以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。生体分子検出には様々な特異的な反応が利用されるが、ここでは抗原および抗体の特異的な反応を利用し、当該抗体に標識された蛍光分子から発生する蛍光を基に、抗体と反応した抗原を検出する装置を例にとって説明する。
(実施の形態1)
図1Aおよび図1Bは、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置における抗原抗体反応の概要を示した模式図である。図1Aおよび1Bを用いて、液中での抗原抗体反応について説明する。ここでは、円筒形の試薬カップ10の中に、蛍光分子14が標識された抗体12が入れられている場合を考える。生体分子検出をする検体は、全血から分離した血漿である。試薬カップ10に血漿16を分注して撹拌すると、抗体12と特異的に結合する抗原18が血漿16中に存在する場合は、抗体12と抗原18との間で抗原抗体反応が起こり、図1Bに示すように抗原12および抗体18が特異的に結合して血漿16中に存在する。抗体12は、抗原18に対して十分に多い量が入れられているが、抗原抗体反応は全量が反応しない場合があり、一部の抗体12または抗原18は、抗原抗体反応をしないまま血漿16中に残る。以下、抗原抗体反応で結合した抗体12、抗原18および蛍光分子14をバインディング分子、抗原抗体反応をせず液中に漂っている抗体12および蛍光分子14をフリー分子と呼ぶ。バインディング分子およびフリー分子は、血漿16中に混在している。なお、血漿16中には抗原18以外の成分も存在するが、説明を簡単にするため、図1Aおよび1Bでは抗原18以外の成分は省略してある。
本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置は、フリー分子およびバインディング分子が混在している溶液に励起光を照射し、蛍光分子14から発生する蛍光を受光した蛍光データから、抗原18の検出または定量を行う。従って、抗原18を含むバインディング分子から発生する蛍光のみを検出することが望ましいが、フリー分子およびバインディング分子は溶液中に混在しているため、溶液に励起光を照射すると、フリー分子に付随している蛍光分子14も蛍光を発生して不要成分となる。そこで、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置は、全蛍光データの中からバインディング分子に付随した蛍光分子から発生する蛍光の寄与分を算出する。
本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置100において、バインディング分子から発生する蛍光の寄与分と、フリー分子から発生する蛍光の寄与分とを算出する原理を説明するために、直線偏光した励起光による蛍光分子14の励起効率について図2Aおよび2Bを用いて説明する。図2Aは、励起光19の振動方向と蛍光分子14の遷移モーメントとが平行な場合を表した模式図、図2Bは、励起光19の振動方向と蛍光分子14の遷移モーメントとが垂直な場合を表した模式図である。ここでは、説明を分かりやすくするため、蛍光分子14の長手方向と遷移モーメントの向きとが互いに平行である場合とした。
蛍光分子14は、光エネルギーを吸収すると励起状態に遷移し、基底状態に戻る過程で蛍光を発生する。直線偏光した励起光19で蛍光分子14を励起すると、蛍光分子14は励起光と同じ方向に偏光した蛍光を発生する。蛍光分子14の発生する蛍光の偏光度は、蛍光分子14の回転運動の速度に依存する。すなわち蛍光分子14が回転運動していなければ、蛍光分子14は励起光19の振動方向と同じ方向に偏光した蛍光を発生し、蛍光分子14が速い回転運動をしているほど、蛍光分子14から発生する蛍光は偏光していない。蛍光分子14が励起される場合、励起光19と相互作用するものは、蛍光分子14の分子構造によって決まる遷移モーメントという蛍光分子14内のベクトルである。遷移モーメントは、蛍光分子14内で、ある固有の方向を持っており、遷移モーメントの方向と励起光19の振動方向との関係が蛍光分子14の励起効率を決定する。具体的には、蛍光分子14は、遷移モーメントと平行な方向に振動する光を選択的に吸収する。従って、図2Aおよび2Bに示すように、励起光19が紙面上下にわたって振動しながら紙面左から右に進行して蛍光分子14に当たる場合、直線偏光した励起光19の振動方向が蛍光分子14の遷移モーメントと平行な場合(図2A)に最も励起効率が高くなり、直線偏光した励起光19の振動方向が蛍光分子14の遷移モーメントと直行している場合(図2B)に励起効率が0となる。遷移モーメントの向きは、蛍光分子14の向きによって変わるため、溶液中における蛍光分子14の向きは、蛍光分子14の励起効率に影響を与える。
溶液中における蛍光分子14の向きを考えるため、図3Aおよび3Bを用いて、溶液中におけるフリー分子およびバインディング分子の運動について説明する。図3Aは、フリー分子である抗体12および蛍光分子14を示した模式図である。図3Bは、バインディング分子である抗体12、抗原18および蛍光分子14を示した模式図である。フリー分子およびバインディング分子は、溶液中で不規則に運動(ブラウン運動)しており、溶液中の移動および回転運動を行っている。溶液中での分子のブラウン運動は、絶対温度、分子の体積および溶媒の粘度等の影響を受けることが知られている。バインディング分子は、抗原18の分だけフリー分子より体積が大きく、溶液中でブラウン運動しにくい。溶液中でフリー分子およびバインディング分子のブラウン運動が違うことを利用して、ブラウン運動の変化からバインディング分子の検出を行う方法(蛍光偏光イムノアッセイ)が知られているが、ブラウン運動というランダムな運動を利用しているため、液中に多数存在するバインディング分子、フリー分子はランダムな配向状態にあり、それらからの信号が合算された信号を検出するため、S/Nが悪く検出感度に限界がある。
そこで、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置は、レーザーを利用して溶液中の分子の配向を制御し、その制御への追従性の良否から、フリー分子、バインディング分子を切り分けることで、高感度化を実現する。溶液中のフリー分子およびバインディング分子にレーザーを照射すると、溶液中でランダムな運動をしていたフリー分子およびバインディング分子は、特定の一方向を向く(以下、このように外力の付加を受けて分子が特定の一方向を向いた状態を、分子の配向の完了という)。フリー分子およびバインディング分子は溶液中での移動および回転運動のしやすさが異なることから、レーザーで溶液中の分子の配向を制御した場合においても、フリー分子とバインディング分子とでは、レーザーを照射されてからこれらの分子が配向を完了するまでに要する時間に差が生じる。本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置は、フリー分子およびバインディング分子が配向を完了するまでに要する時間の差を利用して、それぞれの分子に付随した蛍光分子14の励起効率に差を生じさせ、バインディング分子から発生する蛍光の寄与分の算出を行う。
続いて、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置100の構成について説明する。図4Aは、生体分子検出装置100の外観斜視図である。生体分子検出装置100の側面には、表示部102、操作部104および開閉部106がある。表示部102は、測定結果等を表示する。操作部104は、モードの設定および検体情報の入力等を行う部分である。開閉部106は、上蓋の開閉が可能な構成となっており、検体のセット時には上蓋が開けられ、測定時には上蓋が閉じられる。この構成により、外部の光が測定に影響を与えることを防いでいる。
図4Bは、開閉部106を開いた場合における生体分子検出装置100の外観斜視図である。開閉部106を開くと、中には試薬カップ108および保持台110がある。試薬カップ108は、保持台110に保持されており、保持台110から着脱可能となっている。試薬カップ108は、溶液を入れる円柱状の容器である。ユーザーは、試薬カップ108に検体を分注し、上蓋を閉じて測定を行う。図示しないが、生体分子検出装置100内には試薬タンクおよび分注部があり、測定が開始されると、分注部は試薬タンク内から試薬を吸い上げて試薬カップ108内に分注する。
図5は、生体分子検出装置100の主要な内部構成を説明するための機能ブロック図である。生体分子検出装置100内には、試薬タンク112および分注部114がある。試薬タンク112は複数種類の試薬を貯めておくタンクであり、分注部114はピペットによって試薬タンク112から使用する試薬を吸い上げ、試薬カップ108へ分注する。また、生体分子検出装置100内には、配向制御光源部116および励起光源部118がある。配向制御光源部116は、AOD(Acousto Optic Deflector)120に向けて配向制御用のレーザー117を照射し、試薬カップ108内の溶液中にある分子に外力を加えて分子の配向を制御する。
AOD120は、音響光学効果を利用して、入力電圧に基づいて内部の屈折率を変化させることで、入射した光の進行方向を切り替える。すなわち、AOD120は、FG(Function Generator)122から出力された電圧信号(以下このAOD120への出力信号を配向制御信号という)によって入力される電圧に基づいて、内部の屈折率を変化させてレーザー117の進行方向を切り替える。換言すれば、レーザー117の進行方向は、FG122が発生する配向制御信号によって決まる。
