以下、本発明の導電性基板、および、導電性基板の製造方法の一実施形態について説明する。
(導電性基板)
本実施形態の導電性基板は、透明基材と、
透明基材の少なくとも一方の面側に形成された銅層と、
透明基材の少なくとも一方の面側に形成され、酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有する黒化層(以下、単に「黒化層」とも記載する)を備えた構成とすることができる。
なお、本実施形態における導電性基板とは、銅層等をパターニングする前の透明基材の表面に銅層や黒化層を有する基板と、銅層や黒化層をパターニングして配線の形状にした基板、すなわち、配線基板とを含む。
ここでまず、本実施形態の導電性基板に含まれる各部材について以下に説明する。
透明基材としては特に限定されるものではなく、可視光を透過する絶縁体フィルムや、ガラス基板等を好ましく用いることができる。
可視光を透過する絶縁体フィルムとしては例えば、ポリアミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、シクロオレフィン系フィルム、ポリカーボネート系フィルム等の樹脂フィルム等を好ましく用いることができる。
透明基材の厚さについては特に限定されず、導電性基板とした場合に要求される強度や静電容量、光の透過率等に応じて任意に選択することができる。
次に銅層について説明する。
銅層についても特に限定されないが、光の透過率を低減させないため、銅層と透明基材との間、または、黒化層との間に接着剤を配置しないことが好ましい。すなわち銅層は、他の部材の上面に直接形成されていることが好ましい。
他の部材の上面に銅層を直接形成するため、銅層は銅薄膜層を有することが好ましい。また、銅層は銅薄膜層と銅めっき層とを有していてもよい。
例えば透明基材または黒化層上に、乾式めっき法により銅薄膜層を形成し該銅薄膜層を銅層とすることができる。これにより、透明基材または黒化層上に接着剤を介さずに直接銅層を形成できる。
また、銅層の膜厚が厚い場合には、該銅薄膜層を給電層として、湿式めっき法により銅めっき層を形成することにより、銅薄膜層と銅めっき層とを有する銅層とすることもできる。銅層が銅薄膜層と銅めっき層とを有することにより、この場合も透明基材または黒化層上に接着剤を介さずに直接銅層を形成できる。
銅層の厚さは特に限定されるものではなく、銅層を配線として用いた場合に、該配線に供給する電流の大きさや配線幅等に応じて任意に選択することができる。特に十分に電流を供給できるように銅層は厚さが100nm以上であることが好ましく、150nm以上とすることがより好ましい。銅層の厚さの上限値は特に限定されないが、銅層が厚くなると、配線を形成するためにエッチングを行う際にエッチングに時間を要するためサイドエッチが生じ、エッチングの途中でレジストが剥離する等の問題を生じ易くなる。このため、銅層の厚さは3μm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
なお、銅層が上述のように銅薄膜層と、銅めっき層を有する場合には、銅薄膜層の厚さと、銅めっき層の厚さとの合計が上記範囲であることが好ましい。
次に、酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有する黒化層について説明する。
銅層は金属光沢を有するため、透明基材上に銅層をエッチングした配線を形成したのみでは上述のように銅が光を反射し、例えばタッチパネル用の導電性基板として用いた場合、ディスプレイの視認性が低下するという問題があった。そこで、黒化層を設ける方法が検討されてきたが、黒化層がエッチング液に対する反応性を十分に有していない場合があり、銅層と黒化層とを同時に所望の形状にエッチングすることは困難であった。そこで本発明の発明者らが検討を行ったところ、酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有する層は黒色であるため黒化層として使用でき、さらに、エッチング液に対して十分な反応性を示すため、銅層と同時にエッチング処理を行えることを見出したものである。
黒化層の成膜方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により成膜することができる。ただし、比較的容易に黒化層を成膜できることから、スパッタリング法により成膜することが好ましい。
黒化層は例えば、銅のターゲットと、モリブデンのターゲットと、を用い、チャンバー内に酸素と窒素を供給しながら2元同時スパッタリング法により成膜することができる。また、銅、及びモリブデン混合焼結のターゲット(以下、「銅−モリブデン混合焼結のターゲット」とも記載する)を用い、チャンバー内に酸素と窒素を供給しながらスパッタリング法により成膜することもできる。なお、チャンバー内に供給する酸素と窒素の供給比率は特に限定されるものではないが、チャンバー内に酸素を5体積%以上20体積%以下、窒素を30体積%以上70体積%以下の割合で供給しながら、スパッタリング法により成膜することが好ましい。
銅−モリブデン混合焼結のターゲットを用いる場合、銅とモリブデンは熔解することが難しく固溶しないため、銅とモリブデンの粉末をホットプレス法や熱間等方圧加工法(HIP)で焼結体を作製し、バッキングプレートに貼りつけてターゲットとすることが好ましい。
上述のようにチャンバー内への酸素の供給の割合を5体積%以上とすることにより、黒化層の色を十分な黒色とすることができ、黒化層としての機能を十分に発揮できるため好ましい。チャンバー内への酸素の供給割合は10体積%以上とすることがより好ましい。また、酸素の供給量を20体積%以下とすることにより、黒化層のエッチング液に対する反応性を特に高めることができ、銅層と共にエッチングを行う際、銅層と、黒化層と、を容易に所望のパターンとすることができ好ましい。チャンバー内への酸素の供給割合は15体積%以下とすることがより好ましい。
窒素については、黒化層を成膜する際にその雰囲気中に添加することによりエッチングし易くなるが、添加量が多くなりすぎると黒色が薄くなり、黒化層としての性能が低下する恐れがある。このため、スパッタリングの際の窒素の供給割合は30体積%以上70体積%以下とすることが好ましく、35体積%以上40体積%以下とすることがより好ましい。なお、窒素の供給割合を70体積%以下とすることにより、黒化層のスパッタ速度を確保できるため好ましい。チャンバー内へ窒素の供給割合が40体積%以下になるように供給した場合、さらに、黒化層のスパッタ速度が向上するため、より好ましい。
