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JP6297223B2 - 電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器 - Google Patents

電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器 Download PDF

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Description

本発明は、スピーカなどの音響デバイス等に用いられる電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器に関する。
液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなど、ディスプレイの薄型化に対応して、これらの薄型ディスプレイに用いられるスピーカにも軽量化・薄型化が要求されている。
従来のスピーカの形状は、漏斗状のいわゆるコーン型や、球面状のドーム型等が一般的である。しかしながら、このようなスピーカを上述の薄型のディスプレイに内蔵しようとすると、十分に薄型化することができず、また、軽量性を損なう虞れがある。また、スピーカを外付けにした場合、持ち運び等が面倒である。
そこで、薄型で、軽量性を損なうことなく薄型のディスプレイやフレキシブルディスプレイに一体化可能なスピーカとして、シート状で可撓性を有し、印加電圧に応答して伸縮する性質を有する圧電フィルムを用いることが提案されている。
例えば、本願出願人は、シート状で、可撓性を有し、かつ、高音質な音を安定して再生することができる圧電フィルムとして、特許文献1に開示される電気音響変換フィルムを提案した。特許文献1に開示される電気音響変換フィルムは、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体(圧電体層)と、高分子複合圧電体の両面に形成された薄膜電極と、薄膜電極の表面に形成された保護層とを有するものである。
特開2014−14063号公報
ここで、このような電気音響変換フィルムは、印加電圧に応答して、変換フィルム自身が面方向に伸縮し、面に垂直な方向に振動することで、振動(音)と電気信号とを変換するものである。そのため、音圧をより向上するためには、変換フィルムを薄型化して、応答性を高くする必要がある。変換フィルムにおいて、薄膜電極は非常に薄いため、変換フィルムの厚さは、実質的に、圧電体層の厚さと保護層の厚さとによって定まるが、十分な圧電性を発現するために、圧電体層の厚さはある程度必要である。したがって、音圧をより向上するためには、保護層の厚さを薄くすることで、変換フィルムの厚さを薄くすることが考えられる。
ところで、このような変換フィルムの薄膜電極としては、導電性、可撓性等の観点から、主に銅電極が用いられている。しかしながら、薄膜電極として、銅電極を用いた場合には、経時により錆びてしまい、外観不良が発生するという問題があった。
このような錆びによる外観不良を防止するために、保護層にガスバリア性を付与して、錆びを抑制することが考えられるが、前述のとおり、音圧向上のためには、保護層を薄くする必要があるため、薄い保護層に十分なガスバリア性を付与することは難しい。
また、保護層を着色することで、薄膜電極の錆びを、外部から識別できないようにすることが考えられる。しかしながら、前述のとおり、音圧向上のために、保護層を薄くすると、十分に着色することが難しくなるため、やはり、外観不良となってしまう。
発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、十分な音量で再生可能で、かつ、外観不良を防止できる電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、高分子複合圧電体の一方の主面に積層された下部薄膜電極と、下部薄膜電極上に積層された下部保護層と、高分子複合圧電体の他方の主面に積層された上部薄膜電極と、上部薄膜電極上に積層された上部保護層と、上部薄膜電極よりも表層側、および、下部薄膜電極よりも表層側の少なくとも一方に積層される着色層を有することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成の電気音響変換器を提供する。
(1) 常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、
高分子複合圧電体の一方の主面に積層された下部薄膜電極と、
下部薄膜電極上に積層された下部保護層と、
高分子複合圧電体の他方の主面に積層された上部薄膜電極と、
上部薄膜電極上に積層された上部保護層と、
上部薄膜電極よりも表層側、および、下部薄膜電極よりも表層側の少なくとも一方に積層される着色層を有する電気音響変換フィルム。
(2) 上部薄膜電極と上部保護層との間、および、下部薄膜電極と下部保護層の間の少なくとも一方に、着色層が積層されている(1)に記載の電気音響変換フィルム。
(3) 着色層が、高分子複合圧電体の両方の主面側に積層されている(1)または(2)に記載の電気音響変換フィルム。
(4) 着色層の透過濃度が、0.3以上である(1)〜(3)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(5) 着色層の厚みが、40nm以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(6) 着色層の電気抵抗率が、1×10-7Ωm以下である(1)〜(5)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(7) 着色層が金属からなる(1)〜(6)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(8) 着色層がニッケルからなる(1)〜(7)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(9) 高分子材料が、シアノエチル基を有するものである(1)〜(8)のいずれかに記載の電気音響変換フィルム。
(10) (1)〜(9)のいずれかに記載の電気音響変換フィルムを有する電気音響変換器。
このような本発明によれば、十分な音量で再生可能で、かつ、外観不良を防止できる電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器を提供することができる。
本発明の電気音響変換フィルムの一例を模式的に示す断面図である。 電気音響変換フィルムの作製方法の一例を説明するための概念図である。 電気音響変換フィルムの作製方法の一例を説明するための概念図である。 電気音響変換フィルムの作製方法の一例を説明するための概念図である。 電気音響変換フィルムの作製方法の一例を説明するための概念図である。 電気音響変換フィルムの作製方法の一例を説明するための概念図である。 本発明の電気音響変換器の一例を模式的に表す断面図である。 図3Aの上面図である。 電気音響変換器の構成を説明するための断面図である。 本発明の電気音響変換器の他の一例を概念的に示す断面図である。 本発明の電気音響変換器の他の一例を説明するための断面図である。 本発明の電気音響変換器の他の一例を説明するための断面図である。 本発明の電気音響変換器の他の一例を説明するための断面図である。 本発明の電気音響変換フィルムの他の一例を説明するための断面図である。 図6Aの電気音響変換フィルムを用いる電気音響変換器の一例を示す断面図である。
以下、本発明の電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器について、添付の図面に示される好適実施態様を基に、詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の電気音響変換フィルムは、後述するように、電気音響変換器の振動板として用いられるものである。
電気音響変換器は、電気音響変換フィルムへの電圧印加によって、電気音響変換フィルムが面内方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、電気音響変換フィルムが、上方(音の放射方向)に移動し、逆に、電気音響変換フィルムへの電圧印加によって、電気音響変換フィルムが面内方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、電気音響変換フィルムが、下方(ケース側)に移動する。電気音響変換器は、この電気音響変換フィルムの伸縮の繰り返しによる振動により、振動(音)と電気信号とを変換するものであり、電気音響変換フィルムに電気信号を入力して電気信号に応じた振動により音を再生したり、音波を受けることによる電気音響変換フィルムの振動を電気信号に変換したり、振動による触感付与や物体の輸送に利用される。
