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JP5267753B1 - 化学強化ガラス及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、ソーダライムガラスを用いながらも、切断性に優れ、かつ、従来よりも大きな残留圧縮応力を有する化学強化ガラスを提供することを目的とする。
本発明の化学強化ガラスは、ガラス物品の表面層で、ガラス中に最も多く含有するアルカリ金属イオンAを、上記アルカリ金属イオンAよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンBに置換するイオン交換により製造された化学強化ガラスにおいて、イオン交換前のガラスが、ソーダライムガラスであり、実質的に質量%で、SiO:65〜75%、NaO+KO:5〜20%、CaO:2〜15%、MgO:0〜10%、Al:0〜5%からなり、イオン交換後の表面圧縮応力が、600〜900MPaであり、かつ、ガラス表面に形成される圧縮応力層の深さが、5〜20μmである。

Description

本発明は、化学強化ガラスに関し、具体的には、ディスプレイ用基板、あるいは、タッチパネルディスプレイ又は携帯電話のカバーガラス、さらには、太陽電池のカバーガラス及び基板等に好適な化学強化ガラスに関するものである。
近年、携帯電話等のモバイル機器に対しては、ディスプレイの保護及び意匠性を高めるためにカバーガラスが用いられることが多くなっている。そして、モバイル機器に対する軽量化や薄型化の要求のために、必然的にカバーガラスも薄くすることが要求されている。しかし、カバーガラスの厚さを薄くしていくと、強度が低下し、使用中又は携帯中の落下等によりカバーガラス自身が割れてしまうことがあり、ディスプレイ装置を保護するという本来の役割を果たすことができなくなるという問題があった。
上記問題を解決するためには、カバーガラスの強度を高めることが考えられ、その方法として、ガラス表面に圧縮応力層を形成する手法が知られている。ガラス表面に圧縮応力層を形成する手法としては、軟化点付近まで加熱したガラス板の表面を風冷等により急速に冷却する風冷強化法(物理強化法)と、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、ナトリウムイオン)をイオン半径のより大きいアルカリ金属イオン(例えば、カリウムイオン)に交換する化学強化法とが代表的である。
前述したように、カバーガラスの厚さは薄いことが要求されている。しかし、薄いガラスに対して風冷強化法を適用すると、表面と内部の温度差がつきにくいために、圧縮応力層を形成することが困難であり、目的の高強度という特性を得ることができない。
そのため、カバーガラスには、化学強化法によって強化されたガラスが通常用いられている。
化学強化法は、例えば、アルカリ金属成分としてナトリウムイオンを含有するガラスを、カリウムイオンを含有する溶融塩に接触させ、ガラス中のナトリウムイオンと溶融塩中のカリウムイオンとの間でのイオン交換により表面層に圧縮応力層を形成し、機械的強度を向上させる方法である。
化学強化法により作製されたガラスでは、溶融塩中のカリウムイオンがガラス中のナトリウムイオンとイオン交換してガラス表面層の構造に導入される結果、表面層に体積膨張の傾向が生じる。このようなガラスは、温度的に、粘性流動によって充分な速度で体積膨張の傾向を緩和することができる状態にないため、体積膨張の傾向がガラスの表面層に圧縮応力として残留し、強度が向上する。
従って、ガラス強度を効率的に向上させるためには、表面層のイオン交換を効率的に進める必要がある。表面層のイオン交換を効率的に進めるためには、ガラスを溶融塩に接触させる温度が高いほど、また、ガラスを溶融塩に接触させる時間を長くするほどよいが、これは同時に、前述の緩和の速度をも増大させるため、イオン交換により生じる圧縮応力の緩和がより大きくなる。そのため、ある温度でガラスを溶融塩に接触させてガラスの表面層に圧縮応力を最大に残留させるには、最適時間が存在する。また、残留する最大圧縮応力は、接触温度が低いほど大きくなるが、接触時間が著しく長くなるといった傾向がある。
表面圧縮応力が大きいガラスは、たとえ圧縮応力層が深くなくても、表面にキズが付かなければ極めて大きな強度を示す。しかし、圧縮応力層の深さは、ガラスが理論強度よりも遥かに低い応力で破壊に至る原因となっている「グリフィスフロー」と呼ばれる微小のクラックよりは少なくとも深くなければならない。
また、化学強化法をより薄いガラスに対して適用しようとすると、高い表面圧縮応力との釣り合いを取るために、内部に発生する引張応力も大きくなってしまう問題がある。すなわち、内部引張応力が大きいと、表面圧縮応力層よりも深いクラックが入ったときに、クラック先端を引っ張る力が大きいためにガラスが自発的に破壊してしまうという現象が発生する。このようなガラスの自発的な破壊を抑制するため、内部引張応力を小さくするには表面圧縮応力層の深さを小さくすればよいが、それでは欠けやクラックに対して極めて弱くなってしまい、所望の強度を得ることができない。
さらに、化学強化ガラスが市場に多く受け入れられている理由として、薄板ガラスでの強化性及び高強度化に加えて、強化したガラスでも切断可能であることが挙げられる。前述の風冷強化ガラスでは、ガラスを切断しようとしてクラックを導入すると、粉々に割れてしまうため、切断等の加工が困難である。
近年では、化学強化ガラスにタッチセンサーを多数形成した後で、所定の形状に切断する、すなわち、一枚の大きな化学強化ガラスから複数の製品を採取する生産方法の開発がなされてきており、化学強化ガラスの切断性はますます重要視されてきている。
前述のように、化学強化ガラスは切断可能であるが、化学強化ガラスの切断は非常に難しい技術である。また、化学強化ガラスの切断は、生産時の歩留低下の主因にもなっているし、製品となった後も切断不良による破壊の問題等も発生している。
このため、例えば、特許文献1及び特許文献2には、切断に適するソーダライム系の化学強化ガラスが開示されている。
その他の化学強化ガラス又はガラスの化学強化方法として、例えば、特許文献3には、前段処理としてガラス中に最も多く含まれる主アルカリ金属イオンAを、アルカリ金属イオンAのみを含む塩に接触させる等によって表面層のアルカリ金属イオンA含有量を増加させ、その次に、後段処理としてアルカリ金属イオンAをそれよりもイオン半径の大きいアルカリ金属イオンBに交換させることによってガラス強度を向上させた化学強化ガラスが開示されている。
また、例えば、特許文献4には、前段処理としてガラス物品をその歪点以下の温度で一定時間、アルカリ金属イオンA及びそれよりもイオン半径の大きいアルカリ金属イオンBを所望の比率P(アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBの合計に対するアルカリ金属イオンAの比率)を含む塩に接触させ、その次に、後段処理として前記温度よりは更に低温もしくは前記処理時間よりは短い時間の少なくとも一方を満足する条件で、前記比率よりは小さい比率Qを有する塩と接触させる化学強化の方法が開示されている。
さらに、例えば、特許文献5及び特許文献6には、ソーダライム系とは別であり、化学強化に適する組成を有するガラス(アルミノシリケートガラス)が開示されている。
特開2004−359504号公報 特開2004−83378号公報 特公平8−18850号公報 特公昭54−17765号公報 特開2011−213576号公報 特開2010−275126号公報
特許文献1及び特許文献2には、切断に適するソーダライム系の化学強化ガラスが開示されている。
しかし、特許文献1では、化学強化ガラスの性質として、表面硬度のみが着目されており、化学強化ガラスの重要な性質である表面圧縮応力及び圧縮応力層の深さは認識されていない。
一方、特許文献2では、表面圧縮応力及び圧縮応力層の深さについて述べられているが、表面圧縮応力の値は汎用的な化学強化ガラス品のそれと同等レベルであり、特許文献2の教示では、ソーダライムガラスの表面圧縮応力を大幅に向上させ難い。
