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JP5235212B2 - 溶血した全血試料中の分析物の検出 - Google Patents

溶血した全血試料中の分析物の検出 Download PDF

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Description

本発明は、溶血した全血試料中の分析物の検出方法であって、目的の分析物を含むことが公知である溶血した全血試料または目的の分析物を含むことが疑われる溶血した全血試料を、制限アクセスクロマトグラフィー物質(RAM)を含むカラムに適用して分析物を結合させる工程、RAMから分析物を溶出する工程、および分析物を検出する工程を含む方法に関し、少なくとも第1工程において8.0より高いpHを有するバッファが使用される。新規方法は、ヘモグロビンが目的の分析物の検出を妨げないことを確実にする。該方法は、例えば溶血した全血試料からの多くの分析物のオンライン検出、例えば抗生物質、葉酸または免疫抑制薬、例えばタクロリムスまたはシロリムスの検出に容易に使用することができる。
(発明の背景)
試料中に多くの成分が存在すればするほど、含まれる標的分析物の分析はより困難になる。赤血球は、全血のような生物学的液体からの目的の分析物の検出を潜在的に妨げる多量のタンパク質および低分子量の成分を含む。これが、臨床の日常業務で、好ましくは血液血漿もしくは単に血漿と呼ばれる(即ち、抗凝固全血試料; 細胞および赤血球を除く)または血液血清もしくは単に血清と呼ばれる(即ち、凝固全血; 細胞、赤血球および凝固系の大半のタンパク質、特にフィブリン/フィブリノーゲンを除く)それぞれが使用されることの主な理由の1つである。また、全血試料は、例えば血清または血漿と比較して取り扱うことが困難である傾向がある。全血は安定でない傾向があり、赤血球の緩やかな破壊は目的の多くの分析物の信頼性の高い測定を損なう。
上記のように、血清または血漿は、全血から得られてもよく、分析物の検出に使用されてもよい。理論上、細胞および赤血球はまた、濾過または遠心分離によって全血から除去されてもよい。しかし、これらの方法は、日常業務の診断設定における使用に適切でないし、少なくとも部分的に赤血球内に存在する分析物の正確な測定も可能にしない。
全血試料からの分析物の検出のための当該技術分野で公知の大半の方法は、分析物を定量し得る前に試料のさらなる処理を必要とする。多くの方法で、目的の分析物が、最初に、選択的な沈殿法または抽出法によって潜在的に妨げる多くの物質から分離される。抽出は、液相または固相で行うことができる。このことは、いくつかの免疫抑制薬または葉酸のそれぞれの検出に使用されるいくつかの方法を示すことによって例示される。
周知の免疫抑制薬は、例えば、ミコフェノレートモフェチル(MMF)、ラパマイシン(RAPA、シロリムスとしても公知)およびタクロリムス(FK-506)である。免疫抑制薬のための治療薬モニタリングは、移植患者およびAIDSに罹患している患者に特に重要である(例えば: Drug. Ther. Perspect. 17(22) (2001) 8-12参照)。固形臓器移植を受けるほとんどの患者は、同種異系移植片拒絶を防ぐための免疫抑制治療を一生必要とする。しかし、多くの免疫抑制剤は狭い治療範囲を有し、かつ様々な毒性および薬物相互作用の可能性と関連するために、患者の臨床評価と共に治療薬モニタリング(TDM)の使用が特に重要であり得る。
タクロリムスは、マクロライド抗生物質であり、肝臓同種異系移植片拒絶の防止のために1994年に米国食品医薬品局(FDA)によって最初に承認された。これは、インビトロでシクロスポリンよりも100倍まで効力があり、臨床的に組織拒絶の発生の大きな減少と関連している。タクロリムスは、様々な移植法を受ける患者の一次免疫抑制治療剤として、および肝臓または腎臓移植後の免疫性急性同種異系移植片拒絶を有する患者の救助治療剤としての両方で効能を示した。治療凹部(trough)濃度は、5〜20μg/Lの範囲である。
循環中に存在するタクロリムスの少なくとも一部が赤血球内に区画されるために、この薬物についての臨床の日常業務の測定には全血試料が使用される。タクロリムスは、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)と連結したHPLC、ラジオレセプターアッセイ(RRA)、または免疫アッセイ(IA)によって検出することができる。後者の2つの方法は、タクロリムスおよびその様々な特定の代謝産物を同じ感度で検出しない。このことは、使用手順における妨げをもたらすことがある(Murthy, J.N.ら, Clin. Biochem. 31 (1998) 613-617)。少なくとも様々なタクロリムス代謝産物の検出において、HPLC-MS法を黄金標準とみなしてもよい。しかし、上記の全方法は、全血からのタクロリムスの抽出を要する。通常、臨床の日常業務においてアセトニトリルが全血からのタクロリムスの抽出のために使用されるが、全血試料からのタクロリムスのオンライン測定を可能にする方法は存在しないように思われる。
シロリムスは、タクロリムスと同様に、マクロライド抗生物質である。これは、腎臓移植後の同種異系移植片拒絶の防止のためにUS FDAによって1999年に最初に承認され、シクロスポリンおよびコルチコステロイドと組み合わせて急性使用する場合に関して見込みのある結果を実際に示した。インビトロで、シロリムスはシクロスポリンよりも100倍まで効力があり、臨床的に、これはシクロスポリンと相乗効果を示し、おそらくはシクロスポリン用量の低減を可能にし得る。治療凹部濃度は5〜15μg/Lの範囲である。
タクロリムスに関して、有意な量のシロリムスが赤血球内に存在する。従って、全血試料の抽出は、どの検出方法が使用されようとも必要とされる。臨床の日常業務において、シロリムスを含むことが疑われる試料は、HPLCに供され、シロリムスは紫外線光(UV)またはタンデム質量分析(MS/MS)によって検出される。また最近、微粒子酵素免疫アッセイが説明されている(Jones, K.ら, Clinical Therapeutics 22 Suppl. B (2000) B49-B61)。
葉酸は、酸化状態で異なる関連分子群の集合名である。葉酸は水溶性ビタミンB群の一部であり、ホモシステイン代謝のための補酵素としておよびDNA複製に必要な1つの炭素基の転移において重要である。不十分な葉酸状態は神経管欠損のリスクの増大に関連し、心臓血管疾患、貧血、特定の癌およびアルツハイマー病と関連する。血清または血漿の葉酸濃度は最近の食物摂取を反映するが、赤血球の葉酸濃度は体内貯蔵をより示す(Gunter, E.W.ら, Clin. Chem. 42 (1996) 1689-1694; Fazili, Z.ら, Clin. Chem. 51 (2005) 2318-2325; Pfeiffer, C.M.ら, Clin. Chem. 50 (2004) 423-432)。赤血球の全葉酸(赤血球葉酸=RBC葉酸)は、体全体の葉酸状態の最良の基準である。最近の研究によって、5-メチルテトラヒドロ葉酸は、循環する赤血球において主要な葉酸ビタマーであることが示された。葉酸欠乏の診断について、葉酸は95%より多くが赤血球に局在するために、測定は、血清または血漿からだけでなく赤血球からも行なわれることが推奨される。赤血球中の濃度は、実際の葉酸状態をより正確に反映する。
多くの方法が、種々のマトリックス中の葉酸を測定するために利用可能である。主要な分析法は、微生物学アッセイ、ラジオイムノアッセイ、化学発光、クロマトグラフィー法および質量分析法である。ほとんどの方法は、葉酸結合タンパク質への葉酸の競合結合に基づいている。
RBC葉酸の測定のために、溶血試薬の使用が明らかに必須である。例えば、RBC葉酸の測定のためのElecsysTM アッセイ(ElecsysはRocheグループの一員の商標である)は、溶解試薬としてアスコルビン酸を使用する。Elecsys RBC葉酸溶血試薬は、赤血球中の葉酸(RBC葉酸)の定量測定のためのElecsys葉酸アッセイと共に使用される。抗凝固剤(ヘパリンまたはEDTA)で処理された全血は、アスコルビン酸溶液(0.2%)で希釈され、20〜25℃でおよそ90分間インキュベートされる。赤血球の溶解は、細胞内葉酸の遊離を伴って起こる。溶血物は、次にElecsys葉酸アッセイの次の測定のための「予め希釈された」試料(血清に類似して)として使用される。全血で測定されたヘマトクリット値および試料の前処理によってもたらされる希釈効果は、赤血球の葉酸濃度の計算において補正される(Greiling, H., Gressner, A.M., Lehrbuch der Klinischen Chemie und Pathobiochemie, 第3版, Stuttgart-New York, Schattauer (1995) pp.460-462;Gunter, E.W.ら, Clin. Chem. 42(1996)1689-1694)。
アスコルビン酸を用いた処理で生じた溶血物は、含まれる阻害物質のために、日常業務のクロマトグラフィー法に使用することができない。クロマトグラフィー法または質量分析測定においてかかる溶血物を使用するために、分析前に細胞残骸および沈殿タンパク質を除去することが必要である。
