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JP7219032B2 - 分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法、多孔性中空糸膜、およびろ過方法 - Google Patents

分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法、多孔性中空糸膜、およびろ過方法 Download PDF

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Description

本発明は、分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法、多孔性中空糸膜、およびろ過方法に関する。
上水処理および下水処理などのように、被処理液体の除濁操作に中空糸膜を用いた膜ろ過法が普及しつつある。膜ろ過に用いられる中空糸膜の製造方法として熱誘起相分離法が知られている。
熱誘起相分離法では熱可塑性樹脂と有機液体とを用いる。有機液体として、熱可塑性樹脂を室温では溶解しないが、高温では溶解する溶剤、すなわち潜在的溶剤(貧溶剤)を用いる熱誘起相分離法は、熱可塑性樹脂と有機液体を高温で混練し、熱可塑性樹脂を有機液体に溶解させた後、室温まで冷却することで相分離を誘発させ、更に有機液体を除去して多孔体を製造する方法である。この方法は以下の利点を持つ。
(a)室温で溶解できる適当な溶剤のないポリエチレン等のポリマーでも製膜が可能になる。
(b)高温で溶解したのち冷却固化させて製膜するので、特に熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、製膜時に結晶化が促進され高強度膜が得られやすい。
上記の利点から、熱誘起相分離法は多孔性膜の製造方法として多用されている。しかしながら、ある種の結晶性樹脂では、膜構造が球晶になりやすく、強度は高いものの伸度が低くもろいため、実用上の耐久性に問題がある。従来、クエン酸エステルの中から選択される、熱可塑性樹脂の貧溶剤を用いて製膜する技術が開示されている(特許文献1参照)。
特開2011-168741号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法で製造した膜も、やはり球晶構造であるいう課題がある。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、3次元網目構造を有し、耐薬品性、および機械的強度に優れた多孔性中空糸膜及びその製造方法を提供する。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)
分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、有機液体と、無機微粉とを混合して溶融混練して混練物を作製する工程と、
前記混練物を吐出する工程と、
吐出した前記混練物から前記有機液体及び前記無機微粉を抽出する工程とを有し、
前記有機液体は、該有機液体の沸点において該有機液体の1/4の質量の前記熱可塑性樹脂を均一に溶解しない非溶剤であり、
前記無機微粉はシリカであ
ことを特徴とする分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
(2)
前記非溶剤は、セバシン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法
(3)
前記非溶剤は、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、および脂肪酸から選ばれる可塑剤である(1)または(2)に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
(4)
前記熱可塑性樹脂は、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体である(3)に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。

前記多孔性中空糸膜は、前記分離層を含む、少なくとも2層からなる中空糸膜である(1)から()のいずれか1つに記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。

前記多孔性中空糸膜における、前記分離層以外の少なくとも一層はフッ素樹脂からなる多孔性中空糸膜層である、()に記載の分離層を含む多孔性多層中空糸膜の製造方法。

前記フッ素樹脂は、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、およびポリフッ化ビニリデンから選ばれる少なくともひとつである()に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法
