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JP5476180B2 - 炭化水素油の過酸化物価低減方法、炭化水素油の脱硫方法及び燃料電池システム - Google Patents

炭化水素油の過酸化物価低減方法、炭化水素油の脱硫方法及び燃料電池システム Download PDF

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Description

本発明は硫酸根アルミナを用いた炭化水素油の過酸化物価の低減方法及び脱硫方法、並びに燃料電池システムに関し、特には、硫酸アンモニウムとアルミナ源とを原料として用いて製造された硫酸根アルミナを過酸化物価低減剤として用いた炭化水素油の過酸化物価の低減方法、及び該硫酸根アルミナを吸着脱硫剤として用いた炭化水素油の脱硫方法に関するものである。
地球温暖化ガスであるCOガスや、NO等の自動車排出ガスの排出量を削減する観点から、燃料内に含まれる硫黄分の一層の低減が、社会から強く望まれている。我が国では既に、軽油は2007年から、ガソリンは2008年から硫黄分が10質量ppm以下に規制されている。一方、昨今の燃料電池の技術革新には目を見張るものがある。水素源を石油系燃料に求めた場合、燃料油中に含まれる硫黄分をppbレベルまで低減しなければ、燃料電池の改質器及び電極部の触媒が硫黄分により被毒され、燃料電池システムの機能が低下し、所望する寿命が得られない。このような背景から、超低硫黄分の石油系燃料油を得る脱硫技術が盛んに研究されている。
従来の水素化脱硫方法で除去が難しい難脱硫化合物の大部分は、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類である。灯油の場合、特にチオフェン類及びベンゾチオフェン類の割合が大きく、全硫黄化合物に対するチオフェン類及びベンゾチオフェン類の割合は、硫黄分として70%以上であることが多い。一方で、簡単な操作で、容易に効率的に脱硫できる方法が求められており、例えば、還元処理や水素を必要とせず、また、加圧を必要としないで、かつ室温から150℃程度までの比較的低い温度下で、ジベンゾチオフェン類を効率的に除去できる脱硫剤が熱望されている。
本発明者らは、固体酸及び/又は遷移金属酸化物が担持された活性炭、並びに銅成分及び銀成分を含有することを特徴とする炭化水素油脱硫剤を提案している。しかしながら、従来の固体酸は比表面積が小さいために硫黄化合物の吸着量が少なく、また、遷移金属酸化物が担持された活性炭は硫黄濃度が低い場合には吸着量が少なく、また、銅成分及び銀成分を含有することを特徴とする炭化水素油脱硫剤はジベンゾチオフェン類の吸着量が少なく、いずれも十分な性能を有していなかった(特許文献1〜3参照)。
また、本発明者らは、酸化アルミニウム(アルミナ)を主成分として含有し、特定の硫黄含有量及び物性を有する固体酸を含有する脱硫剤、所謂、硫酸根アルミナ系脱硫剤を用いた脱硫方法を提案している。しかしながら、従来の硫酸根アルミナの製造方法では、吸着力を高めるためにアルミナに担持させる硫酸根を増量しようとしてアルミナに硫酸水溶液を含浸させるが、この場合、アルミナ中に不安定な硫酸根が存在するため、得られる硫酸根アルミナを高温で焼成する必要があり、ひいては該硫酸根アルミナの比表面積が小さくなるため十分な吸着脱硫性能が得られず、また、焼成を行わずに安定な硫酸根を得るためには、元々アルミナ源に含まれる少量の硫黄分を利用することになるが、やはり十分な性能が得られなかった(特許文献4参照)。
また、灯油等の炭化水素油は、長期間保存すると、酸化反応が進行することにより、過酸化物価が上昇する。更に、過酷な条件で該炭化水素油の試験を行うと、灯油の過酸化物価は500質量ppm以上にまで上昇することがある。尚、灯油の過酸化物価は、石油学会石油類試験関係規格「灯油の過酸化物価試験方法」JPI−5S−46−96により測定される。例えば、灯油を燃料電池の水素源とする場合、高温の夏場でも灯油を使用するため、主に冬場のみ暖房用として使用する以上に過酸化物価が上昇しやすい。燃料電池システムで過酸化物価が上昇した灯油を使用すると、加熱部での汚れが発生するだけでなく、還元金属を含有する脱硫剤や触媒を使用する場合には、それらの活性低下が発生することも懸念される。
さらに、過酸化物価が上昇した灯油の硫黄化合物を詳細に分析すると、含酸素硫黄化合物であると考えられる元々含まれていなかった硫黄化合物が確認される。そして、含酸素硫黄化合物は、従来の硫酸根アルミナ系脱硫剤では十分に除去することができなかった。
国際公開第2005/073348号 国際公開第2007/015391号 国際公開第2007/020800号 国際公開第2009/031613号
そこで、本発明は、家庭用など定置式燃料電池システムにおける炭化水素油用の脱硫剤として高い性能を有する硫酸根アルミナ用いた炭化水素油の過酸化物価の低減方法及び脱硫方法、並びに燃料電池システムを提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を達成するため、鋭意検討した結果、硫酸アンモニウムとアルミナ源とを原料として用いることにより、硫酸根担持量が多く、尚且つ、比表面積が大きい硫酸根アルミナを製造できることを見出した。また、過酸化物価が高い炭化水素油を当該硫酸根アルミナで処理すると、過酸化物価を大幅に低減できることを見出した。また、硫酸根担持量が多くて比表面積が大きいという特性により、当該硫酸根アルミナは、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類に対して高い吸着脱硫性能を有することを見出した。さらに、当該硫酸根アルミナによれば、含酸素硫黄化合物を含有する灯油であっても、極めて低い硫黄分まで脱硫することができることを見出した。これらの知見により、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 過酸化物価が1質量ppmより大きい炭化水素油を、硫酸アンモニウムとアルミナ源とを原料として用いて製造された比表面積が250〜500m/gで、尚且つ、硫黄含有率が0.5〜10質量%の硫酸根アルミナと接触させて、該炭化水素油の過酸化物価を低減することを特徴とする炭化水素油の過酸化物価の低減方法
