本実施形態の説明に先立ち、本願発明者が検討した事項について説明する。
まず、磁歪材料を用いた発電デバイスについて説明する。
磁歪材料は、負の磁歪材料と正の磁歪材料とに大別される。以下では正の磁歪材料について説明する。
図1は、外部磁界がない状態での磁歪材料1の結晶構造を模式的に示す断面図である。
この状態では、磁歪材料1の各原子1aの磁化Mは磁化容易軸Kに向いている。複数の磁化Mは互いに平行又は半平行であるため結晶全体としては磁化がなく、実質的には結晶内には磁束密度が存在しない。
図2は、上記の磁歪材料1に対し、外部磁界Hを印加した直後の模式断面図である。
このように外部磁界Hを印加すると、各原子1aの磁化Mの向きが外部磁界Hの向きと平行となる。但し、この状態は、外部磁界Hを印加する前よりも磁歪材料1の磁気的なエネルギが高く不安定である。
図3は、このような高エネルギ状態を解消するために磁歪材料1に現れる変化を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、磁歪材料1は、磁気的に高いエネルギ状態を低下させるために、外部磁界Hと同じ方向に伸びようとする。
図4は、上記のように外部磁界Hにより伸びた磁歪材料1に応力を加え、磁歪材料1を縮めた場合の模式断面図である。
この場合は、応力により歪んだ結晶のエネルギを最低状態に維持すべく、各原子1aの磁化Mが変化する。このような現象は逆磁歪現象と呼ばれる。
次に、この逆磁歪現象を利用した発電デバイスについて説明する。
図5は、本願発明者が検討した発電デバイスの正面図である。
この発電デバイス20は、磁歪材料に応力を加えて発電を行うものであって、第1及び第2の磁性体棒21、22と、第1及び第2のコイル23、24と、第1及び第2の連結部材25、26とを有する。
各磁性体棒21、22は、例えばFeGa系合金のような正の磁歪材料から形成されており、その長さは100mm程度である。なお、FeGa系合金はGalfenolと呼ばれることもある。また、各磁性体棒1、2の断面形状は、長辺の長さが約100mmで短辺の長さが約0.5mmの矩形状である。
各磁性体棒21、22は並行しており、それらの一方の端部が第1の連結部材25で連結され、他方の端部が第2の連結部材26で連結される。各連結部材25、26は、鉄を含む磁性材料から形成され、各磁性体棒21、22に機械的かつ磁気的に結合する。
また、第1の磁性体棒21の外周には第1のコイル23が巻かれ、第2の磁性体棒22の外周には第2のコイル24が巻かれる。
図6は、この発電デバイス20の側面図である。
なお、図6において図5で説明したのと同じ要素には図5におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図6に示すように、第1の磁性体棒21の両端にはそれぞれ第1の永久磁石28と第2の永久磁石29が磁気的かつ機械的に接続される。なお、これらの永久磁石28、29は、第1の磁性体棒21だけでなく、第2の磁性体棒22(図5参照)の両端にも磁気的かつ機械的に接続される。
更に、各磁性体棒21、22の横にはヨーク27が並行するように設けられ、そのヨーク27と各永久磁石28、29とが磁気的かつ機械的に接続される。ヨーク27の材料は特に限定されないが、この例では鉄を含む磁性材料でヨーク27を形成する。
このような発電デバイス20においては、各棒21、22とヨーク27により磁路が形成され、各永久磁石28、29で発生した磁界Hがその磁路に沿って周回することになる。
その磁界Hは、各磁性体棒21、22の磁化容易軸をこれらの磁性体棒21、22の軸方向に向かせるバイアス磁界として機能する。
図7は、この発電デバイス20の発電原理を説明するための模式図である。なお、図7において、図5や図6で説明したのと同じ要素にはこれらの図におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図7に示すように、実使用下においては、発電デバイス20は自動車等の振動体10に固定される。この例では、例えば振動体10に第1の連結部材25を固着する。
その振動体10の振動により第1の磁性体棒21と第2の磁性体棒22の各々も振動し、これらの磁性体棒21、22が周期的に伸縮する。
