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JP6032881B2 - 熱間金型用鋼 - Google Patents

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Description

この発明は、熱間鍛造、熱間押出、ダイカストその他の鋳造などに用いる熱間金型用鋼に関する。
従来、熱間金型用鋼として、JISのG4404には、合金工具鋼鋼材の一部として、SKD4、SKD5、SKD6、SKD61、SKD62、SKD7、SKD8、SKT3、SKT4、SKT6が規定されている。これらの熱間金型用鋼の用途例として、SKD4、SKD5、SKD6、SKD61はプレス型、ダイカスト型、押出工具、シャーブレードが例示され、SKD62及びSKD7はプレス型、押出工具が例示され、SKD8はプレス型、ダイカスト型、押出工具が例示され、さらにSKT3、SKT4及びSKT6は鍛造型、プレス型及び押出工具が例示されている。
ところで、熱間加工工具鋼の鋼材として、重量%で次に示す値からなる合金組成を有することを特徴とする、熱間加工工具鋼の鋼材であって、C:0.3〜0.4、Mn:0.2〜0.8、Cr:4〜6%、Mo:1.8〜3、V:0.4〜0.6、バランス:鉄及び不可避の金属不純物及び不可避の非金属不純物からなり、該非金属不純物は、次に示す最高量で存在できるシリコン、窒素、酸素、リン及び硫黄を含む:Si:max.0.25重量%、N:max.0.010重量%、O:max.10ppm、S:max.0.0008重量%、該鋼材は、1000〜1080℃の温度におけるオーステナイト化および550〜650℃の焼戻しによって45HRCを超える硬度を得ることができる、熱間加工工具用の鋼材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
さらに、ダイカスト用金型鋼として、質量%で、0.32〜0.42%のCを含む鋼に、Cr、Si、Mn及びVの必須添加元素、少なくともいずれかを含み得るMo及びWの準必須添加元素、及び、任意に含み得る任意添加元素添加したダイカスト金型鋼であって、前記任意添加元素において、Cuを1.0%以下、Niを0.5%以下、Coを1.0%以下、Bを0.01%以下、Seを0.05%以下、Teを0.05%以下、Pbを0.05%以下、Biを0.01%以下、Caを0.01%以下、Nbを0.1%以下、Taを0.1%以下、Tiを0.1%以下、Zrを0.1%以下、REMを0.1%以下、Mgを0.1%以下で任意に含みうるとともに、前記必須添加元素において、質量%で、Crを4.0〜6.0%の範囲内、Siを0.05〜0.2%の範囲内、Mnを0.3〜1.5%の範囲内、及び、Vを0.2〜0.7%の範囲内で添加し、前記準必須添加元素において、質量%で、Mo及び/又はWを、0.8≦Mo+1/2W≦2.0となるように添加し30W/(m・K)以上の熱伝導率を与えたことを特徴とするダイカスト金型鋼が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
特許4516211号公報 特開2010−168639号公報
熱間金型用鋼として高靭性及び高強度を両立させるには、合金元素の添加量に加えて、生成する炭化物の組成の制御が重要であり、また、焼入性を高めて靭性を向上させるために、Cr及びMoの添加は有効であるが、Cr及びMoのバランスを考慮しなければ、析出する炭化物としてMXやM2Cが少なくなり、高温強度が不十分になる問題がある。
本発明が解決しようとする課題は、上記の問題を解消して、高靭性かつ高強度な熱間金型用鋼を提供することである。
上記の課題を解決するための本発明の手段は、第1の手段では、質量%で、C:0.30〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜1.00%、Cr:4.11〜5.12%、Mo:1.40〜2.60%、V:0.20〜0.80%、Ti:0.0030%以下、N:0.0116%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる熱間金型用鋼である。この熱間金型用鋼における[%Mo]と[%Cr]のバランスは、質量%で、0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足する。さらに、靱性がシャルピー衝撃試験値で50.3〜86.6J/cm 2 であり、かつ、焼入焼戻しによる調質前の初期硬さのHRCと焼入焼戻しによる調質後のHRCとの差であるΔHRCが7.3〜11.1である。このように本発明の第1の手段は、高靭性及び高強度な熱間金型用鋼である。