残骸および沈殿タンパク質は、通常、遠心分離、オフライン濾過または固相抽出によって試料から除去される。
固相抽出(SPE)は、例えば、分析試料の前濃縮および洗浄、様々な化学物質の精製、および水溶液からの毒性物質または重要な物質の除去のために広く使用されるクロマトグラフィー技術である。SPEは、通常、適切な樹脂を含むカラムまたはカートリッジを用いて行われる。SPE法は、疎水性、イオン交換、キレート化、吸着および他の機構によって分析物と相互作用して結合し、液体から分析物を除去することができる吸着剤を用いて開発されている。種々の種類の分析物のための種々のSPE適用には種々の吸着剤を必要とする場合があるために、目的の分析物または目的の種類の分析物に対する固有の選択性を有する特定の特性を有する吸着剤が同時に必要である。SPE物質およびSPEカラムの代表的な例は、それぞれUS 6,322,695およびUS 6,723,236に見ることができる。
上記の当該技術分野の水準の方法の説明から明らかなように、全血からのこれらの分析物の直接測定、特にオンライン測定は、全く可能でなく、または少なくとも複雑なおよび/または時間を浪費する取り扱い工程に悩まされている。以下の理論に拘束されることを望まないが、当該技術分野の適切な方法の欠如は、おそらく少なくとも2つの理由:a)溶血した全血試料がしばしば凝集物または沈殿物を含むことおよびb)極端に高いヘモグロビン濃度が検出方法を妨げることによるものである。
本発明の発明者らは、両方の問題に取り組み、解決した。第一に、例えば、妨げる凝集物または沈殿物を形成せずに、全血試料中に含まれる赤血球の完全な溶血を可能にする方法を開発し、特異的溶血と称した。特異的溶血の方法は、以下でいくらか詳細に説明する。
しかし、本発明の発明者らは、溶血した血液試料中に明らかに存在する高濃度のヘモグロビンが、目的の分析物の感度の高い検出を妨げる傾向があることも発見した。このことは、最新のクロマトグラフィー物質、所謂制限アクセスクロマトグラフィー物質(RAM)を用いた場合に観察された。標準方法によって、溶血した血液試料を、RAMを含むカラムに適用する場合に、ヘモグロビンは完全に除去されず、むしろヘモグロビンはRAMカラムに結合する傾向があり、分析物検出を妨げる傾向がある。
従って、本発明の発明者らは、例えば溶血した血液試料中に存在するヘモグロビンが、特異的溶血後でも、目的の分析物の検出を妨げる場合があるという問題に直面していた。当業者に明らかなように、この問題は、測定が高い感度および高い精度である必要があればより顕著である。
しかし、このことは全血が試料として直接、特に低分子量分析物の検出に使用できるのであれば非常に望ましい。また、このことは液体クロマトグラフィー(LC)分離工程を利用するオンライン検出法において特に有利である。また、例えば全血からの免疫抑制薬の直接オンライン検出は、臨床の日常業務の実験室にとって重要な進歩であることは明らかである。
驚くべきことに、ヘモグロビン、例えば溶血した全血試料に含まれるヘモグロビンによる妨げを効率的に回避できることを見出し、確立することができた。特別のバッファ条件下で、ヘモグロビンはRAMに結合せず、または少なくとも目的の分析物のオンライン検出を妨げないということを見出し、以下で詳細に説明する。これらの条件下で、RAMは溶血した全血試料からの目的の分析物の検出において簡潔な方法で使用することができる。
(発明の概要)
第一態様において、本発明は、溶血した全血試料中の分析物の検出方法であって、目的の分析物を含むことが公知である溶血した全血試料または目的の分析物を含むことが疑われる溶血した全血試料を、制限アクセスクロマトグラフィー物質(RAM)を含むカラムに適用して分析物を結合させる工程、RAMから分析物を溶出する工程、および分析物を検出する工程を含む方法に関し、少なくとも該試料を該RAMに適用する工程において8.0より高いpHを有するバッファが使用される。
好ましい態様において、例えば、RAMが多孔質シリカまたは多孔質ポリマー系粒子から選択され、内部表面および/または外部表面の特定の有利な修飾を有してもよいことが説明される。本明細書に記載される方法は、特定の臨床的に重要な分析物の検出に使用することができる。
(発明の詳細な説明)
本発明の方法は、ヒトまたは動物の体でなく、インビトロで行われる。
好ましい態様において、本発明は、溶血した全血試料中の分析物の検出方法であって、目的の分析物を含むことが公知である溶血した全血試料または目的の分析物を含むことが疑われる溶血した全血試料を、制限アクセスクロマトグラフィー物質(RAM)を含むカラムに適用して分析物を結合させる工程、b)RAMから分析物を溶出する工程、およびc)分析物を検出する工程を含む方法に関し、少なくとも工程(a)において8.0より高いpHを有するバッファが使用される。
文脈が他の方法で説明されていない限り、冠詞「a」および「an」は、1つまたは1つより多く(即ち、少なくとも1つ)の冠詞の文法目的語を示すために本明細書で使用される。例として、「目的の分析物」は、1つの目的の分析物または1つより多くの目的の分析物を意味する。
本発明の「制限アクセス物質」または制限アクセスクロマトグラフィー物質(RAM)は、目的の分析物と結合できる内部表面を有する孔、および溶血した血液のタンパク質部分が該孔に入ることを妨げるのに適切な孔径を有するクロマトグラフィー物質である。
元々記載されている制限アクセス物質(Boos, K.S.およびRudolphi, A., LC-GC 15 (1997) 602-611, ならびにRudolphi, A. およびBoos, K.S., LC-GC 15 (1997) 814-823)は、逆相クロマトグラフィー物質と同様に作用する疎水性内部表面を有する。かかるRAMに基づくクロマトグラフィーは、逆相クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせであるとみなすことができる。
利用可能な様々な種類のRAMが当業者に公知である。
好ましくは、本発明の方法に使用されるRAMは、多孔質シリカまたは多孔質ポリマー系粒子から選択される。また、本発明の方法に使用されるRAM粒子は、親水性コーティングを特徴とする。
RAM、即ち孔の外側のRAMの親水性コーティングは、好ましくはヒドロキシル基、例えばアルキルジオール、カルボン酸基、例えばカルボキシメチル、アミノ基、例えばアミノプロピルまたはビス(ヒドロキシエチル)アミノエチルのそれぞれを提供するコーティング物質に基づいている。孔の外側のRAMを親水性にするような、親水性ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、オリゴ糖および多糖、デキストラン、ペプチドまたはタンパク質のそれぞれの使用もまた好ましい。本明細書に開示される方法に使用することができるRAM物質の市販例および好ましい例は、Biotrap 500 MS(登録商標)(Chromtech, Cogleton, United Kingdom)またはLiChrosphere(登録商標)RP-18 ADS (Merck, Darmstadt, Germany)である。
RAMの内部表面は、目的の分析物と結合することができる。本発明の方法に使用されるRAMの内部表面は、目的の分析物の化学特性と適合するように当業者によって選ばれる。結合は、任意の適切な相互作用、例えば分子インプリンティング、疎水性相互作用、イオン性相互作用または極性相互作用によって達成することができる。当業者は、これらの種類の相互作用を十分に知っている。
好ましい態様において、本発明の方法に使用されるRAMは、疎水性相互作用または極性相互作用によって目的の分析物と結合する。
好ましくは、本発明の方法に使用されるシリカ粒子またはポリマー系粒子の内部孔は、アニオンもしくはカチオン交換物質または疎水性基のそれぞれから選択される基でコーティングされている。
好ましくは、本明細書に開示される方法に使用されるシリカ粒子またはポリマー系粒子の内部孔は、疎水性コーティングされた孔の内部表面を有し、結合物質が脂肪族基、フェニル基、疎水性ペプチドまたは他の逆相物質からなる群より選択される。好ましくは、脂肪族基は、4〜20個のC-原子を有する。また好ましくは、内部表面がC4-、C8-、C12-、C16-またはC18-マトリックスである。好ましいマトリックスは、C4、C8またはC18コーティングの内部表面を有する。
孔径は、(1つまたは複数の)分析物が孔に入ることができるために、孔の内部表面、例えば逆相と結合するような方法で選択される。理想的には、ポリマーマトリックス成分、典型的に血液タンパク質、特にヘモグロビンは、a)孔径の適切な選択によって孔から排除され、b)親水性外部表面に付着しない。これらの要件を満たす場合、ポリマーは、RAMによって保持されず、ボイド容量のカラムを通過する。また、これらのポリマーは孔に入ることができないために、物質の保持特性を改変する場合がある表面付着物はほとんど生じない。一般的に、分析物の分離は、標準のRP物質を充填した第二カラム上で行われる。好ましい態様において、本発明の方法に使用されるRAMの孔径は、60〜120Å、また好ましくは60〜100Åである。
