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JP5673458B2 - 車両挙動制御システム - Google Patents

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Description

本発明は、車両挙動制御システムに関する。
従来の車両挙動制御システムとして、特許文献1には車輌のスピン状態が推定されたときにスピン状態量に応じて制動圧を制御するスピン抑制制御(いわゆるVSC制御等の旋回制御)を実行すると共に、車輪のスリップ状態が検出されたときにスリップ状態に応じて制動圧を制御するABS制御を実行する車輌の挙動制御装置が開示されている。この車輌の挙動制御装置は、アキュームレータ等の高圧蓄圧機構を含んで構成され、油圧を利用して運転者からブレーキペダルに入力されるペダル踏力を増幅させる油圧倍力装置を用いたいわゆるハイドロブースタタイプのアクチュエータを備える。このアクチュエータは、複数の車輪のホイールシリンダへ供給される油圧をマスタシリンダ圧に対応するレギュレータ圧とアキュームレータ圧とに切換える共通の切換弁を有する。そして、この車輌の挙動制御装置は、スピン抑制制御の実行中にABS制御の実行条件が成立した場合には、ホイールシリンダへ供給される油圧をアキュームレータ圧からレギュレータ圧(マスタシリンダ圧に相当)へ切り換えることでホイールシリンダ圧の増圧勾配を制限し、スピン抑制が実行されている車輪の制動圧を徐々にレギュレータ圧まで低下させる。
特開平8−080833号公報
ところで、上述のような特許文献1に記載されている車輌の挙動制御装置は、例えば、車両の挙動の安定化の点で更なる改善の余地がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車両の挙動を安定化させることができる車両挙動制御システムを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る車両挙動制御システムは、車両の各車輪に生じる制動力を個別に調節可能な制動装置と、前記制動装置を制御して前記車輪のスリップ状態を制御するABS制御及び前記車両の旋回状態を制御する旋回制御を実行可能な制御装置とを備え、前記制御装置は、前記ABS制御及び前記旋回制御の作動中に、前記車両に作用する横方向加速度の絶対値が予め設定された所定加速度以下である場合に前記制動力の増加勾配を制限する一方、前記横方向加速度の絶対値が前記所定加速度より大きい場合に前記制動力の増加勾配を制限せず、さらに、前記制御装置は、前記旋回制御における旋回制御量の絶対値が予め設定された所定制御量より大きい場合には前記制動力の増加勾配を制限せず、前記制動装置は、制動操作部材に入力された操作力を、高圧蓄圧機構によらずに負圧を用いて増加する負圧式の倍力装置と、前記倍力装置で増加された操作力に応じて作動流体に操作圧力を付与するマスタシリンダと、前記各車輪にそれぞれ設けられ前記操作圧力に基づいた制動圧力が作用することで前記制動力を発生させるホイールシリンダと、前記ホイールシリンダに供給される前記制動圧力を個別に調節することで前記各車輪に生じる制動力を個別に調節可能であるアクチュエータとを有し、前記制御装置は、前記制動力の増加勾配を制限する場合には前記ホイールシリンダに作用する前記制動圧力の増圧勾配を制限し、前記制動力の増加勾配を制限しない場合には前記ホイールシリンダに作用する前記制動圧力の増圧勾配を制限しないことを特徴とする。
また、上記車両挙動制御システムでは、前記制御装置は、前記旋回制御量の絶対値が前記所定制御量より大きい場合には、前記ABS制御の作動の有無、及び、前記横方向加速度の絶対値にかかわらず前記制動力の増加勾配を制限しないものとすることができる。
また、上記車両挙動制御システムでは、前記制御装置は、前記ABS制御及び前記旋回制御の作動中に前記制動力の増加勾配を制限しない状態で前記ABS制御が終了しても、前記旋回制御量の絶対値が前記所定制御量より大きい場合には、前記制動力の増加勾配を制限しない状態を継続するものとすることができる。
また、上記車両挙動制御システムでは、前記制動装置は、制動操作部材に入力された操作力を負圧を用いて増加する負圧式の倍力装置と、前記倍力装置で増加された操作力に応じて作動流体に操作圧力を付与するマスタシリンダと、前記各車輪にそれぞれ設けられ前記操作圧力に基づいた制動圧力が作用することで前記制動力を発生させるホイールシリンダと、前記ホイールシリンダに供給される前記制動圧力を個別に調節することで前記各車輪に生じる制動力を個別に調節可能であるアクチュエータとを有し、前記制御装置は、前記制動力の増加勾配を制限する場合には前記ホイールシリンダに作用する前記制動圧力の増圧勾配を制限し、前記制動力の増加勾配を制限しない場合には前記ホイールシリンダに作用する前記制動圧力の増圧勾配を制限しないものとすることができる。
本発明に係る車両挙動制御システムは、車両の挙動を安定化させることができる、という効果を奏する。
図1は、実施形態に係る車両の概略構成図である。 図2は、実施形態に係る制動装置の一例を示す概略構成図である。 図3は、実施形態に係るVSCアクチュエータの制御弁の一例を表す概略断面図である。 図4は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。 図5は、実施形態に係る制限有り制御マップの一例を表す線図である。 図6は、実施形態に係る制限無し制御マップの一例を表す線図である。 図7は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
図1は、実施形態に係る車両の概略構成図、図2は、実施形態に係る制動装置の一例を示す概略構成図、図3は、実施形態に係るVSCアクチュエータの制御弁の一例を表す概略断面図、図4は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するフローチャート、図5は、実施形態に係る制限有り制御マップの一例を表す線図、図6は、実施形態に係る制限無し制御マップの一例を表す線図、図7は、実施形態に係るECUによる制御の一例を説明するタイムチャートである。
本実施形態は、典型的には、車両に適用されるものであり、下記の構成要素を有している。
(1)ヨーレートセンサ。
(2)横加速度センサ。
(3)操舵角度センサ。
(4)車輪速度センサ。
(5)VSCアクチュエータ(四輪独立にホイールシリンダ油圧を制御可能なものであってアキュームレータ等の高圧蓄圧機構が無いもの。)。
(6)上記を統合して制御するECU。
(7)上記を相互に接続するもの(CAN、ワイヤーハーネス等。)。
そして、本実施形態は、これらの構成要素によって、例えば、車両においてABS(Antilock Brake System)制御の作動中に、VSC(Vehicle Stability Control)制御が入った場合に、横方向加速度が所定より大きいときはVSC制御における制動油圧の増圧勾配の制限を行わないことで、VSC制御による挙動安定効果を適正に得ることができるものである。また、本実施形態は、一旦、ABS作動中にVSC制御における増圧勾配の制限を行わないモードに入った場合、ABS制御が一旦終了したとしても、VSC制御量が制御閾値以下であっても所定より大きい限り、増圧勾配制限を行うモードに復帰させない。
本実施形態の車両挙動制御システム1は、図1に示すように車両2に搭載され、この車両2を制御するためのシステムであり、典型的には、車両2の車輪3に生じる制動力を制御することで各車輪3のスリップ状態や車両2の旋回状態を制御し、車両2の挙動を安定化させるシステムである。車両2は、車輪3として、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL、右後輪3RRを備えるが、これらを特に分ける必要がない場合には単に車輪3という。
具体的には、車両挙動制御システム1は、アクセルペダル4、駆動源5、ブレーキペダル6、制動装置7、制御装置(車両制御装置)としてのECU8などを備える。車両2は、運転者によるアクセルペダル4の操作に応じて駆動源5が動力(トルク)を発生させ、この動力が動力伝達装置(不図示)を介して車輪3に伝達され、この車輪3に駆動力を発生させる。また、車両2は、運転者によるブレーキペダル6の操作に応じて制動装置7が作動することで車輪3に制動力を発生させる。