FG122は、様々な周波数と波形をもった電圧信号を発生させることのできる装置で、CPU132からの命令を受けて、AOD120およびサンプリングクロック発生部130へ、それぞれ異なる電圧信号を出力する。
CPU132は、出力する配向制御信号をFG122に対して指定することで、AOD120がレーザー117の進行方向を切り替えるタイミングを制御する。
励起光源部118は、内部に備えた偏光子によって直線偏光しかつ蛍光分子14を励起する励起光119を試薬カップ108に向けて照射する。
受光部124は、試薬カップ108の下部に設けられている。受光部124は、試薬カップ108内の蛍光分子14から発生する蛍光123を試薬カップ108の下部で受光し、当該受光信号をアナログ電気信号(アナログ蛍光データ)に変換して増幅部126へ出力する。
増幅部126は、受光部124から出力されたアナログ蛍光データを増幅してA/D変換部128へ出力する。
サンプリングクロック発生部130は、FG122から出力された電圧信号に基づいて、A/D変換部128がアナログ蛍光データをサンプリングするタイミングを指定するサンプリングクロックをA/D変換部128に入力する。
A/D変換部128は、サンプリングクロック発生部130から出力されたサンプリングクロックに基づいて、増幅部126から出力されたアナログ蛍光データのサンプリングを行い、サンプリングしたアナログ蛍光データをデジタルデータに変換して、CPU132へ出力する。
CPU132は、A/D変換部128から出力されたデジタルデータの演算を行い、その結果を表示部102へ出力する。また、CPU132は、操作部104から入力を受けて、配向制御光源部116、励起光源部118、分注部114およびFG122の動作の指示命令を行う。具体的には、CPU132は、配向制御光源部116および励起光源部118に対してはそのON/OFF命令を行い、分注部114に対しては使用する試薬を指定する命令および分注動作開始命令を行い、FG122に対しては出力する電圧信号の波形の指示命令および出力命令を行う。
本実施の形態では、配向制御光源部116に、波長1.3μm、出力700mWのレーザーを用い、励起光源部118に、波長532nm、出力10mWの光を用いる。
図6は、配向制御光源部116から照射されるレーザーの照射方向の切り替えを説明するため、生体分子検出装置100の内部を上面側から見た模式図である。図6を用いて、試薬カップ108に対するレーザーの照射方向の切り替えについて詳細に説明する。配向制御光源部116から照射されるレーザー117は、AOD120を通って試薬カップ108へ照射される。レーザー117は、試薬カップ108の溶液全体を照らす程度の幅を持っている。AOD120は、配向制御光源部116から照射されたレーザーの照射方向を2方向で交互に切り替える。具体的には、AOD120は、FG122から5Vの配向制御信号が入力された場合には、レーザー117をレーザー134の方向へ進ませ、FG122から0Vの配向制御信号が入力された場合には、レーザー117をレーザー136の方向へ進ませる。レーザー134は、試薬カップ108の側面に入射する。レーザー136は、ダイクロイックミラー138によって反射され、レーザー134の進行方向と垂直な方向に進んで試薬カップ108の側面に入射する。上面から見た試薬カップ108を時計の文字盤に例えると、レーザー134は9時の位置から入射して3時の方向へ進行し、レーザー136は6時の位置から入射して12時の方向へ進行する。すなわち、レーザー134の進行方向とレーザー136の進行方向とは互いに直交する。ダイクロイックミラー138は、レーザー117に用いた波長の光のみを反射し、その他の波長の光を透過させる。励起光源部118から照射された励起光119は、ダイクロイックミラー138を透過し、ダイクロイックミラー138で反射したレーザー136と同じ方向に進行して試薬カップ108の側面へ入射する。
このような構成により、生体分子検出装置100は、FG122からの配向制御信号の入力によりAOD120を制御することで、レーザーが試薬カップ108へ入射する方向を、角度が互いに90度異なる2つの方向で交互に切り替えることができる。AOD120と試薬カップ108との間には遮光板140があり、生体分子検出装置100は、レーザー134およびレーザー136が示す方向以外に進行するレーザーが試薬カップ108へ照射されないように構成されている。また、レーザーは、レーザー134およびレーザー136のいずれの方向に進行した場合においても、円柱状の試薬カップ108の側面へ入射する。試薬カップ108は円柱状であるため、レーザーの進行方向が切り替わっても、レーザーが入射する試薬カップ108の側面の形状は同じである。
レーザーの照射方向の切り替えに対する試薬カップ108内の蛍光分子の動きについて、図7Aおよび7Bを用いて説明する。図7Aは、一方のレーザーの照射方向と分子の配向方向との関係を表した模式図であり、図7Bは、もう一方のレーザーの照射方向と分子の配向方向との関係を表した模式図である。なお、本明細書において、フリー分子およびバインディング分子に関して「配向方向」とは、配向が完了した状態における抗体および蛍光分子が並んだ方向を意味するものとする。フリー分子およびバインディング分子は、溶液中でランダムな方向を向いて分散している。しかし、レーザーを照射された試薬カップ108内のフリー分子およびバインディング分子は、レーザーによって外力を受けて特定の方向に配向する。レーザーによる外力は、レーザーがフリー分子およびバインディング分子に当たって散乱する反作用生じるものであり、レーザーが進行する方向とフリー分子およびバインディング分子の向きによって力を及ぼす方向が決まる。ここではフリー分子を例にとって説明する。図7Aのように、レーザー134を照射されたフリー分子は、レーザーによって回転方向の力を受け、レーザー内で、レーザーの外力がフリー分子に及ぼす回転方向の力が釣り合う方向(ここではレーザー134の進行方向と同じ方向)を向いて安定する。換言すれば、フリー分子は、レーザー134の進行方向と同じ方向を向いていない場合は、右回転または左回転の外力を受けるが、レーザー134の進行方向と同じ方向を向いている場合は、右回転および左回転の外力が釣り合うため、一の方向を向いて安定する。一方図7Bのように、レーザー136の方向に進行するレーザーを受けた抗体12および蛍光分子14は、レーザー134によって配向した方向に対して垂直な方向を向いて安定する。このように、レーザーの照射方向を変えることにより、溶液内での抗体12および蛍光分子14の配向方向を切り替えることができる。
図8Aおよび8Bは、レーザーの照射方向と複数の分子の配向方向との関係を表した模式図である。図8Aおよび8Bは、試薬カップ108を上面から見た図である。図8Aは、紙面左から右に進行するレーザー134を受けたフリー分子およびバインディング分子が、レーザー134の進行方向と同方向に配向した場合の図である。レーザー134の照射を受けている溶液中のフリー分子およびバインディング分子は、同一方向に配向する。すなわち、全ての蛍光分子14の遷移モーメントが同一方向に揃う。図8Bは、紙面下から上に進行するレーザー136を受けたフリー分子およびバインディング分子が、レーザー136の進行方向と同方向に配向した場合の図である。レーザー134からレーザー136に切り替わると、紙面右を向いて配向していたフリー分子およびバインディング分子は、左回転する方向の力を受ける。この場合、バインディング分子に対して体積が小さいフリー分子の方がバインディング分子よりも速く回転して、レーザー136の進行方向と同方向を向いて安定する。次に、フリー分子に対して回転速度が遅いバインディング分子が、レーザー136の進行方向と同方向を向いて安定する。すなわち、十分な時間が経過すれば、フリー分子およびバインディング分子は同一方向に配向するが、それぞれの分子が配向を完了するまでに要する時間には差がある。レーザー136を照射した場合も、全てのフリー分子およびバインディング分子が配向を完了すれば、全ての蛍光分子14の遷移モーメントが同一方向に揃う。
本実施の形態では、レーザー134によって配向が完了した蛍光分子14の遷移モーメントの方向は、直線偏光した励起光が振動する方向と平行であり、蛍光分子14の励起効率が最大となる。また、レーザー136によって配向が完了した蛍光分子14の遷移モーメントの方向は、直線偏光した励起光が振動する方向と垂直となり、蛍光分子14の励起効率が0となる。従って、AOD120によるレーザーの照射方向の切り替えは、直線偏光した励起光に対する蛍光分子14の励起効率を最大と最小(励起できない場合)の間で切り替えることになる。
続いて図9を用いて受光部124の詳細な構成について説明する。図9は、受光部124の詳細な構成を表した模式図である。受光部124は、レンズ142、フィルタ144、偏光子146、レンズ148およびPD(フォトダイオード)150を含む。受光部124は、試薬カップ108の底面側から蛍光を受光する。試薬カップ108内の蛍光分子14から発生した蛍光123は、レンズ142によって集光され、フィルタ144、偏光子146およびレンズ148を通ってPD150へ入射する。この図では、蛍光123の幅を、矢印147および矢印149を用いて表してある。フィルタ144は、蛍光分子14から発生する蛍光以外の光をカットするバンドパスフィルタであり、励起光等の蛍光以外の光がPD150へ入射することを防いでいる。偏光子146は、直線偏光した励起光119の振動方向と同じ方向に偏光した光のみを透過させる。一方で、試薬カップ108内で散乱された励起光や、フリー分子およびバインディング分子の配向方向を切り替えている途中で蛍光分子から発光した蛍光は、その振動方向が元々の励起光の振動方向と異なっているため、偏光子146を透過できない。PD150は、レンズ148によって集光された蛍光を受光し、蛍光の強度に応じた電荷を発生させて増幅部126へ出力する。このようにして受光部124は、配向の切り替えが完了した蛍光分子14から発生した蛍光を電荷に変換する。また、受光部124は、試薬カップ108の底面側で蛍光を受光するため、レーザー117および励起光119の影響を受けにくい。