また、特許文献3における化学強化ガラスの強度を向上させるための本質的な特徴は、前段処理として、ガラス中に最も多く含まれるナトリウムイオンと同じナトリウムイオンのみを含む塩にガラス物品を接触させるというものである。この手法では、前段処理によって、ガラス表面層の交換されるべきナトリウムイオンの量が増大することから、後段処理においてナトリウムイオンとカリウムイオンとを交換させることにより生じる残留圧縮応力が大きくなる。本発明者らは、特許文献3の教示に基づき、化学強化ガラスの強度向上及び切断性について検討したところ、いくつかの克服すべき点があるとの知見を見出すに至った。
すなわち、後段のナトリウムイオンとカリウムイオンとを交換させる処理中に生じる応力緩和を減少させる点に依然として改善の余地があること、さらには、強度向上がなされた化学強化ガラスの切断性が未だ未検討であるということである。
加えて、前段処理によって、ガラス表面層の交換されるべきナトリウムイオンの量は増大するが、それにより、従来の1段階処理のみの化学強化ガラスと同等の圧縮応力層の深さを得ようとした場合、処理に要する時間が長くなる傾向にある。
さらに、特許文献3の教示に基づくと、過剰のナトリウムイオンの接触等により、ガラス表面が白濁する可能性が高くなる。
特許文献4には、強度を向上させることが可能な化学強化の方法が開示されている。
しかしながら、特許文献4に記載されている化学強化の方法を満たす条件は、極めて膨大な組み合わせである。また、強度向上のみを課題とし、化学強化後の切断性については考慮されていない。
なお、特許文献4に記載されている実施例1の条件で作製したソーダライム系の化学強化ガラスは、切断が困難であるという問題があった。また、実施例1の条件では、前段処理及び後段処理の合計時間が非常に長く、現実的な量産に見合っていない。
特許文献5及び特許文献6には、ソーダライム系とは別であり、化学強化に適するガラス(アルミノシリケートガラス)の化学組成が開示されている。
一般的に、ソーダライムガラスは、窓ガラス及びガラスビン等の組成として古くから用いられているものであり、安価で大量生産に向くのであるが、ガラス表面層のイオン交換現象を利用する化学強化法に適しているわけではない。そこで、アルミノシリケートガラスにおいては、イオン交換効率を向上させるAlを増やし、また、NaOとKOとのアルカリ金属酸化物の成分比及び/又はMgOとCaOとのアルカリ土類金属酸化物の成分比の調整がなされているなど、ソーダライムガラスと比較して、高いイオン交換効率を有するように設計され、化学強化法に最適化されているという特徴を有する。このように、アルミノシリケートガラスでは、ソーダライムガラスと比較して、イオン交換効率に優れているため、20μm以上、さらには30μm以上といった深い圧縮応力層を形成することができる。しかしながら、深い圧縮応力層は強度もしくは耐加傷性という点で優れているのであるが、それはまさにガラスを切断加工するためのクラックすらも導入できないことを意味する。また、もしガラスにクラックを導入することができたとしても、そのクラックに沿ってガラスを切断することができず、さらに深いクラックを導入すると、粉々に割れてしまうことがある。すなわち、化学強化アルミノシリケートガラスは、切断に関して大きな困難がある。
また、もし仮に切断できたとしても、アルミノシリケートガラスは、溶融温度を高くしてしまうAl及びMgOを、ソーダライムガラスと比較して多く含有する。よって、アルミノシリケートガラスは、ソーダライムガラスと比較して、高い溶融温度が必要であり、量産時の溶融ガラスが高粘性であることから、生産効率に難があり、価格も高いものとなってしまっている。
そこで、ガラス材としては、板ガラスとして極めて一般的であり、アルミノシリケートガラスと比較して、量産性に優れるため安価で、様々な用途に既に広く用いられているソーダライムガラスが切望されている。しかしながら、ソーダライムガラスにおいて、従来技術を用いるだけでは、強度と切断性の両立という要求を満たす化学強化ガラスを提供することは困難である。
以上、各特許文献の問題点について言及したが、特に化学強化に適した組成ではないソーダライムガラスを用いた場合においては、強度の向上及び切断性を同時に考慮した化学強化ガラスが技術的に検討されているとは言い難い状況にある。そこで、本発明は、上記従来例の問題点を解決すべく、特に化学強化に適した組成ではないソーダライムガラスを用いながらも、切断性に優れ、かつ、従来よりも大きな残留圧縮応力を有する化学強化ガラスを提供することを目的とする。また、本発明は、上記化学強化ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスは、
ガラス物品の表面層で、ガラス中に最も多く含有するアルカリ金属イオンAを、上記アルカリ金属イオンAよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンBに置換するイオン交換により製造された化学強化ガラスにおいて、
イオン交換前のガラスが、ソーダライムガラスであり、実質的に質量%で、SiO:65〜75%、NaO+KO:5〜20%、CaO:2〜15%、MgO:0〜10%、Al:0〜5%からなり、
イオン交換後の表面圧縮応力が、600〜900MPaであり、かつ、ガラス表面に形成される圧縮応力層の深さが、5〜20μmであり、
アルカリ金属イオンAの含有量及びアルカリ金属イオンBの含有量の合計に対するアルカリ金属イオンBの含有量の比率を縦軸に、ガラス表面からの深さを横軸にプロットした第1のグラフにおいて、上記第1のグラフ中のプロットを最小二乗法により四次曲線で近似した後、上記四次曲線をガラス表面からの深さで一次微分した微分係数の絶対値を縦軸に、ガラス表面からの深さを横軸にプロットした第2のグラフにおいて、上記第2のグラフ中のガラス表面からの深さ0〜5μmの範囲にあるプロットを最小二乗法により一次直線で近似したとき、上記一次直線の傾きが、−4〜−0.4であることを特徴とする。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスでは、イオン交換後の表面圧縮応力が600〜900MPaであり、かつ、ガラス表面に形成される圧縮応力層の深さが5〜20μmである。
表面圧縮応力が600MPa未満であると、ガラス強度が不足するため、市場での使用に耐えられず、特に外的接触の多いカバーガラスの用途には不向きである。一方、表面圧縮応力が900MPaを超えると、ガラスの切断性が悪化するため、特に薄いガラスでは圧縮応力に対応して形成される内部引張応力も増加してしまい、クラック導入時にガラスが破壊する恐れがある。
また、圧縮応力層の深さが5μm未満であると、化学強化前における搬送等により付いた微小のクラック(グリフィスフロー)に起因するガラスの破壊を防止することができない。また、圧縮応力層の深さが5μm未満であると、加傷性に劣るため、市場での使用に耐えられない。一方、圧縮応力層の深さが20μmを超えると、ガラス切断時にスクライブ線に沿って分割することが容易ではなくなる。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスにおいて最も重要であるのは、表面圧縮応力を向上させながらも、圧縮応力層の深さは限定されており、切断性と高強度を同時に成立させている点である。そのための指標として、アルカリ金属イオンAの含有量及びアルカリ金属イオンBの含有量の合計に対するアルカリ金属イオンBの含有量の比率を縦軸に、ガラス表面からの深さを横軸にプロットした第1のグラフにおいて、上記第1のグラフ中のプロットを最小二乗法により四次曲線で近似した後、上記四次曲線をガラス表面からの深さで一次微分した微分係数の絶対値を縦軸に、ガラス表面からの深さを横軸にプロットした第2のグラフにおいて、上記第2のグラフ中のガラス表面からの深さ0〜5μmの範囲にあるプロットを最小二乗法により一次直線で近似したとき、上記一次直線の傾きを評価している。上記傾きが−0.4より大きいと、表面圧縮応力の向上が達成されておらず、また、圧縮応力層の深さも深くなっているため切断性も悪い。一方、上記傾きが−4未満であると、表面圧縮応力の向上は達成されている。しかし、高い圧縮応力の発生により小さな傷で破壊されてしまうし、また、圧縮応力層の深さが浅いために、小さな傷でも圧縮応力層を突き破ってしまう。その結果、現実的なガラス強度が得られない。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスでは、イオン交換前のガラスとして、所定の組成を有するソーダライムガラスを使用している。
