JP5792696B2 - 高強度銅合金管 - Google Patents
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Description
例えば、エアコンの熱交換器は、まず、銅合金直管をアルミニウムフィンの貫通孔に通し、前記銅合金直管を治具により拡管することにより銅合金直管とアルミニウムフィンとを密着させる。次に、銅合金管の開放端を拡管し、この拡管部にU字型に曲げ加工したU字型銅合金管を挿入し、リン銅ろうによりU字型銅合金管を拡管部にろう付けする。
このため、熱交換器に使用される銅合金直管及びU字型銅合金管である銅合金管には、曲げ加工、拡管・フレア加工、縮管・絞り加工等の加工性が良好であることが要求される。
この様に、従来のCu−Co−P系合金では、焼鈍条件により析出物と結晶粒径が同時に変化してしまうため、結晶粒径と析出物を同時に制御するには限界が存在した。その結果、従来の熱交換器に使用される銅合金管では、高強度化において満足するものではなかった。
これら各成分の限定理由、並びに、平均結晶粒径、析出物の平均直径、及び、析出物の数密度の規定理由について説明する。
本発明に係る高強度銅合金管は、Co、Pを所定量含有し、残部がCu、及び、不可避的不純物からなる。
Coは銅合金管の強度及び加工性を向上させるため有効な元素である。又、Coは銅合金管の選択的成分としてSnを含有する場合には銅合金管組織中にSnを含有する微細なリン化析出物を析出させて、銅合金管の強度及び加工性を更に向上させるため有効な元素である。
より好ましくは、0.18質量%以上0.25質量%以下とする。
Pは銅合金の脱酸素を行うために添加する。
Pの含有量は0.02質量%以上0.1質量%以下とする。Pの含有量が0.02質量%未満では、銅合金管組織中に粗大な結晶が生成し銅合金管の強度が不足する。一方、Pの含有量が0.1質量%を超えると、熱間押出時に割れが発生し、製造された銅合金管の加工性が低下する。
より好ましくは、0.03質量%以上0.08質量%以下とする。
銅合金の成分は、前記のほか、残部がCu及び不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物として、例えば、地金や中間合金に含まれている、Al、Be、V、Nb、Mo、W等が挙げられる。これら不可避的不純物元素は、粗大な晶出物や析出物が生成しやすくなるため、極力少ない含有量にすることが好ましい。
通常知られている範囲内のAl、Be、V、Nb、Mo、W等は、本発明に係るCu合金の加工特性その他の特性を阻害しない。
本発明においては、銅合金管において平均結晶粒径が小さいほど、高強度及び優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金管を得ることができる。このため、後記する溶体化処理により、強度の向上に有効なCoを含む結晶をはじめとした平均結晶粒径を5μm以上40μm以下に制御する。
本発明においては、平均結晶粒径を前記規定の範囲内に制御するのみならず、析出物の平均直径を制御することによって、更に高強度及び優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金を得ることができる。このため、後記する溶体化処理、及び、焼鈍処理により、析出物の平均直径を3nm以上10nm以下に制御する。
本発明においては、平均結晶粒径及び析出物の平均直径を制御することに加えて析出物の数密度を制御することで、より一層高強度及び優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金を得ることができる。このため、後記する溶体化処理、及び、焼鈍処理により、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度を5000個/μm3以上に制御する。
NiはPとリン化物を形成し、析出強化により強度を高くする元素である。
Niの含有量は、0.005質量%以上0.10質量%以下が好ましい。Niによる前記効果を有効に発揮させるには、0.005質量%以上含有することが好ましい。しかし、過剰に含有させると却って強度が低下するため、0.10質量%以下が好ましい。
より好ましくは、0.01質量%以上0.05質量%以下とする。
Znは、耐食性を改善し、腐食を抑制するため有効な元素である。