続いて生体分子検出装置100の測定時における動作について説明する。図10は、検体の準備から廃棄までの流れを模式的に表した図である。本実施の形態では、検体に全血を用い、検出対象物質である抗原18としてP53(Protein 53)を検出する場合を考え、検出対象物質と特異的に結合する物質である抗体12にP53抗体を用いた場合について示す。蛍光分子14には、Alexa Fluor 555(Molecular Probes社の商品名)を用いた。Alexa Fluor 555は、570nm程度にピークを持ち、550nm−700nm程度の波長を持った蛍光を発光する。蛍光分子としてAlexa Fluor 555を使用する場合、フィルタ144は、SpOr−Aフィルタ(Semrock社の商品名)セットの、受光側フィルタを用いる。このフィルタは、575nm−600nm程度の波長を透過させるバンドパスフィルタであり、Alexa Fluor 555から発生する蛍光の一部を透過する。試薬カップ108の容量は、約120μLである。
測定の準備にあたり、まず患者から採集した全血156を50μL遠心分離し、血漿16を分離する。分離して取り出した血漿16を、生体分子検出装置100の検体セット部152にセットする。ここまでの作業はユーザーが行う。生体分子検出装置100は、検体セット部152にセットされた血漿16を、試薬カップストック部160にストックしてある未使用の試薬カップ108の中に分注する。続いて、生体分子検出装置100は、試薬タンク112の中にあるP53抗体をピペット158で吸い上げ、試薬カップ108の中に分注する。試薬カップ108内に血漿16およびP53抗体を入れた生体分子検出装置100は、試薬カップ108を37℃で温調しながら、内蔵したボルテックスミキサーによって振動させ、抗原抗体反応を起こさせる。その後、生体分子検出装置100は、励起光の照射および蛍光の検出を行い、蛍光の検出終了後に試薬カップ108を内蔵のごみ箱154へ廃棄する。
測定の際にFG122が出力する配向制御信号、サンプリングクロック発生部130が出すサンプリングクロック、PD150が出すPD出力およびA/D変換部128が出すA/D変換部出力について、図11を用いて説明する。図11は、縦軸がそれぞれ生体分子検出装置100における1周期の配向制御信号の電圧、サンプリングクロックの電圧、PD出力およびA/D変換部出力を表し、横軸が時間tを表したグラフである。なお、ここでは説明を容易にするため、PD出力およびA/D変換部出力については、グラフを模式的に示してある。
FG122から出力される配向制御信号は、測定前は0Vとなっている。配向制御信号が0Vの場合、サンプリングクロックも0Vとなりサンプリングは行われない。サンプリングクロックが入力されないため、A/D変換部出力も0となる。PD出力では、初め装置に起因するノイズizの値が出力される。このようにPDからノイズしか出力されない理由は、0Vの配向制御信号がAOD120に入力されることで、配向制御光源部116から照射されたレーザー117がレーザー136の方向に進み、溶液内の全ての蛍光分子14の遷移モーメントが励起光の振動方向と垂直となる方向に配向したことで、励起光119が蛍光分子14を励起不可能になるためである。
続いて、生体分子検出装置100は、配向制御信号を5Vにすると共に、励起光を試薬カップ108に向けて照射する。配向制御信号を5Vとすると、サンプリングクロック発生部130は、サンプリングタイミングを表すサンプリングクロックとして5Vの信号を定期的に出力する。そしてA/D変換部128はサンプリングクロックに合わせたタイミングでアナログ蛍光データのサンプリングをしてA/D変換を行う。また、配向制御信号を5Vとすると、AOD120がレーザーの進行方向を切り替え、レーザー117が進行する方向がレーザー136の方向からレーザー134の方向に切り替わる。レーザー117が進行する方向の切り替えに伴い、試薬カップ108に対するレーザーの照射方向も90度切り替わるため、試薬カップ108内の蛍光分子14は、配向方向が90度切り替わる。
レーザーの照射方向が切り替わったことに伴い、バインディング分子に比べて体積の小さいフリー分子から配向方向が切り替わり、励起光の振動方向と蛍光分子の遷移モーメントとが垂直でなくなって蛍光分子から蛍光が発生する。配向が切り替わる途中のフリー分子に付随する蛍光分子14から発生した蛍光は、大半が偏光していないため偏光子146によって遮断される。そして、配向が完了したフリー分子では、蛍光分子の遷移モーメントが励起光の振動方向と平行となるため励起効率が最大となる。配向が完了したフリー分子に付随する蛍光分子から発生する蛍光は、励起光の振動方向と同じ方向に偏光しているため、偏光子146によって遮断されずPD150に到達する。配向が完了したフリー分子が増加することに伴い、PD出力もizから増加していく。時刻T1で全てのフリー分子の配向が完了すると、PD出力は、値ifで一旦飽和する。その後、時刻T2でバインディング分子の配向が完了し始めることに伴い、PD出力は再び増加していく。配向が切り替わる途中のバインディング分子に付随する蛍光分子14から発生した蛍光は、大半が偏光していないため偏光子146によって遮断される。時刻T3で全てのバインディング分子の配向が完了すると、PD出力は値itで飽和する。
A/D変換部出力は、PD出力と同様に初めDzの値を出力し、徐々に増加して値Dfで一旦飽和する。PD出力がifから増加することに伴い、A/D変換部出力も徐々に増加してDtで飽和する。このように、配向制御信号を0Vとしておき、その後配向制御信号を5Vとすれば、フリー分子に付随する蛍光分子から発生した蛍光による寄与分と、バインディング分子に付随する蛍光分子から発生した蛍光による寄与分とが時間差を伴ってA/D変換部出力に表れる。
配向制御信号は、5Vの出力がT秒間続いた後0Vとなる。このT秒は、少なくともPD出力がitで2度目の飽和をする以上の期間を取る。配向制御信号が5Vから0Vに切り替わることに伴い、サンプリングクロックは0Vとなる。配向制御信号が5Vから0Vに切り替わると、PD出力は、しばらくitの値を出力した後izの値まで減少する。このようにPD出力が装置ノイズに起因するizのみとなる理由は、配向制御信号が0Vに切り替わったことに伴い、蛍光分子14の遷移モーメントと励起光の振動方向とが垂直となり、蛍光分子14の励起効率が0となって蛍光が発生しないためである。PD出力がしばらくitの値を出力する理由は、蛍光分子14の配向方向の切り替えが、配向制御信号の切り替えに対して少し遅れるためである。ここで、配向制御信号を0Vとする期間は、配向制御信号を5Vとしていた期間と同じT秒とした。これは、レーザーの出力が一定という条件下では、溶液中のフリー分子およびバインディング分子の配向が完了するまでに要する時間は、配向制御信号を0Vから5Vにした場合と配向制御信号を5Vから0Vにした場合とで、ほぼ同じだからである。配向制御信号が0Vから5Vに変わって時間Tだけ経過し、配向制御信号が0Vに戻って時間Tだけ経過するまでが、生体分子検出装置100における測定の1周期である。すなわち、生体分子検出装置100における1周期の測定時間は2Tである。
図12は、生体分子検出装置100における配向制御信号を複数周期に亘って示したグラフである。生体分子検出装置100は、図12に示すように、配向制御信号を所定の時間間隔で切り替えて上記1周期の測定を複数回行い、得られた複数のDt、DfおよびDzの値についてそれぞれ加算平均を行って、Dt、DfおよびDzの値の平均値を求める。本実施の形態では、上記1周期の測定を10回行い、Dt、DfおよびDzの値の平均値を求める。これにより、様々な要因により発生する測定結果のばらつきを平均化している。
CPU132は、得られたDt、Df、Dzの平均値から、バインディング分子の濃度を算出する。具体的には、初めに測定値Sを、次式(1)によって求める。
S=(Dt−Df)/(Dt−Dz)・・・(1)
式(1)において、(Dt−Df)は、バインディング分子に付随した蛍光分子から発生した蛍光の強度を表している。(Dt−Dz)は、得られたデータの最大値から装置ノイズのデータを減ずることで装置ノイズの影響を排除した、バインディング分子およびフリー分子を合わせた蛍光の強度を表している。(Dt−Df)を(Dt−Dz)で除算することで、光学系変動等の測定結果の再現性を悪化させる要因をキャンセルしている。
CPU132は、ここで求めた測定値Sから、診断値C(検出対象物質の濃度)を求める。診断値Cは、次式によって求める。
C=f(S)・・・(2)
ここで、f(S)は、検量線関数である。生体分子検出装置100は、あらかじめ測定項目ごとに異なる検量線関数を持っておき、測定値Sを診断値Cに変換する。CPU132は、得られた診断値Cを表示部102へ出力する。