このような伸縮運動によって、前述の逆磁歪現象が各磁性体棒21、22に誘起される。これにより、各コイル23、24を貫く磁束が時間的に変動し、これらのコイル23、24から誘導起電力を取り出すことができる。
特に、この例では各磁性体棒21、22の両端を連結部材25、26で連結したため、各磁性体棒21、22は独立して振動せずに互いに反対方向A、Bに伸縮する。これにより、第1の磁性体棒21には、圧縮応力と引張応力のいずれか一方のみが作用し、これらの応力の両方が同時に作用することがない。
その結果、圧縮応力と引張応力とが混在することが原因で第1の磁性体棒21において磁化の変化が相殺されることがなく、逆磁歪現象により第1の磁性体棒21に大きな磁化の変化を誘起することができる。これについては第2の磁性体棒22についても同様である。
しかしながら、このように二本の磁性体棒21、22を用いたのでは発電デバイス20が全体として振動し難くなり、振動体10の振動を効率的に電力に変換するのが難しい。
特に、この例では発電デバイス20が振動するのをヨーク27(図6参照)が阻害してしまうため、発電デバイス20がより一層振動し難くなってしまう。
更に、各磁性体棒21、22に各コイル23、24を直接巻いているため、発電デバイス20が振動すると各コイル23、24の内周面が各磁性体棒21、22の外周面に擦れ、これらのコイル23、24が断線するおそれがある。
以下に、発電デバイスのコイルが断線するのを防止しつつ、発電デバイスを容易に振動させることができる各実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図8は、第1実施形態に係る発電デバイスの一部断面側面図である。
この発電デバイス30は、逆磁歪現象を利用して振動体10の振動から電力を得るものであり、振動体10に固定されるベース31と、コイル33と、磁性体棒34とを有する。
このうち、ベース31は、その内部に磁路を形成するヨークとしての機能を備え、その材料としては軟鉄等の磁性材料を使用し得る。また、ベース31は、振動体10に固定される第1の長手面31aとこれに対向する第2の長手面31bとを有すると共に、これらの長手面31a、31bを繋ぐ短手面31cを備える。
ベース31の大きさは特に限定されない。この例では長手面31a、31bの長さを100mm〜200mm程度とし、振動体10の表面から測った短手面31cの高さを5mm〜10mm程度とする。
ベース31の第2の長手面31bには接着剤等の固定部材32が設けられ、その固定部材32にコイル33の外周面33aが固定される。
コイル33は、円筒状の樹脂製のボビン39の外周面に銅線を巻いてなるソレノイドコイルであり、その軸方向は磁性体棒34の延在方向と一致する。なお、ボビン39はコイル33の整形時に使用するものであり、ボビン39がなくてもコイル33の形状を維持できるときは、ボビン39を省略してもよい。
また、この例では、コイル33の内径を5mm〜10mm程度とし、コイル33の巻き数を1000回程度とする。
磁性体棒34は、コイル33の内周面33bから2.5mm〜7.5mm程度の間隔L1をおいてコイル33内に挿入されると共に、ベース31に並行するように設けられる。
磁性体棒34の材料は、逆磁歪現象が生じる磁性体であれば特に限定されない。但し、僅かな歪でも大きな磁化の変化を得ることができる磁性体材料を磁性体棒14の材料として用いるのが好ましい。
そのような材料としては、例えば、磁歪係数が数100ppm以上の超磁歪材料がある。超磁歪材料の一例としては、Tb-Dy-Fe系合金であるTerfenol-Dや、FeGa系合金であるGalfenolが挙げられる。
また、外部磁界がない場合には磁化しておらず、外部磁界に曝されたときのみ磁化する軟磁性材料も磁性体棒34の材料として好適である。そのような軟磁性材料としては、例えば、フェライト、アモルファスFe、及びFe系金属ガラスがある。
更に、双晶変形に伴い磁化の向きが変わる強磁性形状記憶合金を磁性体棒34の材料として使用してもよい。この強磁性形状記憶合金の一例としては、NiMnAl合金、NiCoMnSn合金、NiFeGaCo合金、及びCoNiAl合金がある。
また、これらの強磁性体形状記憶合金に代えて、メタ強磁性形状記憶合金を使用してもよい。メタ強磁性記憶合金は、応力に起因してマルテンサイト転移点が変化し、オーステナイト相が強磁性であるような材料であり、その一例としてはNiCoMnIn合金がある。