そのため、ソーダライムガラスから原料等の変更を行った化学強化に適したガラスとは違って、原料変更や生産効率の悪化等による生産コストの増加がないという利点がある。
例えば、アルミノシリケートガラスのように、組成中に酸化アルミニウムを増加させることはイオン交換効率の向上に有効であるが、原料のコストが増加するだけでなく、特にガラスの溶融温度の著しい増加をもたらすため、生産コストを著しく増加させてしまう。また、例えば、アルカリ土類成分をCaOからMgOに置換することもイオン交換効率の向上に有効であるが、ガラスの溶融温度の増加をもたらし、これもまた生産コストの増加につながる。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスでは、上記第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値に対する上記圧縮応力層の深さの比が0.70以上であることが好ましい。
上記第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値に対する上記圧縮応力層の深さの比が0に近づくほど、イオン交換が行われているにも関わらず、そのイオン交換が圧縮応力の発生に寄与していない領域が多く存在することを意味する。
一方、上記第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値に対する上記圧縮応力層の深さの比が0.70以上であると、アルカリ金属イオンAとの交換によりガラス中に導入されたアルカリ金属イオンBが発生させる圧縮応力を効率良く活用することができる。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスにおいて、上記イオン交換は、アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを含み、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率P(mol%)を有する第1の塩にガラス物品を接触させる第1の工程と、
上記第1の工程の後、上記比率Pより小さい比率Q(mol%)を有する第2の塩にガラス物品を接触させる第2の工程とを含むことが好ましい。
化学強化ガラスの表面圧縮応力及び圧縮応力層の深さは、化学強化処理の処理温度及び処理時間、さらには処理液の選択及びその活性特性に影響される。また、化学強化ガラスの表面圧縮応力及び圧縮応力層の深さは、ガラス内におけるイオン交換の状況等によっても異なる。
一般的には、処理温度が高いほど、また、処理時間が長いほど、圧縮応力層は深くなるが、この操作は、場合によっては表面圧縮応力を小さくする方向に働く。特に、従来からなされているような1段階のみの処理で化学強化を行う場合には、表面圧縮応力と圧縮応力層の深さとはトレードオフの関係にあり、どちらとも両立させることは難しい。そこで、化学強化処理(イオン交換)を2段階に分け、処理温度、処理時間、処理液の構成を適切に選択することにより、各段階の効果を有効に利用し、切断可能でありながらも大きな表面圧縮応力を有する化学強化ガラスを作製することができる。
具体的には、アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを含み、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率Pを有する第1の塩にガラス物品を接触させる第1の工程を行った後、上記比率Pより小さい比率Qを有する第2の塩にガラス物品を接触させる第2の工程を行うことが好ましい。
上記の方法によれば、ソーダライムガラスを用いながらも、第1の工程において、圧縮応力の発生に寄与するアルカリ金属イオンA(例えば、ナトリウムイオン)を残した状態で、ガラス表面層の組成をより化学強化に適した組成に改質することができると考えられる。その結果、第2の工程における処理中に発生する応力の緩和現象を妨げることができるため、大きな表面圧縮応力を有する化学強化ガラスを作製することができると考えられる。
なお、第1の工程で使用する第1の塩の比率Pは、第2の工程で使用する第2の塩の比率Qよりも大きい。言い換えると、第1の塩には、第2の塩よりもアルカリ金属イオンAが多く含まれている。
第2の塩の比率Qが第1の塩の比率Pよりも大きいと、第1の工程後も残留しているガラス中のアルカリ金属イオンA(例えば、ナトリウムイオン)が、第2の工程で第2の塩中のアルカリ金属イオンB(例えば、カリウムイオン)と効率良く交換せず、所望の圧縮応力を発生させることが難しい。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスにおいて、上記第1の工程では、上記ガラス物品の表面層におけるアルカリ金属イオンAの30〜75質量%をアルカリ金属イオンBに置換し、上記第2の工程では、上記ガラス物品の表面層に残存するアルカリ金属イオンAの50〜100%をアルカリ金属イオンBに置換することが好ましい。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスにおいて、上記第1の工程では、5〜50mol%の比率Pを有する第1の塩を使用し、第1の工程後にガラス表面に形成される圧縮応力層の深さは、5〜23μmであることが好ましい。
第1の工程後に形成される圧縮応力層の深さが浅すぎると、前段処理におけるガラス表面層の組成の改質が充分に行われないため、後段処理中に生じる応力緩和を充分に妨げることができない。一方、第1の工程後に形成される圧縮応力層の深さが深すぎると、後段処理後に最終的に形成されている圧縮応力層の深さも大きくなってしまい、ガラスの切断性に影響する。
前述したように、本発明では、前段処理によって、後段処理中の応力緩和の進行を妨げることが可能である。しかし、ガラスである以上、応力緩和の進行を完全に停止させることはできず、後段処理中においてもわずかであるが応力緩和が生じ、後段処理後に最終的に残留している圧縮応力層の深さが前段処理後と比較して変化する場合がある。また逆に、後段処理におけるイオン交換量が前段処理のそれを上回り、第2の工程後に形成されている圧縮応力層の深さが、若干ではあるが、前段処理のそれと比較して少しだけ深くなるような場合も想定されうる。しかしながら、第2の工程後に最終的に形成される圧縮応力層の深さは、第1の工程(前段処理)後に形成されている圧縮応力層の深さから若干の変化を伴うだけである。このように、最終的な化学強化ガラスの切断性は、第1の工程後に形成されている圧縮応力層の深さが支配的であることから、第1の工程後に形成されている圧縮応力層の深さが制御されていることが重要である。
以上より、第1の工程後にガラス表面に形成される圧縮応力層の深さは5〜23μmであることが好ましい。
なお、第1の工程後に形成される圧縮応力層の深さに関連し、第1の塩の比率Pに応じて、第1の塩の温度及び第1の塩にガラス物品を接触させる時間が調整される。
第1の塩の比率Pが大きすぎると、前段処理(第1の工程におけるイオン交換処理)におけるガラス表面層の組成の改質が充分に行われないため、後段処理(第2の工程におけるイオン交換処理)中に生じる応力緩和を充分に妨げることができず、また、表面に白濁が生じやすくなる。
一方、第1の塩の比率Pが小さすぎると、第1の工程において、ガラス表面層の組成の改質は充分に成されるが、ガラス中のアルカリ金属イオンAのほとんどがアルカリ金属イオンBとイオン交換してしまう。そのため、第2の工程においてイオン交換が進まず、所望の圧縮応力を発生させ難い。
従って、第1の塩の比率Pは、5〜50mol%であることが好ましい。
第2の塩の比率Qが大きすぎると、第2の工程において、第一の工程後に表面層に残存しているアルカリ金属イオンAとアルカリ金属イオンBとのイオン交換が充分に進まず、第2の工程終了後に所望の圧縮応力を発生させることが難しくなってしまう。
