以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、後述する装置構成や処理動作の内容は発明を説明するための一例であり、本発明は、後述する装置構成や処理動作に既知の技術を組み合わせた発明や後述する装置構成や処理動作の一部を既知の技術と置換した発明も包含する。
なお、以下に説明する各実施例は、ESIイオン源を搭載する検査システムに関するものであり、試料溶液をイオン化する場所(領域)と、試料溶液をキャピラリーに吸引する場所(領域)と、キャピラリー及び又はガス噴霧管等を洗浄する場所(領域)と、発生されたイオンを検査する検査装置と、各領域間でイオン化プローブを搬送する搬送機構を有するものとする。また、実施例の説明に使用する各図は、各実施例に特有な構造や処理動作の説明のために、構造や処理動作の内容を強調して又は簡略化して描画している。
[実施例1]
(動作シーケンスの概要)
実施例1では、ESIイオン源(イオン化プローブ)1が試料溶液の吸引場所から試料溶液をイオン化する場所に搬送され、さらに洗浄場所に搬送される場合に使用して好適なESIイオン源1の構造と搬送動作について説明する。なお、ESIイオン源1の移動には、ロボット機構であるESIイオン源ホルダが使用される。
図3は、ESIプローブ2(キャピラリー電極3とガス噴霧管4の構造部分)に着目し、各部におけるESIイオン源(イオン化プローブ)1の使用態様を概略的に示す。図3では、矢印の順番に、試料溶液吸引場所13でのESIプローブ2の使用態様、イオン化場所14でのESIプローブ2の使用態様、洗浄場所15でのESIプローブ2の使用態様を示す。
試料溶液吸引場所13では、キャピラリー電極3の先端が試料容器16の試料溶液5中に位置決めされ、試料溶液5を吸引する。ここで、キャピラリー電極3は中空形状を有する導電性の細管であり、ガス噴霧管4はキャピラリー電極3の先端から吐出される液滴径を小さくする気体を流す筒状の部材である。後述すように、キャピラリー電極3はガス噴霧管4の根元側(先端部9と反対側)で、直接又は間接的に不図示の連結部を通じて連結されている。また、キャピラリー電極3は、略円筒形状のガス噴霧管4の中心軸方向に可動自在に収容されているものとする。試料溶液5がキャピラリー電極3に吸引されると、ESIイオン源1は、イオン化場所14に搬送される。すなわち、キャピラリー電極3とガス噴霧管4が一体的にイオン化場所14に搬送される。
この搬送中に又はイオン化場所14において、キャピラリー電極3の先端とガス噴霧管4の先端の相対位置が変更される。具体的には、図3に示すように、キャピラリー電極3の先端部9が、ガス噴霧管4の先端からわずかに突き出た状態に変更される。この相対位置の変更は、キャピラリー電極3を軸方向にガス噴霧管4に移動させることによっても、ガス噴霧管4をキャピラリー電極3の軸方向に移動させることによっても、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の両方をそれぞれ軸方向に移動させることによっても行うことができる。相対位置の変更には不図示の移動機構や連結部を使用する。
イオン化場所14では、キャピラリー電極3の先端から試料溶液5が液滴として吐出された後、ガス噴霧管4に供給された気体8によりイオン7が生成される。発生されたイオンの検出が終了すると、ESIイオン源1は、洗浄場所15に搬送される。やはり、キャピラリー電極3とガス噴霧管4が一体的に洗浄場所15に搬送される。この搬送の際、キャピラリー電極3の先端はガス噴霧管4の先端から突き出した状態のまま搬送される。従って、イオン化の終了時にキャピラリー電極3の先端に液滴が形成されたとしても、搬送中の振動によりキャピラリー電極3に残留した試料溶液5が滴下したとしても、ガス噴霧管4の内側及び先端を汚染することはない。なお、この搬送中に又はイオン化場所14において、キャピラリー電極3の先端とガス噴霧管4の先端の相対位置が変更される。
洗浄場所15では、洗浄容器17に入った洗浄液18により、キャピラリー電極3が洗浄される。ただし、洗浄は、キャピラリー電極3をガス噴霧管4に収容した状態のまま、キャピラリー電極3の先端をガス噴霧器4の先端から大きく突き出した状態で行う。ガス噴霧器4の内側の汚染を避けるためである。洗浄液18の吸入と排出を複数回繰り返すことにより、キャピラリー電極3の表面だけでなく、その内側についても洗浄される。なお、キャピラリー電極3に残留している試料溶液5は洗浄場所15において、又は、廃液場所で廃棄される。キャピラリー電極3の洗浄が終了すると、ESIイオン源1は、次に分析する試料溶液5が格納されている試料容器17に搬送される。以後、前述と同様の手順により吸引、イオン化、洗浄が繰り返し実行され、複数の試料溶液5に対する分析が可能となる。
なお、一番目の分析に用いる試料溶液5を吸引する前に、キャピラリー電極3を洗浄することも可能である。この場合、使用前にキャピラリー電極3に付着している汚れを洗浄することができる。
図3に示すように、本実施例では、試料溶液吸引場所13で試料溶液5を吸引する際、ガス噴霧管4の先端は試料溶液5に接しない位置に移動させる。このため、ガス噴霧管4に試料溶液5が付着するのを防止できる。また、イオン化場所14でのイオン化の実行時には、ガス噴霧管4の先端をキャピラリー電極3の先端付近の位置に移動させる。また、洗浄場所15でキャピラリー電極3を洗浄する際は、吸引時と同様に、ガス噴霧管4を洗浄液18に接しない位置に移動させる。これにより、ガス噴霧管4に洗浄液18が付着するのを防止できる。以上により、ガス噴霧管4の汚染を抑制することができる。
なお前述したように、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置の変更又は相対移動は、試料溶液吸引場所13、イオン化場所14、洗浄場所15の各間でESIイオン源1を搬送する途中のタイミングで実行することが望ましい。特に、試料溶液吸引場所13や洗浄場所15にESIプローブ2がある状態で、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置を変化させると、ガス噴霧管4を試料溶液5や洗浄液18で汚染する可能性が高くなる。一方、イオン化場所14においては、ガス噴霧管4の汚染のリスクは相対的に高くないので、イオン化場所14でキャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置を変化させることがより望ましい。
(詳細動作)
(試料溶液吸引場所における動作)
