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JP5841862B2 - 高温超電導線材および高温超電導コイル - Google Patents

高温超電導線材および高温超電導コイル Download PDF

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Description

本発明は、高温超電導線材および高温超電導コイルに関する。
従来から使用されてきたNbTiなどの金属系超電導線材は丸線や角線などの形態で提供されており、形状の自由度が高い。これに対し、Bi系やY系などの臨界温度が90〜100K程度の高温酸化物超電導体は、超電導層がセラミックスから形成されており、また、その線材構造もテープ形状とされているので、曲げや捻回などの機械特性について劣化し易いという欠点がある。
例えば、図15に示す如くBi系の超電導線材100は、Bi系の超電導層101をAgのシース材102で被覆した状態となるようにPowder In Tube法(PIT法)などにより製造された構造となっている。一方、Yなどの希土類系の超電導線材200は、例えば図16に示す如く全く異なる構造とされている。
図16に示す超電導線材200は、テープ状の金属基材201上に中間層202を介し成膜法により酸化物超電導層203を積層し、AgやCuなどの安定化層204、205を被覆した積層構造とされる。そのため、図15に示す構造のBi系の超電導線材100のように厚さ方向に対称的な構造ではなく、希土類系の超電導線材200を用いて超電導コイルとするには、曲げや捻回などの方向性を考慮して設計する必要がある。
テープ状の超電導線材を巻回してコイルにするためには、超電導線材間の電気的な絶縁性を確保するため、超電導線材を絶縁材で被覆する必要がある。
超電導線材を絶縁被覆する方法としては、テープ状の超電導線材の外周にポリイミドテープ等の樹脂テープを巻き付ける方法や、超電導線材の外周面に樹脂を塗布して該樹脂を焼付けることにより、超電導線材の外周面に樹脂被膜を形成する方法(特許文献1参照)が知られている。
特開2000−311526号公報
特許文献1に記載の技術は、酸化物超電導体となる原料粉末を金属管に充填して縮径加工するPIT法により形成されたBi系の超電導線材に適用される技術である。PIT法により形成されたBi系の超電導線材は、図15に示す如く断面が楕円形状であり、超電導線材の外周全体に樹脂を塗布・焼付けして樹脂被膜を形成しやすい。
これに対し、図16に示す如くテープ状の金属基材201の上方に酸化物超電導層203が積層された希土類系の超電導線材200は断面が矩形状であり、その四隅が角張っている。そのため、図16に示す超電導線材200の外周に樹脂を塗布・焼付けして樹脂被膜を形成しようとすると、図17に示す如く超電導線材200の角部200a部分に絶縁被膜210を形成し難く、超電導線材200の外周全体を絶縁被覆できない場合がある。
絶縁被膜210の厚さを厚くすれば、角部200aを被覆可能であるが、絶縁被膜210の厚さが厚くなり過ぎると、超電導線材200を巻回してコイル加工した場合に、コイル断面に占める酸化物超電導層203の割合が低下し、当該コイルの電流密度が低下してしまう。また、特許文献1の実施例では、300℃以上350℃以下の温度で樹脂の焼付けを行って絶縁被覆層を形成しているが、希土類系の酸化物超電導層は300℃以上の温度では特性が劣化しやすいため、この熱処理条件を線材の構成や耐熱性が異なる希土類系の超電導線材にそのまま適用することは困難である。
ところで、絶縁被覆された超電導線材を巻回してコイル加工する際には、巻回状態の超電導線材間に熱硬化性樹脂を塗布あるいは注入して加熱硬化することにより、超電導線材の巻回状態を保つことが行われている。この熱硬化性樹脂の導入・硬化方法としては、以下の方法が知られている。
(1)巻回後の超電導線材をエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に浸漬させ、真空中で加圧して含浸させた後に、加熱して熱硬化性樹脂を硬化させる方法(真空加圧含浸法)。
(2)超電導線材を巻回する際に、超電導線材にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を塗布しながら巻回した後、加熱して熱硬化性樹脂を硬化させる方法。
(3)超電導線材を巻回する際に、半硬化エポキシテープ等の半硬化熱硬化性樹脂テープと、超電導線材とを、重ねた状態で共巻きして巻回した後、加熱して熱硬化性樹脂を硬化させる方法。
上記(1)の方法では、コイルが大型化するとコイル内部まで熱硬化性樹脂を含浸させることが難しくなるという問題がある。
上記(2)の方法では、長尺の超電導線材を巻回してコイル加工する際に、超電導線材全体に均一に熱硬化性樹脂を塗布することができない可能性がある。このような場合、超電導コイル運転時に液体窒素温度程度まで該コイルを冷却した際に、超電導線材を構成する金属材料と、熱硬化性樹脂よりなる樹脂層との線膨張係数の差により局所的に歪みを生じ、この歪みに起因して酸化物超電導層が劣化して超電導特性が低下するおそれがある。
上記(3)の方法では、半硬化熱硬化性樹脂テープの厚さが100μm未満になると、超電導線材巻回時の作業性が極端に悪くなる傾向がある。また、半硬化熱硬化性樹脂テープの厚さが100μm以上になると、コイル断面に占める酸化物超電導層の割合が低くなり、当該コイルの電流密度が低下してしまう。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、外周全体が絶縁被覆された高温超電導線材、及び該高温超電導線材を用いてなる高温超電導コイルの提供を目的とする。また、本発明は、電流密度の低下を抑制できる高温超電導コイルの提供も目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の高温超電導線材は、基板と中間層と酸化物超電導層と金属安定化層とがこの順に積層された超電導積層体と、前記超電導積層体の外周面を覆い、樹脂の焼付けにより形成された絶縁被覆層とを備え、前記超電導積層体の幅方向に沿う断面における角部が曲率半径を有する曲面となる面取りとされ、前記絶縁被覆層の厚さが12μm以上であり、前記角部の曲率半径が14.5mm以上であることを特徴とする。
本発明の高温超電導線材は、超電導積層体の幅方向に沿う断面における角部の曲率半径を14.5mm以上とし、且つ、絶縁被覆層の厚さを12μm以上に規定していることにより、超電導積層体の角部を覆うように絶縁被覆層形成用の樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体の角部を含む外周全体が絶縁被覆層により完全に覆われた構造を実現できる。従って、本発明の高温超電導線材は、超電導積層体が絶縁被覆層により外部から封止されており、水分などが酸化物超電導層に浸入することを低減でき、超電導特性の劣化を抑止できる。
本発明の高温超電導線材において、前記金属安定化層が、第1安定化層上に第2安定化層が積層された構造であり、前記第2安定化層が半田を介した金属テープの貼り合わせにより形成され、前記絶縁被覆層が170℃〜200℃の温度で焼付け可能な樹脂より形成されてなることができる。
この場合、絶縁被覆層形成時に、焼付け温度が高くなり過ぎることがなく、半田を介した金属テープの貼り合わせにより形成されている第2安定化層が、樹脂焼付け時に半田が溶融して剥離することを防止できる。
本発明の高温超電導線材において、前記金属安定化層が、第1安定化層上に第2安定化層が積層された構造であり、前記第2安定化層がめっき又は蒸着により形成され、前記絶縁被覆層が170℃〜280℃の温度で焼付け可能な樹脂より形成されてなることもできる。
この場合、絶縁被覆層7形成時に、焼付け温度が高くなり過ぎることがなく、樹脂焼付け時に酸化物超電導層中の酸素が抜けて酸化物超電導層が劣化することを防止できる。
また、本発明の高温超電導線材において、前記絶縁被覆層の外周面を覆い、半硬化の熱硬化性樹脂よりなる半硬化樹脂層を備えることもできる。
この場合、高温超電導線材を巻回した後、樹脂の含浸を行わなくともそのまま加熱することにより、半硬化樹脂層を硬化させてコイル径方向に隣接する高温超電導線材を固定してコイル加工することができる。従って、この形態の高温超電導線材から高温超電導コイルを製造することにより、コイル製造工程を簡素化できるとともに、従来の超電導コイル製造方法と比較して、コイル径方向に隣接する高温超電導線材間の樹脂の厚さを薄くできるため、超電導コイルの電流密度が高く、高性能な超電導コイルが実現可能である。
上記課題を解決するため、本発明の高温超電導コイルは、上記本発明の高温超電導線材高温超電導線材を巻回してなることを特徴とする。
本発明の高温超電導コイルは、上記した本発明の高温超電導線材より構成されているため、超電導積層体が絶縁被覆層により外部から封止された構造であり、酸化物超電導層への水分の浸入を低減できるので、超電導特性の劣化を抑制できる。
上記課題を解決するため、本発明の高温超電導コイルにおいて、前記金属安定化層として、第1安定化層上に第2安定化層を積層した構造であり、前記第2安定化層が前記超電導積層体の幅方向に沿う断面における4つの角部を占めるように配置され、前記第2安定化層の角部が前記曲率半径を有する曲面とすることができる。
金属製の第2安定化層の4つの角部を規定の曲率半径の角部とするので、金属製の第2安定化層の4つの角部を規定の曲率半径とすることで目的の構造を実現できる。即ち、角部を覆うように絶縁被覆層形成用の樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体の角部を含む外周全体を絶縁被覆層により完全に覆った構造を実現できる。
上記課題を解決するため、本発明の高温超電導コイルにおいて、前記金属安定化層が、第1安定化層上に第2安定化層と第3安定化層を備えた構造であり、前記第2安定化層が前記超電導積層体の幅方向に沿う断面における2つの角部を占めるように、前記第3安定化層が前記超電導積層体の幅方向に沿う断面における残り2つの角部を占めるように配置され、前記第2安定化層の2つの角部と前記第3安定化層の2つの角部が前記曲率半径を有する曲面とされた構造とすることができる。
