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JP2008298743A - 蛍光分析による分子間相互作用検出方法 - Google Patents

蛍光分析による分子間相互作用検出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 蛍光相関分光分析(FCS)等の一分子蛍光分析技術により生体分子等の運動の速さの変化を観測して生体分子等の相互作用を、検査の実行までに要する時間、労力及び費用を低減しつつ良好に又は高感度に検出すること。
【解決手段】 本発明の方法は、蛍光標識された第一の分子と、所定の修飾基が付与された第二の分子と、所定の修飾基に特異的に結合する第三の分子とを含む反応混合溶液の蛍光強度に基づいて、第一の分子のブラウン運動の速さの指標値を算定し、第一の分子のブラウン運動の速さが、単独で遊離しているときに比して遅くなっていると判定される場合には、第二の分子が第一の分子に結合したと判定することを特徴とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、蛍光分子からの蛍光を計測することによりタンパク質、ペプチド、核酸、脂質、アミノ酸及びその他の生理活性物質又は生体分子(以下、「生体分子等」とする。)の分子間相互作用又は結合・解離反応を検出する方法に係り、より詳細には、かかる分子間相互作用又は結合反応を、より高感度に検出する方法に係る。
生物科学、医学又は薬学の分野に於いて、しばしば、蛍光分析技術を用いて、種々の生体分子等に於ける分子間相互作用又は結合・解離反応を細胞レベル又は分子レベルで解明する試みがなされている。例えば、溶液中の蛍光分子の蛍光強度又はその揺らぎ、偏光度を計測し分析すると、その蛍光分子の微視的な運動状態、例えば、並進又は回転ブラウン運動の速さなど、が検出できる。そこで、互いに相互作用する生体分子等の少なくとも一方に蛍光標識を施し、その蛍光標識からの蛍光強度を測定・分析して、蛍光標識された生体分子の運動状態を観測するといったことが行われる。もし蛍光標識された生体分子が、別の分子との相互作用に於いて、その別の分子と結合し又はその別の分子から解離すると、蛍光標識を担持する粒子(生体分子又はその複合体)の大きさが変化し、その蛍光標識を担持する粒子の溶液中の運動状態が変化するので、その変化から分子間相互作用又は結合・解離反応の有無又は強さが推定されることとなる。
また、近年、光学顕微鏡の光学系を用いた光計測技術の進歩により、レーザー共焦点顕微鏡の光学系とフォトンカウンティング(1光子検出)も可能な超高感度の光検出装置とを用いて一光子又は蛍光一分子の蛍光等の微弱光の検出・測定(一分子蛍光分析技術)が可能となってきたことから、そのような微弱光の計測技術を用いて、上記の如き蛍光分析による生体分子等の分子間相互作用又は結合・解離反応の検出の試みが為されつつある。例えば、特許文献1、2に於いては、レーザー共焦点顕微鏡の光学系を用いた蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)、蛍光偏光解析法(Fluorescence Depolarization Spectroscopy:FDS)により或るタンパク質と任意の分子との相互作用(結合反応)や抗原抗体反応の有無が検出されることが示されている。また、蛍光強度分布分析(Fluorescence-Intensity Distribution Analysis:FIDA)、蛍光相互相関分光法(Fluorescence cross-correlation Spectroscopy:FCCS)と称される手法により、生体分子等の分子間相互作用を検出できることが示されている(非特許文献1)。
上記如き一分子蛍光分析技術を用いた検出方法によれば、測定に必要な試料は、従前に比して極めて低濃度且微量でよく(一回の測定で使用される量は、たかだか数十μl程度)、測定時間も大幅に短縮される(一回の測定は10秒程度)。従って、上記の如き微弱光の計測技術を用いて分子間相互作用を検出する方法又は装置は、病気の診断や生理活性物質のスクリーニングなど、検体数が多い場合にも、従前に比して、速やかに検査が実行できる強力なツールとなることが期待されている。
特開2005−172460 特開2005−337805 バイオフィジカル・ジャーナル(Biophysical Journal) Volume 72(1997)1878-1886
ところで、上記の如き、蛍光分析技術のうち、生体分子等の運動の速さの変化を、その生体分子等に付与された蛍光標識からの蛍光に基づいて検出する手法(FCS、FDS)の場合、生体分子等の運動状態の変化を精度良く又は高感度に検出するためには、観測されるべき分子間相互作用の前後に於ける蛍光標識を担持する粒子の大きさの変化が十分に大きい必要がある(一般的には、少なくとも3倍程度の大きさの変化があることが望ましい。)。換言すれば、たとえ、分子間相互作用により、分子の結合・解離が生じても、蛍光標識を担持する粒子の大きさの変化がブラウン運動の速さを顕著に変化させるほどでなければ、上記の蛍光分析技術で精度よく検出することは困難である。従って、通常、或る一組の(互いに異なる)分子が互いに結合するか否かを検出しようとする場合には、その一組の分子がそれぞれ遊離している状態と互いに結合している状態とに於ける蛍光標識された粒子の大きさの変化がより大きくなるように、分子の大きさが相対的に小さい方に蛍光標識が付与される。しかしながら、それでも、例えば、互いに結合する分子の大きさが、ほぼ同等で、結合反応の前後で、ブラウン運動の速さがあまり変わらない場合には、良好な検出結果が得られない場合がある。
そこで、特許文献1に於いては、互いに結合する分子の結合の前後の大きさの変化が比較的小さい場合でも上記のFCS、FDSの如き蛍光分析技術により良好な検出結果が得られるように、互いに結合する分子の一方に対する抗体を用いる手法が開示されている。この場合、互いに結合する分子のうちの一方にのみ蛍光標識を施すとともに、測定される溶液中に他方の分子に対する抗体が更に混合される。混合された抗体は、蛍光標識されていない分子に結合するので、その分子のみかけの大きさ(一体的に運動する分子の大きさ)が大きくなり、従って、結合の前後に於ける蛍光標識を担持する粒子の大きさの変化が大きくなり、良好な検出が得られることとなる。しかしながら、特許文献1の手法の場合、相互作用させる分子が変わる毎に、異なった抗体を調製する必要があり、あまり効率的ではない。特に、病気の診断や生理活性物質のスクリーニングなど、検体数が多い場合、検査の実行までに要する時間、労力及び費用は膨大な量となり得る。また、検査されるべき分子の種類によっては、抗体の調製が本質的に又は設備上の問題により困難である場合も有り得る。
