本発明を具体化した実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
−寿命予測装置のハード構成−
まず、本発明の実施形態に係る排気系部品の寿命予測装置(単に「寿命予測装置」とも言う)の概略構成について、図1、図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る寿命予測装置100の概略構成を示す図である。図2は、図1に示す寿命予測装置100の平面図および側面図である。図2(a)は、図1に示す寿命予測装置100の平面図であり、図2(b)は、図1に示す寿命予測装置100の側面図である。
本実施形態に係る寿命予測装置100は、測定対象物5である排気系部品の各部位における拘束歪εrを算出して、当該測定対象物5の寿命を予測する装置である。拘束歪εrは、後述するように、測定対象物5の実際の歪である実歪εcから、測定対象物5の熱による自由膨張の歪である熱自由歪εtを減じた差として求められるようになっている。
図1、図2に示すように、寿命予測装置100は、コンピュータ1、第1ステレオカメラ2、第2ステレオカメラ3、および、サーモビュア4を備えている。第1ステレオカメラ2、第2ステレオカメラ3、および、サーモビュア4の視界の略中心位置には、測定対象物5(排気系部品)が配置されている。なお、ここでは、測定対象物5は、長方形状の板状体であって、その左右の両端は壁Wによって熱膨張が拘束されているものとする。また、測定対象物5は、低温(例えば、20℃)から高温(例えば、900℃)まで加熱された後、高温から低温まで冷却される。そして、このような加熱および冷却のサイクル(冷熱サイクル)が測定対象物5に対して繰り返し行われる。本実施形態においては、便宜上、測定対象物5のz軸方向の変形は考えない(測定対象としない)ものとする。
測定対象物5の第1ステレオカメラ2(第2ステレオカメラ3およびサーモビュア4)側の正面51には、図1、図3に例示するような格子線が描かれている。図3は、図1に示す測定対象物5の正面51に描かれた格子の一例を示す図である。
図3に示すように、測定対象物5の正面51に描かれた格子線は、x軸方向にN個(例えば、50個)、y軸方向にM個(例えば、10個)の領域に正面51を均等に分割している。ここでは、測定対象物5の正面51における各格子(各部位)を(i,j)で表す。添え字iは、x軸方向の格子の順番を表し、左端が「1」であり、右端が「N」である。同様に、添え字jは、y軸方向の格子の順番を表し、上端が「1」であり、下端が「M」である。以下の説明においては、各格子点(i,j)に対応する正面51の温度を、温度T(i,j)と表記する。ここで、添え字iは、1からNまでのいずれかの整数であり、添え字jは、1からMまでのいずれかの整数である。また、各格子点(i,j)に対応する正面51の実歪εc、熱自由歪εt、拘束歪εr、最大主歪ε1、最大主歪の最大値ε1max、最大値ε1maxの発生角度θ、発生角度θでの発生歪εθ、発生応力σ、塑性歪εp、破断繰り返し回数N1等を、それぞれ、実歪εc(i,j)、熱自由歪εt(i,j)、拘束歪εr(i,j)、最大主歪ε1(i,j)、最大主歪の最大値ε1max(i,j)、発生角度θ(i,j)、発生歪εθ(i,j)、発生応力σ(i,j)、塑性歪εp(i,j)、破断繰り返し回数N1(i,j)等と表記する。
コンピュータ1は、いわゆるパーソナルコンピュータ等からなり、寿命予測装置100全体の動作を制御するものであって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えている。ROMは、種々の制御プログラム等を記憶する。CPUは、ROMに記憶された種々の制御プログラムを読み出して各種処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果等を一時的に記憶するメモリである。
また、コンピュータ1は、操作入力部、表示部、HDD(Hard Disk Drive)等を備えている。操作入力部は、外部からの操作を受け付けるものであって、キーボード、マウス等からなる。表示部は、LCD(Liquid Crystal Display)等からなり、CPUによる演算結果等を外部から視認可能に表示するものである。HDDは、種々のデータを記憶するものである。
第1ステレオカメラ2は、図2(b)に示すように、サーモビュア4の上に載置され、測定対象物5の第1ステレオ画像PS1を生成するカメラである。第1ステレオカメラ2によって生成された第1ステレオ画像PS1は、コンピュータ1(図4に示す画像取得部11)へ出力される。なお、第1ステレオ画像PS1は、後述する実歪算出部12によって実歪εc(i,j)を求めるときの基準とされる画像である。
第2ステレオカメラ3は、第1ステレオカメラ2と離間した位置に配設され、測定対象物5の第2ステレオ画像PS2を生成するカメラである。第2ステレオカメラ3によって生成された第2ステレオ画像PS2は、コンピュータ1(図4に示す画像取得部11)へ出力される。ここで、第2ステレオカメラ3は、図2(a)に示すように、測定対象物5の中心線CLに関して第1ステレオカメラ2と線対称となる位置に配置されている。
サーモビュア4は、第1ステレオカメラ2の下方に配設され、測定対象物5の温度分布を検出する装置である。サーモビュア4によって検出された温度分布を示す情報は、コンピュータ1(図4に示す温度取得部13)へ出力される。
上述のように、実歪εc(i,j)を求めるときの基準とされる第1ステレオ画像PS1を生成する第1ステレオカメラ2が、サーモビュア4の上側に載置されているため、測定対象物5の各格子点(i,j)における拘束歪εr(i,j)を容易に測定することができる。すなわち、サーモビュア4と近接配置されている第1ステレオカメラ2を基準として実歪εc(i,j)を測定することによって、実歪εc(i,j)を求める格子点(i,j)と、熱自由歪εt(i,j)を求める格子点(i,j)との位置合わせが容易となるため、測定対象物5の各格子点(i,j)における拘束歪εr(i,j)を容易に測定することができる。なお、本実施形態では、第1ステレオカメラ2が、サーモビュア4の上側に載置されている場合について説明するが、第1ステレオカメラ2または第2ステレオカメラ3がサーモビュア4と近接して配置されている形態であればよい。例えば、第2ステレオカメラ3がサーモビュア4の真横に配置されている形態でもよい。この場合には、第2ステレオカメラ3によって生成される第2ステレオ画像PS2が、後述する実歪算出部12によって実歪εc(i,j)を求めるときの基準となる画像として用いられる。