ここでは、試料溶液吸引場所13において、試料溶液5をキャピラリー電極3に吸引する際の詳細動作を説明する。図4に、ISEイオン源1の構造例と、試料溶液5を吸引する際の使用態様を示す。図4に示すように、ESIイオン源1は、図3に示したキャピラリー電極3及びガス噴霧管4以外にも、吸引吐出機構19、ガス噴霧管移動機構20、配管21、気密機構22を有している。
吸引吐出機構19は、試料溶液5の吸引又は吐出を実現する駆動機構である。吸引吐出機構19は、キャピラリー電極3の管内にある空気層を介して試料溶液5の吸引や吐出を実現する装置であり、周知の装置を使用する。なお、キャピラリー電極3の内径は、詰まり防止などの観点から0.1mm以上であることが望ましい。
ここでのガス噴霧管移動機構20は、ガス噴霧管4を試料溶液5に接しない位置まで相対的に移動させるために使用される。ガス噴霧管移動機構20には、回転運動を直線運動に変換する直動ステージ、油圧駆動機構その他の直線駆動機構を使用する。
例えばESIイオン源1を全体的に保持する部材にキャピラリー電極3が固定されている場合、ガス噴霧管移動機構20はガス噴霧管4だけを移動させる。これに対し、ESIイオン源1を全体的に保持する部材にガス噴霧管4が固定されている場合、ガス噴霧管移動機構20はキャピラリー電極3だけを移動させる。この場合は、キャピラリー電極移動機構と呼ぶ。いずれの駆動態様を選択するかは自由である。なお、ESIイオン源1を全体的に保持する部材に対して、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の両方をそれぞれ対応するガス噴霧管移動機構20で独立に駆動しても良い。このガス噴霧管移動機構20が、特許請求の範囲における移動機構に相当する。
なお、配管21や気密機構22は、イオン化の際に使用する部材である。詳細については、イオン化場所における動作の項で説明する。
(イオン化場所における動作)
ここでは、イオン化場所14において、試料溶液5をイオン化する際の詳細説明を説明する。図5に、試料溶液5をイオン化する際におけるISEイオン源1と、イオン取り込み口10及び検出装置11との位置関係を示す。この場合、ガス噴霧管4の先端部9は、質量分析装置その他の検出装置11に配置されたイオン取込み部10の開口近傍に配置される。この配置により、イオン取込み部10におけるイオン7の導入効率が向上し、検出装置11における検出効率が向上する。
イオン化場所14では、キャピラリー電極3の先端が、ガス噴霧管4の先端からわずかに突き出るように位置決めされる。勿論、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の位置関係の変更にはガス噴霧管移動機構20が用いられる。この場合、ガス噴霧管移動機構20は、キャピラリー電極3の先端とガス噴霧管4の先端を近づけるように、ガス噴霧管4を移動させる。図5においては、キャピラリー電極3がESIイオン源1を全体的に保持している部材に固定されており、ガス噴霧管4だけが先端部9の方向に移動された様子を描画している。もっとも、前述の通り、ESIイオン源1を全体的に保持している部材にガス噴霧管4が固定されている場合には、キャピラリー電極3がガス噴霧管4に収容される方向に駆動される。勿論、どちらの駆動方式を採用しても良い。
キャピラリー電極3の先端とガス噴霧管4の先端とがイオン化に適した位置に移動すると、キャピラリー電極3の中に吸引されていた試料溶液5が、キャピラリー電極3の先端から吐出される。この際、キャピラリー電極3とイオン取込み部10との間には電位差が印加されている。この電位差により、吐出された試料溶液5はイオン化し、イオン7が生成される。
この際、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の間に対し、配管21を介して気体8が供給される。気体8の供給は不図示のポンプを用いて行われる。気体8は、ガス噴霧管4の先端部9に設けられた開口から外部に出力される。この気体8の流れにより、キャピラリー電極3から噴霧される液滴を小さくすることができ、イオン化効率を向上することができる。
ガス噴霧管4から噴霧される気体8は、キャピラリー電極3の先端付近でキャピラリー電極3と同心円上で高速に噴霧されることが理想である。高速度での噴霧のため、ガス噴霧管4の先端部9の内径は先端に近づくほど小さく絞られている。ガス噴霧管4により気体8を噴霧する方式は、キャピラリー電極3の外径が0.2mmを超える程度の大きさの場合に効果的である。また、生成されたイオン7によりガス噴霧管4が汚染されるのを防止するため、キャピラリー電極3の先端はガス噴霧管4の先端に対し、少なくとも0.5mm程度突出している必要がある。
因みに、キャピラリー電極3に印加される電圧が正の場合には正イオン、電圧が負の場合には負イオンが生成される。また、キャピラリー電極3とガス噴霧管4は同電位に設定しても良い。生成されたイオン7は、イオン取込み部10から導入され、質量分析装置等の検出装置11で検出される。なお、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の間隙(キャピラリー電極3の外壁とガス噴霧管4の内壁で囲まれた空間)の一端は、配管21から導入された気体8が先端部9の方向にのみ流れるように気密機構22で封止される。気密機構22は、配管21の取り付け位置よりもガス噴霧管4の根元側に配置される。気密機構22は、キャピラリー電極3の軸方向への可動を妨げない材料及び又は構造であることが求められる。
(洗浄場所における動作)
ここでは、洗浄場所15において、キャピラリー電極3を洗浄する際の詳細説明を説明する。図6に、キャピラリー電極3を洗浄する際におけるISEイオン源1と、洗浄容器17との位置関係を示す。キャピラリー電極3の洗浄は、吸引吐出機構19により洗浄液18を吸引又は吐出することで実行される。吸引と吐出を複数回繰り返せば、キャピラリー電極3の内側の洗浄効果を一層高めることができる。
なお、キャピラリー電極3の洗浄時、ガス噴霧管4は、その先端部9が洗浄液18に接しないように位置決めされる。位置決めにはガス噴霧管移動機構20が用いられる。図6では、この位置決め動作を表すため、ガス噴霧管移動機構20の高さ方向の長さを図5の場合よりも短く描いている。
すなわち、図6は、ESIイオン源1の全体を保持している部材にキャピラリー電極3が固定されている場合について表している。反対に、ESIイオン源1の全体を保持している部材にガス噴霧管4が固定されている場合には、ガス噴霧管移動機構20により、キャピラリー電極3を相対的に移動させる構成を採用する。前述の通り、キャピラリー電極3とガス噴霧管4のどちらを移動させるかは実装時の判断による。
