以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
なお、本願でいう厚さとは、リチウムイオン二次電池を構成する集電箔の表面に対して垂直な方向における各構造体の長さを指す。
(実施の形態1)
以下に、本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池の製造方法および製造装置について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態における片面塗布型の電極板製造装置の構成を示す図である。つまり、図1は、本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池の製造装置を示す模式図である。
図1に示すように、本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池の製造装置は、集電箔EPを送り出す集電用金属箔ロールRL1と、集電箔EPを巻き取る巻き取りロールRL4とを有している。薄い板状の金属箔である集電箔EPは、集電用金属箔ロールRL1と、巻き取りロールRL4との間で、ローラRL2、RL3などの複数のローラに支えられながら搬送される。ここでは、集電箔EPを一定速度で搬送するため当該複数のローラを、ローラ搬送系、つまり搬送部と呼ぶ。
集電箔EPの搬送経路には、集電用金属箔ロールRL1側から巻き取りロールRL4側に向かって順に、ダイコータDC1、固化室SD1内の噴霧ノズルNZ1、ダイコータDC2および乾燥室DRYが配置されている。搬送される集電箔EPは、ダイコータDC1とローラRL2との間、固化室SD1内、ダイコータDC2とローラRL3との間、および、乾燥室DRY内を通る。
リチウムイオン二次電池を構成する正極および負極のそれぞれは、集電箔EPの材料および集電箔EPに塗工する膜の材料等に違いがあるが、基本的に同様の工程により製造される。このため、以下では、正極および負極のそれぞれの製造工程を分けずに説明する。例えば、後述する塗工材料である電極材料ESは、正極用の材料である場合と、負極用の材料である場合とを含んでおり、それぞれの場合において、異なる材料により構成される。ここで、正極の製造工程において、正極用の材料からなる集電箔EPおよび塗工材料を用い、負極の製造工程のみに用いられる材料を使用しないことは、いうまでもない。負極の製造工程においても同様に、正極の製造工程のみに用いられる材料は使用しない。
本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池の製造工程では、まず、リチウムイオン二次電池の正極または負極を形成するための電極材料ESを調整する。次に、調整したスラリ状の電極材料ESを、ローラRL2に対向するように配置された第1の塗工部であるダイコータDC1を用いて、集電用金属箔ロールRL1から供給される集電箔EPの表面上に薄く、均一に塗工する。以下では、この工程を第1の塗工工程と呼ぶ。また、第1の塗工工程により集電箔EP上に塗布された電極材料ESからなる膜を、第1塗布膜と呼ぶ。上記第1の塗工部には、例えばスリットダイコータを用いることができるが、電極材料ESを供給する装置として、他の装置を用いてもよい。
次に、電極材料ESが塗工された集電箔EPを固化室SD1内に搬送し、噴霧ノズルNZ1から供給される固化液を、集電箔EP上の電極材料ESに噴霧することで、電極材料ESからなる第1塗布膜の表面層を固化させる。以下では、この工程をプレ固化工程と呼ぶ。なお、本願でいう固化液とは、第1塗布膜などのスラリに含まれる固化材、つまり結着材であるバインダ成分を析出させる成分を含む液体である。つまり、固化液と固化材とはそれぞれ異なる材料を指し、固化材は例えば第1塗布膜に含まれており、噴霧ノズルNZ1から供給される固化液は固化材を含んでいない。
次に、表面層が固化した第1塗布膜の表面上に、ローラRL3に対向するように設けられた第2の塗工部であるダイコータDC2から供給される絶縁材料IFを薄く、均一に塗工する。この工程を第2の塗工工程と呼ぶ。また、第2の塗工工程により第1塗布膜上に塗布された絶縁材料IFからなる膜を、第2塗布膜と呼ぶ。第2の塗工部には、例えばスリットダイコータなどを用いることができる。なお、図1では第1塗布膜および第2塗布膜を図示していない。
次に、上記第2の塗工工程により第2塗布膜を塗工した集電箔EPを、熱風乾燥炉である乾燥室DRY内に搬送する。乾燥室DRY内では、第1塗布膜中および第2塗布膜中の溶剤成分および固化液を加熱して蒸発させることで、第1塗布膜および第2塗布膜を乾燥・固化させ、電極層と絶縁層を一括で形成する。以下では、この工程を乾燥工程と呼ぶ。すなわち、第1塗布膜は乾燥工程により電極層となり、第2塗布膜は乾燥工程により絶縁層、つまりセパレータとなる。これにより、集電箔EPと、集電箔EPの片面に順に積層された電極層および絶縁層からなる電極板、つまり正極板または負極板が形成される。その後、当該電極板は巻き取りロールRL4に巻き取られる。なお、本願では電極、正極、および負極を、それぞれ電板、正極板、および負極板と呼ぶ場合がある。
本実施の形態における電極材料ESは、充放電によりリチウムイオンの放出・吸蔵が可能な正極活物質粉末または負極活物質粉末を含んでいる。また、電極材料ESは、乾燥後に粉末成分間を結着し、または粉末成分と集電箔との間を結着するためのバインダ成分を含んでいる。また、場合により、電極材料ESは導電助剤の粉末を含んでいる。
プレ固化工程で使用する固化液は、第1塗布膜に含まれるバインダ成分が不溶である性質を有するとともに、第1塗布膜内の溶剤と相互溶解する性質を有する必要がある。固化液が第1塗布膜に接触すると、固化液は第1塗布膜内の溶剤に溶解しながら第1塗布膜内に侵入する。第1塗布膜の表面層で固化液濃度が増加すると、バインダの溶解度が減少するため、バインダが析出し、第1塗布膜の表面層のみ固定化される。
