JP5547561B2 - 焼結タングステン基合金からなる精密機器用錘 - Google Patents
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Description
携帯電話などのような精密機器の錘の場合、室内外の厳しい環境下で高回転、高振幅、高振動の部分に使用されるため、各部材には高い信頼性が求められる。このため焼結タングステン基合金には、優れた耐食性と、高い接着力により安定的に固定・支持できることが求められる。例えば、特許文献1には、小型アクチュエータ用の錘の接着性について検討した内容が記載されている。
しかし、焼結タングステン基合金にニッケルメッキを施した場合、以下のような問題がある。粉末冶金法で得られる焼結タングステン基合金は、液相焼結により残留空孔を大幅に減らすことはできるが、HIP(熱間等方圧成形)などの処理を行わない限り、通常行われている液相焼結だけでは残留空孔を皆無にすることは難しい。さらに、製品の形状、大きさ、成形時の粉末充填−圧縮などの面で各製品間にばらつきがあり、さらに、焼結炉処理間あるいは焼結炉内の位置関係などにもばらつきが生じるため、携帯電話用など非常に多くの製品を量産する場合には、残留する空孔の量にもばらつきが生じてしまう。
そのため、精密機器の錘等の用途には、ニッケルメッキを施さなくても高い耐食性と密着性が得られる信頼性の高い焼結タングステン基合金が求められている。
また、特許文献2には、ニッケルメッキを省略できる耐食性の高い焼結タングステン基合金が開示されているが、本発明者が検討した結果、接着剤による接着性について、以下のような問題があることが判った。すなわち、焼結タングステン基合金は、上記の通り液相を発生させることにより残留空孔を極力なくすように焼結が行われる。焼結は多くの場合水素を使用した還元性雰囲気中で行うため、焼結体表面は有害な酸化物の形成がなく、油等のよごれもないためそのまま接着を行うことができるメリットがある。しかし、焼結機構は後述するが、焼結体表面は液相で覆われるようになるため、その表面張力によって残留空孔がゼロに近づくに従い焼結体表面はより平滑になる。この合金はW相と配合成分が互いに溶解した合金相との2相の組織であり、その相間では段差が生じているが、全体的には平滑な表面となる。そのような平滑な表面の合金を接着剤で相手材と接合すると、接着剤の溜りができにくいため、接着力が不十分になるという問題がある。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[2]上記[1]の精密機器用錘において、焼結タングステン基合金の表面粗さRzが10μm以上であることを特徴とする精密機器用錘。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの精密機器用錘において、焼結タングステン基合金の密度比が92%以上であることを特徴とする精密機器用錘。
Wが90.0質量%未満では、錘等として必要な高密度を満足せず、一方、97.5質量%を超えると十分な焼結性が得られない。
Feは、延性を付与するために添加されるものである。焼結体の延性が乏しいと、他の部材(例えば、圧電素子)との加圧接着などの際に破損が生じるおそれがある。Fe添加量が0.1質量%未満では、十分な延性が得られない。より好ましいFe添加量は、0.2質量%以上である。また、他の成分量との関係からFe添加量の上限は1.7質量%となる。
一方、耐食性については、NiとFeの比率によって、合金相にFeに起因すると思われる点錆が発生することが判明した。Feは焼結時に発生する液相中に固溶するが、焼結後その旧液相である合金相中へのFe固溶量が少なくなり、Feが析出することにより耐食性が失われるものと推定される。ここで、Fe/Ni>0.4では、Feに起因する点錆が生じやすく、耐食性が劣る。また、このような観点からは、Fe/Niはなるべく低い値であることがより好ましい。一方において、耐食性を維持し、且つ焼結体表面に接着性を向上させることができる凹凸を付与させるためには、Fe/(Ni+Mo+Fe)≦0.2とすることが必要である。
また、本発明の焼結タングステン基合金は、密度が16.9g/cm3以上であること、また、密度比が92%以上であることが好ましい。密度が16.9g/cm3未満では、錘本来の機能が十分に果たせない。また、密度比は実施例の通り92%以上であれば耐食性に問題がないことが確認された。
本発明の焼結タングステン基合金は、基本的には、通常の粉末冶金法により製造することが可能である。すなわち、各金属成分の粉末を配合し、これに必要に応じて潤滑材を添加したものを混合し、この混合粉末を金型により成形する。この成形体を実質的な真空雰囲気、還元性ガス雰囲気或いは不活性ガス雰囲気にて、通常1450〜1550℃の温度で焼成する。これにより、本発明の焼結タングステン基合金を得ることができる。
なお、通常の粉末冶金法のほかに、金属粉末射出成形法(Metal Injection Molding:MIM)でも同様の焼結タングステン基合金を得ることができる。
また、以下のような耐食性、接着性、延性の評価試験を行った。さらに、焼結体表面を実体顕微鏡で観察し、表面凹凸の有無(図1に示すような黒っぽい部分が点在している場合を「表面凹凸あり」と判定)を調べた。それらの結果を、焼結体(錘)の密度、密度比、表面粗さRzとともに表2に示す。
焼結体をエスペック(株)製の恒温恒湿器「PR−1KP」内で85℃・90%で48時間保持し、錆発生の有無を調べた。錆発生の有無は、実体顕微鏡にて焼結体表面を倍率10倍で目視観察し、錆が観察されなかったものを合格“○”、錆が観察されたものを不合格“×”と判定した。
図6に示すように、部材2(SUS316,φ1.2mm×3mm)をエポキシ系接着剤で錘1に接着し、接着剤が乾燥・硬化した後、下記の試験1と試験2の各条件に置き、
・試験1:室温で24時間放置
・試験2:室温で24時間放置した後、恒温恒湿器により85℃・90%で48時間保持
しかる後、室温にて、図6に示す方法で接着部が剥がれ破壊した時のせん断応力を測定した。この測定では、錘1を押さえ3(保持具)で保持した状態で、錘1の上面から約2mm上方の位置で、部材2をその軸線と直交する方向にロードセルで加圧した。加圧速度は1mm/sとし、ロードセル値でせん断強度を評価した。試験1、試験2でのせん断強度測定値のn=10の平均値を測定値とした。本実施例では20N以上を合格レベルとした。
図7に示すように、超硬製のピン4(φ1.5mm、先端球径0.75mm)で錘1に3kNの荷重を与えて加圧し、亀裂発生のない場合を合格“○”、亀裂が発生した場合を不合格“×”と判定した。
図8および図9は、延性評価試験におけるピン加圧部の実体顕微鏡拡大写真であり、図8は発明例である実施例1の焼結体、図9は比較例である実施例11(Fe無添加)の焼結体を示している。これによれば、発明例では亀裂は生じていないのに対して、比較例では亀裂が生じていることが判る。
2 部材
3 押さえ
4 ピン
Claims (4)
- W:90.0〜97.5質量%、Ni:0.2〜5.0質量%、Mo:1.0〜9.7質量%、Fe:0.1〜1.7質量%、残部不可避不純物からなり、質量比で、Mo/Ni≧1.0、Fe/Ni≦0.4、Fe/(Ni+Mo+Fe)≦0.2を満足する組成を有する焼結タングステン基合金からなる精密機器用錘であって、表面にメッキ層を有しないことを特徴とする精密機器用錘。
- 焼結タングステン基合金の表面粗さRzが10μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の精密機器用錘。
- 焼結タングステン基合金の密度が16.9g/cm3以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の精密機器用錘。
- 焼結タングステン基合金の密度比が92%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の精密機器用錘。
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