かくして、本発明の一つの課題は、蛍光分析、特に、上記の如き、所謂、一分子蛍光分析技術により生体分子等の運動の速さの変化を観測して生体分子等の相互作用の有無又は強さを検出する方法に於いて、相互作用の前後に於ける蛍光標識を担持する分子又は粒子の大きさの変化が比較的小さくても、良好に又は高感度に分子間相互作用を検出することができ、尚且つ、検査の実行までに要する時間、労力及び費用が従前に比して低減される方法を提供することである。
また、本発明のもう一つの課題は、上記の如き蛍光分析により分子間相互作用を検出するための方法であって、従前に比して、より広範囲の(より多くの種類の)分子間相互作用の検出に適用可能な方法を提供することである。
本発明によれば、FCS又はFDSの如き、蛍光標識された分子の運動状態の変化を観測する蛍光分析に於いて、新規な手法により、相互作用の前後で蛍光標識を担持する分子又は粒子の運動状態の変化が大きくなるよう構成された方法が提供される。
本発明の蛍光分析により分子間相互作用を検出する方法に於いては、蛍光標識された第一の分子を準備する過程と、第一の分子と結合するか否かが検査される第二の分子にして所定の修飾基が付与された第二の分子を準備する過程と、第一の分子と第二の分子とその第二の分子の所定の修飾基に特異的に結合する第三の分子とを含む反応混合溶液を調製する過程と、反応混合溶液中の第一の分子の蛍光標識の蛍光強度を測定する過程と、蛍光強度に基づいて、反応混合溶液中の第一の分子のブラウン運動の速さの指標値を算定する過程と、第一の分子のブラウン運動の速さの指標値に基づいて、反応混合溶液中の第一の分子のブラウン運動の速さが、第一の分子が溶液中にて単独で遊離しているときに比して遅くなっているか否かを判定する過程とが実行される。そして、反応混合溶液中の第一の分子のブラウン運動の速さが、第一の分子が溶液中にて単独で遊離しているときに比して遅くなっていると判定される場合には、第二の分子が第一の分子に結合した、即ち、第一及び第二の分子とが相互作用して結合反応が生じたと判定される。上記の構成に於いて、第一の分子と第二の分子とは、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、糖質又はその他の低分子化合物(例えば、分子量100〜1000程度の、補酵素、酵素の阻害剤、ビタミン類等などの、任意の生理活性を有する生体分子)であってよい。検査される分子間相互作用の例としては、タンパク質同士の結合反応、核酸−転写因子の結合、糖鎖−レクチン結合反応、抗原抗体反応などであってよい。また、上記の構成に於いて、蛍光強度の測定は、蛍光相関分光分析法(FCS)又は蛍光偏光解消法(FDS)により実行されてよい。FCSの場合には、観測される第一の分子のブラウン運動は、並進ブラウン運動であり、その速さの指標値は、並進拡散時間であってよい。FDSの場合には、第一の分子のブラウン運動は、回転ブラウン運動であり、その速さの指標値は、蛍光偏光度であってよい。
上記の本発明の構成に於いては、基本的には、互いに相互作用して結合するか否かが検査される分子のうちの一方(第一の分子)に蛍光標識を付与し、その第一の分子と他方の分子(第二の分子)とを混合したときに、FCS又はFDSによって、第一の分子上に付与された蛍光標識のブラウン運動の速さを観測し、蛍光標識のブラウン運動の速さが、第一の分子が遊離している状態(第二の分子と結合していない状態)のときに比して、遅くなったときに、蛍光標識を担持する分子の大きさが大きくなった、即ち、第一の分子と第二の分子とが結合したと判定することによって、分子間相互作用が検出される。しかしながら、既に述べた如く、第一の分子と第二の分子の分子量が比較的小さく、或いは、大きさがほぼ同等である場合には、単に、両者だけを結合させただけでは、結合の前後の大きさの変化による運動状態の変化が、FCS又はFDSで顕著に検出できない場合がある。そこで、本発明に於いては、更に、蛍光標識がされていない第二の分子に所定の修飾基を付与しておき、その所定の修飾基に特異的に結合する第三の分子が、第一及び第二の分子の反応混合溶液に加えられる。そうすると、第三の分子は、第二の分子に結合するので、第一及び第二の分子が結合したときには、蛍光標識は、第一、第二及び第三の分子が一体的に結合してなる結合体又は粒子に担持されることとなる。かくして、第一及び第二の分子が互いに結合していない状態と、第一及び第二の分子が互いに結合している状態とでの蛍光標識を担持する粒子の大きさの変化量が大きくなるので、それがブラウン運動の速さの変化に顕著に反映され、第一及び第二の分子の相互作用の有無が従前に比して顕著に検出可能となる。換言すれば、第二の分子をそれに付与された所定の修飾基を介して第三の分子と結合させ、第二の分子のみかけの大きさを相対的に大きくすることによって、ブラウン運動の速さの変化が顕著に現れるようにするものであるということができる。
上記の如く、本発明の方法で比較されるのは、第一の分子が遊離した状態と、第一、第二及び第三の分子が結合した状態での蛍光標識を担持する粒子のブラウン運動の速さであるので、本発明の実施の態様に於いては、第一の分子と第二の分子と第二の分子の所定の修飾基に特異的に結合する第三の分子とを含む反応混合溶液を調製する過程に先立って、第一の分子が単独で遊離している状態にある溶液中の第一の分子の蛍光標識の蛍光強度を測定する過程と、該蛍光強度に基づいて第一の分子のブラウン運動の速さの指標値を算定する過程とを実行するようになっていてよい。また、第一の分子と第二の分子とを混合したが、蛍光分析に於いて顕著なブラウン運動の速さの変化が見られないという場合に、第三の分子を混合して、ブラウン運動の速さの変化があるか否かを検出するようになっていてもよい(変化があれば、第三の分子が第二の分子を介して第一の分子に結合したこととなり、第二の分子と第一の分子に結合があることを示すこととなる。)。即ち、上記の本発明の別の態様として、第一の分子と第二の分子と第二の分子の所定の修飾基に特異的に結合する第三の分子とを含む反応混合溶液を調製する過程に先立って、第一の分子と第二の分子とを含み第三の分子を含まない溶液中の第一の分子の蛍光標識の蛍光強度を測定する過程と、該蛍光強度に基づいて第三の分子を含まない溶液中の第一の分子のブラウン運動の速さの指標値を算定する過程とを実行し、第三の分子を含まない溶液中の第一の分子のブラウン運動の速さの指標値と反応混合溶液中の第一の分子のブラウン運動の速さの指標値とを比較して、第二の分子が第一の分子に結合したか否かを判定するようになっていてよい。
