以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本発明の一実施形態に係る中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜が筐体内に収容された中空糸膜モジュールである。すなわち、複数の中空糸膜と、前記複数の中空糸膜を収容する筐体とを備える中空糸膜モジュールである。
また、中空糸膜モジュールとしては、具体的には、各中空糸膜の中空内部を開放した状態で、前記各中空糸膜を前記筐体に、封止剤等で封止した中空糸膜モジュール等が挙げられる。このような中空糸膜モジュールは、中空糸膜を筐体に封止されているので、中空糸膜が筐体に液密に固定されている。また、中空糸膜モジュールは、前記各中空糸膜と前記筐体とが封止剤によって直接接着されて封止されていてもよいし、前記各中空糸膜が封止剤によって筒状ケースに接着され、この筒状ケースが筐体に固定されることによって、前記各中空糸膜と前記筐体とが封止されていてもよい。また、中空糸膜モジュールは、例えば、中空糸膜を所定本数束ねて、この中空糸膜束を、所定長さに切断し、所定形状の筐体に収容(充填)し、その端部を、ポリウレタン樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を含む封止剤で、前記筐体に固定することによって、得られる。また、前記中空糸膜モジュールとしては、例えば、図1に示す中空糸膜モジュール等が挙げられる。
中空糸膜モジュール30は、図1に示すように、筐体31と、複数の中空糸膜32と、導入口35と、導出口36とを備える。筐体31は、中空糸膜モジュールの筐体として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、円筒状等の筒状体等が挙げられる。また、複数の中空糸膜32は、上端部33が、中空部を開口した状態で、下端部34が、中空部を封止した状態で、前記筐体31に、上端部33が固定される。そして、筐体31には、複数の中空糸膜32の下端部34側に、被処理液を筐体31内に導入する導入口35を備える。また、筐体31には、複数の中空糸膜32の上端部33側に、被処理液が各中空糸膜32を透過したろ過済液を導出する導出口36を備える。中空糸膜モジュール30は、膜ろ過装置に組み込まれ、導入口35から、被処理液が導入されることによって、中空糸膜32によってろ過されたろ過済液が導出口36から導出される。なお、中空糸膜モジュール30は、筐体31内に導入された空気を筐体31外に排出するための、空気抜き口37を備えていてもよい。また、このような中空糸膜モジュールを用いた膜ろ過法では、中空糸膜の外表面から内表面にむかって、被処理液が透過されることによって、被処理液がろ過される。このことから、中空糸膜の外表面側を、1次側とも呼び、内表面側を、2次側とも呼ぶ。
また、中空糸膜モジュールは、上述したように、中空糸膜の一端が開口固定され、他端が密封されているが、これに限定されず、例えば、後述するような、中空糸膜の両端が開口固定されていてもよい。
中空糸膜モジュール40は、図2に示すように、筐体41と、複数の中空糸膜42と、導入口45と、導出口46とを備える。筐体41は、筐体31と同様、中空糸膜モジュールの筐体として用いることができるものであれば、特に限定されない。また、複数の中空糸膜42は、上端部43及び下端部44が、ともに中空部を開口した状態で、前記筐体41に、上端部43及び下端部44が固定される。そして、筐体41には、その側面の、中空糸膜42の長手方向(繊維方向)中央部に、被処理液を筐体41内に導入する導入口45を備える。また、筐体41には、複数の中空糸膜32の上端部43側及び下端部44側の両方に、被処理液が各中空糸膜44を透過したろ過済液を導出する導出口46を備える。中空糸膜モジュールとしては、このような中空糸膜の両端が開口固定されているもの等も挙げられる。
本実施形態に係る中空糸膜モジュールは、上記のように、複数の中空糸膜が筐体内に収容された中空糸膜モジュールであって、収容する中空糸膜としては、その分画粒子径が0.001〜0.5μmである中空糸膜を用いる。そして、前記中空糸膜モジュールは、この中空糸膜を収容し、この中空糸膜モジュールに純水を透過させたときの透過流束を膜間差圧で除した値(モジュール透過係数)が、0.2〜1.5m/日/kPaである。また、この中空糸膜モジュールは、分画粒子径が0.001〜0.5μmである中空糸膜を収容し、モジュール透過係数が上記範囲内であれば、中空糸膜の配置方法は特に限定されない。
まず、中空糸膜モジュールに純水を透過させたときの透過流束を膜間差圧で除した値は、例えば、以下のように測定する。
まず、例えば、図1に示すような中空糸膜モジュールを用い、所定の膜間差圧となるように設定した状態で、純水を透過させたときの、1モジュールの純水透水量(m3/日)を測定する。具体的には、図1に示すような中空糸膜モジュールを用い、空気抜き口37を閉じて、導入口35から水を入れて、内圧が、膜間差圧が所定の値になる値になった際に、導出口36から出てくる水の量を測定する。なお、膜間差圧としては、0.01〜0.1MPaとなるように設定することが好ましく、例えば、本実施形態では、0.02MPaとなるように設定する。そして、この透水量(m3/日)を、1モジュールに備えられる中空糸膜の総膜面積(m2)で除することで、透過流束(m/日)を算出した。この透過流束(m/日)を膜間差圧で除する。このようにして得られた値を、モジュール透過係数kとも呼ぶ。
