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JP6267458B2 - 歯車 - Google Patents

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本発明は、複数の歯を備え相手歯車の歯との噛み合いにより2軸間に回転運動を伝達する歯車に関し、詳しくは、相手歯車の歯との噛み合い時に歯元側の発生応力を低減し、歯の高強度化を図ることができる歯形形状の歯車に係るものである。
従来から、自動車や精密機械等の動力伝達機構に使用される歯車には、歯の強度を高めるための様々な工夫が施されてきた。
この種の歯車としては、歯と歯溝とを有する皿形歯車であって、歯が歯面を介して協働する相手歯車(ピニオン)に係合させられる形式のものにおいて、歯面がピニオンの最後の係合点のあとで歯先から歯底に向かって、基準歯面に対しピニオンにより描かれた、垂直断面に投影されたトロコイドに近づけられており、前記歯溝が横断面で見て歯底の領域にて尖ったアーチの形を成しているものがある(例えば、特許文献1参照)。
特表2004−519644号公報
しかし、前記特許文献1に記載された歯車においては、隣り合う歯と歯の間の歯溝が横断面で見て、歯底の領域にて尖ったアーチの形を成していることから、歯底に尖った三角状の窪み点が形成されるものであった。このような歯車では、相手歯車の歯との噛み合い時に歯底の窪み点に応力が集中し易く、発生応力が増大して破損する虞があった。そのため、歯底を含めた歯全体の高強度化が求められていた。
そこで、このような問題点に対処し、本発明が解決しようとする課題は、相手歯車の歯との噛み合い時に歯元側の発生応力を低減し、歯の高強度化を図ることができる歯形形状の歯車を提供することにある。
前記課題を解決するために、本発明による歯車は、複数の歯を備え相手歯車の歯との噛み合いによって回転運動を伝達する歯車であって、各々の歯の歯元側の形状を、インボリュート曲線の歯面に滑らかに接続される曲面であって、前記インボリュート曲線の歯面に対し逆方向に凸となる曲線で表される第1の曲面と、この第1の曲面に滑らかに接続され、前記第1の曲面に対し同方向に凸となる双曲線関数で定義される第2の曲面と、を含んで形成したものである。
また、前記第2の曲面は、その歯直角断面における形状が、前記噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡に干渉しない曲率半径を有する曲線の形状としてもよい。
さらに、前記第1の曲面は、その歯直角断面における形状が、前記噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡に干渉しない曲率半径の円弧又は前記運動軌跡の干渉域に沿うようなスプライン曲線の形状としてもよい。
本発明による歯車によれば、各々の歯の歯元側の形状を、インボリュート曲線の歯面に滑らかに接続される曲面であって、前記インボリュート曲線の歯面に対し逆方向に凸となる曲線で表される第1の曲面と、この第1の曲面に滑らかに接続され、前記第1の曲面に対し同方向に凸となる双曲線関数で定義される第2の曲面とを含んで形成したことにより、歯底面に尖った三角状の窪み点が形成されることなく、双曲線関数で定義される曲面を形成することができる。したがって、歯元側に応力集中が生じにくく、相手歯車の歯との噛み合い時に歯元側の発生応力を低減し、歯の高強度化を図ることができる。これにより、歯の長期耐久特性が改善される。
本発明による歯車の全体形状を示す正面図である。 標準歯車の歯形を示す斜視図である。 第1実施例による歯車の歯の形状を示す拡大説明図である。 歯車の歯が噛み合うとき接触する相手歯車の歯先側の歯面の運動軌跡を示す説明図である。 図4のA部の詳細形状を示す説明図である。 比較歯車についてシミュレーションし解析した結果の応力分布を示すグラフである。 第1実施例歯車についてシミュレーションし解析した結果の応力分布を示すグラフである。 第1実施例歯車と比較歯車との耐久試験結果を説明する表である。 第2実施例による歯車の歯の形状を示す拡大説明図である。 第2実施例歯車と比較歯車との耐久試験結果を説明する表である。
