以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
《発明の実施形態1》
〈概要〉
図1は、本発明の実施形態1に係るモータ(10)を適用した電動圧縮機(1)(圧縮機)の構成を模式的に示す縦断面図である。モータ(10)は、本発明の回転電気機械の一例である。電動圧縮機(1)は、例えば空気調和機(図示は省略)に用いる。その場合、一般的には、電動圧縮機(1)は、空気調和機の室外機(図示は省略)に設置される。電動圧縮機(1)は、モータ(10)、圧縮機構(20)、及びケーシング(30)を備えている。
モータ(10)は、同図に示すように、ステータ(100)、ロータ(200)、及び駆動軸(300)を備え、電動圧縮機(1)のケーシング(30)に収容されている。図1ではステータ(100)とロータ(200)は接触して描かれているが、実際には小さい空隙を介して、ロータ(200)が回転可能にステータ(100)と対向している。モータ(10)は、ブラシレスDCモータである。より具体的には、ロータコアがステータコアに直接対向する埋め込み磁石形モータである。モータ(10)は、この例では電動圧縮機(1)内の圧縮機構(20)を駆動する。圧縮機構(20)には、例えば、スクロール型、或いはロータリ型の圧縮機構などを採用することができる。
電動圧縮機(1)は、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機である。電動圧縮機(1)では、ケーシング(30)は、鉄などの金属で構成された円筒状の密閉容器である。ケーシング(30)内には、圧縮機構(20)が圧縮した冷媒が吐出される。圧縮機構(20)が吐出した冷媒には潤滑油(冷凍機油)が含まれている。モータ(10)は、ロータ(200)やステータ(100)が、冷媒や潤滑油に曝されるようになっている。
モータ(10)には、交流電力が供給され、モータ(10)はこの交流電力によって駆動する。図示は省略するが、この例では、単相又は三相の交流電源をコンバータ回路で整流した後に、コンバータ回路の出力を電解コンデンサで平滑化し、その平滑化した直流をインバータ回路で交流に変換してモータ(10)に供給している。すなわち、モータ(10)は、いわゆるインバータ駆動される。一般的なインバータ回路は、複数(例えば6つ)のスイッチング素子を備え、それらのスイッチング素子で、入力された直流を交流に変換している。この際、本実施形態のインバータ回路では、PWM制御によって高電圧のスイッチング動作を行う。このインバータ回路では、スイッチング素子の矩形波駆動が行われる。
〈モータ(10)の構成〉
以下では、モータ(10)の構成を説明する。なお、以下の説明において、軸方向とは駆動軸(300)の軸心の方向をいい、径方向とは上記軸心と直交する方向をいう。また、外周側とは上記軸心からより遠い側をいい、内周側とは上記軸心により近い側をいう。
〈ステータ(100)〉
図2は、電動圧縮機(1)におけるモータ(10)付近の横断面図である。ステータ(100)は、図2に示すように、円筒状のステータコア(110)と、コイル(120)を備えている。
ステータコア(110)は、電磁鋼板をプレス加工によって打ち抜いて積層板(P)を作成し、複数の積層板(P)を軸方向に積層した積層コアである。図3は、ステータ(100)の一部分の斜視図である。ステータコア(110)は、図2,3に示すように、1つのバックヨーク部(111)、それぞれ複数(この例では6つ)のティース部(112)、及びツバ部(113)を備えている。なお、図3には、1つのティース部(112)を主に描いてある。
それぞれのティース部(112)は、図2,3に示すように、ステータコア(110)において径方向に伸びる直方体状の部分である。各ティース部(112)の間の空間が、コイル(120)が収容されるスロット(114)である。
バックヨーク部(111)は、円環状をしている。バックヨーク部(111)は、各ティース部(112)を該ティース部(112)の外周側で連結している。ステータコア(110)は、バックヨーク部(111)の外周部の一部がケーシング(30)の内面に固定されている。
バックヨーク部(111)には、図2に示すように、該バックヨーク部(111)の外周部を切り欠いたコアカット部(111a)が形成されている。ステータコア(110)をケーシング(30)に固定すると、ケーシング(30)の内周面とコアカット部(111a)とによって、ケーシング(30)におけるモータ(10)の下方空間(S1)と、モータ(10)の上方空間(S2)とをつなぐ貫通孔が形成される。この貫通孔は、圧縮機構(20)が吐出した冷媒を、モータ(10)の下方空間(S1)から、モータ(10)の上方空間(S2)に移動させるため冷媒流路として、または、冷媒とともにモータ(10)の上方空間(S2)に移動した潤滑油を下方空間(S1)に戻す潤滑油戻し流路として使用される。なお、モータ(10)の上方空間(S2)に移動した冷媒は、ケーシング(30)の上方に設けた吐出管(32)(図1参照)から吐出される。
ツバ部(113)は、それぞれのティース部(112)の内周側に連なる部分である。ツバ部(113)は、ティース部(112)よりも幅(周方向の長さ)が大きく構成されている。ツバ部(113)は、内周側の面が円筒面である。その円筒面は、ロータコア(210)の外周面(円筒面)と所定の距離(エアギャップ(G))をもって対向している。
ティース部(112)には、いわゆる集中巻方式で、コイル(120)が巻回されている。すなわち、1つのティース部(112)ごとにコイル(120)が巻回され、巻回されたコイル(120)はスロット(114)内に収容されている。図4は、実施形態1のステータコア(110)を内周側から見た、ティース部(112)の断面図である。同図に示すように、ティース部(112)の軸方向の両端面側からインシュレータ(161)が設けられるとともに、コイル(120)とティース部(112)の間には、絶縁フィルム(160)が設けられている。この例では、絶縁フィルム(160)は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記)のフィルムである。集中巻方式では、コイル(120)を直巻した場合、コイル(120)とステータコア(110)の間隔が極めて狭くなる。間隔は、具体的には絶縁フィルム(160)の厚みで決まる。
〈ロータ(200)〉
図5は、ロータコア(210)を軸方向から見た平面図である。また、図6は、モータ(10)の断面図である。図6は、図2のA-O-B断面に相当する。図2、6に示すように、ロータ(200)は、ロータコア(210)、複数の磁石(220)(永久磁石)、及び2つの端板(230)を備え、円筒状の形態である。この例では、ロータ(200)は、4つの磁石(220)を備えた4極ロータである。
