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JP5673382B2 - 異常診断方法 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば、自動車等の車両の車輪を回転自在に支承する軸受装置の異常を診断する異常診断方法に関する。
従来、自動車等の車両の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承するためのハブユニット軸受として、図8に示すようなハブユニット軸受80が知られている。
ハブユニット軸受80は駆動輪用とされ、ハブ81(回転輪)と、外輪82(静止輪)と、複数の転動体である玉83と、を備える。ハブ81は、中空状のハブ輪84を備えており、ハブ輪84のインボード側の軸方向端部(自動車への組み付け状態で車幅方向内側の端部:図8における右端部)には小径段部85が形成されており、この小径段部85には内輪90(回転輪)が嵌め込まれている。内輪90の外周面には内輪軌道面91が形成され、また、ハブ輪84の軸方向の中間部外周面には内輪軌道面92が形成される。
外輪82の内周面には内輪90の内輪軌道面91に対応する外輪軌道面93及びハブ輪84の内輪軌道面92に対応する外輪軌道面94が形成されており、また、車輪取り付けフランジ86から離間する側の外輪82の端部には径方向外方に延びると共に締結平坦面99が形成される懸架装置取り付けフランジ95が設けられる。そして、複列の内輪軌道面91,92と複列の外輪軌道面93,94との間にそれぞれ複数の玉83が保持器88を介して周方向に転動可能に配設される。
また、外輪82の両端部内周面とこの内周面に対向するハブ輪84及び内輪90の外周面との間には、外輪82とハブ輪84及び内輪90との環状空間を密封するシール部材96,97が配置されており、内部に充填されたグリースの漏洩と外部からの水や異物の浸入を防止する。
ここで、このような構造を有するハブユニット軸受80を自動車に組み付けるには、外輪82の懸架装置取り付けフランジ95をその締結平坦面99で懸架装置にボルト固定すると共に、回転輪側のハブ輪84の車輪取り付けフランジ86にスタッド87やナット(図示せず)等を介してブレーキロータ及びホイールを固定する。これにより、ハブユニット軸受80は車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する。
ところで、自動車等の車両は一定期間使用後に車両検査等が一般的に行われる。このとき、自動車が所定の自動車検査工場に運搬されて、エンジンや車輪周り等様々な検査・診断が行われる。この検査・診断では他の部品と同様に、ハブユニット軸受80も損傷や摩耗等の異常の有無が診断される。特に、ハブユニット軸受80では転がり接触部に損傷や摩耗等の異常が発生すると、運転時に振動や騒音が発生するだけではなく、十分な耐久性を確保することができなくなる可能性がある。そして、従来、この異常診断を確実に行おうとする場合には、前述した構造を有するハブユニット軸受80全体を分解し、検査担当者が異常の原因である損傷や摩耗の箇所を目視により特定していくことが行われていた。
そこで、ハブユニット軸受80を含む回転部材を機械的に診断するものとして、近年、異常診断装置が導入されるようになってきた。この異常診断装置を用いることにより、回転部材を分解せず且つ自動的に精度良く異常診断を行うことができる。
例えば、ハブユニット軸受に対するこの種の異常診断装置としては、振動センサをハブユニット軸受の外輪に取り付け、ハブユニット軸受の内外輪を相対回転させた時の振動をこの振動センサにより検出し、検出された振動信号を演算処理することにより異常の有無や異常部位の特定を行うものが知られている(例えば、特許文献1)。この異常診断装置は、振動センサと、ハブユニット軸受の内外輪に相対回転を与える駆動装置と、振動信号を増幅する増幅器と、振動信号をフィルタ処理するフィルタ回路と、振動信号の周波数を分析する周波数分析器と、判定結果を表示する表示器と、を備えており、実測された振動信号を周波数分析した後、その振動成分を軸受諸元及び回転数に基づき算出して、この算出された内外輪の軌道面の欠陥周波数成分との一致の度合いを比較照合して、異常の有無や異常部位の特定を行う。
