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JP6256627B2 - 連続鋳造用鋳型及び鋼の連続鋳造方法 - Google Patents

連続鋳造用鋳型及び鋼の連続鋳造方法 Download PDF

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Description

本発明は、鋳型内での凝固シェルの不均一冷却に起因する鋳片表面割れを防止して連続鋳造することのできる連続鋳造用鋳型、及び、この鋳型を使用した鋼の連続鋳造方法に関する。
鋼の連続鋳造では、鋳型内に注入された溶鋼は水冷式鋳型によって冷却され、鋳型との接触面で溶鋼が凝固して凝固層(「凝固シェル」という)が生成される。この凝固シェルを外殻とし、内部を未凝固層とする鋳片は、鋳型の下流側に設置された水スプレーや気水スプレーによって冷却されながら鋳型下方に連続的に引き抜かれる。鋳片は、水スプレーや気水スプレーによる冷却によって厚みの中心部まで凝固し、その後、ガス切断機などによって切断されて、所定長さの鋳片が製造されている。
鋳型内における冷却が不均一になると、凝固シェルの厚みが鋳片の鋳造方向及び鋳片幅方向で不均一となる。凝固シェルには、凝固シェルの収縮や変形に起因する応力が作用する。凝固初期においては、この応力が凝固シェルの薄肉部に集中し、この応力によって凝固シェルの表面に割れが発生する。この割れは、その後の熱応力や連続鋳造機のロールによる曲げ応力及び矯正応力などの外力により拡大し、大きな表面割れとなる。鋳片に存在する表面割れは、次工程の圧延工程において鋼製品の表面欠陥となる。従って、鋼製品の表面欠陥の発生を防止するためには、鋳片の表面を溶削するまたは研削して、鋳片段階でその表面割れを除去することが必要となる。
鋳型内の不均一凝固は、特に、炭素含有量が0.08〜0.17質量%の鋼で発生しやすい。炭素含有量が0.08〜0.17質量%の鋼では、凝固時に包晶反応が起こる。鋳型内の不均一凝固は、この包晶反応によるδ鉄(フェライト)からγ鉄(オーステナイト)への変態時の体積収縮による変態応力に起因すると考えられている。つまり、この変態応力に起因する歪みによって凝固シェルが変形し、この変形により凝固シェルが鋳型内壁面から離れる。鋳型内壁面から離れた部位は鋳型による冷却が低下し、この鋳型内壁面から離れた部位(この鋳型内壁面から離れた部位を「デプレッション」という)での凝固シェル厚みが薄くなる。凝固シェル厚みが薄くなることで、この部分に上記応力が集中し、表面割れが発生すると考えられている。
特に、鋳片引き抜き速度が増加した場合には、凝固シェルから鋳型冷却水への平均熱流束が増加する(凝固シェルが急速冷却される)のみならず、熱流束の分布が不規則で且つ不均一になることから、鋳片表面割れの発生が増加傾向となる。具体的には、鋳片厚みが200mm以上のスラブ連続鋳造機においては、鋳片引き抜き速度が1.5m/min以上になると表面割れが発生しやすくなる。
従来、上記の包晶反応を伴う鋼種(「中炭素鋼」という)の鋳片表面割れを防止する目的で、結晶化しやすい組成のモールドパウダーを使用することが試みられている(例えば、特許文献1を参照)。これは、結晶化しやすい組成のモールドパウダーでは、モールドパウダー層の熱抵抗が増大し、凝固シェルが緩冷却されることに基づいている。緩冷却によって凝固シェルに作用する応力が低下し、表面割れが少なくなるからである。しかし、モールドパウダーによる緩冷却効果のみでは、十分な不均一凝固の改善は得られず、変態に伴う体積収縮量の大きい鋼種では、表面割れの発生を防止することはできない。
また、鋳型内壁面に設けた凹部(縦溝、格子溝、丸孔)にモールドパウダーを流入させ、規則的な熱伝達分布を与えて不均一凝固量を低減する方法も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、この方法では、凹部へのモールドパウダーの流入が不十分の場合には、凹部に溶鋼が侵入して拘束性ブレークアウトが発生したり、或いは、凹部に充填していたモールドパウダーが鋳造中に剥がれ、その部位に溶鋼が侵入して拘束性ブレークアウトが発生したりするという問題がある。
一方、規則的な熱伝達分布を与えて不均一凝固を低減する目的で、鋳型銅板の内壁面に溝加工(縦溝、格子溝)を施し、この溝に低熱伝導材料を充填する方法が提案されている(例えば、特許文献3及び特許文献4を参照)。この方法では、縦溝または格子溝に充填された低熱伝導材料と鋳型銅板との境界面、及び、格子部の直交部において、低熱伝導材料と鋳型銅板との熱歪差による応力が作用し、鋳型銅板の表面に割れが発生するという問題がある。
特開2005−297001号公報 特開平9−276994号公報 特開平2−6037号公報 特開平7−284896号公報
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、連続鋳造用鋳型の内壁面に、鋳型よりも熱伝導率が低く、あるいは高く、鋳型とは異なる種類の金属が埋め込まれた部位を複数それぞれ独立して形成し、これによって、拘束性ブレークアウトの発生及び鋳型表面の割れによる鋳型寿命低下を起こすことなく、凝固初期の凝固シェルの不均一冷却よる表面割れ、つまり、凝固シェル厚みの不均一による表面割れを防止することのできる連続鋳造用鋳型を提供することである。また、この連続鋳造用鋳型を使用した鋼の連続鋳造方法を提供することである。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]銅製または銅合金製の鋳型銅板を備えた連続鋳造用鋳型であって、