従って、第2の塩の比率Qは、0〜10mol%であることが好ましい。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスの製造方法は、
アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを含み、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率P(mol%)を有する第1の塩にガラス物品を接触させる第1の工程と、
上記第1の工程の後、上記比率Pより小さい比率Q(mol%)を有する第2の塩にガラス物品を接触させる第2の工程とを含むことを特徴とする。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスの製造方法において、上記第1の工程では、上記ガラス物品の表面層におけるアルカリ金属イオンAの30〜75質量%をアルカリ金属イオンBに置換し、上記第2の工程では、上記ガラス物品の表面層に残存するアルカリ金属イオンAの50〜100%をアルカリ金属イオンBに置換することが好ましい。
本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスの製造方法において、上記第1の工程では、5〜50mol%の比率Pを有する第1の塩を使用し、第1の工程後にガラス表面に深さ5〜23μmである圧縮応力を形成することが好ましい。
また、本発明の第1の態様に係る化学強化ガラスの製造方法において、上記第2の工程では、0〜10mol%の比率Qを有する第2の塩を使用することが好ましい。
本発明の第2の態様に係る化学強化ガラスは、
ガラス物品の表面層で、ガラス中に最も多く含有するアルカリ金属イオンAを、上記アルカリ金属イオンAよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンBに置換するイオン交換により製造された化学強化ガラスにおいて、
イオン交換前のガラスが、ソーダライムガラスであり、実質的に質量%で、SiO:65〜75%、NaO+KO:5〜20%、CaO:2〜15%、MgO:0〜10%、Al:0〜5%からなり、
上記イオン交換は、アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを含み、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率P(mol%)を有する第1の塩にガラス物品を接触させる第1の工程を含み、
上記第1の工程では、5〜50mol%の比率Pを有する第1の塩を使用することにより、第1の工程後にガラス表面に深さが5〜23μmである圧縮応力層が形成されていることを特徴とする。
本発明の第2の態様に係る化学強化ガラスにおいて、上記第1の工程では、上記ガラス物品の表面層におけるアルカリ金属イオンAの30〜75質量%をアルカリ金属イオンBに置換することが好ましい。
本発明の第2の態様に係る化学強化ガラスの製造方法は、
ソーダライムガラスであり、実質的に質量%で、SiO:65〜75%、NaO+KO:5〜20%、CaO:2〜15%、MgO:0〜10%、Al:0〜5%からなるガラス物品を準備する工程と、
上記ガラス物品中に最も多く含有するアルカリ金属イオンA、及び、上記アルカリ金属イオンAよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンBを含み、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率P(mol%)を有する第1の塩に上記ガラス物品を接触させる第1の工程とを含み、
上記第1の工程では、5〜50mol%の比率Pを有する第1の塩を使用することより、第1の工程後にガラス表面に深さが5〜23μmである圧縮応力層を形成することを特徴とする。
本発明の第2の態様に係る化学強化ガラスの製造方法において、上記第1の工程では、上記ガラス物品の表面層におけるアルカリ金属イオンAの30〜75質量%をアルカリ金属イオンBに置換することが好ましい。
本発明の第2の態様に係る化学強化ガラスでは、第1の工程により既に1段の化学強化が完了している。そのため、この化学強化ガラスに対して更に1段の化学強化を行うことにより、2段階処理並みの化学強化ガラスを得ることができる。
また、2段階の化学強化を行うことにより、製品品質のばらつきを低減させることができる。そのため、本発明の第2の態様に係る化学強化ガラスを仕入れた業者は、この化学強化ガラスに対して1段の化学強化を行うことにより、容易に製品品質のばらつきを低減させることができる。
本発明の化学強化ガラスは、切断性に優れ、かつ、従来よりも大きな残留圧縮応力を有する。
図1は、実施例1の化学強化ガラスにおける第1のグラフである。 図2は、実施例1の化学強化ガラスにおける第2のグラフである。 図3は、比較例1の化学強化ガラスにおける第1のグラフである。 図4は、比較例1の化学強化ガラスにおける第2のグラフである。 図5は、比較例2の化学強化ガラスにおける第1のグラフである。 図6は、比較例2の化学強化ガラスにおける第2のグラフである。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
(化学強化ガラス)
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスは、ガラス物品の表面層で、ガラス中に最も多く含有するアルカリ金属イオンAを、上記アルカリ金属イオンAよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンBに置換するイオン交換により製造されている。
例えば、アルカリ金属イオンAがナトリウムイオン(Naイオン)である場合には、アルカリ金属イオンBとして、カリウムイオン(Kイオン)、ルビジウムイオン(Rbイオン)及びセシウムイオン(Csイオン)の少なくとも1つを用いることができる。アルカリ金属イオンAがナトリウムイオンである場合、アルカリ金属イオンBとして、カリウムイオンを用いることが好ましい。
また、イオン交換には、少なくともアルカリ金属イオンBを含む硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物塩及びリン酸塩のうちの1種又は2種以上を用いることができる。そして、アルカリ金属イオンAがナトリウムイオンである場合、少なくともカリウムイオンを含む硝酸塩を用いることが好ましい。
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、イオン交換前のガラスは、ソーダライムガラスであり、実質的に質量%で、SiO:65〜75%、NaO+KO:5〜20%、CaO:2〜15%、MgO:0〜10%、Al:0〜5%からなる。
本明細書において、「NaO+KO:5〜20%」とは、ガラス中のNaO及びKOの総和の含有量が5〜20質量%であることをいう。
SiOはガラスの主成分であり、65%未満では強度が低くなる上に、ガラスの化学耐久性を悪化させる。他方、75%を超えるとガラス融液の高温粘度が高くなり、ガラス成形が困難となる。従って、その範囲は65〜75%、好ましくは68〜73%である。
NaOは、化学強化処理する上で不可欠であり、必須成分である。5%未満ではイオン交換が不充分で、化学強化処理後の強度があまり向上せず、他方20%を超えるとガラスの化学耐久性を悪化させ、耐候性が悪くなる。従って、その範囲は5〜20%、好ましくは5〜18%、より好ましくは7〜16%である。
一方、KOは、必須成分ではなく、NaOとともにガラス溶解時の融剤として作用し、若干の添加はイオン交換を促進させる補助成分としての作用を有するが、過大に添加するとNaOとの混合アルカリ効果によりNaイオンの移動を抑制してイオン交換がし難くなる。5%を超えるとイオン交換による強度向上がし難くなるため、5%以下の範囲で導入するのが望ましい。
NaO+KOの範囲としては、5〜20%であり、好ましくは7〜18%、より好ましくは10〜17%である。
