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JP2017022005A - リチウムイオン電池の製造方法及びリチウムイオン電池の製造装置 - Google Patents

リチウムイオン電池の製造方法及びリチウムイオン電池の製造装置 Download PDF

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JP2017022005A JP2015139112A JP2015139112A JP2017022005A JP 2017022005 A JP2017022005 A JP 2017022005A JP 2015139112 A JP2015139112 A JP 2015139112A JP 2015139112 A JP2015139112 A JP 2015139112A JP 2017022005 A JP2017022005 A JP 2017022005A
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千恵美 窪田
Chiemi Kubota
千恵美 窪田
高原 洋一
Yoichi Takahara
洋一 高原
正志 西亀
Masashi Nishikame
正志 西亀
恭一 森
Kyoichi Mori
恭一 森
藤井 武
Takeshi Fujii
武 藤井
正興 松岡
Masaoki Matsuoka
正興 松岡
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Abstract

【課題】電極層と絶縁層との界面に形成される混合層の厚さを低減し、リチウムイオン電池の信頼性を向上させ、かつ性能の向上を図る。【解決手段】集電箔1の第1面に、スラリ状の電極材料11を塗布して第1塗布膜を形成する第1塗布膜形成工程と、前記第1塗布膜の表面に、スラリ状の絶縁材料を塗布して第2塗布膜を形成する第2塗布膜形成工程と、前記電極材料又は前記絶縁材料として、そのいずれか一方にpHゲル化剤を含み、前記pHゲル化剤を含む前記第1塗布膜又は前記第2塗布膜の一部をpH調整によりゲル化させて、前記第1塗布膜の前記第2塗布膜との接触面又は前記第2塗布膜の前記第1塗布膜との接触面を固定化する固定化工程と、前記第1塗布膜及び前記第2塗布膜を乾燥させる乾燥工程と、を有するリチウムイオン電池の製造方法である。【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムイオン電池の製造方法及びリチウムイオン電池の製造装置に関する。
リチウムイオン二次電池は、例えば集電箔の表面に正極活物質を塗工した正極板と、集電箔の表面に負極活物質を塗工した負極板と、正極板と負極板との接触を防止する板状のセパレータとを捲回した電極捲回体を備えている。
ここで、正極板と負極板とセパレータとのそれぞれを別部品として、すなわちそれぞれを別体で用意することが考えられる。しかしながら、この場合、例えば正極板又は負極板の切断などによって生じる金属異物が、正極板とセパレータとの間又は負極板とセパレータとの間に侵入し、正極と負極とが短絡するなどの問題が生じる。
これに対し、例えば特許文献1には、集電箔の表面に正極活物質及びセパレータを順に塗工して形成した正極板と、他の集電箔の表面に負極活物質及びセパレータを順に塗工して形成した負極板とを捲回して形成されたリチウムイオン二次電池が記載されている。このようなリチウムイオン二次電池であれば、正極板又は負極板の切断によって生じる金属異物が、正極板又は負極板とセパレータとの間に侵入することを防ぐことができる。
特開2003−045491号公報
特許文献1の技術では、集電箔の表面に塗工された、正極活物質又は負極活物質を含むスラリ状の電極材料の表面に、連続してセパレータとなるスラリ状の絶縁材料を塗工したときに、電極層と絶縁層との界面に、電極材料と絶縁材料との混合層が形成される。混合層が形成されると、その分、セパレータとして機能する絶縁層が薄くなる。この場合、正極と負極との短絡が発生しやすくなり、リチウムイオン二次電池の信頼性が低下する。上記短絡を防ぐため、セパレータの厚さを厚くすることが考えられるが、この場合、リチウムイオン二次電池の小型化や大容量化が困難となる。
そこで、本発明は、電極層と絶縁層との界面に形成される混合層の厚さを低減し、リチウムイオン電池の信頼性を向上させ、かつ性能の向上を図ることのできるリチウムイオン電池の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
本発明に係るリチウムイオン電池の製造方法の好ましい実施形態としては、集電箔の第1面に、スラリ状の電極材料を塗布して第1塗布膜を形成する第1塗布膜形成工程と、前記第1塗布膜の表面に、スラリ状の絶縁材料を塗布して第2塗布膜を形成する第2塗布膜形成工程と、前記電極材料又は前記絶縁材料として、そのいずれか一方にpHゲル化剤を含み、前記pHゲル化剤を含む前記第1塗布膜又は前記第2塗布膜の一部をpH調整によりゲル化させて、前記第1塗布膜の前記第2塗布膜との接触面又は前記第2塗布膜の前記第1塗布膜との接触面を固定化する固定化工程と、前記第1塗布膜及び前記第2塗布膜を乾燥させる乾燥工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明に係るリチウムイオン電池の製造装置の好ましい実施形態としては、集電箔を搬送する搬送部と、スラリ状の電極材料を収容する第1タンクを有し、前記搬送部により搬送される前記集電箔の第1面に、前記電極材料を塗布して第1塗布膜を形成する第1塗工部と、スラリ状の絶縁材料を収容する第2タンクを有し、前記第1塗布膜の表面に前記絶縁材料を塗布して第2塗布膜を形成する第2塗工部と、前記第1塗布膜及び前記第2塗布膜を乾燥させる乾燥部と、前記電極材料若しくは前記絶縁材料又は前記集電箔の第1面に形成された前記第1の塗布膜のpH調整を行うpH調整部と、を有し、前記第1タンク又は前記第2タンクのうちのいずれか一方が、pHゲル化剤を収容することを特徴とする。
本発明によれば、リチウムイオン電池の信頼性を向上させ、かつ性能の向上を図ることのできるリチウムイオン電池の製造方法及び製造装置を実現することができる。
実施例1に係るリチウムイオン二次電池の製造装置の概略構成を示す模式図である。 実施例1によるリチウムイオン二次電池の具体的な製造工程の工程図である。 実施例1による電極層と絶縁層との界面の状態を説明する断面図である。 実施例2に係るリチウムイオン二次電池の製造装置を示す模式図である。 実施例3又は後述の実施例4に係るリチウムイオン二次電池の製造装置を示す模式図である。 比較例に係る、リチウムイオン二次電池の製造装置の模式図である。 比較例に係るリチウムイオン二次電池の製造装置の第1塗工部に設けられたダイコータ104(スリットダイコータ)を拡大して示す断面図である。 比較例に係るリチウムイオン二次電池の製造装置により形成された電極板の電極層と絶縁層との界面の状態を示す断面図である。
以下の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明では、正極板及び負極板を総括して「電極板」と呼び、正極材料及び負極材料を総括して「電極材料」と呼ぶ。また、以下の説明では、乾燥炉を用いた乾燥工程前の正極材料、負極材料、及び絶縁材料は、バインダ溶液及び有機溶剤や水などの液体を含み、流動性を有する物質である。また、以下の説明では、正極材料からなる膜を正極膜、負極材料からなる膜を負極膜、電極材料からなる膜を電極膜と記載する場合もある。また、以下の説明で「電極板(正極板、負極板を含む)の表面」という場合は、電極板の表側の面及び裏側の面を含めた全面ではなく、表側の面のみを指すものとする。
本実施の形態では、蓄電デバイスである二次電池としてリチウムイオン電池を例示し、その製造方法及びその製造装置について説明するが、これに限定されるものではない。
まず、実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の説明の便宜のため、比較例として、従来のリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
図6は、比較例に係る、リチウムイオン二次電池の製造装置の模式図である。比較例に係るリチウムイオン二次電池の製造装置では、集電箔101は、集電用金属箔ロール102から送出される。集電箔101は、例えば厚さ20μm、幅200mmのアルミニウム箔である。
次に、集電箔101の表面上に、バックローラ105と対向する、第1塗工部に備わるダイコータ104から供給される電極材料11が塗布され、電極材料11からなる第1塗布膜が形成される(第1の塗工工程)。ここで、電極材料11はタンク108からダイコータ104に供給される。第1塗布膜の厚さは、例えば100μm、その幅は、例えば150mmである。