以上説明したように、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置100によれば、レーザーの照射方向の切り替えにより、溶液中のフリー分子およびバインディング分子の配向方向を切り替えることが可能な構成とした。レーザーによるフリー分子およびバインディング分子の配向方向は、フリー分子およびバインディング分子に付随した蛍光分子の遷移モーメントと直線偏光した励起光の振動方向とが平行となる方向、またはフリー分子およびバインディング分子に付随した蛍光分子の遷移モーメントと直線偏光した励起光の振動方向とが垂直となる方向の2つである。すなわち生体分子検出装置100は、レーザーの照射方向の切り替えにより、フリー分子およびバインディング分子に付随する蛍光分子が励起光により励起される場合と励起されない場合とを切り替えることが可能となる。また、フリー分子およびバインディング分子は、レーザーの照射方向の切り替えに伴う配向の完了までに要する時間に差が生じるため、それぞれの分子に付随した蛍光分子から発生する蛍光が受光されるタイミングが異なる。従って生体分子検出装置100は、溶液中の全ての蛍光分子から蛍光が発生しても、フリー分子およびバインディング分子それぞれに付随した蛍光の寄与分を算出することができ、簡便な構成で検出対象物質の濃度を正確に測定することができる。
また、以上の構成において、生体分子検出装置100は、レーザーによる外力によって、フリー分子およびバインディング分子の配向を全て同じ方向に切り替えるため、ブラウン運動というランダムな運動を利用して測定する場合に比べて、高感度な測定をすることができる。
なお、本実施の形態では、抗原抗体反応を利用する場合を例にとって説明したが、検出対象物質と検出対象物質に特異的に結合する物質との組み合わせは、ここで説明した場合に限られない。例えば本願発明は、抗原を用いて抗体を検出する場合や、特定の核酸を用いて当該核酸とハイブリダイゼーションをする核酸を検出する場合、核酸を用いて核酸結合性たんぱく質を結合する場合、リガンドを用いてレセプターを検出する場合、糖を用いてレクチンを検出する場合、プロテアーゼ検出を利用する場合、高次構造変化を用いる場合等にも適用することができる。
また、本実施の形態では、測定結果から検出対象物質の濃度の算出までの説明を容易にするため、測定結果のグラフを模式的な図とした場合における検出対象物質の算出の説明を行ったが、必ずしもこのように算出する必要はない。例えば、グラフ中の変曲点に基づいて、フリー分子による蛍光とバインディング分子による蛍光との境目の点を決めて算出を行っても良い。
また、配向制御信号を5Vまたは0Vとする期間は、フリー分子およびバインディング分子の体積や、溶媒の粘度、溶液の温度等に基づいて変化させることが望ましい。フリー分子およびバインディング分子に対するレーザーの照射方向が切り替わった時からこれらの分子の配向が完了するまでに要する時間は、フリー分子およびバインディング分子の体積や、溶媒の粘度、溶液の温度等に起因する、溶液中におけるフリー分子およびバインディング分子の回転しやすさによって決まる。フリー分子およびバインディング分子が溶液中で回転しにくい場合には、フリー分子およびバインディング分子の配向が完了するまでに要する時間が長くなるため、配向制御信号を5Vまたは0Vとする期間を、配向が完了する程度まで長くすることが望ましい。その場合、配向制御信号を5Vにする期間と0Vにする期間とは、必ずしも同じ長さの期間とする必要はない。
また、本実施の形態では、配向制御光源部116として波長1.3μm、出力700mWのレーザーを出力可能なレーザー光源を用いたが、配向制御光源部116として用いるレーザー光源はこれに限られない。レーザーの波長および出力は、フリー分子およびバインディング分子の体積、質量等起因する溶液中での回転しやすさに基づいて決定することが望ましく、特に、フリー分子とバインディング分子との間に、配向の完了までに要する時間に差が表れる程度の出力のレーザーを用いることが望ましい。
なお、本実施の形態では、繰り返し測定を行って測定結果の加算平均を求めたが、加算平均は必ずしも行う必要はなく、ユーザーが何を重視するかによって決定すれば良い。例えば、ユーザーが素早く測定を行いたい場合には、測定を1周期のみ行って結果を表示しても良いし、ユーザーがより高精度な測定を行いたい場合には、1周期の測定を何度も繰り返すことによって測定精度を向上させることもできる。
(実施の形態2)
図13Aおよび13Bは、本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置の抗原抗体反応の概要を示した模式図である。実施の形態2では、2種類の抗体を使用し、2種類の抗原を検出する。以下、試薬カップ20の中に抗体22および抗体26が入れられている場合を考える。
抗体22および抗体26は、それぞれ蛍光分子24および蛍光分子28で標識されている。試薬カップ20の中に検体30を入れて撹拌すると、抗体22と特異的に結合する抗原32が検体30中に存在する場合には、抗体22と抗原32との間で抗原抗体反応が起こり、抗体22および抗原32が特異的に結合する。同様に抗体26と特異的に結合する抗原34が検体30中に存在する場合には、抗体26と抗原34との間で抗原抗体反応が起こり、抗体26および抗原34が特異的に結合する。実施の形態1で説明した場合と同様に、一部の抗原および抗体は、抗原抗体反応をしないまま溶液中に存在する。以下、抗原抗体反応をした抗体22、抗原32および蛍光分子24をバインディング分子1、抗原抗体反応をしなかった抗体22および蛍光分子24をフリー分子1と呼ぶ。さらに、抗原抗体反応をした抗体26、抗原34および蛍光分子28をバインディング分子2、抗原抗体反応をしなかった抗体26および蛍光分子28をフリー分子2と呼ぶ。本実施の形態では、検出対象物質である抗原32はP53、抗原34はCEA(Carcinoembryonic Antigen)とする。また、抗体22としてP53と特異的に結合するP53抗体を用い、抗体26としてCEAと特異的に結合するCEA抗体を用いる。蛍光分子24として、Alexa Fluor 555(Molecular Probes社の商品名)を用い、蛍光分子28として、Alexa Fluor 588(Molecular Probes社の商品名)を用いた。Alexa Fluor 588は、575−750nm程度の波長を持った蛍光を発し、610nm程度の波長の蛍光を最も強く発する。
本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置は、2種類のフリー分子および2種類のバインディング分子が存在する溶液に励起光を照射し、目的のバインディング分子の検出または定量を行う。
図14は、本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置200の主要な構成を示すブロック図である。なお、実施の形態1で示した生体分子検出装置100と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。生体分子検出装置200は、実施の形態1で示した生体分子検出装置100の構成に対して、受光部202、分注部204、試薬タンク206およびCPU208が主に異なる。
分注部204は、複数の抗体がそれぞれ別の容器に入った試薬タンク206から2種類の抗体を吸い上げ、試薬カップ108内へ分注する。
受光部202は、試薬カップ108内の蛍光分子から発生した蛍光を検出するものであるが、CPU208からの命令を受けて、蛍光分子24から発生する蛍光と蛍光分子28から発生する蛍光とを分けて受光できるように構成されている。
CPU208は、A/D変換部128から出力されたデジタルデータの演算を行い、その結果を表示部102へ出力する。また、CPU208は、操作部104から入力を受けて、配向制御光源部116、励起光源部118、分注部204、FG122および受光部202の動作の指示命令を行う。具体的には、CPU208は、配向制御光源部116および励起光源部118に対してはそのON/OFF命令を行い、分注部204に対しては使用する試薬を指定する命令および分注動作開始命令を行い、FG122に対しては出力する配向制御信号の波形の指示命令および出力命令を行い、受光部202に対しはフィルタの切り替え命令を行う。
受光部202の構成について、図15を用いて具体的に説明する。図15は、実施の形態2に係る生体分子検出装置200における受光部202の詳細な構成を表した模式図である。受光部202内のフィルタ切替部210は、フィルタ212およびフィルタ214の2種類のフィルタを備えている。2種類のフィルタは、可動式となっており、レンズ142によって集光された光が通るフィルタを切り替えることができる。ィルタ切替部210は、CPU208からの命令を受けて、使用するフィルタを切り替える。例えば、Alexa Fluor 555から発生する蛍光を検出する場合は、フィルタ212を使用し、Alexa Fluor 588から発生する蛍光を検出する場合はフィルタ214を使用する。これにより、不要な蛍光がPD150に到達することを防いでいる。本実施の形態では、フィルタ212としてSpOr−Aフィルタ(Semrock社の商品名)セットの受光側フィルタを用い、フィルタ214としてSpRed−Aフィルタ(Semrock社の商品名)セットの受光側フィルタを用いる。SpRed−Aフィルタセットの受光側フィルタは、605nm−650nm程度の波長を透過させるバンドパスフィルタである。なお、本実施の形態では2種類のフィルタにより分光して不要な蛍光がPD150に到達することを防いだが、必ずしもフィルタを用いて光を分光する必要はない。例えば、回折格子やプリズムを用いて光を分光して、特定の波長を有する光のみを受光してもよい。