少なくとも、メニスカスから該メニスカスよりも20mm以上下方の位置までの領域の前記鋳型銅板の内壁面の一部分または全体に、前記鋳型銅板の熱伝導率に対して熱伝導率が80%以下あるいは125%以上である金属が、前記内壁面に設けられた円形凹溝または擬似円形凹溝に充填されて形成された、直径2〜20mmまたは円相当径2〜20mmの複数個の異種金属充填部をそれぞれ独立して有し、
前記鋳型銅板のビッカース硬さHVc[kgf/mm]と充填された金属のビッカース硬さHVm[kgf/mm]との比が下記(1)式を満たすとともに、
前記鋳型銅板の熱膨張率αc[μm/(m×K)]と充填された金属の熱膨張率αm[μm/(m×K)]との比が下記(2)式を満たすことを特徴とする連続鋳造用鋳型。
0.3≦HVc/HVm≦2.3・・・(1)
0.7≦αc/αm≦3.5・・・(2)
[2]前記鋳型銅板の内壁面には、破断伸びが8.0%以上の、鍍金手段または溶射手段による被覆層が形成されており、該被覆層で前記異種金属充填部は覆われていることを特徴とする、上記[1]に記載の連続鋳造用鋳型。
[3]前記被覆層は、ニッケルまたはニッケル−コバルト合金(コバルト含有量;50質量%以上)で形成されることを特徴とする、上記[2]に記載の連続鋳造用鋳型。
[4]上記[1]ないし上記[3]のいずれか1つに記載の連続鋳造用鋳型を用いる鋼の連続鋳造方法であって、前記鋳型に溶鋼を注入し、該鋳型で溶鋼を冷却して凝固シェルを形成させ、該凝固シェルを外殻とし、内部を未凝固溶鋼とする鋳片を前記鋳型から引き抜いて鋳片を製造することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
[5]前記鋳型銅板を振動させるとともに、CaO、SiO、Al、NaO及びLiOを含有し、モールドパウダー中のCaO濃度とSiO濃度との比(質量%CaO/質量%SiO)で表される塩基度が1.0以上2.0以下であり、且つ、NaO濃度とLiO濃度との和が5.0質量%以上10.0質量%以下であるモールドパウダーを、前記鋳型に注入された溶鋼の表面に投入することを特徴とする、上記[4]に記載の鋼の連続鋳造方法。
[6]前記鋳型の総抜熱量Qが0.5MW/m以上2.5MW/m以下となるように、前記鋳型を冷却することを特徴とする、上記[5]に記載の鋼の連続鋳造方法。
本発明によれば、複数の異種金属充填部を、メニスカス位置を含むメニスカス近傍の連続鋳造用鋳型銅板の幅方向及び鋳造方向に設置するので、メニスカス近傍の鋳型幅方向及び鋳造方向における連続鋳造用鋳型の熱抵抗が規則的且つ周期的に増減する。これによって、メニスカス近傍、つまり、凝固初期での凝固シェルから連続鋳造用鋳型への熱流束が規則的且つ周期的に増減する。この熱流束の規則的且つ周期的な増減により、δ鉄からγ鉄への変態による応力や熱応力が低減し、これらの応力によって生じる凝固シェルの変形が小さくなる。凝固シェルの変形が小さくなることで、凝固シェルの変形に起因する不均一な熱流束分布が均一化され、且つ、発生する応力が分散されて個々の歪量が小さくなる。その結果、凝固シェル表面における割れの発生が防止される。
更に、本発明によれば、鋳型銅板のビッカース硬さHVcと異種金属のビッカース硬さHVmとの比、及び、鋳型銅板の熱膨張率αcと異種金属の熱膨張率αmとの比が、所定の範囲となっているので、鋳型銅板と異種金属充填部の硬さの違いによる鋳型銅板表面の磨耗量の差及び熱膨張の差に起因する鋳型銅板表面に掛かる応力を低減できる。よって、鋳型銅板の寿命がより長くなる。
図1は、本発明の実施形態の一例に係る連続鋳造用鋳型の一部を構成する鋳型長辺銅板を内壁面側から見た概略図である。 図2は、図1に示す鋳型長辺銅板の異種金属充填部が形成された部位の拡大図である。 図3は、異種金属充填部を有する鋳型長辺銅板の三箇所の位置における熱抵抗を、異種金属充填部の位置に対応して概念的に示す図である。 図4は、鋳型銅板表面の保護のための鍍金層を鋳型銅板内壁面に設けた例を示す図である。 図5は、異種金属充填部の直径とスラブ鋳片の表面割れ個数密度との関係を示すグラフである。 図6は、HVc/HVmと、異種金属と鋳型銅板との境界部分でのクラック深さとの関係を示すグラフである。 図7は、αc/αmと、異種金属と鋳型銅板との境界部分でのクラック深さとの関係を示すグラフである。 図8は、モールドパウダーの塩基度と結晶化温度との関係を示すグラフである。 図9は、モールドパウダーのNaOとLiOとの濃度の和と、鋳型総抜熱量Qとの関係を示すグラフである。 図10は、鋳型総抜熱量Qとスラブ鋳片の表面割れ個数密度指数との関係を示すグラフである。 図11は、被覆層の破断伸びと銅板のクラック個数との関係を示すグラフである。 図12は、実施例におけるスラブ鋳片の表面割れ個数密度を比較して示すグラフである。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態の一例を説明する。図1は、本発明の実施形態の一例に係る連続鋳造用鋳型の一部を構成する鋳型長辺銅板を内壁面側から見た概略図である。図1に示す連続鋳造用鋳型は、スラブ鋳片を鋳造するための連続鋳造用鋳型の例であり、スラブ鋳片用の連続鋳造用鋳型は、一対の鋳型長辺銅板と一対の鋳型短辺銅板とを組み合わせて構成される。図1は、そのうちの鋳型長辺銅板を示している。