次に、第1塗布膜の表面上に、バックローラ107と対向する、第2塗工部に備わるダイコータ106から供給される絶縁材料12が直接塗布され、絶縁材料12からなる第2塗布膜が形成される(第2の塗工工程)。ここで、絶縁材料12はタンク109からダイコータ106に供給される。第2塗布膜の厚さは、例えば20μm、その幅は、例えば160mmである。
次に、集電箔1の表面上の第1塗布膜及び第2塗布膜は、乾燥室113を通過することで乾燥し(乾燥工程)、それぞれ電極層及び絶縁層が形成される。これにより、電極板が製造される。この乾燥工程では、120℃で10分間の乾燥を行う。その後、電極板は、巻き取りロール103に巻き取られる。
このように、比較例による電極板の製造装置は第2塗工部を有し、第2塗工部に備わるダイコータ106により、電極層となる第1塗布膜の表面上に、絶縁層となる第2塗布膜を直接形成している。
第1塗工部に備わるダイコータ104には、例えばスリットダイコータが使用される。スリットダイコータは、厚膜の塗工、又は高粘度材料の塗工などの用途に用いられる塗工装置である。
図7は、比較例に係るリチウムイオン二次電池の製造装置の第1塗工部に設けられたダイコータ104(スリットダイコータ)を拡大して示す断面図である。
図7に示すように、ダイコーティング方法では、スラリ状の電極材料11を貯留したタンクから、定量ポンプによって、口金91のマニホールド93に電極材料11が供給される。ここでは、マニホールド93において、電極材料11の圧力分布を均一にした後、マニホールド93から連続して設けられたスリット94へ電極材料11が供給され、吐出される。吐出された電極材料11は、口金91と一定の間隔h1を保って相対的に走行する集電箔101との間に、ビードと呼ばれる電極材料溜り95を形成し、この状態で集電箔1の走行に伴って電極材料11を引き出して塗膜を形成する。
第1の塗工工程では、塗膜の形成により消費される量と同量の電極材料11をスリット94から供給することにより、塗膜を連続的に形成する。このとき、薄膜の塗布を安定的に行うために、電極材料溜り95の液面の屈曲である下流側メニスカス99の形成の安定化が重要となる。そのため、マニホールド93へ電極材料11を供給する圧力は、スリット94圧損+口金91の下流側リップ部98圧損+下流側メニスカス99圧力となる。つまり、電極材料11を安定して集電箔1に塗布するためには、集電箔1に対して電極材料11からある程度の圧力を加える必要がある。
第2塗工部に備わるダイコータ106にも、例えば第1塗工部に備わるダイコータ104と同様のスリットダイコータが使用される。また、第2の塗工工程でも、例えば第1の塗工工程と同様にして、絶縁材料12が塗布される。
このように、比較例による電極板の製造方法では、電極材料11からなる第1塗布膜と絶縁材料12からなる第2塗布膜とを重ねて塗布した後、乾燥室113において、第1塗布膜及び第2塗布膜を同時に乾燥、固着させることにより、電極層及び絶縁層をそれぞれ形成している。これにより、電極層と絶縁層との間に隙間がない状態で、電極板の切断及び溶接などの加工を行うことができるので、金属異物の侵入による内部短絡を防止することができる。
しかし、比較例による電極板の製造方法では、集電箔101の表面上にスラリ状の電極材料11とスラリ状の絶縁材料12とを連続して塗布しているため、電極層と絶縁層との界面に形成される、電極材料11と絶縁材料12との混合層の厚さが厚くなる傾向がある。
図8は、比較例に係るリチウムイオン二次電池の製造装置により形成された電極板の電極層と絶縁層との界面の状態を示す断面図である。
図8に示すように、集電箔101の表面上に形成された電極層51と絶縁層52との界面には、絶縁機能が失われた混合層53が形成される。本発明者らは、混合層53が、図8に示したスリットダイコータの塗工圧力に起因して生じる層であることを見出した。
混合層53の厚さは、集電箔101の搬送速度により変化する。つまり、集電箔101の搬送速度が遅い程、スリットダイコータによる塗工圧力が特定の箇所の塗膜に加わる時間が長くなるため、混合層53の厚さも厚くなる。集電箔101の搬送速度を、比較的速い100m/minとしても、混合層53の厚さは10μm以上となる。
混合層53が比較的厚く形成された場合、絶縁機能を持つ絶縁層52の実質厚さL2´が、本来意図した厚さL2(以下、初期厚さL2と示すことがある。)より薄くなること、及び絶縁層52を薄膜化した際に、絶縁層52の上部で、混合層53を構成する電極材料成分が露出する可能性があることが問題となる。
なお、以下の説明において、混合層形成前における、電極層51及び絶縁層52の厚さを、それぞれ初期厚さL1、初期厚さL2と示し、混合層形成後における、電極層51及び絶縁層52の厚さを、それぞれ実質厚さL1´、実質厚さL2´と示す。
具体的には、混合層53の厚さL3が、絶縁層52の厚さL2(初期厚さL2)の20%よりも大きい場合は、正極と負極との間の絶縁層52の全膜厚のうち、絶縁機能が失われた領域が過大となり、絶縁層52の絶縁性が低下して、正極と負極との間で生じる短絡が顕著になる。
すなわち、混合層53の厚さL3は、絶縁層52の厚さL2(初期厚さL2)の20%以下であることが望ましい。従って、絶縁層52の厚さL2(初期厚さL2)が40μmである場合、混合層53の厚さL3は8μm以下であることが望ましい。比較例に係る製造装置で形成される電極板では混合層53が厚くなり易いことから、前述した問題が生じることを防ぎ、絶縁層52の信頼性を確保するには、絶縁層52を、例えば50μm以上の厚い膜とする必要がある。
このように、比較例によるリチウムイオン二次電池の製造方法では、電極層51と絶縁層52とが隙間無く形成されるため、内部短絡の防止や、生産性の向上が図られているものの、電極層51と絶縁層52との界面に形成される混合層53が厚くなり易いため、絶縁層52の薄膜化が困難である。すなわち、比較例によるリチウムイオン二次電池では、リチウムイオン二次電池の信頼性を維持しつつ、高容量化と小型化とを同時に実現することが困難であった。
実施例1によるリチウムイオン二次電池の製造方法は、電極材料として、当該電極材料を所定範囲のpH値でゲル化させる成分(以下、単にpHゲル化剤という)を含有するものを用いる点を特徴としている。
すなわち、実施例1では、pHゲル化剤を含む電極材料を、電極層となる1層目の第1塗布膜として集電箔の表面上に塗工した後、この第1塗布膜の表面上に、電極材料がpHゲル化剤によりゲル化されるpH値(ゲル化pH値)に調整された絶縁材料を、絶縁層となる2層目の第2塗布膜として塗工することを特徴としている。
なお、以下の説明において、所定範囲のpH値で母体材料をゲル化させる成分を、「pHゲル化剤」と示す。ここで、母体材料とは、pHゲル化剤が電極材料に含まれている場合には「電極材料」であり、pHゲル化剤が絶縁材料に含まれている場合には、「絶縁材料」である。
また、以下の説明において、pHゲル化剤により母体材料がゲル化されるpH値を「ゲル化pH値」と示す。
(リチウムイオン二次電池の製造装置)
実施例1に係るリチウムイオン二次電池の製造装置について、図1を用いて説明する。図1は、実施例1に係るリチウムイオン二次電池の製造装置の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、実施例1に係るリチウムイオン二次電池の製造装置は、集電箔1を送り出す集電用金属箔ロール2と、集電箔1を巻き取る巻き取りロール3とを有している。薄い板状の金属箔である集電箔1は、集電用金属箔ロール2と巻き取りロール3との間で、複数のローラに支えられながら搬送される。ここでは、集電箔1を一定速度で搬送するための複数のローラを、ローラ搬送系、つまり搬送部と呼ぶ。
集電箔1の搬送経路には、集電用金属箔ロール2側から巻き取りロール3側に向かって順に、ダイコータ4、ダイコータ6、及び乾燥室13が配置されている。さらに、ダイコータ4に対向してバックローラ5が配置され、ダイコータ6に対向してバックローラ7が配置されている。搬送される集電箔1は、ダイコータ4とバックローラ5との間、ダイコータ6とバックローラ7との間、及び、乾燥室13内を通る。
ダイコータ4にはタンク8から電極材料11が供給され、ダイコータ6にはタンク9から絶縁材料12が供給される。タンク9には、タンク9内のpH値を監視・制御するpHコントローラ10が設けられている。ここで、第1塗工部31は、ダイコータ4及びタンク8により構成され、第2塗工部32は、ダイコータ6、タンク9及びpHコントローラ10により構成される。
図1において、リチウムイオン二次電池の正極又は負極を構成する電極層を形成するために用いる電極材料11は、充放電によりリチウムイオンの放出・吸蔵が可能な活物質と導電助剤の粉末を、これら粉末を結着させるためのバインダ及び溶剤などと混練・調合した高粘度スラリ状の液体である。
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
以下に、リチウムイオン二次電池の製造方法について、図1及び図2を用いて具体的に説明する。図2は、実施例1によるリチウムイオン二次電池の具体的な製造工程の工程図である。