第2の手段では、質量%で、C:0.30〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜1.00%、Cr:4.11〜5.12%、Mo:1.40〜2.60%、V:0.20〜0.80%、Ti:0.0030以下、N:0.0116%以下を含有し、さらにNi:0.2〜1.5%及びCo:1.2%以下のいずれか1種又は2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる熱間金型用鋼である。この熱間金型用鋼における[%Mo]と[%Cr]のバランスは、質量%で、0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足する。さらに、靱性がシャルピー衝撃試験値で50.3〜86.6J/cm 2 であり、かつ、焼入焼戻しによる調質前の初期硬さのHRCと焼入焼戻しによる調質後のHRCとの差であるΔHRCが7.3〜11.1である。このように本発明の第2の手段は、高靭性及び高強度な熱間金型用鋼である。
第3の手段では、質量%で、C:0.30〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜1.00%、Cr:4.11〜5.12%、Mo:1.40〜2.60%、V:0.20〜0.80%、Ti:0.0030%以下、N:0.0116%以下を含有し、さらにNb:0.30%以下を含有し、なお、さらにNi:0.2〜1.5%及びCo:1.2%以下のいずれか1種又は2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる熱間金型用鋼である。この熱間金型用鋼における[%Mo]と[%Cr]のバランスは、質量%で、0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足する。さらに、靱性がシャルピー衝撃試験値で50.3〜86.6J/cm 2 であり、かつ、焼入焼戻しによる調質前の初期硬さのHRCと焼入焼戻しによる調質後のHRCとの差であるΔHRCが7.3〜11.1である。このように本発明の第3の手段は、高靭性及び高強度な熱間金型用鋼である。
ここで、本願の上記の手段に係る発明と特許文献1の発明及び特許文献2の発明との関係について以下に説明する。
特許文献1に係る発明における合金成分の添加量の範囲は本願の上記の手段の発明と重複している。しかしながら、特許文献1の発明は、本願発明の重要な技術である、焼入焼戻し状態の炭化物組成に関する見解が論じられておらず知見されていない。かつ、当該特許文献1の段落0008に示される合金組成では、Moの添加量は1.8〜3%、好ましくは1.8〜2.5%、好適には2.2〜2.4%であり、標準では2.3%である。この特許文献1のMoの含有量はいずれも本願発明が規定する0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の範囲外であることから、特許文献1の発明は、本願の上記の手段の発明とは異なる、別の発明である。
特許文献2に係る発明における合金成分の添加量の範囲は本願の上記の手段の発明と重複しているが、特許文献2の発明は、本願発明の重要な技術の一つである、Nの規定がされておらず、靭性が不十分になる可能性を払拭できないものである。さらに、特許文献2の発明は、本願手段の発明の別の重要な技術である、焼入焼戻し状態の炭化物組成に関する見解が論じられていない。また、特許文献2の発明に示される実施例の中には、本願手段の発明が規定する1.40<[%Mo]<2.60かつ0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の範囲外であり、さらにNが規定されていないものであることから、特許文献2の発明も、本願の上記の手段の発明とは異なる、別の発明である。
本願の熱間金型用鋼は上記の手段からなる発明であり、鋼成分として含有されるCr及びMoの量のバランス適切であり、かつ、含有される炭化物の組成の制御が適切とされたことで、析出する炭化物としてのMXやM2Cが適量であり、熱間鍛造、熱間押出、鋳造あるいはダイカストなどに適応した際に、靱性が50.3〜86.6J/cm 2 であり、かつ、焼入焼戻しによる調質前の初期硬さのHRCと焼入焼戻しによる調質後のHRCとの差であるΔHRCが7.3〜11.1であり、高強度及び高靭性で従来の熱間金型用鋼に見られない優れた効果を奏する鋼材である。
