以下、本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御システムの実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
このバルブタイミング制御システムは、図1及び図2に示すように、シリンダヘッド01のアッパデッキ上に固定された枠状の軸受部材06によって回転自在に支持された吸気側カムシャフト02及び該吸気側カムシャフト02に平行に配置された排気側カムシャフト03と、該各吸排気側カムシャフト02,03の前端部にそれぞれ設けられた電動式の吸気側バルブタイミング制御装置(以下、吸気側VTCと称す。)04及び同じく電動式の排気側バルブタイミング制御装置(以下、排気側VTCと称す。)05と、を備えている。
前記軸受部材06は、アルミ合金材によって形成されて、吸気側カムシャフト02と排気側カムシャフト03の前後端部やこれらの間を、シリンダヘッド01のアッパデッキ上に形成された半割状の軸受溝との間で挟持状態に回転自在に支持している。また、軸受部材06の前端側には、前記吸気側、排気側VTC04,05の一部を覆うチェーンカバー07が一体に設けられている。また、このチェーンカバー07の前端側には、吸気側VTC04と排気側VTC05それぞれの前端部を覆うVTCカバー3、3が図外のボルトによって固定されている。
まず、前記吸気側VTC04について説明すれば、図3及び図4に示すように、内燃機関のクランクシャフトによって回転駆動する駆動回転体であるスプロケット1と、該スプロケット1と前記吸気側カムシャフト02の間に配置されて、機関運転状態に応じて両者1,02の相対回転位相を変更する位相変更機構2と、を備えている。
前記スプロケット1は、全体が鉄系金属によって筒状一体に形成され、内周面が段差径状のスプロケット本体1aと、該スプロケット本体1aの外周に一体に設けられて、巻回された図外のタイミングチェーンを介してクランクシャフトからの回転力を受ける歯車部1bと、前記スプロケット本体1aの前端側に一体に設けられた内歯構成部19と、から構成されている。
また、このスプロケット1は、スプロケット本体1aと前記吸気側カムシャフト02の前端部に設けられた後述する従動部材9との間に設けられた1つの大径ボールベアリング43によって前記吸気側カムシャフト02と相対回転自在に支持されるようになっている。
前記大径ボールベアリング43は、外輪43aと、内輪43b及び該両輪43a、43bの間に介装されたボール43cと、から構成され、前記外輪43aがスプロケット本体1aの内周側に固定されているのに対して内輪43bが後述する従動部材9の外周側に固定されている。
前記スプロケット本体1aは、内周側に円環溝状の外輪固定部60が切欠形成されており、この外輪固定部60は、段差径状に形成されて、前記大径ボールベアリング43の外輪43aが軸方向から圧入されると共に、該外輪43aの軸方向一方側の位置決めをするようになっている。
前記内歯構成部19は、前記スプロケット本体1aの前端部外周側に一体に設けられ、後述する電動モータ12方向へ延出した円筒状に形成されていると共に、内周には波形状の複数の内歯19aが形成されている。また、前記内歯構成部19の前端側には、後述するハウジング5と一体の円環状の雌ねじ形成部6が対向配置されている。
さらに、スプロケット本体1aの内歯構成部19と反対側の後端部には、円環状の保持プレート61が配置されている。この保持プレート61は、金属板材によって一体に形成され、図3に示すように、外径が前記スプロケット本体1aの外径とほぼ同一に設定されていると共に、内径が前記大径ボールベアリング43の径方向のほぼ中央付近の径に設定されている。
したがって、保持プレート61の内周部61aは、前記外輪43aの軸方向の外端面43eに対して一定の隙間をもって覆うように対向配置されている。また、前記内周部61aの内周縁所定位置には、径方向内側、つまり中心軸方向に向かって突出したストッパ凸部61bが一体に設けられている。
このストッパ凸部61bは、図6に示すように、ほぼ扇状に形成されて、先端縁61cが後述するストッパ溝2bの円弧状内周面に沿った円弧状に形成されている。さらに、前記保持プレート61の外周部には、前記各ボルト7が挿通する6つのボルト挿通孔61dが周方向の等間隔位置に貫通形成されている。
