以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両に本発明を適用した場合について説明する。
図1は本実施形態に係るハイブリッド車両1の概略構成を示す図である。この図1に示すように、ハイブリッド車両1は、前輪(駆動輪)6a,6bに駆動力を与えるための駆動系として、エンジン2と、エンジン2の出力軸としてのクランクシャフト2aにダンパ2bを介して接続された3軸式の動力分割機構3と、この動力分割機構3に接続された発電可能な第1モータジェネレータMG1と、動力分割機構3に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸3eにリダクション機構7を介して接続された第2モータジェネレータMG2とを備えている。これらクランクシャフト2a、動力分割機構3、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2、リダクション機構7およびリングギヤ軸3eによって本発明でいう動力伝達系が構成されている。
また、上記リングギヤ軸3eは、ギヤ機構4および前輪用のデファレンシャルギヤ5を介して前輪6a,6bに接続されている。
また、このハイブリッド車両1は、車両の駆動系全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(以下、ハイブリッドECU(Electronic Control Unit)という)10を備えている。
−エンジンおよびエンジンECU−
エンジン2は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン2の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)11によって、燃料噴射制御、点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御が行われる。
エンジンECU11は、ハイブリッドECU10と通信を行っており、このハイブリッドECU10からの制御信号に基づいてエンジン2を運転制御するとともに、必要に応じてエンジン2の運転状態に関するデータをハイブリッドECU10に出力する。なお、エンジンECU11は、クランクポジションセンサ56や水温センサ57等が接続されている。クランクポジションセンサ56は、クランクシャフト2aが一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力する。このクランクポジションセンサ56からの出力信号に基づいてエンジンECU11はエンジン回転速度Neを算出する。また、水温センサ57はエンジン2の冷却水温度に応じた検出信号を出力する。
−動力分割機構−
動力分割機構3は、図1に示すように、外歯歯車のサンギヤ3aと、このサンギヤ3aと同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ3bと、サンギヤ3aに噛み合うとともにリングギヤ3bに噛み合う複数のピニオンギヤ3cと、これら複数のピニオンギヤ3cを自転かつ公転自在に保持するプラネタリキャリア3dとを備え、サンギヤ3aとリングギヤ3bとプラネタリキャリア3dとを回転要素とし差動作用を行う遊星歯車機構として構成されている。この動力分割機構3では、プラネタリキャリア3dにエンジン2のクランクシャフト2aが連結されている。また、サンギヤ3aに第1モータジェネレータMG1のロータ(回転子)が連結されている。さらに、リングギヤ3bに上記リングギヤ軸3eを介して上記リダクション機構7が連結されている。
そして、このような構成の動力分割機構3において、プラネタリキャリア3dに入力されるエンジン2の出力トルクに対して、第1モータジェネレータMG1による反力トルクがサンギヤ3aに入力されると、出力要素であるリングギヤ3bには、エンジン2から入力されたトルクより大きいトルクが現れる。この場合、第1モータジェネレータMG1は発電機として機能する。第1モータジェネレータMG1が発電機として機能するときには、プラネタリキャリア3dから入力されるエンジン2の駆動力が、サンギヤ3a側とリングギヤ3b側とにそのギヤ比に応じて分配される。
一方、エンジン2の始動要求時にあっては、第1モータジェネレータMG1が電動機(スタータモータ)として機能し、この第1モータジェネレータMG1の駆動力がサンギヤ3aおよびプラネタリキャリア3dを介してクランクシャフト2aに与えられてエンジン2がクランキングされる。
また、動力分割機構3において、リングギヤ3bの回転速度(出力軸回転速度)が一定であるときに、第1モータジェネレータMG1の回転速度を上下に変化させることにより、エンジン2の回転速度を連続的に(無段階に)変化させることができる。つまり、動力分割機構3が変速部として機能する。
−リダクション機構−
上記リダクション機構7は、図1に示すように、外歯歯車のサンギヤ7aと、このサンギヤ7aと同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ7bと、サンギヤ7aに噛み合うとともにリングギヤ7bに噛み合う複数のピニオンギヤ7cと、これら複数のピニオンギヤ7cを自転自在に保持するプラネタリキャリア7dとを備えている。このリダクション機構7では、プラネタリキャリア7dがトランスミッションケースに固定されている。また、サンギヤ7aが第2モータジェネレータMG2のロータ(回転子)に連結されている。さらに、リングギヤ7bが上記リングギヤ軸3eに連結されている。
−パワースイッチ−
ハイブリッド車両1には、ハイブリッドシステムの起動と停止とを切り換えるためのパワースイッチ51(図2参照)が設けられている。このパワースイッチ51は、例えば、跳ね返り式のプッシュスイッチあって、押圧操作される毎に、スイッチOnとスイッチOffとが交互に切り替わるようになっている。
ここで、ハイブリッドシステムとは、エンジン2およびモータジェネレータMG1,MG2を走行用の駆動力源とし、そのエンジン2の運転制御、モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御、エンジン2およびモータジェネレータMG1,MG2の協調制御などを含む各種制御を実行することによってハイブリッド車両1の走行を制御するシステムである。
パワースイッチ51は、ドライバを含む搭乗者により操作された場合に、その操作に応じた信号(IG−On指令信号またはIG−Off指令信号)をハイブリッドECU10に出力する。ハイブリッドECU10は、パワースイッチ51から出力された信号などに基づいてハイブリッドシステムを起動または停止する。
具体的には、ハイブリッドECU10は、ハイブリッド車両1の停車中に、パワースイッチ51が操作された場合には、後述するPポジションで上記ハイブリッドシステムを起動する。これにより車両が走行可能な状態となる。なお、停車中のハイブリッドシステムの起動時には、Pポジションでハイブリッドシステムが起動されることから、アクセルオン状態であっても、駆動力が出力されることはない。車両が走行可能な状態とは、ハイブリッドECU10の指令信号により車両走行を制御できる状態であって、ドライバがアクセルオンすれば、ハイブリッド車両1が発進・走行できる状態(Ready−On状態)のことである。なお、Ready−On状態には、エンジン2が停止状態で、第2モータジェネレータMG2でハイブリッド車両1の発進・走行が可能な状態(EV走行が可能な状態)も含まれる。
また、ハイブリッドECU10は、例えば、ハイブリッドシステムが起動中で、停車時にPポジションであるときに、パワースイッチ51が操作(例えば、短押し)された場合にはハイブリッドシステムを停止する。
−シフト操作装置および変速モード−
本実施形態のハイブリッド車両1には、図2に示すようなシフト操作装置9が設けられている。このシフト操作装置9は、運転席の近傍に配置され、変位操作可能なシフトレバー91が設けられている。また、シフト操作装置9には、パーキングポジション(Pポジション)、リバースポジション(Rポジション)、ニュートラルポジション(Nポジション)、ドライブポジション(Dポジション)、および、シーケンシャルポジション(Sポジション)を有するシフトゲート9aが形成されており、ドライバが所望のポジションへシフトレバー91を変位させることが可能となっている。シフトレバー91が、これらPポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジション、Sポジション(下記の「+」ポジションおよび「−」ポジションも含む)の各ポジションのうちのいずれに位置しているかは、シフトポジションセンサ50によって検出される。
上記シフトレバー91が「Dポジション」に操作されている状態では、ハイブリッドシステムは「自動変速モード」とされ、エンジン2の動作点が後述する最適燃費動作ライン上となるように変速比が制御される電気式無段変速制御が行われる。