なお、上記の本発明に於いて、第三の分子は、第二の分子のみかけの大きさを大きくするためのものであるので、好ましくは、第二の分子よりも大きな分子であることが好ましい(典型的にはタンパク質であってよいが、その他の生体分子、例えば、糖鎖などであってもよい。)。また、既に述べた如く、上記の本発明の方法で比較されるのは、第一の分子が遊離した状態と第一、第二及び第三の分子が結合した状態での、蛍光標識を担持する粒子のブラウン運動の速さであるところ、本発明の発明者による研究によれば、上記の蛍光分析では、分子量の変化が3倍以上あるとき、粒子のブラウン運動の速さが顕著に検出されることが見出されている。そこで、第三の分子は、好適には、第二及び第三の分子の結合体の大きさが第一の分子の少なくとも2倍大きくなるよう選択される。
第二及び第三の分子の結合としては、上記の本発明の方法の実施形態の一つに於いては、抗原抗体反応が用いられてよい。従って、この実施形態では、第二の分子に付与される所定の修飾基がエピトープであり、第三の分子がエピトープに対する抗体(第一の分子に結合しない抗体且つ、理想的にはモノクローナル抗体)であってよい。エピトープは、典型的には、タグペプチドであってよく、第二の分子は、タグペプチドに対応する遺伝子コードが導入された遺伝子コードを用いて発現されたタンパク質であってよい(第一の分子は、この分野に於いて公知の任意の方法にて蛍光標識されたものであってよい。)。かかる構成によれば、反応混合溶液中に第三の分子として抗体を加えることにより、抗体が(第二の分子に直接ではなく、)第二の分子に所定の修飾基として修飾されたエピトープに結合し、これにより、第二の分子が抗体と一体的に運動することになるので、第二の分子のブラウン運動の速さが低減され、第一の分子と第二の分子とが結合した際の第一の分子のブラウン運動を、結合前に比して顕著に低減させることができることとなる。なお、第二の分子の修飾基として利用される典型的なエピトープとしては、Hisタグ、FLAGタグ、T7タグ、GSTタグ、HAタグから成る群から選択されるタグペプチドであってよい。これらは、タンパク質への導入方法が確立しているので、本発明に於いて容易に利用することができる。
また、第二及び第三の分子の結合として、結合力の強いビオチンとアビジン系のタンパク質との結合反応又は複合体形成反応が用いられてもよい。従って、上記の本発明の実施形態の別の一つに於いては、第二の分子に付与される所定の修飾基がビオチンであり、第三の分子がアビジン等のビオチンに対する結合能を有する分子(ビオチン結合分子)であってよい。ビオチンに対する結合能を有する分子としては、具体的には、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンから成る群から選択されるタンパク質分子であってよい。かかる構成によれば、抗原抗体反応を利用した場合と同様に、ビオチンが修飾された第二の分子を含む溶液中に、アビジン等のビオチン結合分子を混合することにより、そのビオチン結合分子がビオチンを介して、第二の分子に結合し、かくして、第二の分子のブラウン運動の速さが低減されることとなる。また、ビオチン及び上記の如きアビジン系のタンパク質は、生成方法又は抽出方法が確立しているので、本発明に於いて容易に利用することができる。
ところで、アビジン系タンパク質は、ビオチン結合部位が複数個、例えば、典型的には、4個存在する。従って、第二の分子と第三の分子との結合にアビジン−ビオチン反応を用いる場合、一つのアビジンに複数の第一及び第二の分子が結合すれば、それだけ分子の大きさの変化が大きくなるので、ブラウン運動の速さの変化も顕著になる。しかしながら、一つのアビジンに第二の分子を介して結合する第一の分子の数にばらつきがあると、蛍光標識を担持する粒子(第一、第二及び第三の分子の結合体)のブラウン運動の速さの指標値にもばらつきが生じる。そこで、そのようなブラウン運動の速さの指標値のばらつきを抑制するために、第三の分子を第二の分子と混合するのに先立って、第三の分子(アビジン系タンパク質)が予め各々単独に遊離した遊離型ビオチンと混合され、平均として、第三の分子一個当りの第三の分子の1つ乃至3つのビオチン結合部位に遊離型ビオチンが結合させられ、第三の分子一個当りの第二の分子が結合可能な部位の数のばらつきが低減されるようになっていてよい。
かくして、上記の説明から理解される如く、本発明によれば、互いに相互作用して結合するか否かが検査される分子の大きさ又は分子量が比較的小さく、或いは、それらの分子の大きさ又は分子量がほぼ同等で、分子が各々遊離した状態と複合体を形成している状態との間でブラウン運動の速さに顕著な変化が観測されないような場合でも、第二の分子に所定の修飾基を介して第三の分子が結合し、第一の分子と第二の分子が結合したときには、第一、第二及び第三の分子の複合体が形成されるようになっているので、結合の有無又は強さがブラウン運動の速さの変化により、より顕著に観測されるようになる。
特に、上記の本発明の構成に於いて、特記されるべき点は、第二の分子のみかけの大きさを増大するべく第二の分子と第三の分子との結合体を形成する際、第二の分子に所定の修飾基を付与し、その修飾基を介して第三の分子を結合させるようになっており、これにより、従来の同様の手法、例えば特許文献1、2に見られる相互作用の検出方法に比して汎用性が高くなるという点である。かかる本発明の構成によれば、本発明の方法を実施するにあたって、第二の分子の分子種によらず、即ち、特許文献1の如く検査されるべき分子の分子種毎に抗体を準備する必要がなく、共通の第三の分子を用いることが可能となる。従って、(第一の分子を蛍光標識するとともに)第二の分子に所定の修飾基が付与できさえすれば、蛍光標識された粒子又は分子のブラウン運動の速さの変化が観測可能な蛍光分析を用いて、従前に比してより広範囲の様々な分子種の組み合わせの分子間相互作用の有無又は強さを検出することが可能となる。そして、かかる特徴によれば、病気の診断や生理活性物質のスクリーニングなど、検体数が多い場合でも、第二の分子のみかけの大きさを増大するための第三の分子は共通でよいので、検査の実行までに要する時間、労力及び費用が低減されることが期待される。また、検査されるべき分子種毎に抗体の調製をする必要がないので、本質的に又は設備上の問題により抗体の調製が困難である分子種についての相互作用の検査も行うことが可能となるであろう。