さらに、前記保持プレート61の内面と該内面に対向する前記大径ボールベアリング43の外輪43aの外端面43eとの間には、円環状の押圧部材62が介装されている。この押圧部材62は、前記保持プレート61を前記各ボルト7によって共締め固定した際に、保持プレート61の内面から前記外輪43aの外端面43eへ僅かな押し付け力を付与するものである。
前記スプロケット本体1a(内歯構成部19)及び保持プレート61のそれぞれの外周部には、それぞれボルト挿通孔1c、61dが周方向のほぼ等間隔位置に6つ貫通形成されている。また、前記雌ねじ形成部6には、各ボルト挿通孔1c、61dと対応した位置に6つの雌ねじ孔6aが形成されており、これらに挿通した6本のボルト7によって前記スプロケット1と保持プレート61及びハウジング5が軸方向から共締め固定されている。
また、前記スプロケット本体1aと前記内歯構成部19、保持プレート61及び雌ねじ形成部6は、それぞれの外径がほぼ同一に設定されている。
前記チェーンカバー07は、図1〜図3に示すように、タイミングチェーンを覆うように上下方向に沿って配置固定され、前記吸気側VTC04と排気側VTC05に対応した位置にそれぞれ開口部07a、07bが形成されている。また、この各開口部07a、07bを構成する環状壁の円周方向のそれぞれ4箇所にボス部07cが一体に形成されていると共に、環状壁から各ボス部07cの内部に亘って形成された雌ねじ孔07dがそれぞれ形成されている。
前記吸気側のVTCカバー3は、図1及び図3に示すように、アルミニウム合金材によってカップ状に一体に形成されて、膨出状のカバー本体3aと、該カバー本体3aの開口側の外周縁に一体に形成された円環状の取付フランジ3bとから構成されている。前記カバー本体3aは、位相変更機構2の前端部を覆うように配置されていると共に、径方向の偏倚した位置には円筒壁3cが軸方向に沿って一体に形成されている。この円筒壁3cは、内部に保持用孔3dが形成されている。
前記取付フランジ3bは、円周方向のほぼ等間隔位置に4つのボス部3eが周方向のほぼ等間隔位置(約90°位置)に設けられている。この各ボス部3eには、前記チェーンカバー07に形成された各雌ねじ孔07cに螺着する図外のボルトが挿通するボルト挿通孔3fがそれぞれ貫通形成されており、前記各ボルト54によって吸気側VTCカバー3がチェーンカバー07に固定されている。
また、前記カバー本体3aの外周側の段差部内周面と前記ハウジング5の外周面との間には、大径なオイルシール50が介装されている。この大径オイルシール50は、横断面ほぼコ字形状に形成されて、合成ゴムの基材の内部に芯金が埋設されていると共に、外周側の円環状基部が前記VTCカバー3の内周面に設けられた段差円環部に嵌着固定されている。
前記ハウジング5は、図3及び図4に示すように、鉄系金属材をプレス成形によって有底筒状に形成されたハウジング本体5aと、該ハウジング本体5aの前端開口を封止する合成樹脂の非磁性材からなる封止プレート11と、を備えている。
前記ハウジング本体5aは、歯車構成部19側の端部に円板状の底壁5bを有し、該底壁5bのほぼ中央に後述の偏心軸部39を挿通する大径な軸部挿通孔が形成されていると共に、該軸部挿通孔の孔縁には、吸気側カムシャフト02の軸方向へ突出した円筒状の延出部5cが一体に設けられている。また、前記底壁5bの前端面外周側には、前記雌ねじ形成部6が一体に設けられている。
前記吸気側カムシャフト02は、外周に前記一対の吸気弁を開作動させる一気筒当たり2つの回転カム(図示せず)を有していると共に、前端部にフランジ部02aが一体に設けられている。また、フランジ部02aの前端面に、従動部材9がカムボルト10によって軸方向から結合されている。前記フランジ部02aは、図3に示すように、外径が従動部材9の固定端部9aの外径よりも僅かに大きく設定されて、各構成部品の組み付け後に、前端面の外周部が前記大径ボールベアリング43の内輪43bの軸方向外端面に当接配置されるようになっている。