−コンピュータの構成−
次に、コンピュータ1の構成について、図4を参照して説明する。図4は、図1に示すコンピュータ1の機能構成の一例を示す図である。
コンピュータ1は、ROM等に記憶された制御プログラムを読み出して実行することによって、画像取得部11、実歪算出部12、温度取得部13、膨張係数記憶部16、熱自由歪算出部17、拘束歪算出部18、最大主歪算出部21、発生歪算出部22、発生応力算出部23、応力−歪発生線図作成部24、寿命予測部25、データ記憶部30等の機能部からなる。詳細には、寿命予測部25は、塑性歪算出部25a、破断繰り返し回数算出部25b等の機能部を含む構成となっている。ここで、実歪算出部12、膨張係数記憶部16、熱自由歪算出部17、拘束歪算出部18、最大主歪算出部21、発生歪算出部22、発生応力算出部23、応力−歪発生線図作成部24、寿命予測部25、データ記憶部30は、寿命予測装置100の一部に相当する。
画像取得部11は、第1ステレオカメラ2によって生成された第1ステレオ画像PS1、および、第2ステレオカメラ3によって生成された第2ステレオ画像PS2を取得する機能部である。
実歪算出部12は、画像取得部11によって取得された第1ステレオ画像PS1および第2ステレオ画像PS2に基づいて、測定対象物5の正面51における実歪εc(i,j)を求める機能部である。具体的には、実歪算出部12は、画像取得部11によって取得された第1ステレオ画像PS1および第2ステレオ画像PS2に基づいて、第1温度T1および第2温度T2のそれぞれの場合に、測定対象物5の正面51における各格子点(i,j)の中心位置のx−y座標(x1ij、y1ij)および(x2ij、y2ij)を求める。ここで、添え字iは、1からNのいずれかの整数であり、添え字jは、1からMのいずれかの整数である。このように、2つのステレオ画像に基づいて各格子点(i,j)の中心位置のx−y座標を求める方法は、公知である(“Image Correlation for Deformation and Shape Measurements : Basic Concepts, Theory and Applications”、Chapter4:Two-Dimensional and Three-Dimensional Computer Vision、P65-P80、著者:Sutton.M.A.、Orteu.J.、2009年4月出版、出版社:Springer、ISBN:9780387787466、特開2009−270915号公報、および、特開2001−241928号公報参照)から、ここでは、その説明を省略する。
次に、実歪算出部12は、第1温度T1および第2温度T2のそれぞれの場合に、測定対象物5の正面51における各格子点(i,j)の中心位置の座標(x1ij、y1ij)および(x2ij、y2ij)から、各格子点(i,j)における実歪εc(i,j)を、幅方向(x軸方向)の実歪εcx(i,j)、および、高さ方向(y軸方向)の実歪εcy(i,j)として求める。
幅方向の実歪εcx(i,j)は、例えば、次の(1)〜(4)式によって求められる。
εcx(i,j)=ΔLx(i,j)/L1x(i,j) (1)
ΔLx(i,j)=L2x(i,j)−L1x(i,j) (2)
L1x(i,j)=((x1ij−x1(i−1)j)2
+(y1ij−y1(i−1)j)2)1/2 (3)
L2x(i,j)=((x2ij−x2(i−1)j)2
+(y2ij−y2(i−1)j)2)1/2 (4)
また、高さ方向の実歪εcy(i,j)は、例えば、次の(5)〜(8)式によって求められる。
εcy(i,j)=ΔLy(i,j)/L1y(i,j) (5)
ΔLy(i,j)=L2y(i,j)−L1y(i,j) (6)
L1y(i,j)=((x1ij−x1i(j−1))2
+(y1ij−y1i(j−1))2)1/2 (7)
L2y(i,j)=((x2ij−x2i(j−1))2
+(y2ij−y2i(j−1))2)1/2 (8)
すなわち、実歪εc(i,j)は、第1温度T1から第2温度T2に変化した場合の、各格子点(i,j)の中心位置から隣接する格子点の中心位置との距離の変化(L1→L2)に基づいて求められる。
より具体的には、幅方向の実歪εcx(i,j)は、第1温度T1から第2温度T2に変化した場合の、各格子点(i,j)の中心位置から左側に隣接する格子点の中心位置までの距離の変化(L1x→L2x)に基づいて求められる。また、高さ方向の実歪εcy(i,j)は、第1温度T1から第2温度T2に変化した場合の、各格子点(i,j)の中心位置から上側に隣接する格子点の中心位置までの距離の変化(L1y→L2y)に基づいて求められる。なお、以下の説明においては、幅方向の実歪εcx(i,j)、および、高さ方向の実歪εcy(i,j)を、便宜上、実歪εc(i,j)と総称する。
温度取得部13は、サーモビュア4によって検出された温度分布情報を取得する機能部である。また、温度取得部13は、取得した温度分布情報に基づいて、測定対象物5の正面51における各格子点(i,j)に対応する位置の温度T(i,j)を求める。
膨張係数記憶部16は、測定対象物5の線膨張係数αと測定対象物5の温度Tとを対応付けて記憶する機能部である。具体的には、膨張係数記憶部16は、ROM等にマップまたはLUT(ルックアップテーブル)として、温度Tに対応付けて線膨張係数α(T)を記憶する。このように、膨張係数記憶部16に、測定対象物5の線膨張係数α(T)と測定対象物5の温度Tとが対応付けて記憶されており、サーモビュア4によって検出された温度分布に含まれる各温度T(i,j)に対応する線膨張係数α(T(i,j))が、膨張係数記憶部16から読み出されて、熱自由歪εt(i,j)が求められるため、測定対象物5の各格子点(i,j)における熱自由歪εt(i,j)を容易に求めることができる。