具体的には、フルレンジスピーカ、ツイーター、スコーカー、ウーハーなどのスピーカ、ヘッドホン用スピーカ、ノイズキャンセラー、マイクロフォン、および、ギター等の楽器に用いられるピックアップなどの各種の音響デバイスが挙げられる。また、本発明の電気音響変換フィルムは非磁性体であるため、ノイズキャンセラーのなかでもMRI用ノイズキャンセラーとして好適に用いることが可能である。
また、上記電気音響変換器は薄く、軽く、曲がるため、帽子、マフラー、衣服といったウェアラブル製品、テレビ、デジタルサイネージなどの薄型ディスプレイ、建築物や自動車の天井、カーテン、傘、壁紙、窓、ベッドなどへ好適に使用される。
図1に、本発明の電気音響変換フィルムの一例を模式的に表す断面図を示す。
図1に示すように、本発明の電気音響変換フィルム(以下、変換フィルムともいう)10は、圧電性を有するシート状物である圧電体層12と、圧電体層12の一方の面に積層される下部薄膜電極14と、下部薄膜電極14上に積層される下部着色層21と、下部着色層21上に積層される下部保護層18と、圧電体層12の他方の面に積層される上部薄膜電極16と、上部薄膜電極16上に積層される上部着色層22と、上部着色層22上に積層される上部保護層20とを有する。
変換フィルム10において、高分子複合圧電体である圧電体層12は、図1に概念的に示すような、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス24中に、圧電体粒子26を均一に分散してなる高分子複合圧電体からなるものである。なお、本明細書において、「常温」とは、0〜50℃程度の温度域を指す。
また、後述するが、圧電体層12は、好ましくは、分極処理されている。
ここで、高分子複合圧電体(圧電体層12)は、次の用件を具備したものであるのが好ましい。
(i) 可撓性
例えば、携帯用として新聞や雑誌のように書類感覚で緩く撓めた状態で把持する場合、絶えず外部から、数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けることになる。この時、高分子複合圧電体が硬いと、その分大きな曲げ応力が発生し、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生し、やがて破壊に繋がる恐れがある。従って、高分子複合圧電体には適度な柔らかさが求められる。また、歪みエネルギーを熱として外部へ拡散できれば応力を緩和することができる。従って、高分子複合圧電体の損失正接が適度に大きいことが求められる。
(ii) 音質
スピーカは、20Hz〜20kHzのオーディオ帯域の周波数で圧電体粒子を振動させ、その振動エネルギーによって振動板(高分子複合圧電体)全体が一体となって振動することで音が再生される。従って、振動エネルギーの伝達効率を高めるために高分子複合圧電体には適度な硬さが求められる。また、スピーカの周波数特性が平滑であれば、曲率の変化に伴い最低共振周波数fが変化した際の音質の変化量も小さくなる。従って、高分子複合圧電体の損失正接は適度に大きいことが求められる。
以上をまとめると、高分子複合圧電体は、20Hz〜20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことが求められる。また、高分子複合圧電体の損失正接は、20kHz以下の全ての周波数の振動に対して、適度に大きいことが求められる。
一般に、高分子固体は粘弾性緩和機構を有しており、温度上昇あるいは周波数の低下とともに大きなスケールの分子運動が貯蔵弾性率(ヤング率)の低下(緩和)あるいは損失弾性率の極大(吸収)として観測される。その中でも、非晶質領域の分子鎖のミクロブラウン運動によって引き起こされる緩和は、主分散と呼ばれ、非常に大きな緩和現象が見られる。この主分散が起きる温度がガラス転移点(Tg)であり、最も粘弾性緩和機構が顕著に現れる。
高分子複合圧電体(圧電体層12)において、ガラス転移点が常温にある高分子材料、言い換えると、常温で粘弾性を有する高分子材料をマトリックスに用いることで、20Hz〜20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の遅い振動に対しては柔らかく振舞う高分子複合圧電体が実現する。特に、この振舞いが好適に発現する等の点で、周波数1Hzでのガラス転移温度が常温、すなわち、0〜50℃にある高分子材料を、高分子複合圧電体のマトリックスに用いるのが好ましい。
常温で粘弾性を有する高分子材料としては、公知の各種のものが利用可能である。好ましくは、常温、すなわち0〜50℃において、動的粘弾性試験による周波数1Hzにおける損失正接Tanδの極大値が、0.5以上有る高分子材料を用いる。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に、最大曲げモーメント部における高分子マトリックス/圧電体粒子界面の応力集中が緩和され、高い可撓性が期待できる。
また、高分子材料は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において100MPa以上、50℃において10MPa以下、であることが好ましい。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に発生する曲げモーメントが低減できると同時に、20Hz〜20kHzの音響振動に対しては硬く振る舞うことができる。
また、高分子材料は、比誘電率が25℃において10以上有ると、より好適である。これにより、高分子複合圧電体に電圧を印加した際に、高分子マトリックス中の圧電体粒子にはより高い電界が掛かるため、大きな変形量が期待できる。
しかしながら、その反面、良好な耐湿性の確保等を考慮すると、高分子材料は、比誘電率が25℃において10以下であるのも、好適である。
このような条件を満たす高分子材料としては、シアノエチル化ポリビニルアルコール(シアノエチル化PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニリデンクロライドコアクリロニトリル、ポリスチレン−ビニルポリイソプレンブロック共重合体、ポリビニルメチルケトン、および、ポリブチルメタクリレート等が例示される。また、これらの高分子材料としては、ハイブラー5127(クラレ社製)などの市販品も、好適に利用可能である。なかでも、シアノエチル基を有する材料を用いることが好ましく、シアノエチル化PVAを用いるのが特に好ましい。
なお、これらの高分子材料は、1種のみを用いてもよく、複数種を併用(混合)して用いてもよい。
このような常温で粘弾性を有する高分子材料を用いる粘弾性マトリックス24は、必要に応じて、複数の高分子材料を併用してもよい。
すなわち、粘弾性マトリックス24には、誘電特性や機械特性の調整等を目的として、シアノエチル化PVA等の粘弾性材料に加え、必要に応じて、その他の誘電性高分子材料を添加しても良い。
添加可能な誘電性高分子材料としては、一例として、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体及びポリフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系高分子、シアン化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシサッカロース、シアノエチルヒドロキシセルロース、シアノエチルヒドロキシプルラン、シアノエチルメタクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルアミロース、シアノエチルポリアクリルアミド、シアノエチルポリアクリレート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルサッカロース及びシアノエチルソルビトール等のシアノ基あるいはシアノエチル基を有するポリマー、ニトリルゴムやクロロプレンゴム等の合成ゴム等が例示される。
中でも、シアノエチル基を有する高分子材料は、好適に利用される。
また、圧電体層12の粘弾性マトリックス24において、シアノエチル化PVA等の常温で粘弾性を有する材料に加えて添加される誘電性ポリマーは、1種に限定はされず、複数種を添加してもよい。
また、誘電性ポリマー以外にも、ガラス転移点Tgを調整する目的で、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリブテン、イソブチレン、等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、マイカ、等の熱硬化性樹脂を添加しても良い。