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明による歯車の全体形状を示す正面図である。この歯車は、複数の歯を備え相手歯車の歯との噛み合いにより2軸間に回転運動を伝達するもので、例えば自動車、精密機械、産業機械、及びこれらの部品等の動力伝達機構に広く使用されるものである。
図1において、歯車1は、略円板状のウェブ2の外周側に複数の歯3,3,…が形成され、ウェブ2の中心部には回転軸を固着する軸穴4が穿設されたボス5が形成されており、2軸間に回転運動を伝達するようになっている。なお、符号Pはこの歯車1のピッチ円を示している。
前記歯車1の歯3は、一般的には図2に示すように、インボリュート曲線の歯面を有し左右対称とされた標準歯車の歯形に形成されている。すなわち、各々の歯3がその歯先面6の歯幅W1と歯底面7(隣り合う歯3,3の間の歯溝において最も低い底面を指す)の歯幅W2とが同一寸法とされ、全歯たけHが歯幅方向に一定とされている。
図3は、本発明の第1実施例による歯車1の歯3の形状を示す拡大説明図である。図3において、歯3の側面を歯面aといい、歯面aの歯元側の形状を歯面bという。そして、本発明による歯車1の歯3は、歯元側の歯面bの形状を工夫したものであり、図3に示すように、各々の歯3の歯元側の歯面bの形状が、第1の曲面cと、第2の曲面dとを含んで形成されている。
すなわち、第1の曲面cは、インボリュート曲線の歯面aに滑らかに接続される曲面であって、前記インボリュート曲線の歯面aに対し逆方向に凸となる曲線で表される形状とされている。
また、第2の曲面dは、前記第1の曲面cに滑らかに接続され、前記第1の曲面cに対し同方向に凸となる双曲線関数で定義される形状とされている。その双曲線関数としては、y=cosh(x)と表され、双曲線余弦関数と呼ばれるものである。或いは、双曲線関数の一部とされ、y=k×cosh(x/k)と表される(ここで、kは係数)、カテナリー曲線と呼ばれるものとしてもよい。
このような歯形形状は、次のようにして決定される。まず、第2の曲面dは、図4において、歯3の歯直角断面における形状が、噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡に干渉しない曲率半径を有し、前記標準歯車の歯底面7(図2参照)に接する曲線の形状とされる。すなわち、歯車の歯3が噛み合うとき接触する相手歯車(図示省略)の歯先側の歯面の運動軌跡は、図4に示すようなトロコイド曲線Tで得られる。このトロコイド曲線Tは、標準歯車の歯3,3の間の歯溝内にて歯底面7には至らない領域でとどまっている。この状態で、相手歯車の歯の運動軌跡であるトロコイド曲線Tに干渉しない曲率半径を有し、前記標準歯車の歯底面7に接する曲線となる双曲線関数で定義される形状に決定すればよい。この場合、第2の曲面dは、図4に破線fで示す標準歯車の歯元側の歯面よりも内側に出っ張った形状となるので、歯元側の歯厚が従来よりも大きくなる。また、歯車の歯底面7に、前記特許文献1記載のような尖った三角状の窪み点が形成されることがない。なお、図4においては、双曲線関数による第2の曲面dは標準歯車の歯底面7に接する曲線の形状としたが、本発明はこれに限られず、相手歯車の歯の運動軌跡と干渉しない位置であれば任意の位置に設定してもよい。例えば、前記標準歯車の歯底面7よりも上げた位置に設定すれば、さらに歯の高強度化を図る可能性がある。
次に、第1の曲面cは、図4において、歯3の歯直角断面における形状が、噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡に干渉しない曲率半径の円弧又は前記運動軌跡の干渉域に沿うようなスプライン曲線の形状とされる。ここで、図4のA部の詳細形状を図5に示す。図5において、歯面aと曲面dとが交わる点には、インボリュート曲線の歯面aの湾曲形状と、双曲線関数で定義される第2の曲面dの湾曲形状(歯面aの湾曲形状と逆方向)とがぶつかるエッジeができる。このように歯面にエッジが存在すると、そこには応力が集中し易くなる。そこで、そのエッジeをなくすために、第1の曲面cの形状を、前記のような、相手歯車の歯の運動軌跡であるトロコイド曲線Tに干渉しない曲率半径の円弧又はそのトロコイド曲線Tの干渉域に沿うようなスプライン曲線の形状に決定すればよい。この場合、第1の曲面cは、エッジeの存在しない滑らかな歯面となり、インボリュート曲線の歯面aに滑らかに接続される曲面であって、該インボリュート曲線の歯面aに対し逆方向に凸となる曲線で表される曲面となる。したがって、エッジによる応力集中を生じさせない形状の歯形を実現できる。