一方、上記シフトレバー91が「Sポジション」に操作されている状態では、ハイブリッドシステムは「手動変速モード(シーケンシャルシフトモード(Sモード))」とされる。このSポジションの前後には「+」ポジションおよび「−」ポジションが設けられている。「+」ポジションは、マニュアルシフトアップを行う際にシフトレバー91が操作されるポジションであり、「−」ポジションは、マニュアルシフトダウンを行う際にシフトレバー91が操作されるポジションである。そして、シフトレバー91がSポジションにあるときに、シフトレバー91がSポジションを中立位置として「+」ポジションまたは「−」ポジションに操作(手動による変速操作)されると、ハイブリッドシステムによって成立される擬似的な変速段(例えば第1モータジェネレータMG1の制御によってエンジン回転速度を調整することで成立される変速段)がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」ポジションへの1回操作毎に変速段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→3rd→4th→5th→6th)される。一方、「−」ポジションへの1回操作毎に変速段が1段ずつダウン(例えば6th→5th→4th→3rd→2nd→1st)される。なお、この手動変速モードにおいて選択可能な段数は「6段」に限定されることなく、他の段数(例えば「4段」や「8段」)であってもよい。
なお、本発明における手動変速モードの概念は、上述した如くシフトレバー91がSポジションにあるときに限らず、シフトゲート9a上のレンジ位置として「2(2nd)」や「3(3rd)」等を備えている場合に、これら「2(2nd)」や「3(3rd)」のレンジ位置にシフトレバー91が操作されている場合も含まれる。例えば、シフトレバー91がDポジションから「3(3rd)」レンジ位置に操作された場合には、自動変速モードから手動変速モードに切り換えられる。
また、運転席の前方に配設されているステアリングホイール9b(図2参照)には、パドルスイッチ9c,9dが設けられている。これらパドルスイッチ9c,9dはレバー形状とされ、手動変速モードにおいてシフトアップを要求する指令信号を出力するためのシフトアップ用パドルスイッチ9cと、シフトダウンを要求する指令信号を出力するためのシフトダウン用パドルスイッチ9dとを備えている。上記シフトアップ用パドルスイッチ9cには「+」の記号が、上記シフトダウン用パドルスイッチ9dには「−」の記号がそれぞれ付されている。そして、上記シフトレバー91が「Sポジション」に操作されて「手動変速モード」となっている場合には、シフトアップ用パドルスイッチ9cが操作(手前に引く操作)されると、1回操作毎に変速段が1段ずつアップされる。一方、シフトダウン用パドルスイッチ9dが操作(手前に引く操作)されると、1回操作毎に変速段が1段ずつダウンされる。
このように、本実施形態におけるハイブリッドシステムでは、シフトレバー91が「Dポジション」に操作されて「自動変速モード」になると、エンジン2が効率よく運転されるように駆動制御される。具体的には、エンジン2の運転動作点が、後述する最適燃費ライン上となるようにハイブリッドシステムが制御される。一方、シフトレバー91が「Sポジション」に操作されて「手動変速モード(Sモード)」になると、リングギヤ軸3eの回転速度に対するエンジン2の回転速度の比である変速比を、ドライバの変速操作に応じて例えば6段階(1st〜6th)に変更することが可能となる。
−モータジェネレータおよびモータECU−
モータジェネレータMG1,MG2は、いずれも、発電機として駆動できるとともに電動機として駆動できる周知の同期発電電動機により構成されており、インバータ21,22および昇圧コンバータ23を介してバッテリ(蓄電装置)24との間で電力のやりとりを行う。各インバータ21,22、昇圧コンバータ23およびバッテリ24を互いに接続する電力ライン25は、各インバータ21,22が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ24は、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータジェネレータMG1,MG2により電力収支がバランスしている場合には、バッテリ24は充放電されない。
モータジェネレータMG1,MG2は、いずれも、モータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)13により駆動制御される。このモータECU13には、モータジェネレータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータジェネレータMG1,MG2のロータ(回転軸)の各回転位置を検出するMG1回転速度センサ(レゾルバ)26およびMG2回転速度センサ27からの信号や電流センサにより検出されるモータジェネレータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されている。また、モータECU13からは、インバータ21,22へのスイッチング制御信号が出力されている。例えば、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかを発電機として駆動制御(例えば、第2モータジェネレータMG2を回生制御)したり、電動機として駆動制御(例えば、第2モータジェネレータMG2を力行制御)したりする。また、モータECU13は、ハイブリッドECU10と通信を行っており、このハイブリッドECU10からの制御信号にしたがって上述した如くモータジェネレータMG1,MG2を駆動制御するとともに、必要に応じてモータジェネレータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッドECU10に出力する。
−バッテリおよびバッテリECU−
バッテリ24は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)14によって管理されている。このバッテリECU14には、バッテリ24を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ24の端子間に設置された電圧センサ24aからの端子間電圧、バッテリ24の出力端子に接続された電力ライン25に取り付けられた電流センサ24bからの充放電電流、バッテリ24に取り付けられたバッテリ温度センサ24cからのバッテリ温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ24の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU10に出力する。
また、バッテリECU14は、バッテリ24を管理するために、電流センサ24bにて検出された充放電電流の積算値に基づいて電力の残容量SOC(State of Charge)を演算し、また、その演算した残容量SOCとバッテリ温度センサ24cにて検出されたバッテリ温度Tbとに基づいてバッテリ24を充放電してもよい最大許容電力である入力制限Win,出力制限Woutを演算する。なお、バッテリ24の入力制限Win,出力制限Woutは、バッテリ温度Tbに基づいて入力制限Win,出力制限Woutの基本値を設定し、バッテリ24の残容量SOCに基づいて入力制限用補正係数と出力制限用補正係数とを設定し、上記設定した入力制限Win,出力制限Woutの基本値に上記補正係数を乗じることにより設定することができる。
−ハイブリッドECUおよび制御系−
上記ハイブリッドECU10は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)40、ROM(Read Only Memory)41、RAM(Random Access Memory)42およびバックアップRAM43などを備えている。ROM41は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU40は、ROM41に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM42は、CPU40での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM43は、例えばIG−Off時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU40、ROM41、RAM42およびバックアップRAM43は、バス46を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース44および出力インターフェース45と接続されている。
入力インターフェース44には、上記シフトポジションセンサ50、上記パワースイッチ51、アクセルペダルの踏み込み量に応じた信号を出力するアクセル開度センサ52、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた信号を出力するブレーキペダルセンサ53、車体速度に応じた信号を出力する車速センサ54等が接続されている。