また、前記フランジ部02aの外周には、図6に示すように、前記保持プレート61のストッパ凸部61bが係入するストッパ凹溝02bが円周方向に沿って形成されている。このストッパ凹溝02bは、円周方向へ所定長さの円弧状に形成されて、この長さ範囲で回動したストッパ凸部61bの両端縁が周方向の対向縁02c、02dにそれぞれ当接することによって、スプロケット1に対する吸気側カムシャフト02の最大進角側あるいは最大遅角側の相対回転位置を規制するようになっている。
なお、前記ストッパ凸部61bは、前記保持プレート61の大径ボールベアリング43の外輪43aに軸方向外側から対向して固定する部位よりも吸気側カムシャフト02側に離間して配置されて、前記従動部材9の固定端部9aとは軸方向で非接触状態になっている。したがって、ストッパ凸部61bと固定端部9aとの干渉を十分抑制できる。
前記カムボルト10は、図3に示すように、頭部10aの軸部10b側の端面に円環状のワッシャが配置されていると共に、軸部10bの外周に前記吸気側カムシャフト02の端部から内部軸方向に形成された雌ねじ部に螺着する雄ねじ部が形成されている。
前記従動部材9は、鉄系金属によって一体に形成され、図3に示すように、前端側に形成された円板状の固定端部9aと、該固定端部9aの内周前端面から軸方向へ突出した円筒部9bと、前記固定端部9aの外周部に一体に形成されて、複数のローラ48を保持する円筒状の保持器41とから構成されている。
前記固定端部9aは、後端面が前記吸気側カムシャフト02のフランジ部02aの前端面に当接配置されて、前記カムボルト10の軸力によってフランジ部02aに軸方向から圧接固定されている。
前記円筒部9bは、中央に前記カムボルト10の軸部10bが挿通される挿通孔9dが貫通形成されていると共に、外周側にはニードルベアリング38が設けられている。
前記保持器41は、図3〜図5に示すように、前記固定端部9aの外周部前端から断面ほぼL字形状に折曲形成されて、前記円筒部9bと同方向へ突出した有底円筒状に形成されている。この保持器41の筒状先端部41aは、前記雌ねじ形成部6と前記延出部5cとの間に形成された円環状の空間部44を介してハウジング5の底部5b方向へ延出している。また、前記筒状先端部41aの周方向のほぼ等間隔位置に、前記複数のローラ48をそれぞれ転動自在に保持するほぼ長方形状の複数のローラ保持孔41bが周方向の等間隔位置に形成されている。このローラ保持孔41b(ローラ48)は、その全体の数が前記内歯構成部19の内歯19aの全体の歯数よりも1つ少なくなっている。
また、前記固定端部9aの外周部と保持器41の底部側結合部との間には、大径ボールベアリング43の内輪43bを固定する内輪固定部63が切欠形成されている。
この内輪固定部63は、前記外輪固定部60と径方向から対向した段差状に切欠形成されて、カムシャフト軸方向に延びた円環状の外周面と、該外周面の前記開口と反対に一体に有し、径方向に沿って形成された第2固定段差面とから構成されている。前記外周面には、大径ボールベアリング43の内輪43bが軸方向から圧入されると共に、前記第2固定段差面には、圧入された前記内輪43bの内端面が当接して軸方向の位置決めがされるようになっている。
前記位相変更機構2は、前記吸気側カムシャフト02のほぼ同軸上前端側に配置された電動アクチュエータである前記電動モータ12と、該電動モータ12の回転を減速して吸気側カムシャフト02に伝達するローラ式の前記減速機構8と、から主として構成されている。
前記電動モータ12は、図3及び図4に示すように、ブラシ付きのDCモータであって、前記スプロケット1と一体に回転するヨークである前記ハウジング5と、該ハウジング5の内部に回転自在に設けられたモータ出力軸13と、ハウジング5の内周面に固定されたステータである半円弧状の一対の永久磁石14,15と、前記封止プレート11に固定された固定子16と、を備えている。
前記モータ出力軸13は、段差円筒状に形成されてアーマチュアとして機能し、軸方向のほぼ中央位置に形成された段差部13cを介して吸気側カムシャフト02側の大径部13aと、保持体28側の小径部13bとから構成されている。前記大径部13aは、外周に鉄心ロータ17が固定されていると共に、内部に偏心軸部39が軸方向から圧入固定されて、前記段差部13cの内面によって偏心軸部39の軸方向の位置決めがされるようになっている。