Znの含有量は、0.005質量%以上1.0質量%以下が好ましい。Znによる前記効果を有効に発揮させるには、0.005質量%以上含有することが好ましい。しかし、過剰に含有すると却って耐食性が低下するため、1.0質量%以下が好ましい。
より好ましくは、0.01質量%以上0.5質量%以下とする。
Snは、固溶硬化によって強度を向上させるため、及び、析出物の粗大化を抑制するため、銅合金管の耐食性の向上に有効である。
Snの含有量は0.05質量%以上1.0質量%以下が好ましい。前記Snによる効果を有効に発揮させるには、0.05質量%以上含有することが好ましい。Snの含有量が0.05質量%未満ではこれらの効果が不十分である。一方、Snの含有量が1.0質量%を超えると、熱間押出工程における熱間変形抵抗が高くなって生産性が低下する。
より好ましくは、0.1質量%以上0.8質量%以下とする。
Fe、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr、及び、Agは、銅合金管の強度、及び、耐食性を向上させると共に、結晶、及び、析出物を微細化して曲げ加工性を向上させるため有効である。これら効果を有効に発揮させるには、合計して0.10質量%未満含有することが好ましい。
これら元素の合計含有量が0.10質量%以上となると、熱間押出時に押出圧力が上昇するため、これら元素を含有しないものと同一の押出圧力で熱間押出を行うには熱間押出圧力を上昇させることが必要となる。これにより、押出材の表面酸化が多くなる結果、銅合金管において表面欠陥が多発する。このため、本発明の目的用途のひとつである薄肉化された伝熱管に期待される耐食性の向上を図ることができない。
したがって、これらの元素の合計含有量は0.10質量%未満が好ましい。
次に、本発明に係る銅合金管の製造方法について説明する。
本発明における銅合金の製造工程自体は、従来の銅合金管の製造工程と基本的に同じである。つまり、本発明に係る銅合金管の製造工程は、ビレット作製工程と、均質化熱処理工程と、熱間押出工程と、圧延加工工程と、粗抽伸加工工程と、溶体化処理工程と、焼鈍工程からなる。
溶体化処理は750℃以上900℃以下とし、10〜300秒間加熱を行う。
溶体化処理温度が750℃未満の低温の場合、溶体化処理の時点で粗大な析出物が生成するため、析出物の平均直径が10nmより大きくなりやすい。又、この後の焼鈍工程で生成する析出物が減少するため、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度も5000個/μm3未満になりやすい。その結果、銅合金管の強度が不足しやすくなる。一方、溶体化処理温度が900℃を超える高温の場合は、平均結晶粒径が40μmよりも大きくなりやすい。その結果、銅合金管の耐食性が低下しやすくなる。
前記条件により、平均結晶粒径が上限である40μm以下となるように制御し、析出物の平均直径が上限である10nm以下となるように制御する。同時に、続く焼鈍工程にて生成する析出物について直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が下限である5000個/μm3以上となるように制御する。
このように、溶体化処理は同時に変化しやすい平均結晶粒径及び析出物のうちのどちらか一方を効果的に制御するために重要な工程である。
焼鈍処理は450℃を超えて700℃未満とし、5分〜1時間加熱を行う。焼鈍温度が450℃以下の低温の場合は、析出物の平均直径が3nm未満と微細になりすぎてしまい、銅合金管の強度が不足する。一方、焼鈍温度が700℃以上の高温の場合は、析出物の平均直径が10nmより大きくなると共に、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が5000個/μm3未満に減少するため、銅合金管の強度が不足する。
本発明においては、溶体化処理後の前記抽伸管について前記処理を行うことにより、平均結晶粒径が前記規定値内に収まるように制御し、析出物の平均直径が前記規定値内に収まるように制御すると共に、直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が5000個/μm3以上に制御する。
このように、焼鈍処理は溶体化処理と組み合わせることにより、同時に変化しやすい平均結晶粒径と析出物のうちのどちらか一方を効果的に制御するために重要な工程である。