なお、スパッタリングを行う際、チャンバー内に供給するガスは、酸素と窒素以外の残部については不活性ガスとすることが好ましい。酸素と窒素以外の残部については例えばアルゴンを供給することができる。
また、スパッタリングを行う際ターゲットとして、上述のように例えば銅−モリブデン混合焼結のターゲットを用いることもできる。銅−モリブデン混合焼結のターゲットの組成は特に限定されないが、銅−モリブデン混合焼結のターゲットは、モリブデンを10原子%以上75原子%以下の割合で含有することが好ましく、モリブデンを10原子%以上60原子%以下の割合で含有することがより好ましい。これらの場合、残部は銅により構成することができる。
成膜した黒化層中には、酸素、窒素、銅、及びモリブデンが含有され、黒化層中の銅とモリブデンの金属元素の合計を100原子%とした場合に、モリブデンの割合が4原子%以上75原子%以下であることが好ましい。これは、モリブデンが4原子%未満では反射率の低下が十分でない場合があり好ましくなく、モリブデンが75原子%を超えると透過光が多くなり反射率の低下が十分ではない場合があるため好ましくないからである。モリブデンの割合は75原子%未満であることがより好ましく、60原子%以下であることがより好ましい。
酸素、窒素、銅、及びモリブデンはどのような形態で含まれていてもよい。また、銅またはモリブデンが例えば酸化銅(Cu2O、CuO、Cu2O3)や窒化銅(Cu3N)、酸化モリブデン(MoO3、MoO2、Mo2O3)や窒化モリブデン(Mo2N、MoN)、CuMoO4、Cu2MoO5等の酸化物または窒化物を生成し、該化合物が黒化層に含まれていてもよい。
なお、黒化層は例えば酸素および窒素を含有する銅−モリブデン混合物のように、酸素、窒素、銅、及びモリブデンを同時に含有する1種類の物質のみで構成される層であってもよい。また、例えば上述した酸素および/または窒素を含有する銅−モリブデン混合物や、銅の酸化物、銅の窒化物、モリブデンの酸化物、モリブデンの窒化物から選択される1種類以上の物質を含有する層であってもよい。
黒化層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば20nm以上であることが好ましく、30nm以上とすることがより好ましい。黒化層は、上述のように黒色をしており、銅層による光の反射を抑制する黒化層として機能するが、黒化層の厚さが薄い場合には、十分な黒色が得られず銅層による光の反射を十分に抑制することができない場合がある。これに対して、黒化層の厚さを上記範囲とすることにより、銅層の反射をより抑制できるため好ましい。
黒化層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、必要以上に厚くしても成膜に要する時間や、配線を形成する際のエッチングに要する時間が長くなり、コストの上昇を招くことになる。このため、黒化層の厚さは50nm以下とすることが好ましく、45nm以下とすることがより好ましい。
また、黒化層はシート抵抗が十分に小さい場合、黒化層に配線等の電気部材とのコンタクト部を形成することができ、黒化層が最表面に位置する場合でも銅層を露出する必要がなくなるため好ましい。
そして、黒化層に配線等の電気部材とのコンタクト部を形成するためには、黒化層のシート抵抗としては、2.00×10−1Ω/□以下であることが好ましい。本発明の発明者らの検討によると、黒化層のシート抵抗は黒化層を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度と相関を有している。そして、黒化層を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度が低いほど黒化層のシート抵抗は低くなり好ましい。特に黒化層のシート抵抗を十分に低くする場合、黒化層を成膜する際の酸素濃度は20体積%以下であることが好ましく、15体積%以下であることがより好ましい。
次に、本実施形態の導電性基板の構成例について説明する。
上述のように、本実施形態の導電性基板は透明基材と、銅層と、酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有する黒化層と、を備えている。この際、銅層と、黒化層と、を透明基材上に配置する際の積層の順番は特に限定されるものではない。また、銅層と、黒化層と、はそれぞれ複数層形成することもできる。なお、銅層表面での光の反射の抑制のため、銅層の表面のうち光の反射を特に抑制したい面に黒化層が配置されていることが好ましい。また、銅層は黒化層に挟まれた構造を有していることがより好ましい。
さらに、上述のようにシート抵抗の小さい黒化層を含む場合、該シート抵抗の小さい黒化層は導電性基板の最表面に配置されていることが好ましい。これは、シート抵抗の小さい黒化層は配線等の電気部材と接続できるため、接続しやすいように導電性基板の最表面に配置されていることが好ましいためである。
具体的な構成例について、図1、図2を用いて以下に説明する。図1、図2は、本実施形態の導電性基板の、透明基材、銅層、黒化層の積層方向と平行な面における断面図の例を示している。
例えば、図1(a)に示した導電性基板10Aのように、透明基材11の一方の面11a側に銅層12と、黒化層13と、を一層ずつその順に積層することができる。また、図1(b)に示した導電性基板10Bのように、透明基材11の一方の面11a側と、もう一方の面(他方の面)11b側と、にそれぞれ銅層12A、12Bと、黒化層13A、13Bと、を一層ずつその順に積層することができる。なお、銅層12(12A、12B)、及び、黒化層13(13A、13B)を積層する順は、図1(a)、(b)の例に限定されず、透明基材11側から黒化層13(13A、13B)、銅層12(12A、12B)の順に積層することもできる。
また、例えば黒化層を透明基材11の1つの面側に複数層設けた構成とすることもできる。例えば図2(a)に示した導電性基板20Aのように、透明基材11の一方の面11a側に、第1の黒化層131と、銅層12と、第2の黒化層132と、をその順に積層することができる。