更に、粘着性を向上する目的で、ロジンエステル、ロジン、テルペン、テルペンフェノール、石油樹脂、等の粘着付与剤を添加しても良い。
圧電体層12の粘弾性マトリックス24において、シアノエチル化PVA等の粘弾性材料以外のポリマーを添加する際の添加量には、特に限定は無いが、粘弾性マトリックス24に占める割合で30重量%以下とするのが好ましい。
これにより、粘弾性マトリックス24における粘弾性緩和機構を損なうことなく、添加する高分子材料の特性を発現できるため、高誘電率化、耐熱性の向上、圧電体粒子26や電極層との密着性向上等の点で好ましい結果を得ることができる。
また、圧電体層12の誘電率を高める目的で、粘弾性マトリックスに誘電体粒子を添加してもよい。
誘電体粒子は、25℃における比誘電率が80以上の高い比誘電率を持つ粒子からなるものである。
誘電体粒子としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化チタン(TiO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛(PLZT)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸バリウムとビスマスフェライト(BiFeO3)との固溶体(BFBT)等が例示される。なかでも、高い比誘電率を有する点で、誘電体粒子としてチタン酸バリウム(BaTiO3)を用いるのが好ましい。
誘電体粒子は、平均粒径が0.5μm以下であるのが好ましい。
また、粘弾性マトリックスと誘電体粒子との合計体積に対する、誘電体粒子の体積分率は、5〜45%が好ましく、10〜30%がより好ましく、20〜30%が特に好ましい。
圧電体粒子26は、ペロブスカイト型或いはウルツ鉱型の結晶構造を有するセラミックス粒子からなるものである。
圧電体粒子26を構成するセラミックス粒子としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛(PLZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、および、チタン酸バリウムとビスマスフェライト(BiFe3)との固溶体(BFBT)等が例示される。
このような圧電体粒子26の粒径は、変換フィルム10のサイズや用途に応じて、適宜、選択すれば良いが、本発明者の検討によれば、1〜10μmが好ましい。
圧電体粒子26の粒径を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
なお、図1においては、圧電体層12中の圧電体粒子26は、粘弾性マトリックス24中に、均一にかつ規則性を持って分散されているが、本発明は、これに限定はされない。
すなわち、圧電体層12中の圧電体粒子26は、好ましくは均一に分散されていれば、粘弾性マトリックス24中に不規則に分散されていてもよい。
変換フィルム10において、圧電体層12中における粘弾性マトリックス24と圧電体粒子26との量比は、変換フィルム10の面方向の大きさや厚さ、変換フィルム10の用途、変換フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明者の検討によれば、圧電体層12中における圧電体粒子26の体積分率は、30〜70%が好ましく、特に、50%以上とするのが好ましく、従って、50〜70%とするのが、より好ましい。
粘弾性マトリックス24と圧電体粒子26との量比を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
また、変換フィルム10において、圧電体層12の厚さにも、特に限定はなく、変換フィルム10のサイズ、変換フィルム10の用途、変換フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明者の検討によれば、圧電体層12の厚さは、8〜300μmが好ましく、8〜40μmがより好ましく、10〜35μmがさらに好ましく、特に、15〜25μmが好ましい。
圧電体層12の厚さを、上記範囲とすることにより、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得ることができる。
なお、圧電体層12は、分極処理(ポーリング)されているのが好ましいのは、前述のとおりである。分極処理に関しては、後に詳述する。
図1に示すように、本発明の変換フィルム10は、このような圧電体層12の一面に、下部薄膜電極14を形成し、下部薄膜電極14の上に下部着色層21を形成し、下部着色層21の上に下部保護層18を形成し、また、圧電体層12の他方の面に、上部薄膜電極16を形成し、上部薄膜電極16の上に上部着色層22を形成し、上部着色層22の上に上部保護層20を形成してなる構成を有する。ここで、上部薄膜電極16と下部薄膜電極14とが電極対を形成する。
なお、変換フィルム10は、これらの層に加えて、例えば、上部薄膜電極16、および、下部薄膜電極14からの電極の引出しを行う電極引出し部や、圧電体層12が露出する領域を覆って、ショート等を防止する絶縁層等を有していてもよい。
電極引出し部として、薄膜電極および保護層が、圧電体層の面方向外部に、凸状に突出する部位を設けても良いし、あるいは、保護層の一部を除去して孔部を形成して、この孔部に銀ペースト等の導電材料を挿入して導電材料と薄膜電極とを電気的に導通して、電極引出し部としてもよい。
なお、各薄膜電極において、電極引出し部は1つには限定されず、2以上の電極引出し部を有していてもよい。特に、保護層の一部を除去して孔部に導電材料を挿入して電極引出し部とする構成の場合には、より確実に通電を確保するために、電極引出し部を3以上有するのが好ましい。
すなわち、変換フィルム10は、圧電体層12の両面を電極対、すなわち、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14で挟持し、この積層体を、上部着色層22および下部着色層21で挟持し、さらに、上部保護層20および下部保護層18で挟持してなる構成を有する。
このように、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14で挾持された領域は、印加された電圧に応じて駆動される。
変換フィルム10において、上部保護層20および下部保護層18は、上部薄膜電極16および下部薄膜電極14を被覆すると共に、圧電体層12に適度な剛性と機械的強度を付与する役目を担っている。すなわち、本発明の変換フィルム10において、粘弾性マトリックス24と圧電体粒子26とからなる圧電体層12は、ゆっくりとした曲げ変形に対しては、非常に優れた可撓性を示す一方で、用途によっては、剛性や機械的強度が不足する場合がある。変換フィルム10は、それを補うために上部保護層20および下部保護層18が設けられる。
上部保護層20および下部保護層18には、特に限定はなく、各種のシート状物が利用可能であり、一例として、各種の樹脂フィルムが好適に例示される。中でも、優れた機械的特性および耐熱性を有するなどの理由により、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)、および、環状オレフィン系樹脂が好適に利用される。
上部保護層20および下部保護層18の厚さにも、特に、限定は無い。また、上部保護層20および下部保護層18の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
ここで、上部保護層20および下部保護層18の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれるため、機械的強度やシート状物としての良好なハンドリング性が要求される場合を除けば、上部保護層20および下部保護層18は、薄いほど有利である。
本発明者の検討によれば、上部保護層20および下部保護層18の厚さは、50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、中でも10μm以下とするのが特に好ましい。
変換フィルム10において、圧電体層12と上部保護層20との間には上部薄膜電極(以下、上部電極とも言う)16が、圧電体層12と下部保護層18との間には下部薄膜電極(以下、下部電極とも言う)14が、それぞれ形成される。
上部電極16および下部電極14は、変換フィルム10(圧電体層12)に電界を印加するために設けられる。