なお、本発明はこのような実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、適宜変更することができる。
なお、[実施例1]は表1のNo.1〜4、17、18、[実施例2]は表1のNo.5、7〜10、[実施例3]は表1のNo.11〜16に該当する。表1のNo.6は参考例である。
供試材を、以下の工程により作製した。
まず、電気銅を原料とした溶湯中にCoを添加した後、Cu−P合金を添加して脱酸した溶湯を用いて、鋳造温度1200℃で、直径300mm、長さ3000mmの鋳塊を半連続鋳造した。鋳塊から長さ475mmのビレットを切り出し、均質化処理として、ビレットを900℃に加熱した後、1.5時間保持し、冷却した。
供試材より所定量の試料を採取し、組成を分析して表1に示す。又、以下の手順で平均結晶粒径、並びに、析出物の平均直径、数密度、及び、体積分率を測定し、その結果を表1に示す。
平均結晶粒径は、以下の方法により算出した。
まず、管長手方向と平行な面で銅合金管を切断した後、断面を研磨して観察面とした。次に、この観察面を光学顕微鏡で観察して、銅合金管の肉厚方向の中心部を任意に3点選択した。そして、JIS H 0501に記載されている比較法で結晶粒径を測定し、測定された結晶粒径の平均値として平均結晶粒径を算出した。
析出物の平均直径は、以下の方法により算出した。
まず、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL社製)を用いて倍率10万倍で観察を行った。次に、膜厚100nmのもとで、500nm×500nmの範囲で観察される析出物について画像解析ソフトImage Pro plus(日本ローバー製)により析出物すべての直径を測定した。そして、各析出物から測定された直径の平均値として析出物の平均直径を算出した。
析出物の数密度は、以下の手順により算出した。
まず、透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL社製)を用いて倍率10万倍で観察を行った。次に、膜厚100nmのもとで、500nm×500nmの範囲で観察される析出物について画像解析ソフトImage Pro plus(日本ローバー製)により直径が1nm以上10nm以下の析出物について個数を測定した。そして、直径が1nm以上10nm以下の析出物について計算により析出物数密度として、1μm3当たりの析出物の個数を算出した。なお、算出した析出物の個数の十の位を四捨五入して表1に記載した。
析出物体積分率も析出物の平均直径及び析出物の数密度と同様、高強度及び優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金を得るための指標となり得る。
表1に記載の析出物体積分率Vfは、析出物の平均直径2r及び数密度Nを用いて、以下の式により求めた。
Vf=4/3πr3×N
管の長手方向の引張強さは、前記製造した銅合金管を管長手方向に切れ目を入れて切り開き平らにした後に、長手方向から試験片を切り出し、長さ290mm、幅10mmの引張試験片を作成して、その試験片をインストロン社製5566型精密万能試験機にて管長手方向の引張強さσLと伸びとを測定した。引張強さσLが270MPa以上で合格とした。
又、この引張試験片の円周方向の引っ張り強さも測定したところ、同程度であった(表1に記載せず)。
熱交換器の伝熱部を模擬して、前記製造した供試材(平滑管)を、実施例及び比較例について10本ずつ、ピッチが40mmのU字形に曲げ及びピッチが30mmのU字曲げに加工した。この際、平滑管の曲げ部における割れ、亀裂の発生を目視にて調査し、10本とも割れ、亀裂が全くなく曲げ加工できたものを、曲げ加工性が良好(○)として評価した。又、10本とも割れ、亀裂は無いが、しわが発生しており、曲げ半径がより小さく、曲げ加工条件を厳しくした場合には、割れ、亀裂が発生する可能性があるものを、曲げ加工性が劣る(△)として評価した。更に、曲げ加工した10本の中に、割れ、亀裂が1本でも発生したものを曲げ加工性が不良(×)として評価した。
前記供試材より試験片を切り出し、応力腐食割れ試験をトンプソンの方法(Materials Research & Standards(1961)1081)に準じて行った。すなわち、14質量%のアンモニア水を入れ、40℃の温度で飽和蒸気を充満させたデシケータ中に暴露し、試験片が破断するまでの時間を測定した。破損までの寿命が40時間以上であるものを良好(○)として評価した。