一方、前記小径部13bは、外周に円環部材20が圧入固定されていると共に、該円環部材20の外周面にコミュテータ21が軸方向から圧入固定されて前記段差部13cの外面によって軸方向の位置決めがなされている。
さらに、前記小径部13bの内周面には、モータ出力軸13や偏心軸部39内に供給されて前記各ベアリング37,38を潤滑するための潤滑油の外部への漏洩を抑制する栓体53が圧入固定されている。
前記鉄心ロータ17は、複数の磁極を持つ磁性材によって形成され、外周側が電磁コイル18のコイル線を巻回させるスロットを有するボビンとして構成されている。
一方、前記コミュテータ21は、導電材によって円環状に形成されて、前記鉄心ロータ17の極数と同数に分割された各セグメントに前記電磁コイル18の引き出されたコイル線の端末が電気的に接続されている。つまり、内周側に形成された折り返し部に、コイル線の端末先端を挟み込んで電気的に接続されるようになっている。
前記永久磁石14,15は、全体が円筒状に形成されて円周方向に複数の磁極を有していると共に、その軸方向の位置が前記鉄心ロータ17の固定位置よりも前方にオフセット配置されている。
前記固定子16は、図7に示すように、前記封止プレート11の内周側に一体的に設けられた円板状の樹脂プレート22と、該樹脂プレート22の内側に設けられた一対の樹脂ホルダー23a、23bと、該各樹脂ホルダー23a、23bの内部に径方向に沿って摺動自在に収容配置されて、コイルスプリング24a、24bのばね力で各先端面が前記コミュテータ21の外周面に径方向から弾接する切換ブラシ(整流子)である一対の第1ブラシ25a、25bと、前記樹脂ホルダー23a、23bの前端面に、各外端面を露出した状態で埋設固定された内外二重の円環状の給電用スリップリング26a、26bと、前記各第1ブラシ25a、25bと各給電用スリップリング26a、26bを電気的に接続するハーネス27a、27bと、から主として構成されている。
前記封止プレート11は、前記ハウジング5の前端部内周に形成された凹状段差部にかしめによって位置決め固定されている。また、中央位置には、モータ出力軸13の一端部などが挿通される軸挿通孔11aが貫通形成されている。
前記樹脂プレート22と樹脂ホルダー23a、23bは、耐熱性の合成樹脂材によって形成されており、この耐熱性の合成樹脂材としては、例えばポリフェニレンスルファイド樹脂材(PPS)が用いられている。
前記カバー本体3aには、絶縁材である合成樹脂材によって一体的にモールドされた保持体28が固定されている。この保持体28は、耐熱性の合成樹脂材として例えばポリフェニレンスルファイド樹脂材(PPS)が用いられており、図3及び図4に示すように、側面視ほぼL字形状に形成され、前記保持用孔3cに挿入されるほぼ円筒状のブラシ保持部28aと、該ブラシ保持部28aの上端部に有するコネクタ部28bと、前記ブラシ保持部28aの両側に一体に突設されて、前記カバー本体3aにボルト固定される一対のブラケット部28c、28cと、前記保持体28の内部に大部分が埋設された一対の給電用端子片31、31と、から主として構成されている。
前記一対の給電用端子片31,31は、平行かつクランク状に形成されて、一方側(下端側)の各端子31a、31aが前記ブラシ保持部28aの底壁外面に露出状態で配置されている一方、他方側(上端側)の各端子31b、31bが前記コネクタ部28bの雌型嵌合溝28d内に突設されている。また、前記他方側端子31b、31bは、図外の雄端子を介してコントロールユニットに電気的に接続されている。
前記ブラシ保持部28aは、ほぼ水平方向(軸方向)に延設されて、内部の内外周位置に形成された一対の円柱状孔内にスリーブ状の摺動部29a、29bが圧入固定されていると共に、該各摺動部29a、29bの内部に、各先端面が前記各スリップリング26a、26bに軸方向からそれぞれ当接する給電用ブラシである第2ブラシ30a、30aが軸方向へ摺動自在に保持されている。
前記各摺動部29a、29bは、例えばC2600の黄銅が用いられ、これによって前記各第2ブラシ30a、30aの良好な摺動性を確保している。
この各第2ブラシ30a、30aは、ほぼ長方体状に形成されて、各貫通孔の底部側に有する底板との間に弾装された付勢部材である第2コイルスプリング32a、32aのばね力によってそれぞれ前記各スリップリング26a、26b方向に付勢されて、各先端部が各スリップリング26a、26bの外面に弾接している。