このモジュール透過係数kは、上記式(1)で表される、ダルシー(Darcy)の式における、通過抵抗(Rm、Rp、Rc)と、被処理液の粘度μとにかかわる数値であり、これらの数値を定数とみなしたときの値である。このモジュール透過係数kは、以下のように考えられる。純水を用いて透水量等を測定すると、RpとRcとは、ファウラント由来の通過抵抗であるので、その変化は無視することができる。また、粘度μも、被処理液が純水であるので、常に一定であり、その変化は無視することができる。このことから、このモジュール透過係数kは、通過抵抗Rmに依存する値である。これは、例えば、20cmの中空糸膜1本を用いて測定した場合には、中空糸膜自体の通過抵抗として考えることができる。すなわち、前記中空糸膜の純水の透過量(単糸透水量)(LMH:L/m2/時)、例えば、膜間差圧0.1MPaにおける純水の透過量等を測定する場合と同様に考えることができる。
しかしながら、実際に、工業上利用する中空糸膜モジュールの場合、中空糸膜と中空糸膜との隙間を水が流れる際の圧力損失や、中空糸膜の中空部を水が流れる際の圧力損失等に起因する、中空糸膜モジュールとしての抵抗値(通過抵抗)が無視できない程度高くなってしまう。このため、本発明者等は、中空糸膜モジュールとしては、このような抵抗値も勘案したモジュール透過係数kに着目した。すなわち、モジュール透過係数kが小さいと、膜間差圧ΔPに対する透過流束uの傾きが小さいことになり、透過流束uを高めるためには、膜間差圧を比較的高い圧力にする必要がある。これに対して、モジュール透過係数kが大きいと、膜間差圧ΔPに対する透過流束uの傾きが大きいことになり、透過流束uを高める際に、膜間差圧を比較的低い圧力で充分である。このことから、分画特性に優れた中空糸膜を備えていても、モジュール透過係数kが大きい中空糸膜モジュールが得られることが好ましい。
そして、上記のような中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜は、分画粒子径が、0.001〜0.5μmであり、0.01〜0.3μmであることが好ましく、0.02〜0.2μmであることがより好ましい。この分画粒子径は、中空糸膜の通過を阻止できる最小粒子の粒子径のことをいい、具体的には、例えば、中空糸膜による阻止率が90%となる粒子径等が挙げられる。このような分画粒子径は、小さければ小さいほど好ましいが、優れた透過性能を維持するためには、0.001μm程度が限度である。このため、分画粒子径の最小値は、0.001μm程度であり、透過性能の点から、0.01μm程度であることが好ましい。また、中空糸膜の分画粒子径が、大きすぎると、透過性能が高まったとしても、分画特性が低下してしまい、除去対象の適用範囲が狭くなってしまう傾向がある。このことから、中空糸膜の分画粒子径が、上記範囲内であれば、透過性能の低下を抑制しつつ、優れた分画特性を発揮できる。
また、中空糸膜は、分画粒子径によって、除去対象の適用範囲が異なる。具体的には、分画粒子径が0.05〜0.1μmであれば、精密ろ過膜として、微生物やウィルスの除去に適用できる。また、分画粒子径が0.001〜0.01μmであれば、限外ろ過膜として、微小病原菌やタンパク質の除去に適用できる。また、分画粒子径が0.002μm以下であれば、逆浸透膜として脱塩等に適用できる。
以上のことから、本実施形態に係る中空糸膜モジュールは、精密ろ過膜として微生物やウィルスの除去にも適用できるような優れた分画特性を有しつつ、優れた透過性能も発揮できる。
中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜は、上述したように、分画特性に優れている。このような優れた分画特性を有する中空糸膜の場合、膜表面及び膜内に存在する細孔が比較的小さいため、膜間差圧を比較的高くしないと、透過流束を充分に高めることができない傾向がある。このような分画粒子径を有する中空糸膜を備えた中空糸膜モジュールであっても、中空糸膜モジュールに純水を透過させたときの透過流束を膜間差圧で除した値であるモジュール透過係数kが、0.2〜1.5m/日/kPaであると、膜間差圧を必要以上に高めることなく、高い透過流束を実現できる。また、モジュール透過係数kは、0.2〜1.5m/日/kPaであり、0.2〜1m/日/kPaであることが好ましく、0.3〜0.6m/日/kPaであることがより好ましい。すなわち、このモジュール透過係数kが、上記範囲内になるように、筐体に充填させる中空糸膜の、透過性能、長手方向の長さ、外径、内径、及び膜厚の性状や、筐体に充填させる中空糸膜の本数等を調整することによって、膜間差圧を必要以上に高めることなく、高い透過流束を実現できる。これに対して、モジュール透過係数kが大きすぎる場合には、例えば、単糸透水量が多くなりすぎる中空糸膜によって構成されるため、中空糸膜の分画性能が低く、ろ過に充分な実用性が得られない傾向がある。または、中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜の充填率が低いことや、中空糸膜の有効長が短い等の原因により、中空糸膜モジュールとして、実用上の充分な水量が得られなくなり、透過流束向上によるコスト削減効果を充分に得られなくなる傾向がある。例えば、中空糸膜の有効長が短すぎると、透過流束を高めることができるが、中空糸膜モジュールも小さいものになるため、中空糸膜の総面積が減少し、実際の処理水量が少なくなってしまう傾向がある。また、モジュール透過係数kが小さすぎる場合には、透過流束を高めた際には、膜間差圧が上昇しやすくなり、差圧上昇抑制によるファウリング抑制効果が得られにくくなる傾向がある。
上記のことから、本実施形態に係る中空糸膜モジュールは、膜間差圧を必要以上に高めずに、高い透過流束を維持できるので、膜間差圧を高めたことによる、ろ過効率の低下を抑制することができると考えられる。よって、この中空糸膜モジュールは、分画特性に優れるだけではなく、長期間にわたって、優れた透過性能を維持できると考えられる。
