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JP5792696B2 - 高強度銅合金管 - Google Patents

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Description

本発明は、熱交換器の配管等に用いられる高強度銅合金管に関する。
一般に、銅は展性、延性に優れると共に、熱伝導性に特に優れることから熱交換器の配管等によく用いられている。
例えば、エアコンの熱交換器は、まず、銅合金直管をアルミニウムフィンの貫通孔に通し、前記銅合金直管を治具により拡管することにより銅合金直管とアルミニウムフィンとを密着させる。次に、銅合金管の開放端を拡管し、この拡管部にU字型に曲げ加工したU字型銅合金管を挿入し、リン銅ろうによりU字型銅合金管を拡管部にろう付けする。
このため、熱交換器に使用される銅合金直管及びU字型銅合金管である銅合金管には、曲げ加工、拡管・フレア加工、縮管・絞り加工等の加工性が良好であることが要求される。
又、熱交換器では、オゾン層破壊などの環境問題対策から使用する冷媒が変化し、銅合金管に従来以上の圧力が加わること、及び、世界的な資源獲得競争による銅地金高騰に伴い銅合金管薄肉化による銅使用量低減要求が高まることにより、耐破壊圧力の高い銅合金管が開発されてきた。この様な耐破壊圧力に優れた銅合金管として、特許文献1及び特許文献2に記載された析出強化型のCu−Co−P系合金からなる銅合金管が知られている。
更に、熱交換器ではその配管となる銅合金管に曲げ加工等の加工性のほかにも、熱交換器として完成した際にその機能を発揮させるためのアルミニウムフィンとの接合の必要性から、ろう付け性、ろう付け加熱後の耐力及び疲れ強さも要求される。この様なろう付け性、ろう付け加熱後の耐力及び疲れ強さに優れた銅合金として、特許文献3に記載された固溶強化型のCu−Sn−P系合金が知られている。
特許第3414294号公報 特許第4228166号公報 特許第3794971号公報
昨今では、熱交換器に使用される銅合金管の薄肉化要求が一層厳しいものとなり、銅合金管においては更なる高強度化が求められている。従来のCu−Co−P系合金では、例えば、特許文献1に係る発明のように酸素含有量を規制することで高強度が図られてきた。又、特許文献2に係る発明のように結晶粒径及び析出物状態を制御することで、高強度化が進められてきた。
しかし、従来の低酸素銅溶湯を作製することにより酸素含有量を規制する方法では工程が増加すると共に、コストも増加する。又、従来の熱間加工、冷間加工、焼鈍といった工程を経る製造方法では、焼鈍温度が低いと析出物を微細にすることは可能であるが、再結晶が生じないため結晶粒径を制御することができない。反対に、当該製造方法では焼鈍温度が高いと、再結晶により結晶粒径を制御することは可能であるが、析出物が大きくなりすぎてしまう。
この様に、従来のCu−Co−P系合金では、焼鈍条件により析出物と結晶粒径が同時に変化してしまうため、結晶粒径と析出物を同時に制御するには限界が存在した。その結果、従来の熱交換器に使用される銅合金管では、高強度化において満足するものではなかった。
更に、従来のCu−Sn−P系合金では、特許文献3に係る発明のように熱間押出及び熱間押出後の冷却速度により結晶粒径を制御しており、製造工程が複雑化しやすく細い制御がし難いものであった。その結果、従来の熱交換器に使用される銅合金管では、高強度化において満足するものではなかった。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、平均結晶粒径及び析出物をそれぞれ制御して強度に優れると共に、良好な加工性を有する銅合金管を提供することを課題とする。
本発明に係る高強度銅合金管は、Co:0.16質量%以上0.30質量%以下、P:0.02質量%以上0.1質量%以下を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる合金成分を有し、平均結晶粒径が5μm以上40μm以下であり、析出物の平均直径が3nm以上10nm以下であり、かつ、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が5000個/μm以上であることを特徴とする。
前記の構成にすることにより高強度銅合金管は、各元素の量を所定量に制御して、かつ、平均結晶粒径、析出物の平均直径、所定の直径の析出物の数密度を5000個/μm以上に制御することで、強度に優れると共に、良好な加工性を獲得することが可能となる。