この場合も透明基材11の両面に銅層、第1の黒化層、第2の黒化層を積層した構成とすることができる。具体的には図2(b)に示した導電性基板20Bのように、透明基材11の一方の面11a側と、もう一方の面(他方の面)11b側と、にそれぞれ第1の黒化層131A、131Bと、銅層12A、12Bと、第2の黒化層132A、132Bと、をその順に積層できる。
なお、図1(b)、図2(b)において、透明基材の両面に銅層と、黒化層と、を積層した場合において、透明基材11を対称面として透明基材11の上下に積層した層が対称になるように配置した例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば、図2(b)において、透明基材11の一方の面11a側の構成を図1(a)の構成と同様に、銅層12と、黒化層13と、をその順に積層した形態とし、透明基材11の上下に積層した層を非対称な構成としてもよい。
ここまで、本実施形態の導電性基板について説明してきたが、本実施形態の導電性基板においては、透明基材上に銅層と、黒化層と、を設けているため、銅層による光の反射を抑制することができる。
本実施形態の導電性基板の光の反射の程度については特に限定されるものではないが、例えば本実施形態の導電性基板は、波長550nmの光の反射率は40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが特に好ましい。これは波長550nmの光の反射率が40%以下の場合、例えばタッチパネル用の導電性基板として用いた場合でもディスプレイの視認性の低下をほとんど引き起こさないため好ましい。
反射率の測定は、黒化層に光を照射するようにして測定を行うことができる。すなわち、導電性基板に含まれる銅層及び黒化層のうち、黒化層側から測定を行うことができる。
具体的には例えば図1(a)のように透明基材11の一方の面11aに銅層12、黒化層13の順に積層した場合、黒化層13に光を照射できるように、図中Aで示した表面側から測定できる。
また、図1(a)の場合と銅層12と黒化層13との配置を換え、透明基材11の一方の面11aに黒化層13、銅層12の順に積層した場合、黒化層13が最表面に位置する側である、透明基材11の面11b側から反射率を測定できる。
なお、後述のように導電性基板は銅層及び黒化層をエッチングすることにより配線を形成できるが、上記反射率は導電性基板のうち透明基材を除いた場合に最表面に配置されている黒化層の、光が入射する側の表面における反射率を示している。このため、エッチング処理前、または、エッチング処理を行った後であれば、銅層及び黒化層が残存している部分での測定値が上記範囲を満たしていることが好ましい。
本実施形態の導電性基板は上述のように例えばタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。この場合導電性基板はメッシュ状の配線を備えた構成とすることができる。
メッシュ状の配線を備えた導電性基板は、ここまで説明した本実施形態の導電性基板の銅層及び黒化層をエッチングすることにより得ることができる。
例えば、二層の配線によりメッシュ状の配線とすることができる。具体的な構成例を図3に示す。図3はメッシュ状の配線を備えた導電性基板30を銅層、黒化層の積層方向の上面側から見た図を示している。図3に示した導電性基板30は、透明基材11と、図中X軸方向に平行な複数の配線31AとY軸方向に平行な配線31Bとを有している。なお、配線31A、31Bは銅層をエッチングして形成されており、該配線31A、31Bの上面および/または下面には図示しない黒化層が形成されている。また、黒化層は配線31A、31Bと同じ形状にエッチングされている。
透明基材11と配線31A、31Bとの配置は特に限定されない。透明基材11と配線との配置の構成例を図4(a)、(b)に示す。図4(a)、(b)は図3のA−A´線での断面図に当たる。
まず、図4(a)に示したように、透明基材11の上下面にそれぞれ配線31A、31Bが配置されていてもよい。なお、この場合、配線31A、31Bの上面には、配線と同じ形状にエッチングされた黒化層32A、32Bが配置されている。
また、図4(b)に示したように、1組の透明基材11A、11Bを用い、一方の透明基材11Aを挟んで上下面に配線31A、31Bを配置し、かつ、一方の配線31Bは透明基材11Aと透明基材11Bとの間に配置されてもよい。この場合も、配線31A、31Bの上面には配線と同じ形状にエッチングされた黒化層32A、32Bが配置されている。なお、既述のように、黒化層と、銅層との配置は限定されるものではない。このため、図4(a)、(b)いずれの場合でも黒化層32A、32Bと配線31A、31Bの配置は上下を逆にすることもできる。また、例えば黒化層を複数層設けることもできる。
ただし、黒化層は銅層表面のうち光の反射を特に抑制したい面に配置されていることが好ましい。このため、図4(b)に示した導電性基板において、例えば、図中下面側からの光の反射を抑制する必要がある場合には、黒化層32A、32Bの位置と、配線31A、31Bの位置とをそれぞれ逆にすることが好ましい。また、黒化層32A、32Bに加えて、配線31Aと透明基材11Aとの間、および/または配線31Bと透明基材11Bとの間に黒化層をさらに設けてもよい。
図3及び図4(a)に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は例えば、図1(b)、図2(b)のように透明基材11の両面に銅層12A、12Bと、黒化層13A、13B(131A、132A、131B、132B)と、を備えた導電性基板から形成することができる。
図1(b)の導電性基板を用いて形成した場合を例に説明すると、まず、透明基材11の一方の面11a側の銅層12A及び黒化層13Aを、図1(b)中X軸方向に平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。図1(b)中のX軸方向とは、図1(b)中の各層の幅方向と平行な方向を意味している。
そして、透明基材11のもう一方の面11b側の銅層12B及び黒化層13Bを図1(b)中Y軸方向と平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。なお、図1(b)中のY軸方向は、紙面と垂直な方向を意味している。