続いて生体分子検出装置200の測定動作について説明する。生体分子検出装置200の測定動作は基本的には、実施の形態1で説明した生体分子検出装置100の測定動作と同じであるが、細かな点で異なる。フリー分子とバインディング分子を分離して検出できる理由については、実施の形態1で説明したため、ここでは2種類のバインディング分子を、どのように分離して検出するかを説明する。生体分子検出装置200は、まず2種類のバインディング分子のどちらを先に検出するか決定する。これは、ユーザーが、操作部104を通して入力する等して任意に決定することができる。ここでは、Alexa Fluor 555を蛍光分子として持つバインディング分子1から先に検出する。CPU208は、受光部202内のフィルタ切替部210に、フィルタ212の使用を指示する命令を出す。フィルタ切替部210は、CPU208からの命令を受け、レンズ142で集光された光が通る位置にフィルタ212を移動させる。配向制御信号が5Vに変わり、試薬カップ108に向けて励起光が照射されると、溶液内の蛍光分子24および蛍光分子28からそれぞれ蛍光が発生する。蛍光分子24および蛍光分子28からそれぞれ発生した蛍光は、レンズ142によって集光され、フィルタ212へ入射する。フィルタ212は575nm−600nm程度の波長の光のみを通すため、蛍光分子24から発生した蛍光は当該フィルタを透過し、蛍光分子28から発生した蛍光は当該フィルタによりほぼ全て遮断される。このようにして、蛍光分子24から発生した蛍光のみを検出することができる。
実施の形態1と同様に、生体分子検出装置200によって1周期の測定を行い、蛍光分子24から発生した蛍光の検出を行った結果のA/D変換部出力を、図16Aに示す。なお、ここでは計算を容易にするため、グラフを模式的に示してある。A/D変換部出力は、装置ノイズに起因する値D1zを出力し、徐々に増加し、時刻T11で値D1fとなって一旦飽和する。続いてA/D変換部出力は、時刻T12で再び増加し、時刻T13で値D1tとなって再び飽和する。
生体分子検出装置200は、配向制御信号を所定の時間間隔で切り替えて上記1周期の測定を複数回行い、得られた複数のD1t、D1fおよびD1zの値についてそれぞれ加算平均を行って、D1t、D1fおよびD1zの値の平均値を求める。
続いて、CPU208は、得られたD1t、D1f、D1zの平均値から、バインディング分子1の濃度を算出する。具体的には、実施の形態1で測定値Sを求めた場合と同じ演算を行い、測定値S1を求める。そして、検量線関数f1(S)を用いて、測定値S1から濃度C1に変換する。CPU208は、得られた濃度C1を表示部102へ出力する。
次に、生体分子検出装置200は、バインディング分子2の測定を行う。CPU208は、受光部202内のフィルタ切替部210に、フィルタ214の使用を指示する命令を出す。フィルタ切替部210は、CPU208からの命令を受け、レンズ142で集光された光が通る位置にフィルタ214を移動させる。フィルタ214は610nm−650nm程度の波長の光のみを通すため、蛍光分子24から発生した蛍光は当該フィルタにより遮断され、蛍光分子28から発生した蛍光は当該フィルタを透過する。このようにして、蛍光分子28から発生した蛍光のみを検出することができる。
生体分子検出装置200によって1周期の測定を行い、蛍光分子28から発生した蛍光の検出を行った結果のA/D変換部出力を、図16Bに示す。なお、ここでは計算を容易にするため、グラフを模式的に示してある。A/D変換部出力は、装置ノイズに起因する値D2zを出力し、徐々に増加し、時刻T21で値D2fとなって一旦飽和する。続いてA/D変換部出力は、時刻T22で再び増加し、時刻T23で値D2tとなって再び飽和する。
生体分子検出装置200は、配向制御信号を所定の時間間隔で切り替えて上記1周期の測定を複数回行い、得られた複数のD2t、D2fおよびD2zの値についてそれぞれ加算平均を行って、D2t、D2fおよびD2zの値の平均値を求める。
バインディング分子2を測定する場合の配向制御信号の切り替えタイミングは、バインディング分子1を測定する場合と異なる。これは、バインディング分子1、フリー分子1、バインディング分子2およびフリー分子2それぞれの体積および質量が異なるため、それぞれの分子の配向が完了するまでに要する時間が異なるためである。
図16Aおよび16Bに示したように、バインディング分子1を測定する場合とバインディング分子2を測定する場合とでは、PD出力が増加したり飽和したりするタイミングは異なる。これは、バインディング分子1の体積およびバインディング分子2の体積の違いによる溶液中での運動しやすさに起因する。
続いて、CPU208は、得られたD2t、D2f、D2zの平均値から、バインディング分子2の濃度を算出する。具体的には、実施の形態1で測定値Sを求めた場合と同じ演算を行い、測定値S2を求める。そして、検量線関数f2(S)を用いて、測定値S2から濃度C2に変換する。CPU208は、得られた濃度C2を表示部102へ出力する。
以上説明したように、本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置200によれば、実施の形態1で説明した生体分子検出装置100の構成に加え、検出対象物質と特異的に結合する物質として2種類の抗体および蛍光分子を用い、フィルタ切替部210を2種類のフィルタの切り替えが可能な構成とした。そのため、検出対象物質を含むバインディング分子に付随した蛍光分子に対応したフィルタを使用することで、検出対象物質を含むバインディング分子に付随した蛍光分子から発生する蛍光のみを検出することができ、一の検体に含まれる2種類の検出対象物質の濃度を正確に測定することができる。
また、一の検体から同時に複数の検出対象物質を測定できることは、診断の精度を上げる上で重要である。例えば、本実施の形態で検出したP53およびCEAを併用して診断を行うと、それぞれを単独で検出して診断を行った場合に比べ、乳がんにおいては2倍程度の陽性率で診断をすることができる。
なお、本実施の形態では、蛍光分子をAlexa Fluor555およびAlexa Fluor588としたが、蛍光分子はこれに限られない。複数の検出対象物質のそれぞれとそれぞれ特異的に結合する複数の物質を、フィルタで分離できる程度に互いの蛍光波長が離れている複数の蛍光分子でそれぞれ標識すれば良い。
なお、本実施の形態では、抗原抗体反応を利用する場合を例にとって説明したが、検出対象物質と検出対象物質に特異的に結合する物質との組み合わせは、これに限られない。例えば、抗原を用いて抗体を検出する場合や、特定の核酸と当該核酸とハイブリダイゼーションをする核酸、核酸と核酸結合性たんぱく質、リガンドとレセプター、糖とレクチン、プロテアーゼ検出、高次構造変化等を用いても良い。
また、本実施の形態では検出対象物質が2種類の場合について説明したが、検出対象物質の種類は、それより多くても良い。その場合においても、複数の検出対象物質のそれぞれとそれぞれ特異的に結合する複数の物質を用い、それぞれ異なった複数の蛍光分子で標識し、それぞれの蛍光分子から発生する蛍光を、それぞれの蛍光に対応した複数のフィルタで分離して検出することで、それぞれの検出対象物質を互いに分離して検出することができる。
なお、検出対象物質の種類が増えるほど蛍光分子の種類も増え、複数の蛍光分子から発生する複数の蛍光が混在することになるため、フィルタのみで蛍光を分離することが困難となる場合がある。その場合は、励起光の種類を増やすことで蛍光の分離を容易にすることができる。蛍光分子の吸光度は励起光の波長に依存し、蛍光分子の種類ごとに吸収しやすい波長帯がある。そのため、励起光の波長を変えることで、一部の蛍光分子のみが蛍光を発生するようになり、フィルタでの蛍光の分離が容易となる。また、より狭い通過帯域を持つバンドパスフィルタを用いることで、目的の蛍光分子から発生する蛍光を検出しやすくすることができる。
(実施の形態1および実施の形態2の設計変更)
なお、以上説明した本発明に係る各実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。本発明に係る生体分子検出装置は、上記各実施の形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能である。
例えば、溶液中の分子への外力の付与は、レーザーによるものに限られず、フリー分子およびバインディング分子の配向が完了するまでに要する時間に差が生じる程度の外力を加えるものであれば、磁気的な方法や電気的な方法としても良い。