以上のように決定された歯形形状の第1実施例の歯車1(以下「第1実施例歯車」という)について、噛み合い時の歯元側の発生応力をコンピュータ支援によるシミュレーションで求めて解析(CAE)した結果を説明する。この場合、比較する歯車としては、標準歯車の歯形において、刃先に円弧で定義した丸み部分を有するラックで創成歯切りされた歯車(以下「比較歯車」という)とする。
はじめに、このシミュレーションによる歯元応力計算時の計算モデルと解析条件とについて説明する。この解析において用いた第1実施例歯車及び比較歯車は、平歯車であり、モジュール(m)が1、歯数が30枚である。材質は、ヤング率=2800MPa、ポアソン比≒0.38の樹脂(POM)である。噛み合いの相手歯車は、前記第1実施例歯車及び比較歯車と同諸元とする。負荷条件は、最悪荷重点位置に歯面法線方向へ10Nの荷重を付与する。解析モデルとしては、1歯のみを抜き出したシェルメッシュモデルにて解析した。歯元応力計算の計算ソフトとしては、「SolidWorks」を使用した。
まず、比較歯車について解析した結果の歯元応力の応力分布を図6に示す。図6において、横軸は、全歯たけ方向のX座標(mm)を示し、座標の右側が歯先側を示しており、左側が歯底側を示している。横軸の原点が歯車中心(軸穴4の中心)である。縦軸は、発生する主応力(MPa)の大きさを示している。この比較歯車においては、図6に示すように、歯先側から歯底側に向かって主応力が徐々に増大し、X座標=14.3mm位から急激に主応力が立ち上がり、最大主応力σmaxは5.39MPaまで達している。
次に、第1実施例歯車について解析した結果の歯元応力の応力分布を図7に示す。図7において、横軸、縦軸は、図6と同様に、全歯たけ方向のX座標(mm)と、発生する主応力(MPa)の大きさを示している。第1実施例歯車においても、図7に示すように、歯先から歯底に向かって主応力が徐々に増大するが、最大主応力σmaxは4.7MPaとなり、比較歯車と比べ約13%程度低くなっている。また、歯先から歯底に向かっての応力変化においても、比較歯車のような急激な応力変動は小さくなっている。
上述のシミュレーションによる解析結果から明らかなように、第1実施例歯車の歯形形状によれば、比較歯車よりも、相手歯車の歯との噛み合い時に歯元側の発生応力を低減し、歯の高強度化を図ることができる。したがって、歯の長期耐久特性が改善される。
また、本発明の歯車によれば、歯元側の形状が双曲線関数で定義される曲面に形成されるので、歯底に尖った三角状の窪み点が形成される従来の歯車に比して、歯元側に応力集中が生じにくくなっている。
また、上述の実施の形態では、本発明を標準歯車に対して適用した例を説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、例えば、転位歯車にも適用可能であることはもちろんである。
なお、本発明の歯車は、平歯車に限られず、はすば歯車、やまば歯車、傘歯車、フェースギヤ、ウォームギヤ、ハイポイドギヤ等の歯形形状にも広く適用できる。また、本発明の歯車は、樹脂製の歯車に限られず、金属(例えば、機械構造用合金鋼、炭素鋼、ステンレス鋼、真鍮、リン青銅等)製の歯車にも適用できる。
以下、本発明の歯車について耐久試験を実施した結果を、比較歯車の耐久試験結果と比較して説明する。