本実施の形態は、第1の塗工工程と第2の塗工工程の間に、プレ固化工程を導入する特徴を有する。これにより、第1塗布膜の表面が流動しない状態で第2の塗工工程を行うことができる。このため、後述するように、上記した第2の塗工部であるダイコータにより第1塗布膜および第2塗布膜に塗工圧力が加わることで形成される混合層の発生を抑制することが可能となる。
以下では、本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池を製造するために用いられる各材料について説明する。
本実施の形態で用いる正極活物質には、コバルト酸リチウムもしくはMn(マンガン)などを含有するスピネル構造のリチウム含有複合酸化物、またはNi(ニッケル)、Co(コバルト)もしくはMn(マンガン)を含む複合酸化物などを使用することができる。また、正極活物質には、オリビン型リン酸鉄などのオリビン型化合物を使用することもできる。ただし、正極活物質はこれらの材料に限定されず、他の材料を用いてもよい。マンガンを含有するスピネル構造のリチウム含有複合酸化物は熱的安定性に優れているため、例えば、安全性の高い電池を構成することができる。
また、正極活物質には、マンガンを含有するスピネル構造のリチウム含有複合酸化物のみを用いてもよいが、他の正極活物質を併用してもよい。他の正極活物質としては、例えば、Li1+xMO2(−0.1<x<0.1)で表わされるオリビン型化合物などが挙げられる。この式における金属Mの例としては、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Zr(ジルコニウム)またはTi(チタン)などが挙げられる。
また、正極活物質には、層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物を用いることができる。層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiCoO2またはLiNi1−xCox−yAlyO2(0.1≦x≦0.3、0.01≦y≦0.2)などを用いることができる。また、層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物には、少なくともCo、NiおよびMnを含む酸化物などを用いることができる。Co、NiおよびMnを含む酸化物としては、例えば、LiMn1/3Ni1/3Co1/3O2、LiMn5/12Ni5/12Co1/6O2、または、LiNi3/5Mn1/5Co1/5O2などが挙げられる。
本実施の形態で用いる負極活物質は、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛)、人造黒鉛、または膨張黒鉛などの黒鉛材料を用いることができる。また、負極活物質には、ピッチを焼成して得られるコークスなどの易黒鉛化性炭素質材料を用いることができる。また、負極活物質には、フルフリルアルコール樹脂(PFA:Poly Furfuryl Alcohol)またはポリパラフェニレン(PPP:Poly-Para-Phenylen)などと、フェノール樹脂とを低温焼成して得られる非晶質炭素などの難黒鉛化性炭素質材料を用いることができる。
また、上記の炭素材料の他に、Li(リチウム)またはリチウム含有化合物なども、負極活物質として用いることができる。このリチウム含有化合物としては、Li−Alなどのリチウム合金、または、Si(シリコン)、Sn(スズ)などのLi(リチウム)と合金化が可能な元素を含む合金が挙げられる。さらに、Sn酸化物やSi酸化物などの酸化物系材料も、負極活物質に用いることが可能である。この酸化物系材料は、Li(リチウム)を含んでいなくともよい。
上記導電助剤は、正極電極膜に含有させる電子伝導助剤として用いるものであり、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、またはカーボンナノチューブなどの炭素材料であることが好ましい。上記の炭素材料の中でも、添加量と導電性の効果、および塗布用正極合剤スラリの製造性の点から、アセチレンブラックが特に好ましい。この導電助剤は負極電極膜に含有させることも可能である。
本実施の形態の電極に用いるバインダは、上記の活物質と導電助剤とを互いに結着させるためのバインダを含有していることが好ましい。バインダの材料としては、例えば、ポリビニリデンフルオライド系ポリマー、またはゴム系ポリマーなどが好適に用いられる。ポリビニリデンフルオライド系ポリマーは、例えば、主成分がモノマーであるビニリデンフルオライドを80質量%以上含有する含フッ素モノマー群の重合体である。上記ポリマーは、2種以上を併用してもよい。また、本実施の形態のバインダは、溶媒に溶解した溶液の形態で供されるものが好ましい。
上記ポリビニリデンフルオライド系ポリマーを合成するための含フッ素モノマー群としては、ビニリデンフルオライド、または、ビニリデンフルオライドと他のモノマーとの混合物で、ビニリデンフルオライドを80質量%以上含有するモノマー混合物などが挙げられる。
他のモノマーとしては、例えば、ビニルフルオライド、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、またはフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
上記のゴム系ポリマーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR:Styrene-Butadiene Rubber)、エチレンプロピレンジエンゴム、またはフッ素ゴムなどが挙げられる。
電極層、つまり第1塗布膜中におけるバインダの含有量は、乾燥後の電極層を基準として0.1質量%以上であって、10質量%以下であることが望ましい。より好ましくは、バインダの含有量は、0.3質量%以上であって、5質量%以下であることが望ましい。バインダの含有量が少なすぎると、本実施の形態のプレ固化工程における固化が不十分となるばかりでなく、乾燥後の電極膜の機械的強度が不足し、電極層が集電箔から剥離する問題が生じる。また、バインダの含有量が多すぎると、電極層中の活物質量が減少して、電池容量が低くなるおそれがある。