本発明において、上部電極16および下部電極14の形成材料には、特に、限定はなく、各種の導電体が利用可能である。具体的には、炭素、パラジウム、鉄、錫、アルミニウム、ニッケル、白金、金、銀、銅、クロムおよびモリブデン等や、これらの合金、酸化インジウムスズ、PEDOT/PPS(ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)等の導電性高分子等が例示される。中でも、銅、アルミニウム、金、銀、白金、および、酸化インジウムスズのいずれかは、好適に例示され、導電性、コストおよび可撓性等の観点から銅がより好ましい。
また、上部電極16および下部電極14の形成方法にも、特に限定はなく、真空蒸着やスパッタリング等の気相堆積法(真空成膜法)やめっきによる成膜や、上記材料で形成された箔を貼着する方法、塗布する方法等、公知の方法が、各種、利用可能である。
中でも特に、変換フィルム10の可撓性が確保できる等の理由で、真空蒸着によって成膜された銅やアルミニウムの薄膜は、上部電極16および下部電極14として、好適に利用される。その中でも特に、真空蒸着による銅の薄膜は、好適に利用される。
上部電極16および下部電極14の厚さには、特に、限定は無い。また、上部電極16および下部電極14の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
ここで、前述の上部保護層20および下部保護層18と同様に、上部電極16および下部電極14の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれるため、上部電極16および下部電極14は、電気抵抗が高くなり過ぎない範囲であれば、薄いほど有利である。
本発明者の検討によれば、上部電極16および下部電極14の厚さは、1.2μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、中でも0.1μm以下とするのが特に好ましい。
変換フィルム10において、上部電極16と上部保護層20との間には上部着色層22が、下部電極14と下部保護層18との間には下部着色層21が、それぞれ形成される。
上部着色層22および下部着色層21は、上部電極16および下部電極14の錆びが、外部から視認できないようにするためのものである。
上部電極16および下部電極14の錆びが外部から視認できないようにする観点から、上部着色層22および下部着色層21の透過濃度は、0.3以上であるのが好ましく、0.5以上であるのがより好ましい。
なお、透過濃度とは、入射光に対する透過光の比率として計測される光学濃度であり、透過濃度0.3のときの透過率は約50%であり、透過濃度0.5のときの透過率は約30%である。
また、前述の上部保護層20および下部保護層18、ならびに、上部電極16および下部電極14と同様に、上部着色層22および下部着色層21の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれるため、上部着色層22および下部着色層21は、透過濃度が低くなり過ぎない範囲であれば、薄いほど有利である。
本発明者の検討によれば、上部着色層22および下部着色層21の厚さは、1μm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、中でも40nm以下とするのが特に好ましい。
また、上部着色層22および下部着色層21は、電気抵抗率が低いのが好ましく、1×10-7Ωm以下であるのが好ましい。
変換フィルム10において、上部電極16および下部電極14からの電極の引き出し方法の一つとして、保護層の一部を除去して孔部を形成して、この孔部に銀ペースト等の導電材料を挿入して導電材料と薄膜電極とを電気的に導通して、電極引出し部を形成する方法がある。このような方法で電極引出し部を形成する場合には、上部着色層22および下部着色層21の電気抵抗率が高いと、保護層の一部を除去するのみでは、導電材料と薄膜電極とを電気的に導通することができないため、孔部の位置の上部着色層22および下部着色層21も除去することが必要となってしまい、生産性が悪くなってしまう。
したがって、上部着色層22および下部着色層21の電気抵抗率を低くすることで、孔部の位置の上部着色層22および下部着色層21を除去することなく、導電材料と薄膜電極とを電気的に導通することができ好ましい。
本発明において、上部着色層22および下部着色層21の形成材料は、上記の透過濃度を満たし、また、錆び等により変色しないものであれば特に限定はない。
具体的には、上部着色層22および下部着色層21の形成材料としては、ニッケル、チタン、アルミニウム、金、白金等の金属、カーボンブラック(CB)、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の無機顔料、キナクリドン系、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系の有機顔料、内部に空孔を有した光散乱性を有した部材等が例示される。
上述の透過濃度、厚さ、および、電気抵抗率の観点から、上部着色層22および下部着色層21の形成材料として金属を用いることが好ましく、中でも、ニッケルがより好ましい。
また、変換フィルムを種々の色に着色できるという、デザイン性の観点からは、上部着色層22および下部着色層21として、各種顔料を用いることが好ましい。
また、上部着色層22および下部着色層21の形成方法には、特に限定はなく、上記材料に応じて、各種の公知の方法で形成すればよい。
例えば、着色層の形成材料として、金属を用いる場合には、真空蒸着やスパッタリング等の気相堆積法(真空成膜法)やめっきによる成膜や、上記材料で形成された箔を貼着する方法等が利用可能である。より薄く形成可能な点から真空蒸着により形成するのがより好ましい。
また、着色層の形成材料として、顔料を用いる場合には、塗布法、印刷等が利用可能である。
また、あらかじめ形成された着色層を転写する方法も利用可能である。
なお、図示例においては、上部着色層22および下部着色層21はそれぞれ、上部電極16と上部保護層20との間、および、下部電極14と下部保護層18との間に形成される構成としたが、これに限定はされず、上部電極16よりも表層側、および、下部電極14よりも表層側にそれぞれ形成される構成であればよい。すなわち、例えば、圧電体層12の一方の面に、上部電極16、上部保護層20、上部着色層22の順に形成され、圧電体層12の他方の面に、下部電極14、下部保護層18、下部着色層21の順に形成される構成であってもよい。
また、図示例においては、上部電極16側および下部電極14側のそれぞれに、着色層を有する構成としたが、本発明はこれに限定はされず、少なくとも一方の側に、着色層を有する構成であってもよい。この場合、電気音響変換器に組み込まれた際に、視認される側の面(機器の外側を向く面)に着色層を有するのが好ましい。
また、本発明の変換フィルムは、上述の薄膜電極、保護層および着色層等に加えて、密着付与層、酸化防止層などの機能層を含んでいても構わない。
前述のように、変換フィルム10は、常温で粘弾性を有する粘弾性マトリックス24に圧電体粒子26を分散してなる圧電体層12を、上部電極16および下部電極14で挟持し、さらに、この積層体を、上部着色層22および下部着色層21で挟持し、さらに、上部保護層20および下部保護層18を挟持してなる構成を有する。
このような変換フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの損失正接(Tanδ)が0.1以上となる極大値が常温に存在するのが好ましい。
これにより、変換フィルム10が外部から数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けたとしても、歪みエネルギーを効果的に熱として外部へ拡散できるため、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生するのを防ぐことができる。
変換フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において10〜30GPa、50℃において1〜10GPaであるのが好ましい。
これにより、常温で変換フィルム10が貯蔵弾性率(E’)に大きな周波数分散を有することができる。すなわち、20Hz〜20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことができる。
また、変換フィルム10は、厚さと動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)との積が、0℃において1.0×106〜2.0×106(1.0E+06〜2.0E+06)N/m、50℃において1.0×105〜1.0×106(1.0E+05〜1.0E+06)N/mであるのが好ましい。
これにより、変換フィルム10が可撓性および音響特性を損なわない範囲で、適度な剛性と機械的強度を備えることができる。