第2安定化層に加え、第3安定化層を加えた構造においても、第2安定化層と第3安定化層の角部を規定の曲率半径とすることで、目的の構造を実現できる。即ち、角部を覆うように絶縁被覆層形成用の樹脂を塗布・焼付けすることができ、外周全体を絶縁被覆層により完全に覆った構造を実現できる。
上記課題を解決するため、本発明の高温超電導コイルは、上記半硬化樹脂層を備える本発明の高温超電導線材を巻回してなり、コイル径方向に隣接する前記高温超電導線材間に、前記半硬化樹脂層を加熱硬化させてなる樹脂層を備えることを特徴とする。
本発明の高温超電導コイルは、上記した本発明に係る高温超電導線材より形成されているため、従来の超電導コイルと比較して、絶縁被覆層および線材をコイル状に固定する硬化樹脂層の厚さは、従来の超電導コイルよりも薄く、厚さのバラつきも少なくできる。従って、コイル径方向に隣接する高温超電導線材間の間隔を小さくできるので、絶縁樹脂層や硬化樹脂層の厚さが厚くなりすぎることがなく、臨界電流密度の低下を抑制できる超電導コイルとなる。
また、従来、超電導コイルの製造は、超電導線材を巻回した後に、熱硬化性樹脂に含浸させ、さらに、加熱硬化させるという工程を経て行われていた。これに対し、本発明の高温超電導コイルは、半硬化樹脂層を備える高温超電導線材を巻回した後、加熱して半硬化樹脂層を硬化させて硬化樹脂層とすることにより製造でき、従来のコイルにおいて必要であった熱硬化性樹脂の含浸工程を省略できる。従って、本実施形態の高温超電導コイルは、従来の超電導コイルと比較して、簡略化された製造工程で製造できる。
本発明によれば、外周全体が完全に絶縁被覆された高温超電導線材、及び該高温超電導線材を用いてなる高温超電導コイルを提供できる。また、本発明によれば、高電流密度の小型で高性能な高温超電導コイルも提供できる。
本発明に係る高温超電導線材の第1実施形態を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の第2実施形態を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の第2実施形態の他の例を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の第3実施形態を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の第4実施形態を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の一例構造を示す概略斜視図である。 図6に示す高温超電導コイルにおいて、コイル径方向に隣接する高温超電導線材の一例構造を示す断面模式図である。 図8(a)は従来の超電導コイルの一例構造における径方向に沿う部分断面図であり、図8(b)は従来の超電導コイルの他の例における径方向に沿う部分断面図である。 本発明に係る高温超電導線材の第5実施形態を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の第6実施形態を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の第7実施形態を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の第8実施形態を示す断面模式図である。 本発明に係る高温超電導線材の第9実施形態を示す断面模式図である。 実施例6及び比較例1の耐湿性試験の結果を示すグラフである。 Bi系の超電導線材の一例構造を示す断面模式図である。 希土類系の超電導線材の一例構造を示す断面模式図である。 図16に示す超電導線材に絶縁被覆した場合の一例構造を示す断面模式図である。
以下、本発明に係る高温超電導線材および高温超電導コイルの実施形態について図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は本発明に係る高温超電導線材の第1実施形態の幅方向に沿う断面模式図である。
図1に示す高温超電導線材10は、基板11上に中間層12と酸化物超電導層13と金属安定化層4とがこの順に積層されてなる超電導積層体5の外周面上に、超電導積層体5の外周面全体を覆う絶縁被覆層7が形成され構成されている。金属安定化層4は、酸化物超電導層13上に形成された第1安定化層14と、第1安定化層14上に形成された第2安定化層15より構成されている。
基板11は、通常の超電導線材の基板として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状、シート状又はテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基板11としてニッケル(Ni)合金などに集合組織を導入した配向金属基板を用い、その上に中間層12および酸化物超電導層13を形成してもよい。
基板11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで強度が一層向上し、上限値以下とすることでオーバーオールの臨界電流密度を一層向上させることができる。
中間層12は、酸化物超電導層13の結晶配向性を制御し、基板11中の金属元素の酸化物超電導層13への拡散を防止するものである。さらに、基板11と酸化物超電導層13との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基板11と酸化物超電導層13との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層12の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示できる。
中間層12は、単層でも良いし、複数層でも良い。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も酸化物超電導層13に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
中間層12は、基板11側にベッド層が介在された複数層構造でもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
さらに、本発明において、中間層12は、基板11側に拡散防止層とベッド層が積層された複数層構造でもよい。この場合、基板11とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造となる。拡散防止層は、基板11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基板11とベッド層との間に拡散防止層を介在させることにより、中間層12を構成する他の層や酸化物超電導層13等を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基板11の構成元素の一部がベッド層を介して酸化物超電導層13側に拡散することを効果的に抑制することができる。基板11とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl、ベッド層としてYを用いる組み合わせを例示することができる。
また中間層12は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、酸化物超電導層13の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層13を構成する元素の中間層12への拡散や、酸化物超電導層13積層時に使用するガスと中間層12との反応を抑制する機能等を有するものである。
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。
中間層12の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層12が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
中間層12は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層13やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層12は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
酸化物超電導層13は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層13は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、中でもレーザ蒸着法が好ましい。
酸化物超電導層13の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
酸化物超電導層13上に積層されている第1安定化層14は、Agあるいは貴金属などの良電導性かつ酸化物超電導層13と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる。
第1安定化層14をAgから構成する理由としては、酸化物超電導層13に酸素をドープするアニール工程において、ドープした酸素を酸化物超電導層13から逃避し難くする性質を有する点を挙げることができる。Agの第1安定化層14を成膜するには、スパッタ法などの成膜法を採用し、その厚さは1〜30μm程度とされる。
第1安定化層14上に積層された第2安定化層15は、良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層13が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、第1安定化層14とともに、酸化物超電導層13の電流が転流するバイパスとして機能する。