熱自由歪算出部17は、サーモビュア4によって検出された測定対象物5の温度分布から熱自由歪εtを求める機能部である。具体的には、熱自由歪算出部17は、サーモビュア4によって検出された温度分布に含まれる各格子点(i,j)の各温度T(i,j)に対応する線膨張係数α(T(i,j))を、膨張係数記憶部16から読み出して、次の(9)、(10)式によって熱自由歪εt(i,j)を、それぞれ、幅方向の熱自由歪εtx(i,j)、および、高さ方向の熱自由歪εty(i,j)として求める。
εtx(i,j)=(α(T(i,j))−α0)*L1x(i,j) (9)
εty(i,j)=(α(T(i,j))−α0)*L1y(i,j) (10)
ここで、α0は、測定対象物5の初期温度(例えば20℃)における線膨張係数αの値である。また、(9)式のL1x(i,j)、および、(10)式のL1y(i,j)は、それぞれ、上記(3)式、および、上記(7)式で与えられる第1温度T1における測定対象物5の幅方向の格子間距離および高さ方向の格子間距離である。なお、以下の説明においては、幅方向の熱自由歪εtx(i,j)および高さ方向のεty(i,j)を、便宜上、熱自由歪εt(i,j)と総称する。
拘束歪算出部18は、実歪算出部12によって求められた実歪εc(i,j)から、熱自由歪算出部17によって求められた熱自由歪εt(i,j)を減じた差を、拘束歪εr(i,j)として求める機能部である。すなわち、拘束歪算出部18は、次の(11)式によって、各格子点(i,j)の拘束歪εr(i,j)を求める。
εr(i,j)=εc(i,j)−εt(i,j) (11)
ここで、図5を参照して、拘束歪εrについて説明する。図5は、本実施形態に係る「拘束歪」の考え方を示す概念図である。図5に示すように、円板状の測定対象物5が、左右両端が壁Wに移動を拘束された状態で、第1温度T1から第2温度T2まで加熱されて熱膨張する。この場合に、温度上昇に伴って、測定対象物5は熱膨張するが、左右両端が壁Wに移動を拘束されているため、右側の図で示すように、第2温度まで加熱された状態では、縦方向に長い長円(または、楕円)状の形状となる。本実施形態では、図5の左端の図である初期状態と、図5の右側の図である加熱後の状態との間に、図5の中央の図で示す、測定対象物5が第2温度T2で自由膨張した状態を想定している。そして、拘束歪εrを、右端の図で示す状態における歪みである実歪εcと、中央の図で示す状態である熱自由歪εtとの差と定義している。
上述のように、第1ステレオカメラ2によって測定対象物5の第1ステレオ画像PS1が生成される。また、第1ステレオカメラ2と離間した位置に配設された第2ステレオカメラ3によって、測定対象物5の第2ステレオ画像PS2が生成される。そして、第1ステレオ画像PS1および第2ステレオ画像PS2から測定対象物5の三次元形状が取得されて、測定対象物5の各格子点(i,j)における実歪εc(i,j)が求められる。また、サーモビュア4によって、測定対象物5の温度分布が検出され、検出された温度分布から、測定対象物5の各格子点(i,j)における熱自由歪εt(i,j)が求められる。さらに、求められた各格子点(i,j)の実歪εc(i,j)から、各格子点(i,j)の熱自由歪εt(i,j)を減じた差が、拘束歪εr(i,j)として求められるため、各格子点(i,j)における拘束歪εr(i,j)を容易に測定することができる。すなわち、測定対象物5の実際の歪である実歪εc(i,j)から、測定対象物5の熱による自由膨張の歪である熱自由歪εt(i,j)を減じた差を、拘束歪εr(i,j)として定義して求めている。
そして、本実施形態では、拘束歪算出部18によって求められた拘束歪εrから、測定対象物5の熱疲労に伴う割れ(亀裂)の発生を評価する指標として、塑性歪εpを算出し、この塑性歪εpに基づいて測定対象物5の寿命を予測するようにしている。詳細には、以下に述べるように、測定対象物5の寿命と相関のある破断繰り返し回数N1を塑性歪εpから算出することによって、測定対象物5の寿命予測を行うようにしている。
最大主歪算出部21は、拘束歪算出部18によって算出された拘束歪εr(i,j)、および、温度取得部13によって取得された温度T(i,j)から、各格子点(i,j)の最大主歪ε1(i,j)を求める。例えば、最大主歪ε1(i,j)と、拘束歪εr(i,j)および温度T(i,j)との関係を予めマップ化しておき、求められた拘束歪εr(i,j)および温度T(i,j)に対応する最大主歪ε1(i,j)をマップから読み込む。拘束歪εr(i,j)および温度T(i,j)と、最大主歪ε1(i,j)とを対応付けるマップは予め実験、シミュレーション等によって作成され、データ記憶部30に記憶される。なお、マップ以外の演算式等から、各格子点(i,j)の最大主歪ε1(i,j)を求めてもよいが、ここでは詳しい説明を省略する。
また、最大主歪算出部21は、各格子点(i,j)の最大主歪ε1(i,j)の最大値ε1max(i,j)およびその発生角度(発生方向)θ(i,j)を求める。ここで、図6(a)を参照して、最大主歪ε1の最大値ε1maxおよび発生角度θについて説明する。図6(a)は、本実施形態に係る「最大主歪の最大値および発生角度」の考え方を示す概念図である。
図6(a)は、測定対象物5の各格子点(i,j)における最大主歪ε1(i,j)を示しており、格子点(30,37)および格子点(53,20)の2点について代表的に示している。図6(a)に示すように、各格子点(i,j)において、最大主歪ε1(i,j)は、歪の発生角度(発生方向)が異なれば、異なる大きさとなり、発生角度θ(i,j)のとき、最大値ε1max(i,j)となる。発生角度θ(i,j)は、各格子点(i,j)において最大主歪ε1(i,j)が最大値ε1max(i,j)となる角度であり、ここでは、最大主歪ε1(i,j)がx軸方向に対してなす角度となっている。図6(a)の例では、格子点(30,37)の最大主歪ε1(30,37)は、発生角度θ(30,37)のとき、最大値ε1max(30,37)となり、格子点(53,20)の最大主歪ε1(53,20)は、発生角度θ(53,20)のとき、最大値ε1max(53,20)となる。なお、発生角度θ(i,j)での最大主歪ε1(i,j)を実線で示し、発生角度θ(i,j)以外の角度での最大主歪ε1(i,j)を破線で示している。