リチウムイオン二次電池を構成する正極及び負極のそれぞれは、集電箔1の材料及び集電箔1に塗布する膜の材料等に違いはあるが、基本的に同様の工程により製造される。そこで、以下では、正極及び負極のそれぞれの製造工程を分けずに説明する。
例えば、後述の塗工材料である電極材料は、正極用の材料である場合と、負極用の材料である場合とを含んでおり、それぞれの場合において、異なる材料により構成される。ここで、正極の製造工程においては、正極用の材料からなる集電箔及び塗工材料を用い、負極の製造工程のみに用いられる材料を使用しないことは、いうまでもない。また、負極の製造工程においても同様に、正極の製造工程のみに用いられる材料は使用しない。
[1.電極板(正極板及び負極板)製造]
<混練・調合工程>
実施例1によるリチウムイオン二次電池の製造工程では、まず、リチウムイオン二次電池の正極又は負極を形成するための電極材料11を混練・調合する。
具体的には、活物質及び導電助剤の粉末を、これら粉末を結着させるためのバインダ、粘度調整のための増粘剤、pHゲル化剤、及び溶剤とともに混練し、リチウムイオン二次電池の正極又は負極を形成するための電極材料11を調合する。電極材料11は、高粘度スラリ状の液体である。
またさらに、混練・調合工程では、無機酸化物を、バインダ、増粘剤、及び溶剤と混合して、絶縁材料12を調合する。実施例1では、絶縁材料12のpH値を、第1塗布膜の表面(電極材料11)がpHゲル化剤によりゲル化するpH値(ゲル化pH値)に調整する。
<第1の塗工工程(電極材料)>
次に、混練・調合工程で得られたスラリ状の電極材料11を、第1塗工部31に備わるダイコータ4を用いて、集電用金属箔ロール2から供給される集電箔1の表面上に薄く、均一に塗布する(第1の塗工工程)。ここで、電極材料11はタンク8からダイコータ4に供給される。以下では、第1の塗工工程により集電箔1の表面上に塗布された電極材料11からなる膜を第1塗布膜と呼ぶ。
第1塗工部31には、ダイコータ4として、例えば、図7に示すのと同様の構成のスリットダイコータを用いることができるが、電極材料11を塗布する装置として、他の装置を用いてもよい。
<第2の塗工工程(絶縁材料)及びpH調整(固化)工程>
次に、混練・調合工程において、pHゲル化剤により第1塗布膜がゲル化するpH値(ゲル化pH)にpH調整された、スラリ状の絶縁材料12を、第2塗工部32に備わるダイコータ6を用いて、第1塗布膜の表面上に薄く均一に塗布する(第2の塗工工程)。
ここで、絶縁材料12はタンク9からダイコータ6に供給される。タンク9はpHコントローラ10により内部pHが監視・制御され、絶縁材料12のpH値が、第1塗布膜の表面のゲル化pHからずれた場合にpH調整が行われる。
以下では、第2の塗工工程により第1塗布膜の表面上に塗布された絶縁材料12からなる膜を第2塗布膜と呼ぶ。第2の塗工部32には、ダイコータ6として、例えば図7に示すのと同様の構成のスリットダイコータを用いることができるが、絶縁材料12を塗布する装置として、他の装置を用いてもよい。
ここで、実施例1では、上記したように、電極材料11がpHゲル化剤を含有しており、この点が、実施例1の特徴の一つとなっている。
すなわち、第2の塗工工程では、上記のように、pHゲル化剤を含有する電極材料11により形成された第1塗布膜の表面に、pH調整された絶縁材料12を接触させるようにして、第2塗布膜が形成される。pH調整された絶縁材料12が第1塗布膜の表面に接触すると、絶縁材料12の溶剤と第1塗布膜中の溶剤が相互に浸透する。実施例1では、このように、pH調整された絶縁材料12を第1塗布膜の表面上に塗布することも、特徴点の一つとなっている。
ここで、絶縁材料12の溶剤と第1塗布膜中の溶剤が相互に浸透して、pHゲル化剤を含む第1塗布膜表面のpHが変化する工程をpH調整(固化)工程という。つまり、実施例1では、絶縁材料12の塗工工程と第1塗布膜のpH調整(固化)工程とが同時に進行する。
ここで、第1塗布膜の表面で絶縁材料12の溶剤と第1塗布膜中の溶剤が相互に浸透しpHが変化する際に、第1塗布膜表面がゲル化するpHが保たれるようにするため、絶縁材料12はリン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤を含むことが望ましい。
なお、実施例1を含む以下の実施形態では、pHゲル化剤を含む材料のpH値を調整する工程を「pH調整(固化)工程」と記し、pHゲル化剤を含まない材料のpH値を調整する工程を単に「pH調整工程」と記して、両者を区別する。
pH調整(固化)工程により、第1塗布膜の表面層でpHが変化してゲル化pHとなると、第1塗布膜内のpHゲル化剤により、第1塗布膜の表面層(第2塗布膜との接触面)がゲル化して固定化する。つまり、pHゲル化剤による、第1塗布膜の表面層のゲル化によって、第1塗布膜を構成する活物質粒子が固定(固化)される。
このように、第1塗布膜の表面層が固化することで、第1塗布膜の表面に形成された第2塗布膜内に、第1塗布膜を構成する活物質粒子が混入することを防ぐことができる。なお、第1塗布膜の表面層とは、第1塗布膜の表面を含む表面近傍の第1塗布膜を意味する。
<乾燥工程>
次に、第2の塗工工程により第2塗布膜を塗工した集電箔1を、熱風乾燥炉である乾燥室13内に搬送する。乾燥室13内では、第1塗布膜中及び第2塗布膜中の溶剤成分を加熱して蒸発させることで、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥・固化させ、電極層及び絶縁層を一括で形成する。すなわち、第1塗布膜は乾燥工程により電極層となり、第2塗布膜は乾燥工程により絶縁層、つまりセパレータとなる。これにより、集電箔1と、集電箔1の片面に順に積層された電極層及び絶縁層からなる電極板、つまり正極板又は負極板が形成される。その後、電極板は巻き取りロール3に巻き取られる。
<加工工程>
次に、集電箔1に対し、圧縮及び切断などの加工を行う。
[2.電池セル組立]
<捲回工程>
次に、正極板及び負極板から電池セルに必要な大きさの正極及び負極を切り出す。この時、正極と負極とを分離するためのセパレータである絶縁層は、正極又は負極と共に切り出される。続いて、その表面にセパレータが積層された正極及び負極を、それぞれのセパレータを接触されるように重ね合わせた後、正極及び負極を含む積層体を捲き合わせる。
<溶接・組立工程>
次に、捲き合わせた正極及び負極の電極対の群を組み立てて溶接する。この溶接・組立工程では、例えば正極集電タブにアルミニウムリボンを捲きつけ、このアルミニウムリボンに正極集電タブを超音波溶接で接続する。
<抽液工程>
次に、溶接したこれらの電極対の群を電池缶内に配置した後、電解液を注入する。
<封口工程>
次に、電池缶を完全に密閉することで、リチウムイオン二次電池の電池セルを作製する。
<充放電工程>
次に、作製されたリチウムイオン二次電池の電池セルを繰り返し充放電する。
<単電池検査>
次に、この電池セルの性能及び信頼性に関する検査(例えば電池セルの容量及び電圧、充電又は放電時の電流及び電圧の検査など)を行う。これにより、リチウムイオン二次電池の電池セル、つまり単電池が完成する。
(リチウムイオン電池の各材料)
次に、実施例1によるリチウムイオン二次電池を製造するために用いられる各材料について説明する。
実施例1の電極材料11で用いる正極活物質には、コバルト酸リチウム又はMn(マンガン)などを含有するスピネル構造のリチウム含有複合酸化物、又はNi(ニッケル)、Co(コバルト)、若しくはMn(マンガン)を含む複合酸化物などを使用することができる。
また、正極活物質には、オリビン型リン酸鉄などのオリビン型化合物を使用することもできる。ただし、正極活物質はこれらの材料に限定されず、他の材料を用いてもよい。Mn(マンガン)を含有するスピネル構造のリチウム含有複合酸化物は熱的安定性に優れているため、例えば安全性の高い電池を構成することができる。
また、正極活物質には、Mn(マンガン)を含有するスピネル構造のリチウム含有複合酸化物のみを用いてもよいが、他の正極活物質を併用してもよい。他の正極活物質としては、例えば、Li+xMO(−0.1<x<0.1)で表わされるオリビン型化合物などが挙げられる。この式における金属Mの例としては、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Zr(ジルコニウム)、又はTi(チタン)などが挙げられる。
また、正極活物質には、層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物を用いることができる。層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiCoO又はLiNi−xCo−yAl(0.1≦x≦0.3、0.01≦y≦0.2)などを用いることができる。