RAMは、目的の分析物が非常に困難なマトリックス中に存在するオンライン抽出法に使用されるように想定される。しかし、分析物の測定に関してかかる分子の任意の妨げを最小限にするために、溶血した血液試料から可能な限り多くのタンパク質を除去することが望まれ、必要であると証明された。選択された孔径に応じて、特定の分子量より大きいタンパク質を排除することができる。好ましくは、排除されるタンパク質画分には、20kDa以上のポリペプチドが含まれる。また好ましくは、排除されるタンパク質画分には、19kDa以上、18kD以上、17kD以上、16kD以上、および15kDa以上のポリペプチドが含まれる。
市販RAM物質のサイズ排除の下限は、各製造会社によって与えられており、約15〜20kDaである。RAMは20kDa以上の見かけの分子量を有するポリペプチドで十分に機能するが、ヘモグロビンは、わずか16kDaの分子量を有し、調査される市販RAMについて重要な問題を提示する。実際に、この問題は、溶血した血液試料からの分析物のオンラインクロマトグラフィー検出が未だ臨床診断の日常業務で確立されない理由の1つであるかもしれないし、最も重要な理由でもあるかもしれない。
さらに以下で示される実験から分かるように、市販のRAM ADS(登録商標)カラムが標準プロトコールによって使用される場合、例えば、ヘモグロビンは該カラムに非特異的に結合する。目的の分析物を含む結合物質の溶出の際に、ヘモグロビンはまた、RAMから遊離し、分析物の検出を妨げる。驚くべきことに、ヘモグロビンを含む試料が8.0より高いpHを有するバッファ中に加えられる場合、例えば溶血した全血試料中に含まれるヘモグロビンの非特異的結合が劇的に減少することができることを見出した。
特定のpHで試料をRAMに「適用する」ことは、試料がこのpHを有することまたはこのpHに調整されていることを必ずしも意味せず、試料を注入する試料適用バッファがこのpHを有することを意味する。当業者はしばしば、このようなバッファを第1溶出液またはバッファ(A)ともいう。日常業務で好ましい様式の液体クロマトグラフィーにおいて、RAMカラムは、通常、適用バッファで平衡化され、系を動かし、即ち、適用バッファはクロマトグラフィー設定を流れて、試料はバッファの流れの中に注入される。この理由で、適用バッファは、溶出液、例えば溶出液(A)とも称される場合がある。当業者が理解するように、適用バッファの緩衝能力は、試料のバッファ強度と適合するように選ばれる。溶血物の場合において、バッファのモル濃度は、5mMと同じ程度に低くてもよい。好ましくは、バッファは、約10mMまたは約20mMの濃度で使用される。示したように、バッファ強度は、要件と適合するように当業者によって容易に選択することができる。
8.0よりも高いpHでは、RAMに対するヘモグロビンの非特異的な結合が、それぞれ、排除されるまたは目的の分析物の検出を妨げないレベルに低減される。好ましくは、試料をRAMに加えるために使用されるバッファのpHは、少なくともpH8.5以上、また好ましくは少なくともpH9.0以上、またはpH9.5以上である。最大のpH範囲を適切なものとして選ぶことができる。当業者は、目的の分析物を破壊せず、使用されるRAMも破壊しないpHを選ぶ。好ましくは最大のpHは、pH12.5以下である。また好ましくは、最大のpHはpH12.0以下、またはpH11.5以下、またはpH11.0以下のそれぞれである。
簡潔で好ましいオンライン設定において、適切なバッファ条件下で試料をRAMに適用して、RAMを適切な洗浄バッファで洗浄する。系のバルブおよび流れ方向を調整することによって、存在する場合、分析物は溶出され、分析カラム上を通過し、検出される。さらに好ましい態様において、本発明の方法は、適用バッファおよび溶出バッファについて同じpHを使用することによって行われる。当業者が知るように、目的の分析物の溶出は、調査中の分析物に最も適切な条件を満たすように調節することができる。多くの場合、勾配溶出はこの要件を満たす。
本発明による分析物は、核酸を除いた生体分子を含む任意の無機または有機分子であってもよい。分析物は、核酸、特にDNAではない。好ましくは、分析物は、ポリペプチド、炭水化物、および無機または有機薬物分子からなる群より選択される。好ましくは、目的の分析物は、10kDa以下、また好ましくは9kDa以下、8以下、7kDa以下、6kDa以下、または5kDa以下のそれぞれの分子量を有する。
ポリペプチドまたはタンパク質は、本質的にアミノ酸から構成され、かつペプチド結合によって結合された少なくとも2つのアミノ酸を有する分子である。本明細書に開示される方法において調査される目的の分析物で、ポリペプチドは、好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30〜約100個までのアミノ酸からなる。好ましくは、ポリペプチドは5〜100個のアミノ酸、また好ましくは10〜40個のアミノ酸を含む。目的の適切なペプチド分析物は、例えば、ペプチドホルモン、および循環中に存在する他のポリペプチド、特に本発明の膜可溶化剤を用いた処理によって赤血球から放出されたポリペプチドである。
好ましくは、本発明の方法は、全血試料からの分析物のオンライン検出において使用され、該分析物は、赤血球内に少なくとも部分的に位置し、例えば、シロリムス、タクロリムスまたは葉酸である。
本発明の好ましい標的分析物は、乱用薬物および免疫抑制薬からなる群より選択される。
好ましい標的分析物は、乱用薬物である。好ましくは、乱用薬物は、アンフェタミン、コカインおよびベンゾイルエクゴニンなどのコカイン代謝産物、メタンフェタミン、アヘンおよびアヘン誘導体、テトラヒドロカンナビノールなどのカンナビノイド、ならびにフェンシクリジンからなる群より選択される。
別の好ましい標的分析物は、免疫抑制薬である。免疫抑制薬は、好ましくはシクロスポリン(CsA)、ミコフェノレートモフェチル(MMF)、ラパマイシン(RAPA、シロリムスとしても公知)、タクロリムス(FK-506)、アザチオプリン(AZA)、およびメチルプレドニゾロン(MP)からなる群より選択される。
さらに好ましい標的分析物は、葉酸または葉酸ビタマーのそれぞれである。1つの好ましい分析物は、血液血漿および赤血球の両方に含まれる全ての葉酸である。
本発明の方法において、目的の分析物は、最初に、適切な条件下でRAMに結合する。検出および/または定量のために、分析物は、RAMから溶出され、その後適切な方法によって検出およびまたは定量される。好ましくは、目的の分析物はRAMから溶出され、その後液体クロマトグラフィーの補助によって分離される。好ましくは、RAMから溶出される物質は逆相HPLCによってさらに分離される。
液体クロマトグラフィー(LC)は、種々の試料成分が複雑な混合物に存在する場合でも目的の分析物の分離、同定および定量に使用される非常に重要な分析技術である。LC中に、混合物中の化学成分は、液体移動相の流れにより適切な固定相を充填したカラム床から移動する。固定相、通常、不規則粒子または球状粒子は、分析物との可逆相互作用に適切な表面を有する。粒子は、相互作用に利用可能な表面積を増大させるために多孔質であってもよい。液体クロマトグラフィーにおける分離は、分析物と移動相および固定相の両方との相互作用の差によって達成される。当業者が理解するように、調査中の分析物に適切な固定相および移動相の両方を選ぶ必要がある。また、ユーザーは、試料が固定相カラムから検出器に移動するときに分析物バンドの鋭さを維持するために適切なクロマトグラフィー条件を同定する。
高圧液体クロマトグラフィーとしても公知であり、HPLCとして省略される高速液体クロマトグラフィーは、特別な形態の液体クロマトグラフィーであり、今日生化学および分析化学で頻度高く使用されている。LCと比べて、固定相の粒子径はより小さく、周知の理論によれば、得られたクロマトグラムにおいて少ないバンド分散および狭いピークをもたらし、優れた分解能および感度をもたらす。小さい粒子直径のために、HPLC適用における移動相は、高圧でカラムに押し込まなければならない。
移動相は試料溶質の溶解を確実にするために選択される。固定相について、大きな表面積が溶質-固定相の相互作用の差を強めるので、好ましくは微粒子シリカ(無修飾または化学修飾)が使用される。溶質移動相の相互作用に対して溶質と強く相互作用する固定相の使用は、非常に長い保留時間、分析に有用ではない状態を生じる。従って、固定相は、移動相における相互作用に対して弱い〜中程度の溶質相互作用を提供するように選択されなければならない。結果として、溶質の性質は選択されるLCの種類を決める。試料溶解および準備溶出を確実にするために移動相で強い相互作用が生じるべきであり、固定相は溶質間の微妙な差に応答すべきである。例えば、極性の中性化合物は、通常、溶質の分散特徴における微妙な差を区別する非極性固定相と共に極性移動相を使用して良好に分析される。HPLCの強力な局面の1つは、保留機構を改変するように移動相を代えることができることである。保留を調整するように改質剤を移動相に添加することができる。例えば、pHは水性移動相において重要な変数である。
一般的な5種類のLCを区別することができる:
1. 正常相クロマトグラフィーは、非極性(分散性)移動相と共に極性固定相の使用を要する。
2. 逆相クロマトグラフィー、反対の可能性は、非極性固定相および極性移動相(1つ以上の極性溶媒、例えば水、メタノール、アセトニトリルおよびテトラヒドロフランからなる)の使用を要する。
3. イオン交換クロマトグラフィーはイオン相互作用を伴う。この場合、移動相は、イオン性溶質の溶解を確実にするためにイオン化を支持する必要がある。固定相も、ある程度の保留を促進するために部分的にイオン性である必要がある。