また、透過流束を高めると、膜間差圧が上昇することに起因して、物理逆洗による回復性が低下する傾向がある。これに対して、本実施形態に係る中空糸膜モジュールであれば、透過流束を高めるために、膜間差圧を必要以上に高める必要がなく、ファウラントが中空糸膜に押し付けられて固着することを抑制でき、優れたファウリング抑制効果を発揮できると考えられる。
また、前記中空糸膜モジュールは、前記中空糸膜の充填率が、10〜65%であることが好ましく、10〜60%であることがより好ましく、20〜55%であることがさらに好ましい。前記充填率が低すぎると、モジュール透過係数が高くなっても、透水量が少なくなりすぎる傾向がある。また、前記充填率が高すぎると、モジュール透過係数が上記範囲内になりにくく、長期間にわたって、ろ過効率の低下を抑制しにくい傾向がある。よって、前記充填率が、上記範囲内であると、モジュール透過係数が上記範囲内に入りやすくなるため、より長期間にわたって、優れた透過性能を維持できる。
また、この中空糸膜の充填率は、筐体内部の、中空糸膜の長手方向(繊維方向)に垂直な断面の面積に対する、複数の中空糸膜の合計断面積の比である。具体的には、図3に示すように、前記筐体31の中空部分の、中空糸膜32の長手方向(繊維方向)に垂直な断面の面積に対する、複数の中空糸膜32の合計断面積の比である。なお、中空糸膜32の断面積は、中空部分の断面積ではなく、膜自体を含めた断面積であり、中空糸膜32の外径から算出される断面積である。そして、前記充填率の算出方法は、例えば、前記筐体31に収容されている中空糸膜の本数(本)と1本の前記中空糸膜32の断面積(m2/本)との積、すなわち、前記筐体31内で中空糸膜32が占有している面積を、前記筐体31の内径から算出した面積、すなわち、前記筐体31の内面積で除することによって、前記充填率を算出することができる。なお、図3は、図1に示す中空糸膜モジュールの概略断面図である。
また、前記中空糸膜モジュールに備えられる筐体は、上述したように、中空糸膜モジュールの筐体として用いることができるものであれば、特に限定されない。また、前記筐体の内径は、10〜200cmであることが好ましく、10〜100cmであることがより好ましく、10〜50cmであることがさらに好ましい。また、前記筐体の高さは、0.3〜3mであることが好ましく、0.3〜2mであることがより好ましく、0.5〜1.5mであることがさらに好ましい。この筐体が大きすぎる場合、取扱性が悪く、メンテナンス時にかかるコストが大きくなる傾向がある。また、この筐体が小さすぎる場合、実用上、充分な流量を確保することができず、結果として、中空糸膜モジュールを多数用意することになり、設備上でも運転上でもかかるコストが大きくなる傾向がある。
次に、前記中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜について説明する。
この中空糸膜としては、それを筐体に収容することによって、前記中空糸膜モジュールとすることができる中空糸膜であれば、特に限定されない。
また、前記中空糸膜は、親水性を示す中空糸膜であることが好ましい。このような中空糸膜であれば、汚れに対する耐性が高いと考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。中空糸膜の表面又は内部に堆積される濁質成分であるファウラントとしては、疎水性有機物が多い。特に、この中空糸膜を、水処理等の、被処理液として水系媒体を用いたろ過に用いた場合、ファウラントとしては、疎水性有機物が多い。中空糸膜が親水性であるほうが、疎水性であるより、この疎水性有機物の、中空糸膜への堆積を抑制できる。このことから、中空糸膜は、親水性であることによって、耐汚染性が高まると考えられる。さらに、この中空糸膜を、水処理等の、被処理液として水系媒体を用いたろ過に用いた場合、中空糸膜の透水性を高めることができ、ろ過抵抗を下げることができる。
また、前記中空糸膜の親水性は、親水性を示せば、その程度は、特に限定されない。例えば、前記中空糸膜の親水性としては、親水性により耐汚染性を高める程度の親水性等が挙げられる。また、前記中空糸膜の親水性の程度を、湿潤状態での透水量(湿潤透水量)に対する乾燥状態での透水量(乾燥透水量)の比(乾燥透水量/湿潤透水量)で評価することが考えられる。
乾燥透水量は、乾燥状態での中空糸膜の透水量であり、例えば、膜間差圧100kPaにおける透水量である。より具体的には、以下の方法により測定される透水量等が挙げられる。まず、測定対象物である中空糸膜を乾燥させる。この乾燥は、中空糸膜を乾燥できれば、特に限定されないが、例えば、60℃の恒温乾燥機での24時間の乾燥等が挙げられる。この乾燥状態の中空糸膜の一端を封止した中空糸膜モジュールを用い、原水として純水を利用し、ろ過圧力が100kPa、温度が25℃の条件で外圧濾過して、時間当たりの透水量を測定する。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、単位圧力当たりの透水量に換算して、膜間差圧100kPa(0.1MPa)における透水量(L/m2/時)を得る。
次に、湿潤透水量は、湿潤状態での中空糸膜の透水量であり、例えば、膜間差圧100kPa(0.1MPa)における透水量である。より具体的には、以下の方法により測定される透水量等が挙げられる。まず、測定対象物である中空糸膜を、エタノール50質量%水溶液に15分間浸漬させ、その後、15分間純水で洗浄するといった湿潤処理を施す。この湿潤処理を施した中空糸膜を、乾燥状態の中空糸膜の代わりに用いること以外、乾燥透水量の測定方法と同様の方法により、膜間差圧100kPa(0.1MPa)における透水量(L/m2/時)を得る。
そして、湿潤状態での透水量(湿潤透水量)に対する乾燥状態での透水量(乾燥透水量)の比(乾燥透水量/湿潤透水量)は、上記のようにして求められた各透水量から算出する。なお、乾燥透水量及び湿潤透水量は、例えば、長さ20cmの中空糸膜を用いて測定した値等が挙げられる。