鋳型長辺銅板1における定常鋳造時のメニスカスの位置よりも距離Q(距離Qはゼロ以上の任意の値)離れた上方の位置から、メニスカスよりも距離R(距離Rは20mm以上の任意の値)離れた下方の位置までの内壁面の範囲には、円形凹溝(図2(B)の符号2を参照)が複数設けられている。この円形凹溝に、鋳型銅板の熱伝導率よりも低い、あるいは高い熱伝導率を有する金属(以下、「異種金属」と記す)が充填されて、異種金属充填部3が複数個形成されている。なお、図1における符号Lは、鋳型下部の異種金属充填部3の形成されていない範囲の鋳造方向長さであって、異種金属充填部3の下端位置から鋳型下端位置までの距離を表す。
ここで、「メニスカス」とは「鋳型内溶鋼湯面」であり、非鋳造中にはその位置は明確でないが、通常の鋼の連続鋳造操業では、メニスカス位置を鋳型銅板の上端から50mmないし200mm程度下方の位置としている。従って、メニスカス位置が鋳型長辺銅板1の上端から50mm下方の位置であっても、また、上端から200mm下方の位置であっても、距離Q及び距離Rが、以下に説明する本発明の条件を満足するように、異種金属充填部3を配置すればよい。
すなわち、凝固シェルの初期凝固への影響を勘案すれば、異種金属充填部3の設置領域は、少なくとも、メニスカスからメニスカスの下方20mmの位置までの領域とする必要があり、従って、距離Rは、20mm以上とする必要がある。
連続鋳造用鋳型による抜熱量は、メニスカス位置近傍が他の部位に比べて高い。つまり、メニスカス位置近傍の熱流束qは、他の部位の熱流束qに比較して高い。本発明者らによる実験の結果、鋳型への冷却水の供給量や鋳片引き抜き速度にもよるが、メニスカスから30mm下方の位置では、熱流束qが1.5MW/mを下回るものの、メニスカスから20mm下方の位置では、熱流束qは、概ね1.5MW/m以上となる。
本発明では、メニスカス位置近傍の鋳型内壁面で熱抵抗を変動させている。これにより、異種金属充填部3による熱流束の周期的な変動の効果が十分に確保され、表面割れの発生しやすい高速鋳造時や中炭素鋼の鋳造時においても、鋳片表面割れの防止効果を十分に得ることができる。すなわち、初期凝固への影響を勘案すれば、少なくとも、熱流束qの大きいメニスカスから20mm下方の位置までは、異種金属充填部3を配置する必要がある。距離Rが20mm未満の場合には、鋳片表面割れの防止効果が不十分になる。
一方、異種金属充填部3の上端部の位置は、メニスカスと同一位置またはメニスカス位置よりも上方である限り、どこの位置であっても構わず、従って、距離Qは、ゼロ以上の任意の値で構わない。但し、メニスカスは、鋳造中に異種金属充填部3の設置領域に存在する必要があり、しかも、メニスカスは鋳造中に上下方向に変動するので、異種金属充填部3の上端部が常にメニスカスよりも上方位置となるように、想定されるメニスカス位置よりも10mm程度上方位置まで、望ましくは20mm〜50mm程度上方位置まで、異種金属充填部3を設置することが好ましい。
図示を省略してある鋳型短辺銅板にも、鋳型長辺銅板1と同様に、その内壁面側に異種金属充填部3が形成されるものとして、以降、鋳型短辺銅板についての説明は省略する。但し、スラブ鋳片においては、その形状に起因して長辺面側の凝固シェルに応力集中が起こりやすく、長辺面側で表面割れが発生しやすい。従って、スラブ鋳片用の連続鋳造用鋳型の鋳型短辺銅板には、必ずしも異種金属充填部3を設置する必要はない。また、図1では、鋳型長辺銅板1の内壁面の鋳片幅方向全体に亘って異種金属充填部3が設置されているが、鋳片の凝固シェルに応力集中の起こりやすい鋳片の幅方向中央部に相当する部位だけに、異種金属充填部3を設置しても構わない。
図2は、図1に示す鋳型長辺銅板の異種金属充填部が形成された部位の拡大図で、図2(A)は内壁面側から見た部位の図であり、図2(B)は、図2(A)のX−X’断面図である。異種金属充填部3は、鋳型長辺銅板1の内壁面側にそれぞれ独立して加工された、直径dが2〜20mmの円形凹溝2の内部に、鍍金手段や溶射手段などによって、鋳型銅板の熱伝導率に対して熱伝導率が80%以下あるいは125%以上である異種金属が充填されて形成されたものである。図2における符号5は冷却水流路、符号6はバックプレートである。
なお、異種金属充填部3における異種金属の充填厚みHは0.5mm以上とすることが好ましい。充填厚みを0.5mm以上とすることで、異種金属充填部3における熱流束の低下が十分なものとなる。異種金属充填部同士の間隔Pは、全ての異種金属充填部同士で同じである必要はない。しかしながら、後述する熱抵抗の変動を確実に周期的なものとするためには、全ての異種金属充填部同士の間隔Pは同じであることが望ましい。
図3は、鋳型長辺銅板1の三箇所の位置における熱抵抗を異種金属充填部3の位置に対応して概念的に示す図である。鋳型銅板よりも熱伝導率の低い金属が充填された異種金属充填部3、つまり、鋳型長辺銅板1よりも熱抵抗の高い異種金属充填部3を、メニスカス位置を含むメニスカス近傍の連続鋳造用鋳型の幅方向及び鋳造方向に複数設置することにより、メニスカス近傍の鋳型幅方向及び鋳造方向における連続鋳造用鋳型の熱抵抗が規則的且つ周期的に増減する。これによって、メニスカス近傍、つまり、凝固初期での凝固シェルから連続鋳造用鋳型への熱流束が規則的且つ周期的に増減する。この熱流束の規則的且つ周期的な増減により、δ鉄からγ鉄への変態によって発生する応力や熱応力が低減し、これらの応力によって生じる凝固シェルの変形が小さくなる。凝固シェルの変形が小さくなることで、凝固シェルの変形に起因する不均一な熱流束分布が均一化され、且つ、発生する応力が分散されて個々の歪量が小さくなる。その結果、凝固シェル表面における表面割れの発生が防止される。