駆動源5は、内燃機関などの走行用の動力源である。制動装置7は、車両2の各車輪3に生じる制動力を個別に調節可能である。制動装置7は、マスタシリンダ9からVSCアクチュエータ10を介してホイールシリンダ11に接続する油圧経路に作動流体であるブレーキオイルが充填された種々の油圧ブレーキ装置である。制動装置7は、ホイールシリンダ11に供給される制動圧力に応じて油圧制動部12が作動し車輪3に圧力制動力を発生させる。なお、この制動装置7については、後でより詳細に説明する。
ECU8は、車両2の各部の駆動を制御するものであり、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路を含んで構成される。ECU8は、例えば、各車輪3の回転速度を検出する各車輪速度センサ13、車両2の操舵角度を検出する操舵角度センサ14、車両2のヨーレートを検出するヨーレートセンサ15、車両2の車体に生じる横方向(走行方向と交差(直交)する方向)加速度を検出する横加速度センサ16等の車両2の各所に取り付けられた種々のセンサ、検出装置が電気的に接続され、検出結果に対応した電気信号が入力される。ECU8は、各種センサから入力された各種入力信号や各種マップに基づいて、格納されている制御プログラムを実行することにより、駆動源5や制動装置7のVSCアクチュエータ10などの車両2の各部に駆動信号を出力しこれらの駆動を制御する。
そして、本実施形態のECU8は、車両2の走行状態に応じてVSCアクチュエータ10を制御し、各車輪3にそれぞれ設けられたホイールシリンダ11のホイールシリンダ圧を個別に増減し、各車輪3における制動力を個別に制御することで車両2のABS制御機能やVSC制御機能等を実現することができ、これにより、車両2の挙動の制御を行うことができる。ECU8は、車両2の挙動を安定化させる制御として、例えば、制動装置7を制御して車輪3のスリップ状態を制御するABS制御、制動装置7を制御して車両2の旋回状態を制御する旋回制御としてのVSC制御等を実行可能である。
ここで、制動装置7の構成についてより詳細に説明する。本実施形態の制動装置7が備えるVSCアクチュエータ10は、アキュームレータ等を含んで構成され油圧を利用して運転者からブレーキペダル6に入力されるペダル踏力を増幅させる油圧倍力装置を用いたいわゆるハイドロブースタタイプの油圧アクチュエータではなく、いわゆるバキュームブースタタイプの油圧アクチュエータである。このバキュームブースタタイプのVSCアクチュエータ10は、四輪独立にホイールシリンダ油圧を個別に増圧、減圧、保持を行うことが可能なものであって、アキュームレータ等の高圧蓄圧機構を備えず、駆動源5である内燃機関等から供給される負圧を利用して、運転者からブレーキペダル6に入力されるペダル踏力を増幅させる真空式倍力装置(負圧助勢装置)を用いたものである。
制動装置7は、制動操作部材としてのブレーキペダル6に入力されたペダル踏力(操作力)を負圧を用いて増加する負圧式の倍力装置としてのバキュームブースタ17と、バキュームブースタ17で増加されたペダル踏力に応じてブレーキオイル(作動流体)にマスタシリンダ圧(操作圧力)を付与するマスタシリンダ9と、各車輪3にそれぞれ設けられマスタシリンダ圧に基づいたホイールシリンダ圧(制動圧力)が作用することで各車輪3にそれぞれ制動力を発生させるホイールシリンダ11と、ホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧を個別に調節することで各車輪3に生じる制動力を個別に調節可能であるアクチュエータとしてのVSCアクチュエータ10と、キャリパ、ブレーキパッド、ディスクロータなどを含んで構成される油圧制動部12と、余剰のブレーキオイルを貯留するリザーバ18を有する。
制動装置7は、基本的には運転者がブレーキペダル6を操作することで、ブレーキペダル6に作用するペダル踏力に応じてマスタシリンダ9によりブレーキオイルにマスタシリンダ圧が付与される。そして、制動装置7は、このマスタシリンダ圧が各ホイールシリンダ11にてホイールシリンダ圧として作用することで、油圧制動部12が作動し車輪3に圧力制動力を発生させる。
より具体的には、ブレーキペダル6は、運転者が車両2に対して制動力を発生させる際、運転者の制動要求によって制動操作されるものである。マスタシリンダ9は、運転者からブレーキペダル6にペダル踏力が入力された際にブレーキペダル6と連動するピストンによりブレーキオイルを加圧し、ペダル踏力に応じたマスタシリンダ圧を付与するものである。つまり、マスタシリンダ9は、ブレーキペダル6を介して入力されたペダル踏力をこのペダル踏力に応じたマスタシリンダ圧へと変換する。リザーバ18は、マスタシリンダ9に連結されており、内部にブレーキオイルが貯留される。リザーバ18とマスタシリンダ9とは、ブレーキペダル6が踏み込まれていない状態で連通し、ブレーキペダル6が踏み込まれると連通が遮断され、マスタシリンダ9にてブレーキオイルが加圧される。
バキュームブースタ17は、マスタシリンダ9に一体的に装着され、負圧配管などを介して駆動源5をなす内燃機関(エンジン)の吸気経路(吸気通路)と接続され内燃機関にて発生する負圧が供給される。バキュームブースタ17は、ブレーキペダル6に入力されたペダル踏力を内燃機関から供給される負圧を用いて増加可能である。このとき、バキュームブースタ17は、供給される負圧に応じた所定の倍力比(いわゆるサーボ比=出力/入力)でペダル踏力を倍化(増加)させ、マスタシリンダ9のピストンに伝達する。バキュームブースタ17は、例えば、供給される負圧と外気による圧力との差圧に応じて図示しないダイヤフラムに作用する力によりペダル踏力を増幅する。バキュームブースタ17は、ブレーキペダル6を制動操作した際のペダル踏力を負圧によって増力させ、ブレーキペダル6へのペダル踏力入力に対してマスタシリンダ9へのペダル踏力入力を増力させることで、運転者によるブレーキペダル6へのペダル踏力を軽減させることができる。この結果、上記マスタシリンダ9は、バキュームブースタ17により増幅されたペダル踏力に応じてブレーキオイルを加圧し、ブレーキオイルにマスタシリンダ圧を付与することとなる。
VSCアクチュエータ10は、マスタシリンダ9とホイールシリンダ11とを接続するブレーキオイルの油圧経路上に設けられ、ブレーキペダル6のブレーキ操作とは別にECU8による制御によって各ホイールシリンダ11内の液圧を増減し、各車輪3に付与する制動力を制御するものである。VSCアクチュエータ10は、マスタシリンダ9によりブレーキオイルに付与されたマスタシリンダ圧に応じて各ホイールシリンダ11に作用するホイールシリンダ圧を制御、あるいは、マスタシリンダ9によりブレーキオイルにマスタシリンダ圧が付与されているか否かにかかわらず各ホイールシリンダ11にホイールシリンダ圧を作用させる。
VSCアクチュエータ10は、例えば、ECU8により制御される種々の油圧制御装置(油圧制御回路)によって構成される。VSCアクチュエータ10は、複数の配管、オイルポンプ、各車輪3にそれぞれ設けられた各ホイールシリンダ11に接続する各油圧配管、各油圧配管の油圧を各々に増圧、減圧、保持するための複数の電磁弁などを含んで構成される。VSCアクチュエータ10は、ECU8の制御指令にしたがって油圧配管内の油圧(マスタシリンダ圧)をそのまま、又は、加圧、減圧して後述する各ホイールシリンダ11に伝える作動流体圧力調節部として機能する。
VSCアクチュエータ10は、通常の運転時には、例えば、ECU8の制御指令にしたがってオイルポンプや所定の電磁弁が駆動することで、運転者によるブレーキペダル6の操作量(踏み込み量)に応じてホイールシリンダ11に作用するホイールシリンダ圧を調圧することができる。また、VSCアクチュエータ10は、後述する車両制御時には、例えば、ECU8の制御指令にしたがってオイルポンプや所定の電磁弁が駆動することで、ホイールシリンダ11に作用するホイールシリンダ圧を増圧する増圧モード、ほぼ一定に保持する保持モード、減圧する減圧モードなどで作動可能である。VSCアクチュエータ10は、ECU8による制御によって、車両2の走行状態に応じて各車輪3にそれぞれ設けられたホイールシリンダ11ごとに個別に上記モードを設定することができる。
ここで、図2にVSCアクチュエータ10の一例を示す。ここで例示する制動装置7のマスタシリンダ9は、その両側の圧縮コイルばねにより所定の位置に付勢されたフリーピストン9aにより画成された第一のマスタシリンダ室9Aと第二のマスタシリンダ室9Bとを有している。VSCアクチュエータ10は、マスタシリンダ9からの油圧を各ホイールシリンダ11に伝達するための回路として、前輪(左前輪3FL、右前輪3FR)用の第1油圧制御回路10Fと、後輪(左後輪3RL、右後輪3RR)用の第2油圧制御回路10Rとを備えている。ここでは、第1油圧制御回路10Fは、ブレーキ油圧制御導管101Fが第一のマスタシリンダ室9Aに接続する一方、第2油圧制御回路10Rは、ブレーキ油圧制御導管101Rが第二のマスタシリンダ室9Bに接続する。