また、キャピラリー電極3による洗浄液18の吸引又は吐出によるキャピラリー電極3の内側の洗浄と同時に、洗浄容器17には開口端側に配置された配管23を介して洗浄液18を導入し、底面側に配置された配管24を介して洗浄液18を廃棄する。このような配管構造を採用することにより、洗浄容器17に貯蔵された洗浄液18を入れ替えることができる。この結果、洗浄容器17に貯蔵される洗浄液18を常に清浄な状態に維持することができ、洗浄性能を向上させることができる。
(搬送経路の説明)
続いて、実施例において想定するESIイオン源1の搬送経路を説明する。図7に、ESIイオン源1の搬送経路を上方から見た平面図を示す。前述の通り、ESIイオン源1は不図示のESIイオン源ホルダを用いて、試料溶液吸引場所13、イオン化場所14、洗浄場所15の順番に移動し、この動作を繰り返す。前述の通り、使用前のキャピラリー電極3の洗浄のため、一番目の分析の吸引前に洗浄を行っても良い。
まず、試料溶液吸引場所13で試料溶液5の吸引を終えたESIイオン源1は、経路25を通じてイオン化場所14に搬送される。その後、イオン化を終えたESIイオン源1は、経路26を通じて洗浄場所15に搬送される。その後、洗浄を終えたESIイオン源1は、経路27を通じて試料溶液吸引場所13に搬送される。一番目の分析のための試料溶液5の吸引前にキャピラリー電極3を洗浄する場合には、経路27が最初となる。
なお、次回以降の分析対象となる複数個の試料容器16で構成される試料容器群28(図中破線で示す)は、経路25〜27に交差する方向に一列に配置する。この配置の場合、試料容器群28の試料容器16を経路29の方向に順番に搬送することで、異なる試料溶液5に対する分析動作を順次実行することができる。ここで、経路29による搬送を行わない場合には、同じ試料溶液5を繰り返し分析することができる。
図7に示した通り、試料溶液吸引場所13、イオン化場所14、洗浄場所15を一直線上に配置すると、ESIイオン源1の搬送に使用する経路25〜27がX軸方向63のみになる。すなわち、Y軸方向64の駆動は不要となる。このように、搬送経路が一直線であると、単軸制御によるESIイオン源1の駆動で充分となり、低コスト化を実現できる。
さらに、図7に示すように、吸引後のESIイオン源1が洗浄場所15の上を通らない配置構成の採用により、ESIイオン源1の搬送中における試料溶液5の滴下などによる洗浄液18の汚染を防ぐことができる。
なお、ESIイオン源1の退避場所やESIイオン源1の交換等を行うメンテナンス場所等が必要な場合には、前述したESIイオン源1の経路25〜27の延長上に配置する。全ての搬送場所を直線上に配置することにより、ESIイオン源1の搬送を単軸制御機構のみで実現できる。しかし、試料容器群28を移動することができない場合や、障害物が存在するなどの関係上、Y軸方向64にESIイオン源1を搬送する必要がある場合には、XY方向に可動可能な2軸制御機構を用いれば良い。
[実施例2]
実施例2においては、他の搬送経路について説明する。すなわち、実施例2は、検査システムが直線制御を実行する搬送機構を搭載しない場合について説明する。なお、ESIイオン源1の構造や検査に関係する処理動作は、基本的に実施例1と同じである。
図8に、実施例2に係るESIイオン源1の搬送経路を上方からみた平面図を示す。図3でも説明した通り、ESIイオン源1は、試料溶液吸引場所13、イオン化場所14、洗浄場所15を順番に搬送され、この搬送動作を繰り返す。前述の通り、使用前のキャピラリー電極3の洗浄のため、一番目の分析対象である試料溶液5の吸引前にキャピラリー電極3の洗浄を行っても良い。
試料溶液吸引場所13で試料溶液5の吸引を終えたESIイオン源1は経路25でイオン化場所14に移動する。その後、イオン化を終えたESIイオン源1は経路26で洗浄場所15に移動する。その後、洗浄を終えたESIイオン源1は経路27で試料溶液吸引場所13に移動する。一番目の分析対象である試料溶液5の吸引前にキャピラリー電極3の洗浄を行う場合は、経路27が最初となる。
この実施例の場合も、次回の分析に使用する試料容器群28は、経路25〜27に交差するように配置する。試料容器群28を構成する試料容器16を順送りに経路29の方向に搬送することで、異なる試料溶液5を順次分析することができる。また、経路29による試料容器16の搬送を行わない場合は、同じ試料溶液5を繰り返し分析することができる。
図8に示すように、この実施例では、試料溶液吸引場所13、イオン化場所14、洗浄場所15を同一中心の曲線上に配置する。この配置の場合、ESIイオン源1の搬送経路は、1つの軸を中心とした回転制御で実現でき、搬送機構の低コスト化を実現できる。また、単軸の直動機構と曲線状の溝カム等の案内機構を組み合わせることによっても、同様の経路25〜27によるESIイオン源1の搬送を実現できる。因みに、さらに複雑な形状の溝カム等で構成される案内機構を設計することにより、より複雑な経路を一軸制御で実現することも可能である。
なお、この実施例の場合にも、吸引後のESIイオン源1が洗浄場所15の上方を通らない搬送経路を採用することにより、ESIイオン源1の搬送による試料溶液5の滴下等による洗浄液18の汚染を防ぐことができる。また、ESIイオン源1の退避場所やESIイオン源1の交換等を行うメンテナンス場所等が必要な場合も、実施例1の場合と同様に、前述のESIイオン源1の搬送経路の延長上に配置することにより、単軸制御による駆動のみで搬送動作を実現できる。しかし、試料容器群28を移動することができない場合や、障害物が存在する等の場合には、もう1つ別の単軸制御を追加すれば良い。
[実施例3]
この実施例では、ガス噴霧管4の移動に直動ステージその他の直線駆動機構を必要としない駆動方式について説明する。なお、その他のESIイオン源1の構造や検査に関係する処理動作は、基本的に実施例1と同じである。
図9に、実施例3に係るESIイオン源1の構造例と駆動の前後の様子を示す。この実施例では、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置を移動させる移動機構にバネ30を使用する。バネ30は、特許請求の範囲における移動機構の一例である。もっとも、バネ以外の弾性体を用いることもできる。また、図9は、ESIイオン源1の全体を保持している部材にキャピラリー電極3が固定されている場合について表している。
図9は、試料溶液吸引場所13においてキャピラリー電極3に試料溶液5を吸引する際の使用態様を示している。図9の左図は試料溶液5の吸引を開始する前の位置関係を示し、図9の右図は試料溶液5を吸引する際の位置関係を示している。
この実施例に係るESIイオン源1の場合、バネ30以外の特有の構造として、ガス噴霧管4の外周に段差状のストッパ受け31及び32を配置する。ストッパ受け31はガス噴霧管4の先端側に配置され、ストッパ受け32はガス噴霧管4の根元側に配置される。ストッパ受け31及び32はそれぞれ対応するストッパ33及び34に接触した場合、ガス噴霧管4の移動方向へのそれ以上の移動を停止させる。