本願の発明を実施するための形態を説明するに先立って、先ず、本願発明の熱間金型用鋼の鋼組成である化学成分の限定理由を以下に説明する。なお、%は質量%である。
C:0.30〜0.50%
Cは、十分な焼入性を確保し、炭化物を形成させることで、耐摩耗性や高温強度を得るための元素である。Cが0.30%未満では、十分な高温強度及び耐摩耗性が得られず、Cが0.50%を超えると凝固偏析を助長し、靭性を阻害する。そこで、Cは0.30〜0.50%とする。
Si:0.10〜0.50%
Siは、製鋼における脱酸の効果及び被削性並びに焼入性の確保に必要な元素である。Siが0.10%未満であると脱酸の効果及び焼入性の確保は発揮できず、また、被削性を悪化させる。Siが0.50%より多すぎると靭性を低下させ、また、熱間工具鋼として重要な物性値である熱伝導率を低下させる。そこで、Siは0.10〜0.50%とする。
Mn:0.10〜1.00%
Mnは、焼入性を確保する元素である。Mnが0.10%未満では焼入性の確保は不十分である。一方、Mnが1.00%を超えると加工性を低下させる。そこで、Mnは0.10〜1.00%とする。
Cr:4.11〜5.12%
Crは焼入性を改善する元素である。Crが4.00%未満では焼入性が不十分である。一方、Crが6.00%を超えると、焼入焼戻し時にCr系の炭化物が過多に形成されて、高温強度及び軟化抵抗性を低下させる。そこで、Crは以上の範囲内において、実施例である補正後の表1の記載に基づき、Crは4.11〜5.12%とする。
Mo:1.40〜2.60%
Moは、焼入性と二次硬化、耐摩耗性、高温強度に寄与する析出炭化物を得るために必要な元素であり、また、焼入れ時に未固溶となった微細なMo炭化物が結晶粒の粗大化を抑制する元素であるが、Moが1.40%より少ないとそれらの効果が得られない。一方、Moは、2.60%より過剰に添加しても効果が飽和するばかりか、Mo炭化物が粗大となって凝集することにより靭性を低下させ、また、Moの2.60%より過剰の添加はコスト高となる。そこで、Moは1.40〜2.60%とする。
V:0.20〜0.80%
Vは、焼戻時に微細で硬質なVの炭化物や炭窒化物を析出し、高温強度や耐摩耗性に寄与する元素である。また、焼入れ時にはVの微細な炭化物や炭窒化物が結晶粒の粗大化を抑制し、靭性の低下を抑制する効果を有するが、Vが0.20%より少ないとそれらの効果が得られない。一方、Vが0.80%より多すぎると、凝固時に粗大なMX型の炭窒化物を晶出し、靭性を阻害する。また、Vの0.80%より過剰の添加はコスト高となる。そこで、Vは0.20〜0.80%とする。
Ti:0.0030%以下
Tiは、Nとともに凝固時に晶出するMX型炭窒化物に混入し、固溶温度を上昇させる。その結果、均質化熱処理での固溶が不足し、靭性を阻害する。また、十分に固溶させるためには、均質化熱処理の高温化や長時間化が必要となり、コストおよび環境負荷を増大させる。そこでTiは0.0030%以下、望ましくは0.0020%以下とする。
N:0.0116%以下
Nは、Tiとともに凝固時に晶出するMX型炭窒化物に混入し、固溶温度を上昇させる。その結果、均質化熱処理での固溶が不足し、靭性を阻害する。また、十分に固溶させるためには、均質化熱処理の高温化や長時間化が必要となり、コストおよび環境負荷を増大させる。そこでNは実施例である補正後の表1本発明鋼に基づいて0.0116%以下とする。
Nb:0.30%以下
Nbは、焼戻時に微細で硬質なNbの炭化物や炭窒化物を析出し、高温強度や耐摩耗性に寄与する元素である。また、焼入れ時にはNbの微細な炭化物や炭窒化物が結晶粒の粗大化を抑制し、靭性の低下を抑制する効果を有するが、Nbが0.30%より多すぎると、凝固時に粗大なMX型の炭窒化物を晶出し、靭性を阻害する。また、Nbの0.30%より過剰の添加はコスト高となる。そこで、Nbは0.30%以下とする。
Ni:0.2〜1.5
Niは焼入性と靭性を改善する元素である。しかし、Niが0.2%未満であるとその改善する効果が無い。一方、Niを2.0%より過多に添加すると高温強度及び被削性を阻害し、コストも嵩む。ところで、実施例の補正後の表1の本発明鋼に基づいてNiの上限を1.5%とする。そこで、Niは0.2〜1.5%とする。