また、層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物には、少なくともCo(コバルト)、Ni(ニッケル)、及びMn(マンガン)を含む酸化物などを用いることができる。Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、及びMn(マンガン)を含む酸化物としては、例えばLiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiMn5/12Ni5/12Co1/6、又はLiNi3/5Mn1/5Co1/5などが挙げられる。
実施例1の電極材料11で用いる負極活物質には、例えば天然黒鉛(鱗片状黒鉛)、人造黒鉛、又は膨張黒鉛などの黒鉛材料を用いることができる。また、負極活物質には、ピッチを焼成して得られるコークスなどの易黒鉛化性炭素質材料を用いることができる。また、負極活物質には、フルフリルアルコール樹脂(PFA:Poly Furfuryl Alcohol)又はポリパラフェニレン(PPP:Poly−Para−Phenylen)などと、フェノール樹脂とを低温焼成して得られる非晶質炭素などの難黒鉛化性炭素質材料を用いることができる。
また、上記の炭素材料の他に、Li(リチウム)又はリチウム含有化合物なども、負極活物質として用いることができる。このリチウム含有化合物としては、Li−Alなどのリチウム合金、又はSi(シリコン)若しくはSn(スズ)などのLi(リチウム)と合金化が可能な元素を含む合金が挙げられる。さらに、Sn酸化物やSi酸化物などの酸化物系材料も、負極活物質に用いることが可能である。この酸化物系材料は、Li(リチウム)を含んでいなくともよい。
実施例1の電極材料11で用いる導電助剤は、正極膜に含有させる電子伝導助剤として用いるものであり、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、又はカーボンナノチューブなどの炭素材料であることが好ましい。炭素材料の中でも、添加量と導電性の効果、及び塗布用正極合剤スラリの製造性の点から、アセチレンブラックが特に好ましい。この導電助剤は負極膜に含有させることも可能である。
実施例1の電極材料11に用いるバインダは、活物質と導電助剤とを互いに結着させるためのポリマーを含有していることが好ましい。バインダの材料としては、例えばポリビニリデンフルオライド系ポリマー、ポリビニルアルコールとその誘導体などの水溶性ポリマー、又はゴム系ポリマーなどが好適に用いられる。ポリビニリデンフルオライド系ポリマーは、例えば主成分がモノマーであるビニリデンフルオライドを80質量%以上含有する含フッ素モノマー群の重合体である。ポリマーは、2種以上を併用してもよい。また、バインダは溶媒に溶解した形態、又はポリマー粒子が溶媒に分散したエマルジョンの形態で供されるものが好ましく使用できる。
ポリビニリデンフルオライド系ポリマーを合成するための含フッ素モノマー群としては、ビニリデンフルオライド、又はビニリデンフルオライドと他のモノマーとの混合物で、ビニリデンフルオライドを80質量%以上含有するモノマー混合物などが挙げられる。
他のモノマーとしては、例えばビニルフルオライド、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、又はフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
ゴム系ポリマーとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR:Styrene−Butadiene Rubber)、エチレンプロピレンジエンゴム、又はフッ素ゴムなどが挙げられる。
(含有量)
電極層、つまり第1塗布膜中におけるバインダの含有量は、乾燥後の電極層を基準として0.1質量%以上であって、10質量%以下であることが望ましい。より好ましくは、バインダの含有量は、0.3質量%以上であって、5質量%以下であることが望ましい。バインダの含有量が少なすぎると、乾燥後の電極膜の機械的強度が不足し、電極層が集電箔から剥離する問題が生じる。また、バインダの含有量が多すぎると、電極層中の活物質量が減少して、電池容量が低くなるおそれがある。
バインダの他に、電極材料の粘度を調整するための増粘剤を用いてもよい。増粘剤は、エマルジョンの形態で供されるバインダと共に用いることが好ましい。増粘剤はエチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はカルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩(CMC−NA)ポリアクリル酸ソーダなどが挙げられる。
実施例1の電極材料11に用いるpHゲル化剤は、スラリ作製時の取り扱い性の観点から、中性領域で溶解し、酸性又はアルカリ性でゲル化することが好ましい。pHゲル化剤としては、例えばアルギン、アルギン酸塩のアルギン系高分子、キトサン及びその誘導体、カラギーナン、キサタンガム等の天然多糖類及びこれらの複合体、又はポリアクリル酸、架橋型ポリアクリル酸及びその誘導体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)若しくはその誘導体等の両性イオン型ポリマーからなる群から選択される少なくとも一つが好適に用いられる。pHゲル化剤は、活物質と導電助剤とを互いに結着させるためのバインダ、又は電極材料の粘度を調整するための増粘剤として用いても良い。
実施例1の絶縁材料12としては、アルミナ(Al)又はシリカ(SiO)などの無機酸化物を使用することができる。また、これらの無機酸化物と併せて、ポリプロピレン又はポリエチレンの微粒子を混合したスラリを用いることで、絶縁層にシャットダウン性を持たせることもできる。
すなわち、絶縁層は多孔質フィルムであり、完成したリチウムイオン二次電池においては、絶縁層の空孔内に電解液が保持される。そして、空孔内に保持された電解液が、電極間のリチウムイオン伝導の通路を構成する。ここでいうシャットダウン性とは、リチウムイオン二次電池が異常発熱した場合に、絶縁層が溶融して孔を塞ぐ機能を指す。このシャットダウン機能により、絶縁層内におけるリチウムイオンの透過を遮断することで、電池内の反応が停止し、電池温度のさらなる上昇を防ぐことができる。
絶縁材料において、無機酸化物粒子を結着させるためのバインダとしては、樹脂を用いる。バインダは、電極材料で用いられるバインダと同様のものを用いることができ、例えばポリビニリデンフルオライド系ポリマー又はゴム系ポリマーなどが好適に用いられる。また、カルボキシルメチルセルロースなどの増粘剤を用いても良い。
実施例1で用いる集電箔は、シート状の箔に限定されることはなく、その基体としては、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼、若しくはチタン(Ti)などの純金属、又は合金性導電材料を用いることができる。集電箔1には、例えば網、パンチドメタル、フォームメタル、又は板状に加工した箔などが用いられる。集電箔を構成する導電性基体の厚さは、例えば5μm〜30μmとし、より好ましくは、8μm〜16μmとする。
<具体例>
(負極の製造工程の詳細説明)
次に、実施例1に係るリチウムイオン二次電池の製造工程の具体例を、負極の製造工程を例に、図1及び図2を用いて詳細に説明する。
[1.負極板製造]
<混練・調合工程>
まず、電極材料11の混練・調合工程を行う。
電極材料11を構成する負極活物質には、人造黒鉛を用いる。電極材料11の混練・調合工程では、負極活物質、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(以下、単にSBRという)、pHゲル化剤としてアルギン酸ナトリウム、及び溶剤として水をプラネタリーミキサーで混練してスラリ状の電極材料11を調整する。
ここでは、負極活物質(活物質)、SBR(バインダ)、及びアルギン酸ナトリウム(pHゲル化剤)の重量比が、例えば100:1:1となる割合で混合する。アルギン酸ナトリウムは増粘剤としても機能し、電極材料11は高粘度の液体である。回転粘度計で測定した電極材料11の粘度は、例えば約3Pa・sである。
<第1の塗工工程(電極材料)>
次に、第1の塗工工程(電極材料)を行う。ここで、第1の塗工工程での塗工対象である集電箔1には、例えば厚さ20μm、幅200mmの銅(Cu)箔が用いられる。第1の塗布工程では、スリットダイコータであるダイコータ4を用いて、電極材料11を集電箔1の表面上に塗布する。これにより、電極材料11からなる第1塗布膜が集電箔1の表面上に形成される。第1塗布膜の厚さは、例えば100μm、その幅は、例えば150mmである。なお、ここでいう集電箔1及び第1塗布膜の幅とは、それぞれ、搬送される集電箔1の進行方向に直交する方向であって、集電箔1の表面に沿う方向における各構造体の長さを指す。
<第2の塗工工程(絶縁材料)及びpH調整(固化)工程>
次に、第2の塗工工程(絶縁材料)及びpH調整(固化)工程を行う。絶縁材料12の無機酸化物にはシリカ(SiO)粉末を用いる。無機酸化物としてのシリカ(SiO)粉末、バインダとしてのSBR、増粘剤としてのメチルセルロース(以下、単にMCという)、及び溶剤としての水を混合し、プラネタリーミキサーで混練してスラリ状の絶縁材料12を調整する。