ところで、非特許文献1に例示されたFCCSでも、生体分子等の分子間相互作用の検出をすることができる。FCCSの場合、検査されるべき分子のブラウン運動の速さを観測するのではなく、検査される分子に異なる吸収・発光波長特性の蛍光標識を施し、その蛍光標識の各々からの蛍光強度の時間変化が互いに一致するか否かを蛍光強度の相互相関関数により決定し、分子の結合・解離状態が判定される。従って、この場合には、相互作用する分子の結合の前後での一体的に運動する粒子又は生体分子等の大きさの変化によらず、分子の結合の有無が判定できる。しかしながら、FCCSでは、互いに相互作用する分子の濃度がnMオーダー程度に於いてでしか測定ができず、従って、FCCSは、分子間の解離定数がnM以下の強い結合反応にしか適用することができない。更に、FCCSでは、互いに結合する分子の双方に蛍光標識が確実に施されている必要があること、また、相互作用していない分子からの蛍光量が多いと、蛍光強度の数値解析(例えば、強度の分布の算出、相互相関関数の演算)が適切に計算できないなどの理由から、溶液の分子の実質的に測定可能な濃度に限界がある。
一方、本発明で採用されるFCS又はFDSなどの分子のブラウン運動の速さを観測する蛍光分析によれば、蛍光標識は、相互作用する分子の一方のみに施されていればよい。そして、相互作用する分子の他方の、検査溶液(反応混合溶液)中の分子濃度は、一般的には、μMオーダーまで増大することができ、従って、解離定数がμMオーダーの範囲の相互作用についても検査することができる。かくして、本発明は、従前に比して、検査の実行までに要する時間、労力及び費用を抑制した態様にて、相互作用する分子の大きさ、結合の強さの双方について、より広範囲の分子間相互作用の検査に適用できるものであるということができる。
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
検出原理と検出方法の手順の概略
本発明の検出方法は、種々の生理的な反応に於ける生体分子等の相互作用、例えば、タンパク質同士の結合反応、核酸−転写因子の結合、糖鎖−レクチン結合反応、抗原抗体反応などの検出に用いられてよい。図1は、本発明の方法の好ましい実施形態に於ける処理過程をフローチャートの形式で表したものであり、図2は、検査される分子間相互作用に於ける分子の状態を示す模式図である。
図1を参照して、本発明の分子間相互作用の検出方法では、まず、相互作用するか否かが検査される少なくとも二種類の分子のうちの一つについて蛍光標識が施されたもの(第一の分子)(図2(A)左)と、少なくとも二種類の分子のうち別の一つに所定の修飾基が付与されたもの(第二の分子)(図2(A)右)とを準備し、それらを所定の条件に調製された反応混合溶液中にて混合し(ステップ10)、検査されるべき相互作用に応じて結合反応を進行させるための任意に設定される条件(温度、時間等)にて、反応混合溶液をインキュベートした後(ステップ15)、下記に説明する蛍光測定を行って、蛍光標識の付与された分子のブラウン運動の速さの指標値を算定する(ステップ20)。そして、算定されたブラウン運動の速さの指標値が、予め計測された蛍光標識された第一の分子が遊離した状態にある場合のブラウン運動の速さの指標値と比較され(ステップ30)、ブラウン運動の速さが低減されたと判定される場合には、図2(B)に模式的に示されている如く第一の分子と第二の分子が相互作用して結合したと判定される(ステップ40)。なお、蛍光標識された第一の分子が遊離した状態にある場合のブラウン運動の速さの指標値は、好ましくは、第一の分子を第二の分子と混合する前に、第一の分子について(好ましくは同一の溶液条件にて)蛍光測定・分析することにより実験的に算定されていてよい。しかしながら、遊離状態の第一の分子のブラウン運動の速さの指標値は、溶液中の第一の分子のみかけの大きさ、形状、分子量等から理論的に推定されてもよい。
一方、ステップ30に於いて、蛍光標識された第一の分子のブラウン運動の速さの有意な低下が観測されないときは、従前では、第一の分子と第二の分子が相互作用しなかったと判定されるが、実際には、仮に、図2(B)の如き状態であっても、第一の分子と、第一及び第二の分子の複合体との間の大きさの変化が小さいことから、ブラウン運動の速さの変化が指標値の変化に顕著に反映されない場合がある。そこで、本発明の方法に於いては、蛍光標識された第一の分子のブラウン運動の速さの有意な低下が観測されないときには、更に、第二の分子に付与された修飾基に特異的に結合する第三の分子が反応混合溶液に混合され(ステップ50)、その溶液を所定の条件にてインキュベートされ(ステップ55)、再度、下記に説明する蛍光測定を行って、蛍光標識の付与された分子のブラウン運動の速さの指標値が算定される(ステップ60)。第三の分子は、反応混合溶液に混合されると、第二の分子の所定の修飾基に結合するので、図2(C)又は(C1)の如く、少なくとも第二及び第三の分子は一体的にブラウン運動することとなる。かくして、算定されたブラウン運動の速さの指標値と予め計測された蛍光標識された第一の分子が遊離した状態にある場合のブラウン運動の速さの指標値との比較により、ブラウン運動の速さが低減されたと判定される場合には、第一、第二及び第三の分子は、図2(C)の状態にあると考えられるので、これにより、第一の分子と第二の分子が相互作用して結合したと判定される(ステップ70、ステップ80)。他方、第三の分子を混合した反応混合溶液による蛍光測定から算定される蛍光標識ブラウン運動の速さの指標値に於いてもブラウン運動の速さの低下が認められない場合には、第一の分子と第二の分子とは結合しないか又はほとんど結合しないと判定される(ステップ90:図2(C1)の如き状態)。
検査試料について