また、鉄道車両用の軸受装置に対する異常診断装置としては、左右輪の車両用軸受装置の振動実効値をそれぞれ算出して、これらの振動実効値の比を閾値と比較して異常の有無を診断するものが知られている(例えば、特許文献2)。この異常診断装置は、振動センサと、振動信号を増幅する増幅器と、振動信号をフィルタ処理するフィルタと、振動信号の実効値を算出する実効値回路と、車軸の回転数を検出する回転検出センサと、判定部と、を備える。これにより、この異常診断装置は、回転している左右の車輪に装着される軸受装置の振動実効値を測定して、これらの比率を閾値と比較して、異常の有無を診断する。
更に、4チャンネルの振動センサと増幅回路とを備え、検査担当者がそれぞれのチャンネルを切り替えてそのセンサ信号をヘッドフォンで聞くことにより異常の有無を診断する異常診断装置も知られている(例えば、特許文献3)。この異常診断装置は、振動を検出する振動センサと、振動信号を増幅する増幅回路と、増幅後の振動信号を音信号に変換するヘッドフォンと、任意に設定される2チャンネルの振動レベルの大きさをインジケータ表示するレベルメータと、を備える。これにより、回転している左右の車輪に取り付けられる振動センサが振動信号を出力して、増幅回路で増幅された振動信号がヘッドフォンにより音信号に変換される。そして、検査担当者がこの音信号を聞くことにより左右の音信号のレベルを聴覚で識別する。また、この異常診断装置では、これら音信号のレベルをレベルメータで表示することにより異常の有無の判断を容易にすることを図っている。
また、振動センサをハブユニット軸受の固定輪側に取り付け、ハブユニット軸受の内外輪を相対回転した時の振動信号をエンベロープ処理後、周波数分析を行うことにより異常の有無を診断する異常診断装置が知られている(例えば、特許文献4)。この異常診断装置は、振動を検出する加速度型の振動センサと、ハブユニット軸受の内外輪に相対回転を与える駆動装置と、振動信号を増幅する増幅器と、振動信号を絶対値処理する包絡線検波器と、エンベロープ処理後の振動信号を周波数分析する周波数分析器と、オーバーオール演算器と、判定結果を表示する表示器と、を備える。これにより、この異常診断装置は、回転しているハブユニット軸受の固定輪側に取り付けられる振動センサにより振動信号を出力し、増幅回路で増幅した振動信号を包絡線検波後に周波数分析し、オーバーオール値を算出することにより、異常の有無を診断する。
特開2008―89422号公報 特許4527585 特開平5―312635号公報 特開2009―31100号公報
しかしながら、特許文献1の異常診断装置では軸受諸元が同一の設計諸元の場合、異常部位の特定が難しい。また、異常診断の前に軸受設計諸元を入力する必要があり、更には異常診断中に振動信号と同時に車軸の回転数信号を取り込む必要があり装置の簡素化を行う余地がある。なお、装置が複雑であると異常診断の精度に影響してしまうことが一般的に知られている。また、振動センサをハブユニット軸受装置に固着させた状態で取り付ける必要がある等から、自動車検査工場等では取扱いが猥雑となる可能性があり、時間短縮の点でも改善の余地がある。
また、特許文献2の異常診断装置では、振動実効値だけで異常診断の精度を得るのは難しい。さらに、閾値の具体的数値が開示されておらず、当該閾値の設定によっては誤診断の可能性がある。また、特許文献1と同様に、異常診断中に振動信号と同時に車軸の回転数を取り込む必要があり装置の簡素化を行う余地がある。
また、特許文献3の異常診断装置では、異常診断の信頼性が検査担当者による感応評価に依存するものであるため定量的な診断ではなく、検査担当者によっては異常診断の結果が異なることが充分にあり得る。
更に、特許文献4の異常診断装置では、ハブユニット軸受以外の周波数成分が出現する場合には、オーバーオール値に影響して誤診断が発生し易い。また特許文献1と同様に自動車検査工場等の現場では取扱いが猥雑となる場合がある。