また、本発明に係る各実施の形態では、互いに直交する2つの方向、つまりフリー分子およびバインディング分子に付随した蛍光分子の遷移モーメントと直線偏光した励起光の振動方向とが平行となる方向、および、フリー分子およびバインディング分子に付随した蛍光分子の遷移モーメントと直線偏光した励起光の振動方向とが垂直となる方向の間で、レーザーの進行方向を切り替えたが、必ずしも互いに直行する2つの方向の間で切り替える必要はない。例えば、検出対象物質の定量を行いたい場合は、設定すべきレーザーの2つの進行方向のうち一方が、フリー分子およびバインディング分子に付随した蛍光分子の遷移モーメントと直線偏光した励起光の振動方向とが垂直となる方向、すなわち直線偏光した励起光が蛍光分子を励起不可能な方向であれば良い。励起光が蛍光分子を励起できない方向に蛍光分子を配向させれば、蛍光が発生しないためPD出力はノイズのみとなる。すると、レーザーの照射をもう一方の方向に切り替えた時、配向が完了したフリー分子およびバインディング分子に付随した蛍光分子から発生する蛍光のみを受光することができる。換言すれば、蛍光の発生を一旦リセットすることができるため、不要な蛍光を受光することがなくなり、不要な蛍光によるノイズがなくなる。この場合、レーザーが進行する2つの方向が直交していれば、フリー分子およびバインディング分子の配向が完了するまでの時間差が最大となって、最もS/Nが良くなる。一方で、例えばレーザーが進行する2つの方向の成す角度が60度であれば、レーザーの進行方向が直交する場合と比べ、フリー分子およびバインディング分子の配向が完了するまでに要する時間が短くなり、測定に要する時間も短くなる。このようにレーザーが進行する2つの方向の成す角度が0度に近づくほど、フリー分子およびバインディング分子の配向が完了するまでに要する時間が短くなり、測定時間も短くなる。
また、溶液中に検出対象物質が存在するか否か、すなわちバインディング分子が存在するかしないかのみを測定したい場合は、フリー分子およびバインディング分子の間で配向の完了までに時間差が生じる程度だけ角度をつけた2つの方向でレーザーの照射方向を交互に切り替えれば良く、必ずしもフリー分子およびバインディング分子に付随する蛍光分子の遷移モーメントの方向と直線偏光した励起光の振動方向とが互いに垂直となる方向が含まれていなくても良い。フリー分子およびバインディング分子の間で配向の完了までに時間差が生じれば、その差は蛍光データに表れるため、バインディング分子の存在を確認できる。
また、本発明に係る各実施の形態では、レーザーの照射方向の切り替えにAOD120を用いたが、レーザーを2方向から当てられるような構成であれば、AOD120を用いなくても良い。例えばミラー等を使ってレーザーの照射方向を変える構成や、配向制御光源部116を2つ設けて2方向からレーザーを照射する構成等が考えられる。
また、本発明に係る各実施の形態では、生体分子検出装置内に試薬カップを1つ設ける場合を説明したが、必ずしも試薬カップは1つである必要はなく、装置内に複数の試薬カップを設けて複数の検体をセットできる構成としても良い。その場合は、装置が試薬カップを順に測定位置に移動させて測定を行う構成とすれば、自動で複数の検体を測定することができる。
なお、本発明に係る各実施の形態では、蛍光分子で標識化された抗体を用いた例を説明したが、必ずしも蛍光分子で標識済みの抗体を用いる必要はない。例えば、抗体および抗原の結合と、抗体および蛍光分子の結合とを同時に試薬カップ内で行っても良い。この場合、ユーザーが抗体および蛍光分子をそれぞれ別の試薬タンクに用意しておき、測定時に生体分子検出装置が、抗体、蛍光分子および検体をそれぞれ試薬カップへ分注して、反応させる。
また、配向制御光源部116や励起光源部118は、着脱可能な構成として、検出対象物質および蛍光分子等に応じて適切なものに交換できるような構成としても良い。
また、配向制御手段による配向制御の方向を所定の時間間隔で切り替え、得られた複数の蛍光データの加算平均を行って、前記検出対象物質の検出または定量を行うと、1周期の測定毎のノイズの影響を減少させることができ、より高精度な測定が可能となる。
配向制御の方向を切り替える所定の時間間隔は、検出対象物質、検出対象物質と特異的に結合する物質および蛍光分子それぞれの質量または体積と、前記配向制御手段の外力の強度とに基づいて、全てのフリー分子およびバインディング分子の配向が完了するまでに要する時間を求め、その時間を所定の時間間隔とすることが望ましい。この場合、全ての分子の配向が完了した後も同一方向にレーザーを照射することがなくなり、消費電力を削減することができる。また、不要な時まで測定を続けることがなくなり、測定時間を短くすることができる。
全てのフリー分子およびバインディング分子の配向が完了するまでに要する時間は、PD出力やA/D変換部出力に基づいて求めてもよい。例えば、測定を何周期か繰り返せば、それぞれの出力が飽和するまでにどのくらいの時間を要するかおおよそ分かるため、それぞれの出力が飽和するまでに要する時間を加算平均する等して、算出した時間を所定の時間間隔として決めれば良い。
レーザーによる分子の配向制御を行う場合には、磁力等によって分子の配向を制御する場合に比べ複雑な機構が必要ない。例えば、磁力を用いて分子の配向を制御するためには、それぞれの分子が磁性を持ったものであるか、磁性を持った分子を用意して配向を制御したい分子に結合させる必要があり、測定にあたって準備が煩雑となる。
なお、本発明に係る各実施の形態では、検体として全血を用いる場合を例にとって説明したが、検体は全血に限られず、検出対象物質が溶液中に分散していれば尿や隋液等の体液を検体とすることもできる。
また、本発明に係る各実施の形態では、抗原、抗体および蛍光分子が液体中に分散している液相で測定ができるため、抗原等を反応層に固定して測定を行う固相での測定に比べ、前処理が簡単であるという利点がある。
また、本発明に係る各実施の形態では、配向制御光源部は必ずしも1つの照射方向に対して1つである必要はなく、複数の配向制御光源部を設けて、同一方向に複数のレーザーを照射しても良い。
また、本発明に係る各実施の形態のように、レーザーを照射する方向を変えることにより蛍光分子の遷移モーメントの方向を制御する光学系においては、レーザーのビーム径を細長く絞った場合にレーザーで照射できる範囲が減少してしまうことを回避する観点から、レーザーをある方向から同時に多点に照射して照射範囲をより広くするために、光学系を複数段用意しても良い。複数段の光学系は、少なくとも試薬カップにレーザーが入射する前の段階で光路が複数存在していればよい。例えば、光源も含めた同様の光学系を3段重ねれば、3つの配向制御光源部からそれぞれレーザーが照射され、試薬カップへある方向から3点にレーザーを照射することができる。また例えば、光源が1つであっても2次元レーザーアレイやマイクロレンズアレイ等を用いてレーザーを分岐すれば、分岐した分だけの複数の点でレーザーを照射することができる。このような場合、レーザーを同時に多点に照射することができ、複数の箇所で蛍光分子の遷移モーメントを回転させることができる。
また、本発明に係る各実施の形態では、一方向に直線偏光した励起光119を溶液に照射する場合、すなわち偏光面が単一の励起光119を溶液に照射する場合を例にとって説明したが、励起光119は必ずしも単一の偏光面を有する直線偏光した光である必要はない。実施の形態1および実施の形態2の効果と同様の効果を奏するためには、励起光119が特定方向の直線偏光成分を少なくとも1つ有していれば良い。ここで、特定方向の直線偏光成分を有する光とは、蛍光分子の配向方向の変化により、蛍光分子の遷移モーメントと励起光の当該直線偏光成分の振動方向との関係が変化して、当該直線偏光成分による蛍光分子の励起効率に変化が生じる光である。例えば、ランダム偏光した励起光を照射し、受光部の前に検光子を設けて、蛍光分子から発生した蛍光から特定方向の直線偏光成分のみを受光するように構成しても良い。ここでランダム偏光とは、光の振動方向がランダムであり、様々な方向に振動する直線偏光成分が存在することをいう。
図17Aおよび図17Bは、それぞれレーザー136、134を照射した際の蛍光分子14の配向方向とランダム偏光した励起光230の振動方向とを表した概念図である。励起光230の振動方向232a〜232dは、励起光230の進行方向に対して垂直な平面内における光の振動方向を表す。図17Aおよび図17Bでは、振動方向232a〜232dによって励起光230の振動方向が様々な方向であることを表しているが、実際は、図示した成分だけでなく、あらゆる角度方向のより多くの成分が含まれている。配向により溶液中で静止した蛍光分子を直線偏光した励起光で励起すると、蛍光分子は、励起光の振動方向と同一の方向に偏光した蛍光を発生する。ランダム偏光した励起光230によって励起されると、蛍光分子14からもランダム偏光した蛍光234が発生する。
検光子236は、蛍光分子14から発生したランダム偏光した蛍光234のうち特定の方向に振動する成分を透過させ、それ以外の方向に振動する成分を遮断する。換言すれば、検光子236を透過した光は特定の方向にのみ振動する光となる。検光子236を透過可能な特定の方向に振動する蛍光234の成分とは、励起光230のうち振動方向232aに直線偏光した励起光成分によって励起された成分である。これは、レーザー134によって配向が完了した蛍光分子14の遷移モーメントの方向(楕円で示された蛍光分子14の長軸方向)と一致し、また、レーザー136によって配向が完了した蛍光分子14の遷移モーメントの方向に垂直な方向と一致する。したがって、検光子236を透過した蛍光234の振動方向は、図17AおよびBにおいてほぼ振動方向232aのみとなる。これにより、蛍光分子14から発生した蛍光234のうち、励起光230のうち振動方向232aに直線偏光した励起光成分によって励起された成分のみをフォトダイオード238に到達させることができる。蛍光234に含まれる振動方向232aの方向に振動する成分の発生に寄与するのは、励起光230に含まれる振動方向232aの方向に振動する成分である。すなわち、励起光230に含まれる振動方向232aの方向に振動する成分による蛍光分子14の励起効率がフォトダイオード238によって検出される蛍光の強度となって表れる。つまり、このような構成にすることで、励起光230としてランダム偏光した光を用いても、特定の方向に振動する光に対して実施の形態1と同様の測定を行うことができる。なお、検光子236が透過させる特定の方向に振動する蛍光234の成分とは、必ずしもここで示した方向に振動する成分に限られず、蛍光分子14の配向方向の変化に伴い蛍光分子14に対する励起効率に差が生じる成分であれば何でも良い。