さらに、変換フィルム10は、動的粘弾性測定から得られたマスターカーブにおいて、25℃、周波数1kHzにおける損失正接(Tanδ)が、0.05以上であるのが好ましい。
これにより、変換フィルム10を用いたスピーカの周波数特性が平滑になり、スピーカの曲率の変化に伴い最低共振周波数fが変化した際の音質の変化量も小さくできる。
以下、図2A〜図2Eを参照して、変換フィルム10の製造方法の一例を説明する。
まず、図2Aに示すように、下部保護層18の上に下部着色層21が形成され、さらに、下部着色層21の上に下部電極14が形成されたシート状物11aを準備する。このシート状物11aは、下部保護層18の表面に、真空蒸着、スパッタリング、めっき、あるいは、塗布、印刷等によって下部着色層21を形成し、次に、形成した下部着色層21の表面に、真空蒸着、スパッタリング、めっき等によって下部電極14として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。
下部保護層18が非常に薄く、ハンドリング性が悪い時などは、必要に応じて、セパレータ(仮支持体)付きの下部保護層18を用いても良い。尚、セパレータとしては、厚さ25〜100μmのPET等を用いることができる。なお、セパレータは、薄膜電極および保護層の熱圧着後、側面絶縁層や、第2の保護層等を形成する直前に、取り除けばよい。
一方で、有機溶媒に、シアノエチル化PVA等の常温で粘弾性を有する高分子材料(以下、粘弾性材料とも言う)を溶解し、さらに、PZT粒子等の圧電体粒子26を添加し、攪拌して分散してなる塗料を調製する。有機溶媒には、特に限定はなく、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等の各種の有機溶媒が利用可能である。
前述のシート状物11aを準備し、かつ、塗料を調製したら、この塗料をシート状物にキャスティング(塗布)して、有機溶媒を蒸発して乾燥する。これにより、図2Bに示すように、下部保護層18の上に下部着色層21を有し、下部着色層21の上に下部電極14を有し、下部電極14の上に圧電体層12を形成してなる積層体11bを作製する。
この塗料のキャスティング方法には、特に、限定はなく、スライドコータやドクターナイフ等の公知の方法(塗布装置)が、全て、利用可能である。
あるいは、粘弾性材料がシアノエチル化PVAのように加熱溶融可能な物であれば、粘弾性材料を加熱溶融して、これに圧電体粒子26を添加/分散してなる溶融物を作製し、押し出し成形等によって、図2Aに示すシート状物11aの上にシート状に押し出し、冷却することにより、図2Bに示すような、積層体11bを作製してもよい。
なお、前述のように、変換フィルム10において、粘弾性マトリックス24には、シアノエチル化PVA等の粘弾性材料以外にも、PVDF等の高分子圧電材料を添加しても良い。
粘弾性マトリックス24に、これらの高分子圧電材料を添加する際には、上記塗料に添加する高分子圧電材料を溶解すればよい。あるいは、上記加熱溶融した粘弾性材料に、添加する高分子圧電材料を添加して加熱溶融すればよい。
下部保護層18の上に下部着色層21および下部電極14を有し、下部電極14の上に圧電体層12を形成してなる積層体11bを作製したら、好ましくは、圧電体層12の分極処理(ポーリング)を行う。
圧電体層12の分極処理の方法には、特に限定はなく、公知の方法が利用可能である。
好ましい分極処理の方法として、図2Cおよび図2Dに示す方法が例示される。
この方法では、図2Cおよび図2Dに示すように、積層体11bの圧電体層12の上面12aの上に、間隔gを例えば1mm開けて、この上面12aに沿って移動可能な棒状あるいはワイヤー状のコロナ電極30を設ける。そして、このコロナ電極30と下部電極14とを直流電源32に接続する。
さらに、積層体11bを加熱保持する加熱手段、例えば、ホットプレートを用意する。
その上で、圧電体層12を、加熱手段によって、例えば、温度100℃に加熱保持した状態で、直流電源32から下部電極14とコロナ電極30との間に、数kV、例えば、6kVの直流電圧を印加してコロナ放電を生じさせる。さらに、間隔gを維持した状態で、圧電体層12の上面12aに沿って、コロナ電極30を移動(走査)して、圧電体層12の分極処理を行う。
このようなコロナ放電を利用する分極処理(以下、便宜的に、コロナポーリング処理とも言う)において、コロナ電極30の移動は、公知の棒状物の移動手段を用いればよい。
また、コロナポーリング処理では、コロナ電極30を移動する方法にも、限定はされない。すなわち、コロナ電極30を固定し、積層体11bを移動させる移動機構を設け、この積層体11bを移動させて分極処理をしてもよい。この積層体11bの移動も、公知のシート状物の移動手段を用いればよい。
さらに、コロナ電極30の数は、1本に限定はされず、複数本のコロナ電極30を用いて、コロナポーリング処理を行ってもよい。
また、分極処理は、コロナポーリング処理に限定はされず、分極処理を行う対象に、直接、直流電界を印加する、通常の電界ポーリングも利用可能である。但し、この通常の電界ポーリングを行う場合には、分極処理の前に、上部電極16を形成する必要が有る。
なお、この分極処理の前に、圧電体層12の表面を加熱ローラ等を用いて平滑化する、カレンダー処理を施してもよい。このカレンダー処理を施すことで、後述する熱圧着工程がスムーズに行える。
このようにして積層体11bの圧電体層12の分極処理を行う一方で、上部保護層20の上に上部着色層22が形成され、上部着色層22の上に上部電極16が形成されたシート状物11cを、準備する。このシート状物11cは、上部保護層20の表面に、真空蒸着、スパッタリング、めっき、あるいは、塗布、印刷等によって上部着色層22を形成し、次に、形成した上部着色層22の表面に、真空蒸着、スパッタリング、めっき等によって上部電極16として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。
次いで、図2Eに示すように、上部電極16を圧電体層12に向けて、シート状物11cを、圧電体層12の分極処理を終了した積層体11bに積層する。
さらに、この積層体11bとシート状物11cとの積層体を、上部保護層20と下部保護層18とを挟持するようにして、加熱プレス装置や加熱ローラ対等で熱圧着して、変換フィルム10を作製することができる。
次に、本発明の電気音響変換フィルムを用いる電気音響変換器について、図3A〜図3Cを用いて説明する。
図3Aは、電気音響変換器40を概念的に示す断面図であり、図3Bは、正面図である。すなわち、図3Aは、図3Bのa−a線断面図である。
電気音響変換器40は、変換フィルム10を振動板として用いるものである。
電気音響変換器40は、変換フィルム10への電圧印加によって、変換フィルム10が面内方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、変換フィルム10は、上方(音の放射方向)に移動し、逆に、変換フィルム10への電圧印加によって、変換フィルム10が面内方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、変換フィルム10は、下方(ケース42側)に移動する。電気音響変換器40は、この変換フィルム10の伸縮の繰り返しによる振動により、振動(音)と電気信号とを変換するものである。
電気音響変換器40は、変換フィルム10と、ケース42と、粘弾性支持体46と、押圧部材48とを有して構成される。
ケース42は、押圧部材48と共に、変換フィルム10および粘弾性支持体46を保持する保持部材であり、プラスチックや金属、或いは木材等で形成される、一面が開放する箱型の筐体である。図に示すように、ケース42は薄型の六面体形状で、最大面の一方が開放面である。また、開放部は正四角形状である。ケース42は、内部に粘弾性支持体46を収容する。
粘弾性支持体46は、適度な粘性と弾性を有し、変換フィルム10を湾曲した状態で保持すると共に、変換フィルム10のどの場所でも一定の機械的バイアスを与えることによって、変換フィルム10の伸縮運動を無駄なく前後運動(変換フィルムの面に垂直な方向の運動)に変換させるためのものである。
図示例において、粘弾性支持体46は、ケース42の底面とほぼ同等の底面形状を有する四角柱状である。また、粘弾性支持体46の高さは、ケース42の深さよりも大きい。
粘弾性支持体46の材料としては、適度な粘性と弾性を有し、かつ、圧電フィルムの振動を妨げず、好適に変形するものであれば、特に限定はない。一例として、羊毛のフェルト、レーヨンやPETを含んだ羊毛のフェルトなどの不織布、グラスウール、或いはポリウレタンなどの発泡材料(発泡プラスチック)、ポリエステルウール、紙を複数枚重ねたもの、磁性流体、塗料等が例示される。