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、異常診断を自動車検査場等の現場で行うのに取扱いが容易であり、且つ装置を簡素化して異常診断の精度を向上することができる異常診断方法を提供することにある。
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 車両に取り付けられる一対の車輪を回転自在に支承するため、静止輪と、前記静止輪に対し相対的に回転する回転輪と、を備える一対の自動車用ハブユニット軸受装置に対し、異常を診断する異常診断方法であって、
前記一対の軸受装置それぞれに取り付けられる一対の振動センサと、
前記一対の振動センサからそれぞれ出力される2チャンネル分の振動信号をそれぞれ増幅処理する増幅器と、
前記増幅器から出力される2チャンネル分の振動信号に対し、特定周波数帯域をそれぞれ抽出するフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部から出力される2チャンネル分の振動信号に対し、所定時間毎の実効値をそれぞれ演算する実効値演算部と、
前記実効値演算部から演算出力される2つの実効値の比率を演算して、演算された前記2つの実効値の比率が事前に設定される第1の設定値以上か否かを判定する実効値比率判定部と、
前記フィルタ処理部から出力される2チャンネル分の振動信号に対し、所定時間毎のピーク値をそれぞれ演算するピーク値演算部と、
前記ピーク値演算部から演算出力される2つのピーク値の比率を演算して、演算された前記2つのピーク値の比率が事前に設定される第2の設定値の値以上か否かを判定するピーク値比率判定部と、
前記軸受装置の異常を判定して判定結果を報知する異常判定報知部と、
を備える異常診断装置を用い、
前記一対の車輪を前記自動車用ハブユニット軸受装置に取り付けてリフトアップした状態で、前記一対の車輪を手動で回転させて異常診断することを特徴とする異常診断方法
) 前記軸受装置は、前記車両の車輪を回転自在に支承するハブユニット軸受であり、締結平坦面が形成されるフランジを有し、前記締結平坦面で前記車両の懸架装置にボルト固定されており、
前記振動センサは、圧電型加速度センサであり、前記ハブユニット軸受の前記締結平坦面に対し着脱自在にそれぞれ取り付けられることを特徴とする(1)に記載の異常診断方法
上記(1)の異常診断方法によれば、一対の振動センサで計測される2チャンネル分の振動信号に対し、所定時間毎の実効値及びピーク値をそれぞれ独立した状態で演算し、この2つの実効値の比率、及び2つのピーク値の比率を演算して、2つの実効値の比率及び2つのピーク値の比率それぞれが、共に事前に設定される第1及び第2の設定値以上か否かをそれぞれ判定して、この判定結果に基づき異常診断を行う。このため、従来のように軸受設定諸元の事前設定や車輪の回転数信号を診断中に入力する必要がなく、加えて周波数分析等の複雑な演算処理を行うことがないので、自動車検査場等の現場で異常診断を行うのに取扱いが容易であり、且つ装置を簡素化することができて異常診断の精度を向上することができる。
また、上記()の異常診断方法によれば、一対の振動センサは一対のハブユニット軸受の締結平坦面に対し着脱自在にそれぞれ取り付けられるので、異常診断を行う際に計測対象部位に軸受装置のアキシャル方向に振動センサをそれぞれ容易に取り付けることができる。このため、取り扱い性を更に高めることができる。
また、上記()の異常診断方法によれば、実走行させて計測する場合よりも、高SN比で異常診断することが可能となる。
本発明に係る異常診断装置の第1実施形態を説明するための信号処理系統図である。 図1に示す信号処理系統図を説明する異常診断フロー図である。 第1実施形態に係る異常診断装置を用いた診断結果を示すグラフである。 本発明に係る異常診断装置の第2実施形態を説明するための信号処理系統図である。 第2実施形態に係る異常診断装置を用いた診断結果を示すグラフである。 本発明に係る異常診断装置の第3実施形態を説明するための信号処理系統図である。 第3実施形態に係る異常診断装置を用いて正常品及び損傷品を診断した結果を示すグラフであり、(A)は左右の実効値比率を示し、(B)は左右のピーク値比率を示している。 ハブユニット軸受の構造を説明するための要部断面図である。