本実施の形態で用いる絶縁材料IFは、アルミナ(Al2O3)またはシリカ(SiO2)などの無機酸化物を使用することができる。また、ポリプロピレンまたはポリエチレンの微粒子を混合したスラリを用いることで、絶縁層にシャットダウン性を持たせることもできる。絶縁層は多孔質フィルムであり、完成したリチウムイオン二次電池においては、絶縁層の空孔内に電解液が保持され、電極間のリチウムイオン伝導の通路を構成する。ここでいうシャットダウン性とは、リチウムイオン二次電池が異常発熱した場合に、絶縁層が溶融して孔を塞ぐ機能を指す。このシャットダウン機能により、絶縁層内におけるリチウムイオンの透過を遮断することで、電池内の反応が停止し、電池温度のさらなる上昇を防ぐことができる。
また、絶縁材料IFに用いる無機酸化物粒子を結着させるためのバインダとして、樹脂を用いる。バインダは、負極においても正極と同様に、上述したポリビニリデンフルオライド系ポリマーまたはゴム系ポリマーなどが好適に用いられる。
本実施の形態で用いる集電箔EPはシート状の箔に限定されることはなく、その基体としては、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼、チタン(Ti)などの純金属または合金性導電材料を用いることができる。集電箔EPには、例えば、網、パンチドメタル、フォームメタル、または、板状に加工した箔などが用いられる。集電箔EPを構成する導電性基体の厚みは、例えば、5〜30μmとし、より好ましくは、8〜16μmとする。
本実施の形態の固化液は、第1塗布膜中の溶剤およびバインダに対して適切に選択して使うことが重要である。固化液は第1塗布膜中のバインダ成分の溶解性、溶剤相互の溶解性を考慮して選択されるべきである。一般的な溶剤系のスラリで使用される第1塗布膜中の溶剤は、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、ジメチルホルムアミド、もしくはγ−ブチロラクトンなどの非プロトン性極性溶剤、またはこれらの混合液が挙げられる。これらの溶剤に対する相互溶解性および使用するバインダの溶解度を考慮すると、固化液としては、水、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類もしくはこれらの混合液を選択できるが、ここに挙げた例に限定されるわけではない。
また、均一に固化液を噴霧するためには、第1塗布膜と固化液との濡れ性も考慮して固化液を選択するべきであり、水とアルコールの混合物を用いることが好ましい。これは、第1塗布膜と固化液との濡れ性が悪い場合、第1塗布膜の表面上に、固化液が複数箇所に分散して島状に付着し、第1塗布膜の表面に均一に固化液を供給することができないためである。当該混合物内のアルコールの濃度は、20〜80%、より好ましくは40〜60%であることが望ましい。アルコールの濃度が上記の濃度範囲よりも低い場合、第1塗布膜と固化液との濡れ性が悪化する。また、アルコールの濃度が上記の濃度範囲よりも高い場合、可燃性のアルコールの濃度上昇により固化液の取り扱いが困難となり、製造工程等における爆発の危険性が増す。
ここで、本実施の形態のプレ固化工程について説明する。
本実施の形態のプレ固化工程は、第1の塗工工程と第2の塗工工程の間に導入される工程である。プレ固化工程では、第1塗布膜の表面に固化液を噴霧し、第1塗布膜の表面層を固化する。第1塗布膜の表面層とは、第1塗布膜の表面を含む当該表面の近傍の第1塗布膜を意味する。
このとき、固化液を噴霧する量および固化液の噴霧粒径を適切に選択してプレ固化工程を行うことが重要である。噴霧ノズルの種類としては、液体のみを噴出する一流体ノズル、または液体と気体を混合して噴出する2流体ノズルが使用できる。噴霧により固化膜に水が接触した際の衝撃を軽減する観点から、より微細な液滴を噴霧できる2流体ノズルを用いることが望ましい。
また、ノズルから噴霧される噴霧粒子の平均粒子径D50は、20μm以下、より好ましくは10μm以下とすることで、塗布膜欠点などのダメージを防ぐことできる。塗布膜欠点とは、塗布膜の表面に噴霧する液滴の噴霧圧力、噴霧打力、または平均粒子径が大きい場合などにおいて、塗布膜の表面に噴霧粒子が叩きつけられることで、塗布膜の表面が凹むことをいう。この場合、電極同士の間の絶縁性にばらつきが生じるなどの問題が発生する。なお、ここでいう噴霧打力とは、液滴を噴霧により対象物に打ち付けることで、当該対象物が単位面積当たりに受ける圧力をいう。
以上より、電極材料に使用するバインダおよび固化液の種類によって、固化液の適切な噴霧量を選ぶ必要がある。具体的には、第1塗布膜中の全バインダが析出する固化液濃度以下とする。より好ましくは、第1塗布膜中の全バインダが析出する固化液濃度の、40〜90%とする。噴霧する固化液量が多すぎる場合は、第1塗布膜上に固化液が溜まり、絶縁材料の塗工が困難となり、固化液量が少なすぎる場合は、第1塗布膜前面に固化液が広がらないおそれがある。
本実施の形態により提供され得るリチウムイオン二次電池は、上述した方法で製造される正極および負極を含むこと以外は、後述する第2の比較例のリチウムイオン二次電池と同様の工程で製造することができる。電池の該容器の構造、サイズ、または正負極を主構成要素とする電極体の構造などについて、特に制限はない。
本実施の形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、上記のように1層目の電極層となる第1塗布膜を塗工した後、電極層の表面層のみを固化させる工程を経て、2層目の絶縁層となる第2塗布膜を塗工することを特徴とする。また、本実施の形態のリチウムイオン二次電池の製造装置は、上記のように1層目の電極層となる第1塗布膜を塗工する第1の塗工部と、2層目の絶縁層となる第2塗布膜を塗工する第2の塗工部との間に、第1塗布膜の表面層のみを固化させる手段を有していることを特徴とするものである。このような製造装置において、上記製造方法を用いることで、後述するように、電極層と絶縁層との界面に生じる混合層の厚さを薄くすることができ、絶縁層の薄膜化・高信頼化が可能となる。
以下では、本実施の形態のリチウムイオン二次電池の製造工程の一例を記載する。ここでは、正極の形成工程についての例を説明する。