本発明では、鋳型銅板として純銅または銅合金を使用する。鋳型銅板として使用する銅合金としては、一般的に連続鋳造用鋳型銅板として使用される、クロム(Cr)やジルコニウム(Zr)などを微量添加した銅合金を用いればよい。近年では、鋳型内の凝固の均一化または溶鋼中介在物の凝固シェルへの捕捉を防止するために、鋳型内の溶鋼を攪拌する電磁攪拌装置が設置されていることが一般的である。電磁攪拌装置を設置する場合には、電磁コイルから溶鋼への磁場強度の減衰を抑制するために、導電率を低減した銅合金が用いられている。この場合、導電率の低下に応じて熱伝導率も低減し、純銅(熱伝導率;398W/(m×K))の略1/2の熱伝導率を有する銅合金製鋳型銅板が使用されることもある。鋳型銅板として使用される銅合金は、一般的に、純銅よりも熱伝導率が低い。
円形凹溝2に充填する異種金属としては、その熱伝導率が鋳型銅板の熱伝導率に対して80%以下あるいは125%以上である金属を使用する必要がある。異種金属の熱伝導率が、鋳型銅板の熱伝導率に対して80%よりも大きいあるいは125%よりも小さいと、異種金属充填部3による熱流束の周期的な変動の効果が不十分であるために、鋳片表面割れの発生しやすい高速鋳造時や中炭素鋼の鋳造時において、鋳片表面割れの防止効果が不十分になる。
円形凹溝2に充填する異種金属としては、鍍金や溶射のしやすいニッケル(Ni、熱伝導率;約90W/(m・K))、ニッケル合金(熱伝導率;約40〜90W/(m・K))、クロム(Cr、熱伝導率;67W/(m×K))、コバルト(Co、熱伝導率;70W/(m×K))などが好適である。また、鋳型銅板の熱伝導率に応じて、銅合金(熱伝導率:約100〜398W/(m・K))や純銅を、円形凹溝2に充填する金属として用いることもできる。鋳型銅板として熱伝導率の低い銅合金を使用し、異種金属として純銅を使用した場合には、異種金属充填部3を設置した部位の方が鋳型銅板の部位よりも熱抵抗が小さくなる。
図1及び図2では、異種金属充填部3の鋳型長辺銅板1の内壁面における形状が円形であるが、円形とする必要はない。例えば楕円形のような、所謂「角」を有していない、円形に近い形状である限り、どのような形状であっても構わない。以下、円形に近いものを「擬似円形」と称す。異種金属充填部3の形状が擬似円形の場合には、異種金属充填部3を形成させるために鋳型長辺銅板1の内壁面に加工される溝を「擬似円形溝」と称す。擬似円形とは、例えば楕円形や、角部に円弧が形成された長方形など、角部を有していない形状であり、更には、花びら模様のような形状であっても構わない。擬似円形の大きさは、擬似円形の面積から求められる円相当径で評価する。この擬似円形の円相当径dは下記の(3)式で算出される。
円相当径d=(4×S/π)1/2・・・(3)
但し、(3)式において、Sは異種金属充填部3の面積(mm)である。
特許文献4のように、縦溝或いは格子溝を施し、この溝に異種金属を充填した場合には、異種金属と銅との境界面及び格子部の直交部において、異種金属と銅との熱歪差による応力が集中し、鋳型銅板表面に割れが発生するという問題が起こる。これに対して、本発明のように、異種金属充填部3の形状を円形または擬似円形とすることで、異種金属と銅との境界面は曲面状となることから、境界面で応力が集中しにくく、鋳型銅板表面に割れが発生しにくいという利点が発現する。
異種金属充填部3の直径dまたは円相当径dは2〜20mmであることが必要である。2mm以上とすることで、異種金属充填部3における熱流束の低下が十分となり、上記効果を得ることができる。また、2mm以上とすることで、異種金属を鍍金手段や溶射手段によって円形凹溝2や擬似円形凹溝(図示せず)の内部に充填することが容易となる。一方、異種金属充填部3の直径dまたは円相当径dを20mm以下とすることで、異種金属充填部3における熱流束の低下が抑制され、つまり、異種金属充填部3での凝固遅れが抑制されて、その位置での凝固シェルへの応力集中が防止され、凝固シェルでの表面割れ発生を防止することができる。すなわち、直径dまたは円相当径dが20mmを超えると表面割れが発生することから、異種金属充填部3の直径dまたは円相当径dは20mm以下にすることが必要である。
また、異種金属充填部3を形成させた鋳型銅板内壁面に、凝固シェルによる磨耗や熱履歴による鋳型表面の割れを防止することを目的として、鍍金層や溶射層で形成される被覆層を設けることが好ましい。図4は、鋳型銅板内壁面に鋳型銅板表面の保護のための鍍金層4を設けた例を示す図である。鍍金層4は、一般的に用いられるニッケルやニッケル系合金、例えばニッケル−コバルト合金(Ni−Co合金、コバルト含有量;50質量%以上)などを鍍金することで十分である。但し、鍍金層4の厚みhは2.0mm以下にすることが好ましい。鍍金層4の厚みhを2.0mm以下にすることで、熱流束に及ぼす鍍金層4の影響を少なくすることができ、異種金属充填部3による熱流束の周期的な変動の効果を十分に得ることができる。被覆層を溶射層で形成する場合も、上記に準じて設置すればよい。
なお、図1では、鋳造方向または鋳型幅方向に同一形状の異種金属充填部3を設置しているが、本発明では、必ずしも同一形状の異種金属充填部3を設置する必要はない。また、異種金属充填部3の直径または円相当径が2〜20mmの範囲内であれば、直径の異なる異種金属充填部3を鋳造方向または鋳型幅方向に設置しても構わない。この場合も、鋳型内での凝固シェルの不均一冷却に起因する鋳片表面割れを防止することが可能となる。
<実験1>