ロータコア(210)は、電磁鋼板をプレス加工によって打ち抜いて積層板(P)を作成し、複数の積層板(P)を軸方向に積層した積層コアである。ロータコア(210)は、後に詳述するように、上記軸方向に3分割されている。なお、以下では、第1ロータコア(240)や第2ロータコア(250)を分割ロータコア(240,250)とも呼ぶ。
図5に示すように、ロータコア(210)には、磁石(220)をそれぞれ装着する、複数の磁石用スロット(211)が形成されている。それぞれの磁石用スロット(211)は、ロータコア(210)の軸心回りに90°ピッチで配置されている。それぞれの磁石用スロット(211)は、軸方向から見て概ねU字状の穴形状を有し、ロータコア(210)を軸方向に貫通している。詳しくは、図5に示すように、それぞれの磁石用スロット(211)は、ロータコア(210)の半径と直交する磁石挿入部(211a)と、該磁石挿入部(211a)から外周側に延びる2つのバリア部(211b)とで構成されている。磁石挿入部(211a)は、図5における平面視が長方形であり、該磁石挿入部(211a)に磁石(220)が挿入される。また、ロータコア(210)には、後述するピン(280)用に4つの穴(213)が設けられている。
ロータコア(210)は、磁石用スロット(211)に磁石(220)が挿入された後に、軸方向の両端面から、端板(230)がそれぞれ取り付けられ、各磁石用スロット(211)が塞がれている。端板(230)は、円板状の形態を有し、例えばステンレスなど非磁性金属で形成されている。端板(230)は鉄等の磁性体でもよいが、ロータ(200)の磁束が漏洩する。端板(230)は、ロータコア(210)を貫通する4つのピン(280)で固定してある(図2,6を参照)。なお、端板(230)は、ピン(280)で固定する代わりに、駆動軸(300)に焼きばめで固定するようにしてもよい。
また、ロータコア(210)の中心には、軸穴(212)を形成してある。この軸穴(212)には、駆動軸(300)(鉄などの金属)を、後に詳述するように取り付ける。駆動軸(300)は、圧縮機構(20)を駆動するためのものである。本実施形態のケーシング(30)は、その底部が潤滑油をためる油溜まり(31)になっていて(図1参照)、駆動軸(300)は、油溜まり(31)から圧縮機構(20)へ潤滑油を供給する給油機構を構成している。駆動軸(300)の内部には、図示は省略するが、その軸方向へ延びる給油通路が形成されている。給油通路は、駆動軸(300)の下端に開口し、駆動軸(300)の下端には遠心ポンプが設けられている。電動圧縮機(1)の運転中は、駆動軸(300)の下端が、油溜まり(31)に浸かった状態となる。駆動軸(300)が回転すると、遠心ポンプ作用によって油溜まり(31)から給油通路へ冷凍機油が吸い込まれる。給油通路へ吸い込まれた冷凍機油は、圧縮機構(20)へ供給されて圧縮機構(20)の潤滑に利用される。
〈ロータコア(210)の分割構造〉
図7は、実施形態1のロータ(200)の縦断面図である(図2のA−O−Bに相当する)。実施形態1のモータ(10)は、既述の通り、ロータコア(210)が軸方向に3分割されている。
第1ロータコア(240)は、第2ロータコア(250)の軸方向両端にそれぞれ設けられている。この例では、それぞれの第1ロータコア(240)の高さ(H1)(軸方向の長さ)は約5mmである。第2ロータコア(250)の高さ(H2)は、約60mmである。すなわち、第1ロータコア(240)の高さ(H1)の合計を第2ロータコア(250)の高さ(H2)の合計より小さくすることにより、漏れ電流低減の効果(後に詳述する)を大きくすることができる。なお、図7は模式図であり、この寸法では描いていない。
第1及び第2ロータコア(240,250)の間には、絶縁板(260)を挟み込んで、両者を電気的に絶縁してある。ここでいう「絶縁」は、上記インバータ回路における高電圧のスイッチングによって発生する高周波電流(後に詳述)の絶縁を意味している。一般的に、ロータコアやステータコア等に用いる電磁鋼板には絶縁被膜が設けられ、モータの運転中に発生する渦電流を絶縁するようになっている。しかしながら、電磁鋼板の絶縁被膜は、一般的には、上記渦電流よりも大きな上記高周波電流を絶縁する能力を有していない。また、電磁鋼板がプレス加工される際には絶縁被膜の一部が剥がれる場合があるので、積層した電磁鋼板同士の絶縁は完璧とはいえない。
絶縁板(260)は、本発明の絶縁部材の一例である。本実施形態では、絶縁板(260)を板状の樹脂(樹脂板)で構成してある。絶縁板(260)の材料としては、例えばPETを採用できる。この例では、絶縁板(260)の厚さ(T)は、約1mmである。絶縁板(260)は、電磁鋼板の絶縁被膜よりも厚い部材である。このように、電磁鋼板の絶縁被膜とは別に絶縁板(260)を設けることで、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とは確実に絶縁され、例えば、電磁鋼板にプレス加工を行うことによって絶縁被膜が剥がれても、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)の間の絶縁を確保できる。
第1ロータコア(240)には、駆動軸(300)が焼き嵌めされる。そのため、第1ロータコア(240)は、駆動軸(300)を焼き嵌めできるように、軸穴(212)の直径が設定されている。これにより、第1ロータコア(240)は、駆動軸(300)と電気的につながることになる。勿論、第1ロータコア(240)は、他の方法で駆動軸(300)に固定してもよい。
一方、第2ロータコア(250)は、駆動軸(300)に接触しないように、軸穴(212)の直径が、駆動軸(300)の外径よりも大きく設定されている。すなわち、第2ロータコア(250)は、駆動軸(300)と電気的に絶縁されている。既述の通り、第2ロータコア(250)は、駆動軸(300)に固定された第1ロータコア(240)で挟み込まれているので、第2ロータコア(250)の軸穴(212)内周面と駆動軸(300)の外周面との間に隙間があっても、ロータコア(210)は、駆動軸(300)に安定に保持される。なお、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)との隙間(G3)は、ステータコア(110)外周とロータコア(210)との間のエアギャップ(G)よりも小さく設定してある。
第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とは、ステータコア(110)の軸方向の一端から他端まで貫通するピン(280)によって互いに位置決めされている。図7に示すように、第1及び第2ロータコア(240,250)のそれぞれには、ピン(280)を挿入する貫通孔を互いに対向する位置に設けてある。絶縁板(260)にも、ピン(280)用の貫通孔を設けてある。ピン(280)は、第1及び第2ロータコア(240,250)の双方の貫通孔に挿入(例えば圧入)してある。ピン(280)は、樹脂で構成してある。そのため、ピン(280)を第1及び第2ロータコア(240,250)に挿入しても、両者の絶縁は確保される。