まず、電極材料ESを調整する工程において、正極の製造工程では、電極材料ESを構成する正極活物質に、リチウム遷移金属複合酸化物としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いることができる。最初に行う電極材料ESの調整工程では、上記正極活物質と、黒鉛粉末およびアセチレンブラックを含む導電助剤と、固化材としての役割を有するバインダとなるポリフッ化ビニリデン(以下、単にPVdFという)とを混合する。また、それらの混合物に対し、さらに本実施の形態の第1の溶剤であるN−メチル−2−ピロリドン(以下、単にNMPという)を添加する。これにより混合された正極活物質、導電助剤、固化材および第1の溶剤の各成分をプラネタリーミキサーでさらに混練して正極スラリ、つまり電極材料ESを調整する。
ここでは、正極活物質、黒鉛粉末、アセチレンブラック、PVdFを、重量比で85:8:2:5となる割合で混合する。正極スラリ中には固化材であるバインダ成分がNMPに溶解しており、スラリは高粘度の液体である。回転粘度計で測定したスラリの粘度は、約10Pa・sである。
次に、第1の塗工工程を行う。ここで、第1の塗工工程での塗工対象である集電箔EPには、例えば厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔が用いられる。第1の塗布工程では、スリットダイコータであるダイコータDC1を用いて、電極材料ESを集電箔EPの表面上に、厚さ100μm、幅150mmで塗布する。これにより、電極材料ESからなる第1塗布膜が集電箔EP上に形成される。以上の工程が本実施の形態の第1の塗工工程である。なお、ここでいう集電箔EPおよび第1塗布膜の幅とは、搬送される集電箔EPの進行方向に直交する方向であって、集電箔EPの上面に沿う方向における各構造体の長さを指す。
次に、プレ固化工程を行う。つまり、第1塗布膜が塗布された集電箔EPを固化室SD1内に搬送し、第1塗布膜の表面層のみを固化させる。ここでは、噴霧ノズルNZ1から供給される固化液に、40%エタノール含有水を用いる。40%エタノール含有水とは、エタノールと水を混合した液体であって、エタノールがその液体の40%を構成しているものである。
噴霧ノズルNZ1には、内部混合型の二流体ノズルを用いる。二流体ノズルから噴出される固化液である噴霧粒子の平均粒子径D50は、10μmである。また、噴霧ノズルから第1塗布膜までの距離は100mm、噴霧圧力は0.1MPa、噴霧打力は1g/cm2に調整する。固化液の噴霧量は、バインダであるPVdFが全て析出するために必要な40%エタノール含有水の量の50%となる量とした。つまり、固化液の噴霧量を、バインダを全て析出するために用いられる量の半分にしている。これにより、第1塗布膜の表面層のみを固化する。以上の工程が本実施の形態のプレ固化工程である。
また、噴霧ノズルNZ1が固化液を噴霧する対象である電極材スラリである第1塗布膜の表面を含む面において、固化液の噴霧領域は均等流量分布を有する。つまり、固化液の噴霧量の分布は、第1塗布膜の幅方向において、噴霧ノズルNZ1の中心から一定の範囲内において均等な量で噴霧される。ここでは、均等な量での噴霧が可能な当該一定の範囲内に、第1塗布膜の幅全体が収まるようにすることで、第1塗布膜の上面の全体に均一に固化液を噴霧する。
そのために、噴霧ノズルNZ1中心の流量の50%流量となる位置を、集電箔EPの搬送方向に直交する方向である第1塗布膜の幅方向において、第1塗布膜の端部より外に位置とする。これは、噴霧ノズルNZ1の中心から、当該幅方向において、固化液の全体の流量の50%の流量となる位置よりも外側の領域では、固化液を均等な量で噴霧することができないおそれがあるためである。つまり、噴霧ノズルNZ1の中心から、固化液の全体の流量の50%の流量の範囲内であれば、固化液を均等な量で噴霧することが可能である。
次に、第2の塗工工程を行う。絶縁材料IFにはシリカ(SiO2)粉末を用いる。ここでは、当該絶縁材料IFと、バインダとなるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、重量比で90:10となる割合で混合し、さらに溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を逐次添加し、これらの成分をプラネタリーミキサーで混練して絶縁材料スラリを調整する。絶縁材料スラリは高粘度の液体であり、回転粘度計で測定したスラリの粘度は約2Pa・sである。
ここでは、上記絶縁材料スラリ、つまり絶縁材料IFを、表面を固化した第1塗布膜上に、スリットダイコータであるダイコータDC2を用いて、厚さ80μm、幅160mmとなるように塗布する。これにより、絶縁材料IFからなる第2塗布膜を、第1塗布膜上に形成する。以上の工程が本実施の形態の第2の塗工工程である。
次に、乾燥工程を行う。ここでは、第1塗布膜および第2塗布膜を、熱風乾燥炉である乾燥室DRY中において、120℃で10分間加熱して乾燥させる。これにより、第1塗布膜中および第2塗布膜中に含まれる溶剤を蒸発除去することで、第1塗布膜および第2塗布膜の全体を完全に固化させる。リチウムイオン二次電池用の正極板を製造する。つまり、正極板は、集電箔EPと、電極材料ESを含む第1塗布膜を乾燥・固化させて形成した電極層と、絶縁材料IFを含む第2塗布膜を乾燥・固化させて形成した絶縁層とを有している。以上の工程が、電極材料ESおよび絶縁材料IFから溶剤成分を除去して乾燥する本実施の形態の乾燥工程である。
上記の乾燥工程の後は、集電箔EPに対し、圧縮または切断などの加工工程を行うことで、フィルム状の正極または負極の電極板を製造する。
ここで、本実施の形態の製造方法における電極層と絶縁層の界面に形成される混合層の厚さの評価を行う。当該評価は、完成した電極板の断面を切り出し、SEM(Scanning Electron Microscope)で観察した像から混合層の厚さを算出することで行う。