粘弾性支持体46の比重には、特に限定はなく、粘弾性支持体の種類に応じて、適宜、選択すればよい。一例として、粘弾性支持体としてフェルトを用いた場合には、比重は、50〜500kg/m3が好ましく、100〜300kg/m3がより好ましい。また、粘弾性支持体としてグラスウールを用いた場合には、比重は、10〜100kg/m3が好ましい。
押圧部材48は、変換フィルム10を粘弾性支持体46に押圧した状態で支持するためのものであり、プラスチックや金属、或いは木材等で形成される、中央に開口部を有する正四角形状の板状部材である。押圧部材48は、ケース42の開放面と同様の形状を有し、また、開口部の形状は、ケース42の開放部と同様の正四角形状である。
電気音響変換器40においては、ケース42の中に粘弾性支持体46を収容して、変換フィルム10によってケース42および粘弾性支持体46を覆い、変換フィルム10の周辺を押圧部材48によってケース42の開放面に接した状態で、押圧部材48をケース42に固定して、構成される。
なお、ケース42への押圧部材48の固定方法には、特に限定はなく、ビスやボルトナットを用いる方法、固定用の治具を用いる方法等、公知の方法が、各種、利用可能である。
この電気音響変換器40においては、粘弾性支持体46は、高さ(厚さ)がケース42の内面の高さよりも厚い。すなわち、変換フィルム10および押圧部材48が固定される前の状態では、粘弾性支持体46は、ケース42の上面よりも突出した状態となっている(図3C参照)。
そのため、電気音響変換器40では、粘弾性支持体46の周辺部に近くなるほど、粘弾性支持体46が変換フィルム10によって下方に押圧されて厚さが薄くなった状態で、保持される。すなわち、変換フィルム10の主面の少なくとも一部が湾曲した状態で保持される。これにより、変換フィルム10の少なくとも一部に湾曲部が形成される。電気音響変換器40において、この湾曲部が振動面となる。なお、以下の説明では、湾曲部を振動面ともいう。
この際、変換フィルム10の面方向において、粘弾性支持体46の全面を押圧して、全面的に厚さが薄くなるようにするのが好ましい。すなわち、変換フィルム10の全面が粘弾性支持体46により押圧されて支持されるのが好ましい。
また、このように形成された湾曲部は、中心から周辺部に向かって緩やかに曲率が変化しているのが好ましい。これにより、共振周波数を分散させ、より広帯域化できる。
また、電気音響変換器40において、粘弾性支持体46は押圧部材48に近づくほど厚さ方向に圧縮された状態になるが、静的粘弾性効果(応力緩和)によって、変換フィルム10のどの場所でも機械的バイアスを一定に保つことができる。これにより、変換フィルム10の伸縮運動が無駄なく前後運動へと変換されるため、薄型、かつ、十分な音量が得られ、音響特性に優れる平面状の電気音響変換器40を得ることができる。
このような構成の電気音響変換器40において、変換フィルム10の、押圧部材48の開口部に対応する領域が実際に振動する湾曲部となる。すなわち、押圧部材48は、湾曲部を規定する部位である。
圧電性を有する変換フィルムを用いる電気音響変換ユニットは、一般的に振動板が円形状を有するコーンスピーカに比べて、ユニット全体の大きさに対する振動板の相対的な大きさを大きくし易く、小型化が容易である。
また、上記観点から、押圧部材48の縁部の幅は、20mm以下が好ましく、1mm〜10mmが好ましい。
また、電気音響変換器40の変換フィルム10側の面と、湾曲部とは相似であるのが好ましい。すなわち、押圧部材48の外形と開口部の形状は相似であるのが好ましい。
なお、電気音響変換器40において、変換フィルム10による粘弾性支持体46の押圧力には、特に限定はないが面圧が低い位置における面圧で0.005〜1.0MPa、特に0.02〜0.2MPa程度とするのが好ましい。
加えて、粘弾性支持体46の厚さにも、特に限定は無いが、押圧される前の厚さが、1〜100mm、特に10〜50mmであるのが好ましい。
また、図示例においては、粘弾性を有する粘弾性支持体46を利用する構成としたが、これに限定はされず、少なくとも弾性を有する弾性支持体を利用する構成であればよい。
例えば、粘弾性支持体46に代えて、弾性を有する弾性支持体を有する構成としてもよい。
弾性支持体としては、天然ゴムや各種合成ゴムが例示される。
ここで、図3Aに示す電気音響変換器40は、押圧部材48によって、変換フィルム10の周辺全域をケース42に押し付けているが、本発明は、これに限定されない。
すなわち、変換フィルム10を利用する電気音響変換器は、押圧部材48を有さずに、例えばケース42の4箇所の角において、ビスやボルトナット、治具などによって、変換フィルム10をケース42の上面に押圧/固定してなる構成も利用可能である。
また、ケース42と変換フィルム10との間には、Oリング等を介在させてもよい。このような構成を有することにより、ダンパ効果を持たせることができ、変換フィルム10の振動がケース42に伝達されることを防止して、より優れた音響特性を得ることができる。
また、変換フィルム10を利用する電気音響変換器は、粘弾性支持体46を収容するケース42を有さなくても良い。
すなわち、図4に示す電気音響変換器50の断面図で、その一例を概念的に示すように、剛性を有する支持板52の上に粘弾性支持体46を載置し、粘弾性支持体46を覆って変換フィルム10を載せ、先と同様の押圧部材48を周辺部に載置する。次いで、ビス54によって押圧部材48を支持板52に固定することにより、押圧部材48と一緒に粘弾性支持体46を押圧した構成も、利用可能である。
なお、支持板52の大きさとしては粘弾性支持体46よりも大きくても良く、更に支持板52の材質としては、ポリスチレンや発泡PET、或いはカーボンファイバーなどの各種振動板を用いることで、電気音響変換器の振動を更に増幅する効果も期待できる。
さらに、電気音響変換器は、周辺を押圧する構成にも限定はされず、例えば、粘弾性支持体46と変換フィルム10の積層体の中央を、何らかの手段によって押圧してなる構成も利用可能である。
すなわち、電気音響変換器は、変換フィルム10の湾曲した状態で保持される構成であれば、各種の構成が利用可能である。
あるいは、変換フィルム10を樹脂フィルムに貼り付けて張力を付与する(湾曲させる)構成としてもよい。樹脂フィルムで保持する構成とし、湾曲させた状態で保持できるようにすることでフレキシブルなスピーカとすることができる。
あるいは、変換フィルム10を湾曲したフレームに張り上げた構成としてもよい。
また、図3Aおよび図3Bに示す例では、押圧部材48を用いて、変換フィルム10を粘弾性支持体46に押圧して支持する構成としたが、これに限定はされず、例えば、ケース42の開口面よりも大きい変換フィルム10を用いて、変換フィルムの端部をケース42の裏面側で固定する構成としてもよい。すなわち、ケース42とケース42内に配置された粘弾性支持体46とを、ケース42の開口面よりも大きい変換フィルム10で覆い、変換フィルム10の端部をケース42の裏面側に引張ることで、変換フィルム10を粘弾性支持体46に押圧して張力を付与して湾曲させ、変換フィルムの端部をケース42の裏面側で固定してもよい。
あるいは、気密性を有するケースを用い、ケースの開放端を変換フィルムで覆って閉塞し、ケース内に気体を導入して変換フィルムに圧力を掛けて、凸状に膨らませた状態で、保持する構成としてもよい。
例えば、図5Cに示す電気音響変換器56が例示される。
この電気音響変換器56は、まず、図5Aに示すように、同様のケース42として気密性を有する物を用い、ケース42内に空気を導入するパイプ42aを設ける。
このケース42の開放側の端部上面にOリング57を設け、ケース42の開放面を閉塞するように、変換フィルム10で覆う。
次いで、図5Bに示すように、ケース42の外周と略同一の内周を有する、略L字状の断面を有する枠体状の押さえ蓋58を、ケース42の外周に嵌合する(図5Bおよび(C)においては、Oリング57は省略)。
これにより、変換フィルム10をケース42押圧して固定し、変換フィルム10によって、ケース42の内部を気密に閉塞する。
さらに、図5Cに示すように、パイプ42aからケース42内(ケース42と変換フィルム10とによる閉空間)に空気を導入して、変換フィルム10に圧力を掛けて、凸状に膨らました状態で、保持して、電気音響変換器56とする。
ケース42内の圧力には、限定はなく、変換フィルム10が外方に凸状に膨らむ、大気圧以上であれば良い。
なお、パイプ42aは、固定されていても、着脱自在にしてもよい。パイプ42aを取り外す際には、パイプの着脱部を気密に閉塞するのは、当然である。
また、図3Aに示す電気音響変換器40においては、変換フィルム10は、粘弾性支持体46により押圧されて、主面が凸状に湾曲した状態で保持される。このように、変換フィルム10を湾曲した状態で保持する構成には特に限定はない。