また、図17Aおよび図17Bでは励起光230がいずれの方向に振動する場合においても振幅が一定である例を示したが、必ずしも全ての方向において振幅が一定である必要はない。フォトダイオード238が受光する蛍光234の成分は、ランダム偏光した蛍光234のうち特定方向に振動する成分のみであるので、その他の方向に振動する成分は遮断される。
図17Aに示すように、配向制御信号が0Vの場合、レーザー136により配向した蛍光分子14の遷移モーメントの方向と検光子236を透過可能な光の振動方向232aとは垂直となる。この場合、励起光230に含まれる振動方向232aに振動する成分による蛍光分子14の励起効率は最小となる。従って、蛍光分子14から発生する蛍光234のうち、検光子236を通ってフォトダイオード238に到達する成分は最小となる。
一方、図17Bに示すように、配向制御信号が5Vの場合、レーザー134により配向した蛍光分子14の遷移モーメントの方向と検光子236を透過可能な光の振動方向とは平行となる。この場合、励起光230に含まれる振動方向232aに振動する成分による蛍光分子14の励起効率は最大となる。従って、蛍光分子14から発生する蛍光234のうち、検光子236を通ってフォトダイオード238に到達する成分は最大となる。
このような構成とした場合においても、配向制御信号を0Vから5Vに変化させると、蛍光分子14の配向方向が変化し、蛍光分子14の遷移モーメントの方向と検光子236を透過可能な光の振動方向とが徐々に平行に近づく。それに伴い、励起光230に含まれる検光子236を透過可能な方向に振動する成分による蛍光分子14の励起効率が増加し、蛍光分子14から発生する蛍光234の成分であって検光子236を透過可能な方向に振動する成分が増加する。すなわち、フォトダイオード238において検出する蛍光強度は、実施の形態1と同様に徐々に増加する。この場合、フリー分子とバインディング分子とでは、配向が完了するまでに要する時間が互いに異なるため、フォトダイオード238が受光する蛍光強度が増加して飽和するタイミングも互いに異なる。そのため、このような構成とした場合においても、配向制御信号を0Vから5Vに変化させた際の、時間に対するフォトダイオード出力のグラフは、図11と同様の形状となる。つまり、この場合においてもフォトダイオード出力のグラフについて実施の形態1と同様の計算を行うことにより、検出対象物質の濃度を測定することができる。
また、図18Aおよび図18Bに示す概念図のように、互いに直交する2つの方向にそれぞれ直線偏光した2つの成分のみを有する励起光240を用いてもよい。励起光240は、進行方向に対して垂直な平面内において振動方向242a、242bにそれぞれ直線偏光した2つの成分のみを有する。つまり、振動方向242aと振動方向242bとは互いに直交している。このような励起光240によって励起された蛍光分子14は、励起光240の振動方向と同一方向に振動する成分を有する蛍光244を発する。すなわち、蛍光244は振動方向242a、242bにそれぞれ直線偏光した2つの成分を有する。
図18Aは、配向制御信号が0Vの場合の概念図である。配向制御信号が0Vの場合、レーザー136が照射される。レーザー136を照射された蛍光分子14は、遷移モーメントの方向が振動方向242bと同一の方向となるように配向する。つまり、配向制御信号が0Vの場合の蛍光分子14の遷移モーメントと、励起光240の一方の成分の振動方向242bとは互いに平行である。
偏光ビームスプリッタ246は、蛍光244のうち振動方向242aに振動する直線偏光成分244aを透過させ、振動方向242bに振動する直線偏光成分244bを反射する。偏光ビームスプリッタ246を透過した蛍光244の直線偏光成分244aは、フォトダイオード248に到達する。偏光ビームスプリッタ246で反射した蛍光244の直線偏光成分244bは、フォトダイオード250に到達する。
図18Bは、配向制御信号が5Vの場合の概念図である。配向制御信号が5Vの場合、レーザー134が照射される。レーザー134を照射された蛍光分子14は、遷移モーメントの方向が振動方向242aと同一の方向となるように配向する。つまり、配向制御信号が5Vの場合の蛍光分子14の遷移モーメントと、励起光240の他方の成分の振動方向242aとは互いに平行である。
図19は、縦軸がそれぞれ配向制御信号の電圧、フォトダイオード248の出力、フォトダイオード250の出力および正規化したフォトダイオードの出力を表し、横軸が時間tを表したグラフである。なお、ここでは説明を容易にするため、フォトダイオード出力については、グラフを模式的に示してある。
図19においては、実施の形態1と同様に測定前の配向制御信号は0Vとなっている。測定前においては、レーザー136を試薬カップ内の溶液中に照射して、フリー分子およびバインディング分子を同一方向に配向させておく。測定の開始に伴い、レーザーがレーザー136からレーザー134に切り替わる。
偏光ビームスプリッタ246を透過した蛍光244の直線偏光成分244aに着目する。この場合、励起光240の一方の成分の振動方向242aと蛍光分子14の遷移モーメントの方向との関係は実施の形態1の場合の関係と同様になる。そして、フォトダイオード248の出力の時間変化は、実施の形態1において説明した図11に示したグラフと同様のグラフとなる。つまり、時刻T31におけるレーザーの照射方向の切り替えに伴ってまずフリー分子の配向方向が切り替わり始め、フォトダイオード248の出力が当初の値iz3から増加する。フリー分子の配向が完了することによりフォトダイオード248の出力は、時刻T32において値if3となった後しばらく一定値となる。その後、バインディング分子の配向方向が切り替わり始めることに伴って時刻T33でフォトダイオード248の出力は再び増加する。そして、全てのバインディング分子の配向が完了した時刻T34において、フォトダイオード248の出力は値it3で最大値となる。配向制御信号は5Vの出力がT秒間続いた後0Vとなる。配向制御信号が5Vから0Vに切り替わると、フォトダイオード248の出力は、しばらくit3の値であるが、その後iz3の値まで減少する。
偏光ビームスプリッタ246で反射した蛍光244の直線偏光成分244bに着目する。この場合、励起光240の他方の成分の振動方向242bと蛍光分子14の遷移モーメントの方向とが時刻T31までは互いに平行であるため、励起光240の当該他方の成分による蛍光分子14の励起効率は時刻T31までは最大の状態である。すなわち、蛍光244の直線偏光成分244bの量が時刻T31までは最大であるため、偏光ビームスプリッタ246で反射する蛍光244の直線偏光成分244bを受光するフォトダイオード250の出力も時刻T31までは最大となる。時刻T31におけるレーザーの照射方向の切り替えに伴ってまずフリー分子の配向方向が切り替わり始め、フォトダイオード250の出力が当初の値it4から減少する。フリー分子の配向が完了することによりフォトダイオード250の出力は、時刻T32において値if4となった後しばらく一定値となる。その後、バインディング分子の配向方向が切り替わり始めることに伴って時刻T33でフォトダイオード250の出力は再び減少する。そして、全てのバインディング分子の配向が完了した時刻T34において、フォトダイオード250の出力は値iz4で最小値となる。配向制御信号は5Vの出力がT秒間続いた後0Vとなる。配向制御信号が5Vから0Vに切り替わると、フォトダイオード250の出力は、しばらくiz4の値であるが、その後it4の値まで増加する。これは、励起光240の当該他方の成分の振動方向242bと蛍光分子14の遷移モーメントの方向とが互いに平行となる状態に戻るためである。
そして、実施形態1と同様にCPUは、フォトダイオード248の出力をPp、フォトダイオード250の出力をPvとして、これらを次式(3)に従って正規化する。
K=(Pp−Pv)/(Pp+Pv)・・・(3)
このように、2つのフォトダイオードの出力を正規化することで、フリー分子およびバインディング分子の濃度ばらつきや、光学系の励起パワー変動などの影響を低減させることができる。
そして、正規化したフォトダイオード出力のグラフからバインディング分子の濃度を算出する。具体的には、測定値S3を次式(4)によって求める。
S3=(it5−if5)/(it5−iz5)・・・(4)
ここで求めた測定値S3から、実施の形態1と同様に検量線関数を用いて診断値C3(検出対象物質の濃度)を求めることができる。
また、本発明に係る各実施の形態では、レーザーを照射する方向を切り替えることにより蛍光分子の遷移モーメントの方向を制御する場合について説明したが、蛍光分子の遷移モーメントの方向を制御する方法はこれに限られない。例えば、蛍光分子の遷移モーメントが直線偏光した光の振動方向に追従する現象を利用して、直線偏光したレーザーの振動方向を制御することにより蛍光分子の遷移モーメントの方向を制御してもよい。