ここでは、無機酸化物、SBR、及びMCの重量比は、例えば100:1:1となる割合で混合する。これらの混合物に、リン酸緩衝液を添加して、混合物(絶縁材料12)のpH値をpH3以下に調整する。絶縁材料12は高粘度の液体であり、回転粘度計で測定した絶縁材料12の粘度は、例えば約2Pa・sである。
pH調整した絶縁材料12を、ダイコータ6を用いて、第1塗布膜の表面上に塗布する。ダイコータ6としては、スリットダイコータを使用する。
また、絶縁材料12の塗布と同時に、絶縁材料12の溶剤と第1塗布膜中の溶剤が相互に浸透し、その表面層のpHが変化してゲル化する。これにより、絶縁材料12からなる第2塗布膜が、第1塗布膜の表面上に形成される。第2塗布膜の厚さは、例えば80μm、その幅は、例えば160mmである。
<乾燥工程>
次に、乾燥工程を行う。ここでは、熱風乾燥炉である乾燥室13中において、第1塗布膜及び第2塗布膜を、120℃で10分間加熱して乾燥させる。これにより、第1塗布膜中及び第2塗布膜中に含まれる溶剤を蒸発させて、除去し、第1塗布膜及び第2塗布膜の全体を完全に固化させる。これらの工程を経て、リチウムイオン二次電池用の負極板が製造される。つまり、得られた負極板は、集電箔1と、電極材料11からなる第1塗布膜を乾燥・固化させて形成した負極層と、絶縁材料12からなる第2塗布膜を乾燥・固化させて形成した絶縁層とを有している。
<加工工程>
次に、集電箔1に対し、圧縮及び切断などの加工を行うことで、所望のサイズの負極板を製造する。
(電極層と絶縁層との界面状態)
ここで、実施例1に係るリチウムイオン二次電池の製造方法により得られた、リチウムイオン二次電池の電極板における、電極層と絶縁層との界面の状態について図3を用いて説明する。図3は、実施例1による電極層と絶縁層との界面の状態を説明する断面図である。
図3に示すように、集電箔1上には、厚さL1の電極層21と、厚さL2のセパレータである絶縁層22とが順に積層されている。電極層21は第1塗布膜を乾燥させて形成した層であり、絶縁層22は第2塗布膜を乾燥させて形成した層である。
電極層21と絶縁層22との界面には、電極層21の構成材料(電極材料)と絶縁層22の構成材料(絶縁材料)とが混ざって形成された、厚さL3の混合層23が形成されている。図3では、混合層23の上端及び下端をそれぞれ破線で示している。
混合層23は、電極層21と絶縁層22との界面を含む領域であって、電極層21の内部から絶縁層22の内部に亘って形成されている。実施例1により得られたリチウムイオン二次電池の電極板の場合、乾燥工程後の電極層21の実質厚さL1´は、例えば30μm〜500μmであり、絶縁層22の実質厚さL2´は、例えば10μm〜30μmである。
混合層23の厚さL3は、完成した電極板の断面を切り出し、SEM(Scanning ElectronMicroscope)で観察した像から、図3に示す断面図をもとに算出する。
実施例1によるリチウムイオン二次電池では、混合層23の厚さL3は5μm以下となり、絶縁層22を薄膜化しても短絡発生の可能性が低いことが確認された。
なお、実施例1では、集電箔1の片面に電極材料11及び絶縁材料12をこの順に塗布して、電極板を製造する例を説明した。集電箔1の両面に、電極材料11及び絶縁材料12を塗布する場合には、集電箔1の表面に対して、<混練・調合工程>、<第1の塗工工程(電極材料)>、<第2の塗工工程(絶縁材料)及びpH調整(固化)工程>、及び<乾燥工程>を行った後、<加工工程>を行う前に、巻き取りロール3に巻き取られた電極板を反転させて、裏面に再度同一の工程を施して、電極材料11及び絶縁材料12を塗工する方法が考えられる。
実施例1に係るリチウムイオン二次電池の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池は、容器(電池缶)の構造、サイズ、又は正極及び負極を主構成要素とする電極体の構造などについて、特に制限はない。これは、以下の実施例2〜4も同様である。
(実施例1における技術的特徴及び効果)
以上のように、実施例1によるリチウムイオン二次電池の製造方法は、pHゲル化剤を含む電極材料11を1層目の第1塗布膜として塗布する第1の塗工工程と、pHゲル化剤により電極材料11がゲル化するpHに調整した絶縁材料12を2層目の第2塗布膜として塗布する第2の塗工工程と、この第2の塗布工程と同時に実施される、第1塗布膜の第2塗布膜との接触面をpH調整するpH調整(固化)工程とを有する。さらに、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥させる乾燥工程を有する。
また、実施例1によるリチウムイオン二次電池の製造装置は、pHゲル化剤を含む電極材料11を1層目の第1塗布膜として塗布する第1の塗工部31と、pHゲル化剤により電極材料11がゲル化するpH(ゲル化pH)に調整した絶縁材料12を2層目の第2塗布膜として塗布する第2の塗工部32と、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥させる乾燥部13とを備える。
第1の塗工部31により塗布された第1塗布膜は、第2塗布膜が第1塗布膜に接触して形成されることで、第2塗布膜との接触面のpHが変化する。第2の塗工部32は、絶縁材料12のpHを、電極材料11に含まれるpHゲル化剤のゲル化pHに制御するpHコントローラ10を備える。
以下に、実施例1の効果について説明する。
実施例1によるリチウムイオン二次電池を構成する電極板の製造方法は、pHゲル化剤を含む電極材料11を、電極層となる1層目の第1塗布膜として塗布した後、第1塗布膜がpHゲル化剤によりゲル化するpH値(ゲル化pH値)にpH調整された絶縁材料12を、絶縁層となる2層目の第2塗布膜として、第1塗布膜の表面上に塗布することを特徴としている。
前述の比較例(図8)では、実用的な集電箔1の搬送速度であっても、混合層53の厚さL3は10μm以上(例えば15μm〜40μm程度)となるため、絶縁層52の厚さL2(絶縁層52の当初厚さL2)を薄くすると、最終的に得られた電極板において、絶縁層52の実質厚さL2´を確保するのが困難となる。このため、正極板と負極板の積層体において、正極と負極との間での短絡発生の可能性が高くなる。
これに対して、実施例1では、pHゲル化剤を含む第1塗布膜の表面上に、ゲル化pHに調整した絶縁材料12を塗布することで、第1塗布膜の表面pHが変化し、第1塗布膜の表面層がpHゲル化剤によりゲル化して、活物質粒子がゲル化領域に固定化される。その結果、混合層23の厚さL3を、比較例と比べて薄くすることができる。具体的には、上記した具体例において、混合層23の厚さL3を5μm以下とすることができる。
従って、実施例1では、セパレータである絶縁層を薄膜化しても、正極板と負極板との積層体において、正極と負極との間での短絡発生を防ぐことができる。さらに、セパレータである絶縁層を薄膜化することができることから、リチウムイオン二次電池の小型化、大容量化が可能となる。以上の点から、リチウムイオン二次電池の信頼性の向上と性能の向上とを図ることができる。
また、実施例1によれば、後述する実施例3〜4のように、第1塗工部と第2塗工部との間にpH調整部を別途設ける必要がないため、装置全体の構成を簡素化することができる。
実施例2によるリチウムイオン二次電池の製造方法は、絶縁材料として、当該絶縁材料を所定範囲のpH値でゲル化させる成分(pHゲル化剤)を含有するものを用いる点を特徴としている。
すなわち、実施例2では、第2塗布膜(絶縁材料)がpHゲル化剤によりゲル化するpH値(ゲル化pH)にpH調整された電極材料を、1層目の第1塗布膜として塗工した後、pH調整された第1塗布膜の表面上に、pHゲル化剤を含む絶縁材料を、2層目の第2塗布膜として塗工することを特徴としている。
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
実施例2によるリチウムイオン二次電池の製造方法について、図4を用いて説明する。図4は、実施例2に係るリチウムイオン二次電池の製造装置を示す模式図である。
なお、図4に示すリチウムイオン二次電池の製造装置は、第1塗工部31のタンク8にpHコントローラ14が設けられており、第2塗工部32のタンク9にpHコントローラ10が設けられていない点以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池の製造装置の構成と同じであり、詳細は省略する。
<混練・調合工程>
まず、リチウムイオン二次電池の正極又は負極を形成するための電極材料11を混練・調合する。電極材料11は、前述の実施例1と同様の活物質と導電助剤の粉末、これら粉末を結着させるためのバインダ、粘度調整のための増粘剤、及び溶剤を含むが、pHゲル化剤は含まない。