(2) 前記アルミナ源が、擬ベーマイトであることを特徴とする上記(1)に記載の炭化水素油の過酸化物価の低減方法
(3) 前記硫酸アンモニウムが、0.1〜5mol/Lの硫酸アンモニウム水溶液として使用されることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の炭化水素油の過酸化物価の低減方法
(4) チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含み、過酸化物価が1質量ppmより大きい炭化水素油を、硫酸アンモニウムとアルミナ源とを原料として用いて製造された比表面積が250〜500m /gで且つ硫黄含有率が0.5〜10質量%の硫酸根アルミナと接触させて、該炭化水素油を脱硫することを特徴とする炭化水素油の脱硫方法。
(5) 前記アルミナ源が、擬ベーマイトであることを特徴とする上記(4)に記載の炭化水素油の脱硫方法。
(6) 前記硫酸アンモニウムが、0.1〜5mol/Lの硫酸アンモニウム水溶液として使用されることを特徴とする上記(4)又は(5)に記載の炭化水素油の脱硫方法。
(7) 前記硫酸根アルミナは、硫黄含有率が1〜5質量%であることを特徴とする上記(4)〜(6)のいずれかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
(8) 前記炭化水素油と前記硫酸根アルミナとの接触を100℃以下の温度で行うことを特徴とする上記(4)〜(7)のいずれかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
(9) 上記(4)〜(8)のいずれかに記載の方法により炭化水素油を脱硫する脱硫手段と、燃料電池とを具え、前記脱硫手段で脱硫した炭化水素油を前記燃料電池の原燃料として使用することを特徴とする燃料電池システム。
本発明の硫酸根アルミナの製造方法によれば、硫酸根担持量が多く、尚且つ、比表面積が大きい硫酸根アルミナを得ることができる。また、かかる硫酸根アルミナにより、過酸化物価が高い炭化水素油を処理すると、該過酸化物価を大幅に低減することができる。更に、当該硫酸根アルミナは、硫酸根担持量が多くて比表面積が大きいという特性を有しており、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油を、常温から100℃程度までの低い温度で、効率良く脱硫することができる。また更に、含酸素硫黄化合物を含有する灯油等の炭化水素油であっても、当該硫酸根アルミナによれば、極めて低い硫黄分まで該炭化水素油を脱硫することができる。そして、燃料電池の原燃料である灯油などの炭化水素油の脱硫に用いることで、燃料電池の起動やメンテナンスが比較的容易となり、また、燃料電池のシステムを簡略化できるという利点もある。
〔アルミナ源〕
本発明に用いるアルミナ源は、酸化アルミニウム(アルミナ)を含有する物質、或いは、焼成後にアルミナとなる成分を含有する物質であり、具体的には、アルミナ、アルミナ水和物、アルミニウム水酸化物等が挙げられる。また、本発明に用いるアルミナ源としては、擬ベーマイト(Pseudo−Boehmite)が好ましい。擬ベーマイトとは、結晶内に余分の水分子を持つアルミナ水和物であり、Al・xHO(ここで、xは1以上2未満である)で表される化合物である。擬ベーマイトのX線回折インデックスは、ASTM(American Society for Testing and Materials)カードNo.5−0190に記載されているように、典型的には、擬ベーマイトの(020)面間隔が6.2〜6.5Åであり、回折ピークの幅から求めた結晶子径は20〜50Åである。
また、本発明に用いるアルミナ源は、窒素吸着法による比表面積が300〜600m/gであることが好ましく、また、細孔容積は0.7〜1.6ml/gであることが好ましい。アルミナ源の比表面積が300m/gよりも小さいと、得られる硫酸根アルミナの比表面積も小さくなり、過酸化物価の低減性能や脱硫性能が低くなってしまう。一方、アルミナ源の比表面積が600m/gよりも大きいと、得られる硫酸根アルミナの機械的強度や嵩密度が低下してしまう。また、アルミナ源の細孔容積が0.7ml/gよりも小さいと、得られる硫酸根アルミナの細孔容積も小さくなり、過酸化物価の低減性能や脱硫性能が低下するおそれがある。一方、アルミナ源の細孔容積が1.6ml/gよりも大きいと、得られる硫酸根アルミナの機械的強度や嵩密度が低下してしまう。
なお、通常、比表面積[m/g]、細孔容積[ml/g]は、窒素吸着法により測定される。窒素吸着法は簡便で、一般に用いられており、様々な文献に解説されている。かかる文献としては、例えば、鷲尾一裕:島津評論、48 (1)、35-49 (1991)、ASTM Standard Test Method D 4365−95などが挙げられる。
〔硫酸アンモニウム〕