ブレーキ油圧制御導管101Fは、一端に第一のマスタシリンダ室9Aが接続され、他端に左前輪3FL用のブレーキ油圧制御導管102FL及び右前輪3FR用のブレーキ油圧制御導管102FRの一端が接続されている。第1油圧制御回路10Fは、ブレーキ油圧制御導管101Fの途中に常開型の電磁開閉弁である前輪用の制御弁103Fが設けられている。第1油圧制御回路10Fは、制御弁103Fの両側のブレーキ油圧制御導管101Fに第一のマスタシリンダ室9Aよりブレーキ油圧制御導管102FL又はブレーキ油圧制御導管102FRへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管104Fが接続されている。
制御弁103Fは、図3に示すように、内部に弁室103aを区画するハウジング103bを有し、弁室103aには弁要素103cが往復動可能に配置されている。制御弁103Fは、弁室103aにブレーキ油圧制御導管101Fのマスタシリンダ9の側の部分101FAが内部通路103dを介して常時連通接続され、またブレーキ油圧制御導管101Fのマスタシリンダ9とは反対側の部分101FBが内部通路103e及びポート103fを介して連通接続されている。
制御弁103Fは、弁要素103cの周りにソレノイド103gが配設されており、弁要素103cは圧縮コイルばね103hにより図3に示された開弁位置へ付勢されている。弁要素103cはソレノイド103gに駆動電圧が印加されると、圧縮コイルばね103hのばね力に抗してポート103fに対し付勢され、これによりポート103fを閉ざすことによって閉弁する。
また、制御弁103Fは、閉弁位置にある状況において、ブレーキ油圧制御導管101Fのマスタシリンダ9とは反対側の部分101FB内の圧力による力と圧縮コイルばね103hのばね力との合計がソレノイド103gによる電磁力よりも高くなると、弁要素103cはポート103fより離れて該ポート103fを開き、部分101FB内のオイルが内部通路103e、ポート103f、弁室103a、内部通路103dを経てブレーキ油圧制御導管101Fの部分101FAへ流れる。そして、制御弁103Fは、このオイルの流動により部分101FB内のオイルの圧力が低下すると、その圧力による力と圧縮コイルばね103hのばね力との合計がソレノイド103gによる電磁力よりも低くなり、弁要素103cはポート103fを再度閉ざす。
したがって、この制御弁103Fは、ソレノイド103gに対する印加電圧に応じてブレーキ油圧制御導管101Fの部分101FB内の圧力を制御するので、ソレノイド103gに対する駆動電圧を制御することによって制御弁103Fにより部分101FB内の圧力を所望の圧力に制御することができる。なお、この図3では、図2に示された逆止バイパス導管104Fは、制御弁103Fに内蔵されており、内部通路103iと、該内部通路103iの途中に設けられ弁室103aより部分101FBへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁103jとによって構成される。
図2に戻って、第1油圧制御回路10Fは、左前輪3FL用のブレーキ油圧制御導管102FL及び右前輪3FR用のブレーキ油圧制御導管102FRの他端に、それぞれ左前輪3FL及び右前輪3FRの制動力を制御するホイールシリンダ11が接続されている。第1油圧制御回路10Fは、左前輪3FL用のブレーキ油圧制御導管102FL及び右前輪3FR用のブレーキ油圧制御導管102FRの途中に、それぞれ常開型の電磁開閉弁105FL及び105FRが設けられている。第1油圧制御回路10Fは、電磁開閉弁105FL及び105FRの両側のブレーキ油圧制御導管102FL及び102FRに、それぞれホイールシリンダ11よりブレーキ油圧制御導管101Fへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管106FL及び106FRが接続されている。
第1油圧制御回路10Fは、電磁開閉弁105FLと対応するホイールシリンダ11との間のブレーキ油圧制御導管102FLに、オイル排出導管107FLの一端が接続され、電磁開閉弁105FRと対応するホイールシリンダ11との間のブレーキ油圧制御導管102FRにはオイル排出導管107FRの一端が接続されている。第1油圧制御回路10Fは、オイル排出導管107FL及び107FRの途中に、それぞれ常閉型の電磁開閉弁108FL及び108FRが設けられており、オイル排出導管107FL及び107FRの他端は接続導管109Fにより前輪用のバッファリザーバ110Fに接続されている。
電磁開閉弁105FL及び105FRは、それぞれホイールシリンダ11内の圧力を増圧又は保持するための増圧弁であり、電磁開閉弁108FL及び108FRは、それぞれホイールシリンダ11内の圧力を減圧するための減圧弁である。したがって、電磁開閉弁105FL及び108FLは、互いに共働して左前輪3FLのホイールシリンダ11内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を構成しており、電磁開閉弁105FR及び108FRは、互いに共働して右前輪3FRのホイールシリンダ11内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を構成している。
接続導管109Fは、接続導管111Fによりポンプ112Fの吸入側に接続されている。第1油圧制御回路10Fは、接続導管111Fの途中に、接続導管109Fよりポンプ112Fへ向かうオイルの流れのみを許す二つの逆止弁113F及び114Fが設けられている。ポンプ112Fの吐出側は、途中にダンパ115Fを有する接続導管116Fによりブレーキ油圧制御導管101Fに接続されている。第1油圧制御回路10Fは、ポンプ112Fとダンパ115Fとの間の接続導管116Fに、ポンプ112Fよりダンパ115Fへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁117Fが設けられている。
第1油圧制御回路10Fは、二つの逆止弁113F及び114Fの間の接続導管111Fに、接続導管118Fの一端が接続されており、接続導管118Fの他端は第一のマスタシリンダ室9Aと制御弁103Fとの間のブレーキ油圧制御導管101Fに接続されている。第1油圧制御回路10Fは、接続導管118Fの途中に、常閉型の電磁開閉弁119Fが設けられている。この電磁開閉弁119Fは、マスタシリンダ9と制御弁103Fとの間のブレーキ油圧制御導管101Fとポンプ112Fの吸入側との連通を制御するポンプ吸入弁として機能する。
上記のように構成される第1油圧制御回路10Fでは、制御弁103Fは、電磁開閉弁119F等と共働して間接的に左右前輪3FL、3FRの各ホイールシリンダ11内の圧力であるホイールシリンダ圧を増減することにより左右前輪3FL、3FRの制動力を制御する左右前輪3FL、3FRに共通の第一の制動力制御手段を構成している。電磁開閉弁105FL、105FR、108FL、108FR等の増減圧制御弁は、それぞれ、左右前輪3FL、3FRの各ホイールシリンダ11内の圧力であるホイールシリンダ圧を増減することにより左右前輪3FL、3FRの制動力を個別に制御する左前輪3FL用及び右前輪3FR用の第二の制動力制御手段を構成している。この第二の制動力制御手段による制動圧制御の応答性は第一の制動力制御手段による制動圧制御の応答性よりも高い。
同様に、第2油圧制御回路10Rのブレーキ油圧制御導管101Rは、一端に第二のマスタシリンダ室9Bが接続され、他端に左後輪3RL用のブレーキ油圧制御導管102RL及び右後輪3RR用のブレーキ油圧制御導管102RRの一端が接続されている。第2油圧制御回路10Rは、ブレーキ油圧制御導管101Rの途中に常開型の電磁開閉弁である後輪用の制御弁103Rが設けられている。
制御弁103Rは、前輪用の制御弁103Fとほぼ同様の構造を有しており、ソレノイドに対する駆動電圧を制御することにより、制御弁103Rより下流側のブレーキ油圧制御導管101R内の圧力(上流圧)を所望の圧力に制御することができる。また、第2油圧制御回路10Rは、制御弁103Rの両側のブレーキ油圧制御導管101Rに第二のマスタシリンダ室9Bよりブレーキ油圧制御導管102RL又はブレーキ油圧制御導管102RRへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管104Rが接続されている。