電極材料11は、高粘度スラリ状の液体であり、実施例2では、電極材料11のpH値を、絶縁材料12に配合されるpHゲル化剤により絶縁材料12がゲル化するpH値(ゲル化pH)に調整する。
電極材料11は、例えば負極活物質(活物質)、SBR(バインダ)、及びMC(増粘剤)の重量比が、例えば100:1:1となる割合で混合した材料に、さらに溶媒として水を添加し、これらをプラネタリーミキサーで混練して調整する。また、電極材料11を、例えばリン酸緩衝液を用いてpH3以下に調整する。
またさらに、混練・調合工程では、前述の実施例1と同様の無機酸化物、バインダ、増粘剤、及び溶媒を混合して、絶縁材料12を調合する。絶縁材料12は高粘度スラリ状の液体であり、実施例では、絶縁材料12にpHゲル化剤(例えばアルギン酸)をさらに含む。前述の実施例1と同様に、絶縁材料12は、ポリプロピレン又はポリエチレンの微粒子を混合しても良い。
絶縁材料12は、例えばシリカ(SiO)粉末(無機酸化物)、SBR(バインダ)、アルギン酸(pHゲル化剤)の重量比が、例えば100:1:1となる割合で混合した材料に、さらに溶媒として水を添加し、これらをプラネタリーミキサーで混練して調整する。
<第1の塗工工程(電極材料)>
次に、混練・調合工程で得られたスラリ状の電極材料11を、第1塗工部31に備わるダイコータ4を用いて、集電用金属箔ロール2から供給される集電箔1の表面上に薄く、均一に塗布して、第1塗布膜を形成する(第1の塗工工程)。
前述したように、電極材料11は、混練・調合工程において、pHゲル化剤により絶縁材料12がゲル化するpH値(ゲル化pH)にpH調整されている。
電極材料11はタンク8からダイコータ4に供給される。タンク8はpHコントローラ14により内部pHが監視・制御され、電極材料11のpH値が、絶縁材料12中のpHゲル化剤により絶縁材料12がゲル化するpHからずれた場合にpH調整が行われる。集電箔1及び第1塗布膜のそれぞれの厚さ及び幅は、前述の実施例1と同様である。
<第2の塗工工程(絶縁材料)及びpH調整(固化)工程>
次に、pHゲル化剤を含有するスラリ状の絶縁材料12を、第2塗工部32に備わるダイコータ6を用いて、第1塗布膜の表面上に薄く均一に塗布して、第2塗布膜を形成する(第2の塗工工程)。第2塗布膜の厚さ及び幅は、前述の実施例1と同様である。
すなわち、実施例2の第2の塗工工程では、上記のように、pH調整された電極材料11により形成された第1塗布膜の表面に、pHゲル化剤を含有する絶縁材料12を接触させるようにして、第2塗布膜が形成される。
pHゲル化剤を含有する絶縁材料12が、pH調整した電極材料11からなる第1塗布膜の表面に接触すると、絶縁材料12の溶剤と第1塗布膜中の溶剤が相互に浸透する。これにより、絶縁材料12の塗布と同時に、絶縁材料12の第1塗布面との接触面のpHが変化してゲル化pHとなることで、絶縁材料12がpHゲル化剤によりゲル化する(pH調整(固化)工程)。
つまり、実施例2では、絶縁材料12の塗布工程と絶縁材料12のpH調整(固化)工程とが同時に進行する。これにより、絶縁材料12からなる第2塗布膜を、第1塗布膜の表面上に形成する。第2塗布膜の厚さは、例えば80μm、その幅は、例えば160mmである。
このように、第2塗布膜の第1塗布膜との接触面のpHゲル化剤がゲル化することで、第2塗布膜を構成する無機酸化物粒子が固定(固化)される。第2塗布膜の第1塗布膜との接触面が固化することで、第1塗布膜の表面に接触する表面上の第2塗布膜内に、第1塗布膜を構成する活物質粒子が混入することを防ぐことができる。
ここで、第1塗布膜の表面で、絶縁材料12の溶剤と第1塗布膜中の溶剤が相互に浸透しpHが変化する際に、絶縁材料12がゲル化するpHが保たれるようにするため、電極材料11は緩衝剤を含むことが望ましい。
pH緩衝材を用いることで、絶縁材料12の第1塗布膜との接触面がゲル化pHに保たれ、第2塗布膜の第1塗布膜との接触面が固化するため、第1塗布膜の表面に接触させて形成された第2塗布膜内に、第1塗布膜を構成する活物質粒子が混入することを防ぐことができる。
<乾燥工程>
次に、第1塗布膜及び第2塗布膜が塗工された集電箔1を、乾燥室13内に搬送する。そして、乾燥室13内において、第1塗布膜中及び第2塗布膜中の溶剤成分を加熱して蒸発させることで、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥・固化させ、電極層及び絶縁層を一括で形成する。これにより、集電箔1の片面に、電極層及び絶縁層がこの順に積層された電極板(正極板又は負極板)が形成される。その後、電極板は巻き取りロール3に巻き取られる。
<加工工程>
次に、集電箔1に対し、圧縮及び切断などの加工を行い、所望のサイズの電極板を製造する。
(実施例2における技術的特徴及び効果)
以上のように、実施例2によるリチウムイオン二次電池の製造方法は、pHゲル化剤により絶縁材料12がゲル化するpHに調整した電極材料11を1層目の第1塗布膜として塗布する第1の塗工工程と、pHゲル化剤を含む絶縁材料12を2層目の第2塗布膜として塗布する第2の塗工工程と、この第2の塗布工程と同時に実施される、第2塗布膜の第1塗布膜との接触面をpH調整するpH調整(固化)工程とを有する。さらに、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥させる乾燥工程を有する。
また、実施例2によるリチウムイオン二次電池の製造装置は、pHゲル化剤により絶縁材料12がゲル化するpH(ゲル化pH)に調整した電極材料11を1層目の第1塗布膜として塗布する第1の塗工部31と、pHゲル化剤を含む絶縁材料12を2層目の第2塗布膜として塗布する第2の塗工部32と、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥させる乾燥部13とを備える。第2の塗工部32は、第2塗布膜を、第1塗布膜の表面に接触させるように形成することで、当該第2塗布膜の第1塗布膜との接触面のpH値を変化させる。第1の塗工部31は、電極材料11のpHを、絶縁材料12に含まれるpHゲル化剤のゲル化pHに制御するpHコントローラ14を備える。
実施例2によるリチウムイオン二次電池の製造方法の特徴は、絶縁材料12がpHゲル化剤を含んでおり、この絶縁材料12を、pH調整された電極材料11からなる第1塗布膜の表面上に塗布し、これと同時に、絶縁材料12の第1塗布面との接触面のpHが変化して、ゲル化することにある。
実施例2によれば、ゲル化pHの第1塗布膜を形成し、この第1塗布膜の表面上に、pHゲル化剤を含む絶縁材料12を塗布することで、絶縁材料12の第1塗布膜との接触面が、pHゲル化剤によりゲル化して、無機酸化物粒子が固定化する。その結果、絶縁材料12の無機酸化物粒子の第1塗布膜側への移動や活物質粒子の第2塗布膜側への移動が阻止され、図3に示したように、混合層23の厚さを例えば5μm以下と、比較例(図8)と比べて薄くすることができる。
従って、実施例2では、前述の実施例1とほぼ同様の効果を得ることができる。すなわち、正極と負極との間での短絡発生を防止しつつ、セパレータである絶縁層を薄膜化することができ、リチウムイオン二次電池の信頼性を維持しつつ、リチウムイオン二次電池の小型化、大容量化が可能となる。
また、実施例2では、絶縁材料12にpHゲル化剤を添加するため、電極材料11には、従来使用される材料を用いることができる。
実施例3によるリチウムイオン二次電池の製造方法は、pHゲル化剤を含む電極材料を、1層目の第1塗布膜として集電箔の表面上に塗工し、集電箔の表面側から第1塗布膜表面にpH調整液を噴霧した後、pH調整された第1塗布膜の表面上に、2層目の第2塗布膜として、絶縁材料を塗工することを特徴としている。
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
実施例3に係るリチウムイオン二次電池の製造方法について、図5を用いて説明する。図5は、実施例3又は後述の実施例4に係るリチウムイオン二次電池の製造装置を示す模式図である。
なお、図5に示すリチウムイオン二次電池の製造装置は、集電箔1の表面側(第1塗布膜の表面側)の第1塗工部31と第2塗工部32との間、すなわちダイコータ4とダイコータ6との間に噴霧機15が設けられている点、及びタンク8とタンク9のいずれにもpHコントローラを備えていない点以外は、図1に示す実施例1のリチウムイオン二次電池の製造装置及び図4に示す実施例2のリチウムイオン二次電池の製造装置の構成と同じであり、詳細は省略する。
<混練・調合工程>
まず、pHゲル化剤を含む電極材料11を前述の実施例1と同様に調整する。また、絶縁材料12を、前述の実施例1と同様に、スラリ状の液体として調整する。ただし、実施例3では、混練・調合工程では、絶縁材料12のpH調整は行わない。
<第1の塗工工程(電極材料)>
次に、混練・調合工程で得られたスラリ状の電極材料11を、第1の塗工部31に備わるダイコータ4を用いて、集電用金属箔ロール2から供給される集電箔1の表面上に薄く、均一に塗布して第1塗布膜を形成する(第1の塗工工程)。