Co:2.0%以下
Coは基地を強化し高温強度を改善する元素である。しかし、Coが2.0%より過多に添加すると靭性を阻害し、コストも嵩む。そこで、Coは2.0%以下とする。
なお、上記のNi及びCoは選択的にいずれか1種を若しくは2種を請求項1に係る発明の化学成分に加えて、補正後の請求項2又は請求項3に係る発明としている。
熱間金型用鋼の化学成分は、質量%で、Moは1.4〜2.6%、かつ、0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]である理由
熱間金型用鋼においては、Cr、Mo、V、NbおよびTiなどは、CやNと結合して、炭化物および/または炭窒化物を形成する。炭化物および/または炭窒化物は、溶鋼からの凝固時に液相から晶出したり、各種の熱処理を経由して鋼の基地組織から析出したりする。また、炭化物および/または炭窒化物は、M3C、M73、M236、M6C、M2C、MX(M:Fe、Cr、Mo、V、NbおよびTiなど。X:CおよびN。ここで、MXにはV43も含む)などの結晶構造を成すが、合金元素添加量のバランスによって安定となる組成や結晶構造は異なる。
本願技術分野である熱間鍛造、熱間押出、ダイカストその他鋳造に用いられる熱間金型用鋼は、焼入焼戻しにより40〜50HRCの硬度に調質されて利用されるのが一般であり、焼入焼戻し組織中では、M236、M6C、M2C、およびMXが熱力学的に安定になり得る。ところで、炭化物および/または炭窒化物は硬質な物質であるが、その構造により硬度が異なり、M2CやMXは他の構造を呈する炭化物よりも高硬度である。ゆえに、熱間金型においては、M2CやMXが多く存在する方が高温環境下における硬度・強度を維持し易く、摩耗および/またはヒートチェックと呼ばれる熱疲労の抑制に有効である。熱間金型中のM2CやMXを増加させるためには、それらを形成する主成分であるMo、VとCおよび/またはNを増量すれば良いが、過剰に添加すると炭化物および/または炭窒化物の総量が多くなり、また偏析を助長して炭化物および/または炭窒化物の凝集粗大化を招くことにより、別の重要な特性である靭性を低下させる。したがって、高い水準の高温強度と靭性を兼備させるためには、M2CやMXが安定になりやすく、かつ、炭化物および/または炭窒化物が過剰にならないようにする必要がある。
ここで、前述の如く、優れた靭性を発揮させる為に本願発明で規定した、C、VおよびNの範囲において、各種の炭化物および/または炭窒化物の構成元素と成り得るMoについて研究を重ねた結果、MoとCrの含有量バランスによって、安定する炭化物および/または炭窒化物が変化することを見出した。即ち、Moの質量含有量[%Mo]が、0.33×[%Cr]−0.37よりも小さい場合は、焼入焼戻し時にM2CやMXよりも先んじて析出するM236の形成に大部分が消費されるため、高温強度に有効なM2CやMXの量が不十分となる。一方、[%Mo]が、4.45−0.44×[%Cr]より大きい場合は、焼入焼戻し時および/または高温環境下での炭化物反応によりM2CよりもM6Cが安定となり、高温強度への効果が弱まることを発見するに至った。そこで、Moは1.4〜2.6%で、かつ、0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]を満足するものとする。
表1に示す化学成分と、残部がFe及び不可避不純物からなる熱間金型用鋼を、1トン真空溶解炉を用いて溶製して、インゴットを造塊し、当該インゴットを1250℃で16時間保持して均質化熱処理を施した後に、鍛錬成形比が凡そ6Sとなる直径140mmに、熱間鍛造して鋼材を製造した。
Figure 0006032881
表1において、※1のQは、0.33×[%Cr]−0.37の値を示し、※2のRは4.45−0.44×[%Cr]の値を示す。
さらに、表1において、本願発明鋼のMoの含有量は、質量%で、1.4%≦[%Mo]≦2.6%であり、かつ、Q<[%Mo]<Rを満たすものである。
Figure 0006032881