第2油圧制御回路10Rは、左後輪3RL用のブレーキ油圧制御導管102RL及び右後輪3RR用のブレーキ油圧制御導管102RRの他端に、それぞれ左後輪3RL及び右後輪3RRの制動力を制御するホイールシリンダ11が接続されている。第2油圧制御回路10Rは、左後輪3RL用のブレーキ油圧制御導管102RL及び右後輪3RR用のブレーキ油圧制御導管102RRの途中に、それぞれ常開型の電磁開閉弁105RL及び105RRが設けられている。第2油圧制御回路10Rは、電磁開閉弁105RL及び105RRの両側のブレーキ油圧制御導管102RL及び102RRに、それぞれホイールシリンダ11よりブレーキ油圧制御導管101Rへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管106RL及び106RRが接続されている。
第2油圧制御回路10Rは、電磁開閉弁105RLと対応するホイールシリンダ11との間のブレーキ油圧制御導管102RLに、オイル排出導管107RLの一端が接続され、電磁開閉弁105RRと対応するホイールシリンダ11との間のブレーキ油圧制御導管102RRにはオイル排出導管107RRの一端が接続されている。第2油圧制御回路10Rは、オイル排出導管107RL及び107RRの途中に、それぞれ常閉型の電磁開閉弁108RL及び108RRが設けられており、オイル排出導管107RL及び107RRの他端は接続導管109Rにより後輪用のバッファリザーバ110Rに接続されている。
電磁開閉弁105RL及び105RRは、それぞれホイールシリンダ11内の圧力を増圧又は保持するための増圧弁であり、電磁開閉弁108RL及び108RRは、それぞれホイールシリンダ11内の圧力を減圧するための減圧弁である。したがって、電磁開閉弁105RL及び108RLは、互いに共働して左後輪3RLのホイールシリンダ11内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を構成しており、電磁開閉弁105RR及び108RRは、互いに共働して右後輪3RRのホイールシリンダ11内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を構成している。
接続導管109Rは、接続導管111Rによりポンプ112Rの吸入側に接続されている。第2油圧制御回路10Rは、接続導管111Rの途中に、接続導管109Rよりポンプ112Rへ向かうオイルの流れのみを許す二つの逆止弁113R及び114Rが設けられている。ポンプ112Rの吐出側は、途中にダンパ115Rを有する接続導管116Rによりブレーキ油圧制御導管101Rに接続されている。第2油圧制御回路10Rは、ポンプ112Rとダンパ115Rとの間の接続導管116Rに、ポンプ112Rよりダンパ115Rへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁117Rが設けられている。なお、ポンプ112F及び112Rは図2には示されていない共通の電動機により駆動される。
第2油圧制御回路10Rは、二つの逆止弁113R及び114Rの間の接続導管111Rに、接続導管118Rの一端が接続されており、接続導管118Rの他端は第二のマスタシリンダ室9Bと制御弁103Rとの間のブレーキ油圧制御導管101Rに接続されている。第2油圧制御回路10Rは、接続導管118Rの途中に、常閉型の電磁開閉弁119Rが設けられている。この電磁開閉弁119Rは、マスタシリンダ9と制御弁103Rとの間のブレーキ油圧制御導管101Rとポンプ112Rの吸入側との連通を制御するポンプ吸入弁として機能する。
上記のように構成される第2油圧制御回路10Rでは、制御弁103Rは、電磁開閉弁119R等と共働して間接的に左右後輪3RL、3RRの各ホイールシリンダ11内の圧力であるホイールシリンダ圧を増減することにより左右後輪3RL、3RRの制動力を制御する左右後輪3RL、3RRに共通の第一の制動力制御手段を構成している。電磁開閉弁105RL、105RR、108RL、108RR、等の増減圧制御弁は、それぞれ、左右後輪3RL、3RRの各ホイールシリンダ11内の圧力であるホイールシリンダ圧を増減することにより左右後輪3RL、3RRの制動力を個別に制御する左後輪3RL用及び右後輪3RR用の第二の制動力制御手段を構成している。この第二の制動力制御手段による制動圧制御の応答性は第一の制動力制御手段による制動圧制御の応答性よりも高い。
上記のように構成されるVSCアクチュエータ10は、ECU8の制御により制御弁103F、103R、電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RR、電磁開閉弁108FL、108FR、108RL、108RR、電磁開閉弁119F、119R、ポンプ112F、112R等が駆動することで各ホイールシリンダ11に作用するホイールシリンダ圧を独立して、すなわち、別個に調圧することができる。
制御弁103F及び103R、電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RR、電磁開閉弁108FL、108FR、108RL、108RR、電磁開閉弁119F、119Rは、対応するソレノイドに駆動電流が通電されていないときには図2に示された非制御位置に設定される。これにより、VSCアクチュエータ10は、前輪3FL、3FRのホイールシリンダ11に第一のマスタシリンダ室9A内のマスタシリンダ圧が供給され、後輪3RL、3RRのホイールシリンダ11に第二のマスタシリンダ室9B内のマスタシリンダ圧が供給される。この結果、制動装置7は、通常時には各車輪3のホイールシリンダ11内のホイールシリンダ圧がブレーキペダル6へのペダル踏力に応じて増減される。
これに対し、VSCアクチュエータ10は、制御弁103F、103Rが閉弁位置に切り換えられ、電磁開閉弁119F、119Rが開弁され、各車輪3の電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RR、電磁開閉弁108FL、108FR、108RL、108RRが図2に示された位置にある状態にて、ポンプ112F、112Rが駆動されると、マスタシリンダ9内のオイルがポンプ112F、112Rによって汲み上げられ、各ホイールシリンダ11にはそれぞれポンプ112F又はポンプ112Rによりポンプアップされたホイールシリンダ圧が供給されるようになる。この結果、制動装置7は、各車輪3のホイールシリンダ11内のホイールシリンダ圧がブレーキペダル6へのペダル踏力に関係なく制御弁103F、103R及び各車輪3の電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RR、電磁開閉弁108FL、108FR、108RL、108RRの開閉により増減される。
この場合、各ホイールシリンダ11内のホイールシリンダ圧は、電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RR、電磁開閉弁108FL、108FR、108RL、108RRが図2に示された非制御位置にあるときには増圧され(増圧モード)、電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RRが閉弁位置に切り換えられかつ電磁開閉弁108FL、108FR、108RL、108RRが図2に示された非制御位置にあるときには保持され(保持モード)、電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RR、電磁開閉弁108FL、108FR、108RL、108RRが開弁位置に切り換えられると減圧される(減圧モード)。
そして、ホイールシリンダ11は、キャリパ、ブレーキパッド、ディスクロータなどと共に油圧制動部12をなす。各油圧制動部12は、ブレーキパッドがディスクロータに当接し押し付けられることで、車輪3と共に回転するディスクロータに対して、ホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧に応じた所定の回転抵抗力が作用し、このディスクロータ及びこれと一体で回転する車輪3に制動力を付与することができる。