第2安定化層15を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることから銅製が好ましい。
なお、酸化物超電導線材10を超電導限流器に使用する場合は、第2安定化層15は抵抗金属材料より構成され、Ni−Cr等のNi系合金などを使用できる。
第2安定化層15の形成方法は特に限定されず、例えば、銅などの良導電性材料よりなる金属テープを半田などの接合剤を介して第1安定化層14上に積層することにより形成できる。ここで、半田を介して金属テープを第1安定化層14上に積層して第2安定化層15を形成する場合に使用できる半田としては、特に限定されず、従来公知の半田を使用可能であり、例えば、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金などのSnを主成分とする合金よりなる鉛フリー半田、Pb−Sn系合金半田、共晶半田、低温半田などが挙げられ、これらの半田を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、融点が300℃以下の半田を用いることが好ましい。これにより、300℃以下の温度で金属テープと第1安定化層14を半田付けすることが可能となるので、半田付けの熱によって酸化物超電導層13の特性が劣化することを抑止できる。
第2安定化層15の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、10〜300μmとすることが好ましい。下限値以上とすることにより酸化物超電導層13を安定化する一層高い効果が得られ、上限値以下とすることにより酸化物超電導線材10を薄型化できる。
基板11と中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14と第2安定化層15とが積層された横断面略矩形状の超電導積層体5は、その幅方向に沿う断面における4つの隅側の角部5aが曲率半径を有する曲面とされ、角部5aの曲率半径は14.5mm以上に設定されている。超電導積層体5の角部5aの曲率半径を14.5mm以上とすることにより、後述する絶縁被覆層7を形成する際に、超電導積層体5の角部5aを含む外周全体に均一に樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5の外周全体を完全に覆う絶縁被覆層7を形成できる。そのため、絶縁被覆層7により超電導積層体5が完全に外部から封止された構造を実現できる。超電導積層体5の角部5aの曲率半径が14.5mm未満の場合、超電導積層体5の角部5aを覆うように絶縁被覆層7形成用の樹脂を塗布できず、角部5a上に絶縁被覆層7が形成できないおそれがあり、好ましくない。
超電導積層体5の角部5aの曲率半径の上限は特に限定されず、超電導積層体5の寸法やアスペクト比(幅/厚さ)により適宜調整可能である。
超電導積層体5の角部5aを前記範囲の曲率半径を有する曲面に加工する方法としては、従来公知の面取り加工方法が適用でき、例えば、超電導積層体5の角部を鑢などの工具あるいは研磨装置により研磨することにより所望の曲率半径の角部となるように加工できる。
超電導積層体5の角部を曲面に加工する場合、超電導積層体5を形成した後に角部を加工してもよく、予め基板11の角部11aおよび第2安定化層15の角部15aを曲面に加工した後に、各層を積層して超電導積層体5を形成してもよい。
超電導積層体5の外周全体を覆う絶縁被覆層7は、超電導積層体5の外周全体に樹脂を塗布した後、焼付けすることにより形成されており、その厚さは12μm以上に設定されている。超電導積層体5の角部5aの曲率半径を14.5mm以上とし、且つ、絶縁被覆層7の厚さを12μm以上とすることにより、超電導積層体5の角部5aを覆うように絶縁被覆層7形成用の樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5の角部5aを含む外周全体が絶縁被覆層7により完全に覆われた構造を実現できる。角部5aの曲率半径が14.5mm未満の場合、超電導積層体5の角部5aを覆うように絶縁被覆層7形成用の樹脂を塗布できず、角部5a上に絶縁被覆層7が形成できないおそれがあり、好ましくない。また、角部の曲率半径が14.5mm以上の場合にも、後述の実施例に示す如く、絶縁被覆層7の厚さが12μm未満であると角部5aを完全に覆うことができない。
絶縁被覆層7の厚さの上限は特に限定されないが、20μm以下とすることが好ましい。絶縁被覆層7の厚さを20μm以下とすることにより、断面積中に示す絶縁被覆層7の面積を削減できるので、高温超電導線材10を小型化できるとともに、高温超電導線材10をコイル加工した場合に、オーバーオールの電流密度を高くすることができる。
絶縁被覆層7を構成する樹脂としては、焼付けにより層を形成できるものであれば特に限定されず、例えば、ホルマール樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂(PEEK樹脂)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、パーフルオロアルコシキフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ素化樹脂、PTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。これらの中でも、170〜200℃の温度で焼付け可能な樹脂が好ましい。このような樹脂を用いることにより、絶縁被覆層7形成時に、焼付け温度が高くなり過ぎることがなく、半田等を介した金属テープの貼り合わせにより形成されている第2安定化層15が、樹脂焼付け時に半田が溶融して剥離することを防止できる。
絶縁被覆層7形成時の樹脂の焼付けは、200℃以下、例えば、170〜200℃の温度で行うことが好ましく、焼付け時間は適宜調整すればよい。このような条件で樹脂の焼付けを行うことにより、半田の溶融による第2安定化層15の剥離や、酸化物超電導層13の劣化を抑止できる。
樹脂を塗布する方法は、特に限定されず、ディップコート法やスプレーコート法等、従来公知の方法を適用することができる。
超電導積層体5への絶縁被覆層7の形成は、樹脂の塗布・焼付け処理を一度だけ行ってもよく、所望の厚さの絶縁被覆層7が形成されるまで樹脂の塗布・焼付け処理を複数回繰り返し行ってもよい。
本実施形態の高温超電導線材10は、超電導積層体5の角部5aの曲率半径および絶縁被覆層7の厚さが所定範囲に規定されていることにより、超電導積層体5の角部5aを含む外周全体が絶縁被覆層7により完全に覆われた構造を実現できる。したがって、本実施形態の高温超電導線材10は、超電導積層体5が絶縁被覆層7により外部から封止されており、水分などが酸化物超電導層13に浸入することを低減でき、超電導特性の劣化を抑止できる。
[第2実施形態]
図2は本発明に係る高温超電導線材の第2実施形態の幅方向に沿う断面模式図である。
図2に示す高温超電導線材10Bは、基板11上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とがこの順に積層されてなる矩形断面の積層体S1を中央に備え、この積層体S1の外周全体が第2安定化層15Bにより覆われた横断面略矩形状の超電導積層体5Bの外周面上に、超電導積層体5Bの外周面全体を覆う絶縁被覆層7Bが形成され構成されている。金属安定化層4Bは、酸化物超電導層13上に形成された第1安定化層14と、積層体S1の外周全体を覆う第2安定化層15Bより構成されている。
本実施形態の高温超電導線材10Bは、第2安定化層15Bが基板11上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とが積層された積層体S1の外周全体を覆っている点で、上記第1実施形態の高温超電導線材10とは異なっている。図2に示す高温超電導線材10Bにおいて図1に示す高温超電導線材10と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
積層体S1の外周全体を覆う第2安定化層15Bは、酸化物超電導層13が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、第1安定化層14とともに、酸化物超電導層13の電流が転流するバイパスとして機能する。
第2安定化層15Bは、電気めっき又は蒸着により形成されている。第2安定化層15Bを構成する材質としては、良導電性の金属が好ましく、銅、アルミニウムなどが挙げられ、高い導電性を有するため銅が特に好ましい。第2安定化層15Bの厚さは特に限定されず、適宜変更可能であるが、10〜100μm程度とすることができ、20μm以上100μm以下とすることが好ましく、20μm以上50μm以下とすることがより好ましい。第2安定化層15Bの厚さを10μm以上とすることにより酸化物超電導層13を安定化する一層高い効果が得られ、100μm以下とすることにより高温超電導線材10Bを薄型化できる。
めっきにより銅の第2金属安定化層15Bを形成するには、硫酸銅水溶液のめっき浴中に積層体S1を浸漬させて電気めっきを行えばよい。
基板11と中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14と第2安定化層15Bよりなる超電導積層体5Bは、その幅方向に沿う断面における角部5Baが曲率半径を有する曲面とされ、角部5Baの曲率半径は14.5mm以上に設定されている。超電導積層体5Bの角部5Baの曲率半径を14.5mm以上とすることにより、絶縁被覆層7Bを形成する際に、超電導積層体5Bの角部5Baを含む外周全体に樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5Bの外周全体を覆う絶縁被覆層7Bを形成できる。
超電導積層体5Bの角部5Baの曲率半径の上限は前記第1実施形態の高温超電導線材10と同様である。