鋳型銅板の内壁面に形成した異種金属充填部3の直径dと、この鋳型を使用して製造されたスラブ鋳片の表面割れ個数密度との関係を調査するために試験を行った。この試験では、長辺の長さ2.1m、短辺の長さ0.25mの内面空間サイズを有し、内壁面に異種金属充填部3が形成された水冷銅鋳型を用いた。水冷銅鋳型の上端から下端までの長さ(=鋳型長)は900mmであり、試験では、メニスカスを鋳型上端より80mm下方の位置とし、メニスカスよりも30mm上方から、メニスカスよりも190mm下方の位置までの範囲(範囲長さ;(距離Q+距離R)=220mm)の鋳型内壁面に、異種金属充填部3を形成した。
この試験では、鋳型銅板として熱伝導率λcが119W/(m・K)である銅合金を使用し、且つ、異種金属としてニッケル合金(熱伝導率;90W/(m・K))を使用し、充填厚みHが0.5mmである円形状の異種金属充填部3が複数形成されている連続鋳造用鋳型を用いて、鋼の連続鋳造を複数回行った。
各連続鋳造試験において、円形凹溝2の直径d、つまり異種金属充填部3の直径dを変更し、鋳造されたスラブ鋳片の表面割れ密度を測定した。スラブ鋳片の表面割れの個数は、カラーチェックによる目視で確認し、鋳片表面に発生した縦割れの長さを測定し、長さが1cm以上あった場合には、表面割れとしてカウントし、表面割れ個数密度(個/m)を算出した。
異種金属充填部3の直径dとスラブ鋳片表面割れ個数密度との関係を図5に示す。異種金属充填部3の直径が2mm未満及び20mmを超える場合には、スラブ鋳片に表面割れが多発した。異種金属充填部3の直径が2mm未満及び20mmを超える場合には、凝固シェル変態時の体積収縮による変態応力が分散されずに応力集中が起こり、これにより、スラブ鋳片の表面割れ個数密度が、直径dを2〜20mmとする異種金属充填部3が設置された場合よりも、大きくなったと推察される。
<実験2>
異種金属充填部3の膨張率などの物性値は、鋳型銅板(純銅または銅合金)の物性値と異なることから、異種金属充填部3は、鋳型銅板との境界部分で剥離しやすい。これに起因して、本発明に係る連続鋳造用鋳型の寿命は、異種金属充填部3が形成されていない従来の鋳型に比べて、短くなりやすい。そこで、本発明者らは、異種金属充填部3の物性値について鋭意検討した。その結果、鋳型の耐久性は、鋳型銅板のビッカース硬さと異種金属のビッカース硬さとの比、及び、鋳型銅板の熱膨張率と異種金属の熱膨張率との比に関連するとの結論に至った。この結論を確認するために試験を行った。
試験は、実験1で用いた鋳型よりも小さいサイズの鋳型を用い、試験的な連続鋳造を300回行うことで鋳型の限界確認試験を行った。試験的な連続鋳造を300回も行えば、概ねの場合、内壁面における鋳型銅板と異種金属との境界部分でクラックが生じる傾向がある。この試験的な300回の連続鋳造を複数回行った。各試験では、鋳型銅板を構成する金属(純銅、銅合金)と異種金属充填部3を構成する金属とを変更することで、HVc/HVm及びαc/αmが相異なる鋳型を用いた。生じたクラックの深さ、すなわち、境界部分で生じた鋳型の割れについて、鋳型表面からの割れの深さを超音波探傷法によって測定した。HVc/HVmと、異種金属と鋳型銅板との境界部分でのクラック深さとの関係を図6のグラフに示し、αc/αmと、前記クラック深さ[mm]との関係を図7のグラフに示す。
図6及び図7からわかるように、HVc/HVmが0.3以上2.3以下であり、αc/αmが0.7以上3.5以下であれば、そうでない場合に比べて、鋳型の内壁面にクラックが生じた場合でも、クラック深さを極端に抑えることが可能となる。
すなわち、本発明において、鋳型銅板のビッカース硬さと異種金属のビッカース硬さとの比は、下記の(1)式を満たす必要がある。
0.3≦HVc/HVm≦2.3・・・(1)
但し、(1)式において、HVcは、鋳型銅板のビッカース硬さ(単位;kgf/mm)を表し、HVmは、異種金属のビッカース硬さ(単位;kgf/mm)を表す。ビッカース硬さHvは、JIS Z 2244で規定されるビッカース硬さ試験によって評価することができる。例えば、鋳型銅板として純銅を採用する場合、ビッカース硬さHVcは37.6kgf/mmであり、異種金属としてニッケルを採用する場合には、ビッカース硬さHVmは、65.1kgf/mmである。
また、本発明において、鋳型銅板の熱膨張率と異種金属の熱膨張率との比は、下記の(2)式を満たす必要がある。
0.7≦αc/αm≦3.5・・・(2)
但し、(2)式において、αcは、鋳型の熱膨張率(単位;μm/(m×K))を表し、αmは、異種金属の熱膨張率(単位;μm/(m×K))を表す。熱膨張率αは、熱機械分析装置(TMA:Thermal Mechanical Analysis)で測定することが可能である。熱膨張率αcは、例えば、鋳型銅板として純銅を採用する場合、16.5μm/(m×K)であり、異種金属としてニッケルを採用する場合には、αmは、13.4μm/(m×K)である。
ビッカース硬さHVや熱膨張率αは、金属の組成を変更したり、金属の材料を変更したりすることで、値を変えることが可能である。例えば、異種金属として、ニッケルの替わりにクロムを採用すれば、HVmは上がるが、αmは下がる。
(1)式及び(2)式を満たす連続鋳造用鋳型では、鋼の連続鋳造時に鋳型表面において、異種金属が剥離しにくく、また、クラックが入りにくくなる。また、クラックが入ってもそのクラックの深さが大きくなりにくく、鋳型の寿命が長くなる。ここで、クラックとは、鋳型銅板の内壁面で生じる割れを意味し、特に、この割れは、内壁面における鋳型銅板と異種金属との境界部分で生じやすい。
<実験3>