以上の操作により図3、図4(a)に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板を形成することができる。なお、透明基材11の両面のエッチングは同時に行うこともできる。すなわち、銅層12A、12B、黒化層13A、13Bのエッチングは同時に行ってもよい。
図3に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は、図1(a)または図2(a)に示した導電性基板を2枚用いることにより形成することもできる。図1(a)の導電性基板を用いた場合を例に説明すると、図1(a)に示した導電性基板2枚についてそれぞれ、銅層12及び黒化層13を、X軸方向と平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。そして、上記エッチング処理により各導電性基板に形成した線状のパターンが互いに交差するように向きをあわせて2枚の導電性基板を貼り合せることによりメッシュ状の配線を備えた導電性基板とすることができる。2枚の導電性基板を貼り合せる際に貼り合せる面は特に限定されるものではなく、図4(b)のように銅層12等が積層された図1(a)における面Aと、銅層12等が積層されていない図1(a)における面11bとを貼り合せてもよい。
なお、黒化層は銅層表面のうち光の反射を特に抑制したい面に配置されていることが好ましい。このため、図4(b)に示した導電性基板において、図中下面側からの光の反射を抑制する必要がある場合には、黒化層32A、32Bの位置と、配線31A、31Bの位置とをそれぞれ逆にすることが好ましい。また、黒化層32A、32Bに加えて、配線31Aと透明基材11Aとの間、および/または配線31Bと透明基材11Bとの間に黒化層をさらに設けてもよい。
また、例えば透明基材11の銅層12等が積層されていない図1(a)における面11b同士を貼り合せて断面が図4(a)に示した構造となるように貼り合せてもよい。
なお、図3、図4に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板における配線の幅や、配線間の距離は特に限定されるものではなく、例えば、配線に流す電流量等に応じて選択することができる。
このように2層の配線から構成されるメッシュ状の配線を有する導電性基板は、例えば投影型静電容量方式のタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。
(導電性基板の製造方法)
次に本実施形態の導電性基板の製造方法の構成例について説明する。
本実施形態の導電性基板の製造方法は、
透明基材を準備する透明基材準備工程と、
透明基材の少なくとも一方の面側に銅層を形成する銅層形成工程と、
透明基材の少なくとも一方の面側に酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有する黒化層を形成する黒化層形成工程と、を有することが好ましい。
以下に本実施形態の導電性基板の製造方法について説明するが、以下に説明する点以外については上述の導電性基板の場合と同様の構成とすることができるため説明を省略する。
上述のように、本実施形態の導電性基板においては、銅層と、黒化層と、を透明基材上に配置する際の積層の順番は特に限定されるものではない。また、銅層と、黒化層と、はそれぞれ複数層形成することもできる。このため、上記銅層形成工程と、黒化層形成工程の順番や、実施する回数については特に限定されるものではなく、形成する導電性基板の構造に合わせて任意の回数、タイミングで実施することができる。
透明基材を準備する工程は、例えば可視光を透過する絶縁体フィルムや、ガラス基板等により構成された透明基材を準備する工程であり、具体的な操作は特に限定されるものではない。例えば後段の工程での各工程に供するため必要に応じて任意のサイズに切断等を行うことができる。
次に銅層形成工程について説明する。
銅層は既述のように、銅薄膜層を有することが好ましい。また、銅薄膜層と銅めっき層とを有することもできる。このため、銅層形成工程は、例えば乾式めっき法により銅薄膜層を形成する工程を有することができる。また、銅層形成工程は、乾式めっき法により銅薄膜層を形成する工程と、該銅薄膜層を給電層として、湿式めっき法により銅めっき層を形成する工程と、を有していてもよい。
銅薄膜層の形成に用いる乾式めっき法としては、特に限定されるものではなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、又はイオンプレーティング法等を用いることができる。特に、銅薄膜層の形成に用いる乾式めっき法としては、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。
巻取式スパッタリング装置を用いた場合を例に銅薄膜層を形成する工程を説明する。まず、銅ターゲットをスパッタリング用カソードに装着し、真空チャンバー内に基材、具体的には透明基材や黒化層を形成した透明基材等をセットする。真空チャンバー内を真空排気後、Arガスを導入して装置内を0.13Pa〜1.3Pa程度に保持する。この状態で、巻出ロールから基材を例えば毎分1〜20m程度の速さで搬送しながら、カソードに接続したスパッタリング用直流電源より電力を供給し、スパッタリング放電を行い、基材上に所望の銅薄膜層を連続成膜することができる。
湿式めっき法により銅めっき層を形成する工程における条件、すなわち、電気めっき処理の条件は、特に限定されるものではなく、常法による諸条件を採用すればよい。例えば、銅めっき液を入れためっき槽に銅薄膜層を形成した基材を供給し、電流密度や、基材の搬送速度を制御することによって、銅めっき層を形成できる。
次に、黒化層形成工程について説明する。
黒化層形成工程も特に限定されるものではないが、既述のように、スパッタリング法により、黒化層を成膜する工程とすることができる。
この際、既述のように銅と、モリブデンターゲットを用いることができる。この場合、銅のターゲットと、モリブデンのターゲットとを用いて2元同時スパッタリング法により成膜することになる。また、ターゲットとして銅−モリブデン混合焼結体のターゲットを用いることもできる。ターゲットとして、銅−モリブデン混合焼結体のターゲットを用いる場合、銅−モリブデン混合焼結体のターゲットは、モリブデンを10原子%以上75原子%以下の割合で含んでいることが好ましい。銅−モリブデン混合焼結体のターゲットは、モリブデンを10原子%以上60原子%以下の割合で含有することがより好ましい。この場合、残部は銅により構成することができる。