また、前記中空糸膜は、上記のようにして求められた比が、40%以上となるような親水性であることが好ましい。また、この比は、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。また、乾燥状態での中空糸膜も、水に触れたら、瞬時に湿潤状態になるのであれば、上記比が100%となる。このため、上記比の上限値は、100%である。よって、上記比は、40〜100%であることが好ましく、60〜100%であることがより好ましく、80〜100%であることがさらに好ましい。親水性が低すぎると、中空糸膜が親水性であることによって発揮される効果を充分に発揮できなくなる傾向がある。すなわち、耐汚染性が低くなる傾向がある。
また、前記中空糸膜は、膜間差圧0.1MPaにおける透水量である単糸透水量、すなわち、湿潤透水量が、3000〜40000L/m2/時であることが好ましく、3000〜30000L/m2/時であることがより好ましく、3500〜15000L/m2/時であることがさらに好ましい。透水量が少なすぎると、透過性能が劣る傾向があり、モジュール透過係数を低下させる要因となりうる。また、透水量が多すぎると、分画特性が低下する傾向がある。このことから、透水量が上記範囲内であれば、透過性能及び分画特性により優れた中空糸膜が得られる。
また、前記中空糸膜は、中空糸膜を構成する材料の親水性を高めてもよいし、疎水性の中空糸膜を親水化処理により親水性にしてもよい。また、中空糸膜を構成する材料の親水性を高めるためには、中空糸膜の原料として、親水性を示す材料で製造すればよく、例えば、親水性樹脂を主成分として、中空糸膜を製造すればよい。また、親水化処理は、中空糸膜を親水性にできる処理であれば、特に限定されない。例えば、中空糸膜を、親水性樹脂に含浸させる方法等が挙げられる。
また、前記親水性樹脂としては、中空糸膜に含ませることができる親水性樹脂であれば、特に限定されない。前記親水性樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロース、セルロースアセテート、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルアセテートとの共重合体、及びビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとの共重合体等が挙げられる。前記親水性樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、親水化処理は、中空糸膜を、親水性樹脂に含浸させる方法以外に、中空糸膜を、グリセリン、エチレングリコール、及び界面活性剤等に浸漬させる方法も挙げられる。この方法により、中空糸膜の親水性を付与してもよい。
また、前記中空糸膜は、外表面(外周面)に存在する孔が、内表面(内周面)に存在する孔より小さいことが好ましい。また、前記中空糸膜は、外表面に存在する孔が、内表面に存在する孔より小さくなるように、内表面から外表面に向かって、漸次的に小さくなる傾斜構造であることがより好ましい。このように、外表面に存在する孔が、内表面に存在する孔より小さいと、分画特性に関与すると考えられる緻密な層状部分が外表面近傍に形成され、それ以外の部分には、比較的大きい細孔が形成された部分が形成されたものになると考えられる。このことから、前記中空糸膜が、分画特性に優れるだけではなく、透過性能にも優れたものであると考えられる。
また、前記中空糸膜に含まれる樹脂は、中空糸膜の素材として利用可能なものであれば、特に限定されない。前記中空糸膜は、親水性樹脂を含んでいてもよく、上述したように、前記中空糸膜を構成する樹脂として、親水性樹脂を含むことによって、親水性を示すものであってもよい。前記親水性樹脂としては、上述した樹脂が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、及び酢酸セルロース等が挙げられる。また、前記中空糸膜は、上述したように、親水化処理によって、親水性にしてもよく、その場合には、親水性樹脂以外であっても、用いることができる。中空糸膜に含まれる樹脂としては、上記親水性樹脂以外に、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ化ビニリデン系樹脂、テトラフルオロエチレン重合体、及びエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、ポリメチルメタクリル、ポリメチルアクリル、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が挙げられる。前記樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記樹脂としては、上記例示の樹脂の中でも、充分な強度及び優れた耐薬品性を維持できるという観点から、フッ素系樹脂が好ましく、フッ化ビニリデン系樹脂がより好ましい。また、前記中空糸膜は、上述したように、親水性を有する。このことから、前記中空糸膜は、フッ化ビニリデン系樹脂等のフッ素系樹脂を含む場合、疎水性が高くなる傾向があるので、中空糸膜に親水化処理を施すことが好ましい。このように親水化処理を施すことによって、前記樹脂として、フッ素系樹脂を用いても、親水性を発揮することができ、さらに、フッ素系樹脂を含むことによって、充分な強度及び優れた耐薬品性を維持できる。