本発明によれば、膜構造が3次元網目構造を形成し、開孔性がよく、耐薬品性、および機械的強度が高い多孔性中空糸膜が提供される。
本発明の一実施形態に係る多孔性中空糸膜の外観図である。 図1の多孔性中空糸膜における膜構造を示す模式図である。 比較例1の多孔性中空糸膜における膜構造を示す模式図である。
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
<多孔性中空糸膜>
以下、本発明の多孔性中空糸膜について説明する。図1は、本発明に係る多孔性中空糸膜の外観図である。多孔性中空糸膜10は、少なくとも分離層11を含んでいる。多孔性中空糸膜10は、分離層11のみによって形成されてもよく、さらに、多孔性中空糸膜10は、支持層12を含んでよい。本実施形態においては、多孔性中空糸膜10は、分離層11および支持層12を有している。本実施形態において、支持層12は、多孔性中空糸膜10の内表面側に形成されている。本実施形態において、分離層11は、支持層12の径方向外側に形成されている。
分離層11は、熱可塑性樹脂を含む。本実施形態において、分離層11は、熱可塑性樹脂として、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体を含んでなるものである。分離層11が形成される多孔性中空糸膜10の外表面を含む内部構造は、球晶構造ではなく、図2に示すように、3次元網目構造である。3次元網目構造を取ることにより、多孔性中空糸膜10において、引張破断伸度が高くなり、また膜の洗浄剤として多用される酸、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液など)や酸化剤等に対する耐性が強くなる。
なお、分離層11は、熱可塑性樹脂(エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体)以外の成分(不純物等)を、含んでいる。分離層11に、熱可塑性樹脂以外の成分は、5質量%程度まで含み得る。例えば、分離層11には、後述するように、製造時に用いる非溶剤が含まれている。分離層11には、さらに、貧溶剤が含まれていてもよい。これらの非溶剤および貧溶剤は、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)により検出することが可能である。
本実施形態において、貧溶剤は、1/4の質量の熱可塑性樹脂を、常温において均一に溶解せず、少なくとも沸点において均一に溶解する有機液体である。溶解状態の判断には、屈折率等を利用することができる。例えば、ガラス製試験管に熱可塑性樹脂と有機液体を投入し、混合液のどの部分を測定しても同じ屈折率を示すのが溶解している状態である。溶解していない状態では、2層に分離しそれぞれ異なる屈折率を示す。例えば、本実施形態において、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体を熱可塑性樹脂として用いる場合、1/4の質量のエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体を、25℃において均一に溶解せず、100℃以上かつ沸点以下において均一に溶解する有機液体である。このような貧溶剤として、例えば、リン酸トリフェニル、オレイン酸などが挙げられる。
本実施形態において、非溶剤とは、沸点において1/4の質量の熱可塑性樹脂を均一に溶解しない有機液体である。すなわち、非溶剤は、熱可塑性樹脂および有機液体を20:80の質量比で含む混合液において、当該有機液体の沸点で熱可塑性樹脂を均一に溶解しない有機液体である。
本実施形態において、例えば、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体を熱可塑性樹脂として用いた場合、非溶剤は、セバシン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、クエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選ばれる1種、またはこれらを複数組合わせた混合物である。好ましくは、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体を熱可塑性樹脂として用いた場合、非溶剤は、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、および炭素数6以上30以下の脂肪酸から選ばれる有機液体である。
炭素数6以上30以下の脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等が挙げられる。エポキシ化植物油としては、エポキシ大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が挙げられる。上記の溶剤は、添加剤となじみやすく、かつ毒性が低い。