以下、本発明に係る異常診断装置の複数の実施形態について、図面を参照しながらそれぞれ詳細に説明する。
なお、前記図8に記載のハブユニット軸受80と同一又は同等部分については、同一符号を用いることによってその説明を省略或いは簡略化する。
(第1実施形態)
本実施形態の異常診断装置10は、自動車が定期点検のため自動車検査工場に運搬され、このとき前述した駆動輪用のハブユニット軸受80の異常診断を行う際に用いられる。
なお、検査該当箇所の左右一対の車輪がリフター等によりリフトアップされた後、検査担当者等が自動車のアクセルペダルを操作して左右一対の車輪が互いに略一定速、且つ略同一速になった状態で、本実施形態の異常診断装置10により異常診断が行われる。
本実施形態の異常診断装置10は、図1に示すように、一対の振動センサ11,11と、増幅器12と、フィルタ処理部13と、実効値演算部14と、実効値比率判定部15と、ピーク値演算部16と、ピーク値比率判定部17と、異常判定報知部18と、を備える。そして、本実施形態の異常診断装置10は主としてMPU等の演算装置から構成される。このMPU内部においてROM等に格納され、演算機能を実現する演算プログラムが読み込みこまれて、異常診断が行われる。
なお、本実施形態では処理の大部分をソフトウエアにて行っているが、同様な機能が実現できれば、その一部又は全部をFPGA(Field Programable Gate Array)などのハードウエアで実現しても良いし、又はその一部又は全部をアナログ電子回路等で実現しても良い。
一対の振動センサ11,11は、図8に示したような左右一対のハブユニット軸受(軸受装置)80,80に取り付けられ、車輪回転時に左右一対のハブユニット軸受80,80から発生する振動を計測する。また、一対の振動センサ11,11の本体裏面には金属部材に対し着脱自在なように磁石部が設けられる。これにより、一対の振動センサ11,11は、前述した懸架装置取り付けフランジ95,95の締結平坦面99,99それぞれに磁着固定された状態で、着脱自在に取り付けられる。振動センサ11は、加速度、速度、又は変位等、振動を電気信号に変換できるものであれば良いが、本実施形態ではノイズの影響に強く且つ耐久性に優れる圧電型加速度センサが採用される。
増幅器12は、一対の振動センサ11,11からそれぞれ出力される左右2チャンネル分の振動信号をそれぞれ独立に増幅処理する。フィルタ処理部13は、例えばノイズを除去するローパスフィルタ、或いはバンドパスフィルタ等により構成され、増幅器12から出力される左右2チャンネル分の振動信号に対し、不要な周波数帯域を除去し、特定周波数帯域のみをそれぞれ独立に抽出して出力する。その後、フィルタ処理部13によってフィルタ処理された左右2チャンネル分の振動信号は、それぞれ実効値演算部14、及びピーク値演算部16にそれぞれ左右2チャンネル入力される。
実効値演算部14は、フィルタ処理部13から出力される左右2チャンネル分の振動信号に対し、所定時間毎の実効値をそれぞれ独立に演算して、この演算された2つの実効値(左輪側の実効値をE、右輪側の実効値をEと呼ぶ。)を実効値比率判定部15に出力する。実効値比率判定部15は、この2つの実効値E,Eの比率R(=E/E又はE/E)を演算し、この実効値比率Rが事前に設定される第1の設定値A以上か否か、より具体的には2以上(R≧2=A)か否かを判定する。そして、実効値比率判定部15は、その判定結果を異常判定報知部18に出力する。
一方、ピーク値演算部16は、フィルタ処理部13から出力される左右2チャンネル分の振動信号に対し、所定時間毎のピーク値をそれぞれ独立に演算して、この演算された2つのピーク値(左輪側のピーク値をP、右輪側のピーク値をPと呼ぶ。)をピーク値比率判定部17に出力する。ピーク値比率判定部17は、この2つのピーク値P,Pの比率R(=P/P又はP/P)を演算し、このピーク値比率Rが事前に設定される第2の設定値B以上か否か、より具体的には2以上(R≧2=B)か否かを判定する。そして、ピーク値比率判定部17は、その判定結果を異常判定報知部18に出力する。