更に、応力による変位エネルギの一部を磁壁の移動により免散する材料であるSUS430、Fe-Al系合金、及びFeCrAl合金(サイレンタロイ)のいずれかで磁性体棒34を形成してもよい。
なお、前述のTerfenol-D、フェライト、NiCoMnSn合金、及びNiCoMnIn合金は機械的に脆いので、これらの材料を粉砕して樹脂と混練したコンポジット材料で磁性体棒34を形成するのが好ましい。
また、磁性体棒34は短冊状であり、その長さはベース31と同様に100mm〜200mm程度である。そして、磁性体棒34の厚さは0.2mm〜0.7mm程度である。
このような磁性体棒34の表面には、不図示の接着剤により非磁性板37が貼付される。非磁性板37の材料としては、FRP(Fiber Reinforced Plastic)等の強度に優れた樹脂、ガラスやセラミック等の無機材料、及び銅やアルミ等の金属がある。
非磁性板37も磁性体棒34と同様に短冊状である。その非磁性板37の長さは100mm〜200mm程度であり、厚さは1mm〜3mm程度である。
また、非磁性板37は、コイル33の内周面33bから2.5mm〜7.5mm程度の間隔L2をおいてコイル33内に挿入される。
そして、磁性体棒34と非磁性板37は、それらの両端が連結部材35を介してベース31と連結される。このように磁性体棒34がその両端で支持された構造は両持ち梁構造も呼ばれる。
また、この例では永久磁石を連結部材35として使用する。そして、不図示の接着剤により、連結部材35と磁性体棒34とを接着し、連結部材35とベース31とを接着する。
なお、連結部材35の高さは、例えば5mm〜20mm程度である。
また、連結部材35から発生した磁界Hは、磁性体棒34の磁化容易軸をその軸方向に向かせるバイアス磁界として機能する。なお、磁性体棒34に自発磁化がある場合には、逆磁歪効果でその自発磁化が変化することでコイル33に誘導起電力を誘起し得る。よって、この場合はバイアス磁界が不要となり、永久磁石に変えて軟鉄等の磁性材料で連結部材35を形成してもよい。
また、磁性材料から形成されたベース31は、上記の磁界Hの磁路の一部を担うヨークとしての役割を担い、これによりベース31と磁性体棒34とを周回する磁路が形成される。
本実施形態では、磁性体棒34の両端34a、34bに連結部材35を設け、これらの両端34a、34bをベース31に連結する。そして、両端34a、34bの間の磁性体棒34には金属製の錘36が設けられる。
次に、この発電デバイス30の動作について説明する。
図9は、実使用下における発電デバイス30の断面図である。
なお、図9において、図8で説明したのと同じ要素には図8におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図9に示すように、実使用下においては、振動体10の振動によって磁性体棒34がその短手方向Zに撓みながら上下に振動する。これにより磁性体棒34に周期的に応力が加わり、その応力によって磁性体棒34に逆磁歪現象が誘起され、磁性体棒34の磁化が周期的に変化する。そして、その磁化の変化によりコイル33に誘導起電力が発生し、振動体10の振動から電力を得ることができる。
ここで、本実施形態では、上記のようにコイル33の内周面33bから間隔をおいて磁性体棒34を設けたので、磁性体棒34とコイル33とが擦れることがない。これにより、磁性体棒34との摺接によってコイル33が断線するのを防止でき、発電デバイス30の信頼性を高めることができる。
なお、磁性体棒34との接触を確実に避けるために、コイル33の中央部分を拡幅してもよい。また、コイル33を円筒形状の以外の形状にして、コイル33と磁性体棒34との接触を防止してもよい。
更に、本実施形態ではヨークとして機能するベース31を振動体10に固定したため、ベース31が磁性体棒34の振動を阻害することがなく、振動体10の振動によって磁性体棒34を大きく振動させ、効率的に電力を得ることもできる。
しかも、磁性体棒34に錘36を設けたので、錘36の慣性によって磁性体棒34の振幅が大きくなり、コイル33に生じる誘導起電力を増大させることができる。