これにより、ハイブリッドECU10には、シフトポジションセンサ50からのシフトポジション信号、パワースイッチ51からのIG−On信号やIG−Off信号、アクセル開度センサ52からのアクセル開度信号、ブレーキペダルセンサ53からのブレーキペダルポジション信号、車速センサ54からの車速信号等が入力されるようになっている。
また、入力インターフェース44および出力インターフェース45には、上記エンジンECU11、モータECU13、バッテリECU14、後述するGSI(Gear Shift Indicator)−ECU16が接続されており、ハイブリッドECU10は、これらエンジンECU11、モータECU13、バッテリECU14およびGSI−ECU16との間で各種制御信号やデータの送受信を行っている。
−ハイブリッドシステムにおける駆動力の流れ−
このように構成されたハイブリッド車両1は、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて、駆動輪6a,6bに出力すべきトルク(要求トルク)を計算し、この要求トルクに対応する要求駆動力により走行するように、エンジン2とモータジェネレータMG1,MG2とが運転制御される。具体的には、燃料消費量の削減を図るために、要求駆動力が比較的低い運転領域にあっては、第2モータジェネレータMG2を利用して上記要求駆動力が得られるようにする。一方、要求駆動力が比較的高い運転領域にあっては、第2モータジェネレータMG2を利用すると共に、エンジン2を駆動し、これら駆動力源(走行駆動力源)からの駆動力により、上記要求駆動力が得られるようにする。
より具体的には、車両の発進時や低速走行時等であってエンジン2の運転効率が低い場合には、第2モータジェネレータMG2のみにより走行(以下、「EV走行」ともいう)を行う。また、車室内に配置された走行モード選択スイッチによってドライバがEV走行モードを選択した場合にもEV走行を行う。
一方、通常走行(以下、HV走行ともいう)時には、例えば上記動力分割機構3によりエンジン2の駆動力を2経路に分け(トルクスプリット)、その一方の駆動力で駆動輪6a,6bの直接駆動(直達トルクによる駆動)を行い、他方の駆動力で第1モータジェネレータMG1を駆動して発電を行う。このとき、第1モータジェネレータMG1の駆動により発生する電力で第2モータジェネレータMG2を駆動して駆動輪6a,6bの駆動補助を行う(電気パスによる駆動)。
このように、上記動力分割機構3が差動機構として機能し、その差動作用によりエンジン2からの動力の主部を駆動輪6a,6bに機械的に伝達し、そのエンジン2からの動力の残部を第1モータジェネレータMG1から第2モータジェネレータMG2への電気パスを用いて電気的に伝達することにより、電気的に変速比が変更される電気式無段変速機としての機能が発揮される。これにより、駆動輪6a,6b(リングギヤ軸3e)の回転速度およびトルクに依存することなく、エンジン回転速度およびエンジントルクを自由に操作することが可能となり、駆動輪6a,6bに要求される駆動力を得ながらも、燃料消費率が最適化されたエンジン2の運転状態を得ることが可能となる。
また、高速走行時には、さらにバッテリ24からの電力を第2モータジェネレータMG2に供給し、この第2モータジェネレータMG2の出力を増大させて駆動輪6a,6bに対して駆動力の追加(駆動力アシスト;力行)を行う。
さらに、減速時には、第2モータジェネレータMG2が発電機として機能して回生発電を行い、回収した電力をバッテリ24に蓄える。なお、バッテリ24の充電量(上記残容量;SOC)が低下し、充電が特に必要な場合には、エンジン2の出力を増加して第1モータジェネレータMG1による発電量を増やしてバッテリ24に対する充電量を増加する。また、低速走行時においても必要に応じてエンジン2の駆動力を増加する制御を行う場合もある。例えば、前述のようにバッテリ24の充電が必要な場合や、エアコン等の補機を駆動する場合や、エンジン2の冷却水の温度を所定温度まで上げる場合などである。
また、本実施形態のハイブリッド車両1においては、車両の運転状態やバッテリ24の状態によって、燃費を向上させるために、エンジン2を停止させる。そして、その後も、ハイブリッド車両1の運転状態やバッテリ24の状態を検知して、エンジン2を再始動させる。このように、ハイブリッド車両1においては、パワースイッチ51がON位置であってもエンジン2は間欠運転(エンジン停止と再始動とを繰り返す運転)される。
なお、本実施形態において、エンジン間欠運転は、例えば、Sモード時の変速段がエンジン間欠運転許可段以上である場合に許可(エンジン間欠許可)され、Sモード時の変速段が上記エンジン間欠運転許可段よりも低い場合に禁止(エンジン間欠禁止)される。
−ハイブリッド車両の基本制御−
次に、上述の如く構成されたハイブリッド車両1の基本制御について説明する。
図3は、ハイブリッド車両1の基本制御の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、ハイブリッドECU10において所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。
ステップST1において、アクセル開度センサ52からの出力信号により求められるアクセル開度Acc、車速センサ54からの出力信号により求められる車速V(リングギヤ軸3eの回転速度に相関がある)、前回ルーチンにおけるシーケンシャル変速段(前回ルーチンが手動変速モードであった場合にシフトポジションセンサ50によって検出されていた変速段)Ylastの取得を行う。
ステップST1における各種情報の取得後、ステップST2に進み、入力されたアクセル開度Accおよび車速Vに基づいて要求駆動力を設定する。本実施形態では、アクセル開度Accと車速Vと要求駆動力との関係が予め定められた要求駆動力設定マップがROM41に記憶されており、この要求駆動力設定マップが参照されて、アクセル開度Accおよび車速Vに対応した要求駆動力が抽出される。
図4に要求駆動力設定マップの一例を示す。この要求駆動力設定マップは、車速Vおよびアクセル開度Accをパラメータとしてドライバが要求する駆動力を求めるためのマップであって、異なるアクセル開度Accに対応させて複数の特性ラインが規定されている。これら特性ラインのうち、最上段に示された特性ラインはアクセル開度Accが全開(Acc=100%)である場合に相当している。また、アクセル開度Accが全閉である場合に相当する特性ラインは、図中に「Acc=0%」で示されている。
この要求駆動力設定マップに基づいて要求駆動力を設定した後、ステップST3に進み、エンジン2に要求される要求パワーPeおよび目標エンジン回転速度Netrgを設定する。具体的には、上記ステップST2で設定された要求駆動力と、車速センサ54により検出された車速Vとに基づいて要求パワーPeを設定する。また、目標エンジン回転速度Netrgは、上記設定された要求パワーPeと、図5に示す目標エンジン回転速度設定マップ(目標エンジン回転速度Netrgを設定するためのマップ)とに基づいて設定される。具体体には、この目標エンジン回転速度設定マップ上に設定されているエンジン2の最適燃費動作ラインと要求パワーライン(等パワーライン;図中に二点鎖線で示す)とに基づいて目標エンジン回転速度Netrgを設定する。この最適燃費動作ラインは、通常走行用(HV走行用)運転動作点の設定制約として予め定められたエンジン2を効率よく動作させるための動作ラインである。このため、上記要求パワーPeを満たし且つエンジン2を効率よく動作させるためのエンジン2の運転動作点としては、この最適燃費動作ラインと、エンジン回転速度NeとトルクTeとの相関曲線である上記要求パワーラインとの交点(図中における点A)として求められることになる。図5に示すものの場合、目標エンジン回転速度はNetrg1として求められる。
このようにしてエンジン2の要求パワーPeおよび目標エンジン回転速度Netrgを設定した後、ステップST4に進み、目標変速段Xを設定する。具体的には、上記設定された要求駆動力(ステップST2)と、アクセル開度センサ52により検出されたアクセル開度Accと、車速センサ54により検出された車速Vと、図6に示す目標変速段設定マップとに基づいて目標変速段Xが設定される。この図6に示す目標変速段設定マップは、要求駆動力と車速Vとアクセル開度Accとをパラメータとし、これら要求駆動力、車速V、アクセル開度Accに応じて、適正な変速段(最適な燃費となる目標変速段(以下、「推奨変速段」という場合もある))を求めるための複数の領域(変速切替ラインにて区画された第1変速段(1st)から第6変速段(6th)までの領域)が設定されたマップであって、ハイブリッドECU10のROM41に記憶されている。
本実施形態における目標変速段設定マップにあっては、アクセルオン(Acc>0%)の状態では、要求駆動力が高いほど、また、車速が低いほど、Lowギヤ段(変速比が大きいギヤ段)が目標変速段Xとして設定される。