前述の実効値比率判定部15及びピーク値比率判定部17の判定結果に基づいて異常があると判定された時、すなわち実効値比率Rが第1の設定値以上(R≧A)であると判定され、且つピーク値比率Rが第2の設定値以上(R≧B)であると判定された時に、異常判定報知部18は外部に「異常あり」と報知する。
ここで、実効値比率Rは、ハブユニット軸受80の正常時や面荒れ発生時のようにランダムな振動波形に対して、測定される実効値E、Eの変動が少なく適切な評価を行うことが可能であり、ハブユニット軸受80の劣化程度との相関性もよい。また、ピーク値比率Rは、ハブユニット軸受80の剥離や傷のようなパルス的な振動波形に対して、測定されるピーク値P、Pの応答性が良いため、検出能力に優れる。このように、本実施形態の異常診断装置10では、性質の異なる2つのパラメータである実効値比率R及びピーク値比率Rを用いることによって、異常診断の精度を高めることを可能としている。
なお、異常判定報知部18は、異常があると判定する時、実効値比率判定部15及びピーク値比率判定部17で比率を演算する際に、基準(分母)とならなかった側(分子)、即ち実効値又はピーク値が大きい側のハブユニット軸受80に損傷又は摩耗等の異常があると特定する。例えば、R=E/E≧A、且つR=P/P≧Bである場合は、左側のハブユニット軸受80に異常があると特定される。
次に、図2を参照しながら、本実施形態の異常診断装置10を用いて行われる異常診断のフローについて説明する。
まず、ステップS1では検査担当者は異常診断の対象となる左右一対の車輪をリフター等によりリフトアップする。次に、ステップS2では、検査担当者は自動車のアクセルペダル操作により、異常診断の対象である左右一対の車輪が共に略一定且つ略同一の回転数になるまでこの操作を繰り返す。左右一対の車輪が略一定の回転数になったと判断した後に、ステップS3に進む。
ステップS3では、左右一対の振動センサ11,11から出力された左右2チャンネル分の振動信号の実効値E,Eをそれぞれ独立して求める。また、ステップS4では、左右一対の振動センサ11,11から出力された左右2チャンネル分の振動信号のピーク値P,Pをそれぞれ独立して求める。ステップS5では、求められた2つの実効値の比率R(=E/E又はE/E)を算出すると共に、求められた2つのピーク値の比率R(=P/P又はP/P)を算出する。
次に、ステップS6に進み、右側の実効値Eを基準(分母)とするときの左側の実効値Eの比率R(=E/E)、及び右側のピーク値Pを基準とするときの左側のピーク値Pの比率R(=P/P)が、共に2以上(R,R≧2)であるとき、YESと判断され、左側のハブユニット軸受80に異常があると判断して終了する(ステップS8)。このとき、前述の異常判定報知部18により検査担当者にその異常が報知される。
一方、ステップS6でNOと判断されるときには、ステップS7に進み、左側の実効値Eを基準としたときの右側の実効値Eの比率R(=E/E)、及び左側のピーク値Pを基準とするときの右側のピーク値Pの比率R(=P/P)が、共に2以上(R,R≧2)であるとき、右側のハブユニット軸受80に異常があると判断する(ステップS9)。このときには、前述の異常判定報知部18により検査担当者にその異常が報知される。
このステップS7でNOと判断される場合には、ステップS2に戻り、継続して前述のステップS2からの異常診断のプロセスを実施する。所定時間に亘って実施し、検査担当者が左右一対のハブユニット軸受80,80に異常がないと判断した時点で異常診断装置10を用いた異常診断を終了する。
次に、図3を参照して本実施形態の異常診断装置10の有用性について説明する。
図3は、左右一対のハブユニット軸受80,80に対する異常診断を複数のサンプル(試験サンプル1〜16)に対して行った結果を示すグラフである。なお、試験サンプル1〜12は左右一対のハブユニット軸受80,80の片方のみに損傷があるものであり、試験サンプル13〜16はいずれも損傷がないものである。