超電導積層体5Bの角部5Baを前記範囲の曲率半径を有する曲面に加工する方法としては、従来公知の面取り加工方法が適用でき、例えば、超電導積層体5の角部を鑢などの工具あるいは研磨装置により研磨することにより所望の曲率半径の角部となるように加工できる。なお、めっき又は蒸着により形成された第2安定化層15Bはその角部が曲面状になる傾向があるので、第2安定化層15Bがそのままの状態で前記範囲の曲率半径を有する曲面となっている場合、面取り加工は省略できる。なお、曲率は全側面が一致しなくてもその一部が該当する範囲の曲面を有していることで効果が得られるので、一部分であっても良い。
超電導積層体5Bのアスペクト比(幅/厚さ)は前記第1実施形態の高温超電導線材10と同様である。
超電導積層体5Bの外周全体を覆う絶縁被覆層7Bは、超電導積層体5Bの外周全体に樹脂を塗布した後、焼付けすることにより形成されており、その厚さは12μm以上に設定されている。超電導積層体5Bの角部5Baの曲率半径を前記範囲とし、且つ、絶縁被覆層7Bの厚さを12μm以上とすることにより、超電導積層体5の角部5aを覆うように絶縁被覆層7形成用の樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5Bの角部5Baを含む外周全体が絶縁被覆層7Bにより完全に覆われた構造を実現できる。絶縁被覆層7Bの厚さの上限は特に限定されないが、20μm以下とすることが好ましい。絶縁被覆層7Bの厚さを20μm以下とすることにより、断面積中に示す絶縁被覆層7の面積を削減できるので、高温超電導線材10Bを小型化できるとともに、高温超電導線材10Bをコイル加工した場合に、オーバーオールの高い電流密度が実現できる。
絶縁被覆層7Bを構成する樹脂としては、焼付けにより層を形成できるものであれば特に限定されず、前記第1実施形態の高温超電導線材10と同様のものが挙げられる。これらの中でも、280℃以下、例えば、170〜280℃の温度で焼付け可能な樹脂が好ましい。このような樹脂を用いることにより、絶縁被覆層7B形成時に、焼付け温度が高くなり過ぎることがなく、樹脂焼付け時に酸化物超電導層13中の酸素が抜けて酸化物超電導層13が劣化することを防止できる。
絶縁被覆層7B形成時の樹脂の焼付けは、170〜280℃の温度で行うことが好ましく、焼付け時間は適宜調整すればよい。このような条件で樹脂の焼付けを行うことにより、酸化物超電導層13の劣化を抑止できる。
樹脂を塗布する方法は、特に限定されず、ディップコート法やスプレーコート法等、従来公知の方法を使用することができる。
超電導積層体5Bへの絶縁被覆層7Bの形成は、樹脂の塗布・焼付け処理を一度だけ行ってもよく、所望の厚さの絶縁被覆層7Bが形成されるまで樹脂の塗布・焼付け処理を複数回繰り返し行ってもよい。
本実施形態の高温超電導線材10Bは、超電導積層体5Bの角部5Baの曲率半径および絶縁被覆層7Bの厚さが所定範囲に規定されていることにより、超電導積層体5の角部5aを覆うように絶縁被覆層7形成用の樹脂を塗布、焼付けすることができ、超電導積層体5Bの角部5Baを含む外周全体が絶縁被覆層7Bにより完全に覆われた構造を実現できる。したがって、本実施形態の高温超電導線材10Bは、超電導積層体5Bが絶縁被覆層7Bにより外部から封止されており、水分などが酸化物超電導層13に浸入することを低減でき、超電導特性の劣化を抑止できる。
なお、図2に示す高温超電導線材10Bでは積層体S1の幅方向に沿う矩形断面の4つの角部が角張っている例を示しているが、図3に示す如く積層体S1の角部を面取り加工して曲面としてもよい。図3に示す高温超電導線材10Bにおいて、積層体S1の角部の曲率半径は特に限定されないが、めっきにより第2安定化層15Bを形成した際に、自動的に第2安定化層15Bの角部が前記範囲の曲率半径を有する曲面となるように設定することが好ましい。このように予め積層体S1の角部が曲面となるように面取り加工することにより、積層体S1の外周に形成される第2安定化層15Bが前記範囲の曲率半径を有する曲面とすることもできる。
積層体S1の角部を曲面に加工する方法としては、従来公知の面取り加工方法が適用でき、例えば、積層体S1の角部を鑢などの工具や研磨装置により研磨することにより所望の曲率半径の角部となるように加工できる。
積層体S1の角部を曲面に加工する場合、積層体S1を形成した後に角部を加工してもよく、予め基板11の角部11aを曲面に加工した後に、各層を積層して積層体S1とし、さらに、第1安定化層14の角部14aを曲面に加工してもよい。
[第3実施形態]
図4は本発明に係る高温超電導線材の第3実施形態の幅方向に沿う断面模式図である。
図4に示す高温超電導線材10Cは、基板11上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とがこの順に積層されてなる超電導積層体5Cの外周面上に、超電導積層体5Cの外周面全体を覆う絶縁被覆層7Cが形成され構成されている。
本実施形態の高温超電導線材10Cは、金属安定化層4Cが第1安定化層14の一層よりなる点で、上記第1実施形態の高温超電導線材10とは異なっている。図4に示す高温超電導線材10Cにおいて図1に示す高温超電導線材10と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
基板11と中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14よりなる横断面略矩形状の超電導積層体5Cは、その幅方向に沿う断面における角部5Caが曲率半径を有する曲面とされ、角部5Caの曲率半径は14.5mm以上に設定されている。超電導積層体5Cの角部5Caの曲率半径を14.5mm以上とすることにより、絶縁被覆層7Cを形成する際に、超電導積層体5Cの角部5Caを含む外周全体に樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5Cの外周全体を覆う絶縁被覆層7Cを形成できる。
超電導積層体5Cの角部5Caの曲率半径の上限は前記第1実施形態の高温超電導線材10と同様である。
超電導積層体5Cの角部5Caを前記範囲の曲率半径を有する曲面に加工する方法は前記第1実施形態の高温超電導線材10と同様である。
超電導積層体5Cの角部を、前記曲率半径を有する曲面に加工する場合、超電導積層体5Cを形成した後に角部を加工してもよく、予め基板11の角部11aを曲面に加工した後に各層を積層し、さらに、第1安定化層14の角部14aを曲面に加工してもよい。
超電導積層体5Cのアスペクト比(幅/厚さ)は前記第1実施形態の高温超電導線材10と同様である。
超電導積層体5Cの外周全体を覆う絶縁被覆層7Cは、超電導積層体5Cの外周全体に樹脂を塗布した後、焼付けすることにより形成されており、その厚さは12μm以上に設定されている。超電導積層体5Cの角部5Caの曲率半径を前記範囲とし、且つ、絶縁被覆層7Cの厚さを12μm以上とすることにより、超電導積層体5Cの角部5Caを含む外周全体が絶縁被覆層7Cにより覆われた構造を実現できる。絶縁被覆層7Cの厚さの上限は特に限定されないが、20μm以下とすることが好ましい。絶縁被覆層7Cの厚さを20μm以下とすることにより、断面積中に示す絶縁被覆層7の面積を削減できるので、高温超電導線材10Cを小型化できるとともに、高温超電導線材10Cをコイル加工した場合に、オーバーオールの電流密度を高くすることができる。
絶縁被覆層7Cを構成する樹脂としては、焼付けにより層を形成できるものであれば特に限定されず、前記第1実施形態の高温超電導線材10と同様のものが挙げられる。これらの中でも、170〜280℃の温度で焼付け可能な樹脂が好ましい。このような樹脂を用いることにより、絶縁被覆層7C形成時に、焼付け温度が高くなり過ぎることがなく、樹脂焼付け時に酸化物超電導層13中の酸素が抜けて酸化物超電導層13が劣化することを防止できる。
本実施形態の高温超電導線材10Cは、超電導積層体5Cの角部5Caの曲率半径および絶縁被覆層7Cの厚さが所定範囲に規定されていることにより、超電導積層体5の角部5aを覆うように絶縁被覆層7形成用の樹脂を塗布、焼付けすることができ、超電導積層体5Cの角部5Caを含む外周全体が絶縁被覆層7Cにより完全に覆われた構造を実現できる。したがって、本実施形態の高温超電導線材10Cは、超電導積層体5Cが絶縁被覆層7Cにより外部から封止されており、水分などが酸化物超電導層13に浸入することを低減でき、超電導特性の劣化を抑止できる。
[第4実施形態]
上記第1〜第3実施形態の高温超電導線材10、10B、10B、10Cは、さらに、絶縁被覆層7、7B、7Cの外周面を覆い、半硬化の熱硬化性樹脂よりなる半硬化樹脂層を備えていることも好ましい。以下に一例として、図3に示す高温超電導線材10Bが半硬化樹脂層を備える場合について説明するが、本発明はこの実施形態に限定されず、上記第1〜第3実施形態の高温超電導線材のいずれも、半硬化樹脂層を有する構成とすることができる。
図5は本発明に係る高温超電導線材の第4実施形態の幅方向に沿う断面模式図である。
図5に示す高温超電導線材10Dは、基板11上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とがこの順に積層されてなる積層体S1を中央に備え、この積層体S1の外周全体が第2安定化層15Bにより覆われた横断面略矩形状の超電導積層体5Bの外周面上に、超電導積層体5Bの外周面全体を覆う絶縁被覆層7Bが形成され、さらに絶縁被覆層7Bの外周面上に絶縁被覆層7Bの外周全体を覆う半硬化樹脂層9が形成されている。図5に示す高温超電導線材10Cにおいて図3に示す高温超電導線材10Bと同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
絶縁被覆層7Bの外周全体を覆う半硬化樹脂層9は、図3に示す高温超電導線材10Bの外周全体に熱硬化性樹脂を塗布した後、加熱して熱硬化性樹脂を半硬化状態とすることにより形成されている。
半硬化樹脂層9形成時の熱硬化性樹脂の加熱は、150〜200℃の温度で行うことが好ましく、加熱時間は適宜調整すればよい。このような条件で熱硬化性樹脂の加熱を行うことにより、熱硬化性樹脂を半硬化状態にできるとともに、加熱により酸化物超電導層13が劣化することを抑止できる。