直線偏光したレーザーの偏光方向を制御することにより蛍光分子の遷移モーメントの方向を制御する方法としては、例えば、一方向に直線偏光したレーザーを用い、当該レーザーの偏光軸を回動させてフリー分子およびバインディング分子の配向を制御し、蛍光分子の遷移モーメントの方向を制御する方法が挙げられる。直線偏光したレーザーを照射されたフリー分子またはバインディング分子は、レーザーの偏光軸によって決まる特定の方向に配向する。直線偏光したレーザーの偏光軸の制御は、λ/2波長板を用いることにより実施できる。λ/2波長板は、光の互いに直交する2成分間の光路差を1/2波長にする機能を有する位相板であり、光の偏光軸を回転操作するために用いられる。λ/2波長板の光学軸方向と平行な方向に直線偏光した光はλ/2波長板を素通りするが、λ/2波長板の光学軸方向と45度の角度をなす方向に直線偏光した光は偏光軸が90度回転された状態で透過する。つまり、直線偏光したレーザーに対するλ/2波長板の角度を切り替えることにより、レーザーを素通りさせる場合とレーザーの偏光軸を90度回転させてレーザーを透過させる場合とを切り替えることができる。すなわち、λ/2波長板を用いて直線偏光したレーザーの偏光軸を回転させることにより、フリー分子およびバインディング分子を2つの方向へ配向させることができる。
また、直線偏光したレーザーの振動方向を制御することにより蛍光分子の遷移モーメントの方向を制御する場合において、進行方向に垂直な平面でのレーザーの断面形状はどのようなものであっても良い。例えば、図20Aに示すように、偏光軸352を有する直線偏光したレーザー350が照射される場合を考える。この場合、レーザー350は、進行方向に垂直な方向の断面形状が略長方形である。このとき、レーザー350の中心に位置するバインディング分子354とレーザー350の周縁部に位置するバインディング分子356の挙動を考える。
図20Bに示すように、レーザー350を回転させると偏光軸352も回転し、回転軸(偏光軸352の回転中心)上に位置するバインディング分子354は、偏光軸352の回転にすぐに追従して回転する。一方、レーザー350の周縁部に位置するバインディング分子356は、偏光軸352の回転にすぐには追従できず、偏光軸352から離れることになる。その後しばらくすると、バインディング分子356も、レーザー350に引き込まれ、偏光軸352の回転に追従して回転を開始する。そして、図20Cのように、レーザー350の偏光軸352を図20Aの場合における偏光軸352に対して90度回転させた場合、偏光軸352の回転の終了と同時にバインディング分子354の配向は完了し、一方、バインディング分子356が偏光軸352の回転にすぐには追従できないためバインディング分子356の配向はバインディング分子354の配向の完了後しばらくしてから完了する。つまり、回転軸上に位置するバインディング分子354の動きは、レーザー350の偏光軸352の回転に同期して自転する挙動となるが、レーザー350の周縁部に位置するバインディング分子356の動きは、レーザー350の偏光軸352の回転に同期せずかつ回転軸を中心として公転するような動きとなる。
このように、レーザー350の偏光軸352の回転に追従できないバインディング分子が存在すると測定に影響を与えることがある。そこで、このような影響を低減するため、レーザーを所定の方向から同時に多点に入射させることが好ましい。例えば図21(試薬カップ108の上面図)に示すように、360a〜360iの9点にそれぞれ対応した9本のレーザーを試薬カップ108入射させるような態様でも良い。このようにすると、レーザーの偏光軸の中心に位置するバインディング分子の数が増えるため、測定への影響を低減することができる。なお、ここでは9点にレーザーを入射させる例を示したが、レーザーを入射させる点は9点に限られず、9点より多くても少なくても良い。レーザーを絞るほど、多くの点に入射させることが望ましい。これにより、複数箇所でレーザーの回転に同期してバインディング分子を回転させることができる。その結果、突発的な蛍光強度の変動を低下させることができ、相対的な散らばりを表す指標である変動係数(Coefficient of Variation)を改善することができる。
このように、レーザーを所定の方向から同時に多点に入射させるための配向制御光源部402の構造について図22に示す。配向制御光源部402は、3×3の2次元レーザーアレイである。配向制御光源部402は、発光点404a〜404iの9点が発光する。発光点の大きさは縦が1μmで横が100μmである。発光点の間の距離は約100μmである。
図22に示される配向制御光源部402を用いた光学系の一例を図23に示す。なお図23では、レーザーおよび励起光の光学系以外の構成要素は省略して描いてある。
配向制御光源部402から出力された直線偏光したレーザー422は、コリメータレンズ406を通って焦点において平行光線となる。コリメータレンズ406を通ったレーザー422は、ビームエキスパンダ408およびビームエキスパンダ410を通ってλ/2波長板412に入射する。ビームエキスパンダ408およびビームエキスパンダ410を通ったレーザー422は、特定の倍率の平行光束に広げられる。λ/2波長板412は回転ステージ上にあり、回転可能となっている。これによりレーザー422の振動方向を回転することができる。λ/2波長板412を透過したレーザー422は、ダイクロイックミラー418で反射してレンズ420により集光されて試薬カップ108の底面から上方に向かって入射する。
光源部414から出力された励起光424は、レンズ426を通ってダイクロイックミラー416により反射される。ダイクロイックミラー416により反射された励起光424は、ダイクロイックミラー418を透過してレンズ420により集光されて試薬カップ108の底面から上方に向かって入射する。
図23に示される光学系において、コリメータレンズ406の焦点距離を3.1mm、レンズ420の焦点距離を4mmとすると、倍率は1.29倍となる。そのため、試薬カップ108の底面において、レーザー422の大きさは約1.3μm×130μmとなり、ピッチは約129μmとなる。
また、レーザーを所定の方向から同時に多点に入射させるための別の光学系の例について図24を用いて説明する。なお図24においても、レーザーおよび励起光の光学系以外は省略して描いてある。また、図23と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図24に示される光学系において、配向制御光源部116は実施の形態1と同様のものである。レーザー432は、コリメータレンズ406、ビームエキスパンダ408およびビームエキスパンダ410を通り、マイクロレンズアレイ428へ入射する。マイクロレンズアレイ428は、図25に示されるように、複数のマイクロレンズ428aを格子状に並べたものである。マイクロレンズアレイ428を通ったレーザー432は、複数の光源から照射された光のように、異なる位置で焦点を結ぶ複数の光束となる。レーザー432は、ピンホールアレイ430によって絞られ、ダイクロイックミラー418で反射し、レンズ420を通って試薬カップ108の底面から上方に向かって入射する。このようにマイクロレンズアレイを用いても、レーザーを所定の方向から同時に多点に入射させることができる。
また、λ/2波長板412を用いて振動方向を変更する例を示したが、電気信号で制御可能な液晶位相変調デバイスを用いて振動方向を変更してもよい。
また、上記各実施の形態では試薬カップを円柱状の形状としたが、試薬カップは必ずしも円柱状の形状とする必要は無い。例えば、図26に示されるように、四角柱状の形状を有し、内部に四角柱状の溶液保持部を有する試薬カップ432を用いても良い。このような四角柱状の溶液保持部を有する試薬カップ432は、特に、レーザーの進行方向に働くレーザーによる圧力を利用してフリー分子およびバインディング分子を試薬カップ432の内部側壁面に押しつける場合に適している。これは、フリー分子およびバインディング分子の質量が軽い場合に起こる現象であり、レーザーによる圧力を受けてフリー分子およびバインディング分子が溶液中を移動することが原因である。この場合、溶液保持部が四角柱であると、フリー分子およびバインディング分子は溶液と試薬カップ432との界面に押しつけられながら配向する。当該界面が平面でありかつレーザーによる圧力が当該界面に垂直な方向に作用する場合には、フリー分子およびバインディング分子は当該界面に平行な方向に移動してレーザーの照射範囲の外に出ることがない。
また、フリー分子およびバインディング分子を試薬カップ432の内部側壁面に押しつける場合には、レーザーの焦点の位置を工夫することによりこれらの分子をより容易に配向させることができる。図27は、集光されたレーザーの焦点と試薬カップとの位置関係の一例を示す図である。レーザー434は、レンズ436に入射し、血漿16と試薬カップの側壁部432bとの界面(側壁部432bの内部側壁面)において焦点434aを結ぶ。レーザー434の焦点434aの位置では、レーザー434の強度が最も強いため、より強い圧力でフリー分子およびバインディング分子を押しつけることができる。従って、図27のようにレーザー434を入射させると、焦点434aの位置においてフリー分子およびバインディング分子を側壁部432bの内部側壁面に押しつけつつ、より効率的にフリー分子およびバインディング分子を配向させることができる。この場合においても、直線偏光したレーザー434の振動方向を回転させることで、フリー分子およびバインディング分子の配向方向を焦点434aの位置において変化させることができる。
なお、溶液保持部は必ずしも四角柱状の形状を有している必要はなく、少なくとも一面に平面を有していれば良い。その平面において焦点を結ぶようにレーザーを照射すれば、フリー分子およびバインディング分子は、当該平面に平行な方向に移動してレーザーの照射範囲の外に出ることがなく平面に押しつけられながら配向する。