鋼の連続鋳造を行う場合、連続鋳造用鋳型に溶鋼を注入し、鋳型を振動させるとともに、鋳型に注入された溶鋼の表面にモールドパウダーを投入し、鋳型を冷却しつつ鋳型から凝固シェルを引き抜いて鋳片を製造する。従来、包晶反応を伴う中炭素鋼の鋳片表面割れを防止する目的で、結晶化しやすい組成のモールドパウダーを使用することが試みられている。結晶化しやすい組成のモールドパウダーによって、モールドパウダー層の熱抵抗が増大し、凝固シェルの緩冷却が促進される。上述のとおり、異種金属充填部3による熱流束の周期的な変動の効果を奏する連続鋳造用鋳型を用いる場合、モールドパウダーの組成を工夫しないでも、緩冷却によって凝固シェルに作用する応力が低下し、変態量が大きい鋼種であっても、表面割れを防止し得る効果を期待できる。
しかしながら、本発明者らは、上述の連続鋳造用鋳型を用いて中炭素鋼の鋳片を連続鋳造する場合に、更なる鋳片表面割れの防止を目的として、異種金属充填部3での緩冷却を促進させるモールドパウダーの組成の検討を行った。
通常の鋳型では、緩冷却を促進させるモールドパウダーを用いると、鋳型の抜熱量の低下により凝固シェルの厚み不足が懸念される。しかしながら、上述の連続鋳造用鋳型では、メニスカス近傍での凝固シェルの変形が小さくなるので、凝固シェルと鋳型表面との密着性が高まり、鋳型の抜熱量が大きくなる傾向があるので、凝固シェルの厚みの低下を抑制でき、これまでは使用不能であった緩冷却を促進させるモールドパウダーが使用可能となる。そのようなモールドパウダー組成を、以下に説明する。
本発明においては、CaO、SiO及びAlを主成分として含有するモールドパウダーを使用することとし、該モールドパウダー中のCaO濃度とSiO濃度との比(質量%CaO/質量%SiO)で表される塩基度を1.0以上2.0以下とする。ここで、モールドパウダーの主成分とは、CaO、SiO及びAlの濃度の和が80〜90質量%となることを意味する。塩基度は均一なカスピダイン結晶を生成するために重要な指標であり、本発明者らは、モールドパウダーの塩基度と、モールパウダーが結晶化する温度(結晶化温度)との関係を調査した。その関係を図8に示す。
図8からわかるように、モールドパウダーの塩基度が1.0以上2.0以下の範囲において、結晶化温度が高く、鋳型内においての緩冷却効果による割れ抑制が効果的に発揮されることが期待できる。塩基度が、1.0未満または2.0を超える場合、結晶化温度が低く、モールドパウダーの結晶化による緩冷却効果が小さくなると予想できる。
塩基度が1.0以上2.0以下の範囲の場合に結晶化温度が上昇することが、上記からわかるが、本発明者らは、結晶化が過剰にならず、鋳型内での緩冷却化が促進され過ぎることを抑える成分、つまり、鋳型出側での凝固シェル厚が薄くなり過ぎることを抑える成分をモールドパウダーに添加することを検討した。
その結果、モールドパウダーが、更にNaO及びLiOを含有し、NaO濃度及びLiO濃度の和が5.0質量%以上10.0質量%以下であれば、凝固シェルを緩冷却しつつ鋳型内の凝固シェルを厚くできることを見出した。以下に、最適なモールドパウダーを見出した試験を説明する。
試験は、異種金属充填部3の直径dを20mmとする鋳型を用い、CaO、SiO及びAlを主成分として含有し、更に、NaO及びLiOを含有するモールドパウダーを用いた。その他の条件は、実験1で用いた条件と同様にして鋼の連続鋳造を複数回行った。試験では、塩基度は1.5の一定であるが、NaO濃度とLiO濃度との和が異なるモールドパウダーを用いた。鋳型抜熱量に及ぼすモールドパウダーの影響を明確化するために、鋳型への冷却水の供給量は全ての試験で同一とした。
複数回の試験結果から、モールドパウダーのNaO濃度とLiO濃度との和の鋳型総抜熱量Qに及ぼす影響を調査した。図9に、モールドパウダーのNaO濃度とLiO濃度との和と、鋳型総抜熱量Qとの関係を示すグラフを示す。
図9からわかるように、NaO濃度とLiO濃度との和が5.0質量%未満である場合、鋳型総抜熱量Qは大きくなる傾向があり、鋳型内での緩冷却を達成しにくい。一方、NaO濃度とLiO濃度との和が10.0質量%を超える場合、モールドパウダーの結晶化が必要以上に促進され、鋳型内での緩冷却化が促進され過ぎ、鋳型出側での凝固シェル厚が薄くなり、ブレークアウトの発生する懸念がある。モールドパウダー中のNaO濃度とLiO濃度との和が5.0質量%以上10.0質量%以下であると、鋳型総抜熱量Qは中程度の値となることがわかる。つまり、異種金属埋め込みによるシェル凝固の均一化の効果と相まって、鋳片表面割れをより良く低減できる。
モールドパウダーは、CaO、SiO及びAlを主成分として含有し、NaO及びLiOを含有しているが、更に、他の成分を有していてもよい。モールドパウダーには、例えば、MgO、CaF、BaO、MnO、B、Fe、ZrOなどや、モールドパウダーの溶融速度を制御するための炭素を添加してもよく、モールドパウダーは、その他の不可避的不純物を含有してもよい。
メニスカスに投入されたモールドパウダーは溶融し、振動している鋳型の内壁と凝固シェルとの間に入り込んでいくが、この際の振動ストロークは、4〜10mm、振動数は、50〜180cpmの条件とすることができる。
<実験4>
NaO濃度とLiO濃度との和を7.5質量%とするモールドパウダーを使用し、鋳型への冷却水の量を変更し、鋳型総抜熱量Qを強制的に変更する試験を行った。その他の条件は、実験3で用いた条件と同様にして鋼の連続鋳造を複数回行った。
複数回の試験から、鋳型総抜熱量Qとスラブ鋳片の表面割れ個数密度との関係を求めた。試験では、連続鋳造用鋳型として、異種金属充填部3が形成されていない従来の鋳型を用いた鋼の連続鋳造で製造されたスラブ鋳片の表面割れ個数密度(個/m)を1.0とし、各試験で鋳造されたスラブ鋳片の表面割れ個数密度(個/m)の割合で評価した表面割れ個数密度指数を、表面割れ個数の尺度として求めた。