試料溶液5の吸引時や洗浄時には、試料容器16や洗浄容器15にキャピラリー電極3の先端が挿入される必要があるが、試料溶液5の吸引の前後やイオン化場所14においては、キャピラリー電極3の先端がガス噴霧管4の先端部9からわずかに突き出す位置に配置する。
図9の左図は、試料溶液5の吸引の前後やイオン化場所14における位置関係を表している。この場合、バネ30の弾性力により、ガス噴霧管4は下方向に押し付けられる。このとき、ESIイオン源1の全体を保持している部材に固定されているストッパ34にストッパ受け32が押し当てられる。これにより、図5に示したイオン化場所14でのキャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置関係で保持される。
図9の右図は、ESIイオン源1が全体的に下降された場合における位置関係を表している。このESIイオン源1の降下の過程で、ガス噴霧管4に形成されたストッパ受け31が、試料容器16の下方に配置されたストッパ33に当たる。ガス噴霧管4の先端部9は、ストッパ33より先には下降することができない。さらに、ESIイオン源1の下降が続くと、ストッパ33はストッパ受け31を押し上げる方向に作用する。この外力により、キャピラリー電極3の根元付近に配置されたバネ30は圧縮変形される。結果的に、ガス噴霧管4を試料溶液5から離した状態のまま、ESIイオン源1の降下と共にキャピラリー電極3が突出する。なお、ESIイオン源1の降下はキャピラリー電極3の先端が試料溶液5に挿入されるまで継続する。
試料溶液5の吸引後は、ESIイオン源1を上昇させることで、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置を、図9の左図の状態に戻すことができる。従って、図9の左図の状態のままESIイオン源1をイオン化場所14に移動すれば、イオン化を即座に開始することができる。
同様に、洗浄場所15の付近にもストッパ33と同様のストッパを配置する。これにより、洗浄の際にも、洗浄液18とガス噴霧管4が接しない位置まで移動することができる。
前述の通り、この実施例に係るESIイオン源1の場合には、バネ30だけにより、ガス噴霧管4を移動できる。従って、この実施例は、直動ステージその他の直線駆動機構を用いる場合に比して、低コスト化や軽量化を実現できる。なお、図9では省略しているが、ガス噴霧管4の上下移動に際してストッパ34とぶつかる構造物(例えば配管21など)がある場合には、その部分だけにストッパ34との衝突を回避する切り欠き構造等を配置する必要がある。因みに、本実施例は、ESIイオン源1の全体を保持している部材にキャピラリー電極3が固定された構成で、全体に対してガス噴霧管4が移動する構造の場合にのみ有効である。なお、本実施例に係る駆動方式は、実施例1だけでなく実施例2に対しても利用できる。
[実施例4]
ここでは、キャピラリー電極3の先端部分の汚染を、ガス噴霧管4の所定位置に収容する前に除去する方法を説明する。なお、その他のESIイオン源1の構造や検査に関係する処理動作は、基本的に実施例1と同じである。
試料溶液5を吸引する場合、試料容器16の中の試料溶液5にキャピラリー電極3の先端を挿入する。このため、キャピラリー電極3の先端の外側が汚染される。吸引の信頼性を確保するためには、キャピラリー電極3の先端を最低でも数mm程度は浸すことが理想である。その一方で、イオン化の際には、図5に示したように、キャピラリー電極3の先端をガス噴霧管4の先端から突出させる必要があり、場合によってはこの突出量が0.5mm程度である場合がある。この数値は、吸引時に生じるキャピラリー電極3の先端の汚染範囲よりも小さい。すなわち、吸引後の状態のままキャピラリー電極3と先端をガス噴霧管4の相対位置を図5に示す状態に変化させると、ガス噴霧管4を汚染してしまう可能性がある。
従って、汚染の可能性がある場合には、本実施例で説明する手法を組み合わせることが望ましい。図10に、気体噴霧により、キャピラリー電極3の先端部分の汚染を除去する方法を示す。図10は、試料溶液吸引場所13で試料溶液5を吸引した後の状態を示す。
図10に矢印で示すように、本実施例の場合には、試料溶液5の吸引終了後、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の間隙に配管21を介して気体8を導入し、ガス噴霧管4の先端から気体8を噴霧する。噴霧された気体8の一部はキャピラリー電極3の表面に沿って流れるので、吸引時にキャピラリー電極3の先端に付着した汚染箇所35(破線で囲んで示す)の汚染を吹き飛ばすことができる。
なお、気体8の噴霧は、ガス噴霧管4の先端が汚染箇所35に触れない程度にガス噴霧管4の先端になるべく近づけた位置で実行することが望ましい。また、気体8の噴霧により汚染除去を行う場合、周辺への汚染拡大が懸念される。従って、専用の廃棄場所を設けて、その廃棄場所にて気体8の噴霧を実行することが望ましい。その場合、廃棄場所を図7や図8で示したESIイオン源1を搬送する経路25〜27の延長上に配置することで、単軸制御による駆動が可能となる。
本実施例によるキャピラリー電極3の先端部分の汚染除去方法は、図6に示した洗浄後の洗浄液による汚染に対しても有効であり、同様の手法にてキャピラリー電極3の先端部分の外側に付着した洗浄液18を吹き飛ばすことができる。
[実施例5]
ここでも、キャピラリー電極3の先端の汚染を、ガス噴霧管4の所定位置に収容する前に除去する方法を説明する。なお、その他のESIイオン源1の構造や検査に関係する処理動作は、基本的に実施例1〜4とほぼ同様である。
実施例4では気体8の噴霧による汚染除去方法について説明したが、キャピラリー電極3の先端に付着した試料溶液5が乾燥してしまうと、気体8の噴霧による汚染除去の効果が低下してしまう。そこで、本実施例では、洗浄液による洗浄を提案する。
図11に、洗浄液によるキャピラリー電極3の先端部分の洗浄を実現するESIイオン源1の構造と使用態様を示す。図11は、試料溶液吸引場所13で試料溶液5を吸引した後の状態である。本実施例では、図11に示すように、洗浄液37をキャピラリー電極3とガス噴霧管4の間隙に導入するための配管36を追加的に配置する。図11では、気体8の導入に使用する配管21の対向位置に配管36を配置しているが、配管36の配置位置は任意である。
この実施例の場合、試料溶液5の吸引後に、配管36を通じてキャピラリー電極3とガス噴霧管4の間隙に洗浄液37を導入し、吸引によって生じたキャピラリー電極3の先端部分の汚染箇所35を洗浄する。洗浄液37による洗浄方式なので、乾燥した汚染にも効果的である。