なお、ピン(280)は、樹脂などの絶縁性を有する材料でコーティングした金属ピンでもよい。樹脂コーティングにより、ピン(280)を第1及び第2ロータコア(240,250)に挿入しても、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)との電気的な絶縁は確保される。
図8は、ロータコア(210)の磁石挿入部(211a)付近の断面図である。同図は、磁石(220)を挿入する前の状態を示している。第1ロータコア(240)の磁石挿入部(211a)は、磁石(220)がちょうど嵌まり込むように、径方向の幅(W1)が設定されている。一方、第2ロータコア(250)の磁石挿入部(211a)は、径方向の幅(W2)が、磁石(220)の厚さよりも大きく構成されている。詳しくは、第2ロータコア(250)の磁石挿入部(211a)は、第1ロータコア(240)における磁石挿入部(211a)の内周側の面(A)を内周側にオフセットさせ、且つ、第1ロータコア(240)における磁石挿入部(211a)の外周側の面(B)を外周側にオフセットさせた形態になっている。上記構成により、磁石(220)は第1ロータコア(240)にのみ固定され、第2ロータコア(250)とは所定の隙間が確保される。すなわち、磁石(220)は、例えばNd−F−B系の希土類焼結磁石のような導電率の高い磁石であっても、第2ロータコア(250)には接触せず、電気的に絶縁される。したがって、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とが磁石(220)によって電気的に導通することはない。
なお、第1及び第2ロータコア(240,250)で、磁石挿入部(211a)の大きさの関係を上記の逆にしてもよい。すなわち、第1ロータコア(240)側の磁石挿入部(211a)は磁石(220)が接触しない大きさにし、第2ロータコア(250)側の磁石挿入部(211a)を磁石(220)がちょうど嵌まり込む大きさにしてもよい。ただし、端板(230)が金属(導体)の場合には、第2ロータコア(250)と磁石(220)を絶縁する必要がある。これは、第1ロータコア(240)が端板(230)を介して磁石(220)と導通する可能性があるからである。
また、磁石(220)と磁石挿入部(211a)との隙間には、例えば樹脂スペーサを挿入したり、モールドによって樹脂を充填したりしてもよい。こうすることで、磁石(220)をロータコア(210)でより安定的に保持することが可能になる。
また、絶縁性を有する材料で磁石(220)をコーティングすることによって、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とを絶縁してもよい。この場合は、各磁石挿入部(211a)と磁石(220)との間には、電気的絶縁を目的とした隙間は不要である。
また、フェライト磁石やボンド磁石のように、磁石そのものが絶縁性を有する場合も、各磁石挿入部(211a)と磁石(220)との間には、電気的絶縁を目的とした隙間は不要である。
図9は、ロータコア(210)の分割面付近の断面図である。同図に示すように、本実施形態の絶縁板(260)は、その中心に駆動軸(300)の外径よりも大きく、且つ第2ロータコア(250)の軸穴(212)内径よりも大きな貫通孔(261)が形成されている。また、絶縁板(260)の外径は、第1ロータコア(240)の外径と同じである。すなわち、絶縁板(260)は、軸方向への投影形状が第1ロータコア(240)に含まれ、且つ第2ロータコア(250)を含んでいる。これにより、電磁鋼板をプレス加工した際に端部にバリができても、そのバリで、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とが導通して、両者間の絶縁が阻害されるようなことがない。また、例えば、電磁鋼板にプレス加工を行うことによって上記絶縁被膜が剥がれても、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)の間の絶縁を確保できる。
〈本実施形態における漏れ電流〉
電動圧縮機(1)を運転状態にするには、上記インバータ回路からモータ(10)に交流電力を供給し、モータ(10)を運転状態にする。モータ(10)が運転状態になると、圧縮機構(20)が冷媒を吸入し、吸入した冷媒を圧縮する。電動圧縮機(1)が運転状態の場合には、上記インバータ回路では、PWM制御によって高電圧のスイッチング動作が行われる。すなわち、上記インバータ回路では、スイッチング素子の矩形波駆動が行われる。これにより、上記インバータ回路では、急峻な電圧の立上がり及び立下りが起こり、その高電圧がモータ(10)に印加される。なお、矩形波駆動でなくて、正弦波駆動であっても、PWM制御によるパルス状の電圧により、同様に急峻な立上り及び立下りが起こる。
上記のように、急峻な立上がり及び立下りを有した電圧がモータ(10)に印加されると、ステータコア(110)側で高電圧が発生し、ロータコア(210)とステータコア(110)との間に形成された浮遊容量を介して、ステータコア(110)側からロータコア(210)側に高周波電流(以下、漏れ電流とも呼ぶ)が流れる。この高周波電流は、さらに、ロータコア(210)から駆動軸(300)に流れる。駆動軸(300)は、軸受(図示は省略)などを介してケーシング(30)と電気的につながっている。ケーシング(30)は、一般的には、冷媒用の配管などを介して、上記室外機の筐体(図示は省略)と電気的につながっているので、上記高周波電流は室外機のアース端子などから外部に漏れることになる。外部に漏れる高周波電流は、法規制などに応じて、所定値以下の大きさにする必要がある。
モータ(10)では、第1ロータコア(240)とステータコア(110)の間には、浮遊容量(コンデンサ(C21))が形成されている。図10は、ロータコア(210)における浮遊容量(C21,…,C24)の関係を示した回路図である。例えば、第2ロータコア(250)とステータコア(110)の間にも浮遊容量(コンデンサ(C22))が形成されている。これらのコンデンサ(C21,C22)は、ロータコア(210)とステータコア(110)の間の空気層(エアギャップ(G))や冷媒等を誘電体としている。また、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)との間には、絶縁部材(260)を誘電体としたコンデンサ(C23)が形成されている。さらに、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)の間には、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)の隙間(G3)の空気を誘電体としたコンデンサ(C24)が形成されている。