分離層11は、さらに、熱可塑性樹脂(エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体)以外の成分として、無機微粉を含んでいる。本実施形態において、無機微粉は、例えば、シリカ、微粉シリカ、酸化チタン、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられ、これらのうち、コストの観点から微粉シリカが好ましい。
本実施形態において、支持層12はフッ素樹脂からなる多孔質体である。フッ素樹脂は、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンの単一重合体または共重合体またはそれらの混合物、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、または上記フッ素樹脂の混合物である。
(多孔性中空糸膜の物性)
次に、本実施形態に係る多孔性中空糸膜10が有する物性について説明する。
多孔性中空糸膜10の引張破断伸度の初期値は60%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上、特に好ましくは120%以上である。引張破断伸度は、後述の実施例における測定方法により測定することができる。
アルカリ耐性は、アルカリ浸漬前後の破断伸度の比率によって評価され得る。例えば、多孔性中空糸膜を4%NaOH水溶液に10日間浸漬させた後に、浸漬前の初期の引張破断伸度に対する浸漬後の引張破断伸度である引張破断伸度比が60%以上であることが好ましい。引張破断伸度比は、より好ましくは、65%以上、さらに好ましくは70%以上である。
実用上の観点から、多孔性中空糸膜10の圧縮強度は0.2MPa以上であり、好ましくは0.3~1.0MPaであり、更に好ましくは0.4~1.0MPaである。圧縮強度は、外圧による純水透水量を測定し、0.05MPaごとに昇圧し、圧力と純水透水量とが比例しなくなった圧力を、膜がつぶれたと判断し、その直前の圧力を圧縮強度として測定することができる。
多孔性中空糸膜10の表面の開口率(表面開口率)は、20~60%であり、好ましくは25~50%であり、更に好ましくは25~45%である。処理対象液と接触する側の表面の開口率が20%以上である膜をろ過に用いることにより、目詰まりによる透水性能劣化も膜表面擦過による透水性能劣化もともに小さくし、ろ過安定性を高めることができる。開口率は、後述の実施例における測定方法により測定することができる。
開口率が高くても孔径が大きすぎては、求める分離性能を発揮できないおそれがある。そのため、外表面における細孔径は、1,000nm以下であり、好ましくは10~800nmであり、より好ましくは100~700nmである。この細孔径が1,000nm以下であれば処理対象液に含まれる阻止したい成分を阻止でき、10nm以上であれば十分に高い透水性能を確保できる。細孔径は、後述の実施例における測定方法により測定することができる。
多孔性中空糸膜10が分離層11の単層膜である構成において、多孔性中空糸膜10の厚さは、好ましくは80~1,000μmであり、より好ましくは100~300μmである。厚さが80μm以上であることにより強度を高くすることができ、他方、1,000μm以下にすることにより膜抵抗による圧損が小さくすることができる。また、多孔性中空糸膜10が、さらに支持層12を含む多層多孔性中空糸膜の構成においては、分離層11の厚さは1~100μm、支持層12の厚さは、80~1,000μmが好ましい。分離層11の厚さは、1μm以上であると分離性能を発揮しやすく、100μm以下であると透水性能が低下しにくい。支持層12の厚さは、80μm以上であることにより強度を高くすることができ、他方、1,000μm以下にすることにより膜抵抗による圧損が小さくすることができる。
多孔性中空糸膜10の空孔率は、好ましくは50~80%であり、より好ましくは55~65%である。この空孔率が50%以上であるとことにより透水性能が高く、他方、80%以下であることにより機械的強度が高い。なお、本実施形態において、空孔率を、下記式により算出する。
空孔率[%]=100×{(湿潤膜重量[g])-(乾燥膜重量[g])}/(膜体積[cm3])
本実施形態において、湿潤膜とは、孔内は水が満たされているが中空部内は水が入っていない状態の膜である。具体的には10~20cm長のサンプル膜をエタノール中に浸漬して孔内をエタノールで満たした後に、水浸漬を4~5回繰り返して孔内を充分に水で置換する。置換後の中空糸膜の一端を手で持って5回ほどよく振り、さらに他端に持ちかえてまた5回ほど振って中空部内の水を除去することで、湿潤膜を得る。乾燥膜は、前記湿潤膜の重量測定後にオーブン中で80℃で恒量になるまで乾燥させて得る。膜体積は、膜体積[cm3]=π×{(外径[cm]/2)2-(内径[cm]/2)2}×(膜長[cm])により求める。