この実施例の場合にも、洗浄液37の導入は、実施例4の気体8の導入と同様に、ガス噴霧管4の先端が汚染箇所35に触れない程度でガス噴霧管4の先端になるべく近づけた位置で実行することが望ましい。また、洗浄液37による洗浄を行う場合、周辺への汚染拡大が懸念される。従って、専用の廃棄場所を設けて、その廃棄場所にて洗浄液37を導入することが望ましい。廃棄場所を図7や図8で示したESIイオン源1を搬送する経路25〜27の延長上に配置することで、単軸制御による駆動が可能となる。
なお、本実施例のように洗浄液37で洗浄すると、キャピラリー電極3の外側やガス噴霧管4の内部が乾燥するまで時間がかかる。しかし、乾燥が不充分なままイオン化を行うと、イオン化に悪影響を与えるおそれがある。このため、分析スループットを向上したい場合には、洗浄液37による洗浄後、配管21を通じてガス噴霧管4に気体8を導入し、キャピラリー電極3の外側やガス噴霧管4の内壁の乾燥時間を早めることが望ましい。乾燥に気体8を用いる場合、ガス噴霧管4の内側に残留した洗浄液37がガス噴霧管4の先端から噴霧される可能性があるので、実施例4の汚染除去方式や洗浄液37による洗浄方式と同様に気体8による乾燥も専用の廃棄場所にて行うことが望ましい。
[実施例6]
ここでは、シリンダとピストンで構成される吸引吐出機構19を有するESIイオン源1について説明する。
図12に、実施例6に係るESIイオン源1の構造と使用態様例を示す。図12は、シリンジ(シリンダ38とピストン39)で構成された吸引吐出機構19を使用して、試料溶液5をキャピラリー電極3に吸引する状態を示している。勿論、試料溶液5の吐出にも使用できる。
シリンダ38とピストン39の間が気密された状態でピストン39を引き上げると、シール部40に負圧が作用する。発生した負圧により、キャピラリー電極3の内部に試料溶液5が吸引される。吸引後、ピストン39を押し下げると、シール部40に正圧が作用し、キャピラリー電極3の先端から試料溶液5が吐出される。この吐出により、図5と同様に、試料溶液5のイオン化が可能になる。
また、吸引と吐出を繰り返すことで、図6の場合と同様に、キャピラリー電極3を洗浄することができる。シール部40には、気密性、摺動性、低摩擦性、耐薬品性などを兼ね備えたフッ素樹脂などで作られたものを使用することが望ましい。本実施例に係る吸引吐出機構は、実施例1〜5においても利用できる。
[実施例7]
ここでは、図12に示した吸引吐出機構19の変形例を示す。図12の場合には、吸引吐出機構19の開口部をキャピラリー電極3の一方の開口端に直接接続した。しかし、この実施例では、吸引吐出機構19の開口部とキャピラリー電極3の一方の開口端とが、配管を通じて相互に接続する場合について説明する。
図13に、本実施例に係るESIイオン源1の構造例と使用態様例を示す。図13では、吸引吐出機構19の開口部とキャピラリー電極3とが柔軟な配管41を通じて接続されている使用態様を示す。基本的な吸引の原理は図12の場合と同様である。すなわち、シリンダ38とピストン39の間が気密された状態でピストン39を引き上げると、シール部40に負圧が発生し、キャピラリー電極3の内部に試料溶液5が吸引される。
なお、図12に示す構造の場合には、デッドボリュームに存在している空気の影響で正確な液量の吸引又は吐出ができない可能性がある。しかし、配管41を通じて吸引吐出機構19の開口部とキャピラリー電極3を接続して配管41の内部を液体42で満たす場合には、配管41の内部に満たされた液体42によりデッドボリュームを小さくすることができる。その分、正確な吸引又は吐出が可能になる。
液体42には、試料溶液5と反応を起こさないような有機溶媒や水系の溶液を使用することが望ましい。また、配管41の内部への液体42の充填は、試料溶液5の吸引と同じ要領で行うことができる。この場合、液体42を満たす場所を、図7や図8で示したESIイオン源1が搬送される経路25〜27の延長上に配置することで、単軸制御による駆動が可能となる。
勿論、試料溶液5の吸引後に、ピストン39を押し下げることでキャピラリー電極3の先端から試料溶液5が吐出される。この吐出により、図5と同様に、試料溶液5のイオン化が可能になる。また、吸引と吐出を繰り返すことで、図6と同様に、キャピラリー電極3を洗浄することができる。洗浄後は、次の分析が開始される前に、配管41の内部に充填された液体42を入れ替えても良い。
本実施例の場合には、吸引吐出機構19とピストン39の駆動装置(図示せず)を、柔軟な配管41を通じてESIイオン源1に接続することができる。このため、ESIイオン源1が試料溶液吸引場所13、イオン化場所14、洗浄場所15の間で搬送される際にも、吸引吐出機構19とピストン39の駆動手段を、ESIイオン源1と一緒に移動する必要がない。このため、ESIイオン源1の搬送機構の負荷を小さくできる。このため、ESIイオン源1の搬送機構の小型化、低コスト化が可能となる。
この実施例の場合にも、シール部40には、気密性、摺動性、低摩擦性、耐薬品性などを兼ね備えたフッ素樹脂などで作られたものを使用することが望ましい。本実施例に係る吸引吐出機構は、実施例1〜5においても利用できる。
[実施例8]
ここでは、イオンの生成を促進するために、イオン化場所14の付近を加熱する方法を説明する。図14に、本実施例に係る検査システムの構造例と使用態様例を示す。図14に示す構造例と使用態様例は図5の場合とほぼ同様である。相違点は、キャピラリー電極3の先端から吐出された試料溶液5をイオン化してイオン7を生成する空間付近を加熱源43で加熱する点である。
加熱源43を配置することにより、キャピラリー電極3の先端から噴霧される液滴の気化が促進され、イオン化効率の向上が達成される。加熱源43には、加熱ガスを吹き付ける方式やランプ加熱方式などがある。この構造は、キャピラリー電極3の外径が0.2mmを超える程度の大きさの場合に効果的である。本実施例は、実施例1〜7においても利用できる。
[実施例9]
ここでは、ガス噴霧管4から気体8を噴霧することなく、試料溶液5をイオン化する方式について説明する。
図15に、本実施例に係るESIイオン源1の構造例と使用態様例を示す。ESIイオン源1の構造自体は、図5に示す構造とほぼ同じである。しかし、図5と図15を対比して分かるように、図15の場合には気体8の導入を示す矢印が描画されていない。本実施例において、イオン化のために気体8を導入しない理由は、キャピラリー電極3の外径が0.2mmより小さい場合に、ガスの噴霧がイオン化に必須で無い場合があるためである。