又、本発明に係る高強度銅合金管は前記高強度銅合金管であって、前記成分として、Ni:0.005質量%以上0.10質量%以下、Zn:0.005質量%以上1.0質量%以下、及び、Sn:0.05質量%以上1.0質量%以下の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
前記の構成に、Ni、Zn、及び、Snの少なくとも1種を更に含有することにより、優れた耐食性を獲得することが可能となる。
更に、本発明に係る高強度銅合金管は前記高強度銅合金管であって、前記成分として、Fe、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr、及び、Agの中から選択される1種以上を更に含有し、その合計量が0.10質量%未満であることを特徴とする。
前記の構成に、Fe、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr、及び、Agの中から選択される1種以上を更に含有し、その合計量が0.10質量%未満であることにより、銅合金管の強度、及び、耐食性を向上させることが可能となる。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、平均結晶粒径及び析出物をそれぞれ制御して強度に優れると共に、良好な加工性を有する銅合金管が得られる。
本発明に係る高強度銅合金管を本発明の実施の形態に基づいて詳細に説明する。以下に記載する元素組成、平均結晶粒径、析出物の平均直径、及び、析出物の数密度とすることにより、高強度銅合金管が優れた引っ張り強度を有することになる。
これら各成分の限定理由、並びに、平均結晶粒径、析出物の平均直径、及び、析出物の数密度の規定理由について説明する。
<合金成分>
本発明に係る高強度銅合金管は、Co、Pを所定量含有し、残部がCu、及び、不可避的不純物からなる。
(Co:0.16質量%以上0.30質量%以下)
Coは銅合金管の強度及び加工性を向上させるため有効な元素である。又、Coは銅合金管の選択的成分としてSnを含有する場合には銅合金管組織中にSnを含有する微細なリン化析出物を析出させて、銅合金管の強度及び加工性を更に向上させるため有効な元素である。
Coの含有量は0.16質量%以上0.30質量%以下とする。Coの含有量が0.16質量%未満では、銅合金管組織中に粗大な結晶が生成し銅合金管の強度が不足する。又、銅合金管の選択的成分としてSnを含有する場合には前記リン化析出物が少なく、強度及び加工性の向上が図りにくい。一方、Coの含有量が0.30質量%を超えると、熱間押出時に割れが発生し、製造された銅合金管の加工性が低下する。
より好ましくは、0.18質量%以上0.25質量%以下とする。
(P:0.02質量%以上0.1質量%以下)
Pは銅合金の脱酸素を行うために添加する。
Pの含有量は0.02質量%以上0.1質量%以下とする。Pの含有量が0.02質量%未満では、銅合金管組織中に粗大な結晶が生成し銅合金管の強度が不足する。一方、Pの含有量が0.1質量%を超えると、熱間押出時に割れが発生し、製造された銅合金管の加工性が低下する。
より好ましくは、0.03質量%以上0.08質量%以下とする。
(残部:Cu及び不可避的不純物)
銅合金の成分は、前記のほか、残部がCu及び不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物として、例えば、地金や中間合金に含まれている、Al、Be、V、Nb、Mo、W等が挙げられる。これら不可避的不純物元素は、粗大な晶出物や析出物が生成しやすくなるため、極力少ない含有量にすることが好ましい。
通常知られている範囲内のAl、Be、V、Nb、Mo、W等は、本発明に係るCu合金の加工特性その他の特性を阻害しない。
(平均結晶粒径:5μm以上40μm以下)
本発明においては、銅合金管において平均結晶粒径が小さいほど、高強度及び優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金管を得ることができる。このため、後記する溶体化処理により、強度の向上に有効なCoを含む結晶をはじめとした平均結晶粒径を5μm以上40μm以下に制御する。
平均結晶粒径が40μmを超えると、結晶粒微細化による強化量が小さくなり、強度が不足しやすくなる。又、平均結晶粒径が40μmを超えると、加工性が低下してしまう。平均結晶粒径の下限値は特に存在しないが、製造上の理由により5μmが下限となる。なお、制御方法については後記する。