ここで、本実施形態では上記のように磁性体棒34に非磁性板37を貼付した。
図10は、非磁性板37の機能を説明するための拡大断面図である。
図10に示すように、振動体10(図8参照)の振動により、非磁性板37は磁性体棒34と共に撓む。これにより磁性体棒34と非磁性板37との積層体38には圧縮応力D1と引張応力D2が発生するが、これらのどちらが発生するかは積層体38の部位による。
例えば、図10の方向に積層体38が撓んでいる場合は、応力中心Cよりも下の積層体38には圧縮応力D1が作用し、応力中心Cよりも上の積層体38には引張応力D2が作用する。
なお、応力中心Cは、積層体38において、その上面と下面からの距離が等しい仮想面である。
その応力中心Cよりも下にある磁性体棒34には圧縮応力D1が支配的に作用し、引張応力D2は殆ど作用しない。その結果、圧縮応力と引張応力とが混在することが原因で磁性体棒34において磁化の変化が相殺されることがなく、逆磁歪現象により磁性体棒34に大きな磁化の変化を誘起することができる。
特に、非磁性板37の厚さT1を磁性体棒34の厚さT2よりも厚くすると、磁性体棒34が応力中心Cよりも確実に下に位置するようになり、圧縮応力と引張応力のいずれか一方のみを磁性体棒34に誘起することができる。
また、非磁性体37の材料として絶縁材料を使用することで、磁性体棒34に誘起した磁化で非磁性体37に渦電流が発生するのを抑制でき、当該磁化のエネルギを渦電流の生成に無駄に消費するのを防止できる。
以上、本実施形態について詳細に説明したが、本実施形態は上記に限定されない。
例えば、上記では連結部材35(図8参照)として永久磁石を使用し、それを接着剤を用いてベース31や磁性体棒34と接着したが、連結部材35の構成はこれに限定されない。
図11は、連結部材35の他の構造の一例を示す拡大断面図である。
なお、図11において、図8で説明したのと同じ要素には図8におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図11の例では、鉄等の金属材料で柱35a形成し、その柱35aと磁性体棒34とを溶接し、かつ、柱35aとベース31とを溶接する。
そして、柱35aに設けられた空洞35xにバイアス磁界を発生させるための永久磁石35bを嵌め込み、その永久磁石35bと柱35aとで連結部材35を形成する。
永久磁石35bと磁性体棒34とを溶接により接続したのでは、溶接時の熱により永久磁石35bの磁化が低下してしまが、このように柱35aを磁性体棒34に溶接することで永久磁石35bの磁化が低下するのを防止できる。
(第2実施形態)
本実施形態では、以下のようにベースの短手面を振動体に固定する。
図12は、本実施形態に係る発電デバイス40の断面図である。なお、図12において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのを同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図12に示すように、本実施形態では、ベース31の短手面31cを振動体10に固定する。
また、磁性体棒34の一方の端部34bとベース31の端部31dには錘36が設けられる。
このような発電デバイス40によれば、第1実施形態と同様に振動体10の振動で磁性体棒34がその短手方向Zに撓み、コイル33に誘導起電力を生成することができる。
また、第1実施形態と同様にコイル33の内周面33bから磁性体棒34が離れているので、磁性体棒34との接触が原因でコイル33が断線するおそれがない。
更に、図5〜図7の例のように二本の磁性体棒21、22と一本のヨーク27の計3本が並行している構造とは異なり、本実施形態では磁性体棒34とベース31の二つのみが並行している。よって、磁性体棒34の振動がベース31で抑制され難く、振動体10で磁性体棒34を大きく振動させることができる。
なお、本実施形態では、振動体10の振動により磁性体棒34だけでなくベース31も撓む。よって、図7の例と同様に、磁性体棒34には圧縮応力と引張応力のいずれか一方のみが作用し、これらの応力が同時に作用することはない。そのため、圧縮応力と引張応力の両方が磁性体棒34に作用することを避けるために第1実施形態で使用した非磁性板37(図10参照)は本実施形態では不要である。