相互作用の有無が検査される分子のうちの一方(第一の分子)は、上記の如く、蛍光標識が施される。かかる第一の分子は、当業者にとって任意の生理活性物質、例えば、タンパク質、核酸、脂質、糖類その他の生体分子等又は化学物質であってよい。蛍光標識は、第一の分子となる物質の種類及び特性に応じて当業者にとって任意の手法により為されてよい。例えば、タンパク質であれば、蛍光標識は、タンパク質中の特定の基を標的にしたケミカルラベリング法により為されてよい。また、その他の物質については、任意の方法で蛍光標識された物質が化学合成されてもよい。蛍光色素としては、この分野で通常使われる任意の蛍光色素、例えば、Rhodamine Green、TAMRA(carboxytetramethylrhodamine)、TMR(tetramethylrhodamine)、Alexa fluor488、Alexa fluor647、EVOblue50、ATTO 633などであってよいが、これらに限定されない。
相互作用の有無が検査される分子のうちの他方(第二の分子)も、当業者にとって任意の生理活性物質、例えば、タンパク質、核酸、脂質、糖類その他の生体分子等又は化学物質であってよい。しかしながら、第二の分子には、上記から理解される如く、第一の分子と結合した際に第一の分子の蛍光標識のブラウン運動の速さの変化が大きくなるよう、或る特定の分子(第三の分子)と特異的に結合する所定の修飾基が付与される。第二の分子に付与される所定の修飾基と第三の分子の組み合わせは、結合力が比較的強い方が望ましいであろう。任意の組み合わせが選択されてよい。ただし、好ましくは、所定の修飾基及び第三の分子の組み合わせは、それが付与される生体分子の生理活性機能又は他の分子との結合能に影響が少ないように選択されるべきである。本発明に於ける所定の修飾基と第三の分子の結合に採用される反応は、典型的には、生物科学の分野に於いて、種々の生化学的標識法に用いられる抗原抗体反応又はビオチン−アビジン結合であってよい。
(a)抗体抗原反応を利用する場合(実施例1参照)
所定の修飾基及び第三の分子の結合反応として、抗原抗体反応が採用される場合、第二の分子には、任意の抗体(ただし、第一の分子に対する抗体以外)のエピトープが、当業者にとって任意の方法で付与されてよい。特に、第二の分子が、タンパク質である場合には、遺伝子導入技術により、第二の分子がコードされた遺伝子に、タグペプチド、例えば、Hisタグ、FLAGタグ、T7タグ、GSTタグ、HAタグをコードした遺伝子を組み込み、かかる遺伝子により、大腸菌や無細胞タンパク質合成系などを用いてタグペプチドが付与された第二の分子を生成するようにしてもよい。(もちろん、タンパク質であっても任意の化学修飾によりエピトープを付与するようになっていてもよい。)一方、第三の分子は、典型的には、モノクローナル抗体となるところ、かかる抗体は、よく生化学の分野で良く使用されるタグペプチド等の分子又は基をエピトープとするものなので、個別に生成されてもよいが、市販の試料を用いてもよい。なお、抗体がエピトープを認識しやすいように、第二の分子がタンパク質である場合には、典型的には、エピトープは、タンパク質のN末端又はC末端に付加されることが望ましい(ただし、N末端又はC末端が生理活性上重要である場合には、別の生理活性に影響の少ない部分が適宜選択されてよい。)。
(b)ビオチン−アビジン結合反応を利用する場合(実施例2参照)
第二の分子の所定の修飾基及び第三の分子の結合反応として、ビオチン−アビジン反応が採用される場合、第二の分子には、ビオチンが、当業者にとって任意の方法、典型的には、任意の化学修飾法により付加される。第二の分子がタンパク質である場合には、ビオチンの修飾を確実にするよう特定のアミノ酸が遺伝子組換え技術により導入されたものであってよい。一方、第三の分子は、アビジン系のタンパク質、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン等であってよく、任意の方法で抽出・精製されたもの又は市販の精製された試料が用いられてよい。
ところで、通常、アビジン系のタンパク質は、一つのビオチン結合部位を有するサブユニットの4量体であり、一つのアビジン分子は、4つのビオチン結合部位を有する。従って、アビジンをそのまま第一及び第二の分子と混合すると、図3(A)に示されている如く、一つのアビジン分子に1〜4の第一及び第二の分子の複合体が結合することがある。しかも、第二の分子がビオチンを二つ以上修飾されている場合には、第二の分子を介して、複数のアビジンで一つの大きな複合体(一体的に運動する複合体)を形成すると考えられ、そのようにして形成される複合体の大きさには、ばらつきが生じ得る。そうすると、ブラウン運動の速さにもばらつきがでてしまい、蛍光測定による結果もばらつく可能性がある。そこで、そのような測定結果のばらつきを回避するために、複数のビオチン結合部位を有するアビジン系タンパク質を第三の分子として使用する場合には、アビジン系タンパク質は、第一及び第二の分子と混合するのに先立って、フリーの(第二の分子に結合していない)ビオチン分子と混合され、一つのアビジン系タンパク質に二つ以上の第二の分子が結合しないように、予めアビジン上のビオチン結合部位をビオチンで埋めておくようにされてよい(図3(B)参照)。なお、実験によれば、アビジン系タンパク質とフリーのビオチン分子の水溶液中での混合比は分子の数にして、例えば、1:10程度にすると良好な結果が得られた。
なお、上記のいずれの場合も、第二の分子と第三の分子の結合を達成する際に、第二の分子の種類によらず、汎用的に、ある一つの第三の分子を準備すればよく、第二の分子の分子種に応じて、個別に抗体を調製するなどの、個別に第三の分子を準備する必要がなくなるので、検査・実験に要する労力・時間・費用が、従前に比して大幅に低減できることは理解されるべきである。
蛍光測定・分析について
蛍光測定は、典型的には、レーザー共焦点顕微鏡の光学系に超高感度光検出装置を組み合わせた蛍光測定装置(一分子蛍光分析装置)を用いて行われるFCS(蛍光相関分光法)、FDS(蛍光偏光解消法)のいずれかであってよい。かかる蛍光測定・分析には、例えば、1分子蛍光分析システム MF20(オリンパス)が用いられてよい。以下、各分析方法に於いて、第一及び第二の分子が互いに結合しているか否かが計測結果に如何に反映されるかについて説明する。