多孔性中空糸膜10の形状としては、円環状の単層膜をあげることができるが、分離層11と分離層11を支持する支持層12とで違う細孔径を持つ多層膜であってもよい。また、外表面および内表面は、突起を持つなど異形断面構造でもよい。
(処理対象液)
多孔性中空糸膜10による処理対象液は、例えば、懸濁水および工程プロセス液である。多孔性中空糸膜10は、懸濁水をろ過する工程を備える浄水方法に好適に使用される。
懸濁水とは、天然水、生活排水、及びこれらの処理水などである。天然水としては、河川水、湖沼水、地下水、および海水が、例として挙げられる。これら天然水に対し沈降処理、砂ろ過処理、凝集沈殿砂ろ過処理、オゾン処理、および活性炭処理などの処理を施した天然水の処理水も、処理対象の懸濁水に含まれる。生活排水の例は下水である。下水に対してスクリーンろ過や沈降処理を施した下水1次処理水や、生物処理を施した下水2次処理水、更には凝集沈殿砂ろ過、活性炭処理、およびオゾン処理などの処理を施した3次処理(高度処理)水も、処理対象の懸濁水に含まれる。これらの懸濁水にはμmオーダー以下の微細な有機物、無機物及び有機無機混合物から成る濁質(腐植コロイド、有機質コロイド、粘土、および細菌など)が含まれる。
上述の天然水、生活排水、及びこれらの処理水などの懸濁水の水質は、一般に、代表的な水質指標である濁度及び有機物濃度の単独又は組み合わせにより表現できる。濁度(瞬時の濁度ではなく平均濁度)で水質を区分すると、大きくは、濁度1未満の低濁水、濁度1以上10未満の中濁水、濁度10以上50未満の高濁水、濁度50以上の超高濁水などに区分できる。また、有機物濃度(全有機炭素濃度(Total Organic Carbon(TOC)):mg/L)(これも瞬時の値ではなく平均値)で水質を区分すると、大きくは、1未満の低TOC水、1以上4未満の中TOC水、4以上8未満の高TOC水、8以上の超高TOC水などに区分できる。基本的には、濁度又はTOCの高い水ほどろ過膜を目詰まりさせやすいため、濁度又はTOCの高い水ほど多孔性中空糸膜10を使用する効果が大きくなる。
工程プロセス液とは、食品、医薬品、および半導体製造などで有価物と非有価物とを分離するときの被分離液のことを指す。食品製造では、例えば、日本酒およびワインなどの酒類と酵母とを分離する場合などに、多孔性中空糸膜10が使用される。医薬品の製造では、例えば、タンパク質の精製する際の除菌などに、多孔性中空糸膜10が使用される。半導体製造では、例えば、研磨廃水から研磨剤と水との分離などに、多孔性中空糸膜10が使用される。
<分離層11を含む多孔性中空糸膜10の製造方法>
次に、分離層11を含む多孔性中空糸膜10の製造方法について説明する。分離層11を含む多孔性中空糸膜10の製造方法は、(a)溶融混練物を準備する工程と、(b)溶融混練物を多重構造の紡糸ノズルに供給し、紡糸ノズルから溶融混練物を押し出すことによって中空糸膜を得る工程と、(c)非溶剤を中空糸膜から抽出する工程と、(d)無機微粉を中空糸膜から抽出する工程とを備える。支持層12をさらに含む多孔性中空糸膜を製造する場合には、分離層11および支持層12でそれぞれ工程(a)、工程(b)を備え、3重管の紡糸ノズルを用い、3重管の最外管および中央管に分離層11、支持層12となる溶融混練物を押し出し、内管に中空部形成剤を流すことによって中空状に成型する。
工程(c)、(d)それぞれにおいて、中空糸膜から非溶剤および無機微粉が抽出されるが、抽出後の中空糸膜には非溶剤および無機微粉が残留分として含まれる。
また、工程(c)で使用する抽出剤には、塩化メチレンや各種アルコールなど熱可塑性樹脂は溶けないが可塑剤と親和性が高い液体を使用することが好ましい。
また、工程(d)における抽出剤には、湯あるいは、酸やアルカリなど使用した添加剤を溶解できるが熱可塑性樹脂は溶解しない液体を使用することが好ましい。
次に、多孔性中空糸膜の製造方法における(a)溶融混練物を準備する工程の詳細について説明する。
上記工程(a)は、無機微粉に非溶剤を吸収させ、粉末化する工程と、当該粉末と熱可塑性樹脂とを溶融混練する工程と、を含む。したがって、溶融混練物は、熱可塑性樹脂、非溶剤、および無機微粉の三成分を含むものである。
本実施形態においては、工程(a)に用いる熱可塑性樹脂として、上記のように、例えば、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体が適用される。溶融混練物中の熱可塑性樹脂の濃度は、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~45質量%であり、更に好ましくは30~45質量%である。この値が20質量%以上であると機械的強度が高く、他方、60質量%以下であると透水性能が高い。