(第3実施形態)
本実施形態では、第1実施形態で説明した磁性体棒34の共振周波数を調節し得る発電デバイスについて説明する。
図13は、本実施形態に係る発電デバイスの一部断面側面図である。なお、図13において、第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ要素を付し、以下ではその説明を省略する。
図13に示すように、この発電デバイス50は、磁性体棒34をその長手方向に伸張して該磁性体棒34の張力を調節する調節機構51を有する。
調節機構51は、シャフト55と、ベース31に固定されたプレート54とを有する。
このうち、シャフト55は、磁性体棒34、連結部材35、及び非磁性板37の各々を貫通する共に、二つのネジ穴55aが設けられる。
各ネジ穴55aは雌ネジであり、それぞれ第1のネジ56と第2のネジ57が挿入される。これらのネジ56、57は、プレート54の孔54aに挿通される。また、本実施形態では、二つの連結部材35のうち、シャフト55が通されている連結部材35はベース31に固定されず、ベース31の上で摺接可能となっている。
このような調節機構51によれば、ユーザが各ネジ56、57を回転させることでプレート54にシャフト55が引き付けられ、磁性体棒34の張力を調節することができる。
発電デバイス50が設置される振動体10には、自動車や工作機械等のように様々なものがある。これらは異なる振動数で振動するため、共振により磁性体棒34の振動の振幅が大きくなる振動体10もあれば、その振幅が小さくなってしまう振動体10もある。
本実施形態によれば、振動体10に発電デバイス50を設置した後であっても、調節機構51で磁性体棒34の共振周波数を調節できる。よって、振動体10の振動の特性に合わせて磁性体棒34の共振周波数を調節することで、磁性体棒34を共振させてその振幅を大きくすることができ、振動体10の種類の如何を問わず、発電デバイス50の発電効率を高めることができる。
なお、発電デバイス50の使用方法は上記に限定されない。
図14は、発電デバイス50の他の使用方法について示す一部断面側面図である。
図14の例では、ベース31の短手面31cを振動体10に固定する。このようにしても、振動体10の振動によって磁性体棒34が振動し、発電デバイス50が発電を行うことができる。
(第4実施形態)
本実施形態では、第1〜第3実施形態よりも発電効率がよい発電デバイスについて説明する。
図15は、本実施形態に係る発電デバイス60の一部断面側面図である。なお、図15において、第1〜第3実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらにおけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
この発電デバイス60においては固定部材32を二つに分割し、各々の固定部材32の間の隙間に錘36を導出することで、コイル33の外側に錘36が位置するようにする。
なお、コイル33も二つに分割し、各コイル33の間に錘36を導出するための隙間を設ける。更に、ボビン39にも錘36を導出するためのスリット39xを形成する。
これによれば、磁性体棒34が振動しているときにボビン39の内周面39aに錘36が触れることがないので、ボビン39の直径を小さくしてコイル33と磁性体棒34との間隔Dを狭めることができる。
よって、振動によって磁性体棒34に生じる磁化の変化をコイル33が敏感に捉えることができ、コイル33に誘起される誘導起電力を増大させることが可能となる。
更に、このようにコイル33の外部に錘36を導出すると、錘36の大きさがコイル33の内径で制限されなくなるので、錘36を大きくしてその質量を増加させることができる。錘36の質量の増加は、磁性体棒34の振幅を増大させて該磁性体棒34に大きな磁化の変化を生じさせるので、コイル33に生じる誘導起電力を高めるのに有効である。
なお、発電デバイス60の使用方法は上記に限定されない。
図16は、発電デバイス60の他の使用方法について示す一部断面側面図である。
図16の例では、ベース31の短手面31cを振動体10に固定する。このようにしても、振動体10の振動によって磁性体棒34が振動し、発電デバイス60が発電を行うことができる。