FCSでは、微小の蛍光観察領域(レーザー共焦点顕微鏡の対物レンズの焦点領域)をブラウン運動により通過する分子又は粒子の移動(並進運動)の速さが観測される。分子又は粒子の並進運動の速さは、測定された蛍光強度の時間を変数とした自己相関関数の形状に反映される。分子又は粒子の並進運動の速さの指標としては、測定開始時から自己相関関数の値が半分になるまでの時間の長さ(並進拡散時間)が用いられる。分子又は粒子の移動は、その大きさが大きいほど、遅くなるので、並進拡散時間が長くなる。本発明の場合、図2(A)の如く、単独でブラウン運動していた第一の分子が、図2(B)又は(C)の如く第二の分子或いは、更に第三の分子と結合されると、第一〜第三の分子は、一体的に運動するので、図2(A)の場合に比して、蛍光標識の運動の速さが顕著に低減し、並進拡散時間の長さが長くなるので、蛍光標識された第一の分子が第二の分子に結合したか否かが検出される。理解されるべきことは、並進拡散時間の変化は、図2(B)の場合よりも図2(C)の方が顕著に現れるので、第二の分子と第三の分子とを結合させることにより、第一の分子が第二の分子に結合したか否かも、第三の分子を使用しない場合よりも顕著に検出できるということである。
FDSでは、この分野に於いて知られている如く、分子の回転ブラウン運動(自転)の速さが観測される。分子の回転運動の速さは、測定された蛍光の縦偏光と横偏光の強度の割合又は偏光度に反映される。分子の回転は、分子の大きさが大きいほど、遅くなるので、偏光度が大きくなる。本発明の場合、前記のFCSと同様に、図2(A)の如く、第一の分子が遊離した状態よりも、図2(B)、(C)の如く、第一の分子が第二の分子に結合している状態の方が、蛍光標識の回転運動の速さが低減し、偏光度が大きくなるので、これにより第一及び第二の分子が結合したか否かが検出される。
上記に説明した本発明の有効性を検証するために、以下の実験を行った。なお、以下の実施例は、本発明の有効性を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。
大腸菌由来の翻訳伸長因子EF-Tu(約46kDa)とEF-Ts(約33kDa)との結合反応を、蛍光測定・分析方法としてFCSを用いた本発明の分子間相互作用検出方法による検出を試みた。EF-Tuは、簡単に述べれば、生体内では、トランスファーRNAに結合し、リボソーム内へ、メッセンジャーRNAに適合するトランスファーRNAを運ぶ機能を有するタンパク質であり、EF-Tsは、EF-Tuと相互作用してEF-TuからGDPを解離する機能を有するタンパク質であると知られている。本実施例では、EF-Tuを第一の分子とし、EF-Tsを第二の分子とし、第二の分子と第三の分子は、抗体抗原反応により接続することを試みた。第二の分子に付与される所定の修飾基は、タグペプチドの一種であるFLAGタグとし、第三の分子は、FLAGタグに対する抗体とした。
実験の手順は、以下の通りとした。
1.蛍光標識されたEF-Tuを調製するために、大腸菌由来の翻訳伸長因子EF-Tuの遺伝子(大腸菌のゲノムDNAを鋳型にPCRを行って得た。)をイン・ビトロ・ピンポイント蛍光標識キット(In vitro Pin-point Fluorescence Labeling Kit)543(オリンパス)のpROX-FLベクターに挿入し、発現プラスミドを構築した。
2.次いで、そのプラスミドとイン・ビトロ・ピンポイント蛍光標識キット及びRTS 100 E.coli HY Kit(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて、37℃で2時間反応させ、TAMRA標識EF-Tuを合成し、His SpinTrap(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いて精製した。
3.大腸菌由来の翻訳伸長因子EF-Ts(EasyXpress Kit(QIAGEN)のPositive Control DNA)のN末端にFLAGタグを融合するため、FLAG配列を挿入するためのプライマーを用いて伸長反応を行い発現プラスミドを構築した。
4.FLAGタグのコードが融合されたEF-Tsのプラスミドは、大腸菌JM109(TOYOBO)にトランスフェクションし、大腸菌を培養した後、破砕して、目的のFLAG融合EF-TsをNi-NTA アガロース(Agarose)(QIAGEN)を用いて精製した。
5.リン酸緩衝溶液(PBS)(シグマケミカル社SIGMA D8537)+0.05% Tween20中に、TAMRA標識EF-Tuが終濃度1nMとなるように第一の分子の試料溶液を調製した。
6.ついで、そこに終濃度1μMとなるように、FLAG-EF-Tsを加え、測定用溶液とし、37℃にて10分間静置した。なお、対照用として、FLAG-EF-Tsを含まない(第一の)対照用溶液を混合したものも用意した。
7.上記の測定用及び対照用の溶液に、終濃度1μMとなるように抗FLAG抗体(シグマケミカル社SIGMA)を加え、25℃で10分間静置した。なお、対照用として、抗FLAG抗体を含まない第二の対照用溶液も用意した。
8.1分子蛍光分析システムMF20(オリンパス)を使用し、蛍光相関分光法により、第一の分子EF-Tuの蛍光標識TAMRAの蛍光強度を測定し、その測定された蛍光強度の、時間を変数とする自己相関関数に基づいて、並進拡散時間を算定した。なお、測定条件は励起波長543nmとし、レーザ強度100μWにて、10秒間の計測を5回行ってそれぞれ並進拡散時間を算定し、それらの平均値を最終的に並進拡散時間、即ち、ブラウン運動の速さの指標値とした(並進拡散時間の算定は、MF20に組み込まれているプログラムにより行った。)。
上記の測定用溶液(+Ts+抗体)と第一の対照用溶液(−Ts)と第二の対照用溶液(+Ts)からの蛍光をFCSによる計測から得られた並進拡散時間は、以下の通りであった。(単位は、μ秒)
並進拡散時間 標準偏差
第一の対照用溶液(-Ts) 639.9 23.6
第二の対照用溶液(+Ts) 681.2 38.9
測定用溶液(+Ts+抗体) 1010.5 50.2
図4(A)は、上記の結果をグラフにしたものである。