硫酸アンモニウムは、俗に硫安とも呼ばれ、硫酸のアンモニウム塩であり、化学式(NHSOで表わされる斜方晶の無色結晶である。大気中で加熱すると、120℃で分解を始め、357℃でアンモニアを放って融解する。また、硫酸アンモニウムは、粉末のまま用いてアルミナ源と混合しても良いが、容易に水に溶解するので、硫酸アンモニウム水溶液として使用することが好ましい。硫酸アンモニウムを水溶液として使用する場合、硫酸アンモニウム水溶液中の硫酸アンモニウムの濃度は、0.1〜5mol/Lが好ましく、0.3〜3mol/Lが特に好ましい。該硫酸アンモニウムの濃度が0.1mol/Lよりも低いと、硫酸根アルミナの硫酸根担持量を高くするため、アルミナ源により多くの硫酸アンモニウム水溶液を添加する必要があり、混合物であるドウ(dough)の粘性が低くなり過ぎてしまい、上手く混練できない場合がある。また、該硫酸アンモニウムの濃度が5mol/Lよりも高いと、硫酸アンモニウムを水に溶解するために加熱が必要となり、また、目標とする硫酸根担持量に必要とされる硫酸アンモニウム水溶液の量が少なくなるため、アルミナ源に硫酸根を均一に分散させることが困難となる。
〔硫酸根アルミナの製造方法〕
本発明の硫酸根アルミナの製造方法は、上記アルミナ源及び硫酸アンモニウムを原料として用いる限り特に限定されず、例えば、アルミナ源と硫酸アンモニウムとを混練することにより、硫酸根アルミナを製造することができる。なお、本発明において、硫酸根アルミナとは、硫酸化アルミナとも呼ばれるが、硫黄原子を中心とした強い酸性質を示す構造、所謂、硫酸根を含有する酸化アルミニウムを意味する。硫酸根の構造については、様々な学説が存在するが、本発明の硫酸根アルミナの硫酸根の構造は、酸性質を示す限り限定されない。ここで、上記硫酸アンモニウムが硫酸アンモニウム水溶液として使用される場合、まず、目標とする硫酸根担持量が得られるように硫酸アンモニウムをイオン交換水に溶解し、硫酸アンモニウム水溶液を調製する。次いで、アルミナ源としての擬ベーマイト2質量部に対し、硫酸アンモニウム水溶液を約1質量部添加して混練する。擬ベーマイトには、予め、解膠剤として硝酸水溶液を添加しても良い。また、アルミナ源と硫酸アンモニウムの混合物であるドウの粘性を調整するために、さらにイオン交換水を添加しても良い。ドウの水分率を40〜60質量%にすると、混練機の羽根に適度なトルクが生じるので好ましい。また、ドウを60〜120分間混練するとメソ孔が発達するので好ましい。そして、混練後のドウは、例えば、0.1〜4mm径、好ましくは0.5〜1.2mm径の穴が開いたダイスを用いて押出成形される。硫酸根アルミナを過酸化物価低減剤や脱硫剤として使用する場合、表面から中心までの距離を短くして、過酸化物や硫黄化合物の粒子外部からの濃度勾配を大きくすることが好ましいことから、一般に粒子径は小さい方が好ましく、硫酸根アルミナの直径は2mm以下が好ましい。しかし、該直径が0.3mmよりも小さいと、硫酸根アルミナが容易に飛散したり、容器に充填した場合の嵩密度が低くなったり、容器に炭化水素油を流通した場合の圧力損失が大きくなったりするので、硫酸根アルミナの直径は0.3mm以上が好ましい。
本発明の硫酸根アルミナの製造方法においては、硫酸アンモニウムを硫酸アンモニウム水溶液として使用した場合、得られる硫酸根アルミナを乾燥してもよい。例えば、上記硫酸根アルミナの押出物は、110〜200℃(具体的には、130℃)の温度で12〜60時間程度乾燥され、その後、例えばロータリーキルンを用いて、空気を流通させながら焼成される。なお、本発明の硫酸根アルミナの製造方法においては、硫酸根アルミナを焼成する工程は任意であるものの、硫酸根アルミナを焼成することで、硫酸根をアルミナ中に強固に担持させることができる。ここで、焼成温度は、好ましくは500〜900℃であり、更に好ましくは600〜800℃である。焼成温度が500℃よりも低いと、硫酸アンモニウムが十分に分解しない。一方、焼成温度が900℃よりも高いと、焼成後の比表面積の低下が著しく、過酸化物価低減剤や脱硫剤としての性能が低くなる。また、焼成工程中に空気を流通させると、硫酸成分が再吸着することを防止できるため、不安定な硫酸根の形成を低減でき、安定した酸点を有する硫酸根アルミナを製造できる。このときの空気の流速は、好ましくは0.001〜0.1m/秒であり、特に好ましくは0.02〜0.05m/秒である。該空気の流速が0.001m/秒よりも小さいと硫酸成分や水分の再吸着防止効果が少なく、一方、0.1m/秒よりも大きいと均一な温度とすることが難しい。また、ロータリーキルンを用いることで、焼成ムラを低減できる。
なお、硫酸根アルミナを過酸化物価低減剤や脱硫剤の用途に利用する場合、成形体の硫酸根アルミナが好ましく用いられる。形状としては、特に限定するものではないが、過酸化物や硫黄化合物の濃度勾配を大きくするため、流通式の場合には硫酸根アルミナを充填した容器前後の差圧が大きくならない範囲で小さい形状が好ましく、球状、円柱状、円筒状、三つ葉状、四つ葉状などが挙げられ、リング状やサドル状であってもよく、特には球状、円柱状、四つ葉状が好ましい。球状の場合の大きさは、直径が0.5〜5mm、特には1〜3mmが好ましい。円柱状の場合には、直径が0.1〜4mm、特には0.5〜1.2mmで、長さが直径の0.5〜5倍、特には1〜2倍であることが好ましい。
〔硫酸根アルミナの硫黄含有率〕
本発明の製造方法により得られる硫酸根アルミナは、硫黄含有率が0.5〜10質量%であり、1〜5質量%であることが特に好ましい。該硫黄含有率が0.5質量%よりも低いと硫酸根担持の効果が十分に得られない。また、該硫黄含有率が10質量%よりも高いと表面酸性質が低下してしまう。なお、上記硫酸根アルミナを炭化水素油用の脱硫剤として利用する場合、該硫酸根アルミナの硫黄含有率は0.5〜5質量%が好ましい。特に、過酸化物価が高い炭化水素油を対象にして脱硫を行う場合、即ち、含酸素硫黄化合物を吸着除去する場合には、硫黄含有率は高い方が脱硫性能は高いため、硫酸根アルミナの硫黄含有率は1〜5質量%が好ましい。なお、硫酸根アルミナの硫黄含有率は、酸素気流中燃焼し、赤外線吸収法によって測定される。測定装置としては、例えば、LECOジャパン合同会社の多目的硫黄炭素分析装置 SC632 型が挙げられる。
〔硫酸根アルミナの細孔特性〕