(第5実施形態)
第1〜第4実施形態では、磁性体棒14の両端部が連結部材35で支持された両持ち梁構造の発電デバイスについて説明した。
これに対し、本実施形態では以下のように片持ち梁構造の発電デバイスについて説明する。
図17は、本実施形態に係る発電デバイス70の一部断面側面図である。なお、図17において、第1〜第3実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図17に示すように、この発電デバイス70においては、磁性体棒34の一端34aのみに連結部材35を設け、磁性体棒34の他端34bには連結部材35を設けない。
これにより、磁性体棒34の他端34bは、ベース31から直接的に拘束力を受けない自由端となり、磁性体棒34の一端34aのみが連結部材35で支持された片持ち梁構造が得られる。
このように自由端となった他端34bは、振動体10のわずかな振動によっても大きく撓み、逆磁歪現象により磁性体棒34に大きな磁化の変化を誘起するため、発電デバイス70の発電効率を高めることができる。
なお、この例では一端34aの下の連結部材35のみにより磁性体棒34にバイアス磁化が印加され、第1実施形態(図8参照)のようにベース31にバイアス磁界を通す必要がない。よって、ベース31の材料として磁性体以外の非磁性材料を使用してもよい。
発電デバイス70の使用方法は上記に限定されない。
図18は、発電デバイス60の他の使用方法について示す一部断面側面図である。
図18の例では、磁性体棒34の一端34a寄りのベース31の短手面31cを振動体10に固定する。このようにしても、振動体10の振動によって磁性体棒34が振動し、発電デバイス70が発電を行うことができる。
(第6実施形態)
本実施形態においては、以下のようにして磁性体棒34に強い衝撃を与え、コイル33に誘起される誘導起電力を高める。
図19は、本実施形態に係る発電デバイス80の一部断面斜視図である。なお、図19において、第1〜第5実施形態で説明したのと同じ要素にはこれらの実施形態におけるのを同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
図19に示すように、この発電デバイス80は、第5実施形態と同様に片持ち梁構造を有しており、磁性体棒34の一端34aのみが連結部材35で支持される。
その一端34aには、磁性体棒34と連結部材35とを繋ぐ回転軸81が設けられ、回転軸81を中心にして磁性体棒34は一平面内で揺動可能である。なお、回転軸81に代えて球関節等の自在継手を用い、磁性体棒34を多方向に揺動可能としてもよい。
一方、磁性体棒34の他端34bはコイル33の外側に位置しており、当該他端34bに錘36が設けられる。
更に、その錘36の周囲には、ベース31に固定されたストッパ82が設けられる。ストッパ82には凹部82aが形成されており、その凹部82aにより錘36が囲われる。また、凹部82aの表面には当接片82bが設けられており、その当接片82bに錘36が当接することで、磁性体棒34の他端34bの振動の幅が規制される。
この発電デバイス80によれば、振動体10の振動に伴い磁性体棒34が振動し、ストッパ82の当接片82bに錘36が当接する。このとき、錘36が当接片82bから撃力を受け、磁性体棒34がその短手方向Zに撓む。その結果、逆磁歪現象により磁性体棒34に大きな磁化の変化が生じ、コイル33に発生する誘導起電力を高めることができる。
このようにストッパ82に錘36が当たるためには振動体10の振動が周期的である必要はなく、振動体10がパルス型振動等の任意の振動を行っても発電を行うことができ、振動体10の選択の幅が広がる。
特に、回転軸81を中心にして磁性体棒34を揺動可能としたことで、僅かな振動でもストッパ82に錘36を当てることができる。
なお、回転軸81がなくても錘36とストッパ82との間に作用する撃力が十分に大きい場合には回転軸81を省いてもよい。この場合には、第1〜第5実施形態と同様に連結部材35に磁性体棒34を固定し、磁性体棒34の弾性変形によって錘36がストッパ82に当たることになる。
更に、本実施形態ではストッパ82によって磁性体棒34の振動の幅が規制されるので、ボビン39の内周面39aに磁性体棒34が接触するのを防止でき、接触時の衝撃でコイル33が断線するのを防ぐことができる。