図から理解される如く、EF-TuにEF-Tsを単純に混合しても並進拡散時間はわずかしか増加しなかった(+Ts)。これでは、EF-TuとEF-Tsが相互作用しているかどうかの確証はない。そこにEF-Tsに付加したFLAGタグに対する抗体を添加すると、並進拡散時間は顕著に変化した(+Ts+抗体)。抗体は、FLAGタグに結合しEF-Tsと一体的に運動するので、この結果は、測定用溶液中では、図2(C)の如き複合体が形成されている、即ち、EF-TuとEF-Tsが相互作用していることを示唆する。蛍光標識したEF-Tuが46kDaであり、相互作用するEF-Tsが33kDaである。従って、上記の結果は、そのように分子間相互作用による分子量変化が小さい系に於いて、第二の分子に所定の修飾基(エピトープ)を付与し、所定の修飾基と第三の分子(抗体)との結合に抗原抗体反応を用いることにより、従前よりも顕著に分子間相互作用を検出できることを示している。
実施例1と同様に、大腸菌由来の翻訳伸長因子EF-TuとEF-Tsとの結合反応を、蛍光測定・分析方法としてFCSを用いた本発明の分子間相互作用検出方法による検出を試みた。本実施例では、EF-Tuを第一の分子とし、EF-Tsを第二の分子とし、第二の分子と第三の分子は、ビオチン−アビジン結合反応により接続することを試みた。従って、第二の分子に付与される所定の修飾基は、ビオチンとし、第三の分子は、ストレプトアビジンとした。
実験の手順は、以下の通りとした。
1.蛍光標識されたEF-Tuは、実施例1と同様に調製した。
2.EF-Tsの発現プラスミド(EasyXpress Kit(QIAGEN)のPositive Control DNA)を大腸菌JM109(TOYOBO)にトランスフェクションし、大腸菌を培養した後破砕して、EF-TsをNi-NTA Agarose(QIAGEN)を用いて精製した。
3.精製されたEF-Tsは、ビオチン標識キット(Biotin Labeling Kit)-NH(DOJINDOドージンドー)を用いてビオチン標識し、精製した。具体的には、キットに付属の濾過用チューブ内でEF-TsとNH-反応性ビオチンを混合し、37℃で10分間静置後、洗浄操作、溶出操作を行なった。
4.実施例1と同様に、リン酸緩衝溶液+0.05% Tween20中に、TAMRA標識EF-Tuが終濃度1nMとなるよう第一の分子の試料溶液を調製した。
5.次いで、そこにビオチン標識EF-Tsが終濃度1μMとなるように加え、37℃で10分間放置した。また、対照用として、ビオチン標識EF-Tsを含まない溶液を混合したものも用意した。
6.ストレプトアビジン(SIGMAシグマケミカル社)が終濃度10μM、ビオチンが終濃度100μMとなるようにアビジン溶液を調製し、25℃で10分間放置した。
7.5.で調製した溶液45μlに、6.で調製した溶液5μlを加え、ストレプトアビジンが終濃度1μM、ビオチンが終濃度10μMとし、25℃で10分間静置した。また、第二の対照用として、ストレプトアビジンを含まない試料溶液、ビオチン処理していないストレプトアビジンを加えた試料溶液(ビオチン未処理溶液)も用意した。
8.実施例1と同様にFCSにより蛍光測定・分析を行った。
上記の測定用溶液(+Ts+ビオチン処理SA)とビオチン未処理溶液(+Ts+SA)と第一の対照用溶液(−Ts)と第二の対照用溶液(+Ts)からの蛍光をFCSによる計測から得られた並進拡散時間を示している。(単位は、μ秒)
並進拡散時間 標準偏差
第一の対照用溶液(-Ts) 641.2 22.8
第二の対照用溶液(+Ts) 688.5 39.1
ビオチン未処理溶液(+Ts+SA) 2397.1 1189.7
測定用溶液(+Ts+ビオチン処理SA) 975.5 98.7
図4(B)は、上記の結果をグラフにしたものである。
上記の結果から理解される如く、実施例1と同様に、EF-TuにEF-Tsを単純に混合しても並進拡散時間はわずかしか増加しなかった(+Ts)。一方、測定用溶液(+Ts+ビオチン処理SA)と、ビオチン未処理溶液(+Ts+SA)の場合には、並進拡散時間は顕著に変化した。ストレプトアビジンは、EF-Ts上に修飾されたビオチンに特異的に結合し、その場合には、EF-Tsと一体的に運動すると考えられるので、この結果は、測定用溶液中では、図3の如き複合体が形成されている、即ち、EF-TuとEF-Tsが相互作用していることを示唆する。このことは、本実施例の如く分子間相互作用の前後に於ける分子量変化が小さい系に於いて、第二の分子にビオチンを付与しておき、更に反応混合溶液にアビジン系のタンパク質を加えることにより、従前よりも顕著に分子間相互作用を検出できることが示す。
また、上記の結果に於いて、図から理解される如く、予めストレプトアビジンのビオチン処理を行った測定用溶液(+Ts+ビオチン処理SA)に比して、ビオチン未処理溶液(+Ts+SA)は、並進拡散時間が長く且つ標準偏差が大きくなった。これはストレプトアビジンにビオチン結合部位が4つあることにより、一つのストレプトアビジンに複数の第二の分子のビオチンが結合し、種々の大きさの複合体若しくは凝集体が形成されていることが原因であると考えられる。この点に関し、分子間相互作用の有無を検出することのみを目的とする場合には、ビオチン未処理溶液(+Ts+SA)の方が並進拡散時間の変化が大きいので、好ましいが、標準偏差も大きくなるので、例えば、解離定数の測定など、或る程度の定量的な検出結果が必要な場合や計測回数が少ない場合(結果が不安定となるため)には不向きである。これに対し、ビオチン処理が予め実行されているストレプトアビジンを用いた測定用溶液の場合、平均値の大きさは小さいが、標準偏差も比較的小さく抑えられ、信頼性が向上された検出結果であるということができる。即ち、上記の結果は、ビオチン−アビジン結合反応を第二及び第三の分子の結合に採用する場合には、予め、アビジン系タンパク質をビオチン処理することで、凝集を防ぎ、標準偏差が小さく、信頼性の高い測定が可能となることを示している。
かくして、上記の実施例により、本発明によれば、蛍光標識のブラウン運動の速さの変化を観測する蛍光分析を用いた分子間相互作用の検出を従前に比して良好に又は高感度に行うことができることが示された。本発明によれば、第二の分子のみかけの大きさを増大する第三の分子は、第二の分子の分子種毎に準備する必要はなく、この分野に汎用されている容易に入手可能な分子、例えば、汎用のタグペプチドに対する抗体、アビジン系タンパク質などであってよく、従って、検査に要する労力、時間、費用が大幅に低減されることとなる。また、上記の実施例に於いて特記されるべき点は、第二の分子(EF-Ts)の濃度が、μMオーダーであり、蛍光標識された第一の分子の1000倍以上であってもよい点である。上記の結果は、本発明では、FCSなど、蛍光一分子の運動状態のみを観測するので、FCCSのように第一の分子と第二の分子との濃度を同等程度にする必要はなく、従って、解離定数について、より広範囲の結合反応を検出することができることを示唆している。