上記のように構成される制動装置7は、運転者がブレーキペダル6を操作しブレーキペダル6にペダル踏力が入力されると、このペダル踏力がバキュームブースタ17にて負圧に応じて所定の倍力比で倍化されマスタシリンダ9に伝達される。バキュームブースタ17によって増加されマスタシリンダ9に伝達されたペダル踏力は、マスタシリンダ9にて、マスタシリンダ圧に変換されると共にVSCアクチュエータ10を介してホイールシリンダ11に伝達される。このとき、ホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧は、VSCアクチュエータ10にて、所定の油圧に調圧されてホイールシリンダ11に伝達される。そして、各油圧制動部12は、各ホイールシリンダ11に所定のホイールシリンダ圧が作用しキャリパのブレーキパッドがディスクロータに押し付けられることで摩擦力によって圧力制動トルクが作用することで車輪3の回転を減速することができる。
そして、ECU8は、ABS制御として、運転者によるブレーキペダル6の踏み込み操作(制動操作)に伴って車輪3がスリップしたとき、そのスリップ状態にある車輪3の制動力を調節することで、車両2の走行状態に応じた最適な制動力を車輪3に対して付与するようにする。ECU8は、ABS制御では、駆動源5の出力や制動装置7の制動圧力としてのホイールシリンダ圧を調節し車輪3に生じる制動力を制御することで、車輪3のスリップ状態、例えば、車輪3のスリップ率を制御する。
ここで、各車輪3のスリップ率は、車輪3のタイヤと路面とのスリップ(滑り)をあらわす指標であり、各車輪速度センサ13が検出する各車輪3の回転速度(車輪速度)等に基づいて、種々の手法を用いて算出することができる。
ECU8は、基本的には、実際のスリップ率が目標のスリップ率になるように車輪3に生じる制動力を制御する。ここで、目標のスリップ率は、例えば、車輪3のタイヤの摩擦係数が最大となるピークμスリップ率の近傍のスリップ率である。この目標のスリップ率は、所定の範囲を有していてもよい。
ECU8は、車両2の走行中に、運転者によるブレーキペダル6の踏み込み操作に応じて制動装置7が作動した際に車輪3と路面との間に生じうるスリップを抑制するためにABS制御を実行する。ECU8は、例えば、車輪3のスリップ率が予め設定されるABS制御開始閾値を超えた際にABS制御を開始する。ABS制御開始閾値は、実車評価等に基づいて、車輪3のスリップ状態、車両2の制動距離、挙動安定性、操舵性等に応じて予め設定され、ECU8の記憶部に記憶されている。この場合、ECU8は、実際のスリップ率が目標のスリップ率になるように制動装置7のホイールシリンダ圧を調節し車輪3に生じる制動力を制御する。ECU8は、例えば、実際のスリップ率と目標のスリップ率との偏差に基づいてABS制御量としてのABSスリップ抑止制御量を算出し、このABSスリップ抑止制御量に基づいて制動装置7のVSCアクチュエータ10を制御してホイールシリンダ圧を調節し車輪3に生じる制動力を制御する。ここで、ABSスリップ抑止制御量は、ABS制御においてVSCアクチュエータ10を制御するための制御量であって、上記目標のスリップ率を実現可能な制御量である。ECU8は、実際のスリップ率が目標のスリップ率より大きくなった場合にホイールシリンダ圧を減圧し制動力を低減する一方、実際のスリップ率が目標のスリップ率より小さくなった場合にホイールシリンダ圧を増圧し制動力を増加する。典型的には、ECU8は、これを周期的に繰り返すことでブレーキロックを防止しつつ車両2の制動距離を短くすることができると共に車両2の挙動安定性や操舵性を向上することができる。
また、ECU8は、VSC制御(旋回制御)として、操舵角度センサ14が検出する車両2の操舵角度、ヨーレートセンサ15が検出する車両2のヨーレート、横加速度センサ16が検出する車両2の横方向加速度等に基づいて車両2の旋回時の挙動を判断する。そして、ECU8は、その判断の結果、過大なヨーモーメントが車体に働くことを検知したならば、その過大なヨーモーメントを抑えて安定した旋回動作を行わせるように制御する。その際、ECU8は、制動装置7のVSCアクチュエータ10を制御して、例えば、その過大なヨーモーメントとは逆方向のヨーモーメントを車両2の車体に発生させるための要求制動力を旋回外輪、例えば、前側の旋回外輪(左前輪3FL又は右前輪3FR)に加え、つまり、個別にホイールシリンダ圧を増圧し制動力を増加させる。言い換えれば、ECU8は、VSC制御において旋回外輪に対する増圧制動制御によって、旋回動作に伴い車体に作用しているヨーモーメントとは逆方向のヨーモーメントを車体に発生させ、旋回中の車両2に対してオーバーステアの抑制制御(いわゆるスピン制御)を行うことで、オーバーステア傾向を示す車体をニュートラルステアに近づける。
VSC制御における旋回外輪に対する制動制御は、運転者が操舵操作を行った際の車両2の旋回動作におけるロールモーメントやヨーモーメントの大きさに応じて実行される。ECU8は、例えば、実際のヨーモーメントと目標のヨーモーメントとの偏差に基づいてVSC制御量(旋回制御量)としてのVSCスピン抑止制御量を算出し、このVSCスピン抑止制御量の絶対値が予め設定されたVSC制御開始閾値を超えた際にVSC制御を開始する。そして、ECU8は、VSCスピン抑止制御量に基づいて制動装置7のVSCアクチュエータ10を制御してホイールシリンダ圧を調節し車輪3に生じる制動力を制御する。ここで、VSCスピン抑止制御量は、VSC制御においてVSCアクチュエータ10を制御するための制御量であって、上記過大なヨーモーメントとは逆方向のヨーモーメントを車両2の車体に発生させるための要求制動力を実現可能な制御量である。VSC制御開始閾値は、実車評価等に基づいて、車輪3の横滑り、挙動安定性、操舵性等に応じて予め設定され、ECU8の記憶部に記憶されている。これにより、ECU8は、旋回時の車輪3の横滑りを抑制し車両2の挙動安定性を向上することができる。
そして、本実施形態のECU8は、ABS制御及びVSC制御の作動中に、車両2に作用する横方向加速度の絶対値が予め設定された所定加速度以下である場合に、VSCアクチュエータ10を制御して、制御の対象となる車輪3の制動力の増加勾配を制限する一方、横方向加速度の絶対値が所定加速度より大きい場合に制動力の増加勾配を制限しないことで、車両2の挙動を安定化させている。ここで、車輪3の制動力の増加勾配は、単位時間当たりの制動力の増加量(変化量)に相当する。また、上記所定加速度は、実車評価等に基づいて挙動安定効果や制御の作動フィーリング等に応じて任意に予め設定され、ECU8の記憶部に記憶されている。
ECU8は、VSC制御等の制御の対象となる車輪3の制動力の増加勾配を制限する場合、VSCアクチュエータ10の増圧弁である電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RRに供給するデューティ値の最大値(DUTY−MAX)を制限し、制御の対象となる車輪3のホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧の増圧勾配を制限し、これにより、制動力の増加勾配を制限する。
一方、ECU8は、VSC制御等の制御の対象となる車輪3の制動力の増加勾配を制限しない場合、増圧弁である電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RRに供給するデューティ値の最大値(DUTY−MAX)を制限しないことで、制御の対象となる車輪3のホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧の増圧勾配を制限せず、これにより、制動力の増加勾配を制限しない。
また、ECU8は、少なくともABS制御又はVSC制御のいずれか一方が作動中でなければ、制御の対象となる車輪3の制動力の増加勾配を制限しない。
そしてさらに、ECU8は、VSC制御における旋回制御量としてのVSCスピン抑止制御量の絶対値が予め設定された所定制御量としてのVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値より大きい場合には制動力の増加勾配を制限しない制御を実行する。さらに言えば、ECU8は、VSCスピン抑止制御量の絶対値がVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値より大きい場合にはABS制御の作動の有無や車両2の横方向加速度の絶対値の大きさにかかわらず制動力の増加勾配を制限しない制御を実行する。ここで、VSC増圧勾配制限解除維持判定閾値は、VSC制御開始閾値よりも十分に小さな値として設定される。VSC増圧勾配制限解除維持判定閾値は、実車評価等に基づいて、VSC制御の対象となるような大きな横滑り(スピン)挙動は発生していないものの、完全に横滑り挙動がなくなっていない状態でのABS制御再作動時に、制動力増加勾配制限を解除した状態で維持できる程度の値として設定され、ECU8の記憶部に記憶されている。