図3に、リチウムイオン二次電池を構成する電極板の断面図を示す。図3に示すように、集電箔EP上には、厚さL1の電極層ELと、厚さL2のセパレータである絶縁層SELとが、順に積層されている。この構成は、上述した本実施の形態のリチウムイオン二次電池も、後述する第2の比較例のリチウムイオン二次電池も同様である。また、電極層ELと絶縁層SELとの界面近傍には、電極層ELの構成材料と絶縁層SELの構成材料とが混ざって形成された、厚さL3の混合層MIXが形成されている。図3では、混合層MIXの上端と下端をそれぞれ破線で示している。
本実施の形態の場合、乾燥工程後の正極板を構成する電極層の厚さL1は、例えば50μm、絶縁層の厚さL2は、例えば40μmである。混合層MIXは、電極層ELと絶縁層SELとの界面近傍において、電極層ELの内部から絶縁層SELの内部に亘って形成される層である。
また、図3に示す断面図を基に、混合層MIXの膜厚を上記SEM観察により評価した結果を、図4に示す。図4は、上述した本実施の形態のリチウムイオン二次電池と、後述する第2の比較例のリチウムイオン二次電池とのそれぞれの混合層MIX(図3参照)の厚さと、集電箔の搬送速度との関係を示すグラフである。図4に示すグラフの縦軸は混合層の膜厚を示し、横軸は集電箔の搬送速度を示している。本発明者らは、上記評価を行った結果、図4に丸いプロットで示すように、本実施の形態の製造方法の混合層の厚さL3(図3参照)は、集電箔の搬送速度によらず、常に5μm以下になっており、絶縁層SEL(図3参照)を薄膜化しても短絡発生の可能性が低いことを見出した。
なお、ここでは、正極集電箔の片面に正極材料スラリ、および絶縁材料スラリを順に塗工して、正極板を製造する例を説明した。正極集電箔の両面に正極材料スラリ、および絶縁材料スラリを塗工する場合には、上述した工程を行った後であって、集電箔の圧縮または切断などの加工工程を行う前に、巻き取りロールに巻き取られた正極電極板を反転させて、再度同一の工程を経て裏面を塗工することが考えられる。
その後、電極セルの組立工程では、捲回と呼ばれる工程で、上記の工程により形成されたフィルム状の正極電極板および負極電極板から、電池セルに必要な大きさの正極および負極を切り出す。このとき、正極電極板と負極電極板とを分離するためのセパレータである絶縁層は、正極電極板および負極電極板とともに切り出される。続いて、電極層上にセパレータが積層された正極電極板および負極電極板を重ねた後、この正極電極板および負極電極板を含む積層体を捲き合わせる。
次に、捲き合わせた正極、負極を含む電極対の群を組み立てて溶接する。この溶接工程では、例えば、正極集電タブにアルミニウムリボンを捲きつけ、このアルミニウムリボンに正極集電タブを超音波溶着で接続する。その後、溶接したこれら電極対の群を電池缶内に配置した後、電解液が注入する。続いて、電池缶を完全に密閉することで、リチウムイオン二次電池の電池セルを形成する。
電池セル検査工程では、セル組立工程にて作成されたリチウムイオン二次電池のセルを繰り返し充放電する。これにより、電池セルの性能および信頼性に関する単電池検査工程を行う。単電池検査工程では、例えば、電池セルの容量もしくは電圧の検査、または、充電時もしくは放電時の電流もしくは電圧などの検査を行う。これにより、リチウムイオン二次電池の電池セル、つまり単電池が完成する。
以下では、第1の比較例のリチウムイオン二次電池の製造工程について、図5および図6を用いて説明する。
図6は、リチウムイオン二次電池が製造されるまでの具体的な工程を模式的に示すフローチャートである。図6に示すように、リチウムイオン二次電池の製造工程は、正極電極板製造工程と負極電極板製造工程と電池セルの組立工程とを含んでいる。
図5には、第1の比較例のリチウムイオン二次電池製造装置を示す。つまり、図5は、第1の比較例におけるリチウムイオン二次電池の製造装置を示す模式図である。第1の比較例におけるリチウムイオン二次電池の製造工程では、まず、電極材料ESを調整する。リチウムイオン二次電池の正極または負極を構成する電極層を形成するために用いる電極材料ESは、充放電によりリチウムイオンの放出・吸蔵が可能な活物質と導電助剤の粉末を、これらの粉末を結着させるためのバインダおよび溶剤などと混練・分散し(図6に示す混練・調合工程)、これにより形成した高粘度スラリ状の液体である。
次に、スラリ状の電極材料ESを、塗工部であるダイコータDC1を用いて、集電用金属箔ロールRL1から供給される集電箔EPの表面上に薄く、均一に塗布する。その後、集電箔EPの裏面に接しながら集電箔EPを一定速度で搬送するためのローラ搬送系、つまり搬送部を用いて、スラリ状の電極材料ESからなる塗布膜を塗布した集電箔EPを、乾燥室DRYである熱風乾燥炉内で乾燥・固化させる。この乾燥工程では、塗布膜中の溶剤成分を加熱蒸発することで、電極材料を乾燥・固化させ、電極層を形成する。このように、電極材料ESの塗工および乾燥工程の一連の工程を行うことで、集電箔EP上に電極層を形成する(図6に示す塗工工程)。その後、電極層を形成した集電箔に、圧縮などの工程を行うことで、フィルム状の正極または負極の電極板を製造する。
第1の比較例の電極板の製造工程では、上記のような工程を集電箔EPの一方の表面と、当該表面と反対側の表面とに対し別々に行い、集電箔EPの両面に電極層が形成された正極および負極の電極板を製造する。
その後、電極セルの組立工程では、捲回と呼ばれる工程で、上記のフィルム状の正極電極板および負極電極板から、電池セルに必要な大きさの正極および負極を切り出す(図6に示す加工工程)。このとき、正極電極板と負極電極板とを分離するためのセパレータを、フィルム状のセパレータ材料から、電池セルに必要な大きさで切り出して形成し、正極電極板および負極電極板に、切り出したセパレータを挟んで重ねた後、捲き合わせる(図6に示す捲回工程)。
次に、捲き合わせた正極、負極およびセパレータの電極対の群を組み立てて溶接する(図6に示す溶接・組立工程)。その後、溶接したこれら電極対の群を電池缶内に配置した後、電解液を注入する(図6に示す注液工程)。続いて、電池缶を完全に密閉(図6に示す封口工程)することで、リチウムイオン二次電池の電池セルを形成する。