また、このフッ化ビニリデン系樹脂は、中空糸膜を構成することができるフッ化ビニリデン系樹脂であれば、特に限定されない。このフッ化ビニリデン系樹脂としては、具体的には、フッ化ビニリデンのホモポリマーや、フッ化ビニリデン共重合体等が挙げられる。このフッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位を有する共重合体であれば、特に限定されない。フッ化ビニリデン共重合体としては、具体的には、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体等が挙げられる。フッ化ビニリデン系樹脂としては、上記例示の中でも、フッ化ビニリデンのホモポリマーであるポリフッ化ビニリデンが好ましい。また、フッ化ビニリデン系樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、前記中空糸膜に含まれる樹脂、例えば、フッ化ビニリデン系樹脂の分子量は、中空糸膜の用途等によって異なるが、例えば、重量平均分子量で、50,000〜1,000,000であることが好ましい。分子量が小さすぎると、中空糸膜の強度が低下する傾向がある。また、分子量が大きすぎると、中空糸膜の製膜性が低下する傾向がある。また、薬液洗浄に晒される水処理用途に、中空糸膜が用いられる場合、その中空糸膜は、より高い性能が求められるので、強度に優れ、さらに、好適な中空糸膜を得るために、その製膜性に優れていることが求められる。このため、中空糸膜に含まれる樹脂、例えば、フッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、100,000〜900,000であることが好ましく、150,000〜800,000であることがより好ましい。
また、前記中空糸膜の形状は、特に限定されない。中空糸膜は、中空糸状であって、長手方向の一方側は開放し、他方側は、開放していても閉じていてもよい。中空糸膜の形状としては、例えば、中空糸状であって、長手方向の一方側を開放したままで、他方側を閉じた形状等が挙げられる。また、中空糸膜の開放した側の形状としては、例えば、図4に示すような形状である場合等が挙げられる。なお、図4は、本発明の実施形態に係る中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜の部分斜視図である。
また、前記中空糸膜の外径R1は、800〜5000μm(0.8〜5mm)であることが好ましく、1000〜2000μm(1〜2mm)であることがより好ましく、1000〜1800μmであることがさらに好ましく、1000〜1600μmであることが特に好ましい。中空糸膜の外径が大きすぎる場合、筐体に収容する中空糸膜の本数が少なくなくので、中空糸膜の膜面積が減少し、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。また、中空糸膜の外径が小さすぎる場合、中空糸膜の強度が不足して、中空糸膜が破断する等、実用上の運転が困難になる傾向がある。中空糸膜の外径が、上記のような外径であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさである。
また、前記中空糸膜の内径R2は、500〜3000μm(0.5〜3mm)であることが好ましく、600〜1500μm(0.6〜1.5mm)であることがより好ましく、600〜1100μmであることがさらに好ましく、600〜1000μmであることが特に好ましい。中空糸膜の内径が小さすぎると、透過液の抵抗(管内圧損)が大きくなり、流れが不良になる傾向がある。すなわち、高い透過流束を実現する際、中空糸膜の中空部分を通過する際の圧力損失が大きくなり、モジュール透過係数を低下させる要因となりうる。また、中空糸膜の内径が大きすぎると、中空糸膜の形状を維持できず、膜の潰れやゆがみ等が発生しやすくなる傾向がある。すなわち、中空糸膜がろ過圧力によりつぶれてしまい、中空糸膜の破断等の問題が発生しやすくなる傾向がある。
また、前記中空糸膜の膜厚Tは、1000〜150μmであることが好ましく、400〜150μmであることがより好ましく、400〜200μmであることがさらに好ましく、350〜200μmであることが特に好ましい。中空糸膜の膜厚が薄すぎると、強度不足により、ゆがみ等の変形が発生しやすくなる傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、マクロボイドの発生の抑制が困難になる等、好適な膜構造を得ることが困難になる傾向がある。場合によっては、強度が低下する場合もある。
前記中空糸膜の外径R1、内径R2、及び膜厚Tが、それぞれ上記範囲内であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさであり、前記装置の小型化が図れる。
前記中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜は、有効長が0.3〜2mであることが好ましく、0.3〜1.5mであることがより好ましく、0.5〜1mであることがさらに好ましい。中空糸膜の有効長が長すぎる場合、透過液の抵抗(管内圧損)が大きくなり、流れが不良になる傾向がある。すなわち、高い透過流束を実現する際、中空糸膜の中空部分を通過する際の圧力損失が大きくなり、モジュール透過係数を低下させる要因となりうる。また、中空糸膜の有効長が短すぎる場合、モジュール透過係数を高めることができても、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。
また、前記中空糸膜の製造方法は、前記中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。前記中空糸膜の製造方法は、多孔性の中空糸膜を製造する方法等が挙げられる。このような多孔性の中空糸膜の製造方法としては、相分離を利用する方法が知られている。この相分離を利用する中空糸膜の製造方法としては、例えば、非溶剤誘起相分離法(Nonsolvent Induced Phase Separation:NIPS法)や、熱誘起相分離法(Thermally Induced Phase Separation:TIPS法)等が挙げられる。