また、アクセルオフ(Acc=0%)の状態では、第1変速段(1st)から第4変速段(4th)の間では、要求駆動力が低いほど(負の要求駆動力が大きいほど)、また、車速が低いほど、Lowギヤ段(変速比が大きいギヤ段)が目標変速段Xとして設定される。また、第4変速段(4th)から第6変速段(6th)の間では、アクセルオフの状態での駆動力は互いに一致している。このため、アクセルオフの状態において、第1変速段(1st)から第4変速段(4th)の間では、選択される変速段が変化する度に駆動力が変化する。これに対し、第4変速段(4th)から第6変速段(6th)の間では、選択される変速段が変化しても駆動力は不変となる。
このため、アクセルオフ時に発生するエンジンブレーキトルク(駆動輪6a,6bに対して制動力として作用するトルク)の大きさとしては、図7に示すように、所定車速以上において、第1変速段(1st)から第4変速段(4th)の間ではLowギヤ段ほど大きくなるのに対し、第4変速段(4th)から第6変速段(6th)の間では略一定となる。
目標変速段Xを設定した後、ステップST5に進み、現在の走行モードが手動変速モード(Sモード)であるか否か、すなわち手動変速モードの実行中であるか否かを判定する。具体的には、シフトレバー91の位置をシフトポジションセンサ50によって検出し、その検出されたシフトレバー91の位置がSポジションであるか否かを判定するようにしている。
そして、手動変速モードではなくステップST5でNO判定された場合には、ステップST14に進み、前回ルーチンにおけるシーケンシャル変速段Ylastをクリアする。つまり、ドライバの操作によりシフトレバー91がSポジション(「+」ポジションおよび「−」ポジションを含む)以外のポジションに操作された、または、Sポジション以外のポジションに操作されているとしてシーケンシャル変速段Ylastをクリアする。
その後、ステップST13に進み、目標エンジントルクTetrg、目標MG1回転速度(第1モータジェネレータMG1の目標回転速度;指令回転速度)Nm1trg、目標MG1トルク(第1モータジェネレータMG1の目標トルク;指令トルク)Tm1trg、目標MG2トルク(第2モータジェネレータMG2の目標トルク;指令トルク)Tm2trgを設定する。
ここでは、上記ステップST2において設定された要求駆動力と、上記ステップST3において設定された要求パワーPeおよび目標エンジン回転速度Netrgとに基づいて、目標エンジントルクTetrg、目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trg、目標MG2トルクTm2trgを設定する。
具体的には、上記ステップST3で設定された要求パワーPeを目標エンジン回転速度Netrgで除することにより目標エンジントルクTetrgを設定する。また、上記設定した目標エンジン回転速度Netrgとリングギヤ軸3eの回転速度Nrと動力分割機構3のギヤ比ρ(サンギヤ3aの歯数/リングギヤ3bの歯数)とを用いて第1モータジェネレータMG1の目標回転速度である上記目標MG1回転速度Nm1trgを計算した上で、この計算した目標MG1回転速度Nm1trgと現在のMG1回転速度Nm1とに基づいて第1モータジェネレータMG1の目標トルクである上記目標MG1トルク(指令トルク)Tm1trgを設定する。さらに、バッテリ24の入出力制限Win,Woutと、上記目標MG1トルクTm1trgおよび現在の第1モータジェネレータMG1の回転速度Nm1の積として得られる第1モータジェネレータMG1の消費電力(発電電力)との偏差を第2モータジェネレータMG2の回転速度Nm2で除することにより第2モータジェネレータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを計算する。そして、上記目標エンジントルクTetrgと目標MG1トルクTm1trgと動力分割機構3のギヤ比ρとリダクション機構7のギヤ比Grとに基づいて第2モータジェネレータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを計算し、第2モータジェネレータMG2の指令トルクである目標MG2トルクTm2trgを、上記計算したトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値として設定する。このようにして目標MG2トルクTm2trgを設定することにより、リングギヤ軸3eに出力するトルクが、バッテリ24の入出力制限Win,Woutの範囲内で制限したトルクとして設定される。
以上の如く設定された目標エンジン回転速度Netrgおよび目標エンジントルクTetrgをエンジンECU11に出力し、また、上記設定された目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trg、目標MG2トルクTm2trgをモータECU13に出力する。そして、エンジンECU11は、設定された目標エンジン回転速度Netrgおよび目標エンジントルクTetrgに基づいてエンジン2の運転制御を行う。また、モータECU13は、設定された目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trgに基づいて第1モータジェネレータMG1を駆動制御し、設定された目標MG2トルクTm2trgに基づいて第2モータジェネレータMG2を駆動制御することになる。
一方、上記ステップST5の判定において、手動変速モードの実行中であってYES判定された場合には、ステップST6に進み、前回のシーケンシャル変速段Ylastが存在しているか否かを判定する。ここでは、前回のシーケンシャル変速段Ylastが存在しているか否かを判定することで、手動変速モードの開始時であるか、あるいは手動変速モードが継続中であるかを判定する。
前回のシーケンシャル変速段Ylastが存在しており、ステップST6でYES判定されると、ステップST7に進み、そのシーケンシャル変速段Ylastを現在のシーケンシャル変速段Yとして設定する。つまり、手動変速モードが継続中であると判定されたことで、前回ルーチンで設定されたシーケンシャル変速段Ylastを現在のシーケンシャル変速段Yとして設定する。
一方、前回のシーケンシャル変速段Ylastが存在しておらず、ステップST6でNO判定された場合には、ステップST8に進み、上記ステップST4で設定された目標変速段Xをシーケンシャル変速段Yとして設定する。つまり、手動変速モードが開始された直後である(例えばシフトレバー91がDポジションからSポジションへ操作された直後である)と判定されたことで、要求駆動力等に基づいて設定された目標変速段X(ステップST4で設定された目標変速段X)を手動変速モード開始時のシーケンシャル変速段Yとして設定する。
このようにしてシーケンシャル変速段Yが設定された後、ステップST9に進み、ドライバによる変速操作が行われたか否かを判定する。ここでは、ドライバの操作によりSポジションに位置するシフトレバー91が「+」ポジションまたは「−」ポジションに向けて操作されたことがシフトポジションセンサ50によって検出された場合にYES判定されることになる。
ドライバによる変速操作が行われ、ステップST9でYES判定されると、ステップST10に進んで、変速操作に基づいてシーケンシャル変速段Yを変更する。ここでは、ドライバの操作によりSポジションに位置するシフトレバー91が「+」ポジションに操作されたとシフトポジションセンサ50が検出した場合には、シーケンシャル変速段Yを、現在設定されているシーケンシャル変速段Yに1段(1速)増加して設定する(Y=Y+1)。また、ドライバの操作によりSポジションに位置するシフトレバー91が「−」ポジションに操作されたとシフトポジションセンサ50が検出した場合には、シーケンシャル変速段Yを、現在設定されているシーケンシャル変速段Yに1段(1速)減少して設定する(Y=Y−1)。このようにシーケンシャル変速段Yを変更した後、ステップST11に進む。なお、ドライバによる変速操作が行われず、ステップST9でNO判定された場合には、シーケンシャル変速段Yを変更することなくステップST11に進む。
ステップST11では、上記設定されたシーケンシャル変速段Yと、上記取得された車速Vとに基づいて目標エンジン回転速度Netrgを再設定する。ここでは、手動変速モードであると判定されたことにともなって、設定されたシーケンシャル変速段Y(変速が行われていない場合は前回のシーケンシャル変速段Y(=Ylast)、変速が行われている場合は変速後のシーケンシャル変速段Y(=Y±1))と、車速センサ54により取得された車速Vとに基づいて目標エンジン回転速度Netrgが設定される。例えば、上記変速段毎に変速比を予め設定しておき、シーケンシャル変速段Yと一致する変速段に対応する変速比と、取得された車速Vとに基づいて目標エンジン回転速度Netrgを設定するようにしている。
次に、ステップST12に進み、上記設定された目標エンジン回転速度Netrgに基づいて要求駆動力を再設定する。ここでは、手動変速モードであると判定されたことにともなって、上記設定されたシーケンシャル変速段Yに基づいて設定された目標エンジン回転速度Netrgに応じて要求駆動力を設定する。