半硬化樹脂層9の形成に使用できる熱硬化性樹脂としては、前記した加熱条件で半硬化状態になる熱硬化性樹脂であれば特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂を塗布する方法は、特に限定されず、ディップコート法やスプレーコート法等、従来公知の方法を使用することができる。
本実施形態の高温超電導線材10Dをコイル加工する場合、高温超電導線材10Dを巻回した後、樹脂の含浸を行わなくともそのまま加熱することにより、半硬化樹脂層9が硬化してコイル径方向に隣接する高温超電導線材10を固定することができる。したがって、本実施形態の高温超電導線材10Dより高温超電導コイルを製造することにより、コイル製造工程を簡素化できるとともに、後述の如く従来の超電導コイル製造方法と比較して、コイル径方向に隣接する高温超電導線材間の樹脂の厚さを薄くできるため、超電導コイルの電流密度を高くすることができる。
半硬化樹脂層9の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、2〜20μmとすることが好ましく、2〜5μmとすることがより好ましい。半硬化樹脂層9の厚さを前記範囲とすることにより、高温超電導線材10Dをコイル加工した場合に、オーバーオールの電流密度を高くできる。
次に、本発明に係る超電導コイルの一実施形態について説明する。
図6は、本発明に係る高温超電導コイルの一実施形態を示す概略斜視図である。
図6に示す高温超電導コイル50は、第1のコイル体51上に、第2のコイル体52が、同軸的に積層されて構成されている。
第1のコイル体51は、上述した本発明の高温超電導線材が同心円状、反時計回りに多数回巻回されて構成されたパンケーキ型のコイル体である。第2のコイル体52は、上述した本発明の高温超電導線材が、同心円状、時計回りに多数回巻回されて構成されたパンケーキ型のコイル体である。
第1のコイル体51の巻回終端である外周端部51aと、第2のコイル体52の巻回端部である外周端部52aとは、互いに隣接するように配されており、外周端部51a、52a側では絶縁被覆層7が除去されて超電導積層体5が引き出された状態とされ、隣接配置された金属安定化層4同士が良導電性の接続板(図示略)により、電気的および機械的に接続されている。
本実施形態の高温超電導コイル50を構成する高温超電導線材は、上記した本発明の高温超電導線材より構成されているため、超電導積層体5が絶縁被覆層7により外部から封止された構造であるため、酸化物超電導層13への水分の浸入を低減でき、超電導特性が劣化を抑制できる。
本実施形態の高温超電導コイル50においては、上記第4実施形態の高温超電導線材10Dの如く絶縁被覆層7Bの外周上に半硬化樹脂層9が形成された線材より構成されることが好ましい。
図7は、本実施形態の高温超電導コイル50が、図5に示す高温超電導線材10Dより構成される場合の、コイル径方向に隣接する高温超電導線材10Dの様子を模式的に示す断面図である。
図7に示す高温超電導コイル50は、図5に示す高温超電導線材10Dを同心円状に巻回した後に加熱することにより、高温超電導線材10Dの半硬化樹脂層9を硬化させて製造できる。コイル径方向に隣接する高温超電導線材10Dは、半硬化樹脂層9が硬化した硬化樹脂層9Gにより固定されている。
従来、超電導コイルの製造は、超電導線材を巻回した後に、熱硬化性樹脂に含浸させ、さらに、加熱硬化させるという工程を経て行われていた。これに対し、図6に示す本実施形態の高温超電導コイル50は、半硬化樹脂層9を備える高温超電導線材10Dを巻回した後、加熱して半硬化樹脂層9を硬化させて硬化樹脂層9Gとすることにより製造でき、従来のコイルにおいて必要であった熱硬化性樹脂の含浸工程を省略できる。従って、本実施形態の高温超電導コイル50は、従来の超電導コイルと比較して、簡略化された製造工程で製造できる。また、製造工程を簡略化できるので、製造コストを抑えることができる。
図8(a)は従来の超電導コイルの一例構造における径方向に沿う部分断面図であり、図8(b)は従来の超電導コイルの他の例における径方向に沿う部分断面図である。
図8(a)に示す超電導コイル310は、基板上に中間層と酸化物超電導層と金属安定化層とが順次積層された超電導線材311と、絶縁性の樹脂テープ312を重ね合わせた状態で、同心円状に巻回してコイル状とした後に、このコイル状物を熱硬化性樹脂に含浸させて加熱硬化させた樹脂層315により固定することにより形成される。この形態の超電導コイル310では、使用する樹脂テープ312の厚さが50μmを下回ると巻回時の作業性が悪くなる傾向にあり、また、樹脂テープ312の厚さが50μmを超えて厚くなり過ぎると、超電導コイル310の臨界電流密度が低下してしまう。さらに、超電導線材311の長手方向における樹脂層315Aの厚さは不均一になりやすい。
図8(b)に示す超電導コイル320は、基板上に中間層と酸化物超電導層と金属安定化層とが順次積層された超電導線材321の外周に絶縁性の樹脂テープ322を巻きつけたものを同心円状に巻回してコイル状とした後に、このコイル状物を熱硬化性樹脂に含浸させて加熱硬化させた樹脂層325により固定することにより形成される。この形態の超電導コイル320では、使用する樹脂テープ322の厚さが50μmを下回ると超電導線材321への巻き付け時の作業性が悪くなる傾向にあり、また、樹脂テープ322の厚さが厚くなり過ぎると、超電導コイル320の臨界電流密度が低下してしまう。さらに、超電導線材321の長手方向における樹脂層325Aの厚さは不均一になりやすい。
本実施形態の高温超電導コイル50は、上記した本発明に係る高温超電導線材を巻回して形成されているため、図8(a)および図8(b)に示す超電導コイル310、320と比較して、樹脂の塗布・焼付けにより形成された絶縁被覆層7は薄く、また、熱硬化性樹脂の塗布・加熱により形成された半硬化樹脂層9の厚さは薄く、厚さのバラつきも少ない。そのため、超電導コイル50における絶縁被覆層7および硬化樹脂層9Gの厚さは、図8に示す超電導コイル310、320の樹脂テープ312、322および樹脂層315、325の厚さよりも薄く、厚さのバラつきも少なくできる。従って、コイル径方向に隣接する高温超電導線材(超電導積層体5B)間の間隔を小さくできるので、絶縁樹脂層7や硬化樹脂層9Gの厚さが厚くなりすぎることがなく、臨界電流密度を高くすることができる超電導コイル50となる。
[第5実施形態]
図9は本発明に係る高温超電導線材の第5実施形態の横断面模式図である。
図9に示す高温超電導線材10Eは、基板11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とをこの順に積層し、この積層物の周面を第2安定化層15Eで覆ってなる超電導積層体5Eの周面上に、絶縁被覆層7Eが形成されている。第2安定化層15Eは基板11の他方の面の中央部を除いて前記積層物の周面を横断面C字型をなすように覆っていて、先の第1実施形態の第2安定化層15と同等材料からなる。第2安定化層15Eにより覆われていない基板11の他方の面の中央部は半田層25により覆われ、半田層25は第2安定化層15Eの端縁どうしが形成する凹部を埋めるように形成されている。また、絶縁被覆層7Eは先の第1実施形態の絶縁被覆層7と同等のものである。
図9に示す高温超電導線材10Eにおいて図1に示す高温超電導線材10と同一の構成要素については同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
基板11と中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14と第2安定化層15Eからなる横断面略矩形状の超電導積層体5Eにおいて、その幅方向に沿う断面における角部5Eaが曲率半径を有する曲面とされ、角部5Eaの曲率半径は14.5mm以上に設定されている。超電導積層体5Eの角部5Eaの曲率半径を14.5mm以上とすることにより、絶縁被覆層7Eを形成する際に、超電導積層体5Eの角部5Eaを含む外周全体に樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5Eの外周全体を覆う絶縁被覆層7Eを形成できる。超電導積層体5Eの角部5Eaの曲率半径の上限は前記第1実施形態の高温超電導線材10と同様である。
この第5実施形態の構造においても先の第1実施形態の構造と同様の作用効果を得ることができる。
[第6実施形態]
図10は本発明に係る高温超電導線材の第6実施形態の横断面模式図である。
図10に示す高温超電導線材10Fにおいて、基板11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とをこの順に積層し、この積層物の周面を第2安定化層15Fで覆い、更にその一面上に第3安定化層16Fを積層して超電導積層体5Fが構成されている。第2安定化層15Fは基板11の他方の面の中央部を除いて前記積層物の周面を横断面C字型をなすように覆っていて、先の第1実施形態の第2安定化層15と同等材料からなる。第2安定化層15Fにより覆われていない基板11の他方の面の中央部は半田層25により覆われ、半田層25は第2安定化層15Fの端縁どうしが形成する凹部を埋めるように形成されている。また、第2安定化層15Fに対し半田層25を設けた位置の外側に第2安定化層15Fと同じ幅の銅テープなどからなる第3安定化層16Fを沿わせて超電導積層体5Fが構成され、この超電導積層体5Fの外方に絶縁被覆層7Eが形成されている。図10に示す高温超電導線材10Fにおいて図9に示す高温超電導線材10Eと同一の構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を略する。