CaOは、ガラスの化学的耐久性を改善する。また、ガラス溶解時の溶融ガラスの粘度を下げる作用を有し、量産性を向上させるため、2%以上含有するのが望ましい。一方、15%を超えるとNaイオンの移動を抑制してしまう。従って、その範囲は、2〜15%であり、好ましくは4〜13%、より好ましくは5〜11%である。
MgOは、必須成分ではないが、CaOと比較してNaイオンの移動を抑制してしまう効果が少なく、CaOをMgOで置換していくのが望ましい。一方で、CaOと比較して、ガラス溶融時の溶融ガラスの粘度を下げる作用も小さく、10%を超えるとガラス粘性が高くなってしまい、量産性を悪化させる。従って、その範囲は0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは1〜6%である。
Alは、必須成分ではないが、強度を高くし、かつイオン交換効率を向上させる成分である。質量%において5%を超えるとガラス融液の高温粘度が高くなる上に、失透傾向が増大するためガラス成形が困難になる。また、イオン交換効率が過大となってしまい、圧縮応力層の深さが深くなるため、化学強化後の切断性が悪化してしまう。従って、その範囲は0〜5%、好ましくは、1〜4%、より好ましくは1〜3%(3は含まないこととする)である。
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、イオン交換前のガラスは、実質的に上記成分からなるが、これにFe、TiO、CeO、SOその他の微量成分を合量で1%まで含有してもよい。
イオン交換前のガラスの歪点は、好ましくは450〜550℃であり、より好ましくは480〜530℃である。ガラスの歪点が450℃未満であると、化学強化時の耐熱性が不充分であり、一方、550℃を超えると、ガラス溶融温度が高くなりすぎてしまい、ガラス板の生産効率が悪化し、コスト増加をもたらしてしまう。
イオン交換前のガラスは、フロート法、ロールアウト法及びダウンドロー法等、一般的なガラス成形方法により成形されるが、これらの中では、フロート法により成形されることが好ましい。
また、イオン交換前のガラスの表面は、上記の成形方法により成形されたままの状態でもよいし、弗酸エッチング等を用いて表面を荒らすことにより、防眩性等の機能性を付与した状態でもよい。
イオン交換前のガラスの形状は特に限定されないが、板状体であることが好ましい。また、ガラスの形状が板状体である場合、平板でも曲げ板でもでもよく、種々の形状を包含する。また、平板状において、矩形や円盤状なども本発明の範疇であるが、これらの中では矩形であることが好ましい。
イオン交換前のガラスの厚さの上限は特に限定されないが、3mmであることが好ましく、2mmであることがより好ましく、1.8mmであることがさらに好ましく、1.1mmであることが特に好ましい。また、イオン交換前のガラスの厚さの下限も特に限定されないが、0.05mmであることが好ましく、0.1mmであることがより好ましく、0.2mmであることがさらに好ましく、0.3mmであることが特に好ましい。
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、イオン交換後の表面圧縮応力は、600〜900MPaである。表面圧縮応力の下限は、620MPa、さらには650MPaとしてもよい。表面圧縮応力の値は高い方が好ましいが、圧縮応力値が高くなることにより内部引っ張り応力が増加することを考慮すると、その上限は、850MPa、さらには800MPa、またさらには750MPaとしてもよい。
また、本発明の実施形態に係る化学強化ガラスにおいて、ガラス表面に形成される圧縮応力層の深さは、耐加傷性及び切断性を同時に考慮すると、5〜20μmであり、好ましくは5〜18μmであり、より好ましくは8〜15μmであり、さらに好ましくは9〜12μmである。
本明細書において、イオン交換後の表面圧縮応力、及び、ガラス表面に形成される圧縮応力層の深さとは、それぞれ、光導波路効果を活用する表面応力計を用いて光弾性法により測定した値をいう。なお、表面応力計を用いた測定においては、イオン交換前のガラスのガラス組成に対応した屈折率及び光弾性定数を用いなければならないことに注意を要する。
化学強化後のガラスのビッカース硬度は、好ましくは5.0〜6.0GPaであり、より好ましくは5.2〜6.0GPaであり、さらに好ましくは5.2〜5.8GPaである。ビッカース硬度が5.0GPa未満であると、加傷性に劣るため、市場での使用に耐えられず、一方、6.0GPaを超えると、切断性が悪化する。
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスでは、アルカリ金属イオンAの含有量及びアルカリ金属イオンBの含有量の合計に対するアルカリ金属イオンBの含有量の比率を縦軸に、ガラス表面からの深さを横軸にプロットした第1のグラフにおいて、上記第1のグラフ中のプロットを最小二乗法により四次曲線で近似した後、上記四次曲線をガラス表面からの深さで一次微分した微分係数の絶対値を縦軸に、ガラス表面からの深さを横軸にプロットした第2のグラフにおいて、上記第2のグラフ中のガラス表面からの深さ0〜5μmの範囲にあるプロットを最小二乗法により一次直線で近似したとき、上記一次直線の傾きが、−4〜0.4であることを特徴としている。
以下、この特徴について説明する。また、後述する実施例では、第1のグラフ及び第2のグラフを実際に作成して、一次直線の傾きを算出している。
まず、イオン交換後のガラスに対して、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて、ガラス表面からの深さ方向におけるアルカリ金属イオンAの含有量及びアルカリ金属イオンBの含有量をそれぞれ測定する。具体的には、アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBのX線強度(カウント数)をそれぞれ測定し、それらの値を、イオン交換の対象となるガラスのガラス組成の既知値と対応させることにより、アルカリ金属イオンAの含有量及びアルカリ金属イオンBの含有量の合計に対するアルカリ金属イオンBの含有量の比率に換算する。
次に、アルカリ金属イオンAの含有量及びアルカリ金属イオンBの含有量の合計に対するアルカリ金属イオンBの含有量の比率を算出し、このアルカリ金属イオンBの含有量の比率(mol%)を縦軸に、ガラス表面からの深さ(μm)を横軸にプロットした第1のグラフを作成する。
その後、第1のグラフ中のプロットを最小二乗法により四次曲線で近似する。
続いて、上記四次曲線をガラス表面からの深さで一次微分した微分係数を算出し、この微分係数の絶対値(mol%/μm)を縦軸に、ガラス表面からの深さ(μm)を横軸にプロットした第2のグラフを作成する。
そして、第2のグラフ中のガラス表面からの深さ0〜5μmの範囲にあるプロットを最小二乗法により一次直線で近似する。この一次直線の傾きを算出する。
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスでは、上記一次直線の傾きが、−4〜−0.4であり、好ましくは−3.5〜−0.5であり、より好ましくは−3.5〜−1である。
また、本発明の実施形態に係る化学強化ガラスでは、第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値をα、圧縮応力層の深さをβとしたとき、上記最小値に対する圧縮応力層の深さの比(β/α)が0.70以上であることが好ましく、0.72以上であることがより好ましく、0.75以上であることがさらに好ましい。
(化学強化ガラスの製造方法)
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法は、アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを含み、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率P(mol%)を有する第1の塩にガラス物品を接触させる第1の工程と、上記第1の工程の後、上記比率Pより小さい比率Q(mol%)を有する第2の塩にガラス物品を接触させる第2の工程とを含む。