表2において、※3の高温強度は、各鋼材の中周部から各辺15mmのブロック状供試材を割出し、焼入焼戻しにより44〜46HRCに調質し(供試材の表面にあるスケール層を除去した後ロックウェル硬度計にて測定し初期硬さとする)、該供試材を650℃にて50時間保持し、これらの鋼材を空冷した後、再び鋼材の表面にあるスケール層を除去した後ロックウェル硬度計にて測定し、初期硬さとの差、すなわち硬度低下度であるΔHRCにより評価した。さらに、※4の靭性は、シャルピー衝撃試験により破壊に要したエネルギーで評価した。これらに用いた試験片は、直径140mm鍛造材の中心部の圧延方向と垂直方向から採取した。さらに、これらの試験片は、焼入焼戻しにより44〜46HRCに調質し、JIS Z 2242に規定する深さ2mmのUノッチを圧延方向に垂直となる面に加工したものである。
表1及び表2における本発明鋼について説明する。
表1に示す本発明鋼のA〜C、E〜Fの化学成分は本発明の請求項1の手段の鋼のFe及び不可避不純物以外の化学成分のC、Si、Mn、Cr、Mo、V、Ti及びNを示し、本発明鋼のHの化学成分は本発明の請求項2の手段のFe及び不可避不純物以外の化学成分のC、Si、Mn、Cr、Mo、V、Ti、N、Nb及びNiを示し、本発明鋼のIの化学成分は本発明の請求項3の手段のFe及び不可避不純物以外の化学成分のC、Si、Mn、Cr、Mo、V、Ti、N及びCoを示している。これらの化学成分は、いずれも本願発明の各化学成分として規定する範囲内にある。また、Qの値は[%Mo]の値より小さく、かつ[%Mo]の値はRの値より大きい。すなわち、本発明鋼の、質量%で示す、Mo含有量は、1.4%≦[%Mo]≦2.6%であり、かつQ<[%Mo]<Rを満足している。
次いで、表1及び表2における比較鋼について説明する。
比較鋼のf1は、本発明鋼F相当の鋼であるが、C添加量が本発明鋼Fよりも多過ぎるため、凝固偏析が顕著で、かつ、過剰な炭化物析出が生じたことで、表2にみられるように、靭性※4が36.3J/cm 2 であり、本発明鋼のFの77.5J/cm 2 より小さく、かつ、本発明鋼の靱性の最低値の50.3J/cm 2 よりもさらに小さいので、比較鋼のf1は本発明鋼Fやその他の本発明鋼より靱性が劣っている。
比較鋼のc1は、本発明鋼C相当の鋼であるが、C添加量が本発明鋼Cよりも少なすぎるため、必要な量の炭化物析出が得られず、表2にみられるように、高温強度※3のΔHRCが14.5で本発明鋼のCの高温強度※3のΔHRCの8.1より大きく、かつ、本発明鋼の高温強度※3のΔHRC最高値の11.1よりもさらに大きいので、本発明鋼よりも初期硬さとの硬度低下の差が大きく、比較鋼のc1は本発明鋼Cやその他の本発明鋼より高温強度が劣っている。
比較鋼のe1は、本発明鋼E相当の鋼であるが、本発明鋼EよりもSi添加量が多すぎるため、基地組織の延性が低下し、表2にみられるように、靭性※4が42.2J/cm 2 であり、本発明鋼のEの70.3J/cm 2 より小さく、かつ、本発明鋼の靱性の最低値の50.3J/cm 2 よりもさらに小さいので、比較鋼のe1は本発明鋼Eやその他の本発明鋼より靱性が劣っている。
比較鋼のb1は、本発明鋼B相当の鋼であるが、本発明鋼BよりもMn添加量が少なく、したがって焼入性が不足することで、表2にみられるように、靭性※4が41.9J/cm 2 であり、本発明鋼のBの67.4J/cm 2 より小さく、かつ、本発明鋼の靱性の最低値の50.3J/cm 2 よりもさらに小さいので、比較鋼のb1は本発明鋼Bやその他の本発明鋼よりも靱性が低下している。
比較鋼のe2は、本発明鋼E相当の鋼であるが、本発明鋼EよりもCr添加量が少なく、十分な焼入性が得られないため、表2にみられるように、靭性※4が38.1J/cm 2 であり、本発明鋼のEの70.3J/cm 2 より小さく、かつ、本発明鋼の靱性の最低値の50.3J/cm 2 よりもさらに小さいので、比較鋼のe2は本発明鋼Eやその他の本発明鋼より靱性が低下している。
比較鋼のf2は、本発明鋼のF相当の鋼であるが、本発明鋼FよりもCr添加量が多すぎるため、より有効なMXやM2Cの析出が少なくなり、表2にみられるように、高温強度※3のΔHRCが15.2で本発明鋼のFの高温強度※3のΔHRCの7.5より大きく、かつ、本発明鋼の高温強度※3のΔHRC最高値の11.1よりもさらに大きいので、本発明鋼よりも初期硬さとの硬度低下の差が大きく、比較鋼のf2は本発明鋼Fやその他の本発明鋼より高温強度が大きく低下している。