本実施形態においては、工程(a)に用いる非溶剤として、セバシン酸エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選ばれる少なくとも1種またはこれらを複数組合わせた混合物の中で、沸点において1/4の質量の熱可塑性樹脂を均一に溶解しない有機液体が適用される。熱可塑性樹脂としてエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体を適用する場合には、非溶剤は、より好ましくは、ステアリン酸エステル、亜リン酸エステル、および脂肪酸から選ばれる少なくとも1種である。溶融混練物中の非溶剤の濃度は、好ましくは10~60質量%である。
本実施形態における分離層11を有する多孔性中空糸膜10の製造方法は、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体の非溶剤を原材料に用いるものである。このように膜の原材料に非溶剤を用いると、3次元網目構造を持つ多孔性中空糸膜が得られる。その作用機序は必ずしも明らかではないが、非溶剤を混合させて、より溶解性を低くした溶剤を用いた方がポリマーの結晶化が適度に阻害され、3次元網目構造になりやすいと考えられる。非溶剤だけではエチレン-クロロフルオロエチレン共重合体と混合しないので、非溶剤をシリカ等の無機微粉に吸収させた後に、ポリマーと混合して溶融混練する。
熱可塑性樹脂を常温で溶解させることができるものを溶剤、常温では溶解できないが高温にして溶解させることができる有機液体をその熱可塑性樹脂の貧溶剤、高温にしても溶解させることができない有機液体を非溶剤と呼ぶが、本実施形態においては、貧溶剤および非溶剤は下記のような方法により判定することができる。
非溶剤は、本実施形態においてエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体である熱可塑性樹脂に対して4倍の質量で混合した第1の混合液において、第1の混合液の温度を沸点まで上げても、熱可塑性樹脂を均一に溶解しない有機液体である。
また、貧溶剤は、本実施形態においてエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体である熱可塑性樹脂に対して4倍の質量で混合した第2の混合液において、第2の混合液の温度が25℃では熱可塑性樹脂を均一に溶解せず、第2の混合液の温度を100℃より高くかつ沸点以下の範囲内のいずれかの温度で熱可塑性樹脂を均一に溶解する有機液体である。
貧溶剤および非溶剤であるかの判定は、具体的には、試験管に2g程度のエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体と8g程度の有機液体を入れ、試験管用ブロックヒーターにて10℃刻み程度で当該有機液体の沸点まで加温し、スパチュラなどで試験管内を混合し、上記のような温度範囲における溶解性で判断する。
なお、非溶剤として列挙した、上記エステルの一部の具体例の沸点は以下の通りである。アセチルクエン酸トリブチルの沸点は343℃であり、セバシン酸ジブチルは345℃であり、アジピン酸ジブチルは305℃であり、アジピン酸ジイソブチルは293℃であり、アジピン酸ビス2-エチルヘキシルは335℃であり、アジピン酸ジイソノニルは250℃以上であり、アジピン酸ジエチルは251℃であり、クエン酸トリエチルは294℃であり、トリフェニル亜リン酸は360℃である。
例えば、熱可塑性樹脂にエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体を用い、混合する有機液体にクエン酸トリエチルを用いると200℃程度で均一に溶解するので、クエン酸トリエチルは貧溶剤として適用可能である。一方、有機液体としてトリフェニル亜リン酸やオレイン酸を用いると、それらの沸点においてもエチレン-クロロトリフロオロエチレン共重合体は溶解しないので、非溶剤として適用可能である。
本実施形態においては、工程(a)に用いる無機微粉としては、例えば、シリカ、微粉シリカ、酸化チタン、塩化リチウム、および塩化カルシウム等が挙げられ、これらのうち、コストの観点から微粉シリカが好ましい。
溶融混練物に含まれる無機微粉の一次粒径は好ましくは50nm以下であり、より好ましくは5nm以上30nm未満である。上述の「無機微粉の一次粒径」は電子顕微鏡写真の解析から求めた値を意味する。すなわち、まず無機微粉の一群をASTM D3849の方法によって前処理を行う。その後、透過型電子顕微鏡写真に写された3000~5000個の粒子直径を測定し、これらの値を算術平均することで無機微粉の一次粒径を算出する。溶融混練物中の無機微粉の濃度は、好ましくは10~60質量%である。
上記の非溶剤そのままでは、熱可塑性樹脂と混合しないため、まず無機微粉に非溶剤を吸油させて非溶剤を粉末化し、それに熱可塑性樹脂粉末と混合させる。さらにそれら非溶剤、無機微粉、熱可塑性樹脂の混合体を240℃程度で溶融混練させることにより均一に混合させることができ、熱可塑性樹脂は溶融状態にさせることができる。