図3の結果により、ハブユニット軸受80,80に損傷がある場合の左右の実効値比率R及びピーク値比率Rは共に2以上であり、また損傷がない場合は2未満となっていることがわかる。これにより、本実施形態の異常診断装置10において、第1、第2の設定値A、Bを共に2に設定した妥当性が明らかとなった。
以上説明したように、本実施形態の異常診断装置10によれば、左右一対の振動センサ11,11で計測される左右2チャンネル分の振動信号に対し、所定時間毎の実効値E,E及びピーク値P,Pをそれぞれ左右独立した状態で演算し、この左右2つの実効値の比率R、及び左右2つのピーク値の比率Rを演算して、実効値比率R及びピーク値比率Rが、共に事前に設定される第1及び第2の設定値A及びB以上か否かをそれぞれ判定して、この判定結果に基づき異常診断を行う。このため、従来のように軸受設定諸元の事前設定や車輪の回転数信号を診断中に入力する必要がなく、加えて周波数分析等の複雑な演算処理を行うことがないので、自動車検査場等の現場で異常診断を行うのに取扱いが容易であり、且つ装置を簡素化することができて異常診断の精度を向上することができる。
また、第1及び第2の設定値A及びBを共に2とし、実効値比率判定部15により2つの実効値E,Eの比率Rが第1の設定値A以上であると判定され、且つピーク値比率判定部17により2つのピーク値P,Pの比率Rが第2の設定値B以上であると判定されるときに、異常判定報知部18はハブユニット軸受80が異常であると判定するように構成することによって、異常診断の精度をさらに向上することが可能となる。
また、本実施形態の異常診断装置10によれば、左右一対の振動センサ11,11は左右一対のハブユニット軸受80,80の締結平坦面99,99に対し着脱自在にそれぞれ取り付けられるので、異常診断を行う際、計測対象部位に対してアキシャル方向に振動センサ11,11をそれぞれ容易に取り付けることができる。このため、取り扱い性を更に高めることができる。
なお、本実施形態の変形例として、第2の設定値Bを2とし、実効値比率Rの値に関わらず、少なくともピーク値比率Rが第2の設定値B以上(R≧B=2)であるとき、異常判定報知部18はハブユニット軸受80が異常であると判定するように構成しても良い。このような構成は、ハブユニット軸受80の剥離や傷などが進展した場合、実効値よりもピーク値の方が正常品との比率が大きくなるため、特に有効である。
(第2実施形態)
次に、本発明に係る異常診断装置の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一或いは同等符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
図4に示すように、本実施形態の異常診断装置20は、従動輪用のハブユニット軸受80の異常診断を行う際に用いられるものである。即ち、従動輪用のハブユニット軸受80を計測対象にする場合には、第1実施形態のように、自動車のアクセルペダルを操作して左右一対の車輪を回転させることができない。また、自動車検査場によっては従動輪の車輪を駆動するための車輪駆動ローラ等の外部装置を所有していることがあるが、一般的ではない。
そこで、本実施形態の異常診断装置20では、タイマ機能を備えて左右の車輪の所定の回転数に相当する周期信号を出力する周期信号出力手段としての周期信号出力回路21と、この周期信号出力回路21から出力される回転数周期信号(電気信号)を音信号に変換する2つのヘッドフォン(不図示)と、を更に備える。そして、異常診断を開始するときには、共にヘッドフォンを装着した検査担当者二人を左右の車輪の近くにそれぞれに配置し、この検査担当者二人は、所定の回転数に相当する音信号を聞きながら、その音信号のタイミングに合わせて左右の車輪を同時に手動で回転する。これにより、異常診断を行うために左右の車輪の回転条件を同一とし、所定の回転数で回転させることができる。
その他の構成について上記第1実施形態と同様である。
次に、図5を参照して本実施形態の異常診断装置20の有用性について説明する。