ロータコアが本実施形態のように分割されていないモータ(以下では説明の便宜上、従来のモータと呼ぶ)では、駆動軸とロータコア間に形成される浮遊容量は、図10の回路において、コンデンサ(C23)及びコンデンサ(C24)を導体に置換したものと等価と考えられる。本実施形態の第1ロータコア(240)部分に形成されたコンデンサ(C21)の容量、及び第2ロータコア(250)部分に形成されたコンデンサ(C22)の容量は、従来のモータにおける、第1及び第2ロータコア(240,250)相当部位のコンデンサの容量と概ね同じと考えられる。しかしながら、本実施形態では、コンデンサ(C22)には、コンデンサ(C23)とコンデンサ(C24)が直列につながっている。そのため、第2ロータコア(250)部分においてロータコアと駆動軸の間に形成されるコンデンサの容量を、本実施形態のモータ(10)と従来のモータとを比較すると、本実施形態のモータ(10)の方が小さいといえる。特に、コンデンサ(C23)は、電磁鋼板の絶縁被膜とは別に設けた絶縁部材(260)の効果により、上記高周波電流に対して大きなインピーダンスを有している。すなわち、本実施形態では、ロータコア(210)と駆動軸(300)の間に形成されたコンデンサは、上記高周波電流に対し、従来のモータよりも、より大きなインピーダンスを有している。
例えば、周波数可変のインバータ回路のスイッチングによってモータ駆動を行うと(例えばPWM駆動)、コモンモード電圧が急峻に変動する。この電圧変動によって、高周波漏れ電流が発生する。しかしながら、本実施形態では、ロータコア(210)と駆動軸(300)の間に形成されたコンデンサが、従来のモータよりも、上記高周波電流に対しより大きなインピーダンスを有しているので、該高周波電流の増加が抑制される。
《本実施形態における効果》
以上のように、本実施形態によれば、ステータコア(110)にコイルが巻回されたモータ(10)において、漏れ電流の低減を図ることが可能になる。
また、集中巻方式のモータ(10)では、コイル(120)とステータコア(110)の間隔が極めて狭くなる傾向がある(絶縁フィルム厚みで間隔が決まる)。コイル(120)とステータコア(110)の間隔が狭くなると、両者の間により大きな電圧が発生する可能性がある。しかしながら、本実施形態では、このような電圧の発生があっても、ロータコア(210)と駆動軸(300)の間のインピーダンスを増大させることができるので、電動圧縮機(1)外部に漏れる高周波電流を、確実に所望の値以下の大きさにすることが可能になる。
また、電動圧縮機(1)のように、モータ(10)が冷媒や潤滑油に曝される装置では、コイル(120)とステータコア(110)の間に侵入した冷媒や潤滑油によって、コイル(120)とステータコア(110)の間に形成されるコンデンサ(C1,C2)の容量が増大する。すなわち、コイル(120)とステータコア(110)の間のインピーダンスが低下し、より大きな漏れ電流が流れやすくなる。しかしながら、モータ(10)では、冷媒や潤滑油によってコイル(120)とステータコア(110)の間のインピーダンスが低下しても、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)の間に設けた隙間(G3)や絶縁板(260)の作用によって、ロータコア(210)と駆動軸(300)の間では十分なインピーダンスが得られ、ロータコア(210)、駆動軸(300)及びケーシング(30)を介して漏れる漏れ電流が低減する。そのため、本実施形態では、電動圧縮機(1)(空気調和機)の外部に漏れる高周波電流を、容易且つ確実に所望の値以下にすることが可能になる。すなわち、本実施形態のモータ(10)は、圧縮機用途で大きな上記効果を発揮することができるのである。
また、集中巻方式のモータ(10)では、コイル(120)をステータコア(110)のティース部に直接、一定のテンションをかけて巻回するため、コイル(120)とステータコア(110)の間隔が極めて狭くなる傾向がある(絶縁フィルムの厚みで間隔が決まる)。コイル(120)とステータコア(110)の間隔が狭くなると、両者間のインピーダンスが小さくなる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、このようなインピーダンスの低下があっても、ロータコア(210)と駆動軸(300)の間では十分なインピーダンスを得ることができる。それゆえ、ロータコア(210)、駆動軸(300)及びケーシング(30)を介して電動圧縮機(1)外部に漏れる高周波電流を、確実に、所望の値以下の大きさにすることが可能になる。
《実施形態1の変形例1》
第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)の位置決めには、上記のピン(280)を用いる他に、種々の構造を採用できる。
〈1〉例えば、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)の位置決めには、ボルトを用いることもできる。図11は、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)をボルト(270)で固定した例を説明する図である。この例では、第2ロータコア(250)は、ボルト(270)が貫通する孔に、樹脂などの絶縁性を有する材料で構成した絶縁スリーブ(271)を設けてある。この絶縁スリーブ(271)によって、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とを絶縁している。なお、絶縁スリーブ(271)は、第1ロータコア(240)側に設けてもよいが、端板(230)が金属(導体)の場合には、第2ロータコア(250)側に設ける方がより望ましい。これは、端板(230)が金属(導体)の場合にボルト(270)の頭や相手のナットが端板(230)に接触すると、ボルト(270)と端板(230)を介して、分割ロータコア(240,250)同士が短絡する可能性があるからである。第2ロータコア(250)側に絶縁スリーブ(271)を設ける場合には、端板(230)を絶縁体で構成すればよい。
なお、ボルト(270)の代わりにリベットを用いることも可能である。また、絶縁スリーブ(271)を設ける代わりに、ボルト(270)やリベットなどの締結材を絶縁材でコーティングしてもよい。締結材を絶縁材でコーティングする場合には、締結材は何れの分割ロータコア(240,250)に接触してもよい。
〈2〉また、図12は、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)をボルト(270)で固定する別の例を説明する図である。この例では、第2ロータコア(250)側のボルト(270)用の貫通孔(251)を、ボルト(270)の外径よりも大きくしてある。この場合、ボルト(270)は、第1ロータコア(240)で保持されるため、第2ロータコア(250)とボルト(270)の隙間が確保され、両者が電気的に絶縁される。こうすることで、絶縁スリーブ(271)が不要になる。この例でも、ボルト(270)の代わりにリベットを用いることも可能である。