4. サイズ排除クロマトグラフィーは分子の大きさのみに基づいた分離を伴い、理想的には溶質と固定相との吸着相互作用が存在しないことを必要とする。
5. アフィニティークロマトグラフィーは特異的な相互作用、例えば抗原と対応する抗体、またはレセプターと対応するリガンドのような特異的な結合ペアの間の相互作用に基づく。例えば、結合ペアの第1のパートナーは適切な固定相に結合し、結合ペアの第2のパートナーを捕捉するために使用される。第2のパートナーは適切な手段により放出および単離することができる。
上記の分離原理の一般的な分類は、完全である必要はないので、非限定的であり、液体試料の分離に使用できる他の分離原理、例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、イオン対逆相クロマトグラフィー、分子インプリント物質ベース分離がある。
目的の分析物の特徴付けおよびまたは定量は、任意の適切な方法によって行うことができる。適切で好ましい検出器は、通過する化合物の存在を感知し、レコーダーまたはコンピューターデーターステーションに電気シグナルを提供する。出力は、通常、クロマトグラムの形態であり、目的の物質は、通常、特定のピークに見出される。ピーク面積またはピーク高を使用して、調査される試料中に存在する分析物の量を定量することができる。
HPLCシステムのための検出器は、試料化合物の溶出による応答を発するコンポーネントであり、続いてクロマトグラム上のピークを表示する。検出器は、カラムから溶出する時に化合物を検出するために固定相のすぐ後部に設置される。バンド幅およびピークの高さは、通常、粗いチューニング調整および細かいチューニング調整を用いて調節してもよく、また、検出および感度パラメーターは、当業者によって調整されてもよい。HPLCと共に使用できる多くの種類の検出器がある。いくつかのより一般的な検出器は、屈折率(RI)、紫外線(UV)、蛍光、放射化学、電気化学、近赤外線(Near-IR)、質量分析(MS)、核磁気共鳴(NMR)、および光散乱(LS)を含む。
屈折率(RI)検出器は、試料分子が光を曲げるまたは光を屈折する能力を測定する。各分子または化合物のこの特性を屈折率と呼ぶ。ほとんどのRI検出器について、光は、バイモジュラーフローセルから光検出器へと進む。フローセルの1つのチャンネルはカラムを通過する移動相に連結され、もう一方のチャンネルは移動相のみに連結される。カラムから溶出する試料によって光が曲げられる場合に検出が生じ、これは2つのチャンネル間の不均等として読み込まれる。
蛍光検出器は、化合物が光を吸収して次に異なる波長の光を再放出する能力を測定する。各化合物は、特徴的な蛍光を有する。励起光は、フローセルを通過し、モノクロメーターおよび光検出器は放出された光の強度を測定する。
放射化学検出は、放射性標識物質、通常、トリチウム(3H)または炭素14(14C)の使用を伴う。放射化学検出は、β粒子イオン化と関連する蛍光の検出によって操作され、代謝産物の検査において最も一般的である。
電気化学検出器は、酸化または還元反応を受ける化合物を測定する。これは、通常、所定の電位差で電極間を試料が通過する際に移動している試料からの電子の獲得または消失を測定することによって達成される。
質量分析は、イオンの質量対荷電比(m/z(またはm/q))を測定するために使用される分析技術である。質量分析は、試料成分の質量を表す質量スペクトルを作成することによって物理的試料の組成を分析するために最も一般的に使用されている。該技術は、化合物および/またはその断片の質量によって未知の化合物を同定すること; 化合物の1つ以上の元素の同位体組成を決定すること; 化合物の断片化を観察することによって化合物の構造を決定すること; 注意深く設計された方法を用いて試料中の化合物の量を定量すること(質量分析法は本来定量的ではない); 気体相イオン化学(真空中のイオンおよび中性子の化学性質)の基礎を研究すること; 様々な他のアプローチを用いた化合物の他の物理、化学または生物特性までを決定することを含むいくつかの用途を有する。
質量分析器は、質量分析に使用されるデバイスであり、試料の質量スペクトルを生じその組成を分析する。これは、通常、試料成分をイオン化し、異なる質量のイオン(m/z比)を分離し、イオン流動の強度を測定して相対的存在度を記録することによって達成される。典型的な質量分析器は、3つの部分、イオン供給源、質量分析器、および検出器を備える。
イオン供給源の種類は、どんな種類の試料が質量分析によって分析することができるかに強く影響を及ぼす寄与因子である。電子イオン化および化学イオン化は、気体および蒸気に使用される。化学イオン化供給源において、分析物は、供給源の衝突中に化学イオン分子反応によってイオン化される。液体および固体生物学的試料にしばしば使用される2つの技術としては、電子スプレーイオン化(ESI)およびマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)が挙げられる。他の技術としては、高速原子衝撃(FAB)、熱スプレー、大気圧化学イオン化(APCI)、二次的イオン質量分析(SIMS)および熱イオン化が挙げられる。
好ましい態様において、本発明の方法における分析物の検出は質量分析によって行われる。
核磁気共鳴(NMR)検出は、Hおよび13Cを含む奇数の質量を有する特定の核が、ランダムな様式で軸の周りを回転するという事実に基づいている。しかし、強力な磁石の極の間に置かれた場合、スピンは磁場に対してパラレルまたはアンチパラレルのいずれかに整列されるが、エネルギーが少し低いためにパラレル方向が好ましい。次に核は、電磁線で照射され、電磁線を吸収し、高いエネルギー状態にパラレル核が置かれ、結果的に、核は照射で「共鳴」する。分子中の全ての核が取り囲んでいる磁場を変化させる電子雲によって取り囲まれており、それによって吸収周波数が変わるために、各HまたはCは、化合物中の位置および隣接する原子または原子基に依存して異なるスペクトルを生じる。
供給源が溶液中の粒子と衝突する光のパラレルビームを放出する場合に、いくつかの光は、反射され、吸収され、透過され、または散乱される。これらの現象は、光散乱(LS)検出器によって測定することができる。LS検出の最も主要な形態は、比濁分析法および濁度測定法と称される。比濁分析法は、粒子溶液により散乱される光の測定として定義される。この方法は、ある大きさの角度で散乱される光の割合の検出を可能にする。濁度測定法は、溶液中の粒子によって透過される光の減少の測定として定義される。濁度測定法は粒子溶液を透過する光の減少として光散乱を測定する。従って、濁度測定法は透過した残りの光を定量する。
近赤外線検出器は、700〜1100nmのスペクトルにおいて化合物をスキャンすることによって操作される。各分子中の特定の化学結合の伸縮振動および変角振動は、特定の波長で検出される。
本明細書に記載される方法は、溶血した全血試料からの分析物の検出において使用することができる。当業者に明白なように、本発明の方法はまた、血漿、血清、尿またはCSFのような他の基本試料物質を用いて機能する。従って、本発明の方法に使用される好ましい試料は、血漿、血清、尿、CSFおよび溶血した全血からなる群より選択することができる。溶血した全血試料が好ましい。
上記のように、本発明の著者らはまた、特異的溶血の方法を発見した。この方法は、公衆には未だ利用可能ではなく、従って以下で幾分詳細に説明する。用語特異的溶血は、赤血球の細胞膜を溶解し、同時に試料成分の沈殿を生じない適切な条件下で、赤血球を含む試料を膜可溶化剤で処理する方法に関する。以下の記載から明らかなように、本発明の方法は、好ましくは特異的に溶血した全血試料を用いて行われる。
本発明の意味において「赤血球」は、細胞核を有さない赤血球である。このような細胞核を有さない赤血球は、例えば、哺乳動物の循環に見られる成熟赤血球である。本発明は、例えば鳥類の種で公知である有核赤血球に関しない。後者は有核細胞または真核細胞の基準を満たさない。
本発明の目的で「哺乳動物」とは、ヒト、家畜動物および農場動物、および動物園、スポーツ、またはペットの動物、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギ等を含む哺乳動物として分類される任意の動物のことをいう。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
本発明の意味において「真核細胞」または「有核細胞」は、真核生物体に由来する細胞であり、さらに細胞核を有している。真核細胞の例は、有核組織由来細胞、有核組織培養細胞および有核血液細胞である。好ましい態様において、真核細胞は、血小板、単球、好中球、好酸球、または白血球等の有核血液細胞である。遺伝物質を含むが細菌等の下等生物由来の細胞は真核細胞ではない。
全血試料の溶血は、当該技術分野で公知の任意の溶血法によって行うことができる。好ましくは、溶血した全血試料は特異的溶血によって得られる。実施例の項で示されるように、特異的溶血、即ち赤血球の細胞膜を溶解し、同時に試料成分の沈殿を生じない適切な条件下で、液体試料を膜可溶化剤で処理する有利な特性は全血試料を用いて確立された。