多孔性中空糸膜内の無機微粉は、蛍光X線等により存在する元素を同定することで、その無機微粉の材料を判断することができる。
本実施形態の多孔性中空糸膜10を用いて上記処理対象液のろ過を行ことによって、高効率にろ過を行うことができる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
溶融混練物を2重管構造の紡糸ノズルを用いて押し出し、実施例1の多孔性中空糸膜を得た。熱可塑性樹脂としてエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)樹脂(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、Halar901)40質量%、無機微粉として微粉シリカ(日本アエロジル社製 R972)23質量%、および非溶剤としてトリフェニル亜リン酸(東京化成工業社製 TPP,沸点360℃)37質量%を用いて溶融混練物を240℃で調製し、多孔性中空糸膜を作製した。
押し出した中空糸状成型物は、120mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、溶融製膜法により多孔性中空糸膜を作製した。5m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。得られた中空糸状押出し物をイソプロピルアルコール中に浸漬させて非溶剤を抽出除去した。続いて、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換した。続いて、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。実施例1の多孔性中空糸膜における膜構造は、図2に示すような3次元網目構造を示した。
[実施例2]
非溶剤としてTPP37質量%の代わりにステアリン酸エチルヘキシル(東京化成工業社製 沸点340℃)37質量%を用いて溶融混練物を調製した以外は、実施例1と同様に多孔性中空糸膜を作製した。
実施例2の多孔性中空糸膜における膜構造は、図2に示すような3次元網目構造を示した。
[実施例3]
非溶剤としてトリフェニル亜リン酸(TPP,沸点360℃)37質量%の代わりにオレイン酸(東京化成工業社製 沸点285℃)37質量%を用いて溶融混練物を調製した以外は、実施例1と同様に多孔性中空糸膜を作製した。
実施例3の多孔性中空糸膜における膜構造は、図2に示すような3次元網目構造を示した。
[実施例4]
溶融混練物を3重管構造の紡糸ノズルを用いて押し出し、実施例4の多層多孔性中空糸膜を得た。外層に熱可塑性樹脂としてエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)樹脂(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、Halar901)34質量%、微粉シリカ(日本アエロジル社製 R972)25.4質量%、非溶剤としてトリフェニル亜リン酸(東京化成工業社製 TPP,沸点360℃)40.6質量%を用い、内層には熱可塑性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、Solef6010)40質量%、微粉シリカ(日本アエロジル社製 R972)23質量%、非溶剤としてアジピン酸ビス-2-エチルヘキシル(東京化成工業社製 DOA,沸点335℃)31.3質量%、貧溶剤としてアセチルクエン酸トリエチル(東京化成工業社製 ATBC、沸点343℃)5.7質量%の混合物を用いて240℃で溶融混練物を調製、3重管の最外部に外層混練物、中間部に内層混練物、最内部に空気を流し、多層多孔性中空糸膜を作製した。
押し出した中空糸状成型物は、120mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、溶融製膜法により多孔性中空糸膜を作製した。5m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。得られた2層中空糸状押出し物をイソプロピルアルコール中に浸漬させて溶剤を抽出除去した。続いて、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換した。続いて、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。実施例4における多孔性中空糸膜の分離層における膜構造は、図2に示すような3次元網目構造を示した。
[実施例5]