ガス噴霧を必要としないのであれば、当然、ガス噴霧管4は必須ではない。しかし、図15の例では、ガス噴霧管4を有する構成を示している。これは、ガス噴霧管4はイオン化以外でも、図10や図11で示したように、試料溶液5を吸引した際に生じるキャピラリー電極3の先端の汚染対策に使用できるためである。
また、ガス噴霧を必要としない小径のキャピラリー電極3だけを、試料溶液吸引場所13、イオン化場所14、洗浄場所15の各々の間で搬送しようとすると、キャピラリー電極3が小径であるために搬送時の振動や衝撃により大きく変形して揺れることが予測される。キャピラリー電極3の先端が揺れることは、吸引した試料溶液5が飛散する問題や、イオン化場所14への正確な位置決めが困難になる等の新たな問題を発生させる。
そこで、この実施例では、キャピラリー電極3の搬送時の揺れに起因する問題を解決するためにも、ガス噴霧管4を設置している。従って、この実施例におけるガス噴霧管4は、キャピラリー電極3の単なる収容管として機能する。特許請求の範囲における管には、前述した実施例におけるガス噴霧管4だけでなく、この実施例における使用態様での収容管も含まれる。本実施例は、実施例1〜8においても利用できる。
[実施例10]
実施例10では、キャピラリー電極3に電圧を印加することなく、試料溶液5をイオン化する方式について説明する。
図16に、本実施例に係るESIイオン源1の構造例と使用態様例を示す。ESIイオン源1の構造自体は、図5に示す構造とほぼ同じである。しかし、図5と図16を対比して分かるように、図16の場合には電圧を印加する電圧源6が描画されていない。
図5で説明したように、前述した他の実施例の場合には、キャピラリー電極3に電圧を印加することにより、キャピラリー電極3とイオン取込み部10の電位差により試料溶液5をイオン化する。一方、本実施例の場合には、キャピラリー電極3とイオン取込み部10との間に電位差を生じさせるため、イオン取込み部10に電圧源44を接続し、所定の大きさの電圧を印加する。
この場合でも、吸引吐出機構19を通じてキャピラリー電極3先端から吐出された試料溶液5はイオン化しイオン7が生成する。このとき、イオン取込み部10に印加する電圧が正であれば負イオンが、電圧が負であれば正イオンが生成される。図5のようにキャピラリー電極3に電圧を印加する方式では、キャピラリー電極3を金属製とするか、その表面を導電被膜で被覆したガラスキャピラリー等を用いる必要があるが、本実施例に係るキャピラリー電極3の場合にはガラスキャピラリーその他の絶縁材で構成できる。本実施例は、実施例1〜9においても利用できる。
[実施例11]
この実施例では、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の内部で相対位置を可変するのに適した気密機構22の構成例を説明する。
図17に、実施例に係る気密機構22を採用したESIイオン源1の構造例と使用態様を示す。なお、図17は、イオン化場所14における使用態様を示す。図5で説明したように、イオン化の際にキャピラリー電極3とガス噴霧管4の間隙に気体8を導入し、ガス噴霧管4の先端から気体8を噴出させることは、試料溶液5のイオン化効率を向上させる上で非常に有効である。
しかし、実施例1で説明したように、試料溶液吸引場所13、イオン化場所14、洗浄場所15において、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置を移動させる場合、気体8を気密でき、かつ、両者の相対位置を変化させることが可能な気密機構22が必要となる。
本実施例では、気密機構22を構成する本体のうちキャピラリー電極3との接触面に溝45を形成し、その内側に弾性部材46と摺動部材47を配置する。ここで、摺動部材47がキャピラリー電極3の外壁面と接触し、弾性部材46は溝45の底面側に配置される。気密機構22の主たる本体は、ガス噴霧管4と一体化又はガス噴霧管4との間で気密を保持できる状態で固定されている。
弾性部材46には、ゴム、スポンジ、ある種の樹脂その他の弾性変形による反発力が期待される部材を使用する。この反発力により、キャピラリー電極3と気密機構22との密着性が高まり、気密性が確保される。ただし、ゴムその他の弾性部材46は、一般に摩擦抵抗が高く、摺動性が悪い。そこで、気密性と柔軟性と摺動性を兼ね備えたフッ素樹脂などの樹脂製の摺動部材47を弾性部材46とキャピラリー電極3の間に挿入し、気密性と摺動性との両立を確保する。
因みに、図17は、キャピラリー電極3を直接気密する構造図を示しているが、キャピラリー電極3が小径になると気密構造を構成すること自体が困難になる。そのような場合には、キャピラリー電極3と気密部材22を一体化又は気密を保持できる状態で固定し、溝45(弾性部材46、摺動部材47が配置される空間)をガス噴霧管4の内壁と接触する面に配置しても良い。
気密機構22以外のESIイオン源1の構造及び使用態様は図5とほぼ同様である。本実施例は、実施例1〜10においても利用できる。
[実施例12]
この実施例では、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置を移動させる際の両者の気密機構22が、ジャバラ構造その他の伸縮可能な部品により構成される場合について説明する。
図18に、本実施例に係るESIイオン源1と使用態様例を示す。図18は、イオン化場所14において、試料溶液5をイオン化する際の状態を示している。図18に示すように、気密構造22はガス噴霧管4の内側ではなく、ガス噴霧管4の根元部分とガス噴霧管移動機構20の間に配置する。このため、気密構造22は、キャピラリー電極3と一体化又は気密保持できる状態で固定されている部材48と、ガス噴霧管4と一体化又は気密保持できる状態で固定されている部材49の間を伸縮可能なジャバラ構造体50で気密保持した状態で固定する。
ジャバラ構造体50には、ベローズやゴム製のジャバラホース等の気密保持しながら伸縮可能な部品を利用することができる。ジャバラ構造体50に金属製のベローズなどを用い、部材48及び49も金属製のものを用いると、キャピラリー電極3とガス噴霧管4を同電位で使用する際、ガス噴霧管4に電圧を印加すれば良いため、電圧を印加するための配線が容易になる利点がある。
また、この構造は、キャピラリー電極3が気密状態で摺動する距離が短く済むため、キャピラリー電極3が小径化した場合でも適用が可能である。なお、気密機構22以外のESIイオン源1の構造及び使用態様は図5とほぼ同様である。ただし、この実施例では、ガス噴霧管移動機構20が、気密機構22のジャバラ構造体50を通じて間接的にガス噴霧管4の位置を移動させるように動作する。本実施例は、実施例1〜10においても利用できる。
[実施例13]