また、本実施形態にあっては、ここで再設定される要求駆動力が、各変速段毎に予め設定された駆動力(駆動輪6a,6bに得られる回転駆動力)の上限値を超えない値として設定されるようになっている。以下、この各変速段毎に予め設定された駆動力の上限値について説明する。
各変速段毎に駆動力の上限値を設定する理由は、ハイブリッド車両1において、一般的な手動変速機を備えた車両と同等の駆動力特性が模擬できるようにするためである。以下、具体的に説明する。
図8は、各変速段毎の駆動力の上限値を規定する駆動力上限値マップである。この駆動力上限値マップは、上記ROMに記憶されている。また、この駆動力上限値マップでは、横軸を車速、縦軸を駆動力とし、各変速段(1st〜6th)毎に、車速に応じて駆動力の上限値を規定する駆動力上限値ラインが規定されている。そして、この駆動力上限値マップでは、変速比が小さい変速段ほど(Hiギヤ段ほど)駆動力の上限値が低く設定され、また、同一変速段であっても、車速が高いほど駆動力の上限値は低く設定されるようになっている。このように駆動力の上限値を規定することにより、例えば、車両加速時などのように高い駆動力が要求される際には変速比が大きい変速段(Lowギヤ段)への変速が必要となるようにすることで、ハイブリッド車両1において、手動変速機を備えた車両と同等の駆動力特性が模擬できるようになっている。
このため、上記設定された目標エンジン回転速度Netrgに基づいて再設定された要求駆動力が、現在の変速段における駆動力の上限値未満である場合には、この目標エンジン回転速度Netrgに基づいた要求駆動力が上記ステップST12において設定される。一方、上記設定された目標エンジン回転速度Netrgに基づいて再設定された要求駆動力が、現在の変速段における駆動力の上限値以上である場合には、要求駆動力としては、この上限値に制限されることになり、この制限された要求駆動力(駆動力上限値マップから取得される駆動力上限値)が上記ステップST12において設定される。なお、本実施形態にあっては、この駆動力が制限される状態を解消するように変速段指示制御が行われることになる。詳しくは後述する。
その後、ステップST13に進み、上述と同様にして、目標エンジントルクTetrg、目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trg、目標MG2トルクTm2trgを設定する。ここでは、手動変速モード実行中であると判定されたことにともなって、上記ステップST11において設定されたシーケンシャル変速段Yに基づいて設定された目標エンジン回転速度Netrgと、ステップST12において設定された要求駆動力とに基づいて、目標エンジントルクTetrg、目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trg、目標MG2トルクTm2trgが設定されることになる。
上述のように、本実施形態にかかるハイブリッド車両1においては、手動変速モードでない場合には、アクセル開度Accと車速Vに基づいて要求駆動力が設定され、要求駆動力に基づいて目標エンジン回転速度Netrgが設定され、設定された要求駆動力および目標エンジン回転速度Netrgに基づいてエンジン2の運転制御、各モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御が行われる。一方、手動変速モードである場合、ドライバがシフトレバー91を操作することにより設定されたシーケンシャル変速段Yと車速Vとに基づいて目標エンジン回転速度Netrgが設定され、設定された目標エンジン回転速度Netrgに基づいて要求駆動力が設定され、この設定された目標エンジン回転速度Netrgおよび要求駆動力に基づいてエンジン2の運転制御、各モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御が行われる。
−変速指示装置−
本実施形態に係るハイブリッド車両1には、手動変速モード(Sモード)において、ドライバに対して変速を促す変速指示(変速案内)を行う変速指示装置が搭載されている。以下、この変速指示装置について説明する。
図9に示すように、車室内の運転席前方に配置されたコンビネーションメータ6には、スピードメータ61、タコメータ62、ウォータテンパラチャゲージ63、フューエルゲージ64、オドメータ65、トリップメータ66、および、各種のウォーニングインジケータランプなどが配置されている。
そして、このコンビネーションメータ6には、ハイブリッド車両1の走行状態に応じて燃費向上等を図る上で適した変速段(ギヤポジション)の選択を指示する表示部として、変速段をアップ指示する際に点灯するシフトアップランプ67(変速指示部)、変速段をダウン指示する際に点灯するシフトダウンランプ68(変速指示部)が配置されている。これらシフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68は、例えばLED等で構成されており、GSI−ECU16(図1参照)によって点灯および消灯が制御される。これらシフトアップランプ67、シフトダウンランプ68、GSI−ECU16およびハイブリッドECU10によって、本発明でいう変速指示装置が構成されている。なお、GSI−ECU16を備えさせず、上記エンジンECU11または図示しないパワーマネージメントECUがシフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68の点灯および消灯を制御する構成としてもよい。
この変速指示装置の基本制御としては、車速センサ54の出力信号から現在の車速Vを求めるとともに、アクセル開度センサ52の出力信号から現在のアクセル開度Accを求め、それら車速Vおよびアクセル開度Accを用いて、図4に示す要求駆動力設定マップを参照して要求駆動力を求める。また、この要求駆動力と上記車速VとアクセルAccとに基づいて図6に示す目標変速段設定マップを参照して推奨変速段(目標変速段)を求める。そして、その推奨変速段と現変速段(例えばシフトポジションセンサ50によって検出されている現在の変速段)とを比較し、推奨変速段と現変速段とが同じであるか否かを判定する。そして、推奨変速段と現変速段とが同じである場合には、変速指示を非実施とする。つまり、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68をともに非点灯とする。一方、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段である場合には、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトアップ指示を実施するための制御信号を送信してシフトアップランプ67を点灯する(図10(a)参照)。また、現変速段が推奨変速段よりも高い変速段である場合には、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトダウン指示を実施するための制御信号を送信してシフトダウンランプ68を点灯する(図10(b)参照)。
−変速段指示制御−
次に、本実施形態において特徴とする動作である変速段指示制御についての複数の実施形態を説明する。
(第1実施形態)
先ず、第1実施形態について説明する。この実施形態における変速段指示制御は、現在の駆動力と、変速指示装置の変速指示にしたがって変速段を変更したと仮定した場合におけるその変速段での駆動力の上限値(以下、「推奨変速段成立時の駆動力上限値」という)とを対比し、この推奨変速段成立時の駆動力上限値が、現在の駆動力と同一または現在の駆動力よりも大きい場合には、その推奨変速段への変速指示(シフトアップ指示やシフトダウン指示)を許可する。つまり、シフトアップ指示を行う条件が成立した場合(現変速段が推奨変速段よりも低い変速段である場合)にはシフトアップ指示を実行し、シフトダウン指示を行う条件が成立した場合(現変速段が推奨変速段よりも高い変速段である場合)にはシフトダウン指示を実行することになる。
一方、推奨変速段成立時の駆動力上限値が、現在の駆動力よりも小さい場合には、その推奨変速段への変速指示(シフトアップ指示やシフトダウン指示)を禁止するようにしている。つまり、シフトアップ指示を行う条件が成立したとしてもシフトアップ指示は非実施(禁止)とし、シフトダウン指示を行う条件が成立したとしてもシフトダウン指示は非実施(禁止)とすることになる。以下、具体的に説明する。
図11は、上記変速段指示制御の手順を示すフローチャート図である。このフローチャートはハイブリッド車両1の走行中において所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。
先ず、ステップST21において、変速段指示制御の実施要求判定を行う。この判定を行う条件の一つは、上記シフト操作装置9のシフトレバーがSポジションにあること(手動変速モードにあること)である。つまり、上記シフトポジションセンサ50によって検出されるシフトレバー91の位置がSポジションにある場合に、変速段指示制御の実施要求があると判定されて、後述する変速段指示制御実施要求フラグがONされることになる。