また、銅とモリブデンターゲットを用いる場合、銅−モリブデン混合焼結体のターゲットを用いる場合、いずれの場合でも、チャンバー内に酸素を5体積%以上20体積%以下、窒素を30体積%以上70体積%以下の割合で供給しながらスパッタリング法により、スパッタリングを実施し、黒化層を成膜することが好ましい。
特に、チャンバー内への酸素の供給割合は10体積%以上15体積%以下とすることがより好ましい。また、チャンバー内への窒素の供給割合は35体積%以上40体積%以下とすることがより好ましい。
なお、スパッタリングを行う際、チャンバー内に供給するガスは、酸素と窒素以外の残部については不活性ガスとすることが好ましい。酸素と窒素以外の残部については例えばアルゴンまたはヘリウムを供給することができる。
そして、ここで説明した導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、既述の導電性基板と同様に、銅層は厚さが100nm以上であることが好ましく、150nm以上とすることがより好ましい。また、銅層の厚さの上限値は特に限定されないが、3μm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
また、ここで説明した導電性基板の製造方法により得られる導電性基板においても、黒化層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば20nm以上であることが好ましく、30nm以上とすることがより好ましい。黒化層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、50nm以下とすることが好ましく、45nm以下とすることがより好ましい。
成膜した黒化層中には、酸素、窒素、銅、及びモリブデンが含有され、黒化層中の銅とモリブデンの金属元素の合計を100原子%とした場合に、モリブデンの割合が4原子%以上75原子%以下であることが好ましい。これは、モリブデンが4原子%未満では反射率の低下が十分でない場合があり好ましくなく、モリブデンが75原子%を超えると透過光が多くなり反射率の低下が十分ではない場合があるため好ましくないからである。モリブデンの割合は75原子%未満であることがより好ましく、60原子%以下であることがより好ましい。
酸素、窒素、銅、及びモリブデンはどのような形態で含まれていてもよい。例えば銅とモリブデンとが混合焼結を形成し、酸素および/または窒素を含有する銅モリブデン混合焼結が黒化層に含有されていてもよい。また、銅またはモリブデンが例えば酸化銅(Cu2O、CuO、Cu2O3)や窒化銅(Cu3N)、酸化モリブデン(MoO3、MoO2、Mo2O3)や窒化モリブデン(Mo2N、MoN)、CuMoO4、Cu2MoO5等の酸化物または窒化物を生成し、該化合物が黒化層に含まれていてもよい。
なお、黒化層は例えば酸素および窒素を含有する銅モリブデン混合物のように、酸素、窒素、銅、及びモリブデンを同時に含有する1種類の物質のみで構成される層であってもよい。また、例えば上述した酸素および/または窒素を含有する銅モリブデン混合焼結や、銅の酸化物、銅の窒化物、モリブデンの酸化物、モリブデンの窒化物から選択される1種類以上の物質を含有する層であってもよい。
そして成膜した黒化層はシート抵抗が十分に小さい場合、黒化層に配線等の電気部材とのコンタクト部を形成することができ、黒化層が最表面に位置する場合でも銅層を露出する必要がなくなるため好ましい
そして、黒化層に配線等の電気部材とのコンタクト部を形成するためには、黒化層のシート抵抗としては、2.00×10−1Ω/□以下であることが好ましい。本発明の発明者らの検討によると、黒化層のシート抵抗は黒化層を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度と相関を有している。そして、黒化層を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度が低いほど黒化層のシート抵抗は低くなり好ましい。特に黒化層のシート抵抗を十分に低くする場合、黒化層を成膜する際の酸素濃度は20体積%以下であることが好ましく、15体積%以下であることがより好ましい。
そして、ここで説明した導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、メッシュ状の配線を備えた導電性基板とすることができる。この場合、上述の工程に加えて、銅層と、黒化層と、をエッチングすることにより、配線を形成するエッチング工程をさらに有することができる。
係るエッチング工程は例えば、まず、エッチングにより除去する部分に対応した開口部を有するレジストを、導電性基板の最表面に形成する。図1(a)に示した導電性基板の場合、導電性基板に配置した黒化層13の露出した面A上にレジストを形成することができる。なお、エッチングにより除去する部分に対応した開口部を有するレジストの形成方法は特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィー法により形成することができる。
次いで、レジスト上面からエッチング液を供給することにより、銅層12、黒化層13のエッチングを実施することができる。
なお、図1(b)のように透明基材11の両面に銅層、黒化層を配置した場合には、導電性基板の最表面A及びBにそれぞれ所定の形状の開口部を有するレジストを形成し、透明基材11の両面に形成した銅層、黒化層を同時にエッチングしてもよい。
また、透明基材11の両側に形成された銅層及び黒化層について、一方の側ずつエッチング処理を行うこともできる。すなわち、例えば、銅層12A及び黒化層13Aのエッチングを行った後に、銅層12B及び黒化層13Bのエッチングを行うこともできる。
本実施形態の導電性基板においては、黒化層が既述のように酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有し、黒化層は銅層と同様のエッチング液への反応性を示す。このため、エッチング工程において用いるエッチング液は特に限定されるものではなく、一般的に銅層のエッチングに用いられるエッチング液を好ましく用いることができる。エッチング液としては例えば、塩化第二鉄と、塩酸と、の混合水溶液をより好ましく用いることができる。エッチング液中の塩化第二鉄と、塩酸との含有量は特に限定されるものではないが例えば、塩化第二鉄を5質量%以上50質量%以下の割合で含むことが好ましく、10質量%以上30質量%以下の割合で含むことがより好ましい。また、エッチング液は例えば、塩酸を1質量%以上50質量%以下の割合で含むことが好ましく、1質量%以上20質量%以下の割合で含むことがより好ましい。なお、残部については水とすることができる。
