CAずつ遅角させてしまうと、新気吹き抜け率、ひいてはタービン4bへ送られる空気の流量が必要以上に増加し得ることを示している。このときには、排気オフセット量Δθeは、5deg.CA未満に設定される。
具体的に、排気オフセット量Δθeは、吹き抜け率不足量ΔF1が0よりも大きくなるにつれて大きくなるような且つ、差分ΔF2が0よりも大きくなるにつれて小さくなるような値として算出される。
続いて、排気遅角量算出部54dは、吸気進角量算出部53dにより算出された吸気オフセット量Δθi(符号に応じて変更された後の値)を読み込む。排気遅角量算出部54dは、吸気オフセット量Δθiの値に基づいて、ターボ過給機4にターボラグが生じているか否かを判定し、その判定結果に基づいて、排気オフセット量Δθeを変更する。前述の如く、吸気オフセット量Δθiが0か、0よりも大きいかに応じて、ターボラグが生じているか否かが間接的に判定される。排気遅角量算出部54dは、吸気オフセット量Δθiが0のときには、ターボ過給機4にターボラグが生じていない判定し、排気オフセット量Δθeを0に変更する。一方、排気遅角量算出分54dは、吸気オフセット量Δθiが0よりも大きいときには、ターボラグが生じているものと判定し、排気オフセット量Δθeを変更せずに算出値のままに保つ。
最終的に、排気VVT制御部54は、排気バルブ29の開時期及び閉時期それぞれの現在の基本値に対して排気オフセット量Δθeを加算することにより、排気バルブ29の開閉時期を遅角させる。前述のように、排気オフセット量Δθeは、ターボラグが生じていないと判定されたときには0に変更される。このことは、排気VVT制御部54は、ターボラグが生じていると判定したときに、排気バルブ29の開閉時期を遅角させることを示している。
排気VVT制御部54は、図3のステップS14から続くステップS15において、遅角後の開閉時期を実現するように排気VVT26を制御する。そのような制御によって、新気吹き抜け率が増大することになる。詳しくは、例えば図6(a)に示す状態から排気バルブ29の開閉時期を遅角させると、図6(b)に示すようなバルブオーバーラップが行われることになる。そのときのオーバーラップ期間(O/L)は、排気オフセット量Δθeが大きくなるにつれて、つまり、排気バルブ29の開閉時期が遅角されるに従って、延長されることになる。そのことで、新気の吹き抜け率、ひいては、吸気行程中にタービン4bへ送られる空気の量が増大するようになる。
以上、説明してきた排気バルブ29の遅角に係る処理は、PCM50によって所定の周期で繰り返し実行される。
〈VVTの制御例〉
以下、吸気VVT25及び排気VVT26の制御例について説明する。
図9は、加速過渡時における(a)アクセル開度の推移、(b)吸気バルブ22の閉時期進の推移、及び、(c)排気バルブ29の閉時期の推移を例示するタイムチャートである。以下、過給域における過渡運転、特に、加速過渡時の運転について例示する。
例えば、エンジン100が比較的緩慢に加速するときには、過給圧は、目標過給圧に追従するように制御される。図9(a)の破線に示すように、アクセルペダル81が比較的緩慢に踏み込まれた場合(t=t0)、吸気オフセット量Δθi及び排気オフセット量Δθeは、双方とも、0又は0付近の値となり、吸気バルブ22及び排気バルブ29の開閉時期は、それぞれ、ベース設定部51が設定した基本値、又は基本値付近の値に設定される。その場合、図9(b)及び図9(c)の破線に示す(基本値のみを図示)ように、吸気バルブ22及び排気バルブ29の閉時期は、双方とも、時間経過に従ってスムースに推移することになる。
一方で、図9(a)の実線に示すように、アイドル運転や低速運転からの全開加速時(t=t0)には、過給圧の立ち上がりに遅れが生じ得ること、つまり、ターボラグが顕著に現れることが知られている。例えばアイドル運転では、スロットルバルブ11の開度は全閉付近に設定されるため、スロットルバルブ11よりも下流側部分つまり、下流側通路10a内の吸気量は、比較的少量となる。その状態から加速するとき、スロットルバルブ11の開度を全開にしたとしても、充填量が十分に増加せずに、ひいては排気の確保に遅れが生じてしまい、タービン4bやコンプレッサ4aが十分に駆動されない場合がある。その場合、過給圧が目標過給圧まで上昇するのに顕著な遅れが生じることになる。