〈3〉第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とをモールドして一体化することも可能である。図13は、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)をモールドして一体化したロータコア(210)の断面図である。同図に示すように、モールドに用いる樹脂で、絶縁板(260)を兼用している。勿論、モールドに用いる樹脂とは別に絶縁板(260)を設けてもよい。
〈4〉第1及び第2ロータコア(240,250)の外周を同一形状にしておいて、外周を基準に両者を固定するようにしてもよい。
《実施形態1の変形例2》
第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)の間や、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)の間のインピーダンスを増やすと漏れ電流をより効果的に低減できる。具体的には、以下のような構成を採用することで、上記インピーダンスをより大きくすることが可能になる。
〈1〉図14は、実施形態1の変形例2に係るロータコア(210)の断面図である。この例では、同図に示すように、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)との間に、樹脂などの絶縁材で構成した絶縁スリーブ(290)を設けてある。こうすることで、第2ロータコア(250)の位置決めが容易になる。また、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)との隙間に入り込む冷媒や潤滑油の量を減らすことが可能になる。樹脂などの絶縁材は、冷媒や潤滑油よりも、一般的には誘電率が低い。そのため、上記隙間に入り込む冷媒や潤滑油の量が減れば、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)の間に形成される浮遊容量を低減することが可能になる。その結果、第2ロータコア(250)と駆動軸(300)との間のインピーダンスを増やすことが可能になる。絶縁スリーブ(290)には種々の材料の選択が可能である。例えば、発泡樹脂などを用いることができる。絶縁スリーブ(290)を発泡樹脂とすることで、発泡していない樹脂と比べ、誘電率をより小さくすることが可能になる。
〈2〉絶縁板(260)には、発泡樹脂を用いることができる。発泡樹脂は、内部に気泡(樹脂よりも誘電率が低い空気)を有するので、発泡していない樹脂と比べ、誘電率をより小さくすることが可能になる。
〈3〉絶縁板(260)は、中空構造(内部は例えば空気)としてもよい。空気の比誘電率は約1であり、絶縁板(260)を構成する樹脂などと比べて一般的に小さい。そのため、絶縁板(260)を中実構造とするよりも、誘電率をより小さくすることが可能になる。絶縁板(260)の誘電率が小さくなれば、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)の間のインピーダンスをより大きくすることが可能になる。なお、モータ(10)が冷媒や潤滑油に曝される構造の場合には、絶縁板(260)の中空部内に冷媒や潤滑油が入らないようにする必要がある。冷媒、潤滑油、或いはこれらの混合物は、一般的には、絶縁板(260)を構成する樹脂などと比べ、誘電率が大きいと考えられるからである。
《発明の実施形態2》
実施形態2のモータ(10)は、磁石(220)の構成が実施形態1と相違している。図15は、実施形態2のモータ(10)の縦断面図である(図2のA−O−Bに相当する)。同図に示すように、本実施形態では、磁石(220)は、ロータコア(210)の分割位置に合わせて軸方向に、2つの第1磁石(220a)と1つの第2磁石(220b)に分割してある。絶縁板(260)には、磁石(220)用の貫通孔はない。この例では、磁石(220)は、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)それぞれに、独立して設けられているので、磁石(220)を分割ロータコア(240,250)に挿入することで、両者が接触しても、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とが短絡することがない。そのため、本実施形態では、磁石(220)と分割ロータコア(240,250)との間には、実施形態1のように絶縁手段(コーティングや隙間など)を設ける必要がない。
《発明の実施形態3》
実施形態3のモータ(10)は、ステータ(100)の構成が実施形態2と異なっている。図16は、実施形態3のステータ(100)の構成を示すモータ(10)の縦断面図である(図2のA‐O‐B断面に相当)。本実施形態のステータ(100)は、ステータコア(110)が、第1ロータコア(240)に対応する第1ステータコア(130)と、第2ロータコア(250)に対応する第2ステータコア(140)とに、ロータコア(210)と同じ軸方向位置で分割されている。すなわち、ステータコア(110)は、後に詳述するように、上記軸方向に3分割されている。
第1ステータコア(130)は、第2ステータコア(140)の軸方向両端にそれぞれ設けられている。この例では、それぞれの第1ステータコア(130)の高さ(上記軸方向の長さ)は、第1ロータコア(240)と同じである。同様に、第2ステータコア(140)の高さは、第2ロータコア(250)の高さと同じである。
第1及び第2ステータコア(130,140)の間には、絶縁板(150)を挟み込んで、両者を電気的に絶縁してある。本実施形態では、絶縁板(150)を板状の樹脂(樹脂板)で構成してある。絶縁板(150)の材料としては、例えばPETを採用できる。この例では、絶縁板(150)の厚さ(T)は、約1mmである。絶縁板(150)は、電磁鋼板の絶縁被膜よりも厚い部材である。このように、電磁鋼板の絶縁被膜とは別に絶縁板(150)を設けることで、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)とは確実に絶縁され、例えば、電磁鋼板にプレス加工を行うことによって絶縁被膜が剥がれても、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の間の絶縁を確保できる。