また、前記第2ブラシ30a、30aの後端部と前記一方側端子31a、31aとの間には、可撓性を有する一対のピグテールハーネス33、33が溶接固定されて、前記両者を電気的に接続している。このピグテールハーネス33、33は、その長さが前記第2ブラシ30a、30aが前記各コイルスプリング32a、32aによって最大に進出した際に、前記各摺動部29a、29bから脱落しないように、その最大摺動位置を規制する長さに設定されている。
また、前記ブラシ保持部28aの基部側外周に形成された円環状の嵌着溝内に、環状シール部材34が嵌着保持されている。
前記ブラケット部28c、28cは、ほぼ三角形状に形成されて、両側部に形成されたボルト挿通孔に挿通されたビス4,4によってカバー本体3aに固定されるようになっている。
前記モータ出力軸13と偏心軸部39は、前記カムボルト10の頭部10a側の軸部10bの外周面に設けられた小径ボールベアリング37と、前記従動部材9の円筒部9bの外周面に設けられて小径ボールベアリング37の軸方向側部に配置された前記ニードルベアリング38とによって回転自在に支持されている。
前記ニードルベアリング38は、偏心軸部39の内周面に圧入された円筒状のリテーナ38aと、該リテーナ38aの内部に回転自在に保持された複数の転動体であるニードルローラ38bとから構成されている。このニードルローラ38bは、前記従動部材9の円筒部9bの外周面を転動している。
前記小径ボールベアリング37は、内輪が前記従動部材9の円筒部9bの前端縁とカムボルト10のワッシャ10cとの間に挟持状態に固定されている
また、前記モータ出力軸13(偏心軸部39)の外周面と前記ハウジング5の延出部5cの内周面との間には、減速機構8の内部から電動モータ12内への潤滑油のリークを阻止する小径なオイルシール46が設けられている。
また、前記モータ出力軸13の前端内部には、図3に示すように、カムボルト10側の空間部を閉止する断面ほぼコ字形状のキャップ53が圧入固定されている。
前記コントロールユニットは、図外のクランク角センサやエアーフローメータ、水温センサ、アクセル開度センサなど各種のセンサ類から情報信号に基づいて現在の機関運転状態を検出して、機関制御を行うと共に、前記電磁コイル18に通電してモータ出力軸13の回転制御を行い、減速機構8を介して吸気側カムシャフト02のスプロケット1に対する相対回転位相を制御するようになっている。
前記減速機構8は、図3〜図5に示すように、偏心回転運動を行う前記偏心軸部39と、該偏心軸部39の外周に設けられた中径ボールベアリング47と、該中径ボールベアリング47の外周に設けられた前記ローラ48と、該ローラ48を転動方向に保持しつつ径方向の移動を許容する前記保持器41と、該保持器41と一体の前記従動部材9と、から主として構成されている。
前記偏心軸部39は、段差径の円筒状に形成されて、前端側の小径部39aが前述したモータ出力軸13の大径部13aの内周面に圧入固定されている共に、後端側の大径部39bの外周面に形成されたカム面の軸心Yがモータ出力軸13の軸心Xから径方向へ僅かに偏心している。
前記中径ボールベアリング47は、内輪47aと外輪47b及び両輪47a、47bとの間に介装されたボール47cとから構成されている。前記内輪47aは、前記偏心軸部39の外周面に圧入固定されているのに対して、前記外輪47bは、軸方向で固定されることなくフリーな状態になっている。つまり、この外輪47bは、軸方向の電動モータ12側の一端面がどの部位にも接触せず、また軸方向の他端面がこれに対向する保持器41の内側面との間に微小な隙間が形成されてフリーな状態になっている。また、この外輪47bの外周面には、前記各ローラ48の外周面が転動自在に当接していると共に、この外輪47bの外周側には、円環状の第2隙間C1が形成されて、この第2隙間C1によって中径ボールベアリング47全体が前記偏心軸部39の偏心回転に伴って径方向へ移動可能、つまり偏心動可能になっている。
前記各ローラ48は、鉄系金属によって形成され、前記中径ボールベアリング47の偏心動に伴って径方向へ移動しつつ歯車である前記内歯構成部19の内歯19aに嵌入すると共に、保持器41のローラ保持孔41bの両側縁によって周方向にガイドされつつ径方向へ揺動運動させるようになっている。