また、エッチング液としては、42°ボーメの塩化第二鉄溶液を用いることもできる。
エッチング液は室温で用いることもできるが、反応性を高めるため加温していることが好ましく、例えば40℃以上50℃以下に加熱して用いることが好ましい。
上述したエッチング工程により得られるメッシュ状の配線の具体的な形態については、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
また、既述のように、図1(a)、図2(a)に示した透明基材11の一方の面側に銅層、黒化層を有する導電性基板を2枚貼り合せてメッシュ状の配線を備えた導電性基板とする場合には、導電性基板を貼り合せる工程をさらに設けることができる。この際、2枚の導電性基板を貼り合せる方法は特に限定されるものではなく、例えば接着剤等を用いて接着することができる。
以上に本実施形態の導電性基板及び導電性基板の製造方法について説明した。本実施形態の導電性基板、または本実施形態の導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、黒化層が酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有する。このため、黒化層は銅層と同様のエッチング液への反応性を示し、同時にエッチング処理を行うことができる銅層と、黒化層と、を備えた導電性基板とすることができる。
そして、本実施形態の導電性基板によれば、銅層と黒化層とがエッチング液に対してほぼ同じ反応性を示すことから、容易に所望の配線を形成することができる。また、黒化層は黒色であるため、銅層による光の反射を抑制することができ、例えばタッチパネル用の導電性基板とした場合に、視認性の低下を抑制することができる。
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって、なんら限定されるものではない。
まず、以下の実験例、比較例において作製した試料の評価方法について説明する。
(評価方法)
(1)光学特性(反射率、明度)
以下の実験例2、及び比較例3において作製した導電性基板について、光学特性(反射率)の測定を行い、測定した光学特性(反射率)から明度を算出した。
測定は、紫外可視分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 型式:U−4000)に反射率測定ユニットを設置して行った。
以下の実験例2、及び比較例3では断面形状が図1(a)と同様の構造を有する導電性基板を作製した。そこで、作製した導電性基板の銅層及び黒化層(比較例3では銅の酸窒化膜)を形成した側の図1(a)における最表面Aに対して、入射角5°、受光角5°として、波長350nm以上780nm以下の範囲の光を照射した際の反射率を測定した。なお、測定に際しては波長350nm以上780nm以上の範囲で、波長を1nmごとに変化させた光を照射し、各波長についての反射率を測定している。
なお、測定の際にはPETフィルムの反りを矯正するためガラス基板上に各実験例、比較例の試料を載置しクランプで固定して、黒化層、または銅の酸窒化膜側から光を照射して測定した。
測定した反射率を用いて色彩計算プログラムを用い、光源A視野2度の条件でCIE 1976 (L*,a*,b*)色空間上の座標を計算した。
(2)溶解試験
以下の実験例1、及び比較例1、2において作製した、透明基材上に黒化層を形成した試料をエッチング液に浸漬して黒化層の溶解試験を行った。なお、比較例1、2においては黒化層にかえて銅またはモリブデンの酸窒化膜、またはニッケル−モリブデン系の酸窒化膜を形成している。このため、これらの膜の溶解試験となる。
エッチング液としては、銅層のエッチング液として用いられる塩化第二鉄10質量%と、塩酸10質量%と、残部が水からなる水溶液を用い、エッチング液の温度は室温(25℃)として溶解試験を実施した。
また、銅層のエッチング液として用いられる、42°ボーメの塩化第二鉄溶液を用いた溶解試験も実施した。
次に溶解試験の評価方法について説明する。
溶解試験の評価を規定するため、実験例1で用いた透明基材である縦5cm、横5cm、厚さ0.05mmのポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)の一方の面上の全面に、厚さ300nmの銅層を形成した試料をエッチング液に浸漬する予備実験を行った。この場合、上記いずれのエッチング液でも銅層は10秒以内に溶解することが確認できた。
このため、上記エッチング液に浸漬後10秒以内に黒化層が全量溶解したものを◎、30秒以内に黒化層が全量溶解したものを○、1分以内に黒化層が全量溶解したものを◇、3分以内に黒化層が全量溶解したものを△、3分を超えても黒化層が全量は溶解せず一部が残存したものを×と評価した。
(3)EDS分析
実験例1において作製した、透明基材上に黒化層を形成した試料について、SEM−EDS装置(SEM:日本電子株式会社製 型式:JSM−7001F、EDS:サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製 型式:検出器 UltraDry 解析システム NORAN System 7)により行った。
(試料の作製条件)
以下に各実験例、比較例における試料の製造条件、及びその評価結果を説明する。
[実験例1]
実験例1においては、以下に示す実験例1−1〜実験例1−12の試料を作製し、黒化層の組成についてのEDS分析、及び溶解試験を実施した。
なお、本実験例は後述する実験例2のための予備実験として実施したものであり、参考例となる。
(実験例1−1〜実験例1−12)
黒化層を評価するためPET基材上に酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有する黒化層を形成した試料(実験例1−1〜1−12)を作製した。具体的な手順について、以下に説明する。