図10に、鋳型総抜熱量Qとスラブ鋳片の表面割れ個数密度指数との関係を示すグラフを示す。図10からわかるように、鋳型総抜熱量Qが0.5MW/m以上2.5MW/m以下となれば、表面割れ個数を大幅に抑えることが可能であることがわかる。なお、鋳型総抜熱量Qが約1.5〜2.5MW/mの範囲においては、鋳型総抜熱量Qが増加するにつれて、表面割れ個数密度指数が若干増加する傾向が観察されるが、この傾向は、異種金属埋め込みの効果はあるものの、緩冷却の効果が薄れることに起因するものと推察される。
すなわち、異種金属充填部3が形成された連続鋳造用鋳型に溶鋼を注入し、CaO、SiO及びAlを主成分として含有し、NaO及びLiOを含有するモールドパウダーを鋳型内の溶鋼表面に投入して鋼の連続鋳造を行う場合に、鋳型総抜熱量Qが0.5MW/m以上2.5MW/m以下となるように、鋳型を冷却することが好ましい。これにより、スラブ鋳片の表面割れ個数を大幅に抑えることが可能となる。
<実験5>
鋳型銅板の内壁面に形成する被覆層(鍍金層または溶射層)の破断伸びが、鋳型表面のクラック発生に及ぼす影響を調査した。被覆層の破断伸びは、JIS Z 2241に記載される金属材料引張試験によって測定した「破断伸び」である。
銅板の表面に複数個の異種金属充填部3を形成し、更に、この異種金属充填部3を覆う被覆層を鍍金手段によって形成し、破断伸びの異なる被覆層を持つサンプルを作製した。これらのサンプルに熱疲労試験(JIS 2278、高温側;700℃、低温側;25℃)を実施し、サンプル表面に発生したクラックの個数に基づいて、鋳型寿命を評価した。図11に、被覆層の破断伸びと銅板のクラック個数との関係を示すグラフを示す。
被覆層の破断伸びが8%以上の場合、銅板及び異種金属充填部3の熱膨張による銅板表面のクラックを抑制可能であることが確認できた。また、被覆層の破断伸びが8%未満の場合、銅板及び異種金属充填部3の熱膨張の影響を抑制できず、銅板表面にクラックが入りやすくなるので、好ましくない。
上述のとおり、本発明によれば、複数の異種金属充填部3を、メニスカス位置を含むメニスカス近傍の連続鋳造用鋳型の幅方向及び鋳造方向に設置するので、メニスカス近傍の鋳型幅方向及び鋳造方向における連続鋳造用鋳型の熱抵抗が規則的且つ周期的に増減する。これによって、メニスカス近傍、つまり、凝固初期での凝固シェルから連続鋳造用鋳型への熱流束が規則的且つ周期的に増減する。この熱流束の規則的且つ周期的な増減により、δ鉄からγ鉄への変態による応力や熱応力が低減し、これらの応力によって生じる凝固シェルの変形が小さくなる。凝固シェルの変形が小さくなることで、凝固シェルの変形に起因する不均一な熱流束分布が均一化され、且つ、発生する応力が分散されて個々の歪量が小さくなる。その結果、凝固シェル表面における割れの発生が防止される。
更には、鋳型銅板のビッカース硬さHVcと異種金属のビッカース硬さHVmとの比、及び、鋳型銅板の熱膨張率αcと異種金属の熱膨張率αmとの比が所定の範囲となっているので、鋳型銅板と異種金属充填部の硬さの違いによる鋳型表面の磨耗量の差及び熱膨張差による鋳型表面にかかる応力を低減でき、鋳型の寿命がより長くなる。
また、モールドパウダーの組成を調整することや冷却水の供給量を調整することによって、鋳型総抜熱量Qを所定の範囲に調整するので、凝固シェル表面における割れの発生を防止し、スラブ鋳片に生じる割れの発生を抑えることができる。
鋳型銅板の内壁面に、直径20mmとなる円形状の異種金属充填部が複数形成された、図1に示すような水冷銅鋳型を準備し、中炭素鋼(化学成分、C;0.08〜0.17質量%、Si;0.10〜0.30質量%、Mn;0.50〜1.20質量%、P;0.010〜0.030質量%、S;0.005〜0.015質量%、Al;0.020〜0.040質量%)を、準備した水冷銅鋳型で鋳造し、鋳造後の鋳片の表面割れを調査する試験を行った。水冷銅鋳型は、長辺長さが1.8m、短辺長さが0.26mの内面空間サイズを有する。
使用した水冷銅鋳型の上端から下端までの長さ(=鋳型長)は900mmであり、定常鋳造時のメニスカス(鋳型内溶鋼湯面)の位置を、鋳型上端から100mm下方位置に設定した。鋳型上端より80mm下方の位置から鋳型上端より300mm下方の位置までの範囲(距離Q=20mm、距離R=200mm、範囲長さ(距離Q+距離R)=220mm)の鋳型銅板内壁面に円形凹溝の加工を施し、この円形凹溝の内部に鍍金手段を用いて、ニッケル合金(熱伝導率:80W/(m・K))などの異種金属を充填し、異種金属充填部を形成した。
鋳型銅板として、熱伝導率が約380W/(m・K)、ビッカース硬さHVcが37.6kgf/mm、熱膨張率αcが16.5μm/(m・K)である銅合金を使用し、円形凹溝に充填する異種金属を変更し、更には、使用するモールドパウダーの組成や鋳型総抜熱量Qを変更して、複数回の鋼の連続鋳造を行った(本発明例1〜11及び比較例1〜7)。また、本発明例1〜11及び比較例1〜7と比較するべく、異種金属充填部が形成されていない通常の連続鋳造用鋳型を用いた鋼の連続鋳造を行った(従来例)。
本発明例1〜11及び比較例1〜7で用いた連続鋳造鋳型の異種金属のビッカース硬さHVm及び熱膨張率αm、本発明例1〜11、比較例1〜7及び従来例において用いたモールドパウダーの塩基度、NaO濃度とLiO濃度との和、及び、鋳型総抜熱量Qの条件などを表1に示す。
Figure 0006256627