つまり、ECU8は、ABS制御及び旋回制御の作動中に制動力の増加勾配を制限しない状態でABS制御が終了しても、VSCスピン抑止制御量の絶対値がVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値より大きい場合には、仮にVSCスピン抑止制御量の絶対値がVSC制御開始閾値以下になっても制動力の増加勾配を制限する状態には移行せずに、制動力の増加勾配を制限しない状態を継続する。言い換えれば、ECU8は、例えば、ABS制御中に横方向加速度が所定より大きくなって、一旦、車輪3の制動力の増加勾配を制限しない制御を開始したら、その後に、ABS制御が一旦終了しても、VSCスピン抑止制御量がVSC制御開始閾値以下であっても所定より大きい限り、制動力の増加勾配を制限しない制御を継続し、車輪3の制動力の増加勾配を制限する制御には移行しない。
なおここでは、さらに、ECU8は、横方向加速度の絶対値が所定値より大きく制御の対象となる車輪3の制動力の増加勾配を制限しない状態で、車両2の挙動の制御中、すなわち、ABS制御やVSC制御の制御中である場合に、横方向加速度の絶対値が所定値以下になっても制動力の増加勾配を制限する状態には移行せずに、制動力の増加勾配を制限しない状態を継続するようにしてもよい。つまり、ECU8は、例えば、ABS制御中に横方向加速度が所定より大きくなって、一旦、車輪3の制動力の増加勾配を制限しない制御を開始したら、その後に、今回のABS制御中に横方向加速度が小さくなっても、制動力の増加勾配を制限しない制御を継続し、車輪3の制動力の増加勾配を制限する制御には移行しないように制御する。
したがって、この車両挙動制御システム1は、ABS制御の作動中にVSC制御が作動しても、横方向加速度の絶対値が所定加速度より大きい場合には、制御の対象となる車輪3の制動力の増加勾配を制限しないことから、ABS制御が作動していてもVSC制御によって横滑りを十分に抑制することができ、挙動安定効果を十分に得ることができる。この結果、車両挙動制御システム1は、ABS制御とVSC制御との干渉を抑制し、ABS制御による挙動安定効果とVSC制御による挙動安定効果とを両立することができる。
特に、この車両挙動制御システム1は、VSCアクチュエータ10がハイドロブースタタイプのアクチュエータではなく、アキュームレータ等の高圧蓄圧機構を含まないバキュームブースタタイプのアクチュエータであることから、VSC制御において制御の対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の増圧勾配制限が必要なほどの急激な油圧上昇が生じる可能性が少ない傾向にある。このため、車両挙動制御システム1は、上記のように横方向加速度の絶対値が所定加速度より大きい場合には、制御の対象となる車輪3の制動力の増加勾配を制限しないことで、不必要にホイールシリンダ圧の増圧勾配を制限することを防止して、適正にVSC制御を実行し挙動安定効果を得ることができる。
一方、この車両挙動制御システム1は、ABS制御の作動中にVSC制御が作動した場合であっても、横方向加速度の絶対値が所定加速度以下である場合には、制御の対象となる車輪3の制動力の増加勾配を制限することから、制御の作動フィーリングを良好にすることができる。この場合、車両挙動制御システム1は、横方向加速度の絶対値が所定加速度以下である状態で、制御の対象となる車輪3のホイールシリンダ圧の単位時間当たりの増加量(変化量)を制限することで、VSC制御が作動することによって車両2の挙動を抑えることよりも運転者に対して違和感を与えないようにすることを優先させても、この状態では未だ車両2の挙動変化(横滑り)が小さい段階であるので、車両2の挙動安定性の低下はほとんど問題にならない。よって、車両挙動制御システム1は、横方向加速度の絶対値が所定加速度以下である場合には、VSC制御が作動することによって運転者に対して違和感を与えることを抑制することができる。
また、この車両挙動制御システム1は、ABS制御中に横方向加速度が所定より大きくなって、一旦、車輪3の制動力の増加勾配を制限しない制御を開始したら、その後に、今回のABS制御中に横方向加速度が小さくなっても、制動力の増加勾配を制限しない制御を継続する。これにより、この車両挙動制御システム1は、例えば、車両2の旋回方向の切り替わりが生じ、横方向加速度の向きが変わった場合であっても、VSC制御によって継続して横滑りを十分に抑制することができ、挙動安定効果を十分に得ることができる。
そして、本実施形態の車両挙動制御システム1は、VSCスピン抑止制御量の絶対値がVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値より大きい場合には、ABS制御の作動の有無や横方向加速度の絶対値にかかわらず制動力の増加勾配を制限しない制御を実行する。これにより、車両挙動制御システム1は、ABS制御中に横方向加速度が所定より大きくなって、一旦、車輪3の制動力の増加勾配を制限しない制御を開始したら、その後に、ABS制御が一旦終了しても、VSCスピン抑止制御量がVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値より大きい限り、制動力の増加勾配を制限しない制御を継続することができる。この結果、車両挙動制御システム1は、VSC制御の対象となるような大きな横滑り(スピン)挙動は発生していないものの、完全に横滑り挙動がなくなっていない状態でのABS制御再作動時に、制動力増加勾配制限を解除した状態を維持することができる。したがって、車両挙動制御システム1は、完全に横滑り挙動がなくなっていない状態ではABS制御の作動の有無や横方向加速度の絶対値によらずに制動力増加勾配制限を解除した状態を維持することができ、VSC制御が再度作動した際には素早くホイールシリンダ圧を昇圧して制動力を増加することができるので、適正にVSC制御(旋回制御)による挙動安定効果を得ることができる。
次に、図4のフローチャートを参照してECU8による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
まず、ECU8は、車輪速度センサ13による検出結果に基づいた車輪3のスリップ率や制動装置7等の各部の作動状態等に応じて、ABS制御中であるか否かを判定する(ST1)。
ECU8は、ABS制御中であると判定した場合(ST1:Yes)、横加速度センサ16による検出結果に基づいて、車両2の横方向加速度の絶対値GY−ABSが予め設定される所定加速度に相当する増圧勾配制限判定閾値(正の値)Th1より大きいか否かを判定する(ST2)。
ECU8は、車両2の横方向加速度の絶対値GY−ABSが増圧勾配制限判定閾値Th1より大きいと判定した場合(ST2:Yes)、VSC増圧勾配制限解除フラグF1をON(増圧勾配制限しない。)とする(ST3)。
ECU8は、ST1にて、ABS制御中でないと判定した場合(ST1:No)、ヨーレートセンサ15による検出結果等に基づいて算出されるVSCスピン抑止制御量(絶対値)Mが予め設定されるVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値Th2より大きいか否かを判定する(ST4)。
ECU8は、VSCスピン抑止制御量MがVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値Th2以下であると判定した場合(ST4:No)、VSC増圧勾配制限解除フラグF1をOFF(増圧勾配制限する。)とする(ST5)。
ECU8は、ST3にてVSC増圧勾配制限解除フラグF1をONとした後、あるいは、ST5にてVSC増圧勾配制限解除フラグF1をOFFとした後、VSCスピン抑止制御量Mや制動装置7等の各部の作動状態等に応じて、VSC制御中であるか否かを判定する(ST6)。この場合、ECU8は、例えば、ヨーレートセンサ15による検出結果等に基づいたVSCスピン抑止制御量Mが予め設定されたVSC制御開始閾値ThVSCより大きいか否かを判定することで、VSC制御中であるか否かを判定することができる。