まず、縦5cm、横5cm、厚さ0.05mmのポリエチレンテレフタレート樹脂(PET、商品名「ルミラーU48」、東レ株式会社製)製の透明基材を準備した。
次に、直流スパッタリング法により黒化層を成膜した。
黒化層13の成膜はスパッタリング装置(アルバック株式会社製 型式:SIH−450)を用いて行った。
黒化層を成膜する際のスパッタリングの具体的な条件について以下に説明する。
まず、黒化層を成膜する際のターゲットとして、モリブデンと銅の2枚ターゲットを用いた。
黒化層をスパッタリングにより成膜する際、チャンバー内には窒素と酸素が4:1の比率である混合ガス(窒素と酸素)と、アルゴンガスとを合計で10SCCMになるように供給しながら行った。
具体的には、チャンバーに内に供給するアルゴンガスと、混合ガス(窒素と酸素)との比を5:5(条件1)、3:7(条件2)、2:8(条件3)と変えて、酸素、窒素、アルゴンの各体積%が表1に示す割合となるように供給しながらスパッタリングを行った。表1に示したチャンバー内に供給するガス比の条件を以後、条件1〜条件3と記述する。
なお、スパッタリング前のチャンバー内の到達真空度は1.5×10
−4Paとした。
次に、準備した透明基材を基板ホルダーにセットし、基板ホルダーを30rpmの速度で回転させた。そして、銅とモリブデンのターゲットから供給する金属の金属比(at%)が80:20、65:35、50:50、25:75の4条件となるように予め計算したDC電力を各ターゲットに印加して、2元同時スパッタリングにより黒化層(膜厚300nm)を成膜した。
なお、銅とモリブデンのターゲットから供給する金属の金属比を所望の値とするためのDC電力の大きさは以下の事前試験により算出した。
銅とモリブデンをそれぞれガス条件1〜条件3、DCパワー400W、スパッタ時間20分でガラス板上に製膜し、膜厚を測定して成膜速度(Vai:nm/(W・min)、a=Cu、Mo、i=1,2,3)を求めた。
これから銅とモリブデンの金属比をm:n、膜厚300nm、スパッタ時間20分として以下の計算式から各ターゲットに印加するDC電力(Pai)を計算した。
PCui=300×m/(m+n)/(20*VCui)
PMoi=300×n/(m+n)/(20*VMoi)
ここまで説明したように、銅とモリブデンのターゲットから供給する金属の金属比について4条件と、チャンバー内に供給するガス比の条件について3条件とを変えて、条件を組み合わせた12種類の膜を透明基材上に成膜した。この際、透明基材上に成膜した12種類の膜を成膜した試料を、実験例1−1〜実験例1−12とした。
作製した12種類の膜の作製条件と、実験例の番号との関係をまとめると表2の通りとなる。例えば実験例1−1は、チャンバー内に供給する酸素、窒素、アルゴンのガス比(体積%)が条件1(O2:N2:Ar=10:40:50)であり、銅とモリブデンのターゲットから供給する金属の金属比(at%)が80:20となるようにDC電力を印加している。
作製した試料の評価結果について説明する。
(黒化層の組成評価:EDS分析結果)
EDS分析から、実験例1−1〜実験例1−12で作製した黒化層はいずれも銅、モリブデン、窒素、酸素から構成されていることが確認できた。表3に実験例1−1〜実験例1−12のうち、5種類の実験例についてのEDS分析結果を示す。
(溶解試験結果)
次に実験例1−1〜実験例1−12で作製した試料について黒化層の溶解試験を実施した。
エッチング液として塩化第二鉄10質量%と、塩酸10質量%と、残部が水からなる水溶液、または42°ボーメの塩化第二鉄溶液(FeCl3)を用いて、25℃で溶解試験を行った。その結果を表4と表5に示す。
なお、表4にエッチング液として塩化第二鉄10質量%+塩酸10質量%水溶液を使用した場合の溶解試験の結果を示す。また、表5にエッチング液として42°ボーメの塩化第二鉄溶液を使用した場合の溶解試験の結果を示す。
表4に示した結果によると、エッチング液として塩化第二鉄10質量%と、塩酸10質量%と、残部が水からなる水溶液を用いた場合、実験例1−1〜実験例1−12のいずれの試料においても30秒以内に黒化層が溶解していることが確認できた。すなわち、これらの実験例の黒化層は、銅層と同等の溶解性を示すことが確認できた。
表5に示した結果によると、エッチング液として42°ボーメの塩化第二鉄溶液を用いた場合、実験例1−7、実験例1−10、実験例1−12において、黒化層が溶解するのに数分程度要したものの、他の試料は数秒で溶解することが確認できた。
このため、これらの実験例の黒化層は、銅層と同等の溶解性を示すことが確認できた。
以上の結果から、実験例1−1〜実験例1−12で作製した黒化層を銅層の上に形成し、パターニングを行った場合、銅層、及び黒化層を同時にエッチング処理できることを確認できた。このため、後述する実験例2で作製する導電性基板はいずれも同時にエッチング処理を行うことができる銅層と、黒化層と、を備えた導電性基板であることを確認できた。
[実験例2]
次に、実験例1で行った予備実験の結果を参考に導電性基板を作製し、その評価を行った。以下に説明する実験例2−1〜実験例2−12はいずれも実施例となる。
本実験例では、後述するように、透明基材の一方の面上に銅層、及び黒化層が形成された構造を有する導電性基板を作製した。導電性基板としては、黒化層の成膜条件の異なる9種類の試料を作製した。
具体的には、黒化層の成膜条件が、表6に○で示した9種類(実験例2−1、2−2、2−3、2−4、2−5、2−7、2−8、2−9、2−10)の導電性基板を作製した。なお、実験例2−1の場合、チャンバー内に供給する酸素、窒素、アルゴンのガス比(体積%)が条件1(O2:N2:Ar=10:40:50)であり、銅とモリブデンのターゲットから供給する金属の金属比(at%)が80:20となるようにDC電力を印加して黒化層を成膜している。
また、実験例2の各実験例のうち、実験番号の実験例2−の後ろの番号が実験例1と同じ実験例については、膜厚以外は同じ条件で黒化層を成膜していることを示している。例えば実験例2−1と実験例1−1とは、膜厚以外は黒化層を同じ条件で成膜していることになる。
まず、縦5cm、横5cm、厚さ0.05mmのポリエチレンテレフタレート樹脂(PET、商品名「ルミラーU48」、東レ株式会社製)製の透明基材11を準備した。
次に透明基材11の一方の面の全面に銅層12を形成した。銅層12は、スパッタリング法により銅薄膜層を形成し、次いで、該銅薄膜層を給電層として湿式めっき法により銅めっき層を形成した。