電池セル検査工程では、セル組立工程にて作成されたリチウムイオン二次電池のセルを繰り返し充放電する(図6に示す充放電工程)。これにより、電池セルの性能および信頼性に関する検査を行う(図6に示す単電池検査工程)。当該単電池検査工程では、例えば、電池セルの容量もしくは電圧の検査、または、充電時もしくは放電時の電流もしくは電圧などの検査を行う。これにより、電池セル、つまり単電池が完成し、リチウムイオン二次電池の電池セルの組立工程が終了する。
第1の比較例である上記製造工程では、電極捲回体を形成する前後に実施される工程によって、電極捲回体の内部に金属異物が侵入する可能性が高くなる問題がある。つまり、正極板と負極板とセパレータが別部品で構成されているため、例えば、正極板とセパレータとの間に隙間が存在し、この隙間に金属異物が侵入しやすくなる。
具体的には、正極板と負極板とセパレータとを軸芯の回りに捲回して電極捲回体が形成される上記第1の比較例において、正極板と負極板とセパレータが別体の部品により構成されているため、例えば、正極板とセパレータとの間に隙間が存在する。また、リチウムイオン二次電池の製造工程では、上述した捲回体を形成する前に、正極板と負極板を所定の大きさに切断し(図6に示す加工工程)、加えて正極並びに負極の集電タブを、正極板と負極板を切断して形成する。
その後、上述した電極捲回体を形成した後、例えば、正極板に形成されている正極集電タブを正極集電リングに超音波溶着する工程と、負極板に形成されている負極集電タブを負極集電リングに超音波溶着する工程とを行う(図6に示す溶接・組立工程)。続いて、電極捲回体は外装缶(容器)に挿入されて、この外装缶に電解液を注入した後、外装缶の内部を密閉するために、外装缶と蓋とを溶接などで接続する工程を行う。
上記溶接・組立工程において、正極集電タブと正極集電リングとの溶接は、例えば、正極集電タブにアルミニウムリボンを捲きつけた後、このアルミニウムリボンに正極集電タブを超音波溶着で接続することで行われる。このとき使用される超音波溶着は、アルミニウムリボンと正極集電タブとを擦りつけることによる原子相互拡散によって、アルミニウムリボンと正極集電タブとを接続するものである。
したがって、正極集電タブとアルミニウムリボンとを超音波溶着で接続する場合、アルミニウムリボンと正極集電タブとの擦り合いによって金属異物(アルミニウム)が発生する。同様の現象は、負極集電タブと銅リボンとを接続する工程でも生じる。つまり、負極集電タブと銅リボンとを超音波溶着で接続する場合、銅リボンと負極集電タブとの擦り合いにより、金属異物(銅)が発生する。さらに、外装缶と蓋とを接続する工程で使用される溶接(アーク溶接)では、例えば、溶接屑が発生しやすくなる。
以上のことから、電極捲回体を形成する前後に実施される工程によって、電極捲回体の内部に金属異物が侵入する可能性が高くなる。上記第1の比較例のように、正極板と負極板とセパレータとが別部品で構成されている場合、例えば、正極板とセパレータとの間に隙間が存在するため、この隙間に上述した製造工程で発生した金属異物が侵入しやすくなる。このようにして、電極捲回体の内部に金属異物が侵入すると、侵入した金属異物がセパレータを突き破って、正極と負極が金属異物を介して短絡する。また、例えば、正極とセパレータとの隙間に侵入した金属異物が正極に付着すると、付着した金属異物が電解液中に溶解し、その後、負極に析出する現象が生じる。そして、負極からの析出によって成長した金属が正極まで達すると、正極と負極とが短絡する問題が生じる。
さらに正極板と負極板とセパレータを別部品で組み立てる際は、正極板と負極板と、2枚のセパレータとの計4枚のシートを同時に巻き合わせる必要があり、部品の位置合わせが困難である問題がある。また、正極板ロール、負極板ロール、および2本のセパレータロールの計4本のフィルムロールを配置する必要があり、製造装置が大きくなるという問題がある。
上記の問題を解決する構成として、正極板および負極板に直接セパレータを塗布して形成することが考えられる。この場合、正極板または負極板とセパレータとを連続して形成し、互いに一体化させることで、正極板または負極板とセパレータとの間に隙間がなくなる。これにより、正極板または負極板とセパレータとの間に金属異物が侵入することを防ぐことができるため、正極と負極との短絡を防止することができる。さらに、金属上に正極活物質または負極活物質を含むスラリを塗工した上に、セパレータとなる絶縁材料を塗工することで、生産性の向上、および製造装置の縮小も可能とすることができる。
このように、正極板および負極板に直接セパレータを塗布して電極板を形成する方法について、以下に図7を用い、第2の比較例を示して説明する。図7は、第2の比較例におけるリチウムイオン二次電池の製造装置を示す模式図である。
図7に、第2の比較例における片面塗布型電極板製造装置の構成を示す。第2の比較例のリチウムイオン二次電池の製造工程では、集電箔EPは、集電用金属箔ロールRL1から送り出される。集電箔EPは、例えば厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔である。続いて、集電箔EPの表面上に、ローラRL2に対向するダイコータDC1から供給される電極材料ESが塗工され、第1塗布膜が形成される。第1塗布膜は、例えば厚さ100μm、幅150mmである。
続いて、ローラRL3と対向した位置の塗工部であるダイコータDC2から供給される絶縁材料IFが第1塗布膜上に塗工され、絶縁材料IFからなる第2塗布膜が形成される。第2塗布膜は、例えば厚さ20μm、幅160mmである。その後、集電箔EP上の第1塗布膜および第2塗布膜は、乾燥室DRYを通過することで乾燥され、巻き取りロールRL4に巻き取られることで、電極板が製造される。この乾燥工程では、120℃で10分間乾燥を行う。
このように、第2の比較例の構成は、図5を用いて説明した上記第1の比較例と比べて、第2の塗工部であるダイコータDC2を有し、ダイコータDC2により、第1塗布膜上に、セパレータとなる第2塗布膜を直接形成している点で異なっている。
前記したダイコータDC1(図7参照)には、例えばスリットダイコータが使用される。スリットダイコータは、厚膜塗工、または高粘度材料を塗工する用途などに用いられる塗工装置である。