発生歪算出部22は、各格子点(i,j)の発生角度θ(i,j)での発生歪εθ(i,j)を求める。具体的には、最大主歪算出部21によって算出された最大主歪の最大値ε1maxおよび発生角度θから、この発生角度θ方向の歪を発生歪εθとして求める。ここで、図6(b)を参照して、発生角度θでの発生歪εθについて説明する。図6(b)は、本実施形態に係る「発生角度での発生歪」の考え方を示す概念図であり、図6(a)と同様に、格子点(30,37)および格子点(53,20)の2点について代表的に示している。
図6(b)に示すように、各格子点(i,j)において、最大主歪ε1(i,j)の歪変化を発生角度θ(i,j)方向のみの変化に限定し、この歪を発生歪εθ(i,j)としている。つまり、最大主歪ε1の発生角度を、最大主歪ε1が最大値ε1maxとなる発生角度θに固定し、この発生角度θでの発生歪εθを求めるようにしている。そして、最大主歪ε1(i,j)の歪変化を、発生角度θ方向のみの変化として捉えるようにしている。このように発生角度θでの発生歪εθを求めるのは、次のような理由による。最大主歪ε1の発生角度(発生方向)は、図6(a)に示すようにさまざまに変化するが、亀裂は一方向のみに発生するためである。本実施形態では、最大主歪ε1が最大値ε1maxとなる発生角度θを、亀裂発生角度(亀裂発生方向)として予測するようにしている。
発生応力算出部23は、発生歪算出部22によって算出された発生歪εθ(i,j)、および、温度取得部13によって取得された温度T(i,j)から、発生歪εθ(i,j)および温度T(i,j)に対応する発生応力σ(i,j)を求める。ここで、データ記憶部(材料データベース)30には、図7に示すような温度ごとの応力−歪特性線図M1が記憶されている。図7の温度ごとの応力−歪特性線図M1は、発生応力σ(i,j)と、発生歪εθ(i,j)および温度T(i,j)とを対応付けるマップであって、予め実験、シミュレーション等によって作成される。そして、発生応力算出部23は、温度ごとの応力−歪特性線図M1を参照して、発生歪算出部22によって算出された発生歪εθ(i,j)、および、温度取得部13によって取得された温度T(i,j)に対応する発生応力σ(i,j)を読み込む。図7では、複数の温度[℃]について、発生歪εθ(i,j)に対する発生応力σ(i,j)の変化が示されている。なお、図7の横軸は公称歪[%]となっており、縦軸は応力[MPa]となっている。この図7に示す関係(温度ごとの応力−歪特性線図M1)は、材料(素材)に応じて定まる関係である。このため、測定対象物5(排気系部品)の材料ごとに、温度ごとの応力−歪特性線図M1を作成してデータ記憶部30に記憶させておき、発生応力σを求める際には、測定対象物5の材料に応じた温度ごとの応力−歪特性線図M1を参照すればよい。
応力−歪発生線図作成部24は、発生歪算出部22によって算出された発生歪εθ(i,j)、および、発生応力算出部23によって算出された発生応力σ(i,j)から、各格子点(i,j)の発生角度θ(i,j)での応力−歪発生線図M2を作成する。図8は、応力−歪発生線図作成部24によって作成される応力−歪発生線図M2の一例を示している。図8の横軸は発生歪εθとなっており、縦軸は発生応力σとなっており、各格子点(i,j)において、求められた発生歪εθおよび発生応力σのデータを時刻順にプロットしていくと、図8のような応力−歪発生線図M2が得られる。言い換えれば、冷熱サイクルの1サイクルを複数のサンプリング位置(サンプリング時刻)に分割し、各サンプリング位置で求められた発生歪および発生応力をプロットすることによって、応力−歪発生線図M2が作成されるようになっている。図8では、発生歪εθおよび発生応力σがともに0の原点からプロットが開始され、時間経過とともに矢印で示すように、発生歪εθおよび発生応力σが変化していく。応力−歪発生線図作成部24によって作成された各格子点(i,j)の発生角度θ(i,j)での応力−歪発生線図M2は、データ記憶部30に記憶される。
ここで、本実施形態では、低温(例えば、20℃)と高温(例えば、900℃)との間での加熱および冷却のサイクル(冷熱サイクル)が測定対象物5に対して繰り返し行われる。この場合、測定対象物5の左右両端が壁Wによって拘束されているので(図1等参照)、図8に示すように、測定対象物5の加熱時には、発生歪εθが、主に圧縮方向の歪となって時間経過とともに減少するような特性を示す。一方、測定対象物5の冷却時には、発生歪εθが、主に引張方向の歪となって時間経過とともに増加するような特性を示す。
寿命予測部25は、応力−歪発生線図作成部24によって作成された応力−歪発生線図M2に基づいて、測定対象物5の寿命を予測するもので、本実施形態では、塑性歪算出部25aと、破断繰り返し回数算出部25bとを備えている。
塑性歪算出部25aは、応力−歪発生線図作成部24によって作成された応力−歪発生線図M2から、各格子点(i,j)の塑性歪εp(i,j)を求める。具体的には、[全歪ε=塑性歪εp+弾性歪εe]の関係を適用することによって、応力−歪発生線図M2から塑性歪εpを算出する。詳細には、図8の応力−歪発生線図M2において、閉じている領域A1を冷熱サイクルの1サイクルとし、1サイクルの領域A1での発生歪εθの最大値εθmaxと最小値εθminとの差を、全歪εとして定義する。また、1サイクルの領域A1での発生歪εθの最大値εθmaxと、発生応力σが0となるときの発生歪εθ0との差を、弾性歪εeとして定義する。そして、全歪εから弾性歪εeを減じた差を、塑性歪εpとして定義する。つまり、図8の応力−歪発生線図M2において、塑性歪εpは、1サイクルの領域A1での発生応力σが0となるときの発生歪εθ0と、発生歪εθの最小値εθminとの差となる。