溶融混練物を3重管構造の紡糸ノズルを用いて押し出し、実施例5の多層多孔性中空糸膜を得た。外層に熱可塑性樹脂としてエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)樹脂(ソルベイスペシャルティポリマーズ社製、Halar901)34質量%、微粉シリカ(日本アエロジル社製 R972)25.4質量%、非溶剤としてステアリン酸エチルヘキシル(東京化成工業社製 沸点340℃)40.6質量%を用い、内層には熱可塑性樹脂としてエチレン-テトラフルオロエチレン共重合物(旭硝子社製、TL-081)40質量%、微粉シリカ(日本アエロジル社製 R972)23質量%、非溶剤としてアジピン酸ビス-2-エチルヘキシル(東京化成工業社製 DOA,沸点335℃)32.9質量%、貧溶剤としてアジピン酸ジイソブチル(東京化成工業社製 DIBA、沸点293℃)4.1質量%の混合物を用いて溶融混練物を240℃で調製、3重管の最外部に外層混練物、中間部に内層混練物、最内部に空気を流し、多層多孔性中空糸膜を作製した。
押し出した中空糸状成型物は、120mmの空走距離を通した後、30℃の水中で固化させ、溶融製膜法により多孔性中空糸膜を作製した。5m/分の速度で引き取り、かせに巻き取った。得られた2層中空糸状押出し物をイソプロピルアルコール中に浸漬させて溶剤を抽出除去した。続いて、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を水置換した。続いて、20質量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、更に水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。実施例5における多孔性中空糸膜の分離層における膜構造は、図2に示すような3次元網目構造を示した。
[比較例1]
非溶剤のTPPの代わりに、ECTFE樹脂に対する貧溶剤としてDOAのみを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1の中空糸膜を得た。比較例1の多孔性中空糸膜における膜構造は、図3に示すような球晶構造を示した。
実施例および比較例における各物性値は以下の方法で各々求めた。
(1)膜の外径、内径
中空糸膜をカミソリで薄くスライスし、100倍拡大鏡にて、外径と内径を測定した。一つのサンプルについて、30mm間隔で60箇所の測定を行った。
(2)表面開口率、細孔径、細孔構造観察
HITACHI製電子顕微鏡SU8000シリーズを使用し、加速電圧3kVで膜の表面及び断面の電子顕微鏡(SEM)画像を5000倍で撮影した。断面の電子顕微鏡サンプルは、エタノール中で凍結した膜サンプルを輪切りに割断して得た。次に画像解析ソフトWinroof6.1.3を使って、SEM画像の「ノイズ除去」を数値「6」によって行い、更に単一しきい値による二値化により、「しきい値:105」によって二値化を行った。こうして得た二値化画像における孔の占有面積を求めることにより、膜表面の開口率を求めた。
細孔径は、表面に存在した各孔に対し、孔径の小さい方から順に各孔の孔面積を足していき、その和が、各孔の孔面積の総和の50%に達する孔の孔径で決定した。
膜構造は、5000倍で撮影した膜表面および断面の様子を観察して、球晶がなくポリマー幹が3次元的にネットワーク構造を発現しているものを3次元網目構造と判定した。
(3)透水性
エタノール浸漬した後、数回純水浸漬を繰り返した約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内に注射針を挿入し、25℃の環境下にて注射針から0.1MPaの圧力で25℃の純水を中空部内に注入し、外表面から透過してくる純水量を測定し、下記式により純水フラックスを決定し、透水性を評価した。
純水フラックス[L/(m2×h)]=60×(透過水量[L])/{π×(膜外径[m])×(膜有効長[m])×(測定時間[min])}
なお、ここで膜有効長とは、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。
(4)引張破断伸度(%)
引張り破断時の荷重と変位を以下の条件で測定した。
JIS K7161の方法に従い、サンプルには中空糸膜をそのまま用いた。
測定機器:インストロン型引張試験機(島津製作所製AGS-5D)
チャック間距離:5cm
引張り速度:20センチ/分
得られた結果から引張破断伸度は、JIS K7161に従って算出した。
(5)懸濁水ろ過時の透水性能保持率
懸濁水ろ過時の透水性能保持率は、目詰まり(ファウリング)による透水性能劣化の程度を判断するための1指標である。測定のために、エタノール浸漬した後、数回純水浸漬を繰り返した湿潤中空糸膜を、膜有効長11cmにて外圧方式によりろ過を行った。まず初めに純水を、膜外表面積1m2当たり1日当たり10m3透過するろ過圧力にてろ過を行って透過水を2分間採取し、初期純水透水量とした。次いで、天然の懸濁水である河川表流水(富士川表流水:濁度2.2、TOC濃度0.8ppm)を、初期純水透水量を測定したときと同じろ過圧力にて10分間ろ過を行い、ろ過8分目から10分目までの2分間透過水を採取し、懸濁水ろ過時透水量とした。懸濁水ろ過時の透水性能保持率を、下記式で定義した。操作は全て25℃、膜面線速0.5m/秒で行った。