この実施例でも、実施例12の場合と同様に、気密機構22がジャバラ構造その他の伸縮可能な部品により構成される場合について説明する。ただし、この実施例では、気体8をジャバラ構造体50の外側から導入する方式について説明する。
図19に、本実施例に係るESIイオン源1の構造例と使用態様例を示す。図19は、イオン化場所14で試料溶液5をイオン化する際の使用態様を示す。図19に示すESIイオン源1も、図18の場合と同様、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置を移動させる際の気密を確保する気密機構22がジャバラ構造体50のような伸縮可能な部品で構成されている。
図19の場合、気密機構22は、キャピラリー電極3と一体化又は気密保持できる状態で固定された部材48と、ガス噴霧管4と一体化又は気密保持できる状態で固定された部材49の間に、伸縮可能なジャバラ構造体50が気密保持できる状態で固定されている。ただし、図19における部材49は箱型であり、ジャバラ構造体50と部材48をその内部に収容する。また、この構造のため、部材49とガス噴霧管移動機構20は一体化又は気密保持できる状態で固定されている。
本実施例の場合、箱型の部材49の側壁に配管21が取り付けられており、当該配管21を通じて気体8が導入される。因みに、配管21は、ジャバラ構造体50と部材49で囲まれた密閉空間に形成されている。従って、気体8は、ジャバラ構造体50の外部から導入される。
ジャバラ構造体50には、ベローズ等の気密保持しながら伸縮可能な部品を用いる。ただし、ベローズ等の部品は、圧力にもよるが内部が高圧になる状態での使用は耐久性の観点からあまり好ましくない。一方、本実施例のように、ジャバラ構造体50の外側に気体8を導入すると、ジャバラ構造体50の内部が外部に対し高圧になることがない。このため、本実施例の構造は、ジャバラ構造体50の耐久性を向上させ、寿命や信頼性などの観点で利点がある。
勿論、図18の場合と同様に、ジャバラ構造体50に金属製のベローズ等を用い、部材48及び49にも金属製の部材を使用すると、キャピラリー電極3とガス噴霧管4を同電位で使用する際にはガス噴霧管4に電圧を印加すれば良いので、電圧を印加するための配線が容易になる。気密機構22以外のESIイオン源1の構造及び使用態様は図5とほぼ同様である。本実施例は、実施例1〜10においても利用できる。
[実施例14]
この実施例では、洗浄場所15において、洗浄液18を吸引及び又は吐出することにより、ガス噴霧管4のみを洗浄する方式について説明する。
図20に、本実施例に係るESIイオン源1の構造例と使用態様例を示す。図20は、洗浄場所15でガス噴霧管4を洗浄する際の使用態様を示す。
この実施例の場合、ガス噴霧管4だけを洗浄するために、キャピラリー電極3を洗浄液18に接しない位置まで移動させる必要がある。ここでの移動にも、ガス噴霧管移動機構20を使用する。
図に示すように、ガス噴霧管移動機構20によるガス噴霧管4の突出量(引き下げ量)を増大することで、キャピラリー電極3をガス噴霧管4の内側に完全に収容した位置関係を実現することができる。ただし、この位置関係の前提として、キャピラリー電極3の洗浄が終了していることが要求される。キャピラリー電極3の洗浄が終了していなければ、キャピラリー電極3に残留する溶液がガス噴霧管4を再び汚染する可能性が高まるためである。
ガス噴霧管4の洗浄は、ガス噴霧管4に接続された配管51を通じて吸引吐出機構52が洗浄液18を吸引又は吐出することで行う。勿論、吸引及び吐出は複数回繰り返して行うことにより洗浄効果を向上させることができる。
試料溶液5の吸引時に試料溶液5が付着する可能性の高いキャピラリー電極3の先端は、図10や図11を用いて説明した方法によって洗浄可能であるが、微量でも試料溶液5が残留するとガス噴霧管4を汚染してしまい次の分析への悪影響が懸念される。
そこで、本実施例では、ガス噴霧管4も独立に洗浄可能にすることでコンタミをさらに低減させる。なお、イオン化の際には、キャピラリー電極3の先端が汚染される可能性があるので、図6に示した方式でキャピラリー電極3の洗浄を行った後に、本実施例で説明するガス噴霧管4の洗浄を組み合わせて実行することにより、より高い洗浄効果が実現される。
また、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の洗浄を交互に繰り返し行うことで、更なる洗浄効果が得られる。なお、洗浄したガス噴霧管4の内部が乾燥するまでには時間がかかる。そして、乾燥が不充分なままだと、次の分析に悪影響を与えるおそれがある。
そこで、分析のスループットを向上したい場合には、洗浄液による洗浄後に、配管21を介して気体8を導入することで、ガス噴霧管4の内側の乾燥時間を早めることができる。気体8でガス噴霧管4の内側を乾燥させる場合、内部に残留した洗浄液18がガス噴霧管4の先端から噴霧される可能性がある。従って、実施例4や実施例5で説明した汚染除去方式の場合と同様に、気体8による乾燥も専用の廃棄場所で行うことが望ましい。その場合、図7や図8で説明したESIイオン源1が搬送される経路25〜27の延長上に廃棄場所を配置することで、単軸制御による駆動が可能となる。本実施例は、ガス噴霧管4を洗浄することやキャピラリー電極3を洗浄液18に触れない位置まで移動すること以外は、図6とほぼ同様である。本実施例は、実施例1〜13においても利用できる。
[実施例15]
この実施例では、ガス噴霧管4の内部を洗浄するための他の手法について説明する。具体的には、ガス噴霧管4の内側に洗浄液を導入することにより、ガス噴霧管4のみを洗浄する。
図21に、本実施例に係るESIイオン源1の構造例と使用態様例を示す。図21は、ガス噴霧管4を洗浄する際の使用態様を示す。前述したように、洗浄の際には、ガス噴霧管移動機構20によりキャピラリー電極3を洗浄液37に接しない位置まで事前に移動させておく。ガス噴霧管4の洗浄は、配管36を通じて洗浄液37をガス噴霧管4の内部に導入することで行う。
洗浄液37でガス噴霧管4の内側を洗浄する場合、周辺への汚染拡大が懸念されるので、専用の廃棄場所を設けて、その廃棄場所にて行うことが望ましい。その場合、廃棄場所を図7や図8で示したESIイオン源1が搬送される経路25〜27の延長上に配置することにより、単軸制御による駆動が可能となる。ただし、前述の通り、洗浄液37によりガス噴霧管4の内側を洗浄すると、ガス噴霧管4の内部が乾燥するまでに一定の時間がかかる。しかし、乾燥が不充分であると、次の分析に悪影響を与えるおそれがある。
従って、分析のスループットを向上したい場合には、洗浄液37による洗浄の後、配管21を通じて気体8をガス噴霧管4の内側に導入することで、ガス噴霧管4の乾燥に要する時間を短縮することが可能となる。なお、気体8を用いてガス噴霧管4の内側を乾燥させる場合、内部に残留した洗浄液37がガス噴霧管4の先端から噴霧される可能性がある。従って、実施例4や実施例5で説明した汚染除去方式と同様に、気体8による乾燥も専用の廃棄場所にて行うことが望ましい。