例えば、図6Aに示すように、変換フィルム10自体を予め凸状あるいは凹状に成型してもよい。その際、変換フィルム10全体を凸状あるいは凹状に成型してもよく、変換フィルムの一部を凸部(凹部)に成型してもよい。凸部の成型方法としては特に限定はなく、種々の公知の樹脂フィルムの加工方法が利用可能である。例えば、真空加圧成型法、エンボス加工、等の形成方法により、凸部(凹部)を形成することができる。
このように変換フィルム自体に凸部を形成することで、経時により粘弾性支持体が変形したり、空気が抜けてしまい、音圧が変化してしまうことを防止できる点で好ましい。
また、このように変換フィルムに凸部を形成する場合には、凸部の形状には特に限定はないが、凸部の形状は、球体の一部、あるいは、回転楕円体の一部であることが好ましく、変換フィルムの主面に垂直な方向から見た際の、凸部の形状は、略円形状または略楕円形状であるのが好ましい。その際、凸部の高さHと凸部の直径(楕円の場合は短径、矩形の場合は短辺の長さ)Dとの比H/Dは、0より大きく0.15以下であるのが好ましく、0.003以上0.15以下であるのがより好ましく、0.005以上0.10以下であるのが特に好ましい。
凸部の高さHと凸部の直径Dとの比H/Dをこの範囲とすることで、音圧をより向上できる。
また、このように凸部を有する変換フィルムを電気音響変換器に組み込む際には、凸部の辺縁部を押圧部材で押圧して固定するのが好ましい。すなわち、変換フィルムの主面に垂直な方向から見た際の凸部の形状と、押圧部材の開口部の形状とが、略同じであるのが好ましい。
また、例えば、図6Bに示す電気音響変換器60のように、変換フィルム10の凸部の辺縁部を2つの押圧部材48で挟持して変換フィルムを振動可能に支持する構成としてもよい。
また、凸部を有する変換フィルムを電気音響変換器に組み込む際には、凸部を外側に向けて配置してもよく、凸部を内側に向けて(すなわち、凹部を外側に向けて)配置してもよい。
また、凸部を有する変換フィルムは、自身が凸状に形成されているため、変換フィルムを湾曲させるための粘弾性支持体や、ケース内部に圧力を加える構成は必要ないが、これらの構成と組み合わせて用いてもよい。
以上、本発明の電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明についてより詳細に説明する。
[実施例1]
前述の図2A〜図2Eに示す方法によって、図1に示す変換フィルム10を作製した。
まず、下記の組成比で、シアノエチル化PVA(CR−V 信越化学工業社製)をメチルエチルケトン(MEK)に溶解した。その後、この溶液に、PZT粒子を下記の組成比で添加して、プロペラミキサー(回転数2000rpm)で分散させて、圧電体層12を形成するための塗料を調製した。
・PZT粒子・・・・・・・・・・・1000質量部
・シアノエチル化PVA・・・・・・・100質量部
・MEK・・・・・・・・・・・・・・600質量部
なお、PZT粒子は、市販のPZT原料粉を1000〜1200℃で焼結した後、これを平均粒径3.5μmになるように解砕および分級処理したものを用いた。
一方、厚さ4μmのPETフィルムに、真空蒸着により、厚さ20nmのニッケル薄膜を形成し、さらに、ニッケル薄膜の上に、厚さ0.1μmの銅薄膜を真空蒸着してなるシート状物11aおよび11cを用意した。すなわち、本例においては、上部電極16および下部電極14は、厚さ0.1μmの銅蒸着薄膜であり、上部着色層22および下部着色層21は、厚さ20nmのニッケル蒸着薄膜であり、上部保護層20および下部保護層18は厚さ4μmのPETフィルムとなる。
なお、プロセス中、良好なハンドリングを得るために、PETフィルムには厚さ50μmのセパレータ(仮支持体 PET)付きのものを用い、シート状物11cの熱圧着後に、各保護層のセパレータを取り除いた。
ここで、着色層であるニッケルの電気抵抗率は、7×10-7Ωmである。
また、銅薄膜を形成する前に、PETフィルムにニッケル薄膜を形成した状態で、透過濃度計(エックスライト社製X−Rite 310)で透過濃度を測定したところ、透過濃度は0.6であった。
このシート状物11aの下部電極14(銅蒸着薄膜)の上に、スライドコータを用いて、先に調製した圧電体層12を形成するための塗料を塗布した。なお、塗料は、乾燥後の塗膜の膜厚が40μmになるように、塗布した。
次いで、シート状物11aの上に塗料を塗布した物を、120℃のオーブンで加熱乾燥することでMEKを蒸発させた。これにより、PET製の下部保護層18の上に、ニッケル製の下部着色層21を有し、下部着色層21の上に、銅製の下部電極14を有し、その上に、厚さが40μmの圧電体層12(圧電層)を形成してなる積層体11bを作製した。
この積層体11bの圧電体層12を、図2Cおよび図2Dに示す前述のコロナポーリングによって、分極処理した。なお、分極処理は、圧電体層12の温度を100℃として、下部電極14とコロナ電極30との間に6kVの直流電圧を印加してコロナ放電を生じさせて、行った。
分極処理を行った積層体11bの上に、上部電極16(銅薄膜側)上にシアノエチル化プルランとシアノエチル化PVAの混合体(CR−M 信越化学工業製)を0.3μmになるよう塗布した塗布面を圧電体層12に向けてシート状物11cを積層した。
次いで、積層体11bとシート状物11cとの積層体を、ラミネータ装置を用いて120℃で熱圧着することで、圧電体層12と上部電極16および下部電極14とを接着して変換フィルム10を作製した。
作製した変換フィルム10を、ケース42に組み込んで電気音響変換器40を作製した。
ケース42は、一面が開放した箱型の容器で、開口部の大きさ172×302mm、深さ9mmのプラスチック製の矩形容器を用いた。
また、ケース42内には、粘弾性支持体46を配置した。粘弾性支持体46は、組立前の高さ40mm、密度16kg/m3のグラスウールとした。
変換フィルム10を粘弾性支持体46およびケース42の開口部を覆うように配置して押圧部材48により周辺部を固定し、粘弾性支持体46により変換フィルム10に適度な張力と曲率を付与して、電気音響変換器40を作製した。これにより、変換フィルム10を凸レンズのように凸型に撓ませた。
[実施例2〜6]
圧電体層12の厚さを下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、電気音響変換フィルム10および電気音響変換器40を作製した。
[実施例7]
圧電体層12を形成するための塗料として、以下を使用して圧電体層12を形成した以外は、実施例3と同様にして、電気音響変換フィルム10および電気音響変換器40を作製した。
・PZT粒子・・・・・・・・・・・1000質量部
・BaTiO3粒子 ・・・・・・・・・・90質量部
・シアノエチル化PVA・・・・・・・85質量部
・MEK・・・・・・・・・・・・・・600質量部
また、BaTiO3粒子は、BT−05(堺化学株式会社製 平均粒径0.5μm)を用いた。
[実施例8〜10]
着色層の厚さを下記表1に示すように変更した以外は、実施例3と同様にして、電気音響変換フィルム10および電気音響変換器40を作製した。
[実施例11]
シート状物11aおよび11cとして、厚さ4μmのPETフィルムの一方の面に、真空蒸着により、厚さ20nmのニッケル薄膜を形成し、他方の面に、厚さ0.1μmの銅薄膜を真空蒸着したものを用いた以外は、実施例3と同様にして、電気音響変換フィルム10および電気音響変換器40を作製した。
すなわち、実施例11の電気音響変換フィルム10は、圧電体層12の一方の面に、下部電極14、支持体としての下部保護層18、および、下部着色層21の順に積層され、圧電体層12の他方の面に、上部電極16、支持体としての上部保護層20、および、上部着色層22の順に積層されてなる構成を有する。
なお、表1の積層順の項目においては、圧電体層12側から、薄膜電極、着色層および保護層の順に積層された構成を「A」とし、圧電体層12側から、薄膜電極、保護層および着色層の順に積層された構成を「B」とする。
[実施例12]
着色層を形成するための塗料として、以下を使用して着色層を塗布法で形成した以外は、実施例3と同様にして、電気音響変換フィルム10および電気音響変換器40を作製した。
・カーボンブラック水分散体・・・・・・・・・・・1000質量部
・アクリル樹脂水分散体・・ ・・・・・・・・・・1000質量部
・架橋剤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・240質量部
カーボンブラック水分散体はMF−5630ブラック(大日精化工業株式会社製)、アクリル樹脂水分散体はジュリマーET−410(東亞合成株式会社製)、架橋剤はエポクロスWS−700(株式会社日本触媒製)を使用した。