比較鋼のf3は、本発明鋼F相当の鋼であるが、f3のCr添加量は本発明鋼Fと全く同一である。ところで、f3の[%Mo]の値は2.45であるが、表1のf3のR※2の値すなわち4.45−0.44×[%Cr]は2.21であり、これは本願発明の[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足しないものである。したがって、本発明鋼FよりもMo添加量がやや多く、表2に見られるように、f3は高温強度※3のΔHRCが13.4で本発明鋼のFの高温強度※3のΔHRCの7.5より大きく、かつ、本発明鋼の高温強度※3のΔHRC最高値の11.1よりもさらに大きいので、本発明鋼よりも初期硬さからの硬度低下が大きく十分な高温強度が得られていない。このように比較鋼のf3は本発明の適正範囲内のMo量を添加しても、優れた強度は得られない。
比較鋼のa2は、本発明鋼A相当の鋼であるが、a2のCr添加量は本発明鋼Aと略同一でやや多い。ところで、a2の[%Mo]の値は2.55であるが、表1のa2のR※2の値すなわち4.45−0.44×[%Cr]は2.47であり、これは本願発明の[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足しないものである。したがって、本願発明鋼AよりもMo添加量がやや多く、表2に見られるように、a2は高温強度※3のΔHRCが13.0で本発明鋼のAの高温強度※3のΔHRCの7.3より大きく、かつ、本発明鋼の高温強度※3のΔHRCの最高値である11.1よりもさらに大きな値であるので、本発明鋼よりも初期硬さからの硬度低下が大きい。したがって、a2は、高温強度が低く、十分な高温強度が得られていない。このように比較鋼のa2は本発明の適正範囲内のMo量を添加しても、優れた強度は得られない。
比較鋼のh1は、本発明鋼H相当の鋼であるが、h1のCr添加量は本発明鋼Hと略同一でやや多い。ところで、h1の[%Mo]の値は1.43であるが、h1の表1のQ※1の値すなわち0.33×[%Cr]−0.37は1.47であり、これは本願発明の0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]の関係式を満足しないものである。したがって、本発明鋼HよりもMo添加量がやや少なく、表2にみられるように、h1は高温強度※3のΔHRCが14.1で本発明鋼のHの高温強度※3のΔHRCの11.1より大きく、かつ、本発明鋼のHの高温強度※3のΔHRCは本発明鋼の最高値であることから、本発明鋼よりも初期硬さからの硬度低下が大きく十分な高温強度が得られていない。このように比較鋼のh1は本発明の適正範囲内のMo量を添加しても、優れた強度は得られない。
比較鋼のc2は、本発明鋼C相当の鋼であるが、c2のCr添加量は本発明鋼Cと略同一である。しかし、c2の[%Mo]の値は2.70であり、これは本発明鋼Cの[%Mo]の値の2.51を超えており、このため、これ等の値は本願発明の[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足しないものである。したがって、表2に見られるように、c2は靭性※4が40.8J/cm 2 であり、本発明鋼のCの50.3J/cm 2 より小さく、かつ、本発明鋼のCの50.3J/cm 2 は本発明鋼の靱性の最低値であることから、比較鋼のc2は本発明鋼Cやその他の本発明鋼の靱性に比して劣っている。
比較鋼のe3は、本発明鋼E相当の鋼であるが、本発明鋼EよりもMo添加量が少なく、表2にみられるように、高温強度※3のΔHRCが15.9で本発明鋼のEの高温強度※3のΔHRCの9.6より大きく、かつ、本発明鋼の高温強度※3のΔHRC最高値の11.1よりもさらに大きいので、本発明鋼よりも初期硬さからの硬度低下が大きく、比較鋼のe3は本発明鋼Eやその他の本発明鋼より高温強度が大きく低下し、十分な高温強度が得られない。
比較鋼のa3は、本発明鋼A相当の鋼であるが、本発明鋼AよりもV添加量が0.16%と少なく、表2にみられるように、高温強度※3のΔHRCが13.8で本発明鋼のAの高温強度※3のΔHRCの7.3より大きく、かつ、本発明鋼の高温強度※3のΔHRC最高値の11.1よりもさらに大きいので、本発明鋼よりも初期硬さからの硬度低下が大きく、比較鋼のa3は本発明鋼Aやその他の本発明鋼より高温強度が大きく低下し、十分な高温強度が得られない。
比較鋼のb2は、本発明鋼B相当の鋼であるが、本発明鋼BよりもV添加量が過剰で、凝固時に粗大な炭窒化物を晶出し、比較鋼のb2は本発明鋼Bやその他の本発明鋼より靱性が阻害されて低下しており、表2に見られるように、靭性※4が31.1J/cm 2 であり、本発明鋼のBの67.4J/cm 2 より小さく、かつ、本発明鋼の靱性の最低値の50.3J/cm 2 よりもさらに小さい