ただし、本実施例の場合には、ガス噴霧管4の内部しか洗浄することができない。このため、図20に示した洗浄方式と併用することで、より高い洗浄効果が得られる。また、図6に示したキャピラリー電極3の洗浄を併用することも可能である。さらに、本実施例の洗浄方式と、図6及び図20の洗浄方式のどちらか一方又は両方の方式と交互に繰り返し行うと、更に高い洗浄効果を得ることができる。
本実施例は、ガス噴霧管4の内部を洗浄することやキャピラリー電極3を洗浄液18に触れない位置まで移動すること以外は、図6とほぼ同様である。本実施例は、実施例1〜13においても利用できる。
[実施例16]
この実施例では、洗浄場所15において、キャピラリー電極3とガス噴霧管4を同時に洗浄する方式について説明する。
図22に、本実施例に係るESIイオン源1の構造例と使用態様例を示す。図22は、洗浄場所15でキャピラリー電極3とガス噴霧管4を同時に洗浄する際の使用態様を示す。この実施例の場合、キャピラリー電極3とガス噴霧管4の相対位置は、図5に示すイオン化の際と同様の位置関係を使用する。すなわち、キャピラリー電極3の先端がガス噴霧管4の先端からわずかに突き出た状態で使用する。この位置関係を採用することで、キャピラリー電極3の先端とガス噴霧管4の先端を同時に洗浄液18に浸し洗浄する。
キャピラリー電極3の洗浄は、図6で説明した場合と同様、吸引吐出機構19による洗浄液18の吸引と吐出の繰り返しにより行う。一方、ガス噴霧管4の洗浄は、図20で説明した場合と同様、吸引吐出機構52による洗浄液18の吸引と吐出の繰り返しにより行う。両者の吸引と吐出は、同時に実行しても良いし、交互に実行しても良い。
また、図21に示したように、ガス噴霧管4の内部に洗浄液37を導入する方式を併用しても良い。図21の方式を併用する場合、周辺への汚染拡大が懸念されるので、専用の廃棄場所を設け、その廃棄場所にて行うことが望ましい。その場合、廃棄場所を図7や図8で示したESIイオン源1が搬送される経路25〜27の延長上に配置することで、単軸制御による駆動が可能となる。
この実施例の場合にも、洗浄液による洗浄後は、ガス噴霧管4の内部が乾燥するまでに一定の時間がかかる。しかし、乾燥が不充分であると、次の分析に悪影響を与えるおそれがある。従って、分析のスループットを向上したい場合には、洗浄液37による洗浄の後、配管21を通じて気体8をガス噴霧管4の内側に導入することで、ガス噴霧管4の乾燥に要する時間を短縮することが可能となる。なお、気体8を用いてガス噴霧管4の内側を乾燥させる場合、内部に残留した洗浄液17及び37がガス噴霧管4の先端から噴霧される可能性がある。従って、実施例4や実施例5で説明した汚染除去方式と同様に、気体8による乾燥も専用の廃棄場所にて行うことが望ましい。
本実施例は、キャピラリー電極3とガス噴霧管4を同時に洗浄すること以外は、図6、図20、図21とほぼ同様である。本実施例は、実施例1〜13においても利用できる。
[実施例17]
この実施例においては、洗浄場所15においてキャピラリー電極3とガス噴霧管4を同時に超音波洗浄する場合について説明する。図23に、本実施例に係る検査システムの構造例と使用態様例を示す。図23は、洗浄場所15でキャピラリー電極3とガス噴霧管4を同時に洗浄する際の使用態様を示す。図23に示す検査システムの構造と図22に示す構造はほぼ同じであるが、洗浄容器17の下面に超音波振動子53を取り付けた点で異なっている。超音波振動子53を取り付けることにより、キャピラリー電極3とガス噴霧管4を超音波洗浄することが可能となる。本実施例は、図6や図20で説明した方式とも併用が可能である。超音波洗浄を行うことで細かい部分の汚染も洗浄することが可能となる。本実施例は、実施例1〜16においても利用できる。
[実施例18]
この実施例では、イオン化場所14にESIイオン源1を取り付ける際に適した取り付け対象側の形状を説明する。図24に、本実施例に係る検査システムの構造例と使用態様例を示す。ESIイオン源1は、ESIイオン源ホルダ54に取り付けた状態で、経路25、経路55を経てイオン化場所14の所定位置に設置される。同じくイオン化後のESIイオン源1は、経路56、経路26を経て洗浄場所15に搬送される。
キャピラリー電極3とガス噴霧管4の間隙に気体8を導入する方式では、一般的に気体8として窒素などの不活性ガスが用いられる。窒素を用いる場合、安全上、イオン化場所14にカバー57を設置する必要がある。カバー57の開口部58にパッキン59を介してESIイオン源ホルダ54を設置することで気密が保持される。ガス噴霧を行わない場合はカバー57やパッキン59は必要ないが、位置決めなどの理由から開口部58を有する受けなどが必要となる。ESIイオン源1が試料溶液吸引場所13から経路25を経てイオン化場所14に搬送される際、キャピラリー電極3の先端から試料溶液5が滴下するおそれがある。同様に、ESIイオン源1がイオン化場所14から経路26を経て洗浄場所15に移動する際にも滴下のおそれがある。
経路55及び56は上下方向の経路なので基本的に無視できるが、横方向の経路25及び26は試料溶液5の滴下により汚染される可能性がある。ESIイオン源1の中心軸60から開口部58の内壁面までの距離のうち、経路25の延長上方向の距離61と経路26の延長上方向の距離62は、小さすぎると汚染範囲が中心軸60に近くなるため、ESIイオン源1の汚染などにつながり、次回以降の分析に悪影響を与える可能性がある。
従って、距離61及び62はなるべく大きくすることが望ましく、少なくても各々10mm以上にすることで、コンタミのリスクを大幅に低減することができる。ここで、距離61及び62に関しては非常に重要になるが、経路25及び26の移動方向以外の位相(例えば経路25及び26から直角方向に外れた位相)は、基本的に上空をESIイオン源1が通過しないため、距離61及び62ほど大きく設ける必要は無い。すなわち、開口部58は、ESIイオン源1の移動方向に細長い形状であって良い。本実施例は、実施例1〜17においても利用できる。
[他の実施例]
実施例1〜18で説明した方法は、固相抽出法等で抽出された溶液だけでなく、液体クロマトグラフ法、遠心分離法、溶媒沈殿法その他の成分分離機構を用いた前処理を行った溶液なども試料溶液5として用いることができる。固相抽出法も含め、これらの成分分離機構を用いた前処理を行うことで、前処理前の試料に含まれる夾雑物などの影響を排除することができ、目的とする成分のイオン化の効率を向上することができ、安定したイオン化を実現することができる。