破断繰り返し回数算出部25bは、塑性歪算出部25aによって算出された塑性歪εp(i,j)から、各格子点(i,j)の破断繰り返し回数N1(i,j)を求める。ここで、データ記憶部(材料データベース)30には、図9に示すような塑性歪−破断繰り返し回数特性M3が記憶されている。図9の塑性歪−破断繰り返し回数特性M3は、塑性歪εp(i,j)と、破断繰り返し回数N1(i,j)とを対応付けるマップであって、予め実験、シミュレーション等によって作成されるもので、Manson−Coffinの関係とも呼ばれる。図9の横軸は、破断繰り返し回数N1の対数(logN1)となっている。そして、破断繰り返し回数算出部25bは、塑性歪−破断繰り返し回数特性M3を参照して、塑性歪算出部25aによって算出された塑性歪εp(i,j)に対応する破断繰り返し回数N1(i,j)を読み込む。なお、図9に示す関係(塑性歪−破断繰り返し回数特性M3)は、材料(素材)に応じて定まる関係である。このため、測定対象物5(排気系部品)の材料ごとに、塑性歪−破断繰り返し回数特性M3を作成してデータ記憶部30に記憶させておき、破断繰り返し回数N1を求める際には、測定対象物5の材料に応じた塑性歪−破断繰り返し回数特性M3を参照すればよい。
破断繰り返し回数算出部25bによって求められた破断繰り返し回数N1に基づく測定対象物5(排気系部品)の寿命予測は、例えば、次のようにして行うことが可能である。すなわち、破断繰り返し回数N1(i,j)が最も大きい格子点(i,j)に対応する位置において、亀裂が発生する可能性が高いと予測したり、各格子点(i,j)に対応する位置において、それぞれ現在のサイクル数や、亀裂発生までの残りのサイクル数を予測したりすることが可能である。
−寿命予測装置(コンピュータ)の動作−
次に、寿命予測装置100(主に、コンピュータ1)の動作について、図10のフローチャートを参照して説明する。図10のフローチャートに示すステップS101〜ステップS112の処理は、コンピュータ1によって実行され、測定対象物5の各格子点(i,j)ごとにそれぞれ行われる。
まず、画像取得部11によって、第1ステレオカメラ2および第2ステレオカメラ3から、それぞれ、第1ステレオ画像PS1および第2ステレオ画像PS2が取得される(ステップS101)。そして、実歪算出部12によって、ステップS101で取得された第1ステレオ画像PS1、および、第2ステレオ画像PS2に基づいて、測定対象物5の各格子点(i,j)における実歪εc(i,j)が求められる(ステップS102)。
次いで、温度取得部13によって、サーモビュア4で検出された各格子点(i,j)に対応する位置の温度T(i,j)が取得される(ステップS103)。そして、熱自由歪算出部17によって、ステップS103で取得された温度T(i,j)に基づいて、各格子点(i,j)における熱自由歪εt(i,j)が求められる(ステップS104)。次に、拘束歪算出部18によって、ステップS102で求められた実歪εc(i,j)からステップS104で求められた熱自由歪εt(i,j)を減じた差として拘束歪εr(i,j)が求められる(ステップS105)。
そして、最大主歪算出部21によって、ステップS105で求められた拘束歪εr(i,j)、および、ステップS103で取得された温度T(i,j)に基づいて、各格子点(i,j)における最大主歪ε1(i,j)が求められる(ステップS106)。また、最大主歪算出部21によって、各格子点(i,j)における最大主歪ε1(i,j)の最大値ε1max(i,j)およびその発生角度θ(i,j)が求められる(ステップS107)。
次に、発生歪算出部22によって、ステップS107で求められた最大主歪ε1(i,j)の最大値ε1max(i,j)およびその発生角度θ(i,j)に基づいて、各格子点(i,j)の発生角度θ(i,j)での発生歪εθ(i,j)が求められる(ステップS108)。そして、発生応力算出部23によって、ステップS108で求められた発生歪εθ(i,j)、および、ステップS103で取得された温度T(i,j)に基づき、データ記憶部30に記憶された温度ごとの応力−歪特性線図M1を参照することにより、各格子点(i,j)における発生応力σ(i,j)が求められる(ステップS109)。
次いで、ステップS108で求められた発生歪εθ(i,j)、および、ステップS109で求められた発生応力σ(i,j)に基づいて、各格子点(i,j)における応力−歪発生線図M2が応力−歪発生線図作成部24によって作成されたか否かが判定される(ステップS110)。この判定は、例えば、図8に示すような閉じている領域A1が応力−歪発生線図M2に形成されたか否かを判定することによって行うことが可能である。そして、応力−歪発生線図作成部24によって応力−歪発生線図M2が作成されたと判定された場合(肯定判定の場合)には、ステップS111に処理を進める。一方、応力−歪発生線図作成部24によって応力−歪発生線図M2が作成されていないと判定された場合(否定判定の場合)には、肯定判定が得られるまで、ステップS101〜ステップS109の処理を繰り返す。
そして、塑性歪算出部25aによって、ステップS110で作成された応力−歪発生線図M2に基づいて、各格子点(i,j)における塑性歪εp(i,j)が求められる(ステップS111)。次に、破断繰り返し回数算出部25bによって、ステップS111で求められた塑性歪εp(i,j)に基づき、データ記憶部30に記憶された塑性歪−破断繰り返し回数特性M3を参照することにより、各格子点(i,j)における破断繰り返し回数N1(i,j)が求められて(ステップS112)、処理が終了される。
本実施形態によれば、応力−歪発生線図作成部24によって作成された応力−歪発生線図M2に基づいて、測定対象物5(排気系部品)の熱疲労を考慮した寿命予測を精度よく行うことができる。詳細には、拘束歪算出部18によって求められた拘束歪εrから、測定対象物5の熱疲労に伴う割れ(亀裂)の発生を評価する指標として、塑性歪εp(破断繰り返し回数N1)を算出し、この塑性歪εpに基づいて測定対象物5の寿命を予測するようにしている。これにより、測定対象物5の寿命予測を精度よく行うことが可能となる。すなわち、最大主歪ε1が最大値ε1maxとなる発生角度θを亀裂発生方向として予測して、この発生角度θでの発生歪εθを求めている。また、温度ごとの応力−歪特性線図M1を参照することにより、発生応力σを求めている。そして、求められた発生歪εθおよび発生応力σから、応力−歪発生線図M2を作成し、塑性歪εpを求めることによって破断繰り返し回数N1を求めている。これにより、塑性歪εp(破断繰り返し回数N1)が測定対象物5の温度に依存する亀裂の発生を考慮したものとなり、測定対象物5の寿命予測を正確に行うことができる。したがって、本実施形態によれば、拘束歪εrから測定対象物5の塑性歪εpを算出せずに寿命予測を行う場合に比べて、測定対象物5の寿命を正確に予測することができる。