この変速段指示制御の実施要求判定を行った後、ステップST22に移り、上記変速段指示制御実施要求フラグがONとなっているか否か、つまり、変速段指示制御の実施要求があると判断されているか否かを判定する。
例えばシフト操作装置9のシフトレバー91がドライブ(D)位置にあるなどして、変速段指示制御実施要求フラグがOFF、つまり、変速段指示制御の実施要求がないと判断された場合には、ステップST22でNO判定され、変速段指示制御の必要はないとして、そのままリターンされる。
一方、変速段指示制御実施要求フラグがON、つまり、変速段指示制御の実施要求があると判断された場合には、ステップST23に移り、現在の駆動力(現駆動力)と、推奨変速段成立時の駆動力上限値とを対比し、この推奨変速段成立時の駆動力上限値が、現駆動力以上となっているか否かを判定する。この推奨変速段は、上述した如く、要求駆動力と車速VとアクセルAccとに基づいて図6に示す目標変速段設定マップを参照して求められる。また、推奨変速段成立時の駆動力上限値は、上記駆動力上限値マップ(図8を参照)に、推奨変速段および現在の車速を当て嵌めることによって取得される。
上記推奨変速段成立時の駆動力上限値が、現駆動力以上であり、ステップST23でYES判定された場合には、ステップST25以降の変速指示動作に移る。一方、上記推奨変速段成立時の駆動力上限値が、現駆動力未満であり、ステップST23でNO判定された場合には、ステップST24に移り、この推奨変速段への変速を行った場合には、現在の駆動力が得られなくなるとして、この推奨変速段への変速を行わせないように、シフト指示を非実施(禁止)とする。つまり、推奨変速段が現在の変速段よりもHiギヤ側であったとしてもシフトアップ指示は非実施(禁止)とし、推奨変速段が現在の変速段よりもLowギヤ側であったとしてもシフトダウン指示は非実施(禁止)とする。つまり、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68をともに消灯とする。
一方、ステップST23でYES判定された場合(推奨変速段成立時の駆動力上限値が、現駆動力以上であることによりYES判定された場合)には、ステップST25に移り、現在、上記シフト操作装置9において手動で選択されている変速段(現変速段)と、現在の車速およびアクセル開度等から求められる推奨変速段とを対比し、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段(現変速段<推奨変速段)、つまり、変速比が大きいLowギヤ側の変速段となっているか否かを判定する。なお、現変速段については、例えば、動力分割機構3の入力軸(プラネタリキャリア3d)の回転速度(エンジン回転速度)と、リングギヤ軸3eの回転速度(車速センサ54または出力軸回転速度の出力信号から認識)との比(変速比)を算出し、その算出した変速比から認識することができる。また、シフトポジションセンサ50の出力信号に基づいて、シフトレバー91をSポジションに操作したときに設定される変速段(上記図3のフローチャートにおいてステップST7またはST8で設定された変速段)、または、Sポジションでの「+」ポジションや「−」ポジションへの操作によって設定された変速段(上記図3のフローチャートにおいてステップST10で設定された変速段)によって認識することも可能である。
そして、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段であって、ステップST25でYES判定された場合には、ステップST26に移り、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトアップ指令を実施するための制御信号が送信され、このGSI−ECU16はシフトアップランプ67を点灯させる。このシフトアップランプ67の点灯にしたがって、運転車がシフトレバーを「+」位置へ操作、または、シフトアップ用パドルスイッチ9cを操作すると、ハイブリッドシステムではシフトアップ動作が行われる。このシフトアップ動作にともなって上記シフトアップランプ67は消灯される。
一方、ステップST25において、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段とはなっていない場合には、ステップST27に移り、現在、上記シフト操作装置9において手動で選択されている現変速段と、現在の車速およびアクセル開度等から求められる推奨変速段とを対比し、現変速段が推奨変速段よりも高い変速段(現変速段>推奨変速段)、つまり、変速比が小さいHiギヤ側の変速段となっているか否かを判定する。
そして、現変速段が推奨変速段よりも高い変速段であって、ステップST27でYES判定された場合には、ステップST28に移り、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトダウン指令を実施するための制御信号が送信され、このGSI−ECU16はシフトダウンランプ68を点灯させる。このシフトダウンランプ68の点灯にしたがって、運転車がシフトレバーを「−」位置へ操作、または、シフトダウン用パドルスイッチ9dを操作すると、ハイブリッドシステムではシフトダウン動作が行われる。このシフトダウン動作にともなって上記シフトダウンランプ68は消灯される。
そして、上記ステップST27において、現変速段が推奨変速段よりも高い変速段とはなっていない場合には、このステップST27でNO判定されてステップST24に移り、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトアップ指令およびシフトダウン指令を共に禁止するための制御信号が送信され、このGSI−ECU16はシフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68を共に消灯する。つまり、変速段が適切に設定されているとして、変速指示動作を非実行とする。
以上説明してきたように、本実施形態によれば、上記推奨変速段成立時の駆動力上限値と現駆動力とを対比し、この推奨変速段成立時の駆動力上限値が現駆動力未満である場合には推奨変速段へのシフト指示を非実施としている。これにより、変速指示装置の変速指示にしたがって変速段を変更した場合に、上記駆動力上限値が設定されていることに起因して駆動力が制限されてしまって、運転者が要求している駆動力が得られなくなるといった状況を回避できる。その結果、変速操作にともなってヘジテーション(車両のもたつき感)を感じてしまうなどといったドライバビリティの悪化を回避することができる。また、適正な駆動力を得ることができるため、アクセルペダルの踏み込み量が比較的大きい場合や、登坂路の走行時などにおいて、駆動力不足により運転者に違和感を与えてしまうといったこともなくなる。
(駆動力上限値マップの変形例)
次に、駆動力上限値マップの変形例について説明する。上述した実施形態では、図8に示す駆動力上限値マップによって、変速段および車速をパラメータとして駆動力の上限値を規定していた。
本変形例では、図12に示す駆動力上限値マップによって、変速段および車速をパラメータとして駆動力の上限値を規定するものである(この図12では第1変速段(1st)から第4変速段(4th)までの駆動力上限値のみを示している)。この駆動力上限値マップでは、それぞれの変速段において、駆動力の上限値が極大となる車速を設定しておき、この上限値が極大となる車速に対する偏差が大きくなるほど駆動力の上限値を小さく設定するようにしている。また、変速比が小さいHiギヤ側の変速段ほど、駆動力の上限値が極大となる車速としては高く設定され、且つその上限値が小さく設定されている。
このような駆動力上限値マップにしたがって変速段毎の駆動力の上限値を規定することによっても、ハイブリッド車両1において、手動変速機を備えた車両と同等の駆動力特性が模擬できる。
(参考例1)
次に、参考例1について説明する。本参考例1は、アクセルペダルの踏み込み量が大きくなるなどして要求パワーが大きくなり、それにともなって車両の駆動力が上昇していった場合に、この駆動力が、現在選択されている変速段に対して設定されている駆動力の上限値に近づいた場合には、変速指示装置によってシフトダウン側への変速指示を実施するようにしたものである。つまり、上昇する駆動力が、上記上限値によって制限される前段階で、駆動力の上限値が高く設定されている変速段側への変速を促すことによって、駆動力が上限値によって制限されてしまうことを回避するようにしている。以下、具体的に説明する。
図13は、本参考例1において上記ROM41に記憶されている駆動力上限値マップである。この駆動力上限値マップも、各変速段毎の駆動力の上限値を規定するものであり、横軸を車速、縦軸を駆動力とし、各変速段(1st〜6th)毎に、車速に応じて駆動力の上限値を規定する駆動力上限値ライン(図13に実線で示すライン)が規定されている。