基板11と中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14と第2安定化層15Fと第3安定化層16Fよりなる横断面略矩形状の超電導積層体5Fにおいて、その幅方向に沿う断面における角部5Faが曲率半径を有する曲面とされ、角部5Faの曲率半径は14.5mm以上に設定されている。超電導積層体5Fの角部5Faの曲率半径を14.5mm以上とすることにより、絶縁被覆層7Eを形成する際に、超電導積層体5Fの角部5Faを含む外周全体に樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5Fの外周全体を覆う絶縁被覆層7Eを形成できる。超電導積層体5Fの角部5Faの曲率半径の上限は前記先の実施形態の高温超電導線材10Eと同様である。なお、本実施形態では、超電導積層体5Fの4つの角部のうち、第2安定化層15Fによって2つの角部が構成され、第3安定化層16Fによって他の2つの角部が構成されている。なお、図10に示す構造においては、第3安定化層16Fを半田層25の外側に配置したが、第3安定化層16Fを酸化物超電導層13に近い側に配置しても良い。即ち、第1安定化層14の外側に積層された第2安定化層15Fの外側に接するように第3安定化層16Fが積層されていても良い。酸化物超電導層13に近い位置に第3安定化層16Fを配置した方が超電導特性の安定化の面では有利である。
この第6実施形態の構造においても先の第1実施形態の構造と同様の作用効果を得ることができる。
[第7実施形態]
図11は本発明に係る高温超電導線材の第7実施形態の横断面模式図である。
図11に示す高温超電導線材10Gは、基板11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とをこの順に積層し、基板11の他方の面上にスズ箔をフォーミングすることにより接合層17を形成してなる積層物の周面を第2安定化層15Gで覆ってなる超電導積層体5Gの周面上に、絶縁被覆層7Eが形成されている。第2安定化層15Gは基板11の他方の面側の中央部を除いて前記積層物の周面を横断面C字型をなすように覆っていて、先の第1実施形態の第2安定化層15と同等材料からなる。第2安定化層15Eにより覆われていない基板11の他方の面側の接合層17の中央部は半田層25により覆われ、半田層25は第2安定化層15Gの端縁どうしが形成する凹部を埋めるように形成されている。なお、接合層17と半田層25を同一材料で構成することも可能なので、同一材料で構成する場合は接合層17と半田層25は一体構造とされる。
図11に示す高温超電導線材10Gにおいて図9に示す高温超電導線材10Eと同一の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明を略する。
基板11と中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14と接合層17と第2安定化層15Gからなる横断面略矩形状の超電導積層体5Gにおいて、その幅方向に沿う断面における角部5Gaが曲率半径を有する曲面とされ、角部5Gaの曲率半径は14.5mm以上に設定されている。超電導積層体5Gの角部5Gaの曲率半径を14.5mm以上とすることにより、絶縁被覆層7Eを形成する際に、超電導積層体5Gの角部5Gaを含む外周全体に樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5Gの外周全体を覆う絶縁被覆層7Eを形成できる。超電導積層体5Gの角部5Gaの曲率半径の上限は先の実施形態の高温超電導線材10Eと同様である。
この第7実施形態の構造においても先の第1実施形態の構造と同様の作用効果を得ることができる。
[第8実施形態]
図12は本発明に係る高温超電導線材の第8実施形態の横断面模式図である。
図12に示す高温超電導線材10Hにおいて、基板11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とをこの順に積層し、基板11の他方の面にスズ箔をフォーミングすることにより接合層17を形成してなる積層物の周面を第2安定化層15Hで覆い、更にその一面上に第3安定化層16Hを積層して超電導積層体5Hが構成されている。第2安定化層15Hは基板11の他方の面の接合層17の外側中央部を除いて前記積層物の周面を横断面C字型をなすように覆っていて、先の第1実施形態の第2安定化層15と同等材料からなる。第2安定化層15Hにより覆われていない接合層17の外側中央部は半田層25により覆われ、半田層25は第2安定化層15Hの端縁どうしが形成する凹部を埋めるように形成されている。また、第2安定化層15Hに対し半田層25を設けた位置の外側にC字型の第2安定化層15Hと同じ幅の銅テープなどからなる第3安定化層16Hを沿わせて超電導積層体5Hが構成され、この超電導積層体5Hの外方に絶縁被覆層7Eが形成されている。
図12に示す高温超電導線材10Hにおいて図9に示す高温超電導線材10Eと同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
基板11と中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14と第2安定化層15Hと第3安定化層16Hよりなる横断面略矩形状の超電導積層体5Hは、その幅方向に沿う断面における角部5Haが曲率半径を有する曲面とされ、角部5Haの曲率半径は14.5mm以上に設定されている。超電導積層体5Hの角部5Haの曲率半径を14.5mm以上とすることにより、絶縁被覆層7Eを形成する際に、超電導積層体5Hの角部5Haを含む外周全体に樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5Hの外周全体を覆う絶縁被覆層7Eを形成できる。超電導積層体5Hの角部5Haの曲率半径の上限は前記先の実施形態の高温超電導線材10Eと同様である。なお、図12に示す構造においては、第3安定化層16Hを半田層25の外側に配置したが、第3安定化層16Hを酸化物超電導層13に近い側に配置しても良い。即ち、第1安定化層14の外側に積層された第2安定化層15Fの外側に接するように第3安定化層16Hが積層されていても良い。
この第8実施形態の構造においても先の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
[第9実施形態]
図13は本発明に係る高温超電導線材の第9実施形態の横断面模式図である。
図13に示す高温超電導線材10Jにおいて、基板11の一方の面上に中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14とをこの順に積層してなる超電導積層体5Jの外周面上に、超電導積層体5Jの一側面中央側に端縁を突き合わせて半田付けあるいは溶接して全体を横断面C字型をなして覆う第2の安定化層15Jが形成され、更にその外方に絶縁被覆層7Eが形成されている。なお、第2の安定化層15Jは、先の第1実施形態の第2安定化層15と同等材料からなる。
図13に示す高温超電導線材10Jにおいて図9に示す高温超電導線材10Eと同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
基板11と中間層12と酸化物超電導層13と第1安定化層14と第2安定化層15Jからなる横断面略矩形状の超電導積層体5Jは、その幅方向に沿う断面における角部5Jaが曲率半径を有する曲面とされ、角部5Jaの曲率半径は14.5mm以上に設定されている。超電導積層体5Jの角部5Jaの曲率半径を14.5mm以上とすることにより、絶縁被覆層7Eを形成する際に、超電導積層体5Jの角部5Jaを含む外周全体に樹脂を塗布・焼付けすることができ、超電導積層体5Jの外周全体を覆う絶縁被覆層7Eを形成できる。超電導積層体5Jの角部5Jaの曲率半径の上限は前記先の実施形態の高温超電導線材10Eと同様である。
この第9実施形態の構造においても先の第1実施形態の構造と同様の作用効果を得ることができる。
以上、本発明の高温超電導線材および高温超電導コイルについて説明したが、上記実施形態において、高温超電導線材および高温超電導コイルを構成する各部一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における評価方法は以下の通りである。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における評価方法は以下の通りである。
[1]外観
外観の目視、および、マイクロメータによる寸法測定により、高温超電導線材における絶縁被覆層の被覆状態を確認した。外観(被覆)に異常が無い場合を「○」、被覆されているが被覆厚が薄い部分がある場合を「△」、被覆されておらず露出している箇所がある場合を「×」と判定した。
[2]超電導特性
絶縁被覆層を形成前の超電導積層体の77Kにおける臨界電流値Ic0と、絶縁被覆層を形成後の高温超電導線材の77Kにおける臨界電流値Icを測定し、絶縁被覆層の形成前後の臨界電流値の比率Ic/Ic0を求め、Ic/Ic0が0.95以上の場合を「○」、Ic/Ic0が0.95未満の場合を「×」と判定した。
[3]耐溶剤試験
JIS C 3003の標準溶媒を使用し、60℃の溶剤(キシレン)中に高温超電導線材を30分間浸漬した後の、高温超電導線材の絶縁被覆層の有無を目視又は光学顕微鏡で観察した。
被覆に異常が無い場合を「○」、被覆が溶融しているなどの異常がある場合を「×」と判定した。
[4]耐薬品試験
JIS C 3003に準拠し、室温の希硫酸中に高温超電導線材を24時間浸漬した後、高温超電導線材の絶縁被覆層の被覆状態を目視又は光学顕微鏡で確認した。
被覆に異常が無い場合を「○」、被覆が溶融しているなどの異常がある場合を「×」と判定した。
(実施例1:サンプル1〜5)
幅5mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基板上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、パルスレーザー蒸着法(PLD法)により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(酸化物超電導層)を形成し、さらに酸化物超電導層上にスパッタ法により8μm厚の銀層(第1安定化層)を形成した。その後、0.1mm厚の銅テープ(第2安定化層)を錫半田(融点230℃)により銀層上に積層し、この積層体の幅方向の角部(四隅)に対して研磨することにより幅方向に沿う断面の角部の曲率半径を14.5mmとして、幅5mm、厚さ0.21mm、アスペクト比24の超電導積層体を作製した。