なお、寿命予測装置100が、コンピュータ1において、実歪算出部12、膨張係数記憶部16、熱自由歪算出部17、拘束歪算出部18、最大主歪算出部21、発生歪算出部22、発生応力算出部23、応力−歪発生線図作成部24、寿命予測部25(塑性歪算出部25a、破断繰り返し回数算出部25b)、および、データ記憶部30の機能部として構成されている場合について説明したが、上記の機能部のうち、少なくとも1つの機能部が、電子回路等のハードウェアで構成されている形態であってもよい。
−他の実施形態1−
本実施形態は、寿命予測装置に備えられる寿命予測部が上記実施形態とは異なっている。図11は、本実施形態(他の実施形態1)に係るコンピュータの機能構成の一例を示す図である。図11に示すように、寿命予測装置100A(コンピュータ1A)に備えられる寿命予測部26が、上記実施形態の寿命予測装置100(コンピュータ1)の寿命予測部25(図4参照)とは異なっている。つまり、本実施形態では、上記実施形態の寿命予測部25の代わりに寿命予測部26が備えられている。なお、寿命予測部26以外の構成については、上記実施形態と略同様となっている。
上述したように、上記実施形態では、測定対象物5の拘束歪εrを算出し、この拘束歪εrから塑性歪εpを算出することによって測定対象物5の寿命予測を行った。これに対し、本実施形態では、測定対象物5の拘束歪εrを算出し、この拘束歪εrから、測定対象物5の熱疲労に伴う割れ(亀裂)の発生を評価する指標として、ダメージファクタ(累積疲労度)Dfを算出することによって測定対象物5の寿命予測を行うようにしている。すなわち、寿命予測部26は、応力−歪発生線図作成部24によって作成された応力−歪発生線図M2(図8参照)に基づいて、測定対象物5の寿命を予測するもので、本実施形態では、ダメージファクタ算出部26aを備えている。
ダメージファクタ算出部26aは、応力−歪発生線図作成部24によって作成された応力−歪発生線図M2から、各格子点(i,j)のダメージファクタDf(i,j)を求める。本実施形態では、ダメージファクタDfは、応力−歪発生線図M2において、閉じている領域A1の面積に相当する値として定義される。この領域A1の面積は、例えば次のような手法で求めることが可能であるが、他の手法を用いて領域A1の面積を算出してもよい。
図12に示すように、応力−歪発生線図作成部24によって作成された応力−歪発生線図M2から、閉じている領域A1を切り出す(抽出する)。領域A1は、冷熱サイクルの1サイクル分に相当する領域となっている。そして、抽出された1サイクル分の領域A1の面積を、次の(12)式によって算出する。
この(12)式に含まれるεθ1、εθend、σave、および、dεθについて説明する。図13は、図12に示す領域A1を形成する発生歪εθ[μstr]および発生応力σ[MPa]のサンプリングデータの一例を示すとともに、各発生歪εθおよび発生応力σについて、σave、dεθ、および、σave*dεθを算出した結果を示している。図13の表では、図12に示す領域A1を形成する各発生歪εθおよび発生応力σのサンプリングデータが時計回りの順で並べられ、発生歪εθが最も小さいデータが最初の行に並べられている。なお、図13の表では、最後の行に、σave、dεθ、および、σave*dεθを算出するために、便宜上、最初の行と同じ発生歪εθおよび発生応力σのデータが追加されている。
上記(12)式に含まれるεθ1は、図13の表で最初の行に並べられるデータであり、発生歪εθの最小値に対応する(εθ1=εθmin)。εθendは、図13の表で最後の行に並べられるデータであり、ここでは、便宜上追加された最初の行の発生歪εθが用いられている。σaveは、図12で隣り合う2点の発生応力σの平均値に対応する。図13の表では、第r行目のσaveは、第r行目の発生応力σと、第r+1行目の発生応力σとの加算平均値として算出される。dεθは、図12で隣り合う2点の発生歪εθの偏差に対応する。図13の表では、第r行目のdεθは、第r行目の発生歪εθと、第r+1行目の発生歪εθとの偏差として算出される。σave*dεθは、上述のようにして算出されたσaveおよびdεθを掛け合わせた積である。
そして、上記(12)式より算出されるダメージファクタDfは、図12の1サイクル分の領域A1の面積に対応し、上述のようにして算出されたσave*dεθの総和となる。ここで、図12の領域A1を複数の領域に区画した場合、区画された各領域の面積が、図13のσave*dεθの値に対応し、区画された各領域の面積の総和が、ダメージファクタDfに対応する。より詳細には、区画された各領域の幅が、図13のdεθの値に対応し、区画された各領域の高さが、図13のσaveの値に対応する。
ダメージファクタ算出部26aによって求められたダメージファクタDfに基づく測定対象物5(排気系部品)の寿命予測は、例えば、次のようにして行うことが可能である。すなわち、ダメージファクタDf(i,j)が最も大きい格子点(i,j)に対応する位置において、亀裂が発生する可能性が高いと予測することが可能である。また、例えば、図14に示すようなダメージファクタDfとサイクル数との関係を示すマップM4をデータ記憶部(材料データベース)30に記憶させておくことで、各格子点(i,j)に対応する位置において、それぞれ現在のサイクル数や、亀裂発生までの残りのサイクル数を予測することが可能である。図14のマップM4は、ダメージファクタDfとサイクル数とを対応付けるマップであって、予め実験、シミュレーション等によって作成される。なお、マップM4の関係は、材料(素材)に応じて定まる関係である。このため、測定対象物5(排気系部品)の材料ごとに、マップM4を作成してデータ記憶部30に記憶させておき、測定対象物5の材料に応じたマップM4を参照して、ダメージファクタDfに基づく寿命予測を行えばよい。
次に、寿命予測装置100A(主に、コンピュータ1A)の動作について、図15のフローチャートを参照して説明する。図15のフローチャートに示すステップS201〜ステップS211の処理は、コンピュータ1Aによって実行され、測定対象物5の各格子点(i,j)ごとにそれぞれ行われる。