NIPS法とは、ポリマーを溶剤に溶解させた均一なポリマー原液を、ポリマーを溶解させない非溶剤と接触させることで、ポリマー原液と非溶剤との濃度差を駆動力とした、ポリマー原液の溶剤と非溶剤との置換により、相分離現象を起こさせる方法である。NIPS法は、一般的に、溶剤交換速度によって、形成される細孔の孔径が変化する。具体的には、溶剤交換速度が遅いほど、細孔が粗大化する傾向がある。また、溶剤交換速度は、中空糸膜の製造においては、非溶剤との接触面が最も速く、膜内部に向かうにしたがって、遅くなる。このため、NIPS法で製造した中空糸膜は、非溶剤との接触面付近は緻密であって、膜内部に向かって、徐々に細孔を粗大化した非対称構造を有するものが得られる。
また、TIPS法とは、ポリマーを、高温下では溶解させることができるが、温度が低下すると溶解できなくなる貧溶剤に、高温下で溶解させ、その溶液を冷却することにより、相分離現象を起こさせる方法である。熱交換速度は、一般的に、NIPS法における溶剤交換速度より速く、速度の制御が困難であるため、TIPS法は、膜厚方向に対して、均一な細孔が形成されやすい。
以上のことから、前記中空糸膜の製造方法としては、前記中空糸膜を製造することができれば、特に限定されないが、非溶剤誘起相分離法が好ましい。具体的には、この製造方法としては、以下のような製造方法が挙げられる。この製造方法としては、前記中空糸膜を構成する樹脂と、溶剤とを含む製膜原液を中空糸状に押し出す押出工程と、押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固液と接触させて、中空糸膜を形成する工程とを備える方法等が挙げられる。
また、本実施形態に係る製造方法における押出工程で用いる製膜原液は、前記樹脂と前記溶剤を含み、中空糸膜を製造することができる製膜原液であれば、特に限定されない。
前記樹脂は、前記中空糸膜に含まれる樹脂である。また、前記溶剤は、製膜原液の調製時や押出工程時に、前記樹脂を溶解させることができる溶剤であれば、特に限定されない。
また、前記押出工程は、前記製膜原液を中空糸状に押し出す工程であれば、特に限定されない。前記押出工程としては、図5に示す中空糸成型用ノズルから前記製膜原液を押し出す工程等が挙げられる。なお、図5は、本発明の実施形態に係る中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜を製造する際に用いる中空糸膜成型用ノズルの一例を示す概略図である。また、図5(a)には、その断面図を示し、図5(b)には、中空糸成型用ノズルの、製膜原液を吐出する吐出口側を示す平面図である。具体的には、ここでの中空糸成型用ノズル21は、円環状の外側吐出口26と、前記外側吐出口26の内側に配置する円状又は円環状の内側吐出口27とを備える。そして、この中空糸成型用ノズル21は、製膜原液を流通させる流通管24の末端に備え、流通管24内を流動してきた製膜原液を、ノズル内の流路22を介して、外側吐出口26から吐出する。また、この中空糸成型用ノズル21は、この外側吐出口26からの製膜原液の吐出と同時に、内部凝固液を、流通管25に流通させ、ノズル内の流路23を介して、内側吐出口27から吐出する。そうすることによって、中空糸成型用ノズル21から押し出された中空糸状の前記製膜原液を前記内部凝固液と接触させる。
また、本実施形態に係る製造方法における形成工程は、押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固液と接触させて、中空糸膜を形成する工程であれば、特に限定されない。この形成工程は、具体的には、前記押出工程で押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固浴に貯留した外部凝固液に浸漬させる工程等が挙げられる。
また、本実施形態に係る中空糸膜モジュールは、膜ろ過法に用いることによって、液体処理、具体的には、ろ過処理を行うことができる。この中空糸膜モジュールを用いた液体処理方法は、具体的には、前記中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜を用いて、被処理液をろ過するろ過工程と、前記中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜を逆流洗浄する逆洗工程とを備え、前記ろ過工程と前記逆洗工程とを交互に行う方法等が挙げられる。そして、この方法としては、例えば、前記逆洗工程が、前記ろ過工程における二次側に、圧縮空気等の気体やろ過液等の液体を供給することによって、前記中空糸膜を透過した気体又は液体で、前記中空糸膜を洗浄する。また、この洗浄の際又はその後に、図1における導入口35から空気を導入して、中空糸膜上等で気泡を発生させて、その気泡によるスクラビング洗浄を行ってもよい。
前記ろ過工程としては、前記中空糸膜を用いたろ過であれば、特に限定されない。また、このろ過工程において、ろ過する被処理液も、特に限定されない。被処理液としては、例えば、河川表流水や工業用水等の原水等が挙げられる。また、この原水は、濁度が、1.0NTU以上であることが好ましい。また、被処理液としては、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、及び塩化鉄等の凝集剤を含んでいてもよい。上記のような、濁度の高い原水を被処理液として用いてろ過すると、ファウリングの発生がより顕著となる傾向がある。このような傾向のある原水を用いても、本実施形態に係る中空糸膜モジュールを用いて処理すると、長期間にわたって、優れた透過性能を維持できる。