好ましくは、適切な膜可溶化剤を用いて特異的溶血に供される液体試料は、それぞれ、赤血球を含み、かつ有核細胞を含んでもよいか、または有核細胞を含む。さらに好ましくは、液体試料は、赤血球および有核細胞の両方を含む。好ましくは、特異的溶血に供される方法に使用され、かつその後に本発明の方法に使用される液体試料は全血である。理解されるように、全血試料は、核がない赤血球および有核血液細胞の両方を含む。
好ましくは、全血試料は直接処理され、即ちサンプリング後に直接特異的溶血に供される。また好ましくは、全血は、抗凝固全血試料を生じるように適切な抗凝固剤で回収/処理される。臨床診断の日常業務に頻度高く使用される周知の抗凝固剤は、ヘパリン、クエン酸およびEDTAである。好ましくは本発明の試料は抗凝固全血試料、特に特異的に溶血したクエン酸処理全血試料またはEDTA抗凝固全血試料である。
特異的溶血の方法において、液体試料は、2つの要件: a)赤血球が存在する場合に赤血球の膜を破壊することおよびb)同時に試料成分の沈殿が生じないことが満たされるような方法で処理される。上記のように、この方法は特異的溶血と称される。該方法が全血試料で実施される場合、溶解した赤血球を含むが沈殿は生じない処理された試料、特異的に溶解された全血試料が得られる。
適当な条件下で適当な膜可溶化剤を適用することにより、例えば血漿から赤血球の内容物をさえぎるために必須である細胞膜の完全性が失われる。赤血球の内容物(例えば、いくつかの目的の分析物以外にヘモグロビン)が周囲の液中に放出される。それと同時に、試料構成物の沈殿は生じない。
当業者が理解するように、後の分析を妨害することがある試料構成物は、特にDNAおよびタンパク質であり得る。例えばリンパ球または単球などの真核細胞の核が破壊されなければこれらの核からDNAは放出されない。タンパク質が沈殿しなければ、特異的溶血に供される試料に含まれるタンパク質は、少なくとも有意な程度には常套的なクロマトグラフィー工程を妨害しない。しかし、さらに上述されるように、それでもRBC成分-特にヘモグロビン-が目的の分析物の検出を妨害することがある。
赤血球の完全性は、例えば適切な生体染色により容易に評価することができる。本発明の好ましい態様において、赤血球細胞膜の完全性を評価するためにトリパンブルーが使用される。無傷な赤血球はトリパンブルーを蓄積しないが、膜が破壊された赤血球はトリパンブルーに染まる。赤血球の膜の完全性は、試料をトリパンブルーで染色した後、顕微鏡下で容易に評価される。破壊された赤血球のパーセントは、処理の前後に無傷な赤血球を計測して、最初の数を後の数で割り、この値に100をかけることで計算される。可溶化された赤血球は溶解赤血球(red blood cell)または溶解赤血球(erythrocyte)と呼ぶ。
適切な処理は、赤血球を溶解するのに適切であるが、同時に試料構成物を沈殿させない。本発明の方法における適切な溶血処理は真核細胞の外膜にも影響することが予想される。しかし、細胞核に含まれるDNAが試料中に放出されないように注意することができ、そうする必要がある。使用される溶血試薬および条件は、核膜を残して核を肉眼的に無傷にするか、または少なくともDNAを周囲およびDNA安定化核タンパク質から遊離させないかのいずれかが好ましい。DNAを有意な程度に放出させた場合、かかるDNAは試料のさらなる取り扱いを妨害することがあるかまたは妨害する可能性が高い。放出されたDNAは、例えば液体を強い粘着性にする傾向がある。その後、かかる試料をピペッティングするまたは移動させるまたは特定のフィルターもしくはカラムに通すことはもはや不可能である。
タンパク質沈殿が生じないようにも注意することができ、そうする必要がある。当業者が理解するように、生物試料、例えば全血試料中には非常に多くの種々のタンパク質が存在する。全てのこれらのタンパク質は、その沈殿または集合し易さに影響する個々の特性を有する。
ここで、膜可溶化剤を用いた試料の処理工程が適切な条件下、つまり一方で赤血球の細胞膜を溶解し、同時に試料構成物を沈殿させない様式で実施されるかどうかを説明および規定することが可能であると見出された。溶解しない赤血球および沈殿した試料構成物の両方は、かかる試料の特性に負の影響を有する。
特異的溶血の条件が適切であるかどうかは、以下の標準的な手法を使用して容易にかつ好適に決定することができる。40のヘマトクリットを有する全血試料を候補溶血試薬で1:10に希釈する。試薬が特異的溶血を生じる効率は視覚的に分かる。赤血球の溶解の際に混合物は透明になる。試料構成物の沈殿が生じた場合は、試料は濁るもしくは粘着性になるまたはその両方になる。
上述のように、本発明の特異的溶血の方法に使用される条件は、視覚的に容易に評価することができる。全血試料と特異的溶血に適した候補試薬をインキュベートする場合、赤血球の溶血に必要な最小濃度は、濁った血液試料を透明または澄んだ状態にする最低濃度であると認識することができる。可能な限りで最も高い濃度はさらに、透明かつ非粘着性の試料を生じる濃度である。
候補溶血試薬の適切な最小終濃度を、処理された全血試料の透明度を変化させる濃度として決定することはかなり容易であるとわかった。この透明度の変化は、HPLCによる直接分析のためのかかる処理された試料の適切さと充分に相関する。しかし、明確な規定のために、溶血試薬の最小濃度は下記のようにHPLC法により確認されることが好ましい。
可能な限りで最高の溶血試薬の濃度は、DNAの放出および/またはタンパク質の沈殿を依然として生じない濃度である。DNA放出および/またはタンパク質沈殿により、試料は粘着性になるか、濁るか、またはその両方であり直接的なHPLC適用にこれ以上適さなくなる。粘度および濁度は視覚に従うことができるが、溶血試薬の最大濃度は下記のようにHPLC法により確認されることが好ましい。
依然として非常に多くの溶解していない赤血球を含む全血試料および沈殿した試料構成物を含む処理された全血試料の両方は、任意のクロマトグラフィー法に適さない。これは、特異的溶血を生じるのに適切な条件が、好ましくは標準化された様式で特異的溶血のための候補試薬で処理された全血の試料をHPLCカラムに適用することにより決定されるためである。
不完全な溶血および/または試料構成物の沈殿は、10μlの処理された全血試料をHPLCカラムに50回適用することにより評価される。特異的溶血のための候補溶血試薬が適切であるかどうかを評価するために、前記溶血試薬と全血の試料を混合する。好ましくは、生理食塩水で予め1:10に希釈された40のヘマトクリットを有するEDTA血液を使用する。試料を1:1の割合で候補溶血試薬と混合し、混合物を20℃で30分間インキュベートする。10μLのこの混合物の50アリコート、つまり処理された全血試料を、HPLCシステムの一部である直径2mmで0.5μmの孔径を有するフィルターに適用する。フリットがHPLCカラムの一部である場合、固定相は任意の妨害または阻害を生じないように選択する必要がある。背圧をモニターする。注入の背圧が50で第1の注入の背圧を互いに比較した場合に20バール以上の背圧の増加を生じる特異的溶血のための候補試薬は適切ではないと見なされる。このように、特異的溶血に適切な試薬の最小および最大終濃度は両方、容易に同定することができる。
好ましくは、特異的溶血のための候補試薬の上述の評価に使用されるフィルターはHPLCフリットである。また、好ましいフリットは、床物質として100Åの孔径を有する3.5μm Symmetry(登録商標)C18粒子が充填され、2mmのカラム内部直径を有する長さ20mmのHPLCカラムの一部である。
当業者が容易に理解するように、かかる評価に使用される全血試料は健常個体、つまり公知の疾患を有さず正常範囲の生化学値を有する個体から得られる。
特異的溶血についての両方の要件を満たすために、非常に多くの化学物質について適切な条件を確立することができることが見いだされ、確立された。特異的溶血のための試薬は、適切な濃度の膜溶解(=膜可溶化)化学物質を含み、試料と混合した後に特異的溶血を生じる。
好ましくは、本発明の膜可溶化剤は、溶媒として水をベースとし、上述のような特異的溶血を生じる化学物質または試薬を含み、また好ましくはバッファおよび/または保存剤を含んでもよい。好ましくは、特異的溶血に使用される試薬は、1000ダルトン未満の分子量を有し、膜可溶化活性を有する化学物質または試薬をベースとする。
好ましくは、膜可溶化剤は下記の化学物質KBr、KJおよびKSCN、または下記のカチオンおよびアニオンの1つ以上からなる塩の1つ以上の膜溶解作用に基づく。
好ましくは、カチオンは、

(式中mは0または1であり、nは4または6である)から選択される。
好ましくは、アニオンは、塩化物、テトラフルオロボレート、オクチル硫酸塩、ヨウ化物およびチオシアネートから選択される。上述の化学物質の混合物を使用することも可能である。当業者が理解するように、これらの化学物質は特異的溶血を容易にするが、溶血試薬の他の成分は異なる目的で作用してもよく、例えばバッファまたは保存剤として機能してもよい。
好ましくは、特異的溶血のための試薬に含まれる化学物質は、好ましくはカチオンが

(式中、mは0または1であり、nは4または6である)から選択され、好ましくはアニオンが塩化物、テトラフルオロボレート、オクチル硫酸塩、ヨウ化物およびチオシアネートから選択される塩である。