また、ECU8は、ST2にて、車両2の横方向加速度の絶対値GY−ABSが増圧勾配制限判定閾値Th1以下である判定した場合(ST2:No)、VSC増圧勾配制限解除フラグF1を現在の状態のままで維持して、VSC制御中であるか否かを判定する(ST6)。この場合、ECU8は、例えば、前回の制御周期でVSC増圧勾配制限解除フラグF1がONとなっていれば、このままON状態を維持する。この結果、ECU8は、例えば、ABS制御中に横方向加速度が所定より大きくなって、一旦、VSC増圧勾配制限解除フラグF1をONとしたら、その後に、今回のABS制御中に横方向加速度が小さくなっても、VSC増圧勾配制限解除フラグF1をONのままで維持することができ、以下の処理で増圧勾配を制限しない制御を継続することができる。
また、ECU8は、ST4にて、VSCスピン抑止制御量MがVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値Th2より大きいと判定した場合(ST4:Yes)、VSC増圧勾配制限解除フラグF1を現在の状態のままで維持して、VSC制御中であるか否かを判定する(ST6)。この場合、ECU8は、例えば、前回の制御周期でVSC増圧勾配制限解除フラグF1がONとなっていれば、このままON状態を維持する。この結果、ECU8は、例えば、ABS制御中に横方向加速度が所定より大きくなって、一旦、車輪3の制動力の増加勾配を制限しない制御を開始したら、その後に、ABS制御が一旦終了しても、VSCスピン抑止制御量MがVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値Th2より大きい限り、VSC増圧勾配制限解除フラグF1をONのままで維持することができ、以下の処理で増圧勾配を制限しない制御を継続することができる。
ECU8は、ST6にて、VSCスピン抑止制御量MがVSC制御開始閾値ThVSCより大きく、VSC制御中であると判定した場合(ST6:Yes)、VSC増圧勾配制限解除フラグF1がOFFであり、かつ、ABS制御中であるか否かを判定する(ST7)。
ECU8は、VSC増圧勾配制限解除フラグF1がOFFであり、かつ、ABS制御中であると判定した場合(ST7:Yes)、例えば、図5に例示する実施形態に係る制限有り制御マップMAP1を用いて、増圧弁である電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RRに供給するデューティ値の最大値DUTY−MAXを制限して(ST8)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。これにより、ECU8は、制御の対象となる車輪3のホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧の増圧勾配を制限し、制動力の増加勾配を制限することができる。
ここで、図5に例示する制限有り制御マップMAP1は、VSC増圧勾配制限時の最大勾配を決めるマップであり、横軸がマスタシリンダ圧PMC、縦軸がデューティ値の最大値DUTY−MAXを示す。この制限有り制御マップMAP1は、マスタシリンダ圧PMCとデューティ値の最大値DUTY−MAXとの関係を記述したものである。制限有り制御マップMAP1は、マスタシリンダ圧PMCとデューティ値の最大値DUTY−MAXとの関係が、実車評価等を踏まえて予め設定された上で、ECU8の記憶部に格納されている。この制限有り制御マップMAP1では、デューティ値=100%(点線で図示)に対して最大値DUTY−MAXが制限されている。上記で説明した制動装置7は、このデューティ値の最大値DUTY−MAXが小さくなるほど、ホイールシリンダ圧の増圧勾配が制限され、制動力の増加勾配が制限される。ECU8は、不図示のセンサ等の検出結果からマスタシリンダ圧PMCを取得して、このマスタシリンダ圧PMCに基づいて制限有り制御マップMAP1から最大値DUTY−MAXを算出する。
なお、図5に例示する制限有り制御マップMAP1では、デューティ値の最大値DUTY−MAXは、マスタシリンダ圧PMCに対して一定であるものとして図示しているが、マスタシリンダ圧PMCに対して可変であってもよい。また、ECU8は、図5に例示する制限有り制御マップMAP1を用いてデューティ値の最大値DUTY−MAXを求めたが、本実施形態はこれに限定されない。ECU8は、例えば、図5に例示する制限有り制御マップMAP1に相当する数式に基づいてデューティ値の最大値DUTY−MAXを求めてもよい。以下で説明する種々のマップについても同様である。
図4に戻って、ECU8は、ST7にて、VSC増圧勾配制限解除フラグF1がONである、あるいは、ABS制御中でないと判定した場合(ST7:No)、例えば、図6に例示する制限無し制御マップMAP2を用いて、増圧弁である電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RRに供給するデューティ値の最大値DUTY−MAXを制限せずに(ST9)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。これにより、ECU8は、制御の対象となる車輪3のホイールシリンダ11に供給されるホイールシリンダ圧の増圧勾配を制限せず、制動力の増加勾配を制限しないものとすることができる。
ここで、図6に例示する実施形態に係る制限無し制御マップMAP2は、VSC増圧勾配を制限しない時の最大勾配を決めるマップであり、横軸がVSC制御による制御目標値DS、縦軸がデューティ値の最大値DUTY−MAXを示す。この制限無し制御マップMAP2は、制御目標値DSとデューティ値の最大値DUTY−MAXとの関係を記述したものである。制限無し制御マップMAP2は、制御目標値DSとデューティ値の最大値DUTY−MAXとの関係が、実車評価等を踏まえて予め設定された上で、ECU8の記憶部に格納されている。この制限無し制御マップMAP2では、デューティ値=100%が最大値DUTY−MAXとなっており、すなわち、最大値DUTY−MAXが制限されていない。ECU8は、VSC制御における要求制動力、さらに言えば、上記VSCスピン抑止制御量Mに応じた制御目標値DSに基づいて制限無し制御マップMAP2から最大値DUTY−MAXを算出する。
なお、図6に例示する実施形態に係る制限無し制御マップMAP2では、制限有り制御マップMAP1と同様に、デューティ値の最大値DUTY−MAXは、制御目標値DSに対して一定であるものとして図示しているが、制御目標値DSに対して可変であってもよい。
ECU8は、ST6にて、VSCスピン抑止制御量MがVSC制御開始閾値ThVSC以下であり、VSC制御中でないと判定した場合(ST6:No)、増圧弁である電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RRに供給するデューティ値の最大値DUTY−MAXを最大増圧勾配デフォルト値MAXに設定して(ST10)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。ここでは、最大増圧勾配デフォルト値MAXは、例えば、100%に設定されるがこれに限らない。
次に、図7のタイムチャートを参照してECU8による制御の一例を説明する。この図7は、横軸を時間軸、縦軸をABS制御の作動状態、車両2の横方向加速度の絶対値GY−ABS、VSC増圧勾配制限解除フラグF1のON/OFF状態、VSCスピン抑止制御量M、VSC制御の作動状態、デューティ値の最大値DUTY−MAX、フロント旋回外輪油圧としている。ここで、フロント旋回外輪油圧は、VSC制御において制御の対象となる前側の旋回外輪(左前輪3FL又は右前輪3FR)のホイールシリンダ11のホイールシリンダ圧に相当する。
本図に示すように、車両挙動制御システム1は、時刻t1にてABS制御が作動すると、初期状態では車両2の横方向加速度の絶対値GY−ABSが増圧勾配制限判定閾値Th1以下でありVSC増圧勾配制限解除フラグF1がOFFであるので、ECU8によってデューティ値の最大値DUTY−MAXが制限される。そして、車両挙動制御システム1は、時刻t2にて、VSCスピン抑止制御量MがVSC制御開始閾値ThVSCより大きくなりVSC制御が作動すると、デューティ値の最大値DUTY−MAXが制限されていることから、フロント旋回外輪油圧の増圧勾配が制限される。
そして、車両挙動制御システム1は、時刻t3にて、車両2の横方向加速度の絶対値GY−ABSが増圧勾配制限判定閾値Th1より大きくなると、ECU8によってVSC増圧勾配制限解除フラグF1がONとされ、これにより、ECU8によってデューティ値の最大値DUTY−MAXが制限されている状態から制限されない状態へと移行する。これにより、車両挙動制御システム1は、フロント旋回外輪油圧の増圧勾配の制限が解除され、VSC制御におけるフロント旋回外輪油圧の増圧勾配が相対的に大きくなる。