平均結晶粒径は、管長手方向と平行な面で銅合金管を切断した切断面の肉厚方向の中心部を任意に3点選択して、JIS H 0501に記載されている比較法で結晶粒径を測定し、この測定値から平均値を算出して求められる。
(析出物の平均直径:3nm以上10nm以下)
本発明においては、平均結晶粒径を前記規定の範囲内に制御するのみならず、析出物の平均直径を制御することによって、更に高強度及び優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金を得ることができる。このため、後記する溶体化処理、及び、焼鈍処理により、析出物の平均直径を3nm以上10nm以下に制御する。
析出物の平均直径が10nmを超えると、析出物の粒子間距離が大きくなるため析出強化量が小さくなり、銅合金管の強度が不足しやすくなる。一方、析出物の平均直径が3nm未満であると、転移により結合が切断されてしまうため析出強化量が小さくなり、銅合金管の強度が不足しやすくなる。なお、制御方法については後記する。
析出物の平均直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて倍率10万倍で観察を行い、膜厚100nmのもとで、500nm×500nmの範囲で観察される析出物について各析出物の直径を測定した後、各析出物の直径から、それらの平均値を算出して求められる。
(析出物の数密度:5000個/μm以上)
本発明においては、平均結晶粒径及び析出物の平均直径を制御することに加えて析出物の数密度を制御することで、より一層高強度及び優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金を得ることができる。このため、後記する溶体化処理、及び、焼鈍処理により、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度を5000個/μm以上に制御する。
直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が5000個/μm未満であると、析出強化量が小さくなり、強度が不足しやすくなる。又、析出物の数密度に上限はないが、本実施形態に係る合金の成分範囲では、100000個/μmが限界である。なお、制御方法については後記する。
析出物の数密度は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて倍率10万倍で観察を行い、膜厚100nmのもとで、500nm×500nmの範囲で観察される直径が1nm以上10nm以下の析出物について個数を測定し、計算することにより求められる。
又、本発明の高強度銅合金管は、前記合金成分に加えて選択的成分として、Ni、Sn、若しくは、Znから選択された1種以上を所定量以下含有してもよい。
(Ni:0.005質量%以上0.10質量%以下)
NiはPとリン化物を形成し、析出強化により強度を高くする元素である。
Niの含有量は、0.005質量%以上0.10質量%以下が好ましい。Niによる前記効果を有効に発揮させるには、0.005質量%以上含有することが好ましい。しかし、過剰に含有させると却って強度が低下するため、0.10質量%以下が好ましい。
より好ましくは、0.01質量%以上0.05質量%以下とする。
(Zn:0.005質量%以上1.0質量%以下)
Znは、耐食性を改善し、腐食を抑制するため有効な元素である。
Znの含有量は、0.005質量%以上1.0質量%以下が好ましい。Znによる前記効果を有効に発揮させるには、0.005質量%以上含有することが好ましい。しかし、過剰に含有すると却って耐食性が低下するため、1.0質量%以下が好ましい。
より好ましくは、0.01質量%以上0.5質量%以下とする。
(Sn:0.05質量%以上1.0質量%以下)
Snは、固溶硬化によって強度を向上させるため、及び、析出物の粗大化を抑制するため、銅合金管の耐食性の向上に有効である。
Snの含有量は0.05質量%以上1.0質量%以下が好ましい。前記Snによる効果を有効に発揮させるには、0.05質量%以上含有することが好ましい。Snの含有量が0.05質量%未満ではこれらの効果が不十分である。一方、Snの含有量が1.0質量%を超えると、熱間押出工程における熱間変形抵抗が高くなって生産性が低下する。
より好ましくは、0.1質量%以上0.8質量%以下とする。