前記の構成によると、ターボラグが生じているか否か、すなわち、充填量が不足しているか否かは、吸気オフセット量Δθiの符号に反映される。吸気オフセット量Δθiが正の値を取る場合、図9(b)の実線に示すように、VVT制御部59は、吸気バルブ22の開閉時期を吸気オフセット量Δθi分だけ進角させる(t0<t<t1)。これにより、気筒21内に吸入される吸気の充填量が増加する。充填量の増加分は、燃焼行程を経て排出される排気の流量と、後述の如く、吸気行程中に排気系へ吹き抜ける空気の流量とを増加させる。
そして、VVT制御部59は、吸気の充填量を増大させるとき(つまり、吸気オフセット量Δθiが正の値を取り、ターボラグが生じている判定されたとき)、排気VVT26の遅角も行う。図9(c)の実線に示すように、VVT制御部59は、排気バルブ29の開閉時期を排気オフセット量Δθe分だけ遅角させる(t0<t<t1)。これにより、バルブオーバーラップが行われるオーバーラップ期間が延長されて、新気吹き抜け率つまり、吸気行程中に排気系へ吹き抜ける新気の割合が増大することになる。ここで、前述の如く、吸気VVT25を介して吸気の充填量を増加させたことで、その増加分に応じて、排気系へ吹き抜ける空気の量が増加するようになる。
このように、吸気行程と、その後の排気行程との両方において、排気系へ送られる空気の流量が増加することとなり、そのことで、タービン4bの回転駆動を促すことができる。
また、排気系30における新気の割合が増大したことで、新気が排気系30で反応して生じる所謂、後燃えが起こり易くなる。後燃えにより、排気系30へ吹き抜けた空気が昇温、ひいては昇圧することになるため、タービン4bの回転駆動をさらに促すことができる。
こうした処理は、所定の周期で繰り返し実行されるものの、タービン4bへ送られる空気の流量が増加して、過給圧が目標過給圧に向かって上昇するに従って、差分ΔKv1,体積効率過不足率Rv、及び吸気オフセット量Δθiは、順次、0に向かって漸減する。これにより、吸気バルブ22の開閉時期は、基本値に漸近していく。そして、吸気オフセット量Δθiが0まで減少すると(t=t1)、それと同時に、排気オフセット量Δθeも0になる(t=t1)。これにより、吸気バルブ22及び排気バルブ29の開閉時期の補正が終了する。
(まとめ)
以上説明したように、VVT制御部59は、吸気バルブ22及び排気バルブ29の両方が開弁されるオーバーラップ期間を制御する。オーバーラップ期間中には、吸気系10から排気系30へ空気が吹き抜けるようになる。
ターボラグは、加速過渡時に生じ得る。加速過渡時には、スロットルバルブ11の開弁等を通じて、気筒21内に吸入される空気の充填量が増加することになる。
前述のように、VVT制御部59は、ターボラグが生じていると判定したときには、オーバーラップ期間が延長されるように、排気バルブ29の閉時期を遅角させる。オーバーラップ期間が延長されることで、充填量として増加した空気のうち、排気系30へ吹き抜ける空気の割合が増大し、その増大分に応じて、タービン4bへ送られる空気の流量が増加することになる。そのことで、タービン4bを十分に回転駆動することが可能になる。
さらに、前記の構成は、気筒21内に空気が吸入されたときに、その吸入分の混合気が燃焼して排気される前に、タービン4bへ送る空気の流量を増加させることができるという点で、ターボラグを早期に解消することが可能になる。
さらに、前記の構成によると、排気系30へ吹き抜ける空気の割合が増加した分、排気系30における新気の流量が増加することになり、そのことで、新気が排気系30で反応して生じる所謂、後燃えが起こり易くなる。後燃えにより、排気系30へ吹き抜けた空気が昇温、ひいては昇圧することになるから、タービン4bを十分に回転駆動する上で有利になる。
また、VVT制御部59は、新気吹き抜け率に基づいて、排気バルブ29の閉時期の遅角量を設定することから、遅角量を適切に設定することができるようになり、そのことで、ターボラグを確実に解消する上で有利になる。
また、VVT制御部59は、吸気バルブ22の開閉時期の補正中に、排気バルブ29の開時期を遅角させることから、排気系30へ吹き抜ける空気の流量を、可及的多く確保することが可能になる。そのことで、ターボラグを早期に解消する上で有利になる。