図17は、ステータコア(110)の分割面付近の断面図(図2の断面A-A相当)である。図17に示すように、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)とは、双方に挿入されたピン(170)によって互いに位置決めされている。具体的には、第1及び第2ステータコア(130,140)のそれぞれには、分割面側の一部の電磁鋼板に、ピン(170)を挿入する貫通孔を、互いに対向する位置に設けてある。絶縁板(150)にも、ピン(170)用の貫通孔を設けてある。ピン(170)は、第1及び第2ステータコア(130,140)の双方の貫通孔に挿入(例えば圧入)してある。ピン(170)は、樹脂製である。そのため、ピン(170)を第1及び第2ステータコア(130,140)に挿入しても、両ステータコア(130,140)の絶縁は確保される。
なお、ピン(170)は、樹脂などの絶縁性を有する材料でコーティングした金属ピンでもよい。ピン(170)に樹脂コーティングを施しておけば、ピン(170)を第1及び第2ステータコア(130,140)に挿入しても、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)との電気的な絶縁は確保される。また、図18は、ピン(170)の他の構成例を示す図である(図2の断面A-A相当)。ピン(170)は、図18に示すように、ステータコア(110)の軸方向の一端から他端まで貫通するように設けてもよい。この場合も、ピン(170)は、樹脂などの絶縁性を有する材料で構成してもよいし、金属ピンを樹脂などの絶縁性を有する材料でコーティングしてもよい。なお、このピン(170)で両端から締結して、電磁鋼板の積層間の締結部材を兼用しても良い。
〈本実施形態における効果〉
ロータコア(210)を上記実施形態等のように分割すると、第1ロータコア(240)からステータコア(110)に向かう磁束の大きさと、第2ロータコア(250)からステータコア(110)に向かう磁束の大きさが異なる場合がある。
このように、第1ロータコア(240)側と第2ロータコア(250)側とで磁束の大きさが異なると、ステータコア(110)内では、磁束を均一化するように、軸方向(電磁鋼板に対して垂直方向)に垂直磁束が発生し、電磁鋼板の面に沿って渦電流が流れようとする。すなわち、渦電流損が発生する可能性がある。
しかしながら、本実施形態では、ロータコア(210)の分割位置と同じ軸方向位置でステータコア(110)を分割し、両者の間に絶縁板(150)を設けてあるので、上記のように磁束の大きさが第1ロータコア(240)側と第2ロータコア(250)側とで異なっていても、絶縁板(150)によって垂直磁束を低減できる。それゆえ、本実施形態では、上記渦電流の低減、すなわち上記渦電流損の低減が可能になる。
《発明の実施形態4》
図19は、実施形態4のロータ(200)の構成を示すモータ(10)の縦断面図である(図2のA−O−Bに相当する)。実施形態4のモータ(10)は、ステータ(100)が軸方向に3分割されている点は実施形態3と同じであるが、ステータコア(110)とケーシング(30)との接続構造が実施形態3等とは異なる。
具体的には、本実施形態の第1ステータコア(130)は、バックヨーク部(111)をケーシング(30)に固定できるように、バックヨーク部(111)の外径が、ケーシング(30)の内径と概ね同じに設定されている。この例では、第1ステータコア(130)は、ケーシング(30)に溶接によって固定されている。これにより、第1ステータコア(130)は、ケーシング(30)と電気的につながることになる。勿論、第1ステータコア(130)は、他の方法でケーシング(30)に固定してもよい。例えば、焼き嵌めによって、第1ステータコア(130)をケーシング(30)に固定するようにしてもよい。焼き嵌めによる固定の場合、バックヨーク部(111)の外径が、ケーシング(30)の内径より大きく設定される。
一方、第2ステータコア(140)は、ケーシング(30)に接触しないように、バックヨーク部(111)の外径が、ケーシング(30)の内径よりも小さく設定されている。すなわち、バックヨーク部(111)は、ケーシング(30)と電気的に絶縁されている。図20は、電動圧縮機(1)におけるモータ(10)付近の横断面図である。図20では、第2ステータコア(140)の輪郭を破線で示してある。図21は、ステータコア(110)の分割面付近の断面図(図20の断面A-A相当)である。この例では、第2ステータコア(140)は、第1ステータコア(130)よりも半径が約1mm小さく設定され、第2ステータコア(140)とケーシング(30)の内周面との間には、径方向に概ね1mmの隙間(G2)ができている。既述の通り、第2ステータコア(140)は、ケーシング(30)に固定された第1ステータコア(130)に挟み込まれているので、第2ステータコア(140)とケーシング(30)の内周面との間に隙間(G2)があっても、ステータコア(110)は、安定的にケーシング(30)内で保持される。
〈本実施形態における漏れ電流〉
急峻な立上がり及び立下りを有した高電圧がモータ(10)に印加されると、コイル(120)とステータコア(110)との間に形成された浮遊容量を介して、コイル(120)側からケーシング(30)側に高周波電流(以下、漏れ電流とも呼ぶ)が流れる。なお、ステータコア(110)やロータコア(210)を構成する電磁鋼板の絶縁被膜は、上記高周波電流に対して絶縁機能を果たさない。したがって、従来のモータでは、上記高周波電流は、ステータコアの電磁鋼板間を流れる。ケーシング(30)は、一般的には、冷媒用の配管などを介して、上記室外機の筐体(図示は省略)と電気的につながっているので、上記高周波電流は室外機のアース端子などから外部に漏れることになる。外部に漏れる高周波電流は、法規制などに応じて、所定値以下の大きさにする必要がある。
モータ(10)では、コイル(120)とステータコア(110)の間に、複数箇所にわたり浮遊容量が形成される。図22は、コイル(120)とステータコア(110)の間に形成される浮遊容量(C1,…,C4)の関係を示した回路図である。例えば、モータ(10)では、コイル(120)と第1ステータコア(130)の間に、浮遊容量(コンデンサ(C1))が形成されている。コイル(120)と第2ステータコア(140)の間にも浮遊容量(コンデンサ(C2))が形成されている。これらのコンデンサ(C1,C2)は、コイル(120)とステータコア(110)の間に設けられた絶縁フィルム(160)や冷媒等(後述)を誘電体としている。また、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)との間には、絶縁板(150)を誘電体としたコンデンサ(C3)が形成されている。さらに、第2ステータコア(140)とケーシング(30)の間には、第2ステータコア(140)とケーシング(30)の隙間(G2)の空気を誘電体としたコンデンサ(C4)が形成されている。
従来のモータでは、コイルとステータコア間に形成される浮遊容量は、図22の回路において、コンデンサ(C3)及びコンデンサ(C4)を導体に置換したものと等価と考えられる。