更に、本発明の高強度銅合金管は、前記合金成分に加えて更に選択的成分として、Fe、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr、及び、Agから選択された1種類以上を所定量未満含有してもよい。
(Fe、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr、Ag:合計0.10質量%未満)
Fe、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr、及び、Agは、銅合金管の強度、及び、耐食性を向上させると共に、結晶、及び、析出物を微細化して曲げ加工性を向上させるため有効である。これら効果を有効に発揮させるには、合計して0.10質量%未満含有することが好ましい。
これら元素の合計含有量が0.10質量%以上となると、熱間押出時に押出圧力が上昇するため、これら元素を含有しないものと同一の押出圧力で熱間押出を行うには熱間押出圧力を上昇させることが必要となる。これにより、押出材の表面酸化が多くなる結果、銅合金管において表面欠陥が多発する。このため、本発明の目的用途のひとつである薄肉化された伝熱管に期待される耐食性の向上を図ることができない。
したがって、これらの元素の合計含有量は0.10質量%未満が好ましい。
<銅合金の製造方法>
次に、本発明に係る銅合金管の製造方法について説明する。
本発明における銅合金の製造工程自体は、従来の銅合金管の製造工程と基本的に同じである。つまり、本発明に係る銅合金管の製造工程は、ビレット作製工程と、均質化熱処理工程と、熱間押出工程と、圧延加工工程と、粗抽伸加工工程と、溶体化処理工程と、焼鈍工程からなる。
始めに、原料の電気銅を木炭被覆の下で溶解し、銅が溶解した後、Coを所定量添加し、更に脱酸素のために15質量%程度のPを含有する銅合金を添加し、成分調整した後、半連続鋳造により所定の寸法のビレットを作製する(ビレット作製工程)。次に、必要に応じて、偏析改善のため、ビレットを750〜950℃に加熱して0.1〜2時間程度保持して均質化熱処理を行う(均質化熱処理工程)。その後、ビレットを750〜850℃で熱間押出しにより押出素管とする(熱間押出工程)。押出素管を圧延して圧延素管とし(圧延加工工程)、更に抽伸加工にて所定の寸法の抽伸管(素管)を製造する(粗抽伸加工工程)。圧延加工工程における加工率を92%以下、粗抽伸加工工程における加工率を35%以下とすることにより、それぞれの加工時の製品不良を低減できる。
次に、銅合金組成の平均結晶粒径、並びに、析出物の平均直径、数密度、及び、体積分率に影響を与える、溶体化処理工程、及び、焼鈍工程を以下の条件で行う。
(溶体化処理工程)
溶体化処理は750℃以上900℃以下とし、10〜300秒間加熱を行う。
溶体化処理温度が750℃未満の低温の場合、溶体化処理の時点で粗大な析出物が生成するため、析出物の平均直径が10nmより大きくなりやすい。又、この後の焼鈍工程で生成する析出物が減少するため、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度も5000個/μm未満になりやすい。その結果、銅合金管の強度が不足しやすくなる。一方、溶体化処理温度が900℃を超える高温の場合は、平均結晶粒径が40μmよりも大きくなりやすい。その結果、銅合金管の耐食性が低下しやすくなる。
前記条件により、平均結晶粒径が上限である40μm以下となるように制御し、析出物の平均直径が上限である10nm以下となるように制御する。同時に、続く焼鈍工程にて生成する析出物について直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が下限である5000個/μm以上となるように制御する。
このように、溶体化処理は同時に変化しやすい平均結晶粒径及び析出物のうちのどちらか一方を効果的に制御するために重要な工程である。
(焼鈍工程)
焼鈍処理は450℃を超えて700℃未満とし、5分〜1時間加熱を行う。焼鈍温度が450℃以下の低温の場合は、析出物の平均直径が3nm未満と微細になりすぎてしまい、銅合金管の強度が不足する。一方、焼鈍温度が700℃以上の高温の場合は、析出物の平均直径が10nmより大きくなると共に、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が5000個/μm未満に減少するため、銅合金管の強度が不足する。