比較鋼のc3又は比較鋼のb3は、同順で本発明鋼C相当鋼又は本発明鋼B相当鋼であるが、c3は本発明鋼CよりもTi含有量が多く、又b3は本発明鋼BよりもN含有量が多く、凝固時に晶出した炭窒化物の固溶温度が上昇したため、均質化熱処理での固溶が不十分となり、表2にみられるように、靭性※4がc3では34.8J/cm 2 で本発明鋼Cの50.3J/cm 2 より低下しており、b3では37.7J/cm 2 で本発明鋼Bの67.4J/cm 2 より靱性が低下している。さらに、比較鋼のc3と比較鋼のb3の靱性※4は本発明鋼の靱性の最低値の50.3J/cm2よりもさらに小さい
表2の本発明鋼が有する特性は、補正後の表2の本発明鋼における、高温強度※3のΔHRCが7.3〜11.1であり、かつ、靱性※4が50.3〜86.6J/cm 2 である評価である。一方、表2の比較鋼が有する特性では、比較鋼のc1、f2、f3、a2、h1、e3、a3の高温強度※3のΔHRCが本発明鋼の高温強度※3のΔHRCの11.1より大きく、したがって、これらの比較鋼のものに比して本発明鋼は高温強度および靱性において優れており、さらに比較鋼のf1、e1、b1、e2、c2、c3、b3の靱性※4が本発明鋼の靱性の50.3J/cm 2 よりも低い。したがって、比較鋼は全てのものにおいて、高温強度、靱性のいずれかの特性が本発明鋼よりも劣っている結果となっている。このことから、本発明鋼は高温強度及び靱性に優れた鋼である。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.30〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜1.00%、Cr:4.11〜5.12%、Mo:1.40〜2.60%、V:0.20〜0.80%、Ti:0.0030%以下、N:0.0116%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、さらに、Mo、Crは質量%で、0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足し、靱性がシャルピー衝撃試験値で50.3〜86.6J/cm 2 であり、かつ、焼入焼戻しによる調質前の初期硬さのHRCと焼入焼戻しによる調質後のHRCとの差であるΔHRCが7.3〜11.1であることを特徴とする高靭性及び高強度な熱間金型用鋼。
  2. 質量%で、C:0.30〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜1.00%、Cr:4.11〜5.12%、Mo:1.40〜2.60%、V:0.20〜0.80%、Ti:0.0030%以下、N:0.0116%以下を含有し、さらにNi:0.2〜1.5%及びCo:1.2%以下のいずれか1種又は2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、さらに、Mo、Crは質量%で、0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足し、靱性がシャルピー衝撃試験値で50.3〜86.6J/cm 2 であり、かつ、焼入焼戻しによる調質前の初期硬さのHRCと焼入焼戻しによる調質後のHRCとの差であるΔHRCが7.3〜11.1であることを特徴とする高靭性及び高強度な熱間金型用鋼。
  3. 質量%で、C:0.30〜0.50%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.10〜1.00%、Cr:4.11〜5.12%、Mo:1.40〜2.60%、V:0.20〜0.80%、Ti:0.0030%以下、N:0.0116%以下を含有し、さらにNb:0.30%以下を含有し、さらにNi:0.2〜1.5%及びCo:1.2%以下のいずれか1種又は2種を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、さらに、Mo、Crは質量%で、0.33×[%Cr]−0.37<[%Mo]<4.45−0.44×[%Cr]の関係式を満足し、靱性がシャルピー衝撃試験値で50.3〜86.6J/cm 2 であり、かつ、焼入焼戻しによる調質前の初期硬さのHRCと焼入焼戻しによる調質後のHRCとの差であるΔHRCが7.3〜11.1であることを特徴とする高靭性及び高強度な熱間金型用鋼。
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