また、第2ステータコア(140)部分に形成されたコンデンサ(C2)の容量は、従来のモータにおける第2ステータコア(140)相当部位のコンデンサの容量と概ね同じと考えられる。しかしながら、コンデンサ(C2)には、コンデンサ(C3)とコンデンサ(C4)が直列につながっている。そのため、第2ステータコア(140)部分においてコイルとケーシングの間に形成されるコンデンサの容量は、従来のモータよりも、本実施形態のモータ(10)の方が小さいといえる。したがって、コイル(120)とステータコア(110)の間に形成されるコンデンサ全体としては、本実施形態の方が従来のモータよりも確実に容量が小さくなる。通常、第2ステータコア(140)部分に形成されたコンデンサ(C2)のみで漏れ電流を防止するところ、絶縁板(150)によるコンデンサを直列に接続することとすることにより漏れ電流を防止しようとするものであるので、絶縁板(150)は、絶縁フィルム(160)の厚みと同等かそれ以上の厚みがあることが望ましい。
つまり、コイル(120)とステータコア(110)との間のインピーダンスは、本実施形態のモータ(10)の方が従来のモータよりも大きいのである。特に、コンデンサ(C3)は、電磁鋼板の絶縁被膜とは別に設けた絶縁板(150)の効果により、上記高周波電流に対して大きなインピーダンスを有している。すなわち、本実施形態では、コイル(120)とステータコア(110)の間に形成されたコンデンサは、上記高周波電流に対し、従来のモータよりも、より大きなインピーダンスを有している。ここで、本実施形態の第1ステータコア(130)部分に形成されたコンデンサ(C1)の容量は、従来のモータにおける相当部位に形成されるコンデンサの容量と同等であっても、上記効果は得られる。
例えば、PWMインバータによりモータ駆動を行うと、コモンモード電圧変動によって、高周波漏れ電流が発生する。しかしながら、本実施形態では、コイル(120)とステータコア(110)の間に形成されたコンデンサが、従来のモータよりも、上記高周波電流に対しより大きなインピーダンスを有しているので、該高周波電流の増加が抑制される。
〈本実施形態における効果〉
以上のように、本実施形態によれば、ステータコア(110)からケーシングに流れる漏れ電流の低減を図ることが可能になる。
《実施形態4の変形例1》
第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の位置決めには、ピン(170)を用いる他に、種々の構造を採用できる。
〈1〉例えば、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の位置決めには、ボルトを用いることもできる。図23は、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)をボルト(180)で固定した例を示す縦断面図である(図20の断面A-A相当)。この例では、第2ステータコア(140)においてボルト(180)が貫通する孔には、樹脂などの絶縁性を有する材料で構成したボルト用絶縁スリーブ(181)を設けてある。ボルト用絶縁スリーブ(181)によって、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)とが、ボルト(180)を介して短絡するのを防止している。なお、ボルト用絶縁スリーブ(181)は、第1ステータコア(130)側に設けてもよいが、第2ステータコア(140)側に設ける方がより望ましい。これは、ボルト(180)の頭や相手のナット(182)が、第1ステータコア(130)表面の積層板(P)に当接し、ボルト(180)と該積層板(P)を介して、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)が短絡するからである。なお、ボルト(180)の代わりにリベットを用いることも可能である。
〈2〉第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)とをモールドして一体化することも可能である。図24は、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)がモールドされたステータコア(110)の断面図である。同図は、図20のE‐E断面に相当する。図24示すように、モールドに用いる樹脂(151)で、絶縁板(150)を兼用している。勿論、モールドに用いる樹脂とは別に絶縁板(150)を設けてもよい。また、図24に示すように、樹脂(151)でインシュレータ(161)を兼ねることもできる。
〈3〉ステータコア(110)とコイル(120)の間にインシュレータが設けられるモータ(10)では、該インシュレータを、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)との位置決めに使用してもよい。図25は、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の位置決めに使用するインシュレータ(161)の構成例を説明する横断面を示す図である。また、図26は、図25のインシュレータ(161)のE−E断面に対応する図である。この例では、図26に示すように、絶縁フィルム(160)を軸方向に、インシュレータ(161)の厚さ分程度延長してある。インシュレータ(161)は、絶縁フィルム(160)の延長部分に嵌め込まれるようになっている。この構造では、絶縁フィルム(160)は、容易に変形しないように、ある程度の剛性を持たせておく。
〈4〉また、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の位置決めにインシュレータ(161)は、絶縁フィルム(160)と一体化することもできる。図27は、絶縁フィルム(160)と一体化したインシュレータ(161)の構成例を説明する図である。同図は、図20のE−E断面に対応する。図27に示すように、上下両側から、絶縁フィルム(160)と一体化したインシュレータ(161)を、ティース部(112)に嵌め込んで、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)との位置決めを行っている。
〈5〉また、コアカット部(111a)を、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の位置決めに使用することも可能である。図20に示したように、軸方向から見たコアカット部(111a)の輪郭形状が同じになるように、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)とを構成しておけば、両者の相対位置を容易に定めることが可能になる。
《実施形態4の変形例2》