表1の結果からNo.1ないしNo.4、No.17、及び、No.18は、No.19ないしNo.22及びNo.26ないしNo.32と対比して、引張強さ、曲げ加工性、応力腐食割れのいずれの測定項目においてもその物理的特性が優れていることが判明した。これらは、熱交換器など、小型で屈曲部分が多い装置に使用した場合、従来よりも優れる特性を示す。
又、表1のNo.1、No.17、No.18を対比すると、これらは溶体化処理が同一であるので平均結晶粒径は同程度である。しかし、これに続く焼鈍温度を高くすることで析出物の数密度が減少しており、平均結晶粒径と析出物の数密度を個別に制御できることが判明した。
No.27は溶体化処理を行わず、又、焼鈍温度を650℃とNo.26と比べて高くしたため、再結晶は生じて平均結晶粒径は規定範囲内となった。しかし、再結晶と金属間化合物の析出が同時に生じるため、析出物の成長速度が大きくなる。その結果、析出物の平均直径が大きくなり、析出物の平均直径が本発明の上限値を超える。同時に、析出物の数密度は本発明の下限値を下回った。この結果、引張強さが劣っていた。
No.29は溶体化処理温度を600℃とNo.12より低くすると共に、溶体化処理時間を1800秒と長くしたため、平均結晶粒径は規定範囲内であった。しかし、析出物の平均直径が本発明の上限値を超えると共に、析出物の数密度は本発明の下限値を下回った。この結果、引張強さが劣っていた。
No.32は焼鈍の温度を700℃と高くしたため、析出物の平均直径は本発明の上限を超えると共に、析出物の数密度は本発明の下限値以下であった。この結果、引張強さが劣っていた。
表1に示すように、No.5ないしNo.10は、No.23、及び、No.24と対比して、引張強さ、曲げ加工性、応力腐食割れのいずれの測定項目においてもその物理的特性が優れていることが判明した。これらは、熱交換器など、小型で屈曲部分が多い装置に使用した場合、従来よりも優れる特性を示す。
又、No.5はNo.1とCo、Pの添加量がほぼ同程度であるが、Niを添加して析出強化量を大きくしたため、平均結晶粒径が小さくなった。この結果、No.5はNo.24と対比して引張強度が大きい。
No.7はNo.6とCo、Pの添加量がほぼ同程度であるが、No.6よりもSnの添加量を増やしたため、No.6と対比して引張強度が優れている。
No.10は、No.9にNiを添加して析出強化量を大きくしたため、No.10はNo.9と対比して若干引張強度が優れている。
表1に示すように、No.11ないしNo.16は、No.25と対比して、曲げ加工性、応力腐食割れにおいてその物理的特性が優れていることが判明した。又、No.11ないしNo.16は、引張強さについても本願発明の規定値を満たしてその物理的特性が優れていることが判明した。これらは、熱交換器など、小型で屈曲部分が多い装置に使用した場合、従来よりも優れる特性を示す。
Claims (3)
- Co:0.16質量%以上0.30質量%以下、
P:0.02質量%以上0.1質量%以下を含有し、
残部がCuおよび不可避的不純物からなる合金成分を有し、
平均結晶粒径が5μm以上40μm以下であり、
析出物の平均直径が3nm以上10nm以下であり、かつ、
直径が1nm以上10nm以下である析出物の数密度が5000個/μm3以上である
ことを特徴とする高強度銅合金管。 - 前記成分として、
Ni:0.005質量%以上0.10質量%以下、
Zn:0.005質量%以上1.0質量%以下、及び、
Sn:0.05質量%以上1.0質量%以下の少なくとも1種を更に含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の高強度銅合金管。 - 前記成分として、
Fe、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr、及び、Agの中から選択される1種以上を更に含有し、その合計量が0.10質量%未満である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高強度銅合金管。
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