そして、車両挙動制御システム1は、時刻t4にて、VSCスピン抑止制御量MがVSC制御開始閾値ThVSC以下となりVSC制御が非作動状態となった後、時刻t5にて車両2の横方向加速度の絶対値GY−ABSが増圧勾配制限判定閾値Th1以下となる。このとき、車両挙動制御システム1は、この時点ではまだABS制御が継続して作動中であり、また、VSCスピン抑止制御量MがVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値Th2より大きい状態であることから、VSC増圧勾配制限解除フラグF1をONのまま維持する。
その後、車両挙動制御システム1は、時刻t6にて、ABS制御が一旦非作動状態となるが、この時点では、まだVSCスピン抑止制御量MがVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値Th2より大きい状態であることから、VSC増圧勾配制限解除フラグF1をONのまま維持する。この結果、車両挙動制御システム1は、ABS制御の作動の有無にかかわらずVSC増圧勾配制限解除フラグF1をONのまま維持することができる。さらに、車両挙動制御システム1は、時刻t7にて、ABS制御が再度作動状態となった際に車両2の横方向加速度の絶対値GY−ABSが増圧勾配制限判定閾値Th1より大きくなっていなかった場合であっても、この横方向加速度の絶対値GY−ABSにかかわらず、VSC増圧勾配制限解除フラグF1をONのまま維持することができる。
これにより、車両挙動制御システム1は、時刻t8にて、VSCスピン抑止制御量MがVSC制御開始閾値ThVSCより大きくなりVSC制御が再度作動状態となった際にはフロント旋回外輪油圧の増圧勾配の制限が解除された状態が継続され、VSC制御におけるフロント旋回外輪油圧の増圧勾配が相対的に大きくなった状態を維持することができる。
そして、車両挙動制御システム1は、時刻t9にて、VSCスピン抑止制御量MがVSC制御開始閾値ThVSC以下となりVSC制御が非作動状態となった後、時刻t10にて、ABS制御が非作動状態となり、時刻t11にて、VSCスピン抑止制御量MがVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値Th2以下となると、ECU8によってVSC増圧勾配制限解除フラグF1がOFFとされる。
上記のように構成される車両挙動制御システム1は、VSCスピン抑止制御量の絶対値がVSC増圧勾配制限解除維持判定閾値より大きい場合には制動力の増加勾配を制限しない制御を実行することから、VSC制御が非作動状態となったものの、完全に横滑り挙動がなくなっていない状態でのABS制御再作動時に、制動力増加勾配制限を解除した状態を維持することができる。そして、この車両挙動制御システム1は、VSC制御再作動時にVSC制御対象の車輪3のホイールシリンダ圧の増圧勾配を制限しないことで、この増圧勾配を大きくすることができ、素早くホイールシリンダ圧を昇圧して制動力を増加することができる。よって、車両挙動制御システム1は、VSC制御によって横滑りを十分に抑制することができ、挙動安定効果を十分に得ることができる。
以上で説明した実施形態に係る車両挙動制御システム1によれば、車両2の各車輪3に生じる制動力を個別に調節可能な制動装置7と、制動装置7を制御して車輪3のスリップ状態を制御するABS制御及び車両2の旋回状態を制御するVSC制御を実行可能なECU8とを備える。ECU8は、ABS制御及びVSC制御の作動中に、車両2に作用する横方向加速度の絶対値が予め設定された所定加速度以下である場合に制動力の増加勾配を制限する一方、横方向加速度の絶対値が所定加速度より大きい場合に制動力の増加勾配を制限しない。さらに、ECU8は、VSC制御における旋回制御量の絶対値が予め設定された所定制御量より大きい場合には制動力の増加勾配を制限しない。したがって、車両挙動制御システム1は、ABS制御が作動していてもVSC制御による挙動安定効果を十分に得ることができ、適正に車両2の挙動を安定化させることができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両挙動制御システムは、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
以上の説明では、車両挙動制御システムの制御装置は、車両の各部を制御するECUであるものとして説明したが、これに限らず、例えば、ECUとは別個に構成され、このECUと相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行う構成であってもよい。
以上で説明した制動装置7は、増圧弁としての電磁開閉弁105FL、105FR、105RL、105RR及び減圧弁としての電磁開閉弁108FL、108FR、108RL、108RRがそれぞれ互いに共働して対応するホイールシリンダ11内の圧力を増圧し保持し減圧する増減圧弁を構成しているが、これらの開閉弁はそれぞれ上記増圧モード、保持モード、減圧モードに対応する増圧位置、保持位置、減圧位置を有する一つの切換え弁に置き換えられてもよい。
以上で説明した制動装置7は、VSCアクチュエータ10が左前輪3FL及び右前輪3FRのブレーキ液圧系統である第1油圧制御回路10Fと、左後輪3RL及び右後輪3RRのブレーキ液圧系統である第2油圧制御回路10Rとによって構成されるものとして説明したが、これに限らず、例えば、左前輪3FL及び右後輪3RRのブレーキ液圧系統である油圧制御回路と、右前輪3FR及び左後輪3RLのブレーキ液圧系統である油圧制御回路とによって構成されるものであってもよい。
1 車両挙動制御システム
2 車両
3 車輪
4 アクセルペダル
5 駆動源
6 ブレーキペダル(制動操作部材)
7 制動装置
8 ECU(制御装置)
9 マスタシリンダ
10 VSCアクチュエータ(アクチュエータ)
11 ホイールシリンダ
12 油圧制動部
13 車輪速度センサ
14 操舵角度センサ
15 ヨーレートセンサ
16 横加速度センサ
17 バキュームブースタ(倍力装置)
103F、103R 制御弁
105FL、105FR、105RL、105RR、108FL、108FR、108RL、108RR、119F、119R 電磁開閉弁

Claims (3)

  1. 車両の各車輪に生じる制動力を個別に調節可能な制動装置と、
    前記制動装置を制御して前記車輪のスリップ状態を制御するABS制御及び前記車両の旋回状態を制御する旋回制御を実行可能な制御装置とを備え、
    前記制御装置は、前記ABS制御及び前記旋回制御の作動中に、前記車両に作用する横方向加速度の絶対値が予め設定された所定加速度以下である場合に前記制動力の増加勾配を制限する一方、前記横方向加速度の絶対値が前記所定加速度より大きい場合に前記制動力の増加勾配を制限せず、
    さらに、前記制御装置は、前記旋回制御における旋回制御量の絶対値が予め設定された所定制御量より大きい場合には前記制動力の増加勾配を制限せず、
    前記制動装置は、制動操作部材に入力された操作力を、高圧蓄圧機構によらずに負圧を用いて増加する負圧式の倍力装置と、前記倍力装置で増加された操作力に応じて作動流体に操作圧力を付与するマスタシリンダと、前記各車輪にそれぞれ設けられ前記操作圧力に基づいた制動圧力が作用することで前記制動力を発生させるホイールシリンダと、前記ホイールシリンダに供給される前記制動圧力を個別に調節することで前記各車輪に生じる制動力を個別に調節可能であるアクチュエータとを有し、
    前記制御装置は、前記制動力の増加勾配を制限する場合には前記ホイールシリンダに作用する前記制動圧力の増圧勾配を制限し、前記制動力の増加勾配を制限しない場合には前記ホイールシリンダに作用する前記制動圧力の増圧勾配を制限しないことを特徴とする、
    車両挙動制御システム。
  2. 前記制御装置は、前記旋回制御量の絶対値が前記所定制御量より大きい場合には、前記ABS制御の作動の有無、及び、前記横方向加速度の絶対値にかかわらず前記制動力の増加勾配を制限しない、
    請求項1に記載の車両挙動制御システム。
  3. 前記制御装置は、前記ABS制御及び前記旋回制御の作動中に前記制動力の増加勾配を制限しない状態で前記ABS制御が終了しても、前記旋回制御量の絶対値が前記所定制御量より大きい場合には、前記制動力の増加勾配を制限しない状態を継続する、
    請求項1又は請求項2に記載の車両挙動制御システム。
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