ステップS201〜ステップS210の処理は、上記実施形態のステップS101〜ステップS110(図10参照)の処理と同様となっている。このため、ステップS201〜ステップS210の説明を省略する。
そして、ステップS211では、ダメージファクタ算出部26aによって、ステップS210で作成された応力−歪発生線図M2から、1サイクル分の領域A1を切り出す(抽出する)。次に、ダメージファクタ算出部26aによって、上記(12)式より各格子点(i,j)におけるダメージファクタDf(i,j)が求められて(ステップS212)、処理が終了される。
本実施形態によれば、拘束歪算出部18によって求められた拘束歪εrから、測定対象物5(排気系部品)の熱疲労に伴う割れ(亀裂)の発生を評価する指標として、ダメージファクタDfを算出し、このダメージファクタDfに基づいて測定対象物5の寿命を予測するようにしている。これにより、拘束歪εrから測定対象物5のダメージファクタDfを算出せずに寿命予測を行う場合に比べて、測定対象物5の寿命を正確に予測することができる。また、応力−歪発生線図M2に基づいて亀裂発生の指標とされるダメージファクタDfを容易に算出でき、サイクル数ごとのダメージファクタDfの変化も容易に算出できる。これにより、例えば、CAEなどの予測技術と比べて、コンピュータ1Aの計算負荷を低減することができる。
−他の実施形態2−
本実施形態は、寿命予測装置に備えられる寿命予測部が上述した2つの実施形態とは異なっている。図16は、本実施形態(他の実施形態2)に係るコンピュータの機能構成の一例を示す図である。図16に示すように、寿命予測装置100B(コンピュータ1B)に備えられる寿命予測部27が、上記実施形態の寿命予測装置100(コンピュータ1)の寿命予測部25(図4参照)とは異なっている。つまり、本実施形態では、上記実施形態の寿命予測部25の代わりに寿命予測部27が備えられている。なお、寿命予測部27以外の構成については、上記実施形態と略同様となっている。
本実施形態では、測定対象物5の拘束歪εrを算出し、この拘束歪εrから、測定対象物5の熱変形を評価する指標として、クリープ歪εcrを算出することによって測定対象物5の寿命予測を行うようにしている。すなわち、寿命予測部27は、歪速度ε’(=dε/dt)から算出されたクリープ歪εcrから、測定対象物5の寿命を予測するもので、応力−温度発生線図作成部27a、歪速度算出部27b、および、クリープ歪算出部27cを備えている。
応力−温度発生線図作成部27aは、応力−歪発生線図作成部24によって作成された応力−歪発生線図M2、および、温度取得部13によって取得された温度T(i,j)から、各格子点(i,j)の応力−温度発生線図M5を作成する。図17は、応力−温度発生線図作成部27aによって作成される応力−温度発生線図M5の一例を示している。図17の横軸は温度T[℃]となっており、縦軸は発生応力σ[MPa]となっており、各格子点(i,j)において、求められた温度Tおよび発生応力σのデータを時刻順にプロットしていくと、図17のような応力−温度発生線図M5が得られる。なお、温度取得部13によって取得された温度T(i,j)、および、発生応力算出部23によって算出された発生応力σ(i,j)から、各格子点(i,j)の応力−温度発生線図M5を作成してもよい。
歪速度算出部27bは、温度T(i,j)および発生応力σ(i,j)から、各格子点(i,j)の歪速度ε’(i,j)を算出する。具体的には、温度Tおよび発生応力σを変数とする歪速度予測式(例えば、下記の(13)、(14)式)に、求められた温度Tおよび発生応力σの値を代入することによって、歪速度ε’を算出する。歪速度予測式は、例えば、[logε’=a*T+b*logσ+c]という関係で表される(a、b、cは係数)。歪速度予測式の係数a、b、cは、例えば、重回帰分析、最小二乗法等の手法によって決定することが可能である。また、歪速度予測式に代入する温度Tおよび発生応力σの値として、応力−温度発生線図作成部27aによって作成された上記応力−温度発生線図M5に含まれる温度Tおよび発生応力σのサンプリングデータを用いることが可能である。
ここで、本実施形態では、歪速度予測式の信頼性を確保するために、低温領域での歪速度予測式と、高温領域での歪速度予測式とをそれぞれ求めている。具体的には、分割温度Tdを導入し、分割温度Tdの前後でそれぞれ歪速度予測式を求めるようにしている。言い換えれば、全温度領域で共通の(単一の)歪速度予測式を求めた場合、低温領域か高温領域のいずれかで歪速度予測式の一致性が悪化することが懸念される。その理由として、温度Tによって低歪領域での応力σの立ち上がり特性にバラつきが発生することが挙げられる。詳細には、図7の温度ごとの応力−歪特性線図M1に示すように、低温領域(例えば、T=100℃)では、低歪領域(例えば、公称歪が0.2%以下の領域)での応力σの立ち上がりが急峻であるのに対し、高温領域(例えば、T=700℃)では、低歪領域での応力σの立ち上がりが現れなくなっている。
そこで、分割温度Tdを導入し、分割温度Tdの前後でそれぞれ歪速度予測式を作成する。つまり、温度Tが分割温度Td未満(T<Td)のときに使用する歪速度予測式、および、温度Tが分割温度Td以上(T≧Td)のときに使用する歪速度予測式を作成する。分割温度Tdは、データ記憶部30に記憶された温度ごとの応力−歪特性線図M1(図7参照)から求めることが可能である。例えば、温度ごとの応力−歪特性線図M1から、公称歪が1%未満で、最大応力発生点が現れるときの最低の温度を分割温度Tdとして設定する。この分割温度Tdの設定について、図18を参照して説明する。
図18では、図7の温度ごとの応力−歪特性線図M1から代表的な温度T(100℃、300℃、500℃、700℃)の関係を抽出して示すとともに、各温度Tでの最大応力発生点を「○」印で示している。図18に示すように、温度Tが100℃または300℃の場合、低歪領域(例えば、公称歪が0.2%以下の領域)で応力σは急峻に立ち上がり、最大応力発生点は公称歪が1%のとき現れている。温度Tが500℃の場合、低歪領域で応力σは急峻に立ち上がるが、最大応力発生点は公称歪が1%未満(約0.5%)のとき現れている。温度Tが700℃の場合、低歪領域での応力σの立ち上がりはなくなり、最大応力発生点は公称歪が0%のとき現れている。