懸濁水ろ過時の透水性能保持率[%]=100×(懸濁水ろ過時透水量[g])/(初期純水透水量[g])
なお、式中の各パラメーターは下記式で算出される。
ろ過圧力={(入圧)+(出圧)}/2
膜外表面積[m2]=π×(糸外径[m])×(膜有効長[m])
膜面線速[m/s]=4×(循環水量[m3/s])/{π×(チューブ径[m])2-π×(膜外径[m])2
本測定においては懸濁水のろ過圧力を各膜同一ではなく、初期純水透水性能(懸濁水ろ過開始時点での透水性能でもある)が膜外表面積1m2当たり1日当たり10m3透過するろ過圧力に設定した。これは、実際の上水処理や下水処理においては、膜は定量ろ過運転(一定時間内に一定のろ過水量が得られるようろ過圧力を調整してろ過運転する方式)で使用されるのが通常であるため、本測定においても中空糸膜1本を用いた測定という範囲内で、定量ろ過運転の条件に極力近い条件での透水性能劣化の比較ができるようにしたためである。
表1、2に、得られた実施例および比較例の多孔性中空糸膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
Figure 0007219032000001
Figure 0007219032000002
表1に示すように、実施例1から5は、溶融製膜法による製膜において非溶剤を製膜原液に使用することで、開孔性がよく、耐薬品性、および機械的強度が高い多孔性中空糸膜が製造されることがわかる。
一方、非溶剤を含まない比較例1は、細孔構造が球晶構造であり、開孔性、耐薬品性、および機械的強度に劣ることがわかる。
本発明によれば、多孔性中空糸膜が非溶剤を含んで製膜されるので、開孔性がよく、耐薬品性、機械的強度が高いエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体を含む多孔性中空糸膜が提供される。
10 多孔性中空糸膜
11 分離層
12 支持層

Claims (7)

  1. 熱可塑性樹脂と、有機液体と、無機微粉とを混合して溶融混練して混練物を作製する工程と、
    前記混練物を吐出する工程と、
    吐出した前記混練物から前記有機液体及び前記無機微粉を抽出する工程とを有し、
    前記有機液体は、該有機液体の沸点において該有機液体の1/4の質量の前記熱可塑性樹脂を均一に溶解しない非溶剤であり、
    前記無機微粉はシリカであ
    ことを特徴とする分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
  2. 前記非溶剤は、セバシン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、クエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選ばれる少なくとも1種である
    ことを特徴とする請求項1に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
  3. 前記熱可塑性樹脂は、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体である
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
  4. 前記非溶剤は、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、および炭素数6以上30以下の脂肪酸から選ばれる可塑剤である
    ことを特徴とする請求項3に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
  5. 前記多孔性中空糸膜は、前記分離層を含む、少なくとも2層からなる中空糸膜である
    ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
  6. 前記多孔性中空糸膜における、前記分離層以外の少なくとも一層はフッ素樹脂からなる多孔性中空糸膜層である
    ことを特徴とする請求項に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
  7. 前記フッ素樹脂は、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、およびポリフッ化ビニリデンから選ばれる少なくともひとつである
    ことを特徴とする請求項に記載の分離層を含む多孔性中空糸膜の製造方法。
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