まず、第1の工程では、アルカリ金属イオンAを含むガラス物品を、アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを所定の比率Pで含む塩(第1の塩)に接触させる。第1の工程により、ガラス物品の表面層にアルカリ金属イオンBを導入するとともに、アルカリ金属イオンAの一部を残す。その結果、ガラス表面層の組成が改質し、第2の工程において発生する圧縮応力の緩和現象を妨げることができると考えられる。
次に、第2の工程では、第1の工程を行ったガラス物品を、比率Pよりアルカリ金属イオンAを低い比率Qで含む塩(第2の塩)に接触させる。
第2の工程により、ガラス物品に残存するアルカリ金属イオンAをアルカリ金属イオンBと置換させる。この第2の工程におけるイオン交換により発生する表面圧縮応力は、第1の工程を行っているため、わずかに緩和されるだけで残留する。従って、大きな表面圧縮応力を得ることができる。
第1の工程及び第2の工程において、「塩にガラス物品を接触させる」とは、ガラス物品を塩浴に接触又は浸漬させることをいう。このように、本明細書において、「接触」とは「浸漬」も含む概念とする。
また、塩の接触形態としては、ペースト状の塩を直接接触させるような形態、又は、融点以上に加熱した溶融塩に浸漬させるような形態なども可能であるが、これらの中では、溶融塩に浸漬させるのが望ましい。
アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBの具体例は、先に述べたとおりである。また、塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物塩及びリン酸塩のうちの1種又は2種以上を用いることができる。
アルカリ金属イオンAを含む塩としては、硝酸ナトリウム溶融塩を用いることが好ましく、アルカリ金属イオンBを含む塩としては、硝酸カリウム溶融塩を用いることが好ましい。従って、アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを含む塩としては、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムからなる混合溶融塩を用いることが好ましい。
比率P及び比率Qは、ともに、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率(mol%)を意味する。比率Pの値が大きすぎると、第1の工程において、ガラス表面層の組成が改質されにくく、ガラス表面が白濁する可能性も高くなる。そのため、比率Pは、好ましくは5〜50mol%であり、より好ましくは15〜35mol%である。
また、比率Qは、大きすぎると、第2の工程において発生する表面圧縮応力が小さくなる傾向にある。そのため、比率Qは、好ましくは0〜10mol%であり、より好ましくは0〜2mol%であり、さらに好ましくは0〜1mol%である。このように、第2の塩は、アルカリ金属イオンAを実質的に含まず、アルカリ金属イオンBのみを含んでもよい。
第1の工程後に形成される圧縮応力層の深さは、前述したように5〜23μmとすることが好ましい。また、7〜20μmであることがより好ましく、10〜18μmであることがさらに好ましい。
上記の圧縮応力層の深さとなるように、第1の工程では、比率Pに応じて、処理温度(第1の塩の温度)を、400〜530℃の範囲で調整することが好ましい。第1の塩の温度は、より好ましくは410〜520℃、さらに好ましくは440〜510℃である。
第1の塩の温度が高すぎると、第1の工程において、発生した圧縮応力が緩和されやすくなる。さらに、第1の塩の温度が高すぎると、圧縮応力層の深さが深くなる傾向がある。これは、ガラスの切断性に影響する。
一方、第1の塩の温度が低すぎると、第1の工程においてガラス表面層の改質効果が充分に得られず、第2の工程において応力緩和が起こりやすくなる傾向となってしまう。
また、第2の工程では、第2の工程後に形成される圧縮応力層の深さが5〜20μmとなるように、処理温度(第2の塩の温度)を、380〜500℃の範囲で調整することが好ましい。第2の塩の温度は、より好ましくは400〜490℃であり、さらに好ましくは400〜460℃である。第2の塩の温度が低すぎても、アルカリ金属イオンAとアルカリ金属イオンBとのイオン交換が充分に進まず、所望の圧縮応力を発生させることが難しくなってしまう。
一方、第2の塩の温度が高すぎると、第1の工程において発生した圧縮応力、及び第2の工程中に発生する圧縮応力が緩和されやすくなり、また、第2の工程後の圧縮応力層の深さが深くなる傾向があり、これもまたガラスの切断性に影響する。
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法では、第1の工程において、5〜50mol%の比率Pを有する第1の塩を使用し、第1の工程後にガラス表面に深さ5〜23μmの圧縮応力層を形成することが好ましい。
また、第2の工程において、0〜10mol%の比率Qを有する第2の塩を使用することが好ましい。
第1の工程において第1の塩にガラス物品を接触させる時間、及び、第2の工程において第2の塩にガラス物品を接触させる時間の合計は、好ましくは1〜12時間であり、より好ましくは2〜6時間である。
具体的には、第1の塩にガラス物品を接触させる時間が長すぎると、第1の工程において発生した圧縮応力が緩和されやすくなる。さらに、圧縮応力層の深さが深くなる傾向がある。これは、ガラスの切断性に影響する。
一方、第1の塩にガラス物品を接触させる時間が短すぎると、第1の工程においてガラス表面層の改質効果が充分に得られず、第2の工程において応力緩和が起こりやすくなる傾向となってしまう。よって、第1の工程において第1の塩にガラス物品を接触させる時間は、0.5〜8時間であるのが好ましく、1〜6時間であるのがより好ましく、1〜4時間であるのがさらに好ましい。
第2の工程においては、イオン交換処理によって発生する応力の緩和をできる限り妨げるのが望ましいが、応力緩和は塩にガラス物品を接触させる時間が長ければ長いほど進行してしまう。また、第2の工程後の圧縮応力層の深さが深くなる傾向があり、これもまたガラスの切断性に影響する。一方、第2の塩にガラス物品を接触させる時間が短すぎても、アルカリ金属イオンAとアルカリ金属イオンBとのイオン交換が充分に進まず、所望の圧縮応力を発生させることが難しくなってしまう。よって、第2の工程において第2の塩にガラス物品を接触させる時間は、0.5〜8時間であるのが好ましく、0.5〜6時間であるのがより好ましく、0.5〜3時間であるのがさらに好ましい。
本発明の実施形態に係る化学強化ガラスの製造方法では、第1の工程において、ガラス物品の表面層におけるアルカリ金属イオンAの30〜75質量%をアルカリ金属イオンBに置換することが好ましい。また、第2の工程において、ガラス物品の表面層に残存するアルカリ金属イオンAの50〜100%をアルカリ金属イオンBに置換することが好ましい。
「ガラス物品の表面層に残存するアルカリ金属イオンAの50〜100%」とは、第1の工程におけるイオン交換後に残存するアルカリ金属イオンAの50〜100質量%を意味する。
なお、第1の塩及び第2の塩の構成をアルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBに限定して説明したが、本発明の目的を損なわない限り、塩と反応を起こさない安定的な金属酸化物、不純物又は他の塩類が存在することを妨げるものではない。後者に関し、例えば、Qが0〜2mol%を満たすならば、第1の塩又は第2の塩に、Agイオン又はCuイオンが含まれていてもよい。
以下、本発明の実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
(1)化学強化ガラスの作製
フロート法により製造された厚さ1.1mmのソーダライムガラス(質量%でSiO:71.6%、NaO:12.5%、KO:1.3%、CaO:8.5%、MgO:3.6%、Al:2.1%、Fe:0.10%、SO:0.3%)を準備し、直径約80mmの円盤状基板(以下、ガラス基板という)を作製した。
次に、第1の工程として、作製したガラス基板を、483℃に保持された硝酸カリウム80mol%及び硝酸ナトリウム20mol%からなる混合溶融塩(第1の塩、比率P:20mol%)浴中に120分間浸漬した。