本発明例1〜11の鋳型においては、鋳型のビッカース硬さHVcと充填された金属のビッカース硬さHVmとの比(HVc/HVm)が0.3以上2.3以下であり、且つ、鋳型の熱膨張率αcと充填された金属の熱膨張率αmとの比(αc/αm)が0.7以上3.5以下を満たしている。よって、本発明例1〜11の鋳型は、(1)及び(2)式を満たしている。一方で、比較例では、(1)及び(2)式の何れか一方あるいは両方を満たしていない。
本発明例1〜11、比較例1〜7及び従来例において、製造されたスラブ鋳片の表面割れ密度を測定した。表面割れの個数は、カラーチェックによる目視で確認し、鋳片表面に発生した縦割れの長さを測定し、長さが1cm以上あった場合に、表面割れとしてカウントし、表面割れ個数密度(個/m)を算出した。従来例におけるスラブ鋳片の表面割れ個数密度(個/m)を1.0として、この従来例における表面割れ個数密度に対する各試験のスラブ鋳片の表面割れ個数密度(個/m)の割合で評価した表面割れ個数密度指数を、表面割れ個数の尺度として求めた。本発明例1〜11及び比較例1〜7における表面割れ個数密度指数を図12に示す。
図12に示すように、本発明例1〜11では、表面割れ個数密度指数が0.4を下回っているのに対して、比較例1〜7においては、0.4を超えている。よって、(1)式及び(2)式を満たす本発明によって、凝固シェル表面における割れの発生が防止し、スラブ鋳片に生じる割れの発生を抑えられていることが確認できた。
1 鋳型長辺銅板
2 円形凹溝
3 異種金属充填部
4 鍍金層
5 冷却水流路
6 バックプレート

Claims (6)

  1. 銅製または銅合金製の鋳型銅板を備えた連続鋳造用鋳型であって、
    少なくとも、メニスカスから該メニスカスよりも20mm以上下方の位置までの領域の前記鋳型銅板の内壁面の一部分または全体に、前記鋳型銅板の熱伝導率に対して熱伝導率が80%以下あるいは125%以上である金属が、複数個の異種金属充填部として、メニスカス近傍の鋳型幅方向及び鋳造方向における前記連続鋳造用鋳型の熱抵抗が規則的且つ周期的に増減するように前記内壁面に設けられ、
    前記鋳型銅板のビッカース硬さHVc[kgf/mm]と充填された金属のビッカース硬さHVm[kgf/mm]との比が下記(1)式を満たすとともに、
    前記鋳型銅板の熱膨張率αc[μm/(m×K)]と充填された金属の熱膨張率αm[μm/(m×K)]との比が下記(2)式を満たし、
    前記鋳型銅板の内壁面には、破断伸びが8.0%以上の、鍍金手段または溶射手段による被覆層が形成されており、該被覆層で前記異種金属充填部は覆われていることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
    0.3≦HVc/HVm≦2.3・・・(1)
    0.7≦αc/αm≦3.5・・・(2)
  2. 銅製または銅合金製の鋳型銅板を備えた連続鋳造用鋳型であって、
    少なくとも、メニスカスから該メニスカスよりも20mm以上下方の位置までの領域の前記鋳型銅板の内壁面の一部分または全体に、前記鋳型銅板の熱伝導率に対して熱伝導率が80%以下あるいは125%以上である金属が、前記内壁面に設けられた円形凹溝または擬似円形凹溝に充填されて形成された、直径2〜20mmまたは円相当径2〜20mmの複数個の異種金属充填部をそれぞれ独立して有し、
    前記鋳型銅板のビッカース硬さHVc[kgf/mm]と充填された金属のビッカース硬さHVm[kgf/mm]との比が下記(1)式を満たすとともに、
    前記鋳型銅板の熱膨張率αc[μm/(m×K)]と充填された金属の熱膨張率αm[μm/(m×K)]との比が下記(2)式を満たし、
    前記鋳型銅板の内壁面には、破断伸びが8.0%以上の、鍍金手段または溶射手段による被覆層が形成されており、該被覆層で前記異種金属充填部は覆われていることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
    0.3≦HVc/HVm≦2.3・・・(1)
    0.7≦αc/αm≦3.5・・・(2)
  3. 前記被覆層は、ニッケルまたはニッケル−コバルト合金(コバルト含有量;50質量%以上)で形成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の連続鋳造用鋳型。
  4. 請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の連続鋳造用鋳型を用いる鋼の連続鋳造方法であって、
    前記鋳型に溶鋼を注入し、該鋳型で溶鋼を冷却して凝固シェルを形成させ、
    該凝固シェルを外殻とし、内部を未凝固溶鋼とする鋳片を前記鋳型から引き抜いて鋳片を製造することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
  5. 前記鋳型銅板を振動させるとともに、
    CaO、SiO、Al、NaO及びLiOを含有し、モールドパウダー中のCaO濃度とSiO濃度との比(質量%CaO/質量%SiO)で表される塩基度が1.0以上2.0以下であり、且つ、NaO濃度とLiO濃度との和が5.0質量%以上10.0質量%以下であるモールドパウダーを、前記鋳型に注入された溶鋼の表面に投入することを特徴とする、請求項に記載の鋼の連続鋳造方法。
  6. 前記鋳型の総抜熱量Qが0.5MW/m以上2.5MW/m以下となるように、前記鋳型を冷却することを特徴とする、請求項に記載の鋼の連続鋳造方法。
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