また、VVT制御部59は、ターボラグが生じていると判定したときには、吸気バルブ22の開閉時期を補正することにより、充填量を増加させる。そして、VVT制御部59は、吸気バルブ22の開閉時期の補正中に、前述の如く、排気バルブ29の閉時期を遅角させる。これによれば、吸気バルブ22に関する補正によって増加する充填量の分だけ、オーバーラップ期間中に吹き抜ける空気の流量をさらに増加させることができる。そのことで、タービン4bを十分に回転駆動する上で有利になる。
また、下流側通路10aはスロットルバルブ11の下流側の部分であり、吸気通路10のうち気筒21に比較的近い部分である。そこで、VVT制御部59は、下流側通路10aにおける吸気の状態に基づいて吸気バルブ22の開閉時期を補正する。これにより、VVT制御部59は、充填量を精度良く調整することできる。
さらに、充填量は、そうした吸気の状態だけではなく、エンジン回転数や吸気バルブ22の開閉時期といったエンジン100の運転状態の影響も受ける。そこで、VVT制御部59は、エンジンの運転状態に基づいて吸気バルブ22の開閉時期を補正する。これにより、VVT制御部59は、充填量を精度良く調整することができる。
また、VVT制御部59は、下流側通路10aにおける吸気の状態とエンジン100の運転状態とに基づいて、下流側通路10a内の吸気が気筒21内に吸入された場合の体積効率の予測値である予測体積効率Kvsを算出すると共に、その算出結果に基づいて吸気バルブ22の開閉時期を補正する。これにより、VVT制御部59は、体積効率を事前に予測することで、吸気バルブ22の開閉時期を事前に補正することができる。そのことで、VT制御部59は、充填量を早期に調整することができる。さらに、下流側通路10a内の吸気は、将来的に気筒21内に吸入される。そのため、下流側通路10aにおける吸気の状態に基づいて将来の体積効率を予測することによって、体積効率を精度良く予測することができる。
また、VVT制御部59は、予測体積効率Kvsだけではなく、体積効率の目標値である目標体積効率Kvtも考慮して吸気バルブ22の開閉時期を補正する。具体的に、VVT制御部59は、予測体積効率Kvsが目標体積効率Kvtよりも小さいときには、充填量が増加するように吸気バルブ22の開閉時期を進角させる。これによれば、VVT制御部59は、予測体積効率Kvsと目標体積効率Kvtとを事前に比較することによって、体積効率が目標体積効率Kvtに到達するように、開閉時期を早めに補正することができる。そのことで、VVT制御部59は、充填量を早期に調整することができる。
また、VVT制御部59は、目標体積効率Kvtとして、目標過給圧を実現する際に必要な体積効率の目標値を取得するように構成されているから、加速過渡時において充填量を精度良く調整することができる。
詳しくは、加速過渡時において、ターボラグを解消するためには、充填量を早期に増加させることが考えられる。また、その際に、目標過給圧を高い精度で実現するためには、充填量を精度良く調整することが望まれる。
この構成によれば、目標体積効率Kvtは、目標過給圧に基づいて設定されるので、加速過渡時における充填量を精度良く調整することができるようになる。それに加えて、前述の如く、吸気バルブ22の開閉時期を予測体積効率Kvsに基づいて事前に補正することで、充填量を早期に増加させて、目標過給圧を実現するまでの時間を短縮することができるようになる。これにより、ターボラグを解消する上で有利になる。
また、VVT制御部59は、吸気の状態としてインマニ圧力を読み込むことで、体積効率を適切に予測することができる。
また、VVT制御部59は、エンジンの運転状態としてエンジン回転数、吸気バルブ22の開閉時期、及び、排気バルブ29の開閉時期を読み込むことで、体積効率を適切に予測することができる。
また、下流側通路は、吸気通路のうち、吸気マニホールドと吸気ポートとを含む、としてもよい。
この構成によると、吸気バルブ22の開閉時期を補正する上で、吸気マニホールド及び吸気ポート内の吸気の状態が考慮される。これにより、気筒の直近の部分の吸気の状態が考慮されるので、充填量をより精度良く調整することができる。
〈その他の実施形態〉
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。
しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
エンジン100の構成は、一例であり、この構成に限られるものではない。
例えば、PCM50は、排気VVT制御部54を介して、排気バルブ29の開時期と閉時期とを同時に遅角させることによってオーバーラップ期間を延長しているが、これに限られるものではない。PCM50は、排気バルブ29の閉時期のみを遅角させることによってオーバーラップ期間を延長してもよい。
同様に、PCM50は、吸気VVT制御部53を介して、吸気バルブ22の開時期と閉時期とを同時に進角させることによって、充填量を増加させているが、これに限られるものではない。PCM50は、吸気バルブ22の閉時期のみを進角させたり、吸気バルブ22の開時期及び閉時期のうちの一方を進角させると共に他方を遅角させたりすることによって、充填量を増加させてもよい。
前記実施形態では、吸気VVT制御部53は、体積効率の目標値Kvt及び予測値Kvsに基づいて、吸気バルブ22の開閉時期を補正するように構成されていたが、この構成に代えて、充填量の目標値及び予測値に基づいて、吸気バルブ22の開閉時期を補正してもよい。
前記実施形態では、体積効率予測部53bは、インマニ圧力に基づいて体積効率を予測するように構成されていたが、これに限られるものではない。この構成に代えて、下流側通路10aにおける吸気の温度、及び密度等に基づいて予測したり、これらの組み合わせに基づいて予測したりしてもよい。吹き抜け率推定部54bについても同様である。
また、前記実施形態では、仮想体積効率演算部53cは、吸気バルブ22の開時期と閉時期とを5deg.CAずつ進角させたときの予測体積効率Kvsに相当する仮想体積効率Kvvを算出するように構成されていたが、このときの進角量については、可能な範囲で変更することができる。仮想吹き抜け率演算部54cについても同様である。
また、前記実施形態では、吸気進角量算出部53dは、目標体積効率Kvtから予測体積効率Kvsを減算することで得られる差分ΔKv1と、仮想体積効率Kvvから予測体積効率Kvsを減算することで得られる差分ΔKv2との間の比率に基づいて吸気オフセット量Δθiを算出していたが、これに限られるものではない。この構成に代えて、目標体積効率Kvtと予測体積効率Kvsとの間の比率に基づいて種々の演算を行ったり、差分ΔKv1を差分ΔKv2から減算することで得られる値の大きさに基づいて吸気オフセット量Δθiを算出したりしてもよい。排気遅角量算出部54dについても同様である。
また、前記実施形態では、体積効率として、標準体積密度ρ0基準の体積効率を用いた構成を例示したが、この構成には限定されない。例えば、標準体積密度ρ0基準の体積効率に代えて、吸気マニホールド13内の吸気密度を基準とした体積効率、所謂インマニ基準の体積効率を用いて構成してもよい。その場合、図7に示すブロック図において、目標体積効率Kvtを取得する際に、標準体積密度ρ0に代わって、吸気マニホールド13内の吸気密度(以下、「インマニ内密度」と称する)ρiが入力されることになる。
インマニ内密度ρiは、インマニ容積Viと、吸気マニホールド13内の吸気の質量(以下、「インマニ内質量」と称する)Miとに基づいて、以下の式(1)から求められる。
ρi=Mi/Vi ・・・(1)
インマニ内質量Miは、気筒21内に吸入される1行程あたりの吸気の質量であるシリンダ吸入空気量Qcr、インマニ基準の体積効率の予測値Kvi、及び、インマニ容積Viに対するシリンダ容積Vcの比率であるシリンダ/インマニ容積比Ri(=Vc/Vi)に基づいて、以下の式(2)から求められる。
Mi=Qcr/(Kvi×Ri) ・・・(2)
式(2)において、シリンダ吸入空気量Qcrは、目標充填効率と、シリンダ容積Vcと、大気密度の現在値とに基づいて求められる。大気密度の現在値は、大気圧センサ60により検出された大気圧と、第1温度センサ62によって検出された、エアクリーナ2下流側の吸気温度とに基づいて推定される。インマニ基準の体積効率の予測値Kviは、前記実施形態における予測体積効率Kvsと同様に、エンジン回転数及びインマニ圧力等に基づいて求められる。シリンダ/インマニ容積比Riは、予め、PCM50の内部メモリに記憶されている。