本発明においては、溶体化処理後の前記抽伸管について前記処理を行うことにより、平均結晶粒径が前記規定値内に収まるように制御し、析出物の平均直径が前記規定値内に収まるように制御すると共に、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が5000個/μm以上に制御する。
このように、焼鈍処理は溶体化処理と組み合わせることにより、同時に変化しやすい平均結晶粒径と析出物のうちのどちらか一方を効果的に制御するために重要な工程である。
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、本発明によれば、強度に優れると共に良好な加工性を有する、曲げ加工時に明瞭な割れが観察されない高強度銅合金管が得られる。このため、熱交換器においては本発明に係る高強度銅合金管を用いることで、銅使用量を低減しつつ拡管・フレア加工が可能となり、ヘアピン状に曲げ加工した配管を有する熱交換器を効率よく製造することが可能となる。特に、本発明に係る高強度銅合金管は曲げ加工の要求条件が厳しい小型の熱交換器への使用が好適である。更に、本発明に係る高強度銅合金管は耐食性に優れるため、熱交換器及び空調機の長寿命化という効果も得られる。
なお、本発明はこのような実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、適宜変更することができる。
以下に、本発明の効果を確認した実施例1ないし実施例3、参考例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。
なお、[実施例1]は表1のNo.1〜4、17、18、[実施例2]は表1のNo.5、7〜10、[実施例3]は表1のNo.11〜16に該当する。表1のNo.6は参考例である。
(供試材)
供試材を、以下の工程により作製した。
まず、電気銅を原料とした溶湯中にCoを添加した後、Cu−P合金を添加して脱酸した溶湯を用いて、鋳造温度1200℃で、直径300mm、長さ3000mmの鋳塊を半連続鋳造した。鋳塊から長さ475mmのビレットを切り出し、均質化処理として、ビレットを900℃に加熱した後、1.5時間保持し、冷却した。
次に、均質化したビレットを830℃に加熱して3分間保持した後、熱間押出しにより、外径94mm、肉厚10mmの押出素管を作製した。この押出素管を外径38mm、肉厚2.1mmに圧延し、さらに加工率35%で抽伸して、外径9.52mm、肉厚0.8mmの平滑管を作製した。平滑管を焼鈍炉にて表1に示す条件で焼鈍して供試材とした。
供試材より所定量の試料を採取し、組成を分析して表1に示す。又、以下の手順で平均結晶粒径、並びに、析出物の平均直径、数密度、及び、体積分率を測定し、その結果を表1に示す。
Figure 0005792696
(平均結晶粒径測定)
平均結晶粒径は、以下の方法により算出した。
まず、管長手方向と平行な面で銅合金管を切断した後、断面を研磨して観察面とした。次に、この観察面を光学顕微鏡で観察して、銅合金管の肉厚方向の中心部を任意に3点選択した。そして、JIS H 0501に記載されている比較法で結晶粒径を測定し、測定された結晶粒径の平均値として平均結晶粒径を算出した。
(析出物平均直径測定)
析出物の平均直径は、以下の方法により算出した。
まず、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL社製)を用いて倍率10万倍で観察を行った。次に、膜厚100nmのもとで、500nm×500nmの範囲で観察される析出物について画像解析ソフトImage Pro plus(日本ローバー製)により析出物すべての直径を測定した。そして、各析出物から測定された直径の平均値として析出物の平均直径を算出した。
(析出物数密度測定)
析出物の数密度は、以下の手順により算出した。
まず、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL社製)を用いて倍率10万倍で観察を行った。次に、膜厚100nmのもとで、500nm×500nmの範囲で観察される析出物について画像解析ソフトImage Pro plus(日本ローバー製)により直径が1nm以上10nm以下の析出物について個数を測定した。そして、直径が1nm以上10nm以下の析出物について計算により析出物数密度として、1μm当たりの析出物の個数を算出した。なお、算出した析出物の個数の十の位を四捨五入して表1に記載した。