好ましくは、膜可溶化剤に含まれる適切な膜溶解化学物質は、1-ブチル-4-メチルピリジニウムテトラフルオロボレート;1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムテトラフルオロボレート;1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムオクチル硫酸塩;塩化1-ブチル-3-メチルピリジニウム;塩化1-ヘキシルピリジニウム;塩化1-メチル-1-オクチルピロリジニウム;塩化N-オクチルピリジニウム;塩化3-カルバモイル-1-オクチルオキシメチルピリジニウム;KBr;KJおよびKSCN、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される。
好ましくは、膜可溶化剤に含まれる膜溶解化学物質は、1-ブチル-4-メチルピリジニウムテトラフルオロボレート;1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムテトラフルオロボレート;1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムオクチル硫酸塩;1-ブチル-3-メチル塩化ピリジニウム;1-ヘキシル塩化ピリジニウム;1-メチル-1-オクチル塩化ピロリジニウム;N-オクチル塩化ピリジニウムおよび3-カルバモイル-1-オクチルオキシメチル塩化ピリジニウムからなる群より選択される。これらの試薬の1つとKSCNの混合物を使用することがさらに好ましい。
当業者に明らかなように、候補溶血試薬中20分の1希釈の全血試料に基づく上述の方法において、特異的溶血のための候補試薬の適切な濃度が同定されると、必要に応じて、全血試料対調整された溶血試薬の別の割合を使用することができる。
目的の分析物が調査中の血液試料中に高濃度で存在することが予想される場合、溶血試薬の終濃度は上記設定において同定されたものと同じままであり得、全血対溶血試薬のより低い割合、例えば1:30、1:40または1:50を使用することができる。好ましくは、本発明の膜可溶化剤中で、特異的溶血のための試薬は、先に決定されたように特異的溶血を達成するのに充分な少なくとも最小濃度で使用される。
目的の分析物がかなり低い濃度で存在する場合、全血試料を1:20未満に希釈する必要はない。このことは、溶血試薬と全血試料の混合物中の全血に対する溶血試薬の相対的終濃度が、上述の評価において決定されるような溶血試薬の必要最小および最大のそれぞれの濃度について同定される割合内にとどまるように、溶血試薬の濃度を調整することにより実行可能である。
例として、本発明の膜可溶化剤中1%および0.4%のそれぞれの終濃度で使用される場合、塩化1-メチル-1-オクチルピロリジニウム/KSCNは、所望の結果、つまり1:20の最終希釈で全血試料の特異的溶血を達成するのに適切であることがわかっている。例えばこの溶血試薬の濃度が塩化1-メチル-1-オクチルピロリジニウムについて2%およびKSCNについて0.8%それぞれに調整される場合、処理された血液試料中の分析物の希釈を低減することができる。後に、1:5希釈された全血試料と1:1に混合される場合、この調整された濃度の溶血試薬を含む膜可溶化剤も全血試料の特異的溶解を生じる。全血対溶血試薬の割合が一定に保たれるので、この処理された血液試料を1:10に希釈するだけである。10%の塩化1-メチル-1-オクチルピロリジニウムおよび4%のKSCNそれぞれを含む1mlの膜可溶化剤を、PBSに1:1で希釈された1mlの全血と混合する場合も特異的溶血が観察される。あるいは、1mlの全血を、10%の塩化1-メチル-1-オクチルピロリジニウムおよび4%のKSCNそれぞれを含む2mlの膜可溶化剤に添加することができる。
多くの常套的な適用について、膜可溶化剤に対する全血試料の理想的な割合は10:1〜1:20であることが予想される。好ましくは、本発明の方法において、全血の試料を、5:1から1:15の割合で溶血試薬と混合する。より好ましい割合は、2:1〜1:10の間であり、また好ましくは1:1〜1:5の間である。最終的な、つまり臨床的常套手段に使用される調整された溶血試薬の可能な限り最も高い濃度は、かかる試薬の溶解度および値段に依存する。
好ましくは、特異的溶血に適切な試薬はさらに、赤血球の膜の破壊に必要な化学物質の(最小)濃度と、同時に試料構成物の沈殿が生じない前記化学物質について許容される(最大)濃度が少なくとも2倍離れていることを特徴とする。特異的溶血に必要な試薬の最小濃度と最大濃度の領域が広いほど、かかる試薬は臨床的診断常套手段においてさらに容易に使用することができる。
特異的溶血のための試薬に含まれる膜溶解化学物質が、前記試薬と試料の混合後、この膜溶解化学物質の終濃度が平均値+最小濃度の30%-最大濃度の30%のそれぞれに相当する濃度で使用されることがさらに好ましい。特異的溶血のための試薬に含まれる膜溶解化学物質のさらに好ましい濃度は、試料と混合後、最小濃度と最大濃度の平均値±25%、20%または15%それぞれの範囲内に調整される。
特異的溶血のための試薬に含まれる膜溶解化学物質が、試料と混合後、上述で決定される最小濃度の1〜4倍、また好ましくは最小濃度の1.5〜3倍の濃度に相当する溶血化学物質の終濃度が得られる濃度で使用されることも好ましい。
好ましくは、本発明の膜可溶化剤中の特異的溶血のための試薬は、75重量/体積%以下、また好ましくは50重量/体積%以下の濃度で使用される。
好ましくは、試料を特異的に溶血する方法を本発明の方法と組み合わせる。好ましくは、この方法はまた、さらに液体クロマトグラフィー(LC)工程を使用する。
さらに好ましい態様において、本発明は、液体試料を得る工程、前記液体試料を膜可溶化剤による試料処理の方法に供する工程であって、該可溶化剤が赤血球の膜を破壊して真核細胞の核を破壊しないような適切な工程、必要に応じて、pHをpH8.0より高い値に調整する工程、試料をRAMに供する工程、およびその後結合物質を溶出する工程、溶出物を液体クロマトグラフィーに供する工程、および適切な手段による観察下で分析物を分析する工程を含む、液体試料中の分析物の検出方法に関する。好ましくは、試料をRAMに供する工程、試料を溶出してクロマトグラフィーに供する工程および分析方法は全て直接(オンラインで)実施される。
常套的な適用において、固定相、いわゆる床物質、例えばRP-HPLC適用における誘導体化シリカ粒子は適切なカラムに詰められ、フリットにより保護される。フリット物質は通常、床物質の孔径と比較してそれより小さな孔径を有するように選択される。
HPLC法において、固定相粒子の直径は、通常1〜10μmの範囲である。これらの小さな粒子は、HPLCで使用される高圧を必要とする。床物質は通常フリットによって保護される。典型的なフリットは、1μm、0.45μmまたは0.2μmの孔径を有する。粒子が小さくなるほど、通常フリットの孔径は小さくなる。試料がHPLCフリットを阻害し得る構成物を含む場合、これは任意の常套的な分析に有害である。全血試料、および試料構成物の沈殿物を含む「過剰処理」全血試料は、任意の常套的HPLCフリットまたはカラムの早急な阻害を引き起こす。当業者が理解するように、HPLCカラムに使用されるフリットの阻害は、フリットの孔径が小さいほど、固定相粒子の直径が小さいほどおよびカラムの直径が小さいほど早く生じる。フリットが適切に選択されない場合、つまり孔径が大きすぎる場合、カラム物質の粒子サイズも原因となり、粒子が小さいほどカラムはより早く詰まる。
試料、例えば全血の試料を特異的溶血に供することによって、カラムが阻害される危険性を生じることなくかかる処理された試料を直接的にHPLCカラムに適用することが可能である。好ましくは、かかるHPLC工程に使用する固定相粒子は、直径が1〜10μmの範囲、また好ましくは2〜7μmの範囲である。好ましくは、かかるHPLC工程に使用されるフリットは、0.5μm、または好ましくは0.2μmの孔径を有する。
実施例において説明されるように、ここで試料、例えば全血の試料を特異的溶血に供すること、かかる溶血物を特定のpH要件が満たされた条件下でRAMに適用すること、RAM結合物質を溶出すること、および抗生物質またはタクロリムスもしくはラパマイシンなどの免疫抑制薬のような目的の分析物の非存在、存在または量を検出することが可能である。
以下の実施例および図面は、その真の範囲が添付の特許請求の範囲に記載される本発明の理解を補助するために提供される。本発明の精神を逸脱することなく、記載される手順において変更がなされ得ることが理解されよう。