その後、ガラス基板を浴槽から取り出し、ガラス基板の表面を洗浄、乾燥した。
続いて、第2の工程として、乾燥後のガラス基板を、443℃に保持された硝酸カリウム100mol%からなる溶融塩(第2の塩、比率Q:0mol%)浴中に60分間浸漬した。
以上の工程により、実施例1の化学強化ガラスを作製した。
(2)化学強化ガラスの評価
(2−1)表面圧縮応力及び圧縮応力層の深さの測定
得られた化学強化ガラスについて、表面応力計(東芝硝子製(現、折原製作所製)、FSM−60V)を用いて、表面圧縮応力、及び、ガラス表面に形成された圧縮応力層の深さをそれぞれ測定した。なお、表面応力計による測定において、上記ソーダライムガラスのガラス組成の屈折率として1.52、同光弾性定数として26.8((nm/cm)/MPa)を用いた。
その結果、実施例1の化学強化ガラスの表面圧縮応力は720MPaであり、圧縮応力層の深さは13μmであった。なお、第1の工程後の圧縮応力層の深さは15μmであった。
(2−2)切断性の評価
得られた化学強化ガラスについて、市販の超硬製ホイールチップを用いて、一般の切断作業に準ずるスクライブ(負荷重量:2kg)を行った。
そして、切断性の結果を、○:切断性良好、×:切断性不良の2段階で評価した。
その結果、実施例1の化学強化ガラスの切断性は、○(切断性良好)であった。
(2−3)一次直線の傾きの算出
まず、得られた化学強化ガラスについて、電子線マイクロアナライザー(日本電子社製、JXA−8100)を用いて、ガラス表面からの深さ方向におけるナトリウムイオンの含有量及びカリウムイオンの含有量をそれぞれ測定した。具体的には、ナトリウムイオン及びカリウムイオンのX線強度(カウント数)をそれぞれ測定し、それらの値を、上記ソーダライムガラスのガラス組成と対応させることにより、ナトリウムイオンの含有量及びカリウムイオンの含有量の合計に対するカリウムイオンの含有量の比率(mol%)に換算した。
なお、測定条件は、加速電圧:15.0kV、照射電流:2.00×10−8mA、計測時間:30msecとした。
次に、ナトリウムイオンの含有量及びカリウムイオンの含有量の合計に対するカリウムイオンの含有量の比率(mol%)を縦軸に、ガラス表面からの深さ(μm)を横軸にプロットした第1のグラフを作成した。
図1に、実施例1の化学強化ガラスにおける第1のグラフを示す。なお、図1には、第1の工程後の結果も合わせて示している。
図1に示す第1のグラフ中のプロットを最小二乗法により四次曲線で近似した。
第1の工程後における四次曲線の近似式は、y=0.0000621x−0.0093241x+0.4373531x−8.2029134x+60.5819851であった。また、第2の工程後における四次曲線の近似式は、y=0.0002487x−0.0257618x+0.9658213x−15.4980379x+96.8925167であった。
続いて、上記四次曲線をガラス表面からの深さで一次微分した微分係数の絶対値(mol%/μm)を縦軸に、ガラス表面からの深さ(μm)を横軸にプロットした第2のグラフを作成した。
図2に、実施例1の化学強化ガラスにおける第2のグラフを示す。なお、図2には、第1の工程後の結果も合わせて示している。
図2に示す第2のグラフ中のプロットに対して、ガラス表面からの深さ0〜5μmの範囲にあるプロットを最小二乗法により一次直線で近似した。
第2の工程後における一次直線の近似式は、y=−1.5393x+15.107であった。従って、実施例1の化学強化ガラスの一次直線の傾きは、−1.5393であった。
また、図2より、実施例1の化学強化ガラスでは、第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値は約17μmであった。従って、上記最小値に対する圧縮応力層の深さの比は0.76であった。
(実施例2〜実施例4)
第1の工程で使用する第1の塩の比率P及び温度、並びに、第2の工程で使用する第2の塩の比率Q及び温度を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様に化学強化ガラスを作製し、得られた化学強化ガラスを評価した。なお、表1には、第1の工程後の圧縮応力層の深さも合わせて示してある。
Figure 0005267753
実施例2〜実施例4の化学強化ガラスの表面圧縮応力、及び、圧縮応力層の深さを表1に示す。
また、実施例2〜実施例4の化学強化ガラスの切断性は、いずれも○(切断性良好)であった。
(実施例5〜実施例25)
各実施例の第1の工程に関し、第1の工程後にガラス表面に形成される圧縮応力層の深さが所定の深さ(5〜23μm)となるように、比率Pに応じて、塩の温度を400〜530℃の範囲で調整した以外は、実施例1と同様の操作を行い、第1の工程後の化学強化ガラスを得た。
次に、第2の工程後に、表面圧縮応力が600〜900MPaであり、かつ、ガラス表面に形成される圧縮応力層の深さが5〜20μmとなるように、比率Qに応じて、塩の温度を380〜500℃の範囲で調整した以外は、実施例1と同様の操作を行い、第2の工程後の化学強化ガラスを得た。
なお、比率P及び比率Qに応じ、第1の工程において第1の塩にガラス物品を接触させる時間、及び、第2の工程において第2の塩にガラス物品を接触させる時間の合計は、1〜12時間の範囲で調整した。
Figure 0005267753
実施例5〜実施例25の化学強化ガラスの表面圧縮応力、及び、圧縮応力層の深さを表2に示す。なお、表2には、第1の工程後の圧縮応力層の深さも合わせて示してある。
また、実施例5〜実施例25の化学強化ガラスの切断性は、いずれも○(切断性良好)であった。
実施例4、実施例5、実施例6及び実施例19については、実施例1と同様に第1のグラフ及び第2のグラフを作成し、第2のグラフ中のガラス表面からの深さ0〜5μmの範囲にあるプロットを最小二乗法により近似した一次直線の傾きを算出した。さらに、実施例4、実施例5、実施例6及び実施例19について、第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値に対する圧縮応力層の深さの比を算出した。
これらの結果を表3に示す。
Figure 0005267753
(比較例1)
比較例1では、1段階のみの処理で化学強化を行った。
すなわち、実施例1と同様に作製したガラス基板を、463℃に保持された硝酸カリウム100mol%からなる溶融塩浴中に90分間浸漬した。
以上の工程により、比較例1の化学強化ガラスを作製した。
得られた化学強化ガラスを実施例1と同様に評価した。
その結果、比較例1の化学強化ガラスの表面圧縮応力は550MPaであり、圧縮応力層の深さは11μmであった。
また、比較例1の化学強化ガラスの切断性は、○(切断性良好)であった。
従って、比較例1の化学強化ガラスでは、実施例1の化学強化ガラスと比較して、切断性は同程度であるが、表面圧縮応力が劣ることが判明した。
図3に、比較例1の化学強化ガラスにおける第1のグラフを示す。
四次曲線の近似式は、y=0.000223x−0.024813x+0.985459x−16.416500x+102.919588であった。
図4に、比較例1の化学強化ガラスにおける第2のグラフを示す。
一次直線の近似式は、y=−1.5708x+15.968であった。従って、比較例1の化学強化ガラスの一次直線の傾きは、−1.5708であった。
また、図4より、比較例1の化学強化ガラスでは、第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値は約17μmであった。従って、上記最小値に対する圧縮応力層の深さの比は0.65であった。
このように、比較例1の化学強化ガラスでは、実施例1の化学強化ガラスと比べて、上記最小値に対する圧縮応力層の深さの比が小さい。そのため、比較例1の化学強化ガラスでは、イオン交換が圧縮応力の発生に寄与していない領域の割合が大きく、ガラス中に導入されたカリウムイオンが発生させる圧縮応力を効率良く活用することができていないと考えられる。
(比較例2)
比較例2では、特許文献4に記載されている実施例1の条件により、化学強化ガラスを作製した。