前記ろ過工程における透過流束は、5〜40m/日であることが好ましく、5〜30m/日であることがより好ましく、5〜20m/日であることがさらも好ましい。透過流束が低すぎる場合には、中空糸膜モジュールとして、透過流束向上による、省スペース化等のコスト削減効果を充分に得られなくなる傾向がある。また、透過流束が高すぎる場合には、膜間差圧を高めることになり、ファウリング抑制効果を充分に得られなくなる傾向がある。
また、前記ろ過工程における膜間差圧は、10〜80kPaであることが好ましく、10〜60kPaであることがより好ましく、10〜50kPaであることがさらに好ましい。膜間差圧が低すぎる場合には、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。また、膜間差圧が高すぎる場合には、ファウリング抑制効果を充分に得られなくなる傾向がある。
また、前記逆洗工程としては、特に限定されないが、以下のような気体を用いた逆洗であることが好ましい。具体的には、図1に示すような中空糸膜モジュールでは、導出口36から、圧縮した空気を供給し、中空糸膜モジュール30を構成する各中空糸膜32に空気を供給し、膜表面の濁質成分を剥離させた後に、導入口35より空気を供給し、スクラビング洗浄をする。そうすることによって、中空糸膜モジュール30を構成する各中空糸膜32を逆洗する。
このような液体処理方法であれば、中空糸膜を用いたろ過工程による液体処理を、長期間にわたって好適に行うことができる。具体的には、まず、ろ過工程とろ過工程との間に行う逆洗工程で、優れた洗浄効率を発揮できる。このため、このような逆洗工程を、ろ過工程とろ過工程との間に定期的に行うことによって、中空糸膜を用いたろ過工程におけるろ過効率の低下を充分に抑制できる。よって、中空糸膜を用いたろ過工程による液体処理を、長期間にわたって好適に行うことができる。
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
まず、中空糸膜を構成する樹脂として、フッ化ビニリデン系樹脂であるポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略することがある)(アルケマ株式会社製のKynar741)と、溶剤として、γ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)と、相分離促進剤として、ポリビニルピロリドン系樹脂であるポリビニルピロリドン(BASFジャパン株式会社製のソカランK−90P)とを、質量比25:62:13になるように混合物を調製した。
上記混合物を95℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解して得られた製膜原液を、図5に示すような、外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズル(中空糸膜形成用ノズル)から押し出した。このとき、内部凝固液として、γ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とを質量比15:85になるように混合した混合物を、製膜原液と同時吐出した。
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、30mmの空走距離を経て、硫酸ナトリウムを18質量%含む水溶液からなる外部凝固液中に浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られた。
次いで、得られた中空糸膜を、延伸、収縮処理をした後に、洗浄した。そうすることによって、溶剤(γ−ブチロラクトン)と相分離促進剤(ポリビニルピロリドン)とが、中空糸膜から抽出除去される。その後、得られた中空糸膜に対して、親水化処理を施した。具体的には、得られた中空糸膜を、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製のPVA−505)の0.5質量%水溶液に浸漬させた。その後、このポリビニルアルコール水溶液に浸漬させた中空糸膜を、グルタルアルデヒドを1質量%含み、硫酸を4質量%含む水溶液に浸漬させた。このように親水化処理を施した中空糸膜の、湿潤状態での透水量と乾燥状態での透水量とを上記の方法で測定した。その結果、湿潤状態での透水量(湿潤透水量)に対する乾燥状態での透水量(乾燥透水量)の比(乾燥透水量/湿潤透水量)が、85%であった。このことから、得られた中空糸膜が、親水性を有することがわかった。なお、乾燥透水量は、乾燥状態での中空糸膜の、膜間差圧100kPaにおける透水量であり、湿潤透水量は、湿潤状態での中空糸膜の、膜間差圧100kPaにおける透水量である。
このようにして得られた中空糸膜の外径は、1mm、内径は0.6mmであり、膜厚が、0.2mmであった。また、中空糸膜の、膜間差圧0.1MPaにおける純水の透過量(単糸透水量:長さ20cmの中空糸膜を用いて測定)は、5000LMH(5000L/m2/時)であった。
また、得られた中空糸膜の分画粒子径を、以下の方法で測定した。
異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子(日揮触媒化成株式会社製の、カタロイドSI−550、カタロイドSI−45P、カタロイドSI−80P、ダウケミカル株式会社製の、粒径0.1μm、0.2μm、0.5μmのポリスチレンラテックス等)の阻止率を測定し、その測定値を元にして、下記の近似式において、Rが90となるSの値を求め、これを分画粒子径とした。
R=100/(1−m×exp(−a×log(S)))
上記式中のaおよびmは、中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。
この測定方法により得られた分画粒子径が、0.1μmであった。
また、実施例1に係る中空糸膜の膜構造を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS−3000N)を用いて確認した。その結果を、図6〜8に示す。