なお、本願において、画像解析ソフト等により測定している析出物の直径とは、全て、円換算相当として算出したものである。即ち、析出物の断面形状は、きれいな円形は皆無であるため、析出物の断面形状がいびつな形の場合でも、析出物の直径を定義できるように、本願における析出物の直径とは、析出物を同じ面積で真円とした場合の直径に換算し、円換算相当の直径としている。
(析出物体積分率)
析出物体積分率も析出物の平均直径及び析出物の数密度と同様、高強度及び優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金を得るための指標となり得る。
表1に記載の析出物体積分率Vfは、析出物の平均直径2r及び数密度Nを用いて、以下の式により求めた。
Vf=4/3πr×N
次に、供試材を用いて、引張強さ、曲げ加工性、及び、応力腐食割れを以下の手順で測定した。結果を表1に記載した。
(引張強さの評価試験)
管の長手方向の引張強さは、前記製造した銅合金管を管長手方向に切れ目を入れて切り開き平らにした後に、長手方向から試験片を切り出し、長さ290mm、幅10mmの引張試験片を作成して、その試験片をインストロン社製5566型精密万能試験機にて管長手方向の引張強さσLと伸びとを測定した。引張強さσLが270MPa以上で合格とした。
又、この引張試験片の円周方向の引っ張り強さも測定したところ、同程度であった(表1に記載せず)。
(曲げ加工性の評価試験)
熱交換器の伝熱部を模擬して、前記製造した供試材(平滑管)を、実施例及び比較例について10本ずつ、ピッチが40mmのU字形に曲げ及びピッチが30mmのU字曲げに加工した。この際、平滑管の曲げ部における割れ、亀裂の発生を目視にて調査し、10本とも割れ、亀裂が全くなく曲げ加工できたものを、曲げ加工性が良好(○)として評価した。又、10本とも割れ、亀裂は無いが、しわが発生しており、曲げ半径がより小さく、曲げ加工条件を厳しくした場合には、割れ、亀裂が発生する可能性があるものを、曲げ加工性が劣る(△)として評価した。更に、曲げ加工した10本の中に、割れ、亀裂が1本でも発生したものを曲げ加工性が不良(×)として評価した。
(応力腐食割れの評価試験)
前記供試材より試験片を切り出し、応力腐食割れ試験をトンプソンの方法(Materials Research & Standards(1961)1081)に準じて行った。すなわち、14質量%のアンモニア水を入れ、40℃の温度で飽和蒸気を充満させたデシケータ中に暴露し、試験片が破断するまでの時間を測定した。破損までの寿命が40時間以上であるものを良好(○)として評価した。
[実施例1]
表1の結果からNo.1ないしNo.4、No.17、及び、No.18は、No.19ないしNo.22及びNo.26ないしNo.32と対比して、引張強さ、曲げ加工性、応力腐食割れのいずれの測定項目においてもその物理的特性が優れていることが判明した。これらは、熱交換器など、小型で屈曲部分が多い装置に使用した場合、従来よりも優れる特性を示す。
又、表1のNo.1、No.17、No.18を対比すると、これらは溶体化処理が同一であるので平均結晶粒径は同程度である。しかし、これに続く焼鈍温度を高くすることで析出物の数密度が減少しており、平均結晶粒径と析出物の数密度を個別に制御できることが判明した。
No.19はCoの含有量が下限値未満であり、No.21はPの含有量が下限値未満であるため、結晶の微細化の効果が小さく平均結晶粒径が上限値を超える50μmとなった。このため、これらは引張強さが劣っていた。
No.20はCoの含有量が上限値を超えており、No.22はPの含有量が上限値を超えるため、押出加工時に割れを生じてしまった。
No.26は溶体化処理を行わず、又、焼鈍温度が550℃と比較的低かったため、再結晶が起こらなかった。この結果、曲げ加工性が劣っていた。
No.27は溶体化処理を行わず、又、焼鈍温度を650℃とNo.26と比べて高くしたため、再結晶は生じて平均結晶粒径は規定範囲内となった。しかし、再結晶と金属間化合物の析出が同時に生じるため、析出物の成長速度が大きくなる。その結果、析出物の平均直径が大きくなり、析出物の平均直径が本発明の上限値を超える。同時に、析出物の数密度は本発明の下限値を下回った。この結果、引張強さが劣っていた。
No.28は溶体化処理温度を700℃と低くしたため、平均結晶粒径は規定範囲内であった。しかし、析出物の平均直径が本発明の上限値を超えると共に、析出物の数密度は本発明の下限値を下回った。この結果、引張強さが劣っていた。