そして、前記吸気側の位相変更機構2は、前記電動モータ12と減速機構8の駆動によって内燃機関の始動時からいずれの回転数、負荷領域においても頻繁に作動して、クランクシャフトに対する吸気側カムシャフト02の相対回転位相を変換させるようになっている。つまり、機関の冷機始動時では、例えば最進角と最遅角との間の所定の中間回転位相に制御して良好な始動性を確保し、低回転低負荷領域〜高回転高負荷域では、最遅角側から最進角までの間の制御を繰り返して行って、ポンピングロス低減による燃費向上や機関出力の向上、さらには前記排気側電動式バルブタイミング制御装置の作動とともに排気エミッション性能の向上を図るようになっている。
したがって、前記吸気側の電動モータ12は、図11に示すように、モータ駆動効率(正効率η)がモータ回転数の比較的高い領域で高効率となるように設定されているものが用いられている。
また、前記減速機構8は、複数のローラ48を用いたサイクロイド減速機構であって、図12に示すように、前記電動モータ12の回転数に対する吸気側カムシャフト02の回転数の減速比が後述する排気側の減速機構8の減速比よりも大きく設定されている。
前記減速機構8の内部には、潤滑油供給手段によって潤滑油が供給されるようになっている。この潤滑油供給手段は、前記シリンダヘッドの軸受の内部に形成されて、図外のメインオイルギャラリーから潤滑油が供給される油供給通路と、図3に示すように、前記吸気側カムシャフト02の内部軸方向に形成されて、前記油供給通路にグルーブ溝を介して連通した油供給孔51と、前記従動部材9の内部軸方向に貫通形成されて、一端が該油供給孔51に開口し、他端が前記ニードルベアリング38と中径ボールベアリング47の付近に開口した前記小径なオイル孔52と、同じく従動部材9に貫通形成された前記大径な3つの図外のオイル排出孔と、から構成されている。
この潤滑油供給手段によって、前記空間部44に潤滑油が供給されて滞留し、ここから中径ボールベアリング47や各ローラ48を潤滑すると共に、さらには偏心軸部39とモータ出力軸13の内部に流入してニードルベアリング38や小径ボールベアリング37などの可動部の潤滑に供されるようになっている。なお、前記空間部44内に滞留した潤滑油は、前記小径オイルシール46によってハウジング5内へのリークが抑制されている。
以下、吸気側VTC04の作動について説明する。まず、機関のクランクシャフトが回転駆動するとタイミングチェーンを介してスプロケット1が回転して、その回転力が内歯構成部19と雌ねじ形成部6を介してハウジング5が同期回転する。一方、前記内歯構成部19の回転力が、各ローラ48から保持器41及び従動部材9を経由して吸気側カムシャフト02に伝達される。これによって、吸気側カムシャフト02のカムが吸気弁を開閉作動させる。
そして、機関始動後の所定の機関運転時には、前記コントロールユニットから各端子片31,31や各ピグテールハーネス33、33及び第2ブラシ30a、30a、各スリップリング26a、26bなどを介して電動モータ12の電磁コイル17に通電される。これによって、モータ出力軸13が回転駆動され、この回転力が減速機構8を介して吸気側カムシャフト02に減速された回転力が伝達される。
すなわち、前記モータ出力軸13の回転に伴い偏心軸部39が偏心回転すると、各ローラ48がモータ出力軸13の1回転毎に保持器41の各ローラ保持孔41bで径方向へガイドされながら前記内歯構成部19の一つの内歯19aを乗り越えて隣接する他の内歯19aに転動しながら移動し、これを順次繰り返しながら円周方向へ転接する。この各ローラ48の転接によって前記モータ出力軸13の回転が減速されつつ前記従動部材9に回転力が伝達される。
これにより、吸気側カムシャフト02がスプロケット1に対して正逆相対回転して相対回転位相が変換されて、吸気弁の開閉タイミングを進角側あるいは遅角側に変換制御するのである。
なお、この減速機構8の減速比は、前記ローラ48の個数などによって任意に設定することが可能である。
また、前記電動モータ12の回転を前記各内歯19a内に配置された前記各ローラ48の転接を利用して減速させるようになっていることから、これら減速時のフリクションが十分に小さくなる。これによって、前述したスプロケット1に対する吸気側カムシャフト02の進角側あるいは遅角側への相対回転変換の応答性が向上する。