まず、図6は、実施例1に係る中空糸膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、図7は、実施例1に係る中空糸膜の外周面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、図8は、実施例1に係る中空糸膜の内周面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図6から、外周面付近には、緻密な層状部分が形成されており、それ以外の部分は、それより疎な部分が形成されていることがわかった。すなわち、この中空糸膜は、外表面に存在する孔が、内表面に存在する孔より小さくなるように、内表面から外表面に向かって、漸次的に小さくなる傾斜構造であることがわかった。
また、この中空糸膜を用いて図1に示すような中空糸膜モジュールを作製した。中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜は、その下端部が、エポキシ系樹脂で封止されており、上端部が、中空部の開口されたものであった。そして、中空糸膜は、有効長1mであった。また、中空糸膜モジュールの筐体は、その内径が20cmであった。そして、この中空糸膜は、中空糸膜モジュールの筐体に、充填率が40%となるように収容し、その具体的な本数は、約16000本であった。
このようにして得られた中空糸膜モジュールを用いて純水をろ過した際、その膜間差圧が20kPaであって、透過流束が6.5m/日であった。そして、モジュール透過係数が、0.325m/日/kPaであった。なお、モジュール透過係数や分画粒子径等の値は、表1に示す。
(評価)
得られた中空糸膜モジュールを、以下のようにして、評価した。その結果は、表1に示す。
濁度2.0NTU(HACH社製:2100Qにて測定)の河川水に、凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを、アルミニウム換算濃度で1mg/Lで添加した液体を被処理液として用い、得られた中空糸膜モジュールで、この被処理液をろ過した。すなわち、中空糸膜モジュールの導出口からろ過液が得られた。設定流量8m/日(設定流量(m/日)は、ろ過流量(m3/日)を中空糸膜面積(m2)で割った値)で、10分間ろ過した後、導出口より0.2MPaの圧縮した空気にて、10秒間、中空糸膜に空気を供給し、濁質成分を剥離させた。その後、モジュール下部の導入口から0.1MPaの圧縮した空気にてエアースクラビングを60秒間行い、膜の汚れを洗浄した(導入エアーの抜き口は、空気抜き口を開けることで確保した。)。洗浄した汚れは、導入口より抜き取り、再びろ過を開始した。
このようなサイクルを10日間継続させた際の膜間差圧の上昇速度が、運転時間24時間当たり0.3kPa以下であった。すなわち、膜間差圧の上昇速度が、0.3kPa/日以下であった。このことから、ファウリング抑制効果に優れていることがわかった。
また、このようなろ過において、膜間差圧20kPaにおける初期の透過流量(初期透過流量)は、1中空糸モジュール当たり、13.6m3/時であった。また、20m3/時の透過流量で被処理液をろ過する際の膜間差圧(被処理液ろ過時の膜間差圧)は、29kPaであった。
また、得られた中空糸膜の除菌性能を、以下の方法で測定した。
まず、菌数が、1×103〜2×104となるように、Brevundimonas diminuta(NBRC14213)の培養を行った。このようにして得られた菌液を、被処理物として、中空糸膜の片端を封止した、上述したようなモジュールで、流量が1L/分以下となるように、ろ過した。そして、得られたろ液の菌数を調べた。
この実施例1に係る中空糸膜を用いた場合。得られたろ液の菌数が0であり、優れた除菌性能を示すことがわかった。
[実施例2〜6、比較例1〜7]
実施例2〜6、及び比較例1〜7に係る中空糸膜モジュールは、モジュール透過係数、分画粒子径等の各数値が、表1に示す値になるように、中空糸膜の製造時の条件や、中空糸膜モジュールにおける充填率等を変更したこと以外、実施例1と同様である。
また、各実施例及び比較例に係る中空糸膜モジュールは、実施例1と同様の評価を行った。その結果は、表1に示す。なお、中空糸膜が、上記のような傾斜構造を確認できれば、傾斜構造の欄には、「有」と示し、上記のような傾斜構造が確認できず、例えば、孔径が中空糸膜の厚み方向の位置にかかわらず、ほぼ同じ均質構造の場合には、「無」と示す。また、上記サイクルを10日間継続させた際の膜間差圧の上昇速度が、0.3kPa/日以下であれば、「○」と示し、この上昇速度が、0.3kPa/日を超えるのであれば、「×」と示す。
表1から、分画粒子径が、0.001〜0.5μmである中空糸膜を備えた中空糸膜モジュールであって、モジュール透過係数が、0.2〜1.5m/日/kPaである中空糸膜モジュールを用いた場合(実施例1〜6)は、被処理液を、上記なような条件で10日間継続してろ過しても、膜間差圧の明らかな上昇は確認されなかった。すなわち、実施例1〜6に係る中空糸膜モジュールを用いた場合は、比較例1〜6に係る中空糸膜モジュールを用いた場合と比較して、膜間差圧の上昇が充分に抑制されたことがわかった。このことから、ファウリング抑制効果に優れていることがわかった。
また、実施例1〜6に係る中空糸膜モジュールに備えられた中空糸膜は、分画粒子径が上記のように小さいことから、分画特性にも優れていることがわかる。これに対して、比較例7に係る中空糸膜モジュールに備えられた中空糸膜は、分画粒子径が1μmと大きいので、分画特性に充分に優れたものではなかった。
以上のことから、実施例1〜6に係る中空糸膜モジュールは、分画特性に優れるだけではなく、長期間にわたって、優れた透過性能を維持できる中空糸膜モジュールであることがわかった。