No.29は溶体化処理温度を600℃とNo.12より低くすると共に、溶体化処理時間を1800秒と長くしたため、平均結晶粒径は規定範囲内であった。しかし、析出物の平均直径が本発明の上限値を超えると共に、析出物の数密度は本発明の下限値を下回った。この結果、引張強さが劣っていた。
No.30は溶体化処理温度を950℃と高くしたため、平均結晶粒径が本発明の上限値を大きく上回った。この結果、曲げ加工性が劣っていた。
No.31は焼鈍の温度を450℃と低くしたため、平均結晶粒径及び析出物の数密度は本発明の規定範囲内であった。しかし、析出物の平均直径が小さすぎるため、引張強さが劣っていた。
No.32は焼鈍の温度を700℃と高くしたため、析出物の平均直径は本発明の上限を超えると共に、析出物の数密度は本発明の下限値以下であった。この結果、引張強さが劣っていた。
[実施例2、参考例
表1に示すように、No.5ないしNo.10は、No.23、及び、No.24と対比して、引張強さ、曲げ加工性、応力腐食割れのいずれの測定項目においてもその物理的特性が優れていることが判明した。これらは、熱交換器など、小型で屈曲部分が多い装置に使用した場合、従来よりも優れる特性を示す。
又、No.5はNo.1とCo、Pの添加量がほぼ同程度であるが、Niを添加して析出強化量を大きくしたため、平均結晶粒径が小さくなった。この結果、No.5はNo.24と対比して引張強度が大きい。
No.6(参考例)はNo.1とCo、Pの添加量がほぼ同程度であり、Snの添加量が下限値に近いため、強度等の物性がNo.1と同様となった。
No.7はNo.6とCo、Pの添加量がほぼ同程度であるが、No.6よりもSnの添加量を増やしたため、No.6と対比して引張強度が優れている。
No.9はNo.1とCo、Pの添加量がほぼ同じであるが、SnやZnを添加して固溶強化を行っているため、平均結晶粒径が小さくなった。この結果、No.9はNo.1と対比して若干引張強度が優れている。
No.10は、No.9にNiを添加して析出強化量を大きくしたため、No.10はNo.9と対比して若干引張強度が優れている。
No.23は、Snの含有量が1.51%と本願発明の上限値を超えるため、押出加工が不可能であり、生産性が劣っていた。
No.24は、Znの含有量が2.51%と本願発明の上限値を大きく超えるため、平均結晶粒径、析出物の平均直径、及び、析出物の数密度は本願発明の規定範囲内であるものの、耐食性が劣っていた。
[実施例3]
表1に示すように、No.11ないしNo.16は、No.25と対比して、曲げ加工性、応力腐食割れにおいてその物理的特性が優れていることが判明した。又、No.11ないしNo.16は、引張強さについても本願発明の規定値を満たしてその物理的特性が優れていることが判明した。これらは、熱交換器など、小型で屈曲部分が多い装置に使用した場合、従来よりも優れる特性を示す。
No.25は、Crの含有量が0.18%と上限値を超えるため、平均結晶粒径、析出物の平均直径、及び、析出物の数密度は本願発明の規定範囲内であるものの、曲げ加工性が劣っていた。

Claims (3)

  1. Co:0.16質量%以上0.30質量%以下、
    P:0.02質量%以上0.1質量%以下を含有し、
    残部がCuおよび不可避的不純物からなる合金成分を有し、
    平均結晶粒径が5μm以上40μm以下であり、
    析出物の平均直径が3nm以上10nm以下であり、かつ、
    直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が5000個/μm以上である
    ことを特徴とする高強度銅合金管。
  2. 前記成分として、
    Ni:0.005質量%以上0.10質量%以下、
    Zn:0.005質量%以上1.0質量%以下、及び、
    Sn:0.05質量%以上1.0質量%以下の少なくとも1種を更に含有する
    ことを特徴とする請求項1に記載の高強度銅合金管。
  3. 前記成分として、
    Fe、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr、及び、Agの中から選択される1種以上を更に含有し、その合計量が0.10質量%未満である
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高強度銅合金管。
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