第2の比較例のダイコーティング方法では、図8に示すように、スラリ材料である電極材料ESを貯留したタンク(図示しない)から、定量ポンプ(図示しない)によって、口金1のマニホールド3に電極材料ESが供給される。ここでは、マニホールド3において、電極材料ESの圧力分布を均一にした後、口金1に設けられたスリット4へ電極材料ESが供給され、吐出される。吐出された電極材料ESは、口金1と一定の間隔h1を保って相対的に走行する集電箔EPとの間に、ビードと呼ばれる電極材料溜り5を形成し、この状態で集電箔EPの走行に伴って電極材料ESを引き出して塗膜を形成する。図8は、第2の比較例におけるリチウムイオン二次電池の製造装置を構成するダイコータDC1の拡大断面図である。
塗工工程では、塗膜形成により消費される量と同量の電極材料ESをスリット4から供給することにより、塗膜を連続的に形成する。このとき、蒸発速度の速い有機溶剤系の薄膜の塗布を安定的に行うために、前記電極材料溜り5の液面の屈曲である下流側メニスカス9の形成の安定化が重要となる。そのため、マニホールド3へ正極材料を供給する圧力は、スリット4圧損+口金1の下流側リップ部8圧損+下流側メニスカス9圧力となる。つまり、電極材料ESを安定して塗布するためには、集電箔EPに対して電極材料ESからある程度の圧力を加える必要がある。このような構成は、ダイコータDC2も同様である。
図7を用いて説明した製造工程では、引き続き第2の塗工部であるダイコータDC2により絶縁物質を塗布しているが、そこでのダイコーティング方法は、前記した第1の塗工部であるダイコータDC1における条件と同様である。すなわち、ダイコータDC2のスリット4(図8参照)から吐出される絶縁物質を原料とするスラリ材料、つまり絶縁材料IFを、上記ダイコータDC1により集電箔EPに塗工された電極材料ES上に塗布する。
以上に説明した第2の比較例では、図7に示すスラリ状の電極材料ESと絶縁材料IFを重ねて塗布した後、乾燥室DRYによる加熱・乾燥工程を経て、両方の塗膜層を同時に乾燥、固着させることができるため、第1の比較例に比べて製造工程の効率がよい。また、電極層と、セパレータである絶縁層との間に隙間がない状態で、電極の切断または溶接などの加工を行うことができるため、金属異物の侵入による内部短絡を防止することができる。
しかし、第2の比較例のように、集電箔の上にスラリ状の電極材料と絶縁材料とを連続して塗布した場合、図3に示すように、電極板の集電箔EPの上に塗布された電極層ELと絶縁層SELとの界面近傍に、絶縁機能が失われた混合層MIXが形成される。本発明者らは、混合層MIXが、図4を用いて説明したスリットダイコータの塗工圧力に起因して生じる層であることを見出した。図4に四角のプロットで示すように、第2の比較例において生じた混合層MIX(図3参照)の膜厚は、集電箔の搬送速度により変化する。つまり、集電箔の搬送速度が遅い程、ダイコータによる圧力が特定の箇所の塗布膜に加わる時間が長くなるため、混合層MIXの厚さも大きくなる。集電箔の搬送速度を、比較的速い100m/minとしても、混合層MIXの厚さは10μm以上となる。
混合層MIXが比較的大きい厚さで形成された場合、絶縁機能を持つ絶縁層SELの厚さが、本来意図した厚さより薄くなること、および、絶縁層SELを薄膜化した際に、絶縁層SELの上部で、混合層MIXを構成する電極材料が露出する可能性があることが問題となる。
具体的には、混合層MIXの厚さL3が、セパレータである絶縁層SELの厚さL2の20%よりも大きい値である場合、正極と負極との間の絶縁層SELの全膜厚のうち、絶縁機能が失われた領域が大きくなるため、絶縁層SELの絶縁性が低下し、正極と負極との間で短絡が生じる問題が顕著になる。
つまり、混合層MIXの厚さL3は、セパレータである絶縁層SELの厚さL2の20%以下であることが望ましい。したがって、絶縁層SELの厚さL2が40μmである場合、混合層MIXの厚さL3は8μm以下であることが望ましい。第2の比較例において、上記のような問題が生じることを防ぎ、絶縁層SELの信頼性を確保するには、絶縁層を例えば50μm以上の厚い膜とすることが考えられる。
以上に述べた第2の比較例のように、電極層とセパレータ(絶縁層)との隙間をなくすことで内部短絡を防止し、かつ、リチウムイオン二次電池の生産性を向上させ、また、リチウムイオン二次電池の製造装置をコンパクト化することが考えられるが、この構成では、上記混合層の問題により、絶縁層の薄膜化が困難とある。すなわち、第2の比較例では、リチウムイオン二次電池の高容量化および小型化が困難である問題がある。
以下では、図1を用いて説明した本実施の形態の効果について説明する。
上述した第2の比較例に対し、本実施の形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は、電極層となる1層目の第1塗布膜を塗工した後、第1塗布膜の表面層のみを固化させる工程を経て、絶縁層となる2層目の第2塗布膜を塗工することを特徴としている。このように、正極または負極の電極材料ESを塗工した後にプレ固化工程を行い、第1塗布膜の表面層のみを固化させることで、図3および図4を用いて説明したように、混合層MIXの厚さL3を、第2の比較例と比べて小さくすることができる。具体的には、混合層MIXの厚さを5μm以下とすることができる。一方、第2の比較例では、実用的な集電箔の搬送速度であっても、混合層MIXの厚さL3は10μm以上となるため、絶縁層SELの厚さL2を薄くすると、正極および負極間での短絡発生の可能性が高くなる。
したがって、本実施の形態では、絶縁層であるセパレータを薄膜化しても短絡の危険性を防ぐことができるため、リチウムイオン二次電池の信頼性を向上させることができる。また、短絡を防ぎつつ、絶縁層であるセパレータを薄膜化することができるため、リチウムイオン二次電池の小型化を可能とすることができる。したがって、リチウムイオン二次電池の性能を向上させることができる。