〔排気側VTC〕
一方、前記電動式の排気側VTC05は、図1、図8〜図10に示すように、基本構成が吸気側VTC04と同一であるから共通の構成箇所は同一の符番を付して具体的な説明を省略する。
そして、吸気側VTC04と異なるところは、主として前記排気側カムシャフト03と従動部材9との間に、排気側カムシャフト03をスプロケット1に対して進角側に付勢する付勢機構70を設けると共に、電動モータ12の駆動トルクと減速機構8の減速比が異なっている点にある。
すなわち、排気側VTC05は、図8に示すように、内燃機関のクランクシャフトによって回転駆動する駆動回転体であるスプロケット1と、該スプロケット1と前記吸気側カムシャフト02の間に配置されて、機関運転状態に応じて両者1,02の相対回転位相を変更する位相変更機構2と、を備えている。
前記スプロケット1は、全体が鉄系金属によって一体に形成され、円筒状のスプロケット本体1aと、該スプロケット本体1aの外周に一体に設けられて、前記吸気側のスプロケット1と共通に巻回された図外のタイミングチェーンを介してクランクシャフトからの回転力を受ける歯車部1bと、前記スプロケット本体1aの前端側に一体に設けられた内歯構成部19と、から構成されている。
前記スプロケット本体1は、前記歯車構成部19側が吸気側のものよりも軸方向に長く延設されている。
前記付勢機構70は、排気側カムシャフト03の前端部と従動部材9の固定端部9aとの間に配置されて、カムボルト10によって共締め固定されたスプリングリテーナ71と、該スプリングリテーナ71の外周側に配置されたトーションスプリング72と、から主として構成されている。
前記スプリングリテーナ71は、軸方向に短尺な円柱状に形成されて、中央位置に前記カムボルト10の軸部10bが挿通されるボルト挿通孔71aが軸方向に沿って貫通形成されていると共に、前端側のほぼ中央位置に前記従動部材9のカムシャフト03側の端部中央位置に突設された円柱状突部9cが嵌入する嵌入穴71bが形成されている。一方、前記嵌入穴71bと反対の端部には、前記排気側カムシャフト03の端部中央内に形成された嵌挿穴03aに係入する円筒状突部71cが一体に設けられている。
また、このスプリングリテーナ71は、内周側の内部軸方向に前記排気側カムシャフト03内の油通路孔51と従動部材9内のオイル孔52とを連通させる連通孔71dが軸方向に貫通形成されていると共に、外周部のカムシャフト03側の端部に前記トーションスプリング72の後述する一端部72aが径方向から係止するスリット状の第1係止溝71eが軸方向に沿って形成されている。
前記トーションスプリング72は、図9にも示すように、スプリングリテーナ71の外周側に拡縮変形自在に配置され、径方向内側へ折曲形成された一端部72aが前記スプリングリテーナ71の第1係止溝71eに径方向から係止されている一方、径方向外側へ折曲形成された他端部72bが前記スプロケット本体1aの歯車部1b側の内周面にスリット状に形成された第2係止溝1dに径方向から係止されている。
これによって、スプロケット1に対して排気側カムシャフト03を、図9の矢印で示す進角側へ常時回転付勢するようになっている。したがって、機関始動時には、排気弁と吸気弁とのバルブオーバーラップがなくなることから、燃焼性が良好になって始動性が向上する。
なお、前記スプロケット本体1aの内周には、前記大径ボールベアリング43の外輪43aを、保持プレート61を介して各ボルト7の軸力によって一方の軸方向から押圧支持する筒状の押圧部材73が配置されている。
また、排気側カムシャフト03とスプリングリテーナ71、並びに該スプリングリテーナ71と従動部材9とは、それぞれ軸方向から圧入された2つのロケートピン74、75によって径方向の位置決めがなされるようになっている。
そして、この排気側バルブタイミング制御装置05は、機関運転中におけるスプロケット1に対する排気側カムシャフト03の相対回転位相の変換を頻繁に行うことなく、機関始動時などには前記電動モータ12を駆動させずに前記トーションスプリング72のばね力によって進角側へ強制的に変換させ、機関中回転から高回転域ではほぼ中間位相位置に保持され、機関低回転域において電動モータ12が駆動されることが多くなっている。