発電デバイス80の使用方法は上記に限定されない。
図20は、発電デバイス80の他の使用方法について示す一部断面側面図である。
図20の例では、振動体10の壁面に発電デバイス80を設けることで、磁性体棒34を鉛直下向きに垂らす。
また、図21のように、振動体10の天井面にベース31の短手面31cを固定し、振動体34を鉛直下向きに垂らしてもよい。
図20と図21のどちらにおいても、振動体10の振動によって磁性体棒34が振り子運動をすることで、発電デバイス80が発電を行うことができる。
特に、このように磁性体棒34を垂らすことで、人体に発電デバイス80を装着して徒歩中における人体の振動を利用して発電することが可能となる。
更に、上記ではストッパ82で磁性体棒34の振幅を制限したが、以下のようにボビン39を利用して磁性体棒34の振幅を制限してもよい。
図22は、本実施形態の別の例に係る発電デバイスの一部断面側面図である。
この例では、磁性体棒34の他端34b寄りのボビン39の内周面39aにストッパとして突起39yを設け、その突起39yで磁性体棒34の振幅を制限し、コイル33が磁性体棒34から受ける衝撃を緩和する。
(第7実施形態)
本実施形態では、二つのコイルを備えた発電デバイスの各例について、図23〜図27を参照しながら説明する。なお、図23〜図27において、第1〜第5実施形態で説明したのと同じ要素には同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
第1例
図23は、第1例に係る発電デバイスの断面図である。
この発電デバイス91においては、二本の磁性体棒34を互いに並行するように設け、その各々の周囲にコイル33を巻く。
また、各磁性体棒34の一端34a同士が連結部材35で連結され、その磁性体棒34の他端34b同士も連結部材35で連結される。なお、第1実施形態で説明したように、連結部材35としては永久磁石を使用し、その永久磁石で発生した磁界Hが各磁性体棒34を周回する。
その連結部材35の側面には固定部材32として接着剤が設けられ、その固定部材32にコイル33とボビン39が固定される。本実施形態では、磁性体棒34との接触によってコイル33が断線するのを防止するために、コイル33の内周面33bが磁性体棒34の外周面34xから離れるように、固定部材34にコイル33を固定する。
また、各磁性体棒34の一端34aにはベース31が設けられ、各磁性体棒34の他端34bには錘36が設けられる。そして、ベース31を介して発電デバイス91が振動体10に固定される。
本例によれば、上記のようにコイル33の内周面33bを磁性体棒34の外周面34xから離したため、磁性体棒34が短手方向Zに撓んでもその外周面34xがコイル33に擦れることがない。これにより、磁性体棒34との接触が原因でコイル33が断線するのを防止することができる。
更に、コイル33を二つ設けることで、各コイル33を直列に接続したり並列に接続したりすることがき、発電デバイス91の出力電圧を調節することもできる。
第2例
図24は、第2例に係る発電デバイス92の断面図である。
この例では二つの磁性体棒34のうちの一方の一端34aと他端34bに永久磁石48を設け、これらの永久磁石48により二つの磁性体棒34の各々にバイアス磁界を印加する。
なお、この場合は連結部材35として永久磁石を用いる必要はなく、永久磁石48で発生した磁界を通し易い磁性体で連結部材35を形成するのが好ましい。
第3例
図25は、第3例に係る発電デバイス93の断面図である。
本例では、第2例で説明した永久磁石48を、二つの磁性体棒34の各々の端部34a、34bに設ける。
第4例
図26は、第4例に係る発電デバイス94の断面図である。
本例では、各磁性体棒34の外周面34xに緩衝部材49を設け、その緩衝部材49を介して各磁性体棒34にコイル33を巻く。
緩衝部材49の材料は特に限定されないが、各磁性体棒34の振動を阻害せず、かつコイル33を傷つけないようにするため、フレキシブルで柔らかな材料で緩衝部材49を形成するのが好ましい。そのような材料としては、例えば、シリコーンゴムを含む接着剤がある。