本発明の製造方法により得られる硫酸根アルミナは、比表面積が250〜500m/gであり、300〜450m/gであることが特に好ましい。特にアルミナ源としての擬ベーマイトと硫酸アンモニウムとを混練すると、非常に高い比表面積を有する硫酸根アルミナが得られる。また、乾燥後の硫酸根アルミナよりも焼成後の硫酸根アルミナの方が高い比表面積を有していることから、酸化アルミニウム内部の硫酸アンモニウムが分解する際に細孔が形成されるものと考えられる。硫酸根アルミナを過酸化物価低減剤や脱硫剤の用途に利用する場合、過酸化物や硫黄化合物の吸着サイトを増やすため、比表面積を大きくする必要があり、硫酸根アルミナの比表面積は250m/g以上である。しかし、硫酸根アルミナの比表面積が大き過ぎると、機械的強度や嵩密度が低下してしまうので、硫酸根アルミナの比表面積は500m/g以下である。
また、本発明の製造方法により得られる硫酸根アルミナは、細孔容積が0.5〜1.6ml/gであることが好ましい。細孔容積が0.5ml/gよりも小さいと、硫黄化合物の吸着サイトが少ないだけではなく、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類といった比較的大きな分子の硫黄化合物の拡散が阻害されるため、硫黄化合物の濃度が高い場合、硫酸根アルミナの細孔が閉塞し、活用されない吸着サイトが生じるおそれがある。一方、細孔容積が1.6ml/gよりも大きいと、機械的強度や嵩密度が低下するおそれがある。
なお、比表面積[m/g]及び細孔容積[ml/g]は、上述のように、通常、窒素吸着法によって測定される。
〔その他の成分との複合化〕
本発明の製造方法により得られる硫酸根アルミナは、上記過酸化物価低減剤や脱硫剤として単独で用いることができるが、シリカ、アルミナ、他のゼオライトなどの無機微粒子や活性炭などと組み合わせて使用してもよい。具体的には、上記硫酸根アルミナをシリカ、アルミナ、他のゼオライトなどの無機微粒子や活性炭などと混合して、必要に応じて粘土やピッチなどのバインダーを加えて成形および焼成することで、硫酸根アルミナと他の成分との複合物を得ることができる。これにより、脱硫剤が吸着しにくい硫黄化合物の吸着性能を向上させたり、また、メソ孔及びマクロ孔の存在量が増大し、硫黄化合物の拡散速度を向上させたりすることができる。また、硫酸根アルミナに、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、カドミウム、水銀、ガリウム、インジウム、ケイ素、錫、鉛等の酸化金属を担持させたり、混合したりするなど、硫酸根アルミナと酸化金属との複合化により、該複合物の吸着性能を向上させることもできる。
〔炭化水素油の過酸化物価の低減方法〕
次に、本発明の炭化水素油の過酸化物価の低減方法を詳細に説明する。本発明の炭化水素油の過酸化物価の低減方法は、上述の方法により得た硫酸根アルミナを過酸化物価低減剤として使用するものであり、具体的には、過酸化物価が1質量ppmより大きい炭化水素油を上記硫酸根アルミナと接触させて、該炭化水素油の過酸化物価を低減することを特徴とする。本発明の過酸化物価の低減方法によれば、炭化水素油の過酸化物価を大幅に低減することができるため、過酸化物価が1質量ppmを超える炭化水素油に対して好適である。ここで、炭化水素油の過酸化物価が低下する理由は明確ではないものの、上記硫酸根アルミナにより、過酸化物を吸着除去するか又は分解するものと考えられる。なお、炭化水素油の過酸化物価は、上述の通り、石油学会石油類試験関係規格「灯油の過酸化物価試験方法」JPI−5S−46−96に準拠して測定される。
本発明の炭化水素油の過酸化物価の低減方法において、炭化水素油と硫酸根アルミナとを接触させる手法としては、バッチ式(回分式)でも流通式でも構わないが、より好ましくは流通式である。例えば、硫酸根アルミナをカラム等に充填し、該硫酸根アルミナに灯油等の炭化水素油を流通させるような流通式であれば、過酸化物価を低減した後に該炭化水素油が新たに酸素に触れることが無いため、炭化水素油の低い過酸化物価を維持できるため好ましい。流通式の場合、接触させる条件としては、圧力は、装置を簡便にするために、常圧〜0.1MPaGがより好ましく、特には0.001〜0.03MPaGが好ましい。流量は、液空間速度(LHSV)で0.001〜100hr−1が好ましい。温度は、−30〜100℃が好ましい。
〔炭化水素油の脱硫方法〕
次に、本発明の炭化水素油の脱硫方法を詳細に説明する。本発明の炭化水素油の脱硫方法は、上述の方法により得た硫酸根アルミナを脱硫剤として使用するものであり、具体的には、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油を、上記硫酸根アルミナと接触させて、該炭化水素油を脱硫することを特徴とする。本発明の脱硫方法によれば、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類等の難脱硫化合物に対しても優れた吸着性能を発揮できるため、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油に対して好適である。また、炭化水素油に含まれる硫黄化合物は、上記硫酸根アルミナによって吸着除去される。なお、本発明の脱硫方法においては、上記硫酸根アルミナを他の種類の吸着脱硫剤と組み合わせて用いても良い。
本発明の炭化水素油の脱硫方法において、炭化水素油と硫酸根アルミナとを接触させる条件としては、圧力は、常圧〜1.0MPaGが好ましく、常圧〜0.1MPaGがより好ましく、特には0.001〜0.03MPaGが好ましい。流量は、液空間速度(LHSV)で0.001〜100hr−1が好ましく、0.01〜10hr−1がより好ましい。見掛けの線速度は、1×10−7〜1×10−1m/秒、更には5×10−7〜1×10−2m/秒、特には1×10−6〜1×10−3m/秒が好ましい。見掛けの線速度が大きいと、吸着速度(液相から固相への移動速度)に比べて液相自体が吸着剤の充填層を通過する移動速度が速くなり、液相が吸着層出口に到達するまでに吸着質が除去しきれず、除去されない吸着質を含有したまま炭化水素油が出口から流出されてしまうといった問題が生じやすくなる。逆に見掛けの線速度が小さいと、吸着剤層の断面積が相対的に大きくなることから、炭化水素油の分散状態が不良となり、吸着剤層の流れ方向と直角な断面を通過する炭化水素油の流速(流量)にムラが生じやすく、吸着剤層の断面において吸着した吸着質に分布(ムラ)が生じやすいため、吸着剤への負荷が不均一になり、やはり十分効率的に脱硫することができない。