なお、表1中のCBは、カーボンブラックである。
[実施例13〜15]
着色層の形成材料および厚さを下記表1に示すように変更した以外は、実施例3と同様にして、電気音響変換フィルム10および電気音響変換器40を作製した。
[実施例16]
実施例3と同様にして作製した電気音響変換フィルム10を、真空加圧成型法により、図6Aに示すような凸部を有する形状に成型して、電気音響変換フィルム10を作製した。
凸部の形状は、球体の一部からなる形状とした。また、変換フィルム10の主面に垂直な方向から見た際の、凸部の直径Dは、40mmとし、高さを0.5mmとした。すなわち、凸部の高さHと直径Dとの比H/Dは、0.01とした。
作製した変換フィルム10の辺縁部を2つの押圧部材48で挟持して図6Bに示すような電気音響変換器60を作製した。
ここで、この電気音響変換器60に、1kHz、0.5V0−Pのサイン波を入力し、変換フィルムの中央部の振幅をレーザードップラー振動計にて測定したところ、30nmであった。
[実施例17、18]
凸部の高さHをそれぞれ、4mm、6mmに変更し、高さHと直径Dとの比H/Dをそれぞれ、0.10、0.15とした以外は、実施例16と同様にして、電気音響変換フィルム10および電気音響変換器60を作製した。
また、実施例16と同様にして変換フィルムの中央部の振幅を測定したところ、振幅はそれぞれ22nm、17nmであった。
[比較例1]
着色層を有さない以外は、実施例3と同様にして、電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器を作製した。
[比較例2]
保護層の厚さを20μmとし、着色層を有さない構成とした以外は、実施例3と同様にして、電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器を作製した。
[比較例3]
着色層を有さない以外は、実施例18と同様にして、電気音響変換フィルムおよび電気音響変換器を作製した。
[評価]
<外観>
作製した電気音響変換フィルムを、温度70℃、湿度80%RHの環境下に150時間放置した後、外観を目視で観察し、薄膜電極の錆による外観の変化が視認されるか否かを評価した。
A:変化なし
B:錆がわずかに見える
C:錆あり
<耐傷性>
作製した電気音響変換フィルムの表面を、連続加重式引掻強度試験機(HEIDON−18S)にてスチールウール(#0000)、荷重500g、速度1000mm/分、10往復の条件で擦り、擦った後に、薄膜電極が視認されるか否かを評価した。
A:全く見えない
B:わずかに見える
C:見える
<密着性>
作製したシート状物10aに対して、テープ剥離試験を実施した。
具体的には、シート状物10aの薄膜電極側表面にカミソリを用いて1mm間隔で縦横それぞれ11本ずつの傷をつけた。その上に、幅20mmのマイラーテープを貼って、90°方向にすばやく剥離した。剥離後、剥がれたマス目の数をカウントし、以下の評価基準にしたがって評価した。
A:残存面積率50%以上
B:残存面積率25%以上50%未満
C:残存面積率25%未満
<音圧>
(実施例1〜15、比較例1、2)
作製した電気音響変換器の音圧レベルを測定した。
具体的には、電気音響変換器の変換フィルムの中央に向けて、0.5m離した位置にマイクロフォンを配置し、電気音響変換器の上部電極と下部電極との間に1kHz、10V0−Pのサイン波を入力して、音圧レベルを測定した。
比較例1の音圧レベルとの差に基づいて以下のように評価した。
A:+1.0dB以上
B:+1.0dB未満−0.5dB以上
C:−0.5dB未満−1.5dB以上
D:−1.5dB未満−3.0dB以上
E:−3.0dB未満
評価結果を表1に示す。
(実施例16〜18、比較例3)
作製した電気音響変換器の音圧レベルを測定した。
具体的には、電気音響変換器の変換フィルムの中央に向けて、0.1m離した位置にマイクロフォンを配置し、電気音響変換器の上部電極と下部電極との間に1kHz、10V0−Pのサイン波を入力して、音圧レベルを測定した。
比較例3の音圧レベルとの差に基づいて以下のように評価した。
A:+1.0dB以上
B:+1.0dB未満−0.5dB以上
C:−0.5dB未満−1.5dB以上
D:−1.5dB未満−3.0dB以上
E:−3.0dB未満
評価結果を表2に示す。
表1および表2より、本発明の電気音響変換フィルムの実施例1〜18は、比較例1〜3に比べて、薄膜電極の錆による外観の変化が視認されにくいことがわかる。
また、本発明の電気音響変換フィルムを用いる電気音響変換器の実施例1〜18は、比較例1〜3に比べて、音圧が高くなることがわかる。
また、実施例1〜6の対比から、圧電体層の厚さは、8μm〜40μmが好ましく、10μm〜35μmがより好ましく、15μm〜25μmが特に好ましいことがわかる。
また、実施例3および実施例7の対比から、圧電体層の粘弾性マトリックスに誘電体粒子を添加するのが好ましいことがわかる。
また、実施例3および実施例8〜10の対比から、着色層の厚さは、5nm〜40nmが好ましく、15nm〜25nmがより好ましいことがわかる。
また、実施例3と実施例11との対比から、着色層を保護層よりも外側に配置する構成では、着色層が削れて、内部(薄膜電極)が視認される可能性があるため、着色層は、保護層と薄膜電極との間に配置するのが好ましいことがわかる。
また、実施例3および実施例12〜15の対比から、着色層の形成材料は、金属であるのが好ましく、なかでも、ニッケル、アルミニウム、金が好ましいことがわかる。
また、実施例3および実施例16〜18の対比から、電気音響変換フィルムを凸部を有する形状に成型することで、音圧をより向上できることがわかる。その際、凸部の高さHと直径Dとの比H/Dは、0超0.15以下であるのが好ましく、0.003以上0.10以下とするのがより好ましいことがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
10 電気音響変換フィルム
11a、11c シート状物
11b 積層体
12 圧電体層
14 下部薄膜電極
16 上部薄膜電極
18 下部保護層
20 上部保護層
21 下部着色層
22 上部着色層
24 粘弾性マトリックス
26 圧電体粒子
30 コロナ電極
32 直流電源
40、50、60 電気音響変換器
42 ケース
46 粘弾性支持体
48 押圧部材
52 支持板
54 ビス
57 Oリング
58 押さえ蓋

Claims (10)

  1. 常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体と、
    前記高分子複合圧電体の一方の主面に積層された下部薄膜電極と、
    前記下部薄膜電極上に積層された下部保護層と、
    前記高分子複合圧電体の他方の主面に積層された上部薄膜電極と、
    前記上部薄膜電極上に積層された上部保護層と、
    前記上部薄膜電極よりも表層側、および、前記下部薄膜電極よりも表層側の少なくとも一方に積層される着色層を有することを特徴とする電気音響変換フィルム。
  2. 前記上部薄膜電極と前記上部保護層との間、および、前記下部薄膜電極と前記下部保護層の間の少なくとも一方に、着色層が積層されている請求項1に記載の電気音響変換フィルム。
  3. 前記着色層が、前記高分子複合圧電体の両方の主面側に積層されている請求項1または2に記載の電気音響変換フィルム。
  4. 前記着色層の透過濃度が、0.3以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  5. 前記着色層の厚みが、40nm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  6. 前記着色層の電気抵抗率が、1×10-7Ωm以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  7. 前記着色層が金属からなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  8. 前記着色層がニッケルからなる請求項1〜7のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  9. 前記高分子材料が、シアノエチル基を有するものである請求項1〜8のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルム。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項に記載の電気音響変換フィルムを有する電気音響変換器。
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