一方、緩衝部材49としてシリコーンゴムよりも硬度の高いエポキシ樹脂を用いることで、各磁性体棒34の変形にコイル33を速やかに追従させ、磁性体棒34とコイル33とを同周期で振動させてもよい。
このようにコイル33と磁性体棒34との間に緩衝部材49を設けることで、振動時に磁性体棒34がコイル33に直接擦れないため、コイル33が断線する危険性を低減することができる。
また、磁性体棒34の表面に緩衝部材49を設けたり、その緩衝部材49を介して磁性体棒34にコイル33を巻くことは技術的に容易であるため、発電デバイス94を簡単に組み立てることもできる。
第5例
図27は、第5例に係る発電デバイス95の断面図である。
本例では、各磁性体棒34の外周面34xの一部にのみ緩衝部材49を設け、その緩衝部材49を介して磁性体棒34にコイル33を固定する。磁性体棒34の外周面34xにおいて緩衝部材49がない部位では、磁性体棒34の外周面34xからコイル33が浮き、コイル33と磁性体棒34とが接触するのが防止される。
これにより、第4例と同様に、磁性体棒34との接触が原因でコイル33が断線するのを防止できる。
なお、第4例や第5例で説明した緩衝部材49を第1〜第6実施形態に適用してもよい。
図28は、第1実施形態に緩衝部材49を適用して得られた発電デバイス100の断面図である。その発電デバイス100においても、第4例や第5例と同様に、緩衝部材49により磁性体棒34とコイル33とを隔離することができる。この場合は、ベース31にコイル33を固定する固定部材32(図8参照)は不要となる。
以上説明した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) コイルと、
振動体から受ける振動により撓むと共に、前記コイルの内周面から間隔をおいて前記コイル内に挿入された磁性体棒と、
を有する発電デバイス。
(付記2) 前記磁性体棒の表面に設けられた非磁性板を更に有することを特徴とする付記1に記載の発電デバイス。
(付記3) 前記非磁性板は、前記磁性体棒よりも厚いことを特徴とする付記2に記載の発電デバイス。
(付記4) 前記振動体に固定されるベースと、
前記ベースの表面に設けられ、前記ベースに前記コイルを固定する固定部材と、
前記磁性体棒と前記ベースとを連結する連結部材とを更に有することを特徴とする付記1乃至付記3のいずれかに記載の発電デバイス。
(付記5) 前記連結部材が前記磁性体棒の両端に設けられ、該両端が前記ベースに連結されたことを特徴とする付記4に記載の発電デバイス。
(付記6) 前記連結部材は永久磁石であることを特徴とする付記5に記載の発電デバイス。
(付記7) 前記ベースは、磁性材料のヨークであることを特徴とする付記6に記載の発電デバイス。
(付記8) 前記両端の間の前記磁性体棒に設けられた錘を更に有することを特徴とする付記5乃至付記7のいずれかに記載の発電デバイス。
(付記9) 前記固定部材が二つに分割され、各々の前記固定部材の間の隙間に前記錘が導出されたことを特徴とする付記8に記載の発電デバイス。
(付記10) 前記磁性体棒をその長手方向に伸張し、前記磁性体棒の張力を調節する調節機構を更に有することを特徴とする付記1乃至付記9のいずれかに記載の発電デバイス。
(付記11) 前記連結部材が前記磁性体棒の一端に設けられ、かつ、前記磁性体棒の他端が自由端となっていることを特徴とする付記4に記載の発電デバイス。
(付記12) 前記磁性体棒の前記他端に錘が設けられたことを特徴とする付記11に記載の発電デバイス。
(付記13) 前記磁性体棒の前記他端の振動の幅を規制するストッパを更に有することを特徴とする付記11に記載の発電デバイス。
(付記14) 前記磁性体棒の前記一端と前記連結部材とを繋ぐ回転軸を更に有し、
前記磁性体棒が、前記回転軸を中心にして揺動可能であることを特徴とする付記13に記載の発電デバイス。
(付記15) 前記磁性体棒の両端のうちの一方と前記ベースの端部とに錘が設けられたことを特徴とする付記5乃至付記7のいずれかに記載の発電デバイス。
(付記16) 前記磁性体棒の外周面に設けられた緩衝部材を更に有し、
前記コイルが、前記緩衝部材を介して前記磁性体棒に巻かれたことを特徴とする付記1に記載の発電デバイス。
(付記17) 前記磁性体棒が並行して二つ設けられ、各々の磁性体棒の端部同士が連結されたことを特徴とする付記16に記載の発電デバイス。