吸着脱硫を行う温度(即ち、硫酸根アルミナと炭化水素油とを接触させる温度)は、100℃以下が好ましく、−30〜100℃が好ましく、特には0〜80℃が好ましい。−30℃よりも低温では、吸着される物質(吸着質)の炭化水素油中の拡散速度が著しく小さく、吸着されるまでに長時間を要する。また、炭化水素油の粘性が高くなるために、脱硫器内での圧力損失が大きくなり、脱硫器入口圧力を高くする必要がある。一般的に、0℃以上が特に好ましい。一方、温度が100℃よりも高いと、ジベンゾチオフェン類の吸着は物理吸着であるために、平衡時の吸着量が著しく減少する。なお、温度は高いほど、吸着速度は向上するが、平衡時のジベンゾチオフェン類の吸着量が少なくなるので、80℃以下が特に好ましい。
〔炭化水素油〕
本発明の方法で製造した硫酸根アルミナが対象とする炭化水素油は、特に限定されるものではないが、本発明の過酸化物価の低減方法に用いる硫酸根アルミナが適用対象とする炭化水素としては、過酸化物価が1質量ppmより大きい炭化水素油が挙げられ、一方、本発明の脱硫方法に用いる硫酸根アルミナが適用対象とする炭化水素油としては、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油や、更に過酸化物価が1質量ppmより大きい炭化水素油が挙げられる。上記炭化水素油の具体例としては、灯油、軽油などが挙げられ、特には高度に(深度に)脱硫する必要のある燃料電池用の灯油が挙げられる。
これらの硫黄化合物の定性及び定量分析には、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph:GC)−炎光光度検出器(Flame Photometric Detector:FPD)、GC−原子発光検出器(Atomic Emission Detector:AED)、GC−硫黄化学発光検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector:SCD)、GC−誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)などを用いることができるが、質量ppbレベルの分析にはGC−ICP−MSが最も好ましい(特開2006−145219号公報参照)。
特に、灯油に含まれるチオフェン類やベンゾチオフェン類は、灯油の過酸化物価が上昇すると、酸化反応が進行するものと考えられ、ガスクロマトグラムでの保持時間(リテンションタイム)が長くなる。そして、酸化反応により生成した含酸素硫黄化合物は、硫酸根の少ない硫酸根アルミナで処理しても完全に除去することが難しく、さらに反応が進行するものと考えられ、リテンションタイムが更に長くなる。このような含酸素硫黄化合物を除去するには、硫黄含有率が1〜5質量%である硫酸根アルミナを脱硫剤として使用することが好ましい。
灯油は、炭素数12〜16程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.79〜0.85g/cm、沸点範囲150〜320℃程度の油である。灯油は、パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素を0〜30容量%程度含み、多環芳香族も0〜5容量%程度含む。一般的には、灯火用及び暖房用・ちゅう(厨)房用燃料として日本工業規格JIS K2203に規定される1号灯油が対象となる。該1号灯油は、品質として、引火点40℃以上、95%留出温度270℃以下、硫黄分0.008質量%以下、煙点23mm以上(寒候用のものは21mm以上)、銅板腐食(50℃、3時間)1以下、色(セーボルト)+25以上の規定がある。なお、灯油は、通常、硫黄分を数質量ppmから80質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから10質量ppm程度含む。
軽油は、炭素数16〜20程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.82〜0.88g/cm、沸点範囲140〜390℃程度の油である。軽油は、パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素も10〜30容量%程度含み、多環芳香族も1〜10容量%程度含む。なお、軽油は、硫黄分を数質量ppmから100質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから数10質量ppm程度含む。
チオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五員環又は六員環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環がベンゼン環と縮合していない硫黄化合物及びその誘導体であり、複素環同士が縮合した化合物も含む。チオフェンは、チオフランとも呼ばれ、分子式C44Sで表わせる、分子量84.1の硫黄化合物である。その他の代表的なチオフェン類としては、メチルチオフェン(チオトレン、分子式C56S、分子量98.2)、チオピラン(ペンチオフェン、分子式C56S、分子量98.2)、チオフテン(分子式C642、分子量140)、テトラフェニルチオフェン(チオネサル、分子式C2020S、分子量388)、ジチエニルメタン(分子式C982、分子量180)及びこれらの誘導体が挙げられる。
ベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五原子環又は六原子環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が1個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物及びその誘導体である。ベンゾチオフェンは、チオナフテン、チオクマロンとも呼ばれ、分子式CSで表わせる、分子量134の硫黄化合物である。その他の代表的なベンゾチオフェン類としては、メチルベンゾチオフェン、ジメチルベンゾチオフェン、トリメチルベンゾチオフェン、テトラメチルベンゾチオフェン、ペンタメチルベンゾチオフェン、ヘキサメチルベンゾチオフェン、メチルエチルベンゾチオフェン、ジメチルエチルベンゾチオフェン、トリメチルエチルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルベンゾチオフェン、メチルジエチルベンゾチオフェン、ジメチルジエチルベンゾチオフェン、トリメチルジエチルベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルベンゾチオフェン、メチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルベンゾチオフェンなどのアルキルベンゾチオフェン、チアクロメン(ベンゾチア−γ−ピラン、分子式CS、分子量148)、ジチアナフタリン(分子式C、分子量166)及びこれらの誘導体が挙げられる。
ジベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五原子環又は六原子環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が2個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物及びその誘導体である。ジベンゾチオフェンは、ジフェニレンスルフィド、ビフェニレンスルフィド、硫化ジフェニレンとも呼ばれ、分子式C12Sで表わせる、分子量184の硫黄化合物である。4−メチルジベンゾチオフェンや4,6−ジメチルジベンゾチオフェンは、水素化脱硫における難脱硫化合物として良く知られている。その他の代表的なジベンゾチオフェン類としては、トリメチルジベンゾチオフェン、テトラメチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルジベンゾチオフェン、オクタメチルジベンゾチオフェン、メチルエチルジベンゾチオフェン、ジメチルエチルジベンゾチオフェン、トリメチルエチルジベンゾチオフェン、テトラメチルエチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルエチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルエチルジベンゾチオフェン、メチルジエチルジベンゾチオフェン、ジメチルジエチルジベンゾチオフェン、トリメチルジエチルジベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルジエチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルジエチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルジエチルジベンゾチオフェン、メチルプロピルジベンゾチオフェン、ジメチルプロピルジベンゾチオフェン、トリメチルプロピルジベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルジベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルプロピルジベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルエチルプロピルジベンゾチオフェンなどのアルキルジベンゾチオフェン、チアントレン(ジフェニレンジスルフィド、分子式C12、分子量216)、チオキサンテン(ジベンゾチオピラン、ジフェニルメタンスルフィド、分子式C1310S、分子量198)及びこれらの誘導体が挙げられる。
また、燃料電池などの水素源として炭化水素油を用いる場合、炭化水素に含まれる硫黄は、水素製造過程で改質触媒の触媒毒であるから厳しく除去する必要がある。これに対して、本発明の方法で製造した硫酸根アルミナは、硫黄化合物を極めて微量濃度まで低減することができる。したがって、本発明の方法で製造した硫酸根アルミナを用いれば、水素製造用の改質触媒を被毒することなく水素を製造して燃料電池に供給することができる。
〔燃料電池システム〕
本発明の燃料電池システムは、上述した方法により炭化水素油を脱硫する脱硫手段と、燃料電池とを具え、脱硫手段で脱硫した炭化水素油を燃料電池の原燃料として使用することを特徴とする。ここで、脱硫手段としては、公知の脱硫器を用いることができ、例えば、脱硫器に上述した硫酸根アルミナを充填し、炭化水素油を流通させることで、炭化水素油を脱硫する。なお、本発明の燃料電池システムは、該脱硫手段及び燃料電池の他に、通常、脱硫された炭化水素油を改質して水素を含む改質ガスを生成させる改質手段を具え、該改質ガスを用いて燃料電池で発電を行う。ここで、改質手段には、通常、公知の改質触媒が充填される。