電極材料11はタンク8からダイコータ4に供給される。集電箔1及び第1塗布膜のそれぞれの厚さ及び幅は、前述の実施例1と同様である。
<pH調整(固化)工程>
次に、集電箔1の表面側(第1塗布膜の表面側)に設置した噴霧機15を用いて、第1塗布膜表面上にpH調整液を噴霧する。噴霧されたpH調整液によって、第1塗布膜表面のpHが変化してゲル化pHとなることで、第1塗布膜に含まれるpHゲル化剤により、第1塗布膜の表面がゲル化し、第1塗布膜の表面が固化する。
第1塗布膜の表面が固化するため、後述の第2の塗工工程において、第1塗布膜の表面に接触させて形成された第2塗布膜内への、第1塗布膜を構成する活物質粒子の混入を防ぐことができる。
pH調整液としては、特に限定されないが、例えばリン酸とリン酸ナトリウムとの混合液を用いることができる。
このとき、噴霧機15から噴霧するpH調整液の量・噴霧粒径を適切に選択して使用することが重要である。噴霧ノズルの種類としては、液体のみを噴出する一流体ノズル、又は液体と気体を混合して噴出する二流体ノズルを使用できる。
噴霧により第1塗布膜に噴霧液が接触した際の衝撃を軽減する観点から、より微細な液滴を噴霧できる二流体ノズルを用いることが望ましい。また、ノズルから噴霧される噴霧粒子の平均粒子径D50は、20μm以下、より好ましくは10μm以下とすることで、塗布膜欠点等のダメージを防ぐことできる。
また、実施例3においては、噴霧するpH調整液の量により第一塗布膜のゲル化深さを制御することが可能である。噴霧量を増加させるほど、第1塗布膜内部にpH調整液が浸透する量が増加するため、ゲル化深さが深くなる。
ゲル化深さを第1塗布膜厚さと同等とした場合は、第1塗布膜の表面上に形成された第2塗布膜内への、第1塗布膜を構成する活物質粒子の混入を防止する効果に加えて、乾燥時における物質移動がなくなり、高速乾燥が可能となる効果が発現する。これは、第1塗布膜内の活物質粒子がゲル化により固定化されることで、乾燥時の溶媒移動に伴う物質移動が制限されるためである。
<第2の塗工工程(絶縁材料)>
次に、スラリ状の絶縁材料12を、第2の塗工部32に備わるダイコータ6を用いて、第1塗布膜の表面上に薄く、均一に塗布して、第2塗布膜を形成する(第2の塗工工程)。第2塗布膜の厚さ及び幅は、前述の実施例1と同様である。ここで、絶縁材料12はタンク9からダイコータ6に供給される。
<乾燥工程>
次に、第1塗布膜及び第2塗布膜が塗工された集電箔1を、乾燥室13内に搬送する。そして、乾燥室13内において、第1塗布膜中及び第2塗布膜中の溶剤成分を加熱して蒸発させることで、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥・固化させ、電極層及び絶縁層を一括で形成する。
これにより、集電箔1の片面に、電極層及び絶縁層がこの順に積層された電極板(正極板又は負極板)が形成される。その後、電極板は巻き取りロール3に巻き取られる。
<加工工程>
次に、集電箔1に対し、圧縮及び切断などの加工を行うことで、所望のサイズの電極板を製造する。
(実施例3における技術的特徴及び効果)
以上のように、実施例3によるリチウムイオン二次電池の製造方法は、pHゲル化剤を含む電極材料11を1層目の第1塗布膜として塗布する第1の塗工工程と、集電箔1の表面側から、噴霧機15を用いて、第1塗布膜表面上にpH調整液を噴霧するpH調整(固化)工程と、絶縁材料12を2層目の第2塗布膜として塗布する第2の塗工工程と、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥させる乾燥工程とを有する。
また、実施例3によるリチウムイオン二次電池の製造装置は、pHゲル化剤を含む電極材料11を1層目の第1塗布膜として塗布する第1の塗工部31と、集電箔1の表面側から第1塗布膜上に、噴霧機15を用いてpH調整液を噴霧するpH調整部と、絶縁材料12を2層目の第2塗布膜として塗布する第2の塗工部32と、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥させる乾燥部13とを備える。さらに、pH調整部としては、pH調整液を、噴霧粒子の平均粒子径D50が20μm以下となるように噴霧できる噴霧機構を備えることが望ましい。
実施例3によれば、pH調整(固化)工程により第1塗布膜の表面がpHゲル化剤によりゲル化して、活物質粒子がゲル化領域に固定化される。その結果、図3に示したように、混合層23の厚さを例えば5μm以下と、比較例(図8)と比べて薄くすることができる。
従って、実施例3では、前述の実施例1とほぼ同様の効果を得ることができる。すなわち、正極と負極との間での短絡発生を防止しつつ、セパレータである絶縁層を薄膜化することができ、リチウムイオン二次電池の信頼性を維持しつつ、リチウムイオン二次電池の小型化、大容量化が可能となる。
また、実施例3では、第1の塗工工程後にpH調整を行うため、絶縁材料のpH調整が不要となる。さらに、実施例3では、ゲル化深さを制御することができるため、ゲル化深さを第1塗布膜厚さとした場合は、乾燥時の物質移動がなくなり、高速乾燥が可能となる。
さらに、前述の実施例1、2と比較して、乾燥工程を高速化することが可能である。
実施例4によるリチウムイオン二次電池の製造方法は、集電箔の表面上に電極材料を1層目の第1塗布膜として塗工し、第1塗布膜の表面側からpH調整液を噴霧し、第1塗布膜表面をpH調整した後、pH調整された第1塗布膜の表面上に、pHゲル化剤を含む絶縁材料を、2層目の第2塗布膜として塗工することを特徴としている。
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
実施例4に係るリチウムイオン二次電池の製造方法について、図5を用いて説明する。
<混練・調合工程>
まず、電極材料11を前述の実施例2と同様に調整する。また、pHゲル化剤を含む絶縁材料12を、前述の実施例2と同様に、スラリ状の液体として調整する。ただし、実施例4では、混練・調合工程では、電極材料11のpH調整は行わない。
<第1の塗工工程(電極材料)>
次に、混練・調合工程で得られたスラリ状の電極材料11を、第1の塗工部31に備わるダイコータ4を用いて、集電用金属箔ロール2から供給される集電箔1の表面上に、薄く均一に塗布して、第1塗布膜を形成する(第1の塗工工程)。
電極材料11はタンク8からダイコータ4に供給される。集電箔1及び第1塗布膜のそれぞれの厚さ及び幅は、前述の実施例1と同様である。
<pH調整工程>
次に、集電箔1の表面側(第1塗布膜の表面側)に設置した噴霧機15を用いて、第1塗布膜表面上にpH調整液を噴霧し、第1塗布膜表面のpHを変化させる。
後述の第2の塗工工程では、pH調整した第1塗布膜により、この第1塗布膜表面に接触するように塗工された絶縁材料12の、第1塗布膜との接触面のpHが変化する。このため、この工程では、第1塗布膜の表面のpHは、絶縁材料12がpHゲル化剤によりゲル化するpH(ゲル化pH)に調整する。
すなわち、後述の第2の塗工工程において、絶縁材料12の第1塗布膜との接触面でpHが変化し、第2塗布膜の第1塗布膜との接触面がゲル化して固化する。このため、第1塗布膜の表面に接触する第2塗布膜内に、第1塗布膜を構成する活物質粒子が混入することを防ぐことができる。
このとき、噴霧機15から噴霧するpH調整液の量・噴霧粒径を適切に選択して使用することが重要である。噴霧ノズルの種類としては、液体のみを噴出する一流体ノズル、又は液体と気体を混合して噴出する二流体ノズルが使用できる。噴霧により第1塗布膜に噴霧液水が接触した際の衝撃を軽減する観点から、より微細な液滴を噴霧できる二流体ノズルを用いることが望ましい。また、ノズルから噴霧される噴霧粒子の平均粒子径D50は、20μm以下、より好ましくは10μm以下とすることで、塗布膜欠点等のダメージを防ぐことできる。
<第2の塗工工程(絶縁材料)及びpH(固化)工程>
次に、pHゲル化剤を含む絶縁材料12を、第2の塗工部32に備わるダイコータ6を用いて、第1塗布膜の表面上に薄く、均一に塗布して、第2塗布膜を形成する(第2の塗工工程)。また、第2塗布膜が第1塗布膜の表面上に形成されると同時に、第1塗布膜表面中のpH調整液が第2塗布膜に浸透し、第1塗布膜と第2塗布膜との接触面のpHが変化して、第2塗布膜の第1塗布膜との接触面がゲル化する。
第2塗布膜の厚さ及び幅は、前述の実施例1と同様である。また、絶縁材料12は、前述の実施例2と同様に、調整したスラリ状の液体である。
<乾燥工程>
次に、第1塗布膜及び第2塗布膜が塗工された集電箔1を、乾燥室13内に搬送する。そして、乾燥室13内において、第1塗布膜中及び第2塗布膜中の溶剤成分を加熱して蒸発させることで、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥・固化させ、電極層及び絶縁層を一括で形成する。これにより、集電箔1の片面に、電極層及び絶縁層がこの順に積層された電極板(正極板又は負極板)が形成される。その後、電極板は巻き取りロール3に巻き取られる。
<加工工程>