図5は、左右一対のハブユニット軸受に対する異常診断を複数のサンプル(試験サンプル1〜16)に対して行った結果を示すグラフである。なお、試験サンプル1〜13は左右一対のハブユニット軸受80,80の片方のみに損傷があるものであり、一方試験サンプル14〜16はいずれも損傷がないものである。また、この試験では、回転数が80〜100min-1の範囲内になるよう左右の車輪を手動で回転させている。
図5の結果により、ハブユニット軸受80,80に損傷がある場合の左右2つの実効値比率R及びピーク値比率Rは共に2以上であり、また損傷がない場合は2未満となっている。これにより、本実施形態でも異常診断装置20の精度が高いことがわかる。
以上、本実施形態の異常診断装置20によれば、一対の車輪の所定の回転数に相当する周期信号を出力する周期信号出力回路21を備えるので、従動輪用のハブユニット軸受80,80に対し異常診断を行う際に、従動輪の車輪を駆動するための車輪駆動ローラ等の外部装置がなくても異常診断を容易に行うことができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
(第3実施形態)
次に、本発明に係る異常診断装置の第3実施形態について説明する。
なお、第2実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一或いは同等符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
図6に示すように、本実施形態の異常診断装置30は、第2実施形態と同様に、従動輪用のハブユニット軸受80の異常診断を行う際に用いられるものである。この異常診断装置30は、実効値演算部14から出力される実効値(E又はEの一方)を一時的に記録保持し、2つの実効値E及びEが揃ったときに実効値比率判定部15にその2つの実効値E及びEをデータセットとして同時に出力する実効値記憶部31と、ピーク値演算部16から出力されるピーク値(P又はPの一方)を一時的に記録保持し、2つの実効値P及びPが揃ったときにピーク値比率判定部17にその2つのピーク値P及びPを同時にデータセットとして出力するピーク値記憶部32と、を備える。これにより、従動輪の車輪を回転させる要員を一人に減らすことができる。
即ち、本実施形態の異常診断装置30では、検査担当者一人がヘッドフォンで所定の回転数に相当する音信号を聞きながら、その音信号のタイミングに合わせて一方(例えば、左側)の車輪を所定の回転数になるように回転する。所定の回転数になったとき、左側のハブユニット軸受80に関する実効値E及びピーク値Pは、実効値演算部14及びピーク値演算部16によって演算され、実効値記憶部31及びピーク値記憶部32それぞれに記録される。
一方のハブユニット軸受に関する計測が終了した後、次は他方(例えば、右側)のハブユニット軸受80に関する計測を行う。つまり、今度は、検査担当者一人がヘッドフォンで所定の回転数に相当する音信号を聞きながら、その音信号のタイミングに合わせて、左輪の回転条件と同条件となるように右側の車輪を回転する。所定の回転数になったとき、右側のハブユニット軸受80に関する実効値E及びピーク値Pは、実効値演算部14及びピーク値演算部16によって演算され、実効値記憶部31及びピーク値記憶部32それぞれに記録される。そして、右側のハブユニット軸受80に関する計測が終了した段階で、実効値記憶部31及びピーク値記憶部32において、実効値E,E及びピーク値P,Pがそれぞれ左右一対のデータセットとして用意されることになり、実効値記憶部31及びピーク値記憶部32はこれら左右一対のデータセットを、実効値比率判定部15及びピーク値比率判定部17に出力する。これにより異常判定報知部18は、最終的な異常診断の判定を行う。
その他の構成について上記第2実施形態と同様である。
次に、図7を参照して本実施形態の異常診断装置30の有用性について説明する。
図7は、従動輪の左右一対の車輪をリフトアップし、車輪を手動でそれぞれ回転させた状態で計測した場合と、自動車を実走行させて計測した場合と、の実効値比率R及びピーク値比率Rを比較した結果である。