第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の間や、第2ステータコア(140)とケーシング(30)の間のインピーダンスを増やすと漏れ電流をより効果的に低減できる。具体的には、以下のような構成を採用することで、上記インピーダンスをより大きくできる。
〈1〉第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の間の絶縁板(150)は、中空構造(内部は例えば空気)としてもよい。空気の比誘電率は約1であり、絶縁板(150)を構成する樹脂などと比べて一般的に小さい。そのため、絶縁板(150)を中実構造とするよりも、誘電率をより小さくすることが可能になる。絶縁板(150)の誘電率が小さくなれば、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)の間のインピーダンスをより大きくすることが可能になる。なお、モータ(10)が冷媒や潤滑油に曝される構造の場合には、絶縁板(150)の中空部内に冷媒や潤滑油が入らないようにする必要がある。冷媒、潤滑油、或いはこれらの混合物は、一般的には、絶縁板(150)を構成する樹脂などと比べ、誘電率が大きいと考えられるからである。
〈2〉絶縁板(150)には、発泡樹脂を用いることができる。発泡樹脂は、内部に気泡(樹脂よりも誘電率が低い空気)を有するので、発泡していない樹脂と比べ、誘電率をより小さくすることが可能になる。
〈3〉図28は、ステータ(100)の一部分の断面図である。この例では、同図に示すように、第2ステータコア(140)とケーシング(30)との間(コアカット部(111a)は除く)に、樹脂などの絶縁材で構成した絶縁スリーブ(190)を設けてある。こうすることで、第2ステータコア(140)の位置決めが容易になる。また、第2ステータコア(140)とケーシング(30)との隙間に入り込む冷媒や潤滑油の量を減らすことが可能になる。樹脂などの絶縁材は、冷媒や潤滑油よりも、一般的に誘電率が低い。そのため、上記隙間に入り込む冷媒や潤滑油の量が減れば、第2ステータコア(140)とケーシング(30)の間に形成される浮遊容量(コンデンサ(C4))の容量を低減することが可能になる。その結果、第2ステータコア(140)とケーシング(30)との間のインピーダンスを増やすことが可能になる。
絶縁スリーブ(190)には種々の材料の選択が可能である。例えば、発泡樹脂などを用いることができる。絶縁スリーブ(190)を発泡樹脂とすることで、発泡していない樹脂と比べ、誘電率をより小さくすることが可能になる。
《発明の実施形態5》
ロータ(200)に永久磁石(220)を有したモータでは、階段状にスキュー角が変化する段スキューを設けることで、コギングトルク(トルク脈動)、振動、騒音を小さくできることが知られている。例えば実施形態4のモータ(10)では、磁石(220)が軸方向に分割されているので、容易に段スキューを実現できる。段スキューを実現するに場合は、絶縁板(260)によって段スキューの仕切り板(軸方向の磁束の遮蔽板)を兼ねることができる。
段スキューは、具体的には、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)とで、磁石(220)の回転方向位置の位相をずらすことで実現できる。例えば4極のロータ(200)では、トルクリプル(トルクの脈動)の周期が30°であるので、スキュー角をその半分の15°とするのが望ましい。図29は、第1ロータコア(240)と第2ロータコア(250)の回転方向位置の関係を説明する図である。同図に示すように、2つの第1ステータコア(130)(以下、コアRとも呼ぶ)は何れも、径方向の所定の基準軸(Y)よりも右方向に7.5°回転した位置に磁石(220)のd軸が向いている。これらの第1ロータコア(240)に挟まれる第2ロータコア(250)(以下、コアLとも呼ぶ)は、上記基準軸(Y)よりも左方向に7.5°回転した位置に磁石(220)のd軸が向いている。つまり、コアRとコアLの回転方向は互いに逆位相である。コアRとコアLの間には、絶縁板(260)があるので、これらのコア間の漏れ磁束は抑制される。
また、コギングトルクを効果的に抑制するには、右方向に回転させたコア(コアR)の軸方向高さの合計と、左方向に回転させたコア(コアL)の軸方向高さの合計とは同じであるのが望ましい。こうすることで、磁石(220)の磁力によって軸方向に発生する力をより小さくすることができるからである。したがって、本実施形態のようにコアLの軸方向両端をコアRで挟み込んだ構造(3分割構造)の場合には、図30に示すように、コアR(第1ロータコア(240))の高さ(H1)とコアL(第2ロータコア(250))の高さ(H2)の比を、1:2とするのが望ましい。なお、図30において、Tは絶縁板(260)の厚さを示している。
以上のように、本変形例によれば、漏れ電流の低減を図りつつ、トルクリプル、振動、騒音の低減が可能になる。
《その他の実施形態》
なお、分割したステータコア(130,140)の間や、分割ロータコア(240,250)間の絶縁は、絶縁板(150,260)(上記の例では樹脂板)とする他に、シート状(フィルム状)、或いはスペーサ状の部材を用いてもよい。
また、第1ステータコア(130)と第2ステータコア(140)とは、これらの少なくとも一方を塗装して、両者を絶縁するようにしてもよい。具体的な塗装方法としては、例えば、粉体塗装や電着塗装などを挙げることができる。同様に、分割ロータコア(240,250)同士を粉体塗装や電着塗装などの塗装で絶縁することも可能である。
また、コイル(120)は、分布巻方式であってもよい。分布巻方式は、コイル(120)とステータコア(110)が対向する面積が集中巻方式と比べ大きくなる傾向にある。そのため、漏れ電流に関しては、より厳しい条件となる。しかしながら、上記実施形態のようにロータコア(210)を分割すれば、コイル(120)とステータコア(110)の対向面積が増えても、漏れ電流を低減することが可能になる。
また、ステータコア(110)やロータコア(210)の分割数は例示である。2つに分割してもよいし、4つ以上に分割してもよい。
また、ティース部(112)(スロット(114))の数や磁石(220)の数は例示である。
また、ステータコア(110)やロータコア(210)は、軸方向に内径や外径の異なる形状を積層して構成しやすい電磁鋼板の代わりに、粉末状の磁性材料を圧縮形成して製造してもよい(いわゆる圧粉磁心)。
また、電動圧縮機(1)の構成は、上記高圧ドーム型に限定されない。例えば、圧縮機構(20)が吸入する冷媒がケーシング(30)内に流れる形式の電動圧縮機(1)でも各実施形態や変形例と同様に、静電容量低減(漏れ電流の低減)の効果を得ることが可能である。
また、上記各実施形態や各変形例のモータ(10)は、圧縮機以外の用途にも適用できる。
また、本発明は、磁石を備えていないロータを有したモータ、すなわち、いわゆるリラクタンスモータにも適用できる。
また、本発明は、モータの他に発電機に適用してもよい。