図1は、pH6.6:396nmでのヘモグロビンのクロマトグラムである。それぞれ、ピーク#1はフロースルー中のヘモグロビンを表し、ピーク#2は15%のバッファBで溶出されたヘモグロビンを表し、ピーク#3はカラムを100%のバッファBで洗浄した際に見られたヘモグロビンを表す。 図2は、pH10.7:396nmでのヘモグロビンのクロマトグラムである。それぞれ、ピーク#1はフロースルー中のヘモグロビンを表し、ピーク#2は20%のバッファ(B)で溶出されたヘモグロビンを表す。 図3は、pH10.7で持ち越されたヘモグロビンの観察である。ヘモグロビン持ち越しは、ヘモグロビン含有試料の分析後にブランク注入を実施して観察した。クロマトグラムからわかるように、20%のバッファ(B)でヘモグロビンを同定することはできない。 図4は、溶血物から分析物を抽出するために使用される実験設定である。Biotrap 500 MS後にUV-Vis検出でヘモグロビンをモニターした。分析カラム後に質量分析により分析物を検出した。 図5は、全血溶血物のブランク注入である。クロマトグラムはテトラサイクリンが溶出するはずの位置でピークが見られないことを示す。 図6は、テトラサイクリンを加えた全血溶血物の注入である。クロマトグラムはテトラサイクリンが溶出するはずの位置にこの分析物の明確なピークが見られることを示す。 図7は、試料として溶血物を注入した後にBiotrap 500 MSで実施したブランククロマトグラフィーである。このクロマトグラムから明らかなように、ヘモグロビンは検出されない。 図8は、ヒト全血溶血物に加えたテトラサイクリンの校正曲線である。この図に示される外挿線、および計算された高い相関係数(r2=0.945)により示されるように直線的な相関が観察される。 図9は、全血溶血物から免疫抑制薬を抽出および検出するために使用される分析HPLC設定である。 図10は、オンラインSPE-HPLC-UVによる全血溶血物からのタクロリムスの抽出である。291nm(タクロリムスの最大吸光)で得られたクロマトグラムを示す。矢印はタクロリムスに相当するピークを示す。 図11は、オンラインSPE-HPLC-UVによる全血溶血物からのラパマイシンの抽出である。278nm(ラパマイシンの最大吸光)で得られたクロマトグラムを示す。矢印はラパマイシンに相当するピークを示す。
実施例1
異なるpH値での種々のRAMの評価
RAMカラムを分析HPLCシステムに直接取り付けた。10μLのヘモグロビン溶液を注入した。6.6およびpH10.7それぞれの異なるpHの試料適用バッファ(溶出バッファA)を用いて第1の試験を行った。それぞれのpH値について、カラムを流れるおよびカラムに保持されるヘモグロビンの量を計算した。ヘモグロビンの注入に連続してブランク注入を実施して持ち越しも評価した。
カラム溶出物を396nmでモニターした(後半はヘモグロビンの吸光最大値である)。試験したカラムはMerckのLiChrospher(登録商標) RP-18 ADS(Merck, Darmstadt, Germany, 注文番号1.50947.0001)、およびChromTech Ltd., Cogleton, United Kingdom, 注文番号BMS134KのBiotrap 500 MSを含んだ。
a) pH6.6でのヘモグロビン妨害の評価(5mM酢酸アンモニウム)
MerckのLiChrospher(登録商標) RP-18 ADSカラムを使用した。10μLの試料(5mM酢酸アンモニウムにpH6.6で溶解した150mg/mLのヘモグロビン)をカラムに適用した。ヘモグロビンの溶出のために2種類のバッファ(A)H2O中5mM酢酸アンモニウム(pH6.6)および(B)アセトニトリル(ACN)中5mM酢酸アンモニウム(pH6.6)をそれぞれ使用した移動相を使用した。100%の(A)で15.0分間定組成溶出を行い、次いで100%(A)〜0%(B)から0%(A)〜100%(B)の直線的勾配を30分間使用して、その後100%(B)で2.0分間の洗浄工程によりRAMに可逆的に結合した任意のヘモグロビンを検出した。流速は1.5mL/分であり、全ての工程は室温でおこなった。
pH6.6では、ヘモグロビンは優先的にフロースルー(100%に設定)中に存在し、15%(B)周辺で部分的に溶出し(24%)、100%(B)の洗浄工程でも存在した(4%)。しかし、この分離は常に再現可能ではなく、保持されなかったヘモグロビンおよび保持されたヘモグロビンの両方の正確な定量はそれぞれ、フロースルーピークならびに保持されたピークの幅の広さおよび平坦さによる検出器の飽和のためにむしろ困難である(図1参照)。洗浄ピーク中のヘモグロビンは、溶血物の分析物測定のオンライン設定におけるヘモグロビンによる妨害を示唆する可能性が最も高いために重要である。洗浄工程においてヘモグロビンがすでに存在していたために、ヘモグロビン持ち越しの危険性、つまりオンラインシステムに先に適用された試料中に含まれるヘモグロビンによる、任意のさらなる分析物の検出における妨害の危険性は非常に高く、例えば質量分析検出に使用される電気スプレーイオン供給源の汚染を生じる。
b) pH10.7でのヘモグロビン妨害の評価(10mMエタノールアミン)
MerckのLiChrospher(登録商標) RP-18 ADSカラムを使用した。10μLの試料(pH10.7で10mMのエタノールアミン中に溶解した150mg/mLのヘモグロビン)をカラムに適用した。RAM結合ヘモグロビンの溶出のために、2種類のバッファ(A)H2O中10mMエタノールアミン(pH10.7)および(B)ACN中10mMエタノールアミン(pH10.7)それぞれを用いる移動相を使用した。100%(A)で15.0分間定組成溶出を行い、次いで100%(A)〜0%(B)から0%(A)〜100%(B)の直線勾配を30分使用して、その後100%Bで2.0分間洗浄工程を行った。流速は1.5mL/分であり、全ての工程は室温で行った。pH10.7では、フロースルー中にヘモグロビンは優先的に存在し(100%に設定)、20%(B)周辺で部分的に溶出し(20%)、洗浄ピークでは有意なレベルでは全く存在しない(図2参照)。これらのバッファ条件下ではヘモグロビンはメモリー効果を何ら生じない、つまり同じカラムを使用する次の測定においてヘモグロビンは存在しないことを示すために、100%(B)の適用後に観察された際の洗浄ピーク中のヘモグロビンの非存在は非常に重要である。実際にpH10.7では持ち越しは観察されなかった。このpH値はRAMへの異なる注入の間にヘモグロビンの持ち越しを回避すること、およびそれによりメモリー効果を回避することに適切であると思われる。
オンライン法が常套的な要件に完全に適合するようにするために、かかる方法も持ち越し問題により邪魔されないことを要する。溶血した全血の試料から分析物を測定する際に、ヘモグロビンは溶血物中に最も豊富に存在するポリペプチドであるために、持ち越し問題はヘモグロビンの持ち越しにより生じる可能性が最も高い。ヘモグロビン試料の後にブランク注入を行うことによってヘモグロビン持ち越しを調べた。ヘモグロビン含有試料の代わりに、上述と同じカラムに10μLの10mMエタノールアミン(pH10.7)を適用した。すべての他のバッファ/溶出条件は変えずにそのままにした。図3からわかるように、このブランク注入においてはヘモグロビンを同定することはできない。これは、このバッファ条件下ではフロースルー中またはその後の実施においていずれもヘモグロビンが見られないことを意味する。これらのバッファ条件下では、ヘモグロビンは目的の分析物の測定を妨害しない。
このRAMカラムの製造業者により特定されるpH範囲を大きく超えたバッファ/実施条件下では、これらの非常に肯定的な観察がなされたことが言及されるべきである。
実施例2
ヒト全血溶血物中の塩酸テトラサイクリンの定量
この一連の実験では、Biotrap 500 MS(登録商標)カラムを使用した。全血を特異的に溶血して、潜在的目的物の分析物に加えるための試料またはマトリックスとして使用した。実施例1で記載された肯定的な実験のために、10.7のpHを有する適用バッファおよび溶出バッファを使用した。具体的な分析物の検出について、直線四重極質量分析器を使用した。
a) 血液溶血物の調製
抗凝固全血を分析まで+4℃に保存した。0.7g C13H28ClN(塩化1-メチル-オクチル-ピロリジニウム)および0.3g KSCNを25mL H2O中で混合して特異的溶血のための試薬を調製した。
緩やかに攪拌しながら1:10に希釈した血液の試料(150mM NaClに希釈)および溶解試薬を1:1の割合で混合して血液溶血物を得た。数分後、血液試料は透明になり、HPLC-MSシステムに注入する準備ができた。不運なことに、特異的溶血の顕著な効果は黒白コピー上では容易に見ることができない。したがって、写真は示さない。しかし、特異的に溶血された全血の透明な試料を生じるこの手順は、当業者により容易に再現することができる。適切な(特異的)溶血物の調製は、血液を10mMエタノールアミン中に希釈した後はできないことが言及されるべきである。そのため、血液溶血物は中性条件下で、300μLの全血を2.7mLの150mM NaClおよびその後3mLの溶解試薬と混合して最初に調製した。次いで特異的に溶血した血液の試料を下記のSPE-HPLC-MS設定において、塩基性条件下(10mMエタノールアミン、pH10.7)で注入した。
b) 実験設定
分析設定を示すスキームを図4に示す。Biotrap 500 MS、pH10.7で試料を注入して、試料に含まれたヘモグロビンがカラムを流れた後、目的の分析物をHPLCに移して、6方向バルブを切替えて質量分析検出に移した。負荷ポンプはDionex, GermanyのP680 HPLCポンプであり、注入システムは2.5mL外部ループが装着されたRheodyne 6つ口バルブ(7725)からなった。ヘモグロビンモニタリングはBiotrap 500 MS トラップカラムの後に取り付けたダイオードアレイ検出器UVD340U(Dionex)で実施した。切替えユニットはRheodyne6つ口バルブ(7000)からなった。溶出はBischoff Analysentechnik und Gerate Leonberg, GermanyのProntosil 300-5-C18-H 5μm(125x2.0mm)分析カラムで行った。溶出物の送達はFlux Instruments, SwitzerlandのRheos 2000ポンプで行った。分析物のMS検出はThermo Finnigan, CA, USAの直線四重極Surveyor MSQで行った。