上述のように、燃料電池の原燃料(水素源)として炭化水素油を用いる場合、炭化水素油に含まれる硫黄は、水素製造過程において改質触媒の触媒毒となるが、上述した本発明の脱硫方法は、硫黄化合物を極めて微量濃度まで低減できるので、該方法に従う脱硫手段を、燃料電池システムに組み込むことにより、水素製造用の改質触媒を被毒することなく水素を製造して燃料電池に供給することができる。従って、本発明の燃料電池システムは、灯油又は軽油をオンボード改質燃料として燃料電池自動車に使用する場合に、特に好適に適用できる。なお、本発明の燃料電池システムは、定置式であっても良いし、可動式(例えば、燃料電池自動車など)であってもよい。また、本発明の燃料電池システムにおいて、燃料電池で使用する水素を発生させるための原燃料である炭化水素油としては、灯油や軽油などが好ましく、灯油が特に好ましい。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
〔硫酸根アルミナの調製−1〕
擬ベーマイト粉(硫黄含有率0.4質量%、比表面積429m/g、細孔容積0.79ml/g)2kgを10L混練機に導入し、0.3mol/L(硫酸根アルミナA)、0.6mol/L(硫酸根アルミナB)又は2.5mol/L(硫酸根アルミナC)の硫酸アンモニウム水溶液を1L加え、回転トルクを掛けながら、ドウの水分調整を行いつつ1時間の混練を行った。0.7mm径の穴が開いたダイスを用いて、押出成形機により成形した。押出品を130℃で16時間乾燥した後、乾燥ペレットを折りながら、長さを0.35〜0.71mmに篩い分けして整粒を行った。整粒した乾燥ペレット100mlを、ロータリーキルンを用いて、乾燥空気流量8L/分(線速度0.03m/秒)中、700℃まで1時間で昇温し、次いで700℃にて1時間保持して、硫酸根アルミナA〜Cを調製した。比較例として、硫酸アンモニウム水溶液の代わりに3.5質量%の硝酸水溶液を用いて、擬ベーマイトに含有されている硫黄分のみを硫酸根源とし、他の条件は実施例と同一にして、硫酸根アルミナDを調製した。得られた硫酸根アルミナの組成及び物性を表1に示す。
Figure 0005476180
〔灯油浸せき式吸着脱硫実験−1〕
硫酸根アルミナA(実施例1)、硫酸根アルミナB(実施例2)、硫酸根アルミナC(実施例3)及び硫酸根アルミナD(比較例1)を用い、灯油への浸せき式吸着脱硫実験(バッチ式実験)を実施した。
過酸化物価1質量ppm以下の灯油Aを長期間保存することにより、過酸化物価117質量ppmの高過酸化物価灯油A’を得た。硫酸根アルミナA〜Dに対する高過酸化物価灯油A’の質量比率(液固比)を240として、高過酸化物価灯油A’中に硫酸根アルミナを浸せきし、10℃にて10日間静置して十分に吸着平衡状態とさせた後、灯油を取り出し、硫黄化合物タイプをGC−ICP−MSで分析した。
硫黄化合物のタイプは、「軽質硫黄化合物」(チオフェンよりも軽質の硫黄化合物)、「チオフェン(TP)類及びベンゾチオフェン(BT)類」(チオフェン及びチオフェンよりも重質であり4−メチルジベンゾチオフェン(分子量198)よりも軽質の硫黄化合物)、「ジベンゾチオフェン(DBT)類」(4−メチルジベンゾチオフェン及び4−メチルジベンゾチオフェンよりも重質の硫黄化合物、分子量198以上の重質硫黄化合物)の3分類とした。
また、全硫黄分、「TP類及びBT類」及び「DBT類」について、浸せき前後の灯油の硫黄分の値から、次の式(1):
脱硫率[%]=100×(S1−S2)/S1 ・・・ (1)
により吸着除去した硫黄分の割合を脱硫率[%]として算出した。式中、S1及びS2は、それぞれ実験前及び実験後の灯油の硫黄分を示す。
灯油A(ジャパンエナジー社製)は、沸点範囲146.5〜278.0℃、密度(15℃)0.7944g/ml、芳香族分17.8容量%、飽和分82.2容量%、オレフィン分0.0容量%、硫黄分5.0質量ppm、軽質硫黄化合物(チオフェンよりも軽質の硫黄化合物)に由来する硫黄分0.0質量ppm、チオフェン類及びベンゾチオフェン類(チオフェン及びチオフェンよりも重質であり4−メチルジベンゾチオフェン(分子量198)よりも軽質の硫黄化合物)に由来する硫黄分3.5質量ppm、ジベンゾチオフェン類(4−メチルジベンゾチオフェン及び4−メチルジベンゾチオフェンよりも重質の硫黄化合物、分子量198以上の重質硫黄化合物)に由来する硫黄分1.5質量ppm、窒素分0.5質量ppm以下、過酸化物価1質量ppm以下であった。
灯油浸せき式吸着脱硫実験−1の結果について、脱硫率を表2に示す。また、実施例3の実験後の灯油の過酸化物価を電量滴定法により測定したところ、5質量ppmまで低減されていた。従って、本発明の方法により製造された硫酸根アルミナは、高過酸化物価の灯油に対しても、高い脱硫性能を有することが分かる。
Figure 0005476180
〔灯油流通式吸着脱硫実験〕
過酸化物価1質量ppm以下の灯油Bを長期間保存することにより、過酸化物価24質量ppmの高過酸化物価灯油B’を得た。硫酸根アルミナA(実施例4)10mlをカラムに充填し、高過酸化物価灯油B’を室温(25℃)にて7.2ml/時の流量で流通させた。また、硫酸根アルミナAの代わりにモレキュラーシーブ3A(比較例2)を使用した以外は、実施例4と同じ条件で比較実験を実施した。
130時間後の灯油を採取し、全硫黄分と過酸化物価を測定した。全硫黄分についは、上記式(1)により脱硫率を求めた。また、過酸化物価については、次の式(2):
過酸化物価低減率[%]=100×(P1−P2)/P1 ・・・ (2)
により低減した過酸化物価の割合を過酸化物価低減率[%]として算出した。式中、P1及びP2は、それぞれ実験前及び実験後の灯油の過酸化物価を示す。
灯油B(ジャパンエナジー社製)は、沸点範囲158.0〜271.5℃、5%留出点170.5℃、10%留出点175.5℃、20%留出点183.0℃、30%留出点190.0℃、40%留出点197.5℃、50%留出点206.0℃、60%留出点215.0℃、70%留出点224.0℃、80%留出点234.0℃、90%留出点248.0℃、95%留出点259.5℃、97%留出点269.0℃、密度(15℃)0.7940g/ml、芳香族分16.9容量%、飽和分83.1容量%、硫黄分6.5質量ppm、窒素分1質量ppm以下、過酸化物価1質量ppm以下であった。