次に、作製した超電導積層体に、表1に示す焼付温度で、30分間、ホルマール樹脂(チッソ社製、ビニレックF)を焼き付けて、厚さ20μmの絶縁被覆層を形成して図1に示す構造の高温超電導線材を作製した。
作製したサンプル1〜5の高温超電導線材について、外観、超電導特性、耐溶剤試験の評価を行った結果を表1に併記した。
Figure 0005841862
表1の結果より、第2安定化層を銅テープの貼り合わせで形成した実施例1の高温超電導線材では、サンプル2〜4に示す如く絶縁被覆層形成時の樹脂の焼付けを170〜200℃で行うことにより、良好な外観、超電導特性および耐溶剤性となっていた。
これに対し、焼付け温度が155℃のサンプル5では、絶縁被覆層形成時の樹脂の焼付けが充分ではなく、形成された絶縁被覆層の耐溶剤性が低くなっていた。また、焼付け温度が230℃のサンプル1では、樹脂の焼付け時に錫半田が溶融して銅テープの剥離が起こり、外観および超電導特性が劣化していた。
この結果より、本発明の高温超電導線材において第2安定化層が金属テープの張り合わせにより形成されている場合は、170〜200℃の温度で焼付け可能な樹脂より絶縁被覆層が形成されていることが好ましいことが明らかである。
(実施例2:サンプル6〜12)
幅10mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基板上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、PLD法により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(酸化物超電導層)を形成し、さらに酸化物超電導層上にスパッタ法により8μm厚の銀層(第1安定化層)を形成して積層体を作製した。その後、この積層体を硫酸銅水溶液のめっき浴に浸漬して電気めっきを行うことにより、積層体の外周面上に厚さ20μmの銅層(第2安定化層)を形成することにより幅方向に沿う断面の角部の曲率半径25mm、幅10mm、厚さ0.15mm、アスペクト比66の超電導積層体を作製した。
次に、作製した超電導積層体に、表2に示す焼付温度で、30分間、ホルマール樹脂(チッソ社製、ビニレックF)を焼き付けて、厚さ20μmの絶縁被覆層を形成して図2に示す構造の高温超電導線材を作製した。
作製したサンプル6〜12の高温超電導線材について、外観、超電導特性、耐溶剤試験の評価を行った結果を表2に併記した。
Figure 0005841862
表2の結果より、第2安定化層をめっきにより形成した実施例2の高温超電導線材では、サンプル7〜11に示す如く絶縁被覆層形成時の樹脂の焼付けを170〜280℃で行うことにより、良好な外観、超電導特性および耐溶剤性となっていた。
これに対し、焼付け温度が155℃のサンプル12では、絶縁被覆層形成時の樹脂の焼付けが充分ではなく、形成された絶縁被覆層の耐溶剤性が低くなっていた。また、焼付け温度が300℃のサンプル6では、樹脂の焼付け時に酸化物超電導層から酸素が抜けて劣化し、超電導特性が劣化していた。
この結果より、本発明の高温超電導線材において第2安定化層がめっきにより形成されている場合は、170〜280℃の温度で焼付け可能な樹脂より絶縁被覆層が形成されていることが好ましいことが明らかである。
(実施例3:サンプル13〜19)
幅5mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基板上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、PLD法により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(酸化物超電導層)を形成し、さらに酸化物超電導層上にスパッタ法により8μm厚の銀層(第1安定化層)を形成した。その後、0.1mm厚の銅テープ(第2安定化層)を錫半田(融点230℃)により銀層上に積層し、この積層体の幅方向の角部(四隅)に対して研磨することにより、角部の曲率半径を表3に示す値として、幅5mm、厚さ0.21mm、アスペクト比24の超電導積層体を作製した。
次に、作製した超電導積層体に、185℃で、30分間、ホルマール樹脂(チッソ社製、ビニレックF)を焼き付けて、表3に示す厚さの絶縁被覆層を形成して図1に示す構造の高温超電導線材を作製した。なお、絶縁被覆層の厚さは、焼付け回数を調整することにより行った。
作製したサンプル13〜19の高温超電導線材について、外観、超電導特性、耐薬品試験の評価を行った結果を表3に併記した。
Figure 0005841862
表3の結果より、本発明に係るサンプル15〜19の高温超電導線材では、超電導積層体の幅方向に沿う断面の角部の曲率半径を14.5mm以上とし、且つ、絶縁被覆層の厚さを12μm以上とすることにより、良好な外観、超電導特性および耐薬品性となっていた。
これに対し、絶縁被覆層の厚さが20μmであり本発明所定範囲を満たすが、角部の曲率半径が12mmであり本発明所定範囲よりも小さいサンプル13では、角部が被覆されていないために、角部から薬品が浸み込んで耐薬品性が低くなっていた。また、角部の曲率半径が14.5mmであり本発明所定範囲を満たすが、絶縁被覆層の厚さが7μmであり本発明所定範囲よりも薄いサンプル14では、外観試験では角部が辛うじて被覆されており△判定であったが、耐薬品試験の結果が悪くなっており、角部が完全には被覆されていないことが明らかとなった。
(実施例4:サンプル20〜22)
幅10mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基板上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、PLD法により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(酸化物超電導層)を形成し、さらに酸化物超電導層上にスパッタ法により8μm厚の銀層(第1安定化層)を形成して積層体を作製した。その後、この積層体を硫酸銅水溶液のめっき浴に浸漬して電気めっきを行うことにより、積層体の外周面上に厚さ20μmの銅層(第2安定化層)を形成し、この積層体の幅方向の角部(四隅)に対して研磨することにより幅方向に沿う断面の角部の曲率半径を表4に示す値として、幅10mm、厚さ0.15mm、アスペクト比66の超電導積層体を作製した。
次に、作製した超電導積層体に、185℃で、30分間、ホルマール樹脂(例えばチッソ社製、ビニレックF)を焼き付けて、厚さ15μmの絶縁被覆層を形成して図2に示す構造の高温超電導線材を作製した。
作製したサンプル20〜22の高温超電導線材について、外観、超電導特性、耐薬品試験の評価を行った結果を表4に併記した。
Figure 0005841862
表4の結果より、本発明に係るサンプル20〜22の高温超電導線材では、超電導積層体の幅方向に沿う断面の角部の曲率半径を14.5mm以上とし、且つ、絶縁被覆層の厚さを12μm以上とすることにより、良好な外観、超電導特性および耐薬品性となっていた。
(実施例5:サンプル23〜25)
幅10mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基板上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、PLD法により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(酸化物超電導層)を形成し、さらに酸化物超電導層上にスパッタ法により8μm厚の銀層(第1安定化層)を形成して積層体を作製した。その後、この積層体の幅方向の角部(四隅)に対して研磨することにより幅方向に沿う断面の角部の曲率半径を表5に示す値として、幅10mm、厚さ0.11mm、アスペクト比91の超電導積層体を作製した。
次に、作製した超電導積層体に、185℃で、30分間、ホルマール樹脂(例えばチッソ社製、ビニレックF)を焼き付けて、厚さ15μmの絶縁被覆層を形成して図4に示す構造の高温超電導線材を作製した。
作製したサンプル23〜25の高温超電導線材について、外観、超電導特性、耐薬品試験の評価を行った結果を表5に併記した。
Figure 0005841862
表5の結果より、本発明に係るサンプル23〜25の高温超電導線材では、超電導積層体の幅方向に沿う断面の角部の曲率半径を14.5mm以上とし、且つ、絶縁被覆層の厚さを12μm以上とすることにより、良好な外観、超電導特性および耐薬品性となっていた。
(実施例6)
幅5mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基板上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、PLD法により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(酸化物超電導層)を形成し、さらに酸化物超電導層上にスパッタ法により8μm厚の銀層(第1安定化層)を形成した。その後、0.1mm厚の銅テープ(第2安定化層)を錫半田(融点230℃)により銀層上に積層し、この積層体の幅方向の角部(四隅)に対して研磨することにより幅方向に沿う断面の角部の曲率半径を14.5mmとして、幅5mm、厚さ0.21mm、アスペクト比24の超電導積層体を作製した。
次に、作製した超電導積層体に、185℃で、30分間、ホルマール樹脂(例えばチッソ社製、ビニレックF)を焼き付けて、厚さ15μmの絶縁被覆層を形成して図1に示す構造の高温超電導線材を作製した。
(比較例1)
絶縁被覆層を形成しなかったこと以外は、実施例6と同様にして高温超電導線材を作製した。