そして、本参考例1における駆動力上限値マップでは、各駆動力上限値ラインそれぞれに対して、低駆動力側に所定の偏差(マージン)αを存して規定された変速指示ラインが設定されている(図中の破線を参照)。この変速指示ラインは、変速指示装置によるシフトダウン側への変速指示を開始するタイミングを規定するものであり、駆動力が上昇し、その駆動力が変速指示ラインに達した時点で変速指示装置によるシフトダウン側への変速指示を開始するようにしている。例えば、手動により選択されている変速段が第3変速段(3rd)であった場合に、駆動力が上昇し、その駆動力が、この第3変速段(3rd)に対して設定されている変速指示ライン(破線)に達した時点で変速指示装置によるシフトダウン側への変速指示(第2変速段(2nd)への変速指示)を開始するようにしている。つまり、駆動力が、この第3変速段(3rd)に対して設定されている駆動力上限値ライン(実線)に達する前段階で変速指示を行うようにしている。
また、上記偏差(マージン)αとしては、任意の値が設定可能であるが、通常の加速要求時において駆動力が上昇していく場合に、その駆動力が変速指示ライン(破線)に達し、シフトダウン側への変速指示を開始してから、その駆動力が駆動力上限値ライン(実線)に達するまでの期間内に運転者による変速操作(シフトダウン側への変速操作)が完了できるように設定されている。これにより、駆動力が駆動力上限値によって制限される前に、この駆動力上限値を高い側に切り換える(シフトダウン側への変速操作によって、駆動力上限値を高い側に切り換える)ことが可能になる。
以下、本参考例1における変速段指示制御を、図14のフローチャートに沿って説明する。
先ず、ステップST31において、変速段指示制御の実施要求判定を行う。この判定は、上記第1実施形態における図11のフローチャートのステップST21の動作と同様に行われる。
その後、ステップST32に移り、変速段指示制御の実施要求があると判断されているか否かを判定し、シフト操作装置9のシフトレバーがドライブ(D)位置にあるなどして、変速段指示制御実施要求フラグがOFF、つまり、変速段指示制御の実施要求がないと判断された場合には、ステップST32でNO判定され、変速段指示制御の必要はないとして、そのままリターンされる。
一方、変速段指示制御実施要求フラグがON、つまり、変速段指示制御の実施要求があると判断された場合には、ステップST33に移り、現在の駆動力(現駆動力)と、現在選択されている変速段(現変速段)に対して設定されている駆動力の上限値から所定量α(上述した偏差)を減算した値とを対比し、現在の駆動力が、現変速段での駆動力上限値から所定量αを減算した値を超えたか否か、つまり、現在の駆動力が、上記変速指示ラインに達しているか(駆動力上限値に対し所定量αまで近づいたか)否かを判定する。
そして、現駆動力が、現変速段での駆動力上限値から所定量αを減算した値を超えたことで、ステップST33でYES判定された場合には、ステップST34に移り、シフトダウン指示を行う。つまり、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトダウン指令を実施するための制御信号が送信され、このGSI−ECU16はシフトダウンランプ68を点灯させる。このシフトダウンランプ68の点灯にしたがって、運転車がシフトレバーを「−」位置へ操作、または、シフトダウン用パドルスイッチ9dを操作すると、ハイブリッドシステムではシフトダウン動作が行われる。このシフトダウン動作により、上記駆動力の上限値は高くなり、駆動力が上限値(シフトダウン操作前の変速段で設定されていた駆動力の上限値)によって制限されてしまうといった状況を回避できる。
一方、現駆動力が、現変速段での駆動力上限値から所定量αを減算した値を超えておらず、ステップST33でNO判定された場合には、ステップST35以降の変速指示動作に移る。図14におけるステップST35〜ステップST39の動作は、上記第1実施形態における図11のフローチャートのステップST25〜ステップST28、ステップST24の動作と同様に行われるので、ここでの説明は省略する。
以上のように、本参考例1においては、駆動力上限値マップにおける各駆動力上限値ラインそれぞれに対して、低駆動力側に所定の偏差(マージン)を存して規定された変速指示ラインが設定されており、駆動力が、この変速指示ラインに達した時点で、変速指示装置によるシフトダウン側への変速指示を開始するようにしている。このため、上昇する駆動力が上記上限値によって制限される前段階で、駆動力の上限値が高く設定されている変速段側(Lowギヤ側)への変速を促すことによって、駆動力が上限値によって制限されてしまうことを回避でき、運転者の要求する駆動力を得ることが可能である。
なお、本参考例1では、駆動力が、現在選択されている変速段に対して設定されている駆動力の上限値に近づいた場合に、変速指示装置によってシフトダウン側への変速指示を実施するようにしていたが、これに限らず、駆動力が、現在選択されている変速段に対して設定されている駆動力の上限値に達した時点で、変速指示装置によってシフトダウン側への変速指示を実施するようにしてもよい。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。上述した参考例1では、上記現変速段での駆動力上限値から減算される所定量αとしては固定値としていた。本第2実施形態では、この所定量αをエンジンEの運転状態に応じて切り換えるようにしたものである。
具体的には、エンジンEの過渡運転時には、この所定量αを比較的大きな値に設定する一方、エンジンEの定常運転時には、この所定量αを比較的小さな値に設定している。このエンジンEの状態が過渡運転であるか否かの判定は、例えば上記アクセル開度センサ52の出力信号から求められるアクセル開度Accの単位時間当たりの変化量を計測し、この値が所定値以上である場合(アクセルペダルの踏み込み速度が高い場合)にはエンジンEの状態が過渡運転であると判定し、この値が所定値未満である場合にはエンジンEの状態が定常運転であると判定する。この場合の判定閾値(上記所定値)としては任意に設定可能である。
また、エンジン回転速度の単位時間当たりの変化量や、車速の単位時間当たりの変化量に応じて、エンジンEの状態が過渡運転であるか否かを判定するようにしてもよい。つまり、エンジン回転速度の単位時間当たりの変化量が所定値以上である場合や、車速の単位時間当たりの変化量が所定値以上である場合にはエンジンEの状態が過渡運転であると判定するものである。この場合にあっても、判定閾値(上記所定値)としては任意に設定可能である。
具体的には、図15に示す所定量αの設定ルーチンにおいて、ステップST41で過渡運転中であるか否かを判定する。過渡運転中であり、ステップST41でYES判定された場合にはステップST42に移り、上記所定量αの値としては比較的大きな値であるα1を適用する。一方、過渡運転中ではなく、ステップST41でNO判定された場合にはステップST43に移り、上記所定量αの値としては比較的小さな値であるα2を適用する。このようにして求められた所定量αを上記参考例1のステップST33での演算に使用することになる。なお、上記α1およびα2の値としては、実験やシミュレーションによって適宜設定される。
本第2実施形態における制御として、より具体的には、上記所定量αが互いに異なる駆動力上限値マップを予めROM41に記憶させておき、上記設定された所定量α(α1またはα2)に応じて、使用する駆動力上限値マップを切り換えるようにする。図16(a)は上記所定量αが比較的大きな値であるα1となった場合に使用される駆動力上限値マップであり、図16(b)は上記所定量αが比較的小さな値であるα2となった場合に使用される駆動力上限値マップである。これらの図に示すように、所定量αが比較的大きな値であるα1となった場合に使用される駆動力上限値マップ(図16(a))では、変速指示ライン(破線)が駆動力上限値ライン(実線)から離間しており、このマップが選択された場合には、駆動力の上昇時において、変速指示装置によるシフトダウン側への変速指示が早めに開始されることになる。一方、所定量αが比較的小さな値であるα2となった場合に使用される駆動力上限値マップ(図16(b))では、変速指示ライン(破線)が駆動力上限値ライン(実線)に近接しており、このマップが選択された場合には、駆動力の上昇時において、変速指示装置によるシフトダウン側への変速指示が遅めに開始されることになる。
このようにして過渡状態に応じて、シフトダウン側への変速指示タイミングを切り換えることにより、その変速指示タイミングの適正化を図り、駆動力が上限値によって制限されてしまうことを回避しながらも、できる限り、変速比が小さいHiギヤ側の変速段を使用した走行状態を継続させることによって、燃料消費率の改善を図ることができる。
(参考例2)
次に、参考例2について説明する。上述した第2実施形態では、上記現変速段での駆動力上限値から減算される所定量αをエンジンEの運転状態に応じて切り換えるようにしていた。本参考例2では、この所定量αを、車両1が登坂路を走行している場合の路面の勾配に応じて切り換えるようにしたものである。