まず、第1の工程として、実施例1と同様に作製したガラス基板を、460℃に保持された硝酸カリウム60mol%及び硝酸ナトリウム40mol%からなる混合溶融塩(第1の塩、比率P:40mol%)浴中に16時間浸漬した。
その後、ガラス基板を浴槽から取り出し、ガラス基板の表面を洗浄、乾燥した。
続いて、第2の工程として、乾燥後のガラス基板を、460℃に保持された硝酸カリウム100mol%からなる溶融塩(第2の塩、比率Q:0mol%)浴中に4時間浸漬した。
以上の工程により、比較例2の化学強化ガラスを作製した。
得られた化学強化ガラスを実施例1と同様に評価した。
その結果、比較例2の化学強化ガラスの表面圧縮応力は550MPaであり、圧縮応力層の深さは23μmであった。
従って、特許文献4に記載されている実施例1の条件で作製した比較例2の化学強化ガラスでは、実施例1の化学強化ガラスと同等の表面圧縮応力を得ることができず、また、圧縮応力層の深さも深いことが判明した。
また、比較例2の化学強化ガラスの切断性は、×(切断性不良)であった。
このように、比較例2の化学強化ガラスでは、実施例1の化学強化ガラスと比較して、切断性が劣ることも判明した。
図5に、比較例2の化学強化ガラスにおける第1のグラフを示す。なお、図5には、第1の工程後の結果も合わせて示している。
第1の工程後における四次曲線の近似式は、y=0.0000320x−0.0011860x+0.0446535x−2.4871683x+36.0336495であった。また、第2の工程後における四次曲線の近似式は、y=0.0000737x−0.0026939x+0.1404683x−7.6305701x+97.4333575であった。
図6に、比較例2の化学強化ガラスにおける第2のグラフを示す。なお、図6には、第1の工程後の結果も合わせて示している。
第2の工程後における一次直線の近似式は、y=−0.3184x+7.6693であった。従って、比較例2の化学強化ガラスの一次直線の傾きは、−0.3184であった。
このように、比較例2の化学強化ガラスの一次直線の傾きは、実施例1の化学強化ガラスの一次直線の傾きよりも大きい。この結果からも、比較例2の化学強化ガラスでは、実施例1の化学強化ガラスと比較して、表面圧縮応力が劣り、切断性も悪いことが示されている。
また、図6より、比較例2の化学強化ガラスでは、第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値は約27μmであった。従って、上記最小値に対する圧縮応力層の深さの比は0.85であった。
(比較例3)
比較例3では、第1の塩の比率Pを0mol%にした。
まず、第1の工程として、実施例1と同様に作製したガラス基板を、503℃に保持された硝酸カリウム100mol%からなる溶融塩(第1の塩、比率P:0mol%)浴中に120分間浸漬した。
その後、ガラス基板を浴槽から取り出し、ガラス基板の表面を洗浄、乾燥した。
続いて、第2の工程として、乾燥後のガラス基板を、483℃に保持された硝酸カリウム100mol%からなる溶融塩(第2の塩、比率Q:0mol%)浴中に60分間浸漬した。
以上の工程により、比較例3の化学強化ガラスを作製した。
得られた化学強化ガラスについて、表面圧縮応力及び圧縮応力層の深さの測定、並びに、切断性の評価を行った。
その結果、比較例3の化学強化ガラスの表面圧縮応力は330MPaであり、圧縮応力層の深さは33μmであった。
また、比較例3の化学強化ガラスの切断性は、×(切断性不良)であった。
上記のとおり、比較例3の化学強化ガラスでは、圧縮応力層の深さが深いため、切断性に致命的な影響を与えることが判明した。
また、比較例3の化学強化ガラスでは、表面圧縮応力も低いため、実用に耐えられないと考えられる。

Claims (10)

  1. ガラス物品の表面層で、ガラス中に最も多く含有するアルカリ金属イオンAを、前記アルカリ金属イオンAよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンBに置換するイオン交換により製造された化学強化ガラスにおいて、
    イオン交換前のガラスが、ソーダライムガラスであり、実質的に質量%で、SiO:65〜75%、NaO+KO:5〜20%、CaO:2〜15%、MgO:0〜10%、Al:0〜5%からなり、
    イオン交換後の表面圧縮応力が、600〜900MPaであり、かつ、ガラス表面に形成される圧縮応力層の深さが、5〜20μmであり、
    アルカリ金属イオンAの含有量及びアルカリ金属イオンBの含有量の合計に対するアルカリ金属イオンBの含有量の比率を縦軸に、ガラス表面からの深さを横軸にプロットした第1のグラフにおいて、前記第1のグラフ中のプロットを最小二乗法により四次曲線で近似した後、前記四次曲線をガラス表面からの深さで一次微分した微分係数の絶対値を縦軸に、ガラス表面からの深さを横軸にプロットした第2のグラフにおいて、前記第2のグラフ中のガラス表面からの深さ0〜5μmの範囲にあるプロットを最小二乗法により一次直線で近似したとき、前記一次直線の傾きが、−4〜−0.4であることを特徴とする化学強化ガラス。
  2. 前記第2のグラフにおける微分係数の絶対値が0であるときのガラス表面からの深さの最小値に対する前記圧縮応力層の深さの比が0.70以上である請求項1に記載の化学強化ガラス。
  3. 前記イオン交換は、
    アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを含み、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率P(mol%)を有する第1の塩にガラス物品を接触させる第1の工程と、
    前記第1の工程の後、前記比率Pより小さい比率Q(mol%)を有する第2の塩にガラス物品を接触させる第2の工程とを含む請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
  4. 前記第1の工程では、前記ガラス物品の表面層におけるアルカリ金属イオンAの30〜75質量%をアルカリ金属イオンBに置換し、
    前記第2の工程では、前記ガラス物品の表面層に残存するアルカリ金属イオンAの50〜100%をアルカリ金属イオンBに置換する請求項3に記載の化学強化ガラス。
  5. 前記第1の工程では、5〜50mol%の比率Pを有する第1の塩を使用し、
    第1の工程後にガラス表面に形成される圧縮応力層の深さは、5〜23μmとする請求項3又は4に記載の化学強化ガラス。
  6. 前記第2の工程では、0〜10mol%の比率Qを有する第2の塩を使用する請求項3〜5のいずれかに記載の化学強化ガラス。
  7. 請求項1又は2に記載の化学強化ガラスの製造方法であって、
    アルカリ金属イオンA及びアルカリ金属イオンBを含み、アルカリ金属イオンAのモル量及びアルカリ金属イオンBのモル量の合計に対するアルカリ金属イオンAのモル量の比率P(mol%)を有する第1の塩にガラス物品を接触させる第1の工程と、
    前記第1の工程の後、前記比率Pより小さい比率Q(mol%)を有する第2の塩にガラス物品を接触させる第2の工程とを含むことを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。
  8. 前記第1の工程では、前記ガラス物品の表面層におけるアルカリ金属イオンAの30〜75質量%をアルカリ金属イオンBに置換し、前記第2の工程では、前記ガラス物品の表面層に残存するアルカリ金属イオンAの50〜100%をアルカリ金属イオンBに置換する請求項7に記載の化学強化ガラスの製造方法。
  9. 前記第1の工程では、5〜50mol%の比率Pを有する第1の塩を使用し、
    第1の工程後にガラス表面に形成される圧縮応力層の深さは、5〜23μmであることを特徴とする請求項7又は8に記載の化学強化ガラスの製造方法。
  10. 前記第2の工程では、0〜10mol%の比率Qを有する第2の塩を使用する請求項7〜9のいずれかに記載の化学強化ガラスの製造方法。
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