図18の例では、温度Tが500℃のとき、公称歪が約0.5%で最大応力発生点が現れているので、分割温度Tdは500℃となる。この分割温度Tdである500℃を境として、温度Tが500℃未満のときの歪速度予測式(下記の(13)式)、および、温度Tが500℃以上のときの歪速度予測式(下記の(14)式)をそれぞれ作成する。
すなわち、分割温度Tdを考慮した歪速度予測式は次のようになる。
T<Tdのとき logε’k=a1*Tk+b1*logσk+c1 (13)
T≧Tdのとき logε’k=a2*Tk+b2*logσk+c2 (14)
温度Tが分割温度Td未満のとき、(13)式の低温領域での歪速度予測式によって歪速度ε’kを算出する。一方、温度Tが分割温度Td以上のとき、(14)式の高温領域での歪速度予測式によって歪速度ε’kを算出する。(13)、(14)式の係数a1、a2、b1、b2、c1、c2は重回帰分析等によって算出される。(13)、(14)式において、添え字kは、1からnまでのいずれかの整数であり、1サイクル中の任意の時間分割位置を表す。この場合、nは、1サイクルの時間分割数(サンプリング回数)であり、サンプリング時間(サンプリング周期)をΔtとすると、1サイクルに要する時間は、n*Δtとなる。時間分割位置kは、1サイクル中のk回目のサンプリング位置を意味し、例えば、図17の応力−温度発生線図M5に含まれる各点(図17中に「x」印で示す)に相当する。そして、(13)、(14)式では、k回目のサンプリング位置での、歪速度をε’kとし、温度をTkとし、応力をσkとしている。
なお、上述したように温度ごとの応力−歪特性線図M1は、材料(素材)に応じて定まる関係である。したがって、温度ごとの応力−歪特性線図M1から求められる分割温度Tdも材料ごとに定まる。このため、測定対象物5(排気系部品)の材料ごとに、分割温度Tdを求めてデータ記憶部30に予め記憶させておき、歪速度予測式を求める際には、測定対象物5の材料に応じた分割温度Tdを読み出せばよい。また、歪速度予測式についても材料ごとに定まることから、測定対象物5の材料ごとに、分割温度Td前後の歪速度予測式を求めてデータ記憶部30に予め記憶させておき、歪速度を算出する際には、測定対象物5の材料に応じた歪速度予測式を読み出すようにしてもよい。
クリープ歪算出部27cは、歪速度算出部27bによって算出された歪速度ε’k(i,j)から、各格子点(i,j)のクリープ歪εcr(i,j)を算出する。クリープ歪εcrは、例えば、次の(15)式によって算出される。
この(15)式において、sはサイクル数であり、(15)式で算出されるクリープ歪εcrsは、sサイクル目のクリープ歪となる。(15)式より、sサイクル目のクリープ歪εcrsは、各時間分割位置(サンプリング位置)kで算出される歪速度ε’kと、サンプリング周期Δtとを掛け合わせた積(Δt*ε’k)の総和として算出される。
クリープ歪算出部27cによって求められたクリープ歪εcrsに基づく測定対象物5(排気系部品)の寿命予測は、例えば、次のようにして行うことが可能である。例えば、図19に示すようなsサイクル目のクリープ歪εcrsとサイクル数との関係を示すマップM6をデータ記憶部(材料データベース)30に記憶させておくことで、各格子点(i,j)に対応する位置において、それぞれ現在のサイクル数を予測することが可能である。図19のマップM6は、sサイクル目のクリープ歪εcrsとサイクル数とを対応付けるマップであって、予め実験、シミュレーション等によって作成される。なお、マップM6の関係は、材料(素材)に応じて定まる関係である。このため、測定対象物5(排気系部品)の材料ごとに、マップM6を作成してデータ記憶部30に記憶させておき、測定対象物5の材料に応じたマップM6を参照して、クリープ歪εcrsに基づく寿命予測を行えばよい。
次に、寿命予測装置100B(主に、コンピュータ1B)の動作について、図20のフローチャートを参照して説明する。図20のフローチャートに示すステップS301〜ステップS315の処理は、コンピュータ1Bによって実行され、測定対象物5の各格子点(i,j)ごとにそれぞれ行われる。
ステップS301〜ステップS310の処理は、上記実施形態のステップS101〜ステップS110(図10参照)の処理と同様となっている。このため、ステップS301〜ステップS310の説明を省略する。
そして、ステップS311では、応力−温度発生線図作成部27aによって、ステップS310で作成された応力−歪発生線図M2、および、ステップS303で取得された温度T(i,j)に基づいて、各格子点(i,j)における応力−温度発生線図M5が作成される。次に、歪速度算出部27bによって、分割温度Tdが設定される(ステップS312)。また、歪速度算出部27bによって、ステップS312で設定された分割温度Tdを考慮した歪速度予測式が求められる(ステップS313)。
そして、歪速度算出部27bによって、ステップS313で求められた歪速度予測式から、各格子点(i,j)における歪速度ε’k(i,j)が算出される(ステップS314)。次に、クリープ歪算出部27cによって、ステップS314で算出された歪速度ε’k(i,j)から、上記(15)式より各格子点(i,j)におけるsサイクル目のクリープ歪εcrs(i,j)が算出されて(ステップS315)、処理が終了される。
本実施形態によれば、拘束歪算出部18によって求められた拘束歪εrから、測定対象物5(排気系部品)の熱変形を評価する指標として、クリープ歪εcrsを算出し、このクリープ歪εcrsに基づいて測定対象物5の寿命を予測するようにしている。これにより、拘束歪εrから測定対象物5のクリープ歪εcrsを算出せずに寿命予測を行う場合に比べて、測定対象物5の寿命を正確に予測することができる。つまり、応力−歪発生線図M2に基づいてクリープ歪εcrsを算出することで、測定対象物5の歪からクリープ歪εcrsを定量的に区別することが可能となり、冷熱サイクルの繰り返しに伴う熱疲労に起因する歪との切り分けが可能となる。これにより、クリープ歪εcrsへの対策と、熱疲労に起因する歪への対策とを個別に行うことができ、測定対象物5の寿命予測の精度を向上させることができる。
なお、上記実施形態および他の実施形態1、2のうち、2つあるいは3つを組み合わせて測定対象物5の寿命予測を行うことも可能である。