実施例6および比較例1の高温超電導線材について、温度126℃、湿度85%、2気圧の高温高湿下に0〜48時間放置する耐湿試験を行い、試験前の臨界電流値Ic0(77K)に対する試験後の臨界電流値Ic(77K)の比率Ic/Ic0を求めた。結果を図14にプロットした。図14において、Ic/Ic0が1.0に近いほど、超電導特性の保持率が高く、耐湿性が高いことを示す。
図14の結果より、実施例6の高温超電導線材は、絶縁被覆層を備える構成であることにより、絶縁被覆層を有さない比較例1と比較して、超電導特性の保持率が高く、耐湿性が高くなっていた。
(実施例7)
幅10mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基板上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、PLD法により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(酸化物超電導層)を形成し、さらに酸化物超電導層上にスパッタ法により8μm厚の銀層(第1安定化層)を形成して積層体を作製した。その後、この積層体を硫酸銅水溶液のめっき浴に浸漬して電気めっきを行うことにより、積層体の外周面上に厚さ20μmの銅層(第2安定化層)を形成し、この積層体の幅方向の角部(四隅)に対して研磨することにより幅方向に沿う断面の角部の曲率半径を14.5mmとして、幅10mm、厚さ0.15mm、アスペクト比66の超電導積層体を作製した。
次に、作製した超電導積層体に、185℃で、30分間、ホルマール樹脂(例えばチッソ社製、ビニレックF)を焼き付けて、厚さ15μmの絶縁被覆層を形成した。続いて、形成した絶縁被覆層の外周面上にエポキシ含有樹脂(東特塗料社製、TCVU2)を塗布して150〜160℃にて20分間加熱することにより、エポキシ樹脂を半硬化状態として厚さ5μmの半硬化樹脂層を形成して図5に示す高温超電導線材を作製した。
作製した高温超電導線材を内径70mmとして同心円状に100回巻回させ、この状態で150℃にて180分間加熱して半硬化樹脂層を硬化させて、図7に示す内部構造を有するコイル体を作成した。次に、同様の手順でコイル体をもう1個作製し、得られた2個のコイル体を図6に示す如く同軸的に積層させることにより、高さ20.1mm、総ターン数200ターン(100ターン×2)の高温超電導コイルを作製した。
(実施例8)
ホルマール樹脂の焼付回数を調整して絶縁被覆層の厚さを20μmとしたこと以外は実施例6と同様にして、高さ20.1mm、総ターン数200ターン(100ターン×2)の高温超電導コイルを作製した。
(比較例2)
幅10mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基板上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY(ベッド層;膜厚20nm)を成膜した。次いで、このベッド層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、PLD法により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(酸化物超電導層)を形成し、さらに酸化物超電導層上にスパッタ法により8μm厚の銀層(第1安定化層)を形成して積層体を作製した。その後、この積層体を硫酸銅水溶液のめっき浴に浸漬して電気めっきを行うことにより、積層体の外周面上に厚さ20μmの銅層(第2安定化層)を形成することにより、幅10mm、厚さ0.15mm、アスペクト比66の超電導線材を作製した。
次に、作製した超電導線材の外周面に、厚さ12.5μmのポリイミドテープを2枚重ねた状態で巻き付けて、絶縁テープ付き超電導線材を作製した。なお、超電導線材の長手方向に隣接するポリイミドテープは、その幅方向端部同士が重なり合わずに隙間無く接する状態となるように、ポリイミドテープを巻き付けた。
次いで、作製した絶縁テープ付き超電導線材を内径70mmとして同心円状に100回巻回させ、この状態で熱硬化性樹脂中に浸漬して含浸させた後、さらに、80℃にて12時間加熱することにより、熱硬化性樹脂を硬化させて、図17(b)に示す内部構造を有するコイル体を作成した。次に、同様の手順でコイル体をもう1個作製し、得られた2個のコイル体を図6に示す如く同軸的に積層させることにより、高さ21.0mm、総ターン数200ターン(100ターン×2)の高温超電導コイルを作製した。
(比較例3)
比較例2と同様の手法で幅10mm、厚さ0.15mm、アスペクト比66の超電導線材を作製した。
次に、作製した超電導線材の銀層側の銅層上に、厚さ50μm、幅10mmのポリイミドテープを1枚重ねた状態として、内径70mmとして同心円状に100回巻回(共巻き)し、この状態で熱硬化性樹脂中に浸漬して含浸させた後、さらに、80℃にて12時間加熱することにより、熱硬化性樹脂を硬化させて、図17(a)に示す内部構造を有するコイル体を作成した。次に、同様の手順でコイル体をもう1個作製し、得られた2個のコイル体を図6に示す如く同軸的に積層させることにより、高さ20.5mm、総ターン数200ターン(100ターン×2)の高温超電導コイルを作製した。
実施例7、8および比較例2、3の高温超電導コイルについて、20Kにおいて300Aの電流を通電した際の、各高温超電導コイルの臨界電流密度(A/mm)および中心磁界(T)を測定した。結果を表6に示す。また、実施例7、8および比較例2、3のコイル寸法と使用線材長も表6に併記した。
Figure 0005841862
表6の結果より、本発明に係る実施例7の高温超電導コイルでは、比較例2および3と比較して、同じ通電電流に対して電流密度が大きくなるため、中心磁界が強くなることが確認された。また、実施例7の超電導コイルは、絶縁被覆層およびコイルを固定する樹脂層の厚さが比較例2,3の高温超電導コイルよりも薄いため、比較例2、3の高温超電導コイルよりも、コイル外径が小さく、使用線材長も少なくなっていた。
本発明に係る実施例8の高温超電導コイルは、比較例3の高温超電導コイルと比較して、同じ通電電流に対して電流密度が大きくなるため、中心磁界が強くなることが確認された。また、実施例8の高温超電導コイルは、比較例2、3の高温超電導コイルよりもコイル高さが小さくなっており、コイルを小型化できていた。
さらに、実施例7、8の高温超電導コイルは、比較例2、3の高温超電導コイルよりも簡素化された工程で製造されており、比較例2、3のように熱硬化性樹脂の硬化時間に長時間を要さず、良好な生産性で製造可能であることが確認された。
本発明は、例えば超電導モータ、限流器など、各種超電導機器に用いられる超電導コイルに利用することができる。
4、4B、4C…金属安定化層、5、5B、5C…超電導積層体、5a、5Ba、5Ca…角部、7、7B、7C…絶縁被覆層、9…半硬化樹脂層、9G…硬化樹脂層、10、10B、10B、10C、10D…高温超電導線材、11…基板、12…中間層、13…酸化物超電導層、14…第1安定化層層、15、15B…第2安定化層、50…高温超電導コイル、51…第1のコイル体、52…第2のコイル体。

Claims (8)

  1. 基板と中間層と酸化物超電導層と金属安定化層とが積層された超電導積層体と、前記超電導積層体の外周面を覆い、樹脂の焼付けにより形成された絶縁被覆層とを備え、
    前記超電導積層体の幅方向に沿う断面における角部が曲率半径を有する曲面となる面取りとされ、前記絶縁被覆層の厚さが12μm以上であり、前記角部の曲率半径が14.5mm以上であることを特徴とする高温超電導線材。
  2. 前記金属安定化層が、第1安定化層上に第2安定化層を積層した構造であり、前記第2安定化層が半田を介した金属テープの貼り合わせにより形成され、前記絶縁被覆層が170℃〜200℃の温度で焼付け可能な樹脂より形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線材。
  3. 前記金属安定化層が、第1安定化層上に第2安定化層を積層した構造であり、前記第2安定化層がめっき又は蒸着により形成され、前記絶縁被覆層が170℃〜280℃の温度で焼付け可能な樹脂より形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線材。
  4. 前記絶縁被覆層の外周面を覆い、半硬化の熱硬化性樹脂よりなる半硬化樹脂層を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高温超電導線材。
  5. 前記金属安定化層が、第1安定化層上に第2安定化層を積層した構造であり、前記第2安定化層が前記超電導積層体の幅方向に沿う断面における4つの角部を占めるように配置され、前記第2安定化層の角部が前記曲率半径を有する曲面とされたことを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線材。
  6. 前記金属安定化層が、第1安定化層上に第2安定化層と第3安定化層を備えた構造であり、前記第2安定化層が前記超電導積層体の幅方向に沿う断面における2つの角部を占めるように、前記第3安定化層が前記超電導積層体の幅方向に沿う断面における残り2つの角部を占めるように配置され、前記第2安定化層の2つの角部と前記第3安定化層の2つの角部が前記曲率半径を有する曲面とされたことを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線材。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の高温超電導線材を巻回してなることを特徴とする高温超電導コイル。
  8. 請求項4に記載の高温超電導線材を巻回してなり、コイル径方向に隣接する前記高温超電導線材間に、前記半硬化樹脂層を加熱硬化させてなる樹脂層を備えることを特徴とする高温超電導コイル。
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