したがって、排気側の電動モータ12は、図11に示すように、駆動効率ηがモータ回転数の低回転領域で最大効率となるように設定されており、この最大駆動効率は、吸気側の電動モータ12の最大駆動効率領域と異なっている。
一方、前記排気側の減速機構8は、前記歯車構成部19の内歯19aの数を吸気側よりも少なく形成すると共に、この数に応じて各ローラ48の数も減少させている。したがって、排気側減速機構8の減速比は、図12に示すように、吸気側減速機構8と比較して小さく設定されている。
また、排気側の通電機構の樹脂プレート22や樹脂ホルダー23a、23b、保持体28は、その材質がナイロン樹脂材によって形成されている。
以上のように、吸気側電動モータ12と排気側電動モータ12の駆動効率特性を、使用される頻度が高いそれぞれのモータ回転領域に応じて最も効率が高くなる領域に設定したことから、各電動モータ12、12を効率良く駆動させることができる。
これによって、吸気VTC04と排気VTC05の各スプロケット1、1に対する吸気側カムシャフト02と排気側カムシャフト03の相対回転位相(バルブタイミング)の切換時などにおける作動応答性が向上して機関性能を十分に引き出すことが可能になる。
しかも、前記各電動モータ12,12を効率良く駆動させることができることによって、各電動モータ12,12の負荷を軽減することができる。この結果、各電動モータ12,12の耐久性の向上が図れる。
また、本実施形態では、前記吸気側減速機構8と排気側減速機構8の減速比を互いに異ならせ、機関運転状態に応じてバルブタイミングの切り換え作動が頻繁に行われる吸気側減速機構8の減速比を、排気側減速比よりも大きくしたことから、吸気側VTC04の作動応答性を向上させることができる。これによって、前記吸気側電動モータ12のモータ回転数の高い領域での高効率の設定と相俟って、前記吸気VTC04の作動応答性、つまりバルブタイミングの制御応答性をさらに向上させることが可能になる。
一方、排気側減速機構8では、前述したように、減速比を吸気側よりも小さくするために前記内歯19aやローラ48の数を減少させていることから、吸気側に比較して製造コストの低減化や組立効率の向上が図れる。
また、耐熱性が要求される吸気側の通電機構の樹脂プレート22や樹脂ホルダー23a、23b、保持体28の材質を、ポリフェニレンスルファイド樹脂材とする一方、耐熱性があまり要求されない排気側の通電機構の樹脂プレート22や樹脂ホルダー23a、23b、保持体28の材質を、安価なナイロン樹脂材によって形成したことから、特に排気側バルブタイミング制御装置05の製造コストの低減化が図れる。
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、吸気側と排気側の各電動モータ12,12の駆動効率の設定や、各減速機構8,8の減速比の設定は、内燃機関や各VTC04,05の仕様や大きさなどによって任意に設定することも可能である。
また、前記各電動モータ12,12や各減速機構8,8は、前記実施形態の構造以外のものであっても良く、例えば電動モータとしてブラシレスモータなどを用いたり、減速機構として遊星歯車を用いたものであってもよい。
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御システムにおいて、
前記排気側よりも作動領域大きな吸気側電動式バルブタイミング制御装置の電動モータの最大効率の回転数領域は、前記排気側バルブタイミング制御装置の電動モータより高回転領域であることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御システム。
〔請求項b〕 請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング制御システムにおいて、
前記吸気側電動式バルブタイミング制御装置の減速機構の減速比は、前記排気側電動式バルブタイミング制御装置の減速機構の減速比よりも小さいことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御システム。