c) テトラサイクリンの検出
2種類の試料を使用して、対応するクロマトグラムを互いに比較した。第1の試料はテトラサイクリンが添加されていない純粋な溶血物であった。第2の試料はテトラサイクリンが加えられた溶血物であった。第2の試料について、30ngの塩酸テトラサイクリンを3mLの全血溶血物(150μL血液+1,350μLの150mM NaCl+1,500μLの溶解試薬)に加えた。得られた塩酸テトラサイクリンの濃度は全血中200pg/μLに相当するはずである。
2.5mLの各試料をBiotrap 500 MSに注入して、10mMエタノールアミンで3.2mL/分で洗浄した。18分後、6つ口バルブを切替えて、300μL/分で分析カラム上に溶出が生じた。(バッファ(A):H2O+0.05%TFA、バッファ(B):ACN+0.05%TFA;直線勾配、10〜30%(B)で7.5分、その後30〜100%(B)で2.5分および定組成条件の100%(B)で2分)。m/z 445.2 ± 1.0のモニタリングで質量分析検出を行った。ブランク実施および血液1μL当たり200pg塩酸テトラサイクリンの注入に相当するイオンモニタリングクロマトグラムを図5および図6それぞれに示す。これらの図に示されるように、全血溶血物中200pg/μLでテトラサイクリンは検出することができた。しかし、同じm/zを有する化合物の隣接する溶出では、かなり低いレベルまたは濃縮されていない試料でテトラサイクリンは検出されない。この問題は、将来の実験において、イオントラップまたは三連の四重極質量分析器で選択された反応モニタリングを使用して取り扱われる。
d) 持ち越し実験
Biotrap 500 MS上のヘモグロビンの持ち越しを調べるために、2.5mLの全血溶血物を注入した。Biotrap 500 MSにおける負荷工程は10mMエタノールアミンで、3.2mL/分で18分間実施した。次いで6つ口バルブを切替えてACN+0.05%TFAの勾配(10〜30%(B)で7.5分、30〜100%(B)で2.5分、100%(B)で2.0分、および0%(B)で7.9分)で逆流溶出を実施した。
逆流溶出の間、H2O中10mMエタノールアミン(A)〜ACN中10mMエタノールアミン(B)の勾配(つまり、0%(B)で2分、0〜100%(B)で4分、100%(B)で6分、および0%(B)で7.9分)を適用して試料ループを洗浄した。
溶血物の注入後ブランククロマトグラフィーを実施して、Biotrap 500 MS上のヘモグロビン持ち越しを調べた。396nmで検出を行った。
図7から明らかなように、全血の試料を溶解して得られた溶血物を試料としてpH10.7でBiotrap 500 MSに適用した場合であっても、ヘモグロビンの持ち越しは観察されなかった。
e) 校正曲線
血液溶血物に加えられた塩酸テトラサイクリンからなる5種類の試料を調製した。全血中の塩酸テトラサイクリンの濃度は200pg/μL、600pg/μL、1,000pg/μL、1,500pg/μLおよび2,000pg/μLであった。注入される溶血溶液中の対応する濃度は、9.5pg/μL、28.5pg/μL、47.5pg/μL、70.9pg/μLおよび94.3pg/μLであった。それぞれの試料について、2.5mLを注入して、上述の(c)に記載されるように分析した。試料は2または3回分析した。
校正曲線をコンピューターで分析して、図8にプロットする。直線的な相関が観察され(R2=0.945)、Biotrap 500 MSがテトラサイクリンを定量的に抽出する能力が明らかにされ、臨床的に意味のある濃度(全血中200pg/μL)で全血溶血物から他の抗生物質を抽出することも可能性が最も高い。三連の四重極分析器でのMRM検出により、分析物と他の化合物が同時に溶出されることによる統合エラーを回避することが可能となるはずであり、抗生物質のさらに改善された測定が生じる。MRMの検出は、かなり低い検出の限界を達成することができることを可能にすると予想される。
実施例3
全血溶血物からの免疫抑制薬の抽出
実施例2において、Biotrap 500 MS RAMが全血溶血物から抗生物質を抽出する能力が示された。これらの肯定的な結果によって助長されたために、該方法が目的の他の分析物にも適用可能であり得るかどうかについてさらなる調査を開始した。免疫抑制薬は非常に重要な臨床的に関連のある分析物であるので、この種類の分析物も、実施例2に記載され使用された方法に基づく良好なオンライン検出法に適用可能であるかどうか調べた。
調査した分析物はタクロリムスおよびラパマイシンであった。タクロリムスはFK-506一水和物として市販されており、Sigmaおよび(CAS # 109581-93-3)から購入した。ラパマイシン(シロリムスとも呼ばれる)もSigma(CAS # 53123-88-9)から入手可能である。
全血溶血物に種々の量の免疫抑制薬を加えた。試料を注入してpH10.7でBiotrap 500 MSにより抽出した。10分後、免疫抑制薬(つまり目的の分析物)を、6方向バルブを切替えて分析カラムに移した。分析設定のスキームを図9に示す。負荷ポンプはDionexのP680 HPLCポンプであり、注入システムは2.5mL外部ループが装着されたRheodyne 6つ口バルブ(7725)からなった。切替えユニットはRheodyne6つ口バルブ(7000)からなった。BischoffのProntosil 300-5-C18-H 5μm(125x2.0mm)分析カラムで溶出を行った。溶出物の送達はFlux InstrumentsのRheos 2000ポンプで行った。分析物モニタリングは、分析カラムの後に取り付けたダイオードアレイ検出器UVD340U (Dionex)によって行った。したがって、実施例2 e)の設定とは異なり、感度および選択性がより低い検出の手段を選択した。
任意の免疫抑制薬を加えることなく、溶血物をまずHPLCシステムに注入して、291nmおよび278nm(つまり、タクロリムスおよびラパマイシンそれぞれの最大吸光)でモニタリングした。
次いで、保持時間を測定するために、タクロリムスおよびラパマイシンの溶液をHPLC-UVに注入した。明確な同一性を得るために、大量の免疫抑制剤をHPLC-UVシステムに注入した。
最終的に、タクロリムスおよびラパマイシンを全血溶血物に加えてオンラインSPE-HPLC-UVで分析した。タクロリムスおよびラパマイシンを溶血物に加えた後に得られたクロマトグラムを図10および図11に示しそれぞれ291.1ng/μLおよび20.0ng/μLの濃度に対応する。示される(これらの図中に矢印で示される)ように、全血溶血物中に加えられたタクロリムスおよびラパマイシンを明確に同定することが可能であった。当業者が気付くように、SPE-HPLC-UVシステムに注入された免疫抑制薬の量はかなり高かった。ダイオードアレイUV検出を使用した検出限界は、タクロリムスおよびラパマイシンそれぞれについて約291ng/μLおよび約20ng/μLであった。しかし、当業者が容易に理解するように、臨床的に関連のあるより低い検出限界は、テトラサイクリンの測定について上述されたように、例えば選択された反応モニタリングタンデム質量分析を使用した場合に達成されるはずである。
したがって、結論では、適切なバッファを市販されるRAMと組み合わせて使用することにより、全血試料からの多くの目的の分析物のオンライン検出が可能であり、有意な臨床的診断有用性および市販の有用性を有し得ることが明らかである。

Claims (10)

  1. a) 目的の分析物を含むことが分かっているかまたは疑われる溶血された全血の試料を、制限アクセスクロマトグラフィー物質(RAM)を含むカラムに適用して、分析物を結合させる工程、
    b) RAMから分析物を溶出する工程、および
    c) 分析物を検出する工程
    を含む、溶血された全血試料中の分析物を検出する方法であって、少なくとも工程(a)において8.5以上のpHを有するバッファが使用される、方法。
  2. RAMが多孔質シリカまたは多孔質ポリマー系粒子から選択される、請求項1記載の方法。
  3. RAMの内部表面が疎水性相互作用、イオン相互作用または極性相互作用により目的の分析物と結合する、請求項1または2記載の方法。
  4. 多孔質シリカまたは多孔質ポリマー系粒子が孔の疎水性内部表面および孔の外部の親水性コーティングを有する、請求項3記載の方法。
  5. RAMの内部表面が疎水性相互作用(内部表面=C4、C8、C18)により目的の分析物と結合する、請求項1〜4いずれか記載の方法。
  6. RAMの孔径が60〜120Åである、請求項1〜5いずれか記載の方法。
  7. タンパク質画分が15kDa以上のポリペプチドを含む、請求項1〜4いずれか記載の方法。
  8. RAMカラムから溶出した後の分析物が逆相HPLCによりさらに分離される、請求項1〜7いずれか記載の方法。
  9. 分析物が10kDa以下の分子量を有する、請求項1〜8いずれか記載の方法。
  10. 分析物が免疫抑制薬、乱用薬物、葉酸および葉酸ビタマーからなる群より選択される、請求項1〜9いずれか記載の方法。
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