次に、集電箔1に対し、圧縮及び切断などの加工を行うことで、所望のサイズの電極板を製造する。
(実施例4による技術的特徴及び効果)
以上のように、実施例4によるリチウムイオン二次電池の製造方法は、電極材料11を1層目の第1塗布膜として塗布する第1の塗工工程と、集電箔1の表面側から、噴霧機15を用いて、第1塗布膜表面上にpH調整液を噴霧するpH調整工程を有する。さらに、pHゲル化剤を含む絶縁材料12を2層目の第2塗布膜として塗布する第2の塗工工程と、この第2の塗布工程と同時に実施される、第2塗布膜の第1塗布膜との接触面のpHを調整するpH調整(固化)工程と、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥させる乾燥工程とを有する。
また、実施例4によるリチウムイオン二次電池の製造装置は、電極材料11を1層目の第1塗布膜として塗布する第1の塗工部31と、集電箔1の表面側から、第1塗布膜上に噴霧機15を用いて、pH調整液を噴霧するpH調整部と、pHゲル化剤を含む絶縁材料12を2層目の第2塗布膜として塗布する第2の塗工部32と、第1塗布膜及び第2塗布膜を乾燥させる乾燥部13とを備える。第2の塗布膜は、第2の塗工部32により塗工されると同時に、第1の塗布膜との接触面がゲル化して固化する。さらに、pH調整部は、pH調整液を、噴霧粒子の平均粒子径D50が20μm以下となるように噴霧できる噴霧機構を備えることが好ましい。
実施例4によれば、pH調整部によりpH調整された第1塗布膜の表面上に、pHゲル化剤を含む絶縁材料12を塗布することで、絶縁材料12の第1塗布膜との接触面がゲル化して、無機酸化物粒子が固定化する。その結果、図3に示したように、混合層23の厚さを例えば5μm以下と、比較例(図8)と比べて薄くすることができる。
従って、実施例4では、前述の実施例1とほぼ同様の効果を得ることができる。すなわち、正極と負極との間での短絡発生を防止しつつ、セパレータである絶縁層を薄膜化することができ、リチウムイオン二次電池の信頼性を維持しつつ、リチウムイオン二次電池の小型化、大容量化が可能となる。
また、実施例4では、第1の塗工工程後にpH調整を行うため、電極材料のpH調整が不要となる。
以上、いくつかの実施形態について具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
また、上記実施形態は、リチウムイオン二次電池に限らず、例えば正極、負極、及び正極と負極とを電気的に分離するセパレータを備える蓄電デバイスに幅広く適用することができる。蓄電デバイスとして、例えば他の形式の電池、又はキャパシタなどがある。
集電箔…1、101、集電用金属箔ロール…2、102、巻き取りロール…3、103、ダイコータ…4、6、104、106、バックローラ…5、7、105、107、タンク…8、9、108、109、pHコントローラ…10、電極材料…11、絶縁材料…12、乾燥室…13、113、pHコントローラ…14、噴霧機…15、第1塗工部…31、第2塗工部…32、電極層…21、51、絶縁層…22、52、混合層…23、53、電極層51の実質厚さ…L1´、電極層51の初期厚さ…L1、絶縁層52の実質厚さ…L2´、絶縁層52の初期厚さ…L2、混合層53の厚さ…L3、口金…91、マニホールド…93、スリット…94、電極材料溜り…95、下流側リップ部…98、下流側メニスカス…99、間隔…h1

Claims (13)

  1. 集電箔の第1面に、スラリ状の電極材料を塗布して第1塗布膜を形成する第1塗布膜形成工程と、
    前記第1塗布膜の表面に、スラリ状の絶縁材料を塗布して第2塗布膜を形成する第2塗布膜形成工程と、
    前記電極材料又は前記絶縁材料として、そのいずれか一方にpHゲル化剤を含み、前記pHゲル化剤を含む前記第1塗布膜又は前記第2塗布膜の一部をpH調整によりゲル化させて、前記第1塗布膜の前記第2塗布膜との接触面又は前記第2塗布膜の前記第1塗布膜との接触面を固定化する固定化工程と、
    前記第1塗布膜及び前記第2塗布膜を乾燥させる乾燥工程と、を有することを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
  2. 前記電極材料として、前記pHゲル化剤を含むものを使用し、
    前記第2塗布膜形成工程で、前記第1塗布膜の前記表面に、pH調整された前記絶縁材料を塗布するか、又は
    前記第1塗布膜形成工程と前記第2塗布膜形成工程との間で、前記第1塗布膜の表面のpHを調整することにより、
    前記固定化工程を行う、請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
  3. 前記絶縁材料として、前記pHゲル化剤を含むものを使用し、
    前記第1塗布膜形成工程で、前記集電箔の前記第1面に、pH調整された前記電極材料を塗布するか、又は
    前記第1塗布膜形成工程と前記第2塗布膜形成工程との間で、前記第1塗布膜表面のpHを調整した後、
    前記第1塗布膜の表面に前記第2塗布膜を形成することにより、前記固定化工程を行う、請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
  4. 前記pHゲル化剤は、アルギン、アルギン酸塩のアルギン系高分子、キトサン及びその誘導体、カラギーナン、キサタンガム等の天然多糖類及びこれらの複合体、又はポリアクリル酸、架橋型ポリアクリル酸及びその誘導体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)誘導体の両性イオン型ポリマーからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
  5. 集電箔を搬送する搬送部と、
    スラリ状の電極材料を収容する第1タンクを有し、前記搬送部により搬送される前記集電箔の第1面に、前記電極材料を塗布して第1塗布膜を形成する第1塗工部と、
    スラリ状の絶縁材料を収容する第2タンクを有し、前記第1塗布膜の表面に前記絶縁材料を塗布して第2塗布膜を形成する第2塗工部と、
    前記第1塗布膜及び前記第2塗布膜を乾燥させる乾燥部と、
    前記電極材料若しくは前記絶縁材料又は前記集電箔の第1面に形成された前記第1の塗布膜のpH調整を行うpH調整部と、を有し、
    前記第1タンク又は前記第2タンクのうちのいずれか一方が、pHゲル化剤を収容することを特徴とするリチウムイオン電池の製造装置。
  6. 前記第1タンク又は前記第2タンクのいずれか一方が、前記電極材料又は前記絶縁材料のpHを調整する前記pH調整部を備えている、請求項5に記載のリチウムイオン電池の製造装置。
  7. 前記第1タンクが、前記pHゲル化剤を含有する前記電極材料を収容し、
    前記第2タンクが、前記絶縁材料のpHを調整する前記pH調整部を備えており、前記第2塗工部は、前記第2タンク内でpH調整された前記絶縁材料を、前記第1塗布膜の表面に塗布する、請求項6に記載のリチウムイオン電池の製造装置。
  8. 前記第1タンクが、前記電極材料のpHを調整する前記pH調整部を備えており、
    前記第2タンクが、前記pHゲル化剤を含有する前記絶縁材料を収容し、
    前記第1塗工部は、前記第1タンク内でpH調整された前記電極材料を、前記集電箔の第1面に塗布する、請求項6に記載のリチウムイオン電池の製造装置。
  9. 前記第1塗工部により前記集電箔の第1面上に形成された前記第1塗布膜のpHを調整する前記pH調整部が、前記第1塗工部と前記第2塗工部との間に設けられている、請求項5記載のリチウムイオン電池の製造装置。
  10. 前記第1タンクは、前記pHゲル化剤を含有する前記電極材料を収容し、
    前記pH調整部は、前記電極材料により形成された前記第1塗布膜表面のpHを、前記pHゲル化剤のゲル化pHに調整する、請求項9に記載のリチウムイオン電池の製造装置。
  11. 前記第2タンクは、前記pHゲル化剤を含有する前記絶縁材料を収容し、
    前記pH調整部は、前記第1塗布膜表面のpHを、前記pHゲル化剤のゲル化pHに調整し、前記第2塗工部は、pH調整された前記第1塗布膜表面に接触させるように、前記絶縁材料を塗布する、請求項9に記載のリチウムイオン電池の製造装置。
  12. 前記pH調整部は、前記pHゲル化剤として、アルギン、アルギン酸塩のアルギン系高分子、キトサン及びその誘導体、カラギーナン、キサタンガム等の天然多糖類及びこれらの複合体、又はポリアクリル酸、架橋型ポリアクリル酸及びその誘導体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)誘導体等の両性イオン型ポリマーからなる群から選択される少なくとも一つを収容する、請求項5に記載のリチウムイオン電池の製造装置。
  13. 前記pH調整部は、前記集電箔の前記第1面側に配置された、pH調整液噴霧機である、請求項9に記載のリチウムイオン電池の製造装置。
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