灯油流通式吸着脱硫実験の結果について、脱硫率及び過酸化物価低減率を表3に示す。本発明の方法により製造された硫酸根アルミナは、高過酸化物価の灯油に対しても、高い脱硫性能と、高い過酸化物価低減性能とを有することが分かる。
Figure 0005476180
〔硫酸根アルミナの調製−2〕
擬ベーマイト粉(硫黄含有率0.4質量%、比表面積429m/g、細孔容積0.79ml/g)2kgを10L混練機に導入し、0.6mol/Lの硫酸アンモニウム水溶液を1L加え、回転トルクを掛けながら、ドウの水分調整を行いつつ0.5時間の混練を行った。0.7mm径の穴が開いたダイスを用いて、押出成形機により成形した。押出品を130℃で16時間乾燥した後、乾燥ペレットを折りながら、長さを0.35〜0.71mmに篩い分けして整粒を行った。整粒した乾燥ペレット100mlを、ロータリーキルンを用いて、乾燥空気流量8L/分(線速度0.03m/秒)中、所定温度(600℃、700℃又は800℃)まで1時間で昇温し、次いで600℃(硫酸根アルミナE)、700℃(硫酸根アルミナF)又は800℃(硫酸根アルミナG)にて1時間保持して、硫酸根アルミナE〜Gを調製した。得られた硫酸根アルミナの組成及び物性を表4に示す。
Figure 0005476180
〔灯油浸せき式吸着脱硫実験−2〕
硫酸根アルミナE(実施例5)、硫酸根アルミナF(実施例6)及び硫酸根アルミナG(実施例7)を用い、灯油への浸せき式吸着脱硫実験(バッチ式実験)を実施した。
硫酸根アルミナE〜Gに対する過酸化物価1質量ppm以下の灯油Cの質量比率(液固比)を30、120及び240として、灯油C中に硫酸根アルミナを浸せきし、10℃にて10日間静置して十分に吸着平衡状態とさせた後、灯油を取り出し、全硫黄分を燃焼酸化−紫外蛍光法で分析した。また、得られた全硫黄分の値から、上記式(1)により脱硫率を求めた。
灯油C(ジャパンエナジー社製)は、沸点範囲163.0〜268.5℃、密度(15℃)0.7928g/ml、芳香族分14.8容量%、飽和分85.2容量%、オレフィン分0.0容量%、硫黄分2.1質量ppm、窒素分1質量ppm以下、過酸化物価1質量ppm以下であった。
灯油浸せき式吸着脱硫実験−2の結果について、全硫黄分に関する脱硫率を表5に示す。表5の結果から、過酸化物価1質量ppm以下の灯油に対しても、本発明の方法により製造された硫酸根アルミナは、高い脱硫性能を有することが分かる。
Figure 0005476180
〔試験方法〕
なお、上記で特に説明をしていない、擬ベーマイト粉、硫酸根アルミナ、モデル油、灯油の物性等の測定は、次の試験方法に準じて行った。
・灯油の蒸留性状:JIS K2254に準拠して測定した。
・灯油の密度(15℃):JIS K2249に準拠して測定した。
・炭化水素の成分組成(芳香族分、飽和分、オレフィン分):JPI-5S-49-97に準拠して測定した。
・灯油に含有される硫黄分(全硫黄分):燃焼酸化−紫外蛍光法で分析した。
・灯油に含有される硫黄化合物タイプ分析(チオフェンより軽質な留分中の硫黄分、チオフェン類及びベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類):GC−ICP−MSで分析した。
・灯油に含有される窒素分:JIS K2609に記載の微量電量滴定法に準拠して測定した。
・硫酸根アルミナの比表面積:窒素吸着法により測定し、BET(Brunouer-Emmett-Teller)法により算出した。
・硫酸根アルミナの細孔容積:窒素吸着法により測定した。

Claims (9)

  1. 過酸化物価が1質量ppmより大きい炭化水素油を、硫酸アンモニウムとアルミナ源とを原料として用いて製造された比表面積が250〜500m/gで、尚且つ、硫黄含有率が0.5〜10質量%の硫酸根アルミナと接触させて、該炭化水素油の過酸化物価を低減することを特徴とする炭化水素油の過酸化物価の低減方法
  2. 前記アルミナ源が、擬ベーマイトであることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素油の過酸化物価の低減方法
  3. 前記硫酸アンモニウムが、0.1〜5mol/Lの硫酸アンモニウム水溶液として使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化水素油の過酸化物価の低減方法
  4. チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含み、過酸化物価が1質量ppmより大きい炭化水素油を、硫酸アンモニウムとアルミナ源とを原料として用いて製造された比表面積が250〜500m /gで且つ硫黄含有率が0.5〜10質量%の硫酸根アルミナと接触させて、該炭化水素油を脱硫することを特徴とする炭化水素油の脱硫方法。
  5. 前記アルミナ源が、擬ベーマイトであることを特徴とする請求項4に記載の炭化水素油の脱硫方法
  6. 前記硫酸アンモニウムが、0.1〜5mol/Lの硫酸アンモニウム水溶液として使用されることを特徴とする請求項4又は5に記載の炭化水素油の脱硫方法
  7. 前記硫酸根アルミナは、硫黄含有率が1〜5質量%であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
  8. 前記炭化水素油と前記硫酸根アルミナとの接触を100℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
  9. 請求項4〜8のいずれかに記載の方法により炭化水素油を脱硫する脱硫手段と、燃料電池とを具え、前記脱硫手段で脱硫した炭化水素油を前記燃料電池の原燃料として使用することを特徴とする燃料電池システム。
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