具体的にはまず、Cuターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用いた直流スパッタリング法により、透明基材11の一方の面上に100nmの厚さの銅薄膜層を成膜した。その後、電気めっきにより銅めっき層を0.5μm積層し、銅層12とした。
次に、銅層12上の全面に実験例1と同様の方法で2元同時スパッタリング法により黒化層13を成膜した。なお、既述のように各実験例について2元同時スパッタリング法により黒化層を成膜する際、チャンバー内に供給する酸素、窒素、アルゴンのガス比(体積%)、及び銅とモリブデンのターゲットから供給する金属比が表6の条件となるように設定した。
上記スパッタリング法により、各実験例において厚さ30nmの黒化層13を成膜した。
以上の工程により得られた導電性基板のうち、実験例2−1、実験例2−3、実験例2−5、実験例2−7、実験例2−9について反射率測定実施した。
反射率の測定結果を図5に示す。
図5に示した結果から、波長550nmの光に対する反射率はいずれの実験例でも30%より低くなっていることが確認できた。さらに実験例2−9(銅・モリブデン金属比=50:50、ガス条件3)と実験例2−5(銅・モリブデン金属比=65:35、ガス条件2)は波長550nmの反射率が0に近く、波長350nm〜550nmの範囲の光に対しても反射率は20%未満であることが確認できた。
各実験例の導電性基板について測定した反射率から計算した明度L*の値を表7に示す。実験例2−5(銅・モリブデン金属比=65:35、ガス条件2)は27.1と、非常に低い値が得られることが確認できた。
(シート抵抗の評価)
上述の各実験例の導電性基板を作製した際の黒化層の成膜条件について、黒化層の膜厚を500nmとした点と、銅層を形成しなかった点以外は同じ条件で透明基材上に黒化層のみを形成した試料(以下同様の試料を「シート抵抗測定用試料」とも記載する)を作製した。すなわち、透明基材上に直接黒化層が形成され、該黒化層の膜厚が500nmであるシート抵抗測定試料を作製した。
そして、該シート抵抗測定用試料について黒化層のシート抵抗の評価を行った。
シート抵抗は、四探針法を用いて測定を行った。四探針法は測定する試料の表面に四本の針状電極を同一直線上に配置し、外側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定して抵抗を測定する方法である。測定に際しては四探針測定器(三菱化学株式会社製 型式:Loresta IP)を用いて測定を行った。
シート抵抗の評価結果を表8に示す。なお、表中の数値の単位はΩ/□となる。
表8から本実験例2−1〜実験例2−10のいずれの試料のシート抵抗は十分小さいことが確認できた。
[比較例1]
本比較例では実験例1の黒化層にかえて、銅またはモリブデンと、窒素と、酸素とを含有する銅またはモリブデンの酸窒化膜を成膜した点以外は実験例1と同様にして試料を作製した。
銅またはモリブデンの酸窒化膜は、チャンバー内に供給するガス比の条件を、条件1または条件2となるように設定した点、及びターゲットとして銅またはモリブデンを用いた点以外は実験例1の黒化層と同様にして成膜した。
銅の酸窒化膜が比較例1−1、比較例1−2、モリブデンの酸窒化膜が比較例1−3、比較例1−4になる。
なお、透明基材については実験例1の試料と同様の条件としている。また、透明基材上に形成した銅またはモリブデンの酸窒化膜の膜厚は実験例1の場合と同様に300nmとしている。
得られた試料について、塩化第二鉄10質量%と、塩酸10質量%と、残部が水からなる水溶液で溶解試験を行い、エッチング性を評価した。評価結果を表9に示す。
[比較例2]
本比較例では実験例1の黒化層にかえて、ニッケルと、モリブデンと、窒素と、酸素とを含有するニッケル−モリブデン系の酸窒化膜を成膜した点以外は実験例1と同様にして試料を作製した。
ニッケル−モリブデン系の酸窒化膜は、チャンバー内に供給するガス比の条件を、条件1、条件2または条件3となるように設定した点、及びターゲットとしてニッケルターゲット、及びモリブデンターゲットを用いた点以外は実験例1の黒化層と同様にして成膜した。
なお、ニッケル−モリブデン系の酸窒化膜を成膜する際、ニッケルターゲットと、モリブデンターゲットから供給する金属の金属比が、表9に示すように80:20、75:25、50:50となるよう、事前に行った試験を基に各ターゲットに印加する電圧を選択した。
表9に示すように、チャンバー内に供給するガス比の条件、及びニッケルターゲット、モリブデンターゲットから供給する金属の金属比を変えて比較例2−1〜比較例2−9の導電性基板を作製した。
本比較例においても、透明基材については実験例1の試料と同様の条件としている。また、透明基材上に形成したニッケル−モリブデン系の酸窒化膜の膜厚は実験例1の場合と同様に300nmとしている。
得られた試料について、塩化第二鉄10質量%と、塩酸10質量%と、残部が水からなる水溶液で溶解試験を行い、エッチング性を評価した。評価結果を表9に示す。
表9から、チャンバー内に供給するガス比の条件が、条件1の銅酸窒化膜である比較例1−1が◎、条件2の銅酸窒化膜である比較例1−2と、条件2のモリブデン酸窒化膜である比較例1−4が○であるが、他の試料のエッチング速度は遅いことが分かる。
特に同じエッチング液を用いた表4の結果と比較すると、実験例1の黒化層の溶解性が非常に優れていることが確認できた。
[比較例3]
実験例2の場合の黒化層にかえて、比較例1−1の場合と同様の条件(銅ターゲットのみを用い、ガス条件1)で、銅層の上面に銅の酸窒化膜を形成した導電性基板を作製した。作製した導電性基板の銅の酸窒化膜の膜厚は30nmとなる。
次いで、作製した導電性基板について反射率の測定を行い、測定した反射率から明度L*を算出したところ44であった。
表7に示した実験例2の結果と比較して明度L*が非常に高くなっていることが確認できた。
以上から、透明基材の少なくとも一方の面側に、銅層と、酸素、窒素、銅、及びモリブデンを含有する黒化層と、を備えた導電性基板は、同時にエッチング処理を行うことができる銅層と、黒化層とを備え、従来よりもエッチング性に優れていることが確認できた。また、係る導電性基板は低明度であるため、タッチパネル用の導電性基板として好適に使用することができることを確認できた。