なお、上記の実施例では、EF-TuとEF-Tsとの結合反応の検出が例示されているが、一方の分子に蛍光標識を施すことができ、他方の分子に所定の修飾基を付与できる場合であれば、任意の分子間相互作用の検出に本発明が適用できることは理解されるべきである。
図1は、本発明の方法の好ましい実施形態に於ける処理過程をフローチャートの形式にて示したものである。 図2は、実施形態の処理過程中に於ける溶液中の分子の状態を模式的に表したものである。図中、第三の分子の形状は、抗体を模して示されているが、それに限定されない。 図3は、図2と同様の図であり、第二及び第三の分子の結合にビオチン−アビジン結合反応を採用した場合の図である。(A)アビジンを予めビオチン処理していない場合の状態。(B)アビジンを予めビオチン処理した場合の状態。 図4は、実施例に於ける試料の蛍光相関分光法により得られた蛍光強度の自己相関関数より算出される並進拡散時間の結果を示すグラフ図である。(A)第二及び第三の分子の結合に抗原抗体反応を採用した場合。(B)第二及び第三の分子の結合にビオチン−アビジン結合反応を採用した場合。−Tsは、第一の分子のみの溶液の値であり、+Tsは、第二の分子が混合されていることを示す。棒グラフの先端の縦の線分は、標準偏差を表す。

Claims (15)

  1. 蛍光分析により分子間相互作用を検出する方法であって、
    蛍光標識された第一の分子を準備する過程と、
    前記第一の分子と結合するか否かが検査される第二の分子であって、所定の修飾基が付与された第二の分子を準備する過程と、
    前記第一の分子と前記第二の分子と前記第二の分子の前記所定の修飾基に特異的に結合する第三の分子とを含む反応混合溶液を調製する過程と、
    前記反応混合溶液中の前記第一の分子の蛍光標識の蛍光強度を測定する過程と、
    前記蛍光強度に基づいて、前記反応混合溶液中の前記第一の分子のブラウン運動の速さの指標値を算定する過程と、
    前記第一の分子のブラウン運動の速さの指標値に基づいて、前記反応混合溶液中の前記第一の分子のブラウン運動の速さが、前記第一の分子が溶液中にて単独で遊離しているときに比して遅くなっているか否かを判定する過程と、
    を含み、前記反応混合溶液中の前記第一の分子のブラウン運動の速さが、前記第一の分子が溶液中にて単独で遊離しているときに比して遅くなっていると判定される場合には、前記第二の分子が前記第一の分子に結合したと判定することを特徴とする方法。
  2. 請求項1の方法であって、前記第一の分子と前記第二の分子と前記第二の分子の前記所定の修飾基に特異的に結合する第三の分子とを含む反応混合溶液を調製する過程に先立って、前記第一の分子が単独で遊離している状態にある溶液中の前記第一の分子の蛍光標識の蛍光強度を測定する過程と、該蛍光強度に基づいて、前記第一の分子のブラウン運動の速さの指標値を算定する過程とを実行することを特徴とする方法。
  3. 請求項1の方法であって、前記第一の分子と前記第二の分子と前記第二の分子の前記所定の修飾基に特異的に結合する第三の分子とを含む反応混合溶液を調製する過程に先立って、前記第一の分子と前記第二の分子とを含み前記第三の分子を含まない溶液中の前記第一の分子の蛍光標識の蛍光強度を測定する過程と、該蛍光強度に基づいて、前記第三の分子を含まない溶液中の前記第一の分子のブラウン運動の速さの指標値を算定する過程とを実行し、前記第三の分子を含まない溶液中の前記第一の分子のブラウン運動の速さの指標値に比して、前記反応混合溶液中の前記第一の分子のブラウン運動の速さが低減したときには、前記第二の分子が前記第一の分子に結合したと判定することを特徴とする方法。
  4. 請求項1の方法であって、前記第一の分子の蛍光標識の蛍光強度を測定する過程が蛍光相関分光分析法により実行され、前記第一の分子のブラウン運動の速さの指標値が並進拡散時間であることを特徴とする方法。
  5. 請求項1の方法であって、前記第一の分子の蛍光標識の蛍光強度を測定する過程が蛍光偏光解消法により実行され、前記第一の分子のブラウン運動の速さの指標値が蛍光偏光度であることを特徴とする方法。
  6. 請求項1の方法であって、前記第三の分子が前記第二の分子よりも大きいことを特徴とする方法。
  7. 請求項1の方法であって、前記第二及び第三の分子の結合体の大きさが前記第一の分子の少なくとも2倍大きいことを特徴とする方法。
  8. 請求項1の方法であって、前記第一の分子と前記第二の分子がタンパク質、ペプチド、核酸、脂質、糖質又はその他の低分子化合物であることを特徴とする方法。
  9. 請求項1の方法であって、前記所定の修飾基がエピトープであり、前記第三の分子が前記エピトープに対する抗体であることを特徴とする方法。
  10. 請求項9の方法であって、前記エピトープがタグペプチドであることを特徴とする方法。
  11. 請求項10の方法であって、前記第二の分子が、前記タグペプチドに対応する遺伝子コードが導入された遺伝子コードを用いて発現されたタンパク質であることを特徴とする方法。
  12. 請求項10の方法であって、前記エピトープが、Hisタグ、FLAGタグ、T7タグ、GSTタグ、HAタグから成る群から選択されるタグペプチドであることを特徴とする方法。
  13. 請求項1の方法であって、前記所定の修飾基がビオチンであり、前記第三の分子が前記ビオチンに対する結合能を有する分子であることを特徴とする方法。
  14. 請求項13の方法であって、前記第三の分子が、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンから成る群から選択されるタンパク質分子であることを特徴とする方法。
  15. 請求項13の方法であって、前記第三の分子を前記第二の分子と混合するのに先立って、前記第三の分子が予め各々単独に遊離した遊離型ビオチンと混合され、平均として、前記第三の分子一個当りの前記第三の分子の1つ乃至3つのビオチン結合部位に前記遊離型ビオチンが結合させられることを特徴とする方法。
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