具体的には、走行している路面勾配が比較的大きい場合には、この所定量αを比較的大きな値に設定する一方、路面勾配が比較的小さい場合には、この所定量αを比較的小さな値に設定している。この路面勾配は例えばハイブリッド車両1に搭載された加速度センサ(Gセンサ)の検出値から求められる。
具体的には、図17に示す所定量αの設定ルーチンにおいて、ステップST51で路面勾配が所定値以上であるか否かを判定する。路面勾配が所定値以上であり、ステップST51でYES判定された場合にはステップST52に移り、上記所定量αの値としては比較的大きな値であるα1を適用する。一方、路面勾配が所定値未満であり、ステップST51でNO判定された場合にはステップST53に移り、上記所定量αの値としては比較的小さな値であるα2を適用する。このようにして求められた所定量αを上記参考例1のステップST33での演算に使用することになる。この場合の判定閾値(上記所定値)としては任意に設定可能である。
より具体的には、上記所定量αが互いに異なる駆動力上限値マップを予めROM41に記憶させておき、上記設定された所定量α(α1またはα2)に応じて、使用する駆動力上限値マップを切り換えるようにする。つまり、路面勾配が所定値以上であり、上記所定量αが比較的大きな値であるα1となった場合には、図16(a)に示す駆動力上限値マップを使用する一方、路面勾配が所定値未満であり、上記所定量αが比較的小さい値であるα2となった場合には、図16(b)に示す駆動力上限値マップを使用する。
これにより、特に駆動力(要求駆動力)の上昇速度が高くなると想定される勾配(登り勾配)が大きな路面を走行している場合に、変速指示装置によるシフトダウン側への変速指示を早めに開始させ、上昇する駆動力が、上記上限値によって制限されてしまうといった状況を回避する。これにより、車両1の登坂路の走破性を高めることができる。
また、路面勾配に応じて上記所定量αを変更するものとしては、図18に示すように、路面勾配に応じて上記所定量αを連続的に変化させるようにしたマップをROM41に記憶させておき、このマップに路面勾配を当て嵌めて上記所定量αを抽出するようにしてもよい。この図18に示すマップでは、路面勾配が所定値θ1に達するまでは上記所定量αを一定の値とし、路面勾配が所定値θ1を超えると、路面勾配が大きくなるにしたがって上記所定量αも大きな値となるようにしている。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態は、キックダウンスイッチ(アクセルペダルの踏み込み量が所定量に達した場合に変速段をLowギヤ側に自動変更するためのスイッチ)を搭載した車両に本発明を適用した場合である。
具体的には、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が所定量に達してキックダウンスイッチがONされた場合には、変速指示装置によるシフト指示を非実施とするようにしている。
具体的に図19のフローチャートに沿って説明する。なお、ここでは、図19のフローチャートにおいて、上記第1実施形態において図11で示したフローチャートにおける各ステップと同一の動作については同ステップ番号を付し、その説明を省略する。
変速段指示制御実施要求フラグがON、つまり、変速段指示制御の実施要求があると判断されてステップST22でYES判定された場合には、ステップST29に移り、上記キックダウンスイッチがONとなっているか、つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が所定量に達しているか否かを判定する。
そして、キックダウンスイッチがOFFであり、ステップST29でNO判定された場合には、ステップST23において、現駆動力と、推奨変速段成立時の駆動力上限値との対比動作に移る。以下のステップST25〜ステップST28の動作は、上述した第1実施形態の場合と同様である。
一方、キックダウンスイッチがONとなっており、ステップST29でYES判定された場合には、ステップST24に移り、シフト指示を非実施とする。これは、キックダウンスイッチがONとなっている状況では、運転者は車両1の加速を要求しており、燃料消費率の改善よりも、キックダウンスイッチがONされたことによるシフトダウン動作(自動シフトダウン動作)による車両の加速性能を優先すべきとして、シフト指示を非実施とするものである。
これにより、運転者が車両の加速を要求しているにも拘わらず、変速指示装置による変速指示が行われることによる違和感を防止することができる。
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。本実施形態も、キックダウンスイッチを搭載した車両に本発明を適用した場合である。
具体的には、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が所定量に達してキックダウンスイッチがONされた場合には、自動的にシフトダウン動作が行われることになるため、車速の上昇に伴ってシフトアップ条件が成立した場合に限り、シフトアップ指示を行うようにしたものである。
具体的に図20のフローチャートに沿って説明する。なお、ここでも、図20のフローチャートにおいて、上記第1実施形態において図11で示したフローチャートおよび上記第3実施形態において図19で示したフローチャートにおける各ステップと同一の動作については同ステップ番号を付し、その説明を省略する。
ステップST29の判定において、キックダウンスイッチがONとなっておりYES判定された場合には、ステップST30に移り、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段(現変速段<推奨変速段)、つまり、変速比が大きいLowギヤ側の変速段となっているか否かを判定する。そして、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段であって、ステップST30でYES判定された場合には、ステップST26に移り、シフトアップ指示を行う。つまり、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトアップ指令を実施するための制御信号が送信され、このGSI−ECU16はシフトアップランプ67を点灯させる。このシフトアップランプ67の点灯にしたがって、運転車がシフトレバーを「+」位置へ操作、または、シフトアップ用パドルスイッチ9cを操作すると、ハイブリッドシステムではシフトアップ動作が行われる。
一方、ステップST30において、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段とはなっていない場合には、ステップST24に移り、シフト指示を非実施とする。
本実施形態では、一旦、キックダウンスイッチがONとなって自動的にシフトダウン動作が行われた場合であっても、車速の上昇に伴ってシフトアップ条件が成立した場合には、シフトアップ指示を行うことができる。このため、運転者が、このシフトアップ指示にしたがってシフトアップ操作を行えば、燃料消費率の改善を図ることができる。
−他の実施形態−
以上説明した各実施形態では、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式のハイブリッド車両や、4輪駆動方式のハイブリッド車両の制御にも適用できる。
また、上記各実施形態では、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の2つの発電電動機が搭載されたハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例を示したが、1つの発電電動機が搭載されたハイブリッド車両や3つ以上の発電電動機が搭載されたハイブリッド車両の制御にも本発明は適用可能である。
また、本発明は、シリーズハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両に対しても適用可能である。さらには、変速システムとしては、レンジホールドタイプのもの(選択された変速段に対し、Lowギヤ段側への自動変速が可能なもの)やギヤホールドタイプ(選択された変速段が維持されるもの)に対しても本発明は適用可能である。ここでいうレンジホールドタイプとは、シフトレバーがSポジションにある場合に、ハイブリッドECU10が、現在の変速段を上限変速段とし、その上限変速段を最も高い側の変速段(最も低い側の変速比)とする制限変速段範囲内で自動変速を行うものである。例えば、手動変速モードにおける変速段が、第3変速段(3rd)である場合、その第3変速段を上限変速段とし、第3変速段(3rd)〜第1変速段(1st)の間において自動変速が可能な状態となる。
また、上記各実施形態における目標変速段設定マップでは、第4変速段(4th)から第6変速段(6th)の間では、アクセルオフの状態で要求される駆動力は互いに一致しているものとしていた。本発明はこれに限らず、第1変速段(1st)から第6変速段(6th)の全ての変速段同士の間で、Lowギヤ段(変速比が大きいギヤ段)ほど駆動力が低く(負の駆動力が大きく)設定されるようにしたものであってもよい。