図7の結果により、実走行させて計測する場合よりも、一対の車輪がリフトアップされた状態において手動でそれぞれ回転させて計測した場合の方が、高SN比で診断できることがわかる。また、ハブユニット軸受80,80の片方に損傷がある場合の実効値比率R及びピーク値比率Rは共に2以上であり、また損傷がない場合は2未満となっている。これにより、本実施形態でも異常診断装置30の精度が高いことがわかる。
以上、本実施形態の異常診断装置30によれば、値を一時的に記録保持しデータセットして揃った段階で値を出力する実効値記憶部31及びピーク値記憶部32を備えるので、従動輪用のハブユニット軸受に対し異常診断を行う際に、あまり人員を要することなく実施することができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第2実施形態と同様である。
なお、本発明は前述の実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
10,20,30 異常診断装置
11 振動センサ
12 増幅器
13 フィルタ処理部
14 実効値演算部
15 実効値比率判定部
16 ピーク値演算部
17 ピーク値比率判定部
18 異常判定報知部
21 周期信号出力回路(周期信号出力手段)
31 実効値記憶部
32 ピーク値記憶部
80 ハブユニット軸受(軸受装置)
81 ハブ(回転輪)
82 外輪(静止輪)
83 玉
84 ハブ輪
85 小径段部
86 車輪取り付けフランジ
87 スタッド
88 保持器
90 内輪(回転輪)
91,92 内輪軌道面
93,94 外輪軌道面
95 懸架装置取り付けフランジ
96,97 シール部材
99 締結平坦面
A 第1の設定値
B 第2の設定値
左輪側の実効値(実効値)
右輪側の実効値(実効値)
左輪側のピーク値(ピーク値)
右輪側のピーク値(ピーク値)
実効値の比率
ピーク値の比率

Claims (2)

  1. 車両に取り付けられる一対の車輪を回転自在に支承するため、静止輪と、前記静止輪に対し相対的に回転する回転輪と、を備える一対の自動車用ハブユニット軸受装置に対し、異常を診断する異常診断方法であって、
    前記一対の軸受装置それぞれに取り付けられる一対の振動センサと、
    前記一対の振動センサからそれぞれ出力される2チャンネル分の振動信号をそれぞれ増幅処理する増幅器と、
    前記増幅器から出力される2チャンネル分の振動信号に対し、特定周波数帯域をそれぞれ抽出するフィルタ処理部と、
    前記フィルタ処理部から出力される2チャンネル分の振動信号に対し、所定時間毎の実効値をそれぞれ演算する実効値演算部と、
    前記実効値演算部から演算出力される2つの実効値の比率を演算して、演算された前記2つの実効値の比率が事前に設定される第1の設定値以上か否かを判定する実効値比率判定部と、
    前記フィルタ処理部から出力される2チャンネル分の振動信号に対し、所定時間毎のピーク値をそれぞれ演算するピーク値演算部と、
    前記ピーク値演算部から演算出力される2つのピーク値の比率を演算して、演算された前記2つのピーク値の比率が事前に設定される第2の設定値の値以上か否かを判定するピーク値比率判定部と、
    前記軸受装置の異常を判定して判定結果を報知する異常判定報知部と、
    を備える異常診断装置を用い、
    前記一対の車輪を前記自動車用ハブユニット軸受装置に取り付けてリフトアップした状態で、前記一対の車輪を手動で回転させて異常診断することを特徴とする異常診断方法
  2. 前記軸受装置は、前記車両の車輪を回転自在に支承するハブユニット軸受であり、締結平坦面が形成されるフランジを有し、前記締結平坦面で前記車両の懸架装置にボルト固定されており、
    前記振動センサは、圧電型加速度センサであり、前記ハブユニット軸受の前記締結平坦面に対し着脱自在にそれぞれ取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の異常診断方法
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