図8は、第1実施例歯車と比較歯車との耐久試験結果を説明する表である。この耐久試験は、図3に示す第1実施例歯車について、第2の曲面dを定義する双曲線関数の一部でありカテナリー曲線と呼ばれる、y=k×cosh(x/k)において、係数k=0.343とした歯車を用いている。また、比較歯車は、前述のコンピュータ支援によるシミュレーション解析(CAE)したときの歯車と同じであり、標準歯車の歯形において刃先に円弧で定義した丸み部分を有するラックで創成歯切りされた歯車である。サンプルとしての第1実施例歯車及び比較歯車の諸元は、共に平歯車であり、モジュール(m)が1、圧力角が20°、歯数が30枚、歯幅が5mmである。材質は、ヤング率=2800MPa、ポアソン比≒0.38の樹脂(POM)で、例えば、ポリプラスチックス社製の「ジュラコンM90-44」というものである。
耐久試験の条件は、回転数:1000rpm、潤滑剤:共同油脂社製のグリス「マルテンプTA No.2」、雰囲気温度:60℃、負荷トルク:2.00Nmである。試験方法は、第1実施例歯車及び比較歯車共に、同じ歯車同士を噛み合わせて同方向に回転させ、噛み合った歯車のどちらかが破壊するまでの経過時間(hr)と、噛み合い回数(回)を比較した。
耐久試験結果は、図8に示すように、比較歯車は、回転開始から8.9時間経過し、噛み合い回数が534000回になったところで破壊した。一方、第1実施例歯車は、回転開始から13.3時間経過し、噛み合い回数が798000回になったところで破壊した。これによると、第1実施例歯車/比較歯車を対比した寿命比率は149%となり、第1実施例歯車の高強度化により耐久特性が改善されたことが分かる。
図9は、本発明の第2実施例による歯車の歯の形状を示す拡大説明図である。図9における歯面a、歯面b並びに第1の曲面c、第2の曲面dの意味は、図3におけるものと同じである。ここで、図9においては、第2の曲面dを定義する双曲線関数の一部でありカテナリー曲線と呼ばれる、y=k×cosh(x/k)において、係数k=0.428としたものである。この第2実施例歯車は、歯元側の歯面bの形状が第1実施例歯車に比べて半円弧状に近付いた形状をしている。このように決定された歯形形状の第2実施例の歯車1(以下「第2実施例歯車」という)について、耐久試験した結果を説明する。
図10は、第2実施例歯車と比較歯車との耐久試験結果を説明する表である。この耐久試験は、図9に示す第2実施例歯車と前述の比較歯車とを対比したものである。この場合、サンプルとしての第2実施例歯車及び比較歯車の諸元、材質、耐久試験の条件、試験方法等は、いずれも図8に示す耐久試験と同様である。
耐久試験結果は、図10に示すように、比較歯車は、回転開始から8.9時間経過し、噛み合い回数が534000回になったところで破壊した。一方、第2実施例歯車は、回転開始から23.1時間経過し、噛み合い回数が1386000回になったところで破壊した。これによると、第2実施例歯車/比較歯車を対比した寿命比率は260%となり、第2実施例歯車の高強度化により耐久特性が改善されたことが分かる。
1…歯車
3…歯
6…歯先面
7…歯底面
8…歯先
9…歯元
a…歯面
b…歯元側の歯面
c…第1の曲面
d…第2の曲面
P…ピッチ円
T…トロコイド曲線

Claims (3)

  1. 複数の歯を備え相手歯車の歯との噛み合いによって回転運動を伝達する歯車であって、
    各々の歯の歯元側の形状を、インボリュート曲線の歯面に滑らかに接続される曲面であって、前記インボリュート曲線の歯面に対し逆方向に凸となる曲線で表される第1の曲面と、この第1の曲面に滑らかに接続され、前記第1の曲面に対し同方向に凸となる双曲線関数で定義される第2の曲面と、を含んで形成したことを特徴とする歯車。
  2. 前記第2の曲面は、その歯直角断面における形状が、前記噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡に干渉しない曲率半径を有する曲線の形状としたことを特徴とする請求項1記載の歯車。
  3. 前記第1の曲面は、その歯直角断面における形状が、前記噛み合う相手歯車の歯の運動軌跡に干渉しない曲率半径の円弧又は前記運動軌跡の干渉域に沿うようなスプライン曲線の形状としたことを特徴とする請求項1又は2記載の歯車。
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