なお、上記の効果は、正極材料からなる正極電極板でのみ得られるのではなく、負極電極板でも同様の効果を得ることができる。本実施の形態において説明した製造装置および製造方法は、本実施の形態を実施する際の具体例を示したものに過ぎず、その技術思想または主要な特徴から逸脱しなければ、様々な形の実施の形態であっても、上記効果を得ることができる。
また、ここではリチウムイオン二次電池を例に挙げて説明したが、リチウムイオン二次電池に限らず、本実施の形態の効果は、例えば、正極、負極、および、正極と負極とを電気的に分離するセパレータを備える蓄電デバイスに幅広く適用することができる。当該蓄電デバイスとして、例えば、他の形式の電池、またはキャパシタなどが挙げられる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、前記実施の形態1と同様に、正極または負極の電極層上に絶縁層を一括で形成した後、塗布膜を固化液に接触させることで完全に固化させる工程を設け、その後乾燥を行う製造方法および製造装置について説明する。
本実施の形態のリチウムイオン二次電池の製造装置を示す模式図を、図2に示す。本実施の形態のリチウムイオン二次電池の製造工程では、実施の形態1と同様に電極材料ESの調整を行った後、スラリ状の電極材料ESを、ローラRL2に対向するダイコータDC1を用いて、集電用金属箔ロールから供給される集電箔EPの表面に塗工する。これにより、集電箔EP上に、電極材料ESからなる第1塗布膜を形成する。集電箔EPおよび第1塗布膜のそれぞれの膜厚および幅は、前記実施の形態1と同様である。
次に、前記実施の形態1と同様に、固化室SD1においてプレ固化工程を行う。ここでは、第1塗布膜の表面層のみを固化させる。固化液および噴霧条件は、前記実施の形態1と同様である。表面を固化した第1塗布膜上にダイコータDC2を用いて、絶縁材料IFからなる第2塗布膜を塗工する。第2塗布膜の膜厚および幅は、前記実施の形態1と同様である。
次に、第1塗布膜および第2塗布膜を塗工した集電箔EPを、固化室SD2に搬入し、噴霧ノズルNZ2を用いて固化液を第1塗布膜および第2塗布膜からなる積層膜に噴霧することで、第1塗布膜および第2塗布膜を固化させる工程を行う。ここでは、この工程を固化工程と呼ぶ。固化液には、例えば40%エタノール含有水を用いる。ここで用いる固化液には、前記実施の形態1において固化室SD1(図1参照)にて噴霧する固化液と同様に、水、エタノールもしくはイソプロピルアルコールなどのアルコール類、またはこれらの混合液を用いることができる。
噴霧ノズルNZ2には、内部混合型の二流体ノズルを用いている。この二流体ノズルから噴出される噴霧粒子の平均粒子径D50は10μmである。ここでは、噴霧ノズルNZ2から第2塗布膜の上面までの距離は100mmとし、固化液の噴霧圧力は0.1MPaとし、噴霧打力を1g/cm2に調整する。
固化液の噴霧量は、電極材料層である第1塗布膜および絶縁材料沿うである第2塗布膜を完全に固化させるため、PVdFが全て析出する40%エタノール含有水量の200%の量とする。つまり、PVdFを全て析出させるために必要な固化液である40%エタノール含有水の量の2倍の量の固化液を供給することで、各塗布膜を完全に固化させる。図2において、噴霧ノズルNZ2を噴霧ノズルNZ1より多く示しているのは、ノズルの数を増やし、上記のように多量の固化液を供給するためである。
次に、第1塗布膜および第2塗布膜を乾燥室DRY中において120℃で10分間乾燥させることで、第1塗布膜中および第2塗布膜中に含まれる溶剤を蒸発させて除去し、リチウムイオン二次電池用の電極板を製造する。ここで、乾燥工程後の電極板を構成する電極層の厚さは50μmであり、電極層上の絶縁層の厚さは40μmである。上記の工程は、正極板および負極板のそれぞれの製造工程に適用することができる。
上記のように、本実施の形態の構成は、前記実施の形態1とほぼ同様である。ただし、第2の塗工部であるダイコータDC2と乾燥室DRYとの間に、第1の固化室SD1と異なる第2の固化室SD2を設けており、固化室SD2において集電箔EP上の塗布膜を固化している点で、前記実施の形態1とは異なる。また、第1の固化室SD1において行うプレ固化工程では、第1塗布膜の表面層のみを固化し、第1塗布膜の内部は固化していないのに対し、第2の固化室SD2において行う固化工程では、第1塗布膜および第2塗布膜のそれぞれの内部を含む全体を全て固化している。つまり、第1塗布膜および第2塗布膜のそれぞれが含有するバインダを全て析出させている。
本実施の形態の上記製造工程で得られた電極板において、電極層ELおよび絶縁層SELの界面近傍に形成された混合層MIX(図3参照)の厚さは、前記実施の形態1と同様に、集電箔の搬送速度によらず常に5μm以下になる。したがって、絶縁層SELを薄膜化したとしても、正極および負極間における短絡発生の可能性を低下させることができる。
また、本実施の形態のように、乾燥工程の前に各塗布膜を完全に固化させているため、高速に乾燥工程を行なう場合であっても、第1塗布膜内の電極材料および第2塗布膜内の絶縁材料の移動を抑えることができる。つまり、図2に示す第2の固化室SD2を用いた固化工程を行わない場合、第1塗布膜の内部および第2塗布膜は乾燥時に液状であるため、乾燥工程中において各膜内のバインダなどの成分の移動することで、各膜内に対流または拡散が生じる。このため、乾燥後の電極材料ESの分布にばらつきが生じるおそれがある。この場合、電極材料ESの対流または拡散を抑えるためには、蒸発速度を抑えることが必要であるため、乾燥時間が長時間化する問題が生じる。
これに対し、実施の形態2では、乾燥工程前に各塗布膜をその内部まで完全に固化するため、乾燥室DRYにおける乾燥工程中における電極材料ESが移動することを防ぐことができ、溶剤などの蒸発速度を上げることが可能になる。したがって、乾燥時間の短縮が可能であり、また、乾燥設備の小型化が可能となる。これにより、リチウムイオン二次電池の製造工程におけるスループットを向上させることができる。また、乾燥時間の短縮または乾燥設備の小型化により、リチウムイオン二次電池の製造コストを低減することができる。
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。